説明

置換型シクロヘキシルメタノール類を製造するための連続方法

本発明は、水素の存在下でかつ担体に適用されたルテニウムを活性金属として含む触媒の存在下で(ただし、担体は、Al2O3および/またはSiO2を含み、かつ触媒は、1台の水素化反応器内でまたは直列に連結された複数台の水素化反応器内で固定床触媒の形態で使用される)、対応するアルデヒド類またはケトン類を接触水素化することによる、パラアルキル置換型シクロヘキシルメタノール類、特定的には4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールを調製するための連続方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素および担持ルテニウム触媒の存在下で対応するアルデヒド類またはケトン類を接触水素化することによる、パラアルキル置換型シクロヘキシルメタノール類、特定的には4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールを調製するための連続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
4-アルキル置換型または4-アルケニル置換型のシクロヘキシルメタノール類ならびにそれらのエーテル類およびエステル類は、スズラン様香気があるため、あらゆる種類の日用品または消耗品の芳香化に広く使用される価値ある芳香化学物質である。これに関してとくに需要が多い化合物は、4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールであり、これは、典型的にはそのシス異性体とトランス異性体との混合物の形態で使用され、Mayol(登録商標)(Firmenich SA, Geneva)という商品名で販売されている。
【0003】
上述の芳香化学物質、特定的には4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールの需要が絶えず拡大し続けているので、上述の化合物の既存の調製プロセスでは、この需要を満たすことがますます困難になってきている。したがって、工業スケールでの調製、特定的には4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールの調製に好適な、上述の化合物の高性能調製プロセスの必要性が存在する。
【0004】
独国特許第2427609号明細書には、4位にイソプロピル基またはイソプロペニル基を有する脂環式シクロヘキシルメタノール類およびそれらのエーテル類またはエステル類ならびに着臭剤または風味剤としてのそれらの使用が開示されている。それに加えて、この明細書には、対応する不飽和出発化合物を接触水素化することによる上述の化合物の調製プロセスが開示されている。例として、溶媒としての1,2-ジメトキシエタン中でかつ5%のルテニウム含有率を有するルテニウム-炭素触媒の存在下でクミンアルデヒドを接触水素化することによる4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールの調製が記載されている。反応は、100気圧の圧力でかつ130℃の温度で行われ、粗生成物の分別蒸留の後、70:30重量部のシス異性体とトランス異性体との混合物の形態で4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールが得られた。
【0005】
欧州特許第0293739号明細書は、周期表のVIII族の貴金属、たとえば、ニッケル、パラジウム、白金、ロジウム、およびルテニウムの存在下で4-(1-アルコキシ-1-メチルエチル)ベンズアルデヒド類またはそのジアルキルアセタール類を環水素化することによる4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールまたはそのアルキルエーテルの調製プロセスに関する。上述の金属は、0.5〜10重量%の量で触媒担体材料たとえば酸化アルミニウムまたは活性炭に適用可能であるか、さもなければ純金属または金属化合物の形態で使用可能である。反応は、50〜350barの水素圧下でかつ100〜250℃の温度で行われる。
【0006】
欧州特許第0992475号明細書には、担体担持ルテニウム触媒を用いて20〜200℃の温度かつ0.5〜30MPaのH2圧で水溶液中または有機溶液中で対応するアルデヒド化合物(3-ヒドロキシプロピオンアルデヒドを除く)またはケトン化合物を接触水素化することによるアルコール化合物の調製プロセスが開示されている。ただし、使用される触媒は、TiO2、SiO2、ZrO2、MgO、混合酸化物、およびケイ酸塩(ゼオライトを除く)よりなる群から選ばれる酸化物系担体上に0.1〜20重量%のRu含有率で担持されたルテニウムである。担体材料としてのTiO2およびSiO2の使用により触媒の高耐用寿命が達成されるが、芳香族基質の環水素化については記載されていない。
【0007】
欧州特許第1004564号明細書は、使用前に還元剤で処理されたルテニウムを触媒として利用して対応するヒドロキシエチルベンゼン類を接触水素化することによるヒドロキシエチルシクロヘキサン類の調製プロセスに関する。プロセスは、溶媒として70℃超の沸点を有するアルカン化合物を用いて行われる。
【0008】
韓国特許第2004072433号明細書には、1〜5重量%のルテニウム含有率を有するシリカゲル担持ルテニウム触媒(シリカゲル担体は、10%未満の「酸活性指数」を有する)を用いて1-メチルベンジルアルコールおよび/またはアセトフェノンを連続水素化することによる1-シクロヘキシル-1-エタノールの調製プロセスが開示されている。
【0009】
欧州特許第1676829号明細書は、環水素化される水素化可能な化合物、特定的には芳香族カルボン酸類またはそれらの誘導体類の連続接触水素化プロセスに関する。固定床中に配置された固体触媒上で水素系ガスを用いて行われる反応において、水素化は、直列に連結された少なくとも2個の水素化ユニット内で行われ、2個の水素化ユニットの少なくとも一方は、水素化ユニットに対して特定の決定プロセスにより取得可能な触媒体積を用いてループモードで操作される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】独国特許第2427609号明細書
【特許文献2】欧州特許第0293739号明細書
【特許文献3】欧州特許第0992475号明細書
【特許文献4】欧州特許第1004564号明細書
【特許文献5】韓国特許第2004072433号明細書
【特許文献6】欧州特許第1676829号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この先行技術から出発して、本発明の目的は、
・ 非常に安価なかつ容易に入手可能な出発物質から出発して、
・ 最大の収率かつ高い化学純度で、
・ ほぼ実質的にジアステレオ異性的に富化された形態で、
・ 所望のシス異性体の最大含有率で、
・ 最小のかつ容易に除去可能な副生成物スペクトルを有して、
・ プロセス技術に関して非常に単純な方式で、
・ 非常に安価な触媒を用いて、しかも
・ 溶媒および他の添加剤または試薬をほぼ実質的に不要にして、
所望の目標化合物の取得を可能にする、4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールおよび近縁化合物を調製するための連続方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、式(I)
【化1】

【0013】
〔式中、
R1は、水素または1〜4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、かつ
R2は、水素または1〜3個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である〕
で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサン化合物を調製するための連続方法であって、
水素の存在下でかつ担体に適用されたルテニウムを活性金属として含む触媒の存在下で(ただし、担体は、Al2O3および/またはSiO2を含み、かつ触媒は、1台の水素化反応器内でまたは直列に連結された複数台の水素化反応器内で固定床触媒の形態で使用される)、
式(II)
【化2】

【0014】
で示される芳香族カルボニル化合物を接触水素化することによるおよび/または式(III)
【化3】

【0015】
〔式中、R1基およびR2基は、それぞれ、式(I)に定義されるとおりである〕
で示される芳香族アルコール化合物を接触水素化することによる、上記方法を提供することにより、本発明に従って達成された。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る方法を実施するために使用される出発物質は、要望どおり、式(II)で示される芳香族アルデヒド類もしくは芳香族ケトン類および/または式(III)で示される芳香族アルコール類であってもよい。
【化4】

【0017】
上述の芳香族出発化合物は、芳香族化合物のパラ位が無置換であってもよくまたは1〜4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を有していてもよい。R1基は、好ましくは、1〜4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、たとえば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、またはtert-ブチルである。R1基は、より好ましくは、1〜3個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である。とくに好ましくは、R1基は、イソプロピルである。
【0018】
本発明に従って使用可能な式(II)および(III)で示される化合物中のR2基は、水素または1〜3個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、たとえば、メチル、エチル、n-プロピル、もしくはイソプロピルであってもよい。R2基は、好ましくは水素である。
【0019】
上述の式(II)および(III)で示される化合物は、本発明に係る方法で要望どおり使用可能であるが、R1基およびR2基がいずれの場合も同様に定義される場合、上述の基がそれぞれ出発化合物の場合に定義されるとおりである式(I)で示される同一の目標化合物が得られる。したがって、式(II)および(III)で示される化合物は、特定のR1基およびR2基が同様に定義される場合、単独ですなわち純粋形でまたは相互混合物形で使用可能である。
【0020】
好ましい実施形態では、本発明に係る方法は、芳香族カルボニル化合物、すなわち、式(II)で示されるアルデヒド類またはケトン類のみを用いて行われる。次に好ましい出発化合物は、R2基が水素である式(II)で示される化合物である。とくに好ましい出発化合物は、R2基が水素でありかつR1基がメチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、またはtert-ブチル、より好ましくはイソプロピルである、式(II)で示されるパラ置換型ベンズアルデヒド類である。
【0021】
したがって、本発明に係るとくに好ましい出発化合物は、式(IIa)
【化5】

