説明

耐油性フィルム及びそれを用いた成形容器

【課題】ポリスチレン系樹脂の特徴である透明性、光沢を維持しつつ、優れた耐油性を有するポリスチレン系樹脂フィルムを提供する。ポリスチレン系樹脂が最も侵されやすい油である中鎖脂肪酸(MCT)に対する耐性を有するフィルムでラミネート下食品用容器を提供する。
【解決手段】親水化処理されたスチレン系樹脂フィルム上に、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体が25〜100重量%、及び親水性高分子が75〜0重量%からなるコーティング組成物の塗膜が形成されていることを特徴とする耐油性フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水化処理されたスチレン系樹脂からなる耐油性フィルムに関するものであり、特に、食品容器用ラミネートフィルムに好適な耐油性フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリスチレン系樹脂は加工性に優れ、比較的安価であることから、これまでに様々な用途に使用され、その中でも特に、食品用容器として用いられてきた。ポリスチレン系樹脂が食品用容器としてよく用いられる理由は、前述した特性に加え、美粧性に優れる為である。食品用容器は、スーパー等の売り場において、商品を魅力的に見せ、顧客を惹きつける必要があるため、見た目の良さも重要視される。その際、ポリスチレン系樹脂の特徴である、透明性や光沢が非常に有用となる。透明性が高いことにより、デザイン柄の色調を損なうこと無く印刷することが可能となる。また、光沢により容器に高級感を持たせることができる。これらの特性は、食品用容器として非常に重要なものである。
【0003】
しかし、ポリスチレン系樹脂の欠点として、油に対する耐性がないことが挙げられる。ポリスチレン系樹脂からなる容器は、食品中に含まれる油と接触することにより白化が発生し、時には容器が破損することもある。これは、ポリスチレン系容器の樹脂内に、油分子が侵入することにより発生するものであり、高温になるほど油による侵食は激しくなる。また、油の種類によっても侵食程度は異なり、ポリスチレン系樹脂が特に侵されやすい食用油としては、中鎖脂肪酸(以下、MCT、という)がある。これは、サラダ油等に比べ、MCTは脂肪酸エステル部の炭素鎖が短い、すなわち分子が小さく、ポリスチレン系樹脂内に容易に侵入できる為である。MCTは、ご飯の艶出し剤や離型剤等、食品中に頻繁に用いられている油であり、食品容器として使用する際にはMCTに対する耐性が必要となる。
【0004】
これを解決する方法として、異素材を併用する方法がある。例えば、特許文献1にあるように、ポリスチレン系樹脂上に、ポリプロピレンからなるフィルムを、接着剤を介して積層する方法や、特許文献2にあるように、ポリスチレン系樹脂とポリオレフィンを共押出して積層する方法がある。しかし、これらの方法では、食品用容器として重要な透明性が不十分な上に、異素材が混入している為に、原料のリサイクルが困難であるという問題がある。これは、コスト的な問題だけでなく、省資源化の観点からも非常に大きな問題である。
別の方法としては、特許文献3にあるように、親水性高分子を用い、スチレン系樹脂シート上に親水性の塗膜を形成する方法がある。しかし、耐油性能発現の為には親水性高分子を大量に塗布する必要があり、その為、ポリスチレン系樹脂の特徴であり、大きな利点でもある透明性、光沢感を損なうという問題がある。また、耐油性能も、食品用容器として使用するには不十分なものであり、実用性に欠ける。
【特許文献1】特開2004−292745号公報
【特許文献2】特開昭59−57748号公報
【特許文献3】特開平9−12752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、スチレン系樹脂フィルムの特徴である透明性や光沢を損なうことなく、特にMCTに対する耐性を有する耐油性フィルムを提供することを目的とする。
本発明はまた、前記の特性を備えたフィルムがラミネートされた成形容器、特に食品用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、本発明をなすに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
(1)親水化処理されたスチレン系樹脂フィルム上に、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体が25〜100重量%、及び親水性高分子が75〜0重量%からなるコーティング組成物の塗膜が形成されていることを特徴とする耐油性フィルム。
(2)厚みが10〜70μmである(1)に記載のフィルム。
