説明

耐性HIV株に対して活性を有するd4Tのアリールホスフェート誘導体

HIVの耐性株に感染した細胞におけるそのウイルス複製を阻害する方法であって、d4Tのアリールホスフェート誘導体のウイルス複製阻害量を感染細胞に投与することを含む方法が開示される。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
この出願は2002年10月25日に出願された米国出願第10/281333に対して優先権を主張し米国を除く全ての国を指定して2003年10月24日に米国に国籍と住所を有する法人であるパーカー・ヒューズ・インスティテュート名義でPCT国際特許出願として出願されたものである。
【0002】
[発明の背景]
最近の推定によれば、世界中で三億六千百万の人々がヒト免疫不全ウイルス(「HIV」)に感染している(Gottlieb MS, 2001 N Engl J Med 344(23):1788-91及びSepkowitz KA. 2001 N Engl J Med 344(23):1764-72)。現在、臨床用途に利用できる多数の抗レトロウイルス薬があり、それらによってHIV感染個体の罹患率及び死亡率の有意な減少が達成されている。合衆国におけるHIV感染患者の現代の治療法は、一般には、3分類の抗レトロウイルス療法、すなわち、ヌクレオシド類似体逆転写酵素(RT)阻害剤(NRTI)、非ヌクレオシド類似体RT阻害剤(NNRTI)、及びプロテアーゼ阻害剤のうち、少なくとも2種の併用抗レトロウイルス療法である。併用療法での個々の薬剤は薬物耐性株を選択し、それによって将来の治療法選択肢を制約し得る多剤耐性HIVの蓄積をつくりだしうる。
【0003】
現在利用できる抗HIV剤は、米国や欧州における主なHIV株であるサブタイプBのHIV-1株に対して開発されている。しかし、世界中のHIV感染個体の大部分は非サブタイプB株に感染しており、米国や欧州を含む世界中の新たな感染の大部分は非サブタイプB株によって引き起こされている(Hu等, 1996 JAMA 275: 210-6;Richman DD等, Current Protocols in Immunology, Jhon Wiley & Sons, Inc., Brooklyn, NY, Suppl 8, Unit 12.9, pp. 1-21, 1993)。これらの非サブタイプB株は、一般に、普通に使用されている抗HIV治療プロトコルによって影響は受けない。
【0004】
従って、HIVの既知の薬物耐性株及び非サブタイプB株を含む耐性株に対して活性を持つ強力で効果的な抗HIV剤を同定する必要性が存在する。
【0005】
[発明の概要]
本発明は、HIVの耐性株に感染した細胞中でのウイルス複製を阻害する方法において、式I
【化1】

(上式中、Xは電子求引基で、Rはアミノ酸残基である)
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩のウイルス複製阻害量を感染細胞に投与することを含んでなる方法を提供する。
本発明は、また、HIVの耐性株及び又はHIVの非サブタイプB株に感染した患者を治療する方法において、式Iの化合物の治療的有効量を患者に投与することを含んでなる方法を提供する。
【0006】
[発明の詳細な記載]
この出願において使用される全ての科学及び技術用語は特に断らない限り当該分野で一般的に使用されている意味を持つ。この出願において使用する場合、次の用語又は語句は示した意味を有する。
ここで使用される場合、「約」という用語は、その用語が明示的に示されているか否かに拘わらず、あらゆる数値に適用される。「約」という用語は一般に記載された値に均等であると(つまり同じ機能又は結果を有すると)当業者が考える範囲の数を意味する。多くの場合、「約」という用語は最も近い有効数字まで四捨五入した数を含みうる。
【0007】
ここで用いられる場合、「その薬学的に許容可能な塩」には酸付加塩又は塩基塩が含まれる。
ここで用いられる場合、「薬学的に許容可能な担体」には、本発明の化合物と組み合わされると、化合物が、例えば白血病又は乳腫瘍細胞のアポトーシスの誘導能のような生物学的活性を保持するようにすることができ、かつ患者の免疫系に非反応性であるあらゆる物質が含まれる。例としては、限定されるものではないが、任意の標準的な薬学的担体、例えばリン酸塩緩衝食塩水、水、油/水エマルションのようなエマルション並びに様々なタイプの湿潤剤が含まれる。かかる担体を含有する組成物はよく知られた常法によって製剤される(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Capter 43, 14版, Mack Publishing Co., Easton, PA)。
【0008】
「アミノ酸」という用語は、天然に生じるアミノ酸の任意のもの並びにその反対のエナンチオマー又は両エナンチオマーのラセミ混合物、合成類似体及びその誘導体を意味する。その用語には、例えばα-、β-、γ-、δ-及びω-アミノ酸が含まれる。好適な天然に生じるアミノ酸には、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、スレオニン、セリン、メチオニン、システイン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リジン、フェニルアラニン、トリプトファン、チロシン、及びヒスチジンが含まれる。合成又は非天然アミノ酸、例えばトリフルオロロイシン、p-フルオロフェニルアラニン及び3-トリエチルアラニンを使用することができる。アミノ酸という用語にはアミノ酸のエステルが含まれる。エステルには、アルキル基が1から7の炭素原子、好ましくは1から4の炭素原子を有するもの、例えばメチル、エチル、プロピル及びブチルである低級アルキルエステルが含まれる。アミノ酸又はそのエステルのアミノ基は式Iのホスフェート基に結合する。
【0009】
「電子求引基」という用語は、ハロ(-Br、-Cl、-I、-F)、-NO、-CN、-SOH、-COOH、-CHO、-COR(ここで、Rは(CからC)アルキルである)等々の基を含む。
「ハロ」又は「ハロゲン」という用語は、臭素(Br)、塩素(Cl)、フッ素(F)及びヨウ素(I)の群から選択される原子を記述するのに使用される。
【0010】
本発明の化合物
本発明の化合物には、以下の式I
【化2】

(上式中、Xは電子求引基であり、Rはアミノ酸残基である)の化合物が含まれる。本発明の化合物はまたフェニル環に置換せしめられて、一を越える電子求引基を有しうる。本発明の一実施態様には、XがハロであるがFではない式Iの化合物が含まれる。本発明の他の実施態様では、XはBr、Cl、I及びNO、好ましくはBr及びClから選択される。本発明の更なる実施態様では、化合物は、2及び5位に2つの電子求引基Xを含み、好ましくは2位と5位の双方にClを含む。本発明の更に他の実施態様では、本発明の化合物は4位にClを、又は4位にBrを含む。本発明の一実施態様は、Rが、-NHCH(CH)COOCHである式Iの化合物を含む。
【0011】
本発明の一実施態様では、d4T誘導体は、例えばハロゲン(Br、Cl、F、I)又はNO置換基でのオルト又はパラ置換体のような、電子求引基をアリール基が有するアリール-ホスフェート置換を有する。一例の式IIIの化合物を以下に示す。ここで、Rは、エステル化又は置換されうるアミノ酸残基、例えば-NHCH(CH)COOCHであり、又はその薬学的に許容可能な塩又はエステルである。
【化3】

式IIの化合物をここでは「化合物113」と呼ぶ。
【0012】
本発明の化合物には、以下の実施例において更に十分に検討するように、強力な抗ウイルス活性を有する2'3'-ジデヒドロ-2'3'-ジデオキシチミジンの誘導体(以下、「d4T」という)が含まれる。好ましいものはハロゲン置換体で、最も好ましくはパラ-ブロモ置換体である。
フェニル部分に単一のパラ-臭素基を有する式IIIの化合物は、速やかな加水分解を受けて、キーとなる活性代謝産物アラニニル-スタブジン-モノホスフェート(ala-STV-MP)を生じるその能力に寄与すると考えられる(Venkatachakam等, 1998, Biorg. Med. Chem. Lett., 8:3121-25)。
【0013】
d4T誘導体の合成
d4T誘導体は、例えば次のように、当業者に知られているようにして調製することができる。d4Tは、出典明示により開示がここに取り込まれるMansuri等, 1989, J. Med. Chem. 32:461において検討されている手順によってチミジンから調製することができる。適切に置換されたアリールホスホロクロリデートは、出典明示により開示がここに取り込まれるMcGuigan等, 1992, Antiviral Res., 17:311において検討されている手順によって調製することができる。ホスホロクロリデートは、N-メチルイミダゾールを含む無水THF中のd4T溶液に添加して所望の生成物を生成する。
【0014】
d4T誘導体は、薬学的に許容可能な担体、アジュバント又は希釈剤と共に活性剤としてd4T又はAZT誘導体を含む適切な組成物の形態で患者に投与される。所望される場合には徐放投薬形態も使用することができる。組成物は、例えばHIV逆転写酵素を阻害し、及び/又は宿主細胞においてHIVの複製を阻害するのに十分な、適切な抗ウイルス量で抗ウイルス活性を必要とする患者に投与される。投与量は適切な投与計画に従って投与される。
【0015】

