説明

置換銀メッキ浴

【課題】 置換銀メッキにおいて、変色及び色調ムラを防止し、均質で美麗な光沢の銀メッキ皮膜を得る。
【解決手段】 可溶性銀塩と、チオ尿素類などの含イオウ化合物からなる錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴において、塩素含有化合物及び臭素含有化合物の少なくとも一種を含有する置換銀メッキ浴である。置換銀浴に塩素含有化合物などを含有するため、銀皮膜の変色が有効に防止される。また、乳酸、ギ酸、アスパラギン酸などのアミノ基含有化合物又はカルボキシル基含有化合物をさらに添加すると、皮膜の変色を防止できるとともに、メッキむらが改善され、均質で光沢のある銀白色のメッキ皮膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は置換銀メッキ浴に関して、皮膜の変色や色調ムラを防止して、均質で美麗な銀白色の皮膜が得られるものを提供する。
【背景技術】
【0002】
電子部品や自動車部品などの工業メッキ分野では、スズ又はスズ合金メッキがハンダ付け性に優れることから汎用されているが、ホイスカー発生の問題がある。
銀メッキはホイスカー発生の問題がスズより少なく、ハンダ付け性も良好である。そこで、置換銀メッキ浴の従来技術を挙げると、次の通りである。
(1)特許文献1
緻密な銀皮膜を得る目的で、可溶性銀塩と、チオ尿素類、チアゾール系化合物、ジチオカルバミン酸系化合物などの含イオウ化合物と、非イオン系界面活性剤とを含有する非シアン系の銀電気メッキ浴が開示されている(請求項1、段落8〜9参照)。
【0003】
(2)特許文献2
銅基材表面へのハンダ付け性を向上することを目的として(請求項1、段落8、段落13参照)、可溶性銀塩と、酸と、脂肪族アミン(エトキシル化タローアミン、エトキシル化ココアミン等)、脂肪族アミド、脂肪酸(ステアリン酸、オレイン酸等)などの添加物とを含有する非シアン系の置換銀メッキ浴が開示されている(段落13参照)。
【0004】
(3)特許文献3
可溶性銀塩と、ヨウ素化合物と、チオ尿素などの含イオウ化合物とを含有する非シアン系の置換銀メッキ浴が開示されている(請求項6参照)。また、実施例2には、ヨウ化銀と、チオ尿素と、ヨウ化カリウムを含有する具体的な置換銀メッキ浴が開示されている(段落22参照)。ヨウ素化合物は銀の錯化剤として作用する(段落12参照)。
【0005】
(4)特許文献4
銀皮膜の厚みの均一性、光沢性などの改善を目的として、可溶性銀塩と、錯化剤と、カルボン酸置換窒素含有ヘテロ環化合物を含有する置換銀メッキ浴が開示されている(請求項1、段落11参照)。上記錯化剤としては、アミノ酸、シュウ酸、マレイン酸などのポリカルボン酸、ニトリロトリ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸などのアミノカルボン酸、エチレンジアミンなどのポリアミン、クエン酸塩、酒石酸塩、グルコン酸塩、乳酸塩、クラウンエーテル、チオグリコール酸などのチオ含有配位子、エタノールアミンなどのアミノアルコールなどが挙げられる(請求項7、段落19参照)。また、カルボン酸置換窒素含有ヘテロ環化合物としては、ピコリン酸、キノリン酸、ニコチン酸などのピリジンカルボン酸を初め、ピペリジンカルボン酸、ピペラジンカルボン酸、ピロールカルボン酸などが挙げられる(請求項4、段落21参照)。
【0006】
(5)特許文献5
マイグレーション(電解移行)の防止を主目的として、可溶性銀塩と、錯化剤と、フッ素系界面活性剤を含有する置換銀メッキ浴が開示されている(請求項1、段落5参照)。錯化剤としてはピロリドン化合物が挙げられ(請求項2と4参照)、フッ素系界面活性剤としては、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルアミンオキシドなどが挙げられる(請求項5、段落9参照)。
また、具体的に、試料4には、銀錯化剤として2−ピロリドン−5−カルボン酸、フッ素系界面活性剤としてパーフルオロアルキルカルボン酸塩を含有する銀メッキ浴が、試料7には、銀錯化剤として2−ピロリドン−5−カルボン酸、フッ素系界面活性剤としてパーフルオロアルキルアミンオキシドを含有する銀メッキ浴が夫々開示されている(表1参照)。
【0007】
(6)特許文献6
浴安定性や皮膜の密着性などの改善を目的として、可溶性銀塩と、分子内に2個のモノスルフィド基を有する水溶性含イオウ有機化合物を含有する置換銀メッキ浴が開示されている(請求項1、段落6参照)。この含イオウ有機化合物は、分子内にスルフィド基の外に、カルボキシル基、アミノ基、スルホン酸基、ホスホン酸基などの水溶性基を有し、具体的には、1,2−ビス(2−ヒドロキシエチルチオ)エタン、2,2′−(エチレンジチオ)ジエタンチオールなどである(段落14参照)。
また、メッキ浴の安定剤として酒石酸、クエン酸、グルコン酸などを添加でき(段落18参照)、さらに、必要に応じて、皮膜の密着性などの向上のために、チオ尿素類を添加しても良いことが開示されている(段落20参照)。
【0008】
(7)特許文献7
皮膜の密着性、ハンダ付け性の改善を目的として、可溶性銀塩と、第一錯化剤のニトロ芳香族化合物と、第二錯化剤のアミノカルボン酸化合物、ヒドロキシカルボン酸化合物又はトリアゾール化合物とを含有する置換銀メッキ浴が開示されている(請求項1、段落6参照)。
