説明

置換型無電解金めっき液

【課題】
金めっき浴槽やフィルター等に金が析出しにくく、下地の無電解ニッケルめっき被膜の局所的な侵食を起こすことも、下地ニッケルめっき被膜を酸化させることもなく、優れたはんだ接合強度が得られるENIG用の置換型無電解金めっき液を提供すること。
【解決手段】
少なくとも、水溶性金塩、分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物及び緩衝剤を含有する無電解金めっき液であって、その25℃における酸化還元電位が、−150mV〜+50mVの範囲にあることを特徴とする置換型無電解金めっき液により課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、置換型無電解金めっき液に関し、更に詳細には、電子部品の端子部等のニッケルめっき被膜の上に金めっき被膜を均一に形成させるための置換型無電解金めっき液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の接続端子部等に使用されるめっきプロセスで、端子部の腐食を防止し、ワイヤ接合、はんだ接合等を行うために、無電解ニッケルめっき被膜上に置換金めっき(Electroless Nickel Immersion Gold)(以下、「ENIG」と略記する)を施すプロセスが広く用いられている。
【0003】
ENIGは、下地である無電解ニッケルめっき被膜表面の金属ニッケルがニッケルイオンとなって金めっき液中に溶出する際に放出される電子が金イオンに与えられ、金イオンが中性金となってニッケル被膜表面に析出し金被膜を形成するものである。
【0004】
近年、端子部が微細化し、かつ、はんだが鉛フリーはんだに代替されるにつれ、はんだ接合強度の不足が実装技術分野で問題視されるようになった。
【0005】
このようなはんだ接合強度の不足を改良する手段としては、置換型無電解金めっき液に還元剤を添加し、無電解金めっき液中で金の還元反応を行わせて金めっき被膜を形成させ、置換反応による金被膜形成の割合を少なくする方法が知られている(特許文献1参照)。このような無電解金めっき液は置換還元型といわれ、下地のニッケルの溶出が少ないので、ニッケル表面の荒れを少なくでき、はんだ接合強度低下を改良できるというものである。
【0006】
しかしながら、この方法では、還元剤の分解により発生する電子が金イオンと反応してめっき液中で金コロイドを形成しやすく、金めっき浴槽、フィルター等に金が析出するという問題が発生しやすかった。また、金めっき液の管理、補充作業も置換還元金めっき液では、置換金めっき液に比べ煩雑となるという問題点もあった。
【0007】
かかる理由から、置換反応を使用しながら、かつ、はんだ接合強度を改良することが、ENIGプロセスにおける技術改良の重要な問題点となっていた。
【0008】
これを解決するものとして、金析出抑制剤として各種窒素含有化合物を含有させることが提案されており(特許文献2参照)、また、ニッケル表面酸化抑制剤として、窒素原子を2個以上有する有機化合物を含有させることが提案されているが(特許文献3参照)、これだけでは、十分なはんだ接合強度が得られない場合があった。
【0009】
従って、金めっき浴槽、フィルター等に金が析出しにくく、優れたはんだ接合強度が得られる、ENIG用の置換型無電解金めっき液が望まれていた。
【0010】
【特許文献1】特開2001−107259号公報
【特許文献2】特開2001−144441号公報
【特許文献3】WO2004/038063号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、かかる背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、金めっき浴槽、フィルター等に金が析出しにくく、優れたはんだ接合強度が得られる、ENIG用の置換型無電解金めっき液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、上記強度不足の一因として、置換型無電解金めっきの際の、下地となる無電解ニッケルめっき被膜の局所的な侵食があることを見出した。下地となる無電解ニッケルめっき被膜は、ニッケル以外に、リン、イオウ等の元素を数%含有していることがあり、これらの元素はニッケル被膜中に、局所的に不均一に分散している。また、無電解ニッケルめっき被膜を電子顕微鏡で観察するとミクロン単位の微細なニッケル粒子の集まりで構成されているのが観察できるが、この粒子の内部と粒界部とではリン、イオウ等の組成が異なり、粒界部は置換金めっき液に侵食されやすいことも見出した。
