説明

耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料、ろう付用アルミニウム合金板及びそれを用いた自動車熱交換器用アルミニウム合金部材、並びに自動車熱交換器

【課題】塗膜層形成後に高湿度雰囲気下で保管した場合であっても劣化が生じることが無く、ろう付性の低下を防止することが可能な、耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料、ろう付用アルミニウム合金板及びそれを用いた自動車熱交換器用アルミニウム合金部材、並びに自動車熱交換器を提供する。
【解決手段】フラックス粉末と、酸化ケイ素、及び/又は、酸化アルミニウムを主成分とするとともに微細孔な構造を有する酸化化合物とが配合され、必要に応じてろう材粉末、及び/又は、アクリル樹脂系バインダが配合され、残部が溶媒とされたアルミニウム合金ろう付用塗料としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ろう付法によって製造される自動車熱交換器に用いられ、耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料、ろう付用アルミニウム合金板及びそれを用いた自動車熱交換器用アルミニウム合金部材、並びに自動車熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ラジエータやヒータコア等の水冷式の自動車熱交換器に用いられるアルミニウム部材においては、例えば、チューブ材やヘッダー材の片面にAl-Si系ろう材、もう一方の面にJIS規定7072合金などの犠牲陽極皮材をクラッドしたブレージングシートが使用されており、ベアフィン材と組み合わされ、ろう付けされて使用されている。
また、コンデンサ等のカーエアコン用材料においては、押出多穴管と、両面にろう材をクラッドした所謂クラッドフィン材が組み合わされ、ろう付けされて使用されている。このような自動車熱交換器用部材は、成形加工して熱交換器としての形状に組み付けられた後、フッ化物系フラックス(主としてKAlF)が塗布され、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気中でろう付されている。
【0003】
しかしながら、上述のような従来のろう付方法を用いた場合、アルミニウム合金クラッド材が非常に高価であり、また、フラックスが不均一で余剰となることから、製造コストが上昇するという問題がある。また、塗布工程においてフラックスの飛散が生じるので、作業者の健康管理等、環境面での対策が必要となり、設備管理面で維持費がかかることから、製造コストが大幅に上昇するという問題がある。またさらに、フラックスの脱落により、部材間の接合にろう付不良が生じるという問題がある。
【0004】
このため、最近では、上述のようなクラッド材を使用することなくろう付けする技術が開発されており、例えば、アルミニウム、銅、黄銅、鋼等の表面にSi、Cu、Geとフラックスからなる組成物を塗布し、上記金属とアルミニウム製部材とをろう付する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。特許文献1に記載の技術は、カーエアコンのコンデンサ等に応用され、押出多穴管に塗布したろう材組成物とベアフィンと組み合わせにより接合した熱交換器が実用化されている。特許文献1によれば、高価なクラッド材を用いることなくアルミニウム製部材をろう付することが可能となる。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、上記クラッド材を用いた場合と同様に、フラックスの塗布量が不均一となって余剰のフラックスが生じ、製造コストが上昇してしまうという問題がある。また、このような方法でろう付を行なう場合にはバインダを使用しないケースも多いため、上記同様、塗布後に行なわれる工程処理等において塗膜(フラックス)が欠落し、ろう付不良が生じる虞がある。また、上記同様、塗布工程においてフラックスの飛散が生じるので環境面での対策が必要となり、さらに、製造コストが上昇するという問題がある。
【0006】
また、加工前のアルミニウム合金基材にろう材やフラックス粉末を塗布し、これがプレス等の方法によって成形されてなる熱交換器が提案されている(例えば、特許文献2)。 特許文献2に記載のアルミニウム製熱交換器によれば、高価なアルミニウム合金クラッド材を使用することなく、また、フラックスが過剰に塗布されるのを防止できるとともに、バインダを用いた塗布処理を行うことで後工程における塗膜脱落を防止でき、ろう付法によって効率良く熱交換器を得ることが可能となる。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の熱交換器では、アルミニウム合金基材に対する塗膜の密着性はあまり高くないため、アルミニウム合金材に対して大きな変形を伴う加工処理を施した場合、塗膜の剥離が生じる虞がある。このため、上述のような塗膜を、成形加工が殆ど施されることのない押出材に塗布して用いた場合には問題が生じないものの、板材のように大きな成形加工が施される材料に塗布して用いる場合には、密着性が不足して塗膜剥離が生じ、ろう付不良が発生する虞がある。
また、特許文献2に記載のような塗膜が板材に形成されたものが用いられることもあるが、このような場合には、成形加工時に金型と接触しない部位にのみ塗膜が形成されて用いられるため、複雑な製品形状のものには適用することが出来ないという問題があった。
【0008】
上述したように、成形加工後の部材に上記塗膜を形成する特許文献1に記載のろう付方法においては、熱交換器組付け時に塗膜剥離が生じてしまい、また、予め上記成分からなる塗膜が形成されたプレコート板を用いて熱交換器を構成する特許文献2に記載の熱交換器のろう付方法では、部材の成形加工時に塗膜剥離が生じてしまい、何れにおいても高いろう付強度が得られないという問題があった。
