説明

耐熱性に優れたポリ乳酸系弾性樹脂組成物およびその成形品

【課題】耐熱性の向上したポリ乳酸系弾性樹脂組成物およびその成形品を提供する。
【解決手段】 Mwが5万〜50万であるポリL乳酸系弾性樹脂10〜90質量部と、Mwが5万〜50万であるポリD乳酸系弾性樹脂90〜10質量部とを含有するポリ乳酸系弾性樹脂組成物であって、ポリL乳酸系弾性樹脂は、(L/D)が95/5〜100/0でありかつMnが500〜2万であるポリL乳酸系樹脂ブロック40〜90質量部と、融点を持たないかまたは融点が20℃以下である柔軟樹脂ブロック60〜10質量部とを含有する樹脂であり、ポリD乳酸系弾性樹脂は、(D/L)が95/5〜100/0でありかつMnが500〜2万であるポリD乳酸系樹脂ブロック40〜90質量部と、前記柔軟樹脂ブロック60〜10質量部とを含有する樹脂であることを特徴とするポリ乳酸系弾性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリL乳酸系弾性樹脂とポリD乳酸系弾性樹脂とを含有し、耐熱性に優れたポリ乳酸系弾性樹脂組成物およびその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化対策ならびに石油資源枯渇対策として、植物等の再生可能資源由来原料からプラスチックを製造することで炭酸ガス発生量を増大させないという、いわゆるカーボンニュートラルの概念が広まりつつある。これら植物資源由来樹脂の中ではポリ乳酸樹脂が熱的および機械的特性に優れ、価格面でも原料の乳酸が安価に製造できることから、最も普及が期待されている。
【0003】
しかしながら汎用樹脂と比較した場合は、ポリ乳酸の融点は約170℃と低く、例えば繊維製品とした場合に、アイロン掛けで溶融収縮してしまうといったように、耐熱性が不十分であった。また硬くて脆い性質のため、耐衝撃性の改善が強く望まれてきた。
【0004】
ポリ乳酸樹脂の耐熱性を向上する方法として、ステレオコンプレックス化技術がある。すなわち、ポリL乳酸とポリD乳酸のそれぞれの融点が170℃前後であるにも関わらず、両者間でステレオコンプレックスを形成すると、その融点は230℃に達し、耐熱性の向上が実現される。しかしながらステレオコンプレックス結晶形成には両者間の均一混合が必要であり、現実的な成形加工条件では困難となっていた。
【0005】
一方、ポリ乳酸樹脂の耐衝撃性を改善する方法として柔軟成分を共重合する方法、特にポリ乳酸の耐熱性を極力維持すべく、柔軟成分をブロック共重合する方法が検討されてきた(特許文献1〜3)。しかしながら、特許文献1の方法では、ポリ乳酸存在下にラクトンを重合するため明確なブロック共重合体が得られず、エラストマー特性は不十分であった。また、特許文献2の方法では、一定量以上柔軟成分を共重合しようとすると生成ポリマーの分子量は自ずと低くなることが余儀なくされ、柔軟成分の分子量を高めるとエラストマー特性が損なわれる問題があった。また、特許文献3の方法では、ポリL乳酸/カプロラクトン共重合体とポリD乳酸/カプロラクトン共重合体の混合による耐熱性向上に関する技術が一部開示されているが、開環重合の反応性比を利用しているのみであり、完全なジブロック共重合体は得られず、一部ランダム化してしまうため、エラストマー特性は不十分であった。さらには上述の系はいずれもイソシアネート鎖延長によるウレタン結合を含まないため、引張伸度等のエラストマーとしての力学物性は不満足なものであった。
【特許文献1】特許3339601号公報
【特許文献2】特開平10−237166号公報
【特許文献3】特開昭63−241024号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような問題点を解決するものであり、耐熱性および力学的物性の両者を向上したポリ乳酸系弾性樹脂を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、結晶性を高めたポリ乳酸ブロックと結晶性を低減した柔軟樹脂ブロックとを含有するポリL乳酸系弾性樹脂と、同じく結晶性を高めたポリ乳酸ブロックと結晶性を低減した柔軟樹脂ブロックとを含有するポリD乳酸系弾性樹脂とを混合することによって上記問題が解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明の要旨は下記のとおりである。
