説明

耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法およびそれによって得られた耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物

【課題】耐熱タッチパネル用途など、高い耐熱性が求められる用途に用いることができ、しかも溶融熱安定性を高度に維持する耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物およびその製造方法の提供。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート組成物の製造工程において、2つの水酸基がそれぞれ芳香環もしくは第2級炭素原子に直接結合しているジオール化合物を、テレフタル酸成分のモル数を基準として、10〜200mmol%の範囲で添加する耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法およびそれから得られた耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンテレフタレートに関し、特に耐熱性の要求されるフィルム用に適したポリエチレンテレフタレートに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートに代表されるポリエステルはフィルムなどの各種用途に用いられ、その用途は年々広がりを見せている。例えば、従来はタッチパネルの基材としてガラスが多用されてきたが、携帯電話などのモバイル機器の普及により、可撓性や加工性に加えて、耐衝撃性に優れ、かつ軽量であることから、基材としてポリエステルフィルムが用いられてきている。
【0003】
タッチパネルには、用途やサイズにより、いくつかの方式があり、携帯電話やPDA等の小型の情報機器には、抵抗膜式のタッチパネルが用いられている。これは、2枚の透明導電積層体間にスペーサーを介して微小なギャップを設け、タッチパネル上方からの押圧で上下の透明導電積層体が接触することにより位置検出を行う方式である。この透明導電積層体は、フィルムの表面にインジウム−スズ−酸化物膜(ITO膜)などをスパッタ法で蒸着することで製造される。その際、特許文献1に記載されているように、導電抵抗性能の劣化を防止するために、蒸着後、150℃で24時間の熱処理を行い、ITOなどの膜を結晶化させて膜物性を安定化させることが求められる。
【0004】
そのため、用いるポリエステルフィルムには、このような高温の熱処理を経ても、フィルムの機械的特性、柔軟性または耐衝撃性が低下せず、熱処理後のフィルムの特性や加工性が損なわれない耐熱性が求められている。そこで、特許文献2では、ポリエチレンテレフタレート中にポリアリーレンスルフィドを島状に分散させることが、また、特許文献3では、ポリエチレンテレフタレート中に芳香族ポリカーボネートを5〜40重量%分散させることが提案されている。
【0005】
しかしながら、これらのポリエステル組成物でも、耐熱タッチパネル用途などに用いるには未だ耐熱性が不十分であり、しかも溶融熱安定性が損なわれるという新たな問題が潜在していることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−286078号公報
【特許文献2】特開2006−161037号公報
【特許文献3】特開2005−059246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題点として挙げられていた、耐熱タッチパネル用途など、高い耐熱性が求められる用途に用いることができ、しかも溶融熱安定性を高度に維持する耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、共重合成分としてはほとんど機能しないような極めて少量の範囲で、特定のジオール化合物を加えたとき、ポリエチレンテレフタレートの耐熱性を向上できることを見出し、本発明に到達したものである。
【0009】
かくして本発明によれば、ポリエチレンテレフタレートの製造工程において、2つの水酸基がそれぞれ芳香環もしくは第2級炭素原子に直接結合しているジオール化合物を、テレフタル酸成分のモル数を基準として、10〜200mmol%の範囲で添加する耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、本発明の好ましい態様として、該ジオール化合物が、下記式(1)および(2)
HO−(CH)CH(CHCH(CH)−OH (1)
O−R−OR (2)
(ここで、Rは、フェニレン基、ナフタレンジイル基、ビフェニレン基、下記式(2A)
【化1】

