説明

耐熱性、機械特性を向上させた樹脂組成物およびその製造法

【課題】少量あるいは多量の添加であっても効率よく機械特性、耐熱性、寸法安定性を向上させたポリ塩化ビニル系樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜100重量部とからなるポリ塩化ビニル系樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリ塩化ビニル系樹脂と窒化ホウ素ナノチューブとを均一に分散させたポリ塩化ビニル系樹脂組成物、およびその製造方法に関する。更に詳しくは、構造の規定された無機のナノチューブをフィラーとしてナノ分散させることにより、少量のフィラー添加においても、従来のポリ塩化ビニル系樹脂及びその組成物に比べて効率よく耐熱性、機械特性、寸法安定性を向上させたポリ塩化ビニル系高弾性耐熱樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは、従来にない機械的物性、電気的特性、熱的特性等を有するためナノテクノロジーの有力な素材として注目を浴び、広範な分野で応用の可能性が検討され、一部実用化が開始されている。
ポリマーコンポジットとしては、フィラーにカーボンナノチューブを用いてポリマーに添加することで、ポリマーの機械的物性、導電性、耐熱性等を改質する試みも行われている。
【0003】
例えばポリアミドやポリ塩化ビニルとカーボンナノチューブからなるポリマーコンポジットに関しては、多層カーボンナノチューブとの樹脂組成物による導電性、線膨張係数の改良に関する報告例(特許文献1−5)や、ポリ塩化ビニルその他の熱可塑性樹脂と単層あるいは多層カーボンナノチューブを含有する透明性導電フィルムが開示されている(特許文献6)。また、カーボンナノチューブを共役系高分子で被覆することで、カーボンナノチューブの分散性を極めて高め、少ないカーボンナノチューブの量でマトリクス樹脂に高い導電性を付与するとの報告(特許文献7参照)がある。
【0004】
また、ポリメチルメタクリレートやポリスチレンのような側鎖構造を有するポリマーとカーボンナノチューブからなるポリマーコンポジットに関して、共役系高分子で単層カーボンナノチューブを被覆することにより、わずかな単層カーボンナノチューブ添加量であっても弾性率が飛躍的に向上するとの報告(特許文献8参照)がある。
【0005】
一方、カーボンナノチューブと、構造的な類似性を有する窒化ホウ素ナノチューブも、従来にない特性を有する材料として注目を浴びている(特許文献9参照)。特許文献8にはカーボンナノチューブの代わりに窒化ホウ素ナノチューブを使用しても良いとの記載があるが、飛躍的な効果を得るためには側鎖構造を有するポリマーに限定されておりそれ以外の主鎖型芳香族ポリマーでの具体的な報告はされていない。
【0006】
一方、ポリ塩化ビニルに代表されるポリ塩化ビニル系樹脂は、優れた機械的特性、耐薬品性、耐候性、二次加工性を有するため、各種パイプ、継手、建材、波板をはじめ、様々な分野で利用されている。小型軽量化の要求に伴い、更に高い機械的特性や耐熱性が求められている。そのような目的から、樹脂の塩素化、様々な充填剤による複合化が行われてきた。しかしながら、樹脂の塩素化については環境破壊が懸念され、充填剤の配合については透明性や表面光沢をバランスよく改善できないという問題があった。例えば機械特性、熱特性および寸法安定性の更なる向上のために、針状あるいは板状の無機系粘土、ガラス繊維、炭酸カルシウム等の無機充填剤で強化したポリ塩化ビニル系樹脂組成物も広く知られている。しかしながら、ガラス繊維などの繊維状の強化剤を用いた場合は、補強効果は得られるものの、繊維の配向に伴って異方性が生じ、寸法安定性が低下する。また、成形品の表面外観も悪い。一方、針状無機物である珪酸カルシウム(ウォラストナイト)、チタン酸カリウム、塩基性硫酸マグネシウム、セピオライト、ゾノトライト、ホウ酸アルミニウム等、または板状無機物としてタルク、マイカや合成ハイドロサルタイト等の無機粘土系の充填剤を用いた場合には、成形品外観は比較的改善されるが、補強効果が少なく、十分な補強効果を得るためには多量の配合を必要とし、それによって耐衝撃性、靭性が低下するという問題もある。これらの問題を解決すべく、シラノール、アルカノールアミンやアミン系シランカップリング剤系で有機物変性した無機フィラーを用いて分散性向上を行ったり、無機充填剤表面に塩化ビニルモノマーをグラフト共重合することでマトリクス樹脂との親和性を改良する検討がなされているが(特許文献10−13)、フィラーの補強効果不足や樹脂物性が低減するなどの課題が残されており、他の有望なナノフィラーの探索が望まれている。しかしながらカーボンナノチューブ並の機械特性と優れた耐熱性、化学安定性を有する窒化ホウ素ナノチューブをフィラーとして添加、成形することにより機械的物性、寸法安定性の改善された成型体を得たとの報告はこれまで無い。