【0013】
これらはいずれも無電解ニッケルめっき被膜が均質でないことに起因し、ニッケルの金めっき液中への溶出も不均一となり、結果としてニッケル被膜上に微細な局所的浸食が発生することになる。局所的に浸食されたニッケル被膜上に金めっき被膜が形成されることが、ワイヤ接続やはんだ接続で十分な強度を与えない原因になる場合があることを見出した。
【0014】
そして、特定の成分を含有する金めっき液において、かつ酸化還元電位が特定の範囲に調整された置換型無電解金めっき液を用いると、下地である無電解ニッケル被膜の局所的な浸食を大幅に軽減することができて上記課題を解決することを見出し本発明に到達した。
【0015】
すなわち本発明は、少なくとも、水溶性金塩、分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物及び緩衝剤を含有する無電解金めっき液であって、その25℃における酸化還元電位が、−150mV〜+50mVの範囲にあることを特徴とする置換型無電解金めっき液を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、かかる置換型無電解金めっき液を用いることを特徴とする、無電解ニッケルめっき被膜の粒界部の局部的浸食を抑制して無電解金めっき被膜を製造する方法を提供するものである。
【0017】
更に本発明は、置換型無電解金めっき液を用いて、無電解ニッケルめっき被膜上に、0.01μm〜0.3μmの範囲の厚さに無電解金めっきを施す金めっき被膜の製造方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、かかる置換型無電解金めっき液を用いて無電解金めっき被膜が施された電子部品端子を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、金めっき浴槽、フィルター等に金が析出しにくく、下地の無電解ニッケルめっき被膜の局所的な侵食を起こすことも、下地ニッケルめっき被膜を酸化させることもなく、優れたはんだ接合強度を有する金めっき被膜が得られるENIG用の置換型無電解金めっき液を提供することにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の置換型無電解金めっき液には、少なくとも、水溶性金塩、分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物及び緩衝剤を含有することが必須である。
【0021】
このうち、水溶性金塩は、本発明の置換型無電解金めっき液の金源となるものであり、めっき液中で十分安定であり、水に溶解しやすいものであり、めっき液の金源として適したものであれば特に限定はないが、シアン化金塩、亜硫酸金塩、チオ硫酸金塩等が挙げられる。好ましくは、シアン化金塩であり、具体的には例えば、シアン化第1金塩、シアン化第2金塩等が挙げられる。このうち特に好ましくは、シアン化第1金塩である。また、塩を形成する対陽イオンとしては、特に限定はないが、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。中でも好ましくは、アルカリ金属イオン、特に好ましくは、カリウムイオンである。水溶性金塩としては、シアン化第1金カリウムが特に好ましい。
【0022】
置換型無電解金めっき液中の水溶性金塩の濃度は特に限定はないが、金換算として、好ましくは0.1g/L以上、特に好ましくは0.5g/L以上であり、好ましくは5g/L以下、特に好ましくは4g/L以下である。水溶性金塩の濃度が大きすぎる場合には、めっき液の安定性が低下する場合があり、小さすぎる場合には、めっき速度が低下する場合がある。
【0023】
分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物とは、炭素以外の元素を1個以上有する芳香族性をもつ環(以下、「ヘテロ環」と略記する)を有する化合物であって、その化合物分子においてヘテロ環を形成している窒素原子とヘテロ環を形成していない窒素原子の合計が3個以上である化合物をいう。
