説明

耐熱性が改善された硬化性組成物

【課題】熱間接着強度に優れる硬化物を与える架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を含有する硬化性組成物を提供する。
【解決手段】珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成し架橋し得る架橋性珪素基を分子鎖末端に有するオキシアルキレン系重合体、膠質炭酸カルシウム及び酸化カルシウムと酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含有する硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を含有する硬化性組成物に関し、特に、硬化物が高温において基材に対する大きい接着強度を有する架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を含有する硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1や非特許文献1の156〜163ページにあるように、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体は高粘度の液体で、室温で空気中の湿分等の作用によりシロキサン結合を形成することにより架橋し、硬化物としてゴム状物質を生成する。このため、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を含有する硬化性組成物は接着剤やシーリング材として使用されている。
【0003】
接着剤やシーリング材は容器に保存され、使用時に容器から吐出されることが多い。この際、接着剤やシーリング材は粘度が低いことが望ましい。粘度が低いと吐出しやすいためである。
【0004】
また、接着剤を接着すべき基材に塗布する場合、ヘラやコーターを使用する場合がある。この場合、接着剤の塗布後に、基材に塗布された接着剤とヘラやコーターのブレード等に付着している接着剤が直ちに分離することが必要である。分離しないと接着剤が被着体とヘラやコーターのブレード等の間に糸状に残り(糸引き状態)、被着体等を汚染するからである。
【0005】
また、シーリング材を目地(壁材等の隙間)に施工する場合、目地に充填されたシーリング材表面をヘラで平滑にする。この場合にも、ヘラを目地のシーリング材から分離する際、ヘラと目地のシーリング材の間にシーリング材が糸状に残らないことが必要である。
【0006】
さらに、接着剤を垂直方向に塗布したり、シーリング材を垂直方向の目地に充填することがある。この場合、塗布後の接着剤や充填後のシーリング材が垂れないことが必要である。
【0007】
吐出性を与え、糸引きや垂れを防止するため、接着剤やシーリング材にはチクソ性を有することが望ましい。チクソ性とは流動しているときは低粘度で、静止しているときは高粘度になる性質をいう。チクソ性を有する接着剤やシーリング材は流動しているときは低粘度であるので、容器等から吐出させやすく、糸引き状態になることもない。また、これらは静止状態では高粘度であるので、垂直方向に塗布したり、垂直方向の目地に充填される場合に垂れることがない。
【0008】
接着剤やシーリング材等にチクソ性を付与するにはチクソ剤(チクソトロピック剤、レオロジーコントロール剤、揺変剤、粘弾性調整剤、垂れ防止剤とも呼ばれる)が添加される。チクソ剤には有機系のものと無機系のものがあり、無機系チクソ剤の例として、微粉末状の炭酸カルシウムやシリカを挙げることができる。特許文献2〜4や非特許文献1の158ページ、7〜10行にあるように架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を含有する硬化性組成物には無機系チクソ剤として微粉末状の炭酸カルシウムが使用されることが多い。チクソ性を付与するのが容易であり、組成物を保存する場合に特性の劣化を生じることがなく、充填剤としても使用でき、且つ安価だからである。
【0009】
しかしながら、微粉末状の炭酸カルシウムが添加された架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を含有する硬化性組成物の硬化物は基材に対する高温時の剥離強度に十分でない場合があることが判明した。自動車内部、特にエンジンルーム内部や建築物の外壁等はかなりの高温になるため、このような部分に使用される接着剤やシーリング材は高温時の大きい剥離強度が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭52−073998号公報
【特許文献2】特開昭60−252657号公報
【特許文献3】特開平10−330630号公報
【特許文献4】特開2000−136312号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】建築用シーリング材−基礎と正しい使い方−(日本シーリング工業会、1993年発行)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体及び膠質炭酸カルシウムを含有する硬化性組成物であって、硬化物が大きい接着強度、特に高温雰囲気下における大きい接着強度(熱間接着強度)を有する硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、架橋性珪素基を分子末端に有するポリオキシアルキレン系重合体及び膠質炭酸カルシウムを含有する硬化性組成物にさらに酸化カルシウムや酸化マグネシウムを添加すると、硬化物が大きい熱間接着強度を有することを見出した。すなわち、本発明は次の硬化性組成物に関する。
【0014】
(1)珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成し架橋し得る架橋性珪素基を分子鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体、膠質炭酸カルシウム及び酸化カルシウムと酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含有する硬化性組成物であって、架橋性珪素基を分子鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体100重量部、架橋性珪素基を分子鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体以外の架橋性珪素基を有する重合体を含有する場合はすべての架橋性珪素基を有する重合体100重量部、に対して膠質炭酸カルシウム2〜200重量部、及び酸化カルシウムと酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を2〜100重量部含有する硬化性組成物。
【0015】
(2)前記架橋性珪素基が下記式(1)で示される基であることを特徴とする(1)記載の硬化性組成物。
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基またはRSiO−(Rは、前記と同じ)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、Rが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは水酸基または加水分解性基を示し、Xが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0、1、2または3を、bは0、1または2を、それぞれ示す。またn個の式(2):
【化2】

におけるbは同一である必要はない。nは0〜19の整数を示す。但し、a+(bの和)≧1を満足するものとする。)
【0016】
(3)前記架橋性珪素基が下記式(3)で示される基であることを特徴とする(2)記載の硬化性組成物。
【化3】

(式中、R、Xは前記におなじ、aは1、2又は3の整数である。)
【0017】
(4)前記架橋性珪素基においてaが2又は3であることを特徴とする(3)記載の硬化性組成物。
【0018】