【0022】
で示されるパライソプロピルベンズアルデヒドであり、これはクミンアルデヒドとしても知られる。
【0023】
選択された出発化合物から得られる本発明に係る方法の生成物は、式(I)
【化6】

【0024】
〔式中、R1基およびR2基は、式(II)および(III)に対して記載されたのと同一の定義または好ましい定義を有する〕
で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサン類である。したがって、可能なプロセス生成物は、R1基が、1〜4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、たとえば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、またはtert-ブチルである、式(I)で示される脂環式化合物である。式(I)中のR1基は、より好ましくはイソプロピルである。
【0025】
式(I)中のR2基は、水素または1〜3個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、たとえば、メチル、エチル、n-プロピル、もしくはイソプロピルであってもよい。式(I)中のR2基は、好ましくは水素である。したがって、本発明に係るとくに好ましいプロセス生成物は、式(Ia)
【化7】

【0026】
で示される4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールである。
【0027】
上述の式(I)および(Ia)で示される脂環式化合物は、シクロヘキシル環の1位および4位の2個の基の相対配置に基づいて、式(Ib)
【化8】

【0028】
で示されるトランス異性体形で、および式(Ic)
【化9】

【0029】
で示されるシス異性体形で存在可能である。
【0030】
本発明によれば、上述の立体異性体は、一般的には、特定のシス異性体とトランス異性体との混合物形で得られる。
【0031】
本発明に係る方法では、式(II)および(III)で示される出発物質のR1基およびR2基は、望ましくない副反応により損なわれないかぎり保持される。本発明に係る方法の過程では、式(II)および/または(III)で示される選択された化合物の芳香環から脂環式シクロヘキシル環への水素化、および式(II)で示されるアルデヒド類またはケトン類を使用した場合はカルボニル基から対応するアルコール基への還元のみが起こる。
【0032】
本発明に係る方法は、水素の存在下でかつ担体に適用されたルテニウムを活性金属として含む触媒の存在下で(ただし、担体は、Al2O3および/またはSiO2を含み、好ましくはAl2O3またはSiO2よりなる)、行われる。本発明に従って使用可能な触媒は、活性金属としてルテニウムを単独でまたは元素の周期表(CAS方式)の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の少なくとも1種のさらなる金属との組合せで含みうる。そのような触媒は、公知であり、たとえば、欧州特許第0814098号明細書、国際公開第99/32427号パンフレット、国際公開第02/100536号パンフレット、および国際公開第2006/136541号パンフレット(これらに対してこの件に関して明示的参照が行われるものとする)に記載されている。
【0033】
本発明に従って使用される触媒は、固定床触媒の形態で使用され、かつ少なくとも担体の主成分としてAl2O3および/またはSiO2を有し、上述の担体材料は、当業者であれば、原理的にはすべて、好適な形態または多形として使用可能である。たとえば、Al2O3は、α型、δ型、θ型、またはγ型の多形で使用可能である。次に、選択された担体材料は、好適なルテニウム化合物を用いて、場合により元素の周期表の遷移族IB、VIIB、またはVIII族の金属の1種以上のさらなる化合物を用いて、それ自体公知の方式で処理可能である。そのような調製方法は、公知であり、たとえば、Catalyst Preparation, J. Regalbuto編, (2007), p. 177またはCatalyst Manufacture, A. B. Stiles, T. A. Koch, (1995), p. 377、ならびにたとえば、独国特許出願公開第10128205号明細書および独国特許出願公開第10128242号明細書さらには独国特許第19624485号明細書に包括的に記載されている。好ましい実施形態では、本発明に係る方法は、担体としてSiO2のみを含む触媒すなわち固定床触媒の存在下で行われる。
【0034】
本発明に従って使用される担持触媒は、一般的には0.001〜20重量%、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%、さらにより好ましくは0.1〜4重量%、0.1〜3重量%、0.1〜2重量%、さらにより好ましくは0.1〜1重量%のルテニウム含有率を有する(いずれの場合も完成した即使用可能な触媒の全重量を基準にして)。
【0035】
本発明に係る方法のとくに好ましい実施形態では、完成触媒の全重量を基準にして0.1〜0.8重量%、さらにより好ましくは0.1〜0.7重量%、0.1〜0.6重量%、とくに好ましくは0.1〜0.5重量%のルテニウム含有率を有する固定床触媒が使用される。
【0036】
本発明との関連では、「固定床」という用語は、たとえば、Rompp Online, Version 3.3, Georg Thieme Verlag, 2008に記載されるように、広義に解釈しなければならない。したがって、固定床は、典型的には、触媒を装備しかつ固定床反応器の内部に固定された大表面積の担体である。反応される気体および/または液体(流体)は、典型的には、反応器内を貫流し、反応は、触媒上で起こる。担体は、微粒子状固体(担体材料:粒子、スフェア、ペレットなど)の層(床、充填物)、管束、構造化充填物などでありうる。さらなる説明はまた、たとえば、G. Eigenberger, "Fixed-bed Reactors", Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry 7th Edition内 (electronic encyclopedia)にも見出しうる。
【0037】
担体材料としてSiO2を含む固定床反応器を使用する場合、とくに国際公開第2006/136541号パンフレットに開示される被覆触媒は、本発明に係る方法に有利であることが判明した。そのような被覆触媒は、担体材料として二酸化ケイ素を含む担体に適用されたルテニウムを活性金属として単独でまたは元素の周期表(CAS方式)の遷移族IB、VIIB、またはVIII族の少なくとも1種のさらなる金属との組合せで含む。
【0038】
本発明に従って好ましい選択肢として使用可能なこの被覆触媒では、活性金属の量は、触媒の全重量を基準にして、<1重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%、より好ましくは0.25〜0.35重量%であり、かつ活性金属の全量を基準にして、活性金属の少なくとも60重量%、より好ましくは80重量%は、200μmの侵入深さまでの触媒のコーティング中に存在する。以上に挙げたデータは、SEM(走査型電子顕微鏡法) EPMA(電子プローブマイクロ分析法)-EDXS(エネルギー分散型X線分光法)を利用して決定されるものであり、かつ平均値である。以上に挙げた分析法に関するさらなる情報および技術は、たとえば、"Spectroscopy in Catalysis", J.W. Niemantsverdriet著, VCH, 1995に開示されている。
【0039】
本発明に従って好ましい選択肢として使用可能な被覆触媒は、活性金属の主要量が200μmの侵入深さまでの、すなわち被覆触媒の表面近傍のコーティング中に存在するという点で注目に値する。これとは対照的に、かりに存在したとしてもごく少量の活性金属が触媒の内部(コア)に存在するにすぎない。驚くべきことに、本発明に従って好ましい選択肢として使用可能な触媒は、活性金属の量が少ないにもかかわらず、非常に良好な選択性とあいまって、本発明に従って変換される式(II)および(III)で示される出発化合物の水素化で非常に高い活性を有することが判明した。より特定的には、本発明に係る触媒の活性は、長い水素化時間にわたり低下しない。
【0040】
なかでもとくに好ましい選択肢としては、活性金属が触媒の内部で検出不可能である、すなわち活性金属が最外側コーティング中のみに、たとえば100〜200μmの侵入深さまでの領域中に存在する、本発明に係る被覆触媒が挙げられる。
【0041】
さらなるとくに好ましい実施形態では、本発明に従って好ましい選択肢として使用される被覆触媒は、EDXSを併用した(FEG)-TEM(電界放射電子銃-透過型電子顕微鏡法)で、活性金属粒子が最外側の200μm、好ましくは100μm、最も好ましくは50μm(侵入深さ)のみで検出可能であるという点で注目に値する。1nm未満の粒子は、検出不可能である。
【0042】
使用される活性金属は、ルテニウム単独または元素の周期表(CAS方式)の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の少なくとも1種のさらなる金属との組合せであってもよい。ルテニウムに追加される好適なさらなる活性金属は、たとえば、白金、ロジウム、パラジウム、イリジウム、コバルト、もしくはニッケル、またはそれらの2種以上の混合物である。同様に使用可能な元素の周期表の遷移族IBおよび/またはVIIB族の金属のうち、好適な金属は、たとえば、銅および/またはレニウムである。好ましい選択肢としては、活性金属としてルテニウムを単独でまたは本発明に係る被覆触媒中の白金もしくはイリジウムとの組合せで使用することが挙げられ、なかでもとくに好ましい選択肢としては、活性金属としてルテニウムを単独で使用することが挙げられる。
