説明

耐水性を有するが容易に水溶性を回復し、下水等へ廃棄可能な水溶紙又は水溶性不織布及びそれらの製造方法

【課題】
本発明は、使用時には耐水性を有するが、廃棄時には容易に耐水性を失い、水溶性を回復し、下水等に廃棄可能な素材及びその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】
水溶紙又は水溶性不織布の繊維1に、界面活性剤で処理することにより容易に剥離可能なワックスコーティング2を施すことにより得られるものであり、製造方法に、水溶紙及び水溶性不織布が水には可溶であるが、アルコール等には不溶であるという特性を利用していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙の加工及び紙製品の製造に関するものである。更に詳しくは、耐水性を有するが、界面活性剤で処理する等の方法により容易に耐水性を失い、繊維が水中に分散する水溶性を回復し、下水等へ廃棄可能な水溶紙又は水溶性不織布及びそれらの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばトイレットペーパーのように、水に触れると、紙を構成する絡み合った繊維が速やかに分離し、水中に分散する水溶性を有する紙(以下、「広義の水溶紙」と表記)が、従来から広い分野で利用されている。
【0003】
また、耐水性を有する紙(以下、「耐水紙」と表記)としては、グラシン紙やパラフィン紙と呼ばれるものなど、様々な種類の物や加工方法がある。
【0004】
しかし、広義の水溶紙は、水に触れると繊維が速やかに分離・分散する水溶性が要求されることから、水気を帯びた物などを包むのに適しておらず、また他方、耐水紙は、その性質上、下水管等を閉塞する原因になるほか、強い耐水性が求められることから、表面加工を剥離したとしても、水中で速やかに繊維が分離・分散する訳ではない。
【0005】
そのため、具体例を挙げると、要介護者の排泄物や吐物あるいはペットの排泄物など、ある程度の保管と運搬を必要とするが、廃棄に際しては速やかに下水等に投棄することが望ましい水気を帯びた対象について、その容器の素材として、広義の水溶紙と耐水紙のいずれも適していなかった。
【0006】
上記具体例については、広義の水溶紙の外側にポリ袋を配し、あるいは、広義の水溶紙の片面に耐水層を設けるなどの解決策が示されている。しかし、前者の場合、上記のような対象物が広義の水溶紙を破り、外側のポリ袋を汚損するおそれがあり、後者については、耐水層が水中で膜状に残り、下水を閉塞するおそれがあるなど、それらの解決策は課題として残っている。
【0007】
なお、本願発明に関連する公知技術として次の特許文献1を挙げることが出来る。
【特許文献1】特開2007−37881号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の如く、従来技術に係る広義の水溶紙は、その特徴が廃棄に際しては有効であるが、使用時に水に触れると、紙本来の機能を失ってしまうという問題があった。
【0009】
他方、従来技術に係る耐水紙は、その特徴が使用時には有効であるが、廃棄後、容易に分解せず、焼却処分する必要がある等の問題があった。
【0010】
本発明は、使用時には耐水性を有するが、廃棄時には容易に耐水性を失い、水溶性を回復し、下水等に廃棄可能な素材及びその製造方法を提供することにより、これらの問題を解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成する本発明の紙は、水溶紙又は水溶性不織布に、ワックスを含浸させ乾燥するという加工により得られるものであり、耐水性を有するが、界面活性剤で処理する等の方法により容易に水溶性を回復し、下水等へ廃棄可能という特徴を有する。
【0012】
また、上記耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布をA層、水溶紙又は水溶性不織布に界面活性剤を含浸させ乾燥する等の加工により得られたものをB層とし、A層とB層による多層構造を構成したもの、あるいは、同耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布をa層、水溶紙又は水溶性不織布をb層とし、a層とb層の間に界面活性剤の層を挟み込んだ多層構造を構成したものについては、廃棄前の界面活性剤による処理を省略し、下水等へ廃棄可能という特徴を有する。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように本発明によれば、水溶紙又は水溶性不織布の繊維に、ワックスコーティングが施され、ワックスコーティングが繊維の絡み合い等を水から保護する皮膜となるほか、繊維の絡み合いを補強することとなるため 、水溶紙又は水溶性不織布に耐水性が得られ、水気を帯びた物などを包む素材等に利用可能である。
【0014】
