説明

織機の緯糸密度むら防止方法

【課題】織機の製織運転中に、製織条件を切換える織機において、上記製織条件を切換えにともなって発生する緯糸密度むら(織段)をより目立たなくする。
【解決手段】製織運転中、発生する速度指令により経糸走行部材(服巻ロール13・経糸ビーム3)を駆動して経糸2の走行を制御する経糸制御装置22を備え、製織運転中に緯入れピック番号の更新にともなって製織条件を切換える織機1において、経糸制御装置22には、前記速度指令に対する補正量が前記製織条件の切換りに対応して予め設定されており、製織運転中における前記製織条件の切換りに際し、前記製織条件の切換り時点よりも前に定められる補正開始時期から前記補正量に従って前記速度指令を前記製織条件の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に一時的に補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製織運転中に、製織条件を切換える織機において、製織条件の切換りに際し、その切換り時点よりも前の時点から経糸走行部材の速度指令信号を補正する織機の緯糸密度むら防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製織中に、製織条件が変わると、緯糸に対する経糸の拘束力も変化するため、製織条件の変更に対応して織布に緯糸密度むらが発生する。下記の特許文献1および特許文献2の技術は、製織条件の変更に対応して織布に緯糸密度むらを防止する技術である。
【0003】
すなわち特許文献1は、製織条件として複数の緯糸密度を予め設定しておき、織機の製織運転中に緯糸密度の切換りに対応する指令速度で巻取ローラまたは送出ビームを回転駆動する経糸制御装置おいて、緯糸密度の切換り時に、前記指令速度を緯糸密度の切換りにともなう織前位置の移動量の変化に応じて補正する技術を開示している。
【0004】
また、特許文献2は、緯入れピック番号の更新に対応して織物組織を変更する織機で、織物組織の切換り時に、織物組織の変更にともなう経糸張力の変動に起因する織前位置の変動作用を打ち消すべく一時的に巻取モータの回転速度を変更する技術を開示している。
【特許文献1】特開平2−182945号公報
【特許文献2】特開平2−259141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1および特許文献2のいずれの技術も、製織条件の切換り後から速度指令信号を補正する技術にすぎず、切換り前より補正する点について何も触れられていない。しかし製織条件の切換り後より速度補正を開始するものでは、速度補正にともなう経糸や織布張力の変化が織り前の位置の変化として現れる前に筬打ちされて織り込まれるため、そのような制御を行ったとしても、時間的に間に合わず、緯糸密度むらの防止効果の観点から不充分である。また、織布はもともと弾性を有するため、服巻ロールを駆動してから、実際の織前(織口)位置に服巻ロールの駆動効果が反映されるまでには、ある程度の時間が必要となることも一因である。また経糸についても同様、織布に比べてより大きな弾性を有し、しかも織前位置までの経糸系路長さが大きいこともあって、経糸ビームの駆動効果が実際の織前(織口)位置に反映されるまで時間がかかることも一因である。
【0006】
したがって、本発明の目的は、織機の製織運転中に、製織条件を切換える織機において、上記製織条件の切換えにともなって発生する緯糸密度むら(織段)をより目立たなくすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題および目的のもとに、本発明は、製織運転中、発生する速度指令により経糸走行部材としての服巻ロール・経糸ビームを駆動して経糸の走行を制御する経糸制御装置を備え、複数の製織条件を予め設定しておくとともに、製織運転中に緯入れピック番号の更新にともなって製織条件を切換える織機において、前記経糸制御装置には、前記速度指令に対する補正量が前記製織条件の切換りに対応して予め設定されており、製織運転中における前記製織条件の切換りに際し、前記経糸制御装置は、前記製織条件の切換り時点よりも前に定められる補正開始時期から、前記補正量に従って前記製織条件の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に一時的に補正するようにしている(請求項1)。
【0008】
経糸走行部材(服巻ロール・経糸ビーム)に対する速度指令の補正開始時期は、好ましくは前記製織条件の切換り開始の十数ピック前以降である(請求項2)。また、経糸走行部材(服巻ロール・経糸ビーム)に対する速度指令の補正期間の終点は、製織条件の切換り前、切換りと同時、切換り後のいずれでもよい。
【0009】
前記製織条件には、緯糸の糸種(より具体的には、太さや材質)、緯糸密度、織物組織(経糸開口パターン)、織機(主軸)の回転速度のうち1以上を含む(請求項3)。前記経糸制御装置は、服巻ロールを駆動する巻取制御部および経糸ビームを駆動する送出制御部のうち少なくともいずれかを含む(請求項4)。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、服巻ロールや経糸ビームに対する一時的な駆動が織前に作用するまでに時間的な遅れが生じるとしても、製織運転中における前記製織条件の切換りに際し、経糸制御装置は、予め設定された補正量に従って前記製織条件の切換り時点よりも前に定められる補正開始時期から製織条件の切換りに対応する前記速度指令の補正を開始するから、時間的に余裕をもって緯糸密度むらの防止制御が実行可能となる。特に、製織条件の切換り時点では、経糸走行部材の駆動の効果が実際の織前(織口)位置に反映されていることから、所期の目的が有効に機能する。この効果によって、製織条件の切換りにもなって、発生しやすい緯糸密度むらをより一層目立ちにくくでき、織物の品質が向上する(請求項1)。
【0011】
経糸走行部材に対する速度指令の補正開始時期は、好ましくは前記製織条件の切換り開始の十数ピック前以降であるが、この時期は織物種類すなわち経糸や織布の弾性などに応じて設定できる。これにより、弾性の大小にかかわらず、より多くの種類の織物に対応できる(請求項2)。
【0012】
前記製織条件として、より具体的には、緯糸の糸種(太さ・材質)、緯糸密度、織物組織(経糸開口パターン)、織機(主軸)の回転速度のうち1以上を含むが、特に、織機(主軸)の回転速度の変更のときに、過渡的な変化が顕著であることから、織機(主軸)の回転速度の変更を含む製織条件の切換えに有益である(請求項3)。
【0013】
前記経糸制御装置は、服巻ロールを駆動する巻取制御部および経糸ビームを駆動する送出制御部のうち少なくともいずれかを含むが、特に巻取制御部および送出制御部が同時に作用すると、製織条件の切換りにもなって発生しやすい緯糸密度むらがより確実に防止できる(請求項4)。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
