説明

義歯の製作方法

【課題】義歯と該義歯が接触する口腔内の粘膜面との間に唾液が入る唾液スペースを確保することにより、好ましい吸着性と装着感を備え、離脱するおそれのない義歯の製作方法を提供する。
【解決手段】患者の口腔に対応するオス型の第一石膏模型(11a)を形成し、該第一石膏模型に基いてオス型の第二石膏模型(11b)を形成し、該第二石膏模型に基いて義歯(21)を製作することにより、該義歯と該義歯が接触する口腔内の粘膜面(23)との間に唾液が入る唾液スペース(25)を確保するようにしたことを特徴とする義歯の製作方法。義歯の咬合堤(15’)には唾液スペースから該咬合堤を貫通して該咬合堤の外部に至る唾液通路(27)を形成する。唾液通路における咬合堤の外部に臨む端部(27a)には唾液の流出のみを許す逆止弁(31)を備えさせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯の製作方法に関するものであり、特に義歯と該義歯が接触する口腔内の粘膜面との間に唾液が入る唾液スペースを確保することにより、義歯の吸着性と装着感を向上させた義歯の製作方法に係るものである。
【背景技術】
【0002】
義歯は、一般に下記の如く製作される。
【0003】
(1)アルジネート等の印象材により、患者の口腔のメス型を形成する。
【0004】
(2)上記メス型に石膏を注入してオス型の石膏模型1を形成する。石膏模型1の一例を図3に示す。
【0005】
(3)石膏模型1の上で咬合床2を手で製作する。図4参照。咬合床2は、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂の基礎床3上に硬い蝋の床用蝋(咬合堤)5を歯列弓に対応させて突設形成してなるものである。基礎床3の厚さは、約1mmである。床用蝋5は、人工歯を植設するベースとなるものである。
【0006】
(4)咬合床2を患者の口腔内に入れて高さを調整し、床用蝋5の表面約1mmを火炎で軟化させて咬合採得する。
【0007】
(5)咬合床2の床用蝋5に人工歯7を融着して蝋義歯9を製作する(図5参照)。その際、臼歯の高さ、前歯の審美性を調整し、適宜歯肉を形成する。人工歯7は硬い合成樹脂、陶器等により形成される。この蝋義歯9を患者の口腔に嵌めて試適し、必要に応じて人工歯の再排列等の調整を行なう。人工歯7は床用蝋5から極めて外れ易い。人工歯7を移動させる際には、熱したスパチュラ等により床用蝋5を溶かす。なお、特開平8−80306号公報は、合成樹脂製の人工歯を開示している。
【0008】
(6)蝋義歯9を石膏模型1と共に寒天フラスコに入れ、加圧、加熱して蝋義歯9の蝋をロストワックス法によりポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂に置き換える。即ち、アクリル系樹脂の義歯が形成される。
【0009】
(7)寒天フラスコから義歯を取り出し、石膏模型1を義歯から除去する。なお、石膏模型1は寒天フラスコ内で熱により破壊されている。以上により、義歯が形成される。
【特許文献1】特開平8−80306号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかるに、上記従来の義歯の製作方法においては、石膏模型は固まると約5%の体積膨張を起こすが、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂の基礎床を備えた咬合床は約7%の体積収縮を起こす。従って、製作された義歯は所定の寸法よりも若干小さなものとなる。更に、義歯は各部の厚みにより収縮の度合いが相違するため、義歯に変形が生じ、義歯は更に窮屈なものとなる。その結果、義歯は口腔内の粘膜面に対する吸着性と義歯の装着感とが低下し、義歯が離脱するおそれが生ずる。
【0011】
上記従来の義歯の製作方法におけるこのような状況に鑑み、本発明は、義歯と該義歯が接触する口腔内の粘膜面との間に唾液が入る唾液スペースを確保することにより、好ましい吸着性と装着感を備え、離脱するおそれのない義歯の製作方法を提供しようとしてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、下記の義歯の製作方法を提供する。
【0013】
[1]患者の口腔に対応するオス型の第一石膏模型を形成し、該第一石膏模型に基いてオス型の第二石膏模型を形成し、該第二石膏模型に基いて義歯を製作することにより、該義歯と該義歯が接触する口腔内の粘膜面との間に唾液が入る唾液スペースを確保するようにしたことを特徴とする義歯の製作方法(請求項1)。
