説明

翻訳後修飾の検出のための方法

細胞酵素により触媒されるタンパク質基質の翻訳後修飾を、均一培地中で検出する方法であって、翻訳後修飾反応が無傷生細胞で行われること、前記細胞がタンパク質基質及び第一カップリング領域を含んでなる融合タンパク質をコードする異種発現ベクターを含んでなる細胞であること、及び以下の段階、(i)前記酵素の活性を調節できる、試験される化合物の存在下又は不存在下で、細胞をインキュベーションすること、(ii)タンパク質基質に存在する第一カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合した、第一FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を、反応培地へ添加すること、(iii)翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の部位に特異的な結合領域に共有結合し、非修飾タンパク質基質には結合しない、第一FRETパートナーのペアの第二蛍光化合物を、反応培地に添加すること、(iv)放射された、前記修飾を受けたタンパク質基質の量を表すFRETシグナルを測定すること、を含んでなることを特徴とする方法、及び当該方法の実施のための細胞。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞環境におけるペプチド又はタンパク質の翻訳後修飾を測定することを可能にする、方法及び道具に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞及び分子生物学における進歩は、非常に詳細な手順で細胞プロセスを研究することを可能にし、分子生物学のおかげで、現在所与の細胞プロセスに関与する分子を単離し、インビトロ(in vitro)でのそれらの相互作用及びその動作形態を研究することが可能である。これらの技術は、将来的な医薬品となることができる化合物の、潜在的に疾患に関与するシグナル経路及びタンパク質標的への影響を試験することを可能にする。
【0003】
すなわち新しい生物活性化合物の調査における重要な段階の一つには、当該物をある細胞と接触させること、及び当該化合物がこの細胞に影響を及ぼすか否かを決定することが含まれる。この目的で、一般的には所与のシグナルの翻訳メカニズムに対するこれらの化合物の影響が研究される。概略的手順によれば、生物活性化合物は細胞メカニズムに関与する分子に結合し、その挙動を変更すると考えられる。従って当該化合物は、試験される化合物の存在下又は不存在下で、細胞メカニズムに関与する分子への結合を測定することによっても、その考えられた細胞メカニズムの活性化又は阻害を測定することによっても検出できる。
【0004】
具体的には、前記シグナルの翻訳メカニズムには、細胞中でタンパク質を修飾する酵素が含まれる。これらの細胞タンパク質の修飾は翻訳後修飾と呼ばれ、リボソーム翻訳に由来するポリペプチド骨格構造を、化学基の付加又は切断、3次元構造の変更又はタンパク質鎖の切断により修飾することが含まれる。当該修飾としては、以下の付加があり、リン酸(リン酸化)、ADPリボシル(ADPリボース化)、メチル(メチル化)もしくはアセチル(アセチル化)基、炭水化物(グリコシル化)、脂肪酸(プレニル化)、ユビキチン(ユビキチン化)、SUMO(SUMO化)又はタンパク質のタンパク質分解的切断(タンパク質分解)がある。翻訳後修飾の追加的な例としては、ヒドロキシル化、ミリストイル化、パルミチル化、NEDD化(neddylation)、ヨード化、硫酸化がある。翻訳後修飾の中には、酵素を含まないものもある。これはニトロ化及びグルタチオン化の場合である。
【0005】
これらの翻訳後修飾は、タンパク質の機能を調節でき、それ故細胞メカニズムにおける役割を調節できる重要な要素である。
かかる翻訳後修飾は、大部分の真核性タンパク質に影響を及ぼす。これらは、単一の遺伝子を出発点として、細胞に、タンパク質骨格構造になされた修飾に応じて複数のエフェクターを産生させることができる。
翻訳後修飾は、酵素又はタンパク質の活性状態、その細胞内局在及び/又はその排出、その有する可能性のある相互作用、安定性及び分解性を決定付ける。これらのメカニズムは、細胞の挙動を変更させ、環境に対して適応させるため、非常に精密に調整されている。しばしば、翻訳後修飾に関連する1又は複数のエフェクターの調整解除が、生物を病理状態に導く。
【0006】
これらの理由により、翻訳後修飾のメカニズムに関与する酵素は、医薬産業の主要な標的である。従って、細胞条件下で標的ポリペプチドにより受けた翻訳後修飾の研究を可能にする道具の利用可能性は、新たな医薬品を研究するための特に重要な検討事項である。
【0007】
翻訳後修飾の調節に関連する研究の多くは、虫又は哺乳類の細胞培養から精製された、変異導入酵素の使用に基づいた生物的アッセイを用いて実施される。当該技術の大部分は、ポリペプチド基質への供与体化合物群の移送に関連する修飾の研究として報告されており、第一の相には、翻訳後修飾を触媒する酵素、翻訳後修飾の供与体化合物及びポリペプチド受容体の混合を含む。第二の相では、特異的な(すなわち、修飾ポリペプチドを非修飾ポリペプチドと識別できる)プローブを混合物中に添加する。この手法は、潜在的薬物スクリーニングの分野において非常に広く使用されている。この方法は、主に修飾されたポリペプチドに特異的なプローブの固定化を実証できる検出及び/又は技術のための方法という点で異なる。
【0008】
他の方法は、最初に試験される化合物を生細胞に作用させる。細胞の溶解及び適切な補因子の添加後、測定媒体へ添加した標的ポリペプチドで酵素活性を試験する。
従来技術の生化学アッセイは、生理的細胞内条件に近い条件下で、翻訳後修飾を研究することができない。
実際これらのアッセイは、(基転移からなる翻訳後修飾の場合)いくつかの補因子及び供与体化合物群の測定媒体への添加が必要で、その濃度は生理条件下で細胞が遭遇するものとは異なり、翻訳後修飾を触媒する酵素の活性を変更し得るものである。さらに、供与体化合物群が高濃度で測定媒体に存在することは、競合メカニズムで作用する阻害化合物の検出を妨害する。
さらに、これらのアッセイにおいて、測定媒体に添加された酵素は、一般的に完全な活性状態であり、生理的現実とは非常にかけ離れていることが多い。実際、細胞内では、酵素分子の一部分のみが活性化され、あるいは異なる度合いで活性化された異なる分子集団さえある。従来技術の生化学アッセイは、生理的条件下で実現されない範囲まで、これらの異なる集団に作用することはできない。同じ理由で、これらはもはや酵素のアロステリックな調節因子を同定することはできない。
【0009】
最後に、試験される化合物の中には従来技術の生化学的技術によって同定された場合、翻訳後修飾反応を調節するように見えるものがある。これは、実際には生理的条件下で効果が無いが、細胞区画に隔離されることにより原形質膜を横断しないためであるか、又は細胞によって分解されるためである。これと同じ技術が、生細胞に使用した場合、結局のところ毒性であると判明する化合物への関心を持たせることもあり得る。
【0010】
現在、生細胞に関与する翻訳後修飾の研究及び定量が可能な、複数の技術的手段が存在し、下記のものがあり得る。
【0011】
翻訳後修飾の標的プローブのインビボ(in vivo)標識。この手法は標的タンパク質に転移される基を運搬する補因子を細胞に提供することを含み、ここで当該基は、放射性標識されるか、又はより一般的に、例えばADP、アセチル、GlcNAc、メチル、リン酸、ファルネシル、ゲラニル、ユビキチン、SUMO等の標識で印付けされる。これは、標的タンパク質の標識をもたらす。修飾タンパク質は、その後電気泳動又はクロマトグラフィ及びオートラジオグラフィで分析される。この手法の特異性は、電気泳動の前に、免疫ブロッティング法(ウェスタンブロット)、又は免疫沈降法のいずれかを行うことによって向上させることができる。さらに、2次元電気泳動は、分子量の基準によるだけでなく、電荷によっても分離することにより、タンパク質同士の識別を向上させる。
【0012】
質量分析は、複合混合物から、タンパク質断片をその質量及び電荷によって分離できる。翻訳後修飾は、タンパク質配列の質量を増加さる。例えば、リン酸化の場合+80Da、アセチル化の場合+42Da、メチル化の場合+14Da、ファルネシル化の場合+204Da、N結合型グリコシル化の場合+>800Da、O結合型グリコシル化の場合+203Da又は+>800Da、ユビキチン化の場合+1kDaである。この技術は、標的タンパク質の事前標識を必要としない。ただし、タンパク質の複合混合物は、タンパク質消化(一般的にトリプシン消化)によって分析前に断片化しなければならない。感度を向上させるために、質量分析による研究はしばしば、翻訳後修飾特異的なプローブを使用して、修飾タンパク質の濃縮を先に行う。
この分析は、電気泳動分離又はマイクロキャピラリ高圧液体クロマトグラフィ(μHPLC)を先に行うこともある。
この手法の改善は、複合混合物中に含まれる異なるタンパク質断片の定量を可能にする。同じ細胞由来で、異なる状態の2つのタンパク質混合物は、生化学プローブを用いて標識される。
プローブの一方をその原子の軽同位体で、他方を重同位体で合成する。標識後、サンプルを混合し、その後トリプシンで断片化し、アフィニティカラムに充填する。その後、質量分析で断片を分離することにより分析を行う。すなわち断片の量を、細胞の異なる状態によって比較できる。
【0013】
特異的プローブ(抗体、レクチン、特異的タンパク質等)による修飾タンパク質の特異的(すなわち修飾タンパク質を非修飾タンパク質と識別できる)認識。多くの技術が、翻訳後修飾を検出及び定量するための抗体の使用を基礎とする。
【0014】
1)ウェスタンブロット法は、後者(抗体)を膜上に固定する際に、タンパク質の特異的認識を必要とする。一般的には膜に転写する前に、タンパク質の複合混合物を電気泳動で(一次元電気泳動として質量による分離、二次元電気泳動として質量及び電荷による分離)事前に分離する。修飾タンパク質は、開発の系と事前に組み合わせた、翻訳後修飾に特異的なプローブ(例えば酵素、蛍光色素)で検出する。
【0015】
この方法の開発は近年報告されており、特異的プローブが細胞膜を通過できるように、細胞をプラスチック相に固定化させ、それらを固定及び透過化処理する。その後修飾タンパク質を酵素又は蛍光色素と共役した抗体により検出する。異なる波長で放射する蛍光色素と結合した異なるプローブの使用により、同じ細胞サンプルで複数の翻訳後修飾の測定が可能となる(Chen H et al. Anal. Biochem. 2005, 338: 136-142)。
【0016】
2)国際公開第2006/017549 A2号では、フローサイトメトリーによるタンパク質のリン酸化を分析する方法を報告している。固定化及び透過化処理後、細胞を、蛍光色素と結合したリン酸特異的な抗体と共にインキュベートする。過剰な非固定化抗体を除去するための洗浄後、細胞をフローサイトメトリーで分析する。
【0017】
3)ELISA("Enzyme-Linked Immunosorbent Assay")技術は、翻訳後修飾の分析のための最適な方法として登場した。この異種アッセイ技術は、固相に固定化される第一抗体による注目タンパク質の捕捉に基づく。当該タンパク質はその後、翻訳後修飾特異的な第二抗体により認識される。この第二抗体は、発色又は光化学反応ができる酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、βガラクトシダーゼ、アセチルコリンエステラーゼ)と結合し、又は蛍光色素分子(又は蛍光性化合物)と共役する。シグナル強度(比色分析、光化学、蛍光)は固定された抗体の量に比例するため、ELISA技術により修飾タンパク質の定量が可能になる。
【0018】
4)多くの技術が、タンパク質の翻訳後修飾を検出するために、ELISAと同じ基本原理、つまり第一抗体によるタンパク質の固定化、第二抗体による修飾タンパク質の特異的認識を使う。ただし、以下の実現させる場面によって、使用される検出技術は異なる。
同じサンプルでの複数の翻訳後修飾の分析が可能である(多重アッセイ)。これは商品名、Endogen(Pierce)により市販される「Search Light」、Meso Scale Discoveryにより市販される「Multi Spot」で知られる技術で、検出すべき各検体を異なる空間的配置で多重アッセイできる。あるいはUpstate (Millipore)により市販される「BeadLyte」も、各検体用に異なる色のビーズを用いて多重アッセイができる。
均一相におけるタンパク質のリン酸化の測定。TGR BioScienceは、「SureFire」の名称で、タンパク質Erk1及びErk2のリン酸化が測定可能なアッセイキットを販売している。
【0019】
米国特許第6,335,201号は、単細胞レベルでの翻訳後修飾の分析ができる技術を開示している。細胞に、その研究した翻訳後修飾を受けることができるタンパク質基質を微量注入する。この基質を事前に蛍光化合物と結合させる。細胞溶解後、修飾タンパク質基質をキャピラリー電気泳動により非修飾基質から分離する。修飾及び非修飾タンパク質基質を、蛍光化合物と事前に結合させる方法を用いて検出する。
【0020】
Ng T等は、細胞中で、GFP(緑色蛍光タンパク質)と融合させたタンパク質キナーゼC(PKC)を事前にトランスフェクトした、蛍光化合物で標識されたリン酸特異的抗体の微量注入を報告している(Science 1999, 283: 2085-2089)。PKCのリン酸化後、リン酸特異的抗体が、蛍光化合物とGFPが共に近接するよう移動し、PKCと結合する。その筆者等は、単細胞レベルでのGFPの蛍光寿命の減少を、GFPと蛍光化合物との間のFRETの構築によるものと理解している。
【0021】
近年生物プローブを使う手法が、生細胞における標的基質の翻訳後修飾の研究として報告されている。
米国特許第6,900,304号は、基質のリン酸化度を測定できるキメラタンパク質の使用を報告している。キメラタンパク質は、供与化合物、リン酸化可能領域、リン酸化アミノ酸認識領域及び受容化合物からなる。リン酸化後、リン酸化領域及びリン酸化アミノ酸認識領域の空間的分解により、供与化合物と受容化合物の結合が導かれる。
【0022】
Hideyoshi H等は、細胞膜で透過性である、6−アクリロイル−2−ジメチルアミノナフタレン(アクリロダン(Acrylodan))又はN−(7−ジメチルアミノ−4−メチルクマリニル)マレイミド(DACM)と結合させたペプチドの使用を報告している(FEBS Lett. 1997, 414: 55-60)。細胞内培地において、ペプチドのリン酸化を受けて、蛍光色素の励起後、524nm(アクリロダン)又は475nm(DACM)で放射された蛍光の減少を測定する。
【0023】
最後に、Wouters等は、EGFR受容体のリン酸化の測定ができる方法を報告している(Current Biology, 1999, 9:1127-1130)。この受容体は緑色蛍光タンパク質(GFP)との融合タンパク質の状態で発現される。リン酸化チロシン特異的で且つシアニン3の(Cy-3)と共役した抗体の存在下、GFPとCy-3との間でFRETが発生し、このFRETは「FLIM」(蛍光寿命画像顕微法(Fluorescence Lifetime Imaging Microscopy))技術により測定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
細胞内条件下で翻訳後修飾のプロセスを研究できるこれらの技術は、その実施にあたりいくつかの制限を受ける。
これらは分離/検出の段階を必要とするが、これらの段階は実施するには冗長であると共に、翻訳後修飾のメカニズムを調節できる化合物を高流速でスクリーニングできず、
これらの技術は大量の基供与化合物の測定媒体への添加を必要とする(基転移反応の場合)ので、基供与化合物との競合メカニズムにより修飾を調節する化合物を検出できず、
これらの技術の大半は、翻訳後修飾を受けたタンパク質の量のみを検出し、研究対象の細胞又は細胞プールに存在するこれから修飾されるタンパク質の総量を考慮しない。この量は、高流速でのスクリーニングの実施において、サンプルによって又は反応ウェルによって極めて多様に変化させることができるので、「修飾タンパク質量/総タンパク質量」比の計算により翻訳後修飾プロセスの測定を標準化することは特に有用である。
【0025】
従って、天然の細胞環境に最も近い条件下で翻訳後修飾の研究を可能にし、最小限の段階しか必要とせず、特に従来技術にある、分離及び/又は検出の冗長な方法を使用しない技術の要請が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0026】
定義
「翻訳後修飾」:この用語は、翻訳後に行われるタンパク質の化学的修飾を意味し、タンパク質上でのもしくはタンパク質から開始する基転移反応、又はタンパク質分解の基転移反応も含んでなる。以下の反応は翻訳後修飾反応であり、モノADPリボース化、ポリADPリボース化、アセチル化、グルタチオン化、O結合型グリコシル化、N結合型グリコシル化、メチル化、ニトロ化、リン酸化、プレニル化、SUMO化、ユビキチン化、タンパク質分解、ビオチン化、グルタミン化がある。
【0027】
「カップリング領域/カップリング剤」:これらの用語は、化合物同士間で、細胞内で高親和性を有する共有結合又は非共有結合を構築できる、化合物のペアを意味する。カップリング領域/カップリング剤のペアは、以下のペアからなり、ペプチド配列/当該配列に特異的な抗体、「タグ」/抗タグ抗体、自殺酵素/自殺酵素基質、ビオチン/アビジンがある。
本発明において、カップリング領域/カップリング剤のペアは、細胞に存在するタンパク質基質と蛍光化合物を結合するために、言い換えると、この蛍光化合物でタンパク質基質を標識するために使用する。
【0028】
「測定媒体」:この用語は試験が実施される容器を意味する。例えば、マイクロプレートウェル又は細胞インキュベーションチャンバーがあり得る。
【0029】
「無傷生細胞」:この表現は、膜及び細胞内の完全性が保持されている、生細胞を意味する。異種発現用の(1又は複数の)ベクターを含む細胞は、本発明の意味において無傷生細胞である。
【0030】
「均一培地での方法」:固相が存在せず、液体培地中で実施される方法。
【0031】
「透過化処理(Permeabilization)」:本発明の意味において、細胞の透過化処理とは、原形質膜を透過できない化合物が細胞に侵入できるように、細胞に施される任意の処理を含む。細胞の溶解はこの定義に含まれる。
【0032】
「蛍光分子間のエネルギー移動」又は「フォルスター(Forster)型共鳴によるエネルギー移動」又は「FRET」(「蛍光共鳴エネルギー移動」又はより厳密に言うと「フォルスター共鳴エネルギー移動」)は、2つの蛍光分子が互いに近接し(距離が10〜100オングストロームの間)、そのうちの一方(蛍光供与化合物)の発光スペクトルが他方の(蛍光受容化合物)励起スペクトルを部分的に覆うことで出現する量子現象を意味する。蛍光供与化合物が光子により励起されると、蛍光受容化合物にそのエネルギーを転移でき、これがその後励起状態になり発光する。
【0033】
「FRETパートナーのペア」:この表現は、蛍光供与化合物及び蛍光受容化合物からなる1のペアを意味する。これらが互いに近接し、蛍光供与化合物の励起波長で励起される場合に、蛍光受容化合物はFRETシグナルを発光できる。FRETパートナーとなる2つの蛍光化合物のためには、蛍光供与化合物の発光スペクトルは、蛍光受容化合物の励起スペクトルを部分的に覆わなければならないことが知られている。
【0034】
「FRETシグナル」は、蛍光供与化合物と蛍光受容化合物間でのFRETを表す、任意の測定可能なシグナルを意味する。従ってFRETシグナルは、蛍光供与化合物又は蛍光受容化合物の、強度又は蛍光寿命の変動があり得る。
【0035】
本発明による翻訳後修飾の検出のための方法は、FRET技術で、機能的生細胞で翻訳後修飾を受けたタンパク質又はペプチド基質を検出することを含む。すなわち、細胞内で過剰発現される、翻訳後修飾を受けたタンパク質、及び任意にこの反応を触媒する酵素を除き、本発明による方法は、反応に関連する補因子の添加(例えば、キナーゼアッセイのための高濃度ATPの添加)も、従来技術の形式においては必要な安定化産物(例えばキナーゼ活性アッセイでのMg2+イオン)の添加も必要ない。従って、正確かつ高流速でのスクリーニングに適応可能な本発明による方法は、生理的条件に非常に近い条件下で、翻訳後修飾の研究及び化合物がこれらの反応を調節する性能の試験ができる。酵素が過剰発現される場合、本発明による方法は所与の1の酵素のみを研究することもできる。
【0036】
I.本発明による翻訳後修飾の検出のための3つの形式
I.1 翻訳後修飾の単純な検出
第一の実施において、本発明は、タンパク質基質の翻訳後修飾を検出可能とする均一培地における、当該翻訳後修飾が無傷生細胞で行われる方法に関する。この方法は、前記タンパク質基質及び第一カップリング領域を含んでなる融合タンパク質の、細胞に事前に導入された発現ベクターによる、細胞からの異種発現に基づく。
【0037】
本発明による方法は、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質を測定するために、FRETパートナーのペアを有効に使用する。翻訳後修飾を受けたタンパク質基質のFRETパートナー蛍光化合物による標識は、一方で以下に記載のカップリング領域/カップリング剤のペアによって、他方で翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の部位を特異的に認識する結合領域を用いて、以下の略図に従って行われる。
【化1】