(1)重量平均分子量が5万〜50万であるポリL乳酸系弾性樹脂10〜90質量部と、重量平均分子量が5万〜50万であるポリD乳酸系弾性樹脂90〜10質量部とを含有するポリ乳酸系弾性樹脂組成物であって、前記ポリL乳酸系弾性樹脂は、L乳酸単位とD乳酸単位のモル比(L/D)が95/5〜100/0でありかつ数平均分子量が500〜2万であるポリL乳酸系樹脂ブロック40〜90質量部と、融点を持たないかまたは融点が20℃以下である柔軟樹脂ブロック60〜10質量部とを含有する樹脂であり、前記ポリD乳酸系弾性樹脂は、D乳酸単位とL乳酸単位のモル比(D/L)が95/5〜100/0でありかつ数平均分子量が500〜2万であるポリD乳酸系樹脂ブロック40〜90質量部と、融点を持たないかまたは融点が20℃以下である柔軟樹脂ブロック60〜10質量部とを含有する樹脂であることを特徴とするポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
(2)柔軟樹脂ブロックが、ポリエステル、脂肪族ポリカーボネート、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルエーテル、ポリオレフィンおよびオルガノシロキサンからなる群から選択される樹脂であり、その両末端に、水酸基、カルボキシル基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を有することを特徴とする(1)記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
(3)ポリL乳酸系弾性樹脂および/またはポリD乳酸系弾性樹脂がジイソシアネート化合物で鎖延長されたことを特徴とする(1)または(2)記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
(4)ウレタン結合を含めたイソシアネート残基の含有量が、0.01〜5質量%であることを特徴とする(3)記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
(5)示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークが160℃以上であり、その融解エンタルピーが20J/g以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
(6)破断伸度が200%以上であり、伸長回復率が80%以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
(7)上記(1)〜(6)のいずれかに記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物からなる成形品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、従来のポリ乳酸樹脂に比べて柔軟性および耐熱性に優れた弾性樹脂組成物が簡便に得られ、これまで適用困難であった広範な分野に応用が可能である。また植物由来のポリ乳酸樹脂を使用していることから、地球温暖化防止に大きく寄与し、石油資源の節約にも貢献できるなど、産業上の利用価値はきわめて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリ乳酸系弾性樹脂組成物は、重量平均分子量が5万〜50万であるポリL乳酸系弾性樹脂10〜90質量部と、重量平均分子量が5万〜50万であるポリD乳酸系弾性樹脂90〜10質量部とを含有する。
そして前記ポリL乳酸系弾性樹脂は、L乳酸単位とD乳酸単位のモル比(L/D)が95/5〜100/0でありかつ数平均分子量が500〜2万であるポリL乳酸系樹脂ブロック40〜90質量部と、融点を持たないかまたは融点が20℃以下である柔軟樹脂ブロック60〜10質量部とを含有する樹脂である。
また、前記ポリD乳酸系弾性樹脂は、D乳酸単位とL乳酸単位のモル比(D/L)が95/5〜100/0でありかつ数平均分子量が500〜2万であるポリD乳酸系樹脂ブロック40〜90質量部と、融点を持たないかまたは融点が20℃以下である柔軟樹脂ブロック60〜10質量部とを含有する樹脂である。
【0010】
本発明において、ポリL乳酸系弾性樹脂を構成するポリL乳酸系樹脂ブロックは、L乳酸単位とD乳酸単位のモル比(L/D)が95/5〜100/0であることが必要であり、97/3〜100/0であることが好ましく、98/2〜100/0であることがさらに好ましい。
また、ポリD乳酸系弾性樹脂を構成するポリD乳酸系樹脂ブロックは、D乳酸単位とL乳酸単位のモル比(D/L)が95/5〜100/0であることが必要であり、97/3〜100/0であることが好ましく、98/2〜100/0であることがさらに好ましい。
