説明

耐熱性N−アシルアミノ酸ラセマーゼ、その製造法およびその用途

【課題】耐熱性N−アシルアミノ酸ラセマーゼの提供。
【解決手段】N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有し、且つ(a)熱安定性:70℃、1時間の加温処理後もN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有する;および(b)金属イオン依存性:Co2+、Mn2+、Mg2+、Fe2+存在下でN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を示す、単離されたタンパク質。特定のアミノ酸配列からなるポリペプチド、または該アミノ酸配列と60%以上の同一性、および80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ70℃、1時間の加温処理後もN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有するポリペプチドから実質的になるタンパク質。上記タンパク質を用いたN−アシルアミノ酸のラセミ化、並びに該タンパク質とD−もしくはL−アミノアシラーゼとを組み合わせた光学活性アミノ酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性なα−アミノ酸の製造に用いることのできる、N−アシルアミノ酸ラセマーゼ(以下、NAAARともいう)活性を有する新規タンパク質に関する。さらに、遺伝子工学技術による該NAAARの製造法、および該NAAARを用いた光学活性なα−アミノ酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸は構造上光学異性体を形成し得るが、天然に存在し、生命体に利用されるα−アミノ酸のほとんどはL体である。しかしながら、D−アミノ酸も微量ながら生体中に存在する事実も、近年次々と明らかにされており、それらが有する生理活性の有用性から、D−アミノ酸およびその誘導体も医薬品等の用途に利用されてきている。同一組成であっても、立体構造において鏡像異性体であるL−アミノ酸とD−アミノ酸とは、生理活性を異にするため、工業的にアミノ酸を利用する際には、その製造工程において、所望の光学活性を有するアミノ酸を取得することが非常に重要である。
【0003】
アミノ酸の製造方法としては、微生物を培養して産生したアミノ酸を回収する発酵法と、アミノ酸を所定の反応条件において人工的に合成する化学合成法とに大きく二分される。特に、D−アミノ酸については、現在のところ発酵生産が困難であるため、その製造は化学合成法に頼らざるを得ない。しかしながら、化学合成で生成されるアミノ酸は、光学的にL体とD体が混在したラセミ状態であることから、ここから光学異性体を分離し、所望の光学活性を有するアミノ酸を抽出する操作がさらに必要となる。この方法としては、N−アシル−D,L−アミノ酸にD−アミノアシラーゼもしくはL−アミノアシラーゼを作用せしめて、所望の光学特性を有するアミノ酸を生成させ、これを抽出する方法が公知である。
【0004】
N−アシルアミノ酸ラセマーゼ(NAAAR)は、N−アシル−D−アミノ酸およびN−アシル−L−アミノ酸をそれぞれ対応する光学異性体に置換する可逆的反応を触媒する。よって、このNAAARをアミノアシラーゼと共にN−アシル−D,L−アミノ酸に作用させることで、所望の光学活性なアミノ酸を、アミノアシラーゼ単独で作用させた場合に比して、高い収量で得ることができる。公知のN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質の例としては、例えばアミコラトプシス・エスピー(Amycolatopsis sp.)・TS−1−60(以下、単にTS−1−60という場合がある)由来のもの(特許文献1)、セベキア・ベニハナ(Sebekia benihana)(以下、単にベニハナという場合がある)由来のもの(特許文献2)、デイノコッカス・ラディオデュランス(Deinococcus radiodurans)由来のもの(特許文献3)等が挙げられる。これらは遺伝子配列も決定され(特許文献3によれば、D.ラディオデュランス由来NAAARは、TS−1−60およびベニハナ由来酵素と、アミノ酸配列でそれぞれ約46%および44%の同一性を有する)、形質転換微生物による組換えタンパク質の発現も確認されている。特に、TS−1−60由来NAAARは結晶構造解析までなされ、立体構造が決定されている(非特許文献1)。
【0005】
通常、同一機能を有する新規酵素を既知酵素のアミノ酸配列情報を手がかりに得ようと思えば、既知配列と相同性の高いアミノ酸配列を有するタンパク質をコードすると予想される新規遺伝子を遺伝子工学的に発現させることで容易に得ることができる。高度にアミノ酸配列が保存されているタンパク質同士であれば、同一の機能を有するオルソログであると考えられるが、NAAARの場合は、公知NAAARに対して約40〜約50%程度の同一性であれば、そのタンパク質が必ずしもNAAAR活性を有しないことが知られている。例えば、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)由来ytfD遺伝子産物は、アミノ酸配列で、TS−1−60由来NAAARと約42%、ベニハナ由来NAARとは約43%の同一性を有するが、NAAAR活性がない(特許文献3)。また、これまでNAAARとされてきたTS−1−60由来酵素の真の機能はo−スクシニルベンゾエートシンターゼ(OSBS)であり、基質特異性の甘さからN−アシルアミノ酸にも作用してラセミ化反応を起こしているとの仮説が提唱されている(非特許文献2)。本文献によれば、上記ytfD遺伝子産物もまたOSBS活性を有しており、OSBS活性を有するすべての酵素がNAAAR活性をも有するわけではないことも記載されている。
即ち、真の生理機能としてNAAAR活性を有するタンパク質はこれまでには知られておらず、したがって、公知のNAAAR活性を有するタンパク質と、アミノ酸配列において約50%程度もしくはそれより低い同一性を有するタンパク質が、NAAAR活性を有するか否かは、実際に該タンパク質を調製し、該活性を確認しなければ判断できない。
【0006】
ところで、タンパク質の分子設計において、安定性の向上は永遠のテーマと言える。各種タンパク質を産業的に利用する際、保存状態あるいは使用条件における該タンパク質の失活は製品品質の低下や生産コスト高といった不利益を生じるため、その利用に際しては該タンパク質の耐久性を高める工夫を余儀なくされる。また、一般に、タンパク質の代表例である各種酵素の触媒活性は高温になるほど高効率であるため、安定性の高いタンパク質の利用はより効率的な条件下での使用を可能にするという利点もある。
【0007】
タンパク質の安定化を達成する方策の一つに安定化剤の添加がある。保存状態あるいは使用条件においてタンパク質の安定性を向上するために、各種物質を適当量添加することで、より長期にわたりタンパク質の機能を維持しようとするものである。このような化学物質の例としては、糖類、アミノ酸、界面活性剤、ウシ血清アルブミンなどのタンパク質、各種防腐剤など多種多様であるが、どのようなタンパク質も飛躍的に安定性を向上させるような万能な安定化物質は知られておらず、また、これら物質による安定化の度合いにも限度がある。よってタンパク質そのものの性質として安定性に優れていることが好ましい。
【0008】
近年の遺伝子工学的技術の進歩により、タンパク質をコードする遺伝子に変異を導入することが簡便にできるようになった。アミノ酸残基を置換、欠失、付加することによりタンパク質機能を向上させる工夫が精力的になされており、安定性の向上した変異タンパク質の取得例も多数報告されている。しかしながら、安定性向上という視点では有効な変異が、タンパク質の他の優れた特性を損ねてしまう可能性も少なくない。さらには、遺伝子工学的なタンパク質機能改変は、もとの野生型タンパク質の性能がベースとなるため、元来の安定性が乏しければ目標達成までの道のりも遠くなる。以上のことから、タンパク質を産業的に利用しようとする場合には、仮に遺伝子工学的手法による機能向上を前提とする場合でも、本来の性質として安定性の高いタンパク質を取得することは重要である。
【0009】
常温もしくはそれより高い温度での長期保存における活性維持率をタンパク質安定性の指標とすることができるが、熱に対する耐性の高いタンパク質は安定性に優れているとみなすのが一般的である。産業上有用な安定性の高いタンパク質をセレクトする際に熱安定性を指標とする方法は定石である。耐熱性タンパク質はすなわち安定性に優れており、産業上においてより有利である。
【0010】
上記した公知のNAAAR活性を有する種々のタンパク質も、工業的なD−アミノ酸生産への応用を考慮した場合、安定性、特に熱安定性の面で十分とはいい難い。
【特許文献1】特開平4−365482号公報
【特許文献2】特開2001−314191公報
【特許文献3】特開2002−238581公報
【非特許文献1】Biochemistry (2004) Vol.43, p5716-5727
【非特許文献2】Biochemistry (1999) Vol.38, p4252-4258
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明の目的は、従来公知のアシルアミノ酸ラセマーゼに比して有利な性状を有する、NAAAR活性を有する新規タンパク質(以下、特にことわらない限り、真の生理機能に関係なくNAAAR活性を有するタンパク質を単にNAAARと称する)、具体的には、熱安定性が向上した耐熱性NAAARを提供することであり、該NAAARを用いて、光学活性なアミノ酸、特にD−アミノ酸を工業的に生産する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々検討した結果、クロロフレクサス・オーランティアカス(Chloroflexus aurantiacus)ゲノム中に存在する、TS−1−60由来NAAARと相同性を有する仮想的タンパク質をコードするオープン・リーディング・フレーム(ORF)を単離して、該タンパク質を遺伝子工学的に生産することに成功した。そして、該タンパク質がNAAAR活性を有し、かつ公知のNAAARと比して優れた熱安定性を有していることを見出した。さらに、本発明者らは、該タンパク質をL−(もしくはD−)アミノアシラーゼとの共存下で、基質であるN−アシル−D,L−アミノ酸に作用せしめることにより、所望の光学活性を有するα−アミノ酸を生成させることに成功して本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
[1] N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有し、且つ以下の物理化学的性質を有する単離されたタンパク質。
(a) 熱安定性:70℃、1時間の加温処理後もN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有する
(b) 金属イオン依存性:Co2+、Mn2+、Mg2+、Fe2+存在下でN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を示す
[2] 70℃、1時間の加温処理後の残存N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性が少なくとも30%以上である、上記[1]記載のタンパク質。
[3] さらに以下の(c)〜(e)の性質を有する上記[1]または[2]記載のタンパク質。
(c) SDS−PAGEによるみかけの分子量:約39kDa
(d) pH安定性:pH5以上で、25℃、24時間の加温処理後の残存N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性が約80%以上
(e) 基質特異性:N−アセチル化もしくはN−ホルミル化したメチオニン、バリン、ロイシン、フェニルアラニンおよびトリプトファンのL体およびD体に対してN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を示す