PTM=翻訳後修飾
E1=第一カップリング領域
FRETパートナーのペア、受容蛍光化合物/供与蛍光化合物=A/D
ポリペプチド=タンパク質基質
タンパク質基質が翻訳後修飾を受けると、2つの蛍光FRETパートナー化合物が、互いに近接する位置となり、FRETシグナルを発生させる。
【0038】
従って、細胞酵素により触媒されるタンパク質基質の翻訳後修飾を、均一培地中で検出する方法であって、翻訳後修飾反応が無傷生細胞で行われること、前記細胞がタンパク質基質及び第一カップリング領域を含んでなる融合タンパク質をコードする異種発現ベクターを含んでなる細胞であること、及び以下の段階、
(i)前記酵素の活性を調節できる、試験される化合物の存在下又は不存在下で、細胞をインキュベーションすること、
(ii)タンパク質基質に存在する第一カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合した、第一FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を、反応培地へ添加すること、
(iii)翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の部位に特異的な結合領域に共有結合し、非修飾タンパク質基質には結合しない、第一FRETパートナーのペアの第二蛍光化合物を、反応培地に添加すること、
(iv)放射された、前記修飾を受けたタンパク質基質の量を表すFRETシグナルを測定すること、を含んでなることを特徴とする。
【0039】
少なくとも1の蛍光化合物が細胞の原形質膜を通過できない場合、細胞の透過化処理又は溶解の段階を、段階(ii)及び/又は(iii)の前に実施する。
【0040】
I.2 2つの異なる測定媒体での翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の検出及び総タンパク質基質の検出
前記方法が実施される場合、測定されるシグナルの強度は、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の量に依存するのは当然だが、測定媒体におけるタンパク質基質の総量にも依存する。一般的に、媒体中にタンパク質基質がある場合、測定されるシグナルはいっそう重要である。異なる測定媒体から得られる翻訳後修飾特異的なシグナルを比較する場合、例えば異なる細胞群が、タンパク質基質をコードする異種DNAの異なる発現レベルを示す可能性があるため、かかるシグナルを標準化する必要がある。さらに、本発明の方法が翻訳後修飾の潜在的調節剤の効果を決定するために使用される場合(例えば、医薬スクリーニングの手法)、総タンパク質基質の測定事実により、試験される産物が細胞死をもたらさないことを検証することができる。
【0041】
従って、本発明の具体的な実施には、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質に加えて、タンパク質基質の総量を表すシグナルの測定が必要である。この第二シグナルは、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質に対応するシグナルの標準化のために使用でき、例えば以下の比率で計算される。修飾タンパク質基質に対応するシグナル/総タンパク質基質に対応するシグナル。
【0042】
この実施は、一方では、FRETパートナーの2つペア、つまり一方がタンパク質基質に対応するシグナルを測定でき、他方が総タンパク質基質に対応するシグナルを測定できるペアの使用に基づく。また他方では、タンパク質基質及び2つのカップリグ領域を含んでなる融合タンパク質の細胞による発現に基づく。
【0043】
この実施においては、一方で翻訳後修飾を受けたタンパク質基質に対応するシグナルを、他方でタンパク質基質の総量に対応するシグナルを測定できるよう、細胞群は2つの別の測定媒体に、例えば多ウェルプレートの異なるウェルに分布させる。
【0044】
細胞酵素によって触媒されるタンパク質基質の翻訳後修飾の、均一培地中での検出のための方法の実施は、翻訳後修飾反応が無傷生細胞で行われること、これらの細胞は融合タンパク質をコードする異種発現ベクターを含んでなること、ここでかかる融合タンパク質は(1)タンパク質基質、(2)第一カップリング領域及び(3)第一カップリング領域とは異なる、翻訳後修飾による影響を受けない第二カップリング領域を含んでなり、並びに以下の段階、
(i)前記酵素の活性を調節できる、試験される化合物の存在下又は不存在下で、細胞をインキュベーションすること、
(ii)段階(i)の際、2つの異なる測定媒体中でインキュベートされた前記細胞を分布させること、
(iii)タンパク質基質に存在する当該第一カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合した、第一FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を、第一の測定媒体に添加すること、
(iv)翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の部位に特異的な結合領域に共有結合し、非修飾タンパク質基質には結合しない、第一FRETパートナーのペアの第二蛍光化合物を、この同じ第一の測定媒体に添加すること、
(v)第一の測定媒体により放射された、前記翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の量を表すFRETシグナルを測定すること、
(vi)タンパク質基質に存在する前記第一カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤に共有結合した、第一FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を、第二の測定媒体に添加すること、
(vii)第二カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合する、第二FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を構成要素とする、第三の化合物を、第二の測定媒体に添加すること、
(viii)第二測定媒体により放射される、タンパク質基質の総量を表すFRETシグナルを測定すること、及び
(ix)段階(viii)で測定されたシグナルで、段階(v)で測定されたシグナルを標準化すること、を含んでなることを特徴とする。
【0045】
少なくとも1の蛍光化合物が細胞の原形質膜を通過できない場合、細胞の透過化処理又は細胞の溶解の段階を、段階(ii)の前、又は段階(iii)及び/又は(vi)の前に実施する。
【0046】
いずれかの測定媒体中で実施される測定は、任意の順序で実施可能であると理解され、自動化システムで並行して、又は順々に実施できる。
【0047】
異なる測定媒体中で実施されるFRET測定の場合、FRETパートナーの2つペアは、同じ分光特性を持っていてもそうでなくてもよい。言い換えると、第二及び第三蛍光化合物は同一の可能性もあるが、各々は異なるカップリング剤と結合すべきである。
【0048】
以下の略図で説明されるこのアッセイ形式は、例えば以下の試薬を用いて実施できる。
蛍光供与化合物D1と結合する、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質に特異的な結合領域として修飾タンパク質基質を認識する、抗体。
タンパク質基質に存在するカップリング領域に対応するtag2に特異的なカップリング剤として、FRETの構築のため、供与体D1と適合する、蛍光受容化合物Aと結合する、抗tag2抗体。
タンパク質基質に存在する別のカップリング領域に対応するtag1に特異的なカップリング剤として、D1でもよいが、FRETの構築のため蛍光受容化合物Aと適合すべきである蛍光供与化合物Dと結合する、抗tag1抗体。
【0049】
細胞溶解物から始めて、第一ウェルにおいて、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の量を、蛍光供与化合物(D1)と結合した修飾タンパク質基質に特異的な抗体と共に、FRET構築のために、蛍光供与化合物D1と適合する、蛍光受容化合物Aと結合した抗tag2抗体を用いて測定する。
第二ウェルにおいては、タンパク質基質の総量を、D1でもよいが、FRET構築のため蛍光受容化合物Aと適合すべきである蛍光供与化合物Dと結合する抗tag1抗体と共に、蛍光受容化合物Aと結合する抗tag2抗体を用いて測定する。
【0050】
【化2】

E1=第一カップリング領域
E2=第二カップリング領域
PTM=翻訳後修飾
第一FRETパートナーのペア=A/D1
第二FRETパートナーのペア=A/D
ポリペプチド=タンパク質基質
【0051】
タグは隣接する可能性もある。
【化3】