(5)前記架橋性珪素基においてaが3であることを特徴とする(4)記載の硬化性組成物。
【0019】
(6)前記架橋性珪素基において加水分解性基がアルコキシ基であることを特徴とする(1)〜(5)記載の硬化性組成物。
【0020】
(7)前記架橋性珪素基において加水分解性基がメトキシ基であることを特徴とする(6)記載の硬化性組成物。
【0021】
(8)架橋性珪素基を分子鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体100重量部に対して、珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、湿分によりシロキサン結合を形成することによって架橋し得る架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体10〜200重量部をさらに含有することを特徴とする(1)〜(7)記載の硬化性組成物。
【0022】
(9)酸化カルシウムと酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つの酸化物が表面処理されていない酸化物であることを特徴とする(1)〜(8)記載の硬化性組成物。
【発明の効果】
【0023】
本発明の硬化性組成物は、硬化物が大きい熱間剥離強度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に用いる架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の架橋性珪素基は珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋しうる基である。代表例としては、式(1):
【化4】

(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基またはRSiO−(R前期と同じ)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、Rが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは水酸基または加水分解性基を示し、Xが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0、1、2または3を、bは0、1または2を、それぞれ示す。またn個の式(2):
【化5】

におけるbは同一である必要はない。nは0〜19の整数を示す。但し、a+(bの和)≧1を満足するものとする。)で表わされる基があげられる。
【0025】
該加水分解性基や水酸基は1個の珪素原子に1〜3個の範囲で結合することができ、a+(bの和)は1〜5の範囲が好ましい。加水分解性基や水酸基が架橋性珪素基中に2個以上結合する場合には、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0026】
架橋性珪素基を形成する珪素原子は1個でもよく、2個以上であってもよいが、シロキサン結合等により連結された珪素原子の場合には、20個程度あってもよい。
なお、式(3):
【化6】

(式中、R,X,aは前記と同じ)で表わされる架橋性珪素基が、入手が容易である点から好ましい。また、硬度速度が大きい組成物を得るには、式(3)の架橋性珪素基においてaが3である場合が好ましい。
【0027】
上記Rの具体例としては、たとえばメチル基、エチル基等のアルキル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基等のアリール基、ベンジル基等のアラルキル基や、RSiO−で示されるトリオルガノシロキシ基等があげられる。これらの中ではメチル基が好ましい。
【0028】
上記Xで示される加水分解性基としては、特に限定されず、従来公知の加水分解性基であればよい。具体的には、たとえば水素原子、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、酸アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基等があげられる。これらの中では、水素原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基およびアルケニルオキシ基が好ましく、アルコキシ基、アミド基、アミノオキシ基がさらに好ましい。加水分解性が穏やかで取扱やすいという観点からアルコキシ基が特に好ましい。アルコキシ基の中では炭素数の少ないものの方が反応性が高く、メトキシ基>エトキシ基>プロポキシ基の順のように炭素数が多くなるほどに反応性が低くなる。目的や用途に応じて選択できるが通常メトキシ基やエトキシ基が使用される。
【0029】
式(3)で示される架橋性珪素基の場合、硬化性を考慮するとaは2以上が好ましい。通常、aが3の場合、aが2の場合に比較し、硬化物の硬度は大きくなるが熱間剥離強度は小さくなる。しかし本発明においては、aが3の場合においても十分な熱間剥離強度を有しており、且つ、硬化物の硬度も大きくスピーカーの音質も優れている。
【0030】
架橋性珪素基の具体的な構造としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基、−Si(OR)、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基等のジアルコキシシリル基、−SiR(OR)、があげられる。ここでRはメチル基やエチル基のようなアルキル基である。
【0031】
また、架橋性珪素基は1種で使用しても良く、2種以上併用してもかまわない。架橋性珪素基は、主鎖または側鎖あるいはいずれにも存在しうる。本発明においては架橋性珪素基が分子鎖末端に存在するポリオキシアルキレン系重合体を使用する。架橋性珪素基が分子鎖末端に存在すると硬化物の引張特性や接着特性等の硬化物物性が優れる。ポリオキシアルキレン系重合体のすべての末端に架橋性珪素基が存在する必要はなく、分子末端の少なくとも1個、好ましくは1.1以上2個未満存在するのがよい。分子中に含まれる架橋性珪素基の数が1個未満になると、硬化性が不充分になり、また多すぎると網目構造があまりに密となるため良好な機械特性を示さなくなる。ポリオキシアルキレン系重合体の分子鎖末端に架橋性珪素基が存在すれば、分子鎖末端以外に存在してもよいが、架橋性珪素基が分子鎖末端以外に実質的に存在しないことが好ましい。
【0032】
本発明に用いるポリオキシアルキレン系重合体は本質的に式(4)で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【化7】

(式中、Rは2価のアルキレン基)
【0033】
式(4)におけるRは、炭素数1〜14の、さらには2〜4の、直鎖状もしくは分岐状アルキレン基が好ましい。式(4)で示される繰り返し単位の具体例としては、例えば、
【0034】
【化8】