本発明の化合物は薬学的に許容可能な酸付加及び/又は塩基塩の形態とすることもできる。塩基塩は金属又はアミン、例えばアルカリ及びアルカリ土類金属又は有機アミンを用いて形成される。カチオンとして使用される金属の例はナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等々である。また含まれるのは重金属、例えば銀、亜鉛、コバルト及びセリウムである。好適なアミンの例はN,N'-ジベンジルエチレンジアミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールエミン、エチレンジアミン、N-メチルグルカミン、及びプロカインである。
【0016】
薬学的に許容可能な酸付加塩は有機及び無機酸を用いて生成される。塩形成のための好適な酸の例は塩酸、硫酸、リン酸、酢酸、クエン酸、蓚酸、マロン酸、サリチル酸、リンゴ酸、グルコン酸、フマル酸、コハク酸、アスコルビン酸、マレイン酸、メタンスルホン酸等々が含まれる。塩は、十分な量の所望の酸に遊離塩基形態を接触させて通常の形で一又は二塩等の塩をつくることによって調製される。遊離塩基形態は塩形態を塩基で処理することによって再生することができる。例えば水性塩基の希釈溶液を利用することができる。希水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、アンモニア及び炭酸水素ナトリウム溶液がこの目的に適している。遊離塩基形態は例えば極性溶媒中での溶解度のようなある種の物理的性質においてその各塩形態とは些か異なるが、塩はその他の点では本発明の目的に対してはその各遊離の塩基形態と均等である。
【0017】
本発明の方法
本発明の一側面によれば、本発明の化合物はHIVの耐性株に感染した細胞においてウイルス複製を阻害する方法に使用される。ウイルス複製の阻害には、限定されるものではないが、ウイルスが複製する速度を減少させ、新しい細胞が感染する速度を減少させることが含まれる。
本発明の別の側面によれば、本発明の化合物は、HIVの耐性株に感染した患者を治療する方法に使用される。HIVの耐性株に感染した患者の治療には、限定されるものではないが、HIVの耐性株による感染の進行を遅延させ、HIVの耐性株による感染に付随する徴候を減少させることが含まれる。
【0018】
ここで使用される場合、「HIVの耐性株」は、少なくとも一の治療過程に応答しないか又は応答しなかった感染個体(「非応答者」)からHIVの株を臨床的に単離することによって、一又は複数の抗HIV薬に対して耐性であることが知られている株としてその遺伝子構成によって同定できるHIVの株である。HIVの耐性株は、例えばプロテアーゼ阻害剤、ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NRTI)、及び非ヌクレオシド逆転写酵素阻害剤(NNRTI)を含む一又は複数のクラスの抗HIV薬に対して耐性である場合がある。HIVの耐性株の例には、限定されるものではないが、A17(NNRTI耐性)、A17変異体(NNRTI耐性)、及びRT-MDR(NRTI耐性及びNNRTI耐性)が含まれる。HIVの耐性株の例、その分類、及び耐性株の検査方法は、Shafer等 (2001) A guide to HIV-1 reverse transcriptase and protease sequencing for drug resistance studies, Human Retroviruses and AIDS, Theoretical Biology and Biophysics. Kos Alamos National Laboratories及びParkh等 2001 Mutations in Retroviral Genes Associated with Drug Resistance. Human Retroviruses and AIDS, Theoretical Biology and Biophysics. Kos Alamos National Laboratoriesに見出すことができる。
【0019】
投与方法
本発明の化合物は医薬組成物として製剤化でき、選択された投与経路に適合させられた様々な形態でヒト患者を含む哺乳動物宿主に投与できる。組成物は好ましくは薬学的に許容可能な担体と組み合わせて投与され、ターゲティング抗体又はサイトカインを含む特定の送達剤と組み合わせることができる。
化合物は、一般的な非毒性の薬学的に許容可能な担体、アジュバント又はビヒクルを含む投薬単位製剤として、経口的、非経口的(皮下注射、静脈的、筋肉内、胸骨内又は注入技術を含む)、吸入噴霧、局所的、粘膜を通しての吸収、又は直腸的に投与され得る。本発明の医薬組成物は、経口投与に好適な懸濁液又は錠剤、点鼻薬、クリーム、滅菌注射可能製剤、例えば滅菌性の注射可能な水性又は油脂性懸濁液又は座薬の形態とできる。
【0020】
懸濁液としての経口投与のためには、組成物は医薬製剤化分野でよく知られた技術に従って調製することができる。組成物は、嵩を賦与するためにマイクロクリスタリンセルロース、懸濁剤としてアルギン酸又はアルギン酸ナトリウム、粘度増加剤としてメチルセルロース及び甘味料又は香味料を含みうる。即放錠剤としては、組成物は当該分野で既知のマイクロクリスタリンセルロース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム及びラクトース又は他の賦形剤、バインダー、増量剤、錠剤分解物質、希釈剤及び潤滑剤を含みうる。
吸入噴霧又はエアロゾルによる投与に対しては、組成物は医薬製剤の分野でよく知られた技術に従って調製することができる。組成物は、生理食塩水の溶液として、ベンジルアルコール又は他の好適な保存料、生物学的利用能を増大させる吸収促進剤、フッ化炭化水素又は当該分野で一般的に知られている他の可溶化又は分散剤を使用して調製することができる。
【0021】
注射可能な溶液又は懸濁液としての投与に対しては、組成物は、好適な分散又は湿潤及び懸濁剤、例えばオレイン酸を含む脂肪酸及び合成モノ-又はジグリセリドを含む滅菌油を使用して、当該分野においてよく知られた技術に従って製剤化できる。
座薬としての直腸投与に対しては、組成物は、室温で固体であるが直腸腔内で液化又は溶解して薬剤を放出する好適な非刺激性賦形剤、例えばココアバター、合成グリセリドエステル又はポリエチレングリコールと混合して調製することができる。
好適な投与経路には、経口的、非経口的、並びに静脈内、筋肉内又は皮下経路が含まれる。
【0022】
より好ましくは、本発明の化合物は非経口的に、つまり静脈内又は腹腔内に、注入又は注射によって投与される。本発明の一実施態様では、化合物は腫瘍注射によって腫瘍に直接投与することができる。本発明の他の実施態様では、化合物は静脈内注射による全身送達を用いて投与することができる。
化合物の溶液又は懸濁液は水、等張性生理食塩水(PBS)中で調製することができ、場合によっては非毒性界面活性剤と混合することができる。分散液はまた例えばグリセロール、液状ポリエチレン、グリコール、DNA、植物油、トリアセチン及びその混合物中で既知の方法によって調製することができる。通常の保存及び使用条件下で、これらの調製物は、例えば微生物の成長を防止するために保存料を含みうる。
【0023】
注射又は注入に適した医薬投薬形態は、滅菌水溶液又は分散液、滅菌注射可能又は注入可能溶液又は分散液の即時調製に適した活性成分を含有する滅菌パウダー等々を含みうる。最終的な投薬形態は滅菌性、流体で製造及び保存条件下で安定であることが好ましい。液状担体又はビヒクルは、例えば水、エタノール、ポリオール、例えばグリセロール、プロピレングリコール、又は液状ポリエチレングリコール等々、植物油、非毒性グリセリルエステル、及びその好適な混合物を含む溶媒又は液体分散体媒質でありうる。例えば、リポソームの生成、分散液の場合には要求された粒子サイズの維持、又は非毒性の界面活性剤の使用によって、適切な流動性を維持することができる。微生物の作用の防止は、様々な抗菌及び抗真菌剤、例えばパラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等々によって達成することができる。多くの場合、等張剤、例えば糖、緩衝液、又は塩化ナトリウムを含ませるのが望ましい。注射可能組成物の長期にわたる吸収は、組成物中に吸収遅延剤、例えばモノステアリン酸アルミニウムヒドロゲル及びゼラチンを含有させることによってもたらすことができる。
【0024】
滅菌注射用溶液は、上に挙げた様々な他の成分と共に適切な溶媒中に必要な量のコンジュゲートを導入し、必要に応じて濾過殺菌することによって調製される。滅菌注射用溶液の調製用の滅菌パウダーの場合には、好適な調製方法は真空乾燥及び凍結乾燥法であり、これは活性成分とそれまでに滅菌濾過された溶液中に存在する任意の付加的な所望成分のパウダーを生じる。
【0025】
薬物動態学
過去のインビトロ研究は、フェニル基のパラ位の電子求引基が加水分解速度を増加させて、未置換アリールホスフェート誘導体に対して重要な代謝物アラニニル-d4T-モノホスフェート(Ala-d4T-MP)の産生を増大させる(Venkatachalam等, Bioorg Med. Chef. Lett., 8,3121 (1998); Vig等, Antiviral Chem. Chemnother., 9, 445 (1998);及び米国特許第6030957号(Uckun等))。
d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]はインビボで速やかに代謝されて、図1に示されるように、二種の代謝物:2',3'-ジデヒドロ-3'-デオキシチミジン(d4T)とアラニニル-d4T-モノホスフェート(Ala-d4T-MP)が生成される。Ala-d4T-MPはまた更に代謝されてd4Tを生じる。代謝物d4Tは細胞でのインビトロ研究ではこれまでは見出されていなかった。
【0026】
d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]は血漿又は全血中で速やかに代謝されてAla-d4T-MP及び少量のd4Tを生成する。Ala-d4T-MPは血漿と全血の双方において安定している。これらの結果は、Ala-d4T-MP又はd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]の何れかの加水分解によってd4Tを生成させるには他の酵素(例えば肝臓の酵素)が必要とされることを示している。この仮定は肝臓ホモジェネートと共にd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]をインキュベートした後に有意な量のd4Tが生成されることに符合している。
【0027】
排出半減期
静脈内投与されたd4Tの排出半減期は、以下の実施例に示されるように、Ala-d4T-MPの静脈内投与後に生成されるd4Tの排出半減期にかなり類似している(30.3分対34.0分のt1/2)。これに対して、d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]の静脈内投与後に生成されたd4Tの排出半減期は有意に長くなった(114.8のt1/2)。同様に、d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]から生成されたAla-d4T-MPの排出半減期は、静脈内投与されたAla-d4T-MPに対するt1/2より有意に長かった(129.2分対28.5分のt1/2)。d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]の静脈内投与は、d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]誘導代謝物の明らかに長い排出半減期のためにAla-d4T-MP又はd4Tの等モル用量の投与と比較してAla-d4T-MP及びd4Tの双方への長期の全身性暴露をもたらす。
【0028】
静脈内投与後に、d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]の排出半減期(t1/2)は3.5分で、160.9ml/分/kgの全身クリアランス(CL)であった。全身クリアランス(CL)値の異なった推定値が、d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]の2種のジアステレオマー(d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]Aは208.2ml/分/kgでありd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]Bは123.9ml/分/kgである)に対して得られたが、双方とも30分以内に完全に代謝した。d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]は活性代謝物Ala-d4T-MP(23%)及びd4T(24%)に転換した。静脈内投与されたd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]から生成されたAla-d4T-MP及びd4Tのtmax値はそれぞれ5.9分及び18.7分であった。
【0029】
生物学的利用能
経口投与されたd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]はまたAla-d4T-MP及びd4Tを主要代謝物として生成した。親のd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]は経口投与後の血液中には検出できなかった。d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]は胃液中で安定で、胃に吸収されうるが、血液中で速やかに加水分解しうる。他方、d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]は腸液中で即座に分解してAla-d4T-MPを生成する。この代謝物は腸に吸収され得、その後更に代謝されて血液中にd4Tを生じる。マウスでのd4Tに対するtmax及びt1/2値は、経口投与されたd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]から誘導された場合、経口投与されたd4Tからのものより長かった(それぞれ5分及び18分)。静脈内投与されたd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]と比較して経口投与されたd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]の場合は、tmax値は高いがt1/2値は低い。d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]の経口投与後では、Ala-d4T-MP及びd4Tの推定生物学的利用能はそれぞれおよそ12%及び48%であった。しかしながら、d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]から代謝されたd4Tの生物学的利用能(48%)は経口投与されたD4Tのもの(98%)よりも低かった。
【0030】
齧歯類種におけるd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]のインビボでの薬物動態学、代謝、毒性及び抗レトロウイルス活性は研究されている(Uckun等, ArzneimittelforschuraglDrug Research, 2002,(印刷中))。マウス及びラットでは、d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]は、500mg/kgと高い単一の腹腔内又は経口大量瞬時投与用量レベルで検出可能な急性又は亜急性毒性なしに非常に良好な許容性を示した(Uckun等, 2002,(上掲))。顕著なことに、連続8週間までのd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]の毎日の腹腔内又は経口投与には、6.4g/kgと高い累積用量レベルでマウス又はラットにおいて如何なる検出可能な毒性も伴っていなかった(Uckun等, 2002, (上掲))。齧歯類種でのその安全性特性に従って、25mg/kg−100mg/kgのd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]を含む硬ゼラチンカプセルの毎日2回の投与を含む4週のd4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]処置過程は、8.4g/kgと高い累積用量でイヌ及びネコによって非常によく許容された(Uckun等, Antimicrob. Agents Chemother. (2002年提出))。
【0031】
有用な用量
耐性HIV株及び/又は非BサブタイプHIVを阻害するためにインビボで使用される場合、投与される用量は、出血熱の一又は複数の徴候を低減し又は除去するのに十分なもののような、所望の効果を持つのに効果的なものである。適切な量は、本明細書と実施例に提供したインビボでの動物モデルデータから、既知の方法及び関係を使用して推定して、当業者により決定されうる。
一般に、生存時間の増加のようなHIV感染の徴候又は作用の低減を含む治療的処置を達成するのに効果的なd4Tのアリールホスフェート誘導体の用量は、約1−500mg/kg体重/用量、好ましくは約10−100mg/kg体重/用量のおよその範囲、及び週当たりおよそ800−1000mg/kg体重の累積用量である。
【0032】
投与される有効用量は各患者に特定の条件によって変わる。一般に、ウイルス負荷、宿主年齢、代謝、疾病、薬物への前の暴露等々のような要因は薬剤の予想された効能に寄与する。当業者であれば、実施例に提供されたデータから推定して、標準的な手順と患者の分析法を使用して適切な用量を計算できる。一般に、約1−100mg/kg体重を送達する用量が効果的であると予想されるが、より多いものも少ないものも有用であろう。
また、本発明の組成物は他の治療法と組み合わせて投与されうる。そのような併用療法では、化合物の投与用量は単一の薬剤療法に対するものよりも少なくてもよい。
【実施例】
【0033】
本発明は、幾つかの実施態様を例証するためで如何なる場合も発明を限定するものではない次の実施例を参照して更に明らかにすることができる。
実施例1
d4T誘導体の合成と特徴付け
d4TをMansuri等, 1989, J. Med. Chem. 32:461の手順に従ってチミジンから調製した。適切に置換されたフェニルメトキシアラニニルホスホロクロリデートはまたMcGuigan等, 1992 Antiviral Res., 17:311によって報告された方法に従って調製した。化合物2−4は以下のスキーム1に概略を示したようにして合成した。
【化4】