また、本発明によれば、界面活性剤の溶液に浸す等の方法により、耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布の繊維からワックスのコーティングが剥離し、容易に耐水性を失い、水溶性を回復するので、例えば、水洗トイレ用芳香洗浄剤を使用しているトイレ等に、本発明を用いた製品を廃棄することが可能である。
【0015】
なお、界面活性剤を含浸した水溶紙又は水溶性不織布の層を兼ね備えた発明の形態、あるいは界面活性剤の層を水溶紙又は水溶性不織布で挟み込んだ発明の形態については、水中に投棄すると速やかに界面活性剤の溶液が得られ、耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布の繊維からワックスのコーティングが剥離されることから、廃棄がさらに容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明全ての実施形態に係る、耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布の模式図である。
【0018】
まず、カルボキシメチルセルロースを酸とアルカリでの処理を繰り返すことにより得られる紙(以下、「水溶紙」と表記)、あるいは、パルプや合成繊維などを、カルボキシメチルセルロース等の水溶性を有するがアルコールには不溶である接着剤(バインダー)で結合させることにより得られる不織布(以下、「水溶性不織布」と表記)を製造する。
【0019】
上記水溶紙又は水溶性不織布は、水に触れると、紙を構成する絡み合った繊維1が速やかに分離し、水中に分散するが、アルコールや液体ワックス中には分散しないという特徴を有するので、例えばアルコールとワックスの混合物又は液体ワックスを噴霧や浸け置き等の方法により、同水溶紙又は水溶性不織布に含浸させる。
【0020】
その後の乾燥方法については、ドライヤーによる方法でよいが、引火の危険を避けるために、自然乾燥やフリーズドライ等の方法を用いてもよい。
【0021】
また、本発明により得られる紙の表面に平滑性を与え、あるいは強度を高めるために、加圧処理することを妨げない。
【0022】
以上の方法により得られた耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布は、洗剤等界面活性剤の溶液に浸すと、ワックスコーティング2が繊維1から剥離し、水中に分散するので、水溶性を容易に回復することが出来る。
【0023】
図2は、本発明の第2の実施形態に係る多層構造の模式図であり、その実施形態及び製造方法は以下のとおりである。
【0024】
まず、カルボキシメチルセルロースを酸とアルカリでの処理を繰り返すことにより得られる紙(以下、「水溶紙」と表記)、あるいは、パルプや合成繊維などを、カルボキシメチルセルロース等の水溶性を有するがアルコールには不溶である接着剤(バインダー)で結合させることにより得られる不織布(以下、「水溶性不織布」と表記)を製造する。
【0025】
上記水溶紙又は水溶性不織布は、水に触れると、紙を構成する絡み合った繊維1が速やかに分離し、水中に分散するが、アルコールや液体ワックス中には分散しないという特徴を有するので、例えばアルコールとワックスの混合物又は液体ワックスを噴霧や浸け置き等の方法により、同水溶紙又は水溶性不織布に含浸させる。
【0026】
また、他の水溶紙又は水溶性不織布には、例えばアルコールと洗剤の混合物又はアルコール系洗剤等の界面活性剤を噴霧や浸け置き等の方法により含浸させる。
【0027】
その後の乾燥方法については、ドライヤーによる方法でよいが、引火の危険を避けるために、自然乾燥やフリーズドライ等の方法を用いてもよい。
【0028】
そして、ワックスを含浸させ乾燥した水溶紙又は水溶性不織布をA層3、界面活性剤を含浸させ乾燥した水溶紙又は水溶性不織布をB層4とし、A層3とB層4を重ね合わせ、少なくとも2層以上からなる多層構造にする。
【0029】
A層3とB層4は重ね合わせるだけでもよいが、一体性を高めるため、A層3とB層4を重ね合わせた後、加圧処理やエンボス加工を施すことを妨げない。
【0030】
また、A層3とB層4を、カルボキシメチルセルロース等の接着剤(バインダー)を用いるなどの方法により、接着してもよい。
【0031】
以上の方法により得られた耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布は、例えば紙袋状に加工し、内側をA層3、外側をB層4とすることにより、対象物を入れて保管・運搬する際には耐水性を示し、水洗トイレ等に廃棄する際には、B層4の界面活性剤が水中に溶解し、A層3のワックスを繊維から剥離するので、水溶性を容易に回復することが出来る。
【0032】
図3は、本発明の第3の実施形態に係る多層構造の模式図であり、その実施形態及び製造方法は以下のとおりである。
【0033】
