説明

耐切創性布帛

【課題】従来のアラミド繊維などを用いた布帛に比べ、軽量でかつ高い切創性能を持つ布帛を提供すること。
【解決手段】1種或いは複数種の繊維布帛を積層してなる耐切創性布帛であって、該繊維布帛が特定の構造反復単位を含む芳香族コポリアミドからなり、その強度が20cN/dtex以上、引張弾性率が500cN/dtex以上の芳香族コポリアミド繊維からなる布帛を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アラミド繊維よりなる耐切創性布帛に関するもので、より詳しくは従来のアラミド繊維を用いた場合に比べて、より軽量でかつ耐切創性に優れた耐切創性布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、凶悪犯罪件数が著しく増加する中、登山ナイフや携帯用ナイフのような刃物から身体を保護する必要性が増加している。また益々進行する効率化、省力化、高速化の中で労働災害、交通災害に遭遇する危険性が増しているので、安全性向上の要望も強くなっている。
【0003】
一方、スノーボード、スキー、フィッシング、登山などのアウトドアスポーツへの参加人口の増加に伴い、スポーツ衣料素材も従来以上に耐久性、機能性が要求されるようになってきた。特に、耐切創性、耐引裂性などの機能性に優れ、伸縮性、プリーツ性、防しわ性、形態保持性、カラフルな色彩などの審美性の優れたものが望まれている。
【0004】
このような要求に対し、耐切創性に優れ、耐薬品性、糸強度が高い全芳香族ポリアミド繊維などのいわゆる高機能繊維からなる布帛が幅広く用いられている。
たとえば、特開2002−31499号公報には、布帛などのシート状物に硬質無機物粒子を固着する方法が開示されている。この方法は切創性向上に非常に効果があるものの、布帛表面に特殊な加工が必要になったり、布帛が剛軟となったり、縫製がしにくかったり、衣服類に用いた場合に着用感が悪いといった問題があった。
【0005】
さらに、耐切創性能を向上させるため、アラミド繊維より高強度を有するポリベンザゾール繊維を用いた布帛及びそれを用いた防護服も提案されている。確かに該繊維を用いると耐切創性能は向上するものの、該繊維は非常に高価であり、その結果、該繊維よりなる布帛及びそれを用いた防護服も高価になってしまうという問題点があった。
【0006】
このように、従来のアラミド繊維を用いた場合並みに安価で、かつ従来のアラミド繊維を用いた場合に比べて、耐切創性能に優れた布帛は未だ実用化されておらず、その開発が切望されている。
【特許文献1】特開2002−31499号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、従来のアラミド繊維などを用いた布帛に比べ、軽量でかつ高い切創性能を持つ布帛を安価で提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明によれば、1種或いは複数種の繊維布帛を積層してなる耐切創性布帛であって、該繊維布帛が下記式(1)および下記式(2)の構造反復単位を含む芳香族コポリアミドからなり、その強度が20cN/dtex以上、引張弾性率が500cN/dtex以上の芳香族コポリアミド繊維からなる布帛を含むことを特徴とする耐切創性布帛が提供される。
【0009】
【化1】