【0034】
フェニルメトキシアラニニルホスホロクロリデートを無水THF中のd4T及び1-メチルイミダゾールの溶液に添加し、混合物を室温で5−6時間攪拌した。反応混合物をまとめると、必要な誘導体が良好な収量で得られた。カラムクロマトグラフィーにかけて純粋な化合物を得た。
合成された化合物の物理データは、流量1ml/分で水/アセトニトリル70:30で溶出させるC18の4x250mm Lichrospherカラムを使用して実施したHPLCによって測定した。次の化合物の純度はHPLCで96%を越えていた。星印で標識した13C NMRピークはジアステレオマーのために分かれていた。化合物の物理データを以下に記載する。
【0035】
化合物2:収率:81%;IR(Neat):3222,2985,2954,1743,1693,1593,1491,1456,1213,1153,1039,931,769cm−lH NMR(CDCl)δ9.30(br s,1H),7.30−7.10(m,6H),6.85−6.82(m,1H),6.36−6.26(m,1H),5.91−5.85(m,1H),5.00(br m,1H),4.19−3.68(m,4H),3.72,3.71(s,3H),1.83,1.80(d,3H),1.38−1.25(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.9,163.7,150.7,149.7,135.7,133.2,129.6,127.3,125.0,120.0,111.1,89.6,84.5,66.9,52.5,50.0,20.9及び12.3;31P NMR(CDCl)δ2.66,3.20;MALDI−TOF質量m/e 487.9(M+Na);HPLC保持時間:5.54及び5.85分。
【0036】
化合物3:収率:92%;IR(Neat):3223,3072,2999,2953,2837,1743,1693,1506,1443,1207,1153,1111,1034,937,837及び756cm−1H NMR(CDCl)δ9.40(br s,1H),7.30−7.00(m,5H),6.83−6.81(m,1H),6.37−6.27(m,1H),5.91−5.86(m,1H),5.00(br m,1H),4.40−4.30(m,2H),4.20−4.10(m,2H),3.95−3.93(s,3H),3.82−3.80(s,3H),1.85−1.81(s,3H)及び1.39−1.29(m,3H);13C NMR(CDCl)δ174.0,163.9,156.6,150.8,143.5,135.8,133.3,127.4,121.2,114.5,111.2,89.7,84.5,66.9,55.5,52.5,50.6,20.9及び12.3;3lP NMR(CDCl)δ3.82,3.20;MALDI−TOF質量m/e 518.2(M+Na);HPLC保持時間:5.83及び6.26分。
【0037】
化合物4:収率:83%;IR(Neat):3203,3070,2954,2887,2248,1743,1693,1485,1221,1153,1038,912,835,733cm−1H NMR(CDCl)δ9.60−9.58(br s,1H),7.45−7.42(m,2H),7.30−7.09(m,4H),6.37−6.27(m,1H),5.93−5.88(m,1H),5.04−5.01(br m,1H),4.35−4.33(m,2H),4.27−3.98(m,2H),3.71−3.70(s,3H),1.85−1.81(s,3H),1.37−1.31(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.7,163.8,150.8,149.7,135.6,133.1,127.4,121.9,118.0,111.2,89.7,84.4,67.8,52.5,50.0,20.7,and12.3;31P NMR(CDC1)δ3.41,2.78;MALDI−TOF質量m/e 567.1(M+Na); HPLC保持時間:12.04及び12.72分。
【0038】
実施例2
図2A及び2Bは代謝物前駆体B(図1参照)のフェニル環のパラ置換基の電子効果を表す概略図である。加水分解に対する化合物の感受性を評価するために、化合物2−4をメタノールに溶解させた後、0.002NのNaOHで処理した。濃度を一定に維持し、加水分解産物A-d4T-MPの生成を、HPLCを用いてモニターした。Lichrospherカラム(C18)をHPLC実験に使用した。溶媒混合物70:30の水/アセトニトリルを使用して定組成条件下でカラムを溶出させた。溶出特性は図2Cに示す。
化合物の加水分解をブタ肝臓エステラーゼ系で試験した。データを図2Cに示す。化合物2及び4(トリスHCl中1mM)を37℃で2時間、トリスHClバッファー(pH7.4)中で100Uのブタ肝臓エステラーゼ(Sigma)と共にインキュベートした。アセトンを添加し反応混合物を冷却して反応を停止させた。15000xgでの遠心分離の後、50pmolの代謝物を検出可能な定量的分析用HPLC法を使用して活性な代謝物A-d4T-MPが存在するかについて、反応混合物の0.1mLアリコートを調べた。化合物4の反応生成物の0.1mLアリコートは1.4nmolのA-d4T-MPを含む一方、化合物2の反応生成物中に代謝物は検出されなかった。
【0039】
図2A及び2Bに示すように、フェニル部分のパラ位に電子求引基が存在することが、d4Tのフェニルホスフェート誘導体の代謝経路のカルボキシエステラーゼ依存性第1工程(図1、AないしB)によって生成される代謝物前駆体Bのフェノキシ基の加水分解速度を増加させるようである(図2A及び2B)。フェニル環のパラ位の単一のブロモ置換基はカルボキシエステラーゼによるこの化合物の認識と加水分解に緩衝しないであろう(図1の工程AないしB)。電子求引パラブロモ置換基によって誘導される電子効果はフェノキシ基Cの加水分解を促進し、Dと続いて重要な代謝物A-d4T-MPの前駆体であるEを生じるであろう。この仮説を試験するために、我々は、アラニニル-d4T-モノホスフェート(A-d4T-MP)の生成を測定することによって0.002NのNaOHでの処理後の化学的加水分解の速度について、未置換化合物2、パラ-メトキシ(OCH)置換化合物3、及びパラ-ブロモ置換化合物4(=d4T-5'-[p-ブロモ-フェニルメトキシアラニニルホスフェート]、つまりd4T-pBPMAP)を比較した。
図2Cに示すように、パラ-ブロモ置換を持つ化合物4は未置換化合物2よりも更に速い加水分解速度を示す一方、パラ位に電子求引基-OCHを有する化合物3はこれら二つの化合物の何れよりも遅い加水分解速度を有していた。同様に、リード化合物4は化合物2よりもブタ肝臓エステラーゼによる酵素的加水分解により感受性であった(図2D)。
【0040】
実施例3
TK欠損CEM細胞中での化合物2−4の細胞内代謝
TK欠損細胞中での化合物2−4の細胞内代謝を分析するために、1x10のCEM細胞を化合物2−4(100μM)と共に3時間インキュベートした後、HPLCによって部分加水分解したホスフェートジエステル代謝物アラニニル-d4T-モノホスフェートの生成を調べた。顕著なことに、化合物4で処理したCEM細胞中のこの代謝物の量は、化合物2又は3で処理したCEM細胞中よりも相当多かった(680pmol/10細胞対<50pmol/10細胞;図3)。
CEM細胞を、RPMI、10%ウシ胎仔血清及び1%ペニシリン/ストレプトマイシンからなる培地中で培養した。10細胞/mLの密度の一千万の細胞を37℃で3時間、100μMのこれらの化合物と共にインキュベートした。インキュベーション後、細胞を氷冷PBSで二回洗浄し、0.5mLの60%メタノールを添加して抽出した。細胞可溶化液を一晩−20℃に維持した後、可溶化液を15000xgで10分間遠心分離して細胞片を除去した。これらの可溶化物の100μMのアリコートをHPLCに直接注入した。HPLCシステムはクォータナリポンプ、オートサンプラー、電子デガッサ、ダイオードアレイ及びデータ解析のケムステーションソフトウェアプログラムをインストールしたコンピュータを備えたヒューレットパッカード(HP)1100シリーズから構成されたものであった。試料を250x4.6mmのSulpelco LC-DB C18カラムで溶出させた。溶媒勾配を用いて親化合物からの代謝物を溶解させたが、それはメタノールと10mMのリン酸アンモニウムの混合物(pH3.7)からなっていた。勾配は、最初の10分が5から35%メタノールまで1mL/分の流量で実施され、5分間35%メタノールに維持され、次の20分間が35〜100%メタノールの線形勾配で終了した。検出波長は270nmに設定された。680pmolのA-d4T-MPに対応する8.7分の保持時間の代謝ピークが、化合物4と共にインキュベートしたCEM細胞可溶化液からのアリコート中にのみ検出された。
【0041】
実施例4
化合物2−4の抗HIV活性
加水分解に対するその高まった感受性のため、他の化合物よりも化合物4をより強力な抗HIV薬剤であると推論した。化合物2−4並びに親化合物d4T(1)について、過去に記載されている手順(Zarling等, 1990, Nature, 347:92;Erice等, 1993, Antimicrob. Agents Chemother., 37:835-838;Uckun等, 1998, Antimicrob. Agents Chemother., 42:383)を使用して末梢血単核細胞及びTK欠損CEM T細胞中におけるHIV複製を阻害するその能力を試験した。ウイルス複製の阻害パーセントを、試験物質で処理した感染細胞からのp24及びRT活性値を未処理の感染細胞からのものと比較することにより計算した。並行して、化合物の細胞障害性を、Zarling、Enrice及びUckunの文献(上掲)に記載されているように、細胞増殖のミクロ培養テトラゾリウムアッセイ(MTA)を使用して調べた。
表1に示すHIV-1複製の阻害に対するIC50値の類似性は、d4T-アリールホスフェート誘導体が、HIV-1感染末梢血単核細胞で試験した場合、親化合物d4Tほど強力ではないことの証拠を提供している。過去の報告に一致し、d4TのHIV-1複製阻害能はTK欠損CEM細胞中で大きく減少した。d4Tによるp24産生阻害に対するIC50値は末梢血単核細胞において18nMであったが、TK欠損CEM細胞中では556nMであった。同様に、RT活性の阻害に対するIC50値は40nMから2355nMまで増加した(表1)。3種全てのアリールホスフェート誘導体はTK欠損CEM細胞中でd4Tよりもより強力であったが、アリール部分にパラ-ブロモ置換基を有する化合物4(d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート])はd4Tよりもp24の産生阻害が12.6倍強力(IC50値:44nM対556nM)であり、RT活性阻害が41.3倍強力(IC50値:57nM対2355nM)であった(表1)。
【表1】

【0042】
試験した化合物の何れも、MTAで測定して10000nMと高い濃度でも末梢血単核細胞又はCEM細胞に対して如何なる検出可能な細胞障害性も示さなかった。興味深いことに、アリール部分にパラ-メトキシ置換基を有する化合物3は、HIV感染TK欠損CEM細胞中におけるRT活性阻害において化合物4より5.6倍効果が少なかったが(IC50値:320nM対57nM)、これら2つの化合物は末梢血単核細胞では類似した活性を示した(IC50値:33nM対42nM)。よって、パラ-置換基の同一性がTK欠損細胞中でのd4Tのアリールホスフェート誘導体の抗HIV活性に影響を及ぼすと思われる。我々の知る限り、これは、d4T-アリールホスフェート誘導体の効力並びに選択性指数を、アリール部分に単一のパラ-ブロモ置換基を導入することにより大幅に高めることができることの最初の証明である。d4Tのホスフェート誘導体のアリール部分によって決定されるこのこれまで知られていない構造-活性関係は潜在的により効力のあるd4T類似体の設計の基礎を提供する。
【0043】
実施例5
MDR細胞中での化合物4及びAZTの活性
HIV-MDR細胞に対する化合物4(d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート])の活性を、AZT-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート](P-AZT)及びAZTと比較した。用いたインキュベーション及び分析方法は実施例3について上述した通りであった。
表2に示すように、P-AZT及びAZTは、IC50値がそれぞれ1.5及び2.0nMと類似の活性を有している。化合物4の活性(0.02nM)はAZT(2.0nM)よりも100倍効果的である。
【表2】

【0044】
実施例6
3dTのアリールホスフェート誘導体の合成
更なる比較によって、3'-デオキシチミジン(3dT)のアリールホスフェート誘導体のアリール基における様々な置換の抗HIV活性に対する効果を研究した。スキーム2に示すように、3dT(5)を、文献の手法(Mansuri等, 1989, J. Med. Chem., 32:461-466)を使用してチミジンから調製したd4T(1)から調製した。1の水素化を、H及び触媒量の5%Pd/Cの存在下、エタノール中で実施して、3dT(5)を85%の収率で得た。適切に置換されたフェニルメトキシアラニニルホスホロクロリデートをまたMcGuigan等, 1992, Antiviral Res, 17:311-321によって報告された方法に従って調製し、化合物6−11をスキーム2に概要を示したようにして合成した。
【化5】