〔織機の概要〕
図1は、織機1の要部、特に経糸系の全体を示している。図1で、多数の経糸2は、経糸ビーム3からシート状として送り出され、バックロール4を経て複数の綜絖5および筬6に通され、開口7を形成しながら織布8の織前9に達している。
【0015】
一方、緯糸10は、上下の経糸2の開口7内に緯入れされた後、筬6の筬打ち運動によって織前9に筬打ちされて織布8の組織となる。織布8はガイドロール11、プレスロール12、服巻ロール13、プレスロール14を経て、布巻ロール15に巻き取られる。
【0016】
綜絖5の開口運動、筬6の筬打ち運動は、織機1の主軸17の回転と連動している。主軸17は、主軸モータ16によって駆動される。主軸17の回転は、例えば電子ドビー式の開口装置18により各綜絖枠の往復運動(開口運動)に変換されて各綜絖5に伝達され、また筬打運動変換装置19によって筬打ち運動に変換され、筬6に伝達される。
【0017】
経糸ビーム3および服巻ロール13は、それぞれ送出モータ20、巻取モータ21により駆動される。これらの送出モータ20、巻取モータ21は、それぞれ経糸制御装置22の内部の送出制御部23、巻取制御部24によって制御される。経糸ビーム3および服巻ロール13は、両方ともにまたは一方のみ回転することによって、経糸2、織布8およびその織前9を前後に移動させることから、本発明でいう経糸走行部材を構成している。
【0018】
経糸走行部材としての服巻ロール13が本来の巻き取り制御の過程で、製織条件例えば主軸17の回転速度の切り換わり時に、巻き取り方向に余計に回転すれば、経糸2および織布8はとともに巻き取り方向(前方)に移動するから、織前9も同じ方向に余計に移動することになる。また、経糸走行部材としての経糸ビーム3が送り出し制御の過程で、製織条件切換わり時に、送出し方向に余計に回転すれば、経糸2および織布8はそれらの張力によって共に巻き取り方向(前方)に移動するから、前記と同様に、織前9も同じ方向に余計に移動することになる。
【0019】
次に図2は、織機1の一例として2色の流体噴射式織機の緯入れ系を示している。図2において、2つの緯糸10は、各緯糸ホルダ25により支持されているそれぞれの給糸体26から引き出され、ドラム緯糸巻き付け方式の緯糸測長貯留装置27の回転糸ガイド28に導かれ、静止状態のドラム29の外周の糸巻き付け面上で係止ピン30により係止されながら、回転糸ガイド28の回転運動によりドラム29の糸巻き付け面に巻き付けられることによって、測長されかつ緯入れ時まで貯留されている。なお、回転糸ガイド28は、駆動モータ31によって駆動されるようになっている。
【0020】
緯入れ時点で緯入れ動作のために、係止ピン30がアクチュエータ32によって駆動されて、ドラム29の糸巻き付け面から後退し、再び糸巻き付け面に進出することにより、ドラム29の糸巻き付け面に巻き付けられていた緯糸10はドラム29上で1回の緯入れに必要な長さだけ解舒され、緯入れ用のメインノズル33に導かれる。
【0021】
メインノズル33は、緯入れ動作のために、噴射開始から噴射終了までの噴射期間で、圧力空気35を経糸2の開口7内に緯糸10とともに噴射することによって、1回の緯入れに必要な長さの緯糸10を開口7中に緯入れする。これにより、緯糸10は、開口7内の飛走経路に沿って飛走し、開口7中に緯入れされる。
【0022】
なお、圧力空気35は、圧力空気源34から空気供給管路36、圧力調整弁37、電磁開閉弁38を経て、緯入れのための噴射期間中にメインノズル33に供給される。圧力調整弁37は、メインノズル33に対する圧力空気35の供給圧力を所定の圧力値に設定するために設けられている。
【0023】
緯糸10の飛走過程で、1または2以上のグループのサブノズル39は、緯糸10の飛走方向に向けて、圧力空気35を緯糸10の飛走と調和しながらリレー噴射を行うことによって、開口7内で飛走中の緯糸10を緯入れ方向に付勢する。サブノズル39の圧力空気35は、圧力空気源34から圧力調整弁40、空気供給管路41、電磁開閉弁42を経て各グループのサブノズル39に供給される。圧力調整弁40はサブノズル39に対する圧力空気35を所定の圧力値に設定する。
【0024】
メインノズル33および複数グループのサブノズル39の噴射動作により、正常に緯入れされた緯糸10は、筬6によって織前9に筬打ちされ、織布8に織り込まれた後、緯入れ側で給糸カッタ43によって切断される。これにより、織布8に織り込まれた緯糸10はメインノズル33内の緯糸10から切り離される。
【0025】
緯入れ完了時に、緯入れの成否は、緯糸10の飛走経路(変形筬の筬溝)に向けられている緯糸フィーラ44によって検出される。緯糸フィーラ44は、緯糸到達側の織り端部分の近傍で緯糸10の飛走路に対向し、正常に緯入れされた緯糸10の到達し得る位置に設けられ、所定の緯入れの成否の検出期間内に緯糸4の到達を検出する。緯糸4の到達を検出したとき、緯入れは正常であり、緯糸4の到達を検出しなかったとき、緯入れは不良となる。緯糸フィーラ44は、緯入れの正常、不良を判断して、緯入れ不良時に緯止め信号を出力し、これを主制御部45に送る。
【0026】
緯糸測長貯留装置27の駆動モータ31、緯糸測長貯留装置27のアクチュエータ32、メインノズル33に対応する電磁開閉弁38、サブノズル39に対応する電磁開閉弁42および圧力調整弁37、40は、いずれも緯入れ制御部46によって制御される。主制御部45および緯入れ制御部46に対する各種の設定データは、製織前に製織条件として設定器47により入力される。なお、織機1の主軸17に連結された角度検出器48は、主軸17の回転角度θの信号を発生し、主制御部45、緯入れ制御部46などに送る。
【0027】
〔制御系の概要〕
図3は、経糸制御装置22(送出制御部23および巻取制御部24)に関連する設定器47、主制御部45、選択信号(切換信号)発生部49、主駆動部50、緯入れ制御部46などの接続例を示している。
【0028】
図3において、織機1の主軸17に角度検出器48が連結されており、その角度検出器48から出力される回転角度θの信号は、経糸制御装置22の内部の送出制御部23、経糸制御装置22の内部の巻取制御部24、主制御部45、緯入れ制御部46、選択信号(切換信号)発生部49および主駆動部50に入力されるため、これらは、回転角度θの信号つまり織機1の主運動と同期して動作する。
【0029】
主制御部45は、設定器47からの設定値のデータや信号、緯糸フィーラ44からの緯入れ不良のときの緯止め信号の他に、複数の織機操作ボタン55からの運転・停止・寸動・逆転などの指示を入力して、織機運転信号などを発生し、これを主駆動部50、緯入れ制御部46、経糸制御装置22(送出制御部23および巻取制御部24)に送り、各信号や指示に応じた動作を制御する。主制御部45およびインバータ54は、織機1の運転時の他、寸動・逆転などの指示に応じて主軸モータ16の回転を制御する。
【0030】
