説明

缶胴加工装置、その受金型及びエンボス入り金属缶の製造方法

【課題】本発明は、受金型及び位置調整の精度による制約を受けることなく、金属缶の胴部側壁に凹状の微細な模様又は凸状の微細な模様を形成することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る缶胴加工装置は、金属缶10の胴部31の側壁を彫刻金型12と受金型11との間に挟んで圧接することで、胴部31の側壁に凹状の模様33又は凸状の模様(不図示)を形成する缶胴加工装置において、受金型11は、金属材料からなる芯41と、該芯41の外表面を被覆し、厚さが0.5mm以上2.0mm未満でありかつ弾性材料からなる弾性層42と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属缶の胴部側壁に凹凸模様を形成する缶胴加工装置、当該缶胴加工装置に用いられる受金型及びエンボス入り金属缶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属缶の胴部側面に外観上凸状の模様又は凹状の模様となるエンボスを有する金属缶を製造する際には、エンボスのデザインに応じた凸金型と凹金型が必要であった(例えば、特許文献1参照。)。一方、模様紙のエンボス加工装置において、受けロールにゴムロールが用いられている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】実公平02−042353号公報
【特許文献2】特開2000−127268号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
凸金型と凹金型を用いて凹凸模様を形成する場合、凹金型の表面に形成されている凹みの内側に凸金型の凸と金属缶の胴部側壁がはまるよう、凸金型と凹金型の間にオフセットが設けられていた。オフセットの幅は、金属缶の材質や厚さにもよるが、0.5mmから1.0mmを必要とする。このため、凸金型に形成する凸状の彫刻は、凹金型のオフセットと重ならないような大きな柄しか選択できず、文字などの線をエンボスデザインに取り込むことはできなかった。また、凸金型と凹金型との位置調整を凸金型及び凹金型の彫刻の精度に合わせた精度で行わなければならないので、凹凸模様の細やかさが位置調整の精度によっても制限されていた。
【0004】
本発明は、受金型及び位置調整の精度による制約を受けることなく、金属缶の胴部側壁に凹状の微細な模様又は凸状の微細な模様を形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る缶胴加工装置は、上記課題を解決するものであり、金属缶の胴部側壁を彫刻金型と受金型との間に挟んで圧接することで、前記胴部側壁に凹状の模様又は凸状の模様を形成する缶胴加工装置において、前記受金型は、金属材料からなる芯と、該芯の外表面を被覆し、厚さが0.5mm以上2.0mm未満でありかつ弾性材料からなる弾性層と、を備えることを特徴とする。
【0006】
本発明に係る缶胴加工装置では、前記弾性層は、JIS K 6253:1997「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」の国際ゴム硬さM法に規定する硬さが60以上95以下であることが好ましい。金属缶の胴部側壁に形成する凹状の模様又は凸状の模様の輪郭を明瞭にすることができる。
【0007】
本発明に係る缶胴加工装置では、前記彫刻金型の外表面は、JIS K 6253:1997「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」のデュロメータ(タイプD)の15秒後に規定する硬さがA90以上であることが好ましい。彫刻金型の外表面の硬さがA90以上であることで、金属缶の胴部側壁に形成する凹状の模様又は凸状の模様の輪郭をより明瞭にすることができる。凹状の模様又は凸状の模様の凹凸の高さを高くせずに輪郭を明瞭にすることができるので、凹状の模様又は凸状の模様の加工時における金属缶の破断を防ぐことができる。
【0008】
本発明に係る缶胴加工装置では、前記彫刻金型は、外表面に、高さ0.5mm以上2.0mm未満の凸状の彫刻が設けられていることが好ましい。彫刻金型の外表面に設けられている凸状の模様が、高さ0.5mm以上2.0mm未満であることで、金属缶の胴部側壁に形成する凹状の模様又は凸状の模様の輪郭をより明瞭にし、かつ、弾性層の劣化を軽減させることができる。