まず、カルボキシメチルセルロースを酸とアルカリでの処理を繰り返すことにより得られる紙(以下、「水溶紙」と表記)、あるいは、パルプや合成繊維などを、カルボキシメチルセルロース等の水溶性を有するがアルコールには不溶である接着剤(バインダー)で結合させることにより得られる不織布(以下、「水溶性不織布」と表記)を製造する。
【0034】
上記水溶紙又は水溶性不織布は、水に触れると、紙を構成する絡み合った繊維1が速やかに分離し、水中に分散するが、アルコールや液体ワックス中には分散しないという特徴を有するので、例えばアルコールとワックスの混合物又は液体ワックスを噴霧や浸け置き等の方法により、同水溶紙又は水溶性不織布に含浸させる。
【0035】
その後の乾燥方法については、ドライヤーによる方法でよいが、引火の危険を避けるために、自然乾燥やフリーズドライ等の方法を用いてもよい。
【0036】
そして、ワックスを含浸させ乾燥した水溶紙又は水溶性不織布をa層5、他の水溶紙又は水溶性不織布をb層6とし、a層5とb層6の間に、シート状の洗剤等界面活性剤の層7を挟み込み、少なくとも3層以上からなる多層構造にする。
【0037】
a層5とb層6の間に、界面活性剤の層7を挟み込む際には、一体性を高めるため、加圧処理やエンボス加工を施すことを妨げない。
【0038】
また、a層5と界面活性剤の層7とb層6を、カルボキシメチルセルロース等の接着剤(バインダー)を用いるなどの方法により、接着してもよい。
【0039】
以上の方法により得られた耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布は、例えば紙袋状に加工し、内側をa層5、外側をb層6とすることにより、対象物を入れて保管・運搬する際には耐水性を示し、水洗トイレ等に廃棄する際には、b層6が速やかに水中に分散するとともに、界面活性剤の層7が水中に溶解し、a層5のワックスを繊維から剥離するので、水溶性を容易に回復することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、水気を帯びた対象物を運搬・保管した後、下水等へ廃棄可能な素材を必要とする医療介護用品を製造販売する分野、ペット用品を製造販売する分野で利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明全ての実施形態に係る、耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布の模式図であ る。
【図2】本発明第2の実施形態に係る多層構造の模式図である。
【図3】本発明第3の実施形態に係る多層構造の模式図である。
【符号の説明】
【0042】
1 繊維
2 ワックスコーティング
3 A層(耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布)
4 B層(界面活性剤を含浸させ乾燥した水溶紙又は水溶性不織布)
5 a層(耐水性を有する水溶紙又は水溶性不織布)
6 b層(水溶紙又は水溶性不織布)
7 界面活性剤の層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶紙又は水溶性を有する不織布(以下、「水溶性不織布」と表記)を素材とし、同水溶紙又は水溶性不織布に、ワックスを含浸させ乾燥するという加工により得られる、耐水性を有するが、界面活性剤で処理することにより容易に水溶性を回復し、下水等へ廃棄可能という特徴を有する水溶紙又は水溶性不織布及びそれらの製造方法
【請求項2】
水溶紙又は水溶性を有する不織布(以下、「水溶性不織布」と表記)を素材とし、同水溶紙又は水溶性不織布に、ワックスを含浸させ乾燥する等の加工により得られたものをA層、水溶紙又は水溶性不織布に界面活性剤を含浸させ乾燥する等の加工により得られたものをB層とし、A層とB層による多層構造を特徴とする、耐水性を有するが、容易に水溶性を回復し、下水等へ廃棄可能な水溶紙又は水溶性不織布及びそれらの製造方法
【請求項3】
水溶紙又は水溶性を有する不織布(以下、「水溶性不織布」と表記)を素材とし、同水溶紙又は水溶性不織布に、ワックスを含浸させ乾燥する等の加工により得られたものをa層、水溶紙又は水溶性不織布をb層とし、a層とb層の間に界面活性剤の層を挟み込んだ多層構造を特徴とする、耐水性を有するが、容易に水溶性を回復し、下水等へ廃棄可能な水溶紙又は水溶性不織布及びそれらの製造方法

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−63719(P2008−63719A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【公開請求】
【出願番号】特願2007−324113(P2007−324113)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(504109388)
【Fターム(参考)】