【0045】
適切に置換されたフェニルメトキシアラニニルホスホロクロリデートを無水THF中の3dT及び1-メチルイミダゾールの混合物に添加した。反応混合物を室温で12時間、撹拌した後、溶媒を除去した。得られたガムをクロロホルムに再溶解し、1MのHCl、飽和炭酸水素ナトリウム溶液(NO誘導体の場合を除く)及び次に水で洗浄した。有機相をMgSOによって乾燥させ、溶媒を真空で除去した。粗生成物を、クロロホルム中5%のメタノールで溶出するシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、良好な収率で純粋な化合物6−11を得た。
合成した化合物の物理データを測定した。HPLCは、流量1ml/分で水/アセトニトリル70:30で溶出させるC18の4x250mm Lichrospherカラムを使用して実施した。次の化合物の純度はHPLCで96%を越えていた。星印で標識した13C NMRピークはジアステレオマーのために分かれていた。化合物の物理データを以下に記載する。
【0046】
化合物5:収率:85%;H NMR(CDCl)δ11.1(br s,1H),7.82(s,1H),5.97−5.94(m,1H),5.10(br s,1H),4.05−3.95(m,1H),3.72−3.52(m,2H),2.30−1.86(m,4H),1.77(s,3H);13C NMR(CDCl)δ163.9,150.4,136.4,108.7,84.8,81.4,62.2,31.8,25.1,及び12.5。
化合物6:収率:96%;IR(neat):3211,2955,2821,1689,1491,1265,1211,1153,1043及び933cm−1H NMR(CDCl)δ10.1(br s,1H),7.47(s,1H),7.32−7.12(m,5H),6.14−6.08(m,1H),4.41−4.21(m,4H),4.05−4.00(m,1H),3.70,3.69(s,3H),2.37−2.32(m,1H),2.05−1.89(m,7H),1.38−1.35(dd,3H);13C NMR(CDCl)δ173.6,163.8,150.3,150.1,135.2,129.4,124.7,119.8,110.5,85.7,78.3,67.2,52.3,50.1,31.6,25.4,20.7,及び12.431P NMR(CDCl)δ2.82及び3.11;MS(MALDI-TOF):490.4(M+Na);HPLC保持時間=6.86,7.35分。
【0047】
化合物7:収率:96%;IR(neat):3217,2954,2821,1743,1689,1489,1265,1217,1153,1092,1012,926及び837cm−1H NMR(CDCl)δ9.40(br s,1H),7.43−7.41(m,1H),7.30−7.14(m,4H),6.13−6.07(m,1H),4.39−4.00(m,5H),3.71,3.70(s,3H),2.38−2.36(m,2H),2.09−1.89(m,5H),1.39−1.36(dd,3H);13C NMR(CDCl)δ173.6,163.7,150.2,148.8,135.3,129.5−129.0,121.5−121.3,116.3,110.6,86.0,78.4,67.7,52.6,50.2,31.8,25.4,20.9及び12.5;31P NMR(CDCl)δ2.87&3.09;MS(MALDI-TOF):524.9(M+Na);HPLC保持時間=14.05,14.89分。
化合物8:粘性のある油、収率:96%;λmax:223(ε3338)及び269(ε4695)nm;IR(neat):3211,2955,1743,1693,1500,1569,1265,1197,1153,1045,923及び843cm−1H NMR(CDCl)δ9.40(br s,1H),7.45−7.43(d,1H),7.19−7.01(m,4H),6.14−6.06(m,1H),4.39−3.97(m,5H),3.71,3.70(s,3H),2.38−1.89(m,7H),1.39−1.35(t,3H);13C NMR(CDCl)δ173.6,163.7,150.2,150.1,135.3,121.5,116.3,110.6,85.9,78.4,67.7,52.6,50.2,31.8,25.6,20.9,及び12.5;31P NMR(CDCl)δ3.13及び3.37;MS(MALDI-TOF):508.2(M+Na);HPLC保持時間=8.38,8.80分。
【0048】
化合物9:収率:83%;IR(neat):3211,2954,1743,1689,1485,1265,1217,1153,1010,923及び833cm−1H NMR(CDCl)δ9.82(br s,1H),7.45−7.41(m,3H),7.15−7.11(m,2H),6.14−6.06(m,1H),4.39−4.00(m,5H),3.71,3.70(s,3H),2.38−1.89(m,7H),1.39−1.35(dd,3H);13C NMR(CDCl)δ173.6,163.8,150.3,148.5,135.2,132.6,121.8,117.7,110.6,85.9,78.3,67.2,52.5,50.2,31.6,25.6,20.8,及び12.5;31P NMR(CDCl)δ2.83及び3.05;MS(MALDI-TOF):570.0(M+2+Na);HPLC保持時間=15.50,16.57分。
化合物10:収率,87%;IR(neat):3203,2955,1743,1684,1593,1522,1348,1265,1153,1101,920及び860cm−1H NMR(CDCl)δ9.51(br s,1H),8.24−8.21(m,2H),7.42−7.37(m,3H),6.13−6.08(m,1H),4.39−4.03(m,5H),3.72,3.71(s,3H),2.38−1.89(m,7H),1.41−1.38(dd,3H);13C NMR(CDCl)δ173.4,163.7,155.2,150.2,144.4,135.3,125.9−125.4,120.6,115.4,110.6,86.1,78.4,68.1,52.7,50.2,31.7,25.8,20.9及び12.5;31P NMR(CDCl)δ2.60及び2.81;MS(MALDI-TOF):535.0(M+Na);HPLC保持時間=8.12,10.14分。
【0049】
化合物11:収率,100%;IR(neat):3209,2954,1743,1506,1468,1265,1207,1153,1036,937及び835cm−1H NMR(CDCl)δ9.89(br s,1H),7.49−7.47(m,1H),7.16−7.11(m,2H),6.84−6.80(m,2H),6.15−6.09(m,1H),4.39−4.02(m,5H),3.77,3.76(s,3H),3.74,3.73(s,3H),2.38−1.89(m,7H),1.38−1.33(t,3H);13C NMR(CDCl)δ173.7,163.9,156.3,150.3,143.7,135.2,120.7,114.3,110.5,85.7,78.4,67.3,55.4,52.4,50.1,31.8,25.4,20.8及び12.431P NMR(CDCl)δ3.27及び3.52;MS(MALDI−TOF):521.3(M+1+Na);HPLC保持時間=7.15,7.66分。
【0050】
実施例7
3dT化合物6−11の抗ウイルス活性
化合物6−11並びに親化合物3dTを、過去に記載された手順(Zarling等, 1990, Nature, 347:92;Erice等, 1993, Antimicrob. Agents Chemother., 37(4):835-838;上掲のUckun等, 1998)を使用して末梢血単核細胞及びTK欠損CEM T細胞におけるそのHIV-1複製阻害能についてd4Tと並列比較によって試験した。
3dT並びにその誘導体は末梢血単核細胞並びにTK欠損CEM T細胞においてd4Tよりも活性が低かった(表3)。顕著なことには、末梢血単核細胞では、化合物6−11に対するIC50[RT]値は3dTのIC50[RT]値よりも大きく(1.2−3.1対0.7,表3)、これらのプロドラッグが十分に安定であり、その代謝、おそらくはその酵素的加水分解におけるTK依存的工程は活性種の生成に対する律速段階である可能性があることを示唆している。これに対して、d4Tのアリールホスフェート誘導体はd4Tよりも効力が強いことが報告されており、d4T-モノホスフェートのTK依存的生成がその代謝活性化における律速段階であることを示唆している(McGuigan等, 1996, Bioorg. Med. Chem. Lett., 6:1183-1186)。d4T及びAZTのアリールホスフェート誘導体の生物活性に関する文献において報告された結果によれば、3dTのアリールホスフェート誘導体は、なお高いマイクロモルIC50[RT]値ではあるが、TK欠損細胞中でのHIV-1複製阻害において親化合物3dTよりも活性であった(表3)。
化合物6−11は末梢血単核細胞(PBMNC)中よりもTK欠損CEM T細胞において活性がより少なかったので、これらプロドラッグから生成する3dTモノホスフェートのその活性なトリホスフェートへの転換がTKの不存在下でより遅い速度で生じると仮定された。比較すると、d4Tのアリールホスフェート誘導体は正常細胞とTK欠損細胞において類似の活性を示した(McGuigan等, 1996, Bioorg. Med. Chem. Lett. 6:1183-1186)。
【0051】
正常な末梢血単核細胞(PBMNC)及びTK欠損CEM T細胞中での3'-デオキシチミジンのアリールホスフェート誘導体(6−11)の抗HIV活性。 全てのデータはμMで、MTAで測定して(IC50[MTA])、50%(IC50[RT])又は50%の細胞障害性濃度で、ウイルス活性を阻害するのに必要とされる濃度を表す(Mansuri等, 1989, J. Med. Chem., 32:461)。
【表3】

【0052】
図5A及び5Bに示されるように、フェニル環のパラ置換基の電子効果は図1に示す3dTのアリールホスフェート誘導体の代謝経路におけるBからDへの加水分解的転換に影響を及ぼすことになるはずである。フェニル部分のパラ位における電子求引基の存在は、化合物7−10の置換フェノキシ基の加水分解速度を増加させることが予想された(図2A及び2B)。しかしながら、これらの化合物はパラ置換のない化合物6又は電子供与パラ置換基を持つ化合物11ほど活性ではなく、その代謝におけるカルボキシエステラーゼ依存性第1加水分解工程(図1のAからB)が活性な3dT代謝物の生成の重要な律速的役割を担っているという仮説を促す。従って、化合物7−10はヌクレオシド類似体のアリールメトキシアラニニルホスフェート誘導体に対して提案された代謝経路に従ってその加水分解の起因となる推定カルボキシエステラーゼのための比較的不十分な基質となりうる(McIntee等, 1997, J. Med. Chem. 40:3323-3331)。
要約すると、3dTのアリールホスフェート誘導体は、非常に類似したヌクレオシド類似体d4Tのプロドラッグ形態の代謝及び活性に関する公開文献から予想されるようには挙動しなかった。驚いたことに、3dTのアリールホスフェート誘導体はHIV-1に感染した正常な末梢血単核細胞又はTK欠損CEM T細胞株において有望な抗HIV活性を誘発しなかった。
【0053】
実施例8
d4T、AZT及び3dTの誘導体の抗HIV活性
スキーム3に示すように、d4T(1)を、文献の手法(上掲のMansuri等, 1989)を使用してチミジンから調製した。1の水素化を、H及び触媒量の5%Pd/Cの存在下、エタノール中で実施して、3dT(3)を85%の収率で得た(スキーム3)。
AZT(2)を文献の方法を使用してチミジンから調製した(Chu等, 米国特許第4841039号)。そのフェノキシ部分に異なった置換基を有するddNリン酸化剤5a、5b及び5cは、二工程手順によって市販のフェノール類から調製したが(スキーム4)(上掲のMcGuigan等, 1992)、化合物4a、4b、5a、5b、7a及び7bはこれまでに報告されている。化合物4c及び5cは新規であり、その合成手順並びに特徴付けデータは以下に報告する。
【0054】
d4T(1)、AZT(2)又は3dT(3)のフェニルメトキシアラニニルホスフェート誘導体の合成を、スキーム5に示すように文献(McGuigan等, 1992, Antiviral Res, 17:311-321)の条件に従って実施した。一般的合成手順は次の通りである:適切に置換されたフェニルメトキシアラニニルホスホロクロリデート5を無水THF中の所望のddN(1、2又は3)と1-メチルイミダゾールの混合物に添加した。反応混合物を室温で12時間撹拌した後、溶媒を除去した。得られたガムをクロロホルムに再溶解し、1MのHCl、飽和炭酸水素ナトリウム溶液及び次に水で洗浄した。有機相をMgSOによって乾燥させ、溶媒を真空で除去した。粗生成物を、溶出のためにメタノールとクロロホルムの溶媒混合物を用いるシリカゲルフラッシュカラムクロマトグラフィーによって精製し、良好な収率で所望の純粋化合物を得た。
【化6】