【0009】
本発明に係る缶胴加工装置では、前記彫刻金型は、前記胴部側壁の外側に配置され、前記受金型は、前記胴部側壁の内側に配置されていることが好ましい。受金型が胴部側壁の内側に配置されているので、金属缶の胴部側壁に形成される模様は外観上凹状の模様となる。このため、コンベア上又はカートン内での金属缶同士の接触による金属缶の胴部側壁の印刷面の傷を減らすことができる。又、金属缶の胴部側壁の内側と接触する面が弾性材料からなるので、金属缶の内壁を覆う内面塗料の樹脂層を傷つけずに凹状の模様又は凸状の模様を形成することができる。
【0010】
本発明に係る受金型は、金属缶の胴部側壁を彫刻金型と受金型との間に挟んで圧接することで、前記胴部側壁に凹状又は凸状の模様を形成する缶胴加工装置の受金型であって、金属材料からなる芯と、該芯の外表面を被覆し、厚さが0.5mm以上2.0mm未満でありかつ弾性材料からなる弾性層と、を備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係るエンボス入り金属缶の製造方法は、金属缶の胴部側壁を彫刻金型と受金型との間に挟んで圧接することで、前記胴部側壁に凹状又は凸状の模様を形成したエンボス入り金属缶の製造方法において、金属材料からなる芯と、該芯の外表面を被覆し、厚さが0.5mm以上2.0mm未満でありかつ弾性材料からなる弾性層と、を備える受金型を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
受金型の外表面に弾性層を備えるので、金型による制約を受けることなく、凹状の模様又は凸状の模様を形成することができる。ここで、弾性層の厚さが0.5mm以上2.0mm未満であることで、模様の微細化が可能になる。これにより、金型による制約を受けることなく、凹状の微細な模様又は凸状の微細な模様を形成することができる。さらに、凸金型と凹金型との位置調整が不要なので、位置調整の精度に関係なく凹状の模様又は凸状の模様を微細化することができる。さらに、彫刻金型と受金型との位置調整が不要なので、位置調整に必要な作業や機構を省略することができる。さらに、受金型を共用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
添付の図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。以下に説明する実施の形態は本発明の構成の例であり、本発明は、以下の実施の形態に制限されるものではない。図1は、本実施形態に係る缶胴加工装置の模式図である。本実施形態に係る缶胴加工装置は、金属缶10の胴部31の側壁を彫刻金型12と受金型11との間に挟んで圧接することで、金属缶10の胴部31の側壁に凹状の模様又は凸状の模様を形成する。本実施形態では、受金型11が、金属材料からなる芯41と、弾性層42と、を備える。
【0014】
金属缶10は、炭酸飲料、清涼飲料、ビール又は発泡酒等の飲料を含む製品を収容する。金属缶10は、例えば、アルミニウム又はスチール等の金属材料から形成されている。金属材料には、Snメッキ、Sn/Niメッキ等のメッキ鋼板を含む。又、金属材料には、電解クロム酸処理鋼板等の表面処理鋼板を含む。又、金属缶10は、内表面に内面塗料を塗布することによって形成された樹脂層を有していてもよい。
【0015】
金属缶10は、例えば、ツーピース缶又はスリーピース缶である。金属缶10の胴部31の形状は、例えば、図1(a)に示すような円筒形状である。金属缶10の胴部31の形状は、金属缶10がスリーピース缶の場合は、平板状であってもよい。
【0016】
彫刻金型12は、外表面に凸状の彫刻32が形成されており、金属缶10の胴部31の側壁を受金型11との間に挟んで圧接することで、金属缶10の胴部31の側壁を凸状の彫刻32の形状に合わせて凹ませる。例えば、図1(a)に示すように、彫刻金型12は、芯43と、芯43の外周を取り巻きかつ彫刻金型12の外表面を形成する彫刻層44と、を備える。この場合、彫刻層44に凸状の彫刻32が形成される。本実施形態では、彫刻金型12の凸状の彫刻32の柄の細かさや形状は受金型11によって制限されないので、凸状の彫刻32を微細にすることができる。例えば、凸状の彫刻32が複雑に交差する線や文字であっても、金属缶10の凹状の模様33を明瞭に形成することができる。彫刻金型12の外表面を形成する彫刻層44の材質は、硬質で耐摩耗性のあることが好ましく、例えば、彫刻層44は金属、超硬合金、セラミックス、硬質樹脂からなることが好ましい。又、芯43を直接彫刻して、芯43と彫刻層44とが一体であってもよい。
