説明

耐熱性無線タグ

【課題】工場で高温原料を搬送する容器に取り付けられて、操業中の熱照射に対して耐熱性を有し、しかも、電波通過性のよい耐熱性無線タグを提供する。
【解決手段】工場で使用される高温材料を搬送する容器10に取付けて使用され、内部に識別コードを発信する送信部を備え、周囲を熱可塑性又は熱硬化性の合成樹脂製の保護カバー19で覆われた無線タグ11であって、保護カバー19の周囲を、プライマー層21を介して珪酸ガラスを主成分とする耐熱性ガラス質被膜22で被覆した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に高温環境下で使用される容器(溶融容器)等に取付けて使用され、この容器とは離れた場所に配置されるアンテナに無線で識別コードを送って、対象となる容器の識別を行う耐熱性無線タグに関する。
【背景技術】
【0002】
現状、化学工場等では、高温の固形材料や溶融材料を処理する場合、溶融容器等が使用され、これらは、使用準備(例えば、予熱)、操業、補修等のために移動される場合があり、現時点では殆どの操業計画が、全てオペレータマニュアルで行われている。そこで、これらの操業を自動化して、作業負荷軽減、容器単位での使用実績による補修計画、及び使用ローテーション作成を実現するためには、使用中の容器の管理が不可欠である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−72804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、特許文献1に記載されているような、広く販売されているICタグ(無線タグ)を高温材料を注入する容器(例えば、溶融容器)に取り付けて、工場内を移動した容器の位置を識別することを試みたが、通常広く使用されているICタグは、ケースとなる保護カバーがポリカーボネイト等の合成樹脂で形成されているので、短時間ではあるが高温に曝されると、ケースが熱でボロボロになってしまい、継続的に連続使用ができないという問題があった。
そこで、耐熱性を有するセラミック製のケースに収納して使用することも試みたが、ICタグで使用されている、高周波(例えば、900MHz帯)では、電波がセラミック製ケースを通過しないか又は著しく減衰して、使用できないという問題があった。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、工場で高温原料を搬送する容器に取り付けられて、操業中の熱照射に対して耐熱性を有し、しかも、電波通過性のよい耐熱性無線タグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る耐熱性無線タグは、工場で使用される高温材料を搬送する容器に取付けて使用され、内部に識別コードを発信する送信部を備え、周囲を熱可塑性又は熱硬化性の合成樹脂製の保護カバーで覆った無線タグであって、
前記保護カバーの周囲を、プライマー層を介して珪酸ガラスを主成分とする耐熱性ガラス質被膜で被覆した。
【0007】
ここで、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等があり、熱可塑性樹脂としては、比較的強度を有するエンジニアリングプラスチック(例えば、ポリカーボネイト、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート)、スーパーエンジニアリングプラスチック(ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルホン)等がある。
【0008】
珪酸ガラスを主成分とする耐熱性ガラス質被膜とは、M2O・nSiO2の一般式で表され、塗布前の液の状態で、MがNa、K、Li、Csのいずれかである珪酸アルカリを主体(20〜50重量%)とし、更に金属アルコート(MSiOn)存在下において、例えば0.01〜1.0モル/kgのアンモニウムイオン、0.01〜1.0モル/kgのハロゲンイオンを添加したものに、必要に応じてアルコールで希釈したものを使用するのが好ましい。なお、アンモニウムイオン、ハロゲンイオンは浸透性を向上させるために添加したもので、必ずしも必須の成分ではない。
また、プライマー層は保護カバーの基材と表面の耐熱性ガラス質被膜に対して接合性がよく、しかも耐熱性を有するものであれば、有機質又は無機質のいかなるものでも使用可能であるが、シリコーン樹脂等の無機樹脂を固形分として含有する無機プライマー層を使用するのがよい。
【0009】
ここで、前記プライマー層の厚みは5〜10μmで該プライマー層と前記耐熱性ガラス質被膜との合計厚みは、15〜40μmの範囲にあるのが好ましいが、耐熱性及び非剥離性を確保できれば、この厚みの範囲外であっても本発明は適用される。
【0010】
また、本発明に係る耐熱性無線タグにおいて、前記耐熱性ガラス質被膜は、株式会社日興が発売するテリオスコート(登録商標)NP360Gであるのが好ましい。このテリオスコートNP360Gは、主成分がSiO2、耐熱温度700℃、比重1.05の性質を有するものである。
【0011】
