説明

耐型かじり性および化成処理性に優れた鋼板

【課題】耐型かじり性と化成処理性を高度に両立し、低コストで製造可能な鋼板を提供する。
【解決手段】鋼板表面に付着量が10〜2000mg/mで、かつ次式で定義される(00・2)面の配向率R(00・2)が0.5以上である亜鉛めっき皮膜を有する。R(00・2)=[I(00・2)/Is(00・2)]/Σ[I(hk・l)/Is(hk・l)]。ただし、I(hk・l)はX線回折測定によって得た亜鉛めっき皮膜の各結晶面(hk・l)の回折ピーク強度(cps)、Is(hk・l)は標準亜鉛粉末の各結晶面(hk・l)の回折ピーク強度(cps)、Σ[I(hk・l)/Is(hk・l)]は、(hk・l)が、(00・2)、(10・0)、(10・1)、(10・2)、(10・3)、(11・0)、(11・2)、(20・1)、(10・4)、(20・3)の各結晶面についてのI(hk・l)/Is(hk・l)の値の合計。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐型かじり性および化成処理性に優れた鋼板に関し、例えば自動車用材料として用いられる耐型かじり性および化成処理性に優れた冷延鋼板または熱延鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼板は安価な金属材料であるため、自動車、家電、建材等の分野において広く用いられている。特に、自動車分野においては、鋼板が他の金属材料と比較して優れたプレス成形性や化成処理性を有することから、依然として自動車用材料の主流となっている。近年、自動車業界においては、燃費向上および排出ガス削減の観点から自動車の軽量化が進んでおり、さらに衝突安全性向上のニーズともあいまって、高強度鋼板の使用が急増している。
【0003】
高強度鋼板は鋼中元素としてSi、Mn等が添加された鋼板であり、これらの元素が鋼板表面に分布することにより化成処理性が著しく劣化することが従来から知られている。一方、高強度鋼板をプレス成形する際には、成形荷重が増大するのみならず、局部的な高面圧部が生じることにより型かじりが発生する問題があり、従来から耐型かじり性および化成処理性に優れた高強度鋼板の開発が切望されていた。
【0004】
鋼板の耐型かじり性や化成処理性を改善する技術としては、例えば特許文献1において、下層が0価亜鉛主体の極薄皮膜、上層が2価の亜鉛とP、B、Siの1種または2種以上からなる第2元素群の酸化物からなる非晶質皮膜を複層形成する技術が開示されている。
【0005】
この技術は、軟質な金属亜鉛の表面を特定の水溶液と接触させることにより硬質でガラス状の非晶質皮膜を形成させ、この非晶質皮膜により潤滑性を向上させることを目的とした技術である。しかしながら、この技術では、耐型かじり性改善効果が硬質な上層皮膜の存在によってかえって減少するため、耐型かじり性が不十分である。また、下層の金属亜鉛主体の皮膜についても、その配向性が何ら制御されておらず、安定した耐型かじり性を確保するには至っていない。一方、上層の非晶質皮膜は化成処理前のアルカリ脱脂ではほとんど溶解せず、化成処理液中でほぼ完全に溶解する皮膜である。このため、化成処理液中の各成分の濃度バランスを変化させることにより化成処理液を劣化させるだけでなく、非晶質皮膜の溶解と化成処理結晶の形成が同時に起こるため、化成処理反応が通常とは異なり、正常な化成処理結晶が形成しなくなるという問題も有している。さらにこのような皮膜を形成するためには、例えば亜鉛めっき工程後に水溶液との接触処理工程を設ける必要があり、処理工程が煩雑であるため製造コストも高コストである。
【0006】
一方、本発明で意図しているところの冷延鋼板または熱延鋼板に関する技術とは異なるが、亜鉛めっき鋼板において、亜鉛めっき層の配向性を制御することによりその品質を向上させようとする技術が種々提案されており、例えば、特許文献2には、(00・2)面や他の結晶面の配向性を特定範囲とすることにより、色調と導電性を向上させる技術が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの技術は、防錆鋼板である亜鉛めっき鋼板を対象とした技術であり、亜鉛めっき層の付着量は通常の場合20g/m程度、少ない場合でも耐食性を確保するために1g/m以上の付着量を必要としており、本発明で対象とする冷延鋼板や熱延鋼板とはそもそも技術分野が異なるものである。当然、冷延鋼板や熱延鋼板で問題となる耐型かじり性や化成処理性の向上を意図したものでなく、亜鉛めっき層の配向性と耐型かじり性や化成処理性との関係についても一切明らかにされていない。