【0024】
ヘテロ環を構成する炭素以外の元素(以下、「ヘテロ元素」と略記する)としては、特に限定はないが、窒素、酸素、イオウ等が挙げられる。
【0025】
本発明の分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物におけるヘテロ環としては特に限定はないが、例えば、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピラゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、プリン環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、1,2,3−トリアゾール環、1,2,4−トリアゾール環、テトラゾール環、インドール環、ベンズイミダゾール環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズトリアゾール環等が挙げられる。
【0026】
ヘテロ元素としては、好ましくは窒素である。更に、窒素原子をヘテロ環内に2個以上有しているものが好ましく、3個以上有しているものが特に好ましい。
【0027】
また、本発明においては、ヘテロ環化合物が、π電子過剰芳香族ヘテロ環化合物であることが好ましい。すなわち、該ヘテロ環がπ電子過剰芳香族ヘテロ環であることが好ましい。π電子過剰芳香族ヘテロ環の定義については、成書“Heterocyclic Chemistry, by
Adrien Albert, The Anthon Press University of London,1959”に詳細に記載されており、本発明における「π電子過剰芳香族ヘテロ環」は、この成書の記載で定義される。
【0028】
ヘテロ環として好ましくは、例えば、ピラゾール環、イミダゾール環、1,2,3−トリアゾール環、1,2,4−トリアゾール環、テトラゾール環、ベンズイミダゾール環、ベンズトリアゾール環等が挙げられる。
【0029】
本発明の分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物において、環に結合している置換基としては、特に限定はないが、アミノ基、アルキル基、アルキルアミノ基等が好ましい。このうち特に好ましくはアミノ基である。置換基がアミノ基の場合、置換基に含まれる窒素数とヘテロ環を構成する窒素数の合計が3個以上であればよい。また、窒素原子がヘテロ環に集中していてもよい。
【0030】
本発明における、分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物として好ましくは、例えば、3−アミノピラゾール、4−アミノピラゾール、5−アミノピラゾール、2−アミノイミダゾール、4−アミノイミダゾール、5−アミノイミダゾール、1,2,3−トリアゾール、4−アミノ−1,2,3−トリアゾール、5−アミノ−1,2,3−トリアゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、5−アミノ−1,2,4−トリアゾール、テトラゾール、5−アミノテトラゾール、2−アミノベンズイミダゾール、ベンズトリアゾール等又はこれらのアルキル置換体等が挙げられる。これらは1種又は2種以上用いられる。
【0031】
特に好ましくは、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、テトラゾール、5−アミノテトラゾール等である。
【0032】
置換型無電解金めっき液中の分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物の濃度は特に限定はないが、好ましくは5ppm、特に好ましくは50ppm以上であり、好ましくは10000ppm以下、特に好ましくは2000ppm以下である。該ヘテロ環化合物の濃度が大きすぎる場合には、めっき液中に析出する場合があり、小さすぎる場合には、ニッケルめっき被膜表面の酸化抑制が不十分で、結果としてはんだ接合強度が低下する場合がある。
【0033】
上記した分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物は置換型無電解金めっき液と接触したニッケル被膜の表面が、酸化されるのを防止する効果がある。ニッケル表面が酸化されたENIG端子に対しはんだ接合を行うと、十分なはんだ接合強度が得られない場合があるので、これは本発明の置換型無電解金めっき液の必須成分となる。
