説明

耐油耐薬品性電線・ケーブル

【課題】十分な低コスト化が可能で、電気的特性や機械的特性等の特性を向上させることができる耐油耐薬品性電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】耐油耐薬品性電線10は、導体11外周に内層12Aおよび外層12Bからなる2層構造の被覆12を備え、内層12Aが、非フッ素系ポリマーを含有する組成物からなり、外層12Bが、ASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)が3.10〜3.40g/10分で、融点が170〜180℃のエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーを含有する組成物からなり、かつ外層12Bの厚さが0.03〜0.20mmである

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油耐薬品性電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車やFA(Factory Automation)関連機器等において使用される電線・ケーブルは、使用環境上、オイル類や薬品等に触れるおそれがあることから、耐油性、耐薬品性が要求される。このため、従来より、この種の用途に用いる電線・ケーブルとして、耐油性、耐薬品性に優れた材料として知られるフッ素系高分子材料で絶縁体やシースを形成した電線・ケーブルが開発されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
しかしながら、フッ素系高分子材料は高価であるうえに、押出機に耐食性を備えた特殊仕様のものを使用しなければならないため、上記のように、絶縁体やシース全体をフッ素系高分子材料で形成した場合には、コスト高となる難点がある。
【0004】
そこで、このような問題を解決するものとして、導体周上に、アクリルゴムを主成分とした組成物およびフッ素樹脂を順に被覆することにより2層構造の絶縁体を形成した電線が提案されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
しかしながら、この電線は、フッ素系高分子材料の一部をアクリルゴムを主成分とした組成物に代替することによって、材料コストは低減できるものの、押出機に耐食性を備えた特殊仕様のものを使用しなければならない点は従来と同様であり、コストの低減には限度がある。そのうえ、内層材料がアクリルゴムを主成分としたものに限られるため、電線・ケーブルに要求される電気的特性や機械的特性等の特性を十分に備えることができないという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−255513号公報
【特許文献2】特開2009−9744号公報
【特許文献3】特開2009−272100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような従来技術の課題を解決するためになされたもので、十分な低コスト化が可能で、しかも、材料の選択自由度が増すことによって、電気的特性や機械的特性等の特性を向上させることができる耐油耐薬品性電線・ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様である耐油耐薬品性電線・ケーブルは、導体外周に内層および外層からなる2層構造の被覆を備え、前記内層が、非フッ素系ポリマーを含有する組成物からなり、前記外層が、ASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)が3.10〜3.40g/10分で、融点が170〜180℃のエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーを含有する組成物からなり、かつ前記外層の厚さが0.03〜0.20mmであるものである。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様である耐油耐薬品性電線・ケーブルにおいて、前記外層の厚さが0.05〜0.20mmであるものである。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様である耐油耐薬品性電線・ケーブルにおいて、前記エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーのASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)が3.25〜3.35g/10分であるものである。
【0011】
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様のいずれかの態様である耐油耐薬品性電線・ケーブルにおいて、前記エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーは、分子内にエチレン鎖の水素原子を置換した極性官能基を有するものである。
【0012】
本発明の第5の態様は、第1の態様乃至第4の態様のいずれかの態様である耐油耐薬品性電線・ケーブルにおいて、前記内層および外層が、2層同時押出により形成されたものである。
【0013】
本発明の第6の態様は、第1の態様乃至第5の態様のいずれかの態様である耐油耐薬品性電線・ケーブルにおいて、前記非フッ素系ポリマーを含有する組成物が、ポリオレフィンをベースポリマーとする組成物であるものである。
【0014】