E1=第一カップリング領域
E2=第二カップリング領域
PTM=翻訳後修飾
第一FRETパートナーのペア=A/D1
第二FRETパートナーのペア=A/D
ポリペプチド=タンパク質基質
【0052】
I.3 単一の測定媒体での翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の検出及び総タンパク質基質の検出(FRETキラー)
特に有利な代替の実施によれば、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質及び総タンパク質基質を、同じ測定媒体中で測定する。この実施は、あらゆる測定媒体において遭遇し得る変動を非常に効果的な手法で標準化できる。
【0053】
この実施は、上記の実施に従い、一方で、FRETパートナーの2つペア、つまり一方は修飾タンパク質基質に対応するシグナルを測定でき、他方は総タンパク質基質に対応するシグナルを測定できるペアを使用することに基づき、他方で、タンパク質基質及び2つのカップリング領域を含んでなる融合タンパク質を細胞によって発現することに基づく。2つのシグナル「修飾タンパク質基質」及び「総タンパク質基質」を同じウェル中で測定可能とするため、FRETシグナル抑制剤を使用する。実際には、第一FRETパートナーのペアを測定媒体中に導入し(総タンパク質異質又は修飾タンパク質基質に特異的なペアのいずれでもよい)、その後第一のシグナルを「消す」ためにFRETシグナル抑制剤を媒体に添加する。その後第二FRETパートナーのペアを測定媒体で形成させ、第二シグナルが測定可能となる。
【0054】
FRETシグナル抑制剤を以下に記載する。
細胞酵素によって触媒されるタンパク質基質の翻訳後修飾の均一培地中での検出のための方法の実施は、翻訳後修飾反応が無傷生細胞で行われること、これらの細胞は融合タンパク質をコードする異種発現ベクターを含んでなること、ここでかかる融合タンパク質は(1)タンパク質基質、(2)第一カップリング領域及び(3)第一カップリング領域とは異なる、翻訳後修飾による影響を受けない第二カップリング領域を含んでなり、並びに以下の段階、
(i)前記酵素の活性を調節できる、試験される化合物の存在下又は不存在下で、細胞をインキュベーションすること、
(ii)タンパク質基質に存在する第一カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合した、第一FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を、測定媒体に添加すること、
(iii)翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の部位に特異的な結合領域に共有結合し、非修飾タンパク質基質には結合しない、第一FRETパートナーのペアの第二蛍光化合物を、測定媒体に添加すること、
(iv)第一FRETパートナーのペアにより放射される、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の量を表すFRETシグナルを測定すること、
(v)段階(iv)で測定したFRETシグナルを抑制する剤を測定媒体に添加すること、
(vi)第二カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合した第三蛍光化合物を測定媒体に添加すること、ここで第三蛍光化合物は、第二FRETパートナーのペア、及び同じ分光特性を有する第一及び第二のFRETパートナーのペアの構成要素となるよう、第一蛍光化合物と適合するものであって、
(vii)第二FRETパートナーのペアにより放射される、総タンパク質基質の量を表すFRETシグナルを測定すること、
(viii)段階(vii)で測定されたシグナルで、測定(iv)で測定されたシグナルを標準化すること、を含んでなることを特徴とする。
【0055】
少なくとも1の蛍光化合物又はFRET抑制剤が細胞の原形質膜を通過できない場合、細胞の透過化処理又は細胞の溶解の段階を、段階(ii)、(iii)、(v)又は(vi)の前に実施する。
【0056】
シグナル測定の順序が重要でないことは明らかである。最初に総タンパク質基質に対応するシグナルを、その後、FRETシグナル抑制剤が測定媒体中で放射された最初のシグナルを特異的に抑制する瞬間から、修飾タンパク質基質に対応するシグナルを測定するために、段階(iii)〜(iv)及び(vi)〜(vii)は逆順が可能である。
【0057】
この形式は、例えば以下の試薬を用いて実施でき、例えば、
同じ刺激(例えば同じ光励起波長)により励起され得る、2つの蛍光供与化合物D1及びD2、
蛍光供与化合物D1と結合する、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質に特異的な結合領域として修飾タンパク質基質を認識する、抗体。
蛍光供与化合物D1及び蛍光供与化合物D2とのFRET構築に適合する蛍光受容化合物Aと結合し、タンパク質基質に存在するカップリング領域に対応する、Tag2に特異的なカップリング剤としての、抗Tag2抗体、
タンパク質基質に存在する別のカップリング領域に対応するtag1に特異的なカップリング剤として、蛍光供与化合物D2と結合する、抗tag1抗体
供与体D1と受容体A間のFRET抑制剤としての、供与体D1に特異的な抗体、がある。
【0058】
細胞溶解物から始めて、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の量を測定し、測定には、蛍光供与化合物D1と結合した修飾後タンパク質基質を認識する抗体、及び蛍光受容化合物Aと結合した抗tag2抗体を用いる。
【0059】
読み込み後、D1特異的であり且つD1とAの間でのFRETを抑制するFRET抑制剤、及び蛍光供与化合物D2に結合した抗Tag1抗体を同じウェルに添加する。
【化4】

