説明

缶切

【課題】 角型缶を大きく開口させる際に、缶が傾いて内容物をこぼしたり、缶が転倒したりする心配がなく、天板の切れ残りによる怪我を防止し、切断刃の拭取り作業の手間を軽減しつつ、短時間で容易に作業が行える缶切を提供する。
【解決手段】 角型缶(C)に対して係合される係合部材(1)と、係合部材(1)が係合したときに、天板(T)と略平行に、かつ、平面視で直辺部(Ta)に略直交する支持軸(2)と、略左右対称の木の葉形状に形成された板状体で、左右両側縁部(3a,3b)に刃部(31,32)が形成され、刃部(31,32)が合流する下端部(3c)に刃先部(33)が形成され、上端部(3d)側が板厚方向で円弧状に湾曲されて、全体として天板(T)の周縁形状に対応する側面視概ねJ字形状を成し、支持軸(2)回りを揺動する切断刃(3)と、切断刃(3)に連結されて上方に突出する把持部(4)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天板が略正方形でその角部が円弧状に形成されている角型缶において、天板を胴部との巻締部に沿って切断することにより開口部を設ける缶切に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、塗料・インク・接着剤その他の液状又はペースト状製品は、いわゆる一斗缶(18リットルの角型缶)に充填されて納品・搬送される。かかる一斗缶には、その天板の隅に金属製の蓋で封鎖される小さな開口部が設けられており、蓋を外して開口部から内容物を排出できるようになっている。
【0003】
しかしながら、製品を少しずつ取り出して使う場合はともかく、工場で2次製品を製造する場合等、缶に充填されている製品を一度に全部取り出す必要がある場合には、上述した小さな開口部では間に合わず、特に粘性の高いペースト状製品を取り出す場合は時間効率が著しく悪化する。そこで、一斗缶の天板形状に合わせた横断面L字形あるいは横断面コ字形で下部側に鋭利に尖った刃先を有する切断刃に把持部を取り付けた缶切が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0004】
これらの缶切は、作業者が把持部を把持して、刃先を天板の巻締部に沿わせるように当接させ、上方から力を加えて切断刃を缶内部に押し込むことで、切断刃の横断面形状と同じL字形あるいはコ字形の切り口を設けることができる。缶切を当接する位置を変えて、同じ動作を4回繰り返すことで、短時間で天板を完全に切り離して缶を全開させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平5−95900号公報
【特許文献2】実開平6−76192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の缶切は、刃先から左右へV字形に延びる2つの刃部で2か所を同時切断するため、切断刃を天板に押し込んでいくときには、相応の大きな力を加わるように勢いを付ける必要があるが、その際に手を滑らせたり、体勢を崩したりして、缶に刺し込まれた切断刃が想定外の方向に大きく傾くことがある。そうした場合、天板に対する刃部の当接角度が不適切になって切断できなくなるほか、缶を傾けてしまうような回転モーメントが発生した場合には、缶内に充填されている内容物が切り口からこぼれ出たり、缶が転倒したりする危険性がある。
【0007】
また、天板を切断した開口部の内周縁には、天板の切れ残りが発生するが、それが開口部の真ん中に向けて大きく突出していると、作業者が缶内に手や腕を入れたときにエッジで怪我をする恐れがある。そのため、切れ残りはできるだけ小さく、しかもエッジを缶の内周面に沿わせるように下方に倒し込ませることが好ましい。しかし、上記従来の缶切は、切断刃を巻締部に沿わせる機構などは備えておらず、切断中に刃部が巻締部から乖離して、大きな切れ残りが生じることが多い。
【0008】
なお、上記特許文献1には、合成樹脂製のカバーが切断刃のガイドの役割を果たす旨が記載されているが、切断刃が大きくずれることを防止する程度の機能しか期待できず、切れ残りの発生を防止したり、そのエッジを缶の内周面に沿わせたりすることは期待できないものである。
【0009】
その他、上記従来の缶切は、切断刃全体が缶内部へ入り込む構造を採用しており、缶の内容物が切断刃全体に付着するため、缶切使用後において付着した内容物を拭き取る作業に時間がかかる。特に内容物が接着剤等の高粘性物質である場合や、異なる内容物が充填された複数種類の缶を開口する場合には、作業効率の悪化が避けられない。
【0010】
本発明は、上記のような実情に鑑みて、角型缶を開口させる場合において、缶が傾いて内容物がこぼれたり、缶が転倒したりするなど心配がなく、天板の切れ残りによる怪我を防止でき、切断刃の拭取り作業の手間も軽減しながら、短時間で容易に天板を切断して開口を設けることができる缶切を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の請求項1の発明は、天板(T)と筒状の胴部(D)が巻締部(R)で結合されて、前記巻締部(R)で囲まれる前記天板(T)の輪郭が四つの直辺部(Ta)を四つの円弧状の角部(Tb)で連結した略正方形状である角型缶(C)について、前記天板(T)を前記直辺部(Ta)及び前記角部(Tb)に沿って切断することにより開口部を設ける缶切であって、
前記角型缶(C)に対して係合される係合部材(1)と、
前記係合部材(1)に設けられ、前記係合部材(1)が前記角型缶(C)に係合されたときに、前記天板(T)と略平行に、かつ、平面視で前記直辺部(Ta)に対してその中点位置(Tm)で略直交するように延びる支持軸(2)と、
略左右対称の木の葉形状に形成された板状体で、左右両側縁部(3a,3b)に刃部(31,32)が形成され、前記刃部(31,32)が合流する下端部(3c)に刃先部(33)が形成され、その反対側の上端部(3d)側が板厚方向で円弧状に湾曲されて、前記刃部(31,32)が全体として前記直辺部(Ta)及び前記角部(Tb)に対応する側面視概ねJ字形状を成し、左右対称軸線(CL)上に貫通形成される軸受穴(34)に前記支持軸(2)が挿通されて、前記支持軸(2)回りで揺動可能となるように支持される切断刃(3)と、
該切断刃(3)に連結されて前記上端部(3d)から上方に突出しており、前記切断刃(3)を揺動操作するための把持部(4)と、を備えてなり、
前記刃先部(33)を下方に向けて前記直辺部(Ta)の中点位置(Tm)に突き刺すとともに、前記係合部材(1)を前記角型缶(C)に係合させて、前記把持部(4)により前記切断刃(3)を揺動操作することにより、前記刃部(31,32)が、前記天板(T)を前記直辺部(Ta)及びそれに連続する角部(Tb)に沿って切断可能となることを特徴とする缶切を提供する。