【0007】
【特許文献1】特開2004−124086号公報
【特許文献2】特開2004−143237号公報
【特許文献3】特開2004−143238号公報
【特許文献4】特開2004−143239号公報
【特許文献5】特開2004−143240号公報
【特許文献6】特表2004−526838号公報
【特許文献7】特開2004−2621号公報
【特許文献8】特開2004−244490号公報
【特許文献9】特開2000−109306号公報
【特許文献10】特開2004−149638号公報
【特許文献11】特開2000−129060号公報
【特許文献12】特開2003−313391号公報
【特許文献13】特開2003−221485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来のような多量のフィラーを含有するポリ塩化ビニル系樹脂組成物に対して、組成物の成形性や外観に影響を与えないことが必要な用途を含め少量あるいは多量の添加であっても効率よく機械特性、耐熱性、寸法安定性を向上させたポリ塩化ビニル系樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、窒化ホウ素ナノチューブをポリ塩化ビニル系樹脂に添加することにより、機械的物性に優れ、耐熱寸法安定性に優れた樹脂組成物が得られることを見出し本発明に到達した。すなわち、本発明は、
1.ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜100重量部とからなるポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
2.窒化ホウ素ナノチューブの平均直径が0.4nm〜1μm、アスペクト比が5以上であることを特徴とする上記に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
3.窒化ホウ素ナノチューブが共役系高分子で被覆されていることを特徴とする上記に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
4.ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜100重量部とからなる上記何れかに記載のポリ塩化ビニル系樹脂成形体。
5.共役系高分子を窒化ホウ素ナノチューブに被覆した後、共役系高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブをポリ塩化ビニル系樹脂または該樹脂溶液に混合分散させる工程を含む上記に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法。
により構成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によりポリ塩化ビニル系樹脂中に窒化ホウ素ナノチューブが均一にナノ分散している樹脂組成物が得られ、従来のポリ塩化ビニル系樹脂に優れた耐熱性、高弾性等の力学特性、寸法安定性を付与することができる。およびポリ塩化ビニル系樹脂に優れた熱伝導性を付与することが期待される。本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、溶液あるいは溶融状態からの押し出し、射出成型、熱プレス成形、カレンダー、ペースト加工成形等などの任意の成形方法により、フィルムや構造体など所望の形状に成形でき、そのような成形品は機械的特性や耐熱性等に優れる為、例えば、自動車部品、家庭用電気製品部品、精密機械部品、家庭日用品、包装・容器資材、その他一般工業用資材に好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下本発明を詳細に説明する。
(窒化ホウ素ナノチューブ)
本発明において、窒化ホウ素ナノチューブとは、窒化ホウ素からなるチューブ状材料であり、理想的な構造としては6角網目の面がチューブ軸に平行に管を形成し、一重管もしくは多重管になっているものである。窒化ホウ素ナノチューブの平均直径は、好ましくは0.4nm〜1μm、より好ましくは0.6〜500nm、さらにより好ましくは0.8〜200nmである。ここでいう平均直径とは、一重管の場合、その平均外径を、多重管の場合はその最外側の管の平均外径を意味する。平均長さは、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。アスペクト比は、好ましくは5以上、さらに好ましくは10以上である。アスペクト比の上限は、平均長さが10μm以下であれば限定されるものではないが、上限は実質25000である。よって、窒化ホウ素ナノチューブは、平均直径が0.4nm〜1μm、アスペクト比が5以上であることが好ましい。