本発明の第7の態様は、第1の態様乃至第6の態様のいずれかの態様である耐油耐薬品性電線・ケーブルにおいて、前記被覆が、絶縁体またはシースであるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐油耐薬品性電線・ケーブルによれば、十分に低コスト化することができるとともに、材料の選択自由度が増すことによって、電気的特性や機械的特性等の特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る耐油耐薬品性電線を示す横断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る耐油耐薬品性ケーブルを示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、説明は図面に基づいて行うが、それらの図面は単に図解のために提供されるものであって、本発明はそれらの図面により何ら限定されるものではない。
【0018】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る耐油耐薬品性電線を示す横断面図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態の耐油耐薬品性電線10は、導体11上に、後述するような第1の樹脂からなる内層12Aと第2の樹脂からなる外層12Bの2層構造からなる絶縁体12を有している。
【0020】
導体11は、軟銅線等の導電性金属からなる線材の1本または複数本から構成される。具体的には、例えば28AWG(直径約0.381mm)、22AWG(直径約0.780mm)、または20AWG(直径約0.960mm)の、軟銅線からなる単線導体または撚線導体等が使用される。軟銅線は、すず、銀、ニッケル等のめっきが施されていてもよい。
【0021】
内層12Aを構成する第1の樹脂は、非フッ素系ポリマーを含有する組成物であり、代表的には、ポリオレフィンをベースポリマーとする絶縁被覆用組成物が使用される。ポリオレフィンとしては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)等のポリエチレン;ポリプロピレン(PP);ポリイソブチレン;エチレンに、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ウンデセン、1−ドデセン、1−トリデセン、1−テトラデセン、1−ペンタデセン、1−ヘキサデセン、1−ヘプタデセン、1−ノナデセン、1−エイコセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンを共重合させたエチレン・α−オレフィン共重合体;イソブチレン・イソプレン共重合体等が挙げられる。ポリプロピレンは、プロピレンのホモポリマーのみならず、エチレンとのランダムコポリマーやブロックコポリマー、少量のα−オレフィンとの共重合体等も使用することができる。α−オレフィンとしては、例えば1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン等が挙げられる。プロピレン・αオレフィン共重合体には、非共役ポリエンがさらに共重合されていてもよい。非共役ポリエンとしては、例えばジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン等が挙げられる。
【0022】
ポリオレフィンとしては、その他、エチレンに、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、パーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニル、シクロヘキサンカルボン酸ビニル等のビニルエステルを共重合させたエチレン・ビニルエステル共重合体;エチレンに、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸‐2‐エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の不飽和カルボン酸エステルを共重合させたエチレン・アクリル酸エステル共重合体;これらのエチレン系共重合体を不飽和カルボン酸またはその誘導体で変性したもの等も使用される。変性に用いる不飽和カルボン酸としては、例えば、例えば、マレイン酸、フマル酸、クロコン酸、イタコン酸、シトラコン酸が挙げられ、不飽和カルボン酸の誘導体としては、前記不飽和カルボン酸のエステル、無水物、金属塩、アミド、イミド等が挙げられる。不飽和カルボン酸の誘導体の具体例としては、マレイン酸モノエステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸モノエステル、フマル酸ジエステル、イタコン酸モノエステル、イタコン酸ジエステル、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸等が挙げられる。
【0023】
これらのポリオレフィンは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。ポリオレフィンとしては、電線・ケーブルの被覆材料として一般に使用されており、またリサイクルが容易な点から、なかでも、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン・アクリル酸エチル共重合体が好ましい。
【0024】