【0012】
本願の請求項2の発明は、前記係合部材(1)は、前記角型缶(C)に対して係合したときに、前面(1a)が前記巻締部(R)の上方において前記巻締部(R)の直線部分(Ra)の内側面と略面一となるように設定されている一方、前記切断刃(3)は、前記巻締部(R)の上方において前記係合部材(1)の前面(1a)に面するように支持されていることにより、前記切断刃(3)が前記直線部分(Ra)の内側面で規定される前記直辺部(Ta)に沿って揺動可能とされることを特徴とする請求項1記載の缶切を提供する。
【0013】
本願の請求項3の発明は、前記係合部材(1)の前面(1a)には、左右方向に延びる直線溝(11)が形成されており、該直線溝(11)が前記角型缶(C)の巻締部(R)の直線部分(Ra)を収容するように係合することにより、前記前面(1a)と前記直線部分(Ra)の内側面が略面一になることを特徴とする請求項2記載の缶切を提供する。
【0014】
本願の請求項4の発明は、前記直線溝(11)は、横断面略コ字形状に形成されており、該横断面略コ字形状において上下方向で対向する上下対向辺(11a,11b)が、溝開口へ向かって上方へ傾斜していることを特徴とする請求項3記載の缶切を提供する。
【0015】
本願の請求項5の発明は、前記切断刃(3)を前後方向で傾斜させて前記切断刃(3)と前記直線溝(11)の隙間を広げるために、前記支持軸(2)の上方に設けられて前記切断刃(3)を前方から弾性的に押圧する押圧機構(5)を備えることを特徴とする請求項3又は4記載の缶切を提供する。
【0016】
本願の請求項6の発明は、前記押圧機構(5)は、押圧部材(26a)を弾性部材(26b)によって後方へ突出させるプランジャー(26)である一方、
前記切断刃(3)には、前記押圧部材(26a)を受け入れ可能な被嵌合部(35)が形成されており、
前記押圧部材(26a)が前記被嵌合部(35)に嵌合することにより、前記切断刃(3)が下向きにしたときに、前記直線溝(11)が左右水平方向に延びるように係合部材(1)が保持され、前記切断刃(3)を揺動させる力が加えられることにより、前記弾性部材(26b)に抗して前記押圧部材(26a)が前記被嵌合部(35)から離脱することを特徴とする請求項5記載の缶切を提供する。
【0017】
本願の請求項7の発明は、前記切断刃(3)を揺動させるときに、前記刃部(31,32)が前記直辺部(Ta)から乖離しないように、前記切断刃(3)を前記係合部材(1)側へ圧着させる圧着機構(6)を備えることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の缶切を提供する。
【0018】
本願の請求項8の発明は、前記係合部材(1)は、前記前面(1a)から後面(1b)側に貫通形成される貫通穴(12)を有するとともに、当該貫通穴(12)に前記支持軸(2)を摺動可能に支持しており、
前記支持軸(2)は、前記係合部材(1)からの前方突出部分(22)に前記切断刃(3)を支持するとともに前記切断刃(3)の離脱を阻止する前方抜止部(23)が設けられており、
前記圧着機構(6)は、前記支持軸(2)を後面(1b)側へ引き出すことにより、前記切断刃(3)を前記係合部材(1)側へ圧着させることを特徴とする請求項7記載の缶切を提供する。
【0019】
本願の請求項9の発明は、前記圧着機構(6)は、前記貫通穴(12)の前記後面(1b)側へ突出する前記支持軸(2)の後方突出部分(24)と、これに遊嵌される遊嵌穴(61a)を有する操作杆(61)と、前記後方突出部分(24)に設けられ前記操作杆(61)の離脱を阻止する後方抜止部(25)と、を備えてなり、
前記操作杆(61)が、前記後面(1b)との接点を支点とする一方、前記後方抜止部(25)との接点を作用点とする梃子として、前記支持軸(2)を前記後面(1b)側へ引き出すことを特徴とする請求項8記載の缶切を提供する。
【0020】
本願の請求項10の発明は、前記操作杆(61)は、相互に直交する第一辺部(62)と第二辺部(63)からなるL字形部材で、前記第一辺部(62)は、前記遊嵌穴(61a)を有し、これに前記後方突出部分(24)を遊嵌させて前記後面(1b)に重なるように設けられ、前記第二辺部(63)が前記第一辺部(62)との連結部分から後方へ延びており、
前記係合部材(1)に連結されて、前記第二辺部(63)と略平行となるように、後方へ延びる補助操作杆(64)が設けられており、
前記操作杆(61)の第二辺部(63)と補助操作杆(64)を相互に接近させるように把持することにより、前記操作杆(61)が梃子となって、前記支持軸(2)を前記後面(1b)側へ引き出すことを特徴とする請求項9記載の缶切を提供する。
【0021】
本願の請求項11の発明は、前記係合部材(1)の前方に設けられて、前記支持軸(2)の軸方向から見たときに下方に開いた略コ字形状に形成されており、前記刃先部(33)を前記直辺部(Ta)に接近させることにより、前記略コ字形状における左右の対向辺部(72,73)が前記角型缶(C)の左右両側を挟むように当接して、前記刃先部(33)を前記直辺部(Ta)の中点位置に案内する案内部材(7)を備えることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の缶切を提供する。
【0022】
本願の請求項12の発明は、前記切断刃(3)は、両側縁部(3a,3b)が両外側方に膨らむ弓形状とされていることにより、前記刃部(31,32)は前記軸方向から見て常に天板(T)に対して斜めに交差することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の缶切を提供する。
【0023】
本願の請求項13の発明は、前記把持部(4)は、軸状に延びる本体部(41)の根元側に取り付けられる鍔状体(42)により、前記本体部(41)の上部を把持する作業者の手と前記切断刃(3)を隔離することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の缶切を提供する。
【0024】
本願の請求項14の発明は、前記把持部(4)は、軸状の本体部(41)に対してその軸方向に摺動可能な筒状の重り(43)が外嵌されており、前記刃先部(33)を前記直辺部(Ta)に押し当てるとともに、前記重り(43)を軸方向に持ち上げた状態から下方に摺動させたときの慣性力を利用して前記刃先部(33)を突き刺せるようにしたことを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の缶切を提供する。
【発明の効果】
【0025】
