説明

耐水素脆化感受性に優れた溶接金属

【課題】高強度であっても、耐水素脆化感受性に優れたものとし、低温割れの生じないようにした溶接金属、必要によって低温靭性にも優れた溶接金属を提供する。
【解決手段】フラックス入りワイヤを用い、ガスシールドアーク溶接によって形成される溶接金属であって、所定の化学成分組成を有し、残留オーステナイト粒子が2500個/mm2以上存在すると共に、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が4.0%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接構造物に使用される溶接金属において、水素脆化に対する感受性を低減した溶接金属に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高張力鋼を溶接する際には、溶接金属部の低温割れ防止の観点から、予熱/パス間温度を厳密に管理する必要があり、施工効率低下の原因となっている。近年、溶接構造物に使用される鋼材は、ますます高強度化しており、溶接金属においても高強度化への要求が高まっている(例えばHT780:ハイテン780MPa級)。
【0003】
このような高強度化は、耐低温割れ性を低下させる傾向があり、耐低温割れ性を改善することが必要となる。特に、フラックス入りワイヤを用いたガスシールドアーク溶接では、優れた溶接作業性を有するため、この溶接法によって形成される溶接金属において、耐低温割れ性を確保する技術が求められている。
【0004】
上記のような低温割れは、拡散性水素が粒界に偏析し、粒界強度が低下する(以下、これを「水素脆化」と呼ぶ)ことが原因であると推察されており、耐低温割れ性の改善に対しては、拡散性水素をいかに低減するかが重要なポイントとなる。
【0005】
こうしたことから、溶接金属の耐低温割れ性を向上させるためには、溶接金属における水素脆化に対する感受性を低くすることが必要となり、こうした観点から、様々な技術が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献1では、水素トラップ能力の高いMo炭化物(Moを含む炭化物)を溶接金属内に分散させることによって、低温割れの防止を図る技術が開示されている。しかしながらこの技術では、Mo炭化物を分散させるために、鋼材を突き合わせた後、内面側からサブマージアーク溶接するという特殊な溶接手法を採用する必要があり、鋼材の一般溶接には適用できない。
【0007】
また特許文献2には、溶接施工時の冷却時間を管理することで、低温割れを防止する技術が提案されている。この技術では、成分に応じた厳格な施工管理が必要となり、作業負荷が高いという問題がある。
【0008】
特許文献3には、拡散性水素をトラップする残留オーステナイト分率を溶接金属中で1%以上とすることで低温割れを防止する技術が提案されている。しかしながら、この技術は、鋼管における両面1パスシーム溶接を前提としており、鋼材の溶接一般に適用できない。
【0009】
特許文献4には、拡散性水素量を低減すると共に、強度と化学成分組成を適切に制御することによって、耐低温割れ性を改善する技術が提案されている。しかしながら、この技術においても、満足すべき強度レベルが成分の影響を受けるため、実際の施工に際しては適用箇所が限られる。
【0010】
上記のようなこれまで提案されている技術は、いずれも耐低温割れ性改善を目的としたものであるが、実際の溶接施工においては、種々の要因で溶接金属中の水素量が増加する可能性があるため、より本質的な方向として、耐水素脆化感受性を改善することが必要である。
【0011】
また、近年、海洋構造物に用いられる溶接金属においても、HT780級の適用が拡大している。これらの溶接金属では、寒冷地での使用に耐えるため、耐水素脆化感受性、強度は勿論のこと、低温靭性においても高い値が要求されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2005−40816号公報
【特許文献2】特開2003−33876号公報
【特許文献3】特開2002−115032号公報
【特許文献4】特開平11−147196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高強度であっても、耐水素脆化感受性に優れたものとし、低温割れの生じないようにした溶接金属、必要によって低温靭性にも優れた溶接金属を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決することのできた本発明に係る溶接金属とは、フラックス入りワイヤを用い、ガスシールドアーク溶接によって形成される溶接金属であって、
C:0.02〜0.12%(「質量%」の意味。化学成分組成について、以下同じ)、Si:0.10〜2.0%、Mn:0.90〜2.5%、Ni:0.20〜3.5%、Mo:0.05〜1.5%、Ti:0.040〜0.150%、N:0.015%以下(0%を含まない)およびO:0.030〜0.10%を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