(3)コーティング組成物の塗布量が10〜100mg/m2である(1)又は(2)に記載のフィルム。
(4)(1)〜(3)のいずれか1つに記載のフィルムをラミネートした成形容器。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、スチレン系樹脂の特徴である透明性、光沢を損なうことなく、様々な食用油に対する耐性に優れた、特にスチレン系樹脂に対する侵食力が最も強いMCTに対する耐性を有する、耐油性フィルムを提供できる。
また、前記の特性を備えた耐油性フィルムがラミネートされた成形容器、特に食品用容器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明は、親水化処理されたスチレン系樹脂フィルム上に、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体が25〜100重量%、及び親水性高分子が75〜0重量%からなるコーティング組成物を用いて塗膜を形成させることにより、透明性、耐油性に優れた、食品容器用ラミネートフィルムに好適な耐油性フィルムを提供するものである。
本発明に用いるスチレン系樹脂としては、スチレン、αアルキルスチレン、アルキルスチレン等のビニル芳香族炭化水素の単独重合体、スチレン−アクリロニトリル、スチレン−メチルメタクリレート、スチレン−無水マレイン酸、スチレン−ブタジエン−メチルメタクリレート3元共重合体等のビニル芳香族炭化水素と共重合可能な単量体との共重合体、ゴム変性ポリスチレン系樹脂、スチレン系−ブタジエン系共重合体等が挙げられ、これらから選ばれる少なくとも1種の樹脂が用いられる。
【0009】
スチレン系樹脂フィルムには、上記の樹脂の他に、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を、本発明の目的と特性を損なわない範囲で配合してもよい。
本発明に用いるスチレン系樹脂フィルムの製造方法は限定されないが、インフレーション法、テンター法等の公知の延伸方法により、二軸延伸されることが好ましい。その際の延伸倍率は、フィルム強度の観点から任意の方向に3〜17倍延伸されていることが好ましい。
スチレン系樹脂フィルム自体の表面は疎水性であるため、本発明のコーティング組成物をフィルム表面に均一に塗布するためには、塗布面となるフィルム表面は親水化されていることが必要である。親水化処理の方法は限定されず、コロナ、グロー等の放電処理、紫外線、電子線、放射線等の電離活性線処理、火炎処理、オゾン処理、粗面化処理、化学薬品処理、プライマー処理等が採用できる。この中でも、処理強度の安定性と設備の安全性の観点からコロナ放電処理が好ましい。親水化処理後の表面張力は、40dyn/cm以上が好ましく、フィルムのブロッキングの観点から60dyn/cm以下が好ましい。
【0010】
親水化処理したスチレン系樹脂フィルムの厚みは、フィルム強度の観点から10μm以上であることが好ましく、加工適性の観点から70μm以下であることが好ましい。厚みを70μm以下にすることにより、任意の容器基材にラミネート加工が可能となり、耐油性能、光沢を付与させる上で好ましい。
本発明は、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体をコーティング組成物として使用する。セルロース誘導体の側鎖に、疎水性基である炭化水素を有することにより、スチレン系樹脂との親和性が向上し、コーティング組成物がスチレン系樹脂フィルム上に均一に広がりやすくなり、その結果、少ない塗布量においても薄膜を均一に形成することができる。さらに、炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体の強い分子間相互作用と凝集力により、緻密な塗膜が形成され、スチレン系樹脂フィルム内部への油の侵入を一層効果的に防ぐことができるため、これまで他のセルロース誘導体や親水性高分子を用いても達成困難であった、MCTに対する優れた耐油性能を発現させることが可能となる。側鎖の炭化水素の炭素数は1〜3である必要がある。これにより、耐油性能の発現に必要な親水性を損なうことなく、スチレン系樹脂と良好な親和性を示すことが可能となる。
【0011】