【0043】
本発明に従って使用可能な被覆触媒は、触媒の全重量を基準にして<1重量%の活性金属を有する低い充填率で、以上に述べた非常に高い活性を呈する。本発明に係る被覆触媒中の活性金属の量は、好ましくは0.1〜0.5重量%、より好ましくは0.25〜0.35重量%である。担体材料中への活性金属の侵入深さは、活性金属を有する触媒の充填率に依存することが判明した。1重量%以上の触媒充填率の場合、たとえば1.5重量%の充填率の場合でさえも、実質的量の活性金属が触媒の内部にすなわち300〜1000μmの侵入深さに存在すると、とくに高速反応の場合、水素化触媒の活性、特定的には長い水素化時間にわたる活性が損なわれ、触媒の内部(コア)で水素不足を生じる可能性がある。
【0044】
本発明に従って好ましい選択肢として使用される被覆触媒では、活性金属の全量を基準にして、少なくとも60重量%の活性金属は、200μmの侵入深さまでの触媒のコーティング中に存在する。本発明に従って使用可能な被覆触媒では、活性金属の全量を基準にして、好ましくは少なくとも80重量%の活性金属は、200μmの侵入深さまでの触媒のコーティング中に存在する。本発明によれば、なかでもとくに好ましい選択肢としては、活性金属が触媒の内部で検出不可能である、すなわち活性金属が最外側コーティング中のみに、たとえば100〜200μmの侵入深さまでの領域に存在する、被覆触媒を使用することが挙げられる。さらなる好ましい実施形態では、活性金属の全量を基準にして、60重量%、好ましくは80重量%は、150μmの侵入深さまでの触媒のコーティング中に存在する。以上に挙げたデータは、SEM(走査型電子顕微鏡法) EPMA(電子プローブマイクロ分析法)-EDXS(エネルギー分散型X線分光法)を利用して決定され、かつ平均値に相当する。活性金属粒子の侵入深さを決定するために、押出し軸(触媒が押出し物の形態で存在する場合)を横切る方向に複数の触媒粒子(たとえば、3、4、または5個)を研磨する。次に、ライン走査を利用して、活性金属/Si濃度比のプロファイルを記録する。各測定線上で、複数個たとえば15〜20個の測定点を等間隔で測定する。測定スポットサイズは、約10μm×10μmである。深さにわたり活性金属の量を積分した後、領域内の活性金属の頻度を決定することが可能である。
【0045】
最も好ましくは、好ましい選択肢として使用される被覆触媒の表面上の活性金属の量は、活性金属とSiとの濃度比に基づいて、SEM EPMA-EDXSを利用して決定した場合、2〜25%、好ましくは4〜10%、より好ましくは4〜6%である。表面は、800μm×2000μmの領域の分析を利用してかつ約2μmの情報深さを用いて分析される。元素組成は、重量%単位で決定される(100%に規格化)。平均濃度比(活性金属/Si)は、10ヶ所の測定領域にわたり平均される。
【0046】
本出願との関連では、「被覆触媒の表面」とは、約2μmの侵入深さまでの触媒の外側コーティングを意味するものとみなされる。この侵入深さは、以上に挙げた表面分析での情報深さに対応する。
【0047】
なかでもとくに好ましい選択肢としては、被覆触媒の表面上の活性金属の量が、活性金属とSiとの重量比(%単位のwt./wt.)に基づいて、SEM EPMA (EDXS)を利用して決定した場合、4〜6%、50μmの侵入深さで1.5〜3%、50〜150μmの侵入深さ領域で0.5〜2%である、被覆触媒を使用することが挙げられる。明記された値は、平均値に相当する。
【0048】
さらには、活性金属粒子のサイズは、好ましくは、(FEG)-TEM分析を利用して決定した場合、侵入深さの増大に伴って減少する。
【0049】
活性金属は、好ましくは、部分的にまたは完全に結晶形で本発明に係る被覆触媒中に存在する。好ましい場合では、超微細結晶活性金属は、SAD(制限視野回析)またはXRD(X線回折)を利用して本発明に係る被覆触媒のコーティング中に検出可能である。
【0050】
本発明に従って好ましい選択肢として使用可能な被覆触媒は、アルカリ土類金属イオン(M2+)、すなわち、M=Be、Mg、Ca、Sr、および/またはBa、特定的にはMgおよび/またはCa、最も好ましくはMgを追加的に含んでいてもよい。触媒中のアルカリ土類金属イオン(複数可)(M2+)の含有率は、いずれの場合も二酸化ケイ素担体材料の重量を基準にして、好ましくは0.01〜1重量%、特定的には0.05〜0.5重量%、なかでもとくに0.1〜0.25重量%である。
【0051】
本発明に従って好ましい選択肢として使用可能な被覆触媒の必須成分は、二酸化ケイ素、一般的にはアモルファス二酸化ケイ素に基づく担体材料である。これに関連して、「アモルファス」という用語は、結晶二酸化ケイ素相の割合が担体材料の10重量%未満を構成することを意味するものとみなされる。しかしながら、触媒を調製するために使用される担体材料は、担体材料中に細孔を規則的に配置することにより形成される超構造を有していてもよい。
【0052】
本発明に従って好ましい選択肢として使用可能な被覆触媒を使用する場合に有用な担体材料は、少なくとも90重量%までの二酸化ケイ素からなる、原則としてアモルファスな二酸化ケイ素タイプであり、担体材料の残りの10重量%、好ましくは5重量%以下は、他の酸化物系材料、たとえば、MgO、CaO、TiO2、ZrO2、Fe2O3、および/またはアルカリ金属酸化物であってもよい。
【0053】
本発明の好ましい実施形態では、担体材料は、ハロゲンフリー、特定的には塩素フリーである。すなわち、担体材料中のハロゲンの含有率は、500重量ppm未満、たとえば0〜400重量ppmの範囲内である。したがって、好ましい選択肢としては、触媒の全重量を基準にして0.05重量%未満のハロゲン化物(イオンクロマトグラフィーにより決定した場合)を含む被覆触媒が挙げられる。
【0054】
好ましい選択肢としては、30〜700m2/g、好ましくは30〜450m2/gの範囲内の比表面積(DIN 66131に準拠したBET表面積)を有する担体材料が挙げられる。
【0055】
二酸化ケイ素に基づく好適なアモルファス担体材料は、当業者の熟知するところであり、市販品として入手可能である(たとえば、O.W. Florke, "Silica", Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry 6th Edition(CD-ROM)内を参照されたい)。それらは、天然起源のものまたは合成により製造されたもののいずれであってもよい。二酸化ケイ素に基づく好適なアモルファス担体材料の例は、シリカゲル、キーゼルグール、ヒュームドシリカ、および沈降シリカである。本発明の好ましい実施形態では、触媒は、担体材料としてシリカゲルを有する。
【0056】
本発明に従って使用される被覆触媒の構成によれば、担体材料は、さまざまな形状を有していてもよい。本発明に係る被覆触媒を固定触媒床中で使用する場合、本発明との関連では、典型的には、たとえば、押出しまたはタブレット化により取得可能であり、かつたとえば、スフェア、タブレット、円柱、押出し物、リングまたは中空円柱、星状物などの形状を有していてもよい、担体材料の成形物が使用される。これらの成形物の寸法は、典型的には0.5mm〜25mmの範囲内でさまざまである。多くの場合、1.0〜5mmの押出し直径および2〜25mmの押出し長さを有する触媒押出し物が使用される。一般的には、より小さい押出し物を用いてより高い活性を達成することが可能であるが、これらは、多くの場合、水素化プロセスで十分な機械的安定性を有していない。したがって、なかでもとくに好ましいのは、1.5〜3mmの範囲内の押出し直径を有する押出し物を使用することである。
【0057】
本発明に従って好ましい選択肢として使用可能な被覆触媒は、好ましくは、酢酸ルテニウム(III)の溶液単独でまたは元素の周期表(CAS方式)の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の金属の少なくとも1種のさらなる塩の溶液との組合せで担体材料を最初に1回または2回以上含浸し、得られた固体を乾燥させ、続いて還元することにより、調製される。ここで、元素の周期表の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の金属の少なくとも1種のさらなる塩の溶液は、酢酸ルテニウム(III)の溶液と一緒に1回以上の含浸工程でまたは酢酸ルテニウム(III)の溶液とは別に1回以上の組合せ含浸工程で適用可能である。個別のプロセス工程は、以下に詳細に記載されており、以下の工程、すなわち、
i) 酢酸ルテニウム(III)の溶液単独でまたは元素の周期表(CAS方式)の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の金属の少なくとも1種のさらなる塩の溶液との組合せで二酸化ケイ素を含む担体材料を1回または2回以上含浸する工程、
ii) 続いて乾燥させる工程、
iii) 続いて還元する工程、
を含み、元素の周期表の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の金属の少なくとも1種のさらなる塩の溶液は、酢酸ルテニウム(III)の溶液と一緒に1回以上の含浸工程でまたは酢酸ルテニウム(III)の溶液とは別に1回以上の含浸工程で適用可能である。