請求項1記載の缶切によれば、以下の優れた効果を奏する。切断刃(3)は、左右両側縁部(3a,3b)に天板(T)の直辺部(Ta)と角部(Tb)の形状に対応する側面視概ねJ字形状の刃部(31,32)を備え、角型缶(R)に係合する係合部材(1)に軸受支持されているので、下端部(1c)に設けられる刃先部(33)を直辺部(Ta)沿いの中点位置に突き刺して係合部材(1)を角型缶(R)に係合させれば、把持部(4)を揺動操作するだけで、天板(T)をその周縁沿いに切断して短時間で容易に開口を設けることができる。
【0026】
また、切断刃(3)は、その上端部(3d)の上方に突出する把持部(4)を備えるため、把持部(4)を把持し、支持軸(2)を中心として揺動させることにより、梃子の作用により僅かな力で楽に天板(T)を切断することができる。従って、切断作業をゆっくり進めることができるので、勢いが余って切断中の缶が傾いたり、それによって内容物がこぼれ出たりする事態が防止される。
【0027】
請求項2記載の缶切によれば、請求項1記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。切断刃(3)が、係合部材(1)の前面(1a)に面するように支持されている一方、係合部材(1)は、角型缶(C)との係合時において、前面(1a)が巻締部(R)の直線部分(Ra)の内側面と略面一となるように設定されているので、切断刃(3)を直辺部(Ta)に沿って揺動させることができ、開口部の内周縁に大きな切り残しが発生することが防止される。
【0028】
請求項3記載の缶切によれば、請求項2記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。係合部材(1)は、直線溝(11)が角型缶(C)の巻締部(R)の直線部分(Ra)を収容するように係合し、また、切断刃(3)の揺動に伴って刃部(31,32)による切断位置が移動しても、直線溝(11)が左右方向に延びているため、切断される直辺部(Ta)の間際が常に押さえられることとなり、缶の歪みによる切り口のずれが防止される。
【0029】
請求項4記載の缶切によれば、請求項3記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。直線溝(11)を横断面略コ字形状に形成するとともに、その上下対向辺(11a,11b)を溝開口に向かって上方へ傾斜させたため、切断刃(3)による切断の反力で係合部材(1)が上方へ引き上げられる際に、直線溝(11)に巻締部(R)が対して噛み込む方向に動いて、係合部材(1)が位置ずれすることが確実に防止される。
【0030】
請求項5記載の缶切によれば、請求項3又は4記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。切断刃(3)を直辺部(Ta)に刺し込んで、直線溝(11)に巻締部(R)を係合させる場合、切断刃(3)を支持軸(2)に対するガタの範囲内で傾けて、切断刃(1)との間に生じた隙間から巻締部(R)を導入することになるが、切断刃(3)を弾性的に押圧して上記傾斜を生じさせる押圧機構(5)を備えておくことで、切断刃(3)の刺し込み作業及び直線溝(11)の係合作業を容易に行うことができる。
【0031】
請求項6記載の缶切によれば、請求項5記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。押圧機構(5)をプランジャー(26)とする一方、その押圧部材(26a)を嵌合させる被嵌合部(35)を切断刃(33)に設けて、刃先(33)を下向きにしたときに前記直線溝(11)が左右水平方向に延びるように係合部材(1)を保持するので、刃先(33)を直辺部(Ta)に突き刺した後、係合部材(1)の姿勢を調整等することなく直線溝(11)をそのまま巻締部(R)に係合させることができる。また、切断刃(3)を揺動させるときに保持が自動解除されるので、刃先(33)の突き刺し、係合部材(1)の係合、切断刃(3)による切断を滞りなく連続的に行うことができる。
【0032】
請求項7記載の缶切によれば、請求項2乃至6のいずれかに記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。切断刃(3)を係合部材(1)側へ圧着させる圧着機構(6)を備えるようにしたので、刃部(31,32)が係合部材(1)の前面(1a)と略面一となる巻締部(R)の直線部分(Ra)の内側面に沿って移動し、直辺部(Ta)から乖離することが防止される。その結果として、開口の内周縁における天板(T)の切れ残り発生が抑制されるほか、切れ残りが生じても缶の内周面に沿うように押し付けられるため、怪我をする心配がない。
【0033】
請求項8記載の缶切によれば、請求項7記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。圧着機構(6)は、支持軸(2)を引き出すことにより、切断刃(3)全体を支持軸方向に平行移動して、係合部材(1)側へ圧着させるものであるから、巻締部Rの内側面に対する刃部31,32の圧着状態を、揺動角度の如何に関係なく一定化させることができる。その結果として、直線的できれいな切り口を形成することができる。
【0034】
請求項9記載の缶切によれば、請求項8記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。圧着機構(6)として、支持軸(2)を係合部材(1)の後面(1b)側へ引き出す梃子構造を採用したので、僅かな操作力で切断刃(3)を直辺部(Ta)に強く押し付けることができる。また、操作杆(61)を切断刃(3)に対して係合部材(1)を挟んだ反対側に設けているので、誤って切断刃(3)で手を怪我することが確実に防止される。
【0035】
請求項10記載の缶切によれば、請求項9記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。操作杆(61)をL字形状としてそのうち第二辺部(63)を後方へ延ばすとともに、それと併行して延びる補助操作杆(64)と併せて把持することで、片手で容易に圧着機構(6)を作動させることができる。
【0036】
請求項11記載の缶切によれば、請求項1乃至10のいずれかに記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。直辺部(Ta)に刃先部(33)を突き刺すように接近させることにより、下方に開いた略コ字形状の案内部材(7)が角型缶(C)を挟むように当接して、刃先部(33)を直辺部(Ta)における左右方向の中点位置に案内するため、作業者が中点位置を予め割り出す必要をなくすことができ、突き刺し作業中に刃先位置がずれてしまうことを防止できる。