【0034】
本発明の置換型無電解金めっき液は、緩衝剤を必須成分として含有する。緩衝剤は置換型無電解金めっき液のpHを安定化させるものであれば特に限定はなく、有機化合物、無機化合物を問わず、酸、塩基又は塩を適宜配合して使用される。
【0035】
具体的には、例えば、アジピン酸、安息香酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、ギ酸、酢酸、乳酸、マロン酸、フタル酸、蓚酸、酒石酸、グリシン、グルタミン酸、グルタル酸、イミノ2酢酸、デヒドロ酢酸、マレイン酸等のカルボン酸又はそれらの塩;エチレンジアミン、ヒドロキシアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン化合物又はそれらの塩、ホウ酸、リン酸、ピロリン酸、亜リン酸、チオ硫酸、亜硫酸、硝酸、硫酸、塩酸、チオシアン酸等の無機酸又はそれらの塩等が挙げられる。これらは、1種又は2種以上混合物して用いられるが、好ましくは、2種以上混合物して用いられる。
【0036】
好ましい緩衝剤としては、酸化数が中間状態にある原子を含む酸又はそれらの塩等が挙げられる。また、酸化剤と還元剤の中間の電位にある化合物が挙げられる。
【0037】
特に好ましくは、亜リン酸又はその塩、亜硫酸又はその塩等が挙げられる。
【0038】
本発明において、緩衝剤の置換型無電解金めっき液中の濃度は特に限定はないが、好ましくは1g/L以上、特に好ましくは5g/L以上であり、好ましくは300g/L以下、特に好ましくは200g/L以下である。緩衝剤の濃度が大きすぎる場合には、めっき液中に析出しやすくなる場合があり、小さすぎる場合には、緩衝効果が不十分になる場合がある。
【0039】
本発明の置換型無電解金めっき液は、主に上記緩衝剤によって、pHが安定に保たれるが、pHの好ましい範囲は、4〜9であり、特に好ましい範囲は、4.5〜8である。pHが大きすぎる場合は、基板上のレジストを侵し易くなる場合があり、小さすぎる場合は水溶性金塩が不安定になる場合がある。
【0040】
本発明の置換型無電解金めっき液は、その酸化還元電位が−150mV〜+50mVの範囲にあることが必須である。本発明の酸化還元電位は、25℃のめっき液において、ORP(Oxidation Reduction Potential)メーターで測定した値である。ORPメーターとしては例えば、pH/ORPメーターTP−94
電極PCM90(東興化学研究所社製)が挙げられ、本発明の酸化還元電位はこれで測定した値である。
【0041】
なお、ORPメーターは、測定電極に白金電極を用い、比較電極に3.33mol/Lの塩化カリウムを内部液とする塩化銀電極を用いたものであり、測定された酸化還元電位をVとすると、測定電極に白金電極を用い、基準電極に標準水素電極を用いた酸化還元電位Vに対して、およそ、V=V−206+0.7(t−25) の関係がある。tは、測定液の温度である。本発明では、25℃での測定値で特定しているので、25℃に固定してVに換算すると、ほぼ、V=V+206 の関係がある。
【0042】
本発明のように、液温25℃での酸化還元電位(ORPメーターでの測定値)が−150mV〜+50mVの範囲内であると、置換型無電解金めっき液は下地の無電解ニッケル被膜の局所的な侵食を抑制して金めっき層を形成することが可能となり、また金の析出もなく液の安定性も良好となる。
【0043】
下地となる無電解ニッケルめっき被膜が、元素として、リン及び/又はイオウを含有する無電解ニッケルめっき液を用いて得られたものである場合に、無電解ニッケルめっき被膜の粒界部が、置換型無電解金めっきの際に局部的に浸食されやすいので、本発明の置換型無電解金めっき液を用いる効果をより奏することができるので好ましい。
【0044】
置換型無電解金めっき液の酸化還元電位が+50mVを越えると、置換型無電解金めっき液は貴になりすぎて置換反応を過度に促進し、結果としてニッケル下地の局部的浸食が起こりやすくなる。逆に、−150mVより低くなると、置換型無電解金めっき液は卑になりすぎ、置換反応が起こりにくくなる。そして、金イオンはニッケルの溶出を伴わなくとも電子をめっき液から受けやすくなり、めっき液媒体は一種の還元剤として作用し、金の析出が起きやすくなる。このような液の環境は還元金めっき液に類似したものになり、液の安定性が低下し、金めっき浴槽やフィルター等に金が析出し易くなったり、基板の絶縁部に金が析出し易くなったりする場合がある。