上記第一錯化剤は、ニトロフェノール、ニトロベンゼンアルコール、ニトロアニリン、ニトロフェノールスルホン酸、ニトロ安息香酸などであり、第二錯化剤は、グリシン、ニトリロ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、乳酸、クエン酸、サリチル酸などである(段落11〜12参照)。
【0009】
(8)特許文献8
浴の経時安定性、皮膜外観の改善を目的として、可溶性銀塩と、特定のスルフィド化合物とを含有する置換銀メッキ浴が開示されている(請求項1〜2、段落6参照)。また、当該銀メッキ浴には、チオ尿素類、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸などのアミノカルボン酸類、エチレンジアミン、ジエチリントリアミンなどのポリアミン類、酒石酸、クエン酸、グルコン酸などのオキシカルボン酸類を添加しても良いことが記載されている(請求項3、段落25参照)。
【0010】
(9)特許文献9
可溶性銀塩と、アミノ酸、アミノ酢酸、ポリカルボン酸、クエン酸塩、酒石酸塩などの錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴が開示されている(請求項6、段落41参照)。また、当該銀メッキ浴には、界面活性剤(ノニオン系が好適;段落45参照)、エトキシ化アルキルアミン(第三級アミン)等の変色防止剤などを添加できることが記載されている(段落47参照)。但し、ハロゲン化物イオンは実質的に含まないことが好ましい点が記載されている(段落50参照)。
【0011】
【特許文献1】特開平9−143786号公報
【特許文献2】特開2000−246432号公報
【特許文献3】特開2002−266077号公報
【特許文献4】特開2004−143588号公報
【特許文献5】特開2000−144440号公報
【特許文献6】特開2000−309875号公報
【特許文献7】特開2005−42166号公報
【特許文献8】特開2002−356783号公報
【特許文献9】特開平8−232072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
銀メッキ皮膜は美麗で光沢のある銀白色の皮膜を理想とするが、可溶性銀塩とチオ尿素を基本組成とする置換銀浴を用いてメッキを行うと、チオ尿素中のイオウ元素の吸着が原因と推定される変色(黄変)が発生するという弊害があり、この黄変はハンダ付け性にも悪影響を及ぼす恐れがある。
また、たとえ、変色のない皮膜が得られても、部分的にくすんだ銀白色を呈した、いわゆるメッキむらが生じる問題が依然として残り、全体に均質で美麗な銀白色のメッキ皮膜を得ることは容易でない。
【0013】
本発明は、置換銀メッキにおいて、変色及び色調ムラを防止して、均質で美麗な光沢の銀メッキ皮膜を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、可溶性銀塩とチオ尿素を基本組成とする置換銀浴において、塩素又は臭素イオンを含有すると、銀皮膜の変色が有効に防止できることを突き止めた。しかしながら、この塩素又は臭素イオンを含有した置換銀メッキ浴では、変色のない銀皮膜を形成できる反面、部分的にくすんだ銀白色のメッキむらが生じ易いという問題が発生し、その改善を鋭意検討した。
その結果、乳酸、ギ酸、アスパラギン酸などのアミノ基含有化合物又はカルボキシル基含有化合物をさらに含有させると、このメッキむらが改善され、均質で光沢のある銀白色のメッキ皮膜が得られることを見い出して、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明1は、可溶性銀塩と、チオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴において、
塩素含有化合物及び臭素含有化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0016】
本発明2は、可溶性銀塩と、チオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴において、
(A)ハロゲン含有化合物と、
(B)アミノ基含有化合物及びカルボキシル基含有化合物の少なくとも一種
とを含有することを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0017】
本発明3は、上記本発明1又は2において、含イオウ化合物がチオ尿素類であることを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0018】
本発明4は、上記本発明1の塩素含有化合物、臭素含有化合物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、塩素アニオン又は臭素アニオンを含むカチオン系界面活性剤であることを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0019】
本発明5は、可溶性銀塩と、チオ尿素類からなる錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴において、塩素アニオンを含むカチオン系界面活性剤を含有することを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0020】