【0037】
請求項12記載の缶切によれば、請求項1乃至11のいずれかに記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。刃部(31,32)を支持軸(2)の軸方向から見たときに、切断刃(3)の揺動角度に関係なく、常に天板(T)に対して斜めに交差するようにしたので、天板(T)を切断するために要する力が大きく変動したり、切断刃(3)が切り口に引っかかったりすることなく、作業者がストレスなく切断作業を行うことができる。
【0038】
請求項13記載の缶切によれば、請求項1乃至12のいずれかに記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。軸状に延びる本体部(41)の根元側に鍔状体(42)を設けて、作業者の手と切断刃(3)を隔離するようにしたので、切断作業中に把持部(4)を把持する手が滑っても刃部(31,32)で怪我することを防止できる。
【0039】
請求項14記載の缶切によれば、請求項1乃至13のいずれかに記載の缶切が奏する効果に加えて、以下の優れた効果を奏する。作業者が女性である場合や、缶を高い作業台上に置いた状態で作業する場合など、刃先部(33)を直辺部(Ta)に沿わせつつ天板(T)に突き刺すことが難しい場合において、刃先部(33)を直辺部(Ta)に押し当てた状態で重りによる慣性力を加えて天板(T)に突き刺すことにより、中点位置に対して正確に突き刺されることが担保される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本実施形態に係る缶切を斜め前方から見た状態を示す斜視図。
【図2】本実施形態に係る缶切を斜め後方から見た状態を示す斜視図。
【図3】本実施形態に係る缶切によって開口部を設ける角型缶を示す斜視図。
【図4】本実施形態に係る缶切の係合部材に設けられる(a)直線溝の断面図、及び(b)直線溝に缶の巻締部が係合した状態を示す断面図。
【図5】本実施形態に係る缶切の切断刃を天板に突き刺した状態を示す断面図。
【図6】本実施形態に係る缶切の切断刃を天板に突き刺して、直線溝に缶の巻締部を係合した状態を示す断面図。
【図7】本実施形態に係る缶切の係合部材の直線溝に缶の巻締部を係合して、切断刃を係合部材に圧着した状態を示す断面図。
【図8】図7の状態における缶切の切断刃の正面図。なお、符号3乃至3で示す点線は、それぞれ図11乃至図14における切断刃の正面図を示す。
【図9】本実施形態に係る缶切の切断刃の側断面図。なお、一点鎖線は、図8の符号3で示す状態における角型缶Cを表す。
【図10】図7の状態を缶切の斜め前方から見た状態を示す斜視図。
【図11】図10の状態から切断刃を揺動させた状態を示す斜視図。
【図12】図11の状態から更に切断刃を揺動させた状態を示す斜視図。
【図13】図12の状態から更に切断刃を揺動させた状態を示す斜視図。
【図14】切り口形成が完了した状態を示す斜視図。
【図15】切離した天板の缶内への落込み防止手段を示す図。
【図16】缶切の把持部の(a)変形例及び(b)別の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(本実施形態に係る缶切Kの概要)
本実施形態に係る缶切Kは、図1及び図2に示す構成を有してなり、図3に示す角型缶Cの上面を全面開口してなる大きな開口部を形成する。角型缶Cは、天板Tと筒状の胴部Dを巻締め結合してなる直方体形状の金属製缶であり、18Lの容量を有することから一斗缶と呼ばれており、化学品、薬剤、塗料、油脂その他の流動体等が充填されて、それらの保存や運搬等に使用される。巻締部Rは、四つの直線部分Raを四つの円弧状の角部分Rbで連結してなる略正方形状に形成される。天板Tは、巻締部Rに周囲を取り囲まれ、四つの直辺部Taを四つの円弧状の角部Tbで連結させた略正方形状の輪郭を有し、一つの角部Tb近傍にある小開口部が蓋Caで閉じられ、中央部に吊下部Hが設けられる。
【0042】
缶切Kは、角型缶Cの各直辺部Ta及びその両側に連続する角部Tbに沿って延びる切り口を形成するもので、図1及び図2に示すように、巻締部Rの直線部分Raに係合する係合部材1と、係合部材1に設けられ前方(図中の矢印X方向)に突出して平面視で直辺部Taと直交する支持軸2と、正面視概ね木の葉形状(図8参照)で、かつ側面視J字形状(図9参照)の板状体であって、刃先部33を直辺部Taに突き刺された状態から支持軸2回りで揺動することにより直辺部Ta及び角部Tb沿いに天板Tを切断する切断刃3と、切断刃3の上端部3d側に突出して切断刃3を左右方向に揺動操作するための把持部4を備える。
【0043】
また、缶切Kは、上記のほか、切断刃3による切断作業を容易かつ迅速に行うための構成を備える。具体的には、刃先部33を直辺部Taに突き刺して貫通させる際に切断刃3を前後に傾斜させ、刃先部33と係合部材1の隙間を自動的に広げて、係合部材1が缶上縁部に干渉しないようにする押圧機構5と、切断刃3の揺動時に刃部31、32が直辺部Taから乖離しないように切断刃3を係合部材1側へ圧着する圧着機構6と、刃先部33を直辺部Taに接近させたときに中点位置Tmに向かわせるように案内する案内部材7を備える。
【0044】
天板Tを切断する際には、まず、切断刃3の下端部3cに形成した刃先部33を下向きにして四つある直辺部Taの一つに接近させる。その際、押圧機構5の作用により、図5に示すように、係合部材1が缶上縁部と干渉することなく、また、案内部材7によって、刃先部33は中点位置Tmに突き刺さる。次に、刃先部33を天板Tに突き刺したままで、図6に示すように、係合部材1を押し下げて巻締部Rに係合させて支持軸2を位置決めする。更に、図7に示すように、圧着機構6の操作杆61を引き上げて、切断刃3が揺動時に直辺部Taから乖離しないように係合部材1側へ圧着する。
【0045】
そこで、把持部4を把持し、図8及び図10乃至図14に示すように、切断刃3を支持軸2回りで左右方向の一方(図では左方向)へ倒し込むように揺動操作することにより、一方の刃部31で直辺部Taの中点位置Tmから一方の角部Tbに亘る概ねJ字形状の切り口を形成する。その後、先程とは逆方向(図中の右方向)に切断刃3を反転揺動させれば、他方の刃部32で他方の角部Tbまで同様の切り口を形成し、一つの直辺部Taとその両端に連続する角部Tbに亘る切り口が完成する。最後に、圧着機構6による圧着及び係合部材1による係合を解除して缶切Kを離脱させる。
【0046】