【0045】
好ましくは、+30mV以下、特に好ましくは、+10mV以下である。また、好ましくは、−130mV以上、特に好ましくは、−110mV以上である。
【0046】
酸化還元電位の調整を、どのめっき液成分で行うかは特に限定はないが、配合量が多いこともあり、めっき液中の緩衝剤や後述するキレート剤で調整することが好ましい。
【0047】
本発明の置換型無電解金めっき液は、更に、キレート剤を含有させることが好ましい。
【0048】
キレート剤としては、ニッケル、銅、鉄、クロム、鉛、コバルト等の金属に配位して、水に安定に溶解させるものであれば特に限定はないが、ニッケル、銅等に対するキレート特性が良好なものが好ましい。
【0049】
特に好ましいキレート剤は、ニッケル、銅等に対するキレート特性が良好である点で、イミノ2酢酸構造及び/又はメチレンホスホン酸構造を有するものである。
【0050】
具体的には例えば、エチレンジアミン4酢酸、ニトリロ3酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミン3酢酸、ジエチレントリアミン5酢酸、トリエチレンテトラミン6酢酸、ジカルボキシメチルグルタミン酸、プロパンジアミン4酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシルプロパン4酢酸等のカルボン酸類又はそれらの塩;アミノトリメチレンホスホン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸、ヘキサメチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等のホスホン酸類又はそれらの塩が挙げられる。これらは、1種又は2種以上用いられる。中でも、特に好ましくは、エチレンジアミン4酢酸、ニトリロ3酢酸、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸等である。
【0051】
キレート剤は、置換型無電解金めっき液全体に対して、1g/Lから100g/Lの範囲で用いられる。好ましくは2g/L以上、特に好ましくは3g/L以上であり、好ましくは60g/L以下、特に好ましくは40g/L以下である。キレート剤の濃度が大きすぎる場合には、めっき液中に析出する場合があり、小さすぎる場合には、キレート効果が不十分の場合がある。
【0052】
キレート剤は、金めっき液を運転するに伴い、めっき槽内に蓄積されるニッケル、銅、鉄、クロム、鉛、コバルト等の金属の析出を防止し、安定に溶解させる作用がある。
【0053】
本発明の金めっき液は必要に応じて、更にめっき液の濡れ特性を制御する界面活性剤、析出する金めっき被膜の結晶構造を制御する結晶調整剤等を配合して使用することも好ましい。
【0054】
かくして得られた置換型無電解金めっき液は、めっき浴槽に入れられ、所定のpH、液温度にされ使用される。pHは通常4から9の範囲で、液温度は、通常60℃から100℃の範囲で使用される。
【0055】
本発明の置換型無電解金めっき液に浸漬される被めっき材は、銅上に通常0.2μmから10μmの厚さで無電解ニッケルめっきが施されたもので、このニッケル被膜上に形成される置換金めっき層の厚さは、0.01μmm〜0.3μmの範囲であることが好ましい。厚すぎる場合には、はんだ接着強度が低下する場合があり、薄すぎる場合には、金めっき被膜の着色が目視では検出不可能の場合がある。特に好ましくは、0.02μm以上、0.1μm以下である。
【0056】
本発明の置換型無電解金めっき液を用い、上記のようにして、無電解金めっき被膜が施された電子部品端子が得られる。かかる電子部品は、鉛フリーはんだであっても、端子部が微細化していても、はんだ接合強度が十分に高く、信頼性の高い実装が達成される。
【0057】