【0012】
窒化ホウ素ナノチューブの平均直径およびアスペクト比は、電子顕微鏡による観察から求めることが出来る。例えばTEM(透過型電子顕微鏡)測定を行い、その画像から直接窒化ホウ素ナノチューブの直径および長手方向の長さを測定することが可能である。また組成物中の窒化ホウ素ナノチューブの形態は例えば繊維軸と平行に切断した繊維断面のTEM(透過型電子顕微鏡)測定により把握することが出来る。
【0013】
窒化ホウ素ナノチューブは、アーク放電法、レーザー加熱法、化学的気相成長法を用いて合成できる。また、ホウ化ニッケルを触媒として使用し、ボラジンを原料として合成する方法も知られている。また、カーボンナノチューブを鋳型として利用して、酸化ホウ素と窒素を反応させて合成する方法もが提案されている。本発明に用いられる窒化ホウ素ナノチューブは、これらの方法により製造されるものに限定されない。窒化ホウ素ナノチューブは、強酸処理や化学修飾された窒化ホウ素ナノチューブも使用することができる。
【0014】
窒化ホウ素ナノチューブは共役系高分子で被覆されていることが好ましい。窒化ホウ素ナノチューブを被覆する共役系高分子は、窒化ホウ素ナノチューブと相互作用が強く、マトリクス樹脂である塩化ビニル樹脂との相互作用も強いものが好ましい。これらの共役系高分子としては、例えば、ポリフェニレンビニレン系高分子、ポリチオフェン系高分子、ポリフェニレン系高分子、ポリピロール系高分子、ポリアニリン系高分子、ポリアセチレン系高分子等が挙げられる。中でも、ポリフェニレンビニレン系高分子、ポリチオフェン系高分子が好ましい。
【0015】
窒化ホウ素ナノチューブは、カーボンナノチューブに匹敵する優れた機械的物性、熱伝導性を有するだけでなく、化学的に安定でカーボンナノチューブよりも優れた耐酸化性を有することが知られている。また、ホウ素原子と窒素原子の間のダイポール相互作用により局所的な極性構造を有しており、極性構造を有する媒体への親和性、分散性がカーボンナノチューブより優れることが期待される。更に電子構造的に広いバンドギャップを有するため絶縁性であり、絶縁放熱材料としても期待できる他、カーボンナノチューブと異なり白色であることから着色を嫌う用途にも応用できるなど、ポリマーの特徴を活かしたコンポジット創製が可能となる。
【0016】
本発明の樹脂組成物においては、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対して、窒化ホウ素ナノチューブが、0.01〜100重量部の範囲内で含有されるものである。本発明におけるポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対する上記窒化ホウ素ナノチューブの含有量の下限は、0.01重量部であるが、本発明においては特に、0.05重量部以上が好ましく、より好ましくは0.1重量部以上であることが好ましい。一方、ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部に対する窒化ホウ素ナノチューブの含有量の上限は、上述したように100重量部以下であるが、本発明においては、80重量部以下であることが好ましく、50重量部以下であることがより好ましい。上記範囲内とすることにより、窒化ホウ素ナノチューブをポリ塩化ビニル系樹脂に均一に分散させることが可能となるからである。また、窒化ホウ素ナノチューブが過度に多い場合は、均一な樹脂組成物を得ることが困難となり好ましくない。本発明の樹脂組成物は、窒化ホウ素ナノチューブに由来する窒化ホウ素フレーク、触媒金属等を含む場合がある。
【0017】
特にポリマー主鎖骨格内に電子吸引性の塩素原子を有するポリ塩化ビニル系樹脂は、ナノレベルで構造の規定された極性窒化ホウ素ナノチューブと分子レベルで静電的に相互作用することが可能である。ポリマーとナノチューブ間の特異的な相互作用の結果として得られたポリ塩化ビニル系樹脂組成物においては、少量のフィラー添加においても、従来のポリ塩化ビニル系樹脂及びその組成物に比べて効率のよい耐熱性、機械特性の改良が可能であり、バルクの無機フィラー添加ポリ塩化ビニルの範囲を超える高性能を発現することも期待される。
【0018】
本発明で使用するポリ塩化ビニル系樹脂としては公知素材を使用することができ、例えば塩化ビニル単独重合体、塩化ビニル共重合体が挙げられる。本発明において、塩化ビニル系重合体を製造するための塩化ビニル系単量体としては、塩化ビニル単量体又は塩化ビニル単量体と共重合可能なビニル系単量体との混合物を挙げることができる。その様なビニル系単量体としては、例えば酢酸ビニル等のアルキルピニルエステル;セチルビニルエーテル等のアルキルビニルエーテル;エチレン、プロピレン等のオレフィン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル等のアクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル等のメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0019】