で表される基(式(2A)中のRは、炭素数1〜8のアルキレン基)、Rは、水素または下記式(2B)および(2C)からなる群より選ばれる少なくとも一種
HO−(CH)CH(CHCH(CH)− (2B)
HO−(CH)CH(CHCH− (2C)
であり、nは0〜3の整数を示す。)からなる群より選ばれる少なくとも一種のジオール化合物であること、特に該ジオール化合物が、2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパンならびに2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパンと2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオールおよび1,2-プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルキレンジオールとの縮合物であること、該ジオール化合物の添加が、ポリエチレンテレフタレートの溶融重合工程が終了するまでの段階であることの少なくともいずれか一つを具備する耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法も提供される。
【0011】
さらにまた、本発明によれば、上述の本発明の製造方法によって製造された耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物も提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い耐熱性を有し、しかも溶融熱安定性にも優れた耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物を提供することができる。そのため、本発明の耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物を用いてフィルムを製造すれば、耐熱性の高いポリエチレンテレフタレートフィルムを製造することができ、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明におけるポリエステルは、ポリエチレンテレフタレートであり、特にフィルムなどへの製膜性および力学的特性などの観点などから、全繰り返し単位の90mol%以上、さらには95mol%以上がエチレンテレフタレート単位からなるポリエステルが好ましい。もちろん、本発明の効果を損なわない範囲で、それ自体公知の共重合成分を共重合してもよい。
【0014】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法は、2つの水酸基がそれぞれ芳香環もしくは第2級炭素原子に直接結合しているジオール化合物(以下、ジオール化合物Aと称することがある。)を、テレフタル酸成分のモル数を基準として、10〜200mmol%の範囲でポリエチレンテレフタレート組成物の製造工程に添加することを特徴とする。かかる特定のジオール化合物Aを添加することによる耐熱性が向上する理由は定かではないが、ポリエチレンテレフタレートを熱処理した時に発生する分解ガスによる分子鎖の切断を抑制するものと考えられる。そのため、上記ジオール化合物Aが存在しないと、分子鎖の切断は抑制されず、固有粘度の低下がみられる。
【0015】
本発明において、上記特定のジオール化合物Aの添加量は、テレフタル酸成分のモル数を基準として、10〜200mmol%の範囲、好ましくは15〜150mmol%、特に好ましくは20〜98mmol%の範囲である。この添加量が下限未満の場合には本発明の目的を達成するのに十分な耐熱性の向上効果を発現するに至らず、逆に上限を超える場合には、ポリエステル樹脂の溶融熱安定性が低下したり、成形加工に伴う分子鎖の切断及び色相の悪化等により、得られるフィルムの物性が損なわれる。
このような上記特定のジオール化合物Aとしては、前記式(1)および(2)からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0016】