本発明の置換型無電解金めっき液を用いると、無電解ニッケルめっき被膜の粒界部の局部的浸食を抑制して無電解金めっきが可能になる。ニッケル下地の局所的な浸食と無電解金めっき液の酸化還元電位との関係について記述した公知文献はなく、かかる発見は予想外のものであり、本発明の極めて重要な知見である。特定の成分を含有する無電解金めっき液で、酸化還元電位が−150mV〜+50mVの範囲にあるものが、上記の効果を奏する作用効果は明らかではないが、+50mVを越えると、ニッケル被膜の溶解速度が速くなり、リン、イオウ等の元素が比較的多いニッケル被膜の粒界部の浸食がより起こりやすくなり、結果としてはんだ接合の強度が低下すると考えられる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を、実施例、比較例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、これらに限定されるものではない。なお、実施例中で用いる「部」は特に断りがない限り「重量部」を示し、「%」は特に断りがない限り「質量%」を示す。
【0059】
<置換型無電解金めっき液の調製>
シアン化第1金カリウムを金換算で1.0g/L、表1に示すヘテロ環化合物を無電解金めっき液全体に対し1000ppm、表1に示す緩衝剤を20g/L及び表1に示すキレート剤を5g/Lとなるように水に溶解させ、pH7.5に調整して、実施例1〜5及び比較例1〜8の各置換型無電解金めっき液を調製した。なお、pH調整は、pHを上げる時は水酸化ナトリウム水溶液を、下げる時は硫酸を使用した。また、表1中、「EDTA」は、エチレンジアミン4酢酸を示す。表1の組成に、全てシアン化第1金カリウムを配合したものが各無電解金めっき液の組成である。
【0060】
【表1】

【0061】
<はんだ接合評価用基板の作製>
図1及び図2に示した形態のはんだ接合評価用基板を以下のようにして作製した。縦40mm×横40mm×厚さ1.0mmのポリイミド樹脂製の基板に、直径0.76mmの円形の銅パッドが碁盤目状に配列されているものであって、各銅パッド周辺がフォトソルダーレジストで被覆されているものを用いた。それぞれの銅パッドは厚さ12μmの銅により形成され、フォトソルダーレジストの厚さは20μm、はんだボールパッドの開口部の直径は0.62mmである。
【0062】
上記基板の銅パッド上に、表2に示した工程により、無電解ニッケルめっき被膜を5μm形成させた。
【0063】
【表2】

【0064】
次いで、上記組成で調製された各置換型無電解金めっき液を用いて、70℃で、10分間処理することによって、全て0.05μmの膜厚狙いで、無電解置換金めっき被膜(以下、「ENIG被膜」と略記する)を形成させた。はんだ接合特性を評価する際は、はんだボールパッド上の金めっき被膜の厚さを厳密にコントロールして行う必要があるので、金めっき被膜の厚さの測定は、蛍光X線膜厚計(SEA5120、セイコーインスツルメンツ社製)を使用して行なった。
【0065】
<はんだ接合強度評価>
ENIG被膜が形成された基板の開口径0.62mmのはんだボールパッドに、直径0.76mmのSn−Ag−Cu鉛フリーはんだボールを搭載し、これをリフロー炉装置(RF−430−M2 株式会社日本パルス技術研究所)にて融着させた。その断面図を、図3に示す。融着したはんだボールをボンドテスター(#4000 Dage社製)の常温プル方式で剥離して(図4)、破壊された状況を観察することによりはんだ接合強度を評価した。
【0066】
図5に示したように、破壊がハンダボール内で起きる場合及び銅パッド自体が破断される場合ははんだ接合強度が高く、一方、図6に示したように、破壊がめっき界面に近いところで起き、金めっき層及び/又はニッケルめっき層の一部が露出した場合は、はんだ接合強度が低いと判断される。はんだ接合強度が低い場合には、はんだ接合の信頼性も低い。
【0067】
上記方法によって、はんだ接合強度が高いと判断された銅パッドの個数の、はんだ接合強度評価に供された全銅パッド数に対する百分率を求め、以下のように判定した。結果を表3に示す。
100% :○
100%未満、80%以上 :×
80%未満、60%以上 :××
60%未満 :×××
【0068】
下記に示す方法で、上記置換型無電解金めっき液の酸化還元電位と金めっき液保存性を評価した。結果を表3に示す。
<酸化還元電位測定法>
酸化還元電位の測定はORP計(pH/ORPメーター TP−94 電極PCM90 東興化学研究所社製)にて行った。まず、電極をキンヒドロン標準液に30分浸漬して電位が260±20mVを示す事を確認した。範囲内である事が確認できたら、電極を念入りに純水洗浄し、25℃に調整した上記各無電解金めっき液に浸漬した。浸漬開始から5分後のORP計の値を読み、上記置換型無電解金めっき液の酸化還元電位とした。結果を表3に示す。