等があげられる。ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格は、1種類だけの繰り返し単位からなってもよいし、2種類以上の繰り返し単位からなってもよい。特にオキシプロピレンを主成分とする重合体から成るのが好ましい。
【0035】
架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体は、直鎖状でもよくまたは分岐を有してもよいが直鎖状であることが好ましい。本発明に用いるポリオキシアルキレン系重合体は数平均分子量で2000〜50,000、さらには5000〜30000が好ましい。また分子量分布は、重量平均分子量/数平均分子量で1.0〜5.0の範囲のものを使用できるが、1.0〜2.0のように小さいほうが好ましい。
【0036】
架橋性珪素基を有する高分子量のポリオキシアルキレン系重合体を使用すると熱間剥離強度を含めた剥離強度に優れた硬化物を得ることができる。また、架橋性珪素基を有する低分子量のポリオキシアルキレン系重合体を使用すると剥離強度は低下するが、硬化物の硬度が大きくなる。これは分子鎖末端に架橋性珪素基を有し低分子量のポリオキシアルキレン系重合体の硬化物は架橋点間分子量が小さくため、脆い硬化物となるが硬度は大きくなるためであると考えられる。このように、分子量が異なる架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を併用し、分子量や組成比を調整することにより所望の剥離強度や硬度を得ることができる。
【0037】
ポリオキシアルキレン系重合体の合成法としては、たとえばKOHのようなアルカリ触媒による重合法、たとえば特開昭61−197631号、同61−215622号、同61−215623号、同61−215623号に示されるような有機アルミニウム化合物とポルフィリンとを反応させて得られる、有機アルミ−ポルフィリン錯体触媒による重合法、たとえば特公昭46−27250号および特公昭59−15336号などに示される複金属シアン化物錯体触媒による重合法等があげられるが、特に限定されるものではない。有機アルミ−ポルフィリン錯体触媒による重合法や複金属シアン化物錯体触媒による重合法によれば数平均分子量6,000以上、Mw/Mnが1.6以下の高分子量で分子量分布が狭いポリオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
【0038】
上記ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格中にはウレタン結合成分等の他の成分を含んでいてもよい。ウレタン結合成分としては、たとえばトルエン(トリレン)ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート;イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネートと水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体との反応から得られるものをあげることができる。
【0039】
ポリオキシアルキレン系重合体への架橋性珪素基の導入は、分子中に不飽和基、水酸基、エポキシ基やイソシアネート基等の官能基を有するポリオキシアルキレン系重合体に、この官能基に対して反応性を示す官能基および架橋性珪素基を有する化合物を反応させることにより行うことができる(以下、高分子反応法という)。
【0040】
高分子反応法の具体例として、不飽和基含有ポリオキシアルキレン系重合体に架橋性珪素基を有するヒドロシランや架橋性珪素基を有するメルカプト化合物を作用させてヒドロシリル化やメルカプト化し、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を得る方法をあげることができる。不飽和基含有ポリオキシアルキレン系重合体は水酸基等の官能基を有する有機重合体に、この官能基に対して反応性を示す活性基および不飽和基を有する有機化合物を反応させ、不飽和基を含有するポリオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
【0041】
また、高分子反応法の他の具体例として、末端に水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体とイソシアネート基および架橋性珪素基を有する化合物を反応させる方法や末端にイソシアネート基を有するポリオキシアルキレン系重合体と水酸基やアミノ基等の活性水素基および架橋性珪素基を有する化合物を反応させる方法をあげることができる。イソシアネート化合物を使用すると、容易に架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
【0042】
架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の具体例としては、特公昭45−36319号、同46−12154号、特開昭50−156599号、同54−6096号、同55−13767号、同57−164123号、特公平3−2450号、特開2005−213446号、同2005−306891号、国際公開特許WO2007−040143号、米国特許3,632,557、同4,345,053、同4,960,844等の各公報に提案されているものをあげることができる。
【0043】
本発明の硬化性組成物には架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体以外の重合体を併用してもよい。このような重合体の例として、架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体をあげることができる。架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体を併用すると硬化物が機械強度に優れ、且つ、耐熱性や基材との接着性にも優れる特性を有するため、この重合体を併用することは本発明に特に適している。
【0044】
架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体は本質的に式(5)で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【化9】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rはアルキル基を示す)
【0045】
式(5)におけるRはアルキル基であり、炭素数1〜30のアルキル基が好ましい。Rは直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。また、ハロゲン原子やフェニル基等を有する置換アルキル基でもよい。Rの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、トリデシル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基等をあげることができる。
【0046】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体の分子鎖は本質的に式(5)の単量体単位からなるが、ここでいう「本質的に」とは該重合体中に存在する式(5)の単量体単位の合計が50重量%をこえることを意味する。式(5)の単量体単位の合計は好ましくは70重量%以上である。
【0047】
式(5)以外の単量体単位の例としては、アクリル酸、メタクリル酸等の(メタ)アクリル酸に起因する単量体単位;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のアミド基を含む単量体に起因する単量体単位;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基を含む単量体に起因する単量体単位;ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、アミノエチルビニルエーテル等のアミノ基を含む単量体に起因する単量体単位;その他アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、エチレン等に起因する単量体単位があげられる。
【0048】
架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体がポリオキシアルキレン系重合体と混合して使用される場合、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体との相溶性が大きい点で、架橋性珪素基を有し分子鎖が、下記式(6):
【化10】

(式中、Rは前記に同じ、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す)
で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、下記式(7):
【化11】