好ましい前記式(1)で示されるジオール化合物Aとしては、2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,6−ヘプタンジオールなどが挙げられる。また、好ましい前記式(2)で示されるジオール化合物Aとしては、Rが水素である場合、ベンゼンジオール(1,2−ベンゼンジオール、1,3−ベンゼンジオール、1,4−ベンゼンジオール)、ナフタレンジオール(1,2−ナフタレンジオール、1,3−ナフタレンジオール、1,4−ナフタレンジオール、1,5−ナフタレンジオール、2,3−ナフタレンジオール、2,6−ナフタレンジオール、2,7−ナフタレンジオール)、ビフェニルジオール(1、1’−ビフェニル−3,3’−ジオール、4、4’−ビフェニル−3,3’−ジオールなど)、前記式(2A)で示されるビスフェノール(1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン)などが挙げられる。また、前記式(2)で示されるジオール化合物は、Rが、前記式(2B)または(2C)で示されるものであっても良い。
【0017】
これらのジオール化合物Aの中でも、前記式(1)で示されるジオール化合物Aとしては、2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,6−ヘプタンジオールが好ましく挙げられ、前記式(2)で示されるジオール化合物Aとしては、1,4−ベンゼンジオール、2,6−ナフタレンジオール、4、4’−ビフェニル−3,3’−ジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよびこれらに2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,6−ヘプタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘプタンジオールが付加したジオール化合物が好ましく挙げられる。特に好ましいのは、2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパンならびに2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパンと2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオールおよび1,2-プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルキレンジオールとの縮合物であり、それらの中でも、2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ならびに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンに2,3−ブタンジオールまたは1,2−プロパンジオールが付加したジオール化合物が好ましい。これらは2種類以上併用して用いても良い。
【0018】
これらのジオール化合物Aの添加方法は、ポリエチレンテレフタレートの溶融重合工程で添加する方法でも、ポリエチレンテレフタレートに溶融混練する方法でもよい。好ましくは均一に分散しやすいことからポリエチレンテレフタレートの溶融重合工程で添加するのが好ましく、このようにして得られた本発明のポリエチレンテレフタレート組成物を、別のポリエステルと溶融混練して使用することも好ましい。また、添加は一度に限らず、複数回に分けて行っても良い。
【0019】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物の固有粘度は、機械的特性と成形性とを高度に具備させる観点から、0.50〜0.70dl/gの範囲が好ましく、その中でも0.55〜0.65dl/gの範囲が特に好ましい。なお、本発明の目的を阻害しない範囲内で、従来公知の各種添加剤を含有していてもよく、例えば帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、潤滑剤充填材などをあげることができる。
【0020】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法は、前述のとおり、前記構造式(1)または(2)で示されるようなジオール化合物Aを、前述の範囲で添加すれば良く、ポリエチレンテレフタレートの製造方法や溶融混練方法は、それ自体公知のものを好適に採用できる。例えば、溶融重合としては、エステル化反応とエステル交換反応のいずれを経由しても良く、それらを所望の固有粘度になるまで重縮合反応を行えばよい。このとき、安定剤として、それ自体公知のリン化合物を含有させることが好ましい。
【0021】