モル比(L/D)と(D/L)が95/5〜100/0であると、ポリ乳酸成分の結晶化により、得られる樹脂組成物の耐熱性が向上する。
【0011】
また、ポリL(D)乳酸系樹脂ブロックの数平均分子量(Mn)は500〜2万であることが必要であり、1000〜1万であることが好ましい。Mnが500未満では結晶性が不十分となるため耐熱性に劣り好ましくない。Mnが2万を超えるとエラストマー特性が低下すると共に、分子運動性が阻害されることでステレオコンプレックス結晶の形成が困難となり、耐熱性に劣る結果となるため好ましくない。
【0012】
本発明において、ポリL(D)乳酸系樹脂ブロックは、L(D)乳酸成分以外に、共重合成分を含有してもよい。その含有率は5質量%以下が好ましい。共重合成分の含有率が5質量%を超えると結晶化が阻害され耐熱性が低下することがある。
【0013】
本発明において、ポリL(D)乳酸系樹脂ブロックとともにポリL(D)乳酸系弾性樹脂を構成する柔軟樹脂ブロックは、融点を持たないか、または融点が20℃以下であることが必要であり、融点が0℃以下であることが好ましい。柔軟樹脂ブロックが20℃を超える融点を持つ場合には、通常の使用環境において柔軟成分が結晶化しやすくエラストマー特性が低下するため好ましくない。また、柔軟樹脂ブロックのガラス転移温度(Tg)は0℃以下であることが好ましく、−20℃以下であることがより好ましい。Tgが0℃を超えると通常の使用環境においてエラストマー特性が低下することがある。
【0014】
本発明において、柔軟樹脂ブロックとしては、ポリエステル、脂肪族ポリカーボネート、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルエーテル、ポリオレフィンおよびオルガノシロキサンからなる群から選択される樹脂であって、その両末端に、水酸基、カルボキシル基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を有する樹脂が挙げられる。
ポリエステルとしては、ポリカプロラクトン系共重合体、ポリ(1,3−プロピレンアジペート)、ポリ(1,3−プロピレンセバケート)、ポリ(1,3−ブチレンサクシネート)、ポリ(1,3−ブチレンアジペート)、ポリ(1,3−ブチレンセバケート)、ポリ(1,4−ブチレンアジペート−セバケート)、ポリ(1,5−ペンタンジオールサクシネート−アジペート)等やこれらのカルボキシル基末端を水酸基に変換したジオールが挙げられる。
脂肪族ポリカーボネートとしては、ポリ(ヘキサンジオールカーボネート−ペンタンジオールカーボネート)共重合体等のジオールが挙げられる。
ポリアルキレンオキシドとしては、ポリエチレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等やこれらの水酸基末端をアミノ基に変換したものが挙げられる。
ポリビニルエーテルとしては、ポリメチルビニルエーテル等のジオールが挙げられる。
ポリオレフィンとしては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、およびこれらの水素添加物等のジオールやジカルボン酸等が挙げられる。
オルガノシロキサンとしては、ポリジメチルシロキサンやポリ(ジメチルシロキサン−メチルフェニルシロキサン)共重合体等のジオールやジアミンが挙げられる。
【0015】
なお、柔軟樹脂成分には、重合反応を阻害せず、また生成樹脂の結晶性が阻害されない範囲においては、その他の共重合成分を含んでいてもよい。
【0016】
本発明において、ポリL(D)乳酸系樹脂ブロックと柔軟樹脂ブロックとを含有するポリL(D)乳酸系弾性樹脂は、重量平均分子量(Mw)が5万〜50万であることが必要であり、10万〜30万であることがより好ましい。Mwが5万未満では、引張伸度ならびに回復率が十分に高くならない。一方、Mwが50万を超えるものは入手および製造困難であると同時に、溶融粘度が高いため解重合反応での撹拌が困難となる。
【0017】
このようなポリL(D)乳酸系弾性樹脂は公知の方法で製造される。すなわち、(1)両末端に水酸基を有する柔軟樹脂ブロックに、L(D)ラクチドを共重合する方法、(2)両末端に水酸基またはアミノ基を有する柔軟樹脂ブロックによって、ポリL(D)乳酸を解重合する方法、および(3)両末端に水酸基および/またはカルボキシル基を有する柔軟樹脂ブロックの前駆体化合物とL(D)乳酸とを重縮合する方法がある。(1)の方法で共重合成分がラクチドと反応性が大きく異なる環状エステルの重合体であれば、重合開始段階から該環状エステルとラクチドを共存させたまま重合してもブロック共重合体を得ることができる。
【0018】
