説明

耐熱性DNAポリメラーゼと陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤との安定化組成物

本発明は、40℃から100℃より高い温度において行われる増幅反応において耐熱性DNAポリメラーゼを保護する組成物、方法およびキットを提供する。前記組成物は、耐熱性DNAポリメラーゼ、および陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性DNAポリメラーゼと陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤との組成物を含む組成物、方法、およびキットを提供する。
【背景技術】
【0002】
広く知られている組み換えDNA技術には、DNAの複製およびDNAの増幅が含まれる。その1つの例は、ポリメラーゼ連鎖反応法(PCR)である。PCR中に、耐熱性DNAポリメラーゼは、低温と高温(例えば55℃と95℃)を繰り返す。高温にある総時間は、サイクルの総数、各サイクルにおける高温ステップでの持続時間、およびランプ速度(ramp speed)(サーマルサイクラーが各サイクルのステップ間で切り替わる速度)に依存する。これらのDNAポリメラーゼは高い耐熱性を有するが、高温では時間とともに不活性化する傾向にある。さらに、これらの酵素はまた、補助因子の濃度が最適未満の状態またはpHレベルが最適未満の状態で水性環境に希釈された場合、および反応混合液中に化学阻害剤または生物阻害剤が存在下する場合に不活性化される恐れがある。
【0003】
酵素を安定化させる一つの方法は、界面活性物質のような安定化剤を添加することである。界面活性物質または界面活性剤は、活性型酵素とそれらが含まれている液層環境との境界を安定化させる表面活性化合物である。Taq DNAポリメラーゼの活性は、Tween20などの非イオン界面活性剤の添加により安定化される。しかしながら、使用目的によっては、Tween20で安定化されたDNAポリメラーゼは増幅効率が低く、非特異的産物が増幅される。したがって、溶液中で耐熱性DNAポリメラーゼの安定性を改善する界面活性剤が必要性とされており、特に、現在使用されている界面活性剤にいかなる不利益も与えずに、酵素安定性を改善するような界面活性剤が必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の態様には、耐熱性DNAポリメラーゼと陰イオン界面活性剤とを含む組成物が含まれる。あるいは、この組成物は耐熱性DNAポリメラーゼと両性イオン界面活性剤とを含んでいてもよい。
【0005】
本発明のさらに他の態様は、サーマルサイクルプロセスにおいて耐熱性DNAポリメラーゼの不活性化を抑制する方法を提供する。この方法は、サーマルサイクルプロセスにおいて、DNAポリメラーゼを陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤と接触させることを含む。
【0006】
本発明の他の態様には、サーマルサイクルプロセスにおいて耐熱性DNAポリメラーゼの不活性化を抑制するキットが含まれる。このキットには、耐熱性DNAポリメラーゼおよび陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤が含まれる。
【0007】
本発明の別の態様および特徴は、本明細書でさらに詳しく説明される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】アガロースゲルで分離したPCR断片を蛍光染色した写真画像である。一番左のレーンおよび一番右のレーンのそれぞれにはDNAラダーが含まれる。「ポジティブ」とラベルされたレーンのそれぞれには、0.0005%のTween20の存在下で増幅した500bpの断片が含まれる。「ネガティブ」とラベルされたレーンは、安定化界面活性剤の非存在下で行った反応を示す。「41」とラベルされたレーンは、λカラギーナン、および左から右へ0.05%、0.05%、0.005%、0.0005%のポリ(エチレングリコール)モノラウレートを含んだ反応液中で行った反応を示す。「59」とラベルされたレーンは、Mackanate TM DOS−70を左から右へ0.05%、0.05%、0.005%、0.0005%含んだ反応液中で行った反応を示す。「61」とラベルされたレーンは、Rhodafac RM710を左から右へ0.05%、0.05%、0.005%、0.0005%含んだ反応液中で行った反応を示す。
【図2】アガロースゲルで分離したPCR断片を蛍光染色した写真画像である。明るいバンドは、種々の濃度の(A)陰イオン界面活性剤であるポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル−3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、(Z)両性イオン界面活性剤であるCHAPS、または(T)Tween20を配合したTaq DNAポリメラーゼで増幅した500bp断片に相当する。種々の配合物は、種々の濃度のDTT存在下で、右側に示した種々の期間貯蔵した。
【図3】アガロースゲルで分離したPCR断片を蛍光染色した写真画像である。「L」とラベルされたレーンには、画像の左に示すサイズの断片を有するDNAラダーが含まれる。左側の3つのレーンは352bp断片を増幅の標的とした反応を示し、右側の3つのレーンは360bp断片を増幅の標的とした反応を示す。「T」とラベルされたレーンには、Tween20を配合したTaq DNAポリメラーゼで増幅した断片が含まれる。「A」とラベルされた各レーンには、陰イオン界面活性剤であるポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩を配合したTaq DNAポリメラーゼで増幅した断片が含まれている。「R」とラベルされたレーンには、Tween20を配合した、商業的に入手可能な他のTaq DNAポリメラーゼで増幅した断片が含まれている。
【発明を実施するための形態】
【0009】
TaqなどのDNAポリメラーゼは、実質的に耐熱性であるが、サーマルサイクルプロセスで利用される高温において、時間とともに不活性化する。実施例に示すように、サーマルサイクルプロセスにおいて陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤のいずれかをポリメラーゼと接触させることによって、耐熱性DNAポリメラーゼの熱による不活性化を防止できることが分かった。したがって、本発明は、サーマルサイクルプロセスにおいて耐熱性DNAポリメラーゼの不活性化を抑制する組成物、方法、およびキットを提供する。最も基本的な形態として、本発明の組成物は、耐熱性DNAポリメラーゼ、および陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤のいずれかを含む。好適な組成物を以下に詳しく説明する。
【0010】
本発明の組成物は、標的核酸の増幅に用いるサーマルサイクルプロセス(例えばPCR)において、耐熱性DNAポリメラーゼを保護するために利用されるであろうことが想定される。標的核酸は一般的にDNAであるが、いくつかの実施形態においては、標的核酸はRNA、またはDNAとRNAの混合であってもよいことも想定される。RNAが鋳型や酵素として、および/または鋳型の逆転写に最適な状態で使用される場合は、当業者に既知のDNAが利用されることになる。好ましくは、標的核酸はDNAである。
【0011】
標的核酸を増幅する好ましい方法はPCRである。PCR増幅とは、つまり、実施される反応ステップの回数に応じて、指数関数的な量の標的核酸が生成される酵素連鎖反応である。一般的に、PCR増幅は、約50℃〜約95℃の範囲の温度で、約1サイクル〜約50サイクル行われ、より一般的には、約10サイクル〜約40サイクル行われる。PCR増幅技術、およびPCRの多くのバリエーションが知られており、十分に裏付けられている。本発明の組成物は、PCRやPCRのバリエーションにおける耐熱性DNAポリメラーゼを保護するために利用し得る。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれている、Saiki他、Science239:487−491(1988)、米国特許第4,682,195号、第4,683,202号、および第4,800,159号を参照のこと。
【0012】
I.熱安定化配合物
本発明の組成物は、陰イオン界面活性剤および耐熱性DNAを含む。あるいは、組成物は、両性イオン界面活性剤および耐熱性DNAポリメラーゼを含む。組成物は、さらに緩衝剤、一価の塩、二価の塩、還元剤、キレート化剤、およびdNTPの混合物を含んでいてもよい。本発明の組成物を含む反応混合物は、さらにDNA増幅反応のための反応剤を含んでいてもよい。
【0013】
a.陰イオン界面活性剤
本発明の組成物は、陰イオン界面活性剤を含んでいてもよい。好適な陰イオン界面活性剤には、高温(例えば50℃〜95℃)で繰り返し増幅反応が行われる場合に耐熱性DNAポリメラーゼの不活性化を抑制する化合物が含まれる。特定の陰イオン界面活性化合物がこのように機能するかどうかを決定する方法については、実施例に詳述する。好適な陰イオン界面活性剤は、以下に詳述するもの、または当該技術分野でよく知られているものである。
【0014】
