説明

置換フェニルピリジンイリジウム錯体、該錯体よりなる発光材料及び該錯体を用いた有機EL素子

【課題】イリジウム錯体、該錯体による発光材料及び有機EL素子の提供。
【解決手段】下記一般式(1)で示される置換フェニルピリジンイリジウム錯体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換フェニルピリジンイリジウム錯体、該錯体よりなる発光材料及び該錯体を用いた有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、電極から注入されたホールと電子の再結合により生成した励起エネルギーが発光過程を経て基底状態に緩和することにより自発光する。しかしながら、ホールと電子の再結合により生成する励起状態では、一重項励起状態と三重項励起状態の2種類がそれぞれ1対3の割合で存在する。これまで多くは一重項励起状態からの発光を利用した蛍光材料が発光材料に利用されていた。この場合、内部量子効率が最大で25%あることから、光取り出し効率を20%とすると、最大外部量子収率は5%が理論的に限界であった(非特許文献1)。
近年、イリジウムやプラチナなどの重原子効果を利用した錯体化合物を用い、三重項励起状態からの発光、すなわちリン光発光を用いることによる発光効率の向上が報告されるようになった。一重項励起状態に加え、三重項励起状態からの発光を利用することにより最大内部量子効率は理論上100%に到達することが可能であり、リン光材料は発光材料として注目を浴びている(非特許文献2)。
また、リン光材料は有機EL素子の発光効率や電気特性向上に寄与することから、これを使用した有機EL素子の研究が精力的に行われている(特許文献1など)。
【0003】
例えば、緑色発光材料として、下記式で示されるトリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)〔Ir(ppy)〕が広く利用されている。
【化1】

また、安達らにより、青色発光材料である下記式で示されるビス〔2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジナト〕ピコリナトイリジウム(III)(FIrpic)が注目を浴びるようになり、それ以降、FIrpicを用いた有機EL素子の高効率化検討及び新規な青色リン光錯体探索研究が盛んに行われるようになった(非特許文献3)。
【化2】

このような状況からみて、今後の有機EL照明や有機ELディスプレイの開発では、新規のリン光材料の開発が大きなウェートを占めると予測される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−254642号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】猪口敏夫:エレクトロルミネッセントディスプレイ,P.114,産業図書(1991)
【非特許文献2】C.Adachi,R.C.Kwong,M.A.Baldo,M.E.Thompson,S.R.Forrest,Proc.8th IDW‘01,P.1420(2001)
【非特許文献3】Appl.Phys.Lett.,79,2082(2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、置換フェニルピリジンイリジウム錯体、該錯体よりなる発光材料及び該錯体を用いた有機EL素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、次の1)〜3)の発明によって解決される。
1) 下記一般式(1)で示される置換フェニルピリジンイリジウム錯体。
【化3】

〔式中、R〜Rは水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、R〜Rは水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルコキシ基、フッ素よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。また、Pyは下記式で示される3−ピリジル基又は4−ピリジル基よりなる群から選ばれた基であり、R〜R15は水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。〕

