説明

耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス

【課題】携帯電話などの小型電子機器本体と液晶ディスプレイ間の信号伝送に使用される防水性能、電気特性、機械特性に優れる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスを提供する。
【解決手段】複数本の電線5をフラットに並べて配置してなる電線群6と、電線5間を織り込むための樹脂からなる横糸7と、電線群6と横糸7との外周を被覆するラミネートフィルム3と、電線群6の両端それぞれに接続され電気機器に接続されるコネクタ4とからなる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1であって、ラミネートフィルム3の両側においてラミネートフィルム3同士が接着剤によって接着固定されていると共に、ラミネートフィルム3と横糸7とが接着剤によって接着固定されているものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防水性、耐屈曲性、及びスライド性能に優れ、機器の開閉やU字スライドを伴う狭い部分で使用される耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話の本体から液晶ディスプレイ間の信号伝送用配線材にはFPC(Flexible Printed Circuit:フレキシブルプリント基板)がよく用いられている。その理由は、FPCはフィルム状(フラット形状)であるので、電子機器の薄型化に向いているからである。
【0003】
しかし、FPCを用いた場合、FPCは小さい曲げ半径での単純曲げには弱いため、大きな曲げ半径を作り屈曲させる必要があり、そのために電子機器の薄型化が進められないという問題がある。
【0004】
また、フィルム状のFPCは丸めてヒンジに通すことが不可能であり、捻回部で使用されると基盤回路にダメージを与えてしまう。
【0005】
さらに、捻回の際には、電気特性が不安定となり、EMI(Electromagnetic Interference)特性が劣化するなどの問題があり、FPCを用いた方式では携帯電話の高機能・多機能化が進められない。
【0006】
すなわち、急速に携帯電話の薄型化が進んでいるため、可動部分での信号のインピーダンス不整合や、EMI特性が悪化するなどの問題が生じ、携帯電話の高機能化が難しくなっている。
【0007】
FPCの電気特性や、屈曲性能を向上させたフラットケーブルとしては、特許文献1に示すように、極細同軸ケーブルを並置し、これら隣接する複数本の極細同軸ケーブルをフィラメント(横糸)で所定本数毎に織り込んだ極細平型ケーブルがある。
【0008】
また、最近では、従来の折りたたみ式の携帯電話に加えて、開閉+捻回タイプの防水型携帯電話も登場している。そのため、耐屈曲性に加えて高い防水性も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−101934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
例えば、近年はスライド携帯電話の需要が増加し、顧客よりスライド携帯電話にも防水性能を追加したいとの要望がある。
【0011】
このために、特許文献1に示す極細平型ケーブルの両端それぞれに防水パッキングを取り付け、これを電子機器に搭載したとしても、毛細管現象により、横糸を伝って電子機器内部に水が浸透し、所望の防水性能が得られないおそれがある。
【0012】
また、防水性能に優れたケーブルハーネスとして、PFAなどのフッ素系樹脂からなるジャケットを有する電線を複数本並列配置したものを接着剤を介して上下からポリイミドシートからなるラミネートフィルムで挟んで一体化してケーブルハーネスを製造したとしても、フッ素系樹脂は一般的に接着剤との接着性が悪いため、このようなケーブルハーネスでは電線群の固定ができず、ラミネートフィルム内で電線が自由に動き回り、スムーズなスライド運動ができなくなるおそれがある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、携帯電話などの小型電子機器本体と液晶ディスプレイ間の信号伝送に使用される耐屈曲性等の機械特性、防水性能、電気特性に優れる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は前記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、複数本の電線をフラットに並べて配置してなる電線群と、前記電線間を織り込むための樹脂からなる横糸と、前記電線群と前記横糸との外周を被覆するラミネートフィルムと、前記電線群の両端それぞれに接続され電気機器に接続されるコネクタとからなる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスであって、前記ラミネートフィルムの両側において前記ラミネートフィルム同士が接着剤によって接着固定されていると共に、前記ラミネートフィルムと前記横糸とが接着剤によって接着固定されている耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスである。
【0015】
請求項2の発明は、複数本の電線をフラットに並べて配置してなる電線群と前記電線間を織り込むための樹脂からなる横糸とを有するフラットケーブル本体と、 前記フラットケーブル本体の外周を被覆するラミネートフィルムと、前記電線群の両端それぞれに接続され電気機器に接続されるコネクタとからなる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスであって、前記フラットケーブル本体は、前記電線群と前記横糸とからなるフラットケーブルを複数枚重ねた段詰めフラットケーブルからなり、前記ラミネートフィルムの両側において前記ラミネートフィルム同士が接着剤によって接着固定されていると共に、前記ラミネートフィルムと前記横糸とが接着剤によって接着固定されている耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスである。