好適な陰イオン界面活性剤は、アルキルスルファート、アルキルスルホナート、アルキルベンゼンスルホナート、α−スルホニル脂肪酸、アルキルホスファート、ジオクチルスルホスクシナート、イセチオナート、アルキルエーテルスルファート、メチルサルコシンなどからなる群より選択することができる。好適な陰イオン界面活性剤の代表的な例には、ドデシルベンゼンスルホン酸アミン、カプリレス硫酸アンモニウム、クメンスルンホン酸アンモニウム、ジヒドロキシステアリン酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ラウレス硫酸アンモニウム、ラウレス−12硫酸アンモニウム、ラウレス−30硫酸アンモニウム、ラウロイルサルコシン酸アンモニウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリルスルホコハク酸アンモニウム、リグノスルホン酸アンモニウム、ミレス硫酸アンモニウム、ナフタレンスルホン酸アンモニウム、ノノキシノール−20硫酸アンモニウム、ノノキシノール−30硫酸アンモニウム、ノノキシノール−4硫酸アンモニウム、ノノキシノール−6硫酸アンモニウム、ノノキシノール−9硫酸アンモニウム、オレイン酸硫酸アンモニウム、パーフルオロオクタン酸アンモニウム、ステアリン酸アンモニウム、キシレンスルホン酸アンモニウム、ブチルナフタレンスルホナート、ブチルホスファート、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、テトラプロピレンベンゼンスルホン酸カルシウム、カプリレス−9カルボン酸、セチルホスファート、クメンスルホン酸、セチルリン酸DEA、ドデシルベンゼンスルホン酸DEA、ラウリル硫酸DEA、デセス−4ホスファート、ラウリルスルホコハク酸ジアンモニウム、ステアリルスルホコハク酸ジアンモニウム、ジアミルスルホコハク酸ナトリウム、ジシクロヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソブチルスルホコハク酸ナトリウム、ジラウレス−7クエン酸塩、ジメチコノール、ジノノキシノール−4ホスファート、ジオクチルスルホコハク酸アンモニウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、セテアリルスクシンアミド酸ジナトリウム、コカミドMEA−スルホコハク酸ジナトリウム、コカミドPEG−3スルホコハク酸ジナトリウム、デセス−6スルホコハク酸ジナトリウム、デシルジフェニルエーテルジスルホン酸ジナトリウム、ドデシルオキシプロピルスルホスクシンアミド酸ジナトリウム、イソデシルスルホコハク酸ジナトリウム、ラネス−5スルホコハク酸ジナトリウム、ラウルアミドDEA−スルホコハク酸ジナトリウム、ラウルアミドMEA−スルホコハク酸ジナトリウム、ラウレススルホコハク酸ジナトリウム、ラウリルスルホコハク酸ジナトリウム、ミリストアミドMEA−スルホコハク酸ジナトリウム、オレアミドMEA−スルホコハク酸ジナトリウム、オレアミドPEG−2スルホコハク酸ジナトリウム、オレス−3スルホコハク酸ジナトリウム、PEG−4コカミドMIPAスルホコハク酸ジナトリウム、リシノールアミドMEA−スルホコハク酸ジナトリウム、ステアリルスルホスクシンアミド酸ジナトリウム、ウンデシレンアミドMEA−スルホコハク酸ジナトリウム、ジトリデシルスルホコハク酸ナトリウム、ドデセニルコハク酸無水物、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸、ドデシルジフェニルオキシドジスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジオレイン酸グリセリルSE、ジステアリン酸グリセリルSE、リシノール酸グリセリルSE、ステアリン酸クエン酸塩グリセリル、ステアリン酸グリセリルSE、ステアリン酸グリコールSE、ヘキシルホスファート、イソプロピルホスファート、イソプロピルアミンドデシルベンゼンスルホナート、イソステアレス−2ホスファート、イソトリデセス−3ホスファート、イソトリデセス−6ホスファート、ラウレス−1ホスファート、ラウレス−12カルボン酸、ラウレス−3ホスファート、ラウレス−4ホスファート、ラウレス−6ホスファート、ラウレス−7−シトラート、ラウレス−9−ホスファート、ラウリルホスファート、ラウリル硫酸リチウム、ラウレス硫酸マグネシウム、PEG−3コカミド硫酸マグネシウム、ラウレスリン酸MEA、ラウリル硫酸MEA、ラウレス硫酸MIPA、ラウリル硫酸MIPA、ミリストイルサルコシン、ナフタレン−ホルムアルデヒドスルホナート、ノノキシノール−10ホスファート、ノノキシノール−12ホスファート、ノノキシノール−3ホスファート、ノノキシノール−4ホスファート、ノノキシノール−4スルファート、ノノキシノール−6ホスファート、ノノキシノール−7ホスファート、ノノキシノール−8ホスファート、ノノキシノール−9ホスファート、ノニルノノキシノール−10ホスファート、ノニルノノキシノール−15ホスファート、ノニルノノキシノール−7ホスファート、オレス−10カルボン酸、オレス−10ホスファート、オレス−3カルボン酸、オレス−4ホスファート、オレス−5ホスファート、オレス−6カルボン酸、オレス−7ホスファート、PEG−2ジラウリン酸SE、PEG−2ジオレイン酸SE、PEG−2ジステアリン酸SE、PEG−2ラウリン酸SE、PEG−2オレイン酸SE、PEG−2ステアリン酸SE、PEG−9ステアルアミドカルボン酸、セチルリン酸カリウム、デセス−4リン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、イソステアレス−2リン酸カリウム、ラウロイルサルコシン酸カリウム、ラウリル硫酸カリウム、オレイン酸カリウム、オレイン硫酸カリウム、パーフルオロオクタン酸カリウム、リシノール硫酸カリウム、PPG−2ラウリン酸SE、PPG−2オレイン酸SE、PPG−2ステアリン酸SE、PPG−5−セテスー10ホスファート、ラウリン酸プロピレングリコールSE、オレイン酸プロピレングリコールSE、リシノール酸プロピレングリコールSE、ステアリン酸プロピレングリコールSE、PVM/MA共重合体、2−エチルヘキシルリン酸ナトリウム、2−エチルヘキシル硫酸ナトリウム、オレフィンスルホン酸ナトリウム、アリルオキシヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウム、ベヘノイル乳酸ナトリウム、ブトキシエトキシ酢酸ナトリウム、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ブチルオレイン酸硫酸ナトリウム、ブチルオレイン酸スルホン酸ナトリウム、ブチルリン酸ナトリウム、カプロイル乳酸ナトリウム、カプリリルスルホン酸ナトリウム、セチル硫酸ナトリウム、クメンスルホン酸ナトリウム、デセス硫酸ナトリウム、デシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウム、デシル硫酸ナトリウム、ジブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ジイソオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジイソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジラウレス−7クエン酸ナトリウム、ジノニルスルホコハク酸ナトリウム、ドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルオキシドジスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、グリセリルトリオレイン硫酸ナトリウム、ヘキサデシルジフェニルジスルホン酸ナトリウム、ヘキサデシルジフェニルオキシドジスルホン酸ナトリウム、ヘキシルジフェニルオキシドジスルホン酸ナトリウム、イセチオン酸ナトリウム、イソデシル硫酸ナトリウム、イソオクチル硫酸ナトリウム、イソステアロイル乳酸ナトリウム、イソトリデセス−15硫酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ラウルアミドDEA−スルホコハク酸ナトリウム、ラウレスリン酸ナトリウム、ラウレス硫酸ナトリウム、ラウレススルホコハク酸ナトリウム、ラウレス−10リン酸ナトリウム、ラウレス−11カルボン酸ナトリウム、ラウレス−12硫酸ナトリウム、ラウレス−13酢酸ナトリウム、ラウレス−13カルボン酸ナトリウム、ラウレス−3カルボン酸ナトリウム、ラウレス−4カルボン酸ナトリウム、ラウレス−4リン酸ナトリウム、ラウレス−6カルボン酸ナトリウム、ラウレス−7カルボン酸ナトリウム、ラウレス−7硫酸ナトリウム、ラウレス−8硫酸ナトリウム、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイル乳酸ナトリウム、ラウロイル乳酸ナトリウム、ラウロイルメチルアミノプロピオン酸ナトリウム、ラウロイルサルコシン酸ナトリウム、ラウリルリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルスルホ酢酸ナトリウム、リグニン酸ナトリウム、リグノスルホン酸ナトリウム、メタリルスルホン酸ナトリウム、メチルラウロイルタウリンナトリウム、メチルミリストイルタウリンナトリウム、メチルオレオイルタウリンナトリウム、メチルパルミトイルタウリンナトリウム、メチルステアロイルタウリンナトリウム、メチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、m−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、ミレス硫酸ナトリウム、ミリストイルグルタミン酸ナトリウム、ミリストイルサルコシン酸ナトリウム、ミリスチル硫酸ナトリウム、ノノキシノール硫酸ナトリウム、ノノキシノール−10硫酸ナトリウム、ノノキシノール−10スルホコハク酸ナトリウム、ノノキシノール−15硫酸ナトリウム、ノノキシノール−4硫酸ナトリウム、ノノキシノール−5硫酸ナトリウム、ノノキシノール−6リン酸ナトリウム、ノノキシノール−6硫酸ナトリウム、ノノキシノール−8硫酸ナトリウム、ノノキシノール−9リン酸ナトリウム、ノノキシノール−9硫酸ナトリウム、オクトキシノル−2エタンスルホン酸ナトリウム、オクトキシノル−3硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、オクチルフェノキシエトキシエチルスルホン酸ナトリウム、オレイン硫酸ナトリウム、オレス−7リン酸ナトリウム、オレイルリン酸ナトリウム、オレイル硫酸ナトリウム、オレイルスルホスクシンアミド酸ナトリウム、パルトミトイルサルコシン酸ナトリウム、フェニルスルホン酸ナトリウム、プロピルオレイン硫酸ナトリウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ステアリルスルホスクシンアミド酸ナトリウム、トリデセス硫酸ナトリウム、トリデセス−3カルボン酸ナトリウム、トリデセス−6カルボン酸ナトリウム、トリデセス−7カルボン酸ナトリウム、トリデシル硫酸ナトリウム、トリデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、キシレンスルホン酸ナトリウム、ステアロイルサルコシン、TEA−ラウロイルグルタマート、TEA−ラウリルスルファート、ジカルボキシエチルステアリルスルホスクシンアミド酸テトラナトリウム、TIPA−ラウレススルファート、トリセテアレス−4ホスファート、トリセテス−5ホスファート、トリデセス−2ホスファート、トリデセス−3ホスファート、トリデセス−5ホスファート、トリデシルホスファート、トリラウレス−4ホスファートおよびトリオクチルホスファートが含まれる。
【0015】
さらに別の形態として、陰イオン界面活性剤は、グリコール酸エトキシラートオクチルエーテル、グリコール酸エトキシラートオレイルエーテル、グリコール酸エトキシラートラウリルエーテル、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、グリコール酸エトキシラート4−tert−ブチルフェニルエーテル、グリコール酸エトキシラートオレイルエーテル、ポリ(エチレングリコール)n−アルキル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、グリコール酸エトキシラート4−ノニルフェニルエーテル、ポリ(エチレングリコール)n−アルキル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、コール酸ナトリウム水和物、デオキシコール酸ナトリウム、タウロデオキシコール酸ナトリウム水和物、タウロコール酸ナトリウム、グリコール酸エトキシラートオクチルエーテル、グリコール酸エトキシラートオレイルエーテル、グリコール酸エトキシラートラウリルエーテル、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、グリコール酸エトキシラート4−tert−ブチルフェニルエーテル、グリコール酸エトキシラートオレイルエーテル、ポリ(エチレングリコール)n−アルキル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、グリコール酸エトキシラート4−ノニルフェニルエーテルおよびポリ(エチレングリコール)n−アルキル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩からなる群より選択することができる。
【0016】
例示的な実施形態では、陰イオン界面活性剤は、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、ポリ(エチレングリコール)モノラウレート、λカラギーナン、ポリオキシエチレン(150)ジノニルフェニルエーテルポリオキシエチレン(Igepal(登録商標)DM−970)およびノニルノノキシノール−15ホスファート(Rhodafac RM710)からなる群より選択される。
【0017】
b.両性イオン界面活性剤
また、本発明の組成物は、両性イオン界面活性剤を含んでいてもよい。好適な両性イオン界面活性剤には、高温(例えば50℃〜95℃)で繰り返し増幅反応が行われる場合に耐熱性DNAポリメラーゼの不活性化を抑制する化合物が含まれる。特定の両性イオン界面活性剤化合物がこのように機能するかどうかを決定する方法については、実施例に詳述する。好適な両性イオン界面活性剤は、以下に詳述するもの、または当該技術分野でよく知られているものである。
【0018】
ある形態では、両性イオン界面活性剤は式(Ia)を含む化合物であってもよい。
【化1】

式中、R1、R2、R3およびR4は独立に、ヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルである。
【0019】
一般的に、式(Ia)の化合物におけるR1、R2およびR3のそれぞれは、約1〜10原子程度の鎖から成っているが、好ましくは約1〜7原子の鎖であり、より好ましくは1〜5原子程度の鎖であり、さらに好ましくは1〜3原子程度の鎖からなる。式(Ia)の化合物についての実施形態の大部分においては、R4は約5〜30原子程度の鎖から成っているが、好ましくは約8〜約25原子の鎖であり、より好ましくは約10〜約20原子の鎖である。式(Ia)の化合物の例は、R1、R2およびR3のそれぞれが約1〜5原子の鎖であり、R4が約8〜20原子の鎖のものであるだろう。式(Ia)の化合物の他の例は、R1およびR2のそれぞれがメチル基であり、R3が約1〜3原子の鎖であり、R4が約10〜16原子鎖のものであるだろう。
【0020】
さらなる実施形態には、式(Ib)の化合物を含む両性イオン界面活性剤が含まれる。
【化2】

式中、
mは0〜10の整数であり、
nは1〜10の整数であり、
4はヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルである。
【0021】
通常、式(Ib)の化合物についての実施形態の大部分において、mは0〜5の整数であり、nは1〜8の整数であり、R4は約8〜25原子の鎖長を有する。他の例示的な実施形態においては、mは0〜3の整数であり、nは1〜5の整数であり、R4は約10〜20原子の鎖長を有する。さらに他の例示的な実施形態においては、mは0であり、nは3であり、R4は約10〜16原子の鎖長を有する。
【0022】
さらに他の実施形態には、化合物(Ic)を含む両性イオン界面活性剤が含まれる。
【化3】

式中、
nは1〜10の整数であり、
4はヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルである。
【0023】
一般的に、式(Ic)の化合物において、nは1〜8の整数であり、R4は約8〜25原子の鎖長を有する。他の例示的な実施形態においては、nは1〜5の整数であり、R4は約10〜20原子の鎖長を有する。さらに他の例示的な実施形態においては、nは3であり、R4は約10〜16原子の鎖長を有する。
【0024】
さらに他の実施形態においては、両性イオン界面活性剤は式(Id)の化合物であってもよい。
【化4】

式中、
iは8〜25の整数であり、
nは1〜10の整数である。
【0025】
通常、式(Id)の化合物についての実施形態の大部分においては、iは10〜20の整数であり、nは1〜5の整数である。例示的な実施形態においては、iは10〜16の整数であり、nは3である。
【0026】
式(Ia)、(Ib)、(Ic)または(Id)の両性イオン界面活性剤化合物の代表的な例には、
3−(N,N−ジメチルテトラデシルアンモニオ)プロパンスルホナート(SB3−14)、
3−(4−ヘプチル)フェニル−3−ヒドロキシプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホナート(C7BzO)、
CHAPS(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート)、
CHAPSO(3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナート)、
3−(デシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホナート分子内塩(SB3−10)、
3−(ドデシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホナート分子内塩(SB3−12)、
3−(N,N−ジメチルオクタデシルアンモニオ)プロパンスルホナート(SB3−18)、
3−(N,N−ジメチルオクチルアンモニオ)プロパンスルホナート分子内塩(SB3−8)、3−(N,N−ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホナート(SB3−16)、および
3−[N,N−ジメチル(3−ミリストイルアミノプロピル)アンモニオ]プロパンスルホナート(ASB−14)が含まれる。
【0027】
式(Ia)、(Ib)、(Ic)または(Id)の化合物のうち、特に好ましい実施形態には、両性イオン界面活性剤CHAPSまたはCHAPSOである。CHAPSは下記化学構造を有する。
