説明

耐擦傷性に優れた高硬度被膜形成用塗料組成物

【課題】 顕微鏡ステージなどに対して実用的に十分な耐擦傷性を付与することができる高硬度被膜の形成に用いる塗料組成物を提供する。
【解決手段】 重量平均分子量Mwが20,000〜50,000の範囲であるポリアミドイミド樹脂と、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対し10〜50重量のエポキシ樹脂と、硬質顔料とを含む塗料組成物である。エポキシ樹脂としては、エポキシ基を3個以上有するイソシアヌレートタイプ、メタキシレンジアミンタイプ、ノボラックタイプが好ましい。また、硬質顔料の粒径は10μm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡ステージなどの外観塗装に好適な耐擦傷性に優れた高硬度被膜形成用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、各種外観塗装には、製品外観保護のため耐擦傷性を求められることが多い。例えば、顕微鏡での被測定物観察の際には、スライドガラスに置いた測定物を顕微鏡ステージに固定する。ガラスは硬度が高く、スライドガラスのエッジにてステージ表面を傷つけることが多いため、顕微鏡ステージ表面には耐擦傷性が求められる。
【0003】
顕微鏡ステージの耐擦傷性を向上させるための方法としては、特開平5−157976号公報(特許文献1)及び特開平5−157975号公報(特許文献2)に、アルミナ等のセラミック塗料の溶射被膜層と、その上塗りとしてフッ素樹脂系コーティング剤の仕上げ膜層とからなる2層構造の被膜を形成することが記載されている。
【0004】
しかし、この溶射被膜層と仕上げ膜層とからなる2層構造被膜による保護方法は、顕微鏡ステージの耐摩耗性を向上させるものの、上塗りのフッ素系樹脂コーティング剤による仕上げ膜層は硬度が低いため、スライドガラスによる傷が発生しやすく、外観が損なわれるという問題があった。また、セラミック溶射とフッ素樹脂コーティングの2層構造を形成する必要があるため、工程が面倒で手間がかかるなどの問題もあった。
【0005】
一方、耐擦傷性の向上を目的として、シリコーン系化合物を用いた塗料用の耐擦傷性向上剤が市販されている。しかしながら、この耐擦傷性向上剤は、塗料に添加混合して使用するものであり、スライドガラスのように硬質且つエッジ部分が鋭角なものに対しては、耐擦傷性を確保するには不十分であった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−157976号公報
【特許文献2】特開平5−157975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した事情から、塗料のみにより顕微鏡ステージなどに耐擦傷性を付与する方法が望まれている。耐擦傷性を得るためには樹脂被膜自体の高硬度化が必要であり、そのため一般に樹脂被膜形成用塗料の構成成分である結合樹脂(バインダー)に対し硬質顔料の比率を上げることが検討されている。しかしながら、硬質顔料の比率を上げすぎると塗膜形成後の被膜が脆化し、結果的に耐擦傷性が低下してしまうという問題がある。
【0008】
本発明は、このような従来の事情に鑑み、顕微鏡ステージなどの部材に対して実用的に十分な耐擦傷性を付与することができる高硬度被膜の形成に用いる塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者は、耐擦傷性に優れる高硬度被膜形成用の塗料組成物について鋭意検討した結果、樹脂成分としてポリアミドイミド樹脂とエポキシ樹脂とを採用し、更に硬質顔料を加えることによって、樹脂被膜のみで十分な硬度を有する被膜が形成できるという知見を得て、本発明を完成するに至ったものである。
【0010】
即ち、本発明の高硬度被膜形成用塗料組成物は、重量平均分子量Mwが20,000〜50,000の範囲であるポリアミドイミド樹脂と、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対し10〜50重量部のエポキシ樹脂と、硬質顔料とを含むことを特徴とする。
【0011】
上記本発明の高硬度被膜形成用塗料組成物において、前記エポキシ樹脂は、エポキシ基を3個以上有するイソシアヌレートタイプ、メタキシレンジアミンタイプ、ノボラックタイプから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0012】