【0058】
工程i)
工程i)では、二酸化ケイ素を含む担体材料を、酢酸ルテニウム(III)の溶液単独でまたは元素の周期表(CAS方式)の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の金属の少なくとも1種のさらなる溶解塩との組合せで1回または2回以上含浸する。本発明に係る被覆触媒中の活性金属の量は非常に少ないので、好ましい実施形態では単純な含浸が行われる。酢酸ルテニウム(III)および元素の周期表の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の金属の塩は、活性金属前駆体を構成する。驚くべきことに、前駆体として酢酸ルテニウム(III)を使用した場合、活性金属、好ましくはルテニウム単独の有意な部分が200μmの侵入深さまでの被覆触媒中に存在するという点で、いくつかある特徴のなかでもとくに注目に値する被覆触媒を取得可能であることが判明した。被覆触媒の内部は、かりに存在したとしてもわずかの活性金属を有するにすぎない。これとは対照的に、独国特許出願公開第10128205号明細書および独国特許出願公開第10128242号明細書の実施例に開示されるように、硝酸ニトロシルルテニウム(III)を前駆体として使用した場合、触媒の内部でわずかに枯渇して触媒全体にわたり均一に分布したルテニウムを含むルテニウム触媒が得られる。
【0059】
酢酸ルテニウム(III)の溶液または元素の周期表の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の金属の少なくとも1種のさらなる塩の溶液を提供するのに好適な溶媒は、水さもなければ水または溶媒と50体積%までの1種以上の水混和性または溶媒混和性の有機溶媒との混合物、たとえば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、またはイソプロパノールのようなC1〜C4-アルカノールとの混合物である。水性酢酸または氷酢酸を同様に使用してもよい。混合物はすべて、溶液または相が存在するように選択しなければならない。好ましい溶媒は、酢酸、水、またはそれらの混合物である。とくに好ましい選択肢としては、酢酸ルテニウム(III)が典型的には酢酸中または氷酢酸中に溶解されて存在することから、溶媒として水と酢酸との混合物を使用することが挙げられる。しかしながら、溶解後、酢酸ルテニウム(III)を固体として使用してもよい。また、水を用いずに本発明に係る触媒を調製してもよい。
【0060】
元素の周期表の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の金属の少なくとも1種のさらなる塩の溶液は、酢酸ルテニウム(III)の溶液と一緒に1回以上の含浸工程でまたは酢酸ルテニウム(III)の溶液とは別に1回以上の含浸工程で適用可能である。このことは、酢酸ルテニウム(III)とさらには元素の周期表の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の金属の少なくとも1種のさらなる塩とを含む1つの溶液で含浸を行いうることを意味する。この溶液による含浸は、1回または2回以上実施可能である。しかしながら、含浸は、最初に、酢酸ルテニウム(III)溶液で、次に、個別の含浸工程で、元素の周期表の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族の金属の少なくとも1種のさらなる塩を含む溶液で行うことも同様に可能である。また、含浸工程の順序を逆にしてもよい。2つの含浸工程の一方をまたは両方の含浸工程を任意の順序で1回または2回以上反復することも同様に可能である。各含浸工程に続いて、典型的には、乾燥が行われる。
【0061】
含浸工程で使用可能な元素の周期表の遷移族IB、VIIB、もしくはVIII族のさらなる金属の好適な塩は、たとえば、硝酸塩、アセトナート(acetonate)および酢酸塩であり、好ましい選択肢としては、酢酸塩が挙げられる。
【0062】
とくに好ましい選択肢としては、1回の含浸工程で酢酸ルテニウム(III)の溶液単独で含浸を行うことが挙げられる。
【0063】
担体材料の含浸は、さまざまな方法で実施可能であり、公知のごとく担体材料の形態に依存する。たとえば、担体材料を前駆体溶液でスプレー処理もしくはフラッシュ処理することが可能であるか、または担体材料を前駆体溶液中に懸濁させることが可能である。たとえば、担体材料を活性金属前駆体の水性溶液中に懸濁させ、一定時間後、水性上澄み液から濾別することが可能である。次に、吸収される液体の量および溶液の活性金属濃度を用いて、触媒の活性金属含有率を単純な方式で制御することが可能である。また、たとえば、担体材料が吸収可能である液体の最大量に対応する規定量の活性金属前駆体溶液で担体を処理することにより、担体材料を含浸することも可能である。この目的のために、たとえば、担体材料を必要量の液体でスプレー処理することが可能である。この目的に好適な装置は、液体を固体と混合するために慣用される装置(Vauck/Muller, Grundoperationen chemischer Verfahrenstechnik [Basic Operations in Chemical Process Technology], 10th edition, Deutscher Verlag fur Grundstoffindustrie, 1994, p. 405 ff.を参照されたい)、たとえば、タンブルドライヤー、含浸ドラム、ドラムミキサー、パドルミキサーなどである。モノリシック担体(monolithic support)は、典型的には、活性金属前駆体の水性溶液でフラッシュ処理される。
【0064】
含浸に使用される溶液は、好ましくは低ハロゲン、特定的には低塩素である。すなわち、ハロゲンを含んでいないか、または溶液の全重量を基準にして、500重量ppm未満、特定的には100重量ppm未満のハロゲン、たとえば、0〜<80重量ppmのハロゲンを含む。
【0065】
溶液中の活性金属前駆体の濃度は、本質的に、適用される活性金属前駆体の量および溶液に対する担体材料の吸収能力に依存し、使用される溶液の全質量を基準にして、<20重量%、好ましくは0.01〜6重量%、より好ましくは0.1〜1.1重量%である。
【0066】
工程ii)
乾燥は、以下に明記される温度上限を保持しながら固体を乾燥させる慣用的プロセスにより実施可能である。乾燥温度の上限の維持は、触媒の品質すなわち活性に重要である。以下に明記される乾燥温度を超えると、活性が著しく損なわれる。先行技術で提案されるようにより高い温度たとえば300℃超さらには400℃で担体を仮焼することは、不必要であるだけでなく、触媒の活性に不利な影響を及ぼす。十分な乾燥速度を達成するために、乾燥は、好ましくは高温で、好ましくは≦180℃で、特定的には≦160℃で、かつ少なくとも40℃で、特定的には少なくとも70℃で、より特定的には少なくとも100℃で、さらに特定的には110℃〜150℃の範囲内で行われる。
【0067】
活性金属前駆体で含浸された固体は、典型的には、標準圧力下で乾燥され、乾燥はまた、減圧を利用することにより促進可能である。多くの場合、乾燥は、乾燥される材料上にまたはそれを貫通するように空気や窒素などのガスストリームを通すことにより促進される。
【0068】
乾燥時間は、本質的に、所望の乾燥度および乾燥温度に依存し、好ましくは1h〜30hの範囲内、好ましくは2〜10hの範囲内である。
【0069】
処理された担体材料の乾燥は、好ましくは、水分または揮発性溶媒分の含有率が、後続の還元の前に固体の全重量を基準にして5重量%未満、特定的には2重量%以下を占める程度まで行われる。明記された重量比率は、160℃の温度、1barの圧力、および10分の時間で決定される固体の重量損失に関連する。このようにして、本発明に従って使用される触媒の活性をさらに増強することが可能である。
【0070】
工程iii)
乾燥後に得られる固体は、一般的には150℃〜450℃、好ましくは250℃〜350℃の範囲内の温度でそれ自体公知の方式で固体を還元することにより、その触媒活性形に変換される。
【0071】
この目的のために、担体材料を水素または水素と不活性ガスとの混合物に上記に明記された温度で接触させる。絶対水素圧は、還元の結果にあまり重要ではなく、たとえば、0.2bar〜1.5barの範囲内でさまざまでありうる。多くの場合、触媒材料は、標準水素圧の水素ストリーム中で水素化される。好ましい選択肢としては、固体を移動させながら還元を行うこと、たとえば、ロータリーチューブオーブン内またはロータリースフェアオーブン内で固体の還元を行うことが挙げられる。このようにして、本発明に係る触媒の活性をさらに増強することが可能である。使用される水素は、好ましくは、触媒毒(たとえば、H2S、COSなどのようにCOおよびSを含む化合物)を含まない。
【0072】
還元はまた、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、ホルメート、またはアセテートのような有機還元試薬を利用して行うことも可能である。
【0073】
還元の後、取扱い性を改善するために、たとえば、空気などの酸素含有ガスを用いて、好ましくは1〜10体積%の酸素を含む不活性ガス混合物を用いて触媒を短時間処理することにより、公知のごとく触媒を不動態化させることが可能である。この際、CO2またはCO2/O2混合物を使用することも可能である。