【化5】

式中、nは18〜22の整数である。例示的実施形態においては、nは20である。
【0028】
CHAPSOは下記化学構造を有する。
【化6】

【0029】
他の好適な両性イオン界面活性剤には、実施形態にもよるが、アセチル化レシチン、アプリコトアミドプロピルベタイン、ババスアミドプロピルベタイン、ベヘニルベタイン、ビス2−ヒドロキシエチルタロウグリシナート、C12−14アルキルジメチルベタイン、カノルアミドプロピルベタイン、カプリン酸/カプリル酸アミドプロピルベタイン、カプリロアミドプロピルベタイン、セチルベタイン、コカミドプロピルベタイン、コカミドプロピルジメチルアミノヒドロキシプロピル加水分解コラーゲン、N−[(3−コカミド)−プロピル]−N,N−ジメチルベタイン、カリウム塩、コカミドプロピルヒドロキシスルタイン、コカミドプロピルスルホベタイン、コカミノ酪酸、コカミノプロピオン酸、ココアンホジプロピオン酸、ココ−ベタイン、ココジメチルアンモニウム−3−スルホプロピルベタイン、ココイミノジグリシナート、ココイミノジプロピオナート、ココ/オレアミドプロピルベタイン、ココイルサルコシンアミドDEA、DEA−ココアンホジプロピオナート、ジヒドロキシエチルタロウグリシナート、ジメチコンプロピルPG−ベタイン、N,N−ジメチル−N−ラウリン酸−アミドプロピル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−ミリスチル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−パルミチル−N−(3スルホプロピル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−ステアルアミドプロピル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−ステアリル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン、N,N−ジメチル−N−タロウ−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン、カプロアンホジ酢酸ジナトリウム、カプロアンホジプロピオン酸ジナトリウム、カプリロアンホジ酢酸ジナトリウム、カプリロアンホジプロピオン酸ジナトリウム、ココアンホジ酢酸ジナトリウム、ココアンホジプロピオン酸ジナトリウム、イソステアロアンホジプロピオン酸ジナトリウム、ラウレス−5カルボキシアンホジ酢酸ジナトリウム、ラウリミノジプロピオン酸ジナトリウム、ラウロアンホジ酢酸ジナトリウム、ラウロアンホジプロピオン酸ジナトリウム、オクチルb−イミノジプロピオン酸ジナトリウム、オレオアンホジ酢酸ジナトリウム、オレオアンホジプロピオン酸ジナトリウム、PPG−2−イソデセス−7カルボキシアンホジ酢酸ジナトリウム、ソイアンホジ酢酸ジナトリウム(disodium soyamphodiacetate)、ステアロアンホジ酢酸ジナトリウム、トールアンホジプロピオン酸ジナトリウム(disodium tallamphodipropionate)、タロウアンホジ酢酸ジナトリウム、タロウイミノジプロピオン酸ジナトリウム、コムギ胚芽アンホジ酢酸ジナトリウム(disodium wheatgermamphodiacetate)、N,N−ジステアリル−N−メチル−N−(3−スルホプロピル)−アンモニウムベタイン、エルクアミドプロピルヒドロキシスルタイン、エチルヘキシルジプロピオナート、エチルヒドロキシメチルオレイルオキサゾリン、エチルPEG−15コカミンスルファート、水素添加レシチン、加水分解タンパク質、イソステアルアミドプロピルベタイン、ラウルアミドプロピルベタイン、ラウルアミドプロピルジメチルベタイン、ラウルアミノプロピオン酸、ラウロアンホジプロピオン酸、ラウロイルリシン、ラウリルベタイン、ラウリルヒドロキシスルタイン、ラウリルスルタイン、リノレアミドプロピルベタイン、リゾレシチン、乳脂質アミドプロピルベタイン、ミリストアミドプロピルベタイン、オクチルジプロピオナート、オクチルイミノジプロピオナート、オレアミドプロピルベタイン、オレイルベタイン、4,4(5H)−オキサゾールジメタノール、2−(ヘプタデセニル)−、パルミトアミドプロピルベタイン、パルミトアミンオキシド、リシノールアミドプロピルベタイン、リシノールアミドプロピルベタイン/IPDI共重合体、セサミドプロピルベタイン、C12−15アルコキシプロピルイミノジプロピオン酸ナトリウム、カプロアンホ酢酸ナトリウム、カプリロアンホ酢酸ナトリウム、カプリロアンホヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウム、カプリロアンホプロピオン酸ナトリウム、カルボキシメチルタロウポリプロピルアミンナトリウム、コカミノプロピオン酸ナトリウム、ココアンホ酢酸ナトリウム、ココアンホヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウム、ココアンホプロピオン酸ナトリウム、ジカルボキシエチルココホスホエチルイミダゾリンナトリウム、水素添加タロウジメチルグリシン酸ナトリウム、イソステアロアンホプロピオン酸ナトリウム、ラウリミノジプロピオン酸ナトリウム、ラウロアンホ酢酸ナトリウム、オレオアンホヒドロキシプロピルスルホン酸ナトリウム、オレオアンホプロピオン酸ナトリウム、ステアロアンホ酢酸ナトリウム、トールアンホプロピオン酸ナトリウム、ソイアミドプロピルベタイン、ステアリルベタイン、タロウアミドプロピルヒドロキシスルタイン、タロウアンホポリカルボキシプロピオン酸、ラウロアンホPG−酢酸リン酸クロリドトリナトリウム(trisodium lauroampho PG−acetate phosphate chloride)、ウンデシレンアミドプロピルベタインおよびコムギ胚芽アミドプロピルベタインが含まれる。
【0030】
c.耐熱性酵素
本発明の安定化組成物は、高温、特に、サーマルサイクルプロセス(例えばPCR)において、核酸が関与する反応を触媒する種々の酵素を含んでいてもよい。核酸を修飾、切断または合成する酵素は、本発明の組成物中で安定化されていてもよい。酵素の例には、リガーゼ、ホスホジエステラーゼ、DNase、エキソヌクレアーゼ、RNase、脱リン酸酵素、リン酸化酵素、末端転移酵素、逆転写酵素、制限エンドヌクレアーゼ、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼが含まれる。例示的実施形態においては、酵素は標的ポリヌクレオチド配列の増幅を触媒する耐熱性ポリメラーゼである。耐熱性DNAポリメラーゼが特に好ましい。
【0031】
通常、好適な耐熱性DNAポリメラーゼは高温で実質的に安定であり、サーマルサイクルプロセスにおいて標的ポリヌクレオチドの増幅反応を効果的に触媒する。これに関連して、耐熱性DNAポリメラーゼは、二本鎖核酸の効果的な変性に必要な時間、高温におかれた場合、不活性化に対して実質的に耐性を有する。本明細書における不活性化とは、酵素活性の持続的かつ完全な消失を指す。核酸の変性に必要な温度は、様々な要因(例えば、緩衝塩の濃度、変性される核酸の長さおよび変性される核酸のヌクレオチド組成)に依存するであろうことが想定されるが、温度は一般的に、約90℃〜約105℃の範囲である。好適な耐熱性DNAポリメラーゼは、それ自体は、一般的に、約90℃から約100℃を超える温度では不活性化されない。さらに、耐熱性DNAポリメラーゼはまた、一般的に、それが機能するために約40℃より高い至適温度を有するが、その温度以下では、プライマーの鋳型DNAへのハイブリダイゼーションが促進される。例示的な耐熱性DNAポリメラーゼは、それ自体は、一般的にはPCRのようなサーマルサイクル反応に利用される温度範囲全体を通して機能する。例えば、好適な耐熱性DNAポリメラーゼは、通常約40℃〜110℃の範囲の至適温度を有し、より一般的には約50℃〜約95℃の範囲の至適温度を有する。
【0032】
耐熱性DNAポリメラーゼは任意の原料から取得してもよく、未変性タンパク質または組み換えタンパク質であってもよい。代表的な耐熱性ポリメラーゼには、サーマス・フラバス(Thermus flavus)、サーマス・ルバー(Thermus ruber)、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、バチルス・ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilus)、サーマス・アクアティカス(Thermus aquaticus)、サーマス・ラクテウス(Thermus lacteus)、サーマス・ルーベンス(Thermus rubens)およびメタノサーマス・フェルビズス(Methanothermus fervidus)などの好熱性細菌から単離したDNAポリメラーゼがある。好熱性古細菌から単離される耐熱性ポリメラーゼには、例えば、スルフォロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)、スルフォロブス・アシドカルダリウス(Sulfolobus acidocaldarius)、サーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)、メタノバクテリウム・サーモオートトロフィカム(Methanobacterium thermoautotrophicum)、およびデスルフロコッカス・モビリス(Desulfurococcus mobilis)が含まれる。例示的な耐熱性DNAポリメラーゼは、サーマス・アクアティカス(Taq)から単離される。アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(American Type Culture Collection)(メリーランド州ロックヴィル)由来のもの、ならびに「T.D.Brock、J.Bact.(1969)98:289−297」、および「T.Oshima、Arch.Microbiol.(1978):189−196」に記載されているものを含む、多様なTaq DNAポリメラーゼ株が当業者に既知である。Taq DNAポリメラーゼはまた様々な供給源から市販されている。