(式中、Rは前記に同じ、Rは炭素数6以上のアルキル基を示す)
で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる共重合体であることが好ましい。
【0049】
前記式(6)のRとしては、たとえばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜5、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2のアルキル基があげられる。なお、Rは一種でもよく、2種以上混合してもよい。
【0050】
前記式(7)のRとしては、たとえば2−エチルヘキシル基、ラウリル基、トリデシル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基等の炭素数6以上、通常は7〜30、好ましくは8〜20の長鎖のアルキル基があげられる。なお、Rは一種でもよく、2種以上混合したものであってもよい。また、式(6)の単量体単位と式(7)の単量体単位の存在比は、重量比で95:5〜40:60が好ましく、90:10〜60:40がさらに好ましい。
【0051】
架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体は通常、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルをラジカル共重合して得ることができる。また、架橋性珪素基を有する開始剤や架橋性珪素基を有する連鎖移動剤を使用すると分子鎖末端に架橋性珪素基を導入することができる。
【0052】
特開2001−040037号公報、特開2003−048923号公報および特開2003−048924号公報には架橋性珪素基を有するメルカプタンおよびメタロセン化合物を使用して得られる架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体が記載されている。また、特開2005−082681号公報には高温連続重合による架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体が記載されている。
【0053】
架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体であって架橋性珪素基が分子鎖末端に高い割合で導入された重合体も特開2000−086999号公報等に開示されている。このような重合体はリビングラジカル重合によって製造されているため、高い割合で架橋性珪素基を分子鎖末端に導入することができる。本発明では以上に述べたような(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体を使用することができる。
【0054】
架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体やこの重合体と架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の混合物の具体例は、特開昭59−122541号、同63−112642号、同特開平6−172631号等の各公報に記載されている。また、特開昭59−78223号、特開昭59−168014号、特開昭60−228516号、特開昭60−228517号等の各公報には、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の存在下で(メタ)アクリル酸エステル系単量体の重合を行い、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体と架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体の混合物を得る方法が記載されている。
【0055】
架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体を併用する場合、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体100重量部に対し、架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体を10〜200重量部使用することが好ましく、20〜80重量部使用することがさらに好ましい。
【0056】
本発明の硬化性組成物には膠質炭酸カルシウムを使用する。本発明の膠質炭酸カルシウムは0.5μm以下、好ましくは0.01〜0.1μmの一次粒子径を有する炭酸カルシウムで、多くは立方体結晶である。膠質炭酸カルシウムは通常、カルシウム塩水溶液に二酸化炭素や炭酸塩化合物を添加し沈降炭酸カルシウムとして製造される。炭酸カルシウムは充填剤として用いられるが、このような粒径が小さい炭酸カルシウムを使用することにより、硬化性組成物にチキソ性を付与することができる。
【0057】
膠質炭酸カルシウムは高級脂肪酸系化合物等によって表面処理されていることが好ましい。表面処理剤としては、たとえば高級脂肪酸系化合物、樹脂酸系化合物、芳香族カルボン酸エステル、陰イオン系界面活性剤、陽イオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0058】
高級脂肪酸系化合物としてたとえばステアリン酸ナトリウムのような炭素数が10個以上の高級脂肪酸系のアルカリ金属塩;樹脂酸系化合物としてたとえばアビエチン酸、ネオアビエチン酸、d−ピマル酸、i−d−ピマル酸、ボドカルプ酸、安息香酸、ケイ皮酸など;芳香族カルボン酸エステルとしてたとえばフタル酸のオクチルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコールなどとのエステル、ナフト酸の低級アルコールエステル、ロジン酸の低級アルコールエステルおよび芳香族ジカルボン酸またはロジン酸のマレイン酸付加物のような芳香族ポリカルボン酸の部分エステル化物または異種アルコールエステル化物など;また陰イオン界面活性剤としてたとえばドデシル硫酸ナトリウムのような硫酸エステル型またはドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸などのスルホン酸型の陰イオン界面活性剤が挙げられる。
【0059】
これらの表面処理剤は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。たとえば、高級脂肪酸系有機物と樹脂酸系有機物とを、それらの総量が炭酸カルシウム100重量部に対し0.2〜4重量部の範囲となるように吸着させたもの、また、硫酸エステル型またはスルホン酸型の陰イオン界面活性剤と芳香族カルボン酸のエステルとを芳香族カルボン酸のエステル10重量部に対し硫酸エステル型またはスルホン酸型の陰イオン界面活性剤を5〜20重量部の割合で添加できる。本発明においては、特に陰イオン系界面活性剤を単独または他の表面処理剤と併用して使用するのが好ましい。
【0060】
膠質炭酸カルシウムの使用量は、架橋性珪素基を分子鎖末端に有するオキシアルキレン系重合体100重量部に対し、2〜200重量部が好ましく、5〜100重量部がさらに好ましく、10〜50重量部が特に好ましい。2重量部未満では、得られる組成物のチクソ性が不充分であり、また硬化後の引張物性も不充分となる。100重量部を超えると、引張物性が低下する傾向にある。また、架橋性珪素基を有する他の重合体を併用する場合、膠質炭酸カルシウムの使用量は、架橋性珪素基を分子鎖末端に有するオキシアルキレン系重合体を含めたすべての架橋性珪素基を有する重合体100重量部に対し、2〜200重量部が好ましく、5〜100重量部がさらに好ましく、10〜50重量部が特に好ましい。