【0060】
II.FRETパートナーのペア
II.1.FRET
本発明による方法は、FRET技術を細胞環境中での翻訳後修飾の測定に適用させることができる。FRET現象は、広く文献に記載されており、当業者に既知の概念である。互いに近接する2つの蛍光分子間で出現する量子現象で、一方(蛍光供与化合物)の発光スペクトルが他方(蛍光受容化合物)の励起スペクトルを部分的に覆う。蛍光供与化合物が光子により励起されると、そのエネルギーを蛍光受容化合物に転移でき、該化合物はその後励起状態となり、発光する。
【0061】
従って、本発明の意味におけるFRETパートナーのペアは、その発光スペクトルが蛍光受容化合物の励起スペクトルを部分的に覆う蛍光供与化合物によって構成される。FRETパートナーの概念は、既知の蛍光化合物の分光特性に基づき、FRETに適合する蛍光化合物ペアを選択できる当業者によく知られている。さらにLakowiczによる研究((1999) Principles of fluorescence spectroscopy, 2nd edition, Kluwer academic/plenum publishers, NY)を参照してもよい。さらに、本明細書におけるFRETなる語は、広い意味であり時間分解FRET(TR−FRET)が含まれる。
【0062】
FRET現象は、蛍光供与化合物又は蛍光受容化合物のいずれかによって、又は両方の化合物によって放射される蛍光シグナルの、異なるパラメータを測定することにより検出できる。最も一般的な技術としては、具体的に下記のものがあり得る。
FRET現象により誘導される供与体の蛍光の減少の測定、
FRETを介して、蛍光供与化合物から発生するエネルギーにより誘導される、蛍光受容化合物の蛍光の増加の測定、
割合(蛍光受容化合物の蛍光の増加)/(蛍光供与化合物の蛍光の減少)の決定
FRET現象により誘導される蛍光供与化合物の蛍光寿命の減少の測定。この後者の測定は、具体的には「蛍光寿命画像顕微」技術(FLIM)によって行われる。
蛍光受容化合物の光退色後、FRETに関連する蛍光供与化合物の蛍光の増加の測定。光退色の技術は「蛍光退色後回復(Fluorescence Recovery After Photobleaching)」(FRAP)として知られる。
【0063】
本発明の記載中で使用される「FRETシグナルの測定」なる表現は、上記の技術の任意の1つを等しく意味する。ただしそうであるとしても、蛍光受容化合物により放射される蛍光の測定は、本発明の実施のための好ましい手法の一つである。
【0064】
II.2.蛍光化合物
蛍光化合物は以下の群から選択可能である。発光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)もしくはその変異体、サンゴから抽出される蛍光タンパク質、フィコビリタンパク質、例えばB−フィコエリスリン、R−フィコエリスリン、C−フィコシアニン、アロフィコシアニン、特にXL665の名で知られるもの;発光有機分子、例えばローダミン、シアニン、スクアライン(squaraine)、BODIPYの名で知られる蛍光色素分子、蛍光色素、アレクサフルオロ(Alexa Fluor)の名で知られる化合物;超分子錯体、例えば希土類クリプテート、希土類キレート(特にユーロピウム、テルビウム、サマリウム、ジスプロシウム、ネオジミウムキレート及びクリプテート);発光無機粒子、例えばナノ結晶(「量子ドット」)が挙げられる。これら蛍光化合物は、FRET系において蛍光供与化合物としても蛍光受容化合物としても使用できる。
【0065】
希土類錯体は例えば以下の特許、米国特許第4 761 481号、米国特許第5 032 677号、米国特許第5 055 578号、米国特許第5 106 957号、米国特許第5 116 989号、米国特許第4 761 481号、米国特許第4 801 722号、米国特許第4 794 191号、米国特許第4 637 988号、米国特許第4 670 572号、米国特許第4 837 169号、米国特許第4 859 777号に記載がある。他のキレート類は、ターピリジン等の非接着性(nonadentate)リガンド化合物である(欧州特許第403 593号、米国特許第5 324 825号、米国特許第5 202 423号、米国特許第5 316 909号)。希土類はユーロピウム又はテルビウムがあり得る。希土類クリプテート類は具体的には欧州特許第0 180492号、欧州特許第0601 113号、及び国際公開第01/96 877号に記載がある。
【0066】
有利な希土類錯体はユーロピウムのキレート又はクリプテートである。希土類がユーロピウムの場合、希土類錯体は、好ましくはピリジンを伴う、さらにより好ましくはトリスビピリジン及びピリジン−ビピリジン単位を伴う希土類である。
【0067】
II.3.蛍光化合物/カップリング剤又は蛍光化合物/結合領域の複合体
FRETパートナーのペアが翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の存在下でシグナルを放射できるように、これらパートナーの1つを、好ましくは共有結合で、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質を認識する因子と複合されるべきである。好例としては、蛍光供与化合物又は蛍光受容化合物のいずれか一方の蛍光化合物は、翻訳後修飾を受けるタンパク質基質の部位を認識できる結合領域(抗体、アプタマー等)に共有結合する。FRETパートナーのペアの他方は、タンパク質基質に存在するカップリング領域(タンパク質タグ、自殺酵素等)に、共有的又は非共有的に結合できるカップリング剤と共有結合する。
【0068】
翻訳後修飾を受けるタンパク質基質の部位を認識できる結合領域は、実際は変更可能である。例えば、翻訳後修飾を受けるタンパク質基質の部位に特異的に結合する、抗体、抗体フラグメント又はアプタマーがあり得る。
【0069】
翻訳後修飾に特異的な抗体の産生は、当業者に一般的な知識の一部を成すものであり、具体的には"Antibodies: a laboratory manual" (Ed. Harlow D. Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)に記載がある。これは翻訳後修飾の後に細胞に存在するようなタンパク質基質の部位を含む抗原による、哺乳類への免疫付与に基づく。本発明における有用な抗体は、完全な抗体、又はFabもしくはF(ab)'2又は一本鎖Fv断片の可能性がある抗体フラグメントがあり得る。抗体は組換え体又は非組換え体でもよい。基転移、例えば、アミノ酸(セリン、スレオニン又はチロシン)のリン酸化を受けたタンパク質基質の場合、免疫付与のために使用される抗原は、5から100アミノ酸、又は5から50又は5から15アミノ酸でそのうち一つはリン酸化したセリン、スレオニン、又はチロシンである配列を含んでよい。
【0070】
翻訳後修飾に特異的な多くの抗体は、市販されている。例えば、ホスホセリン、ホスホチロシン、ホスホスレオニンに特異的な抗体がある(Upstate Biologicals, new England Biolabs 等)。
【0071】
本質的にポリヌクレオチドであるアプタマーは、所与の分子、好例としては翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の領域に特異的に結合できる能力でセレクションされた一本鎖オリゴヌクレオチドである。調製及びセレクションのための方法は既知であり、具体的には米国特許第5,567,588号(SELEX法)に記載がある。
【0072】
本質的にペプチド様であるアプタマーは、10〜20アミノ酸の短い配列により構成され(所与の標的用のアプタマーの特異性を与える「可変」領域)、その2つの末端は「足場」に連結さる。すなわちタンパク質はペプチドアプタマーの特異性に関与する構造的制約を創出する。これらのアプタマーのセレクション及び調製のための方法も既知であり従来技術で記載されている。
【0073】
研究対象の翻訳後修飾によっては、他の結合領域が修飾タンパク質の部位を認識できる。翻訳後修飾がグリコシル化である場合、結合領域はWGA(コムギ胚芽凝集素(Wheat Germ Agglutinin))等のレクチンがあり得る。
【0074】
リン酸化を受けたタンパク質に存在するリン酸基を、金属イオンが上に接合されているマイクロビーズにより認識することができる。従ってこの場合、修飾基質に特異的な結合領域は、マイクロビーズである(「固定化金属イオン親和性(Immobilized Metal Ion Affinity)」の略である「IMAP」で知られる技術)。
【0075】
タンパク質基質のグルタチオン化の場合、GSTがタンパク質基質に接合されたグルタチオン基を認識する特異的な結合領域として使用され得る。
【0076】
総タンパク基質も測定する場合、すなわちFRETパートナーのペアがタンパク質基質(翻訳後修飾を受けているか否かにかかわらない)の存在下でFRETシグナルを放射できるように、FRETパートナーの各ペアは、タンパク質基質に存在するカップリング領域(タンパク質タグ、自殺酵素等)に、共有的又は非共有的に結合できるカップリング剤(抗体、自殺酵素基質等)と、好ましくは共有結合で複合化する。総タンパク質基質を測定する場合、これはタンパク質基質が、一方が蛍光供与化合物でもう一方が蛍光受容化合物である、2つの異なるカップリング領域を含んでなることを意味する。
【0077】
当業者は、例えば"Bioconjugate Techniques", GT. Hermanson, Academic Press, 1996に記載の標準的な反応基を用いて、標準的結合技術により、当該蛍光化合物/カップリング剤又は蛍光化合物/結合領域の複合体を調製することができる。
【0078】
III.タンパク質基質及びカップリング領域を含んでなる融合タンパク質
上記の通り、本発明による方法が実施される細胞は、研究対象の翻訳後修飾を受けられるタンパク質基質によりなる融合タンパク質をコードする核酸配列、及びFRETパートナーの一方と結合するカップリング剤により認識される少なくとも1のカップリング領域を含む。
【0079】
タンパク質基質の選択は、研究対象の翻訳後修飾次第であるとともに、当業者は容易にこの選択ができる。資料として、表2は研究対象の翻訳後修飾に応じたタンパク質基質のいくつかの例を示す。
【0080】
タンパク質基質は、研究対象の反応に関与する酵素の「本来の」基質と同じ配列を有してもよい。従って発現ベクターは、例えばタンパク質受容体、タンパク質酵素例えば翻訳後修飾を受けることができるキナーゼ等をコードする核酸配列を含むことができる。
【0081】
タンパク質基質は、断片が翻訳後修飾を受ける酵素及び領域により認識される領域を含んでなる場合、本来の基質断片により構築されることもできる。
【0082】
最後に、タンパク質基質は例えば国際公開第03/087400号に記載の基質等、人工的なペプチド基質であってもよい。
【0083】
第一の実施において、タンパク質基質と融合したカップリング領域はタンパク質タグであり、カップリグ剤はこのタグに特異的な抗体、抗体フラグメント又はアプタマーである。タグが翻訳後修飾反応を触媒する酵素による基質の認識を妨げなければ、タグは4〜250アミノ酸、好ましくは4〜50、さらにより好ましくは4〜15アミノ酸の任意のペプチド配列が可能である。このタグは翻訳後修飾を受けることができるタンパク質基質中に天然に存在し得るか、又は実施例の部分で記載する通りに加えることができる。具体的には、このタンパク質は、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、アビジン、6ヒスチジンにより構築されるペプチド、ヒトMycタンパク質のアミノ酸410〜419により構築されるペプチド(EQKLISEEDL)、配列がDYKDDDKであるFLAGペプチド、配列がYPYDVPDYAであるインフルエンザヘマグルチニンエピトープ、から選択される。
【0084】
第二の実施態様において、タンパク質基質と融合したカップリング領域は自殺酵素であり、カップリング剤はこの酵素の基質である。この自殺酵素は、基質に急速に且つ共有的に結合できる能力を与える特異的変異により改変された酵素活性を有するタンパク質である。当該酵素は、各々が一つの単一蛍光分子にしか結合できないよう設計された自殺酵素で、酵素の活性は基質を固定することにより遮断される。
【0085】
ここでは、既知の自殺酵素の2つのファミリーにこの種の標識をする。
アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(又はCovaly社から市販される「SnapTag」(国際公開第02/083937 A2号))の変異体。この酵素をカップリング領域として使用する場合、蛍光化合物に結合したカップリング剤はベンジル−グアニン又はベンジルグアニン誘導体である。
自殺型酵素反応が産生するデハロゲナーゼの変異体(国際公開第2004/072232 A2号)。この酵素をカップリング領域として使用する場合、蛍光化合物に結合したカップリング剤はクロロアルカンである。
【0086】
第三の実施態様においては、カップリング領域は酵素ジヒドロフォレート還元酵素で、カップリング剤はジヒドロフォレート還元酵素阻害剤、例えば抗生物質トリメトプリム(Trimethoprim)又は5−(3,4,5−トリメトキシベンジル)ピリミジン−2,4−ジアミン(Active Motifにより「LigandLink」として市販される技術)である。
【0087】
融合タンパク質をコードし、少なくとも1のカップリング領域を含んでなる細胞に存在する発現ベクターは、当業者に既知の技術によって作製する。より正確には、この発現ベクターは、制限酵素及びリガーゼを用いて、細胞により発現されるような融合タンパク質をコードする核酸配列を挿入したプラスミドが可能である。これら配列はプロモーターの下流で同じリーディングフレーム中で、プラスミドに組み入れられる。多くの発現ベクターは市販されている。
【0088】
同様に、発現ベクターによる細胞のトランスフェクション用プロトコルは、文献に記載される定常技術の範囲内である。
【0089】
この細胞による融合タンパク質の発現は、発現ベクターが細胞DNAに組み入れられるか否かにより、安定的な場合と一過的な場合とがある。
【0090】
IV.細胞膜の透過化処理/細胞膜を通過可能な蛍光化合物の使用
本発明による方法は、生理条件に非常に近い条件下、生細胞中で行われる翻訳後修飾を検出できるという利点を有する。それでも、翻訳後修飾が行われる場合、FRETパートナーの添加前に細胞膜を透過化処理する必要があり、これはこれらを細胞内でその標的に到達させるためである。細胞膜の透過化処理は任意の適切な方法で実施できる(Goncalves et al. (2000) Neurochem. Res. 25: 885-8)。これらの方法には、洗剤(例えば、CHAPS、コール酸、デオキシコール酸、ジギトニン、n−ドデシル−、8−D−マルトシド、ラウリル硫酸、グリコデオキシコール酸、n−ラウロイルサルコシン、サポニン又はトリトン X-100)又は有機アルコール(例えばメタノール又はエタノール)を培養培地に添加することが含まれる。他の透過化処理技術には、ペプチド又は毒の使用が含まれる(Aguilera et al. (1999) FEBS Lett. 462: 273-277; Bussing et al. (1999) Cytometry 37: 133- 139)。
【0091】
当業者は、細胞を十分に透過性にする、すなわちFRETパートナーのペアが細胞内に浸透できるように、透過化処理剤を選択し実験条件(具体的は、インキュベーションにおけるその濃度及び時間)に適用することができる。
【0092】
本発明の意味の範囲内において、透過化処理には細胞の溶解がある。細胞環境内で翻訳後修飾が行われると、もはやこれらの細胞の完全性を維持する必要はない。翻訳後修飾を受けるタンパク質基質を検出させ、及び/又は任意に総タンパク質を検出させるFRETパートナーの添加は、細胞溶解物中で行うことができ、無傷生細胞群中で行う必要はない。
【0093】
あるいは、本発明の範囲内で、原形質膜を通過できる蛍光複合体も使用でき、これはその化学構造のために「自然に」通過できるため、又は細胞膜を通過させる領域を含むためのいずれかの理由による。
【0094】
以下の技術は、蛍光化合物が原形質膜を通過できるようにするために使用できる。
1)脂質二重層を通過する間、帯電した基を覆うエステルの使用。このエステルは「プロドラッグ」と呼ばれる化合物に分類され、生理的条件下での加水分解後、「親」化合物を作製するためにインビボで急速に変換する化合物のことを言う(T. Higuchi and V. Stella (1975) in "Pro-drugs as Novel Delivery Systems", Vol. 14 of the A.C.S. Symposium Series, American Chemical Society)。例としては、主にピバロイルオキシメチル、アセトキシメチル基及びグリコールエステルがある(Nielsen and Bundgaard (1984) Int. J. of Pharmacy 39: 75-85)。この技術を使う場合、これらエステルの1つは蛍光化合物上に接合する。
【0095】
2)蛍光化合物上に共有的に接合したウイルス性ペプチドの使用。特定のウイルス性ペプチドは細胞膜を通って蛍光化合物を輸送できる。かかるウイルス性ペプチドの例としては、既報の「ペネトラチン」及び「トランスポータン」の類似体(Langel et al. (2000) Bioconj. Chem. 11: 619-626)、ポリアルギニン(Wender et al. (2003) Org. Lett. 5(19):3459-3462)、ペプトイド(グアニジン基を有するペプチドの類似体(Wender et al. (2000) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 13003-8))、又はテトラグアニジニウム単位を有する非加水分解性誘導体(Fernandez-Carneado et al. (2005) J. Am. Chem. Soc. 127: 869-874)があり得る。
【0096】
3)ウンデシル−又は1,2−ジ−O−ヘキサデシル−グリセロール鎖を用いるオリゴヌクレオチドでの説明された手法を用いる、細胞膜と相互作用するコレステロール分子、ビタミンE又は脂肪鎖を含む側鎖を添加することによる蛍光化合物の、親脂質性及び極性の改変(Rait et al. (2000) Bioconj. Chem. 11: 153-160)。これらの改変は、核酸と超分子複合体を形成しエンドサイトーシスを上昇させるが、毒性があり細胞膜を損傷する、カチオン性表面(カチオン性「脂質」)でより効果的である。
【0097】
この結果、本発明によるプロセスにおいて、少なくとも1の蛍光化合物が原形質膜を通過させる領域を含んでなり、この単位は以下の、エステル、例えばピバロイル−オキシメチルエステル、アセトキシメチルエステル、又はグリコールエステル;膜輸送により運搬されるウイルス性ペプチド、例えばペネトラチン及びその類似体、トランスポータン及びその類似体、ポリアルギニン基、グアニジン基を運搬するペプトイド、例えばオリゴグアニジン基、コレステロール基、ビタミンE基又は脂肪鎖、例えばウンデシル又は1,2−ジ−O−ヘキサデシル−グリセロール鎖、からなる群から選択される。
【0098】
V.FRET抑制剤
本発明の特に有利な実施は、同じ測定媒体中で、翻訳後修飾を受けるタンパク質基質に対応するシグナル及び総タンパク質基質に対応するシグナルを測定することを含む。この目的のため、FRET抑制剤を上記の通りに使用する。
【0099】
FRET抑制剤は化合物であり、この化合物の不存在下で測定されたシグナルと比較して、少なくとも70%のFRETシグナルの減少を起こさせる。少なくとも80%、又は少なくとも90%のFRET減少を起こすFRETシグナル抑制剤が好ましい。
【0100】
本発明による方法で使用されるFRETシグナル抑制剤は、研究対象の生物的事象(翻訳後修飾)を妨害せず、これはFRETに関与する蛍光化合物1個レベルで作用し、且つ研究対象の生物的事象のレベルで作用しない範囲である。それらは生物的事象に関与する分子を隔てる距離に影響を与えることはない。
【0101】
化合物が、本発明の意味の範囲内のFRETシグナル抑制剤であるかを決定するために、FRETパートナーのペアと接触した状態で、FRETシグナルを放射する蛍光複合体、例えば、同じ分子を認識する2つの蛍光複合体、又は一方がビオチンを含んでなり他方がストレプトアビジンである2つの蛍光複合体を置くことができる。少なくとも70%のシグナル減少をもたらすFRETシグナル抑制因子である、当該化合物の存在下及び不存在下で、反応培地により放射されたFRETシグナルを測定する。この単純な試験により、当業者が本発明の意味の範囲内のFRET抑制剤を単離することが可能となる。
【0102】
FRET抑制剤は、性質が異なると共に、異なる機能を有することができるが、これらは全ての場合において、所与の供与体−受容体ペアによって放射されたFRETシグナルを抑制させることができる。FRET抑制剤には4つの型があり得る。
a)FRETに関与する蛍光化合物の1つと非共有結合で特異的に固定することにより作用する、FRETシグナル抑制剤。
当該剤は、蛍光化合物と特異的かつ非共有的な結合ができる領域を有する。これらは、各々1つのFRETパートナー蛍光化合物のための結合領域を有する、タンパク質、特に抗体もしくは抗体フラグメント、ペプチド又はアプタマーから選択できる。
【0103】
当業者は、当該化合物を調製し、蛍光化合物との結合を試験できる技術を有している。これらには、例えば抗体産生の標準技術、又はアプタマーのセレクションのための「SELEX」法がある。
【0104】
希土類キレート又はクリプテートを含むFRETの場合、好ましいFRETシグナル抑制剤は、希土類クリプテート又はキレートと非共有結合できる化合物、例えば、希土類クリプテート又はキレートのために結合領域をプロセシングする、タンパク質、特に抗体もしくは抗体フラグメント、ペプチド、又はアプタマーである。
さらにより好ましいFRETシグナル抑制剤は、抗希土類キレート又は抗希土類クリプテート抗体である。
抗希土類クリプテート抗体は、哺乳類に抗原を免疫付与することによる、当業者に周知の技術で調製する。
【0105】
抗原サイズが小さい場合、例えば希土類クリプテートである場合は、これを免疫原運搬分子と結合させるべきである。この目的で、クリプテートを、欧州特許第321 353号に記載の通り機能化する。好ましくは、アルキルアミンをクリプテートに接合する。
【0106】
運搬分子は、ウシ血清アルブミン(BSA)又はカチオン性BSA(cBSA)、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanine)、チログロブリン、オバルブミンから選択できる。運搬分子は、リポソーム又は合成運搬分子、例えばL−リジンポリマー、又はL−グルタミン酸、フィコール、デキストラン、又はポリエチレングリコールでもよい。これら運搬分子は一般的に、機能化クリプテートと反応する官能基を含んでなり、あるいは当該基を標準的技術により導入できる。好ましくは、アルキルアミン基を運搬する希土類クリプテートをBSAと複合化させる。
こうして得られた免疫原を溶液状態にするために、その後補強剤、例えばフロイント補強剤と混合する。
【0107】
哺乳類、例えばマウスをこの溶液の皮下注入により免疫付与し、一定期間後、免疫導入のために必須な動物の血清を捕集し、ポリクローナル抗体を例えばアフィニティクロマトグラフィにより精製する。
【0108】
抗クリプテートモノクローナル抗体を、当業者に既知の様々な技術を用いて調製する。例としては、Kohler 及び Milsteinの研究に由来する技術についての報告がある。これは、免疫付与後数週間、抗原で免疫付与したマウスの脾臓を除去する。この脾臓由来のリンパ球及びプラズマ細胞の混合物を、インビトロの骨髄腫細胞系で、細胞融合誘導物質、例えばポリエチレングリコールの存在下で融合させる。ヒポキサンチングアノシンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)未含有の、変異体骨髄腫細胞系は、このハイブリッド細胞を簡易にセレクションするために使用する。この細胞を、非融合骨髄腫細胞を除去し、注目の融合細胞をセレクションするため、ヒポキサンチン、アミノプテリン(メソトレキサート)及びチミン含有の培地(HAT培地)で培養する。非融合脾臓細胞は、インビトロで増殖できないため死滅する。一方でハイブリッド細胞は生き残る。すなわち得られた融合細胞は、細胞培養プレートのウェルで培養される。ELISA又はRIA等の単一のスクリーニング試験で、このウェルの上清について特異的な抗希土類クリプテート抗体の存在を試験する。その後融合細胞をクローン化し、腹水脂質中の大量の抗クリプテート抗体を分泌する骨髄腫を誘導するため、哺乳類に注入することができる。
【0109】
得られたポリクローナル又はモノクローナルの抗希土類クリプテート抗体は、その後、蛍光エネルギー供与化合物としての希土類クリプテートを含んでなる、FRETパートナーのペアにより放射されるFRETシグナルの抑制能力を試験することができる。この目的で、上記及び以下に示された実施例1に記載の手順には以下のものがあり得る。
【0110】
b)生物的事象を伴う蛍光化合物のデカップリングによるFRET抑制剤作用
上記の通り、FRET現象を用いる生物的自称の研究は、FRETパートナー蛍光化合物による、生物的事象に関与する分子の標識を基にする。この標識が結合パートナーを介す非共有的手法で行われる場合、生物的事象により1の蛍光化合物を脱共役できる。
【0111】
例えば、生物的事象に関与する分子が結合パートナーのペアの一方(例えば、一本鎖オリゴヌクレオチド)と共有結合し、及びその蛍光化合物がこのペアの他方(例えば相補的一本鎖オリゴヌクレオチド)と共有結合する場合、その後この組の第一の構成物(遊離型の第一の一本鎖オリゴヌクレオチド)を測定媒体へ添加することは、以下の略図に示される競合現象により、蛍光化合物で生体分子の標識を脱共役し得る。
【0112】
【化5】