残留オーステナイト粒子が2500個/mm2以上存在すると共に、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が4.0%以上である点に要旨を有するものである。尚、個数密度の測定に際し対象となる残留オーステナイト粒子の大きさは、測定限界以上(円相当直径で0.15μmを超えるもの)のものである。
【0015】
本発明の溶接金属においては、Si:0.10〜0.5%およびNi:1.0〜2.0%を夫々満足すると共に、下記(1)式で規定されるα値が3.2以上であるという要件を具備させることも有用であり、これによって低温靭性にも優れた(具体的には、−40℃での衝撃吸収エネルギーvE-40が85Jを超える)溶接金属が実現できる。
α値=[Mn]+[Ni]+(2×[Mo])+(16×[Ti])−(12×[O])
…(1)
但し、[Mn],[Ni],[Mo],[Ti]および[O]は、夫々Mn,Ni,Mo,TiおよびOの含有量(質量%)を示す。
【0016】
また、本発明の溶接金属においては、20質量%以上のTiを含有する酸化物粒子で、円相当直径:0.15〜1.0μmのものが5000個/mm2以上存在するものであることが好ましい。上記「円相当直径」とは、光学顕微鏡の観察面上で認められる残留オーステナイト粒子や酸化物粒子の大きさに着目して、その面積が等しくなるように想定した円の直径である。
【0017】
本発明の溶接金属においては、更に他の元素として、(a)Cr:2.0%以下(0%を含まない)、V:0.60%以下(0%を含まない)、Nb:0.15%以下(0%を含まない)およびCu:1.0%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上、(b)Al:0.020%以下(0%を含まない)および/またはZr:0.10%以下(0%を含まない)、(c)B:0.0050%以下(0%を含まない)、等を含有させることも好ましく、含有させる元素の種類に応じて溶接金属の特性が更に改善される。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、化学成分組成と共に、残留オーステナイト粒子の個数密度および合計体積分率を適切に制御するようにしたので、耐水素脆化感受性に優れた溶接金属が実現できる。また、SiおよびNiの含有量をより厳密に規定すると共に、Mn,Ni,Mo,TiおよびOの含有量で規定される所定の関係式を満足することによって、低温靭性にも優れた溶接金属が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】溶接金属を作製するときの開先形状を示す概略説明図である。
【図2】丸棒試験片の採取位置を示す概略説明図である。
【図3】再熱サイクルを模擬した熱サイクル(時間と温度の関係)を示すグラフである。
【図4】引張り試験を行ったときの試験片の形状を示す説明図である。
【図5】水素吸蔵量を測定するときの試験片の形状を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明者らは、フラックス入りワイヤを用い、ガスシールドアーク溶接によって形成されるHT780クラスの高強度溶接金属において、耐水素脆化感受性を改善する手段について様々な角度から検討した。その結果、拡散性水素のトラップサイトとして作用する残留オーステナイト粒子を所定の密度で形成させることで、耐水素脆化感受性が改善されることを見出し、本発明を完成した。
【0021】
即ち、溶接金属成分を所定の範囲に制御すると共に、溶接金属に存在する残留オーステナイト粒子を2500個/mm2以上で、残留オーステナイト粒子の合計体積分率(組織全体に対する割合)を4.0%以上に制御することによって、HT780クラスの溶接金属において、耐水素脆化感受性が改善されることが判明したのである。
【0022】
耐水素脆化感受性を優れたものとするためには、拡散性水素の低減が有効である。拡散性水素を低減するためには、残留オーステナイトを存在させることが有効であることが従来から知られていたが、これまでの検討では、専らその量のみに着目し、必ずしも最適な分散形態は確定されていなかった。そこで本発明者らは、耐水素脆化感受性を大幅に改善する技術として、残留オーステナイトの量に加えて個数密度の効果について検討した。
【0023】
その結果、拡散性水素のトラップサイトとなる残留オーステナイトの量を確保すると共に、マトリクス組織微細化により残留オーステナイト粒子を高密度に分散させることによって、トラップ効果が最大限に発現され、耐水素脆化感受性が大幅に改善された。
【0024】
即ち、本発明の溶接金属では、溶接金属中に存在する残留オーステナイト粒子が2500個/mm2以上で、且つ残留オーステナイト粒子の合計体積分率が4.0%以上とすることによって、水素トラップ効果により水素脆化感受性を低下できたのである。尚、残留オーステナイト粒子の個数は3000個/mm2以上であることが好ましく(より好ましくは、3300個/mm2以上)、残留オーステナイト粒子の合計体積分率は4.5%以上であることが好ましい(より好ましくは4.8%以上)。
【0025】
また、Si:0.10〜0.5%およびNi:1.0〜2.0%を夫々満足すると共に、下記(1)式で規定されるα値が3.2以上であるという要件を具備させることによって低温靭性にも優れたものとなることが判明した。