本発明で用いられるポリ塩化ビニル系樹脂の重合度は、250〜10000、好ましくは300〜6000、より好ましくは400〜4000程度である。上記の範囲から外れると、機械的特性、耐熱性および成形性のバランスが低下する傾向がある。
本発明における塩化ビニル系重合体の製造法は特に限定されるものではなく、公知の製造法が採用できる。例えば一般的に知られている懸濁重合法では、塩化ビニル系単量体を懸濁剤、重合開始剤の存在下、水性媒体中で重合させる。
【0020】
(樹脂組成物の製造方法について)
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法としては以下に示す方法で調整可能である。
樹脂組成物の製造方法として、一つにはポリ塩化ビニルその他の共重合モノマー成分をあらかじめ窒化ホウ素ナノチューブと混合した後にin situに重合することによる方法がある。この方法は大量の組成物を簡便に調整するに適している一方で、共重合モノマー安定性などの面から混合条件の制約を受けることもある。第二により一般的な方法としては樹脂をあらかじめ調整後に混合する方法がある。この方法はポリ塩化ビニル系樹脂中に窒化ホウ素ナノチューブを溶融状態にて高せん断応力下に混合、分散することによる方法、あるいはポリ塩化ビニル系樹脂、窒化ホウ素ナノチューブとポリ塩化ビニル系樹脂を溶解する溶媒からなる樹脂溶液を調整する工程と成形した後に該溶媒を除去する工程からなる方法の何れをも用いることができる。
【0021】
ここで、溶液を用いる場合の窒化ホウ素ナノチューブ含有樹脂溶液の製造方法としては、A)ポリ塩化ビニル系樹脂を溶解させることが可能な溶媒に窒化ホウ素ナノチューブを分散させた分散液を調整し、ポリ塩化ビニル系樹脂を添加、溶解させてポリ塩化ビニル系樹脂と窒化ホウ素ナノチューブからなる混合溶液を調整する方法、B)ポリ塩化ビニル系樹脂を溶解させることが可能な溶媒にポリ塩化ビニル系樹脂を溶解した樹脂溶液に窒化ホウ素ナノチューブを添加して分散させる方法、C)ポリ塩化ビニル系樹脂を溶解させることができる溶媒にポリ塩化ビニル系樹脂と窒化ホウ素ナノチューブを添加して調整する方法等が利用できる。本発明では何れかの方法を単独で用いるか、あるいは何れかの方法を組み合わせても良い。中でも、A)の窒化ホウ素ナノチューブ分散液にポリ塩化ビニル系樹脂を添加、溶解させる方法が好ましい。
【0022】
この際に例えば窒化ホウ素ナノチューブを溶媒中でビーズミル処理することや超音波処理を施す、強力なせん断処理を施すことにより窒化ホウ素ナノチューブの分散性を向上することができる。中でも、超音波処理を施す方法が好ましい。本発明においても窒化ホウ素ナノチューブ分散液にポリ塩化ビニルを添加して、超音波処理等を施すことにより、窒化ホウ素ナノチューブの分散性が飛躍的に向上することを見出した。
【0023】
本発明においてポリ塩化ビニル系樹脂を溶解させることが可能な溶媒としては、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、シクロヘキサノン、クロロホルム、ジオキサン、ジオキソラン、フタル酸ジメチルなどが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、必要に応じて溶媒を選ぶことができる。
【0024】
溶解性を損なわない範囲で、アセトン、ベンゼン、酢酸エチル、メチレンクロライド、メタノール、エタノール、ブタノール、クロロトルエン、オルトクロロフェノール、o−ジクロロベンゼン、トルエン、キシレン、エチレングリコール、クロロベンゼン、アニソール、エトキシベンゼン、水といった溶媒が含まれていても差し支えない。
【0025】
また、共役系高分子で被覆した窒化ホウ素ナノチューブを使用する場合は、共役系高分子を窒化ホウ素ナノチューブに被覆した後、共役系高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブを上記のようにポリ塩化ビニル系樹脂または該樹脂溶液に混合分散させることにより本発明の樹脂組成物を製造することができる。
【0026】
窒化ホウ素ナノチューブを共役高分子で被覆する方法として特に限定はされないが、1)窒化ホウ素ナノチューブを溶融している共役高分子に添加して混合する無溶媒で行う方法2)窒化ホウ素ナノチューブと共役高分子を、共役高分子を溶解する溶媒中で分散混合する方法等が挙げられる。2)の方法においては窒化ホウ素ナノチューブを分散させる方法として超音波や各種攪拌方法を用いることができる。攪拌方法としては、ホモジナイザーのような高速攪拌やアトライター、ボールミル等の攪拌方法も使用することができる。