【化4】

2) 1)記載の置換フェニルピリジンイリジウム錯体よりなる発光材料。
3) 1)記載の置換フェニルピリジンイリジウム錯体を用いた有機EL素子。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、置換フェニルピリジンイリジウム錯体、該錯体よりなる発光材料及び該錯体を用いた有機EL素子を提供できる。また、本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体は、シクロヘキサノン、2−エトキシエタノールやエチル安息香酸に対して良好な溶解性を示すので、塗布方法による大面積有機ELパネルが容易に製造できる。従って工業的に極めて重要なものであると言える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で作製したトリス〔2−(3−ブロモフェニル)ピリジン〕イリジウム錯体〔Ir(Br−ppy)〕のH−NMRのチャート。
【図2】実施例1で作製したトリス{2−〔3−(4−ピリジル)フェニル〕ピリジン}イリジウム錯体〔Ir(4Py−ppy)〕のH−NMRのチャート。
【図3】実施例1で作製したIr(4Py−ppy)のMassスペクトルのチャート。
【図4】実施例1で作製したIr(4Py−ppy)の高速液体クロマトグラフで純度分析を行ったチャート。
【図5】実施例2で作製した{2−〔3−(3−ピリジル)フェニル〕ピリジン}イリジウム錯体〔Ir(3Py−ppy)〕のH−NMRのチャート。
【図6】実施例2で作製したIr(3Py−ppy)の高速液体クロマトグラフで純度分析を行ったチャート。
【図7】実施例7〜8及び比較例2の、1,2−ジクロロエタン溶液中の紫外−可視吸収スペクトル(UV−vis吸収スペクトル)のチャート。
【図8】実施例7〜8及び比較例2の、THF溶液中の紫外−可視吸収スペクトル(UV−vis吸収スペクトル)のチャート。
【図9】実施例9〜10及び比較例3の、THF溶液中のフォトルミネッセンススペクトル(PLスペクトル)のチャート。
【図10】実施例11〜12及び比較例4のイリジウム錯体をCBPに8wt%ドープした蒸着膜の紫外−可視吸収スペクトル(UV−vis吸収スペクトル)のチャート。
【図11】実施例13〜14及び比較例5のイリジウム錯体をCBPに8wt%ドープした蒸着膜のフォトルミネッセンススペクトル(PLスペクトル)のチャート。
【図12】実施例17〜18及び比較例7で作製した有機EL素子構造を示す図。
【図13】実施例17〜18及び比較例7の電流密度−電圧特性を示す図。
【図14】実施例17〜18及び比較例7の輝度−電圧特性を示す図。
【図15】実施例17〜18及び比較例7の電力効率−輝度特性を示す図。
【図16】実施例17〜18及び比較例7の電流効率−輝度特性を示す図。
【図17】実施例17〜18及び比較例7の外部量子効率−輝度特性を示す図。
【図18】実施例17〜18及び比較例7のELスペクトルを示す図。
【図19】実施例19〜20及び比較例8で作製した有機EL素子構造を示す図。
【図20】実施例19〜20及び比較例8の電流密度−電圧特性を示す図。
【図21】実施例19〜20及び比較例8の輝度−電圧特性を示す図。
【図22】実施例19〜20及び比較例8の電力効率−輝度特性を示す図。
【図23】実施例19〜20及び比較例8の電流効率−輝度特性を示す図。
【図24】実施例19〜20及び比較例8の外部量子効率−輝度特性を示す図。
【図25】実施例19〜20及び比較例8のELスペクトルを示す図。
【図26】本発明の有機EL素子の構成例を示す図。
【図27】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図28】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図29】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図30】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図31】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図32】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【図33】本発明の有機EL素子の他の構成例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体におけるR〜R15の炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基としては、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基などを例示することができる。またR〜Rの炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、イソブトキシ基やターシャリーブトキシ基を例示することができる。
【0011】
本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体は、下記の二段階反応により作製することができる。
<第一反応>
【化5】


反応式中、NBSは、N−ブロモコハク酸イミドである。

<第二反応>
【化6】

反応式中、Pd(PPhはテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム、KCO aqは炭酸カリウム水溶液である。また、R〜Rは水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群、及びR〜Rは水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルコキシ基、フッ素よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、R〜R15は水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基よりなる群から、それぞれ独立して選ばれた基である
【0012】
第一反応は、トリス(2−フェニルピリジン)イリジウムのブロム化である。ブロム化で使用する臭素化剤としては、臭素水、四臭化炭素、臭化ベンジル、テトラ−n−ブチルアンモニウムトリブロミド、N−ブロモコハク酸イミドなどが使用できるが、取り扱いやすさからN−ブロモコハク酸イミドが好ましい。反応で使用する溶媒は、自身がブロモ化を受けないか又は受けにくい溶媒であれば特に限定されない。その例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどが挙げられるが、取り扱いやすさからジクロロメタンが好ましい。
【0013】
第二反応は、臭素化物とホウ酸エステルとのカップリング反応である。一般には鈴木カップリングと呼ばれる反応で有機合成反応では良く用いられる手法である。反応で用いるパラジウム触媒は、反応系中で0価を示すものであれば特に限定されない。その例としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)、ビス[1,2−ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン]パラジウム(0)、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム(0)、ビス(トリ−tert−ブチルホスフィン)パラジウム(0)などが挙げられる。取り扱いやすさからテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)が好ましい。
反応に用いる塩基については、無機物でも有機物でも特に限定されない。無機物としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムなどの炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウムなどの炭酸水素塩、フッ化カリウムやフッ化セシウムなどのフッ化物、有機物しては、ナトリウムメチラートやナトリウムエチラートなどのアルコラート化合物、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミンやターシャリーブチルアミンなどのアミン化合物などが例示できる。取り扱いやすさから炭酸カリウムが好ましい。無機塩を使用する場合は、反応系での分散性を上げるために水溶液にして使用することが好ましい。
反応溶媒は、パラジウム触媒や使用する塩基と反応しないものであれば特に限定されない。その例としては、トルエンやキシレンのような芳香族系溶媒、1,4−ジオキサンや1,2−ジメトキシエタンのようなエーテル系溶媒などが使用できる。芳香族系溶媒の場合、メタノールやエタノールなどのアルコール系溶媒と併用して使用することもできる。
【0014】
本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体の具体例を示す。なお、例示化合物中のメチル基は他のアルキル基(エチル基、プロピル基など)と置き換えることができる。
【0015】
【化7】