【特許文献1】特開平10−158858号公報
【特許文献2】特許第3354142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来の技術では冷延鋼板や熱延鋼板の耐型かじり性と化成処理性を高度に両立する技術は確立されておらず、特に、高強度鋼板の耐型かじり性と化成処理性を満足する技術は存在しなかった。
【0009】
本発明はこのような実情に鑑み、特に自動車用鋼板として用いられる冷延鋼板および熱延鋼板の耐型かじり性と化成処理性を高度に両立し、しかも低コストで製造可能な技術を提供することを目的とする。さらに、近年の高強度鋼板は、Si、Mn等の元素が多量に添加されているために良好な化成処理性の確保がより一層困難となってきており、また強度増大にともない型かじりも発生しやすくなっていることから、高強度鋼板の耐型かじり性と化成処理性をも満足させることが可能な鋼板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、高強度鋼板の耐型かじりを改善することを目的として、鋼板表面上に被覆した種々の皮膜の効果について鋭意検討を行った。その結果、単に亜鉛めっき皮膜を鋼板上に形成しても安定した耐型かじり性の向上効果を得ることができないが、亜鉛めっき皮膜の付着量および(00・2)面の配向性を所定範囲に制御することにより、極めて顕著な耐型かじり性向上効果が発現し、また化成処理性にも優れることを新規に見出した。
【0011】
本発明は、この知見に基づいてなされたものであり、上記課題を解決する本発明の手段は、鋼板表面に付着量が10〜2000mg/mで、かつ下記式(1)で定義される(00・2)面の配向率R(00・2)が0.5以上である亜鉛めっき皮膜を有することを特徴とする耐型かじり性および化成処理性に優れた鋼板である。
【0012】
【数2】

【0013】
ただし、式(1)中、I(hk・l)はX線回折測定によって得た亜鉛めっき皮膜の各結晶面(hk・l)の回折ピーク強度(cps)であり、Is(hk・l)は標準亜鉛粉末の各結晶面(hk・l)の回折ピーク強度(cps)であり、Σ[I(hk・l)/Is(hk・l)]は、(hk・l)が、(00・2)、(10・0)、(10・1)、(10・2)、(10・3)、(11・0)、(11・2)、(20・1)、(10・4)、(20・3)の各結晶面についてのI(hk・l)/Is(hk・l)の合計である。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、耐型かじり性、化成処理性を高度に両立する鋼板を提供するものであり、特に高強度鋼板の耐型かじり性、化成処理性を両立させる極めて有効な技術であり、しかも低コストで製造可能な技術であるため、工業的に極めて価値の高いものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について発明に至った経緯とともに説明する。
【0016】
発明者らは、まず高強度鋼板の耐型かじりを改善することを目的として、鋼板表面上に被覆した種々の皮膜の効果について鋭意検討を行った。その結果、単に亜鉛めっき皮膜を鋼板上に形成しても安定した耐型かじり性の向上効果を得ることができないが、亜鉛めっき皮膜の付着量および(00・2)面の配向性を所定範囲に制御することにより、極めて顕著な耐型かじり性向上効果が発現することを新規に見出した。
【0017】
本発明者らが目的とする耐型かじり性は、例えば500MPa以上の高面圧条件下においても鋼板と金型との間における凝着が発生しないような極めて厳しい要求レベルに応えるものである。これを達成するためには、前記の特許文献1に開示されているような、鋼板の最表面に硬質皮膜を施す方法ではむしろ逆効果であり、鋼板表面に施された皮膜全体が軟質であることが必要である。この理由は、上記のごとく500MPa以上のような極めて過酷な高面圧条件下においては、鋼板表面に施された皮膜自体の硬度が重要な因子であり、皮膜全体が軟質で剪断変形を受けやすいほど耐型かじり性が良好となり、硬質層が存在するとこの層自体が剪断変形を受ける際に多大なエネルギーを必要とするため型かじりの起点となるばかりでなく、この硬質層が破壊された際には、硬質皮膜の残骸の一部が金型に凝着してその表面を掘り起こすためかえって耐型かじり性を劣化させるためである。
【0018】