また、上記本発明の高硬度被膜形成用塗料組成物において、前記硬質顔料の配合量は前記ポリアミドイミド樹脂100重量部に対し10〜200重量部であることが好ましい。更に、前記硬質顔料の粒径は、10μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉛筆硬度で8H以上の高硬度被膜を形成し得る塗料組成物を提供することができる。従って、本発明の高硬度被膜形成用塗料組成物は、各種外観塗装に好適に使用することができ、特に顕微鏡ステージなどの表面に高硬度被膜を形成して耐擦傷性を大幅に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の高硬度被膜形成用塗料組成物では、結合樹脂として特定の重量平均分子量Mwを有するポリアミドイミド樹脂にエポキシ樹脂を組み合わせ、これに硬質顔料を配合している。この塗料組成物を目的ないし用途に応じて適宜有機溶剤で希釈することにより塗料とし、その塗料を塗布した塗膜を加熱硬化させることによって、耐擦傷性に優れた高硬度の被膜を形成することができる。
【0015】
まず、ポリアミドイミド樹脂とエポキシ樹脂との組み合わせについて、その被膜の硬度を調査した結果を説明する。具体的には、重量平均分子量Mwが48,000(高分子量)、26,000(中分子量)及び8,400(低分子量)の3種のポリアミドイミド樹脂(東洋紡(株)製)に、エポキシ樹脂(JER(株)製、JER1001)を添加し、有機溶剤(住鉱潤滑剤(株)製、スミシンナーPST)で希釈した。得られた各塗料をスプレー塗布し、乾燥した後、大気中にて200〜250℃で約45分加熱焼成して被膜を形成した。
【0016】
得られた各被膜の硬度について、JIS K 5600−5−4に規定された鉛筆引っかき法により測定した結果を下記表1に示す。この結果から、重量平均分子量Mwが48,000(高分子量)及び26,000(中分子量)のポリアミドイミド樹脂と、このポリアミドイミド樹脂に対しエポキシ樹脂を10重量%以上添加配合した被膜では、鉛筆引っかき値8H以上が得られたことが分る。しかし、重量平均分子量Mwが20,000未満のポリアミドイミド樹脂の場合、あるいはエポキシ樹脂の配合量が10重量%未満の場合には、高硬度の被膜は得られない。
【0017】
【表1】

【0018】
上記した検討結果などから、本発明で使用するポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量Mwは20,000〜50,000の範囲が必要であることが分った。ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量Mwが50,000を超えると、塗料の粘度が増加したり、有効成分量が低下したりするため、塗料のコーティングが困難となる。また、重量平均分子量Mwが20,000未満では、十分に高い硬度の被膜が得られない。
【0019】
ポリアミドイミド樹脂の重量平均分子量Mwは、以下の方法により求める。即ち、ワニス状のポリアミドイミド樹脂にアセトンを添加して沈殿を生成させ、濾過回収した濾過物を乾燥させる。乾燥した濾過物を0.01g量り取り、臭化リチウム濃度0.03MのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)液10gに溶解する。このようにして得られた溶液をゲル浸透クロマトグラフ法(GPC法)で測定し、示差屈折率計で検出する。尚、本発明においては、分離カラムとして、Shodex製のKD−G+KD−804+KD−803+KD−802を使用した。また、GPC法での測定条件は、流速:1ml/分、試料注入量:100μl、カラム温度:50℃とした。
【0020】
エポキシ樹脂は、上記ポリアミドイミド樹脂に配合することで塗膜の硬化を促進し、高硬度の被膜の形成に寄与する。エポキシ樹脂の配合量としては、ポリアミド樹脂100重量部に対し10〜50重量部の範囲とする。エポキシ樹脂の配合量が10重量%未満では被膜の硬度が不足し、50重量部を超えると被膜が脆化するからである。
【0021】
また、本発明で使用するエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型、イソシアヌレートタイプ、メタキシレンジアミンタイプ、ノボラック型などを挙げることができる。その中でも、分子内にエポキシ基を3個以上有するエポキシ樹脂、具体的にはイソシアヌレートタイプ、メタキシレンジアミンタイプ、ノボラック型のエポキシ樹脂が好ましい。
【0022】
