説明

耐熱性アルミナ担体とその製造方法

【課題】1200 ℃以上の高温下においても十分な表面積を有する耐熱性に優れたアルミナ担体とその製造方法を提供する。
【解決手段】99.9%以上の純度を有する転移性アルミナに、アルミニウムに対する適切な量のランタンを含浸し、100ナノメータ以下のLaAlO3相を共存させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車排気浄化用触媒あるいは燃焼触媒等に使用する担体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
燃焼ガス処理、自動車排気ガス処理のための触媒としては担体上に遷移金属や金属酸化物あるいは複合金属組成を担持したものが使用されている。これらの触媒用の担体として要求される性能のなかでも貴金属等の触媒成分を有効に利用するため触媒成分を高分散担持することが重要である。担体の表面積が大きくそれが高温ガスで熱処理されても高いことが望まれており、さらに高温下に長時間さらされても担体自体に熱安定性があることが要求されている。これらの要求を満足するものとして、安価で、高い表面積を持つ転移性アルミナが使用されている。しかし、この転移性アルミナは周知のように1000℃以上の高温下にさらされるとアルファ(α)-アルミナ形態への転移を起こし著しく表面積が低下する。触媒担体として転移性アルミナをぺレツト状もしくは他の成形物に被覆した状熊において使用する場合、このα-アルミナヘの転移による構造変化が被覆層の機械的劣化や脱離あるいは触媒成分のシンタリンダを促進させる原因となる。従来、この転移性アルミナにおける表面積の低下を防止するなど熱安定性の向上を計る方法として、アルカリ土類元素や希土類元素を添加することは公知である(特許文献1乃至3)。しかし、最近の自動車用触媒のように1000℃以上の高温下にさらされる触媒の担体としては従来のアルカリ土類元素や希土類元素の酸化物粉末の添加では十分な耐熱性を得ることは困難である。希土類元素の中でもランタンを添加した系での耐熱性担体としては99.95%純度のアルミナを使い1200℃、5時間の加熱後における比表面積が60m2/gのものが開発されている(特許文献4)が、大量使用されるため高純度アルミナのコストが問題となる。さらにガスタービン用燃焼触媒では1300℃程度で耐熱性が必要とされ、単純な転移性アルミナのみではその耐熱性が維持されないのが実情である。また、いまひとつの問題点として、アルミナ担体へナノメータレベルで粒子成分を混合することの困難さをあげることができる。すなわち、担体としてのアルミナと別の性質を有する担体を混合して、種々の担体効果をもたらそうとしても、アルミナ自体が微粒のため、ほかの粒子をその内部まで混合することができない。たとえばぺロブスカイト型複合酸化物が触媒活性にすぐれまた耐熱担体としてもその利点が指摘されている(特許文献5)が、そのナノメータレベルで混合した担体は未知である。
【特許文献1】特開昭54-117387号公報
【特許文献2】特開昭48-14600号公報
【特許文献3】U.S.P.4021185
【特許文献4】特公平5-21030号公報
【特許文献5】特許2620624
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消しようとするものであり1200 ℃以上の高温下においても十分な表面積を有する耐熱性に優れたアルミナ担体で、粒径が100ナノメータ以下のLaAlO3相を共存させた機能性の高い担体とその製造方法を提供するものである。高温での性能を保持しランタン以外の成分が99.9%以上の純度を有する転移性アルミナにアルミ二ウムに対するランタンの分率で1から8%を含浸せしめて成り、粒径100ナノメータ以下のLaAlO3相を共存させ、1200℃、3時間の加熱後における比表面積が少なくとも60m2/gであることを特徴とする。さらに転移性アルミナにアルミニウムに対するランタンの分率で3から8%を含浸せしめて成り、粒径100ナノメータ以下のLaAlO3相を共存させ、1300℃、3時間の加熱後における比表面積が少なくとも20m2/gであることを特徴とする。