【0069】
<金めっき液保存性評価>
上記置換型無電解金めっき液を使用状態に調整し、ビーカーに蒸発防止のカバーを施して、90℃のエアー恒温槽の中に放置した。ビーカーの側壁や底部に金が析出し始める時間を測定して金めっき液の保存安定性の評価を行ない、下記のように判定した。結果を表3に示す。
50時間放置しても、析出が見られなかった:○
10時間〜50時間で析出が見られた :×
10時間未満で析出が見られた :××
【0070】
下記の方法で、下地である無電解ニッケルめっき被膜の浸食状態を観察した。
<粒界浸食の評価>
金めっき液保存性評価において、50時間放置しても析出が見られなかった(○判定の)置換型無電解金めっき液を用いて、ニッケル被膜上に置換型無電解金めっきを行なった。ここで、無電解ニッケルめっき、置換型無電解金めっきの方法、膜厚等は、「はんだ接合評価用基板の作製」の項に記載したものと同様に行った。
【0071】
こうしてENIG被膜が形成された基板を、金剥離剤(ストリッパーゴールド 日本高純度化学株式会社製)に、常温で1分間浸漬することで金被膜を剥離し、露出したニッケル表面を走査型電子顕微鏡(S−4300 日立製作所製)にて撮影し、ニッケルめっき被膜の粒界浸食の状態を観察し、下記のように判定した。結果を表3に示す。
粒界浸食が確認されなかった:○
粒界浸食が確認された :×
【0072】
○判定の代表例として、実施例1の場合のSEM写真を図7に、×判定の代表例として、比較例1の場合のSEM写真を図8に示す。金めっき液保存性評価において、×以下の評価のめっき液は、めっき自体が不能の為、粒界浸食の測定不能とした。
【0073】
<深さオージェスペクトル測定>
粒界浸食の評価と同様にしてENGI被膜を形成した基板を、深さオージェ測定(Microlab 310−F、英国VG社、電子源:フィールドエミッション)にて分析した。金被膜とニッケル被膜の界面から酸素が検出されれば、下地ニッケルが酸化されているものと判断される。結果を表3に示す。
【0074】
下地ニッケルの酸化が確認されなかった実施例1の測定結果を図9に、酸化が確認された比較例3の測定結果を図10に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
表3から判るように、酸化還元電位が、−150mV〜+50mVの範囲にあり、分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物を含有する置換型無電解金めっき液(実施例1及び実施例2)では、上記全ての評価に優れていた。一方、酸化還元電位が、+130mVと高すぎるものは(比較例1)、はんだ接合強度に劣り、ニッケルめっき被膜の粒界に浸食が見られた。逆に、酸化還元電位が、−200mVと低すぎるものは(比較例2)、ビーカーの側壁や底部に金が8時間で析出し始め、金めっき液保存性に劣っていた。
【0077】
また、ヘテロ環化合物を含有しない置換型無電解金めっき液(比較例3)では、酸化還元電位が−10mVと、上記範囲に入っていても、はんだ接合強度に劣り、ニッケルめっき被膜の粒界に浸食が見られた。このことから、特定の範囲の酸化還元電位と分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物とを組み合わせることによって始めて、置換型無電解金めっき液に要求される上記性能に優れたものが得られることが判った。
【0078】
実施例1〜5及び比較例1〜8の置換型無電解金めっき液について、(1)酸化還元電位と金めっき液保存性との関係、(2)酸化還元電位と(はんだ接合強度と強く相関がある)粒界浸食との関係を測定した。結果を表4に示す。
【0079】
【表4】

【0080】
表4の結果から判るように、酸化還元電位が−150mV〜+50mVの範囲内のものは、比較例3を除き、全て粒界浸食が確認されず(実施例1〜5)、酸化還元電位が上記範囲外のものは、全て粒界浸食が確認されたか、又は、保存中に金が析出してめっきが正常に行われなかった。(比較例1〜8)。なお、比較例3は、ヘテロ環化合物が含有されていないので、酸化還元電位が上記範囲内ではあるが、粒界浸食が確認された。
【0081】