【0033】
当業者に理解されるように、例えばTaqとPfuの組み合わせのような、2種またはそれ以上の上記耐熱性ポリメラーゼの組み合わせもまた本発明の方法に用いることができる。
【0034】
d.界面活性剤と耐熱性DNAポリメラーゼの組み合わせ
本発明の組成物には、上記a.に記載の陰イオン界面活性剤または当業者に既知である他の陰イオン界面活性剤と、上記c.に記載の耐熱性DNAポリメラーゼまたは当業者に既知である任意の耐熱性DNAポリメラーゼとの任意の組み合わせが含まれる。あるいは、本発明の組成物には、上記b.に記載の両性イオン界面活性剤または当業者に既知である両性イオン界面活性剤と、上記c.に記載の耐熱性DNAポリメラーゼまたは当業者に既知である任意の耐熱性DNAポリメラーゼとの任意の組み合わせが含まれる。陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤と耐熱性DNAポリメラーゼとの組み合わせの例を、表Aに示した。
【表1】

【0035】
所与のDNA増幅反応の触媒に用いる耐熱性DNAポリメラーゼの濃度は、反応パラメーターに応じて変化することがある。一般的に、Taq DNAポリメラーゼ配合物は、約0.1ユニット/μL〜約5ユニット/μLで提供される。増幅反応混合液中でのTaq DNAポリメラーゼの濃度は、約0.01ユニット/μL〜約0.1ユニット/μLの範囲であってもよい。
【0036】
本発明の組成物中に存在する陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤の量は変化することがある。通常、使用量は一般的に、希望する結果(例えばDNAポリメラーゼの不活性化を抑制すること)を得るのに効果的な量である。界面活性剤は例えば、約0.0005重量%〜約2重量%の濃度で組成物中に存在し、好ましくは約0.001重量%〜約1重量%、より好ましくは約0.005重量%〜約0.1重量%の濃度で存在する。
【0037】
e.追加試薬
界面活性剤(陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤)および耐熱性DNAポリメラーゼに加え、本発明の組成物は、さらに緩衝剤、一価の塩、二価の塩、還元剤、キレート化剤、およびdNTPの混合物を含んでいてもよい。本発明の組成物を含む反応混合液は、さらにDNA増幅反応のための反応剤を含んでいてもよい。
【0038】
好適な緩衝剤には、サーマルサイクルプロセスで利用される当業者に既知の緩衝剤が含まれる。実施形態に応じて、緩衝剤は保存バッファーであっても、反応バッファーであってもよい。実施形態にかかわらず、一般的に緩衝剤は、組成物のpHを約4.0〜約9.5に維持するものであり、より一般的には約6.0〜約9.0に維持し、さらにより一般的には約7.0〜約8.0に維持する。代表的な緩衝剤の例には、MOPS、HEPES、TAPS、Bicine、Tricine、TES、PIPES、MESまたはTrisバッファーが含まれる。保存バッファーは、さらにグリセロール、ポリエチレングリコールおよび/またはBSAなどの保存溶液を含んでいてもよい。
【0039】
組成物はまた、塩を含んでいてもよい。ある実施形態においては、塩は一価の塩であってもよい。一価の塩には、塩化ナトリウム、塩化カリウムまたは塩化リチウムが含まれる。あるいは、塩は二価の塩であってもよい。好適な二価の塩の代表的な例には、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムが含まれる。
【0040】
組成物は、さらに還元剤を含んでいてもよい。好適な還元剤には、ジチオスレイトール、β−メルカプトエタノール、ホウ化水素ナトリウム、シュウ酸または水素化アルミニウムリチウムが含まれる。還元剤の濃度は、一般的に酵素組成物に添加される量よりも高くてもよい。他の実施形態では、組成物はキレート化剤を含んでいてもよい。好適なキレート化剤の例には、EDTAまたはEGTAが含まれる。
【0041】
他の実施形態においてが、組成物はさらにdATP、dCTP、dGTPおよびdTTPから選択されるdNTPの混合物を含んでいてもよい。
【0042】
組成物を含む反応混合液はまた、DNA増幅反応のための反応剤を含んでいてもよい。一般的なDNA増幅反応物のための反応剤には、耐熱性DNAポリメラーゼに加えて、標的ポリヌクレオチド、dNTPの混合物および一対のオリゴヌクレオチドプライマーが含まれるだろう。反応混合液は、酵素活性を最適にするための追加の緩衝剤、一価の塩および二価の塩を含んでいてもよい。任意に、混合液はまたPCR効果を増加させる試薬を含んでいてもよい。そのような試薬の好適な例には、ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびベタインが含まれる。
【0043】
II.キット
本発明はまた、サーマルサイクルプロセスにおける耐熱性DNAポリメラーゼの不活性化、特に熱による不活性化を抑制するキットを意図している。そのようなキットには例えば、耐熱性DNAポリメラーゼ、および陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤が含まれていてもよい。キットはさらに還元剤、緩衝剤、dNTPの混合物、および核酸を増幅するためのサーマルサイクル反応に必要な本発明の組成物およびその他の成分の使用方法の説明書を含んでいてもよい。キットはコントロール試験キットの形であってもよい。すなわち、使用者の要望に適したパッケージ化されたコレクションまたは組み合わせ、および関連する任意の分析機器の形であってもよい。もちろんキットにはまた、適切な包装、容器、ラベル、緩衝液、および核酸を増幅するためのサーマルサイクル反応のコントロールが含まれる。
【0044】
定義
本発明の理解を容易にするため、以下にいくつかの用語を定義する。
【0045】
別途記載のない限り、本明細書に記載のアルキル基は、好ましくは主鎖に1個〜8個の炭素原子を含む低級アルキル基であり、炭素数の上限は20である。アルキル基は直鎖であっても、分枝鎖であっても、環状であってもよく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基およびヘキシル基などが含まれる。
【0046】
別途記載のない限り、本明細書に記載のアルケニル基は、好ましくは主鎖に2個〜8個の炭素原子炭素原子を含んだ低級アルケニル基であり、炭素数の上限は20である。アルケニルは直鎖であっても、分枝鎖であっても、環状であってもよく、エテニル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ヘキセニル基などが含まれる。
【0047】
別途記載のない限り、本明細書に記載のアルキニル基は、好ましくは主鎖に2個〜8個の炭素原子を含んだ低級アルキニル基であり、炭素数の上限は20である。アルキニル基は直鎖であっても分枝鎖であってもよく、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、イソブチニル基、ヘキシニル基などが含まれる。
【0048】
本明細書で、単独または他の基の一部として使用される用語「アリール」または「アリ(ar)」は、任意に置換されていてもよい同素環式芳香族を意味し、好ましくはフェニル、ビフェニル、ナフチル、置換フェニル、置換ビフェニルまたは置換ナフチルなどの環部分に6〜12個の炭素を含む単環式の基または二環式の基である。より好ましいアリールは、フェニルおよび置換フェニルである。
【0049】
核酸の「増幅」とは、酵素に触媒される方法により、核酸の塩基配列の、1つから多数の追加コピーを複製することを指す。好ましくは、増幅はポリメラーゼ連鎖反応(PCR)技術を使用して行われる。当該技術分野では様々な増幅方法が既知であり、とりわけ、米国特許第4,683,195号および第4,683,202号、ならびにPCRプロトコール「A Guide to Methods and Applications、ed.lnnis他、Academic Press、San Diego、1990」に記載されている。PCRおよび他のプライマー伸長法において、プライマーとは、ポリメラーゼ連鎖反応などで鋳型核酸にアニーリングしてポリメラーゼの開始点を与えるような特定の配列を有する短いオリゴヌクレオチドを指す。
【0050】
「相補的」とは、塩基対合(5’−AGT−3’は相補的配列3’−TCA−5’と対合する)による核酸配列の自然な結合を指す。2本の1本鎖分子間での相補性は、一部の核酸ペアだけが相補的である場合は部分的である場合があり、すべての塩基対が相補的であれば完全である場合がある。
【0051】