【0017】
彫刻金型12の外表面の硬さは、JIS K 6253:1997「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」のデュロメータ(タイプD)の15秒後に規定する硬さがA90以上であることが好ましく、A95以上であることがより好ましい。彫刻金型12の外表面の硬さがA90以上であることで、金属缶10の胴部31の側壁に形成する凹状の模様33の輪郭を明瞭にすることができる。一方、彫刻金型12の外表面の硬さがA90未満であれば、金属缶10の胴部31の側壁に形成する凹状の模様33の輪郭がぼやける場合がある。
【0018】
彫刻金型12は、外表面に、高さ0.5mm以上2.0mm未満の凸状の彫刻32が設けられていることが好ましい。より好ましくは、彫刻金型12は、外表面に、0.1mm以上1.5mm未満の凸状の彫刻32が設けられていることが好ましい。彫刻金型12の外表面に設けられている凸状の彫刻32が、受金型11の半径方向における弾性層42の厚みと同程度であることで、金属缶10の胴部31の側壁に形成する凹状の模様33の輪郭を明瞭にし、かつ、弾性層42の劣化を軽減させることができる。
【0019】
図2は、図1の彫刻金型のA−A’断面の他形態を示す断面図である。図2に示す彫刻金型51は、内芯52と、内芯52の周囲を取り巻く外芯53と、外芯53を取り巻く彫刻層54とを備える。芯を内芯52と外芯53とに分割可能とすることで、芯の材料を変更することができる。彫刻層54がセラミックスや硬質樹脂であっても、彫刻金型51全体での靭性を上げ、耐久性を高めることができる。彫刻層54の硬さは、A90以上であることが好ましい。又、彫刻層54における凸状の彫刻55の高さ56は、0.5mm以上2.0mm未満であることが好ましい。さらに、彫刻層54の厚さ57は、1.0mm以上3.0mm以下であることが好ましく、さらに、1.5mm以上2.5mm以下であることが好ましい。外芯53の直径を大きくすることで、靭性を上げ、彫刻金型51の耐久性を高めることができる。
【0020】
図1に示す受金型11は、芯41と、芯41の外表面を被覆する弾性材料からなる弾性層42と、を備え、金属缶10の胴部31の側壁を彫刻金型12と受金型11との間に挟んで圧接することで、金属缶10の胴部31の側壁に凹状又は凸状の模様33を形成する。
【0021】
芯41は、金属材料からなる。金属材料は、硬質であることが好ましく、例えば、鉄又はモリブデン、タングステン若しくはクロムと鉄との合金である。合金は、例えば、テンレス又はダイス鋼である。芯41が靭性のある金属材料からなることで、受金型11の耐久性を高めることができる。
【0022】
弾性層42は、芯41の外表面を被覆する。弾性層42で被覆する部分は、芯41の外表面のうち、少なくとも彫刻金型12の表面との間に金属缶10の胴部31の側壁を挟む部分である。弾性層42は、受金型11の半径方向への厚さが0.5mm以上2.0mm未満の弾性材料からなる。弾性層42の厚さが0.5mm未満の場合、彫刻金型12の凸状の彫刻32の凹凸の高さを0.5mm未満にしかできないので、明瞭な凹状の模様33を形成することができない。又、彫刻金型12の凸状の彫刻32と芯41の間に挟まれた金属缶10の胴部31の側壁が破断する場合がある。一方、弾性層42の厚さが2.0mm以上の場合、凹状の模様33がぼやけてしまう。弾性層42の厚さが0.5mm以上2.0mm未満であることで、金属缶10の胴部31の側壁に、微細な凹状の模様33を形成することができる。さらに、弾性層42の厚さが0.75mm以上1.25mm未満であることで、凹状の模様33の輪郭を明瞭にすることができる。
【0023】
弾性材料は、例えば、ゴム又は合成樹脂である。又、弾性材料は、発泡させたゴム又は合成樹脂を含む。ゴムとしては、例えば、汎用ゴム、特殊ゴム又は熱可塑性エラストマーがある。汎用ゴムは、例えば合成ゴム又は天然ゴムである。合成ゴムとしては、例えば、ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴムがある。特殊ゴムは、耐油性、耐薬品性などの特殊性能を備えたゴムであり、例えば、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、アクリルゴム、フッ素ゴムがある。