本発明でリン化合物を使用する場合、具体的なリン化合物としては、リン酸、亜リン酸、ホスホン酸及びそれらの誘導体が挙げられ、特にトリエチルホスホノアセテートが好ましい。得られるポリエチレンテレフタレート組成物の耐熱性をより向上させる観点から、リン化合物の含有量は、ポリエチレンテレフタレート組成物の質量を基準として、リン元素量で30〜100ppmの範囲が好ましく、さらに35〜90ppm、特に40〜80ppmの範囲で含有していることが好ましい。リン化合物を上記範囲内で含有していることにより、溶融熱安定性に優れ、フィルムをはじめとする成形体に成形したときの色相に優れ、耐熱性もより高度に維持しやすい。
【0022】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、ジエチレングリコール成分を含有してもよい。ジエチレングリコール成分の含有量は、ポリエチレンテレフタレート組成物の質量を基準として、0.5〜1.0質量%の範囲で、さらに0.6〜0.9質量%、特に0.7〜0.8質量%の範囲が好ましい。このジエチレングリコール成分の含有量が上記範囲にあることで、生産性と耐熱性とをより高度に維持しやすくなる。
【0023】
また、本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、重合の際に、それ自体公知の触媒を使用できるが、耐熱性をより向上させる観点から、アンチモン化合物を重縮合反応触媒として用いていることが好ましい。アンチモン化合物の含有量は、ポリエチレンテレフタレート組成物の質量を基準として、Sb元素量で80〜150ppmの範囲、さらに90〜140ppm、特に100〜130ppmの範囲が好ましい。このアンチモン化合物の含有量を上記範囲内とすることで、重合反応を十分に進行させつつ、触媒起因の異物による透明性の低下を抑制しつつ、さらに溶融熱安定性を高度に発現させやすい。
【0024】
このようにして得られる本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、例えば、押出成形、射出成形、ブロー成形、発泡成形、紡糸成形、フィルム製膜などにより、板状、シート状、フィルム状、糸状等の任意の形状に成形することができ、特に透明性、耐熱性に優れているため、耐熱タッチパネルフィルム等に好適に使用できる。得られた成形品は、工業機材、自動車・車両、電気・電子部品等の各種分野に使用することができる。
【0025】
これらの成形で用いられる成形機は特に限定されないが、例えば、通常の射出成形機や、いわゆる射出圧縮成形機、二軸スクリュー押出機、一軸スクリュー押出機、ベント付き二軸スクリュー押出機、ベント付き一軸スクリュー押出機などが好ましく用いられる。
【0026】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物から、フィルムは、例えば以下のような方法に準じて製造することができる。先ず、本発明のポリエチレンテレフタレート組成物のペレットと、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてその他の樹脂ペレットや不活性粒子などの機能剤とを所定の割合で混合し、乾燥後、例えば、溶融温度260℃〜310℃で押出機よりTダイを経てフィルム状に押出し、冷却ドラム上に流延し冷却固化させて未延伸フィルムを作成する。この未延伸フィルムを縦方向に60〜140℃の温度で3〜8倍の倍率で延伸し、次いで横方向に70〜180℃の温度で3〜7倍の倍率で延伸して二軸配向ポリエステルフィルムを得ることができる。なお、必要に応じて縦方向および/または横方向の延伸を2段階以上に分割実施してもよい(縦多段延伸、縦−横−縦の3段延伸、縦−横−縦−横の4段延伸等)。また同時二軸延伸にて実施してもよい。二軸配向ポリエステルフィルムを製造する際の全延伸倍率は、面積延伸倍率として9〜35倍、更には10〜30倍が好ましい。また二軸配向ポリエステルフィルムは二軸延伸後、更に140〜250℃の温度で熱固定することが好ましく、特に180〜230℃で熱固定するのが好ましい。熱固定時間は1〜60秒が好ましい。
このようにして得られるポリエステルフィルムは、耐熱性に優れていることから、耐熱タッチパネルフィルムに好適に使用できる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、本発明における各種特性は、以下の測定方法にしたがった。
【0028】
(1)固有粘度(dl/g)
1,1,2,2−テトラクロロエタンとの混合溶媒(フェノール:1,1,2,2−テトラクロロエタン=40重量%:60重量%)を溶媒に用いて、35℃の恒温下オストワルト型粘度計を用いて測定した。
【0029】
(2)末端カルボキシル基量(COOH量(eq/Ton))