α値=[Mn]+[Ni]+(2×[Mo])+(16×[Ti])−(12×[O])
…(1)
但し、[Mn],[Ni],[Mo],[Ti]および[O]は、夫々Mn,Ni,Mo,TiおよびOの含有量(質量%)を示す。
【0026】
即ち、低温靭性を確保するためには、旧オーステナイト粒界からの粗大な粒界フェライト生成量を低減する必要がある。上記(1)式のα値を構成するMn,Ni,MoおよびTiは、固溶状態で存在することで、粒界フェライト生成を抑制する作用がある。尚、一部のMn,Tiは酸化物を構成するため、Oを低減することで、固溶状態で存在する量が増えることになる。これらの観点から、各元素の係数を実験的に求め、α値を3.2以上とすることによって、粒界フェライト生成が抑制され、低温靭性改善につながることを見出した。
【0027】
次に、本発明の溶接金属における化学成分組成について説明する。本発明の溶接金属において、その化学成分組成を適切に制御することも重要な要件であるが、その範囲設定理由は以下の通りである。
【0028】
[C:0.02〜0.12%]
Cは、溶接金属の強度を確保するために欠くことのできない元素であり、こうした効果を発揮させるには、0.02%以上含有させる必要がある。好ましくは0.04%以上であり、より好ましくは0.06%以上である。しかしながら、C含有量が0.12%を超えると、強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなる(耐水素脆化感受性が劣化する)。尚、C含有量の好ましい上限は、0.10%であり、より好ましくは0.08%以下である。
【0029】
[Si:0.10〜2.0%]
Siは、固溶状態で存在することで炭化物形成を遅らせ、残留オーステナイトを安定化する作用を有する。Si含有量が0.10%未満であると、残留オーステナイトが確保できない。好ましくは0.25%以上、より好ましくは0.28%以上含有させるのがよい。しかしながら、Si含有量が過剰になると、強度の過大な上昇による水素脆化感受性が高くなるので、2.0%以下に抑える必要がある。好ましくは1.5%以下であり、より好ましくは0.5%以下に抑えるのが良い。特に、溶接金属の低温靭性を良好にするためには、Si含有量は0.5%以下(更に好ましくは0.4%以下)とすることが好ましい。即ち、Si含有量が0.5%を超えると、硬質な島状マルテンサイトが形成され、これが破壊の起点となることで、低温靭性を著しく劣化させることになる。
【0030】
[Mn:0.90〜2.5%]
Mnは、溶接金属の強度を確保する上で必要な元素であり、こうした効果を発揮させるには、0.90%以上含有させる必要がある。好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.5%以上である。しかしながら、2.5%を超えて過剰に含有させると、強度の過大な上昇による水素脆化感受性が高くなる原因となる。好ましくは2.2%以下であり、より好ましくは2.0%以下である。
【0031】
[Ni:0.20〜3.5%]
Niは、溶接金属の強度を確保する上で必要な元素であり、こうした効果を発揮させるには、0.20%以上含有させる必要がある。好ましくは0.5%以上、より好ましくは
1.0%以上である。しかしながら、3.5%を超えて過剰に含有させると、強度の過大な上昇による水素脆化感受性が高くなる原因となる。好ましくは3.0%以下であり、より好ましくは2.8%以下である。特に、溶接金属の低温靭性を良好にするためには、Ni含有量は1.0%以上2.0%以下(更に好ましい下限は1.1%、更に好ましい上限は1.8%)とすることが好ましい。Niは、脆性破面遷移温度を低温化させることで、低温でのシャルピー衝撃吸収エネルギーを向上させる。こうした効果を発揮させるには、1.0%以上含有させることが好ましい。しかしながら、2.0%を超えて含有させると、マルテンサイト生成量が増え、強度が上昇することで、シャルピー衝撃吸収エネルギーが低下する。
【0032】
[Mo:0.05〜1.5%]
Moは、溶接金属の強度を向上する上で必要な元素であり、こうした効果を発揮させるには、0.05%以上含有させる必要がある。好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.2%以上である。しかしながら、1.5%を超えて過剰に含有させると、強度の過大な上昇による水素脆化感受性が高くなる原因となる。好ましくは1.0%以下であり、より好ましくは0.50%以下である。
【0033】
[Ti:0.040〜0.150%]
Tiは、粒内変態の起点となる酸化物を形成し、組織を微細化することで残留オーステナイト粒子の高密度分散に寄与する元素である。こうした効果を発揮させるには、0.040%以上含有させる必要がある。好ましくは0.050%以上、より好ましくは0.055%以上である。しかしながら、0.150%を超えて過剰に含有させると、強度の過大な上昇による水素脆化感受性が高くなる原因となる。好ましくは0.12%以下であり、より好ましくは0.08%以下である。
【0034】
[N:0.015%以下(0%を含まない)]