本発明6は、上記本発明2のハロゲン含有化合物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、塩素アニオン、臭素アニオン又はヨウ素アニオンを含むカチオン系界面活性剤、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムであることを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0021】
本発明7は、上記本発明2〜3、6のいずれかにおいて、成分(B)が、アスパラギン酸、グリシン、アラニンなどのアミノ酸、アミノメタンスルホン酸、タウリン、N−メチルタウリン、3−アミノ−1−プロパンスルホン酸などのアミノスルホン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ニトリロトリ酢酸などのアミノカルボン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸などのオキシカルボン酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸などのカルボン酸、或はこれらの塩であることを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0022】
本発明8は、上記本発明1〜7のいずれかにおいて、塩素含有化合物、臭素含有化合物又はハロゲン含有化合物のメッキ浴に対する含有量が、10-6〜100g/Lであることを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【0023】
本発明9は、上記本発明2〜8のいずれかにおいて、成分(B)のメッキ浴に対する含有量が、10-4〜5モル/Lであることを特徴とする置換銀メッキ浴である。
【発明の効果】
【0024】
本発明1では、銀塩と銀の錯化剤を基本組成とする置換銀メッキ浴において、塩素含有化合物又は臭素含有化合物を添加するため、メッキ皮膜の変色を防止して、銀白色の皮膜を得ることができる。
また、本発明2では、塩素、臭素などのハロゲンを含有する化合物に加えて、さらにアミノ基含有化合物又はカルボキシル基含有化合物とを併用添加するため、銀メッキ皮膜の変色を防止しながら、皮膜の色調ムラを抑制して均質で光沢のある銀白色の銀皮膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
本発明は、第一に、可溶性銀塩と、チオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる錯化剤とを基本組成とするメッキ浴に、塩素含有化合物及び臭素含有化合物の少なくとも一種を含有した置換銀メッキ浴であり(本発明1参照)、第二に、上記基本組成のメッキ浴に、(A)ハロゲン含有化合物と、(B)アミノ基含有化合物及びカルボキシル基含有化合物の少なくとも一種とを含有する置換銀メッキ浴である(本発明2参照)。
【0026】
本発明1の置換銀メッキ浴に含有する可溶性銀塩は、浴中でAg+を生成する可溶性の塩類であれば任意のものが使用でき、特段の制約はなく、難溶性塩をも排除するものではない。
可溶性銀塩としては、硫酸銀、亜硫酸銀、炭酸銀、酢酸銀、乳酸銀、スルホコハク酸銀、硝酸銀、有機スルホン酸銀、ホウフッ化銀、クエン酸銀、酒石酸銀、グルコン酸銀、スルファミン酸銀、シュウ酸銀、酸化銀などの可溶性塩が使用でき、また、本来は難溶性であるが、スルフィド系化合物などの作用によりある程度の溶解性を確保できる塩化銀なども使用できる。銀塩の好ましい具体例としては、メタンスルホン酸銀、エタンスルホン酸銀、酢酸銀、乳酸銀、クエン酸銀などが挙げられる。
メッキ浴に対する当該可溶性銀塩の金属塩換算の含有量は、0.0001〜200g/Lであり、好ましくは1〜30g/Lである。
【0027】
本発明1の置換銀メッキ浴では、浴中の銀イオンを安定化するために錯化剤を含有する。当該錯化剤はチオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる。これらの含イオウ化合物は夫々を単用又は併用でき、或は、異種を複用(例えば、チオ尿素とスルフィド類とを複用)できる。メッキ浴に対する含イオウ化合物の添加量は0.0001〜5モル/Lであり、0.03〜2モル/Lである。
【0028】
上記チオ尿素類はチオ尿素及びチオ誘導体である。チオ尿素誘導体には、1,3―ジメチルチオ尿素、トリメチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素(例えば、1,3―ジエチルチオ尿素)、1,3―ジイソプロピルチオ尿素、アリルチオ尿素、アセチルチオ尿素、エチレンチオ尿素、1,3―ジフェニルチオ尿素、二酸化チオ尿素、チオセミカルバジド、S−メチルイソチオ尿素硫酸塩、トリブチルチオ尿素、塩酸ベンジルイソチオ尿素、1,3−ジブチルチオ尿素、1−ナフチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、1−フェニルチオ尿素、1−メチルチオ尿素等が挙げられる。
【0029】