選択信号(切換信号)発生部49は、設定器47から入力された設定値のデータや信号、角度検出器48から出力される回転角度θの信号を入力とし、速度切換信号、開口枠選択信号、緯糸選択信号、打込密度選択信号および補正動作選択信号を発生し、速度切換信号を主駆動部50に、開口枠選択信号を開口装置18の開口駆動部51に、緯糸選択信号を緯入れ制御部46にそれぞれ送り、さらに打込密度選択信号および補正動作選択信号を送出制御部23および巻取制御部24に送る。
【0031】
緯入れ制御部46は、選択信号(切換信号)発生部49からの緯糸選択信号を入力とし、緯糸10の糸種に応じて予め設定された回転角度θに達したときに、電磁開閉弁38、42、係止ピン30のアクチュエータ32、圧力調整弁37、40を動作させる。開口装置18の開口駆動部51は、選択信号(切換信号)発生部49からの開口枠選択信号を入力として、織り組織に合った開口枠(綜絖5)を選択し、それに所定の開口運動を与える。また、主駆動部50は、選択信号(切換信号)発生部49からの速度切換信号を入力したときに、現在の回転速度を新たに指定された回転速度に切り換えることによって、緯糸10の糸種や織り組織に適合する回転速度で主軸モータ16を駆動する。
【0032】
さらに送出制御部23は、選択信号(切換信号)発生部49からの打込密度選択信号および補正動作選択信号を入力とし、駆動部52によって、緯糸10の打込密度に対応する回転速度すなわち後述されるベース速度に基づいて送出モータ20を駆動することにより、経糸2を送り出す。また、巻取制御部24も、選択信号(切換信号)発生部49からの打込密度選択信号および補正動作選択信号を入力とし、駆動部53によって、緯糸10の打込密度に対応する回転速度で巻取モータ21を駆動することによって織布8を巻き取る。補正動作選択信号は、主軸17の回転速度の切り換え時に、送出モータ20や巻取モータ21について、それぞれの回転速度の補正を必要とするときに出力される。
【0033】
図4は巻取制御部24および駆動部53の具体例を示している。巻取制御部24は、ベース速度発生部56、補正信号発生部57およびパルス発生部58からなる。ベース速度発生部56には、設定器47から設定値として打込密度の複数のデータが入力されており、選択信号(切換信号)発生部49からの打込密度選択信号は、緯糸10の糸種や織組織に応じて打込密度の複数のデータから1つの打込密度を選択する。ベース速度発生部56は選択された打込密度に対応するベース速度の信号を発生し、それをパルス発生部58に送る。
【0034】
一方、補正信号発生部57には、設定器47から設定値として補正開始時期、補正量としての補正割合、補正期間のデータが複数入力され、選択信号に対応して記憶されており、選択信号(切換信号)発生部49の出力としての補正動作選択信号は、主軸17の回転速度の切り換わりにともなって、巻取速度補正の必要時に適切な補正割合(補正率)、速度補正期間を選択し、補正率の信号をパルス発生部58に送る。
【0035】
パルス発生部58は、上記のベース速度と補正率とにもとづいて速度補正期間にわたり速度指令に対応する駆動量(パルス数)の信号を発生し、この駆動量(パルス数)の信号を駆動部53に送る。そこで駆動部53は、速度補正期間にわたって駆動量(パルス数)の信号にもとづいて巻取モータ21を所定の回転速度(巻取速度)で駆動することになる。ここで巻取モータ21の巻取の回転速度は、ベース速度、補正率、係数を用いて、巻取の回転速度=ベース速度×{1+(補正率/100)}×係数、として表される。
【0036】
駆動部53は、正逆カウンタ59、電流発生器60、パルスジェネレータ61からなる。正逆カウンタ59は、入力されたパルス数すなわち速度指令に対応する信号を、電流発生器60に出力し、巻取モータ21を上記巻取の回転速度で回転させる。この巻取モータ21の回転はパルスジェネレータ61によって検出され、正逆カウンタ59に減算信号として送り返される。
【0037】
図5は送出制御部23および駆動部52の具体例を示している。送出制御部23は、ベース速度発生部62、張力制御部63、補正信号発生部64、パルス発生部65からなる。ベース速度発生部62には、設定器47から設定値として打込密度の複数のデータが入力されており、選択信号(切換信号)発生部49からの打込密度選択信号は、緯糸10の糸種や織り組織に応じて打込密度の複数のデータから1つの打込密度を選択する。ベース速度発生部62は、選択された打込密度に対応するベース速度の信号を発生し、それをパルス発生部65に送る。
【0038】
また、張力制御部63は、設定器47により設定値として設定されている目標張力のデータを入力とし、目標張力の値と張力センサ66により検出される実際の張力値とを比較して、それらの差(張力偏差)に応じた張力制御信号を発生し、それをパルス発生部65に送る。張力偏差がないときに、張力制御信号は0レベルの信号であるが、張力偏差があるときには、張力制御信号はその張力偏差に対応するレベルの信号となる。
【0039】
なお、張力制御部63に補正動作選択信号が入力されているとき、張力制御部63の出力(張力制御信号)は無効となる。ちなみに、張力センサ66は、図1で例えばバックロール4の支持位置に組み込まれ、そこに作用するすべての経糸2の合力から経糸2の張力値を検出する。
【0040】
一方、補正信号発生部64には、設定器47から設定値として複数の補正割合、複数の速度補正期間のデータが入力されており、選択信号(切換信号)発生部49の出力としての補正動作選択信号は、主軸17の回転速度の切り換わりにともなって、補正の必要時に適切な補正割合(補正率)、速度補正期間を選択し、補正率の信号をパルス発生部65に送る。
【0041】
パルス発生部65は、ベース速度発生部62からのベース速度、張力制御部63からの張力制御信号、補正信号発生部64からの補正率信号のほかに、巻径センサ67からの巻径の信号に基づいて、速度指令に対応する駆動量(パルス数)の信号を発生し、この駆動量(パルス数)の信号を駆動部52に送る。また、巻径センサ67は、図1のように、経糸ビーム3の近くに配置され、経糸2の巻径を検出し、その信号をパルス発生部65に送っている。なお、経糸ビーム3の巻径検出について、上記センサ67を用いて直接検出する代わりに、パルスジェネレータ70からの回転量信号をもとに間接的に検出する公知の方法を用いることも可能である。
【0042】
したがって、駆動部52は、パルス発生部65から出力される速度指令としての上記駆動量(パルス数)の信号を入力として、所定の速度補正期間にわたって駆動量(パルス数)の信号にもとづいて送出モータ20を駆動することになる。ここで、送出モータ20の送出の回転速度は、ベース速度、補正率、張力偏差、係数、巻径を用いて、送出の回転速度=〔ベース速度×{1+(補正率/100)+(張力偏差/100)}×係数〕/巻径、として表される。
【0043】
駆動部52は、正逆カウンタ68、電流発生器69、パルスジェネレータ70からなる。正逆カウンタ68は、入力されたパルス数すなわち速度指令に対応する信号を電流発生器69に出力し、送出モータ20を上記送出の回転速度で回転させる。この送出モータ20の回転はパルスジェネレータ70によって検出され、正逆カウンタ68に減算信号として送り返される。