この非フッ素系ポリマーを含有する組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、電線・ケーブルの絶縁被覆材料に一般に使用される可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、銅害防止剤、紫外線吸収剤、熱老化防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、加工助剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、着色剤、安定剤等の添加剤を配合することができる。
【0025】
例えば、酸化防止剤として、フェノール系酸化防止剤をポリマー成分100質量部に対し1〜3質量部配合することができる。銅害防止剤として、ヒドラジン誘導体をポリマー成分100質量部に対し0.1〜5質量部配合することができる。滑剤として、脂肪酸誘導体をポリマー成分100質量部に対し1〜5質量部配合することができる。難燃剤として、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム等の金属水和物をポリマー成分100質量部に対し100〜250質量部配合することができる。難燃助剤として、シリコーンパウダーをポリマー成分100質量部に対し1〜10質量部配合することができる。摺動剤、難燃助剤として、シリコーン−アクリル複合ゴムをポリマー成分100質量部に対し1〜10質量部配合することができる。
【0026】
非フッ素系ポリマーを含有する組成物は、配合成分をバンバリーミキサ、タンブラー、加圧ニーダ、混練押出機、ミキシングローラ等の通常の混練機を用いて均一に混合することにより調製される。
【0027】
また、外層12Bを構成する第2の樹脂は、ASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)が3.10〜3.40g/10分、好ましくは3.25〜3.35g/10分で、融点が170〜180℃の範囲にあるエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)を含有する組成物である。エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーのASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)および融点のいずれか一方でも前記範囲を外れると、本発明による効果が得られなくなる。すなわち、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーのASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)が3.10g/10分未満では加工性および機械的特性が低下し、3.40g/10分を超えると過度に軟化するため、押出しができなくなる。また、融点が170℃未満では耐熱性が低下し、180℃を超えると押出し時に内側の被覆(内層12A)を劣化させ、所期の機械的特性が得られないおそれがあるうえ、押出し時に発生するガス量が増大するため、耐食性材料からなる特殊仕様の押出機を使用しなければならなくなり、コスト高となる。
【0028】
なお、内層12Aとの接着性を高める観点からは、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーは分子内にエチレン鎖の水素原子を置換した極性官能基を有するものであることが好ましい。内層12Aとの接着性を高めることにより、電線の加工性や配線時の作業性を高めることができ、また、外層12Bを被覆した際のしわの発生等を防止することができる。極性官能基としては、例えば、カルボキシル基、アミノ基等が挙げられる。
【0029】
この組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、フッ素樹脂に通常配合される添加剤を配合してもよい。また、上記特定の物性を有するエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー以外のフッ素系高分子ポリマー、例えば、上記範囲を外れた物性を有するエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーを始め、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレンコポリマー等も、本発明の効果を阻害しない範囲であれば配合してもよい。しかしながら、本発明の目的のためには、組成物は、ポリマー成分として、上記特定の物性を有するエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーのみを含有するものであることが好ましい。
【0030】
第2の樹脂材料として好適に使用されるエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーの市販品を例示すると、例えば、旭硝子(株)製のLAH−8000(商品名)等が挙げられる。ここで、LAH−8000の物性を、従来より汎用されているエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(旭硝子(株)製 商品名 AH−2000)の物性と対比して表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
内層12Aおよび外層12Bは、上記第1および第2の樹脂を導体11上に同時に押出被覆することにより、あるいは、まず第1の樹脂を導体11上に押出被覆し、次いで、その上に第2の樹脂を押出被覆することにより形成される。内層12Aと外層12Bとの密着性、生産効率、低コスト化等の観点からは、2層同時押出により形成することが好ましい。外層12Bの厚さは、通常、0.03〜0.20mm、好ましくは0.05〜0.20mmの範囲である。外層12Bの厚さが0.03mm未満では、均一な厚さの層形成が困難になるうえ、十分な耐油性、耐薬品性、耐摩耗性が得られないおそれがあり、外層12Bの厚さが0.20mmを超えると、引張強さが低下する。
【0033】
このように構成される耐油耐薬品性電線においては、絶縁体12が非フッ素系ポリマーを含有する組成物からなる内層12Aと、ASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)が3.10〜3.40g/10分で、融点が170〜180℃の範囲にある組成物からなる外層12Bにより構成されているので、従来のフッ素系高分子材料のみで絶縁体が形成されたものに比べ、材料コストを低減することができる。しかも、外層12Bを構成する組成物は、優れた耐油性、耐薬品性を有しながら、押出被覆の際は、耐食性の有する特殊仕様のものではなく、汎用の押出機を用いることができるため、製造コスト、設備コストも低減することができ、十分な低コスト化を図ることができる。さらに、内層12Aを形成する材料は、非フッ素系ポリマーを含有する組成物であればよく、材料の選択自由度が増すため、例えば、電気的特性、機械的特性等に優れたポリオレフィンをベースポリマーとする組成物を使用することができ、従来に比べ、電気的特性や機械的特性等の特性を向上させることができる。
【0034】
以上説明した実施形態は本発明を導体外周に絶縁体を有する絶縁電線に適用した例であるが、本発明は、例えば図2に示すような、導体外周に絶縁体およびシースが順に設けられた構造のケーブルにも適用することができる。
【0035】
すなわち、図2は、本発明の第2の実施形態に係る耐油耐薬品性ケーブルを示す横断面図である。本実施形態に係る耐油耐薬品性ケーブル20は、第1の実施形態と同様の導体11上に、絶縁体12を設け、その上に、第3の樹脂からなる内層13Aと第4の樹脂からなる外層13Bの2層構造からなるシース13を設けたものである。
【0036】
絶縁体12は、特に限定されるものではなく、第1の実施形態の内層12Aの材料として例示したもの等、従来よりケーブルの絶縁体の形成材料として一般に知られる絶縁性組成物を用いることができる。
【0037】
また、シース13の内層13Aを構成する第3の樹脂は、非フッ素系ポリマーを含有する組成物であり、代表的には、ポリオレフィンをベースポリマーとするシース用組成物が使用される。ポリオレフィンとしては、第1の実施形態の第1の樹脂で例示したものと同様のものが挙げられる。この非フッ素系ポリマーを含有する組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、ケーブルのシース材料に一般に使用される可塑剤、軟化剤、酸化防止剤、銅害防止剤、紫外線吸収剤、熱老化防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、加工助剤、架橋剤、架橋助剤、滑剤、着色剤、安定剤等の添加剤が配合されていてもよい。非フッ素系ポリマーを含有する組成物は、配合成分をバンバリーミキサ、タンブラー、加圧ニーダ、混練押出機、ミキシングローラ等の通常の混練機を用いて均一に混合することにより調製される。
【0038】
シース13の外層13Bを構成する第4の樹脂は、第1の実施形態の外層12Bを構成する第2の樹脂と同様の組成物、すなわち、ASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)が3.10〜3.40g/10分、好ましくは3.25〜3.35g/10分で、融点が170〜180℃の範囲にあるエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)を含有する組成物であり、第2の樹脂について記載した好ましい範囲や、添加剤に関する記載等は、第4の樹脂にもそのまま適用される。
【0039】
シース13の内層13Aおよび外層13Bは、上記第3および第4の樹脂を絶縁体12上に同時に押出被覆することにより、あるいは、まず第3の樹脂を絶縁体12上に押出被覆し、次いで、その上に第4の樹脂を押出被覆することにより形成される。内層13Aと外層13Bとの密着性、生産効率、低コスト化等の観点からは、2層同時押出により形成することが好ましい。外層13Bの厚さは、通常、0.03〜0.20mm、好ましくは0.05〜0.20mmの範囲である。外層13Bの厚さが0.03mm未満では、均一な厚さの層形成が困難になるうえ、十分な耐油性、耐薬品性、耐摩耗性が得られないおそれがあり、外層13Bの厚さが0.20mmを超えると、耐屈曲性等が低下する。
【0040】
このように構成される耐油耐薬品性ケーブル20においては、シース13が非フッ素系ポリマーを含有する組成物からなる内層13Aと、ASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)が3.10〜3.40g/10分、好ましくは3.25〜3.35g/10分で、融点が170〜180℃の範囲にあるエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)を含有する組成物からなる外層13Bにより構成されているので、従来のフッ素系高分子材料のみでシースが形成されたものに比べ、材料コストを低減することができる。しかも、外層13Bを構成する組成物は、優れた耐油性、耐薬品性を有しながら、押出被覆の際は、耐食性の有する特殊仕様のものではなく、汎用の押出機を用いることができるため、製造コスト、設備コストも低減することができ、さらなる低コスト化を図ることができる。さらに、内層13Aを形成する材料は、非フッ素系ポリマーを含有する組成物であればよく、材料の選択自由度が増すため、例えば、電気的特性、機械的特性等に優れたポリオレフィンをベースポリマーとする組成物を使用することができ、従来に比べ、電気的特性や機械的特性等の特性を向上させることができる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