上記メルカプタン類には、システイン、N−アセチルシステイン、チオグリコール、メルカプトコハク酸、メルカプトイソ酪酸、メルカプト酢酸、ジメルカプト酢酸、2−メルカプトプロピオン酸、3−メルカプトプロピオン酸、2,3−ジメルカプトコハク酸、メルカプトアニリン、メルカプトピリジンなどが挙げられる。
【0030】
上記スルフィド類には、メチオニン、エチオニン、シスチン、チオジグリコール酸、チオジグリコール、2,2′−チオビス(エチルアミン)、チオジプロピオン酸、チオジエタンスルホン酸、チオジプロパノール、3,3′−チオビス(プロピルアミン)、チオジ酪酸、チオジプロパンスルホン酸、ビス(ウンデカエチレングリコール)チオエーテル、ビス(ドデカエチレングリコール)チオエーテル、ビス(ペンタデカエチレングリコール)チオエーテル、ビス(トリエチレングリコール)チオエーテル、4,7,10−トリチアトリデカン−1,2,12,13−テトラオール、6,9,12−トリチア−3,15−ジオキサヘプタデカン−1,17−ジオール、3,6−ジチアオクタン−1,8―ジオール、4,7−ジチアデカン−1,10−ジオール、3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジオール、3,6−ジチアオクタン−1,8―ジアミン、3,6−ジチアオクタン−1,8―ジカルボン酸、4,7,10−トリチアトリデカン−1,13−ジスルホン酸ジナトリウム、3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジスルホン酸、4,7,10,13−テトラチアヘキサデカン−1,16−ジスルホン酸、1,8−ビス(2−ピリジル)−3,6−ジチアオクタンなどが挙げられる。
【0031】
本発明1の置換銀メッキ浴は有機酸、無機酸、或はその塩をベース酸としても良いし、可溶性銀塩、錯化剤を水に溶解させて建浴しても良い。
有機酸としては、排水処理が比較的容易なアルカンスルホン酸、アルカノールスルホン酸、芳香族スルホン酸等の有機スルホン酸、或は、脂肪族カルボン酸などが好ましい。
無機酸としては、ホウフッ化水素酸、ケイフッ化水素酸、スルファミン酸、塩酸、硫酸、硝酸、過塩素酸等が挙げられる。
上記の酸(又は塩)は単用又は併用でき、その含有量は0.1〜300g/Lであり、好ましくは20〜120g/Lである。
【0032】
本発明1の置換銀メッキ浴は、塩素含有化合物、臭素含有化合物を含有して、銀皮膜の変色を防止することを特徴とする。
上記塩素含有化合物は塩素がイオン結合又は共有結合した化合物であり、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、塩素アニオンを含むカチオン系界面活性剤などが挙げられ(本発明4参照)、塩素アニオンを含むカチオン系界面活性剤が好ましい(本発明5参照)。臭素含有化合物も同様に、臭素がイオン結合又は共有結合した化合物であり、具体的には、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化アンモニウム、臭素アニオンを含むカチオン系界面活性剤などが挙げられる(本発明4参照)。
上記塩素含有化合物は単用又は併用でき、また、臭素含有化合物も同様である。塩素含有化合物と臭素含有化合物を複用しても良い。
塩素含有化合物又は臭素含有化合物のメッキ浴に対する含有量は10-6〜100g/Lが適量であり、0.01〜10g/Lが好ましい。適正範囲より少ないと、銀皮膜の変色防止効果が損なわれ、多過ぎても効果にあまり差異がなく、コストの無駄である(本発明8参照)。
【0033】
上記塩素アニオン又は臭素アニオンを含むカチオン系界面活性剤としては、下記の一般式(a)で表される第4級アンモニウム塩
(R1・R2・R3・R4N)+・X- …(a)
(式(a)中、Xは塩素、臭素、R1、R2、R3及びR4は同一又は異なるC1〜C20アルキル、アリール又はベンジルを示す。)或は、
下記の一般式(b)で表されるピリジニウム塩などが挙げられる。
6−(C54N−R5)+・X- …(b)
(式(b)中、C54Nはピリジン環、Xは塩素、臭素、R5はC1〜C20アルキル、R6はH又はC1〜C10アルキルを示す。)
【0034】
塩の形態のカチオン系界面活性剤の例としては、ラウリルトリメチルアンモニウム塩、ステアリルトリメチルアンモニウム塩、ラウリルジメチルエチルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルエチルアンモニウム塩、ジメチルベンジルラウリルアンモニウム塩、セチルジメチルベンジルアンモニウム塩、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム塩、トリメチルベンジルアンモニウム塩、トリエチルベンジルアンモニウム塩、ジメチルジフェニルアンモニウム塩、ベンジルジメチルフェニルアンモニウム塩、ヘキサデシルピリジニウム塩、ラウリルピリジニウム塩、ドデシルピリジニウム塩、ステアリルアミンアセテート、ラウリルアミンアセテート、オクタデシルアミンアセテートなどが挙げられる。
本発明1の置換銀メッキ浴の代表例を挙げると、可溶性銀塩と、チオ尿素類と、塩素アニオンを含むカチオン系界面活性剤とを含有するメッキ浴である(本発明5参照)。
【0035】
一方、本発明2の置換銀メッキ浴は、(A)ハロゲン含有化合物と、(B)アミノ基含有化合物とカルボキシル基含有化合物の少なくとも一種とを含有して、銀メッキ皮膜の変色とメッキむらを防止することを特徴とする。