【0044】
〔入力画面の例〕
図6ないし図10は、設定器47をタッチパネル式入力表示器により構成したときの入力画面の例を示しており、より詳しくは、製織条件の1つとして織機の運転速度(織機主軸の回転速度)を一方の速度から他方の速度に切り換える織機を想定し、製織条件としての回転速度の切換え、ならびに後述する実施例に対する密度むら防止に関する設定データを入力する例を一例として示している。
【0045】
先ず、図6は、「選択信号設定(開口設定・緯糸密度・緯糸選択・織物組織・回転数)」の入力画面である。画面上で左側のn−5からn+6までの緯入れピックについて、開口駆動部51(電子ドビー)における各開口枠の開口態様に関するデータ設定欄、および織機制御する際に用いられる各種選択信号の出力態様に関する信号データ設定欄がある。なお、開口枠は前記のように綜絖5の枠つまり綜絖枠のことである。
【0046】
より具体的には、図6の画面下に記載したように、開口枠データ設定欄では、織機1の前側から後側に順に、開口枠NO.が割り当てられ、そのうちの2枠程度は耳組織に、残りの枠は地組織(経糸)に割り当てられる。さらに、画面下に記載したように、信号データ設定欄では、左から順にNO.1〜3緯糸選択信号(3bit・8色対応)、NO.4〜6緯糸密度選択信号(3bit・8密度対応)、NO.7〜8回転速度選択信号(2bit・4設定対応)、NO.9〜10織物組織種類選択信号(2bit・4種類対応)、NO.11〜13補正動作選択信号(3bit・8設定対応)が割り当てられる。このように表示されるタッチパネルの画面上に、編集に必要な各種のキーが操作可能な形で表示されている。なおNO.7〜8、NO.11〜13は、後述の実施例1で使用され、NO.1〜3、NO.4〜6、NO.9〜10は後述の実施例2で使用される。
【0047】
次に、図7および図8は、主軸17の「回転速度設定」(回転速度の切換)に関する設定入力画面を示す。図7の画面上の左側で、速度切換工程1、2毎に変更開始ピック番号、回転数変更期間、変更前の回転数、変更後の回転数の入力欄があり、その入力欄に触れて入力項目を指定すると、画面上の右側にテンキーが表示され、テンキーの操作により、指定の入力欄に数値が入力できるようになっている。また、図8は、「回転速度設定」(回転速度の切換)に関する入力後の画面を示す。画面上に編集やステップ進行に必要な各種のキーが配置されている。図8の回転速度設定(回転速度の切換)の画面で、密度ムラ防止設定画面へのキーに触れると、図9の画面に切り換わる。
【0048】
図9は、「密度ムラ防止設定/巻取速度切換」の画面を示している。この画面では、設定1(速度切換工程1)、設定2(速度切換工程2)毎に、変更開始点としてピック番号および主軸クランク角度、変更終了点としてピック番号および主軸クランク角度、変更開始点の速度割合、変更終了点の速度割合が対応する入力欄で指定できる。主軸クランク角度は主軸17の回転角度θのことである。
【0049】
ここでは図示しないが、図7と同様に、各欄の数値入力に際して、それぞれの入力欄に触れて入力項目を指定すると、画面上の右側にテンキーが表示され、テンキーの操作によって、指定の入力欄に数値入力できるようになっている。図9は、各欄に対する数値の入力後の画面を示す。なお、画面上に編集やステップ進行に必要な各種のキーが配置されており、画面上の密度ムラ防止確認画面へのキーに触れると、図10の画面に切り換わる。
【0050】
図9の画面で、密度ムラ防止確認画面へのキーに触れると、設定器47は、内蔵のアルゴリズムにより選択信号、速度補正パターンを自動的に決定するとともに、入力過程で設定されたデータを主制御部45、選択信号発生部49、主駆動部50、緯入れ制御部46、経糸制御装置22の送出制御部23および巻取制御部24に送ることになる。
【0051】
図10は「密度ムラ防止確認画面」を示している。図7から図9までの入力過程で設定された数値データは、図式化され、ピック番号の軸線上で主軸17の回転速度(主軸回転速度)、巻取速度のグラフとして表示される。作業者は、上記設定データから自動生成された図式から、主軸17の速度パターンおよび巻取速度のパターンを確認できる。ここでの巻取速度は、ベース速度に対して速度補正された結果最終的に出力される速度である。
【0052】
この例によると、主軸回転速度は速度切換工程1に従って100〜101ピックで主軸回転速度900rpmから200rpmへと所定の減少率で低下するのに対して、巻取速度は、設定1に従って99ピックから100の間では、基準となるベース速度(基準)に対して80%で出力するように所定のパターン、つまり、101ピックの直前では99ピック時におけるベース速度に対し44%程度の速度に低いベース速度となるように、そして101ピック以降では、基準となるベース速度で再び出力するように設定されている。なお、この巻取速度のパターンについては、次に図11および図12で詳記する。この画面上で確認終了のキーに触れると、入力過程で設定されたデータは確定する。また、必要に応じ、設定過程に戻るための該当操作キーに触れることにより、密度ムラ防止設定画面あるいは織機主軸の回転速度の設定画面にもどる。
【0053】
〔本発明に係る織機の緯糸密度むら防止方法〕
本発明に係る織機の緯糸密度むら防止方法は、経糸制御装置22を備える織機1を前提としている。織機1は、予め設定されている複数の製織条件にもとづいて、製織運転中に、緯入れピック番号の更新にともなって製織条件を切換えるものであり、以下実施例では、その一例として、製織条件の1つである織機の運転速度(主軸の回転速度)を切り換えるものである。また、経糸制御装置22は、製織運転中、発生する速度指令により経糸走行部材(経糸ビーム3、服巻ロール13)を駆動して経糸2の走行を制御する。
【0054】
そして以下実施例では、経糸制御装置22には、前記速度指令に対する速度補正期間および補正量からなる補正パラメータが製織条件の切換りに対応して予め設定されており、経糸制御装置22は、製織運転中における前記製織条件である織機主軸の回転速度の切換りに際し、前記製織条件の切換り時点よりも前に定められる補正開始時期より、前記補正パラメータに従って前記製織条件の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に前記速度指令を補正する。経糸制御装置22は、服巻ロール13を駆動する巻取制御部24、または経糸ビーム3を駆動する送出制御部23のうち少なくともいずれかを含む。
【0055】
織機1の製織運転中、前記補正開始時期に達したときに、経糸制御装置22は、前記設定された補正パラメータに従って、主軸17の回転速度の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に前記速度指令を補正する。前記速度指令の補正開始時期ならびに補正量に関する補正パラメータは、前記2つの設定回転速度の差およびその回転速度の変更の方向のうち少なくともいずれかに対応して設定される。