【0016】
【化8】

【0017】
【化9】

【0018】
【化10】

【0019】
【化11】

【0020】
【化12】

【0021】
【化13】

【0022】
【化14】

【0023】
本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体は高い発光性を有する。従って発光材料として使用することができる。使用に際しては、蒸着により層形成を行うことが望ましい。
また、本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体は有機EL素子の材料として有用であるが、使用に際しては、適当なホスト材料と組み合わせて使用することができる。また、有機EL素子の発光層における発光材料として使用することができる。
【0024】
次に本発明の有機EL素子について説明する。
本発明の有機EL素子は、陽極と陰極間に複数層の有機化合物を積層した素子であり、発光層の発光材料として本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体を含有する。
発光層は、発光材料とホスト材料から構成される。多層型の有機EL素子の構成例としては、陽極(例えばITO)/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/陰極、ITO/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極、ITO/ホール注入層(正孔注入層)/ホール輸送層/発光層/ホールブロック層/電子輸送層/電子注入層/陰極等の多層構成で積層したものが挙げられる。また、必要に応じて陰極上に封止層を有していてもよい。
ホール輸送層、電子輸送層、及び発光層のそれぞれの層は、各機能を分離した多層構造であることが望ましい。またホール輸送層、電子輸送層はそれぞれの層で注入機能を受け持つ層(ホール注入層及び電子注入層)と輸送機能を受け持つ層(ホール輸送層及び電子輸送層)を別々に設けることもできる。
【0025】
以下本発明の有機EL素子の構成要素に関して、陽極/ホール輸送層/発光層/電子輸送層/陰極からなる素子構成を例として取り上げて説明する。本発明の有機EL素子は、基板に支持されていることが好ましい。
基板の素材については特に制限はなく、例えば、従来の有機EL素子に慣用されているものが使用でき、ガラス、石英ガラス、透明プラスチックなどからなるものを用いることができる。
【0026】
前記陽極としては、仕事関数の大きな金属単体(4eV以上)、仕事関数の大きな金属同士の合金(4eV以上)又は導電性物質及びこれらの混合物を電極材料とすることが好ましい。このような電極材料の例としては、金、銀、銅等の金属、ITO(インジウム−スズオキサイド)、酸化スズ(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)などの導電性透明材料、ポリピロール、ポリチオフェン等の導電性高分子材料が挙げられる。陽極はこれらの電極材料を、例えば蒸着、スパッタリング、塗布などの方法により形成することができる。陽極のシート電気抵抗は数百Ω/cm以下が好ましい。陽極の膜厚は材料にもよるが、一般に5〜1,000nm程度、好ましくは10〜500nmである。
【0027】
前記陰極としては、仕事関数の小さな金属単体(4eV以下)、仕事関数の小さい金属同士の合金(4eV以下)又は導電性物質及びこれらの混合物を電極材料とすることが好ましい。このような電極材料の例としては、リチウム、リチウム−インジウム合金、ナトリウム、ナトリウム−カリウム合金、マグネシウム、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム、アルミニウム−リチウム合金、アルミニウム−マグネシウム合金などが挙げられる。陰極はこれらの電極材料を、例えば蒸着、スパッタリングなどの方法により、薄膜を形成させることにより作製することができる。
陰極のシート電気抵抗は数百Ω/cm以下が好ましい。陰極の膜厚は材料にもよるが、一般に5〜1,000nm程度、好ましくは10〜500nmである。
本発明の有機EL素子の発光を効率よく取り出すために、陽極又は陰極の少なくとも一方の電極は透明又は半透明であることが好ましい。
【0028】
前記ホール輸送層は、ホール伝達化合物からなるもので、陽極より注入されたホールを発光層に伝達する機能を有している。電界が与えた2つの電極の間に正孔伝達化合物が配置されて陽極からホールが注入された場合、少なくとも10−6cm/V・秒以上のホール移動度を有するホール伝達物質が好ましい。本発明の有機EL素子のホール輸送層に使用するホール伝達物質は、前記の好ましい性能を有するものであれば特に制限はない。従来から光導電材料においてホールの電荷注入材料として慣用されているものや有機EL素子のホール輸送層に使用されている公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができる。
【0029】
ホール伝達物質の例としては、銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、N,N,N′,N′−テトラフェニル−1,4−フェニレンジアミン、N,N′−ジ(m−トリル)−N,N′−ジフェニル−4,4−ジアミノフェニル(TPD)、N,N′−ジ(1−ナフチル)−N,N′−ジフェニル−4,4−ジアミノフェニル(α−NPD)等のトリアリールアミン誘導体、ポリフェニレンジアミン誘導体、ポリチオフェン誘導体、及び水溶性のPEDOT−PSS(ポリエチレンジオキサチオフェン−ポリスチレンスルホン酸)などが挙げられる。
ホール輸送層は、これらの他のホール伝達化合物の一種又は二種以上からなる一層で構成されたものでよく、前記のホール伝達物質とは別の化合物からなるホール輸送層を積層したものでもよい。
【0030】
ホール注入材料の例としては、下記化学式で示されるPEDOT−PSS(ポリマー混合物)やDNTPDが挙げられる。式中のnは繰り返し単位数である。