上記ハロゲン含有化合物(A)は、ハロゲンがイオン結合又は共有結合した化合物であり、具体的には、上記本発明1のメッキ浴に使用する塩素含有化合物や臭素含有化合物を初め、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ素イオンを含むカチオン系界面活性剤であり(本発明6参照)、また、冒述の特許文献5のフッ素含系界面活性剤などを排除するものではない。
上記ハロゲン含有化合物は単用でき、ハロゲン含有化合物のメッキ浴に対する含有量は本発明1の塩素含有化合物などの含有量と同じである。
【0036】
また、上記成分(B)のアミノ基含有化合物は、アニリンやアミノエタノールのようなアミノ基を有する化合物だけではなく、アミドスルホン酸、アミド硫酸、アミドリン酸のようなアミド基を有する化合物を含む。成分(B)のカルボキシル基含有化合物は、乳酸、ギ酸、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、グルコン酸、L−アスコルビン酸などのようなカルボキシル基を有する化合物である。また、アラニン、L−アスパラギン酸、グリシン、オルニチン、L−グルタミン酸などのようなアミノ基とカルボキシル基を兼備するアミノ酸類、アミノメタンスルホン酸、タウリン、N−メチルタウリン、3−アミノ−1−プロパンスルホン酸などのアミノスルホン酸類、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ニトリロトリ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、N,N−ジカルボキシメチル−L−アラニン、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、1,3−プロパンジアミンテトラ酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパンテトラ酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸などのアミノカルボン酸類、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸、ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)、ホスホノブタントリカルボン酸、N,N,N′,N′-テトラキス(ホスホノメチル)エチレンジアミンなどのようにアミノ基とホスホノ基を兼備するアミノホスホン酸類であっても良い。
成分(B)の好ましい例には、本発明7に示すように、アスパラギン酸、グリシン、アラニンなどのアミノ酸、アミノメタンスルホン酸、タウリン、N−メチルタウリン、3−アミノ−1−プロパンスルホン酸などのアミノスルホン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ニトリロトリ酢酸、ヒドロキシエチルエチレンジアミントリ酢酸、トリエチレンテトラミンヘキサ酢酸、N,N−ジカルボキシメチル−L−アラニン、ヒドロキシエチルイミノジ酢酸、1,3−プロパンジアミンテトラ酢酸、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパンテトラ酢酸、ジヒドロキシエチルグリシン、グリコールエーテルジアミンテトラ酢酸などのアミノカルボン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸などのオキシカルボン酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸などのカルボン酸、或はこれらの塩が挙げられる。
上記成分(B)としては、アミノ基含有化合物又はカルボキシル基含有化合物を夫々単用又は併用でき、両者を複用しても良い。上記アミノ酸類、アミノカルボン酸類を使用すると、アミノ基含有化合物とカルボキシル基含有化合物を複用することになる。
上記成分(B)のメッキ浴に対する含有量は0.0001〜5モル/Lが適量であり、0.03〜2モル/Lが好ましい。適正範囲より少ないと、銀皮膜のメッキむら防止効果が損なわれ、多過ぎても効果にあまり差異がなく、コストの無駄である(本発明9参照)。
本発明2の置換銀メッキ浴の代表例を挙げると、可溶性銀塩と、チオ尿素類と、塩素アニオンを含むカチオン系界面活性剤と、乳酸、ギ酸、タウリンのうちの少なくとも一種とを含有するメッキ浴である。
本発明の置換銀メッキ浴には、上記成分以外に、必要に応じて、光沢剤、界面活性剤などの各種添加剤を含有できる。また、本発明の置換銀メッキ浴を、プリント回路板、半導体集積回路、抵抗、可変抵抗、コンデンサー、フィルター、インダクター、サーミスター、水晶振動子、スイッチ、リード線などの電子部品に適用して、これらの素地上に銀メッキ皮膜を形成できることはいうまでもない。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の置換銀メッキ浴の実施例、当該メッキ浴から得られた銀皮膜の外観評価試験例を順次説明する。
尚、本発明は下記の実施例、試験例に拘束されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で任意の変形をなし得ることは勿論である。
【0038】