本発明に用いる、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体とは、セルロースの水酸基が、炭素数1〜3の炭化水素で置換されているもののことを指し、前記炭化水素に置換されている部分があれば、残りのセルロースの水酸基部分は他の官能基で置換されていてもよい。具体例として、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース、イソプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、エチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース等セルロースエーテルや、アセチルメチルセルロース等のセルロースエステルのアルキル変性物等が挙げられる。ポリスチレン系樹脂との親和性の観点からセルロースエーテルが好ましく、その中でも特に、炭素数1の炭化水素であるメチル基を側鎖に有するものがより好ましい。これら炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体は、グリオキザールやメチロールメラミン樹脂等で架橋処理されていてもよい。
【0012】
本発明に使用される炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体の置換度(セルロースの単位グルコース環当たり、炭化水素で置換された水酸基の平均個数)は、親水性の観点から1.4〜2.5が好ましく、より好ましくは1.6〜2.0である。この範囲であると、ポリスチレン系樹脂との親和性を損なわない程度に親水性を制御することがより容易となり、一層均一に塗膜を形成しやすくなる。
塗膜強度及び塗膜の熱安定性の観点から、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体の重量平均分子量は10,000以上であることが好ましく、塗膜の熱安定性が増すにつれ、より高温においても耐油性能を維持することが可能である。塗布量の安定性の観点から400,000以下のものが好ましい。より好ましくは50,000〜300,000である。
【0013】
コーティング組成物は、上記のセルロース誘導体を25〜100重量%含むことが必要であり、好ましくは、50〜100重量%である。この範囲にした場合、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体の特徴である、ポリスチレン系樹脂との親和性、凝集力がより効果的に発現する。ポリスチレン系樹脂との親和性により、少ない塗布量においても均一に塗膜を形成しやすくなり、スチレン系樹脂フィルムの特徴である透明性や光沢を損なうことなく、耐油性能を発現させることが可能となる。また、凝集力により、緻密な塗膜が形成可能となり、MCTに対しても高い耐油性能を発現させることができる。MCTは様々な食品に多く利用されている油であり、これに対する耐性を有することは、食品容器として非常に有用である。
本発明に用いるコーティング組成物は、75〜0重量%の範囲で、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体に、親水性高分子を併用することができる。この範囲にすることにより、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体が有するポリスチレン系樹脂との親和性や凝集力等特性を損なうことなく、様々な性能を塗膜に付与させることができる。
【0014】
前記セルロース誘導体と併用される親水性高分子とは、分子内に極性置換基やヘテロ原子を有し、水及び熱湯への溶解性を示す高分子のことを指す。極性置換基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。また、ヘテロ原子として、酸素、窒素、硫黄等が挙げられる。親水性高分子を併用することにより、耐油性能を損なうことなく塗膜の物性、例えば、弾性率、熱可塑性、水溶性等を用途に合わせて変化させることができる。親水性高分子としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体、ガラクトマンナン、ペクチン、アラビアガム、カラギーナン、アルギン酸、キサンタンガム、プルラン、キトサン等の天然多糖類及びその誘導体、ポリビニルアルコール及びその誘導体、ポリグリセリン及びその脂肪酸エステル、ポリアクリル酸及びその誘導体、ポリビニルピロリドン及びその誘導体等が挙げられるが、これに限定されるものではない。その中でも、より塗膜に柔軟性が加わり、成型加工適性が向上することから、ポリビニルアルコール及びその誘導体(以下、ポリビニルアルコール類、という)が好ましい。
【0015】
ポリビニルアルコール誘導体とは、ポリビニルアルコールの水酸基が他の置換基に置換されたものの事を指す。置換基として、カルボキシ基、アセチル基、アセトアセチル基等のカルボニル基、4級アンモニウム塩等のカチオン性基、スルホン酸基等のアニオン性基が挙げられる。