【化15】

ホール輸送材料の例としては、下記化学式で示されるTPD、DTASi、α−NPDなどが挙げられる。
【化16】

【0031】
前記電子輸送層は、電子輸送材料からなるもので、陰極より注入された電子を発光層に伝達する機能を有している。電界が与えた2つの電極の間に電子輸送材料が配置されて陰極から電子が注入された場合、少なくとも10−6cm/V・秒以上の電子移動度を有する電子輸送材料が好ましい。該電子輸送材料は、前記の好ましい性能を有するものであれば特に制限はない。従来から光導電材料において電子の電荷注入材料として慣用されているものや有機EL素子の電子輸送層に使用されている公知の材料の中から任意のものを選択して用いることができる。
電子輸送材料の例としては、トリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)のようなキノリン錯体、1−N−フェニル−2−(p−ビフェニルイル)−5−(p−tert−ブチルフェニル)−1,3,5−トリアジン(TAZ)のようなトリアジン誘導体、1,4−ジ(1,10−フェナントロリン−2−イル)ベンゼン(DPB)のようなフェナントロリン誘導体、フッ化リチウムのようなハロゲン化アルカリ金属などが挙げられる。
AlqとTAZの化学式を次に示す。
【化17】

【化18】

【0032】
上記の他に、下記化学式で示されるトリアジン誘導体の電子輸送材料(TmPyPhTAZ、特開2007−137829号公報参照)やビスフェノール誘導体の電子輸送材料(tetra−pPyPhBP、特開2008−063232号公報参照)などを用いることもできる。

【化19】

電子輸送層は、上記電子輸送材料の一種又は二種以上からなる一層で構成されたものでよいが、これらとは別の化合物からなる電子輸送層を積層したものでもよい。
【0033】
電子注入材料の例としては、下記化学式で示されるフッ化リチウム(LiF)や8−ヒドロキシキノリノラトリチウム錯体(Liq)、フェナントロリン誘導体のリチウム錯体(LiPB、特開2008−106015号公報参照)、フェノキシピリジンのリチウム錯体(LiPP、特開2008−195623号公報参照)が挙げられる。
【化20】

【0034】
本発明の有機EL素子の発光層では、発光材料として本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体を使用するが、その他の任意の発光材料を選択して該錯体と併用することができる。
併用する発光材料としては、ペリレン誘導体、ナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、クマリン誘導体(例えばクマリン1、クマリン540、クマリン545など)、ピラン誘導体(例えばDCM−1、DCM−2、DCJTBなど)、有機金属錯体〔例えばトリス(8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Alq)、トリス(4−メチル−8−ヒドロキシキノリノラト)アルミニウム錯体(Almq)等の蛍光材料や、[2−(4,6−ジフルオロフェニル)ピリジル−N,C2′]イリジウム(III)ピコリレート(FIrpic)、トリス{1−[4−(トリフルオロメチル)フェニル]−1H−ピラゾラート−N,C2′}イリジウム(III)(Irtfmppz)、ビス[2−(4′,6′−ジフルオロフェニル)ピリジナト−N,C2′]イリジウム(III)テトラキス(1−ピラゾリル)ボレート(FIr6)、トリス(2−フェニルピリジナト)イリジウム(III)(Irppy)等のリン光材料〕などが挙げられる。
【0035】
発光層は、一般にホスト材料と発光材料(ドーパント)から形成される[Appl.Phys.Lett.,65 3610(1989)]が、本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体を発光層に使用する場合にはホスト材料が必要であり、例えば下記化学式で示される4,4′−ジ(N−カルバゾリル)−1,1′−ビフェニル(CBP)、1,4−ジ(N−カルバゾリル)ベンゼン−2,2′−ジ[4″−(N−カルバゾリル)フェニル]−1,1′−ビフェニル(4CzPBP)などを用いる。
【化21】