【0009】
また、アルミニウム合金材加工時における塗膜密着性の向上を目的とし、特定基で置換されたエチレングリコールのモノアクリレートに由来する構成単位及び酸基含有エチレン性不飽和単量体に由来する構成単位を含有するアクリル酸エステル系共重合体からなるろう付け用バインダと、このろう付けバインダ100重量部あたり0.1〜50重量部の架橋剤とを含有するバインダ組成物とを用いてなるろう付け用組成物が提案されている(例えば、特許文献3)。
【0010】
しかしながら、特許文献3に記載のろう付用組成物をアルミニウム合金材に塗布して用いた場合、プレス加工やロールフォーミング等の強加工を施した際に、充分な耐塗膜剥離性が得られないという問題がある。
【特許文献1】特表平6−504485号公報
【特許文献2】特開平9−029487号公報
【特許文献3】特開2005−028400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
通常、フラックスやろう材粉末がアクリルバインダ等の樹脂で塗膜化され、ろう付塗膜層が形成されたアルミニウム合金材は、塗膜層形成後、通常、倉庫や工程上においてに一時的に保管されるが、この際の保管状態によっては、塗膜層が高い湿度に曝されることがある。上記特許文献1〜3に記載されたような、従来の組成のろう付用組成物からなる塗膜が形成されたアルミニウム合金材では、上述のような高湿度環境下において保管又は放置された場合、その期間が例え短期間であっても湿気によって塗膜層が劣化するため、その後の製造工程における使用の際に、ろう付性が著しく低下するという問題がある。このような塗膜層の劣化が生じるメカニズムとしては、例えば、以下に説明するようなことが考えられる。
【0012】
図5(a)、(b)は、アルミニウム合金基材100上に、フラックス110及びろう材であるSi粉末120がバインダ樹脂130によって固定され、ろう付塗膜層101として形成された状態を示す模式図である。ここで、図5(a)に示すような、アルミニウム合金基材100上に固定されたろう付塗膜層101は、高湿度に曝される状態で保管されると、図5(b)に示すように、フラックス110及びSi粉末120とバインダ樹脂130との界面に沿って水分が浸入するものと考えられる(図5(b)中の水分浸入部200を参照)。これは、図6(a)、(b)に示すように、フラックス110及びSi粉末120、あるいはアルミニウム合金基材100は無機物であり、一般的に表面には多数の水酸基が存在しているため、塗膜層形成時に、バインダ樹脂130中の水酸基との間で水素結合等を結ぶことによるものと考えられる。また、水酸基は水との親和性が強いため、水分を塗膜中に取り込みやすいことも原因の一つとして考えられる。
【0013】
そして、上記メカニズムによって水分が浸入することで、塗膜層中に存在する水分がアルミニウム合金基材100やフラックス110及びSi粉末120の酸化(腐食)を促進して酸化膜が増大し、ろう付時のフラックス110による酸化膜除去作用を阻害してしまう。また、ろう付時の昇温過程において、塗膜中に存在する水分が蒸発し、ろう付炉内の露点を上昇させることも、良好なろう付性を阻害する原因となる。
【0014】
上述のような問題を防止するため、例えば、空調管理の行き届いた場所に部材を保管して高湿度雰囲気中に曝されるのを抑制する等の方法が考えられるが、この場合には、塗膜形成後の部材管理に多大なコストを要し、製造コストが上昇してしまうという問題があった。このため、フラックスやろう材粉末等を含むアルミニウム合金ろう付用塗料において、塗膜層形成後に高湿度雰囲気中に曝された場合であっても、その後の工程においてろう付性が低下することの無い、耐湿性が高く、優れたろう付性備えるアルミニウム合金ろう付用塗料が求められていた。
【0015】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、塗膜層形成後に高湿度雰囲気下で保管した場合であっても劣化が生じることが無く、ろう付性の低下を防止することが可能な、耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料、ろう付用アルミニウム合金板及びそれを用いた自動車熱交換器用アルミニウム合金部材、並びに自動車熱交換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記問題を解決するため、アルミニウム合金ろう付用塗料に添加する成分について鋭意研究したところ、シリカゲル系化合物やゼオライト系化合物等、酸化ケイ素、及び/又は、酸化アルミを主成分とするとともに微細孔な構造を有する酸化化合物は、毛細管現象によって細孔内に効果的に水分子を取り込むことから吸湿性に優れており、このような酸化化合物をろう付用塗料に適正に添加することにより、ろう付に寄与するフラックスやろう付粉末、あるいはアルミニウム合金基材の表面に存在する水分を優先的に吸着させることが可能となることを知見した。また、このような酸化化合物は、微細孔構造ゆえに表面積が大きく、多くの官能基を有しているため、皮膜中のバインダや無機粉末群、またはシランカップリング剤等との間で水素結合や分子間結合することで、ろう付塗装膜の架橋密度が上がり、雰囲気中の水分のろう付塗装膜への侵入を阻止できることを知見した。そして、これらの作用により、ろう付処理時に、ろう付性の低下要因となる酸化皮膜の増加作用を抑制することで、優れた耐湿ろう付性が得られることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は以下に関する。
【0017】