【0014】
[2]義歯の咬合堤には前記唾液スペースから該咬合堤を貫通して該咬合堤の外部に至る唾液通路を形成する(請求項2)。
【0015】
[3]前記唾液通路における咬合堤の外部に臨む端部には唾液の流出のみを許す逆止弁を備えさせる(請求項3)。
【0016】
[発明の作用]
[請求項1の発明]
第一石膏模型は固まると例えば約5%の体積膨張を起こす。体積膨張した第一石膏模型に基いて形成された第二石膏模型も固まると更に例えば約5%の体積膨張を起こす。換言すれば、第一石膏模型は患者の口腔よりも若干大きく形成され、第二石膏模型は第一石膏模型よりも更に大きく形成される。義歯の合成樹脂部は例えば約7%の体積収縮を起こすのであるが、義歯は第一石膏模型よりも更に大きな第二石膏模型に基いて製作されるため、義歯は患者の口腔内における対応部よりも若干大きく形成される。その結果、義歯と該義歯が接触する口腔内の粘膜面との間に唾液が入る唾液スペースが確保される。咬合時に義歯は口腔内の粘膜面方向に押圧されるため、唾液スペース内に入った唾液は該唾液スペースより外部に押し出され、その結果、義歯は口腔内の粘膜面に吸着される。即ち、唾液スペースを確保することにより、好ましい吸着性と装着感を備え、離脱するおそれのない義歯が得られる。
【0017】
[請求項2の発明]
唾液スペースに入った唾液は、咬合時に、更に唾液通路を介して外部に押し出される。従って、義歯は口腔内の粘膜面により強力に吸着される。
【0018】
[請求項3の発明]
唾液通路における咬合堤の外部に臨む端部に備えさせた逆止弁は、該唾液通路からの唾液の流出のみを許し、該唾液通路内への唾液の流入を許さないため、咬合時には、唾液スペース内の唾液は唾液通路を通ってより効果的に外部に押し出される。従って、義歯は口腔内の粘膜面に更に強力に吸着される。
【発明の効果】
【0019】
[請求項1の発明]
義歯と該義歯が接触する口腔内の粘膜面との間に唾液が入る唾液スペースが確保されるため、好ましい吸着性と装着感を備え、離脱するおそれのない義歯が得られる。
【0020】
また、義歯が口腔内の粘膜面に好ましく吸着されるため、義歯を天然歯に係止する鈎(クラスプ)を要しない義歯が得られる。
【0021】
義歯は、第一石膏模型ではなく、第二石膏模型に基いて製作されるため、第一石膏模型は、義歯の完成後も、そのまま残存する。従って、歯科技工士は、義歯を第一石膏模型に取り付けた状態で歯科医に納品することができる。そのため、歯科技工士は、歯科医に対し、義歯が唾液スペースを備えていること及びその効果を目視的に説明することができる。また、後日、義歯に不具合が生じたときには、義歯を第一石膏模型に取り付けて調整することもできる。
【0022】
[請求項2の発明]
義歯の咬合堤には唾液スペースから該咬合堤を貫通して該咬合堤の外部に至る唾液通路を形成したため、義歯は口腔内の粘膜面により強力に吸着される。
【0023】
[請求項3の発明]
唾液通路における咬合堤の外部に臨む端部には唾液の流出のみを許す逆止弁を備えさせたため、義歯は口腔内の粘膜面に更に強力に吸着される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明においては、義歯は下記の如く製作される。
【0025】
(1)アルジネート等の印象材により、患者の口腔のメス型を形成する。
【0026】
(2)上記メス型に石膏(歯科用硬石膏)を注入してオス型の第一石膏模型11aを形成する。第一石膏模型11aの一例を図3に示す。第一石膏模型11aは固まると例えば約5%の体積膨張を起こす。
【0027】
(2’)体積膨張した第一石膏模型11aに基いてオス型の第二石膏模型11bを形成する。即ち、第一石膏模型11aを寒天フラスコに入れ、該寒天フラスコに寒天を注入する。寒天が固まった後、第一石膏模型11aを寒天から取り外して寒天のメス型を得る。この寒天のメス型に石膏(歯科用硬石膏)を注入して第二石膏模型11bを形成する。第二石膏模型11bも固まると更に例えば約5%の体積膨張を起こす。即ち、第二石膏模型11bは第一石膏模型11aよりも更に約5%体積が膨張している。なお、寒天は、その欠点である破断率の高さを解消するため、歯科用寒天に天然寒天を加えてなるものを使用することが望ましい。
【0028】
以後、第二石膏模型11bを用いて、上記従来の製作方法における(3)〜(7)と同様にして、義歯を製作する。
【0029】
(3)第二石膏模型11bの上で咬合床12を手で製作する。図4参照。咬合床12は、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂の基礎床13上に硬い蝋の床用蝋(咬合堤)15を歯列弓に対応させて突設形成してなるものである。基礎床13の厚さは、約1mmである。床用蝋15は、人工歯を植設するベースとなるものである。