本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体は、ホスト材料に対して好ましくは0.01〜40重量%であり、より好ましくは0.1〜20重量%である。
【0036】
本発明の有機EL素子は、ホール注入性をさらに向上させる目的で陽極と有機化合物の層の間に有機導電体から構成されるホール注入層を設けてもよい。ここで使用されるホール注入材料としては、本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体の他に銅フタロシアニンなどのフタロシアニン誘導体、ポリフェニレンジアミン誘導体、ポリチオフェン誘導体、PEDOT−PSS(ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンスルホン酸)などが挙げられる。
本発明の置換フェニルピリジンイリジウム錯体を含むEL素子のホール注入層、ホール輸送層の形成方法は特に限定されるものではなく、例えば乾式製膜法(真空蒸着法、イオン化蒸着法など)、湿式製膜法(溶媒塗布法:スピンコート法、キャスト法、インクジェット法など)を使用することができる。電子輸送層の製膜については、湿式製膜法で行うと下層が溶出する恐れがあるため乾式製膜法(真空蒸着法、イオン化蒸着法など)に限定される。素子の作製については上記の製膜法を併用しても構わない。
真空蒸着法によりホール輸送層、発光層、電子輸送層などの各層を形成する場合、真空蒸着条件は特に限定されるものではない。通常10−5Torr程度以下の真空下で50〜500℃程度のボート温度(蒸着原温度)、−50〜300℃程度の基板温度で、0.01〜50nm/sec.程度蒸着することが好ましい。正孔輸送層、発光層、電子輸送層の各層を複数の化合物を使用して形成する場合、化合物を入れたボートをそれぞれ温度制御しながら共蒸着することが好ましい。
【0037】
ホール注入層、ホール輸送層を溶媒塗布法で形成する場合、各層を構成する成分を溶媒に溶解又は分散させて塗布液とする。溶媒としては、炭化水素系溶媒(ヘプタン、トルエン、キシレン、シクロヘキサン等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等)、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等)、エーテル系溶媒(ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等)、非プロトン性溶媒(N,N′−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等)、水等が挙げられる。溶媒は単独で使用しても複数の溶媒を併用してもよい。
ホール輸送層、発光層、電子輸送層等の各層の膜厚は、特に限定されるものではないが、通常5〜5,000nmになるようにする。
【0038】
本発明の有機EL素子は、酸素や水分等の接触を遮断する目的で保護層(封止層)を設けたり、不活性物質中に素子を封入して保護することができる。不活性物質としては、パラフィン、シリコンオイル、フルオロカーボン等が挙げられる。保護層に使用する材料としては、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、光硬化性樹脂等がある。
【0039】
図26〜図33に、本発明の有機EL素子の好ましい構成例を示す。
図26は、基板1上に、陽極2、正孔輸送層5、発光層3、電子輸送層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。これはキャリア輸送と発光の機能を分離したものであり、材料選択の自由度が増すために、発光の高効率化や発光色の自由度が増すことになる。
図27は、基板1上に、陽極2、ホール注入層7、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、ホール注入層7を設けることにより、陽極2とホール輸送層5の密着性が高くなり、陽極からのホールの注入が良くなり、発光素子の低電圧化に効果がある。
図28は、基板1上に、陽極2、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6、電子注入層8及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陰極4から電子の注入が良くなり、発光素子の低電圧化に効果がある。
図29は、基板1上に、陽極2、ホール注入層7、ホール輸送層5、発光層3、電子輸送層6、電子注入層8及び陰極4を順次設けた構成のものである。この場合、陽極2からホールの注入が良くなり、陰極4からの電子注入が良くなり、低電圧駆動に最も効果がある構成である。
【0040】
図30〜図33は有機EL素子の中にホールブロック層を挿入した構成例である。
ホールブロック層は、陽極から注入されたホールあるいは発光層3で再結合により生成した励起子が、陰極4に抜けることを防止する効果を有し、有機EL素子の発光効率の向上に効果がある。ホールブロック層9については、発光層3と陰極4の間、発光層3と電子輸送層6の間、あるいは発光層3と電子注入層8の間に挿入することができる。好ましいのは発光層3と電子輸送層6の間である。
ホール輸送層5、ホール注入層7、電子輸送層6、電子注入層8、発光層3、ホールブロック層9のそれぞれの層は、一層構造であっても多層構造であってもよい。
なお、図26〜図33は、あくまでも基本的な素子構成であり、本発明の有機EL素子の構成はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0042】
実施例1
(1)トリス〔2−(3−ブロモフェニル)ピリジン〕イリジウム錯体〔Ir(Br−ppy)〕の合成

【化22】


300mL四つ口フラスコにIr(ppy)を0.5g(0.77mmol)、ジクロロメタン115mL、N−ブロモコハク酸イミド0.58g(3.14mmol)を加え、窒素気流下、室温で16時間攪拌した。反応溶液を数十mLまで濃縮し、吸引ろ過を行った後、水及びメタノールで洗浄した。その後、60℃で7時間減圧乾燥し、黄色粉末(0.68g、収率99%)を得た。同定はH−NMRにより行った。H−NMRのチャートを図1に示す。
【0043】
(2)トリス{2−〔3−(4−ピリジル)フェニル〕ピリジン}イリジウム錯体Ir(4Py−ppy)の合成
【化23】