(1)請求項1に記載の発明
フラックス粉末と、酸化ケイ素、及び/又は、酸化アルミニウムを主成分とするとともに微細孔な構造を有する酸化化合物とが配合され、必要に応じてろう材粉末、及び/又は、アクリル樹脂系バインダが配合され、残部が溶媒とされていることを特徴とする耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
(2)請求項2に記載の発明
前記酸化化合物が、酸化ケイ素を主成分とするシリカゲル系化合物と、酸化アルミニウム、及び/又は、酸化ケイ素を主成分とするゼオライト系化合物の内の何れか一方、あるいは両方からなることを特徴とする請求項1に記載の耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
(3)請求項3に記載の発明
前記シリカゲル系化合物、及び/又は、前記ゼオライト系化合物の総含有量が、前記フラックス粉末の含有量に対する質量比で6%以下の配合比とされていることを特徴とする請求項2に記載の耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
【0018】
(4)請求項4に記載の発明
請求項1〜3の何れか1項に記載の耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料からなるろう付塗膜層が、アルミニウム合金基材の少なくとも何れかの面に形成されてなることを特徴とするろう付用アルミニウム合金板。
(5)請求項5に記載の発明
請求項4に記載のろう付用アルミニウム合金板が用いられてなる自動車熱交換器用アルミニウム合金部材。
(6)請求項6に記載の発明
請求項5に記載の自動車熱交換器用アルミニウム合金部材が用いられてなる自動車熱交換器。
【発明の効果】
【0019】
本発明の耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料によれば、上述したように、フラックス粉末と、酸化ケイ素、及び/又は、酸化アルミニウムを主成分とするとともに微細孔な構造を有する酸化化合物の吸湿成分とが配合され、必要に応じてろう材粉末、及び/又は、アクリル樹脂系バインダが配合された構成により、フラックス粉末やろう材粉末、アクリル樹脂系バインダ、或いはろう付用塗料が塗布されるアルミニウム合金基材の表面に存在する水分を、効果的に吸湿することができ、また、ろう付塗装膜の架橋密度が上がり、雰囲気中の水分のろう付塗装膜への侵入を阻止できる。このような、耐湿性に優れたろう付用塗料を用いてアルミニウム合金基材上にろう付塗膜層を形成することにより、耐湿ろう付性及びろう付後の強度特性に優れたろう付用アルミニウム合金板が得られ、またさらに、該ろう付用アルミニウム合金板が用いられてなる自動車熱交換器用アルミニウム合金部材を構成することができる。従って、自動車熱交換器をろう付法によって製造する際の組立効率が向上し、また、自動車熱交換器を組み立てた後のろう付強度の向上が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明に係る耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料(以下、ろう付用塗料と略称することがある)、ろう付用アルミニウム合金板(以下、アルミ合金板と略称することがある)、及びそれが用いられてなる自動車熱交換器用アルミニウム合金部材(以下、アルミ合金部材と略称することがある)、並びに自動車熱交換器の実施の形態について、図1〜4を適宜参照しながら説明する。
【0021】
[アルミニウム合金ろう付用塗料]
本実施形態のろう付用塗料(図1に示すろう付塗膜層3も参照)は、フラックス粉末と、酸化ケイ素、及び/又は、酸化アルミニウムを主成分とするとともに微細孔な構造を有する酸化化合物とが配合され、必要に応じてろう材粉末、及び/又は、アクリル樹脂系バインダが配合され、残部が溶媒とされ、概略構成されてなる。
【0022】
「フラックス粉末」
フラックス粉末は、シリカゲル系化合物、及び/又は、ゼオライト系化合物とともに配合されて本実施形態のろう付用塗料をなす。
本実施形態で用いるフラックス粉末は、図1に例示するような、ろう付用塗料からなるろう付用塗膜層3が形成されたアルミ合金板1のろう付を行う際に、フラックス粉末をなすKAlF等が溶融してアルミ合金板1及びろう材粉末の酸化膜を破壊し、ろう付性を高めるものである。
フラックス粉末としては、一般的に用いられる、KAlF、KZnF、KSiF等のフッ化物系フラックスを適宜選択し、これらの内の何れかを単独か、あるいは2種以上を混合することにより、何ら問題なく使用することができる。この際、2種以上のフラックスを混合して用いた場合でも、フラックス粉末としての特性に影響を及ぼすことは無い。
【0023】
フラックス粉末の粒径は、例えば、図1に示すようなアルミニウム合金基材2上に本実施形態のろう付用塗料を塗布して形成される、ろう付塗膜層3の全体の厚みに制限を受けるが、本質的に密着性や塗膜強度に影響を及ぼすことは無い。また、フラックス粉末は、その成分組成の全粒子の平均粒径が1〜5μm以下であることが好ましい。フラックス粉末の全粒子の粒径を上記とすることにより、ろう付性を向上することができる。
フラックス粉末の粒径が5μmを超えると、例えば、図3に示すような、複数のチューブが整列されてなるラジエータ20を組み付けた際、チューブ(自動車熱交換器用アルミニウム合金部材)10とフィン22の接合部に、粒径の大きなフラックス粉末が介在して組み付けられた状態となる。この状態で加熱ろう付処理を行った場合、粒径の大きなフラックス粉末が溶解することにより、チューブ10とフィン22の間が縮寸してろう付される。チューブ10及びフィン22を、例えば数10段重ねて組み付けた場合には、各接合部における縮寸が積算され、ラジエータコア内の寸法が数mm単位で大きくずれてしまい、ろう付不良を起こす虞がある。