先ず、上記本発明1に示すように、塩素含有化合物又は臭素含有化合物を添加した置換銀メッキ浴の実施例を説明し、浴から得られる銀メッキ皮膜の変色防止能の度合を試験評価した。
《塩素含有化合物又は臭素含有化合物を添加した置換銀メッキ浴の実施例》
実施例1〜8のうち、実施例1〜3、5〜6は塩素含有化合物を添加した例、実施例4と7は臭素含有化合物を添加した例、実施例8は塩素含有化合物と臭素含有化合物を併用添加した例である。実施例4〜6は塩素アニオン又は臭素アニオンを含むカチオン系界面活性剤を添加した例、その他の実施例は塩化カリウム、塩化ナトリウムなどのイオン結合化合物を添加した例である。
また、比較例1〜2は塩素含有化合物又は臭素含有化合物を添加しないブランク例である。
【0039】
(1)実施例1
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酢酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
塩化カリウム 0.01モル/L
【0040】
(2)実施例2
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酢酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
チオ尿素 0.50モル/L
塩化ナトリウム 0.01モル/L
【0041】
(3)実施例3
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酢酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
酢酸(遊離酸として) 1.00モル/L
チオ尿素 0.50モル/L
塩化ナトリウム 0.01モル/L
【0042】
(4)実施例4
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酢酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
1,3−ジエチルチオ尿素 0.40モル/L
ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド 10g/L
【0043】
(5)実施例5
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.20モル/L
メタンスルホン酸(遊離酸として) 0.80モル/L
メルカプトコハク酸 0.10モル/L
テトラブチルアンモニウムクロライド 10g/L
【0044】
(6)実施例6
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
デシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド 10g/L
【0045】
(7)実施例7
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
乳酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
臭化ナトリウム 0.01モル/L
【0046】
(8)実施例8
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
乳酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
臭化ナトリウム 0.01モル/L
塩化ナトリウム 0.01モル/L
【0047】
(9)比較例1
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酢酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
【0048】
(10)比較例2
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酢酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
1,3−ジエチルチオ尿素 0.50モル/L
【0049】
《銀メッキ皮膜の変色防止能評価試験例》
そこで、上記実施例1〜8及び比較例1〜2の各置換銀メッキ浴について、25×25mmの圧延銅板の試験片をメッキ温度50℃、1分間の条件で浸漬することにより、銅板表面に置換銀メッキを施し、メッキ直後と5日経過後の銀メッキ皮膜を夫々目視観察して、当該皮膜外観の変色防止能の優劣を下記の基準で評価した。
○:光沢のある銀白色を呈した。
△:淡黄色を呈した。
×:黄変した。
【0050】
試験結果は下表の通りである。
変色防止能評価 変色防止能評価
直後 5日後 直後 5日後
実施例1 ○ ○ 比較例1 △ ×
実施例2 ○ ○ 比較例2 △ ×
実施例3 ○ ○
実施例4 ○ ○
実施例5 ○ ○
実施例6 ○ ○
実施例7 ○ ○
実施例8 ○ ○
【0051】
上表によると、塩素含有化合物又は臭素含有化合物を添加した実施例では、5日経過後の時点でも銀皮膜の変色は認められず、光沢のある銀白色の皮膜が得られた。この場合、カチオン系界面活性剤の形態で添加しても、塩化ナトリウムなどの形態で添加しても銀皮膜の変色を防止する能力に変わりはなかった。