【0113】
従って、このFRETシグナル抑制剤は、結合パートナーのペアを構成するものであり、そのパートナーを研究対象の生物事象に関与する分子に接合させる場合、FRETシグナル抑制剤としてのみ使用することも当然可能である。これらは以下ペア、相補的な一本核酸同士、タグ/抗タグ、特にDNP/抗DNP抗体(DNPはジニトロフェノール)、GST/抗GST抗体(GSTはグルタチオンS−トランスフェラーゼを表す)、ビオチン/アビジン、6HIS/抗6HIS抗体(6HISは6のヒスチジンから構築されるペプチドである)、Myc/抗Myc抗体(MycはヒトMycタンパク質の410〜419アミノ酸から構築されるペプチド)、FLAG(登録商標)/抗FLAG(登録商標)抗体(FLAG(登録商標)は、以下の8アミノ酸、DYKDDDDKを有するペプチドである。HA/抗HA抗体(HAはインフルエンザヘマグルチニンエピトープである)。
【0114】
c)蛍光化合物の性質の改変によるFRET抑制剤作用
蛍光化合物が希土類キレートである場合、FRET抑制剤は、キレートと結合するための希土類、又は希土類と結合するためのキレートのいずれかとの競争を開始することにより蛍光化合物の安定性を低減できる。
【0115】
例えば、キレートと結合するための希土類との競争を開始するイオンの、測定媒体への添加は、新たな非蛍光キレート/イオン錯体の形成を促進できる。
希土類キレートの場合このようなイオンは、マンガンMn2+イオンが可能である。
キレートとの競争の例としては、蛍光キレート−希土類錯体を害する、非蛍光EDTA−希土類錯体の形成をもたらすEDTA等の金属錯化剤の使用を挙げることができる。
【0116】
さらに、特定の蛍光化合物は、培地のイオン強度の変動に対して感受性が高い。これは、具体的には、その四次構造が培地のイオン強度の減少の際に不安定化される、静電的結合で連結された複数のサブユニットを含んでなる蛍光タンパク質化合物に関する場合である。例として、このような条件下で分解するアロフィコシアニンの事例を挙げることができる。従って当該蛍光化合物を使用する場合、反応培地のイオン強度を減少させることにより、FRETシグナルを抑制できる。
【0117】
d)蛍光化合物の光物理的特性の改変によるFRET抑制剤作用
この種のFRET抑制剤は、蛍光消滅効果(「消光」とも呼ばれる)をもたらす。
蛍光化合物が希土類のキレート又はクリプテートである場合、FRETの抑制の誘導が可能な、希土類の酸化還元反応を引き起こすことができる尿酸を、例として挙げることができる。
他の蛍光化合物はpHの変化に対して感受性が高く、この場合pH調節剤はFRETシグナル抑制剤として使用することもできる。
【0118】
一般的に、蛍光化合物の発光スペクトル又は吸収スペクトルの調節剤、又は蛍光を阻害剤は、本発明の意味内でのFRETシグナルの抑制を効果的に引き起こす場合、本発明の方法で使用できる。この特性は上記の通り簡単に試験できる。
【0119】
VI.翻訳後修飾を触媒する酵素及び翻訳後修飾に関与する他のタンパク質
本発明の具体的な実施によれば、翻訳後修飾を触媒する酵素は、安定的又は一時的な手順で細胞に組み込まれた発現ベクターで発現する。この酵素の配列は、文献により利用可能であり、その発現は当業者用の定常技術の範囲内である。この実施は、多量のタンパク質基質を潜在的に改変するため、関連する酵素を過剰発現させることができ、従って測定されるシグナルを増幅できる。
さらに、酵素の過剰発現は、他の細胞酵素に対するシグナル特異性を上昇させ、従って、所与の酵素の研究を可能にする。この実施は、発現ベクターが誘導性のプロモーター又は「エンハンサー」配列等の調節領域を含んでなる場合、酵素の発現を制御できる。誘導性酵素を発現させる系の使用により、その不活性状態で後者を安定化することにより酵素に直接作用するアロステリック阻害剤が検出可能となる。酵素を過剰発現する場合においても、特に基転移を含む反応の場合、供与体群は、生理的濃度で細胞中に存在するため、翻訳後修飾反応は常に生理的条件に近い環境で行うことに留意することは重要である。
【0120】
翻訳後修飾を触媒する特定の酵素は、構成的に活性状態ではないので、活性化されるべきである。従って本発明による方法は、研究対象の反応に関連する酵素の活性化の、追加段階を含むことができる。
【0121】
この刺激は、浸透圧衝撃、熱衝撃、化学的化合物により誘導される酸化ストレス(例えば、H22又はジアミンを培養培地に添加することによる)があり得る。発癌性物質、重金属(例えば水銀、カドミウム等)又は汚染物質も、化学活性化物質として使用できる。
【0122】
この刺激は、実際には生化学的に、増殖因子(例えばEGF,FGF,CSF、HGF,IGF,ILGF,NGF,PDGF,VEGF)、サイトカイン(例えばインターロイキンIL−1、IL−2,IL−6,IL−8)、インターフェロンIFN−α及びIFN−β、TNFα、TNFβ、増殖ホルモン(例えばPL,GH,Prl)又は神経媒介物質(neuromediator)(例えばアセチルコリン、グリシン、グルタメート、GABA,ドーパミン、ノルアドレナリン、ヒスタミン)を培養培地へ添加することによって行うことができる。
【0123】
当業者は、関与する酵素に応じて、どの場合に翻訳後修飾刺激剤を使用すべきかを調べることができる。
【0124】
別の実施によれば、本発明による方法は、翻訳後修飾をもたらす活性化カスケードに関与するタンパク質を発現する細胞を使用して実施する。これらのタンパク質は、例えば膜貫通受容体、例えばGタンパク質に共役する受容体、又は細胞内メッセンジャーを産生する酵素(例えばアデニル酸シクラーゼ)の可能性があり、その活性化は、細胞内シグナル伝達カスケードを経て、翻訳後修飾を受けることができるタンパク質基質の修飾をもたらす。
【0125】
この実施によれば、細胞は、安定的又は一時的な手法で細胞に組み込まれた発現ベクター、及び翻訳後修飾をもたらす活性化経路に関与するタンパク質をコードする発現ベクターを含む。
研究対象の翻訳後修飾に応じて、当業者は問題のタンパク質を選択できる。この実施は、例えば翻訳後修飾の活性経路に関与するタンパク質に作用することができる候補化合物の効果を研究するために特に有用である。
【0126】
VII.少なくとも1のカップリング領域を含んでなるタンパク質基質を共発現する細胞及び翻訳後修飾を触媒する酵素又は翻訳後修飾に関与するタンパク質
本発明は、本発明による方法の実施に適する細胞にも関する。
翻訳後修飾の研究に適する細胞は、
a)タンパク質基質及び1又は2のカップリグ領域を含んでなる融合タンパク質をコードする発現ベクター、及び
b)翻訳後修飾を触媒する酵素又は翻訳後修飾をもたらす活性化カスケードに関与するタンパク質をコードする核酸配列を含んでなる発現ベクター、を含んでなることを特徴とする。
【0127】
翻訳後修飾をもたらす活性化カスケードに関与するタンパク質は、好ましくは、膜受容体又は細胞内メッセンジャーを産生する酵素である。
【0128】
上記の通り、これらの発現ベクターは例えばプラスミドでもよい。具体的に細胞は動物の細胞、特にヒト細胞でもよい。
【0129】
具体的な実施によれば、発現ベクターは細胞DNAに組み込まれる。好ましい実施によれば、発現ベクターは細胞DNAに組み込まれ、細胞は、容易に再生可能な条件下で翻訳後修飾を研究するのに特に有利な、安定な細胞系列を得ることができる、不死化細胞である。
【0130】
本発明による細胞はこれまで一度も報告されていないが、安定な手順で「外因性」タンパク質(好例によれば、少なくとも1の結合領域を含んでなるタンパク質基質、及び研究対象の翻訳後修飾を触媒する酵素、又は翻訳後修飾をもたらす活性化カスケードに関与するタンパク質)を発現する、細胞への発現ベクターの共トランスフェクション及び不死細胞系の獲得は、当業者に既知の技術である。
【0131】
VIII.本発明の手段により検出できる翻訳後修飾
本発明による方法は、所与の翻訳後修飾に限定されない。実際、出願人によって実施された研究は、タンパク質基質への基転移、タンパク質に存在する基切断、又はタンパク質基質の切断を含む、主要な翻訳後修飾で容易に置き換えることができる。
【0132】
本発明による方法は、以下の翻訳後修飾の研究に特に適している。
モノADPリボース化:修飾されるタンパク質のアルギニン又はシステイン残基に対する、ADPリボースの転移。これはモノADPリボシルトランスフェラーゼにより触媒される反応である。モノADPリボース化は、細胞シグナル伝達において、並びにアクチン及びデスミンフィラメントを標的にすることによる細胞骨格の修飾において、基本的な役割を果たす。
ポリADPリボース化:修飾されるタンパク質のグルタミン酸残基に対する、ポリADPリボースの転移。これはポリADPリボースポリメラーゼにより触媒される反応である。
ポリADPリボースポリメラーゼ(PARP)による、核タンパク質のポリADPリボース化は、DNA損傷に対する細胞応答の一つをなす。
リン酸化:修飾されるタンパク質のセリン、スレオニン、チロシン又はヒスチジンのヒドロキシル基に対する、キナーゼによる、ATPのγホスフェートの転移。タンパク質のリン酸化は、細胞内シグナル伝達における中心的要素である。キナーゼタンパク質は、共通の構造を共有する酵素の巨大なファミリーである。これらの酵素は、遺伝子の転写及び翻訳、細胞サイクルの調節、細胞の増殖及び分化、細胞代謝並びにアポトーシスを含む多数の細胞内メカニズムを制御する。キナーゼ活性の脱制御は、多くの場合細胞機能不全に関連している。主要なタンパク質キナーゼファミリーを表1に挙げる。
【表1】

