説明

耐摩耗性に優れる織物

【課題】ウインドブレーカーやダウンジャケットなどの外衣着用時に生じる脇部や太腿部の擦れに起因する毛羽立ちや破れが起こりにくく、特にスポーツウエア、アウトドアウエア着用時に生じる、衣料同士や他の物体との激しい接触摩擦に強い、主としてポリエステル系繊維からなる織物を提供する。
【解決手段】主としてポリエステル系繊維からなる織物であって、下記(1)〜(3)を同時に満足することを特徴とする耐摩耗性に優れた織物。
(1)織物を構成するポリエステル系繊維の総繊度が8〜100dtexである。
(2)織物を構成するポリエステル系繊維の極限粘度が0.65〜1.30である。
(3)マーチンデール摩耗試験による重量減少率が3万回で5%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は織物に関する。より詳細には、アウトドアウエアなどの衣料着用時に擦れが生じても破れにくい織物を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
衣料、特にウインドブレーカー、ダウンジャケットなどの外衣は、脇部や太腿部に着用による擦れが起こることで毛羽立ちが生じたり、破れたりすることがある。また、特にスポーツウエアやアウトドアウエア(登山用、キャンプ用などの屋外活動用ウエア)では、衣料同士や、他の物体との激しい摩擦が起こる(例として競技者同士や競技用品との接触、ザックやロープなどとの摩擦、あるいは地面や崖、草木との擦れなど)ため、摩耗に強い織物が求められている。更に、これらの衣類において生地の薄地化、軽量化が進められており、薄地軽量でありながら耐摩耗性に優れた織物が求められている。
摩耗という観点ではポリエステル繊維に比べ、ナイロン66などのポリアミド繊維が強いことが一般に知られているが、ポリアミド繊維は光劣化や黄変を起こしやすく、屋外で過酷に使用される用途には不向きである。
【0003】
そこで、ポリエステル繊維において耐摩耗性を改善する種々の検討が進められている。従来より、延伸倍率を上げ、高強力ポリエステルを得る方法が知られており、また、特許文献1にはポリエステル繊維を製造する際の延伸方法を工夫し、高強力なポリエステル繊維を得る方法が開示されている。これらの製法で得られた糸は繊維軸方向の強度は高いものの、繊維軸と直交する方向など他の方向からの外力には弱く、衣料用素材の摩耗など全方向から摩耗が生じる場合には十分な耐摩耗性を得ることができない。又、特許文献2には固有粘度と強度を高めた扁平断面を有する衣料用の耐摩耗性に優れた捲縮糸が提案されている。この捲縮糸は衣料用として考慮されているが強度や配向を高めた構造となっており、やはり繊維軸以外の方向にはもろく、全方向から生じる摩耗に対する耐久性は十分ではない。
【0004】
さらにポリマーに添加物等を加え、耐摩耗性を向上させる方法も種々考案されており、例えば、特許文献3には特殊な酸化ケイ素粒子を含有し、特定の結晶構造で配向を高めた繊維が提案されている。しかし、粒子を含有させると一般的には糸の強度は下がってしまう。また、配向を高めた構造ゆえ、やはり繊維軸以外の方向にはもろく、マーチンデール摩耗のような全方向での摩耗性は十分ではない。従って衣料として着用時に生じる摩耗に対して十分な耐久性を持つ繊維は開発されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−245918号公報
【特許文献2】特開昭63−309638号公報
【特許文献3】特許第3277703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、衣料、特にウインドブレーカー、ダウンジャケットなどの外衣として用いた時に生じる脇部や太腿部の擦れに起因する毛羽立ちや破れが起こりにくく、特にスポーツウエア、アウトドアウエアとして用いた時に生じる、衣料同士や、他の物体とのさまざまな摩擦に対しても毛羽立ちや破れが起こりにくく、風合に優れた、ポリエステル繊維からなる織物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を達成するために鋭意研究した結果、衣料用織物の実着用における耐摩耗性とマーチンデール法による摩耗評価は相関しており、マーチンデール摩耗での強度を高めることが有効であること、繊維の粘度を高めるとともに、特殊な繊維構造とすることが有効であるという結果を見出した。