これに対して、塩素含有化合物又は臭素含有化合物を添加しない比較例1〜2では、メッキ直後に既に皮膜は淡黄色を呈し、5日後には皮膜はさらに黄変したことから、銀白色のメッキ皮膜は得られなかった。
【0052】
冒述したように、塩素含有化合物などを添加した置換銀メッキ浴では、銀皮膜の変色を防止して、銀白色の皮膜が得られる反面、くすんだ銀白色が部分的に見られる、いわゆるメッキむらが銀皮膜に生じ易くなる。
そこで、塩素含有化合物を初めとするハロゲン含有化合物(A)に、アミノ基含有化合物又はカルボキシル基含有化合物(B)をさらに併用添加した置換銀メッキ浴の実施例を説明して、浴から得られる銀皮膜の変色防止能力とメッキむら防止能力とを総合的に評価試験した。
【0053】
《成分(A)及び(B)を添加した置換銀メッキの実施例》
実施例9〜16のうち、実施例9〜10は塩素含有化合物とカルボキシル基含有化合物を併用添加した例、実施例15は臭素含有化合物とカルボキシル基含有化合物を併用添加した例、実施例14は塩素含有化合物とアミノ基含有化合物を併用添加した例、実施例11〜13は塩素含有化合物とカルボキシル基含有化合物とアミノ基含有化合物を併用添加した例、実施例16は塩素含有化合物と臭素含有化合物とカルボキシル基含有化合物とアミノ基含有化合物を併用添加した例である。
また、比較例3〜4は塩素含有化合物又は臭素含有化合物を添加し、カルボキシル基含有化合物又はアミノ基含有化合物を添加しない例(成分(B)のブランク例)である。比較例5〜7はカルボキシル基含有化合物を添加し、塩素含有化合物又は臭素含有化合物を添加しない例(成分(A)のブランク例)である。
【0054】
(1)実施例9
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酸化銀(Ag+として) 0.05モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
塩化カリウム 0.01モル/L
ギ酸 0.20モル/L
【0055】
(2)実施例10
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
乳酸銀(Ag+として) 0.01モル/L
チオ尿素 0.10モル/L
塩化カリウム 0.01モル/L
酒石酸 0.05モル/L
【0056】
(3)実施例11
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酢酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
チオ尿素 0.50モル/L
塩化ナトリウム 0.01モル/L
アスパラギン酸 0.40モル/L
【0057】
(4)実施例12
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.50モル/L
メルカプトコハク酸 1.00モル/L
ニトリロトリ酢酸 0.50モル/L
トリエチルベンジルアンモニウムクロライド 10g/L
【0058】
(5)実施例13
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.40モル/L
メタンスルホン酸(遊離酸として) 1.00モル/L
メルカプトコハク酸 0.50モル/L
ニトリロトリ酢酸 0.50モル/L
トリエチルベンジルアンモニウムクロライド 15g/L
【0059】
(6)実施例14
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
タウリン 0.20モル/L
ヘキサデシルピリジニウムクロライド 10g/L
【0060】
(7)実施例15
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
乳酸銀(Ag+として) 1.00モル/L
チオ尿素 1.50モル/L
乳酸 2.00モル/L
ギ酸ナトリウム 1.00モル/L
臭化ナトリウム 10g/L
【0061】
(8)実施例16
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
乳酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
クエン酸 0.30モル/L
グルタミン酸 0.30モル/L
臭化ナトリウム 0.01モル/L
塩化ナトリウム 0.01モル/L
【0062】
(9)比較例3
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酢酸銀(Ag+として) 0.05モル/L
チオ尿素 0.50モル/L
塩化ナトリウム 0.01モル/L
【0063】
(10)比較例4
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
乳酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
臭化ナトリウム 0.01モル/L
【0064】
(11)比較例5
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
酢酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
1,3−ジエチルチオ尿素 0.30モル/L