Nは、不可避的に混入してくる元素であり、溶接金属の強度を向上する上で有効であるが、過剰に含有させると、強度の過大な上昇による水素脆化感受性が高くなる原因となる。こうしたことから、N含有量は0.015%以下とする必要がある。好ましくは0.010%以下であり、より好ましくは0.006%以下である。尚、Nは工業的に0%とすることは困難である。
【0035】
[O:0.030〜0.10%]
Oは、粒内変態の起点となる酸化物を形成し、組織を微細化することで残留オーステナイト粒子の高密度分散に寄与する元素である。こうした効果を発揮させるには、0.030%以上含有させる必要がある。好ましくは0.035%以上、より好ましくは0.040%以上である。しかしながら、0.10%を超えて過剰に含有させると、Si酸化物が形成されるようになり、固溶Siが減少することで残留オーステナイト量が確保できなくなる。好ましくは0.080%以下であり、より好ましくは0.060%以下である。
【0036】
本発明で規定する含有元素は上記の通りであって、残部は鉄および不可避的不純物であり、該不可避的不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素(例えば、PやS等)の混入が許容され得る。但し、一般に不純物は粒界に偏析することで粒界強度を低下させ、低温割れを助長するため、P:0.02%以下(0%を含まない)、S:0.025%以下(0%を含まない)に夫々抑制することが好ましい。
【0037】
本発明の溶接金属においては、更に他の元素として、(a)Cr:2.0%以下(0%を含まない)、V:0.60%以下(0%を含まない)、Nb:0.15%以下(0%を含まない)およびCu:1.0%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上、(b)Al:0.020%以下(0%を含まない)および/またはZr:0.10%以下(0%を含まない)、(c)B:0.0050%以下(0%を含まない)、等を含有させることが好ましく、含有させる元素の種類に応じて溶接金属の特性が更に改善される。これらの元素を含有させるときの範囲設定理由は下記の通りである。
【0038】
[Cr:2.0%以下(0%を含まない)、V:0.60%以下(0%を含まない)、Nb:0.15%以下(0%を含まない)およびCu:1.0%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上]
Cr,V,NbおよびCuは、溶接金属の強度を向上する上で必要な元素であるが、過剰に含有させると、強度の過大な上昇により水素脆化感受性が高くなる原因となる。こうしたことから、Crで2.0%以下(より好ましくは1.5%以下、更に好ましくは1.0%以下)、Vで0.60%以下(より好ましくは0.50%以下、更に好ましくは0.40%以下)、Nbで0.15%以下(より好ましくは0.10%以下、更に好ましくは0.08%以下)、またはCuで1.0%以下(より好ましくは0.5%以下、更に好ましくは0.2%以下)に、夫々抑制することが好ましい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は、Crで0.05%以上、Vで0.02%以上、Nbで0.01%以上、またはCuで0.05%以上である。
【0039】
[Al:0.020%以下(0%を含まない)および/またはZr:0.10%以下(0%を含まない)
AlとZrは、いずれも強脱酸元素であり、固溶Si増加による残留オーステナイト増加を促進する作用があるが、過剰に含有させると、酸化物起点の粒内変態を減少させ、組織粗大化による水素脆化感受性が高くなる原因となる。こうしたことから、Alで0.020%以下(より好ましくは0.018%以下)、Zrで0.10%以下(より好ましくは0.06%以下)に、夫々抑制することが好ましい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は、AlまたはZrのいずれも0.010%以上である。
【0040】
[B:0.0050%以下(0%を含まない)]
Bは、旧オーステナイト粒界からのフェライト生成を抑制することで、強度を向上させる元素であるが、過剰に含有させると、強度を過大に上昇させ、水素脆化感受性が高くなる原因となる。こうしたことから、Bは0.0050%以下(より好ましくは0.0030%以下)に、抑制することが好ましい。尚、上記効果を発揮させるための好ましい下限は、0.0010%以上である。
【0041】
本発明の溶接金属は、フラックス入りワイヤを用い、ガスシールドアーク溶接によって形成されるものであれば、特にワイヤ成分、溶接条件を限定するものではないが、規定の様態を実現するためには、好ましい範囲は存在する。
【0042】
こうした観点から、好ましいワイヤ成分(溶接材料)は、例えば次の要件の全てを満たすものである。即ち、鋼材よりなる外皮とフラックスとを合わせた全ワイヤ質量に対し、
(a)金属、酸化物その他の形態で存在する全Siが0.35〜2.5%
(b)酸化物以外の形態で存在するSiが0.25%以上
(c)酸化物として存在するSiが0.25%以下
(d)金属、酸化物その他の形態で存在する全Tiが2.5〜4.5%