【0061】
本発明に使用する酸化カルシウム及び酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも一種の酸化物を使用する。これらの中では酸化カルシウムが硬化物の耐熱性をより改善できるため好ましい。酸化物は脂肪酸や界面活性剤等で表面処理されることがあるが本発明では表面処理されていない酸化物のほうが硬化物の耐熱性をより改善できるため好ましい。
【0062】
酸化カルシウムは近江化学工業(株)からCMLなどの商品名で販売されている。酸化マグネシウムは神島化学工業(株)からスターマグの商品名で、協和化学工業(株)からキスマの商品名で販売されている。
【0063】
酸化カルシウム及び酸化マグネシウムは本発明の硬化性組成物にチクソ性を付与する効果は小さい。しかし、酸化カルシウムや酸化マグネシウムを使用せず膠質炭酸カルシウムを使用した硬化性組成物に比較し、膠質炭酸カルシウムの一部を同重量の酸化カルシウム及び酸化マグネシウムで置換した硬化性組成物は使用上問題ないチクソ性を有する。また、酸化カルシウムや酸化マグネシウム、特に酸化カルシウムを使用すると硬化物の硬度や損失正接(tanδ)が小さくなり、本発明の組成物は、このような特性が必要な用途に好適に使用できる。
【0064】
酸化カルシウム及び酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも一種の酸化物の使用量は、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体100重量部に対し2〜100重量部が好ましく、5〜50重量部がさらに好ましく、5〜30重量部が特に好ましい。また、架橋性珪素基を有する他の重合体を併用する場合、酸化カルシウム及び酸化マグネシウムから選ばれる少なくとも一種の酸化物の使用量は、架橋性珪素基を分子鎖末端に有するオキシアルキレン系重合体を含めたすべての架橋性珪素基を有する重合体100重量部に対し、2〜100重量部が好ましく、5〜50重量部がさらに好ましく、5〜30重量部が特に好ましい。
【0065】
本発明の接着剤には必要に応じて膠質炭酸カルシウム、酸化カルシウムや酸化マグネシウム以外の充填剤、硬化触媒、可塑剤、接着性付与剤、溶剤、粘着付与剤等の各種添加剤を併用することができる。
【0066】
膠質炭酸カルシウム、酸化カルシウムや酸化マグネシウム以外の充填剤としては、ヒュームシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸およびカーボンブラックの如き補強性充填剤;重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、焼成クレー、クレー、タルク、カオリン、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、酸化亜鉛、ガラスバルーン、シラスバルーン、有機バルーン、有機繊維および無機繊維等の如き充填剤等が使用できる。
【0067】
これら充填剤の使用により強度の高い硬化物を得たい場合には、主にヒュームシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸およびカーボンブラック、焼成クレーおよびクレー等から選ばれる充填剤をすべての架橋性珪素基を有する重合体100重量部に対し、1〜200重量部の範囲で使用すれば好ましい結果が得られる。また、低強度で伸びが大である硬化物を得たい場合には、主に酸化チタン、重質炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、タルク、酸化第二鉄、およびシラスバルーン等から選ばれる充填剤を同重合体100重量部に対し5〜500重量部の範囲で使用すれば好ましい結果が得られる。これら充填剤は1種類のみで使用してもよいし、2種類以上混合使用してもよい。
【0068】
硬化触媒は架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体等の重合体を速やかに硬化させるため用いられる。
【0069】
硬化触媒の例としては、テトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、チタンテトラアセチルアセトナート等のチタン酸エステル類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫マレエート、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジネオデカネート(ジオクチル錫ジバーサテート)、ジオクチル錫オキサイド、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物等の4価錫化合物、オクチル酸錫、ナフテン酸錫、ステアリン酸錫、ジネオデカン酸錫(バーサチック酸錫)等の2価錫化合物等の有機錫化合物類;アルミニウムトリスアセチルアセトナート、アルミニウムトリスエチルアセトアセテート、ジイソプロポキシアルミニウムエチルアセトアセテート等の有機アルミニウム化合物類;ビスマス−トリス(2−エチルヘキソエート)、ビスマス−トリス(ネオデカノエート)等のビスマス塩と有機カルボン酸または有機アミンとの反応物等;ジルコニウムテトラアセチルアセトナート、チタンテトラアセチルアセトナート等のキレート化合物類;オクチル酸鉛等の有機鉛化合物;ナフテン酸鉄等の有機鉄化合物;有機バナジウム化合物;ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N−メチルモルホリン、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(DBU)等のアミン系化合物あるいはそれらのカルボン酸等との塩;過剰のポリアミンと多塩基酸とから得られる低分子量ポリアミド樹脂;過剰のポリアミンとエポキシ化合物との反応生成物等が例示される。
【0070】
これらの硬化触媒は単独で使用してもよく、2種以上併用してもよい。これらの硬化触媒のうち、有機金属化合物類、または有機金属化合物類とアミン系化合物の併用系が硬化性の点から好ましい。さらには、硬化速度が大きい点からジブチル錫マレエート、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物、ジブチル錫ジアセチルアセトナート等のジブチル錫系化合物が好ましい。また、触媒活性は少し低下するが環境問題の点からジオクチル錫ジネオデカネート等のジオクチル錫化合物やジオクチル錫オキサイドが好ましい。ジオクチル錫オキサイドは触媒活性が小さいので接着剤製造時に硬化しにくいため、これを含有する接着剤の製造は容易であるが、硬化時間が長くなる。このため、国際公開WO2005−012426号公報に開示されているように、接着剤製造後に触媒活性を向上させるため、接着剤の加熱処理を行うことができる。
【0071】
式(3)においてaが3である架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体は反応性が高く、大きい硬化速度を有する。この重合体に高活性な硬化触媒を使用すると硬化速度が大きくなりすぎ、接着剤製造時に硬化する、接着剤使用時に円滑な接着作業ができない、等に問題が発生する場合がある。このような場合、上記したジオクチル錫ジネオデカネート等のジオクチル錫化合物を使用したり、接着剤製造後加熱処理をしてジオクチル錫オキサイドを使用することが好ましい。
【0072】
硬化触媒はすべての架橋性珪素基を有する重合体100重量部に対して0.5〜10重量部用いるのが好ましい。