【0056】
図11は、主軸17の回転速度の切換り前後における巻取モータ21の動作態様の具体的な説明図である。図11で、緯入れピック番号が100に達すると、主軸速度選択信号はr1からr2に変わる。すなわち、選択信号(切換信号)発生部49は、入力としての主軸17の回転角度θの0°(筬打ち点)信号の入力カウント数から緯入れピック番号を検出しており、緯入れピック番号100に達した時点で1パルスの速度切換信号を発生し、このとき主軸速度選択信号をr1からr2に変えて、主駆動部50に送る。
【0057】
このため、主駆動部50は、緯入れピック番号100から101の速度切換工程1で、主軸17の回転速度を上記設定過程で入力された所定の速度変化勾配で低下させ、その回転速度を高い設定回転速度(900rpm)からこれよりも低い設定回転速度(200rpm)に切り換える。もちろん、高い設定回転速度(900rpm)および低い設定回転速度(200rpm)についても、上記設定過程で、設定器47を介して予め入力されている。
【0058】
一方、巻取モータ21は、緯入れピック番号98までは速度補正offとなっており、織機主軸の回転速度に対応するベース速度に基づき回転速度v1で一定であるが、緯入れピック番号99から100までの速度補正期間では速度補正onとなって、上記対応するベース速度に対しこの速度補正期間に対応して設定された速度補正率に基づいて、緯入れピック番号99では回転速度v1よりも低い回転速度v3で、その後の緯入れピック番号100では、速度v3からさらにやや低下させ、その後、速度補正期間を過ぎた緯入れピック番号101以降では、上記したように、再び織機主軸の回転速度に対応するベース速度に基づき主軸17の回転速度の速度変化勾配とほぼ等しい勾配で低下し、最終的に緯入れピック番号101を終える時点で回転速度v2となる。
【0059】
このように織機主軸の回転速度の切換りにともなう経糸制御装置22の速度補正動作は、選択信号(切換信号)発生部49と巻き取り制御部24との働きにより行われる。ベース速度に対しこれらの回転速度v1、v2を補正するための補正率も設定器47により予め入力されている。なお、速度補正期間に出力される速度指令値である回転速度v3は一例として、上記補正率の設定によりベース速度vbの0.8倍程度を出力するようにされている。
【0060】
この巻取速度の制御によると、図11での速度補正期間のハッチング部分の面積は、織布8の織前9の位置の移動となって現れる。すなわち、本来、織布8の巻き取り量は、主軸17の回転量と比例すべきであるが、速度補正期間での織布8(経糸2)の巻き取り量は本来の巻き取り量よりもハンチングの面積に相当する分だけ少なくなる。このために、織布8の織前9の位置は、本来の移動すべき位置よりもハンチングの面積に相当する分だけ織機1上で後退つまり筬6側に寄っていることになる。
【0061】
この結果、主軸17の回転速度が900rpmからこれよりも低い設定回転速度200rpmに切り換えられ、それによって筬6の撓み量が少なくなって、筬打ち力が弱くなったとしても、上記した一時的な速度補正にともない緯入れピック番号100以降の各筬打ち時点のおける織前9の位置が筬6側に寄っているから、弱い筬打ち力は織前9の位置補正によって補われる。織前9の位置補正が筬6の撓み量の変化に完全に対応する状態が理想であるが、完全に対応する状態にならなくとも、織前9の位置補正量に見合った効果が期待できるから、これによって緯糸密度むらは目立たなくできる。
【0062】
上記のように、緯入れピック番号が100に達すると、主軸17の回転速度を高い設定回転速度からこれよりも低い設定回転速度に切り換える織機1において、緯入れピック番号が100以降の筬打ちに際し減少する筬打ち力に対し、巻取制御部24では、回転速度の低速への切換開始の1ピック手前より、減速方向に予め設定された補正率に従ってベース速度をもとに速度指令値を減少させることによって、織前位置の前方移動量を従来に比べ抑制させて織前9の位置を筬6側に移動させることにより、緯糸密度むら(薄段)をより目立たなくできる。
【0063】
上記した例では、回転速度の切換りが行われる緯入れピック番号の1ピック手前より、筬打ち力の低下を考慮して服巻ロールあるいは経糸ビームに対する速度補正動作を行うようにしているが、経糸や織布の弾性の大小、あるいは、織り前までの間に介在しているテンプル、ドロッパ、ヘルドなどの部材の摩擦力の大小などにより、織り前の位置に反映されるまでに時間がかかる。そのような時間的な遅れが大きい織物種類では、1ピックよりもさらに手前の位置より、経糸制御装置の速度補正動作を行うようにすればよい。近年織機は高速運転化されつつあり、これまでの研究によれば、この始点の許容範囲は、切換りの十数ピック前以降である。
【0064】
したがって、前記補正開始時期は、前記製織条件の切換り時点よりも前であるが、通常、前記製織条件の切換り開始の十数ピック前以降に設定する。補正終了時期は、前記製織条件の切換り前または後に設定される。このため速度補正期間(補正開始時期から補正終了時期までの期間)は、製織条件の切換り開始の十数ピック前以降で、かつ製織条件の切換り開始前から前記製織条件の切換り前に設定されることになる。また、上記した実施例では、回転速度を例として説明したが、これ以外の製織条件として、緯糸の糸種(より具体的には、太さ・材質)、緯糸密度、織物組織(より具体的には、緯糸ピック毎の経糸開口パターン)がある。このため、製織条件について、上記列記した、緯糸の糸種(太さ・材質)、緯糸密度、織物組織(経糸開口パターン)、織機(主軸)の回転速度のうち1以上を含む。
【0065】
速度指令に対する補正量を含む補正パラメータの設定については、以下の態様が考えられる。作業者が想定される織前位置に対する補正量を設定器47に入力すると、設定器47は、入力値をもとに所定のアルゴリズムによりベース速度に対する補正率、速度補正期間(時間)を自動的に決定する。これに代え必要に応じて、作業者は、ベース速度に対する補正率、速度補正時間を直接入力することもできる。
【0066】
なお、図11の例では、巻取モータ21の速度指令の減速態様を示しているが、織物種類によっては、補正率のマイナス設定(逆転)も考えられる。また、主軸17の回転速度の切換について、減速例に限らず、増速例も想定でき主軸の回転速度が増速される例では、例えば厚段対策のために、巻取モータ21を一時的に増速駆動すべく補正率を大きく設定することも考えられる。
【0067】
既述のように、速度補正期間(補正開始時期から補正終了時期までの期間)は、製織条件の切換り時点よりも前であって、通常、製織条件の切換り開始の十数ピック前以降の補正開始時期から製織条件の切換り前または後の補正終了時期までの期間)として設定されるが、図11の丸付き数字1の速度補正期間は、緯入れピック番号96の途中から緯入れピック番号98の終了まで、丸付き数字2の速度補正期間は、緯入れピック番号98の途中から緯入れピック番号102の途中まで、さらに丸付き数字3の速度補正期間は、緯入れピック番号97の途中から緯入れピック番号100の途中まで、としてそれぞれ設定されている。