本発明に使用されるポリビニルアルコール類は、親水性の観点から鹸化度は85〜99%が好ましく、より好ましくは90〜98%である。この範囲にすると、親水性が増すにつれて、ポリスチレン系樹脂フィルム内への油の侵入を防ぐことができ、耐油性能が向上する。塗膜強度及び塗膜の熱安定性の観点から、4重量%水溶液の20℃における粘度は3mPa・s以上が好ましく、塗膜の熱安定性が増すにつれ、より高温においても耐油性能を維持することが可能である。塗布工程適性の観点から、70mPa・s以下が好ましい。より好ましくは5〜50mPa・sである。
【0016】
本発明における、コーティング組成物のスチレン系樹脂フィルムへの塗膜形成方法としては、スプレーコーター、ロールコーター、スクイーズロールコーター、エアーナイフコーター等が採用できる。具体的な塗膜形成方法の形態としては、塗布量の均一性、塗布量制御の観点から、コーティング組成物を水や有機溶剤、例えばエタノール等の溶媒で希釈し、上記コーターでスチレン系樹脂フィルム表面に均一に塗布した後、熱風乾燥機等の乾燥炉で溶媒を除去する方法が好ましいが、限定されるものではない。
本発明におけるコーティング組成物中に、消泡剤、防腐剤、及び耐水化剤等の添加剤を、本発明の目的を損なわない範囲で加えてもよい。
【0017】
本発明におけるコーティング組成物のスチレン系樹脂フィルムへの塗布量は、10〜100mg/m2が好ましく、より好ましくは20〜80mg/m2である。この範囲であると、塗膜が形成しやすく、耐油性能も向上する。コーティング組成物は、スチレン系樹脂フィルムの少なくとも一方の表面に塗布されていればよい。
本発明の耐油性フィルムは、任意の成形容器にラミネートして使用することができる。特に、容器の軽量化が進んでおり、容器基材として、発泡体の利用が増加しているため、発泡体に本発明のフィルムを用い、耐油性能を付与させることが好ましい。
発泡体は空洞を有する為、強度が不十分な上、食用油に侵食されやすく、シートと比較すると光沢に劣る、という欠点がある。本発明の耐油性フィルムをラミネートすることにより、これらの問題は解決し、ポリスチレン系発泡体をより広い用途で使用することが可能となり、省資源化の観点からも非常に有用である。
【0018】
また、本発明コーティング組成物を使用することにより、少ない塗布量においても耐油性能を発現させることが可能となる。本発明のフィルムはポリスチレン系樹脂に対する侵食力が最も強いMCTをはじめ、様々な食用油に対して優れた耐油性能を示すため、特に食品用容器に好適である。さらに、本発明のフィルムはポリスチレン系樹脂の特性である高い透明性、光沢を有することを特徴とするため、様々な容器基材に対し、必要な美粧性を付与させることができる。
本発明のフィルムは耐油性に優れる為、従来のポリスチレン系樹脂フィルムに比べて、より幅広い用途で使用可能である。例えば、耐油性が必要とされている用途に使用されているポリプロピレン系樹脂やポリエステル系樹脂等にもラミネート加工し、光沢や高級感を付与することが可能であり、特に油に弱い事で知られているポリスチレン系樹脂の基材に対し、同素材である本発明フィルムを用いて耐油性能を付与することが可能である。これはリサイクルの観点からも非常に有用である。
【実施例】
【0019】
以下、実施例及び比較例により本発明を説明する。
[評価方法]
上記方法にて得られた耐油性フィルムに、サラダ油、MCTの2種類の油を用いて評価を行った。
耐油性フィルム上に、サラダ油(日清オイリオグループ(株)製)をメイヤーバーにて塗布後、熱風乾燥機にて90℃で30分間加熱し、フィルムの白化の有無を目視にて観察し、評価を行った。MCT(花王(株)製 ココナードMT)を用いた評価の場合も同様に塗布した後、熱風乾燥機にて70℃で5分間加熱し、同様に観察、評価を行った。なお、評価基準は、全く白化がないものを○、一部でも白化しているものを×とした。
【0020】
[使用した樹脂]
実施例及び比較例において、コーティング組成物として配合を行った炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体及び親水性高分子は下記のとおりである。
・メチルセルロース(以下、MC、という)
信越化学工業(株)製 メトローズ(登録商標)SM1500
・ヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、HPMC、という)
信越化学工業(株)製 メトローズ(登録商標)90SH−4000
・エチルセルロース(以下、EC、という)
Hercules(株)製 エトセルPremium(登録商標)7P
・ポリビニルアルコール(以下、PVA、という)
日本合成化学工業(株)製 ゴーセノール(登録商標)AL−06
・ポリビニルアルコール誘導体(以下、変性PVA、という)
日本合成化学工業(株)製 ゴーセファイマー(登録商標)Z−210