硬質顔料は、被膜の外観を良くするために添加するが、被膜の硬度を上げることにも寄与する。硬質顔料の配合量としては、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対し10〜200重量部の範囲が好ましい。硬質顔料の配合量がポリアミドイミド樹脂100重量部に対し10重量部未満では、隠蔽力が低下するため好ましくない。また、硬質顔料の配合量がポリアミドイミド樹脂100重量部に対し200重量部を超えると、被膜が脆化するため好ましくない。
【0023】
本発明で使用する硬質顔料としては、特に限定されるものではないが、酸化鉄、窒化ホウ素、窒化珪素、シリカ、アルミナ、ホウ酸アルミ、焼成クレー、ホウ化チタンなどを挙げることができる。また、硬質顔料の粒径は、10μm以下が好ましく、5μm以下が更に好ましい。粒径が細かい方が樹脂への分散が良く、外観のばらつきが少なくなるため好ましい。
【0024】
本発明の高硬度被膜形成用塗料組成物は、上記したポリアミドイミド樹脂にエポキシ樹脂を所定量配合し、更に硬質顔料を加えて混合する。例えばビーズミルなどの分散機を用いて分散させることにより得られる。得られた塗料組成物は、有機溶剤で希釈し、スプレー塗布に適した粘度に調節して塗料とする。尚、塗料希釈用の有機溶剤としては、シンナーなど汎用の有機溶剤が使用できる。
【0025】
このようにして得られた塗料を、保護対象物にスプレー塗布することで塗膜を得る。塗膜の膜厚は、要求される耐擦傷性により調整できるが、10〜100μm程度とする。塗膜の塗装性を良くするために、保護対象物を90〜120℃で数十分間予備加熱しておくと良い。スプレー塗布後、90〜120℃で数十分間乾燥し、その後200〜250℃で30分〜1時間ほど大気中にて加熱焼成することによって、所望の被膜を得ることができる。
【0026】
本発明の塗料組成物を使用して得られた被膜は、鉛筆硬度で8H以上の高い硬度を有し、耐擦傷性が極めて良好である。尚、本発明における被膜硬度は、JIS K 5600−5−4に規定された鉛筆引っかき法により測定した鉛筆硬度であり、判定方法は被膜の破れをもって判定した。
【実施例】
【0027】
[実施例1]
ポリアミドイミド樹脂(東洋紡績(株)製、Mw26,000)に、エポキシ樹脂(JER(株)製、メタキシレンジアミンタイプ)と、硬質顔料である粒径10μm以下の酸化鉄(Bayer(株)製)を添加した。その際、下記表2の試料1〜5に示すように、ポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂と略記)とエポキシ樹脂(EP樹脂と略記)と酸化鉄の配合量をそれぞれ変化させた。
【0028】
次に、上記試料1〜5の各組成物に、それぞれ全体で100重量%となるように有機溶剤(住鉱潤滑剤(株)製、スミシンナーPST)を加え、ビーズミルで分散した後、同じ有機溶剤で希釈して、基材表面にスプレー塗布した。得られた各塗膜を90℃で乾燥し、更に大気中にて230℃で30分(試料5のみ31分)加熱焼成することによって、試料1〜5の被膜を形成した。
【0029】
得られた試料1〜5の各被膜について、鉛筆引っかき法により硬度を測定したところ、試料1が8Hであり、試料2〜5は全て9Hであった。得られた結果を下記表2に示した。
【0030】
[実施例2]
ポリアミドイミド樹脂(東洋紡績(株)製、Mw26,000)に、エポキシ樹脂(JER(株)製、メタキシレンジアミンタイプ)と、硬質顔料として粒径10μm以下の酸化鉄(Bayer(株)製)及びシリカ(水澤化学(株)製)又は焼成クレーを添加した。その際、ポリアミドイミド樹脂、エポキシ樹脂、酸化鉄とシリカ又は焼成クレーの配合量を下記表2の試料6〜7に示すように変化させた。
【0031】
次に、上記試料6〜7の各組成物に、それぞれ全体で100重量%となるように有機溶剤(住鉱潤滑剤(株)製、スミシンナーPST)を加え、ビーズミルで分散した後、同じ有機溶剤で希釈して、基材表面にスプレー塗布した。得られた各塗膜を90℃で乾燥し、更に大気中にて230℃で30分間加熱焼成することによって、試料6〜7の被膜を形成した。
【0032】
得られた試料6〜7の各被膜について、鉛筆引っかき法により硬度を測定したところ、いずれも9Hであった。得られた結果を下記表2に併せて示した。
【0033】
【表2】

【0034】
[比較例1]
ノボラック型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、JER154)10重量%に、硬化剤としてジシアンジアミド(ジャパンエポキシレジン(株)製、DICY7)を1.2重量%添加し、硬質顔料である酸化鉄(Bayer(株)製)を11.2重量%添加した。