用語「dNTP」とは、デオキシヌクレオシド三リン酸を指す。プリン塩基(Pu)には、アデニン(A)、グアニン(G)、ならびにこれらの誘導体および類似物質が含まれる。ピリミジン塩基(Py)には、シトシン(C)、チミン(T)、ウラシル(U)ならびにこれらの誘導体および類似物質が含まれる。これらの誘導体および類似物質の例には、例示を目的とするものであって限定を目的とするものではないが、レポーター基、ビオチン化、アミン修飾、放射標識化、アルキル化などにより修飾されたもの、およびホスホロチオネート、亜リン酸エステル、環状原子で修飾した誘導体なども含まれる。レポーター基は、フルオレセイン、ルミノールなどの化学発光基、遅延蛍光により探知可能なN−(ヒドロキシエチル)エチレンジアミントリ酢酸のようなテルビウム配位子などの蛍光基であってもよい。
【0052】
本明細書で、単独または他の基の一部として使用される用語「複素環」または「複素環式の」という用語は、任意に置換されていてもよい、完全に飽和した、または不飽和の、単環式または二環式の、少なくとも1つの環中に少なくとも1つのヘテロ原子を有する芳香族基または非芳香族基を意味し、好ましくはそれぞれの環中に5個または6個の炭素原子を有する。
【0053】
複素環基は、環中に1個または2個の酸素原子、1個または2個の硫黄原子および/または1個〜4個の窒素原子を有することが好ましく、炭素またはヘテロ原子を介して分子の残りの部分に結合していてもよい。複素環基の例には、フリル基、チエニル基、ピリジル基、オキサゾリル基、ピロリル基、インドリル基、キノリニル基またはイソキノリニル基などが含まれる。置換基の例には、1つまたは複数の以下の群:ヒドロカルビル基、置換ヒドロカルビル基、ケト基、水酸基、保護水酸基、アシル基、アシルオキシ基、アルコキシ基、アルケノキシ基、アルキノキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン基、アミド基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、チオール基、ケタール基、アセタール基、エステル基およびエーテル基が含まれる。
【0054】
本明細書で、単独または他の基の一部として使用される用語「芳香族複素環」とは、少なくとも1つの環中に少なくとも1つのヘテロ原子を有する任意に置換されていてもよい芳香族基を意味し、好ましくは、それぞれの環は5個または6個の原子を有する。芳香族複素環は、好ましくは環中に1個または2個の酸素原子、1個または2個の硫黄原子および/または1個〜4個の窒素原子を有し、炭素やヘテロ原子を介して分子の残りの部分に結合していてもよい。芳香族複素環の例には、フリル基、チエニル基、ピリジル基、オキサゾリル基、ピロリル基、インドリル基、キノリニル基またはイソキノリニル基などが含まれる。置換基の例には、1つまたは複数の以下の基:ヒドロカルビル基、置換ヒドロカルビル基、ケト基、水酸基、保護水酸基、アシル基、アシロキシ基、アルコキシ基、アルケノキシ基、アルキノキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン基、アミド基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、チオール基、ケタール基、アセタール基、エステル基およびエーテル基などが含まれる。
【0055】
本明細書で使用される用語「炭化水素」および「ヒドロカルビル」は、炭素および水素のみから成る有機化合物または遊離基をいう。これらの部分には、アルキル、アルケニル、アルキニルおよびアリール部分が含まれる。これらの部分にはまた、他の脂肪族炭化水素基またはアルカリール、アルケンアリールおよびアルキンアリールなどの環状炭化水素基で置換されたアルキル、アルケニル、アルキニルおよびアリール部分も含まれる。別途記載のない限り、これらの部分は、好ましくは1個〜20個の炭素原子を含む。
【0056】
「ポリメラーゼ」は、鋳型DNAに沿って鋳型に相補的にオリゴヌクレオチドを伸長する触媒であり、通常はタンパク質酵素である。「ポリメラーゼ」は、その分子が適切な鋳型核酸分子にハブリダイズした場合に、ヌクレオシド三リン酸を取り込んで核酸分子の3’水酸基を伸長することができる酵素である。ポリメラーゼ酵素については、参照により本明細書に組み込まれている「Watson、J.D.、Molecular Biology of the Gene、3rd Ed.、W.A.Benjamin、Inc.、Menlo Park,Calif.(1977)」、および他の同様なテキストに論じられている。
【0057】
本明細書に記載の「置換ヒドロカルビル」部分とは、炭素以外の少なくとも1つの原子で置換されたヒドロカルビル部分のことであり、炭素鎖原子が窒素、酸素、ケイ素、リン、ホウ素、硫黄またはハロゲン原子などのヘテロ原子で置換された部分を含む。これらの置換基には、ハロゲン基、炭素環基、アリール基、複素環基、アルコキシ基、アルケンオキシ基、アルキンオキシ基、アリールオキシ基、水酸基、保護水酸基、ケト基、アシル基、アシルオキ基シ、ニトロ基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、シアノ基、チオー基、ケタール基、アセタール基、エステルおよびエーテルが含まれる。
【0058】
以下の実施例には、本発明の好ましい実施形態を説明したものが含まれる。以下の実施例に開示された技術が、本発明の実施において十分に機能することが本発明者らにより見出された技術であることを当業者なら理解するであろう。しかしながら、当業者は、本発明の開示に照らして、開示されている特定の実施形態において、本発明の精神および範囲から逸脱することなく多くの変更を加えることができ、それによっても同様または類似した結果を得ることができることを理解するであろう。したがって、添付の図面に記載または示される全ての事項は例示を目的とするものであり、限定的な意味ではないと解釈される。
【実施例】
【0059】
以下の実施例は発明の様々な反復を説明する。
【0060】
実施例1.界面活性剤のスクリーニング
PCRアッセイにより、界面活性剤の47の潜在的候補について、Taq DNAポリメラーゼを安定化する能力についてスクリーニングした。試験した各界面活性剤の最終濃度は5%、0.5%、0.05%、0.005%、0.0005%であった。フォワードプライマー(5'−TGGATACCCGTCGTGGCTCTAATT−3';配列番号1)、およびリバースプライマー(5’−CTTCTTTCGTCCCCGTCAGGCTGA−3’;配列番号2)は、λDNAの500bp断片を増幅するよう設計された。10μLの反応液のそれぞれには以下が含まれる。
10×PCRバッファー 1μL
10mM dNTPs 0.2μL
10μM フォワードプライマー 1μL
10μM リバースプライマー 1μL
約5ng/μL λDNA 1μL
10×界面活性剤(50%、5%、0.5%、0.05%、0.005%) 1μL
dH2O 4.7μL
5U/μL Taq DNAポリメラーゼ 0.1μL
【0061】
サイクルのパラメーターは、94℃で15分;94℃で30秒および70℃で30秒を30サイクル;4℃での保持である。試験した一連の界面活性剤のそれぞれには、0.0005%のTween20を含むポジティブコントロール反応、および界面活性剤を含まないネガティブコントロール反応が含まれていた。各反応液のアリコートを、アガロースゲル電気泳動により分離した。代表的なゲルを図1に示す。増幅産物は、ポジティブコントロールの反応液、および界面活性剤ノニルノノキシノール−15ホスファート(Rhodafac RM710)を低濃度添加した反応液に認められた。
【0062】
これらのスクリーニング反応により、次の7つの界面活性剤、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホン酸水和物(CHAPS)、3−([3−コールアミドプロピル]ジメチルアンモニオ)−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナート(CHAPSO)、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、ポリ(エチレングリコール)モノラウレート、λカラギーナン、ポリオキシエチレン(150)ジノニルフェニルエーテルポリオキシエチレン(Igepal(登録商標)DM−970)およびノニルノノキシノール−15ホスファート(RhodafacRM710)が、PCRをサポートするということが明らかになった。
【0063】
実施例2.DTTによるTaq配合物の安定化
Tween20、陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤のいずれかを配合したTaqの長期安定性を、2種のDTT濃度において比較した。Taqを、0.01%もしくは0.1%のTween20、0.1%もしくは1%のポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、または1%のCHAPSと配合した。各配合物を、0.02mMのDTTまたは0.2mMのDTT存在下で、25℃で6日〜40日の期間貯蔵した。−20℃での保存に相当する計算上の期間は、約1.5年〜約10年の範囲であった(図2参照)。様々な配合物がPCRをサポートする能力について、実施例1の記載と同様にPCRアッセイにより評価した。実施例1と同様のプライマーおよび反応条件を用いた。
【0064】
各反応液のアリコートをアガロースゲル電気泳動により分離した。代表的なゲル画像を図2に示す。いずれのDTT濃度においても、Tween20を含む配合物は、基本的には貯蔵時間に影響されなかった。両性イオン界面活性剤(Z)を含む配合物は、高濃度のDTT存在下においても実質的にPCRをサポートすることができた。より高濃度のDTTの存在下では、全ての陰イオン界面活性剤(A)を含む配合物は、試験した全ての期間においてPCRをサポートすることができた。これらのデータは、DTTの追加により、陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤を含む配合物がさらに安定化されることを示唆している。