【0068】
緯入れピック番号99から緯入れピック番号100までの例示の速度補正期間のほか、丸付き数字1〜3の速度補正期間でも、経糸制御装置22内の巻取制御部24は、緯入れピック番号から速度補正期間の開始時点を検出し、速度補正動作に必要な数値データを先読みすることによって、製織条件(主軸回転速度)の切換わりに先行して速度補正を開始することになる。
【0069】
図11のように、速度補正に必要な時間は、製織条件の切換り前から充分な時間として与えられる。このため本発明によると、製織運転中における前記製織条件の切換りに際し、前記製織条件の切換り時点よりも前に定められる補正開始時期から、前記速度指令の補正を開始できるから、時間的に余裕をもって緯糸密度むらの防止制御が可能となる。特に、製織条件の切換り時点で、経糸走行部材としての服巻ロール13の補正方向への駆動の効果が実際の織前(織口)位置に反映されているから、所期の目的が有効に機能する。この効果によって、製織条件の切換りにもなって発生しやすい緯糸密度むらをより目立ちにくくでき、織物の品質が向上する。
【0070】
次に図12は他の速度補正態様例である。図12で、速度設定例丸付き数字1は、経糸(織前)への伝わりにくさを考慮した駆動として、例えば、織機回転数の減速により(薄段対策として)巻取モータ21への速度指令値を一時的に減少させる場合に、織前位置に対する適切な補正量を超える減速駆動を行い、このあとに適正量に戻すための増速駆動としてから、下がり勾配の速度変化線にそって低下し、最終的に回転速度v2となる。また逆に、増速駆動後に適正量に戻すための減速駆動等も考えられる。
【0071】
図12で、速度設定例丸付き数字2は、上記速度補正期間において、減速駆動を1回に限らず断続的に複数回に分けて行う例である。この丸付き数字2の例では、速度補正期間の初期と終期とで2回の減速駆動が行われる。1回および2回の減速駆動が終わると、巻取モータ21の回転速度は、基準となるベース速度である回転速度v1または下がり勾配の速度変化線にそって低下し、最終的に回転速度v2となる。ここでも、速度設定例丸付き数字1と同じように、2回の減速駆動が終わったとき、適正量に戻すために一時的に増速駆動としてから、下がり勾配の速度変化線にそって低下させることも考えられる。
【0072】
速度指令に対する補正の仕方について、上記したように、出力されるベース速度に対するパラメータにより補正する形態に限らない。例えば、後述する例のように、予めベース速度に対し上記速度補正を考慮して速度パターンを作成しておき、速度補正期間になると、これまでのベース速度による駆動から上記作成した速度パターンによる駆動に切り換えて駆動することも可能である。また、このような方法の代わりに、ベース速度の算出のもとになるパラメータを補正パラメータとして代用し、例えば、補正期間における打込密度設定、緯糸密度について、正規の密度に対し織前位置の補正を考慮して段階的に変更する値を設定器を介して設定し、上記段階的に変更される緯糸密度設定値をもとにベース速度を発生させて上記速度補正を実現してもよい。
【0073】
速度指令の補正態様について、経時的に一定値の速度補正、経時的に変化する(具体的には増加あるいは減少する)速度補正のいずれも含まれる。補正態様は、図11に示す連続的補正でなく、段階的(階段状)に補正してもよい。またこの図12の例でも、速度補正期間の補正開始時期は、図11と同様に設定される。
【0074】
図13は、さらに他の速度補正態様例である。この速度補正態様例では、製織運転中に、製織条件として織物組織および選択緯糸糸種の2つの要素が切り換わる例であり、また上記2つの要素の切換りに際し、織機主軸の回転速度はそのまま維持するものを一例として示す。
【0075】
より具体的には、製織運転中に、緯入れピック番号が100に達すると、選択信号(切換信号)発生部49は、緯糸10の選択の切り換えのために、緯糸選択信号を緯入れ制御部46に出力すると同時に、織物組織の切り換えのために、織物組織切換信号を発生する例である。このとき、緯入れ制御部46は、緯入れすべき緯糸10を緯糸CL1(緯糸1−太番手)から緯糸CL2(緯糸CL2−中番手)に切り換える。
【0076】
これと同時に、選択信号(切換信号)発生部49は、織物組織切換信号に基づいて、織物組織を平織W1から2/1綾織W2に切り換えるとともに、切り換え後の織物組織に適合する切換信号、開口枠選択信号を発生し、信号を開口駆動部51に与える。このため、また開口駆動部51は、2/1綾織W2に対応した順序で複数の綜絖5を駆動することになる。
【0077】
この例で、製織条件は、緯糸10の太さと織物組織とであるが、これらの要素(緯糸の太さ・織物組織)は、ともに緯糸拘束力を低下する方向に作用する。一般に、織布内において経糸10から受ける緯糸拘束力について、下記傾向があると考えられる。織物組織の場合、平織が最も強く、以下綾織、朱子織の順に弱くなっていき、また緯糸糸種を考えた場合、摩擦力が生じやすいもの(例えば綿糸など)が最も強く、摩擦力が小さいもの(例えば化繊など)が弱くなると考えられ、また同じ緯糸糸種を前提として緯糸の太さを考えた場合には、太い緯糸では、強くなり、逆に細い緯糸では弱くなると考えられる。
【0078】
この例のケースでは、織物組織および緯糸10の太さがともに緯糸10の拘束力が弱くなる方向に切り換わる例であるため、この結果、緯糸密度むら対策を何ら行わないならば、上記2つの要素の切換りにともなって緯糸拘束力が大きく低下する結果、切換り直前あるいはその近傍の緯入れ緯糸10に対しては、次回以降の緯入れ緯糸10に対する筬打ちの反動を受けて、緯糸10は緯糸拘束力の弱い方向すなわち経糸側に移動する結果、緯糸密度が粗くなる。また、切換り後あるいはその近傍の緯入れされた緯糸10に対しては、緯糸拘束力の低下により次回以降緯入れされた緯糸10への筬打ちにともなって緯糸10がより巻取側に打ち込まれる結果、この間の緯糸密度は、切換り前に織り込まれた織布の緯糸密度に比べ密になる。つまり、上記切換りの前後で、織布8に粗→密の緯糸密度むらが発生するという問題が発生する。
【0079】
そこでこの図13の例では、上記2つの製織要素の切換りの2ピック前より、速度補正期間にわたって巻取速度を通常のベース速度よりも減少させ、その後上記2つの要素の切換りと同時に、織布の巻取量を通常のベース速度よりも大きく設定することにより、上記した一時的な速度補正を実現することで筬打ち力を織り前に充分に作用させて緯糸を強く打ち込むことにより、上記反動による緯糸の移動が少なくなるようにし緯糸密度むらをより目立たなくしている。
【0080】
緯糸密度むらの発生対策のために、経糸制御装置22内の巻取制御部24および送出制御装置23は、前記の例と同様に、緯糸密度(打込密度)、織機1の回転速度に対応するベース速度に従って出力するか、予め定められる速度パターンに従って出力するかを補正動作選択信号により切換可能に構成されている。この補正動作選択信号は、選択信号(切換信号)発生部49から送られる。