熱可塑性エラストマーとしては、例えば、スチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系、ウレタン系、エステル系、ポリアミド系がある。熱可塑性エラストマーの具体例としては、スチレン−ジエン系共重合エラストマー及びその水素添加物、エチレン−炭素数3以上のα−オレフィン系共重合エラストマー、エチレン−炭素数3以上のα−オレフィン−ポリエン系共重合エラストマー及びその水素添加物、エチレン−不飽和カルボン酸−α,β−不飽和カルボン酸エステル系共重合エラストマー、アクリロニトリル系共重合エラストマーがある。耐摩耗性と弾性回復力の大きい弾性材料が好ましく、例えば、ニトリルゴムやウレタンゴムが好ましい。
【0024】
合成樹脂は、熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂がある。熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、シンジオタクティックポリスチレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、硬質ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、ABS樹脂、脂肪族ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリオキシメチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン又はポリフェニレンスルフィド、或いは、これらの共重合体又はブレンド体がある。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、ウレア樹脂、メラミン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂又はアクリル樹脂、或いは、これらの組み合わせがある。なお、前述のゴム又は合成樹脂のうちの2種以上が含まれていてもよい。又、添加剤が含まれていてもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、分散剤、強化剤がある。可塑剤を添加することで、弾性材料に変化させることができる。
【0025】
弾性層42の硬さは、JIS K 6253:1997「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」の国際ゴム硬さM法に規定する硬さが60以上95以下であることが好ましい。彫刻金型12の外表面に形成されている凸状の彫刻32を、金属缶10の胴部31の側壁により微細に転写することができるので、微細な凹状の模様33を明瞭に形成することができる。弾性層42の硬さが60未満の場合、金属缶10の胴部31の側壁が破断しやすくなる。一方、弾性層42の硬さが95超の場合、金属缶10の胴部31の側壁に凹状の模様33が形成できない場合がある。さらに、弾性層42の硬さは、70以上80以下であることが好ましい。
【0026】
弾性層42を形成する弾性材料はゴム又は合成樹脂であるが、これらの発泡体であってもよい。すなわち、弾性層42は、発泡ゴム又は発泡合成樹脂によって形成されていてもよい。弾性層42が発泡ゴムの場合、弾性層42の外表面が平滑であることが好ましい。弾性層42の外表面に発泡の穴がある場合、金属缶10の胴部31の側壁に形成した凹状の模様33にむらが生じることがある。弾性層42の硬さは、前述のとおり、発泡率に限定されることなく、JIS K 6253:1997「加硫ゴム及び熱可塑性ゴムの硬さ試験方法」の国際ゴム硬さM法に規定する硬さが60以上95以下であることが好ましい。
【0027】
ここで、図1(b)に示すように、彫刻金型12は、金属缶10の胴部31の側壁の外側に配置され、受金型11は、金属缶10の胴部31の側壁の内側に配置されていることが好ましい。彫刻金型12の凸状の彫刻32が金属缶10の胴部31の側壁を、金属缶10の外側から押圧することで、彫刻金型12の凸状の彫刻32の形状に合わせて、金属缶10の胴部31の側壁に、外観上凹状の模様33が形成される。このため、コンベア上又はカートン内での金属缶10同士の接触による金属缶10の胴部31側壁の印刷面の傷を減らすことができる。又、金属缶10の胴部31の側壁の内側と接触する面が弾性材料であるため、金属缶10の内壁を覆う内面塗料の樹脂層を傷つけずに凹状の模様33を形成することができる。