【0010】
【化2】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来のアラミド繊維などを用いた布帛に比べ、軽量でかつ高い切創性能を持つ布帛を安価で提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明でいう芳香族コポリアミドとは、1種又は2種以上の2価の芳香族基が直接アミド結合により連結されているポリマーであって、該芳香族基は2個の芳香環が酸素、硫黄又はアルキレン基で結合されたものであってもよい。また、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、クロルキなどのハロゲン基等が含まれていてもよい。
【0013】
上記芳香族コポリアミドは、従来公知の方法にしたがって、アミド系極性溶媒中で芳香族ジカルボン酸クロライドと芳香族ジアミンとを反応せしめてポリマー溶液を得る。
【0014】
本発明における芳香族ジカルボン酸ジクロライドは従来公知のもので良い。例えばテレフタル酸ジクロライド、2−クロロテレフタル酸ジクロライド、3−メチルテレフタル酸ジクロライド、4、4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、イソフタル酸ジクロライド等が挙げられる。
【0015】
本発明においては2種の芳香族ジアミンを用いる。一方の芳香族ジアミンは置換又は非置換パラ型芳香族ジアミンから選ばれた1種であり、パラ型フェニレンジアミン、パラ型ビフェニレンジアミン等の一般的に公知のもので良い。また、もう一方の芳香族ジアミンは置換又は非置換のフェニルベンジミダゾール基を有する芳香族ジアミン類から選ばれた1種であり、中でも入手のし易さ、得られる繊維が有する優れた引張強度、初期モジュラス等の点から、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾールが良い。
【0016】
本発明で用いられるアミド系極性溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルイミダゾリジノンなどを例示することができるが、特に、芳香族ポリアミドの重合からドープ調整、湿式紡糸工程に至るまでの取扱い性や安定性及び害溶媒の毒性等の点から、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。
【0017】
本発明で使用する芳香族コポリアミドは、下記式(1)および下記式(2)の構造反復単位を含む芳香族コポリアミドからなる芳香族コポリアミド繊維である必要があり、下記式(2)の構造反復単位が構造単位の全量に対して30〜100モル%、さらに好ましくは50〜100モル%の範囲で含まれていることが好ましい。該含有量が30モル%未満の場合には重合反応においては反応溶液が濁るという問題が生じ、この様な濁ったドープでは製糸することが困難となることがある。
【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
上記芳香族コポリアミドは、公知のアラミド繊維の製造方法により製糸することができる。例えば、半乾半湿式紡糸法によりドープを凝固液中に押し出し、凝固液から凝固糸として引き取り、水洗工程にて溶媒を十分に除去し、乾燥工程にて充分に乾燥したのち必要に応じて熱処理を行う。
【0021】
本発明における繊維の熱処理温度は300〜550℃の範囲とすることが好ましい。該温度が300℃未満の場合には、繊維が充分に配向結晶化を起こすことができないために充分な引張強度、初期モジュラスが得られない場合がある。また、該温度が550℃を越える場合には、繊維が熱劣化を引き起こすために充分な引張強度、初期モジュラスが得られないことがある。
【0022】
また、上記芳香族コポリアミド繊維は引張強度20cN/dtex、初期モジュラス500cN/dtex以上であることが必要である。
【0023】
上記芳香族コポリアミド繊維は、単繊維繊度及び長繊維で用いる場合のヤーン繊度とも特に限定する必要はないが、そのヤーン繊度は織成作業の作業性の観点からは200〜1700dtexの範囲が好ましい。該繊度が200dtex未満となると必要とする目付けを得ることが困難となり好ましくない。単糸繊度は0.5〜6dtexが好ましく、0.5dtex未満では織成の際、単糸切れによる毛羽を生じ、織成作業が困難となる場合がある。一方、単糸繊度が6dtexを越えると単糸間のバラケを生じやすくなる。
【0024】
本発明の対象となる布帛は、他の繊維と組み合わせた複合布帛も本発明の範囲である。他の繊維とは、天然繊維、有機繊維、無機繊維、金属繊維、鉱物繊維等である。組み合わせ方法については、特に限定されるものではなく、混繊、交編織など任意の方法が採用できる。布帛の種類としては、織物、編物、不織布等である。
【0025】
織物としては、平織、二重織、リップストップ等、編物としては、丸編、横編、経編、ラッセル編等が可能である。さらに不織布としては、短繊維からなる不織布、長繊維からなる不織布いずれも可能である。また、短繊維不織布は、乾式不織布でも、湿式不織布(紙も含む)でもよく、長繊維不織布は、いわゆるスパンボンド不織布でも、トウ開繊不織布でも、さらには長繊維を一方向に配列させた後その配列方向が交叉するように該配列シートを複数枚積層したものであってもよい。これらの不織布は、必要に応じて接着剤や、熱接着性繊維を併用して繊維間を相互に結合していてもよい。また、ニードルパンチやウォータージェットにより交絡処理を施しておいてもよい。
【0026】
布帛を構成する繊維束についても特に限定されるものではない。すなわち、モノフィラメント、マルチフィラメント、撚糸、合撚糸、カバリング糸、紡績糸、牽切紡績糸、芯鞘構造糸等を使用することができる。
なお、本発明の耐切創性布帛はその全部または一部に用いて防護服や防護具とすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、実施例中の各特性は、以下の方法に従って評価した。
(1)耐切創性
縦横とも10cmの正方形ピン枠(幅1cm;外寸11×11cm、内寸10×10cm)を45度の角度で固定し、そこに試験する布帛をセットする。引張圧縮試験機を用い、先端に丸刃のカッター刃(オルファ製20mmΦ)を取り付けたクロスヘッドを降下させて布帛を構成する糸が1本切断するまでの最大抵抗力を測定する。
【0028】
[実施例1]
パラフェニレンジアミン15モル、5(6)−アミノ−2−(4−アミノフェニル)ベンジミダゾール35モル、テレフタル酸クロライド50モルからなる重合体を製糸して得た、引張強度20cN/dtex、引張り弾性率500cN/dtexの芳香族コポリアミド繊維を用いて常法により紡績糸(番手:20/2)を製造し、該紡績糸を経糸及び緯糸に配して2/1の綾織物(目付:280g/m)を織成した。
該綾織物の耐切創性を測定したところ、1.2kgという良好な耐切創性を示した。
【0029】
[比較例1]
実施例1において、紡績糸を構成する繊維をパラフェニレンテレフタラミド繊維(Dupont社製、登録商標「ケブラー」)とした以外は、実施例1と同様に実施した。
得られた綾織物の耐切創性は0.7kgであった。尚、この際使用したパラフェニレンテレフタラミド繊維の引張強度は20.3cN/dtex、引張弾性率は490cN/dtexであった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、従来のアラミド繊維などを用いた布帛に比べ、軽量でかつ高い切創性能を持つ布帛が提供されるので、軽量で優れた保護衣、あるいは防護服等の用途分野に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1種或いは複数種の繊維布帛を積層してなる耐切創性布帛であって、該繊維布帛が下記式(1)および下記式(2)の構造反復単位を含む芳香族コポリアミドからなり、その強度が20cN/dtex以上、引張弾性率が500cN/dtex以上の芳香族コポリアミド繊維からなる布帛を含むことを特徴とする耐切創性布帛。
【化1】

【化2】

【請求項2】
芳香族コポリアミドに含まれる下記式(2)の構造反復単位が構造単位の全量に対して30〜100モル%である請求項1記載の耐切創性布帛。
【化3】


【公開番号】特開2006−205555(P2006−205555A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−21054(P2005−21054)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】