【0081】
そこで、一例として、選択信号(切換信号)発生部49が緯入れピック番号98の回転角度0°で巻取制御部24に対してのみ速度補正動作選択信号を出力したとすると、巻取制御部24は、上記要素の切換り2ピック前(緯入れピック番号98)〜切換り後の4ピック(緯入れピック番号104)にわたり、上記ベース速度への追従制御から設定器47を介して予め定められる速度パターンに追従する駆動に一時的に切換えて、巻取モータ21を回転させることにより、上記した緯糸密度むら(粗→密)をより目立たなくする。
【0082】
具体的に記載すると、巻取モータ21の回転速度は、緯入れピック番号97まで回転速度v4(ベース速度vb)であったが、上記速度パターンに追従する駆動への駆動の切換えにより、緯入れピック番号98から緯入れピック番号99の区間に一定勾配で回転速度v5まで低下し、緯入れピック番号100の区間で回転速度v4(ベース速度vb)よりも高い回転速度v6まで急激に上昇した後、緯入れピック番号104を終える区間にわたり徐々に低下して、緯入れピック番号105に入るまでに回転速度v4(ベース速度vb)に落ちつく。
【0083】
図13の例での速度補正期間は、2つの製織要素の切換りの2ピック前(緯入れピック番号98の回転角度0°)から2つの製織要素の切換りの5ピック後(緯入れピック番号104の回転角度360°)までの区間となっているが、例示の丸付き数字1、2、3のように、速度補正期間の始点を、いずれも製織条件の切換りの十数ピック前とし、速度補正期間の終点を、切換りと同時、切換りの前、あるいは切換りの十数ピック後に設定することもできる。
【0084】
緯糸10の糸種、織物組織に対する選択信号に対応する糸種情報、織物組織情報も図示しないが、実施例1と同様に、設定画面により入力される。また、選択指令態様すなわち選択パターンは一方、図9に示す画面を介して入力される。これに対し、緯糸密度むら防止動作のための設定部47への数値入力画面は、図示省略するが、実施例1での図9と同様の画面により、緯糸拘束力に関連する要素の切換りに対応して入力される。
【0085】
巻取速度の速度補正は、緯糸拘束力が低下する方向に限らず、逆に増大する方向への切換りに対応させることも考えられる。さらに、速度補正は、図12のように切換りの前後を補正するようにしているが、切換りの前または後のいずれか一方が無視できる場合には、他方のみの設定も可能である。また巻取速度の補正量の設定態様は、図示の例に限らず、階段状、経時的に一定出力、あるいは複数回断続作動等実施例1と同様に考えられる。
【0086】
緯糸拘束力に関連する要素について、緯糸10の糸種特にその太さ(番手)にのみ着目するようにしてもよい。また、緯糸拘束力に関連する要素の組合せは、織物組織、緯糸糸種に限らず、上記列記した織物組織、緯糸糸種および緯糸打込密度のうち2以上であればよい。
【0087】
また巻取速度の補正量設定について、補正量は具体的には、作業者が適宜試し織を行って決定し、織付け後の試織段階で織物の状態を見て調節する、これまでの経験から得た値を利用する、緯糸拘束力に関連する要素を入力パラメータとするデータベースあるいは関数を用いて補正量(推奨値)を自動的に決定することが考えられる。
【0088】
緯糸拘束力の目安となる数値として、例えば織布のカバーファクタがある。上記の補正量(推奨値)について、先ず織布のカバーファクタを算出し、次いで求めたカバーファクタの大小により上記補正値を決定することもできる。
【0089】
織布のカバーファクタCFは、経のカバーファクタCFw、緯のカバーファクタCFpを用いて、下記の式により定義できる。
CF=CFw+CFp
【0090】
経のカバーファクタCFw及び緯のカバーファクタCFpは下記式で与えられる。CFw=A×2.4/√B、
CFp=C/√Dである。
ただし、上記式でパラメータA、B、C、Dはつぎのものを表す。
A:単位織幅長さ当たりの経糸本数(具体的には、A=経糸総本数/筬通し幅で求める。B:経糸の太さ(番手)
C:設定打込密度
D:緯糸太さ(番手)
【0091】
織物組織の数値化について、平織を基準値(100%)とする割合の形で決定される。例えば、2/1綾織では80%、3/1綾織では70%、4枚朱子では65%・・・など、組織の種類に対応する複数の係数の中から適宜選択する。従って上記式のカバーファクタに対し、さらに織物組織に対応する係数が加味された数式で計算した結果(例えば乗算結果)を、緯糸拘束力の目安となる数値として捉える。そして、切換り前・ 後の製織要素における数値をそれぞれ計算し、2つの値に基づいて補正量を決定することも可能である。なお、データベースや関数は、織機メーカ側より提供することが望ましい。
【0092】
〔他の実施態様〕
製織条件の切換えは、図11および図12の例では主軸17の回転速度の変更であり、図13の例では緯糸糸種・織組織の変更であるが、主軸17の回転速度の変更および緯糸糸種・織組織の変更は、組み合わせて同時に切換えられてもよく、この同時切換えのときに緯糸密度むらを少なくする方向に経糸走行部材を移動させることもできる。この同時切換では、巻取速度の補正量(速度補正パターン)は、上記切換わる双方を考慮して決定される。
【0093】
以上の各例において、それらは、具体的には次のように、変形して具体化される。経糸制御装置22における前記一時的な補正は、前記切換り開始の十数ピック前以降で、かつ前記変更終了の十数ピック後前の範囲にすることが望ましい。
【0094】
巻取側に代えて、送出側(経糸ビーム3)を駆動するようにしてもよい。送出側(経糸ビーム3)を駆動する場合、図5の張力制御部63は、補正動作選択信号が入力されている間、張力制御にともなう速度補正を抑制すればより好ましい。それにより、速度補正が張力制御にともなう補正で打消されずに済むため有利となる。または、巻取側、送出側の双方を駆動するようにしてもよい。また、巻取側と送出側とで補正率(速度補正量、補正期間)を異ならせる設定も考えられる。いずれにしても、緯糸密度むらに対するより高い効果が期待できる。
【0095】
経糸制御装置22は、服巻ロール13を駆動する巻取制御部24および経糸ビーム3を駆動する送出制御部23のうち、少なくともいずれか一方を含む。送出制御部23は、上記した一時的な補正に加え、設定目標張力に対する張力偏差に基づく制御(張力制御)による前記速度指令補正成分を抑制する。この抑制の過程で、張力制御を無効化することもある。これにより、送出側の張力制御に基づく速度補正が抑制されるため、いわゆる張力制御結果により上記した一時的な速度補正が打ち消されないから、緯糸密度むら防止効果をより期待できる。
【0096】
また、経糸制御装置22は、前記速度指令を主軸17の回転速度をパラメータとするべース速度をもとに発生させるとともに、速度指令の補正量に関するパラメータとして前記ベース速度に対する補正率ならびに速度補正期間が予め設定されており、製織運転中、前記補正開始時期に達したときに、前記経糸制御装置22は、前記ベース速度に対し前記補正率による演算結果に基づく速度指令を、前記補正期間にわたって発生することにより、前記速度指令を補正する。このようにすると、速度補正量がベース速度に対する割合(数値)で入力されるため、作業者にとって、設定や調整が容易に行える。