上記製造方法において、重合および解重合反応温度は、得られるポリL(D)乳酸系弾性樹脂の融点または流動開始温度以上、230℃以下であることが好ましく、融点または流動開始温度+5℃以上、220℃以下であることがより好ましく、融点または流動開始温度+10℃以上、210℃以下であることがさらに好ましい。
反応温度がポリL(D)乳酸系弾性樹脂の融点または流動開始温度以下では、反応を均一に進めることが困難であるとともに、反応効率が低いため好ましくない。また反応温度が230℃を超える場合は、ポリL(D)乳酸系弾性樹脂の熱分解による着色や、エステル交換反応による力学的強度低下が起こるため好ましくない。
【0019】
このような方法で製造されたポリL(D)乳酸系弾性樹脂は、ポリL(D)乳酸系樹脂ブロックと、柔軟樹脂ブロックとが、エステル結合および/またはアミド結合により結合される。
【0020】
本発明においては、上記方法で製造されたポリL(D)乳酸系弾性樹脂は、鎖延長剤を用いてその分子量を増大させることが好ましい。これにより力学的強度を向上することができる。鎖延長剤としては、末端の水酸基やカルボキシル基などの活性水素含有官能基と反応し得る官能基を2つ以上有する化合物が好ましく、ジイソシアネート、ジグリシジルエーテル、酸無水物などの化合物が挙げられる。
【0021】
ジイソシアネートの具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、メチレンビスシクロヘキシルジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート、ビスイソシアナトメチルシクロヘキサン、トリレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネートなどが挙げられる。
ジグリシジルエーテルの具体例としては、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル、水素添加ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ジグリシジルテレフタル酸、ジグリシジルイソフタル酸などが挙げられる。
酸無水物の具体例としては、ナフタレンテトラカルボン酸無水物、ジオキソテトラヒドロフラニルメチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、無水ピロメリット酸、オキシジフタル酸無水物、ビフェニルテトラカルボン酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸無水物、テトラフルオロイソプロピリデンジフタル酸無水物、ターフェニルテトラカルボン酸無水物、シクロブタンテトラカルボン酸無水物、カルボキシメチルシクロペンタントリカルボン酸無水物などが挙げられる。
なかでもジイソシアネートは反応性が高く、取り扱いが容易であることから特に好ましい。さらには、副反応が少ないことから脂肪族または脂環族系ジイソシアネートがより好適である。
このような鎖延長剤によって鎖延長されたポリL(D)乳酸系弾性樹脂においては、樹脂ブロック間は、前述のエステル結合やアミド結合に加えて、ウレタン結合やエーテル結合で結合される。
【0022】
鎖延長剤の添加量は、その官能基のモル数をNb、用いた解重合剤の官能基のモル数をNaとした場合に、0.8≦Nb/Na≦1.3、であることが好ましく、0.9≦Nb/Na≦1.2がより好ましく、0.95≦Nb/Na≦1.1がさらに好ましい。Nb/Naが0.8未満では、鎖延長効果が乏しく、分子量が向上しにくい。またNb/Naが1.3を超えると過剰な鎖延長剤による副反応や着色が起こりやすく、分子量も向上しにくい。
【0023】
本発明において、鎖延長反応の反応温度は、ポリL(D)乳酸系弾性樹脂の融点または流動開始温度以上、230℃以下であることが好ましく、融点または流動開始温度+5℃以上、220℃以下であることがより好ましく、融点または流動開始温度+10℃以上、210℃以下であることがさらに好ましい。
反応温度がポリL(D)乳酸系弾性樹脂の融点または流動開始温度以下では、反応を均一に進めることが困難であるとともに、反応効率が低いため好ましくない。また反応温度が230℃を超える場合は、鎖延長反応時に副反応による着色が顕著となるため好ましくない。
また、鎖延長反応の反応時間は、3分〜2時間であることが好ましく、5分〜1時間であることがさらに好ましい。反応時間が3分未満であると、反応が不十分であり、2時間を超えると副反応や着色が顕著になる。
【0024】