【0065】
実施例3.Tween20、または陰イオン界面活性剤を配合した調整物による増幅効率
Tween20または陰イオン界面活性剤であるポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩の存在下におけるTaq DNAポリメラーゼによる増幅効率を、SYBR Green定量リアルタイムPCR(qPCR)を用いて、MseI消化ヒトゲノムDNAまたは完全ヒトゲノムDNAにおける4つの異なる断片を増幅して比較した。14−3−3、CD14F、HOXA2、およびPGK1の増幅に使用されたプライマーを表1に示す。各反応液は、Tween20またはポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、1×ROX(リファレンス色素)、0.8×SYBR green、および0.4μMプライマーを配合した1×Jumpstart Taq Ready mix(Sigma Aldrich、St.Louis、MO)を含んでいた。鋳型は、反応液が25ng、2.5ng、0.25ngの完全DNA、または400ng、40ng、4ngの消化DNAを含むように段階希釈した。サイクルプロフィールは、95℃で3分;95℃で30秒、55℃で60秒、および72℃120秒を35サイクルであった。
【表2】

【0066】
表2は種々の鋳型を用いた各増幅産物のCt値(蛍光が特定の閾値を越えるサイクル)を示している。(プライマーの対ごとの)「鋳型を含まない」コントロール反応液は増幅産物を生成しなかった。一般的に、Tween20を含む増幅反応混合物と比べて、陰イオン界面活性剤(ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩)の添加により、より高希釈で、より低いCt値となる。
【表3】

【0067】
増幅の効率は、段階希釈した鋳型の増幅プロットの勾配(希釈効率)に基づいており、効率の割合も表2に示す。各アンプリコンにおいて、陰イオン界面活性物質配合物は、相当するTween20配合物よりも効率が高かった。両方の界面活性剤配合物に対して効率が計算できた3種のアンプリコンのうち、陰イオン界面活性物質サンプルの効率は、消化DNAおよび完全DNAに対して、それぞれ平均67.3%および平均84.7%であった。一方、Tween20サンプルの効率は、消化DNAおよび完全DNAに対して、それぞれ平均43.7%および平均31%であった。
【0068】
効率への希釈効果という性質を調査する目的で個々の反応効率を計算した。反応効率は、Ct直後のサイクルの蛍光測定を用いた各反応の蛍光の倍率変化により算出された(効率=合計(Fc/Fc−1)n/2n。ここでFcはサイクルcにおける蛍光、Fc−1はサイクルc−1における蛍光、nは使用されたサイクル比である。)。可能な場合は、3つのサイクル比を用いて反応効率を計算した。表3に示すように、増幅効率の割合は配合および初期鋳型濃度には依存しなかった。これらのデータは、効率が、初期のプライミングおよび/またはプライマーの伸長に依存していたことを示唆している。すなわち、より少量の鋳型を用いた反応では、Tween20の存在下において、陰イオン界面活性物質存在下よりもプライミングまたは開始の効率が低かった。しかし、いったんその増幅プロセスが開始すると、反応効率は界面活性剤に依存しなかった。
【表4】

【0069】
実施例4.陰イオン界面活性剤は増幅特異性を改善する
陰イオン界面活性剤であるポリ(エチレングリコーエル)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩の存在下における増幅により、非特異的産物の生成がより少なくなるかどうかを調べるため、Tween20を含む配合物と陰イオン界面活性剤を含む配合物とを比較した。プライマー(表4参照)は、ヒトのゲノムDNAの352bp断片(BsrGIO)および360bp断片(ScaIO)を増幅するよう設計された。反応液(50μL)には、0.5μgのHEK293ゲノムDNA、50pmolのプライマー、1×PCRバッファー、0.2mMのdNTP、0.05U/μLのTaqおよび4%のDMSOが含まれる。サーマルサイクルのパラメーターは、94℃で2分;94℃で20秒、58℃で30秒および72℃で80秒を30サイクル;72℃で10分間の最後の伸長;4℃での保持であった。
【表5】

【0070】
各サンプルのアリコートをアガロースゲルで泳動した(図3)。陰イオン界面活性剤配合物を用いた反応(レーンA)においては、標準Tween20配合物を用いた反応(レーンT、R)と比べて、非特異的な二次的増幅産物が少なかった。この結果により、鋳型、プライマー、界面活性剤および酵素を含む多分子複合体が存在し、陰イオン界面活性剤が鋳型/プライマーおよび界面活性剤のクーロン反発力を増加させるという可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)耐熱性DNAポリメラーゼと、
(b)陰イオン界面活性剤
を含む組成物。
【請求項2】
DNAポリメラーゼがサーマス・フラバス、サーマス・ルバー、サーマス・サーモフィラス、バチルス・ステアロサーモフィラス、サーマス・アクアティカス、サーマス・ラクテウス、サーマス・ルーベンス、およびメタノサーマス・フェルビズスからなる群より選択される好熱細菌由来である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記DNAポリメラーゼがTaqである、請求項1記載の組成物。
【請求項4】
前記Taqが、前記組成物中に約0.1ユニット/μL〜約5ユニット/μLの濃度で存在する、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記陰イオン界面活性剤が、前記組成物中に約0.001重量%〜約1重量%の濃度で存在する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記陰イオン界面活性剤が、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプルピルエーテルカリウム塩、ポリ(エチレングリコール)モノラウレート、λカラギーナン、ポリオキシエチレン(15)ジノニルフェニルエーテルポリオキシエチレン、およびノニルノノキシノール−15ホスファートからなる群より選択される、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記陰イオン界面活性剤が、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩である、請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
還元剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物のpHを約6〜約9に維持する緩衝剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
前記緩衝剤がMOPS、HEPES、TAPS、Bicine、Tricine、TES、PIPES、MESまたはTrisからなる群より選択される、請求項8に記載の組成物。
【請求項11】
dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPからなる群より選択されるdNTPの混合物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
組成物のpHを約7〜約8に維持する緩衝剤、標的ポリヌクレオチド、一対のオリゴヌクレオチドプライマー、ならびにdATP、dCTP、dGTPおよびdTTPからなる群より選択されるdNTPの混合物をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
前記陰イオン界面活性剤がポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩であり、前記耐熱性DNAポリメラーゼがTaqである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化リチウムからなる群より選択される塩をさらに含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびベタインからなる群より選択されるPCRの効率を増大させる試薬をさらに含む、請求項13に記載の組成物。
【請求項16】
(a)耐熱性DNAポリメラーゼと、
(b)両性イオン界面活性剤
を含む組成物。
【請求項17】
前記DNAポリメラーゼがサーマス・フラバス、サーマス・ルバー、サーマス・サーモフィラス、バチルス・ステアロサーモフィラス、サーマス・アクアティカス、サーマス・ラクテウス、サーマス・ルーベンス、およびメタノサーマス・フェルビズスからなる群より選択される好熱菌由来である、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記DNAポリメラーゼがTaqである、請求項16に記載の組成物。
【請求項19】
前記Taqが、前記組成物中に約0.1ユニット/μL〜約5ユニット/μLの濃度で存在する、請求項18記載の組成物。