【0016】
請求項3の発明は、前記電線は、内部導体と、前記内部導体の外周に設けられた絶縁体と、前記絶縁体の外周に導体をスパイラル状に横巻きして形成された外部導体と、前記外部導体の外周に設けられたジャケットとからなる同軸ケーブルであり、前記電線群は、前記外部導体の前記導体の横巻き方向が反対方向の前記同軸ケーブルを交互に配置してなる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスである。
【0017】
請求項4の発明は、前記横糸は、前記電線群の各電線間を一本毎に飛び越しながら結んでいて、且つ前記電線群の一端から他端まで螺旋状の形で幅方向の一側から他側へジグザグに往復しながら、前記電線群を長手方向でフラット形状に固定するように織り込まれる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスである。
【0018】
請求項5の発明は、前記ラミネートフィルムがポリイミドシートからなり、前記横糸がPET糸からなり、前記接着剤がエポキシ樹脂よりなる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスである。
【0019】
請求項6の発明は、前記ポリイミドシートは、その厚さが10〜30μmであり、前記横糸は、直径15〜25μmのPET糸が複数集合されたマルチ素線である耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスである。
【0020】
請求項7の発明は、前記ラミネートフィルムの両端上それぞれに、前記ラミネートフィルムと一体成型されたモールド部が形成され、前記モールド部上それぞれに防水パッキングが取り付けられている耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスである。
【0021】
請求項8の発明は、前記横糸の織り込み密度が、前記電線群の中央部よりも両端部において粗くなっている耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスである。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、携帯電話などの小型電子機器本体と液晶ディスプレイ間の信号伝送に使用される耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスの防水性能、電気特性、機械特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスの概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスのフラットケーブル本体を示す概略図である。
【図3】本発明の一実施の形態を示す同軸ケーブルの断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスのモールド部及び防水パッキング付近の断面図である。
【図5】屈曲試験の方法を示す図である。
【図6】スライド試験の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施の形態に係る耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスを示す概略図である。図2は、図1の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスのフラットケーブル本体を示す概略図である。
【0026】
図1に示すように、耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1は、図2に示すフラットケーブル本体2と、フラットケーブル本体2の両面を被覆するラミネートフィルム3と、フラットケーブル本体2の両側に接続されたコネクタ4とを備える。
【0027】
フラットケーブル本体2は、複数本の電線5をフラットに並べて配置してなる電線群6と、電線5間を織り込むための樹脂からなる横糸7とで構成される。
【0028】
電線5は、図3に示すように、内部導体8と、内部導体8の外周に設けられた絶縁体9と、絶縁体9の外周に導体をスパイラル状に横巻きして形成された外部導体10と、外部導体10の外周に設けられたジャケット11とからなる同軸ケーブル13で構成される。内部導体8は、導線8aを複数本(図3では7本)、撚り合わせて形成された撚線である。
【0029】
同軸ケーブル13の外径は、携帯電話等の電子機器の薄型化や、ヒンジ部を通すことを考慮すると、0.5mm以下が望ましい。
【0030】
また、電線群6を構成する同軸ケーブル13の本数は、通常携帯電話に使用する極数を考えると、20〜70本が望ましい。
【0031】
同軸ケーブル13の配置は、図2の拡大図に示すように、外部導体10の導体の横巻き方向が反対方向の同軸ケーブル13が交互になるようにされる。同軸ケーブルのようなシールド導体を有する電線の場合、各電線5間で発生するねじれによる応力が互いに打ち消され、電線5を複数本並列配置してなる電線群6を有するハーネス構造全体のねじれを抑制できるからである。
【0032】
横糸7は、電線群6の各電線5間を一本毎に飛び越しながら結んでいて、且つ電線群6の長手方向の一端から他端(図示左側から右側)まで螺旋状の形で幅方向の一側から他側(図示下側から上側)へジグザグに往復しながら、電線群6を長手方向でフラット形状に固定するように織り込まれる。