得られたポリエチレンテレフタレート組成物のチップをベンジルアルコール中で加熱溶解し、フェノールレッドおよびNaOH水溶液を滴下した。溶液が黄色から赤色に変色する中間点におけるNaOH水溶液量からカルボキシル基濃度を算出した。測定は室温で行い、1トン当りの当量として、eq/Tで示した。
【0030】
(3)アンチモン元素量およびリン元素量の測定
得られたポリエチレンテレフタレート組成物を加熱溶融して、円形ディスクを作成し、リガク製蛍光X線装置3270型を用いて、含有するアンチモン元素量とリン元素量を測定した。
【0031】
(4)ポリエチレンテレフタレート組成物の溶融熱安定性
得られたポリエチレンテレフタレート組成物を一旦ペレット状にし、140℃で6時間乾燥した後、大気圧下にて300℃の温度で20分間溶融状態で攪拌をつづけた後に、ポリマーを回収し、ただちに氷水中で急冷した。そして、乾燥処理後で溶融処理前のポリエチレンテレフタレート組成物の固有粘度(IV)、末端カルボキシル基量(COOH量)と、溶融処理後のポリエチレンテレフタレート組成物の固有粘度(IV)と末端カルボキシル基量(COOH量)を測定した。そして、乾燥処理後で溶融処理前のポリエチレンテレフタレート組成物の固有粘度(IV)から溶融処理後のポリエチレンテレフタレート組成物の固有粘度(IV)を差し引いたものを固有粘度差(△IV)、溶融処理後のポリエチレンテレフタレート組成物の末端カルボキシル基量(COOH量)を乾燥処理後で溶融処理前のポリエチレンテレフタレート組成物の末端カルボキシル基量(COOH量)から差し引いたものを末端カルボキシル基量差(△COOH量)とした。この△IVおよび△COOHが小さいほど溶融熱安定性に優れるといえる。
【0032】
(5)ポリエチレンテレフタレート組成物の耐熱性
得られたポリエチレンテレフタレート組成物を一旦ペレット状にし、120℃で充分に乾燥した後、エクストルーダーを用いて290℃で再度溶融させ、ダイからフィルム状に押出し、25℃に設定されたキャスティングドラムで冷却固化させて未延伸フィルムとした。この未延伸フィルムを110℃で長手方向に倍率が3.2倍になるよう延伸し、その後120℃で幅方向に倍率が3.4倍になるように延伸した。次いで、230℃で60秒間熱固定処理を行い、厚み188μmのフィルムを得た。
このようにして得られた二軸延伸ポリエステルフィルムを幅50mm、長さ100mmの長さに裁断し、175℃に加熱したオーブン中で24時間熱処理した。
この175℃に加熱したオーブン中で24時間熱処理する前のフィルムと、熱処理した後のフィルムとを、前述の固有粘度と末端カルボキシル基量の測定方法に基づき、それぞれの固有粘度と末端カルボシキル基量を測定した。なお、175℃に加熱したオーブン中で24時間熱処理する前のフィルムの固有粘度をIV、末端カルボキシル基量をCOOH、175℃に加熱したオーブン中で24時間熱処理した後のフィルムの固有粘度をIV、末端カルボキシル基量をCOOHとした。そして、熱処理前のフィルムの固有粘度(IV)から、熱処理後のフィルムの固有粘度(IV)を差し引いたものを固有粘度差(△IV)とし、熱処理後のフィルムの末端カルボシキル基量(COOH)から、熱処理前のフィルムの末端カルボシキル基量(COOH)を差し引いたものを末端カルボシキル基量差(△COOH)とした。これらの△IVおよび△COOHの値が小さいほど耐熱性に優れるといえる。
【0033】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチルエステル(DMT)とエチレングリコール(EG)とをモル比1:2の割合で、さらに酢酸マンガン四水和物と下記構造式(2−1)で示されるビスフェノール−Aのプロピレングリコール付加物(BPA−P)とを、それぞれDMTに対し、0.025モル%および20mmol%となるようにエステル交換反応槽に仕込み、190℃まで昇温した。その後、240℃に昇温しながらメタノールを除去しエステル交換反応を終了した。
続いて、三酸化二アンチモンとトリエチルホスホノアセテートとを、仕込んだDMT100モルに対し、それぞれアンチモン元素およびリン元素量で0.01モルおよび0.080モルとなるように仕込んだ。なお、トリエチルホスホノアセテートは、10重量%エチレングリコール溶液の状態で添加した。このようにして得られた反応生成物を重合反応槽へと移行した。重縮合反応槽内では昇温しつつ、圧力をゆっくりと減圧し、最終的に重縮合温度290℃、50Paの真空下で重縮合を行い、ポリエチレンテレフタレート組成物を得た。
得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0034】
【化2】