また、本発明に係る耐熱性無線タグにおいて、前記保護カバー内に、外部からの電波を受信して前記送信部の電力とする受信部を備えている場合、又は前記保護カバー内に、前記送信部に電力を供給する電池が設けられている場合であってもよい。
この耐熱性無線タグの取り付け位置は、容器の温度が一番低い部分(通常、容器の側面)で、金属等のカバーで覆われていない部分とする。なお、更に好ましくは、容器の側面で雰囲気温度が100℃以下の部分がよい。
【0012】
なお、装着した耐熱性無線タグの表面は露出しておくのがよい。これによって周囲からの熱線を直接受けることになるが、これは表面の耐熱性ガラス質被膜でカバーする。耐熱性無線タグの表面を例えば耐熱性シート等でカバーすると、この耐熱性無線タグに原料の飛沫等が付着して、耐熱性無線タグからの電波の飛翔が悪くなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る耐熱性無線タグは、合成樹脂製の保護カバーの周囲をプライマー層を介して珪酸ガラスを主成分とする耐熱性ガラス質被膜で被覆しているので、瞬時に上昇する周囲温度、熱線に対して耐熱性が向上し、高温での耐熱性無線タグの使用が可能となった。
【0014】
なお、保護カバーの材質としては、エンジニアリングプラスチック又はスーパーエンジニアリングプラスチックと呼ばれる例えばポリカーボネイト、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンスルファイド、ポリテトラフロロエチレン、ポリスルホンでも、電波通過性を十分に有し、本発明の耐熱性ガラス質被膜を覆うことで、その性能を確保できた。
【0015】
本発明に係る耐熱性無線タグにおいては、高温材料を搬送する容器に耐熱性ガラス質被膜を取り付け、アンテナ、リーダーライタ、リーダーライタに接続される制御用パソコンを設けることよって、容器の現在位置、及び移動状況を監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態に係る耐熱性無線タグを用いた識別システムの説明図である。
【図2】同耐熱性無線タグの説明図である。
【図3】(A)、(B)は同耐熱性無線タグの他の取付け方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
続いて、本発明を具体化した耐熱性無線タグ及びこれを使用した識別システムについて説明する。
図1に示すように、工場で使用される高温材料を搬送する容器10の側部に、本発明の一実施の形態に係る耐熱性無線タグ11を取り付け、耐熱性無線タグ11から約6m離して布製の耐熱カーテン12を配置し、その裏にアンテナ13を配置した。このアンテナ13は、リーダーライタ(制御器)14に接続され、リーダーライタ14は制御用PC15に接続されている。
【0018】
この実施の形態では、図1、図2に示すように、耐熱性無線タグ11は容器10の側部に設けられている鉄製の覆いカバー16の開口部17に支持部材18を介して取り付けられている。耐熱性無線タグ11は51×42×122mmの大きさのポリカーボネイト製(熱可塑性の合成樹脂の一例)のケース(保護カバー)19と、ケース19内に収納されている図示しない送信部とを有している。なお、ケース19は熱硬化性の合成樹脂であってもよい。
【0019】
耐熱性無線タグ11の使用にあっては、表側に断熱カバーを設けないのが好ましい。断熱カバーを設けると、高温材料等のスプラッシュが断熱カバーに付着した場合、電波を遮る材料となる。従って、耐熱性無線タグ11は支持部材18の外側又は支持部材18に直接取付けられて、耐熱性無線タグ11自体は外に向けて露出している。
覆いカバー16の内部又は周囲の温度は50〜60℃(即ち、100℃以下)となっている。容器10のその他の部分の温度は、使用前に容器10を予熱、使用にあっては溶融金属の蓄積等で、その外側壁でも280〜370℃となっている。
【0020】
耐熱性無線タグ11は、ケース19内に送信部及び受信部を有し、アンテナ13から送信された電波を受信部で受信して、電力として使用し、送信部から所定の識別コードを内部に設けられたアンテナから送信している。耐熱性無線タグ11から送信される電波の出力は極めて弱く、約8m以内に配置されたアンテナ13で受信でき、アンテナ13の出力はリーダーライタ14に送信され、復調して識別コードを制御用PC15に送っている。従って、耐熱性無線タグ11が設けられた容器10が平面視して所定の角度位置となって(即ち、耐熱性無線タグ11がアンテナ13方向に向いている)、アンテナ13に約8m以内の範囲で近づいた場合に、耐熱性無線タグ11から送信される識別コードを認識できるようになっている。なお、ケース内に電池を設けて、送信部の電源としてもよい。
【0021】
合成樹脂製のケース19の厚みは、例えば2〜4mmとなっているが、その外側表面には、プライマー層21を介して、珪酸ガラスを主成分とする耐熱性ガラス質被膜22がコーティングされている。このプライマー層21は、この実施の形態では、株式会社日興で販売されているSSプライマー(商品名)が使用されているが、ケース19となる合成樹脂に馴染みがよく(即ち、接合性があって)、表面に塗布する耐熱性ガラス質被膜22に馴染みがあって、ある程度耐熱性を有すれば、有機又は無機の材料のいずれであってもよい。本実施の形態では、無機質のプライマー材料を使用している。