上述した一連の切断作業を四つの直辺部Taすべてに対して繰り返し行うことにより、上記切り口が相互につながって天板Tが完全に切り離され、角型缶Cの上面を全面開口する大きな開口部が設けられる。なお、缶切Kによる切断作業時には、図15に示すように、角型缶Cの横幅より長い落込防止バーBを、天板Tに設けられているリング状の吊下部Hに通して缶の両端に架け渡しておくことで、切り離された天板Tが缶内部に入り込んだり、缶底に沈み込んだりすることを防止できる。また、落込防止バーBは、吊下部Hに通して適宜回転させれば切断作業を妨げずに済む。
【0047】
以下、缶切Kの各構成部分について詳細に説明する。
【0048】
(係合部材1)
係合部材1は、図1に示すように、左右方向(図中の矢印Y方向)に延びる矩形板状のレール体で、巻締部Rの直線部分Ra(直辺部Ta)の幅寸法Wに応じた横幅を有してなる。係合部材1の前面1aは概ね平坦状であるが、その横幅全体に亘って左右方向に延びる直線溝11が形成されており、当該直線溝11の内部に巻締部Rの直線部分Raを収容することで角型缶Cに係合する。直線溝11は、図4(a)に示すように、横断面略コ字形状であり、係合部材1の前面1aは、直線溝11を境界として、その下方の面が後方へ逃げるように傾斜させられるとともに、上方の面よりも後方に控えるように僅かな段差Gを有する。当該段差Gによって、図4(b)に示すように、直線溝11の上方において、前面1aと直線部分Raの内側面が前後方向(図中の左右方向)において略面一となるように設定されている。なお、下方の面が後方へ逃げるように傾斜している点は、切断刃3を天板Tに突き刺す際に、係合部材1が缶の上縁部に引っ掛かりにくくする作用がある。
【0049】
図4(a)に示すように、直線溝11の横断面略コ字形状において上下方向で相対向するように設けられる上下対向辺11a,11bは、溝開口(図中の左方向)に向かって僅かな角度θだけ上方へ傾斜している。したがって、係合部材1が切断刃3を揺動させて天板Tを切断する際に生じる反力で上方へ引っ張られた場合、前記傾斜により、図4(b)において矢印Sで示すように、巻締部Rには、直線溝11の内方へ引き込まれる方向の力が作用し、しかも下対向辺11bのエッジEが巻締部Rの下端の内側に食い込むように押し付けられることになる。これにより、図4(b)に示すように巻締部Rが楔型に潰れて下端側の出っ張りが小さくても、係合部材1から不意に離脱することを確実に防止する。
【0050】
係合部材1において直線溝11の上方には、図5乃至図7に示すように、前面1aから後面1bへ貫通する貫通穴12が形成され、当該貫通穴12が支持軸本体2を前後方向に摺動可能に支持する。また、係合部材1の上部には、図2に示すように、後述する圧着機構6の操作杆61の第二辺部63と略平行となるように後方へ延びる棒状の補助操作杆64が連結固定されている。更に、係合部材1の上部には、左右方向において略同幅の半円板状の保護カバー13が取り付けられており、把持部4の揺動操作を阻害することなく、切断刃3が設けられる前面1a側と操作杆61が設けられる後面1b側を相互に隔離し、係合部材1と切断刃3の間に誤って指等を挟み込む事故を防止する。
【0051】
(支持軸2)
支持軸2は、図5乃至図7に示すように、貫通穴12に挿通され、係合部材1から前後へ突出する支持軸本体21を有してなる。支持軸本体21は、横断面円形の丸軸であって、軸方向に摺動可能であるが、支持軸本体21のうち係合部材1より後面1b側へ突出する後方突出部分24に、図2に示す四角形状の後方抜止部25が一体的に設けられ、これを補助操作杆64に干渉する回り止めとして回転しないように設定されている。支持軸2は、図7に示すように、係合部材1が巻締部Rに対して係合して圧着されたときに、天板Tと略平行となる一方、図8に示すように、中点位置Tmの直上から直辺部Taに対して略直交する方向に延びる。
【0052】
支持軸本体21のうち係合部材1より前面1a側へ突出する前方突出部分22が、図5乃至図9に示すように切断刃3の軸受穴34に挿通されることにより、切断刃3を揺動可能に支持する。前方突出部分22の先端には、図5乃至図7に示すように、切断刃3の離脱を阻止する前方抜止部23が設けられている。前方抜止部23は、図1に示すように、パイプ状部材23a、ブロック片23b及びボルト23cからなる。ブロック片23bは、縦長の矩形体でその下部に貫通穴が形成されており、上部に切断刃3を前方から弾性的に押圧する押圧機構5としてのプランジャー26が取り付けられている。ボルト23cは、前方突出部分22の前端に設けられる螺子穴に螺合されている。そして、パイプ状部材23aとブロック片23b、パイプ状部材23aとボルト23cがそれぞれ相互に溶接で固着されることにより、支持軸本体21に対して固定されている。後方突出部分24には、図5乃至図7に示すように、後方突出部分24に対して遊びが生じるように穴径を大きく設定した遊嵌穴61aを一端に有するL字形状の操作杆61が遊嵌されている。操作杆61は、上述した後方抜止部25によって、後方突出部分24から離脱しないように保持されている。
【0053】
(切断刃3)
切断刃3は、図8に示すように、正面視で略左右対称の木の葉形状に形成される板状体で、左右の両側縁部3a,3bにそれぞれ刃部31,32が形成されており、刃部31,32が合流する下方の下端部3cに刃先部33が形成されている。切断刃3において下端部3cとは反対側にある上端部3d側が、図9に示すように天板Tの角部Tbの寸法形状に合わせて、板厚方向の前方へ円弧状に湾曲されていることにより、刃部31,32が全体として直辺部Ta及び角部Tbの形状に対応する側面視概ねJ字形状を成している。また、支持軸2を挿通する軸受穴34が、図8に示すように、下端部3c近傍において刃先部33を通る左右対称軸線CL上に中心が位置するように貫通形成されており、これにより、切断刃3は支持軸本体21を中心として左右両側方へ揺動可能とされる。更に、切断刃3の前面で左右対称軸線CL上には、プランジャー26の押圧部材26aが嵌合する擂り鉢状の被嵌合部35が凹設されている。なお、切断刃3の円弧状部分は、缶切Kを異なる巻締部Raに係合させて設けた切り口どうしが相互につながるように、円周方向寸法が長めに設定されている。
【0054】
軸受穴34の中心は、図9に示すように、上下方向において前記J字形状における直線部分と湾曲部分の境界位置、すなわち上端部3d側の湾曲部分の開始位置からW/2(直辺部Taの幅寸法Wの半分)となる寸法位置に設定されている。したがって、切断刃3の刃先部33を直辺部Taに突き刺したときに、支持軸本体21の軸心が平面視で中点位置Tmと一致していれば、切断刃3を支持軸2回りで左右方向に揺動操作するだけで、天板Tがその周縁沿いに切断されることになる。係合部材1が角型缶Cに係合した状態において、切断刃3は天板Tに突き刺されていることを要するため、切断刃3の下端部3cから軸受穴34の中心までの寸法は、支持軸本体21の軸心から直線溝11までの寸法より大きく設定されている。