本発明では、イソシアネートにより鎖延長を行った場合には、ポリL(D)乳酸系弾性樹脂中に、ウレタン結合を含めたイソシアネート残基を0.01〜5質量%含有することが好ましく、0.1〜3質量%含有することがより好ましい。含有量が0.01質量%未満ではエラストマー特性が不十分となりやすく、含有量が5質量部を超えると着色や架橋等の副反応生成物が含まれやすくなるため好ましくない。
【0025】
本発明のポリ乳酸系弾性樹脂組成物は、ポリL乳酸系弾性樹脂10〜90質量部と、重量平均分子量が5万〜50万であるポリD乳酸系弾性樹脂90〜10質量部とを含有する。ポリL乳酸系弾性樹脂とポリD乳酸系弾性樹脂の含有量がこの範囲外であると、得られるポリ乳酸系弾性樹脂組成物はステレオコンプレックス形成が不十分となり、耐熱性が低下する。
【0026】
本発明のポリ乳酸系弾性樹脂組成物は、示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピーク(融点)が160℃以上であり、融解エンタルピーが20J/g以上であることが好ましく、融解ピーク(融点)が170℃以上であり、融解エンタルピーが25J/g以上であることがより好ましい。融解ピーク(融点)が160℃未満であったり、融解エンタルピーが20J/g未満であると、耐熱性が不十分となるため好ましくない。
【0027】
また、ポリ乳酸系弾性樹脂組成物は、破断伸度が200%以上かつ伸長回復率が80%以上であることが好ましく、破断伸度が300%以上および/または伸長回復率が90%以上であることがさらに好ましい。破断伸度が200%未満または伸長回復率が80%未満では実用的な力学物性を有さない。
【0028】
本発明のポリ乳酸系弾性樹脂組成物は、ポリL乳酸系弾性樹脂と、ポリD乳酸系弾性樹脂とを混合することによって製造することができる。混合する方法としては、溶融混練する方法が挙げられる。溶融温度は、180〜240℃であることが好ましく、200〜220℃であることがより好ましい。
【0029】
本発明のポリ乳酸系弾性樹脂組成物の製造において、原料ポリL(D)乳酸系弾性樹脂にカルボジイミド化合物を添加してもよい。カルボジイミド化合物の添加量は、ポリL乳酸系弾性樹脂とポリD乳酸系弾性樹脂との合計100質量部に対して、0.01〜5質量部であることが好ましく、0.05〜2質量部であることがより好ましく、0.1〜1質量部であることがさらに好ましい。
【0030】
本発明において、重合反応、解重合反応、ならびに鎖延長反応の際には、反応を阻害しない範囲において、酸化防止剤などの各種添加物を添加していてもよい。
【0031】
本発明のポリ乳酸系弾性樹脂組成物から、押出成形、ブロー成形、射出成形、プレス成形、発泡成形などの成形方法によって成形品を製造することができる。成形時の温度は、本発明の樹脂組成物の融点以上、250℃以下であることが好ましい。これらの成形方法によって、繊維、フィルム、シート、ボトル、各種射出成形体、発泡シート等の成形品を製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明する。なお、物性の測定方法や使用した原料は下記のとおりである。
【0033】
[測定方法]
(1)L乳酸単位とD乳酸単位のモル比
ポリL(D)乳酸系弾性樹脂1gに1N KOH/メタノール溶液10mLを加えて30分間還流してアルカリ分解した。次いで硫酸1.5mLを加えてメチルエステル化した後、塩化メチレンと水を加えて、有機層を抽出した。
β−Dex325キャピラリーカラムとFID検出器を備えたヒューレットパッカード製ガスクロマトグラフィー(GC)を用いて、L乳酸メチルとD乳酸メチルを定量し、L乳酸単位とD乳酸単位のモル比を算出した。
(2)重量平均分子量(Mw)
重量平均分子量は示差屈折率計を備えたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定した。10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液とし、分子量はポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準試料として換算した。
(3)柔軟樹脂ブロック原料の数平均分子量(Mn)
柔軟樹脂ブロック原料の数平均分子量は、重水素化クロロホルム溶媒中、NMR装置(日本電子製Lambda300)を用いてH−NMRを測定し、末端水酸基隣接メチン基を基準に算出した。
(4)ポリL(D)乳酸系樹脂ブロックの数平均分子量(Mn)