100mL四つ口フラスコにIr(Br−ppy)を0.20g(0.22mmol)、4−ピリジンボロン酸ピナコールエステル0.46g(2.24mmol)、ジオキサン20mL、2M KCOaq 10mLを加え、1時間窒素バブリングを行った後、Pd(PPh〔テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム〕13mg(0.011mmol)を加え、窒素気流下(85℃)で19時間還流を行った。薄層クロマトグラフにより反応の進行を確認し、原料の消費が確認できたところで、反応溶液をジクロロメタンで抽出し水で洗浄した。次いでジクロロメタン:メタノール=24:1でシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、0.18g(収率91%)の黄色固体を得た。同定はH−NMR、Massスペクトルにより行った。H−NMRのチャートを図2に、Massスペクトルのチャートを図3示す。
また、得られた黄色固体の高真空昇華精製を昇華条件を変えて5回行った。各昇華条件と収量を表1に示す。
また、得られた昇華精製品の元素分析の結果を表2に示す。
【0044】
【表1】

【表2】

また高速液体クロマトグラフで純度分析を行った。サンプル濃度0.10g/LのTHF溶液を作製し、注入量5.0μL、移動相 THF:water=1:2、流速1.000mL/min、カラムオーブン温度40℃、検出波長340nmで測定した。得られたチャートを図4に示す。測定の結果、純度は99.8%であり、素子評価に支障のない純度であることが分かった。
【0045】
実施例2
トリス{2−〔3−(3−ピリジル)フェニル〕ピリジン}イリジウム錯体Ir(3Py−ppy)の合成
【化24】

100mL四つ口フラスコにIr(Br−ppy)を0.30g(0.34mmol)、3−ピリジンボロン酸ピナコールエステル0.70g(3.4mmol)、ジオキサン30mL、2M KCOaq 15mLを加え、1時間窒素バブリングを行った後、Pd(PPhを19.6mg(0.017mmol)加え、窒素気流下(85℃)で20時間還流を行った。薄層クロマトグラフにより反応の進行を確認し、原料の消費が確認できたところで、反応溶液をジクロロメタンで抽出し水で洗浄した。次いでジクロロメタン:メタノール=32:1でシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、0.29g(収率96%)の黄色固体を得た。同定はH−NMRにより行った。Massスペクトルに関しては材料が飛ばず、ピークが検出できなかった。H−NMRのチャートを図5に示す。
また、得られた黄色固体の高真空昇華精製を昇華条件を変えて4回行った。各昇華条件と収量を表3に示す。
また、得られた昇華精製品の元素分析の結果を表4に示す。
【0046】
【表3】

【表4】

また高速液体クロマトグラフで純度分析を行った。サンプル濃度0.10g/LのTHF溶液を作製し、注入量5.0μL、移動相 THF:water=1:2、流速1.000mL/min、カラムオーブン温度40℃、検出波長284nmで測定した。得られたチャートを図6に示す。測定の結果、純度は99.3%であり、素子評価に支障のない純度であることが分かった。
【0047】
実施例3〜4
実施例1で合成したIr(4Py−ppy)及び実施例2で合成したIr(3Py−ppy)の熱重量試験を行った。熱重量を測定することにより、熱分解温度を見積もることができるので、5%重量減衰温度をもって熱分解開始温度と定めた。
測定結果を表5に示す。
【表5】

三位置換のIr(3Py−ppy)よりも四位置換のIr(4Py−ppy)の方が「Td5%」が高くなったが、これは四位置換の方が三位置換よりも水素結合しやすいためと考えられる。
【0048】
実施例5〜6、比較例1
実施例1で合成したIr(4Py−ppy)及び実施例2で合成したIr(3Py−ppy)(実施例6)の溶解度試験を行った。Ir(4Py−ppy)の溶解度の結果(実施例5)を表6に、Ir(3Py−ppy)の溶解度の結果(実施例6)を表7に示す。比較のため、本発明化合物の原料であるIr(ppy)の溶解度試験も行った(比較例1)。この結果を表8に示す。
溶解度試験は、化合物1.0mgに対してそれぞれの溶媒を5.0mLまで0.5mL刻みで加え、加熱はせず、目視で次の基準により評価した。
〔評価基準〕
×:全く溶けない場合
△:少しでも溶ける場合
○:ほぼ溶解した場合
◎:完全に溶解した場合

【0049】
【表6】

2−エトキシエタノール,シクロヘキサノン,エチルベンゾネートに対して良好な溶解性を示した。以下に溶解度の序列を示す。
2−エトキシエタノール>シクロヘキサノン>エチルベンゾネート>トルエン>1−ブタノール>テトラリン>m−キシレン>メシチレン>2−プロパノール
【0050】
【表7】