【0074】
また、エチレングリコールなどの不活性有機溶媒下で活性触媒を貯蔵してもよい。
【0075】
本発明に従って好ましい選択肢として使用される被覆触媒を調製するために、さらなる実施形態では、たとえば、上記のように調製された、または国際出願公開第02/100538A2号パンフレット(BASF AG)に記載されるように調製された活性金属触媒前駆体を1種以上のアルカリ土類金属(II)塩の溶液で含浸することが可能である。
【0076】
好ましいアルカリ土類金属(II)塩は、対応する硝酸塩、特定的には硝酸マグネシウムおよび硝酸カルシウムである。
【0077】
この含浸工程におけるアルカリ土類金属(II)塩に対する好ましい溶媒は、水である。溶媒中のアルカリ土類金属(II)塩の濃度は、たとえば、0.01〜1mol/リットルである。
【0078】
たとえば、チューブ内に配置された活性金属/SiO2触媒をアルカリ土類金属塩の水性溶液のストリームに接触させる。また、含浸される触媒をアルカリ土類金属塩の上澄み溶液で処理してもよい。
【0079】
この結果、好ましくは、アルカリ土類金属イオン(複数可)による活性金属/SiO2触媒とくにその表面の飽和が起こる。
【0080】
過剰のアルカリ土類金属塩および固定されていないアルカリ土類金属イオンは、触媒からフラッシュ除去される(H2O濯ぎ処理、触媒洗浄処理)。
【0081】
反応器チューブ内への配置などの取扱いを単純化するために、含浸後、本発明に従って好ましい選択肢として使用される触媒を乾燥させることが可能である。この目的のために、たとえば、<200℃たとえば50〜190℃、より好ましくは<140℃たとえば60〜130℃のオーブン内で、乾燥を行うことが可能である。
【0082】
この含浸プロセスは、ex situまたはin situで実施可能である。ex situとは、反応器内に触媒を配置する前を意味し、in situとは、反応器内を意味する(触媒配置後)。
【0083】
プロセスの一変形形態では、アルカリ土類金属イオン(たとえば、溶解されたアルカリ土類金属塩の形態のもの)を水素化される芳香族基質(反応物、ここでは、式(II)および/または(III)で示される化合物)に添加することにより、触媒をアルカリ土類金属イオンでin situ含浸することも可能である。この目的のために、たとえば、最初に、適正量の塩を水中に溶解させ、次に、有機溶媒中に溶解された基質に添加する。
【0084】
調製の結果として、活性金属は、本発明に従って好ましい選択肢として使用可能な被覆触媒中に単体活性金属の形態で存在する。
【0085】
本発明に従って使用可能な被覆触媒の調製でハロゲンフリー、特定的には塩素フリーの活性金属前駆体および溶媒を使用した結果として、さらに、本発明に係る被覆触媒のハロゲン化物含有率、特定的には塩化物含有率は、触媒の全重量を基準にして0.05重量%未満(0〜<500重量ppm、たとえば0〜400重量ppmの範囲内)である。
【0086】
塩化物含有率は、たとえば以下に記載の方法を用いて、イオンクロマトグラフィーにより決定される。
【0087】
本明細書中では、ppmデータはすべて、とくに明記されていないかぎり、重量部(重量ppm)を意味するものとみなされる。
【0088】
選択された変形形態では、29Si固体NMRを利用して決定されるQ2構造とQ3構造との百分率比Q2/Q3は、25未満、好ましくは20未満、より好ましくは15未満、たとえば0〜14または0.1〜13の範囲内であることが好ましい。このことはまた、使用される担体中のシリカの縮合度がとくに高いことを意味する。
【0089】
29Si固体NMRを利用して、Qn構造(n=2、3、4)を同定し、百分率比を決定する。
【0090】
Qn = Si(OSi)n(OH)4-n〔式中、n = 1、2、3、または4〕。
【0091】
n=4の場合、Qnは、-110.8ppmに見いだされ、n=3の場合、-100.5ppmに見いだされ、n=2の場合、-90.7ppmに見いだされる(標準: テトラメチルシラン)(Q0およびQ1は同定されなかった)。分析は、交差分極(CP 5ms)を用いてかつ1Hの双極子デカップリングを用いて室温(20℃)でマジック角回転(MAS(5500Hz))の条件下で行われる。シグナルが部分的に重なるため、線形解析を利用して強度を評価する。Galactic Industries製の標準的ソフトウェアパッケージを用いて、最小二乗あてはめを反復計算することにより、線形解析を行った。
【0092】
本発明に従って好ましい選択肢として使用可能なSiO2被覆触媒の担体材料は、Al2O3として計算した場合、好ましくは1重量%超の酸化アルミニウムを含まず、特定的には0.5重量%以下、特定的には<500重量ppmである。
【0093】
シリカの縮合はアルミニウムおよび鉄の影響を受ける可能性もあるので、Al(III)およびFe(IIおよび/またはIII)の全濃度は、好ましくは300ppm未満、より好ましくは200ppm未満、たとえば0〜180ppmの範囲内である。
【0094】
アルカリ金属酸化物の割合は、好ましくは、担体材料の調製に起因し、2重量%まででありうる。多くの場合、1重量%未満である。同様に好適なのは、アルカリ金属酸化物フリーの担体(0〜<0.1重量%)である。MgO、CaO、TiO2、またはZrO2の割合は、担体材料の10重量%までを占めていてもよく、好ましくは5重量%以下である。しかしながら、好適な担体材料はまた、いかなる検出可能量のこれらの金属酸化物(0〜<0.1重量%)をも含まないものである。
【0095】
Al(III)およびFe(IIおよび/またはIII)はシリカ中に組み込まれた酸性部位をもたらす可能性があるので、好ましくはアルカリ土類金属カチオン(M2+、M = Mg、Ca、Sr、Ba)による電荷補償が担体中に存在することが好ましい。このことは、M(II)と(Al(III) + Fe(IIおよび/またはIII))との重量比が0.5超、好ましくは>1、より好ましくは3超であることを意味する。
【0096】
元素記号の後の括弧内のローマ数字は、元素の酸化状態を意味する。
【0097】
冒頭ですでに述べたように、SiO2担体を有する上記の被覆触媒の代わりに、Al2O3担体を有する担持触媒を使用することが可能である。Al2O3担体に担持されたRuを活性金属として含むそのような触媒は、たとえば、欧州特許出願公開第0814098A1号明細書および国際公開第99/32427号パンフレット(これらに対してこの件に関して明示的参照が行われ、かつこの件に関するそれらの開示は、本開示の一部を形成するものとみなされる)。
【0098】
本発明に係る方法はまた、水素の存在下で行うことも可能である。有用な反応ガスとしては、水素だけでなく、いかなる触媒毒(たとえば、一酸化炭素またはH2SやCOSのような硫黄含有ガス)をも含まない水素系ガス、たとえば、水素と、窒素のような不活性ガスまたは典型的には揮発性炭化水素をも含む改質ガス(reformer offgas)と、の混合物も挙げられる。好ましい選択肢としては、純粋水素(純度≧99.9体積%、特定的には≧99.95体積%、より特定的には≧99.99体積%)を使用することが挙げられる。この場合、水素または選択された水素系ガスは、一般的には、使用される各水素化反応器内に同様に連続導入される。
【0099】
式(I)で示される脂環式化合物、好ましくは、式(Ia)または(Ib)および(Ic)で示される4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールを調製するための本発明に係る方法は、水素の存在下でかつ担体に適用されたルテニウムを活性金属として含む触媒の存在下で行われ、担体は、Al2O3および/またはSiO2を含み、かつ触媒は、1台の水素化反応器内でまたは直列に連結された複数台の水素化反応器内で固定床触媒の形態で使用される。
【0100】
したがって、本発明に係る方法は、要望どおり、1台の水素化反応器内でまたは直列に連結された複数台の水素化反応器内で実施可能である。好ましい選択肢としては、直列に連結された複数台の水素化反応器のカスケードで、より好ましくは2〜5台のカスケードで本発明に係る水素化プロセスを行うことが挙げられる。
【0101】
本発明に係る水素化は、連続的に行われる。好適な反応器すなわち水素化反応器としては、トリクル反応器または固定床法により満液モード(液相モード)で操作可能な反応器が挙げられる。水素は、水素化される反応物の溶液に対して並流または向流のいずれかで触媒上に通すことが可能である。
【0102】
固定触媒床上での水素化の後で水素化を行うのに好適な装置は、先行技術から、たとえば、Ullmanns Enzyklopadie der Technischen Chemie, 4th edition, Volume 13, p. 135 ff.、およびP. N. Rylander, "Hydrogenation and Dehydrogenation", Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th ed. (CD-ROM)内から公知である。
【0103】
本発明に係る水素化は、1台のみの水素化反応器内で、または複数台、好ましくは2〜5台、より好ましくは2〜4台、最も好ましくは2または3台、とくに好ましくは2台の直列に連結された水素化反応器のカスケード内で、実施可能である。「直列に連結された」という用語は、ここおよび本開示全体との関連では、第1の反応器、またはカスケードもしくは直列連結という意味では上流の反応器の出口が、第2の水素化反応器またはそれぞれの場合のすぐ下流の水素化反応器の入口に連結されるように、複数台の水素化反応器が互いに連結されることを意味するものとみなされる。