【0022】
詳細には、合成樹脂(ポリカーボネイト)製のケース19の表面に前記したSSプライマーを0.025〜0.035kg/m3塗布し乾燥してプライマー層21を形成し、その上に前記したテリオスコートNP360Gを0.015〜0.025kg/m3塗布している。ここで、プライマー層21を省略すると、耐熱性ガラス質被膜22とケース19との接合性が悪くなり部分的に剥離する場合がある。
【0023】
なお、このプライマー層21と耐熱性ガラス質被膜22は、絶縁体からなって、UHF帯の高周波を通過させ、高温度の熱線が照射されても、表面が分解又は蒸発することがなく、更に熱伝導率が低い被膜(厚みは15〜40μmが好ましい)を形成している。これによって内部の合成樹脂が熱的に保護される。
【0024】
前記したアンテナ13からは、100msの電波を発射、インターバル200msで耐熱性無線タグ11に向けて電波照射を行った。アンテナ13から発射された電波を耐熱性無線タグ11の受信部で受信して、それを電力として、ID信号(識別コード)を含む微弱電波を耐熱性無線タグ11の送信部から送信する。このID信号を含む微弱電波を、アンテナ13で受信して、リーダーライタ14に送り、デジタル信号にして制御用PC15に送り、制御用PC15は、微弱電波が発射された容器10を識別する。
なお、耐熱性無線タグ11から発射される微弱電波の受信範囲は6〜12m以内とするのがよい。微弱電波の出力が強すぎると、遠くにある容器10に設けられた耐熱性無線タグ11の信号も受信することになり、容器10の位置が特定できない。
【0025】
図3には、容器24の周囲にフランジ25を有する場合の、耐熱性無線タグ11の他の取付け方法を示すが、フランジ25の下面にL字状の取付け金具26を設け、この取付け金具26の下部に取付け台27を介して耐熱性無線タグ11を取付ける。これによって、容器24から仮に高温材料が溢れ落ちても、フランジ25の下にある耐熱性無線タグ11は保護される。
【0026】
前記実施の形態においては、プライマー層21及び耐熱性ガラス質被膜22を特定して説明したが、本発明の要旨を変更しない範囲で材料の変更は可能である。
また、耐熱性ガラス質被膜22で被覆する前の無線タグは市販のものを使用でき、これによって原価が安くなり、使い捨てが容易となる。
【符号の説明】
【0027】
10:容器、11:耐熱性無線タグ、12:耐熱カーテン、13:アンテナ、14:リーダーライタ、15:制御用PC、16:覆いカバー、17:開口部、18:支持部材、19:ケース、21:プライマー層、22:耐熱性ガラス質被膜、24:容器、25:フランジ、26:取付け金具、27:取付け台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工場で使用される高温材料を搬送する容器に取付けて使用され、内部に識別コードを発信する送信部を備え、周囲を熱可塑性又は熱硬化性の合成樹脂製の保護カバーで覆った無線タグであって、
前記保護カバーの周囲を、プライマー層を介して珪酸ガラスを主成分とする耐熱性ガラス質被膜で被覆したことを特徴とする耐熱性無線タグ。
【請求項2】
請求項1記載の耐熱性無線タグにおいて、前記プライマー層と前記耐熱性ガラス質被膜との合計厚みは、15〜40μmの範囲にあることを特徴とする耐熱性無線タグ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の耐熱性無線タグにおいて、前記耐熱性ガラス質被膜は、テリオスコート(登録商標)であることを特徴とする耐熱性無線タグ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1記載の耐熱性無線タグにおいて、前記保護カバー内には、外部からの電波を受信して前記送信部の電力とする受信部を備えていることを特徴とする耐熱性無線タグ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1記載の耐熱性無線タグにおいて、前記保護カバー内には、前記送信部に電力を供給する電池が設けられていることを特徴とする耐熱性無線タグ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1記載の耐熱性無線タグにおいて、前記容器の側部で、雰囲気温度が100℃以下で、外部に対して開放されている位置に、該耐熱性無線タグは取り付けられていることを特徴とする耐熱性無線タグ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−146069(P2012−146069A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3119(P2011−3119)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000233697)株式会社日鉄エレックス (51)
【出願人】(502296707)株式会社日興 (2)
【Fターム(参考)】