【0035】
次に、上記比較例の試料8の組成物に、全体で100重量%となるように有機溶剤(住鉱潤滑剤(株)製、スミシンナーPST)を加え、ビーズミルで分散した後、同じ有機溶剤で希釈して、基材表面にスプレー塗布した。得られた塗膜を90℃で乾燥し、更に大気中にて230℃で30分間加熱焼成することによって、試料8の被膜を形成した。
【0036】
得られた比較例の試料8の被膜について、鉛筆引っかき法により硬度を測定したところ5Hであった。得られた結果を下記表3に示した。
【0037】
[比較例2]
チラノポリマー(宇部化学(株)製)10重量%に、硬質顔料である酸化鉄(Bayer(株)製)10重量%を混合した。この比較例の試料9の組成物に、全体で100重量%となるように有機溶剤(住鉱潤滑剤(株)製、スミシンナーPST)を加え、ビーズミルで分散した後、同じ有機溶剤で希釈して、基材表面にスプレー塗布した。
【0038】
得られた塗膜を90℃で乾燥し、更に大気中にて230℃で30分間加熱焼成することによって、試料9の被膜を形成した。得られた被膜に割れが発生したため、鉛筆引っかき法による硬度は測定できなかった。この結果も下記表3に併せて示した。
【0039】
[比較例3]
シリコーン樹脂(信越シリコーン(株)製、KR400)10重量%に、硬質顔料である酸化鉄(Bayer(株)製)を10重量%混合した。この比較例の試料10の組成物に、全体で100重量%となるように有機溶剤(住鉱潤滑剤(株)製、スミシンナーPST)を加え、ビーズミルで分散した後、同じ有機溶剤で希釈して、基材表面にスプレー塗布した。
【0040】
得られた塗膜を90℃で乾燥し、更に大気中にて230℃で30分間加熱焼成することによって、試料10の被膜を形成した。得られた比較例の試料10の被膜について、鉛筆引っかき法により硬度を測定したところ4Hであった。得られた結果を下記表3に併せて示した。
【0041】
【表3】

【0042】
上記表2〜3に示す結果から分るように、本発明の実施例である試料1〜7では、被膜の鉛筆硬度は8H以上の高硬度を示し、極めて優れた耐擦傷性を有していることが分る。一方、比較例である試料8〜10では、被膜の鉛筆硬度は5Hないし4Hに過ぎず、耐擦傷性をえるには硬度が著しく不足していた。また、比較例の試料9では、被膜に割れが発生して良好な被膜が形成できず、従って被膜硬度の測定は不可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量Mwが20,000〜50,000の範囲であるポリアミドイミド樹脂と、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対し10〜50重量部のエポキシ樹脂と、硬質顔料とを含むことを特徴とする高硬度被膜形成用塗料組成物。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂は、エポキシ基を3個以上有するイソシアヌレートタイプ、メタキシレンジアミンタイプ、ノボラックタイプから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1に記載の高硬度被膜形成用塗料組成物。
【請求項3】
前記硬質顔料の配合量が、ポリアミドイミド樹脂100重量部に対し10〜200重量部であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の高硬度被膜形成用塗料組成物。
【請求項4】
前記硬質顔料の粒径が10μm以下であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の高硬度被膜形成用塗料組成物。
【請求項5】
前記硬質顔料は、酸化鉄、窒化ホウ素、窒化珪素、シリカ、アルミナ、ホウ酸アルミ、焼成クレー、ホウ化チタンから選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の高硬度被膜形成用塗料組成物。

【公開番号】特開2010−70716(P2010−70716A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242425(P2008−242425)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(591213173)住鉱潤滑剤株式会社 (42)
【Fターム(参考)】