【0035】
[実施例2、3、比較例1および2]
BPA−Pの添加量を、表1に示すように変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0036】
[実施例4]
BPA−Pを、下記式(2−2)で示す2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)に変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0037】
【化3】

【0038】
[実施例5、6、比較例3および4]
BPAの添加量を、表1に示すように変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0039】
[比較例5および6]
BPA−Pを、下記式(2−3)で示す2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)のエチレングリコール付加物(BPA−E)に変更し、表1に示す添加量に変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0040】
【化4】

【0041】
[比較例7および8]
BPA−Pを下記式(2−4)で示す2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(BPA)のジエチレングリコール付加物(BPA−D)に変更し、表1に示す添加量に変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0042】
【化5】

【0043】
[実施例7〜9、比較例9および10]
BPA−Pを下記式(1−1)で示す2,3−ブタンジオール(2,3−BG)に変更し、表1に示す添加量に変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0044】
【化6】

【0045】
[実施例10〜12、比較例11および12]
BPA−Pを下記式(1−2)で示す2,4−ペンタンジオール(2,4−PG)に変更し、表1に示す添加量に変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0046】
【化7】

【0047】
[実施例13]
トリエチルホスホノアセテートの添加量を、0.080モルから0.038モルに変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0048】
[実施例14]
トリエチルホスホノアセテートの添加量を、0.080モルから0.100モルに変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0049】
[実施例15]
テレフタル酸ジメチルエステル(DMT)とエチレングリコール(EG)とのモル比1:1.8になるようにエチレングリコールの割合を変更した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0050】
[実施例16]
三酸化二アンチモンの添加量を、0.01モルから0.015モルに変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0051】
[実施例17]
三酸化二アンチモンの添加量を、0.01モルから0.008モルに変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0052】
[実施例18]
トリエチルホスホノアセテートの添加量を、0.080モルから0.020モルに変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0053】
[実施例19]
トリエチルホスホノアセテートの添加量を、0.080モルから0.150モルに変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0054】
[実施例20]
DMTとEGと一緒に、得られるポリエチレンテレフタレート組成物の質量を基準として、ジエチレングリコールを0.4質量%添加した以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0055】
[実施例21]
三酸化二アンチモンの添加量を、0.01モルから0.02モルに変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0056】
[比較例13および14]
BPA−Pを下記式(1−3)で示す1,2−プロパンジオール(1,2−PG)に変更し、表1に示す添加量に変更する以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0057】
【化8】

【0058】
[比較例15]
BPA−Pを添加しなかった以外は、実施例1と同様な操作を繰り返した。得られたポリエチレンテレフタレート組成物およびそれをフィルムにしたときの特性を表1に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
表1中の、BPA−Pは前記式(2−1)で示されるビスフェノールAのプロピレングリコール付加物、BPAは前記式(2−2)で示されるビスフェノールA、BPA−Eは前記式(2−3)で示されるビスフェノールAのエチレングリコール付加物、BPA−Dは前記式(2−4)で示されるビスフェノールAのジエチレングリコール付加物、2,3−BGは前記式(1−1)で示される2,3−ブタンジオール、2,4−PGは前記式(1−2)で示される2,4−ペンタンジオール、1,2−PGは前記式(1−2)で示される1,2−プロパンジオールを示す。また、Sb量、P量およびDEG量は、ポリエチレンテレフタレート組成物の質量を基準としたときの、アンチモン元素量[ppm]とリン元素量[ppm]、ジエチレングリコール量[質量%]を意味する。また、IVは固有粘度[dl/g]を示し、COOH量は末端カルボキシル基量[eq/T]を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリエチレンテレフタレート組成物は、フィルム、特に耐熱タッチパネルなどの基材として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート組成物の製造工程において、2つの水酸基がそれぞれ芳香環もしくは第2級炭素原子に直接結合しているジオール化合物を、テレフタル酸成分のモル数を基準として、10〜200mmol%の範囲で添加することを特徴とする耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
【請求項2】
ジオール化合物が、下記式(1)および(2)からなる群より選ばれる少なくとも一種のジオール化合物である請求項1記載の耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
HO−(CH)CH(CHCH(CH)−OH (1)
O−R−OR (2)
(ここで、Rは、フェニレン基、ナフタレンジイル基、ビフェニレン基、下記式(2A)
【化1】

で表される基(式(2A)中のRは、炭素数1〜8のアルキレン基)、Rは、水素または下記式(2B)および(2C)からなる群より選ばれる少なくとも一種
HO−(CH)CH(CHCH(CH)− (2B)
HO−(CH)CH(CHCH− (2C)
であり、nは0〜3の整数を示す。)
【請求項3】
添加するジオール化合物が、2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパンならびに2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)プロパンと2,3−ブタンジオール、2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオールおよび1,2-プロパンジオールからなる群より選ばれる少なくとも1種のアルキレンジオールとの縮合物である請求項2記載の耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
【請求項4】
2つの水酸基がそれぞれ芳香環もしくは第2級炭素原子に直接結合しているジオール化合物の添加が、ポリエチレンテレフタレートの重合工程が終了するまでの段階である請求項1〜3のいずれかに記載の耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法によって製造された耐熱性ポリエチレンテレフタレート組成物。

【公開番号】特開2012−1641(P2012−1641A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138476(P2010−138476)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000003001)帝人株式会社 (1,209)
【Fターム(参考)】