シクロヘキサノン,エチルベンゾネートに対して良好な溶解性を示した。以下に溶解度の序列を示す。
シクロヘキサノン,エチルベンゾネート>テトラリン>2−エトキシエタノール>メシチレン>m−キシレン>トルエン>2−プロパノール>1−ブタノール
【0051】
【表8】

トルエン,シクロヘキサノンに関してはある程度の溶解性を示したが、その他に関しては殆ど溶けなかった。以下に溶解度の序列を示す。
トルエン=シクロヘキサノン>m−キシレン>エチルベンゾネート>テトラリン>2−エトキシエタノール>メシチレン>1−ブタノール=2−プロパノール

試験の結果、本発明のIr(4Py−ppy)及びIr(3Py−ppy)はIr(ppy)に比べ溶解性がよいことが分かった。
【0052】
実施例7〜8、比較例2
実施例1で合成したIr(4Py−ppy)及び実施例2で合成したIr(3Py−ppy)の紫外−可視吸収スペクトル(UV−vis吸収スペクトル)を測定した(実施例7及び実施例8)。比較のため、これらの原料であるIr(ppy)の紫外−可視吸収スペクトルも測定した(比較例2)。
溶液試料は10−5mol/L分光分析用1,2−ジクロロエタン溶液とTHF溶液を調製し、石英セルを使用して測定した。1,2−ジクロロエタン溶液の測定結果を図7に、THF溶液の測定結果を図8に示す。
Ir(ppy)と比べIr(3Py−ppy)及びIr(4Py−ppy)はピリジン環の分吸収が大きくなっている。
【0053】
実施例9〜10、比較例3
実施例1で合成したIr(4Py−ppy)及び実施例2で合成したIr(3Py−ppy)の溶液中でのフォトルミネッセンススペクトル(PLスペクトル)を測定した(実施例9、実施例10)。比較のため、これらの原料であるIr(ppy)のPLスペクトルも測定した(比較例3)。溶液試料は10−5mol/L分光分析用THF溶液を調製し、石英セルを使用して測定した。測定は溶液を窒素置換した後に行った。THF溶液の測定結果を図9示す。
Ir(ppy)、Ir(3Py−ppy)及びIr(4Py−ppy)のTHF溶液中でのPLスペクトルのピーク波長(λmax)は、それぞれ514nm、513nm、504nmとなった。
【0054】
実施例11〜12、比較例4
実施例1で合成したIr(4Py−ppy)及び実施例2で合成したIr(3Py−ppy)の薄膜状での紫外−可視吸収スペクトル(UV−vis吸収スペクトル)を測定した(実施例11、実施例12)。比較のため、これらの原料であるIr(ppy)の紫外−可視吸収スペクトルも測定した(比較例4)。測定は、それぞれのイリジウム錯体をCBPに8wt%ドープした蒸着膜を作製して行った。結果を図10に示す。
【0055】
実施例13〜14、比較例5
実施例1で合成したIr(4Py−ppy)及び実施例2で合成したIr(3Py−ppy)の薄膜状でのフォトルミネッセンススペクトル(PLスペクトル)を測定した(実施例13、実施例14)。比較のため、これらの原料であるIr(ppy)のフォトルミネッセンススペクトル(PLスペクトル)も測定した(比較例5)。測定は、それぞれのイリジウム錯体をCBPに8wt%ドープした蒸着膜を作製して行った。
結果を図11に示す。
Ir(ppy)、Ir(3Py−ppy)、Ir(4Py−ppy)のCBP8wt%ドープ膜でのPLスペクトルのピーク波長(λmax)はそれぞれ519nm、511nm、508nmとなり、置換基の導入による発光波長の変化は少なかった。
【0056】
実施例15〜16、比較例6
実施例1で合成したIr(4Py−ppy)及び実施例2で合成したIr(3Py−ppy)のフォトルミネッセンス量子収率(PLQY)を測定した(実施例15、実施例16)。比較のため、これらの原料であるIr(ppy)のフォトルミネッセンス量子収率も測定した(比較例6)。測定は、各イリジウム錯体をCBPに4wt%及び8wt%それぞれドープした蒸着膜を作製し、浜松フォトニクス製積分球を使用して行った。結果を表9に示す。
【表9】

表の結果から分かるように、どの各イリジウム錯体もIr(ppy)に匹敵する高い数値を示し、濃度依存性は確認できなかった。
【0057】
実施例17〜18、比較例7
実施例1で合成したIr(4Py−ppy)及び実施例2で合成したIr(3Py−ppy)を用いた有機EL素子を作製した(実施例17、実施例18)。ホール輸送層には、下記式〔化24〕で表わされるTAPC{ジ−[4−(N,N−ジトリルアミノ)−フェニル]シクロヘキサン}を、また電子輸送層には下記式〔化25〕で表わされるB3PyPB〔3,3",5,5"−テトラ(ピリジン−3−イル)−1,1′,3′,1"−ターフェニル〕を使用した。比較のため、これらの原料であるIr(ppy)を使用した有機EL素子も作製した(比較例7)。
【化25】