【0055】
また、切断刃3は、前面1aに面するように設けられているため、図6に示すように、係合部材1の直線溝11が角型缶Cの巻締部Rの直線部分Raに係合して、前面1aが直線部分Raの内側面と略面一となったときには、切断刃3が直線部分Raの内側面に沿わされることになり、結果として、直線部分Raの内側面で規定される直辺部Taに沿うように揺動することとなる。したがって、缶に形成される開口部の内周縁に大きな切り残しが発生することが防止される。なお、係合部材1は、左右方向に延びる直線溝11が巻締部Rの直線部分Raを内部に収容するように係合するため、切断刃3の揺動に伴い、刃部31,32による切断位置が移動しても、切断される直辺部Taの間際が均一に押さえ込まれた状態となり、缶の歪みによる切り口のずれは確実に防止される。
【0056】
切断刃3は、天板Tを切断する際、図8において、符号3、3、3、3で示すように揺動するが、上述した木の葉形状は、左右の両側縁部3a、3bが左右両外側方に膨らむ弓形状に形成されているため、これらの側縁部に設けられる刃部31、32は、支持軸2の軸方向(前方)から見て、切断刃3の揺動角度に関係なく、常に天板Tに対して斜めに交差し、その交差角度の変動も緩やかに設定されている。これにより、切断に要する力は途中で急激に大きくなったりすることなく、作業者がストレスなく切断作業を行うことができる。その結果として、切断作業の途中で切断刃3を逆方向に戻して勢いをつけたりする必要がなく、切り口がギザギザになったり、かえりが生じたりする事態が防止される。
【0057】
(把持部4)
把持部4は、切断刃3に連結されて、図1及び図2に示すように上端部3dから上方へ突出して長く延びるよう設けられている。そのため、下端部3c近傍の軸受穴34に挿通される支持軸2から離れた位置で切断刃3を揺動操作することになり、梃子の作用によって僅かな力で楽に天板Tを切断することができる。したがって、勢いをつけて切断刃3を揺動させる必要がなく、切断作業をゆっくり進めることができるので、勢い余って切断中の角型缶Cが傾いたり、それによって缶の内容物がこぼれ出たりする事故が防止される。
【0058】
把持部4は、切断刃3の上端部3d側の後面に溶接されることにより連結固定されて、上方へ延びる軸状の本体部41と、その根元側に取り付けられる円板形の鍔状体42と、を備えてなる。本体部41の上部は、作業者が把持し易くなるように大径部41aが設けられている。鍔状体42は、作業者が把持する本体部41の上部と切断刃3を隔離するように仕切ることで、切断作業中に作業者の手が滑って刃部31,32で怪我することを防止する。
【0059】
(押圧機構5)
上述した押圧機構5は、プランジャー26により構成されており、ピン形状の押圧部材26aと、押圧部材26aを後方へ突出させる弾性部材26bと、を外周面に螺子山を有するケース26cに収納してなり、ブロック片23bの上部に設けられる螺子穴に対して前後位置調節可能に螺合されている。プランジャー26は、図5に示すように、切断刃3を押圧して支持軸本体21との間のガタの範囲内で前後方向に傾斜させることによって、作業者が特別な操作をしなくても、切断刃3と直線溝11の間に巻締部Rを導入させるための隙間が自然に設けられる。また、切断刃3と係合部材1の隙間が広げられることによって、切断刃3を天板Tに突き刺す際に、係合部材1と巻締部Rが干渉することが防止される。しかも切断刃3は、弾性部材26bの作用で弾性的に押圧されているだけであるから、揺動操作性が著しく損なわれるような摺動抵抗を生じることはない。
【0060】
なお、プランジャー26の押圧部材26aが切断刃3の前面で左右対称軸線CL上に凹設形成された被嵌合部35に嵌合することにより、切断刃3の刃先部33を下向きにしたときに係合部材1の直線溝11が左右水平方向に延びるように、係合部材1と切断刃3を相互に保持する。これにより、刃先部33を天板Tに突き刺した後で、直線溝11と巻締部Rを係合させるために、係合部材1の角度姿勢を調整する必要がなくなる。その一方で、天板Tを切断するために切断刃3を揺動させられるときには、押圧部材26aが被嵌合部35の傾斜面に押され、弾性部材26bに抗してケース26cの内方へ引っ込むことで被嵌合部35から離脱し、保持を自動解除する。
【0061】
上記のとおりであるから、切断刃3の刃先部33を天板Tに刺し込み、直線溝11に巻締部Rを係合させ、切断刃3を揺動操作して天板Tを切断するまでの一連の作業について、特別な操作やコツを要することなく容易かつ連続的に行えるようになるものである。なお、当該直辺部Taとその両側に連続する角部Tbに切り口を設けた後、切断刃3を刃先部33が下向きとなる直立状態に戻すことで、押圧部材26aが被嵌合部35に再嵌合して、係合部材1と切断刃3が相互保持される状態に自動復帰するので、四つの直辺部Taに対し、連続して刃先を突き刺して行う切断作業を滞りなく迅速に行うことができる。
【0062】
(圧着機構6)
圧着機構6は、天板Tの直辺部Taに突き刺した切断刃3を、係合部材1側へ、すなわち係合部材1の前面1aと略面一となる巻締部Rの内側面に沿うように圧着する。これにより、切断刃3は、天板Tの切断による抵抗によって前後方向に傾いたりすることがなく、したがって、刃部31、32は、巻締部Rの内側面に沿って確実に移動することとなり、直辺部Taから乖離することが防止される。その結果、開口部の内周縁にける天板Tの切れ残り発生が一層確実に抑制され、また、たとえ切れ残りが発生しても缶の内周面に沿うように押し付けられるため、開口部を設けた後で、缶内部に手や腕を入れても缶の内周面に生じた切れ残りで怪我をする心配はない。
【0063】
圧着機構6は、図2及び図5乃至図7に示すように、貫通穴12から後面1b側へ突出する支持軸本体21の後方突出部分24と、後方突出部分24に遊嵌される遊嵌穴61aを有する操作杆61と、後方突出部分24の後端に一体的に設けられる後方抜止部25と、を備えてなる。操作杆61は、相互に直交する第一辺部62と第二辺部63からなるL字形部材であり、第一辺部62には後方突出部分24の外径よりも大径の遊嵌穴61aが形成されている。第一辺部62は、後方突出部分24に遊嵌されて後面1bに重ねられており、第二辺部63は、第一辺部62との接続部分から後方へ延びている。また、上述したように、係合部材1に連結されて、第二辺部63と略平行となるように後方へ延びる棒状の補助操作杆64が設けられている。
【0064】