(e)金属、酸化物その他の形態で存在する全Alが0.10%以上
(f)金属、酸化物その他の形態で存在する全Zrが0.035%以上
(g)金属として存在するMgが0.4%以上
(h)金属、酸化物その他の形態で存在する全Si,Ti,Al,ZrおよびMgの各量から、下記(2)式に基づいて求められるA値が0.30以上
A値=Si−[Si/(Ti+2Al+2Zr+3.5Mg)] …(2)
(i)金属、酸化物その他の形態で存在する全Si量と(Mn+Ti)量の比[(Mn+Ti)/Si]が下記(3)式の関係を満足すること
(Mn+Ti)/Si>4.0 …(3)
【0043】
20質量%以上のTiを含有する酸化物粒子で、円相当直径:0.15〜1.0μmのものを5000個/mm2以上分散させるためには、上記に加えて、金属、酸化物その他の形態で存在する全Si量と(Mn+Ti)量の比[(Mn+Ti)/Si]が下記(4)式の関係を満足することが好ましい。尚、その他の成分については、特に制限する必要はないが、規定の溶接金属成分範囲を満足するよう調整する必要があることは勿論である。
(Mn+Ti)/Si>10.0 …(4)
【0044】
上記した要件[(a)〜(i)]は、残留オーステナイト量の増加に有効な固溶Si量を確保するための制御範囲である。即ち、Siの添加形態として、酸化物以外の形態で存在するSiが0.25%を下回る場合、或いは酸化物として存在するSiが0.25%を上回る場合、更に全Si量が0.35%を下回る場合[要件(a)〜(c)を満足しない場合]は、必要な固溶Si量を確保できない。
【0045】
また、上記のようにSiの添加形態が満足されていても、Siに比べて強脱酸の元素であるTi,Al,Zr,Mgが上記の範囲を逸脱すると[要件(d)〜(g)を満足しないと]、或はA値が0.30を下回ると[要件(h)を満足しないと]、酸化物Siが増加して固溶Siが減少することになる。
【0046】
尚、固溶Si量を確保するという観点からすれば、Si量(全Si量)、Ti量は多いほうが好ましいが、夫々2.5%、4.5%を超えると、溶接金属における濃度が規定上限値を超えてしまうことになる。
【0047】
上記要件(i)は、残留オーステナイト粒子の個数密度を確保のためのものである。即ち、溶接金属の主体組織であるベイナイトにおいては、残留オーステナイトはベイナイトラス間に生成するため、残留オーステナイト粒子の個数密度を増加させるためには、基地となるベイナイト組織の微細化が必要である。上記成分比[上記(2)式の関係]を満たすことによって、Ti−Mn酸化物が形成され、この酸化物を起点とした粒内変態によって、ベイナイト組織が微細化する。また上記比を10.0超とすることで、上記酸化物が高密度で分散するようになり、いっそうの組織微細化が達成されることで耐水素脆化感受性の改善にもつながる。
【0048】
溶接金属を形成するときの溶接条件としては、入熱量を2.5kJ/mm以下とし、シールドガスとして20%(体積%)のCO2を含み、残部がArからなる混合ガスを用いることが好ましい。上記入熱量が2.5kJ/mmを上回ると、溶接時の冷却速度が低下し、残留オーステナイトの分解が促進される。また、シールドガスの組成は、組織微細化を達成するための酸化物形態制御を目的としたものである。尚、本発明はフラックス入りワイヤを用いて溶接を行うものであるが、用いるワイヤのフラックスの充填率は通常10〜20%程度である。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0050】
[実施例1]
ワイヤ径:1.2mm、フラックス充填率:13.5%で下記表1、2に示す化学成分組成のフラックス入りワイヤ(溶接材料)を用い、溶接金属を下記の手順で作成し、各種性能(引張強度、水素脆化感受性)を評価した。尚、表1、2中、「−」で示した欄は、無添加(含有せず)であることを示している。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
[溶接金属の作製]
SM490A鋼板を、図1に示す開先形状に加工し、下記の溶接条件でガスシールドアーク溶接を実施し、溶接金属を作製した。
【0054】
(溶接条件)
シールドガス:20体積%CO2−80体積%Ar混合ガス
電流−電圧−溶接速度:270A−29V−3.0〜4.5mm/秒
入熱条件:
(A)1.74kJ/mm(270A−29V−4.5mm/秒)
(B)2.37kJ/mm(270A−29V−3.3mm/秒)
(C)2.61kJ/mm(270A−29V−3.0mm/秒)
予熱−パス間温度:105〜150℃
積層法:3層13パス
【0055】
作製した溶接金属の最終パスより、直径:5mmの丸棒試験片を採取し(採取位置を図2に示す:原質部に相当)、再熱サイクルを模擬した熱サイクルを付与した。このときの再熱サイクルを模擬した熱サイクル(時間と温度の関係)を図3に示す。また、作製した各溶接金属の化学成分組成を用いた溶接材料、入熱条件と共に下記表3、4に示す。尚、表3、4中、「<」で示した欄は、不純物量(不純物レベル未満)であることを示している。
【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