さらに、本発明者らは、亜鉛めっき皮膜の(00・2)面の配向性を制御することが、耐型かじり性を安定して向上させるための重要な因子であることを新規に見出した。この理由は、亜鉛めっき皮膜は六角形の板状結晶が積層された形状をなしているが、その六角板状晶の基底面である(00・2)面の配向率が高いほど、亜鉛めっき皮膜自体がプレス成形時に内部ですべりを生じやすく、その結果亜鉛めっき皮膜自体の剪断抵抗をさらに低減させるためと考えている。
【0019】
一方、本発明の付着量範囲の亜鉛めっき皮膜を施した鋼板では、無処理の鋼板の場合と比較して化成処理反応が促進され、スケやムラのない均一な化成処理結晶を得ることができる。これは、亜鉛めっき皮膜の付着部と鋼板露出部との間でミクロセルが形成され、化成処理反応がより活発に、そしてより均一に進行するためであると考えられる。また、たとえ亜鉛めっき皮膜が鋼板全面を覆ったとしても、亜鉛めっき鋼板上に形成されるリン酸亜鉛皮膜とまったく同質の皮膜が形成されるため性能上の問題はまったくない。もし、冷延鋼板や熱延鋼板と同質のリン酸亜鉛皮膜が望まれる場合には、鋼板露出部が形成されるように亜鉛めっき皮膜の付着量を少なめに制御すればよい。
【0020】
また本発明は、従来から実用に供されている亜鉛めっき皮膜の付着量および配向性を所定の範囲に制御することにより開発された技術であり、例えば前記の特許文献1に開示されているようなP、B、Siなどの特殊な元素を含有していないため、化成処理液中の各成分の濃度バランスを変化させることもなく、また異常な化成処理結晶が形成されることもない。さらには、亜鉛めっき工程後に後処理を行うような工程もないため製造コストも安価である。
【0021】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0022】
本発明で使用する鋼板としては特に限定されるものではないが、熱延鋼板、冷延鋼板等の鋼板が例示される。なかでも自動車用材料として使用頻度の高い鋼板である、酸洗処理により黒皮を除去した熱延鋼板や、焼鈍処理により材質を調整した冷延鋼板が好適に使用される。また、鋼板の強度レベルについても限定されるものではなく、引張強度が300MPa以下の軟鋼板から引張強度が1000MPaを超えた高強度鋼板に至るまで、すべての鋼板に適用可能である。鋼板の板厚についても何ら限定されるものではなく、例えば0.2〜5mm程度の板厚の鋼板が適用可能である。
【0023】
本発明において、亜鉛めっき皮膜の付着量は10〜2000mg/mとする。亜鉛めっき皮膜の付着量が10mg/m未満では耐型かじり性、化成処理性ともに不十分である。耐型かじり性が不十分な理由は、軟質な亜鉛めっき皮膜がプレス成形時の剪断抵抗を低減させる効果が小さいためである。化成処理性が不十分な理由は、亜鉛めっき付着部と鋼板露出部との間で形成されるミクロセルによる化成処理反応の促進効果が小さく、このため化成処理結晶の核発生点が少ないので均一な化成処理結晶が得られにくいためである。一方、亜鉛めっき皮膜の付着量が2000mg/mを超えると耐型かじり性が劣化する。この理由は、亜鉛めっき皮膜自体の剪断抵抗が無視できないほど大きくなり、この結果プレス成形時にスムーズな潤滑が行えないようになり、亜鉛めっき皮膜自体が型かじりの起点となったり、破壊された亜鉛めっき皮膜の一部が硬質化して型かじりを引き起こす場合があるからである。
【0024】
なお、亜鉛めっき皮膜の付着量が増大して鋼板表面全体を覆い尽くした場合には、化成処理時に形成される結晶が、フォスフォフィライト(ZnFe(PO・4HO)主体からホパイト(Zn(PO・4HO)主体へと変化する。しかしながら、ホパイトは亜鉛系めっき鋼板に化成処理を実施した場合に形成されるリン酸亜鉛結晶であり、性能上の問題は一切ない。従来から、P比(フォスフォフィライトの強度をP、ホパイトの強度をHとしたときのP/(P+H)の値)が高いほど塗装後耐食性に優れることが知られてはいるが、特に近年では化成処理薬剤および電着塗料の改善が急速に進んでいるため、塗装後の性能におよぼすP比の影響もほとんど問題にならないほど小さくなっているのが実情である。
【0025】
もし、使用する化成処理薬剤や電着塗料の性能が不十分であるなどの理由により高いP比が必要である場合には、亜鉛めっき皮膜が鋼板表面全体を覆い尽くさないように付着量を制御すればよく、例えばP比を0.50以上としたい場合には亜鉛めっき皮膜の付着量を概ね800mg/m以下に、P比を0.85以上としたい場合には概ね600mg/m以下に制御すればよい。