ナノメータレベルでアルミナとぺロブスカイト型複合酸化物LaAlO3成分が混合した担体はその形態制御技術の達成がなされておらずまったく新規なアルミナ担体である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、アルミナとランタンとの固体反応を制御しかつ耐熱性を付与するため鋭意研究の結果見出した特異な組織状態の発見によるものである。本発明のアルミナは99.9%以上の純度を有する転移性アルミナに、アルミニウムに対する原子%で1から10%のランタンを含浸せしめて成り1200℃、3時間の加熱後における表面積が少なくとも60m2/gであることを特微とする耐熱性アルミナ担体であり、とくに特徴的なことに、粒径100ナノメータ以下のLaAlO3相を分散的に共存させた複合担体である。さらに1300℃、3時間の加熱後における比表面積が少なくとも20m2/gであることを特徴とする耐熱性アルミナ担体であって、同様に特異的に粒径100ナノメータ以下のLaAlO3相を分散的に共存させた複合担体を提供するものである。本発明において、転移性アルミナの純度は特殊な高純度状態を要しないが99.9%以上とする必要がありこの程度であればランタンの含浸による効果が顕著となるうえに、LaAlO3の微粒子生成がすみやかにおこりかつ粗大粒子を形成しない。転移性アルミナとしては、ガンマ(γ)、デルタ(δ)、イータ(η)、カィ(χ)、シータ(θ)、カツパ(κ)等の相を有するアルミナが挙げられ、これらのうちの1または2種以上を使用する。しかし、上記転移性アルミナでもとくにガンマ、デルタおよびシータ型アルミナがもっとも望ましい。また、これら転移性アルミナのいわゆる粒度としては0.5μm以下の微粒子の方が望ましい。アルミナの市販品のほかに、硝酸アルミニウム、ハロゲン化アルミニウム、硫酸アルミニウム、有機アルミニウム化合物等で、水溶性アルミニウム溶液を誘導し、そこから共沈殿させたのち熱処理して得たものでもよい。また、ランタンは、上記転移性アルミナに含浸されるものであり、このランタンの含浸により、転移性アルミナが高温下においてもα-アルミナヘ転移してその表面積が低下することを抑制し、しかもLaAlO3の微粒子を分散的に含むようになる。前記のように転移性アルミナの純度が99.9%以上であることによって、上記効果が促進される。なお、上記不純物の多い転移性アルミナに単にランタンを添加したのみでは、上記の耐熱効果は達成しがたい。上記ランタンの転移性アルミナへの含浸量は、該アルミナに対して0.3から10%の範囲内とすることが必要である。また望ましくは、耐熱指標温度によって、1200℃では1から8%、1300℃では3から8%である。ランタンの含浸量が0.3%未満ではLaAlO3相が生成しないわけではないと思われるが分散量が少ないため確定できない。また10%を越える場合には上記アルミナに収着されない多量のランタンがアルミナと反応して多量のLaA1O3あるいはLaA11O19等の複合酸化物が粗大な粒子集合体を形成したり粒成長を起こし表面積を低下させる原因となる。また更に優れたランタンの含浸による効果は、1200℃熱処理後では含浸量が1から8%の範囲内である。本発明の担体は、1200℃、3時間の加熱後において少なくとも60m2/gの表面積を有する。さらに、LaAlO3相を共存した状態で、LaAlO3粒子が粒径100ナノメーター以下おおむね50ナノメーター以下であるような複合体をなしている。1300℃、3時間の加熱後では、アルミ二ウムに対するランタンの分率で3から8%を含浸せしめて粒径100ナノメータ以下のLaAlO3相を共存させ比表面積が少なくとも20m2/gであることを特徴とする耐熱性アルミナ担体を提供する。この加熱は本発明の担体の性質を特定するために行なう試験条件であって製造条件のことではないが、製造条件と相反するものではなく除外されるべきものではない。本発明にかかる担体の製造方法としては、含浸法を利用する方法がある。この方法としては、例えば、硝酸ランタン等のランタンを含む水溶液を用い、40から80%の吸水率を目安として、上記水溶液中に転移性アルミナを浸漬し、十分かくはんした後、乾燥させ、その後仮焼するものである。