酒石酸 0.20モル/L
【0065】
(12)比較例6
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
乳酸銀(Ag+として) 0.30モル/L
チオ尿素 0.60モル/L
クエン酸 0.20モル/L
【0066】
(13)比較例7
下記の組成で置換銀メッキ浴を建浴した。
メタンスルホン酸銀(Ag+として) 0.10モル/L
チオ尿素 0.30モル/L
ギ酸 0.10モル/L
【0067】
《銀メッキ皮膜の変色防止能とメッキむら防止能の総合評価試験例》
そこで、上記実施例9〜16及び比較例3〜7の各置換銀メッキ浴について、25×25mmの圧延銅板の試験片をメッキ温度50℃、1分間の条件で浸漬することにより、銅板表面に置換銀メッキを施し、5日経過後の銀メッキ皮膜を目視観察して、当該皮膜外観の変色防止能とメッキむらの優劣を統合的にまとめて、下記の基準で総合評価した。
◎:変色は認められず、均質で光沢のある銀白色を呈した。
△:変色は認められなかったが、部分的にくすんだ銀白色を呈した。
×:黄変し、メッキむらも認められた。
【0068】
下表はその試験結果である。
総合評価 総合評価
実施例9 ◎ 比較例3 △
実施例10 ◎ 比較例4 △
実施例11 ◎ 比較例5 ×
実施例12 ◎ 比較例6 ×
実施例13 ◎ 比較例7 ×
実施例14 ◎
実施例15 ◎
実施例16 ◎
【0069】
上表によると、カルボキシル基含有化合物又はアミノ基含有化合物(B)を添加して、塩素含有化合物又は臭素含有化合物(A)を添加しない比較例5〜7では、変色により実用的な銀皮膜が得られないうえ、メッキむらも認められた。また、塩素含有化合物又は臭素含有化合物(A)を添加して、カルボキシル基含有化合物又はアミノ基含有化合物(B)を添加しない比較例3〜4では、皮膜の変色は認められなかったが、くすんだ銀白色が部分的に認められ、いわゆるメッキむらが発生した。
これに対して、成分(A)と成分(B)を共存させた実施例9〜16では全てに亘り変色とメッキむらは認められず、均一で光沢のある銀白色の美麗な銀皮膜が得られ、総合評価は◎であった。
この場合、成分(A)は塩素含有化合物であっても、臭素含有化合物でも有効であり、また、成分(B)はカルボキシル基含有化合物であっても、アミノ基含有化合物でも、或はこれらの両官能基を有する化合物(例えば、アスパラギン酸やグルタミン酸等のアミノ酸など)でも有効であり、銀皮膜の変色を防止するとともに、メッキむらのない均質な皮膜を形成することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性銀塩と、チオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴において、
塩素含有化合物及び臭素含有化合物の少なくとも一種を含有することを特徴とする置換銀メッキ浴。
【請求項2】
可溶性銀塩と、チオ尿素類、スルフィド類、メルカプタン類などの含イオウ化合物からなる錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴において、
(A)ハロゲン含有化合物と、
(B)アミノ基含有化合物及びカルボキシル基含有化合物の少なくとも一種
とを含有することを特徴とする置換銀メッキ浴。
【請求項3】
含イオウ化合物がチオ尿素類であることを特徴とする請求項1又は2に記載の置換銀メッキ浴。
【請求項4】
請求項1の塩素含有化合物、臭素含有化合物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、塩素アニオン又は臭素アニオンを含むカチオン系界面活性剤であることを特徴とする置換銀メッキ浴。
【請求項5】
可溶性銀塩と、チオ尿素類からなる錯化剤とを含有する置換銀メッキ浴において、
塩素アニオンを含むカチオン系界面活性剤を含有することを特徴とする置換銀メッキ浴。
【請求項6】
請求項2のハロゲン含有化合物が、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、塩素アニオン、臭素アニオン又はヨウ素アニオンを含むカチオン系界面活性剤、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウムであることを特徴とする置換銀メッキ浴。
【請求項7】
成分(B)が、アスパラギン酸、グリシン、アラニンなどのアミノ酸、アミノメタンスルホン酸、タウリン、N−メチルタウリン、3−アミノ−1−プロパンスルホン酸などのアミノスルホン酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸、ニトリロトリ酢酸などのアミノカルボン酸、乳酸、クエン酸、酒石酸などのオキシカルボン酸、ギ酸、酢酸、マレイン酸などのカルボン酸、或はこれらの塩であることを特徴とする請求項2〜3、6のいずれか1項に記載の置換銀メッキ浴。
【請求項8】
塩素含有化合物、臭素含有化合物又はハロゲン含有化合物のメッキ浴に対する含有量が、10-6〜100g/Lであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の置換銀メッキ浴。
【請求項9】
成分(B)のメッキ浴に対する含有量が、10-4〜5モル/Lであることを特徴とする請求項2〜8のいずれか1項に記載の置換銀メッキ浴。