操作杆61の第二辺部63と補助操作杆64は、人手によって一つに束ねるように握ることができる程度の間隔をおいて設けられており、第二辺部63と補助操作杆64を相互に接近させるように把持することで、図7に示されるように、第二辺部63の後端側が上方に持ち上げられる。操作杆61は、後面1bとの接点となる第一辺部62の上端を支点とし、後方抜止部25との接点となる遊嵌穴61a部分を作用点とする梃子として、後方突出部分24、すなわち支持軸本体21を後面1b側へ引き出すことになる。これにより、係合部材1の前方において、前方突出部22の先端に固定されている前方抜止部23がプランジャー26の押圧力に抗して後方移動し、切断刃3を係合部材1の前面1aに圧着させるように押圧する。
【0065】
刃部31,32は、切断刃3の揺動角度の如何に関係なく、巻締部Rの内側面に対して安定的に圧着されることになるので、直線的できれいな切り口が形成される。しかも梃子構造を採用しているので、僅かな操作力で切断刃3を直辺部Taに強く押し付けることができる。また、第二辺部63をこれと併行して延びる補助操作杆64と一つに束ねるように握ることで、片手で容易に操作することができる。なお、操作杆61は、切断刃3に対して係合部材1を挟んだ反対側に設けているので、手を切断刃3で怪我することが確実に防止される。
【0066】
(案内部材7)
案内部材7は、図1に示すように、支持軸2の軸方向視において下方に開いた略コ字形状を成す枠状体であり、角型缶Cの横幅と略同じ寸法を有し左右方向に延びる上辺部71と、上辺部71の左右両端から下方へ延設されて相対向する左右の対向辺部72,73を備えてなる。案内部材7は、上辺部71の中央を支持軸2の前方抜止部23に固定されることにより、係合部材1の前方において、支持軸2を中心とする左右対称の門形とされている。また、左右の対向辺部72,73は、支持軸2に支持される切断刃3の刃先部33を下向きにした場合において、その刃先部33よりも下方に長く延びている。
【0067】
これにより、支持軸2に支持される切断刃3を直辺部Taに向けて接近させると、案内部材7の対向辺部72,73が角型缶Cの左右両側を挟むように当接して、下方に向けた刃先部33が直辺部Taの中点位置Tmに突き刺さるように案内する。したがって、作業者が直辺部Taの中点位置Tmを予め割り出す必要がなくなり、また、切断刃3を突き刺す際に切断刃3の左右方向にずれることが確実に防止される。
【0068】
(上記実施形態の変形例)
上記実施形態では、把持部4は、軸状に延びる本体部41に作業者が把持し易くするための大径部41aを設けた構成としたが、作業者が女性である場合や、缶を高い作業台上に置いた状態で作業する場合など、刃先部33を直辺部Taに沿わせながら天板Tを貫通させることが難しい場合がある。これに対して、図16(a)に示すように、大径部41aに代えて、軸状の本体部41に対しその軸方向に摺動可能な筒状の重り43を外嵌させておくようにしても良い。具体的には、重り43を鉄等の金属で形成することとし、本体部41の根元寄りの位置に重り43による衝撃を受け止めて本体部41に伝達する受止部44を設ける一方、本体部41の上端部に重り43の抜止となるストッパ45を設ける。
【0069】
これにより、刃先部33を直辺部Ta沿いの中点位置Tmに押し当てた状態で、重り43を軸方向に持ち上げた状態から下方に摺動させて、その慣性力による衝撃を利用して刃先部33を天板Tに突き刺すようにするものである。但し、把持部4を揺動操作する際に手で把持する大径部分(重り43)が根元側にあると、レバー比が小さくなって大きな操作力が必要となる。そこで、図16(b)に示すように、重り43と受止部44の間にコイルばね46を設けて、衝撃付与時以外は、重り43を本体部41の上端側に押し上げるようにしても良い。
【0070】
上記実施形態では、係合部材1の横幅を直辺部Taの幅寸法Wと同じに設定したが、係合部材1と角型缶Cがずれないように係合できれば良く、上記幅寸法Wより長い、あるいは短い場合でも差支えない。その他、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0071】
1 係合部材
1a 前面
1b 後面
11 直線溝
11a 上対向辺
11b 下対向辺
12 貫通穴
13 保護カバー
2 支持軸
21 支持軸本体
22 前方突出部分
23 前方抜止部
23a パイプ状部材
23b ブロック片
23c ボルト
24 後方突出部分
25 後方抜止部
26 プランジャー
26a 押圧部材
26b 弾性部材
26c ケース
3 切断刃
3a 左側縁部
3b 右側縁部
3c 下端部
3d 上端部
31 刃部
32 刃部
33 刃先部
34 軸受穴
35 被嵌合部
4 把持部
41 本体部
41a 大径部
42 鍔状体
43 重り(変形例)
44 受止部(変形例)
45 ストッパ(変形例)
46 コイルばね(変形例)
5 押圧機構
6 圧着機構
61 操作杆
61a 遊嵌穴
62 第一辺部
63 第二辺部
64 補助操作杆
7 案内部材
71 上辺部
72,73 対向辺部
B 落込防止バー
C 角型缶
D 胴部
H 吊下部
K 缶切
R 巻締部
Ra 直線部分(巻締部)
Rb 角部分(巻締部)
T 天板
Ta 直辺部(天板)
Tb 角部(天板)
Tm 中点位置(直辺部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天板(T)と筒状の胴部(D)が巻締部(R)で結合されて、前記巻締部(R)で囲まれる前記天板(T)の輪郭が四つの直辺部(Ta)を四つの円弧状の角部(Tb)で連結した略正方形状である角型缶(C)について、前記天板(T)を前記直辺部(Ta)及び前記角部(Tb)に沿って切断することにより開口部を設ける缶切であって、
前記角型缶(C)に対して係合される係合部材(1)と、
前記係合部材(1)に設けられ、前記係合部材(1)が前記角型缶(C)に係合されたときに、前記天板(T)と略平行に、かつ、平面視で前記直辺部(Ta)に対してその中点位置で略直交するように延びる支持軸(2)と、
略左右対称の木の葉形状に形成された板状体で、左右両側縁部(3a,3b)に刃部(31,32)が形成され、前記刃部(31,32)が合流する下端部(3c)に刃先部(33)が形成され、その反対側の上端部(3d)側が板厚方向で円弧状に湾曲されて、前記刃部(31,32)が全体として前記直辺部(Ta)及び前記角部(Tb)に対応する側面視概ねJ字形状を成し、左右対称軸線(CL)上に貫通形成される軸受穴(34)に前記支持軸(2)が挿通されて、前記支持軸(2)回りで揺動可能となるように支持される切断刃(3)と、
該切断刃(3)に連結されて前記上端部(3d)から上方に突出しており、前記切断刃(3)を揺動操作するための把持部(4)と、を備えてなり、