【0026】
本発明において、亜鉛めっき皮膜の(00・2)面の配向率であるR(00・2)は0.5以上とする。なお、R(00・2)は下記式(1)で定義される。
【0027】
【数3】

【0028】
ただし、式(1)中、I(hk・l)はX線回折測定によって得た亜鉛めっき皮膜の各結晶面(hk・l)の回折ピーク強度(cps)であり、Is(hk・l)は標準亜鉛粉末の各結晶面(hk・l)の回折ピーク強度(cps)であり、Σ[I(hk・l)/Is(hk・l)]は、(hk・l)が、(00・2)、(10・0)、(10・1)、(10・2)、(10・3)、(11・0)、(11・2)、(20・1)、(10・4)、(20・3)の各結晶面についてのI(hk・l)/Is(hk・l)の合計である。
【0029】
亜鉛めっき皮膜の(00・2)面の配向率であるR(00・2)が0.5未満では耐型かじり性が不十分である。この理由は、いかに亜鉛めっき皮膜が軟質とはいえども、プレス成形時に亜鉛めっき皮膜内部でのすべりによる剪断抵抗の低減効果が発現しないためスムーズな潤滑が行われず、亜鉛めっき皮膜自体が型かじりの起点となったり、破壊された亜鉛めっき皮膜の一部が硬質化して型かじりを引き起こす場合があるからである。亜鉛めっき皮膜の(00・2)面は亜鉛の六角板状晶の基底面であり、R(00・2)が0.5以上であれば、プレス成形時の摺動方向と六角板状晶のすべりの方向が同一となる頻度が増大し、剪断抵抗が著しく減少するため耐型かじり性が向上する。
【0030】
亜鉛めっき皮膜の(00・2)面の配向率であるR(00・2)は、X線回折測定によって得た亜鉛めっき皮膜の各結晶面(hk・l)の回折ピーク強度(cps)を使用して、式(1)にしたがって算出すればよい。
【0031】
本発明において、R(00・2)を算出する際には、(00・2)、(10・0)、(10・1)、(10・2)、(10・3)、(11・0)、(11・2)、(20・1)、(10・4)、(20・3)の10種の結晶面のX線回折ピーク強度を使用することとする。この10種の結晶面について評価を行う理由は、特許文献2にも述べられているように、電気亜鉛めっき皮膜をX線回折測定したときに得られる回折ピークがほとんどこの10種の結晶面に集中していること、および、例えば(00・2)面と(00・4)面のような等価な面を2度評価しない方が亜鉛めっき皮膜の真実の配向性をより正確に評価できるからである。
【0032】
本発明の鋼板を製造する方法については、本発明の構成要件を満足する鋼板が製造可能な方法であれば限定されるものではないが、電気亜鉛めっき法が付着量および配向性の制御が容易であり、しかも低コストで製造可能であるため最も好適である。電気亜鉛めっきの条件についても何ら限定されるものではなく、本発明の構成要件を満足する鋼板が製造可能な条件であればよく、公知の電気亜鉛めっき条件も好適に使用することができる。亜鉛めっき浴の浴組成としては、例えばZnイオンを0.1〜2モル/リットルの濃度で含有する硫酸浴や塩化物浴などの酸性浴、またはアルカリ浴などが例示される。亜鉛めっき浴には、公知の亜鉛めっき浴に含有されているのと同様に、不純物イオンとしてNiイオン、Feイオン、Snイオンなどが含有されていてもよく、またアルカリ金属やアルカリ土類金属などの電導助剤が含有されていてもよい。また、公知のように、有機化合物や無機化合物などの添加剤が、光沢度を変化させるための光沢剤として、あるいは白色度を変化させるための色調調整剤として含有されていてもよい。亜鉛めっき皮膜の付着量を変化させるためには、電流密度や通電時間を変化させることにより投入電気量を変化させればよく、(00・2)面の配向率であるR(00・2)は0.5以上とするためには、例えば電流密度を10A/dm以下の低電流密度としたり、亜鉛めっき浴中に含まれる不純物イオンの量を調整するなどして配向率が所望の範囲となるようにすればよい。なお、電気亜鉛めっきに先立って鋼板表面を洗浄または活性化するための前処理を実施してもよく、公知の酸やアルカリを用いた前処理がいずれも適用可能である。
【実施例1】
【0033】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明する。
【0034】
使用した供試鋼板を表1に示す。熱延鋼板としては引張強度が270MPa級、590MPa級、980MPa級の3種の鋼板を用い、いずれも酸洗処理により黒皮を除去した鋼板を用いた。また、冷延鋼板としては引張強度が270MPa級、590MPa級、980MPa級の焼鈍処理後の鋼板を用いた。なお、板厚はいずれも1.2mmの鋼板を用いた。