【0008】
すなわち本願で特許請求される発明は以下の通りである。
(1)主としてポリエステル系繊維からなる織物であって、下記(i)〜(iii)を同時に満足することを特徴とする耐摩耗性に優れた織物。
(i)織物を構成するポリエステル系繊維の総繊度が8〜100dtexである。
(ii)織物を構成するポリエステル系繊維の極限粘度が0.65〜1.30である。
(iii)マーチンデール摩耗試験による重量減少率が3万回で5%以下である。
(2)織物を構成するポリエステル系繊維の結晶化度が65%〜80%、かつ配向度が0.70〜0.88であることを特徴とする(1)に記載の耐摩耗性に優れた織物。
(3)織物を構成するポリエステル系繊維の単糸繊度が1〜4dtexである(1)または(2)に記載の耐摩耗性に優れた織物。
(4)織物の組織がリップストップタフタであることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の耐摩耗性に優れた織物。
【発明の効果】
【0009】
本発明の耐摩耗性に優れる織物を使用すれば、衣料、特にウインドブレーカー、ダウンジャケットなどの外衣着用時に生じる脇部や太腿部の擦れに起因する毛羽立ちや破れが起こりにくく、なかでもスポーツウエア、アウトドアウエア着用時に生じる、衣料同士や、他の物体との激しい接触摩擦に強く、風合に優れた衣料となる。また、これらの耐磨耗性を要求される衣料の軽量薄地化を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の耐摩耗性に優れる織物は主としてポリエステル系繊維からなる織物である。本発明に用いられるポリエステル系繊維は主としてエステル構造からなる繊維であり、例えば、95モル%以上がエチレンテレフタレートを主たる繰り返し単位として、5モル%以下がその他のエステルの繰り返し単位からなる共重合成分である繊維が挙げられる。
共重合成分の代表例は、以下のものが挙げられる。酸性分としては、イソフタル酸や5−ナトリウムスルホイソフタル酸に代表される芳香族ジカルボン酸、アジピン酸やイタコン酸に代表される脂肪族ジカルボン酸などである。グリコール成分としては、エチレングリコール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコールなどである。また、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸もその例である。これらの複数が共重合されていてもよい。
【0011】
さらに、本発明のポリエステル系繊維には本発明の効果を妨げない範囲で、酸化チタン等の艶消剤、熱安定剤、酸化防止剤、制電剤、紫外線吸収剤、抗菌剤、種々の顔料などの添加剤を含有、又は共重合として含んでいても良い。
本発明の織物を構成するポリエステル系繊維の極限粘度は0.65〜1.30であることを特徴としている。好ましくは0.70〜1.20である。本発明でいう極限粘度はオルソクロロフェノール(以下OCPと略記する)に試料ポリマーを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて複数点の相対粘度ηrを求め、それを無限希釈度に外挿して求める。極限粘度が0.65未満であると、分子量が低く、十分な耐摩耗性が得られない。また極限粘度が1.30を越えると、耐摩耗性は良好となるものの、風合いが硬く、衣料用織物としては好ましくない。
【0012】
本発明の織物を構成するポリエステル系繊維の総繊度は、8dtex〜100dtexである。好ましくは10dtex〜84dtexである。8dtex未満であると繊度が細すぎるため、織編工程での繊維の取り扱いが困難になりやすい。100dtexを越えると、衣料用薄地織物の厚みが厚くなり、風合いが良好でない。
本発明では、このような細い繊度のポリエステル系繊維からなる織物であっても優れた耐摩耗性を有することを特徴としており、特に10〜34dtexの細番手ポリエステル系繊維からなる織物においても、優れた耐摩耗性を有する。その結果、これらの糸を用いた、軽量、薄地の織物、例えば目付け50g/m以下の織物においても優れた耐摩耗性を有することができる。
【0013】
本発明の織物を構成するポリエステル系繊維の単糸繊度は1dtex〜4dtexが好ましい。さらに好ましくは1.5dtex〜3.5dtexである。単糸繊度が1dtex未満の場合は、耐摩耗性が低下する傾向にある。単糸繊度が4dtexを越えると耐摩耗性は良好となるものの、繊維が硬くなるため、織物の風合いが良好でなくなる場合がある。