実施例1
直径0.4mmのすずめっき軟銅線からなる単線導体上に、エチレン・アクリル酸エチル共重合体に水酸化マグネシウムを40質量%含有した難燃化ポリオレフィン(難燃PO)、およびMFR(230℃、2.16kg)3.15g/10分、融点179℃のETFEをこの順で2層同時押出により被覆して、厚さ0.36mmの内層および厚さ0.04mmの外層からなる絶縁体を形成し、外径約1.2mmの絶縁電線を製造した。
【0043】
実施例2〜6、比較例1〜5
絶縁体の内層および外層の各層厚、並びに外層のETFEのMFRおよび融点を表2に示すように変えた以外は実施例1と同様にして外径約1.2mmの絶縁電線を製造した。
【0044】
得られた絶縁電線について、下記に示す方法で各種特性を評価した。
[耐油性]
長さ10mの電線試料を試験油(JIS K 6258)に100℃×10日浸漬後、室温にてUL 1581に準拠して伸びを測定し、初期値に対する保持率を求めた。
[耐薬品性]
長さ10mの電線試料を有機溶剤(アセトン)に100℃×10日浸漬後、室温にてUL 1581に準拠して伸びを測定し、初期値に対する保持率を求めた。
[耐摩耗性]
JASO((社)自動車技術会規格)D608に規定されるブレード法による摩耗試験(ブレード先端部のR=0.7mm、荷重=500g、ブレード移動長=10mm、速さ=60サイクル/分(但し、1往復を1サイクルとする))を行い、ブレードと電線試料の導体が接触し導通を生ずるまでの回数を測定した。
[引張強さ、伸び]
UL1581に準拠し、長さ150mmの電線から内部の導体を引き抜いて作成した環状の試験片について、引張速度500mm/分および標点距離25mmの条件で測定した。
【0045】
これらの結果を、被覆(絶縁体)の構成とともに表2に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2から明らかなように、実施例1〜6はいずれも耐油性、耐薬品性、耐摩耗性、引張強さ、伸びにおいて、良好な結果が得られた。また、外層の厚さを0.05〜0.20mmとすることにより、耐油性、耐薬品性において、さらに良好な結果が得られた(実施例2、3、6)。さらに、外層を構成するETFEのMFR(230℃、2.16kg)を3.25〜3.35g/10分とすることにより、耐油性、耐薬品性、耐摩耗性、引張強さ、伸びにおいて、極めて良好な結果が得られた(実施例4、5)。
【符号の説明】
【0048】
11…導体、12…絶縁体、12A…(絶縁体の)内層、12B…(絶縁体の)外層、13…シース、13A…(シースの)内層、13B…(シースの)外層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体外周に内層および外層からなる2層構造の被覆を備え、前記内層が、非フッ素系ポリマーを含有する組成物からなり、前記外層が、ASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)が3.10〜3.40g/10分で、融点が170〜180℃のエチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーを含有する組成物からなり、かつ前記外層の厚さが0.03〜0.20mmであることを特徴とする耐油耐薬品性電線・ケーブル。
【請求項2】
前記外層の厚さが0.05〜0.20mmであることを特徴とする請求項1記載の耐油耐薬品性電線・ケーブル。
【請求項3】
前記エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーのASTM D1238に規定するMFR(230℃、2.16kg)が3.25〜3.35g/10分であることを特徴とする請求項1または2記載の耐油耐薬品性電線・ケーブル。
【請求項4】
前記エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマーは、分子内にエチレン鎖の水素原子を置換した極性官能基を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の耐油耐薬品性電線・ケーブル。
【請求項5】
前記内層および外層が、2層同時押出により形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の耐油耐薬品性電線・ケーブル。
【請求項6】
前記非フッ素系ポリマーを含有する組成物が、ポリオレフィンをベースポリマーとする組成物であることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の耐油耐薬品性電線・ケーブル。
【請求項7】
前記被覆が、絶縁体またはシースであることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の耐油耐薬品性電線・ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−14984(P2012−14984A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−151144(P2010−151144)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】