【0097】
上記の各例は、上記切換りにともなう巻取速度の速度を主軸17の回転角度により制御する例であるが、主軸17の回転角度に代えて、時間を基準として制御する構成も可能である。時間を基準として制御するとき、速度補正の開始時点は角度で設定し、速度補正期間は時間で設定する。また、速度補正開始時点を所定角度からの経過時間で設定することもできる。
【0098】
また、上記各例について、経糸制御装置22に対する速度補正の開始時期や速度補正期間は、作業者が設定器47を介して任意設定可能にされているが、これら作業者が設定できない形態、言い換えれば、速度補正量のみを作業者が設定する形態としてもよい。織機1の主軸17の回転速度切換わりに対応する場合を一例とすれば、経糸制御装置22に対する速度補正の開始時期、補正期間に関する設定パラメータを主軸回転速度変更に関する設定パラメータに兼用するように構成する事も考えられる。あるいは、速度指令に対する補正期間について、設定する形態ではなく、実機の状態、例えば織機回転速度が目的とする速度に到達したことにより速度補正期間が自動的に終了するように構成することも考えられ、本件発明には、そのような構成も含まれる。
【0099】
経糸走行部材(服巻ロール13・経糸ビーム3)以外の経糸2に接触する部材を駆動する構成も考えられる。一例として、バックロール4にイージング機構が付設され、そのイージング機構がアクチュエータ駆動される場合に、例えば、織機1の主軸17の回転数の減速時には、薄段対策として上記した例における速度補正期間で、バックロール4の位置を一時的に後退駆動する。また、バックロール4以外について、各綜絖枠がアクチュエータ駆動される電動開口装置も考えられ、そのとき例えば織機回転数の減速時には、上記した実施例における速度補正期間で、開口量を一時的に増大させる駆動や、ドエル期間(停留角度)を変更するなどの駆動を行う。上記した経糸走行部材と組み合わせ駆動も考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明では、定常運転状態(織機1が再運転されて定常の回転速度に達した状態)以降を対象としているが、過渡回転状態(織機1が再運転されて定常の回転速度に達する前)にも適用可能である。その場合の過渡回転状態の設定について、定常運転状態を基準とし、過渡回転状態により変わる要素を加味して設定すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】織機の要部、特に経糸経路の側面図である。
【図2】織機の要部、特に緯入れに関係する部分のブロック線図である。
【図3】織機の制御系のブロック線図である。
【図4】織機の巻取制御部の詳細なブロック図である。
【図5】織機の送出制御部の詳細なブロック図である。
【図6】設定器としてのタッチパネルの選択信号設定入力画面の説明図である。
【図7】設定器としてのタッチパネルの回転速度設定の入力時画面の説明図である。
【図8】設定器としてのタッチパネルの回転速度設定の入力後画面の説明図である。
【図9】設定器としてのタッチパネルの密度ムラ防止に関する画面の説明図である。
【図10】設定器としてのタッチパネルの密度ムラ防止に関する確認画面の説明図である。
【図11】主軸の回転速度の切換り前後における巻取モータ動作態様の説明図である。
【図12】主軸の回転速度の切換り前後における巻取モータ動作態様の説明図である。
【図13】主軸の回転速度の切換り前後における巻取モータ動作態様の説明図である。
【符号の説明】
【0102】
1 織機
2 経糸
3 経糸ビーム
4 バックロール
5 綜絖
6 筬
7 開口
8 織布
9 織前
10 緯糸
11 ガイドロール
12 プレスロール
13 服巻ロール
14 プレスロール
15 布巻ロール
16 主軸モータ
17 主軸
18 開口装置
19 筬打運動変換装置
20 送出モータ
21 巻取モータ
22 経糸制御装置
23 送出制御部
24 巻取制御部
25 緯糸ホルダ
26 給糸体
27 緯糸測長貯留装置
28 回転糸ガイド
29 ドラム
30 係止ピン
31 駆動モータ
32 アクチュエータ
33 メインノズル
34 圧力空気源
35 圧力空気
36 空気供給管路
37 圧力調整弁
38 電磁開閉弁
39 サブノズル
40 圧力調整弁
41 空気供給管路
42 電磁開閉弁
43 緯糸カッタ
44 緯糸フィーラ
45 主制御部
46 緯入れ制御部
47 設定器
48 角度検出器
49 選択信号(切換信号)発生部
50 主駆動部
51 開口駆動部
52 駆動部
53 駆動部
54 インバータ
55 織機操作ボタン
56 ベース速度発生部
57 補正信号発生部
58 パルス発生部
59 正逆カウンタ
60 電流発生器
61 パルスジエネレータ
62 ベース速度発生部
63 張力制御部
64 補正信号発生部
65 パルス発生部
66 張力センサ
67 巻径センサ
68 正逆カウンタ
69 電流発生器
70 パルスジエネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製織運転中、発生する速度指令により経糸走行部材(3、13)を駆動して経糸(2)の走行を制御する経糸制御装置(22)を備え、複数の製織条件が予め設定されると共に、製織運転中には、緯入れピック番号の更新にともなって製織条件を切換える織機(1)において、
前記経糸制御装置(22)には、前記速度指令に対する補正量が前記製織条件の切換りに対応して予め設定されており、
製織運転中における前記製織条件の切換りに際し、前記経糸制御装置(22)は、前記製織条件の切換り時点よりも前に定められる補正開始時期から前記補正量に従って前記速度指令を前記製織条件の切換りにともなう緯糸密度むらを解消する方向に一時的に補正することを特徴とする織機の緯糸密度むら防止方法。
【請求項2】
前記補正開始時期は、前記製織条件の切換り開始の十数ピック前以降に設定することを特徴とする請求項1記載の織機の緯糸密度むら防止方法。
【請求項3】
前記製織条件には、緯糸の糸種、緯糸密度、織物組織、織機の回転速度のうち1以上を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の織機の緯糸密度むら防止方法。
【請求項4】
前記経糸制御装置(22)は、服巻ロール(13)を駆動する巻取制御部(24)または経糸ビーム(3)を駆動する送出制御部(23)のうち少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載の織機の緯糸密度むら防止方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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