なお、通常使用するフラックス粉末の粒径の下限は1μmである。
【0024】
「吸湿成分(酸化化合物:シリカゲル系化合物、ゼオライト系化合物)」
本発明に係るアルミニウム合金ろう付用塗料には、吸湿作用を有する酸化ケイ素、及び/又は、酸化アルミニウムを主成分とするとともに微細孔な構造を有する酸化化合物が含有される。また、本実施形態では、上述した微細孔な構造を有する酸化化合物が、酸化ケイ素を主成分とするシリカゲル系化合物と、酸化アルミニウム、及び/又は、酸化ケイ素を主成分とするゼオライト系化合物の内の何れか一方、あるいは両方からなる例を説明する。
【0025】
ろう付用塗料にシリカゲル系化合物を添加する場合、シリカゲル系化合物の種類は特に限定されず、従来公知の吸湿作用を有するシリカゲル系化合物を何ら制限無く用いることができ、例えば、酸化ケイ素(SiO)が主成分とされたものを用いることができる。
また、ろう付用塗料にゼオライト系化合物を添加する場合にも、ゼオライト系化合物の種類は特に限定されず、従来公知の吸湿作用を有するゼオライト系化合物、例えば、酸化アルミニウム(Al)やSiOが主成分とされたものを用いることができる。
本発明で用いられるシリカゲル系化合物やゼオライト系化合物は、上記成分が主成分の化学組成とされることで充分な耐湿性を有するろう付用塗料を構成することができる。また、上記各成分は、天然物を加工して得られるものでも良いし、或いは工業的に剛性されたものであっても良い。
【0026】
また、ろう付用塗料に添加されるシリカゲル系化合物やゼオライト系化合物の粒径としては、特に限定されず、また、上述したフラックス粉末の粒径と同様、アルミニウム合金基材2上に形成されるろう付塗膜層3の全体の厚みに制限を受けるが、本質的に密着性や塗膜強度に影響を及ぼすことは無い。また、シリカゲル系化合物やゼオライト系化合物の粒径は、アルミニウム合金基材2上への塗装作業等、製造工程における実用性を考慮した場合、粒径がそれぞれ100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0027】
本実施形態のろう付用塗料においては、シリカゲル系化合物、及び/又は、ゼオライト系化合物の総含有量が、フラックス粉末の含有量に対し、質量比で6%以下の配合比とされていることが好ましい。
吸湿成分であるシリカゲル系化合物やゼオライト系化合物の配合比については、主成分であるAlやSiOが、塗膜層構成成分であるろう材粉末や、ろう付用塗料が塗布されるアルミニウム合金基材の酸化膜相当成分であることから、過剰な添加は、ろう付時のフラックス粉末による酸化膜除去作用を阻害する要因となるため、適正範囲で配合することが必要となる。
【0028】
本発明者等は、ろう付用塗料へのシリカゲル系化合物やゼオライト系化合物の最適な配合比について鋭意研究した結果、これら吸湿成分の総配合量を、ろう付用塗料に配合するフラックス粉末の含有量に対し、質量比で6%以下の配合比となるように制御することにより、優れた初期ろう付性及び耐湿ろう付性が両立できることを初めて見出した。
【0029】
なお、上述したような、フラックス粉末の含有量に対する、シリカゲル系化合物やゼオライト系化合物の配合比は、実用的な粒径である10μm以下のシリカゲル系化合物やゼオライト系化合物を用いた場合の最適値である。一方、例えば、10μmを超える粒径のシリカゲル系化合物やゼオライト系化合物を用いる場合には、これらシリカゲル系化合物やゼオライト系化合物の質量比表面積の変化を伴うと考えられるため、フラックス粉末の含有量に対する配合比は、上記範囲(6%以下)の限りではない。
【0030】
一般に、アルミニウム合金材ろう付用塗料においては、バインダとしてアクリル樹脂系バインダが用いられる。そして、ろう付用塗料に、一般的なシランカップリング剤としてモノシラン類シランカップリング剤を配合した場合には、図4に示す模式図のように、アクリル系樹脂バインダ−アルミニウム合金基材間、ろう材粉末−アクリル樹脂系バインダ間、並びに、フラックス粉末−アクリル樹脂系バインダ間の結合力が向上する。この場合、例えば、温度:30℃、湿度:90%RT、試験時間:1ヶ月、等の条件とされた高湿度雰囲気中に保管後、ろう付用塗料からなる塗膜層の耐湿密着性評価を行なうと、初期状態(初期密着性)と同等の密着性が得られることが、本発明者等の実験によって確認されている。しかしながら、本発明者等が鋭意研究を行い、上述したようなモノシラン類シランカップリング剤が配合されたろう付用塗料を用いて塗膜層を形成し、高湿度雰囲気中に保管後に耐湿ろう付性を確認した結果、初期状態でろう付を行なった場合のろう付性に比べ、ろう付後残渣が増加する傾向があり、必ずしも充分且つ実用的な耐湿ろう付性が得られないことが明らかとなった。
【0031】
このため、本発明者等は、ろう付用塗料にシリカゲル系化合物やゼオライト系化合物等、酸化ケイ素、及び/又は、酸化アルミを主成分とするとともに微細孔な構造を有する酸化化合物を配合し、この酸化化合物が有する毛細管現象によって細孔内に効果的に水分子を取り込むことで、ろう付に寄与するフラックスやろう材粉末、あるいはアルミニウム合金基材の表面に存在する水分を優先的に吸湿させることに着目した。またさらに、上述のような酸化化合物は、微細孔構造ゆえに表面積が大きく、多くの官能基を有しているため、皮膜中のバインダや無機粉末群、またはシランカップリング剤等との間で水素結合や分子間結合することで、皮膜の架橋密度が上がり、雰囲気中の水分の皮膜への進入を阻止し得ることに着目した。そして、これらの作用により、ろう付処理時における酸化皮膜の増加作用を抑制することで、上記条件とされた高湿度雰囲気中に保管後にろう付を行なった場合でも、初期状態におけるろう付の際と同様、残渣の無い優れたろう付性を有する塗膜層を得るに至った。