【0027】
本発明のポリ塩化ビニル系樹脂組成物とは、このようなポリ塩化ビニル系樹脂を重合、窒化ホウ素ナノチューブと複合した後、任意の成型を行う前の塊状やペレット状などのいわゆる成型前ポリマーを意味する。このようなポリ塩化ビニル系樹脂組成物は、調整した後に更に湿式、乾-湿式、あるいは乾式工程を経てフィルム状に成型したり、もしくは溶融成形を経てフィルム状に成形することができる。例えば、前述の窒化ホウ素ナノチューブ含有樹脂溶液を成形したのち、溶媒を除去することからなる成形体の製造方法を包含する。例えばフィルムの場合、ガラス、金属といった基板上にキャストして成形したのち、乾式製膜あるいは湿式製膜、乾式製膜と湿式製膜の併用によりフィルムを作製することが可能である。また溶融後に射出成型などにより任意の形状に加工することも可能である。これらの成型工程において、流動配向、せん断配向、又は延伸配向させる事によりポリ塩化ビニル系樹脂および窒化ホウ素ナノチューブの配向を高め機械特性を向上させる事が出来る。
【0028】
また本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、必要に応じて、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、アクリルゴム、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、天然ゴム、塩素化ブチルゴム、α−オレフィンの単独重合体、2種以上のα−オレフィンの共重合体(ランダム、ブロック、グラフトなど、いずれの共重合体も含み、これらの混合物であっても良い)、またはオレフィン系エラストマーなどの耐衝撃性改良剤を添加することができる。これらは無水マレイン酸等の酸化合物、またはグリシジルメタクリレート等のエポキシ化合物で変性されていても良い。また、機械的特性、成形性などの特性を損なわない範囲で、他の任意の樹脂、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、スチレン系樹脂、ゴム質重合体強化スチレン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリイミド、ポリエーテルイミド樹脂、及びポリアリレート樹脂等の熱可塑性樹脂や、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、及びフェノールノボラック樹脂等の熱硬化性樹脂の単独または2種以上を組み合わせて使用し得る。更に、本発明の塩化ビニル系樹脂組成物には、目的に応じて、顔料や染料、充填剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、可塑剤、難燃剤、及び帯電防止剤等の添加剤を添加しても差し支えない。
【実施例】
【0029】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。また使用したポリ塩化ビニルはサン・アロー化学製、平均重合度1300のものである。
(1)引張弾性率測定
引張弾性率は、50mm×10mmのサンプルを用い、引張り速度5mm/分で行いオリエンテックUCT−1Tによって測定した。
(2)ガラス転移温度
ガラス転移温度は、TAインストルメント製TA2920を用いて30〜300℃の範囲で測定し、セカンドスキャンのピーク値よりガラス転移温度を計算した。
(3)熱膨張係数
熱膨張係数は、TAインストルメント製TA2940を用いて30〜80℃の範囲で測定し、セカンドスキャンの値を熱膨張係数とした。
【0030】
[参考例1 窒化ホウ素ナノチューブの製造]
窒化ホウ素製のるつぼに、1:1のモル比でホウ素と酸化マグネシウムを入れ、るつぼを高周波誘導加熱炉で1300℃に加熱した。ホウ素と酸化マグネシウムは反応し、気体状の酸化ホウ素(B)とマグネシウムの蒸気が生成した。この生成物をアルゴンガスにより反応室へ移送し、温度を1100℃に維持してアンモニアガスを導入した。酸化ホウ素とアンモニアが反応し、窒化ホウ素が生成した。1.55gの混合物を十分に加熱し、副生成物を蒸発させると、反応室の壁から310mgの白色の固体が得られた。続いて得られた白色固体を濃塩酸で洗浄、イオン交換水で中性になるまで洗浄後、60℃で減圧乾燥を行い窒化ホウ素ナノチューブ(以下、BNNTと略すことがある)を得た。得られたBNNTは、平均直径が27.6nm、平均長さが2460nmのチューブ状であった。
【0031】
[実施例1]