[4] 以下の(a)または(b)のポリペプチドから実質的になる、N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有する単離されたタンパク質。
(a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列と60%以上の同一性、および80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ70℃、1時間の加温処理後もN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有するポリペプチド
[5] 70℃、1時間の加温処理後の残存N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性が30%以上である、上記[4]記載のタンパク質。
[6] 配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1もしくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を含む、上記[4]または[5]記載のタンパク質。
[7] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸(但し、配列番号1に示される塩基配列を含む核酸を除く)。
[8] 異種宿主細胞に導入するための上記[7]記載の核酸であって、該宿主において使用頻度の低いコドンが使用頻度のより高いコドンに置換された塩基配列からなる核酸。[9] 宿主が大腸菌である上記[8]記載の核酸。
[10] 配列番号3に示される塩基配列を含む、上記[7]〜[9]のいずれかに記載の核酸。
[11] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸が、該核酸を導入する宿主細胞に適合したプロモーターに機能的に連結されてなる発現ベクター。
[12] 核酸が上記[7]〜[10]のいずれかに記載のものである、上記[11]記載の発現ベクター。
[13] 上記[11]または[12]記載の発現ベクターで宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体。
[14] 宿主細胞が大腸菌である上記[13]記載の形質転換体。
[15] 上記[13]または[14]記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からN-アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質を採取することを含む、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
[16] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載のタンパク質を、N−アシル−D−アミノ酸またはN−アシル−L−アミノ酸に接触させることを含む、ラセミ化されたN−アシルアミノ酸の製造方法。
[17] 上記[1]〜[6]のいずれかに記載のタンパク質を、D−またはL−アミノアシラーゼの共存下で、N−アシル−D−アミノ酸、N−アシル−L−アミノ酸またはその混合物に接触させることを含むD−またはL−アミノ酸の製造方法。
[18] アミノ酸がメチオニン、ロイシン、バリン、フェニルアラニンまたはトリプトファンからなる群より選択される上記[16]または[17]記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のNAAARは、耐熱性および他の安定性に優れていることから、光学活性を有するα−アミノ酸、特にα−D−アミノ酸の製造に利用することにより、従来公知のNAAARに比して顕著な生産性の向上をもたらすという有利な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
NAAARは、N−アシル−D−アミノ酸およびN−アシル−L−アミノ酸を、それぞれ対応する光学異性体に変換する可逆的反応を触媒するが、本発明のNAAARは、高い熱安定性を示すことにより特徴付けられる。即ち、TS−1−60、ベニハナ、D.ラディオデュランス等に由来する従来公知のNAAARは、いずれも70℃で30分間処理するとほぼ完全に失活するのに対し、本発明のNAAARは、70℃、1時間の加温処理後もN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有する。好ましくは、本発明のNAAARは、70℃、1時間の加温処理後の残存NAAAR活性(加温処理前の活性を100%とした相対活性)が30%以上、より好ましくは50%以上である。尚、本明細書における熱安定性は、20mMのTris−HCl緩衝液(pH7.5)にタンパク質量にして6mg/mlの濃度で溶解した状態で上記の加温処理を行い、当該処理前後でNAAAR活性を測定して残存NAAAR活性を算出することにより、決定することができる。酵素活性測定の条件については後述する。
【0016】
また、本発明のNAAARは、従来公知のNAAARと同様、Co2+存在下で最も高い活性を示すが、Mn2+、Mg2+、Fe2+存在下においても活性を示す。一方で、該酵素はCu2+、Ba2+、Zn2+存在下では活性を示さない。かかる金属イオン依存性を従来公知のNAAARと比較すると、TS−1−60由来NAAARは、Zn2+存在下でも比較的高い活性を示す点で本発明のNAAARと相違し、ベニハナ由来NAAARは、Ba2+、Zn2+存在下でもある程度の活性を示す点で本発明のNAAARと相違し、D.ラディオデュランス由来NAAARは、Zn2+存在下でもある程度の活性を示す一方、Mn2+、Mg2+、Fe2+存在下での活性が本発明のNAAARに比して低いという点で、本発明のNAAARと相違する。尚、本明細書における金属イオン依存性は、後述の酵素活性測定の条件において、50mM 塩化コバルト溶液を同濃度の各種金属イオンの塩溶液に置換して活性を測定し、塩化コバルト溶液を用いたときの酵素活性を100%とした相対活性で算出することにより、決定することができる。