【0032】
「ろう材粉末」
ろう材粉末は、本発明における選択成分であり、フラックス粉末、シリカゲル系化合物やゼオライト系化合物等とともに、ろう付用塗料に含有されるろう材であり、ろう付時にアルミニウム合金基材(図1の符号2参照)内部に拡散することによってろうを形成する。
ろう材粉末としては、例えば、Si粉末、Al-Si合金粉末、Al−Cu合金粉末等、従来公知のものを使用することが可能であり、これらの内の何れかを単独又は2種類以上を混合して使用することができ、さらに不可避的不純物を含有するものである。
【0033】
ろう材粉末の粒径は、上述のフラックス粉末等と同様、アルミニウム合金基材2上に形成されるろう付用塗膜層3の全体の厚みに制限を受けるが、本質的に密着性や塗膜強度に影響を及ぼすことは無い。
なお、本実施形態のろう付用塗料が塗膜層として塗布されてなるアルミニウム合金板がラジエータチューブ材等に用いられ、塗膜塗布量が20g/m以下と比較的薄膜を適用する場合には、エロージョンを抑制するために、ろう材粉末の粒径は10μm以下とすることが好ましい。但し、主粒径が1μm未満だと、粉末の表面積が増大し、フラックスを増量することが必要となるため、ろう材粉末の粒径は1〜10μmの範囲とすることがより好ましい。一方、アルミニウム合金板がラジエータヘッダープレート材等に用いられ、塗布量が40g/m以上と比較的厚膜を適用する場合には、粒径による酸化膜の増大を抑制するため、10μm以上の粒径とすることが好ましく、20μm以上の粒径のものを用いるのがより好ましい。但し、部材の板厚により、許容できるエロージョン深さが限られることから、例えば、1mmt以上のヘッダー部材においては、粒径の上限を75μm程度とすることが好ましい。
【0034】
「アクリル樹脂系バインダ」
アクリル樹脂系バインダは、本発明における選択成分であり、上述のろう材粉末と同様、フラックス粉末、シリカゲル系化合物やゼオライト系化合物等とともにろう付用塗料に含有され、ろう材粉末やフラックス粉末をアルミニウム合金基材2に固定する作用を有する。
一般的に、ろう付用のバインダとしてはアクリル樹脂系バインダが用いられ、ろう付塗料からなるろう付用塗膜層のアルミニウム合金基材に対する密着性や塗膜強度を付与する基として、リン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基、水酸基等の官能基が採用され、これらの配合比が、ろう付時の残炭性を考慮しながら決定される。
【0035】
本実施形態のろう付用塗料に配合されるアクリル樹脂系バインダとしては、従来公知のものを何ら制限無く採用することが可能であり、一般的なアクリル系樹脂であれば、何れの樹脂であっても一定の固定効果が得られ、また、分子量が約20000〜500000の範囲のものであれば、より大きな効果が得られる。またさらに、主骨格として、メタクリル酸アルキルエステル単量体、アクリル酸アルキルエステル単量体、水酸基を含有するエチレン性不飽和単量体の各々を共重合して得られるアクリル系樹脂を用いた場合には、後述のシランカップリング剤を併用することにより、塗膜の密着性がより向上する点でより好ましい。
【0036】
「シランカップリング剤」
本実施形態のろう付用塗料においては、上記各成分に加え、図1に示すようなアルミニウム合金基材2に塗布された後、塗膜乾燥時の脱水縮合反応により、塗膜強度や基材密着性の向上に寄与するシランカップリング剤を配合した構成とすることができる。一般に、ろう付用塗料に配合されるシランカップリング剤としては、モノシラン類シランカップリング剤が挙げられる。
【0037】
上述したモノシラン類シランカップリング剤においては、図4の模式図に示すように、一方の末端基が脱水縮合反応を起すアルコキシル基からなる無機官能基となり、他方の末端基である有機官能基と併せて、アルミニウム合金基材とアクリル樹脂系バインダとの間、並びに、ろう材粉末とアクリル樹脂系バインダとの間の結合力を高める作用がある。通常、シランカップリング剤の脱水縮合反応を起すアルコキシル基は、無機物(アルミニウム合金基材2、フラックス粉末、ろう材粉末)と結合する一方、有機反応基はアクリル樹脂系バインダと結合するため、上記作用が得られる。このような作用により、ろう付用塗料にモノシラン類シランカップリング剤を配合した場合には、ろう付用塗料のアルミニウム合金基材に対する耐湿密着性を向上させることが可能となる。
また、吸湿成分であるシリカゲル系化合物やゼオライト系化合物とともに、耐湿密着性の向上を目的としてシランカップリング剤を配合した場合であっても、上記吸湿作用を阻害するものではないので、耐湿ろう付性を向上させる本発明の効果が充分に得られる。
【0038】
以上説明したような、本実施形態の耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料によれば、上述したように、フラックス粉末と、酸化ケイ素、及び/又は、酸化アルミニウムを主成分とするとともに微細孔な構造を有する酸化化合物の吸湿成分とが配合され、必要に応じてろう材粉末、及び/又は、アクリル樹脂系バインダが配合された構成により、フラックス粉末やろう材粉末、アクリル樹脂系バインダ、或いはろう付用塗料が塗布されるアルミニウム合金基材の表面に存在する水分を、効果的に吸湿することができ、また、ろう付塗装膜の架橋密度が上がり、雰囲気中の水分のろう付塗装膜への侵入を阻止できる。このような、耐湿性に優れたろう付用塗料を用いてアルミニウム合金基材上にろう付塗膜層を形成することにより、耐湿ろう付性及びろう付後の強度特性に優れたろう付用アルミニウム合金板を構成することが可能となる。
【0039】
[ろう付用アルミニウム合金板]
以下に、本発明に係るろう付用アルミニウム合金板(アルミ合金板)1について、図1〜3を適宜参照しながら説明する。