ポリL(D)乳酸系樹脂ブロックの数平均分子量は、重水素化クロロホルム溶媒中、NMR装置(日本電子製Lambda300)を用いて、ポリL(D)乳酸系弾性樹脂の13C−NMRを測定し、ポリL(D)乳酸系樹脂ブロック−柔軟樹脂ブロック隣接構造量と末端基量から算出した。
(5)融点(Tm)、融解エンタルピー(ΔHm)、ガラス転移温度(Tg)
Tm、ΔHm、およびTgの測定は示差走査熱量計(パーキンエルマー社製DSC7)を用い、昇温速度20℃/分で測定した。
(6)引張伸度、回復率
熱プレスによって厚さ約100μmのフィルムを作製し、ここから長さ6cm×幅0.5cmの試験片を切り出して、島津製作所製オートグラフを用いて50cm/分の速度で引張試験を行った。下記式より破断伸度と伸長回復率をそれぞれ算出した。
破断伸度(%)=100×ΔL/L
伸長回復率(%)=100×Y/X
ここで、Lは初期長=チャック間距離(cm)、ΔLは破断時の伸び量(cm)、Xは伸長量(cm)、Yは張力解放後の弾性回復量(cm)とする。
【0034】
[柔軟樹脂ブロックの原料化合物]
(1)PCDL(両末端水酸基含有ポリ(ヘキサメチレン−ペンタメチレンカーボネート)): 旭化成ケミカルズ社製PCDL T5652。Mn=2000、Tm<0℃。
(2)PBSA(両末端水酸基含有ポリ(1,3−ブチレンサクシネートアジペート)):
ガラス重合管に1,3−ブタンジオール54質量部(0.6モル)とコハク酸23.6質量部(0.2モル)とアジピン酸29.2質量部(0.2モル)を仕込み、200℃に加熱してエステル化を進め、その後ジブチルスズラウレート0.02質量部を添加して240℃に加熱および1hPaまで減圧して8時間重縮合を行い、両末端水酸基含有ポリ(1,3−ブチレンサクシネートアジペート)(PBSA)を得た。Mn=4000、Tm<0℃。
(3)PCLNA(両末端水酸基含有ポリ(ε−カプロラクトン−co−ネオペンチルグリコールアジペート)):ダイセル化学製プラクセル220AL。Mn=2000、Tm=約5℃。
(4)PBS(両末端水酸基含有ポリ(1,4−ブチレンサクシネート)):
1,3−ブタンジオール54質量部(0.6モル)とコハク酸47.2質量部(0.4モル)とを用いた以外は、上記(2)PBSAと同じ方法により製造した。Mn=4000、Tm=約95℃。
(5)PHMC(両末端水酸基含有ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)):
旭化成ケミカルズ製PCDL T6002(ホモポリマー)。Mn=2000、Tm=約45℃。
(6)PCL(両末端水酸基含有ポリ(ε−カプロラクトン)):ダイセル化学製プラクセルH1P。Mn=4000、Tm=約60℃。
【0035】
[鎖延長剤]
(1)HMDI:ヘキサメチレンジイソシアネート
(2)IPDI:イソホロンジイソシアネート
【0036】
製造例1
ガラス重合管に、Lラクチド60質量部と、両末端水酸基含有ポリ(ヘキサメチレン−ペンタメチレンカーボネート)(PCDL)40質量部とを仕込み、190℃に加熱して溶融混合後、ここへオクチル酸スズ0.02質量部を添加して1時間重合を行った。
次いで鎖延長剤としてヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)を3.5質量部加え、30分間攪拌反応した。
その後、真空ポンプを用いて5hPaまで減圧し、30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、ガラス管内のポリL乳酸系弾性樹脂(L1)を回収した。得られた樹脂の物性を表1に示す。
【0037】
製造例2、3、5〜15
表1に示すように樹脂ブロック原料化合物や鎖延長剤の種類や量を変更した以外は製造例1と同様にして、ポリL(D)乳酸系弾性樹脂(L2、3、5〜9、D1〜6)を製造した。得られた樹脂の物性を表1に示す。
【0038】
製造例4
ポリL乳酸樹脂(ネーチャーワークス製、Mw=20万、Tm=168℃)80質量部をガラス重合管に仕込み、200℃に加熱溶融した後に、PCLNAを20質量部添加して3時間解重合反応を行った。次いでHMDIを1.8質量部加え、30分間攪拌反応した。その後、真空ポンプを用いて5hPaまで減圧し、30分間後、窒素ガスを用いて常圧に戻し、ガラス管内のポリL乳酸系弾性樹脂(L4)を回収した。得られた樹脂の物性を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
実施例1
L1(50質量部)と、D1(50質量部)と、カルボジイミド化合物(日清紡製カルボジライトLA−1、1質量部)とを、東洋精機製ラボプラストミルにて190℃、150rpmで10分間溶融混練した。生成物のポリ乳酸系弾性樹脂組成物を回収し、真空乾燥した後に、厚さ100μmのシート状に熱プレスし、各種物性を測定した。