【請求項20】
前記両性イオン界面活性剤が、前記組成物中に約0.001重量%〜約1重量%の濃度で存在する、請求項16に記載の組成物。
【請求項21】
前記両性イオン界面活性剤が式(Ia)の化合物である、請求項16に記載の組成物。
【化1】

式中、R1、R2、R3およびR4は独立にヒドロカルビルまたは置換ヒドロカルビルである。
【請求項22】
前記両性イオン界面活性剤が、3−(N,N−ジメチルテトラデシルアンモニオ)プロパンスルホナート、3−(4−ヘプチル)フェニル−3−ヒドロキシプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホナート、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナート、3−(デシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホナート分子内塩、3−(ドデシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホナート分子内塩、3−(N,N−ジメチルオクタデシルアンモニオ)プロパンスルホナート、3−(N,N−ジメチルオクチルアンモニオ)プロパンスルホナート分子内塩、3−(N,N−ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホナートおよび3−[N,N―ジメチル(3−ミリストイルアミノプロピル)アンモニオ]プロパンスルホナートからなる群より選択される化合物である、請求項16に記載の組成物。
【請求項23】
還元剤をさらに含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項24】
前記組成物のpHを約6〜約9に維持する緩衝剤をさらに含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項25】
前記緩衝剤がMOPS、HEPES、TAPS、Bicine、Tricine、TES、PIPES、MESまたはTrisからなる群より選択される、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
dATP、dCTP、dGTPおよびdTTPからなる群より選択されるdNTPの混合物をさらに含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項27】
前記組成物のpHを約7〜約8に維持する緩衝剤、標的ポリヌクレオチド、一対のオリゴヌクレオチドプライマー、ならびにdATP、dCTP、dGTPおよびdTTPからなる群より選択されるdNTPの混合物をさらに含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項28】
前記両性イオン界面活性剤が、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート、または3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナートであり、前記耐熱性DNAポリメラーゼがTaqである、請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化リチウムからなる群より選択される塩をさらに含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項30】
ジメチルスルホキシド、ホルムアミドおよびベタインからなる群より選択されるPCRの効率を増大させる試薬をさらに含む、請求項28に記載の組成物。
【請求項31】
サーマルサイクルプロセスにおいて耐熱性DNAポリメラーゼの不活性化を抑制する方法であって、前記サーマルサイクルプロセスにおいてDNAポリメラーゼを陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤と接触させることを含む方法。
【請求項32】
前記サーマルサイクルプロセスが、約40℃〜約100℃の範囲の温度で約2〜50サイクル行われる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記DNAポリメラーゼが、サーマス・フラバス、サーマス・ルバー、サーマス・サーモフィラス、バチルス・ステアロサーモフィラス、サーマス・アクアティカス、サーマス・ラクテウス、サーマス・ルーベンス、およびメタノサーマス・フェルビズスからなる群より選択される好熱細菌由来である、請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記DNAポリメラーゼがTaqである、請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記界面活性剤が、ポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、ポリ(エチレングリコール)モノラウレート、λカラギーナン、ポリオキシエチレン(150)ジノニルフェニルエーテルポリオキシエチレン、およびノニルノノキシノール−15ホスファートからなる群より選択される陰イオン界面活性剤である、請求項31に記載の方法。
【請求項36】
前記界面活性剤が、3−(N,N−ジメチルテトラデシルアンモニオ)プロパンスルホナート、3−(4−ヘプチル)フェニル−3−ヒドロキシプロピル)ジメチルアンモニオプロパンスルホナート、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナート、3−(デシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホナート分子内塩、3−(ドデシルジメチルアンモニオ)プロパンスルホナート分子内塩、3−(N,N−ジメチルオクタデシルアンモニオ)プロパンスルホナート、3−(N,N−ジメチルオクチルアンモニオ)プロパンスルホナート分子内塩、3−(N,N−ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホナート、および3−[N,N―ジメチル(3−ミリストイルアミノプロピル)アンモニオ]プロパンスルホナートからなる群より選択される両性イオン界面活性剤である、請求項31に記載の方法。
【請求項37】
前記組成物のpHを約7〜約8に維持する緩衝剤、標的ポリヌクレオチド、一対のオリゴヌクレオチドプライマー、ならびにdATP、dCTP、dGTPおよびdTTPからなる群より選択されるdNTPの混合物をさらに含む、請求項32に記載の方法。
【請求項38】
前記両性イオン界面活性剤が、3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナートまたは3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナートであり、前記耐熱性DNAポリメラーゼがTaqである請求項37に記載の方法。
【請求項39】
前記陰イオン界面活性剤がポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩であり、耐熱性DNAポリメラーゼがTaqである、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
サーマルサイクルプロセスでDNAを増幅するキットであって、耐熱性DNAポリメラーゼ、および陰イオン界面活性剤または両性イオン界面活性剤を含むキット。
【請求項41】
還元剤、緩衝剤、ならびにdATP、dCTP、dGTPおよびdTTPからなる群より選択されるdNTPの混合物をさらに含む、請求項40に記載のキット。
【請求項42】
前記界面活性剤がポリ(エチレングリコール)4−ノニルフェニル3−スルホプロピルエーテルカリウム塩、ポリ(エチレングリコール)モノラウレート、λカラギーナン、ポリオキシエチレン(150)ジノニルフェニルエーテルポリオキシエチレン、およびノニルノノキシノール−15ホスファートからなる群より選択される陰イオン界面活性剤であり、前記耐熱性DNAポリメラーゼがTaqである、請求項41に記載のキット。
【請求項43】
前記界面活性剤が3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホナート、および3−[(3−コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]−2−ヒドロキシ−1−プロパンスルホナートからなる群より選択される両性イオン界面活性剤であり、前記耐熱性DNAポリメラーゼがTaqである、請求項41に記載のキット。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2010−512797(P2010−512797A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−543132(P2009−543132)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【国際出願番号】PCT/US2007/087887
【国際公開番号】WO2008/077017
【国際公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(598169572)シグマ−アルドリッチ・カンパニー (31)
【氏名又は名称原語表記】Sigma−Aldrich Co.
【Fターム(参考)】