本実施形態のアルミ合金板1は、上述したような本発明に係る耐湿ろう付性に優れたアルミニウム合金ろう付用塗料が、アルミニウム合金基材2の少なくとも何れかの面に形成されてなる。図1に示す例の本実施形態のアルミ合金板1は、アルミ合金基材2の一面2a側に、上記ろう付用塗料からなるろう付塗膜層3が形成されている。
【0040】
(アルミニウム合金基材)
アルミニウム合金基材2は、本実施形態のアルミ合金板1の基材であり、従来公知のアルミニウム合金材を何ら問題無く用いることができ、例えば、Siと、Mnと、残部Al及び不可避不純物を含有した成分組成とされ、必要に応じて強度特性や耐エロージョン性等を向上させるための、他の元素が添加されてなる。
図1に示す例では、アルミニウム合金基材2の一面2aのみに、上述したようなろう付用塗料からなるろう付塗膜層3が形成されているが、他面2a側にもろう付塗膜層3が設けられた構成としても良い。また、一面2a側にろう付塗膜層3を設け、他面2b側に、アルミ合金板の耐食性を向上させるためのZnを含む犠牲材塗膜層を設けた構成とすることもできる。
【0041】
(ろう付塗膜層の形成方法)
上述のろう付塗料をアルミニウム合金基材2の一面2aに塗布してろう付塗膜層3とする際に用いられる溶媒としては、特に限定されず、バインダに用いられる樹脂が有機系の場合には従来公知の有機溶剤を用い、水溶性樹脂の場合には水を溶媒とすることができる。有機溶剤としては、作業上の取り扱いの容易さや環境面等から、3−メトキシ−3メチル−1−ブタノールを好適に用いることができる。
【0042】
上記ろう付用塗料のアルミニウム合金基材2の一面2aへの塗布方法としては、塗布される部材や塗布量等を勘案しながら適宜選択すれば良く、例えば、ロールコート、ダイコート、フローコート、スプレー、シャワー、浸漬、刷毛、バーコート等の各種手段を選択して用いることができる。これら塗布方法の違いにより、ろう付塗膜層3の特性に違いが生じることは無い。但し、各塗布方法において粘度等の最適値があるため、溶媒配合比を適宜最適化することが好ましい。また、用いられるアルミニウム合金基材2についても、その材質は塗膜密着性等の特性には影響しない。
また、ろう付塗膜層3は、アルミ合金基材2の一面2aの全体に形成しても良いが、例えば、アルミ合金板1においてろう付を行なう箇所にのみ形成された構成としても構わない。
【0043】
なお、上述したように、耐湿密着性の向上を目的として、シランカップリング剤をろう付用塗料に配合した場合には、アルミニウム合金基材2への塗布によってろう付塗膜層3とされる前に、アルコキシル基側の加水分解が必要となるが、有機溶剤を用いた場合でも、空気中に含まれる湿気によって加水分解が進むため、積極的に水を添加しなくとも、シランカップリング剤を添加することによる作用は得られる。しかしながら、空気中の水分量は変動が大きいこともあり、必ずしも充分な加水分解が得られないことがある。加水分解されずに残ったアルコキシル基は、アルミ合金基材等との無機物との反応性が低いため、密着性の向上にも充分には寄与しない。また、加水分解されずにアルコキシル基が残ることは、ろう付雰囲気中において有害なガスの発生源ともなり得るため、好ましくない。このため、ろう付用塗料にシランカップリング剤を配合する場合には、シランカップリング剤の加水分解促進剤として、予め、加水分解に必要な量の水を添加した構成とすることが、未加水分解のアルコキシル基が残るのを抑制することができ、優れた塗膜密着性が得られる点から好ましい。
【0044】
(犠牲材塗膜層)
本実施形態のアルミ合金板1では、上述したように、アルミニウム合金基材2の他面2b側に、Znを含有するフラックス粉末と、上述のようなバインダとを含有する組成物からなる犠牲材塗膜層が設けられた構成としても良い。
ここで、Znを含有するフラックス粉末としては、例えば、ZnF、KZnF等のフッ化物系フラックスを用いることができ、さらに、KAlF等を混合して用いても良い。
【0045】
アルミニウム合金基材2の他面2b側に、Znを含む犠牲材塗膜層を設けることにより、アルミ合金板1の他面1b(アルミニウム合金基材2の他面2b)側の耐食性を向上させることが可能となる。
また、図2に示す例のように、アルミ合金板1からなるチューブ10(ろう付用アルミニウム合金部材)を形成する際には、犠牲材塗膜層が設けられる他面1b(他面2b)側が内側となるようにチューブ形成することにより、チューブ10の内側に形成された流通孔10a内面の耐食性が向上し、該流通孔10a内を流れる冷却液による腐食進行を防止することができる。
【0046】
[自動車熱交換器用ろう付用アルミニウム合金部材並びに自動車熱交換器]
上述したような本実施形態のろう付用アルミニウム合金板1は、例えば、図2に示すようなラジエータチューブ(自動車熱交換器用アルミニウム合金部材:以下、チューブと略称することがある)10をなす合金板材として用いることができ、また、チューブ10は、図3に示すようなラジエータ(熱交換器)20に組み込まれて用いられる。
チューブ10は、アルミニウム合金板1を、他面1b側が内側となるように折り曲げ、両端部(図示略)を接合して加工することにより、内部に流通孔10aを有する中空扁平状のチューブ材として得られる。
【0047】
図3に示すラジエータ20は、例えば自動車のラジエータ等に用いられ、チューブ10と、ヘッダー21と、フィン22と、サイドサポート23とから概略構成されている。ラジエータ20は、ろう付接合によってチューブ10、ヘッダー21及びフィン22が各々一体化され、更に樹脂タンクが機械的接合(かしめ加工)により取り付けられて製造される。