熱処理済みの試験片より、引張り試験用試験片、および水素吸蔵量を測定するための試験片(水素吸蔵量測定用試験片)を採取した。引張り試験片の形状を図4に、水素吸蔵量測定用試験片の形状を図5に、夫々示す。これらの試験片を用い、水素脆化感受性を下記の方法によって評価した。
【0059】
[水素脆化感受性の評価]
上記で得られた水素吸蔵量測定用試験片を用い、拡散性水素量=1.5〜3.0ppmとなるような水素チャージ条件を選定した。このとき採用したチャージ条件は、下記の通りである。
【0060】
水溶液:(0.5mol/Lまたは2.5mol/LのH2SO4)+(1g/L−KSCN)、(30g/L−NaCl)+(1g/L−KSCN)
電流密度:0.1A/dm2、1.0A/dm2、5.0A/dm2
チャージ時間:24時間
【0061】
また、拡散性水素量は、四重極質量分析計を内蔵した昇温脱離分析装置(日電アネルバ製)を用い、昇温速度:12℃/分で300℃までに放出される水素量とした。
【0062】
上記条件下で、引張り試験片に水素チャージを行った後、水素逃散を防ぐための亜鉛めっきを、下記の要領で施した。
水溶液:(350g/L−ZnSO4・7H2O)+(20.6g/L−H2SO4(97
%))+(60g/L−Na2SO4
浴温:60℃
電流密度:50A/dm2
めっき時間:3分
【0063】
クロスヘッド速度:5.0×10-3mm/分(歪速度:6.94×10-6/秒)でSSRT(Slow Strain Rate Technique)試験を実施し、非水素チャージ材の破断伸びをE0、水素チャージ材の破断伸びをEhとしたときに、下記(5)式によって算出される水素脆化感受性指数S(%)が60%未満のものを、耐水素脆化感受性に優れると評価した。
S=(1−Eh/E0)×100(%) …(5)
【0064】
[引張り強度の評価]
板厚:20mmのSM490A鋼板に、20°V字開先を施し、下記の溶接条件で作製した溶接金属について(溶接材料については、表1、2に示したもの)、JIS−Z2202に準拠した引張り試験片を採取し、引張り試験を行い、引張り強度にして780MPaを超えるものを合格とした。
(溶接条件)
シールドガス:20体積%CO2−80体積%Ar混合ガス
電流−電圧−溶接速度:270A−29V−4.5mm/秒
入熱量:1.74kJ/mm
予熱−パス間温度:105〜150℃
積層法:8層17パス
【0065】
20質量%以上のTiを含有する酸化物粒子であって、円相当直径:0.15〜1.0μmのものの個数密度、残留オーステナイト粒子の個数密度、残留オーステナイト粒子の合計体積分率については、下記の方法で測定した。
【0066】
[酸化物粒子の個数密度の測定]
SSRT試験用に作製した溶接金属(前記「溶接金属の作製」の欄)の最終パスより、直径:5mmの丸棒試験片を採取し、輪切り断面を鏡面研磨した後、光学顕微鏡にて1000倍の画像を2視野撮影した。画像解析ソフト(「Image−Pro Plus」 Media Cybernetics社製)によって、円相当直径:0.15〜1.0μmの酸化物粒子を選定すると共に、撮影した酸化物中央部の組成をSEM−EDS(Energy−dispersive X−ray spectroscopy)にて分析した。検出された元素のうち、Tiの分析値(質量%)をSi,S,Ti,Mn,Al,Zr,Mgの分析値(質量%)の合計で規格化することで、酸化物粒子に含まれるTi濃度(質量%)を算出し、20質量%以上のTiを含有する酸化物粒子であって、円相当直径が0.15〜1.0μmのものの個数密度を算出した。
【0067】
[残留オーステナイト粒子の個数密度の測定]
酸化物粒子の個数密度を測定したサンプルを、レペラ試薬で腐食させ、光学顕微鏡にて1000倍の画像を2視野撮影した。残留オーステナイトの白い腐食コントラストを、画像解析ソフト(上記と同じ)により解析し、円相当直径にして0.15μmを超える残留オーステナイト粒子の個数密度を算出した。
【0068】
[残留オーステナイト粒子の合計体積分率の測定]
上記サンプル表面を電解研磨し、リガク社製の二次元微小部X線回折装置(「RINT−RAPIDII」)にてX線回折測定を実施した。フェライト相の(110)、(200)、(211)、(220)の各格子面のピーク、および残留オーステナイト相の(111)、(200)、(220)、(311)の各格子面のピークについて、各ピークの積分強度比に基づき、残留オーステナイト相の体積分率を算出し、各組み合わせの平均値を求めた。
【0069】
これらの測定結果(水素脆化感受性、引張り強度、残留オーステナイトの個数密度および体積分率、並びに酸化物粒子の個数密度)を、下記表5、6に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
【表6】

【0072】
これらの結果から、次のように考察できる(尚、下記No.は、表3〜6の試験No.を示す)。No.1〜29(表3、5)は、本発明で規定する要件を満足する例であり、化学成分組成と共に、残留オーステナイト粒子の個数密度および合計体積分率が適切に制御されているため、高強度で耐水素脆化感受性に優れた溶接金属が得られている。特に、酸化物粒子の個数密度が5000個/mm2以上のものでは(No.2〜5、7、8、10〜14、16〜19、21〜23、25、27、29)、水素脆化感受性が極めて低い値が得られていることが分かる。