【表2】

【0133】
アセチル化:修飾されるタンパク質のリジン残基のε−NH2基に対する、アセチルトランスフェラーゼによる、アセチル−CoAからのアセチル基の転移。アセチル化は、主にヒストンを標的とする翻訳後修飾である。ヒストンのアセチル化度は細胞の転写活性と強い相互関係がある。転写活性の上昇に寄与する、多くの転写因子もアセチル化される。腫瘍抑制タンパク質p53も、p300/CBPによりアセチル化される。
グルタチオン化:修飾されるタンパク質のシステイン残基に対する、細胞ストレスの結果としてのグルタチオンの転移。この反応は特定の酵素によって触媒されるものではない。従って、それは関連する試薬の細胞内濃度により、細胞において調節される。
N結合型グリコシル化:修飾されるタンパク質の配列Asn-X-Ser又はAsn-X-Thr(Xはプロリン以外の任意のアミノ酸でよい)に含まれるアスパラギン残基(Asn)に対する、ドリコールピロホスフェートからの、14糖 Glc3Man9GlcNAc2(Glcはグルコース、Manはマンノース、GlcNAcはNアセチルグルコサミンである)オリゴ糖の、オリゴ糖トランスフェラーゼ転移。N結合型グリコシル化は小胞体及びゴルジ体で行われ、分泌され又は細胞表面に発現されるタンパク質を標的とする。
O結合型グリコシル化:修飾されるタンパク質のセリン及びスレオニン残基に対する、UDP-GlcNAc(ウリジンジホスフェート−N−アセチルグルコサミン)からの、GlcNAc基の転移。O結合型グリコシル化は、多くの核及びミトコンドリアの細胞質タンパク質を標的とする。
【0134】
メチル化:修飾されるタンパク質のアルギニン残基に対する、S−アデノシル−メチオニンからのメチル基の転移。8個のタンパク質アルギニンメチルトランスフェラーゼ(PRMT1〜8)が哺乳類中に存在し、この反応ができる。メチル化タンパク質は、多くの場合RGG又はGRG単位の反復を含む。タンパク質のメチル化は、細胞メカニズムにおいて多角的な役割を果たす。
タンパク質分解:ペプチダーゼは、ペプチド結合を切断するために、水分子を用いて、タンパク質を分裂させることができる。エンドペプチダーゼは、基質内で、一次配列、二次又は三次構造を認識し、決定されたアミノ酸の後ろでタンパク質を切断する。エキソペプチダーゼは、N末端又はC末端からポリペプチド鎖を消化する。このタンパク質分解現象は、タンパク質の活性、機能、局在及び運命を調整する。タンパク質分解は、酵素原から開始する活性生体分子の発生、生物活性タンパク質の破壊を導き、又は他の翻訳後修飾の前提条件を構成することができる。
プレニル化:修飾されるタンパク質のC末端近傍に位置するシステインでジスルフィド架橋を形成することによる、フェルネシル型(15炭素)又はゲラニルゲラニル型(20炭素)の脂質群の共有付加。プレニル化は、膜をタンパク質へ固定させるが、タンパク質−タンパク質相互作用においても機能する。ヒトには3つのプレニルトランスフェラーゼがある。フェルネシルトランスフェラーゼ及びゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ1は、システインを含んでなる同じ単位(CA12Xボックス)を認識し、このシステインに対する脂質群の転移を触媒する。Xがセリン、メチオニン、アラニン又はグルタミンの場合、タンパク質はフェルネシルトランスフェラーゼによりプレニル化され、Xがロイシンの場合、この酵素はゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ1である。ゲラニルゲラニルトランスフェラーゼ2は、タンパク質のC末端に位置するシステインに対して、ゲラニルゲラニル基を転移し、ここでシステインは以下配列、−XXXCC、−XXCXC、−XXCCX1、−XCCXX又は−CCXXXからなる群から選択される1つに含まれるものである。
【0135】
ユビキチン化:標的タンパク質のリジン残基のε−アミノ基を、ユビキチンのC末端グリシンに対して結合させるイソペプチド結合により、共有結合的手順によるユビキチン(76アミノ酸を有するタンパク質)の付与。このプロセスは3つの酵素、ユビキチン活性化酵素(E1)、ユビキチン転移酵素(E2)及びユビキチンリガーゼ(E3)の作用を必要とする。当該酵素E1、E2及びE3には非常に多様な形態が存在する。タンパク質は、異なるリジンをモノユビキチン化でき、あるいは固定されたユビキチンが同様にユビキチン化されるサイクルを複数回繰り返すことができ、これが鎖の伸長を導くポリユビキチン化と呼ばれる(3〜5ユビキチン)。形成されたポリユビキチン鎖の種類に応じて、タンパク質が分解されるプロテアソームS26に誘導されるか、又はそれがDNA障害に対する耐性、炎症反応、循環及びタンパク質合成に影響を与える。そのモノユビキチン化部分は、タンパク質の循環で機能する。
SUMO化:修飾されるタンパク質のリジン残基と、SUMOタンパク質(「低分子ユビキチン様修飾因子(Small Ubiquitin-related Modifier)」(101アミノ酸を有する))のC末端グリシンとの間のイソペプチド結合による、SUMOタンパク質の付与。現在までに4つのSUMO相同体(SUMO1、SUMO2、SUMO3及びSUMO4)が報告されている。SUMO化の酵素的プロセスは、ユビキチン化と同様であり、酵素(E1)(ヘテロダイマーAos1/Uba2)の活性化、酵素(E2)(Ubc9)の輸送及び酵素(E3)の連結からなる。SUMO化は、タンパク質の核内局在、その修復活性、その転写活性において重要な役割を果たす。SUMO化はまた、ユビキチン化に関してはアンタゴニストの役割も果たすことができる。
ニトロ化:NO2と、修飾されるタンパク質のチロシンン又はシステインとの間の共有結合。この翻訳後修飾は、酵素により触媒されないので、細胞に関与する試薬の濃度に依存する。
【0136】
全ての場合において、本発明による翻訳後修飾の研究方法は、研究対象の翻訳後修飾を受けることができるタンパク質基質を発現する細胞で実行され、このタンパク質基質はFRET技術により検出できる少なくとも1つのカップリング領域を含んでなる。
【0137】
表2は、本発明による方法を用いて研究できる、いくつかの翻訳後修飾の例示である。細胞により安定的又は一時的な手順で発現されたタンパク質基質(カラム5)に存在するアミノ酸(カラム4)に対して、供与基(カラム3)からの、細胞により発現される酵素(カラム2)に触媒される基転移に関連する修飾の場合、FRETパートナーのペアの一方の蛍光化合物が翻訳後修飾に特異的な結合領域(カラム6)に共有結合される。特異的結合領域を有する蛍光化合物のカップリングは、反応基の使用に基づく標準的な複合化技術により実施され、当該技術は当業者に周知であるとともに、"Bioconjugate Techniques", GT. Hermanson, Academic Press, 1996に記載がある。
【表3】

【表4】

【表5】

【0138】
IX.翻訳後修飾調節化合物の検出
本発明による方法は、翻訳後修飾を調節する、いわゆる「候補」化合物の性能を試験するのに特に有効である。この目的で、本発明による検出方法は、かかる化合物の存在下及び不存在下で実施し、得られるシグナルを比較する。これらのシグナルを、既知の調節因子、つまり阻害因子又は活性因子と共に細胞をインキュベートすることにより得られたシグナルと比較することもできる。
【0139】
翻訳後修飾の潜在的な調節因子である化合物は、複数のメカニズムにより作用可能である。
酵素への阻害因子のアロステリックな結合、
基転移に関連する翻訳後修飾の場合、酵素反応に関連する補因子、例えばタンパク質基質に転移された基の蛍光供与化合物との競合。例としてはリン酸化におけるATPがあり、
補因子が生理的濃度で存在する場合にのみ視認できる、酵素発現の阻害、
酵素が生理的濃度で存在する場合にのみ視認できる、酵素分解メカニズムの活性化、
未解明であるが、修飾タンパク質基質に対応するシグナルの阻害、減少又は増加の結果である、メカニズム。
【0140】
本発明による方法は、インビトロでの従来技術の実施で得られる「非生理的な」偽陽性を排除させることができる。これらの化合物は、インビトロで有効であるが、実際には生理的条件下でその標的に到達できない。
【0141】
X.本発明による方法の実施に適した細胞
本発明の別の態様は、以前に記載した翻訳後修飾の研究に適した細胞に関し、
a)タンパク質基質及び1又は複数のカップリング領域を含んでなる融合タンパク質をコードする発現ベクター、及び
b)翻訳後修飾を触媒する酵素をコードする核酸配列及び/又は翻訳後修飾を導くことができる活性化に関与するタンパク質、例えばタンパク質受容体又は細胞内メッセンジャーの産生を触媒する酵素をコードする核酸配列を含んでなる発現ベクター、を含んでなることを特徴とする。
【0142】
好ましい態様によれば、本発明による細胞は前記発現ベクターが細胞DNAに取り込まれることを特徴とする。
本発明による細胞は、好ましくは不死化細胞である。
【0143】
本発明による細胞は、任意の種類が可能である。それは、好ましくは哺乳類細胞、特にヒト細胞である。
【図面の簡単な説明】
【0144】
【図1】Akt1とペプチド基質の共トランスフェクション。TR−FRETによる基質のリン酸化の測定。略記の意味は、plasm.=プラスミドPlasm. Sub=プラスミド基質=基質をコードするプラスミドである。1、プラスミド基質25 ng2、プラスミド基質12.5 ng3、プラスミド基質6.25 ng4、プラスミド基質3.12 ng5、プラスミド基質1.56 ng
【図2】CamKIIデルタとペプチド基質の共トランスフェクション。イオノマイシンによるCamKIIデルタの活性化後、TR−FRETによる基質のリン酸化の測定。略記の意味は、CamKIId=プラスミドCamKIIδ−pcDNA3.1である。1、50 ngプラスミド基質/50 ngCamKIId2、25 ngプラスミド基質/50 ngCamKIId3、12.5 ngプラスミド基質/50 ngCamKIId4、6.25 ngプラスミド基質/50 ngCamKIId5、3.12 ngプラスミド基質/50 ngCamKIId6、50 ngプラスミド基質単独
【図3】スタロウスポリンによるリン酸化の阻害。リン酸化タンパク質基質の量とタンパク質基質の総量の測定。
【図4】2つの手法(別々のウェル又は単一ウェルでの読み)によるリン酸化タンパク質基質の測定の比較。リン酸化タンパク質基質の量とタンパク質基質の総量の測定。2つの別々のウェルにおける測定、又はFRET抑制剤を用いた単一ウェルでの2つのパラメータの測定。1、阻害なし2、スタロウスポリン0.2 nM3、スタロウスポリン20 nM4、スタロウスポリン2 μM5、AktDN
【図5】2つの手法(別々のウェル又は単一ウェルでの読み)による総タンパク質基質の測定の比較。リン酸化タンパク質基質の量とタンパク質基質の総量の測定。2つの別々のウェルにおける測定、又はFRET抑制剤を用いた単一ウェルでの2つのパラメータの測定。1、阻害なし2、スタロウスポリン0.2 nM3、スタロウスポリン20 nM4、スタロウスポリン2 μM5、AktDN
【図6】リン酸化タンパク質基質:総タンパク基質の比率。略記の意味は、DFはデルタFである。リン酸化タンパク質基質の量とタンパク質基質の総量の測定。2つの別々のウェルにおける測定、又はFRET抑制剤を用いた単一ウェルでの2つのパラメータの測定。1、阻害なし2、スタロウスポリン0.2 nM3、スタロウスポリン20 nM4、スタロウスポリン2 μM5、AktDN
【図7】スタロウスポリンによるキナーゼの活性の阻害。リン酸化タンパク質基質の量とタンパク質基質の総量の測定。2つの別々のウェルにおける測定、又はFRET抑制剤を用いた単一ウェルでの2つのパラメータの測定。1、阻害なし2、スタロウスポリン0.2 nM3、スタロウスポリン20 nM4、スタロウスポリン2 μM5、AktDN
【図8】Aktキナーゼと基質の共トランスフェクション。総発現基質の測定。 供与化合物として抗c−myc−ユーロピウムクリプテート、及びFRET受容化合物として抗−Flag−XL665を、又は抗c−myc−ユーロピウムクリプテート及び自殺酵素Snaptagのいずれかを使用することにより、並びに蛍光受容化合物Dy647と複合化したその基質ベンジルグアニジン(BG)濃度を上昇させることによる、発現基質の検出。1、Flag-XL6652、BG-Dy647 3.12 nM (f終濃度)3、BG-Dy647 6.25 nMf4、BG-Dy647 12.5 nMf5、BG-Dy647 25 nMf6、BG-Dy647 50 nMf7、BG-Dy647 100 nMf
【図9】Aktキナーゼと基質の共トランスフェクション。リン酸化基質の測定。 供与化合物として抗体STKユーロピウムクリプテート、及びFRET受容体として抗−Flag−XL665を、又は供与化合物として抗体STKユーロピウムクリプテート及び自殺酵素Snaptagのいずれか一方を使用することにより、並びに蛍光受容化合物Dy647と複合化したその基質ベンジルグアニジン(BG)濃度を上昇させることによる、リン酸化基質の検出。1、Flag-XL6652、BG-Dy647 3.12 nM (f終濃度)3、BG-Dy647 6.25 nMf4、BG-Dy647 12.5 nMf5、BG-Dy647 25 nMf6、BG-Dy647 50 nMf7、BG-Dy647 100 nMf
【実施例1】
【0145】
この酵素によるAktタンパク質基質のリン酸化の測定、タンパク質基質単独のトランスフェクション又はタンパク質基質と酵素の共トランスフェクション。
【0146】
この実施例は、均一なTR−FRET技術によるタンパク質基質のリン酸化を測定するための、本発明に記載の方法の使用を説明するものである。この実施例はまた、一方で翻訳後修飾を誘導する酵素をコードするプラスミドを、他方で標的ペプチド配列を用いる細胞の共トランスフェクションの重要性を明確にする。
【0147】
プロトコル
基質をコードするプラスミドの調製
以下の配列は、c−mycタグ(下線)、セリン/スレオニンキナーゼにより認識される一般的基質(太字)及びFLAGタグ(点線)を含んでなる融合タンパク質をコードするセンス鎖(5'〜3')を表し、5'の位置でBamIの制限部位の部分が、3'の位置でXhoIの制限部位の部分が隣接する。
【化6】

【0148】
二重鎖オリゴヌクレオチドは、以下の2つのオリゴマー、
【化7】

をハイブリッド形成させ、以下のPCR反応を実施することにより得る。95℃、10分間/90℃、5分間/85℃、5分間/80℃、15分間/75℃、60分間/70℃、15分間/65℃、10分間/60℃、5分間/55℃、5分間/50分間/45℃、5分間/35℃、10分間/25℃、15分間/15℃、5分間/4℃。1μlのQuick T4 DNAリガーゼ(New England Biolabs、カタログ番号M2200S)、1μlのハイブリッド形成したオリゴヌクレオチド、及び事前にBamI及びXhoIで10分間、室温で制限酵素処理した50ngのプラスミドを混合することにより、前記配列をpSEMSプラスミド(Covalys)に挿入する。その後プラスミドをOne Shot(登録商標)TOP10コンピテントセル(インビトロジェン社、カタログ番号C4040-06)と共に1時間37℃でインキュベートし、その後細胞をアンピシリン含有プレートに移植する。
37℃で一夜経過後、6個のコロニーを選択し、増殖させ、配列決定によりその相同性を確認した。
【0149】
細胞のトランスフェクション
8000 HEK293細胞(ATCC)を、基質単独をコードするプラスミド量を増加させてトランスフェクトしてもよいし、基質及び25ngのAkt1-pcDNA3.1(インビトロジェン社、カタログ番号V790−20)をコードする同量のプラスミドを共トランスフェクションしてもよい。共トランスフェクションは、Lipofectamine 2000(インビトロジェン社、カタログ番号11668-019)及びOPTI-MEM培地(Gibco、カタログ番号31985)の存在下で実施する。
【0150】
細胞をその後、48時間37℃で、10% FCS(Hyclone カタログ番号SV30014-03)及び1%抗生物及び抗真菌(Gibco 、カタログ番号15240-062)を添加した、25μlのDMEM培地(Gibco、カタログ番号11965-092)で384ウェルプレート(Proxiplate 384, Perkin-Elmer、カタログ番号6006280)中で培養する。
【0151】
細胞を、0.1% BSA、20mM EDTA、0.8M フッ化カリウム及び2% トリトン100含有の50mM Hepesバッファ、pH 7中で溶解する。この同じバッファは、供与体(ユーロピウムクリプテート)と複合化した1.8ngのリン酸特異的抗体(STK抗体、Upstate、カタログ番号35-002)及び受容体(架橋アロフィコシアニン、XL-665、カタログ番号61FG2XLA)と複合化した40ngの抗−FLAGを含有する。プレートを、時間分解測定の前に1時間室温でインキュベートした。
【0152】
TR−FRETシグナルの解析
FRETシグナルを、TR−FRETモードでAcquest 384 蛍光光度計(Molecular Device)を用い、330及び380nmの間が含まれるバンド幅の閃光により励起後、620nm(希土類クリプテートの発光波長)及び665nm(アロフィコシアニンの発光波長)で測定する。665nmでの蛍光発光(受容体の蛍光)と620nmで発光された蛍光(供与体の蛍光)の間の比(比率665/620)は、供与体(ユーロピウムクリプテート)及び受容体(アロフィコシアニン)の間に発生するFRETを表す。このFRETは、供与体及び受容体の間の空間的近接に比例する。
【0153】
デルタF(%)(DF)は、
【化8】