【化7】

【化8】

【0055】
p-ブロモフェニルホスホロジクロリデート4cの合成。 上掲のMcGuigan等, 1993によって記載された手順に従って、無水EtO(165mL)中のp-ブロモフェノール(13.20g;76.30mmol)と蒸留したトリエチルアミン(10.65mL)の溶液を、窒素雰囲気下で3時間かけて0℃にて無水EtO(83mL)中の塩化ホスホリル(8.5mL;91.2mmol)の激しく撹拌した溶液中に滴下して加えた。ついで、得られた混合物を室温まで徐々に温め、室温で一晩効果的に撹拌した後、加熱して2時間還流させた。反応混合物を室温まで冷却し吸引器圧下で濾過した。沈殿物を無水EtO(2x50mL)で洗浄した。混合したEtO層をロータリーエバポレーターで蒸発乾固させて粗生成物4cを淡黄色の油として得て、これをついで減圧蒸留して無色の粘性のある油として純粋な4c(14.05g;63.5%収率)を得た(沸点110−115℃/2mmHg)。IR(Neat)3095,1481,1303,1187,948,829cm−1H NMR(300MHz,CDCl)δ7.50(2H,d,J=9.0Hz),7.15(2H,d,J=9.0Hz)。GC/MS(m/e)290(M),254(M−Cl),173(M−POCl81Br),171(M-POCl79Br),156(M−POCl81Br),154(M−POCl79Br)。
【0056】
p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスホロジクロリデート5cの合成。
(McGuigan等, 1992, Antiviral Res. 17:311-321)に記載された手順に従って、無水CHCl(180mL)中の蒸留したトリエチルアミン(8.80mL;63.14mmol)の溶液を、窒素雰囲気下で3時間かけて−70℃にて無水CHCl(250mL)中のp-ブロモフェニルホスホロジクロリデート4c(8.69g;29.97mmol)とL-アラニンメチルエステルハイドロクロライド(4.19g;30.02mmol)の激しく撹拌した溶液中に添加漏斗を介して滴下して加えた。ついで、得られた混合物を室温まで徐々に温め、室温で一晩撹拌した。溶媒をロータリーエバポレーターで除去した。無水EtO(300mL)を添加して残渣を溶解させた後、吸引器圧で濾過して白色固体を取り除いた。白色固体を無水EtO(2x60mL)で洗い流した。EtO層を混合し蒸発乾固させて定量収率の5c(10.7g)を淡紅黄色の粘性のある油として得た。ついで、この生成物を更に精製しないで次の反応工程に使用した。IR(Neat)3212,2989,2952,1747,1483,1270,1209,1147,927,831,757cm−1H NMR(300MHz,CDCl)δ8.70(1H,br,Ala-NH),7.48(2H,d,J=9.0Hz,アリールH),7.16(2H,d,J=9.0Hz,アリールH),3.79及び3.77(3H,s及びs,-OCH),1.51及び1.40(3H,d及びd,Ala-CH)。MS(Cl,m/e)357.9(M81Br),355.9(M79Br),322.0(M-Cl,81Br),320.0(M-Cl,79Br),297.9(M-COOCH81Br),295.9(M-COOCH79Br),184.0(M-BrCO)。
【0057】
AZT(1)、d4T(2)及び3dT(3)のフェニルメトキシアラニニルホスフェート誘導体の特徴付けデータ:HPLCは、流量1ml/分で水/アセトニトリル70:30で溶出させるC18の4x250mm Lichrospherカラムを使用して実施した。次の化合物の純度はHPLCで96%を越えていた。星印で標識した13C NMRピークはリン立体中心から生じるジアステレオマーのために分かれていた。
化合物6aの特徴付けデータ:収率:81%;IR(Neat):3222,2985,2954,1743,1693,1593,1491,1456,1213,1153,1039,931,769cm−1H NMR(300MHz,CDCl)δ9.30(br s,1H),7.30−7.10(m,6H),6.85−6.82(m,1H),6.36−6.26(m,1H),5.91−5.85(m,1H),5.00(br m,1H),4.19−3.68(m,4H),3.72,3.71(s,3H),1.83,1.80(d,3H),1.38−1.25(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.9,163.7,150.7,149.7,135.7,133.2,129.6,127.3,125.0,120.0,111.1,89.6,84.5,66.9,52.5,50.0,20.9及び12.3;31P NMR(CDCl)δ2.66,3.20;MALDI-TOF質量m/e487.9(M+Na);HPLC保持時間;5.54及び5.85分。
【0058】
化合物6bの特徴付けデータ:収率:92%;IR(Neat):3223,3072,2999,2953,2837,1743,1693,1506,1443,1207,1153,1111,1034,937,837及び756cm−1H NMR(CDCl)δ9.40(br s,1H),7.30−7.00(m,5H),6.83−6.81(m,1H),6.37−6.27(m,1H),5.91−5.86(m,1H),5.00(br m,1H),4.40−4.30(m,2H),4.20−4.10(m,2H),3.95−3.93(s,3H),3.82−3.80(s,3H),1.85−1.81(s,3H)及び1.39−1.29(m,3H);13C NMR(CDCl)δ174.0,163.9,156.6,150.8,143.5,135.8,133.3,127.4,121.2,114.5,111.2,89.7*,84.5,66.9*,55.5,52.5,50.6,20.9,及び12.3;31P NMR(CDCl)δ3.82,3.20;MALDI-TOF質量m/e518.2(M+Na);HPLC保持時間:5.83及び6.26分。
化合物6cの特徴付けデータ:収率:83%;IR(Neat):3203,3070,2954,2887,2248,1743,1693,1485,1221,1153,1038,912,835,733cm−1H NMR(CDCl)δ9.60−9.58(br s,1H),7.45−7.42(m,2H),7.30−7.09(m,4H),6.37−6.27(m,1H),5.93−5.88(m,1H),5.04−5.01(br m,1H),4.35−4.33(m,2H),4.27−3.98(m,2H),3.71−3.70(s,3H),1.85−1.81(s,3H),1.37−1.31(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.7,163.8,150.8,149.7,135.6*,133.1,127.4,121.9,118.0,111.2,89.7,84.4,67.8,52.5,50.0,20.7,及び12.3;31P NMR(CDCl)δ3.41,2.78;MALDI−TOFmassm/e567.1(M+Na);HPLC保持時間:12.04及び12.72分。
【0059】
化合物7cの特徴付けデータ:収率:95%;IR(Neat)3205.7,3066.3,2954.5.2109.8,1745.3,1691.3,1484.9,1270.9,1153.2,1010.5及び926.1cm−1H NMR(300MHz,CDCl)δ8.69(1H,br,3-NH),7.45(2H,d,J=9.0Hz,アリールH),7.34及び7.32(1H,s及びs,ビニルH),7.11(2H,d,J=9.0Hz,アリールH),6.18及び6.13(lH,t及びt,J=6.6及び6.6Hz,C-1'のH),4.44−3.77(6H,m,C-3',4'及び5'のH,Ala-NH及びAla-CH),3.73及び3.72(3H,s及びs,-COOCH),2.51−2.20(2H,m,atC-2'のH),2.18(3H,s,C-5の-CH),1.39及び1.36(3H,d及びd,Ala-CH)。13C NMR(75MHz,CDCl)δ173.6,163.6,150.1,149.2,149.1,135.2,132.4,121.6,117.8,111.1,85.0,84.7,81.9,81.8,65.5,60.1,59.9,52.4,50.0,49.9,36.9,20.6,20.5,12.2.MS(Cl,m/e)589.1(M81Br)及び587.1(M79Br)。
化合物8aの特徴付けデータ:収率:96%;IR(Neat):3211,2955,2821,1689,1491,1265,1211,1153,1043及び933cm−1H NMR(CDCl)δ10.1(br s,1H),7.47(s,1H),7.32−7.12(m,5H),6.14−6.08(m,1H),4.41−4.21(m,4H),4.05−4.00(m,1H),3.70,3.69(s,3H),2.37−2.32(m,1H),2.05−1.89(m,7H),1.38−1.35(dd,3H);13C NMR(CDCl)δ173.6,163.8,150.3,150.1,135.2,129.4,124.7,119.8,110.5,85.7,78.3,67.2,52.3,50.1,31.6,25.4,20.7,及び12.431P NMR(CDCl)δ2.82及び3.11;MS(MALDI-TOF):490.4(M+Na);HPLC保持時間=6.86,7.35分。
【0060】
化合物8bの特徴付けデータ:収率,100%;IR(Neat):3209,2954,1743,1506,1468,1265,1207,1153,1036,937及び835cm−1H NMR(CDCl)δ9.89(br s,1H),7.49−7.47(m,1H),7.16−7.11(m,2H),6.84−6.80(m,2H),6.15−6.09(m,1H),4.39−4.02(m,5H),3.77,3.76(s,3H),3.74,3.73(s,3H),2.38−1.89(m,7H),1.38−1.33(t,3H);13C NMR(CDCl)δ173.7,163.9,156.3,150.3,143.7,135.2,120.7,114.3,110.5,85.7,78.4,67.3,55.4,52.4,50.1,31.8,25.4,20.8及び12.431P NMR(CDCl)δ3.27及び3.52;MS(MALDI-TOF):521.3(M+l+Na);HPLC保持時間=7.15,7.66分。
化合物8cの特徴付けデータ:収率:83%;IR(Neat):3211,2954,1743,1689,1485,1265,1217,1153,1010,923及び833cm−1H NMR(CDCl)δ9.82(br s,1H),7.45−7.41(m,3H),7.15−7.11(m,2H),6.14−6.06(m,1H),4.39−4.00(m,5H),3.71,3.70(s,3H),2.38−1.89(m,7H),1.39−1.35(dd,3H);13C NMR(CDCl)δ173.6,163.8,150.3,148.5,135.2,132.6,121.8,117.7,110.6,85.9,78.3,67.2,52.5,50.2,31.6,25.6,20.8,及び12.5;31P NMR(CDCl)δ2.83及び3.05;MS(MALDI-TOF):570.0(M+2+Na);HPLC保持時間=15.50,16.57分。
【0061】
実施例9
化合物6a−8cの抗HIV活性
抗HIV活性及び細胞障害性の細胞アッセイ。 抗HIV活性を逆転写酵素活性アッセイに基づいてウイルス複製を50%阻害するのに必要な化合物濃度(IC50[RT])を決定することにより、AZT感受性HIV-1(株:HTLVIIIB)-、AZT及びNNI耐性HIV-1(株:RTMDR-1)-(NIHエイズ研究及び標準試薬計画, DIV.AIDS, NIAID, NIHのBrendan Larder博士より提供;カタログ番号2529)、又はHIV-2(株:CBL-20)感染末梢血単核細胞(PBMNC)並びにHTLVIIIB感染TK欠損CEM T細胞において評価した。ウイルス阻害パーセントを、試験物質で処理した感染細胞からのRT活性値を未処理の感染細胞(つまりウイルスコントロール)からのRT値と比較することにより計算した。化合物の50%細胞障害濃度(CC50[MTA])を2,3-ビス(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-5-[(フェニルアミノ)-カルボニル]-2H-テトラゾリウム水酸化物(XTT)を用いてミクロ培養テトラゾリウムアッセイ(MTA)によって測定した(Zarling等, 1990, Nature, 347:92;Enrice等, 1993, Antimicrob. Agents Chemother., 37:835-838;上掲のUckun等, 1998)。
【0062】
効力の強い抗HIV剤としてのd4T-5'-(パラ-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート)及びAZT-5'-(パラ-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート)の同定。 d4T-フェニルホスフェート誘導体は、HIV-1感染PBMNCで試験した場合、親化合物ほど強力ではなかった。HIV-1複製を阻害するd4Tの能力はTK欠損CEM細胞において大幅に減少した。d4TによるRT活性阻害に対するIC50値はPBMNCにおいて40nMであったが、TK欠損CEM細胞中では2400nMであった(表4及び図4A−4F)。3種全てのフェニルホスフェート誘導体はTK欠損CEM細胞中でd4Tよりも強力であったが、フェニル部分にパラ-ブロモ置換基を有する化合物6c(d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート])はd4TよりもRT活性阻害が60倍強力(IC50値:60nM対2400nM)であった(表4)。
化合物の何れも、MTAで測定して10000nMと高い濃度でもPBMNC又はCEM細胞に対して如何なる検出可能な細胞障害性も示さなかった。興味深いことに、フェニル部分にパラ-メトキシ置換基を有する化合物6bは、HIV感染TK欠損CEM細胞中におけるRT活性阻害において化合物6cより5倍効果が少なかったが(IC50値:300nM対60nM)、これら2つの化合物は末梢血単核細胞では類似した活性を示した(IC50値:30nM対40nM)(表4)。
【0063】
化合物7a、7b、7c及び親化合物AZT(2)についてPBMNC及びTK欠損CEM T細胞中におけるHIV複製を阻害するその能力を試験した(表4)。ウイルス複製の阻害パーセントを、試験物質で処理した感染細胞からのRT活性値を未処理の感染細胞からのものと比較することにより計算した。並行して、化合物の細胞障害性を、細胞増殖のミクロ培養テトラゾリウムアッセイ(MTA)を使用して調べた。HIV-1複製を阻害するAZT(2)の能力はTK欠損CEM細胞において大幅に減少していた。AZTによるRT活性阻害に対するIC50値はPBMNCにおいて3nMであったが、TK欠損CEM細胞中では200nMであった。対応するd4T誘導体とは異なり、AZTの未置換及びパラ置換フェニルホスフェート誘導体は、HIV-1感染TK欠損CEM T細胞において試験した場合、親化合物AZTほど強力ではなかった。しかし、AZTのパラ-ブロモ置換フェニルホスフェート誘導体であるAZT-5'-(パラ-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート)7cは、TK欠損CEM細胞のHIV複製阻害においてAZTよりも5倍効果的であった(IC50[RT]値:0.04μM対0.2μM)。化合物の何れも、MTAで測定して10000nMと高い濃度でもPBMNC又はCEM細胞に対して如何なる検出可能な細胞障害性も示さなかった。
【0064】
化合物8a−c及びその親化合物3dT(3)についてPBMNC及びTK欠損CEM T細胞中におけるHIV複製を阻害するその能力を、d4T(1)と並べて比較試験した。3dT並びにその誘導体は、末梢血単核細胞並びにTK欠損CEM T細胞中においてd4Tよりも活性が低かった(表4)。顕著なことに、末梢血単核細胞において、化合物8a−cに対するIC50[RT]値は3dTのIC50[RT]値よりも高く(1.2−3.1対0.7、表4)、これらのプロドラッグが十分に安定であり、その代謝、おそらくはその酵素的加水分解におけるTK依存的工程は活性種の生成に対する律速段階である可能性があることを示唆している。d4T及びAZTのフェニルホスフェート誘導体の生物活性に関する文献において報告された結果によれば、3dTのフェニルホスフェート誘導体は、なお高いマイクロモルIC50[RT]値ではあるが、TK欠損細胞中でのHIV-1複製阻害において親化合物3dTよりも活性であった(表4及び図4A−4F)。化合物8a−cはPBMNC中におけるよりもTK欠損CEM T細胞中で活性が少なかったので、我々は、これらのプロドラッグから生成される3dTモノホスフェートのその活性なトリホスフェートへの転換がTKの不在下で更に遅い速度で生じると考える。
【表4】