そして、ラジエータ20において、ヘッダー21とチューブ10とは、ヘッダー21の下面に複数整列形成されたスロット(差込孔)21aに各チューブ10の端部を差し込み、差込部分の周りに配置したろう材を用いて両者を相互にろう付するとともに、チューブ10とフィン22は、チューブ10の表面に塗布された組成物、つまり、アルミ合金板1の一面1a側(アルミニウム合金基材2の一面2a側)に設けられたろう付塗膜層3を用いて、両者を相互にろう付けすることで組み立てられている。
【0048】
(ろう付方法)
図3に示すような、本実施形態のアルミニウム合金板1からなるチューブ10を備えたラジエータ20の組立、ろう付を行う際は、ヘッダー21に、ろう付塗膜層3が表面に設けられたチューブ10及びフィン22を組み付けた後、窒素雰囲気中等の適当な雰囲気で適温に加熱してろう材を溶解させる。
ろう付熱処理は、580℃乃至610℃程度で行うことが好ましく、保持時間は1分乃至10分程度が好ましい。ろう付時の温度が580℃未満だと、ろう材及びアルミニウム合金基材の一部溶解が進まず、良好なろう付を行うことが困難になる。また、ろう付時の温度が610℃を超えると、著しい侵食が生じる虞がある。
【0049】
上述のラジエータ20の構造によれば、チューブ10を差し込むためのスロット21aが下面に設けられたヘッダー21にチューブ10が接合されているので、組立品全体のろう付け後の強度を高くすることができる。
【0050】
以上説明したように、本実施形態のろう付用アルミニウム合金板1によれば、本発明に係るろう付用塗料からなるろう付塗膜層3が設けられた構成とされているので、該ろう付塗膜層3の耐湿ろう付性及び密着性が向上し、ろう付後の強度特性に優れたろう付用アルミニウム合金板1が得られる。また、本実施形態のろう付用アルミニウム合金板1を用いてチューブ(自動車熱交換器用アルミニウム合金部材)10を構成することができ、さらに、チューブ10を用いてラジエータ(自動車熱交換器)20を構成した場合には、該ラジエータ20をろう付法によって製造する際の組立効率が向上し、また、ラジエータ20の組立後の強度を向上させることができる。従って、自動車熱交換器をろう付法によって製造する際の組立効率が向上し、また、自動車熱交換器を組み立てた後のろう付強度の向上が可能となる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例を示して本発明の耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料を更に詳しく説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
以下に、アルミニウム合金板の作製工程及び評価試験項目について説明する。
【0052】
[作製工程]
まず、アルミニウム合金材として3003−H14を用い、板厚が0.25mmtのアルミニウム合金基材を作製した。
また、ろう付塗膜層として塗布するろう付用塗料として、下記表1に示す組成比のものを配合して作製した。
そして、図1に示すように、アルミニウム合金基材の一面側に、各成分組成のろう付塗膜層をなす組成物を、約20g/mの量でバーコーターを用いて塗布した後、150℃の温度で5分間乾燥させてろう付塗膜層3を形成し、本発明に係るアルミニウム合金板1及び従来のアルミニウム合金板を、表1に示す作製条件毎に得た。
【0053】
なお、下記表1に示す組成のろう付用塗料に配合するアクリル樹脂系バインダとしては、従来公知の一般的なアクリル系樹脂を用い、また、溶媒としては、3−メトキシ−3メチル−1−ブタノールを用いた。
また、各実施例において用いられるシリカゲル系化合物、並びにゼオライト系化合物としては、粒径が10μm以下のものを用いた。
【0054】
[評価試験]
上記作製工程で得られたアルミニウム合金板について、以下に説明する「初期ろう付性」及び「耐湿ろう付性」の2項目について評価、判定した。
【0055】
(初期ろう付性)
下記表1に示す各組成のろう付用塗料を用い、上記作製工程と同様の方法を用いて、以下に示す仕様とされたアルミニウム合金板を、下記表1に示す各実施例及び比較例の作製条件毎に得た。
(a)ろう材塗膜用合金:A3003ベア材、0.25mmt、調質H14
(b)フラックス塗膜用合金:A3003/A4343クラッド材、0.25mmt、クラッド率10%(両面)、調質H14
【0056】
次いで、直ちに、図2に示すようにアルミニウム合金板を折り曲げ、両端部を接合して加工し、中空扁平状の電縫チューブ材を、表1に示すアルミニウム合金板条件毎で製造した。
そして、上記方法で得られたチューブ材を、図3に示すようなラジエータ(熱交換器)に取り付け、窒素雰囲気中において、600℃の温度で3分間のろう付熱処理を行なった後、チューブへのフィン接合率を調べた。この際、フィンとして、A3003ベア材(0.1mmt)を用いた。
この際、フィン接合率(%)は、次式(1)によって求めた。
(ろう形成面積/チューブとフィンとの設置面積)×100 ・・・(1)
【0057】
そして、上記(1)式によって求めたフィン接合率から、各サンプルのろう付性を評価し、以下の評価基準で判定した。
(1)○:フィン接合率が90%以上であった。
(2)△:フィン接合率が80%以上90%未満であった。
(3)×:フィン接合率が80%未満であった。
【0058】
(耐湿ろう付性)
下記表1に示す各組成のろう付用塗料を用い、上記初期ろう付性の評価の説明と同様の材料及び方法を用い、アルミニウム合金板を、下記表1に示す各実施例及び比較例の作製条件毎に得た。
その後、各実施例及び比較例のアルミニウム合金板サンプルを、温度30℃×相対湿度90%RT環境下に1ヶ月間(30日間)保管した。
次いで、上記初期ろう付性の評価の説明と同様にして、図2に示すようにアルミニウム合金板を折り曲げ、両端部を接合して加工し、中空扁平状の電縫チューブ材を、表1に示すアルミニウム合金板条件毎で製造した後、得られたチューブ材を図3に示すようなラジエータ(熱交換器)に取り付け、600℃の温度で3分間のろう付熱処理を行なった後、チューブへのフィン接合率を調べた。