に対応する。
ネガティブコントロールシグナルは、トランスフェクト未処理細胞で得られるシグナルに対応する。
【0154】
結果
細胞は、基質単独をコードするプラスミドでのトランスフェクト、又は基質をコードするプラスミドとAkt1をコードするプラスミドを同量で用いて共トランスフェクトされる。細胞溶解後、基質のリン酸化は、ユーロピウムクリプテート(受容体)と結合したリン酸特異的抗体(Ref. CIS biointernational, standard tris bipy extinguished by the FRET killer)、及びアロフィコシアニン(Ref. XL665 CIS bio international)で共役した抗−FLAG抗体を用いて検出する。測定されるFRETは、供与体と受容体の間の空間的近接に比例する。この近接は、一方でリン酸特異的抗体をリン酸化タンパク質基質に固定し、他方で抗−FLAG配列をFLAG配列に固定することになる。
【0155】
図1により、測定されたFRETはリン酸化タンパク質基質の量に比例し、従って本発明の方法は、細胞内膜中で行われる、キナーゼAkt1によるタンパク質基質のリン酸化が検出できることを確認できる。
【0156】
細胞内において、一般的にいくつかのキナーゼによって同じタンパク質基質が、リン酸化され得る。キナーゼとその基質の共トランスフェクションは、この特定のキナーゼの、タンパク質基質のリン酸化への寄与を検出でき、すなわちこのキナーゼへの(潜在的に阻害する)化合物の影響を研究できる。
【0157】
図1は、細胞が、タンパク質基質をコードするプラスミドのみによってトランスフェクトされる場合、そのタンパク質基質は内因性キナーゼ、例えばAkt1によりリン酸化されることを示す。タンパク質基質をコードするプラスミド及びAkt1をコードするプラスミドでの共トランスフェクションは、Akt1によって特異的にリン酸化されたタンパク質基質の量を増加させることができる。
【実施例2】
【0158】
イオノマイシンの存在下及び不存在下での、非構成的活性キナーゼ、CamキナーゼIIによる、一般的なタンパク質基質のリン酸化の測定
細胞条件下、一群のキナーゼ分子が異なる活性化レベルを取り得る場合であっても、キナーゼは恒久的に活性状態でない。この実施例において研究対象のCamキナーゼIIの場合で、ここでは培地へのイオノマイシンの添加により活性化される。この実施例は、本発明による方法は、細胞外刺激に由来する(ここで化学的刺激はイオノマイシンによる)、細胞内修飾(ここでタンパク質基質のリン酸化はCamキナーゼIIによる)をうまく検出するために使用することができることを示す。
【0159】
プロトコル
8000 HEK293細胞を、基質単独をコードするプラスミドの量を増加させてトランスフェクトしてもよく(実施例1と同じ)、又は基質をコードするプラスミドと25ngのCamKIIδ−pcDNA3.1(CamキナーゼIIをコードするプラスミド)を同量用いて共トランスフェクトしてもよい。トランスフェクションは、実施例1と同様に行う。
その後、細胞を48時間37℃で、10%ウシ胎仔血清及び1% 抗生物及び抗真菌剤を含むDMEM培地中で培養し、その後16時間血清のない同じ培地で培養する。細胞をイオノマイシン1μM(シグマ)の存在下5分間刺激し、上記の通り溶解させる。タンパク質基質のリン酸化は実施例1に記載の通りに検出する。
【0160】
結果
図2は、イオノマイシンによる刺激がない場合、本発明による方法は、細胞に存在するタンパク質基質をコードするプラスミドがどれだけあっても、リン酸化タンパク質基質を検出できないことを示す。
一方、イオノマイシン存在下で測定されたシグナルは、その不存在下よりもはるかに大きい。さらに、このシグナルは、細胞内でトランスフェクトされた基質をコードするプラスミドの量と正の相関がある。
【0161】
CamキナーゼIIを活性化できる化合物を検出するため、イオノマイシンを試験すべき化合物と置き換えることができ、この化合物の不存在下及び存在下で得られるシグナルを比較することができる。
【0162】
ある阻害化合物、特にアロステリック阻害因子は、不活性キナーゼに固定化され、この状態で安定化される。これら同じ化合物は、活性状態のときにキナーゼに対しての活性がほとんどないか全くない。本発明の方法は、試験される化合物(潜在的にアロステリックな阻害因子)を、イオノマイシンの添加後に測定媒体に添加することによって、このアロステリック阻害因子の検出を可能とする。
【実施例3】
【0163】
Akt1による一般的タンパク質基質のリン酸化の、スタウロスポリンによる阻害の検出、異なる2つのウェル中の、リン酸化タンパク質基質及び総タンパク質基質の並行測定
実施例3は、本発明の方法がキナーゼを阻害する化合物の能力を試験できることを示す。
【0164】
プロトコル
細胞を、実施例1で記載した通りに共トランスフェクトする。48時間培養後、キナーゼAkt1阻害因子として知られるスタウロスポリン濃度を上昇させながら、1時間インキュベートする。その後細胞を溶解させ、リン酸化タンパク質基質を実施例1の記載の通りに検出する。並行して、第二ウェルにおいて細胞を同様に処理する。溶解後、タンパク質基質の総量を、ユーロピウムクリプテート(2.9 ng /well)(CIS bio international、カタログ番号61 MYCKLA)と結合抗−c−myc抗体、及びアロフィコシアニン(40 ng/well)と結合させた抗−FLAG抗体を用いて測定する。
【0165】
結果
ペプチド配列標的を、2つのペプチド配列タグ(c−mycとFLAG)の間に挿入する。従ってこれら2つの配列の発現量は、タンパク質基質の発現量と同じである。従って供与体と共役させたc−myc抗体と、受容体と共役させた抗−FLAG抗体の間に発生するFRETの測定は、細胞によって発現されたタンパク質基質の総量を表す。図3は、2つの別々のウェルにおいて、各々のスタウロスポリン濃度について、一方がリン酸化タンパク質基質に対応するシグナルの測定で、他方が総タンパク質基質に対応するシグナルの測定を示すものである。総タンパク質基質に対応するシグナルが、阻害因子の用量に関わらず一定値を維持するので、リン酸化タンパク質基質に対応するシグナルは、Akt1阻害因子の濃度上昇を低減させることに留意する。
【0166】
従って、本発明による方法は、リン酸化タンパク質基質に対応するシグナルの低下が、阻害因子の作用に関係し、細胞内で発現されたタンパク質基質の量の低下と関係しないことを調べることができる。
【0167】
さらに、スタウロスポリンが試験される化合物に置き換えられる場合、本発明による方法は、研究対象の翻訳後修飾(ここではAkt1によるリン酸化)の阻害因子を検出することができる。
【実施例4】
【0168】
実施例4は、単一の測定媒体(FREキラー)において、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の検出及び総タンパク質基質の検出を可能にする、本発明による方法の説明である。
【0169】
図4及び5は、リン酸化タンパク質基質及び総タンパク質基質の量の、2つの測定条件、2つの異なるウェル中で行われる測定、又は同じウェル中でFRET抑制剤を使用し連続的に行われる測定条件下での測定の比較を示す。
【0170】
この実施例はまた、総タンパク質基質量に対する、リン酸化タンパク質基質の量を標準化する重要性について強調する。
【0171】
プロトコル
一方では、c−myc及びflagタグによりラベルしたタンパク質基質をコードするプラスミドで、他方ではAkt1をコードするプラスミドで、実施例1に記載の通りに細胞を共トランスフェクトする。その後細胞を、前記の通りスタウロスポリンで処理する。リン酸化タンパク質基質及び総タンパク質基質に対応するFRETシグナルの測定は、
溶解段階後に2つの別々のウェル中で行っても、
同じウェル中で行ってもよい。
この場合、はじめに溶解物を、トリスビピリジンユーロピウムクリプテート(CIS bio international、式は以下に記載)と結合させたリン酸特異的抗体、及びアロフィコシアニン(実施例1で記載したものと同量で)と結合させた抗−FLAG抗体の存在下に置く。プレートをTR−FRETによるリン酸化タンパク質基質の量の測定前に、1時間、室温でインキュベートする。
トリスビピリジン5酸クリプテート(式は以下に記載)を認識せず、リン酸特異的抗体とアロフィコシアニンとの間のFRETをブロックできる、トリスビピリジンユーロピウムクリプテートに特異的な480ngの抗体、並びにFRET抑制剤に感受性がなく、アロフィコシアニンと適合する供与体(トリスビピリジン5酸クリプテート、1.1ng)と結合させた抗c−myc抗体を、その後ウェルに添加する。1時間後、基質中の総タンパク質に対応するシグナルをTR−FRETにより測定する。
【化9】

【0172】
ビスビピリジンユーロピウム及びトリスビピリジン5酸クリプテート
結果
図4及び5は、2つの方法によるリン酸化及び総タンパク質基質の測定の結果を示す。「Akt DN」はAktの優性阻害変異体、すなわちリン酸化により触媒しないが、スタウロスポリンに結合できるAkt変異体をコードするプラスミドでトランスフェクトした細胞を意味する。
【0173】
図4は、両方の事例において、リン酸化タンパク質基質に対応するシグナルを測定し、そのシグナルは、高濃度(2μM)で測定媒体に添加する場合にのみスタウロスポリンに感受性があるように見えることを示す。
【0174】
図5は、総タンパク質量に対応するシグナルが測定された、両方の事例(測定が同じウェル又は2つの別々のウェルで実施される)を示す。総タンパク質基質に対応するシグナルは、ウェルによって異なることに留意する。特に、20nMのスタウロスポリンが導入されたウェルは、実際には他のウェルよりもタンパク質基質をより多く含む。
【0175】
図6は、各実験条件において、例えば図4における20nMスタロウスポリンの効果に影響を及ぼすウェル間変動を除去するため、リン酸化タンパク質基質に対応するシグナルを総タンパク質基質に対応するシグナルで標準化することの有用性を示している。すなわち図6は、スタロウスポリンによる、タンパク質基質のリン酸化の阻害を示し、これは図4よりもはるかに明確である。
【0176】
細胞内における修飾タンパク質基質の量についての正確に知るために、同じサンプル中に含まれるこの修飾タンパク質基質の量と総タンパク質基質の量の関連が必要となる。
【0177】
図7において、キナーゼの活性に対応するシグナルは、阻害因子不存在下でのキナーゼの活性に対応するシグナルに関して標準化される。これにより、Akt1のためのスタウロスポリンのIC50値をおおよそ見積もることが可能となる。
【実施例5】
【0178】
タンパク質基質及び酵素の共トランスフェクションによるAktタンパク質基質の発現及びリン酸化を測定するための、O(6)−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(Snaptag)活性を用いる共有的標識の使用
この実施例は、本発明による方法の使用であって、リン酸化のレベルの測定、及びタンパク質基質をコードするプラスミド及びAktキナーゼをコードするプラスミドの細胞における共トランスフェクション後に発現した基質の量の測定のための使用を説明する。
この実施例は、特にカップリング領域として自殺酵素(この場合O(6)−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(Snaptag))を、カップリング剤(この場合蛍光受容化合物と複合化したベンジルグアニン−Dy647)で基質を標識するための使用を説明する。この実施は、基質の標識のためのタグ/抗タグ系の使用の、FRETパートナーの一方をDy647受容体とする、優れた代替法である。
【0179】
プロトコル
基質をコードするプラスミドの調製
以下の配列は、c−mycタグ(下線)、セリン/スレオニンキナーゼにより認識される一般的基質(太字)及びFLAGタグ(点線)を含んでなる融合タンパク質をコードするセンス鎖(5'〜3')を表し、5'の位置でBamIの制限部位の部分が、3'の位置でXhoIの制限部位の部分が隣接する。
【化10】

【0180】
二重鎖オリゴヌクレオチドは、以下の2つのオリゴマー、
【化11】

をハイブリッド形成させ、以下のPCR反応を実施することにより得る。95℃、10分間/90℃、5分間/85℃、5分間/80℃、15分間/75℃、60分間/70℃、15分間/65℃、10分間/60℃、5分間/55℃、5分間/50分間/45℃、5分間/35℃、10分間/25℃、15分間/15℃、5分間/4℃。1μlのQuick T4 DNAリガーゼ(New England Biolabs、カタログ番号M2200S)、1μlのハイブリッド形成したオリゴヌクレオチド、及び事前にBamI及びXhoIで10分間、室温で制限酵素処理した50ngのプラスミドを混合することにより、前記配列をpSEMSプラスミド(Covalys)に挿入する。その後プラスミドをOne Shot(登録商標)TOP10コンピテントセル(インビトロジェン社、カタログ番号C4040-06)と共に1時間37℃でインキュベートし、その後細胞をアンピシリン含有プレートに移植する。
37℃で一夜経過後、6個のコロニーを選択し、増殖させ、配列決定によりその相同性を確認した。
【0181】
細胞のトランスフェクション
80000 HEK293細胞(ECACC)を、31.25 ngの基質をコードするプラスミドを、250 ngのAkt1-pcDNA3.1(インビトロジェン社、カタログ番号V790−20)又は280 ngの空のpcDNA3.1プラスミド(インビトロジェン社、カタログ番号V790-20)のいずれか一方とともに、共トランスフェクトする。共トランスフェクションは、Lipofectamine 2000(インビトロジェン社、カタログ番号11668-019)及びOPTI-MEM培地(Gibco、カタログ番号31985)の存在下で実施する。
【0182】
細胞をその後、24時間37℃で、10% FCS(Hyclone カタログ番号SV30014-03)及び1%抗生物及び抗真菌(Gibco 、カタログ番号15240-062)を添加した、100μlのDMEM培地(Gibco、カタログ番号11965-092)で94ウェルアッセイプレート(Cellstar black)中で培養する。
【0183】
細胞を、0.1% BSA、0.4M フッ化カリウム、1mMのDTT、1%トリトン×100、20mM EDTA、1×セリン/スレオニンホスファターゼ阻害因子(シグマ)を50μl未満で含有する、50 mM HEPESバッファ、pH 7中に、150μlのトランスフェクション培地の吸引後、溶解させる。0.1% BSA、0.4Mフッ化カリウム、1mM DTTを含有する、50 mM Hepesバッファ、pH 7.2中に、以下の、供与体(ユーロピウムクリプテート)と複合化した5.4ngリン酸特異的抗体(STK抗体、Upstate、カタログ番号35-002)、及び受容体(架橋したアロフィコシアニン XL 665、CIS bio international、カタログ番号61FG2XLA)と複合化した60 ngの抗−FLAG、又は受容体BG-Dy647(Dyomics)と複合化したベンジルグアニンBG(量を増加させながら(3.12 nM〜100 nM))をリン酸化レベルの測定のため(50μl未満)添加する。
同じバッファは、供与体(ユーロピウムクリプテート)と複合化した5.4ngリン酸特異的抗体(Cisbio CIS bio international カタログ番号61MYCKLA)、及び受容体(架橋したアロフィコシアニン XL 665、CIS bio international、カタログ番号61FG2XLA)と複合化した60 ngの抗−FLAG、又は受容体BG-Dy647(Dyomics GmbH)と複合化したベンジルグアニンBG(量を増加させながら(3.12 nM〜100 nM))を、基質の発現レベルの測定のために含む。
【0184】
プレートを時間分解読みの前に、室温で最大20時間インキュベートする。
【0185】
TR−FRETシグナルの解析
FRETシグナルを、330 nmのレーザーにより励起後、620 nm(希土類クリプテートの発光波長)及び665 nm(アロフィコシマニン及びDY647の発光波長)で、Rubystarで測定する。665nmでの蛍光発光(受容体の蛍光)と620nmで発光された蛍光(供与体の蛍光)の間の比(比率665/620)は、供与体(ユーロピウムクリプテート)と受容体(アロフィコシアニン Dy647)の間に発生するFRETを表す。このFRETは、供与体と受容体の間の空間的近接に比例する。
【0186】
デルタF(%)(DF)は、
【化12】