【0073】
これに対し、No.30〜54は、本発明で規定するいずれかの要件を外れる例であり、引張り強度および耐水素脆化感受性の少なくともいずれかの特性が劣化している。
【0074】
No.30は、溶接時の入熱条件が適切でない例であり、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が低くなっており、水素脆化感受性が高くなっている(耐水素脆化感受性が劣化している)。No.31は、溶接金属のSi含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。No.32は、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が低くなっており(溶接材料中のSi含有量が不足)、水素脆化感受性が高くなっている。
【0075】
No.33は、溶接金属のTi含有量が不足している例であり、残留オーステナイト粒子の個数密度が低くなっており、水素脆化感受性が高くなっている。No.34は、溶接金属のTi含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。No.35は、溶接金属のMn含有量が不足している例であり、引張り強度が低くなると共に、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が低くなっており(溶接材料中のAl含有量が不足)、水素脆化感受性が高くなっている。
【0076】
No.36は、溶接金属のNi含有量が不足している例であり、引張り強度が低くなると共に、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が低くなっており(溶接材料中のZr含有量が不足)、水素脆化感受性が高くなっている。No.37は、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が低くなっており(溶接材料中のMg含有量が不足)、水素脆化感受性が高くなっている。
【0077】
No.38は、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が低くなっており(溶接材料中の金属Si含有量が不足)、水素脆化感受性が高くなっている。No.39は、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が低くなっており(溶接材料中のSiO2量が過剰)、水素脆化感受性が高くなっている。
【0078】
No.40は、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が低くなっており(溶接材料のA値が不足)、水素脆化感受性が高くなっている。No.41は、溶接金属のC含有量が不足している例であり、引張り強度が低くなると共に、残留オーステナイト粒子の個数密度および合計体積分率が低くなっており、水素脆化感受性が高くなっている。No.42は、溶接金属のC含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。
【0079】
No.43は、溶接金属のSi含有量(全Si含有量)が不足している例であり(Mn含有量も過剰になっている)、引張り強度が過大に上昇すると共に、残留オーステナイト粒子の個数密度および合計体積分率が低くなっており、水素脆化感受性が高くなっている。No.44は、溶接金属のNi含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。
【0080】
No.45は、溶接金属のV含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。No.46は、溶接金属のNb含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。
No.47は、溶接金属のN,OおよびZrの含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。
【0081】
No.48は、溶接金属のMo含有量が不足している例であり、引張り強度が低くなっている。No.49は、溶接金属のMo含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。
【0082】
No.50は、溶接金属のO含有量が不足している例であり(Al含有量も多くなっている)、残留オーステナイト粒子の個数密度が低くなっており、水素脆化感受性が高くなっている。No.51は、溶接金属のTi含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。
【0083】
No.52は、溶接金属のCr含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。No.53は、溶接金属のCu含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。No.54は、溶接金属のB含有量が過剰になっている例であり、引張り強度が過大に上昇して水素脆化感受性が高くなっている。