上記仮焼は、ランタンを上記アルミナ中に均一に収着させ、かつLaAlO3の微細粒子を生成させるためアルミナの転移温度以下でかつ反応開始温度以上で行なうのがよく、更に好ましくは750℃以上で1100℃以下、保持時間としては1から10時問程度、大気中で焼成するのがよい。固相反応について熱処理温度を600℃から1300℃まで変え詳細に実験したところ、750℃でLaAlO3相が生成しはじめ、その量は熱処理温度の上昇とともに増加し1100℃をピークにしてその量は減少したが1200℃でもかなりの量が残存した。またその粒子の大きさは電子顕微鏡観察から推定され大きくても100ナノメータを超えることはないことが判明した。一般にこのような反応は焼結現象を招き耐熱性を低下させるが、本発明のアルミナ担体では、LaAlO3粒子がアルミナの2次粒子内に分散して存在し、その耐熱性に良い効果をもたらしている。すなわち余分なランタンをあらかじめ安定な物質となし吸収しかつそれ自体アルミナ粒子と同等のナノメータサイズの微粒であり、それ以上の固相反応を止める役割を果たし、複合組織においてもっとも安定な構造体をなしている。さらに1300℃の高温では、これらのLaAlO3がアルミナ同士の焼結による緻密化を防止して、高い表面積を維持させる。本発明の製造法では含浸操作において通常よりも慎重な操作が必要である。すなわちきわめて均一にランタンのアルミナへの吸着がおこるように水分吸収量を各条件においてあらかじめ十分精密に把握する必要がある。含浸時のランタンの吸着の均質性を計る指標は現在のところないと考えられるが、本発明の分散したLaAlO3微粒子の生成はむしろその均質な吸着の結果として生じたもので、本発明にいたる幾多の実験と操作上の精密さがもたらした微細構造制御製造法の成果である。したがって、アルミナ担体の結果的な形態および表面積において材料を特定するが、製造方法としては均質にランタン吸着操作を行うことを前提に固相反応調査の結果から本製造条件を請求項として特定する。本発明において、これを用いる担体の形状や形態、構造には、粒状体、ペレツト状体、多孔体あるいはハニカム構造体等がある。基体としてのセラミックスや金属多孔質体等から成る成形体の表面に本発明にかかる転移性アルミナにランタンを含浸して成るものを被覆あるいは付着後含浸処理と熱処理をして担体としてもよい。本発明の但体は、自動車排気浄化用触媒、燃焼触媒等の組体として使用することができ、特に耐熱性に優れるので、1000℃以上の高温にさらされもしくは高温下において使用される触媒の担体として有用である。
【発明の効果】
【0005】
本発明の担体は、1000℃以上の高温下において使用しても劣化がなく耐熱性に優れたものである。転移性アルミナにランタンが添加され、しかも上記転移性アルミナの純度が高純度であり、かつあらかじめ反応させたLaAlO3が微粒子で存在するのでそれ以上の固体の反応や、シンタリングが防止されている。高温においても担体作成の初期状態が維持されやすく転移性アルミナとLaAlO3の微粒子複合体の形態を維持し、かつ表面積が低下しにくい。さらにぺロブスカイト型LaAlO3の特異な触媒活性を活かすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例1】
【0007】
99.9%以上の純度を有する転移性アルミナ(γ-アルミナ)に硝酸ランタン(La(NO3)3・6H2O)水溶液を含浸した。ランタン量は上記アルミナとランタンとの比(ランタン/アルミ二ウム)で0、0.3、1.5、3、5、7.5、10mol%の割合になるようにした。また、含浸はアルミナの吸水率が60%であることを考慮してちょうど全量がアルミナにしみ込むように硝酸ランタンの水溶液を上記アルミナを浸漬し十分にかくはんすることにより行なった。転移性アルミナに硝酸ランタン水溶液を含浸後、乾燥し、その後1000℃、3時間、大気中で仮焼して担体を得た。これをさらに1200℃および1300℃で各3時間熱処理した。これの担体の77Kで窒素吸着から測定した比表面積を表1に示す。また粉末X線回折法で調べた生成相を表2に示す。

表1と表2から明らかなように、1200℃では1から8%において、転移性アルミナとLaAlO3が共存しかつ比表面積が60m2/g以上である。また、1300℃では、アルミ二ウムに対するランタンの分率で3から8%を含浸せしめるときLaAlO3相を共存しかつ1300℃、5時間の加熱後における比表面積が少なくとも20m2/gである耐熱性アルミナ担体となっている。