【0104】
上述の反応器は、上記したように、トリクルモードでまたは満液モード(液相モード)で互いに独立して操作される。カスケードをなして直列に連結された水素化反応器を、異なるモードで操作することも可能である。たとえば、第1の水素化反応器または最初の数台、好ましくは最初の2台の水素化反応器をトリクルモードで操作し、最後の反応器を液相モードで操作することが可能である。
【0105】
反応器から排出された反応混合物の全部または一部を再循環させて、個別の反応器をそれぞれ独立に操作してもよい。好ましい実施形態では、使用される水素化反応器の少なくとも1台、より好ましくはトリクルモードで操作される水素化反応器の少なくとも1台は、排出された反応混合物の一部を再循環させて操作される。
【0106】
他の選択肢として、個別の反応器はまた、それぞれ独立に、いわゆるストレートパスで、すなわち、反応器から排出された反応混合物の全部または一部を再循環させることなく、操作可能である。好ましい実施形態では、使用される水素化反応器の少なくとも1台、より好ましくは液相モードで操作される水素化反応器の少なくとも1台は、ストレートパスで操作される。
【0107】
好ましい実施形態では、本発明に係る方法は、1台の水素化反応器内でまたは直列に連結された複数台の水素化反応器内で固定床触媒の形態で触媒が使用されるように行われる。その際、
a) 式(II)および/または(III)で示される出発化合物ならびに水素は、(第1の)水素化反応器内に連続導入され、
b) 式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンを含む得られた反応混合物は、(第1の)水素化反応器から連続排出され、所望により、その一部は、(第1の)水素化反応器内に戻されて再循環され、そして
c) 所望により、式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンは、工程b)で(第1の)水素化反応器から排出された反応混合物から取り出され、再循環されない。
【0108】
本発明に係る方法は、連続的に行われ、その場合、第1の工程a)では、式(II)および/または(III)で示される1種もしくは複数種の出発化合物、好ましくは式(IIa)で示されるクミンアルデヒドならびに水素は、水素化反応器内にまたは第1の水素化反応器内に連続導入すなわちそれに連続供給される。水素化反応器は、上記したように固定床触媒を含み、上記したように液相モードでまたはトリクルモードで、好ましくはトリクルモードで操作可能である。
【0109】
このようにして、式(I)で示される所望の反応生成物への完全変換または部分変換が行われる。この反応生成物は、まだ未変換の反応物さもなければ不完全に水素化された中間体を含んでいる可能性のある反応混合物の形態で、プロセス工程b)で水素化反応器からまたは第1の水素化反応器から連続排出される。所望により、式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサン、好ましくは式(Ia)で示される4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールを含み、工程b)で水素化反応器からまたは第1の水素化反応器から排出された反応混合物の一部は、該水素化反応器内に戻して再循環可能である。すなわち、特定の水素化反応器はまた、「循環」状態でまたは「ループモード」で操作することも可能である。
【0110】
したがって、排出された反応混合物の一部を同一の水素化反応器内に戻して再循環させ、残りの部分をさらなる水素化反応器内に連続導入することが可能である。このようにして、とくに個別の水素化反応器内が異なる反応条件の場合、所望の方式で反応の過程を制御しそれに影響を及ぼすことが可能である。
【0111】
所望により、任意選択のプロセス工程c)では、式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンは、工程b)で水素化反応器からまたは第1の水素化反応器から排出された反応混合物から取り出され、再循環されることはない。このようにして、所望の目標化合物を高純度で得ることが可能である。式(I)で示される所望の目標化合物、好ましくは式(Ia)で示される4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールの取出しは、当業者に公知のように、たとえば、好適な蒸留法により実施可能である。使用された出発物質が完全に水素化またはほぼ実質的に水素化される場合で、しかも副生成物の形成度が低くかつ溶媒の不在下である場合、かなりの程度、多くの場合90重量%程度もしくはそれ以上、好ましくは95重量%程度もしくはそれ以上、より好ましくは95〜99.5重量%の範囲内の所望の式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンよりなる反応混合物または生成物が、工程b)ですでに得られる。こうした場合、所望により、工程c)での任意選択の取出しは、省略可能である。
【0112】
とくに好ましい実施形態では、本発明に係る水素化プロセスは、直列に連結されたn台の水素化反応器(ここで、nは2〜5の整数である)のカスケードで接触水素化が行われるように策定される。その際、
a1) 上流の水素化反応器から連続排出されかつ再循環されない反応混合物および水素は、下流の水素化反応器内に連続導入され、
b1) 式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンを含む得られた反応混合物は、特定の水素化反応器から連続排出され、所望により、その一部は、特定の水素化反応器内に戻されて再循環され、そして
c1) 所望により、式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンは、工程b1)でn台目の水素化反応器から排出された反応混合物から取り出され、再循環されない。
【0113】
上記の工程a)のところに記載したように、式(II)および/または(III)で示される出発化合物ならびに水素は、第1の水素化反応器内に連続導入され、上記の工程b)のところに記載したように、式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンを含む得られた反応混合物は、第1の水素化反応器から連続排出され、所望により、その一部は、(第1の)水素化反応器内に戻されて再循環されることは明らかである。
【0114】
指数nは、好ましくは2〜4、より好ましくは2または3、とくに好ましくは2の整数であり、2〜4台、より好ましくは2または3台、とくに好ましくは2台の直列に連結された水素化反応器に対応する。この実施形態との関連では、「上流の水素化反応器」という用語は、第1の水素化反応器またはn台の水素化反応器のカスケード中の他の水素化反応器(カスケードのn台目すなわち最後の水素化反応器を除く)を意味するものとみなされる。「下流の水素化反応器」という用語は、上流の反応器に直接続く水素化反応器を意味するものとみなされる。したがって、一連の水素化反応器の第2の水素化反応器は、第1の水素化反応器の「下流の」水素化反応器を意味するものとみなされるであろう。第3の水素化反応器は、第2(上流)の水素化反応器の「下流の」水素化反応器を意味するものとみなされるであろう。したがって、n台の水素化反応器はすべて、所望により、得られた反応混合物の一部を再循環させながら、すなわち、循環状態でまたはループモードで操作してもよい。反応器カスケードの個別の水素化反応器は、それぞれ、要望どおり、液相モードまたはトリクルモードで、かつ要望どおり、得られた反応混合物の再循環を行いながらまたは行わずに操作される。
【0115】
本発明に係る方法のこのとくに好ましい実施形態では、工程a1)で、上流の水素化反応器、特定的には第1の水素化反応器から連続排出され、かつ再循環されない反応混合物および水素は、下流の水素化反応器内に連続導入される。工程b1)で、式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンを含む得られた反応混合物は、特定の水素化反応器から連続排出され、所望により、その一部は、特定の水素化反応器内に戻されて再循環される。工程c1)で、所望により、式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンは、カスケードのn台目すなわち最後の水素化反応器から工程b1)で排出され、かつ再循環されなかった反応混合物から取り出される。
【0116】
したがって、本発明に従って好ましい選択肢として使用されるカスケード中に提供される水素化反応器はすべて、好ましくは、選択された出発物質または上流の水素化反応器で得られた反応混合物が特定の水素化反応器内に連続導入され、かつ形成された反応混合物がそこから再び連続排出されるように操作される。
【0117】
さらに、反応器カスケードの第1の水素化反応器、すなわち、式(II)および/または(III)で示される選択された出発物質が導入される反応器は、トリクルモードで操作するのが有利であることが判明した。
【0118】
さらに、さらなる水素化反応器またはさらなる水素化反応器の少なくとも1台は、液相モードで操作するのが有利であることが判明した。とくに好ましくは、直列に連結された水素化反応器のカスケードの最後の水素化反応器は、液相モードで操作される。