参考例1で得られた0.15重量部の窒化ホウ素ナノチューブを100重量部のテトラヒドロフランに添加して、超音波バスにて4時間処理を行い、窒化ホウ素ナノチューブ分散液を調整した。上記窒化ホウ素ナノチューブ分散液にポリ塩化ビニル0.15重量部を添加して超音波バスにて30分処理を行ったところ、飛躍的に窒化ホウ素ナノチューブの分散性が向上した。続いてポリ塩化ビニル14.85重量部を続けて添加して40℃でポリ塩化ビニルが溶解するまで攪拌した。得られた窒化ホウ素ナノチューブ含有ポリ塩化ビニル溶液をガラス基板上に200μmのドクターブレードを使用してキャストした後、50℃で1時間、80℃で1時間乾燥させた。続いて、乾燥したフィルムをイオン交換水中に投入しフィルムをガラス基板上より剥離し、1時間洗浄を行った。得られたフィルムを金枠に固定して30mmHgにて80℃で1時間、100℃で1時間減圧乾燥を実施した。フィルムの厚みは22μm、ガラス転移温度は101.5℃、熱膨張係数は58.8ppm/℃、引張弾性率は2.26Gpaであった。
【0032】
[実施例2]
(共役系高分子で被覆した窒化ホウ素ナノチューブの作製)
参考例1で得られた0.1重量部の窒化ホウ素ナノチューブを100重量部のジクロロメタンに添加して超音波バスにて2時間処理を行い、窒化ホウ素ナノチューブ分散液を調整した。続いて0.1重量部のアルドリッチ製ポリ(m−フェニレンビニレン−co−2,5−ジオクトキシ−p−フェニレンビニレン)を添加して超音波処理を1時間実施した。得られた分散液をミリポア製オムニポアメンブレンフィルター0.1μでろ過し、大量のジクロロメタンで洗浄後、60℃減圧乾燥を2時間行うことで黄色の共役高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブを得た。窒化ホウ素ナノチューブ上に被覆された共役系高分子の量は窒化ホウ素ナノチューブに対して4.2重量%であった。
【0033】
(窒化ホウ素ナノチューブ含有ポリ塩化ビニル系樹脂の作製)
上記で作製した共役系高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブ0.18重量部を、100重量部のテトラヒドロフランに添加して、超音波バスにて2時間処理を行い、窒化ホウ素ナノチューブ分散液を調整した。続いて15重量部のポリ塩化ビニルを添加して室温で樹脂が溶解するまで攪拌した。得られた窒化ホウ素ナノチューブ含有ポリ塩化ビニル樹脂溶液をガラス基板上に200μmのドクターブレードを使用してキャストした後、80℃で1時間、130℃で1時間乾燥させた。続いて、乾燥したフィルムをイオン交換水中に投入しフィルムをガラス基板上より剥離し、1時間洗浄を行った。得られたフィルムを金枠に固定して30mmHgにて80℃で1時間、100℃で1時間にて減圧乾燥を実施した。フィルムの厚みは28μm、ガラス転移温度は98.7℃、熱膨張係数は57.9ppm/℃、引張弾性率は2.27Gpaであった。
【0034】
[比較例1]
窒化ホウ素ナノチューブを含有しない以外は、実施例1と同様にポリ塩化ビニルのフィルムを作製した。フィルムの厚みは29μm、ガラス転移温度は85.4℃、熱膨張係数は67.4ppm/℃、引張弾性率は2.04Gpaであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜100重量部とからなるポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項2】
窒化ホウ素ナノチューブの平均直径が0.4nm〜1μm、アスペクト比が5以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項3】
窒化ホウ素ナノチューブが共役系高分子で被覆されていることを特徴とする請求項1または2に記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物。
【請求項4】
ポリ塩化ビニル系樹脂100重量部と窒化ホウ素ナノチューブ0.01〜100重量部とからなる請求項1〜3の何れかに記載のポリ塩化ビニル系樹脂成形体。
【請求項5】
共役系高分子を窒化ホウ素ナノチューブに被覆した後、共役系高分子で被覆された窒化ホウ素ナノチューブをポリ塩化ビニル系樹脂または該樹脂溶液に混合分散させる工程を含む請求項3記載のポリ塩化ビニル系樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2007−211156(P2007−211156A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33525(P2006−33525)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】