LaAlO3の生成粒子を調べるため、電子顕微鏡観察を行った。図1,2にランタンのアルミニウムに対する量が5mol%のときのアルミナで1000℃で作製したときの写真図を示す。反射電子像によって重元素の存在を示す白い斑点が観察された。粉末X線回折法によればアルミナ以外の相はLaAlO3のみであった。さらに透過型電子顕微鏡で調べたところ約20nm(nmはナノメーター)の微細なLaAlO3結晶が電子回折によって検出された。これらの粒子は、アルミナの粒子内に生成し20nm程度のきわめて微細な状態で凝集することなく分散している。このようなアルミナ担体は、本発明による担体の提供によってはじめて達成され、さらに本発明の製造方法により可能になったものである。図3,4に、ランタンのアルミニウムに対する量が5mol%のときのアルミナで1200℃で熱処理したときの写真図を示す。同様に反射電子像によって重元素の存在を示す白い斑点が50nm以下の大きさで観察された。比表面積は60m2/gであった。また、1300℃熱処理後において20m2/gを有する試料の同様な顕微鏡観察で100nm以下の粒子が観察された。これらの実施例の結果から、本発明の耐熱性担体はアルミナにLaAlO3微粒子が分散した特異な複合体でかつ高い比表面積をもつ新規な担体材料であることが明らかである。
【0008】
【表1】

【0009】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0010】
本発明の耐熱性アルミナ担体とその製造方法は高温排ガスの浄化や燃焼浄化用の分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ランタンのアルミニウムに対する量が5mol%のときのアルミナで1000℃で作製したときの写真図(1000℃3時間熱処理した5mol%ランタン含有アルミナ担体の電子顕微鏡像(2次電子像))
【図2】ランタンのアルミニウムに対する量が5mol%のときのアルミナで1000℃で作製したときの写真図(図1と同一視野で撮影した1000℃3時間熱処理した5 mol%ランタン含有アルミナ担体の電子顕微鏡の反射電子像)
【図3】ランタンのアルミニウムに対する量が5mol%のときのアルミナで1200℃で作製したときの写真図(1200℃3時間熱処理した5 mol%ランタン含有アルミナ担体の電子顕微鏡像(2次電子像))
【図4】ランタンのアルミニウムに対する量が5mol%のときのアルミナで1200℃で作製したときの写真図(図3と同一視野で撮影した1200℃3時間熱処理した5 mol%ランタン含有アルミナ担体の電子顕微鏡の反射電子像)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
99.9%以上の純度を有する転移性アルミナにアルミニウムに対するランタンの分率で1から8%を含浸せしめて成り、粒径が100ナノメータ以下のLaAlO3相を共存させ、1200℃、3時間の加熱後における比表面積が少なくとも60m2/gであることを特徴とする耐熱性アルミナ担体。
【請求項2】
99.9%以上の純度を有する転移性アルミナにアルミニウムに対するランタンの分率で3から8%を含浸せしめて成り、粒径が100ナノメータ以下のLaAlO3相を共存させ、1300℃、3時間の加熱後における比表面積が少なくとも20m2/gであることを特徴とする耐熱性アルミナ担体。
【請求項3】
99.9%以上の純度を有する転移性アルミナにアルミニウムに対するランタンの分率で含浸せしめてのち750℃から1200℃で1時間以上熱処理し、粒径が100ナノメータ以下のLaAlO3相を共存させた請求項1あるいは2の耐熱アルミナ担体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−61383(P2009−61383A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231003(P2007−231003)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】