【0030】
(4)咬合床12を患者の口腔内に入れて高さを調整し、床用蝋15の表面約1mmを火炎で軟化させて咬合採得する。
【0031】
(5)咬合床12の床用蝋15に人工歯17を融着して蝋義歯19を製作する(図5参照)。その際、臼歯の高さ、前歯の審美性を調整し、適宜歯肉を形成する。人工歯17は硬い合成樹脂、陶器等により形成される。この蝋義歯19を患者の口腔に嵌めて試適し、必要に応じて人工歯の再排列等の調整を行なう。
【0032】
(6)蝋義歯19を第二石膏模型11bと共に寒天フラスコに入れ、加圧、加熱して蝋義歯19の蝋をロストワックス法によりポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂に置き換える。即ち、アクリル系樹脂の義歯21が形成される。床用蝋15は樹脂の咬合堤15’となる。
【0033】
重合歪を人工歯溶着部に集中させ、粘膜面の歪を解消する。約7%の樹脂収縮を上部人工歯周辺に厚め、樹脂収縮を人工歯に移動させることにより、粘膜面の収縮を抑える。
【0034】
(7)寒天フラスコから義歯21を取り出し、第二石膏模型11bを義歯21から除去する。なお、第二石膏模型11bは寒天フラスコ内で熱により破壊されている。以上により、義歯21が形成される。なお、義歯21の粘膜面の歪を排除するために、石膏分離剤は使用しない。
【0035】
このようにして製作された義歯21においては、義歯21と該義歯21が接触する口腔内の粘膜面23との間に唾液が入る唾液スペース25が確保される。図1参照。
【0036】
義歯21は突出部を削除し、第一石膏模型11aに取り付ける。
【0037】
義歯21の咬合堤15’には唾液スペース25から該咬合堤15’を貫通して該咬合堤15’の外部に至る唾液通路27を形成する。唾液通路27は、一例として、ビニールチューブ等のチューブ29を挿入することにより形成する。チューブ29の内径は、一例として約0.7mmとする。唾液通路27は、好ましくは、唾液スペース25の略中央部から咬合堤15’の外部に至るものとする。
【0038】
唾液通路27における咬合堤15’の外部に臨む端部27aには唾液の流出のみを許す逆止弁31を備えさせる。逆止弁31は、一例として、軟性のポリエチレンにより形成し、逆止弁31の一端を唾液通路27における咬合堤15’の外部に臨む端部27aに枢着する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】唾液スペース、唾液通路、逆止弁等を示す断面図である。
【図2】逆止弁を示す断面図である。
【図3】石膏模型(第一石膏模型)を示す平面図である。
【図4】咬合床を示す平面図である。
【図5】蝋義歯の正面図である。
【符号の説明】
【0040】
1 石膏模型
2 咬合床
3 基礎床
5 床用蝋
7 人工歯
9 蝋義歯
11a 第一石膏模型
11b 第二石膏模型
12 咬合床
13 基礎床
15 床用蝋
15’ 咬合堤
17 人工歯
19 蝋義歯
21 義歯
23 粘膜面
25 唾液スペース
27 唾液通路
27a 端部
29 チューブ
31 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の口腔に対応するオス型の第一石膏模型を形成し、該第一石膏模型に基いてオス型の第二石膏模型を形成し、該第二石膏模型に基いて義歯を製作することにより、該義歯と該義歯が接触する口腔内の粘膜面との間に唾液が入る唾液スペースを確保するようにしたことを特徴とする義歯の製作方法。
【請求項2】
義歯の咬合堤には前記唾液スペースから該咬合堤を貫通して該咬合堤の外部に至る唾液通路を形成することを特徴とする請求項1に記載の義歯の製作方法。
【請求項3】
前記唾液通路における咬合堤の外部に臨む端部には唾液の流出のみを許す逆止弁を備えさせることを特徴とする請求項2に記載の義歯の製作方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−43243(P2006−43243A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−230426(P2004−230426)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(304037762)株式会社フォッツデンタル (2)
【Fターム(参考)】