【0033】
横糸7は、電線群6の全長に亘って織り込まれるが、コネクタ4を接続する際に、コネクタ4の接続を容易にするために、フラットケーブル本体2の両側の横糸7は除去される。
【0034】
横糸7の織り込み密度は、電線群6の全長に亘って一定、又は、図2に示すように、電線群6の中央部よりも両端部において粗くされるとよい。このように、横糸7の織り込み密度を電線群6の中央部よりも両端部において粗くした場合には、非可動部であるコネクタ4の近傍側(ケーブル端から10mm以内)では、横糸7の螺旋数は7〜13本/cmとし、可動部(ケーブル端から10mmを超えたフラットケーブル本体2の中央部分)では、横糸7の螺旋数は14〜22本/cmとすることが望ましい。これにより、電線群6をフラットに保持すると共に、コネクタ接続時の横糸除去作業が容易になる。また、繰り返し屈曲、スライドされるフラットケーブル本体2の中央部分の耐屈曲性、耐スライド性を向上させることができる。
【0035】
この横糸7としては、直径15〜25μmのPET糸が複数集合されたマルチ素線や、ポリエステル糸、アラミド繊維などを用いるとよい。特に、横糸7として伸びが20%以上のPET糸からなるマルチ素線を用いることで、電線5にダメージを与えないようにでき、且つ高耐熱性を実現できる。直径15〜25μmのPET糸を用いるとよい理由は、15μm未満だと十分な耐屈曲性、耐スライド性が得られず、25μmを超えると携帯電話の狭いヒンジ部を通すことが困難であるからである。好ましい直径は、素材により異なり、20〜100D(デニール)であることが好ましい。
【0036】
ラミネートフィルム3は、厚さが10〜30μmのポリイミドシートや、PETフィルム等を用いる。
【0037】
さて、本発明の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1においては、ラミネートフィルム3の両側でラミネートフィルム3同士が熱硬化性樹脂等の接着剤17によって接着固定されると共に、ラミネートフィルム3と横糸7とが熱硬化性樹脂等の接着剤17(図4参照)によって接着固定される。電線5のジャケット11と接着剤17とは、接着していない。このため、ラミネートフィルム3によって防水性能が得られ、横糸7によって電線群6はばらけないように固定される。また、電線5はいずれにも接着固定されていないので、スムーズな屈曲・スライド運動性能を有しつつ、電線5はある程度の自由度をもってラミネートフィルム3内で運動可能となる。従って、耐屈曲性等の機械特性、防水性能、電気特性に優れる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスを製造できるようになる。
【0038】
そのため、接着剤17として用いられる熱硬化性樹脂は、ラミネートフィルム3と横糸7の両方に接着固定され、電線5のジャケット11とは接着固定されない組み合わせが好ましい。
【0039】
例えば、電線5のジャケット11にフッ素系樹脂を用い、横糸7及びラミネートフィルム7にPETを用いる場合、及び、電線5のジャケット11にフッ素系樹脂を用い、横糸7としてPET糸を用い、ラミネートフィルム7にポリイミドシートを用いる場合共に、接着剤17としてエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0040】
ラミネートフィルム3の両端上それぞれには、図4に示すように、ラミネートフィルム3と一体成型されたモールド部14が形成される。
【0041】
図4(a)に示すモールド部14の凸部14aは、この耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1が内蔵される電子機器側(図示せず)に設けられた溝部に嵌合されるものであり、凸部14aは、この嵌合部における隙間が無くなるように変形することによって防水性能が得られる。
【0042】
図4(a)に示すモールド部14は、ゴム弾性に優れ、且つ小型モールド成型に優れたエチレンプロピレンゴム(EPDM)を採用すると良い。モールド部14を一体成型するときは、ゴムがラミネートフィルム3の周囲を覆うように充填され、モールド部14とラミネートフィルム3との接続部から水が入らないようにされる。
【0043】
コネクタ4は、図示していないが、信号用端子とグランド用端子を有する。このコネクタ4をフラットケーブル本体2に接続する際には、コネクタ4の信号用端子と同軸ケーブル13の内部導体8を接続し、コネクタ4のグランド用端子と同軸ケーブル13の外部導体10を接続する。これによりコネクタ4をフラットケーブル本体2に接続することができる。このコネクタ4をそれぞれ電気機器に接続することで、電気機器間を接続することができる。
【0044】
なお、図4(a)に示すようなモールド部14の形状ではなく、図4(b)、(c)に示すようなOリング等の防水パッキング15を取り付けるための収容溝16をモールド部14の全周に亘って形成するようにしても良い。
本実施の形態の作用を説明する。
【0045】
本発明の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1では、ラミネートフィルム3の両側においてラミネートフィルム3同士が接着剤17によって接着固定されていると共に、ラミネートフィルム3と横糸7とが接着剤17によって接着固定され、電線群6は横糸7によって固定されているため、電線群6が固定されてスムーズなスライド運動ができる。
【0046】
電線群6は、外部導体10の導体の横巻き方向が反対方向の同軸ケーブル13を交互に配置することで、同軸ケーブル、Quad−X、Twinaxケーブルのようなシールド導体を有する電線の場合、各電線5間で発生するねじれによる応力が互いに打ち消され、電線5を複数本並列配置してなる電線群6を有するハーネス構造全体のねじれを抑制できる。
【0047】