【0028】
又、本実施形態では、受金型11の外表面に弾性層42を備えるので、図1(b)に示す受金型11と彫刻金型12の配置を入れ替えることができる。この場合、受金型は、金属缶10の胴部31側壁の外側に配置され、彫刻金型は、胴部31側壁の内側に配置される。彫刻金型の凸状の彫刻が金属缶10の胴部31の側壁を金属缶10の内側から押圧することで、彫刻金型の凸状の彫刻の形状に合わせて、金属缶10の胴部31の側壁に、外観上凸状の模様が形成される。このため、外観上凸状の模様となる微細な模様を金属缶10の胴部31側壁に形成することができる。
【0029】
以下、本実施形態に係るエンボス入り金属缶の製造方法について、図1を用いて説明する。金属缶10に受金型11を差し込む。ここで、受金型11の外表面が弾性層42であり、凹金型を用いていないので、受金型11と彫刻金型12の位置調整に必要な作業や機構を省略することができる。
【0030】
金属缶10の胴部31の側壁を彫刻金型12と受金型11との間に挟んで圧接する。ここで、受金型11の外表面は、凹金型ではなく、彫刻金型12の凸状の彫刻32よりも平坦な弾性層42である。凹金型が必要ないので、彫刻金型12の凸状の彫刻32を微細化することができる。又、受金型11は、外表面を被覆した弾性層42が薄く、かつ、弾性層42の内側が固い芯41である。この構造により彫刻金型12の凸状の彫刻32が微細であっても、凸状の彫刻32を金属缶10の凹状の模様33へ転写することができる。さらに弾性層42の硬さをA60以上A95以下とすることで、金属缶10の凹状の模様33の輪郭を明瞭にすることができる。
【0031】
圧接後、受金型11から金属缶10を取り外す。取り外しは、例えば、加圧空気によって行う。又、取り外しは、ノックピンなどのメカニカルな方法で行ってもよい。ここで、受金型11が弾性層42で被覆されているので、弾性層42の弾性回復力で容易に金属缶10を取り外すことができる。これによって、受金型11を金属缶10の胴部31の内側に配置して、金属缶10の胴部31の側壁に形成する模様を外観上凹状の模様33とすることができる。
【実施例】
【0032】
(弾性層の厚さの検証1)
図3は転写エンボスサーを示す画像である。図3に示す転写エンボスサーでは、受金型を金属缶(不図示)に差し込み、受金型と彫刻金型62とで金属缶を挟んで外観上凹状の模様を形成した。彫刻金型62として、Depcon製の板状の印刷板を使用した。印刷板の材料には、印刷板の硬さを高くするため、アルミニウム粉末が混合されている樹脂が用いられている。又、彫刻金型に形成されている凸状の彫刻の高さは1.0mmであった。金属缶としては、市販のアルミニウム缶を用いた。受金型は、実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4で条件を変更した。
【0033】
実施例1では、受金型として、鉄芯の外表面を厚さ1mmの合成ゴムからなる弾性層で被覆した受金型を用いた。実施例2では、受金型として、鉄芯の外表面を厚さ1mmの発泡ゴムからなる弾性層で被覆した受金型を用いた。実施例1及び実施例2では、受金型をロール型とした。比較例1では、受金型として、鉄芯の外表面を厚さ2mmの合成ゴムで被覆したゴムロールを用いた。比較例2では、受金型として、鉄芯を用いずにロール自体が硬さA80の合成ゴムからなるゴムロールを用いた。比較例3では、受金型として、鉄芯を用いずにロール自体が硬さA60の合成ゴムからなるゴムロールを用いた。比較例4では、受金型として、硬さA40の合成ゴムのゴムロールの外表面を硬さA80の合成ゴムで被覆したゴムロールを用いた。
【0034】
図4は、アルミニウム缶の胴部側壁に表された凹状の模様を示す画像であり、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は比較例1、(d)は比較例2、(e)は比較例3、(f)は比較例4を示す。実施例1及び実施例2のとき、すなわち、弾性材料の厚さが1mmであるとき、形成された凹状の模様の輪郭が明瞭であった。一方、弾性層の厚さが2mm以上となる比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4のとき、それぞれの線が太くなり、麦の穂の部分の線が形成できず、全体的にぼやけた。例えば、細かな線が入り組んだ茎の部分は、比較例1、比較例2、比較例3及び比較例4では形成できなかったが、実施例1及び実施例2では形成できた。このように、弾性層の厚さが1mmであることで、微細な模様を形成することができた。