【0119】
この最後の水素化反応器から排出された反応混合物は、多くの場合、上記したように、かなりの程度の式(I)で示される所望の1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサン、または式(IIa)で示されるクミンアルデヒドを使用した場合には、かなりの程度の式(Ia)で示される4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールよりなる。このため、所望の生成物の純度に課される要件にもよるが、得られた反応混合物からプロセス生成物を取り出す任意選択の工程を省略することが可能になる。
【0120】
原理的には、2台以上の水素化反応器のカスケードを使用する場合、上記の触媒の中からさまざまな担持Ru固定床触媒を用いてそれらを操作することも可能である。しかしながら、1台もしくは複数台のさらなる水素化反応器が第1の水素化反応器と同一の固定床触媒を含む場合が実用的かつ有利であることが判明した。好ましくは、反応器カスケードの反応器はすべて、上記したようにAl2O3および/またはSiO2担体に、好ましくはSiO2担体に担持されたRuを含む同一の触媒を含む。
【0121】
好ましい実施形態では、本発明に係る方法は、2台の水素化反応器(そのうちの第1の反応器(主反応器)はトリクルモードで操作される)のカスケードで行われる。主反応器の下流に連結された第2の水素化反応器(後反応器)は、トリクルモードでまたは液相モードで操作可能である。好ましい選択肢としては、液相モードで後反応器を操作することが挙げられる。好ましくは、そのうえさらに、主反応器は、循環状態で、すなわち、排出された反応混合物の一部を再循環させながら、操作され、後反応器は、ストレートパスで、すなわち、排出された反応混合物の再循環を行うことなく操作される。
【0122】
さらなる好ましい実施形態では、本発明に係る方法は、3台の水素化反応器(そのうちの第1および第2の反応器(主反応器)は、トリクルモードで操作され、第3の反応器は、液相モードで操作される)のカスケードで行われる。好ましくは、そのうえさらに、最初の2台の反応器は、循環状態で、すなわち、いずれの場合も排出された反応混合物の一部を再循環させながら、操作され、後反応器は、ストレートパスで、すなわち、排出された反応混合物の再循環を行うことなく操作される。
【0123】
実際の水素化は、典型的には、水素化可能な基を有する有機化合物を水素化するための、好ましくは、冒頭に引用された先行技術に記載されるように、炭素環式芳香族基から対応する炭素環式脂肪族基への水素化(いわゆる環水素化)を行うための、公知の水素化プロセスと同様に行われる。この目的のために、有機化合物は、液相または気相として、好ましくは液相として、水素の存在下で固定床触媒に接触される。
【0124】
本発明に係る水素化は、標準水素圧または高水素圧、たとえば少なくとも1.1bar、好ましくは少なくとも2barの絶対水素圧で実施可能である。一般的には、絶対水素圧は、325bar、好ましくは300barの値を超えないであろう。より好ましくは、絶対水素圧は、10〜300barの範囲内、さらにより好ましくは50〜250barの範囲内、さらにより好ましくは100〜250barの範囲内、とくに好ましくは125〜250barの範囲内、最も好ましくは、125〜200barの範囲内である(いずれの場合も絶対圧力)。
【0125】
本発明に係る水素化プロセスは、溶媒または希釈剤の不在下で、さもなければ溶媒または希釈剤の存在下で実施可能である。すなわち、溶液状態で水素化を行うことは必要ではない。
【0126】
使用される溶媒または希釈剤は、任意の好適な溶媒または希釈剤であってよい。有用な溶媒または希釈剤は、原理的には、水素化される有機化合物をほぼ実質的に溶解可能であるかまたはそれと完全に混合されかつ水素化条件下で不活性である(すなわち水素化されない)ものである。
【0127】
好適な溶媒の例は、環状および非環状のエーテル類、たとえば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルtert-ブチルエーテル、ジメトキシエタン、ジメトキシプロパン、ジメチルジエチレングリコール、脂肪族アルコール類、たとえば、メタノール、エタノール、n-もしくはイソプロパノール、n-、2-、iso-、もしくはtert-ブタノール、カルボン酸エステル類、たとえば、メチルアセテート、エチルアセテート、プロピルアセテート、またはブチルアセテート、および脂肪族エーテルアルコール類、たとえば、メトキシプロパノール、ならびに脂環式化合物類、たとえば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、およびジメチルシクロヘキサンである。
【0128】
所望により使用される溶媒または希釈剤の量は、とくに限定されず、必要に応じて自由に選択可能であるが、好ましい選択肢としては、水素化の対象となる有機化合物の3〜70重量%の溶液をもたらす量が挙げられる。
【0129】
溶媒を使用する場合、本発明に係る方法では、とくに好ましい選択肢としては、水素化で形成された生成物、すなわち、好ましくは式(I)で示される化合物を、場合により、他の溶媒または希釈剤に加えて、さもなければ、水素化の中間体または副生成物、たとえば、p-シメン、クメン、1-イソプロピル-4-メチルシクロヘキサン(シス/トランス)、およびイソプロピルシクロヘキサンに加えて、溶媒として使用することが挙げられる。いずれの場合も、プロセスで形成された生成物の一部は、まだ水素化される芳香族の化合物に添加可能である。
【0130】
本発明に係る方法では、上記されているようなさらなる溶媒の添加を行わずにすますことが可能である。したがって、本発明に係る水素化プロセスの好ましい実施形態では、水素化は、溶媒を添加せずに行われる(上述の中間体および副生成物を除く)。
【0131】
本発明に係る方法の反応温度は、一般的には少なくとも30℃であり、多くの場合250℃の値を超えないであろう。好ましい選択肢としては、50〜200℃の範囲内、より好ましくは70〜200℃、さらにより好ましくは80〜180℃の範囲内、とくに好ましくは80〜160℃の範囲内、さらにより好ましくは80〜140℃の範囲内の温度で本発明に係る水素化プロセスを行うことが挙げられる。
【0132】
直列に連結された複数台の水素化反応器を使用する場合、異なる圧力および異なる温度で操作可能であることは明らかである。
【0133】
触媒活性が高いため、使用される反応物を基準にして比較的少量の触媒が必要とされる。本発明に係る水素化プロセスの連続構成では、水素化される式(II)もしくは(III)で示される反応物または上流の水素化反応器から排出される反応混合物は、典型的には0.05〜3kg/(L(触媒)・h)、好ましくは0.1〜2kg/(L(触媒)・h)、とくに好ましくは0.1〜1.0 kg/(L(触媒)・h)、最も好ましくは0.1〜0.6kg/(L(触媒)・h)の量で触媒上に導入されるであろう。
【0134】
このプロセスで使用される触媒は、活性が低下した場合、ルテニウム触媒のような貴金属触媒に対して慣用される当業者に公知の方法により再生可能であることはわかるであろう。たとえば、ベルギー特許第882279号明細書に記載されるような酸素による触媒の処理、米国特許第4,072,628号明細書に記載されるような希薄なハロゲンフリー鉱酸による処理、もしくは過酸化水素(たとえば、0.1〜35重量%の含有率の水溶液の形態のもの)による処理、または他の酸化性物質(好ましくは、ハロゲンフリー溶液の形態のもの)による処理を挙げておかなければならない。典型的には、触媒は、再活性化後かつ再利用前、溶媒たとえば水で濯がれるであろう。
【0135】
本発明に従って使用される水素化反応器のうちの1台以上が、いずれの場合も、排出された反応混合物の一部を再循環しながら、すなわち循環状態またはループモードで操作される場合、特定の水素化反応器内に導入される量と再循環される量との定量比(循環/供給)は、約1:1〜約20:1、好ましくは約2:1〜約15:1、より好ましくは約3:1〜約8:1である。
【0136】
本発明に従って出発物質として好ましいアルデヒド類を使用する場合、すなわち、R2基が水素である式(II)で示される化合物を使用する場合、より好ましくは、式(IIa)で示されるクミンアルデヒドを使用する場合、0〜5mgKOH/gの範囲内、好ましくは4mgKOH/gまで、より好ましくは0〜3mgKOH/gの範囲内の最小限の酸価を有するときが有利であることが判明した。より高い酸価を有する式(II)で示されるアルデヒド類を本発明に従って使用する場合、当業者に公知のように、必要量の塩基、たとえば、好ましくは水性の水酸化カリウム(KOH)溶液または水酸化ナトリウム溶液を添加することにより処理することが有利であることが判明した。
【0137】
本発明に係る水素化プロセスは、水素化可能な基を含む有機化合物の水素化に関して、好ましくは炭素環式芳香族基から対応する炭素環式脂肪族基への水素化に関して選択的なプロセスであり、これにより、使用される触媒を基準にして、高い収率および空時収率[生成物量/(触媒体積・時間)](kg/(Lcat.・h))、[生成物量/(反応器容積・時間)](kg/(L反応器・h))を達成することが可能であり、しかも使用される触媒を後処理なしで水素化に反復使用することが可能である。特定的には、本発明に係る水素化プロセスでは長い触媒寿命が達成される。
【0138】
それに加えて、本発明に係る水素化プロセスは、式(Ib)
【化10】