【化26】

作製した有機EL素子構造を図12に示す。それぞれのイリジウム錯体はCBPに4wt%ドープした。作製した有機EL素子の構成は下記のとおりである。
実施例17:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層)(50nm)/CBP:4wt%,Ir(4Py−ppy)(発光層)(10nm)/B3PyPB(電子輸送層)(50nm)/LiF(電子注入層)(1nm)/Al(陰極)(80nm)
実施例18:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層)(50nm)/CBP:4wt%,Ir(3Py−ppy)(発光層)(10nm)/B3PyPB(電子輸送層)(50nm)/LiF(電子注入層)(1nm)/Al(陰極)(80nm)
比較例7:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層)(50nm)/CBP:4wt%,Irppy(発光層)(10nm)/B3PyPB(電子輸送層)(50nm)/LiF(電子注入層)(1nm)/Al(陰極)(80nm)

各有機EL素子の電流密度−電圧特性を図13に、輝度−電圧特性を図14に、電力効率−輝度特性を図15に、電流効率−輝度特性を図16に、外部量子効率−輝度特性を図17に、ELスペクトルを図18に示す。
各有機EL素子の100cd/mと1000cd/mにおける電圧、電力効率、電流効率と外部量子効率を表10に示す。
【表10】

【0058】
実施例19〜20、比較例8
実施例1で合成したIr(4Py−ppy)及び実施例2で合成したIr(3Py−ppy)を用いた有機EL素子を作製した(実施例19、実施例20)。比較のため、これらの原料であるIr(ppy)を使用した素子も作製した(比較例8)。
作製した有機EL素子構造を図19に示す。それぞれのイリジウム錯体はCBPに8wt%ドープした。作製した有機EL素子の構成は次のとおりである。
実施例19:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層)(50nm)/CBP:8wt%,Ir(4Py−ppy)(発光層)(10nm)/B3PyPB(電子輸送層)(50nm)/LiF(電子注入層)(1nm)/Al(陰極)(80nm)
実施例20:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層)(50nm)/CBP:8wt%,Ir(3Py−ppy)(発光層)(10nm)/B3PyPB(電子輸送層)(50nm)/LiF(電子注入層)(1nm)/Al(陰極)(80nm)
比較例8:ITO(陽極)/TAPC(ホール輸送層)(50nm)/CBP:8wt%,Irppy(発光層)(10nm)/B3PyPB(電子輸送層)(50nm)/LiF(電子注入層)(1nm)/Al(陰極)(80nm)

各有機EL素子の電流密度−電圧特性を図20に、輝度−電圧特性を図21に、電力効率−輝度特性を図22に、電流効率−輝度特性を図23に、外部量子効率−輝度特性を図24に、ELスペクトルを図25に示す。
各有機EL素子の100cd/mと1000cd/mにおける電圧、電力効率、電流効率と外部量子効率を表11に示す。
【表11】

【産業上の利用可能性】
【0059】
また本発明の有機EL素子は、通常直流駆動の素子として使用できる。直流電圧を印加する場合、陽極をプラス、陰極をマイナスの極性として通常1.5〜20V程度印加すると発光が観察される。また交流駆動の素子としても使用できる。交流電圧を印加する場合には、陽極がプラス、陰極がマイナスの状態になった時に発光する。
本発明の有機EL素子は、例えば、電子写真感光体、フラットパネルディスプレイなどの平面発光体、複写機、プリンター、液晶ディスプレイのバックライト、計器等の光源、各種発光素子、各種表示装置、各種標識、各種センサー、各種アクセサリーなどに使用することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 基板
2 陽極(ITO)
3 発光層
4 陰極
5 正孔(ホール)輸送層
6 電子輸送層
7 正孔(ホール)注入層
8 電子注入層
9 ホールブロック層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示される置換フェニルピリジンイリジウム錯体。
【化26】

〔式中、R〜Rは水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基であり、R〜Rは水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルコキシ基、フッ素よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。また、Pyは下記式で示される3−ピリジル基又は4−ピリジル基よりなる群から選ばれた基であり、R〜R15は水素、炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐アルキル基よりなる群からそれぞれ独立して選ばれた基である。〕
【化27】

【請求項2】
請求項1記載の置換フェニルピリジンイリジウム錯体よりなる発光材料。
【請求項3】
請求項1記載の置換フェニルピリジンイリジウム錯体を用いた有機EL素子。

【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−167028(P2012−167028A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−26756(P2011−26756)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(394013644)ケミプロ化成株式会社 (63)
【Fターム(参考)】