【0035】
(弾性層の厚さの検証2)
図5は、彫刻金型の別形態を示す画像である。図5に示す彫刻金型は、図3に示す彫刻金型よりも硬さの低い樹脂製の板状の印刷板を使用した。印刷板に形成されている凸状の彫刻は、彫刻金型の凸状の彫刻よりも複雑であり、さらに、凸状の高さを彫刻金型の凸状の彫刻よりも低い0.5mmとした。又、印刷板に形成されている凸状の断面は、天頂部が平坦な矩形とした。図3に示す転写エンボスサーの彫刻金型を、上記の図5に示す彫刻金型に代え、アルミニウム缶の胴部側壁に凹状の模様を形成した。
【0036】
実施例3では、図3に示す受金型として、鉄芯の外表面を厚さ1mmの合成ゴムからなる弾性層で被覆した受金型を用いた。実施例4では、受金型として、鉄芯の外表面を厚さ1mmの発泡ゴムからなる弾性層で被覆した受金型を用いた。実施例3及び実施例4では、実施例1及び実施例2と同様に、受金型をロール型とした。比較例5では、受金型として、鉄芯の外表面を厚さ2mmの合成ゴムで被覆したゴムロールを用いた。比較例6では、受金型として、鉄芯を用いずにロール自体が硬さA80の合成ゴムからなるゴムロールを用いた。比較例7では、受金型として、鉄芯を用いずにロール自体が硬さA80よりも硬さの低い合成ゴムからなるゴムロールを用いた。
【0037】
図6は、アルミニウム缶の胴部側壁に表された凹状の模様を示す画像であり、(a)は実施例3、(b)は実施例4、(c)は比較例5、(d)は比較例6を示す。なお比較例7は不図示である。実施例3では、凹状の模様が深く、細かく形成できた。実施例4では、凹状の模様は浅めだが、もっとも細かく凹状の模様が形成できた。比較例5では、凹状の模様が深いが、細かな線がぼやけた。比較例6では、凹状の模様も浅く、屈曲部分のない単純な曲線又は直線しか形成できなかった。比較例7では、凹状の模様はほとんど形成されなかった。
【0038】
上記のように、実施例3及び実施例4の条件のとき、すなわち、弾性層の厚さが1mmのとき、複雑な模様であっても凹状の模様を形成することができた。又、実施例3と実施例4を比較すると、弾性層の硬さが高い実施例3のとき、凹状の模様を深く形成することができた。又、実施例3と実施例4を比較すると、弾性層の硬さが低い実施例4のとき、彫刻金型の微細な凸状の模様を忠実に再現することができた。
【0039】
(彫刻金型の硬さの検証1)
実施例1及び実施例2と、実施例3及び実施例4とを比較すると、実施例1及び実施例2のとき、すなわち、彫刻金型の硬さが高いとき、アルミニウム缶の胴部側壁に表された凹状の模様の輪郭を明瞭にすることができた。
【0040】
(彫刻金型の硬さの検証2)
彫刻金型の硬さの影響を調べるため、Alcoa式エンボスサーを使用してアルミニウム缶の胴部側壁に凹状の模様を形成した。受金型には、鉄芯の外表面を厚さが1.0mmでありかつ硬さ60のウレタン樹脂からなる弾性層で被覆されているものを用いた。実施例5では、外表面がアルミニウム粉末入りウレタン樹脂で形成されており、外表面の硬さがA90以上であり、外表面に形成されている凸状の彫刻の高さが1.0mmである彫刻金型を用いた。実施例6では、外表面がABS樹脂で形成されており、外表面の硬度がA90以上であり、実施例5よりも硬さが低く、外表面に形成されている凸状の彫刻の高さが1.0mmである彫刻金型を用いた。実施例7では、外表面がウレタン樹脂で形成されており、外表面の硬度がA90以上であり、実施例6よりも硬さが低く、外表面に形成されている凸状の彫刻の高さが1.0mmである彫刻金型を用いた。アルミニウム缶の胴部側壁に表された凹状の模様を、彫刻金型の実施例5、実施例6及び実施例7で比較した結果、実施例7でも微細であったが、実施例6、実施例5と、硬さが高くなるほど微細になった。
【0041】
(弾性層の硬さの検証1)