本発明の織物を構成するポリエステル系繊維の破断強度は、4cN/dtex以上が好ましい。破断強度が4cN/dtex未満では摩耗における強度も不足し、織物にした際の耐摩耗性が低下する。
【0014】
本発明の織物を構成するポリエステル繊維の破断伸度は20%以上50%以下の範囲が適当である。好ましくは25%以上45%以下の範囲である。破断伸度が20%未満では摩擦時の力が吸収されにくく織物にした際の耐摩耗性が低下する。破断伸度が50%を越えると破断強度が4cN/dtex未満となってしまい、耐摩耗性が低下する。
本発明の織物を構成するポリエステル繊維の単糸断面形状は、丸、Y、W字状の異型断面や中空断面など、特に限定されない。また、本発明の織物を構成するポリエステル繊維は無撚のままでもよく、または収束性を高める目的で、交絡もしくは撚りを付与しても良い。
【0015】
本発明の織物は主としてポリエステル系繊維からなる。ポリエステル系繊維のみからなるものでもよく、または他の繊維と複合して使用しても良い。複合する他の繊維としては、例えば他のポリエステル繊維やナイロン、アクリル、キュプラ、レーヨン、ポリウレタン弾性繊維などが好適に使用できるが、これらに限られるものではない。またポリエステル系繊維を経糸のみ、緯糸のみ、または経緯の両方のいずれにも使用することができる。織物を構成する繊維の60〜100%がポリエステル系繊維であることが好ましく、特に好ましくは80〜100%、最も好ましくは100%ポリエステル系繊維である。
【0016】
本発明の織物を構成するポリエステル系繊維は結晶化度が65%〜80%、かつ配向度が0.7〜0.88であることが好ましい。このようなポリエステル系繊維で構成された織物は優れた耐摩耗性を有する。本発明でいう結晶化度とは織物の経糸および緯糸を構成するポリエステル系繊維を抜き出し、それぞれ広角X線測定を行い、5°≦2θ≦40°の散乱強度グラフにおいて、2θ=5°と40°でベースラインを引き、非晶部のピーク値としてθ=19.5°の強度をAとし、結晶部のピーク値としてθ=25.5の強度をBとした時に、下記(1)式で算出し、経、緯平均した値(%)をいう。
B/(A+B)×100 (1)
【0017】
また、本発明でいう配向度とは織物の経糸および緯糸を構成するポリエステル系繊維を抜き出し、それぞれ透過型広角X線解析を行い、ポリエステルの(100)面由来の回折強度の方位角依存性I(φ)に対して、ピーク強度とバックグラウンドレベルを求め、I(φ)の強度が(ピーク強度―バックグラウンド)/2+バックグラウンドとなる位置におけるピーク幅(ピークの半価全幅)を求め、下記式(2)により計算し、経、緯平均する。なおI(φ)を求める際には24<2θ<28°において回折強度の積算を行い、空セル補正等必要な補正を施すことが必要である。式(2)より明らかなように、結晶が完全配向している場合にはf=1となり、無配向の場合にはf=0となる。
f=1−△/360 (2)
△:I(φ)に見られるピークの半価全幅(FWHM)の合計(deg)
【0018】
結晶化度が65%未満の場合には結晶化が十分進んでおらず、摩耗強度が低くなる。また、80%を超える場合には風合いが硬くなり好ましくない。結晶化度は68〜75%が特に好ましい。
配向度は0.7〜0.88であることが好ましく、特に好ましくは0.75〜0.85である。配向度が0.7以上であれば優れた耐摩耗性を発現できるが、配向度が0.88を超えると配向が強いため、繊維軸方向には強く、繊維の強度アップには有効であるが繊維軸以外の方向は逆に弱くなり、本発明でいう耐摩耗性に対しては好ましくない。本発明における耐摩耗性とは、衣類着用時などに起こる、あらゆる方向からの摩擦への耐性に優れることであるから、あらゆる方向での耐摩耗性が求められる。弱い方向があればそこから摩耗が始まってしまい好ましくない。また、0.88を超えると風合いが硬くなり好ましくない。
【0019】
このようにポリエステル系繊維の結晶化度を高め、配向を抑えるには、例えばポリエステル系繊維を紡糸した後、弛緩熱処理を行う方法が挙げられる。熱処理温度は、120℃〜220℃の温度範囲が好ましく、特に150℃〜200℃が好ましい。温度が120℃未満であると、ポリエステル自体の熱処理効果が低く、そのため、弛緩処理を組み合わせても、繊維中のポリエステル分子の配向緩和効果が十分でなく、良好な耐摩耗性が得られない。220℃を越えると、ポリエステルの融点に近くなるため紡糸性が良好でない。