【0073】
可塑剤としては、ジイソデシルフタレート、ジウンデシルフタレート、ジイソウンデシルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ブチルベンジルフタレート等の如きフタル酸エステル類;アジピン酸ジオクチル、コハク酸イソデシル、セバシン酸ジブチル等の如き脂肪族二塩基酸エステル類;ジエチレングリコールジベンゾエート、ペンタエリスリトールエステル等の如きグリコールエステル類;オレイン酸ブチル、アセチルリシノール酸メチルの如き脂肪族エステル類;エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、エポキシステアリン酸ベンジル等の如きエポキシ可塑剤類;2塩基酸と2価アルコールとのポリエステル類等のポリエステル系可塑剤;ポリプロピレングリコールやその誘導体等のポリエーテル類;ポリ−α−メチルスチレン、ポリスチレン等のポリスチレン類;ポリブタジエン、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、ポリイソブテン、パラフィン系炭化水素、ナフテン系炭化水素、パラフィン−ナフテン系混合炭化水素、塩素化パラフィン類等の可塑剤が単独または2種類以上の混合物の形で任意に使用できる。とくに、耐候性の点から重合体主鎖内に不飽和結合を含有しないポリプロピレングリコールやその誘導体等のポリエーテル系可塑剤、ポリイソブテン、パラフィン等が好ましい。
【0074】
可塑剤は、すべての架橋性珪素基を有する重合体100重量部に対して1から300重量部添加することが好ましく、さらには5から200重量部添加することが好ましい。
【0075】
接着性付与剤としては、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、1,3−ジアミノイソプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シラン類;γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有シラン類;γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のビニル型不飽和基含有シラン類;γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等の塩素原子含有シラン類;γ−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン等のイソシアネート含有シラン類;メチルジメトキシシラン、トリメトキシシラン、メチルジエトキシシラン等のハイドロシラン類等が具体的に例示されうるが、これらに限定されるものではない。
【0076】
接着性付与剤は、あまりに多く添加すると、硬化物のモジュラスが高くなり、少なすぎると接着性が低下することから、すべての架橋性珪素基を有する重合体100重量部に対して0.1〜15重量部添加することが好ましく、さらには0.5〜10重量部添加することが好ましい。
【0077】
作業性の改善、粘度の低下等のために溶剤や希釈剤を配合してもよい。溶剤の例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸セロソルブ等のエステル系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤等があげられる。希釈剤の例としてはノルマルパラフィン、イソパラフィン、等があげられる。
【0078】
溶剤や希釈剤は、すべての架橋性珪素基を有する重合体100重量部に対して1から100重量部添加することが好ましく、さらには5から50重量部添加することが好ましい。
【0079】
粘着付与剤は被着体へのぬれ性の改善や、はく離強度を高める上で好ましい。石油樹脂系、ロジン・ロジンエステル系、アクリル樹脂系、テルペン樹脂、水添テルペン樹脂やそのフェノール樹脂共重合体、フェノール・フェノールノボラック樹脂系等の粘着付与樹脂が例示されうるが、これらに限定されるものではない。粘着付与剤は、すべての架橋性珪素基を有する重合体100重量部に対して1〜100重量部添加することが好ましく、さらには5〜50重量部添加することが好ましい。
【0080】
その他の添加剤としては、例えば、水添ヒマシ油、有機ベントナイト、ステアリン酸カルシウム等のタレ防止剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。さらに、必要に応じてエポキシ樹脂等の他の樹脂、エポキシ樹脂硬化剤等の硬化剤、物性調整剤、保存安定性改良剤、滑剤、発泡剤等の添加剤も適宜添加することが可能である。
【0081】
本発明の硬化性組成物は全成分を混合物とする一液型組成物としても、架橋性珪素基を有する樹脂成分と硬化触媒成分とを別の成分とする二液型組成物としても使用することができる。二液型組成物は一般に特性が優れた硬化物を得ることができるが、使用時に樹脂成分と硬化触媒成分を混合する操作が必要であるので、作業上からは一液型組成物が好ましい。
【0082】
本発明の接着剤の製造方法には特に限定はなく、例えば、前記した成分を配合し、ミキサーやロールやニーダーなどを用いて常温または加熱下で混練したり、適した溶剤を少量使用して成分を溶解させ、混合したりするなどの通常の方法が挙げられる。
【0083】
本発明の硬化性組成物は、接着剤、シーリング材、防水材、コーティング剤などに使用できる。特に、高温になる自動車部品の接着剤や、外壁材のシーリング材に好適に使用できる。
【実施例】
【0084】
(合成例1)
ポリオキシプロピレンジオールにナトリウムメトキシド(NaOMe)のメタノール溶液を添加してメタノールを留去し、更に塩化アリルを添加して末端の水酸基をアリル基に変換した。未反応の塩化アリルを減圧脱揮により除去し、さらに生成した金属塩を水により抽出除去して、末端にアリル基を有するポリオキシプロピレンを得た。得られたアリル基末端ポリオキシプロピレンに対し、白金ビニルシロキサン錯体のイソプロパノール溶液を添加し、トリメトキシシランを反応させ、PPG(ポリプロピレングリコール)換算の重量平均分子量が約25000、1分子当たり1.5個の末端トリメトキシシリル基を有するポリオキシプロピレン系重合体を得た。
【0085】
(合成例2)
合成例1で用いたポリオキシプロピレンジオールより分子量が小さいポリオキシプロピレンジオールにナトリウムメトキシド(NaOMe)のメタノール溶液を添加してメタノールを留去し、更に塩化アリルを添加して末端の水酸基をアリル基に変換した。未反応の塩化アリルを減圧脱揮により除去し、さらに生成した金属塩を水により抽出除去して、末端にアリル基を有するポリオキシプロピレンを得た。得られたアリル基末端ポリオキシプロピレンに対し、白金ビニルシロキサン錯体のイソプロパノール溶液を添加し、トリメトキシシランを反応させ、PPG換算の重量平均分子量が約15000、1分子当たり1.5個の末端トリメトキシシリル基を有するポリオキシプロピレン系重合体を得た。
【0086】
(合成例3)
フラスコに溶剤である酢酸エチル40重量部、メチルメタクリレート59重量部、2−エチルヘキシルメタクリレート25重量部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン22重量部、及び金属触媒としてルテノセンジクロライド0.1重量部を仕込み窒素ガスを導入しながら80℃に加熱した。ついで、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン8重量部をフラスコ内に添加し80℃で6時間反応を行った。室温に冷却後、ベンゾキノン溶液(95%THF溶液)を20重量部添加して重合を停止した。溶剤および未反応物を留去し、ポリスチレン換算の重量平均分子量が約6000であるトリメトキシシリル基を有するアクリル酸エステル系重合体を得た。