横糸7は、電線群6の各電線5間を一本毎に飛び越しながら結んでいて、且つ電線群6の長手方向の一端から他端まで螺旋状の形で幅方向の一側から他側へジグザグに往復しながら、電線群6を長手方向でフラット形状に固定するように織り込まれることで、耐屈曲性を向上でき、屈曲時の電気特性の劣化を低減できる。
【0048】
ラミネートフィルム3がポリイミドシートからなり、横糸7がPET糸からなり、各々との接着強度に優れた接着剤17によって互いに接着固定されるため、長期に亘って電線群6を固定することができ、屈曲運動、スライドの長寿命化が可能となる。
【0049】
ラミネートフィルム3の両端上それぞれに、ラミネートフィルム3と一体成型されたモールド部14が形成され、内蔵される電子機器との嵌合部において隙間を防ぐように容易に変形可能な材料でモールド部14が形成されること(図4(a)参照)により、または、モールド部14上それぞれに防水パッキング15が取り付けられていること(図4(b)、(c)参照)により、携帯電話等の電子機器に組み込んだ際の防水性能を向上できる。
【0050】
横糸7の織り込み密度が、電線群6の中央部よりも両端部において粗くなっていることで、コネクタ接続時の横糸7の除去作業を容易にできる。
【0051】
電線群6を横糸7で織り込んでから、ラミネートフィルム3で電線群6と横糸7とを挟み込んで被覆したことにより、毛細管現象により横糸7を伝わって水が電子機器内部に浸水することが無いという優れた効果を有する。
【0052】
本実施の形態においては、フラットケーブル本体2の両面をラミネートフィルム3で被覆した一層構造としたが、フラットケーブル本体2を複数枚重ねた段詰めフラットケーブルの両面をラミネートフィルム3で被覆するようにしてもよい。この場合、段詰め間に位置するラミネートフィルム3同士は、接着剤17によって接着固定されている。
【0053】
また、前記実施の形態においては、電線群6に用いる電線5として、同軸ケーブル13を用いたが、これに限定されず、中心導体外皮で絶縁された絶縁ワイヤ、外部導体が外皮で絶縁されたLVDS用4心対角同軸線(Quad−X)、外部導体が外皮で絶縁された1心の同軸線、2心平行同軸線(Twinax ケーブル)、及びツイストペアケーブルを用いることが考えられ、これらの電線のうちいずれか一種類のみを複数本集めたもの、又は少なくとも二種類以上の電線を集めたものを用いることができる。
【実施例】
【0054】
次に本発明の実施例を説明する。本実施例では、以下の方法にて、機械特性の評価を行った。
【0055】
(屈曲試験)
図5に示すように、電線5を40本フラット化した従来の試料ケーブル(FPC)21、及び本発明の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1(ラミネートフィルム3にはポリイミドシート、横糸7にはPET糸、接着剤17にはエポキシ樹脂を用いた)の下端に荷重0.3N(30gf)の錘22を吊り下げ、これらケーブルの左右に湾曲した形状の曲げ治具23を取り付け、この状態で、曲げ治具23を動かすことにより、ケーブルの曲げ治具23のR部分24に位置する箇所に屈曲角度左右90度の曲げを加えた。曲げ半径rは、5mmとし、図示矢印(1)、(2)、(3)、(4)の順に曲げ治具23を動かして1サイクル(1回)とした。試験速度は、単位時間に行われるサイクルの回数が30回/分とした。
【0056】
以上の方法により、試料ケーブル21及び耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1が何サイクルで断線するかを求めた。
【0057】
(スライド試験)
図6に示すように、電線5を40本フラット化した従来の試料ケーブル(FPC)31(4心対角同軸線の場合は10本)、及び耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1(屈曲試験と同じハーネス構造)の片端を固定し、他端をスライド内幅a(2mm)になるように曲げる。ストローク長bは60mmとし、矢印(1)、(2)の順で1サイクル(1回)とする。試験速度は、単位時間に行われるサイクルの回数が30回/分とする。また、ケーブルに常時Vの電圧を加え、電流値が試験開始時に比べて20%低下した時点をケーブルの寿命とした。
【0058】
以上の方法により、試料ケーブル21及び耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1が何サイクルで寿命となるかを求めた。
【0059】
(評価結果)
屈曲試験において、耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1は、屈曲試験を30万回以上行ってもケーブルの断線はなく、フラット形状は乱れない。しかし、従来品の試料ケーブル21は、5万サイクルで断線してしまう。つまり、本発明の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1は、耐屈曲性に優れる。
【0060】
スライド試験において、耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1は、20万回以上行ってもケーブルの断線はなく、フラット形状は乱れない。しかし、従来品の試料ケーブル31は、10万サイクルで断線してしまう。つまり、本発明の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1は、耐スライド特性に優れる。
【0061】
また、これら試験に加えて捻回試験を行ったところ、耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1は、捻回試験を25万回以上行ってもケーブルの断線はなく、フラット形状は乱れない。しかし、従来品の試料ケーブル(FPC)は、1万サイクルで断線してしまう。つまり、フラットケーブル本体2を用いた本発明の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1は、捻回特性に優れる。