弛緩熱処理の際のリラックス率は、5%〜15%で行うのが好ましく、特に好ましくは7%〜12%である。リラックス率が5%未満であると、繊維中のポリエステル分子の配向緩和効果が十分でなく、良好な耐摩耗性が得られない。リラックス率が15%を越えると、弛緩熱処理の際の工程張力が低下し、紡糸性が良好でない。
【0020】
ポリエステル系繊維の結晶化度を高め、配向を抑えるもう一つの方法として、ポリエステル系繊維含有織物を染色加工工程で熱弛緩処理する方法が挙げられる。織物の加工工程は通常、精錬のあと中間セットが行われ、その後、染色工程を経て、ファイナルセットが行われる。そのセット時、特に中間セット時に170℃〜210℃の比較的高温で幅入れや追い込み処理により弛緩させることが特に有効である。幅入れとは織物幅方向の寸法を縮める処理、追い込みとは織物経方向の寸法を縮める処理である。幅入れ、追い込みによる寸法低下率は処理前の寸法に対して2〜15%であることが好ましく、より好ましくは3〜10%である。熱処理温度は30秒〜120秒が望ましい。また、ファイナルセット時にもできるだけ、緊張させず、しわを伸ばす程度に設定することが望ましい。
【0021】
これらの糸または生地での熱弛緩処理により、ポリエステル系繊維の結晶化度を上げながら、配向を下げることが可能となり、耐摩耗性に非常に優れた織物を得ることができる。
本発明の織物の織組織としては、平織組織、綾織組織、朱子織組織をはじめ、それらから誘導された各種の変化組織を適用することができるが、タフタ組織、特にリップストップタフタ組織はリップ部による摩耗耐久効果によって耐摩耗性が特に優れるため好ましい。
【0022】
本発明の織物はマーチンデール摩耗試験による重量減少率が3万回で5%以下であることを特徴としている。好ましくは重量減少率が3万回で3%以下、さらに好ましくは重量減少率が3万回で1%以下である。衣料用織物の実着用における摩耗状況を調べるとマーチンデール法による摩耗評価時の損傷状態に非常に近似しており、着用時の耐摩耗性を高めるにはマーチンデール摩耗での強度を高めることが有効である。
本発明の織物は常法によって精錬、染色、仕上げ加工を行うことができ、仕上剤の種類においては、使用される用途によって適宜選択される。さらにカレンダー加工をすることは結晶化度を高める効果もあり、非常に好ましい。
【0023】
本発明の織物は風合および耐摩耗性に優れており、様々な衣料用分野に適用することができる。特に着用時に衣料同士が擦れることが多い、ウインドブレーカー、ダウンジャケット、スポーツウエア、アウトドアウエア等の外衣に好適である。なかでも過酷な環境下で着用され、他者と接触摩擦することが多い、スポーツウエアやアウトドアウエアに好適である。また本発明の織物は、薄地軽量でありながら耐摩耗性に優れる特徴を有しているため、薄地軽量化された上記衣料に特に好適に使用できる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例をもって本発明を更に詳細に説明するが、言うまでもなく本発明は実施例により限定されるものではない。
なお、実施例において行った物性の測定方法及び測定条件を説明する。
(1)極限粘度
オルソクロロフェノール(以下OCPと略記する)に試料ポリマーを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて複数点の相対粘度ηrを求め、それを無限希釈度に外挿して求めた。
(2)耐摩耗性
マーチンデール摩耗試験機を用いて、JIS−L−1096に基づいて耐摩耗性を評価した。摩耗の相手布は毛芯を用いた。摩擦回数を30000回として、摩擦後の重量減少率を求めた。
(3)風合い
熟練した検査人10人のうち、8人以上が良好と判断した場合を「○」、それ以外を「×」として評価した。10人全員が、特に柔らかく優れた風合いであると判断したものに関しては「◎」で評価した。
【0025】
[実施例1]
極限粘度が0.79で34デシテックス12フィラメントのポリエステルフィラメントを経糸および緯糸に用いた、経緯2mmのリップストップ組織の織物を、ウォータージェットルーム織機にて製織した。得られた織物を、精練のあと、190℃で60秒間、幅を3%入れ、5%追い込んでプレセットした後、液流染色機にて染色、乾燥した後、170℃で20秒間、しわを伸ばす程度に伸ばしてファイナルセットを行い、さらに160℃でカレンダー加工をおこなった。