【0065】
化合物6a、6b及び6cはTK欠損CEM細胞中では親d4T(1)よりも全て効力が強いが、これらのd4T-フェニルホスフェート誘導体(6a、6b及び6c)はHIV-1感染PBMNC中では親d4T(1)ほど強い効力ではない(表4)。フェニルメトキシアラニニルホスフェート誘導体化d4Tの全てを比較すると、d4T-5'-[p-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]6cがTK欠損CEM細胞中における最も強い抗HIV剤である。この知見は、6cのフェニル部分のパラ-ブロモ置換基がそのリンの能力を高めてブロモ置換基の電子求引性のために加水分解を受け(図2)、TK欠損CEM T細胞中に大幅に高い量の重要な代謝物d4Tモノホスフェートを生じることに起因するものであろう(McIntee等, 1997, J. Med. Chem. 40:3233-3331)。
【0066】
TK欠損CEM細胞中におけるフェニル、メトキシフェニル及びブロモフェニルホスフェート誘導体の効能はまたd4T誘導体の場合と同じ傾向になる。つまり7c(ブロモフェニル)>7a(フェニル)>7b(メトキシフェニル)である。しかしながら、AZTの3種のフェニルメトキシアラニニルホスフェート誘導体(7a、7b及び7c)の中で7cだけがTK欠損CEM細胞中においてAZTよりも高い効能を示した(IC50値:40nM対200nM)。3dTのフェニルメトキシアラニニルホスフェート誘導体に対しては(表4)、フェニル部分のパラ位における電子求引基の存在は化合物8cの置換フェノキシ基の加水分解速度を増大させることが予想された(例えば図2のBからC)。しかしながら、8cはパラ置換のない化合物8a又は電子供与パラ置換基を持つ化合物8bほど活性ではなく、その代謝におけるカルボキシエステラーゼ依存性第1加水分解工程(例えば図2のAからB)が活性な3dT代謝物の生成の重要な律速的役割を担っているという仮説を促す。我々は、化合物8a、8b及び8cがヌクレオシド類似体のフェニルメトキシアラニニルホスフェート誘導体に対して提案された代謝経路に従ってその加水分解の起因となる推定カルボキシエステラーゼのための比較的不十分な基質となりうる(図2)と考える。3dTのアリールホスフェート誘導体は非常に類似したヌクレオシド類似体d4Tのプロドラッグ形態の代謝及び活性に関する公開文献から予想され得たようには挙動しなかった。更に驚いたことには、3dTのアリールホスフェート誘導体はHIV-1感染正常末梢血単核細胞又はTK欠損CEM T細胞株中において有望な抗HIV活性を誘発しなかった。
【0067】
要約すると、d4T-5'-[p-ブロモ-フェニルメトキシアラニニルホスフェート]6c及びAZT-5'-[p-ブロモ-フェニルメトキシアラニニルホスフェート]7cは、何ら検出可能な細胞障害性を示すことのないTK欠損CEM T細胞中におけるHIV複製を効果的に阻害する活性な抗HIV剤として同定された。これらのd4T及びAZT誘導体に比較して、対応する3dT誘導体である3dT-5'-(パラ-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート)はPBMNC又はTK欠損 T細胞中のおいて有意な抗HIV活性を示さなかった。我々の知る限り、これは、d4T及びAZTのフェニルホスフェート誘導体の効力を決定する過去には認められていない構造活性の最初の包括的な報告である。化合物6c及び7cの更なる開発はTK欠損細胞におけるHIV複製を阻害可能な効率的なHIV治療方策に対する基礎を提供しうる。
【0068】
実施例10
異なったHIV株に対するD4-T誘導体の活性
この実施例では様々なHIV株に対する12のd4-T誘導体の活性を比較した。
化学薬品は、社内で合成したd4Tを除いて全てAldrich(Milwaulee, WI)から購入した。全ての合成は窒素雰囲気下で実施した。H、13C及び31P NMRはCDCl中、室温にてVarian Mercury300機器で得た。FT-IRスペクトルはNicolet Protege460分光計で記録した。MALDI-TOF質量スペクトルはFinnigan MAT95システムを使用して得た。UVスペクトルは、1cmのセルパス長を持つBeckmann UV-VIS分光光度計(モデル3DU74000)を使用して記録した。HPLC精製は逆相Lichrospherカラム(250x4mm、Hewlett-Packard, RP-18, カタログ番号79925)と水(70%)とアセトニトリル(30%)からなるアイソクラティック流(1ml/分)を使用して達成した。アルカリ化学的加水分解はテフロン張り反応バイアル中に水酸化ナトリウム(0.05N、1ml)と10mgの基質を含むメタノール溶液3mlを用いて室温で実施した。溶液を磁気攪拌機を使用して攪拌し反応混合物のアリコートをHPLCに注入した。出発物質の消失を時間の関数としてモニターした。単分子反応の速度を一次反応式を使用して得た。HPLC実験は時間間隔を変えて、経時的に基質ピークの消失を測定して、実施した。
【0069】
抗HIV-1活性のインビトロアッセイ。 HIV陰性のドナーからの正常なヒト末梢血単核細胞(PBMNC)を、加湿された5%CO雰囲気中、37℃で1時間の吸着時間の間、0.1の感染効率(MOI)でHIV-1に曝す前に、20%(v/v)熱不活化ウシ胎仔血清(FBS)、3%のインターロイキン-2、2mMのL-グルタミン、25mMのHEPES、2g/LのNaHCO、50μg/mLのゲンタマイシン、及び4μg/mLのフィトヘマグルチニンを補填したRPMI1640中で72時間培養した。続いて、細胞を、様々な濃度のd4Tホスホロアミデートの存在下で96ウェルマイクロタイタープレート(100mL/ウェル、2x10細胞/mL)中で培養し、培養物上清の一定分量を、過去に記載されているようにして(Uckun等, 1998, Antimicrobial Agents and Chem., 42(2):383-388)、p24抗原アッセイのために感染7日目にウェルから取り除いた。適用したp24酵素イムノアッセイ(EIA)は、Coulter社/Immunotech社(Westbrooke, ME)から市販されている未修飾動態学アッセイであり、試験培養上清試料中に存在する抗原が結合するマイクロウェルストリップ上にコートされたHIVコアタンパク質に対してマウスmAbを利用する。ウイルス阻害パーセントは未処理の感染細胞(つまりウイルスコントロール)からのp24値と比較することによって計算した。
【0070】
分配係数。 オクタノール/水分配係数を振盪フラスコ法によって決定した。ホスホロアミデート類似体をガラスバイアルに入れた2mlの水及び2mlのオクタノールに添加した。混合物を室温で4時間振盪した。二相を注意深く分離しミリポアフィルターで濾過しHPLCで分析した。分配係数を、オクタノール及び水それぞれの曲線下の面積比を使用して計算した。
統計的解析。 線形化した等式の指数形態の非線形回帰モデリングを使用して3通りのウェルの各セットからIC50値を計算した。平均IC50値は各ポンプ内の変動を均一化するためにlog10変換した。異なった化合物群に対する平均IC50値間の差異を調べるために不対応t検定を実施した。加水分解速度はアルカリ条件下での化合物の消失に単一指数減衰方程式を適合させることによって決定した。化合物のIC50値を、線形モデルに適合させることにより(JMP Software, SAS Institute Inc.)、log変換加水分解速度定数と相関させた。0.05未満のp値は有意であると判断された。
【0071】
標的とされるスタブジンのホスホロアミデート誘導体はスキーム6に従って合成した。
【化9】

合成した化合物の特徴付けデータを以下にまとめる。
【0072】
5'-[3-ジメチルアミノフェニルメトキシアラニニルホスフェート]-2',3'-ジデヒドロ-3'-デオキシチミジン(DDE599)。収率:0.83g(18%);融点:61−62℃;H NMR(CDCl)δ9.93(s,1H),7.27(br m,1H),7.04(m,1H),6.97(m,1H),6.44(m,3H),6.24(m,1H),5.81(m,1H),4.94(m,1H),4.24(s,2H),4.08(m,1H),3.92(m,1H),3.64(m,3H),2.86(s,6H),1.77(m,3H),1.28(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.7,163.9,151.3,150.8,135.5,132.9,129.5,126.9,111.0,108.8,107.2,103.7,89.3,84.4,66.7,66.1,52.3,49.9,40.2,20.7,12.2;31P NMR(CDCl)δ3.32,2.70;IR(KBr)ν3448,3050,2952,1691,1506,1450,1247,1143,999cm−1;UV(MeOH)λmax203,206,21,258nm;FAB MSm/z531.1619(C2229P+Na);HPLCt3.36分。
5'-[2,6-ジメトキシフェニルメトキシアラニニルホスフェート]-2',3'-ジデヒドロ-3'-デオキシチミジン(DDE600)。収率:0.60g(13%);融点:51−53℃;H NMR(CDCl)δ9.78(s,1H),7.38(br d,1H),6.95(m,3H),6.48(m,3H),6.29(m,1H),5.81(m,1H),4.36(m,3H),4.02(m,2H),3.74(m,6H),3.63(m,3H),1.74(d,3H),1.29(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.7,163.9,151.7,150.8,135.7,133.1,128.4,126.8,125.0,110.9,104.8,89.2,84.6,66.8,55.8,52.2,49.7,49.4,21.0,11.831P NMR(CDCl)δ4.97,4.28;IR(KBr)ν3432,3072,2950,1691,1483,1261,1112,931cm−1;UV(MeOH)λmax210,267nm;FAB MSm/z526.1570(C222810P+H);HPLCt6.55分。
【0073】
5'[5'-[3-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]-2',3'-ジデヒドロ-3'デオキシチミジン(DDE602)。収率:0.67g(14%);融点:47−48C;H NMR(CDCl)δ9.65(s,1H),7.34−7.11(m,5H),6.97(m,1H),6.26(m,1H),5.87(m,1H),4.98(m,1H),4.26(m,3H),3.93(m,1H),3.67(m,3H),1.76(m,3H),1.32(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.5,163.8,150.6,135.4,132.8,130.6,128.0,127.3,123.3,122.3,118.8,111.1,89.5,84.4,67.2,66.6,52.6,50.0,20.7,12.331P NMR(CDCl)δ3.36,2.74;IR(KBr)ν3432,3070,2954,1685,1473,1247,941cm−1;UV(MeOH)λmax208,213,267nm;FAB MSm/z544.0486(C2023BrNP+H);HPLCt10.30,10.65分。
4-ブロモ-2-クロロフェニルメトキシアラニニルホスフェート]-2',3'-ジデヒドロ-3'デオキシチミジン(DDE603)。収率:0.89g(17%);融点:51−52℃;H NMR(CDCl)δ9.52(s,1H),7.52(s,1H),7.32(m,2H),7.22(m,1H),6.99(m,1H),6.29(m,1H),5.90(m,1H),5.00(m,1H),4.33(m,2H),4.19(m,1H),4.01(m,1H),3.67(s,1H),1.79(m,3H),1.31(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.5,163.8,150.8,145.5,135.3,132.8,130.9,127.3,126.2,122.7,117.8,113.3,89.6,),84.3,67.5,67.1,52.6,50.1,20.8,12.331P NMR(CDCl)δ3.11,2.54;IR(KBr)ν3415,3222,3072,2952,1691,1475,1245,1085,1035,929cm−1;UV(MeOH)λmax215,267nm;FAB MSm/z578.0105(C2022BrClNP+H);HPLCt18.63,20.63分。
【0074】
5-[2-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]-2',3'-ジデヒドロ-3'デオキシチミジン(DDE605)。収率:0.36g(19%);融点:45−46℃;H NMR(CDCl)δ9.55(s,1H),7.47(m,2H),7.24(m,2H),6.99(m,2H),6.29(m,1H),5.88(m,1H),5.00(m,1H),4.35(m,2H),4.02(m,2H),3.66(s,3H),1.80(m,3H),1.30(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.6,163.8,150.8,147.3,135.4,133.0,128.5,127.2,126.1,121.3,114.4,111.3,89.6,84.3,67.2,52.5,50.1,29.6,20.8,12.4;31P NMR(CDCl)δ2.98,2.37;IR(KBr)ν3432,3072,2954,1685,1475,1245,1089,933cm−1;UV(MeOH)λmax207,267nm;FAB MSm/z544.0469(C2023BrNP+H);HPLCt8.37,9.23分。
5'-[2-クロロフェニルメトキシアラニニルホスフェート]-2',3'-ジデヒドロ-3'デオキシチミジン(DDE606)。2.10g(47%);融点:43−45℃;H NMR(CDCl)δ9.80(s,1H),7.39(m,1H),7.29(m,1H),7.20(m,1H),7.13(m,1H),7.01(m,1H),6.92(m,1H),6.24(m,1H),5.81(m,1H),4.94(m,1H),4.28(m,3H),3.96(m,1H),3.59*(m,3H),1.72(m,3H),1.25(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.5,163.8,150.8,145.9,135.3,132.7,130.0,127.5,127.0,124.8,121.2,111.0,89.3,84.3,66.9,52.3,49.8,20.5,12.131P NMR(CDCl)δ3.23,2.67;IR(KBr)ν3209,3070,2952,1691,1481,1245,1035,931cm−1;UV(MeOH)λmax214,215,219,267nm;FAB MSm/z500.1028(C2023ClNP+H);HPLCt7.62,8.32分。
【0075】
5'-[2,5-ジクロロフェニルメトキシアラニニルホスフェート]-2',3'-ジデヒドロ-3'デオキシチミジン(DDE608)。収率:0.68g(30%);融点:42−44℃;H NMR(CDCl)δ9.43(s,1H),7.45(m,1H),7.25(m,2H),7.04(m,1H),6.99(m,1H),6.32(m,1H,5.88(m,1H),4.99(m,1H),4.32(m,3H),4.00(m,1H),3.67(s,3H),1.77(m,3H),1.33(m,3H);13C NMR(CDCl)δ173.5,163.8,150.8,146.4,135.3,132.7,130.7,127.4,125.8,123.7,121.7,111.2,89.6,84.3,67.1,52.6,50.1,29.6,20.7,12.331P NMR(CDCl)δ3.24,2.60;IR(KBr)ν3423,3205,3072,2954,1691,1475,1245,1093,946cm−1;UV(MeOH)λmax211,216,220,268nm;FAB MSm/z534.0581(C2022ClP+H);HPLCt13.18分。
【0076】
化合物の抗HIV活性を、過去に記載されている手順(Uckun等, 1998, Antimicrobial Agents and Chem., 42(2):383-388)を使用して末梢血単核細胞中におけるHIV複製を阻害するその能力を評価することによって調べた。ウイルス複製の阻害パーセントを、試験物質で処理した感染細胞からのp24抗原レベルを未処理の感染細胞からのものと比較することにより計算した。
4-Br置換を持つ過去に記載された化合物113、4-F置換を持つ化合物604、及び4-Cl置換を持つ化合物609並びにパラ位に電子求引CN基が置換された化合物601、及び二重のハロ置換を有する化合物603及び608を含むパラ位にモノ-ハロ置換を持つ全ての化合物(表5を参照)が僅かに1nMのIC50値を有していた。2-又は3-位にモノ-ハロ置換を持つ化合物は4-位にモノ-ハロ置換を持つ化合物(平均IC50=1.0±0.0nM、P<0.001)よりも活性が少なかった(平均IC50=2.3±0.3)。化合物598、599及び600を含む電子供与基が置換された化合物はまた4-位にモノ-ハロ置換を持つ化合物よりも活性が低いように思われた(平均IC50=11.7±6.7nM、P=0.017)。従って、電子求引基の存在はこの群のヌクレオシド類似体の抗HIV活性を高めると思われる。
【0077】
次に、スタブジンのアリールホスフェート誘導体の抗HIV効力がその親油性又は加水分解速度から予想できるかどうかを決定した。Siddiqui等(Siddiqqui等, 1999, J. of Med. Chem., 42:4122-4128)の仮説と異なり、スタブジンのアリールホスフェート誘導体の親油性はそのHIV-1に対する生物活性とは相関しなかった(R=0.06、t=0.86,P=0.4)。類似の又は同一の分配係数を有する化合物は広範囲のIC50値を有していた(表1)。例えば、化合物600及び607は化合物508と同じ分配係数を有していた。しかし、そのIC50値は、化合物598のIC50値よりも、それぞれ50%高く(6nM対4nM)、50%低かった(2nM対4nM)。フェニル環における2-Br、2-Cl及びN(CH)置換基は2−2.5倍高い分配係数によって反映されるように、親油性を増大させるが、抗HIV効力は増大させず、3-N(CH)置換の場合には>10倍の活性損失を生じさせた。
【0078】
図1はd4Tのアリールホスフェート誘導体の文献で提案された代謝経路を示す。フェニル部分のパラ位における電子求引基の存在は、これらのアリールホスフェート誘導体の代謝経路のカルボキシエステラーゼ依存性第一工程によって生じる代謝前駆体Bのフェノキシ基の加水分解速度を増加させると思われる。我々の先の刊行物(Venkatachalam等, 1998, Bio. Med. Chem. Lett., 8:3121)において、我々は、電子求引基によって誘導される電子効果がフェノキシ基Cの加水分解を促進し、重要な代謝物Ala-d4T-MPの前駆体であるD及び続いてEを生じると考えた。アルカリ条件を使用する化学的加水分解は電子求引基がこれらホスホロアミデート誘導体の構造中に存在している場合にはAla-d4T-MPの生成量を増加させた(Venkatachalam等, 1998, Bio. Med. Chem. Lett., 8:3121)。大幅に多量のA-d4T-MP(活性なd4T-MP代謝物の重要な前駆体)を生じる加水分解に対する感受性の増加のため、その構造に電子求引基を含む化合物はそのような置換基を持たない化合物よりもより高い効力の抗HIV剤であると考えられた。この仮説は表6及び図5にまとめた実験データによって強く裏付けられる。電子求引基の付加は加水分解速度(図5A)及び化合物の効力(図5B)を増加させた。電子供与基(すなわち、3-N(CH)、ジ-OMe及び4-OMe)を持つ三種の化合物は最も低い加水分解速度を有しており、効力が最も低かった。加水分解速度とIC50値のlog10変換値間には逆線形関係があった(R=0.42、t=−2.8,P=0.017)
【0079】
【表5】