前記刃先部(33)を下方に向けて前記直辺部(Ta)の中点位置(Tm)に突き刺すとともに、前記係合部材(1)を前記角型缶(C)に係合させて、前記把持部(4)により前記切断刃(3)を揺動操作することにより、前記刃部(31,32)が、前記天板(T)を前記直辺部(Ta)及びそれに連続する角部(Tb)に沿って切断可能となることを特徴とする缶切。
【請求項2】
前記係合部材(1)は、前記角型缶(C)に対して係合したときに、前面(1a)が前記巻締部(R)の上方において前記巻締部(R)の直線部分(Ra)の内側面と略面一となるように設定されている一方、前記切断刃(3)は、前記巻締部(R)の上方において前記係合部材(1)の前面(1a)に面するように支持されていることにより、前記切断刃(3)が前記直線部分(Ra)の内側面で規定される前記直辺部(Ta)に沿って揺動可能とされることを特徴とする請求項1記載の缶切。
【請求項3】
前記係合部材(1)の前面(1a)には、左右方向に延びる直線溝(11)が形成されており、該直線溝(11)が前記角型缶(C)の巻締部(R)の直線部分(Ra)を収容するように係合することにより、前記前面(1a)と前記直線部分(Ra)の内側面が略面一になることを特徴とする請求項2記載の缶切。
【請求項4】
前記直線溝(11)は、横断面略コ字形状に形成されており、該横断面略コ字形状において上下方向で対向する上下対向辺(11a,11b)が、溝開口へ向かって上方へ傾斜していることを特徴とする請求項3記載の缶切。
【請求項5】
前記切断刃(3)を前後方向で傾斜させて前記切断刃(3)と前記直線溝(11)の隙間を広げるために、前記支持軸(2)の上方に設けられて前記切断刃(3)を前方から弾性的に押圧する押圧機構(5)を備えることを特徴とする請求項3又は4記載の缶切。
【請求項6】
前記押圧機構(5)は、押圧部材(26a)を弾性部材(26b)によって後方へ突出させるプランジャー(26)である一方、
前記切断刃(3)には、前記押圧部材(26a)を受け入れ可能な被嵌合部(35)が形成されており、
前記押圧部材(26a)が前記被嵌合部(35)に嵌合することにより、前記切断刃(3)が下向きにしたときに、前記直線溝(11)が左右水平方向に延びるように係合部材(1)が保持され、前記切断刃(3)を揺動させる力が加えられることにより、前記弾性部材(26b)に抗して前記押圧部材(26a)が前記被嵌合部(35)から離脱することを特徴とする請求項5記載の缶切。
【請求項7】
前記切断刃(3)を揺動させるときに、前記刃部(31,32)が前記直辺部(Ta)から乖離しないように、前記切断刃(3)を前記係合部材(1)側へ圧着させる圧着機構(6)を備えることを特徴とする請求項2乃至6のいずれかに記載の缶切。
【請求項8】
前記係合部材(1)は、前記前面(1a)から後面(1b)側に貫通形成される貫通穴(12)を有するとともに、当該貫通穴(12)に前記支持軸(2)を摺動可能に支持しており、
前記支持軸(2)は、前記係合部材(1)からの前方突出部分(22)に前記切断刃(3)を支持するとともに前記切断刃(3)の離脱を阻止する前方抜止部(23)が設けられており、
前記圧着機構(6)は、前記支持軸(2)を後面(1b)側へ引き出すことにより、前記切断刃(3)を前記係合部材(1)側へ圧着させることを特徴とする請求項7記載の缶切。
【請求項9】
前記圧着機構(6)は、前記貫通穴(12)の前記後面(1b)側へ突出する前記支持軸(2)の後方突出部分(24)と、これに遊嵌される遊嵌穴(61a)を有する操作杆(61)と、前記後方突出部分(24)に設けられ前記操作杆(61)の離脱を阻止する後方抜止部(25)と、を備えてなり、
前記操作杆(61)が、前記後面(1b)との接点を支点とする一方、前記後方抜止部(25)との接点を作用点とする梃子として、前記支持軸(2)を前記後面(1b)側へ引き出すことを特徴とする請求項8記載の缶切。
【請求項10】
前記操作杆(61)は、相互に直交する第一辺部(62)と第二辺部(63)からなるL字形部材で、前記第一辺部(62)は、前記遊嵌穴(61a)を有し、これに前記後方突出部分(24)を遊嵌させて前記後面(1b)に重なるように設けられ、前記第二辺部(63)が前記第一辺部(62)との連結部分から後方へ延びており、
前記係合部材(1)に連結されて、前記第二辺部(63)と略平行となるように、後方へ延びる補助操作杆(64)が設けられており、
前記操作杆(61)の第二辺部(63)と補助操作杆(64)を相互に接近させるように把持することにより、前記操作杆(61)が梃子となって、前記支持軸(2)を前記後面(1b)側へ引き出すことを特徴とする請求項9記載の缶切。
【請求項11】
前記係合部材(1)の前方に設けられて、前記支持軸(2)の軸方向から見たときに下方に開いた略コ字形状に形成されており、前記刃先部(33)を前記直辺部(Ta)に接近させることにより、前記略コ字形状における左右の対向辺部(11,12)が前記角型缶(C)の左右両側を挟むように当接して、前記刃先部(33)を前記直辺部(Ta)の中点位置に案内する案内部材(7)を備えることを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の缶切。
【請求項12】
前記切断刃(3)は、両側縁部(3a,3b)が両外側方に膨らむ弓形状とされていることにより、前記刃部(31,32)は前記軸方向から見て常に天板(T)に対して斜めに交差することを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の缶切。
【請求項13】
前記把持部(4)は、軸状に延びる本体部(41)の根元側に取り付けられる鍔状体(42)により、前記本体部(41)の上部を把持する作業者の手と前記切断刃(3)を隔離することを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の缶切。
【請求項14】
前記把持部(4)は、軸状の本体部(41)に対してその軸方向に摺動可能な筒状の重り(43)が外嵌されており、前記刃先部(33)を前記直辺部(Ta)に押し当てるとともに、前記重り(43)を軸方向に持ち上げた状態から下方に落とすように摺動させたときの慣性力を利用して前記刃先部(33)を突き刺せるようにしたことを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の缶切。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−106745(P2012−106745A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−254818(P2010−254818)
【出願日】平成22年11月15日(2010.11.15)
【出願人】(390031082)有限会社ミスギ (1)
【Fターム(参考)】