得られた織物の特性は表1に示す通り、耐摩耗性に優れており、風合いも良好であった。
【0026】
[実施例2]
経糸、緯糸に極限粘度が1.20で11デシテックス10フィラメントのW型断面のポリエステルフィラメントを用いた他は、実施例1と同様の方法で製織、加工を行った。
得られた織物の特性は表1に示す通り、耐摩耗性に優れており、風合いも良好であった。
【0027】
[実施例3]
経糸に極限粘度が0.83で56デシテックス24フィラメントのポリエステルフィラメントを用い、緯糸に極限粘度が0.68で84デシテックス24フィラメントのポリエステルフィラメントを用い織組織をタフタとした以外は実施例1と同様の方法で製織、加工を行った。
得られた織物の特性は表1に示す通り、耐摩耗性に優れており、風合いも良好であった。
【0028】
[実施例4]
極限粘度が0.85で丸断面の34デシテックス12フィラメントのポリエステルフィラメントを紡糸し、一旦巻き取った後、加熱延伸機を用い、ホットプレート温度160℃でリラックス率10%となるように熱弛緩処理を行った。この糸を経糸、緯糸に用いた他は、実施例1と同様の方法で製織した。得られた織物を、精練のあと、巾入れ、追い込みを行わずにプレセットした後、液流染色機にて染色、乾燥した後、170℃で20秒間、通常のファイナルセットを行い、さらに160℃でカレンダー加工をおこなった。
得られた織物の特性は表1に示す通り、耐摩耗性に優れており、風合いも良好であった。
【0029】
[比較例1]
極限粘度0.62のポリエステル系繊維を用いた以外は実施例1と同様の織物を製織し、加工を行った。
得られた織物の特性は表1に示す通り、耐摩耗性が劣っていた。
【0030】
[比較例2]
極限粘度0.71で、7デシテックス5フィラメントのポリエステルフィラメントを用いた他は実施例1と同様の織物を製織し、加工を行った。得られた織物の特性は表1に示す通り、耐摩耗性が劣っていた。
【0031】
[比較例3]
糸の熱弛緩処理の代わりに180℃で20%の延伸処理を行った他は実施例4と同様の織物を製織し、加工を行った。
得られた織物の特性は表1に示す通り、耐摩耗性に劣り、風合いが非常に硬かった。
【0032】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の耐摩耗性に優れる織物を使用すれば、衣料、特にウインドブレーカー、ダウンジャケットなどの外衣着用時に生じる脇部や太腿部の擦れに起因する毛羽立ちや破れが起こりにくく、なかでも、スポーツウエア、アウトドアウエア着用時に生じる、衣料同士や、他の物体との激しい接触摩擦に対しても毛羽立ちや破れが起こりにくく、風合に優れた製品となる。また、本発明の織物は低目付で耐磨耗性を発現できるため、これらの衣料の軽量薄地化に寄与することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてポリエステル系繊維からなる織物であって、下記(1)〜(3)を同時に満足することを特徴とする耐摩耗性に優れた織物。
(1)織物を構成するポリエステル系繊維の総繊度が8〜100dtexである。
(2)織物を構成するポリエステル系繊維の極限粘度が0.65〜1.30である。
(3)マーチンデール摩耗試験による重量減少率が3万回で5%以下である。
【請求項2】
織物を構成するポリエステル系繊維の結晶化度が65%〜80%、かつ配向度が0.70〜0.88であることを特徴とする請求項1に記載の耐摩耗性に優れた織物。
【請求項3】
織物を構成するポリエステル系繊維の単糸繊度が1〜4dtexである請求項1または2に記載の耐摩耗性に優れた織物。
【請求項4】
織物の組織がリップストップタフタであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐摩耗性に優れた織物。

【公開番号】特開2010−168675(P2010−168675A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10577(P2009−10577)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】