【0139】
で示される上述のジアステレオ異性脂環式化合物と式(Ic)
【化11】

【0140】
で示される上述のジアステレオ異性脂環式化合物との異性体混合物に至る、工業スケールでの変換に好適な高性能な経路を開拓する。
【0141】
本発明に係る方法では、上述の立体異性体は、一般的には、特定のシス異性体とトランス異性体との混合物の形態で得られ、シス/トランスの相対比は、多くの場合1.9:1〜2.5:1の範囲内、好ましくは2.0:1〜2.4:1の範囲内、さらにより好ましくは2.1:1〜2.3:1の範囲内である(それぞれmol/mol単位の比)。
【0142】
これは、式(IIa)で示されるクミンアルデヒドの本発明に係る変換の場合にとくに重要であり、その場合、式(Id)
【化12】

【0143】
で示されるトランス異性体および式(Ie)
【化13】

【0144】
で示されるシス異性体は、上記の相対定量比で得られる。これは、こうして得られた混合物を芳香化学物質として利用するうえでとくに重要である。なぜなら、上述の立体異性体は、それらの臭気の印象に関して有意に異なるからである。
【0145】
したがって、本発明に係る方法は、芳香化学物質として非常に需要が多い式(Id)および(Ie)で示される異性体混合物に至る、とくに有利な形で工業的に利用可能な経路を提供する。本発明に従って取得可能な生成物の組成は、そのシス/トランス比に関して、個別の水素化反応の反応条件の好適な選択を介して上記の範囲内に制御可能であり、これにより、多くの場合、たとえば複雑な蒸留分離法による後続の富化または枯渇を行わずにすますことが可能である。
【0146】
以下の実施例は、本発明を例示する役割を果たすものであり、なんらそれを限定するものではない。
【実施例】
【0147】
実施例1:
SiO2担持ルテニウム触媒の調製
最初に、50kgのSiO2担体(D11-10(BASF SE)、3mm押出し物、0.95mL/gの吸水量、BET 135m2/g)を含浸ドラム中に仕込み、96〜98重量%の吸水率で含浸した。水性含浸溶液は、酢酸ルテニウムとして0.176kgのRuを含んでいた(Umicore、4.34重量%のRu)。含浸された触媒を移動させずに145℃のオーブン温度で約1%の残留湿分含有率になるまで乾燥させた。300℃の移動床および90分間(1〜2時間)の滞留時間を用いて移動させながら水素中で還元を行った(N2中の約75%のH2、パージストリームとしてN2を使用、1.5m3(STP)/hのH2 - 0.5m3(STP)/hのN2)。希薄空気(N2中の空気)中で不動態化を行った。触媒の温度が30〜35℃未満に保持されるように、空気の添加を調整した。完成触媒は、0.31〜0.32重量%のRuを含んでいた。
【0148】
実施例2:
直列に連結された2台のチューブ型反応器(主反応器150mLおよび後反応器100mL)よりなる連続プラントに、実施例1に従って調製された触媒を充填した(主反応器:58g、後反応器:38g)。循環させながら主反応器をトリクルモードで操作し(循環/供給 = 100/1)、ストレートパスで後反応器を液相モードで操作した。125℃の主反応器内平均温度および110℃の後反応器内平均温度および200barの圧力で、クミンアルデヒド(47g/h)を純粋水素と共に反応器カスケード内にポンプ送入した。触媒の毎時速度は、0.31kg クミンアルデヒド/Lcat.×hであった。反応流出物のガスクロマトグラフィー分析(GCカラム:RTX 35、長さ30m、直径0.25μm、温度プログラム:80℃から2℃/minで120℃へ、120℃から5℃/minで250℃へ)から、クミンアルデヒドが100%程度まで変換され、さらにはもはや出口混合物中にクミンアルコール中間体がガスクロマトグラフィーにより検出できないことが示された。cis/trans-4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールの選択性は、90.7面積%であった。検出された二次成分は、約9面積%の低沸点分(4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールよりも低い沸点を有する成分、たとえば、p-シメン、クメン、1-イソプロピル-4-メチルシクロヘキサン(シス/トランス)、およびイソプロピルシクロヘキサン)であった。得られた4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールのシス/トランス比は、2.20:1であった。
【0149】
実施例3(比較例):
300mL圧力反応器内で、最初に、実施例1に従って調製された4.5gの触媒を触媒挿入バスケット中に仕込み、150gのクミンアルデヒドと混合した。200barの一定圧力および180℃の温度で純粋水素を用いて水素化を行った。さらなる水素が吸収されなくなるまで(35時間)、水素化を継続させた。続いて反応器を減圧した。クミンアルデヒドの変換は、100%であり、もはや出口混合物中にクミンアルコール中間体はガスクロマトグラフィーにより検出できなかった(GCカラム:RTX 35、長さ30m、層厚さ0.25μm、温度プログラム:80℃から2℃/minで120℃へ、120℃から5℃/minで250℃へ)。cis/trans-4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールの選択性は、87.5面積%であった。検出された二次成分は、約11.5面積%の低沸点分(4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールよりも低い沸点を有する成分、たとえば、p-シメン、クメン、1-イソプロピル-4-メチルシクロヘキサン(シス/トランス)、およびイソプロピルシクロヘキサン)であった。得られた4-イソプロピルシクロヘキシルメタノールのシス/トランス比は、1.86:1であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

〔式中、
R1は、水素または1〜4個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、かつ
R2は、水素または1〜3個の炭素原子を有する直鎖状もしくは分岐状のアルキル基である〕
で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンを調製するための連続方法であって、
水素の存在下でかつ担体に適用されたルテニウムを活性金属として含む触媒の存在下で(ただし、該担体は、Al2O3および/またはSiO2を含み、かつ該触媒は、1台の水素化反応器内でまたは直列に連結された複数台の水素化反応器内で固定床触媒の形態で使用される)、
式(II)
【化2】

で示される芳香族カルボニル化合物を接触水素化することによるおよび/または式(III)
【化3】

〔式中、R1基およびR2基は、それぞれ、式(I)に定義されるとおりである〕
で示される芳香族アルコール化合物を接触水素化することによる、上記方法。
【請求項2】
a) 式(II)および/または(III)で示される出発化合物ならびに水素が、(第1の)水素化反応器内に連続導入され、
b) 式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンを含む得られた反応混合物が、該(第1の)水素化反応器から連続排出され、所望により、その一部が、該(第1の)水素化反応器内に戻されて再循環され、そして
c) 所望により、式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンが、工程b)で該(第1の)水素化反応器から排出された反応混合物から取り出され、再循環されない、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
直列に連結されたn台の水素化反応器(ここで、nは2〜5の整数である)のカスケードで接触水素化が行われ、その際、
a1) 上流の水素化反応器から連続排出されかつ再循環されない反応混合物および水素が、下流の水素化反応器内に連続導入され、
b1) 式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンを含む得られた反応混合物が、特定の水素化反応器から連続排出され、所望により、その一部が、該特定の水素化反応器内に戻されて再循環され、そして
c1) 所望により、式(I)で示される1-ヒドロキシアルキルシクロヘキサンが、工程b1)でn台目の水素化反応器から排出された反応混合物から取り出され、再循環されない、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
式(II)で示される芳香族カルボニル化合物が使用される、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
R2基が水素でありかつR1基がイソプロピルである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
担体としてSiO2のみを含む固定床触媒が使用される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
完成触媒の全重量を基準にして0.1〜0.8重量%のルテニウム含有率を有する固定床触媒が使用される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
完成触媒の全重量を基準にして0.1〜0.5重量%のルテニウム含有率を有する固定床触媒が使用される、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
担体材料として二酸化ケイ素を含む担体に適用されたルテニウムを単独でまたは元素の周期表(CAS方式)の遷移族IB、VIIB、またはVIII族の少なくとも1種のさらなる金属との組合せで活性金属として含む固定床触媒(ただし、該活性金属の量は、該触媒の全重量を基準にして<1重量%であり、かつ該活性金属の少なくとも60重量%は、SEM-EPMA(EDXS)を利用して決定した場合、200μmの侵入深さまでの該触媒のコーティング中に存在する)が使用される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
水素化が溶媒の添加なしで行われる、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記(第1の)水素化反応器がトリクルモードで操作される、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
さらなる水素化反応器またはさらなる水素化反応器のうちの少なくとも1台が液相モードで操作される、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記水素化が100〜250bar(絶対圧力)の範囲内の圧力で行われる、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記水素化が80〜160℃の範囲内の温度で行われる、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
0〜5mgKOH/gの酸価を有する式(II)で示される芳香族アルデヒドが使用される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−518600(P2012−518600A)
【公表日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−541345(P2011−541345)
【出願日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2009/066834
【国際公開番号】WO2010/079035
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】