これより、分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物が含有されていることを条件に、酸化還元電位が−150mV〜+50mVの範囲にあるか否かで、粒界浸食の有無が明確に区別され、すなわち、はんだ接合強度の大きさ(はんだ接合の信頼性)が明確に区別されることが判った。
【0082】
本発明の置換型無電解金めっき液は、金めっき液槽やフィルター等に金が析出しにくく、また優れたはんだ接合強度が得られるので、ENIG用の置換型無電解金めっき液として、広く電子部品の接続端子部等の金めっき被膜形成に使用されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】はんだ接合評価に用いた基板の各部分の長さ等を示す平面図である。
【図2】はんだ接合評価に用いた基板の各部分の長さ等を示す断面図である。
【図3】はんだ接合評価に用いた融着したはんだボールの形状を示す断面図である。
【図4】はんだ接合評価における、ボンドテスターによる常温プル方式を示す図である。
【図5】はんだ接合強度が高く、破壊がハンダボール内で起きた状態を示す断面図である。
【図6】はんだ接合強度が低く、破壊がめっき界面に近いところで起き、金めっき層及び/又はニッケルめっき層の一部が露出した状態を示す断面図である。
【図7】金めっき被膜を剥離して露出したニッケルめっき被膜表面に、粒界浸食が確認されなかったものの2000倍のSEM写真である。
【図8】金めっき被膜を剥離して露出したニッケルめっき被膜表面に、粒界浸食が確認されたものの2000倍のSEM写真である。
【図9】ENGI被膜を形成した基板の深さオージェスペクトル測定結果である。下地ニッケル被膜の酸化が確認されなかった場合。
【図10】ENGI被膜を形成した基板の深さオージェスペクトル測定結果である。下地ニッケル被膜の酸化が確認された場合。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水溶性金塩、分子内に窒素原子を3個以上有するヘテロ環化合物及び緩衝剤を含有する無電解金めっき液であって、その25℃における酸化還元電位が、−150mV〜+50mVの範囲にあることを特徴とする置換型無電解金めっき液。
【請求項2】
ヘテロ環化合物が、π電子過剰芳香族ヘテロ環化合物である請求項1記載の置換型無電解金めっき液。
【請求項3】
緩衝剤が、亜硫酸及び亜リン酸並びにそれらの塩よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1又は請求項2記載の置換型無電解金めっき液。
【請求項4】
更に、キレート剤を含有する請求項1ないし請求項3の何れかの請求項記載の置換型無電解金めっき液。
【請求項5】
キレート剤が、分子内にイミノ2酢酸構造及び/又はメチレンホスホン酸構造を有するものである請求項4記載の置換型無電解金めっき液。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の置換型無電解金めっき液を用いることを特徴とする、無電解ニッケルめっき被膜の粒界部の局部的浸食を抑制して無電解金めっき被膜を製造する方法。
【請求項7】
無電解ニッケルめっき被膜が、リン及び/又はイオウを含有する無電解ニッケルめっき液を用いて得られたものである請求項6記載の無電解ニッケルめっき被膜の粒界部の局部的浸食を抑制して無電解金めっき被膜を製造する方法。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の置換型無電解金めっき液を用いて、無電解ニッケルめっき被膜上に、0.01μm〜0.3μmの範囲の厚さに無電解金めっきを施す金めっき被膜の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項5の何れかの請求項記載の置換型無電解金めっき液を用いて無電解金めっき被膜が施された電子部品端子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図10】
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【図7】
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【図8】
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