【0041】
実施例2〜5、比較例1〜5
ポリL(D)乳酸系弾性樹脂の種類と量とを表2に記載したように変更した以外は実施例1と同様に行ない、ポリ乳酸系共重合樹脂組成物を得た。
【0042】
実施例および比較例で得られた樹脂組成物の特性を表2にまとめた。
【0043】
【表2】

【0044】
表2から明らかなように、各実施例では、ポリL乳酸系弾性樹脂とポリD乳酸系弾性樹脂を混合することで、融点が向上したポリ乳酸系共重合樹脂組成物を得ることができた。
これに対し、比較例1では、ラクトン開環共重合で製造したポリL(D)乳酸系弾性樹脂を用いたところ、ポリL(D)乳酸系弾性樹脂のブロック性が不十分なため、これより得られた樹脂組成物は、耐熱性およびエラストマー特性が不十分であった。比較例2では、ポリL(D)乳酸系樹脂ブロック原料の質量比率を高めて柔軟樹脂ブロックと共重合したポリL(D)乳酸系弾性樹脂を用いたところ、ポリL(D)乳酸系樹脂ブロックの数平均分子量が高すぎるため、得られた樹脂組成物はエラストマー特性が不十分であった。比較例3では、結晶性が高い柔軟樹脂ブロックを含有するポリL(D)乳酸系弾性樹脂を用いたところ、エラストマー特性が不十分であった。比較例4では、L乳酸単位とD乳酸単位のモル比(L/D)が低いポリ乳酸系樹脂ブロックを用いたところ、得られた樹脂組成物は耐熱性およびエラストマー特性が不十分であった。比較例5では、低分子量のポリL(D)乳酸系弾性樹脂を用いたところ、得られた樹脂組成物はエラストマー特性が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が5万〜50万であるポリL乳酸系弾性樹脂10〜90質量部と、重量平均分子量が5万〜50万であるポリD乳酸系弾性樹脂90〜10質量部とを含有するポリ乳酸系弾性樹脂組成物であって、
前記ポリL乳酸系弾性樹脂は、L乳酸単位とD乳酸単位のモル比(L/D)が95/5〜100/0でありかつ数平均分子量が500〜2万であるポリL乳酸系樹脂ブロック40〜90質量部と、融点を持たないかまたは融点が20℃以下である柔軟樹脂ブロック60〜10質量部とを含有する樹脂であり、
前記ポリD乳酸系弾性樹脂は、D乳酸単位とL乳酸単位のモル比(D/L)が95/5〜100/0でありかつ数平均分子量が500〜2万であるポリD乳酸系樹脂ブロック40〜90質量部と、融点を持たないかまたは融点が20℃以下である柔軟樹脂ブロック60〜10質量部とを含有する樹脂である
ことを特徴とするポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
【請求項2】
柔軟樹脂ブロックが、ポリエステル、脂肪族ポリカーボネート、ポリアルキレンオキシド、ポリビニルエーテル、ポリオレフィンおよびオルガノシロキサンからなる群から選択される樹脂であり、その両末端に、水酸基、カルボキシル基およびアミノ基からなる群から選択される官能基を有することを特徴とする請求項1記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
【請求項3】
ポリL乳酸系弾性樹脂および/またはポリD乳酸系弾性樹脂がジイソシアネート化合物で鎖延長されたことを特徴とする請求項1または2記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
【請求項4】
ウレタン結合を含めたイソシアネート残基の含有量が、0.01〜5質量%であることを特徴とする請求項3記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
【請求項5】
示差走査熱量計(DSC)測定において、昇温過程における融解ピークが160℃以上であり、その融解エンタルピーが20J/g以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
【請求項6】
破断伸度が200%以上であり、伸長回復率が80%以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のポリ乳酸系弾性樹脂組成物からなる成形品。

【公開番号】特開2009−1637(P2009−1637A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162546(P2007−162546)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】