【0062】
また、本発明の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1の両端部にモールド部14を設けてから、これを電子機器に内蔵させて防水性能を確認したところ、十分な防水性能(JIS CO920 IPX7準拠)を得られた。
【0063】
以上から、本発明の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1は、従来よりも、屈曲特性、捻回特性、及びスライド特性に優れる。つまり、機械特性に優れる。
【0064】
よって、本発明によれば、携帯電話やノートパソコン、薄型液晶テレビ、PDAなど、小型電子機器本体と液晶ディスプレイ間の信号伝送に使用される電気特性、機械特性及び防水性能に優れる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス1を提供することができ、携帯電話の薄型化を可能にしながら、高機能化、多機能化が可能になる。
【符号の説明】
【0065】
1 耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス
3 ラミネートフィルム
4 コネクタ
5 電線
6 電線群
7 横糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数本の電線をフラットに並べて配置してなる電線群と、
前記電線間を織り込むための樹脂からなる横糸と、
前記電線群と前記横糸との外周を被覆するラミネートフィルムと、
前記電線群の両端それぞれに接続され電気機器に接続されるコネクタとからなる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスであって、
前記ラミネートフィルムの両側において前記ラミネートフィルム同士が接着剤によって接着固定されていると共に、前記ラミネートフィルムと前記横糸とが接着剤によって接着固定されていることを特徴とする耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス。
【請求項2】
複数本の電線をフラットに並べて配置してなる電線群と前記電線間を織り込むための樹脂からなる横糸とを有するフラットケーブル本体と、
前記フラットケーブル本体の外周を被覆するラミネートフィルムと、
前記電線群の両端それぞれに接続され電気機器に接続されるコネクタとからなる耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネスであって、
前記フラットケーブル本体は、前記電線群と前記横糸とからなるフラットケーブルを複数枚重ねた段詰めフラットケーブルからなり、前記ラミネートフィルムの両側において前記ラミネートフィルム同士が接着剤によって接着固定されていると共に、前記ラミネートフィルムと前記横糸とが接着剤によって接着固定されていることを特徴とする耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス。
【請求項3】
前記電線は、内部導体と、前記内部導体の外周に設けられた絶縁体と、前記絶縁体の外周に導体をスパイラル状に横巻きして形成された外部導体と、前記外部導体の外周に設けられたジャケットとからなる同軸ケーブルであり、前記電線群は、前記外部導体の前記導体の横巻き方向が反対方向の前記同軸ケーブルを交互に配置してなる請求項1又は2に記載の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス。
【請求項4】
前記横糸は、前記電線群の各電線間を一本毎に飛び越しながら結んでいて、且つ前記電線群の一端から他端まで螺旋状の形で幅方向の一側から他側へジグザグに往復しながら、前記電線群を長手方向でフラット形状に固定するように織り込まれる請求項1〜3いずれかに記載の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス。
【請求項5】
前記ラミネートフィルムがポリイミドシートからなり、前記横糸がPET糸からなり、前記接着剤がエポキシ樹脂よりなる請求項1〜4いずれかに記載の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス。
【請求項6】
前記ポリイミドシートは、その厚さが10〜30μmであり、前記横糸は、直径15〜25μmのPET糸が複数集合されたマルチ素線である請求項5に記載の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス。
【請求項7】
前記ラミネートフィルムの両端上それぞれに、前記ラミネートフィルムと一体成型されたモールド部が形成され、前記モールド部上それぞれに防水パッキングが取り付けられている請求項1〜6いずれかに記載の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス。
【請求項8】
前記横糸の織り込み密度が、前記電線群の中央部よりも両端部において粗くなっている請求項1〜7いずれかに記載の耐屈曲・スライドフラットケーブルハーネス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−165616(P2011−165616A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30287(P2010−30287)
【出願日】平成22年2月15日(2010.2.15)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】