・カルボキシメチルセルロース(以下、CMC、という)
ダイセル化学工業(株)製 CMCダイセル(登録商標)1110
・ポリアクリル酸ナトリウム(以下、PA、という)
日本触媒(株)製 アクアリック(登録商標)FH(S)
・ポリビニルピロリドン(以下、PVP、という)
第一工業製薬(株)製 クリージャス(登録商標)K90
【0021】
[製造例]
本発明で用いるスチレン系樹脂フィルムの製造例を示す。
GPPS(汎用ポリスチレン、分子量330,000、ビカット軟化点106℃)97重量%と、HIPS(ハイインパクトポリスチレン、分子量350,000、ビカット軟化点94℃、ゴム分濃度6重量%、平均ゴム粒径3μm)3重量%とを配合した物を単軸スクリュー押出機を用い、樹脂を円環状のスリットのダイより押出し、インフレーション法にてバブルの中央温度117〜122℃で流れ(MD)方向に5.5倍、巾(TD)方向に6.3倍延伸し、厚さ25μmのフィルムを得た。
上記フィルムの片面にコロナ処理を施して親水化処理を行った(表面張力50dyn/cm)。コーティング組成物の0.1〜1.0重量%水溶液をメイヤーバーにて所定の塗布量となるように塗布を行い、90℃にて乾燥した。
【0022】
[実施例1〜4]
炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体を単独で使用した結果を表1に示す。実施例1にあるように、メチルセルロースを単独で使用した場合、サラダ油だけでなくMCTに対しても良好な耐油性能を示し、いずれの場合も全く白化は発生しなかった。さらに、実施例2に示すように、少ない塗布量においても同様に優れた耐油性能を示した。また、実施例3、4に示すように、エチルセルロースやメチルセルロース誘導体を用いた場合も同様の効果が得られた。
【0023】
[実施例5〜11]
炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体と、他の親水性高分子を併用した結果を表2に示す。実施例5〜7に示すように、ポリビニルアルコールを併用した場合も同様に、いずれの組成比においてもサラダ油、MCT、両方の油に対して良好な耐油性能を示した。また、実施例8に示すように、ポリビニルアルコール誘導体を用いた場合も同様の効果が得られた。さらに、実施例9〜11に示すように、ポリビニルアルコール類に限らず、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン等と併用した場合でも良好な耐油性能を示した。
【0024】
[比較例1〜6]
比較例を表3に示す。比較例1に示すとおり、何も塗布しない場合、耐油性能は全く示さなかった。また、比較例2〜6に示すとおり、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体を含まず、親水性高分子を単独で使用した場合には、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体と併用した場合に比べて塗布量を増やしてもMCTに対する十分な耐油性能は発現しなかった。これにより、MCTに対する耐油性能を発現させるのに炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体が必須であることが分かる。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、透明性、光沢、耐油性に優れることから、食品容器用ラミネートフィルムに好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水化処理されたスチレン系樹脂フィルム上に、炭素数1〜3の炭化水素の側鎖を有するセルロース誘導体が25〜100重量%、及び親水性高分子が75〜0重量%からなるコーティング組成物の塗膜が形成されていることを特徴とする耐油性フィルム。
【請求項2】
厚みが10〜70μmである請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
コーティング組成物の塗布量が10〜100mg/m2である請求項1又は2に記載のフィルム。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルムをラミネートした成形容器。

【公開番号】特開2007−77364(P2007−77364A)
【公開日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−270629(P2005−270629)
【出願日】平成17年9月16日(2005.9.16)
【出願人】(303046266)旭化成ライフ&リビング株式会社 (64)
【Fターム(参考)】