【0035】
これらの鋼板をアルカリ電解脱脂、硫酸酸洗により表面を清浄化、活性化した後、電気亜鉛めっき法により亜鉛めっき皮膜を施した。亜鉛めっき浴としては、硫酸亜鉛七水和物(ZnSO・7HO)を430g/l含有し、浴温60℃、pH1.6のめっき浴を用いた。なお、亜鉛めっき皮膜の(00・2)面の配向率であるR(00・2)を変化させるために、亜鉛めっき浴中の硫酸ニッケル六水和物(NiSO・6HO)の濃度を0〜1.5g/l、硫酸第一鉄七水和物(FeSO・7HO)の濃度を0〜15g/lと変化させて添加した。また、めっきを行う際の電流密度も1〜120A/dmと変化させることにより、R(00・2)を変化させた。なお、硫酸ニッケル六水和物濃度が高いほど、硫酸第一鉄七水和物濃度が高いほど、電流密度が高いほど、R(00・2)は小さい値となるため、これらの条件を適宜組み合わせることによりR(00・2)の値が異なる亜鉛めっき皮膜を有する鋼板を作製した。
【0036】
このようにして作製した亜鉛めっき皮膜の付着量を湿式分析により定量した。また、亜鉛めっき皮膜のX線回折測定を行い、各結晶面の回折ピーク強度から、上記式(1)を用いて亜鉛めっき皮膜の(00・2)面の配向率であるR(00・2)を算出した。
【0037】
耐型かじり性の評価は摺動試験機を用いて行い、金型の押付け荷重を100MPaから50MPa刻みで上昇させながら鋼板に摺動を加え、目視観察により鋼板に型かじりが生じていなかった最大荷重の値である限界耐荷重を求めることにより評価した。なお、摺動試験を行う際の金型は、材質がSKD11、金型の幅が10mm、金型と鋼板との摺動方向の接触長が3mmで、摺動方向の金型端部には4.5mmのRを付与した形状のものを用いた。また摺動条件は、摺動速度1.0m/min、摺動距離100mmとし、一般防錆油(出光興産株式会社製、ダフニーオイルコートSK)を塗油した鋼板に対して摺動試験を行った。この試験により、耐型かじり性を以下の基準に従い判定した。
◎:限界耐荷重が1000MPa以上
○:限界耐荷重が500MPa以上、1000MPa未満
△:限界耐荷重が300MPa以上、500MPa未満
×:限界耐荷重が300MPa未満
【0038】
化成処理性の評価は、市販の化成処理薬剤(日本パーカライジング株式会社製、パルボンドPB−L3020システム)を用いて標準条件で行い、SEMによる化成処理結晶の均一性評価、およびX線回折により測定したP比(フォスフォフィライトの強度をP、ホパイトの強度をHとしたときのP/(P+H)の値)により評価した。化成処理結晶の均一性評価は以下の基準により判定した。
○:化成結晶にスケがない
△:化成結晶に一部スケがある
×:化成結晶のスケが著しい
【0039】
表2に、使用した鋼板、亜鉛めっき皮膜の付着量および(00・2)面の配向率であるR(00・2)、ならびに耐型かじり性と化成処理性の評価結果を示す。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、本発明の鋼板はいずれも耐型かじり性、化成処理性に優れる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明の鋼板は、自動車分野等の用途分野で使用される耐型かじり性および塗装後耐食性に優れる冷延鋼板または熱延鋼板として利用することができる。さらに、本発明の鋼板は、自動車分野等の用途分野で使用される耐型かじり性および塗装後耐食性に優れる高強度鋼板(高強度熱延鋼板または高強度冷延鋼板)として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面に付着量が10〜2000mg/mで、かつ下記式(1)で定義される(00・2)面の配向率R(00・2)が0.5以上である亜鉛めっき皮膜を有することを特徴とする耐型かじり性および化成処理性に優れた鋼板。
【数1】

ただし、式(1)中、I(hk・l)はX線回折測定によって得た亜鉛めっき皮膜の各結晶面(hk・l)の回折ピーク強度(cps)であり、Is(hk・l)は標準亜鉛粉末の各結晶面(hk・l)の回折ピーク強度(cps)であり、Σ[I(hk・l)/Is(hk・l)]は、(hk・l)が、(00・2)、(10・0)、(10・1)、(10・2)、(10・3)、(11・0)、(11・2)、(20・1)、(10・4)、(20・3)の各結晶面についてのI(hk・l)/Is(hk・l)の合計である。