に対応する。
ネガティブコントロールシグナルは、空のpcDNA3.1プラスミドによりトランスフェクトされた細胞で得られるシグナルに対応する。
【0187】
結果
細胞をプラスミドpcDNA3.1とトランスフェクト又は基質及びAktキナーゼをコードするプラスミドにより共トランスフェクトする。細胞の溶解後、基質の発現及びリン酸化のレベルを、以下を用いて検出する:
トランスフェクトされる基質の発現レベルを決定するため、抗体ペアである抗c-myc供与体/抗−Flag受容体か、ペアである抗c-myc供与体/受容体としてのBG-Dy647のいずれか(図8)
あるいは、Aktキナーゼの作用による基質のリン酸化レベルを決定するため、抗体ペアであるSTK供与体/抗−Flag受容体又はペアである抗STK供与体/受容体としてBG−Dy647(図9)。
【0188】
得られた結果から、以下のことが確認される。
FRETシグナルは、タグ/抗タグ(-myc)系を介して非リン酸化基質に結合したユーロピウムクリプテートと、カップリング領域(Snaptag自殺酵素)を介して非リン酸化基質に結合した受容体Dy647との間で測定され、このシグナルはカップリング剤BG-DY647の量に比例する(図8)。
FRETシグナルはまた、抗−STK抗体を介して非リン酸化基質に結合したユーロピウムクリプテートと、カップリング領域(Snaptag自殺酵素)を介して基質に結合した受容体Dy647との間で測定され、このシグナルはカップリング剤BG-Dy647の量と比例する(図9)。
【0189】
この実施例は、基質(それが翻訳後修飾を受けているか否かに関わらず)の標識が、タグ/抗−タグ系で、又はSnaptag型の自殺酵素により、等しく十分に実施可能であることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞酵素により触媒されるタンパク質基質の翻訳後修飾を、均一培地中で検出する方法であって、翻訳後修飾反応が無傷生細胞で行われること、前記細胞がタンパク質基質及び第一カップリング領域を含んでなる融合タンパク質をコードする異種発現ベクターを含んでなる細胞であること、及び以下の段階、
(i)前記酵素の活性を調節できる、試験される化合物の存在下又は不存在下で、細胞をインキュベーションすること、
(ii)タンパク質基質に存在する第一カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合した、第一FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を、反応培地へ添加すること、
(iii)翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の部位に特異的な結合領域に共有結合し、非修飾タンパク質基質には結合しない、第一FRETパートナーのペアの第二蛍光化合物を、反応培地に添加すること、
(iv)サンプルによって放射された、前記修飾を受けたタンパク質基質の量を表すFRETシグナルを測定すること、を含んでなることを特徴とする方法。
【請求項2】
段階(ii)又は(iii)の前に、前記細胞の透過化処理の段階を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記融合タンパク質がまた、第一カップリング領域とは異なる、翻訳後修飾の影響を受けない第二カップリング領域を含んでなること、及び前記方法が、以下の段階、
(i)前記酵素の活性を調節できる、試験される化合物の存在下又は不存在下で、細胞をインキュベーションすること、
(ii)段階(i)の際、2つの異なる測定媒体中でインキュベートされた前記細胞を分布させること、
(iii)タンパク質基質に存在する当該第一カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合した、第一FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を、第一の測定媒体に添加すること、
(iv)翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の部位に特異的な結合領域に共有結合し、非修飾タンパク質基質には結合しない、第一FRETパートナーのペアの第二蛍光化合物を、この同じ第一の測定媒体に添加すること、
(v)第一の測定媒体により放射された、前記翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の量を表すFRETシグナルを測定すること、
(vi)タンパク質基質に存在する前記第一カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤に共有結合した、第一FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を、第二の測定媒体に添加すること、
(vii)第二カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合する、第二FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を構成要素とする、第三の化合物を、第二の測定媒体に添加すること、
(viii)第二測定媒体により放射される、タンパク質基質の総量を表すFRETシグナルを測定すること、及び
(ix)段階(viii)で測定されたシグナルで、段階(v)で測定されたシグナルを標準化すること、を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
段階(ii)の前、又は段階(iii)及び/又は(vi)の前に、前記細胞の透過化処理の段階を含んでなる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記融合タンパク質がまた、第一カップリング領域とは異なる、翻訳後修飾の影響を受けない第二カップリング領域を含んでなること、及び前記方法が、以下の段階、
(ix)前記酵素の活性を調節できる、試験される化合物の存在下又は不存在下で、細胞をインキュベーションすること、
(x)タンパク質基質に存在する第一カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合した、第一FRETパートナーのペアの第一蛍光化合物を、測定媒体に添加すること、
(xi)翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の部位に特異的な結合領域に共有結合し、非修飾タンパク質基質には結合しない、第一FRETパートナーのペアの第二蛍光化合物を、測定媒体に添加すること、
(xii)第一FRETパートナーのペアにより放射される、翻訳後修飾を受けたタンパク質基質の量を表すFRETシグナルを測定すること、
(xiii)段階(iv)で測定したFRETシグナルを抑制する剤を測定媒体に添加すること、
(xiv)第二カップリング領域に特異的に結合できるカップリング剤と共有結合した第三蛍光化合物を測定媒体に添加すること、ここで第三蛍光化合物は、第二FRETパートナーのペア、及び同じ分光特性を有する第一及び第二のFRETパートナーのペアの構成要素となるよう、第一蛍光化合物と適合するものであって、
(xv)第二FRETパートナーのペアにより放射される、総タンパク質基質の量を表すFRETシグナルを測定すること、
(i)段階(vii)で測定されたシグナルで、測定(iv)で測定されたシグナルを標準化すること、を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
段階(ii)、(iii)、(v)及び/又は(vi)の前に置かれた、細胞の透過化処理の段階を含んでなる、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
FRET抑制剤が、第一FRETパートナーのペアの一方に特異的な結合領域、特に第一FRETパートナーのペアの第一又は第二蛍光化合物に結合する抗体又は抗体断片を含んでなる化合物であることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
a)第一蛍光化合物が、第一FRETパートナーのペアの蛍光受容化合物であり、
b)第二蛍光化合物が、第一FRETパートナーのペアの蛍光供与化合物であり、
c)第三蛍光化合物が、第二FRETパートナーのペアの構成要素となるよう、第一蛍光化合物と適合する供与体であり、及び
d)FRET抑制剤が、第二蛍光化合物に特異的な結合領域、特に第一FRETパートナーのペアの第二蛍光化合物に結合する抗体又は抗体断片を含んでなる化合物であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
第二蛍光化合物が、希土類クリプテート又はキレート、好ましくはテルビウム又はユーロピウムクリプテート又はキレートであること、及びFRET抑制剤が、この希土類クリプテート又はキレートに特異的な抗体又は抗体断片であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法がまた、試験される化合物の存在下又は不存在下で得られるシグナルの比較の段階を含んでなり、ここでシグナルの違いはこの剤の翻訳後修飾への作用を表すことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記細胞がまた、翻訳後修飾を触媒する酵素、又は翻訳後修飾を導くカスケードの活性化に関与するタンパク質、例えば膜受容体又は細胞内メッセンジャーの産生を触媒する酵素をコードする核酸配列を含んでなる、発現ベクターを含んでなることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記翻訳後修飾が、モノADPリボース化、ポリADPリボース化、アセチル化、グルタチオン化、O結合型グルコシル化、N結合型グルコシル化、メチル化、ニトロ化、リン酸化、プレニル化、SUMO化、ユビキチン化、及びタンパク質分解からなる翻訳後修飾群から選択されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記翻訳後修飾を受けるタンパク質基質の部位に特異的な結合領域が、翻訳後修飾を受けるタンパク質基質の結合部位に特異的に結合する抗体、抗体断片、タンパク質又は核酸アプタマーからなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記第一カップリング領域及び/又は存在する場合は第二カップリング領域が、
a)4〜250アミノ酸のタンパク質タグ、例えばグルタチオンS−トランスフェラーゼ、アビジン、6ヒスチジン(6−HIS)により構成されるペプチド、ヒトMycタンパク質のアミノ酸410〜419により構成されるペプチド、配列DYKDDDDKのFLAGペプチド、インフルエンザヘマグルチニンエピトープ(HA)、
b)自殺酵素又は自殺酵素の断片、例えばO(6)−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(snaptag)又はデハロゲナーゼ(halotag)、
c)ジヒドロフォレート還元酵素、
からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
a)第一又は存在する場合は第二カップリング領域が、タンパク質タグであり、及び
b)第一又は第二カップリング剤が、前記タンパク質タグに特異的な抗体又は抗体断片であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
a)第一又は存在する場合は第二カップリング領域が、自殺酵素であり、及び
b)第一又は第二カップリング剤が、前記自殺酵素の基質であることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記自殺酵素がO(6)−アルキルグアニン−DNAアルキルトランスフェラーゼ(snaptag)である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記自殺酵素の基質が、ベンジルグアニン又はその誘導体の1つである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記自殺酵素が、デハロゲナーゼ(halotag)である、請求項16に記載の方法。
【請求項20】
前記自殺酵素の基質がクロロアルカンである、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
a)第一又は存在する場合は第二カップリング領域が、ジヒドロフォレート還元酵素であり、及び
b)第一又は第二カップリング剤が、トリメトプリンであることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項22】
前記蛍光FRETパートナー化合物が、発光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)もしくはその変異体、サンゴから抽出される蛍光タンパク質、フィコビリタンパク質、例えばB−フィコエリスリン、R−フィコエリスリン、C−フィコシアニン、アロフィコシアニン、特にXL665の名で知られるもの;発光有機分子、例えばローダミン、シアニン、スクアライン(squaraine)、BODIPYの名で知られる蛍光色素分子、蛍光色素、アレクサフルオロ(Alexa Fluor)の名で知られる化合物;超分子錯体、例えば希土類クリプテート、希土類キレート、特にユーロピウム、テルビウム、サマリウム、ジスプロシウム、ネオジミウムキレート及びクリプテート;発光無機粒子、例えばナノ結晶、からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記方法が、試験される化合物の添加の前に、化学的、薬理的、浸透的、電気的、熱的又は機械的な刺激から選択される、測定媒体の刺激段階を含んでなることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
前記刺激段階が、翻訳後修飾を活性化又は阻害する剤を反応培地に添加することを含むことを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項25】
1、2又は3の蛍光化合物が、蛍光化合物及びカップリング剤又は翻訳後修飾による修飾タンパク質基質の部位に結合する領域に加え、その後の透過化処理なしで、前記(1又は複数の)蛍光化合物が原形質膜を通過できる領域を含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記蛍光化合物が原形質膜を通過できる領域が、エステル、例えばピバロイル−オキシメチルエステル、アセトキシメチルエステル、又はグリコールエステル;膜輸送物質に運搬されるウイルス性ペプチド、例えばペネトラチン(penetratin)及びその類似体、トランスポータン(transportan)及びその類似体、ポリアルギニン基、グアニジン基に運搬されるペプトイド、例えばオリゴグアニジウム基;コレステロール基、ビタミンE又は脂質鎖、例えばウンデシル又は1,2−ジ−O−ヘキサデシルグリセロール鎖から選択されることを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
翻訳後修飾の研究に適した細胞であって、
a)タンパク質基質及び1又は2のカップリング領域を含んでなる融合タンパク質をコードする発現ベクター、及び
b)翻訳後修飾を触媒する酵素をコードする核酸配列及び/又は翻訳後修飾に導くカスケードの活性化に関与するタンパク質、例えば膜受容体又は細胞内メッセンジャーの産生を触媒する酵素をコードする核酸配列を含んでなる発現ベクター、を含んでなることを特徴とする細胞。
【請求項28】
前記発現ベクターが細胞DNA中に組み入れられることを特徴とする、請求項27に記載の細胞。
【請求項29】
前記細胞が、不死化細胞であることを特徴とする、請求項27に記載の細胞。
【請求項30】
前記細胞が、哺乳類の細胞、特にヒト細胞であることを特徴とする、請求項27に記載の細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−510771(P2010−510771A)
【公表日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537717(P2009−537717)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【国際出願番号】PCT/IB2007/004341
【国際公開番号】WO2008/065540
【国際公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【出願人】(507179726)シ ビオ アンテルナショナル (9)
【出願人】(509146171)
【出願人】(509146182)
【出願人】(509146193)
【出願人】(509146207)
【Fターム(参考)】