この際、フィンとしては、上記初期ろう付性の評価の説明と同様の用い、また、同様にしてフィン接合率を求めて各サンプルのろう付性を評価し、判定した。
【0059】
各実施例及び比較例の作製条件及び評価試験結果の一覧を下記表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
[評価結果]
表1に示すように、本発明で規定する成分組成を有するアルミニウム合金ろう付用塗料が、アルミニウム合金材に塗布されてなるろう付用アルミニウム合金板は、初期ろう付性及び耐湿ろう付性の何れも「○」の評価であり、高湿度雰囲気中に保管或いは放置された場合であっても、高いろう付性を示すことが明らかとなった。
【0062】
これに対し、吸湿成分であるシリカゲル系化合物及びゼオライト系化合物の何れも添加しなかった比較例1では、初期ろう付性は「○」の評価だったものの、耐湿ろう付性の評価が「×」となった。
また、シリカゲル系化合物及びゼオライト系化合物の何れも添加せず、さらに、ろう材粉末を添加しなかった比較例2においても、初期ろう付性は「○」の評価だったものの、耐湿ろう付性の評価が「×」となった。
【0063】
上記結果により、本発明の耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料からなるろう付塗膜層が形成されたろう付用アルミニウム合金板が、如何なる耐湿雰囲気中に保管された条件であっても、耐湿ろう付性に優れていることが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明に係る耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料が塗布され、ろう付塗膜層が形成されたろう付用アルミニウム合金板の一例を示す断面図である。
【図2】本発明に係る耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料が塗布され、ろう付塗膜層が形成されたろう付用アルミニウム合金板からなるチューブ(自動車熱交換器用アルミニウム合金部材)の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るろう付用アルミニウム合金板からなるチューブ(自動車熱交換器用アルミニウム合金部材)を用いたラジエータ(自動車熱交換器)の一例を示す斜視図である。
【図4】本発明に係る耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料が塗布され、ろう付塗膜層が形成されたろう付用アルミニウム合金板の他の例を説明する模式図であり、モノシラン類シランカップリング剤とアクリル樹脂系バインダとの間、並びにモノシラン類シランカップリング剤と無機物との間の結合構造を示す概略図である。
【図5】従来のアルミニウム合金ろう付用塗料が塗布され、ろう付塗膜層が形成されたろう付用アルミニウム合金板を説明する模式図である。
【図6】従来のアルミニウム合金ろう付用塗料が塗布され、ろう付塗膜層が形成されたろう付用アルミニウム合金板を説明する模式図である。
【符号の説明】
【0065】
1…ろう付用アルミニウム合金板、1a…一面、1b…他面、2…アルミニウム合金基材、2a…一面、2b…他面、3…ろう付塗膜層(アルミニウム合金ろう付用塗料)、10…チューブ、10a…流通孔、20…ラジエータ(自動車熱交換器)、21…ヘッダー、22…フィン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラックス粉末と、酸化ケイ素、及び/又は、酸化アルミニウムを主成分とするとともに微細孔な構造を有する酸化化合物とが配合され、必要に応じてろう材粉末、及び/又は、アクリル樹脂系バインダが配合され、残部が溶媒とされていることを特徴とする耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
【請求項2】
前記酸化化合物が、酸化ケイ素を主成分とするシリカゲル系化合物と、酸化アルミニウム、及び/又は、酸化ケイ素を主成分とするゼオライト系化合物の内の何れか一方、あるいは両方からなることを特徴とする請求項1に記載の耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
【請求項3】
前記シリカゲル系化合物、及び/又は、前記ゼオライト系化合物の総含有量が、前記フラックス粉末の含有量に対する質量比で6%以下の配合比とされていることを特徴とする請求項2に記載の耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の耐湿ろう付性に優れるアルミニウム合金ろう付用塗料からなるろう付塗膜層が、アルミニウム合金基材の少なくとも何れかの面に形成されてなることを特徴とするろう付用アルミニウム合金板。
【請求項5】
請求項4に記載のろう付用アルミニウム合金板が用いられてなる自動車熱交換器用アルミニウム合金部材。
【請求項6】
請求項5に記載の自動車熱交換器用アルミニウム合金部材が用いられてなる自動車熱交換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−269043(P2009−269043A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−119768(P2008−119768)
【出願日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【出願人】(000176707)三菱アルミニウム株式会社 (446)