【0087】
実施例における硬化速度、熱間剥離強度、硬度や損失正接(tanδ)の測定方法は次のとおりである。
【0088】
(硬化速度)
硬化速度は皮張り時間によって評価した。内径60mmの円筒容器に5mm厚まで試料を充填し、直ちに23℃、50%RHの恒温恒湿室に静置し、表面を指で触り、組成物が指に付着しなくなるまでの時間を測定する。
【0089】
(熱間剥離強度)
幅25mm、長さ100mm、厚み1.6mmのアルミ板に、接着剤組成物を一端から75mmの長さの部分に200μmの厚みに塗布する。一方、幅25mm、長さ200mmの5号キャンパスに、接着剤組成物を一端から75mmの長さの部分に200μmの厚みに2回塗布する。塗布部分が重なるように貼り合わせ、ハンドローラーで3往復厚締する。これを23℃50%RHで1週間養生したものを試験片とする。所定温度雰囲気下でキャンパスの180°剥離強度を測定する(引張りスピード200mm/分)。
【0090】
(硬度)
JIS K6253に準拠し、接着剤組成物の23℃、50%RHで1週間養生したものを試験片とし、JIS A硬度を測定する。
【0091】
(損失正接(tanδ))
接着剤から厚み2mmのシートを調製する。動的粘弾性試験は、セイコーインスツルメンツ(株)製DMS6100を用いて、測定温度23℃、周波数100Hz及び歪率0.1%の条件で、2mmシートについて行い、次に損失正接(tanδ)を下式により求める。
tanδ=E”/E’
(E’:貯蔵弾性率、E”:損失弾性率)
【0092】
(糸切れ性)
内径60mmの円筒容器に50mm厚まで試料を充填し、外径4mmのガラス棒の先端40mmを試料に垂直に沈める。直ちにガラス棒を静かに引き上げ、試料の糸切れ性を確認した。評価基準は、○:糸切れする、△:少し糸引きする、×:糸引きする。
【0093】
実施例の接着剤は表1及び2に示す組成で各配合物質を混合攪拌し接着剤を調製した。なお、表1及び2において実及び比はそれぞれ実施例、比較例を示す。また、各実施例、比較例、参考例及び参考比較例の接着剤において、表1に示した配合物に加え次の添加物を共通して加えている。
酸化防止剤:チバ・ジャパン(株)製、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、商品名:イルガノックス245、1重量部。
脱水剤:コルコート(株)製、テトラエトキシシラン、商品名:エチルシリケート28、1重量部。
希釈剤:ジャパンエナジー(株)製、パラフィン系希釈剤、商品名:カクタスノルマルパラフィンN−11、10重量部。
接着性付与剤:信越化学工業(株)製、N−β−(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、商品名:信越シリコーンKBM603、6重量部。
【0094】
(実施例1〜2、比較例1)
実施例3及び比較例2においては、架橋性珪素基としてトリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体を使用している。接着剤の硬化速度、熱間剥離強度、硬度、損失正接および糸切れ性を表1に示した。実施例1〜2と比較例1との比較から明らかなように、炭酸カルシウムに代えて酸化カルシウムを添加することにより、剥離強度、特に、高温時の剥離強度が改善されることがわかる。また、硬度が大きくなることがわかる。なお、実施例1〜2、比較例1においては酸化カルシウムと炭酸カルシウムの合計量が同一になるよう組成物を調製している。また、実施例1と、同様の組成で充填剤を配合していない組成物の糸切れ性を比較したところ、実施例1の糸切れ性は○であったが、充填剤を配合していない組成物の糸切れ性は×であった。
【0095】
(実施例3、比較例2)
実施例3、比較例2においては、架橋性珪素基としてトリアルコキシシリル基に代えて市販されているジアルコキシシリル基を有する重合体を使用している。接着剤の硬化速度、熱間剥離強度、硬度および損失正接を表1に示した。実施例3と比較例2との比較から明らかなように、この重合体を使用した場合にも炭酸カルシウムに代えて酸化カルシウムを添加することにより、剥離強度、特に、高温時の剥離強度が改善されることがわかる。また、硬度が大きくなることがわかる。架橋性珪素基としてジアルコキシシリル基を有する重合体を用いた硬化性組成物はトリアルコキシシリル基を有する重合体を用いた硬化性組成物よりも硬化速度が小さいので活性が高い硬化触媒を使用している。また、ジアルコキシシリル基を有する重合体を用いた硬化性組成物はトリアルコキシシリル基を有する重合体を用いた硬化性組成物よりも剥離強度が大きくなる傾向にある。
【0096】
(実施例4〜11、比較例3〜4)
実施例4〜11及び比較例3〜4においては、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体として合成例1で得られた重合体と合成例2で得られた重合体とを混合して使用している。また、実施例4〜8では酸化カルシウム(表面処理されたものを含む)を使用し、実施例9〜11では酸化マグネシウム(表面処理されたものを含む)を使用している。比較例4では金属酸化物である酸化チタンを使用している。接着剤の硬化速度、熱間剥離強度、硬度および損失正接を表2に示した。
【0097】
実施例4〜11と比較例3との比較から明らかなように、炭酸カルシウムに代えて酸化カルシウムや酸化マグネシウムを添加することにより、剥離強度、特に、高温時の剥離強度が改善されることがわかる。
【0098】
また、実施例5(無処理酸化カルシウム)、実施例9(無処理酸化マグネシウム)と比較例3(酸化チタン)との比較から酸化カルシウムや酸化マグネシウムを使用すると高温時の剥離強度や硬化物の硬度が大きくなることがわかる。さらに、特に実施例5と実施例6との比較及び実施例9と実施例11との比較から、表面処理されていない酸化物の場合、表面処理された酸化物の場合に比較し、高温時の剥離強度や硬化物の硬度が大きい場合が多いことがわかる。
【0099】
(実施例12、比較例5)
実施例12及び比較例5においては、架橋性珪素基を有するポリオキシアルキレン系重合体として合成例1で得られた重合体と合成例2で得られた重合体とを混合して使用しているが、合成例2で得られた分子量が小さい重合体を増量して使用している。接着剤の硬化速度、熱間剥離強度、硬度および損失正接を表3に示した。
【0100】
実施例1、実施例5及び実施例12の硬度の値から明らかなように、分子量が小さい合成例2のポリオキシアルキレン重合体を使用することにより硬度が大きくなることがわかる。また、実施例12と比較例5との比較から明らかなように、炭酸カルシウムに代えて酸化カルシウムを添加することにより、高温時の剥離強度や硬度が改善されることがわかる。
【0101】
(実施例13〜14、比較例6)
実施例13〜14、比較例6においては、硬化触媒としてジオクチル錫ジバーサテートにかえてジオクチル錫オキシドを使用した。但し、ジオクチル錫オキシドは触媒活性が低く、触媒活性を向上させるため接着剤組成物の製造後、接着剤組成物の加熱処理を行った。接着剤の硬化速度、熱間剥離強度、硬度および損失正接を表3に示した。実施例13〜14と比較例5との比較から明らかなように、他の触媒を用いても炭酸カルシウムに代えて酸化カルシウムを添加することにより、高温時の剥離強度や硬度が改善されることがわかる。
【0102】
【表1】