さらに、実施例5、実施例6及び実施例7と同じ彫刻金型を用い、鉄芯の外表面を厚さが1.0mmでありかつ硬さ90のウレタン樹脂からなる弾性層で被覆され、かつ、アルミニウム缶の胴部側壁に凹状の模様を形成した受金型を用い、Alcoa式エンボスサーを使用してアルミニウム缶の胴部側壁に凹状の模様を形成した。実施例8では、外表面がアルミニウム粉末入りウレタン樹脂で形成されており、外表面の硬さがA90以上であり、外表面に形成されている凸状の彫刻の高さが1.0mmである実施例5と同一の彫刻金型を用いた。実施例9では、外表面がABS樹脂で形成されており、外表面の硬さがA90以上であり、実施例8よりも硬さが低く、外表面に形成されている凸状の彫刻の高さが1.0mmである実施例6と同一の彫刻金型を用いた。実施例10では、外表面がウレタン樹脂で形成されており、外表面の硬さがA90以上であり、実施例9よりも硬さが低く、外表面に形成されている凸状の彫刻の高さが1.0mmである実施例7と同一の彫刻金型を用いた。受金型の弾性層の硬さのみの異なる実施例5と実施例8、実施例6と実施例9、実施例7と実施例10をそれぞれ比較した結果、受金型の弾性層の硬さが高いA90である実施例8、実施例9、実施例10のとき、受金型の硬さがA60の実施例5、実施例6、実施例7よりも凹状の模様が深く、かつ、凹状の模様が微細であり、かつ、弾性層の耐久性が高かった。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、金属缶の胴部側壁に凹凸模様を形成するので、金属缶に意匠性をもたせるために利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施形態に係る缶胴加工装置の模式図である。
【図2】図1の彫刻金型のA−A’断面の他形態を示す断面図である。
【図3】転写エンボスサーを示す画像である。
【図4】アルミニウム缶の胴部側壁に表された凹状の模様を示す画像であり、(a)は実施例1、(b)は実施例2、(c)は比較例1、(d)は比較例2、(e)は比較例3、(f)は比較例4を示す。
【図5】彫刻金型の別形態を示す画像である。
【図6】アルミニウム缶の胴部側壁に表された凹状の模様を示す画像であり、(a)は実施例3、(b)は実施例4、(c)は比較例5、(d)は比較例6を示す。
【符号の説明】
【0044】
10 金属缶
11 受金型
12 彫刻金型
31 金属缶の胴部
32 凸状の彫刻
33 凹状の模様
41 芯
42 弾性層
51 彫刻金型
43 芯
52 内芯
53 外芯
44、54 彫刻層
55 凸状の彫刻
56 凸状の模様55の高さ
57 彫刻層の厚さ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属缶の胴部側壁を彫刻金型と受金型との間に挟んで圧接することで、前記胴部側壁に凹状又は凸状の模様を形成する缶胴加工装置において、
前記受金型は、金属材料からなる芯と、該芯の外表面を被覆し、厚さが0.5mm以上2.0mm未満でありかつ弾性材料からなる弾性層と、を備えることを特徴とする缶胴加工装置。
【請求項2】
前記弾性層は、JIS K 6253:1997の国際ゴム硬さM法に規定する硬さが60以上95以下であることを特徴とする請求項1に記載の缶胴加工装置。
【請求項3】
前記彫刻金型の外表面は、JIS K 6253:1997のデュロメータ(タイプD)に規定する硬さがA90以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の缶胴加工装置。
【請求項4】
前記彫刻金型は、外表面に、高さ0.5mm以上2.0mm未満の凸状の彫刻が設けられていることを特徴とする請求項1、2又は3に記載の缶胴加工装置。
【請求項5】
前記彫刻金型は、前記胴部側壁の外側に配置され、
前記受金型は、前記胴部側壁の内側に配置されていることを特徴とする請求項1、2、3又は4に記載の缶胴加工装置。
【請求項6】
金属缶の胴部側壁を彫刻金型と受金型との間に挟んで圧接することで、前記胴部側壁に凹状又は凸状の模様を形成する缶胴加工装置の受金型であって、
金属材料からなる芯と、該芯の外表面を被覆し、厚さが0.5mm以上2.0mm未満でありかつ弾性材料からなる弾性層と、を備えることを特徴とする受金型。
【請求項7】
金属缶の胴部側壁を彫刻金型と受金型との間に挟んで圧接することで、前記胴部側壁に凹状又は凸状の模様を形成したエンボス入り金属缶の製造方法において、
金属材料からなる芯と、該芯の外表面を被覆し、厚さが0.5mm以上2.0mm未満でありかつ弾性材料からなる弾性層と、を備える受金型を用いることを特徴とするエンボス入り金属缶の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−126263(P2008−126263A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−313737(P2006−313737)
【出願日】平成18年11月21日(2006.11.21)
【出願人】(307027577)麒麟麦酒株式会社 (350)