【0080】
実施例11
様々なHIV株に対するD4-T誘導体の活性
この実施例ではHIV-1のHTLVIII、RTMDR、A17及びA17V株に対するスタブジンと13種のスタブジンのフェニルホスホロ-アミデート誘導体の抗ウイルス活性を調べた(表6)。
【表6】

【0081】
スタブジン(d4T)は18nMのIC50値でHTLVIIIBを阻害した。13種のスタブジン誘導体のうち12種はスタブジンよりも実質的に更に効力があり、ナノモル濃度でHTLVIIIを阻害した。
同様に、全ての化合物がナノモルIC50値でHIV-1のNNRTI耐性A17及びA17変異体株に対して強い活性を示した。化合物113、608及び609は、20から60nMの範囲のIC50値で、NRTI耐性並びにNNRTI耐性HIV-1株RTMDRに対して最も効力が高いことが見出された。
HTLVIIIB及びA17に対する合成化合物の抗HIV活性はアルカリ加水分解に対するその感受性並びにハメットσ値と相関していた(図6)。RTMDRに対する抗HIV活性はまたハメットσ値と相関していた(表7)。各株に対するウイルス複製の阻害(IC50値)は、ノンパラメトリック回帰解析(スピアマン順位)を使用すると、ハメットσ、加水分解速度の二つの物理化学的パラメータの各々と相関していた。スピアマンRho値は順位データで計算して相関の強さを測定した。
【表7】

要約すると、我々はスタブジンのアリールホスホロアミデート誘導体を合成し、様々なウイルス株に対してのその活性を調べた。我々のデータは、フェニル環にハロ置換を持つホスホロアミデート誘導体がHIV-1の耐性株に対して強い抗ウイルス活性を有していることを確証するものである。
【0082】
実施例12
様々なHIV株の臨床分離株に対するD4-T誘導体の活性
本実験の目的は初代臨床HIV-1分離株に対するD4-T誘導体の抗レトロウイルス活性を評価することにあった。
抗HIV薬。 化合物113、つまりSTV-5'[パラ-ブロモフェニルメトキシアラニニルホスフェート]の調製のための合成手順は過去に記載されている。ジドブジン(ZDV)/AZT(Glaxo Wellcome)、ラミブジン(LMV)/3TC/エピビル(Glaxo Wellcome)、スタブジン(STV)/d4T/ゼリット(Cristol-Myers Squibb Co)、ネルフィナビル(NLV)/ビラセプト(Agouran)及びネビラピン(NVP)(Boehringer Ingelheim/Roxane)をパーカー・ヒューズ・インスティテュートの研究医薬部から取得した。
ウイルス。 遺伝子型及び/又は表現型がNRTI耐性の20の初代臨床分離株(D. Richman研究室で単離)と表現型がスタブジン耐性の10の臨床分離株(NIAIDの エイズ研究標準試薬計画(AIDS Research and Reference Reagent Program)から取得)を現在の実験に使用した。HIV-1株HTLVIIIB(野生型RT、NRTI感受性、NNRTI感受性)、A17(Y181C変異体、NNRTI耐性)、A17変異体(Y181C+K103N変異体、NNRTI耐性)及びRT-MDR(M41L、V106N、T215Y;NRTI耐性、NNRTI耐性)をまたNIAIDのエイズ研究標準試薬計画から取得した。
【0083】
抗ウイルス感受性アッセイ。 HIV-1分離株及び株の表現型薬物耐性実験を、過去に記載されているようにして(Uckun, 1998, Antimicrobial Agents and Chemotherapy 37(4): 835-38)、定量的Coulter HIV-1p24抗原酵素イムノアッセイ(EIA)及びHIV-1p24抗原動態学基準(Antigen Kinetic Standard)(Beckman Coulter)を使用し抗HIV剤の濃度を増加させた状態で血清陰性の健康な志願者からの末梢血単核細胞(PBMC)中でのp24gagタンパク質の産生を測定することによって実施した。施設内倫理委員会によって承認を受けた同意書を使用して、DHHSガイドラインに従って供血者からインフォームドコンセントを得た。簡単に記載すると、PBMCを、加湿された5−7%CO雰囲気中、37±1℃で1時間の吸着時間の間、0.001−0.1の感染効率でHIVに曝す24−72時間前に、20%(vol/vol)熱不活化ウシ胎仔血清、5%のヒトインターロイキン-2(Zeptometrix)、2mMのL-グルタミン、25mMのHEPES、2g/LのNaHCO、100U/mlのペニシリン/ストレプトマイシン(Gibco)、50μg/mLのゲンタマイシン(Gibco)、及び5μg/mLのフィトヘマグルチニン-P(PHA-P)(Sigma)を補填したRPMI1640中で72時間培養した。続いて、細胞を、0.0001μMから100μMの範囲の6−7通りの異なった濃度の抗HIV剤の存在下で96ウェルマイクロタイタープレート(100mL/ウェル;2x10細胞/mL、三組のウェル)中で培養し、培養物上清のアリコート25μLを、過去に記載されているようにして(Uckun, 1998, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 37(4):835-38)、p24EIAのために感染6日目にウェルから取り除いた。コントロールには未感染及び未処理細胞(バックグラウンドコントロール)及び感染しているが未処理の(ウイルスコントロール)細胞を含めた。p24EIAは、試験培養上清試料中に存在する抗原が結合するマイクロウェルストリップをコートするために使用されるHIVコアタンパク質に対するマウスモノクローナル抗体を利用する。ウイルス阻害パーセントは未処理の感染細胞(つまりウイルスコントロール)からのp24値と試験物質で処理した感染細胞からのp24値を比較することによって計算した。IC50値はStatview統計プログラム(SAS Institute, Inc.)を使用して決定した。並行して、細胞生存度に対する様々な処理の影響をまた過去に記載されているようにして調べた(Uckun, 1998, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 42:383-388)。簡単に記載すると、非感染PBMCを同一実験条件下で5日間各化合物を用いて処理した。ミクロ培養テトラゾリウムアッセイ(MTA)を実施して細胞増殖を定量した(Uckun, 1998, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 42:383-388)。細胞増殖を50%阻害する細胞障害性濃度(CC50値)をStatview統計プログラム(SAS Institute, Inc.)を使用して決定した。
【0084】
プラーク形成アッセイ。 合胞体フォーカス(プラーク)アッセイはHIVの感染性の定量化を可能にする。簡単に記載すると、CD4発現HeLa細胞株(HT4-6C)(NIAIDの エイズ研究標準試薬計画)を、ウイルス接種菌液(100プラーク形成単位)及び数種の濃度の抗ウイルス剤の存在下で2.5−3.0x10細胞/mlにて24ウェル組織培養皿中で培養する。抗ウイルス剤の添加前に2時間のインキュベーション時間の間、ウイルスを最初に添加した。細胞を3日培養し、培養物を、100%メタノール中に15分間皿を浸漬し、5分間0.3%のクリスタルバイオレットで染色し、倒立顕微鏡を用いて各ウェル中のプラークを計数することによって、合胞体形成についてアッセイした(Uckun, 1998, Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 37(4):835-38)。プラーク形成の阻害パーセントは、試験物質で処置した感染細胞からのプラーク数を、未処置の感染細胞(つまりウイルスコントロール)からのプラーク数と比較することによって計算した。IC50値はStatview統計プログラム(SAS Institute, Inc.)を使用して決定した。
【0085】
統計的解析。 各薬剤(ZDV、化合物113、STV、3TC、ネビラピン、ネルフィナビル)を、0.0001μMから100μMの範囲の6−7通りの異なった濃度で試験した。各アッセイは、三組のウェルで設定し、1−3回繰り返した。IC50及びIC90値は、線形化した等式の指数形態の非線形回帰モデリングを使用して3通りのウェルの各セットから計算した。初代HIV-1臨床分離株では、STV耐性及びZDV耐性分離株に対して別個に阻害データを評価した。阻害定数は、各群内の変動を均一化するためにlog10変換した。化合物113及びSTV又はZDVに対するIC50/IC90値の平均間の差異を調べるために対応t検定を実施した。0.05未満のP値は有意であると判断された(JMP Software, SAS)。
HIV-1分離株及び株の表現型薬物感受性実験を、過去に記載されているようにして、定量的Coulter HIV-1p24抗原酵素イムノアッセイ(EIA)及びHIV-1p24抗原動態学基準(Beckman Coulter)を使用し抗HIV剤の濃度を増加させた状態で血清陰性の健康な志願者からの末梢血単核細胞(PBMC)中でのp24gagタンパク質の産生を測定することによって実施した。指数等式の線形化形態(lnY=lnb0+b1X;ここで、Y=阻害%、X=薬剤濃度)を使用して3通りのウェルの各セットからIC50値を計算するのにStatViewを使用した。阻害定数は、各群内の変動を均一化するためにlog10変換した。各ウイルス株にわたって化合物113及びSTV又はZDVに対するIC50値の平均間の差異を調べるために対応t検定を実施した。0.05未満のP値は有意であると判断された(JMP Software, SAS)。
【0086】
10のジドブジン感受性臨床HIV-1分離株に対してスタブジン及びジドブジンと並列比較した化合物113の抗HIV活性を、これらの分離株の一つに感染したヒトPBMC中におけるHIV-1p24抗原産生に対するその効果を評価することによって調べた。南アメリカ、アジア、サハラ以南のアフリカからの起源のこれら分離株の9種が非Bエンベロープサブタイプ(A=2、C=2、F=3、G=2、表8)を有していた。これらの分離株に対するスタブジンのIC50及びIC90はそれぞれ0.1μMから0.8μM(平均±SE=0.24±0.07μM)及び1.0μMから40.9μM(平均±SE=6.38±3.89μM)の範囲であった。比較すると、これらの分離株に対するジドブジンのIC50及びIC90はそれぞれ0.001μMから0.01μM(平均±SE=0.004±0.001μM)及び0.011μMから0.09μM(平均±SE=0.05±0.01μM)の範囲であった。これに対して、化合物113のIC50及びIC90はそれぞれ0.002±0.001μM及び0.03±0.01μMであった。従って、表8に示すように、化合物113はこれらの臨床分離株に対してスタブジン(P<0.0001;対応t検定)又はジドブジン(IC50に対してP=0.04、IC90に対してP=0.03;対応t検定)よりも強い効力であった。顕著なことに、表現型的にスタブジン耐性のHIV-1分離株、例えばBR/92/25及びBR/93/29は化合物113に対して極めて感受性であった(表8)。
【0087】
【表8】