【0103】
【表2】

【0104】
【表3】

【0105】
表1、表2及び表3における配合物質の配合量は重量部で示され、*1〜*11は次の通りである。
*1:(株)カネカ製、主鎖がポリオキシプロピレンで分子末端にジメトキシ基を有するポリマーと、主鎖がポリメタクリル酸エステルの共重合体で分子中にジメトキシシリル基を有するポリマーとの混合物、商品名:サイリルMA440
*2:近江化学(株)製、表面処理されていない酸化カルシウム、商品名:CML−35S
*3:近江化学(株)製、脂肪酸処理酸化カルシウム、商品名:CML−31
*4:神島化学(株)製、表面処理されていない酸化マグネシウム、商品名:スターマグM
*5:神島化学(株)製、脂肪酸処理酸化マグネシウム、商品名:スターマグCX
*6:堺化学工業(株)製、表面処理されていないルチル型酸化チタン、商品名:DAIAWHITE TCR−10
*7:白石カルシウム(株)製、重質炭酸カルシウム、商品名:ホワイトンSB
*8:丸尾カルシウム(株)製、脂肪酸処理炭酸カルシウム、商品名:カルファイン200
*9:日東化成(株)製、ジオクチル錫ジバーサテート硬化触媒、商品名:ネオスタン U−830
*10:日東化成(株)製、ジオクチル錫オキシド硬化触媒、商品名:ネオスタン U−800P
*11:日東化成(株)製、ジブチル錫ビスアセチルアセトナート硬化触媒、商品名:ネオスタン U−220H

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成し架橋し得る架橋性珪素基を分子鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体、膠質炭酸カルシウム及び酸化カルシウムと酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を含有する硬化性組成物であって、架橋性珪素基を分子鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体100重量部、架橋性珪素基を分子鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体以外の架橋性珪素基を有する重合体を含有する場合はすべての架橋性珪素基を有する重合体100重量部、に対して膠質炭酸カルシウム2〜200重量部、及び酸化カルシウムと酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物を2〜100重量部含有する硬化性組成物。
【請求項2】
前記架橋性珪素基が下記式(1)で示される基であることを特徴とする請求項1記載の硬化性組成物。
【化1】

(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数3〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基またはRSiO−(Rは、前記と同じ)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、Rが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Xは水酸基または加水分解性基を示し、Xが2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0、1、2または3を、bは0、1または2を、それぞれ示す。またn個の式(2):
【化2】

におけるbは同一である必要はない。nは0〜19の整数を示す。但し、a+(bの和)≧1を満足するものとする。)
【請求項3】
前記架橋性珪素基が下記式(3)で示される基であることを特徴とする請求項2記載の硬化性組成物。
【化3】

(式中、R、Xは前記におなじ、aは1、2又は3の整数である。)
【請求項4】
前記架橋性珪素基においてaが2又は3であることを特徴とする請求項3記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記架橋性珪素基においてaが3であることを特徴とする請求項4記載の硬化性組成物。
【請求項6】
前記架橋性珪素基において加水分解性基がアルコキシ基であることを特徴とする請求項1〜5記載の硬化性組成物。
【請求項7】
前記架橋性珪素基において加水分解性基がメトキシ基であることを特徴とする請求項6記載の硬化性組成物。
【請求項8】
架橋性珪素基を分子鎖末端に有するポリオキシアルキレン系重合体100重量部に対して、珪素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、湿分によりシロキサン結合を形成することによって架橋し得る架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸エステル重合体10〜200重量部をさらに含有することを特徴とする請求項1〜7記載の硬化性組成物。
【請求項9】
酸化カルシウムと酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1つの酸化物が表面処理されていない酸化物であることを特徴とする請求項1〜8記載の硬化性組成物。

【公開番号】特開2011−127007(P2011−127007A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287285(P2009−287285)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000108111)セメダイン株式会社 (92)
【Fターム(参考)】