【0084】
[実施例2]
ワイヤ径:1.2mm、フラックス充填率:13.5%で下記表7に示す化学成分組成のフラックス入りワイヤ(溶接材料)を用い(No.2,4,15,16,21,24は表1に示したものと同じ)、溶接金属を実施例1と同様の手順で作製し(入熱条件はA)、各種性能(引張り強度、水素脆化感受性)を評価した。尚、表7中、「−」で示した欄は、無添加(含有せず)であることを示している。
【0085】
【表7】

【0086】
作製した溶接金属の最終パスより、実施例1と同様に丸棒試験片を採取し(採取位置は前記図2:原質部に相当)、再熱サイクルを模擬した熱サイクルを付与した(図3)。また、作製した各溶接金属の化学成分組成を用いた溶接材料、入熱条件と共に下記表8に示す。尚、表8中、「<」で示した欄は、不純物量(不純物レベル未満)であることを示している。
【0087】
【表8】

【0088】
作製した溶接金属について、実施例1と同様にして、水素脆化感受性、引張り強度、残留オーステナイトの個数密度および体積分率、並びに酸化物粒子の個数密度を測定すると共に、下記の方法によって、低温靭性を測定した。
【0089】
[低温靭性の測定]
引張り強度測定用に作製した溶接金属の板厚中央部より、溶接線方向に垂直にシャルピー衝撃試験片(JIS Z 3111 4号試験Vノッチ試験片)を採取し、JIS Z 2242の要領で、−40℃での衝撃吸収エネルギーvE-40を測定した。このとき3回の測定の平均値が85Jを超えるものを低温靭性に優れると評価した。
【0090】
これらの測定結果(水素脆化感受性、引張り強度、残留オーステナイトの個数密度および体積分率、並びに酸化物粒子の個数密度、低温靭性)を、下記表9に示す。
【0091】
【表9】

【0092】
この結果から、次のように考察できる(尚、下記No.は、表8、9の試験No.を示す)。No.55は、Ni含有量が好ましい範囲(1.0〜2.0%)を外れており、No.56は、Ni含有量が好ましい範囲を外れると共にα値が3.2未満であり、No.57は、Si含有量およびNi含有量が好ましい範囲を外れており、No.60は、Si含有量が好ましい範囲(0.10〜0.5%)を外れており、いずれも低温靭性が劣化している。また、No.58、59は、(1)式で規定されるα値が3.2未満であり、低温靭性が劣化している。
【0093】
これに対し、No.61〜69のものは、化学成分組成と共に、残留オーステナイト粒子の個数密度および合計体積分率が適切に制御されているため、高強度で耐水素脆化感受性に優れると共に、Si含有量およびNi含有量が好ましい範囲内であり、且つ(1)式で規定されるα値が3.2以上を満足しており、良好な低温靭性が達成されていることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックス入りワイヤを用い、ガスシールドアーク溶接によって形成される溶接金属であって、
C:0.02〜0.12%(「質量%」の意味。化学成分組成について、以下同じ)、Si:0.10〜2.0%、Mn:0.90〜2.5%、Ni:0.20〜3.5%、Mo:0.05〜1.5%、Ti:0.040〜0.150%、N:0.015%以下(0%を含まない)およびO:0.030〜0.10%を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、
残留オーステナイト粒子が2500個/mm2以上存在すると共に、残留オーステナイト粒子の合計体積分率が4.0%以上であることを特徴とする耐水素脆化感受性に優れた溶接金属。
【請求項2】
Si:0.10〜0.5%およびNi:1.0〜2.0%を夫々満足すると共に、下記(1)式で規定されるα値が3.2以上である請求項1に記載の溶接金属。
α値=[Mn]+[Ni]+(2×[Mo])+(16×[Ti])−(12×[O])
…(1)
但し、[Mn],[Ni],[Mo],[Ti]および[O]は、夫々Mn,Ni,Mo,TiおよびOの含有量(質量%)を示す。
【請求項3】
20質量%以上のTiを含有する酸化物粒子で、円相当直径:0.15〜1.0μmのものが5000個/mm2以上存在するものである請求項1または2に記載の溶接金属。
【請求項4】
更に、Cr:2.0%以下(0%を含まない)、V:0.60%以下(0%を含まない)、Nb:0.15%以下(0%を含まない)およびCu:1.0%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有するものである請求項1〜3のいずれかに記載の溶接金属。
【請求項5】
更に、Al:0.020%以下(0%を含まない)および/またはZr:0.10%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の溶接金属。
【請求項6】
更に、B:0.0050%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の溶接金属。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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