【0088】
NIH・エイズ研究標準試薬計画を通して実験室株を手に入れた。全ての初代HIV-1分離株は、過去に記載された培養技術を用いてNRTIで処理されたHIV感染個体の末梢血白血球から回収した。薬物感受性アッセイを、材料と方法に記載されたようにして、PBMC又はMT-2細胞(RT-MDRのみ)を使用して実施した。CC50値はネビラピンと化合物113の双方に対して>100μMであった(データは示さず)。
これらの17の実験の内、7の実験において、我々はPBMCに対する化合物113の細胞障害性を調べた。7の実験の各々において、CC50値は>100μMであった。よって、化合物113の選択性指数(SI=CC50/IC50)は>100000であった。同様に、ジドブジンの平均CC50値は95.6±2.9μMで、対応する選択性指数(SI=CC50/IC50)は31867であった。比較すると、スタブジンの平均CC50値は4.5±1.7μMで、対応するSIはほんの196であり、ラミブジンの平均CC50値は55±45μMで、対応するSIはほんの1375であった。よって、化合物113はジドブジン、スタブジン又はラミブジンよりも良好な選択性指数を有していた。
【0089】
ついで、NRTI感受性実験室株HTLVIIIBに対する化合物113のインビトロ抗HIV活性をそれぞれ三組実施した17の独立した実験において評価した。試験は、8の実験においてスタブジンと、13の実験においてジドブジンと、3の実験においてラミブジンと、6の実験においてネルフィナビルと、6の実験においてネビラピンと並列比較した(表9)。化合物113はナノモルIC90値の強い抗HIV-1分離株活性を示し、NRTIジドブジン、スタブジン又はラミブジンよりも一貫して顕著により効果的であった:化合物113の平均IC50及びIC90値はそれぞれ0.001±0.000μM及び0.052±0.024μMであった。比較すると、スタブジンの平均IC50及びIC90値はそれぞれ0.023±0.008μM及び1.470±0.614μMであった(P<0.001、表9)。同様に、ラミブジンの平均IC50及びIC90値は化合物113のものよりも相当(P<0.001)高かった(それぞれ0.040±0.025μM及び1.824±0.747μM;表9)。ジドブジンと比較すると化合物113はまた良好なIC50及びIC90値を有していた(IC50:0.001±0.000対0.003±0.001、P<0.001;IC90:0.045±0.028対0.093±0.034、P<0.05)。更に、化合物113は6の独立した実験の各々においてNNRTIネルフィナビル又はネビラピンよりもより効果的であった(表9)。
【0090】
【表9】

【0091】
次に、我々は、20の遺伝子型的及び/又は表現型的にジドブジン耐性の初代HIV-1臨床分離株に対する抗HIV活性を調べた(表10)。これら20の分離株の11に対してのジドブジンのIC50は>1μMであり、残りの9の分離株に対するIC50値は>0.1μMであった(平均±SE=1.6±0.5μM)。19の分離株の遺伝子型を解析し、それぞれがNRTI耐性に関連する2−5のTAMを有していることが分かった。ジダノシン耐性を付与するL74V変異が一つの分離株(X267-1)中に見出され、多剤耐性変異F116Yが一つの分離株(X267-5)中に見出された。表10に示すように、化合物113は、8.7±2.8nM(範囲:<1nMから42nM)の平均IC50値を持つその表現型又は遺伝子型ジドブジン耐性の程度に関わりなくこれらの分離株の各々に対してナノモル濃度で活性であった。顕著なことに、5のTAMを持つ表現型的に高度にジドブジン耐性のG190-6及びG704-2分離株はそれぞれ2.8nM及び3.2nMのIC50値で化合物113によって阻害された。ジドブジン耐性分離株に対してのジドブジンに対する化合物113の優位性は統計的に有意であった(P<0.0001、対応t検定;表10)。よって、表現型又は遺伝子型ジドブジン耐性は化合物113耐性には付随していない。
【0092】
【表10】

【0093】
顕著なことに、5のTAMを持つ表現型的に高度にジドブジン耐性のG190-6及びG704-2分離株(ジドブジンIC50値>10μM)はそれぞれ2.8nM及び3.2nMの平均IC50値で化合物113によって阻害された。これらの知見は、化合物113が、表現型及び/又は遺伝子型NRTI耐性特性を持つ初代HIV-1臨床分離株の高度に効力の高い阻害剤であるとの証拠を提供する。遺伝子型及び/又は表現型NRTI耐性初代HIV-1臨床分離株並びに齧歯類及び非齧歯類動物において好ましい毒性特性を持つ非Bエンベロープサブタイプに対する化合物113の文献記載のインビトロ効力及びHIV感染Hu-PBL SCIDマウス並びにFIV感染ネコにおけるそのインビボ抗レトロウイルス活性この有望な新しいNRTI化合物の更なる開発を正当化する。
【0094】
我々は、CD4発現HeLa細胞株HT4-6Cを使用する同胞体フォーカス(プラーク)形成アッセイにおいて9つの異なるジドブジン耐性初代HIV-1臨床分離株に対する化合物113の抗ウイルス活性をまた調べた。表11に示すように、化合物113は79.4±18.7nMの平均IC50値のナノモルIC50値で濃度依存的な形で各分離株の感染性を阻害したが、そのIC50値は同じ分離株に対するジドブジンの3.9±1.0μMのIC50値よりも有意に低かった(P<0.0001、log10変換値に対する対応t検定)。
【表11】

【0095】
L1001、K103N、V106A、E138K、Y181C及びY188H/Lを含む、何十もの変異体株をNNRTI化合物に耐性があるものと特徴づけた。特に、Y181C及びK103N変異体は、調べたNNRTI化合物の殆どに耐性であるので、最も処理が困難である可能性がある。従って、次に、我々は、ヒト末梢血単核細胞中におけるY181C、K103N、V106A又はY188L変異を持つHIV-1株/分離株の複製を阻害する化合物113の能力を、p24gagタンパク質産生の測定によって、調べた。化合物113はヒト末梢血単核細胞中においてナノモルIC50値で、Y181C変異体HIV-1株A17、Y188L変異体初代HIV-1臨床分離株C467-4及びY207-7、K103N変異体初代HIV-1臨床分離株X-165-9及びS-159-2、Y181C+K103N二重変異体HIV-1株A17変異体、Y181C+K103N二重変異体初代HIV-1臨床分離株X-165-8の複製を阻害した(表11)。初代HIV-1臨床分離株に対する化合物の平均IC50値は11.2±6.5nMであった。これらの臨床HIV-1分離株はまたNRTI耐性を付与する更なるRT遺伝子変異を有しており、ジドブジン耐性表現型を提示する(表9及び表10参照)。同様に、化合物113は、ヒトT細胞株MT2中においてナノモル以下のIC50値で、NRTI耐性関連RT変異体M41L及びT215Yをまた有する多剤耐性のV106N変異体HIV-1株RT-MDRの複製を、100μM濃度でさえ細胞障害性を何ら示すことなく、阻害した(表12)。
【0096】
【表12】

【0097】
M41L、D67N、K70R及びM184Vのようなジドブジン耐性分離株に観察された多くのTAMはパーム上の触媒部位及び触媒部位の近くのフィンガードメインから10Åの距離内に残基を含み、阻害剤の結合及び/又は阻害剤取り込みの動的過程を損なうと思われる。顕著なことには、化合物113は、変異体の幾つかはスタブジン-トリホスフェート結合部位から3−10Å以内であるがナノモル濃度でこれらの分離株の各々を阻害することが可能であった。最後に、ヌクレオシド類似体とは異なり、NNRTIは、触媒部位からおよそ10−20Å離れているHIV-1RTのアロステリック部位に結合する。NNRTI結合は回転異性体のコンホメーション変化をある残基(Y181及びY188)に誘導し、サム領域をより堅牢にする。双方の事象が結果的に基質結合様式を改変し及び/又は二重ストランドの転位置に影響を及ぼすが、これがおそらくはRTのポリメラーゼ機能に重要であり、よって酵素の非競合的阻害を生じる。化合物113のようなヌクレオシド類似体は理論的にはNNRTI結合ポケットにおける変異に感受性ではないはずである。我々の予想に一致し、化合物113はNNRTI結合ポケットの変異を持つHIV-1分離株をナノモル濃度で阻害した。
【0098】
ここに記載した全ての刊行物、特許及び特許文献は完全に記載されているかのように出典明示により取り込む。ここに記載した発明は他の実施態様を含むように変更することができる。そのような自明な変更例の全てが、特許請求の範囲に記載される本発明の要旨と範囲内のものである。本発明の詳細な説明を上に記載したが、本発明はそれに限定されるものではない。ここに記載した発明は、当業者には明らかなように、他の実施態様を含むように変更することができる。そのような変更態様も全て添付の特許請求の範囲に記載した発明の要旨と範囲内のものであること考えられなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】d4Tのアリールホスフェート誘導体に対する先行技術が提案した代謝経路の概略模式図である。
【図2】図2A及び2Bは置換フェニル環の加水分解を高めるための電子求引仮説を示す図である。図2Cは、試験化合物:X=Hの化合物2(白抜きの四角);X=OCHの化合物3(塗り潰した四角);及びX=Brの化合物4(塗り潰した円)の加水分解の結果としてのA-d4Tの産生を示す溶出特性である。図2Dは、ブタ肝臓エステラーゼによる酵素加水分解に対する試験化合物の感受性を示す溶出特性である。
【図3】TK欠損CEM細胞中での化合物2−4の細胞内加水分解を示す溶出特性である。680pmolのA-d4T-MPに対応する代謝ピークが化合物4と共にインキュベートしたCEM細胞可溶化物のアリコートにのみ検出された。
【図4A】化合物6cの化学構造を示す。
【図4B】化合物7cの化学構造を示す。
【図4C】化合物6cに対するPBMNC及びTK欠損CEM細胞中でのHTLVIIIBに対する抗HIV活性を示す。
【図4D】化合物7cに対するPBMNC及びTK欠損CEM細胞中でのHTLVIIIBに対する抗HIV活性を示す。
【図4E】化合物6cに対するHIV-1(HTLVIIIB)、HIV-2及びRTMDR-1に対する抗ウイルス活性を示す。抗ウイルス活性は感染細胞におけるRT活性によって測定したHIV複製の阻害%として表した。
【図4F】化合物7cに対するHIV-1(HTLVIIIB)、HIV-2及びRTMDR-1に対する抗ウイルス活性を示す。抗ウイルス活性は感染細胞におけるRT活性によって測定したHIV複製の阻害%として表した。
【図5】図5A及び5Bは化合物の加水分解の速度及び強さに対する電子求引基の効果を例証する。
【図6】A17複製の阻害に対するIC50値に対するハメットσ及び加水分解速度値の相関を示す。塗り潰した円は化合物を表す。実線の垂線は平面からのデータポイントの偏差を表す。平面はA17複製の阻害に対するLogIC50値に対するハメットσ及び加水分解速度の重回帰相関適合を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
HIVの耐性株に感染した細胞中でのウイルス複製を阻害する方法において、式I
【化1】

(上式中、Xは電子求引基で、Rはアミノ酸残基である)
の化合物又はその薬学的に許容可能な塩のウイルス複製阻害量を感染細胞に投与することを含んでなる方法。
【請求項2】
XはBr、Cl、I、又はNOである請求項1に記載の方法。
【請求項3】
XはBr又はClである請求項1に記載の方法。
【請求項4】
は、-NHCH(CH)COOCHである請求項1に記載の方法。
【請求項5】
HIVの耐性株がA17又はA17-Vである請求項1に記載の方法。
【請求項6】
耐性HIV株が、少なくとも一の治療過程に応答しないか又は応答しなかった感染個体から得られた臨床分離株である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
HIV株が非Bサブタイプである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
感染した細胞への上記投与が、動物への投与を含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項9】
動物がヒトである請求項8に記載の方法。
【請求項10】
ウイルス複製阻害量が約1〜約500mg/kg動物体重である請求項9に記載の方法。
【請求項11】
ウイルス複製阻害量が約10〜約100mg/kg動物体重である請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記分離株が、変異型逆転写酵素を有するHIV株に感染しており、該変異が、M41L、D67N、K70R、L74V、K103N、V106N/A、E138K、Y181C、Y188H/L、T215Y/F/Dの一又は複数を含む請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図4D】
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【図4E】
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【図4F】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2006−510610(P2006−510610A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−548439(P2004−548439)
【出願日】平成15年10月24日(2003.10.24)
【国際出願番号】PCT/US2003/033622
【国際公開番号】WO2004/040002
【国際公開日】平成16年5月13日(2004.5.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
テフロン
【出願人】(504457647)パーカー ヒューズ インスティテュート (1)
【Fターム(参考)】