【0017】
本発明のNAAARは、そのアミノ酸組成や宿主細胞による糖鎖付加形式の相違などにより、異なる分子量を有してもよいが、好ましくは、SDS−PAGEによるみかけの分子量として、約39kDaの分子量を有するものが挙げられる。また、アミノ酸組成から計算される理論値でいえば、例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるNAAARの場合、宿主細胞による糖鎖付加等の修飾を考慮しなければ、約40.6kDaの分子量を有すると推定される。
【0018】
本発明のNAAARは、従来公知のNAAARと同様、pH5以上の広いpH範囲にわたって安定である。即ち、25℃、24時間の加温処理後の残存N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性(加温処理前の活性を100%とした相対活性)が約80%以上である。尚、本明細書におけるpH安定性は、後述の酵素活性測定の条件において、HEPES緩衝液の代わりに酢酸緩衝液(pH4〜5)、リン酸カリウム緩衝液(pH5〜7)、Tris−HCl緩衝液(pH7〜9)またはグリシン塩酸緩衝液(pH9〜10)を用い、上記加温処理前後でNAAAR活性を測定して残存NAAAR活性を算出することにより、決定することができる。
【0019】
本発明のNAAARは、従来公知のNAAARと類似した基質特異性を示す。即ち、N−アセチル−もしくはN−ホルミル−メチオニンに対する活性が最も高いが、N−アセチル化もしくはN−ホルミル化したバリン、ロイシン、フェニルアラニンおよびトリプトファンのL体およびD体に対しても活性を示す。
【0020】
本発明のNAAARは、上記の特徴を有する限り特に制限はなく、その由来も限定されない。したがって、天然に存在する生物起源のものの他、自然もしくは人工の突然変異体、あるいは異種(すなわち、外来の)NAAAR遺伝子を導入して得られる形質転換体由来のものもすべて包含される。好ましくは細菌、より好ましくはクロロフレクサス(Chloroflexus)属に属する細菌、さらに好ましくは、クロロフレクサス・オーランティアカス(Chloroflexus aurantiacus)由来のNAAARが例示される。
【0021】
本発明の好ましい態様においては、NAAARは、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、または該アミノ酸配列と60%以上の同一性、および80%以上の相同性を有するアミノ酸配列(以下、「実質的に同一のアミノ酸配列」という場合がある)を含み、かつ70℃、1時間の加温処理後もNAAAR活性を有するポリペプチド(以下、「実質的に同一のポリペプチド」という場合がある)から実質的になる、単離されたタンパク質である。
ここで「同一性」並びに「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する、同一アミノ酸残基の割合(%)並びに同一および類似アミノ酸残基の割合(%)をそれぞれ意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe,Trp,Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala,Leu,Ile,Val)、極性アミノ酸(Gln,Asn)、塩基性アミノ酸(Lys,Arg,His)、酸性アミノ酸(Glu,Asp)、水酸基を含むアミノ酸(Ser,Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly,Ala,Ser,Thr,Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(即ち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowie et al., Science, 247: 1306-1310 (1990) を参照)。
【0022】
アミノ酸配列の同一性および/または相同性を決定するためのアルゴリズムとしては、例えば、Karlin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90: 5873-5877 (1993) に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム (version 2.0) に組み込まれている(Altschul et al., Nucleic Acids Res., 25: 3389-3402 (1997))]、Needleman et al., J. Mol. Biol., 48:444-453 (1970) に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、Myers and Miller, CABIOS, 4: 11-17 (1988) に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム (version 2.0) に組み込まれている]、Pearson et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85: 2444-2448 (1988) に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0023】
また、ここで「実質的になる」とは、例えば、宿主細胞による糖鎖付加やN末端および/またはC末端アミノ酸、あるいは内部アミノ酸残基の側鎖における修飾など、ポリペプチドの有する生理活性、即ち、NAAAR活性に影響を及ぼさない程度の修飾等がなされたものをも包含する意味で用いられる。より具体的には、C末端はカルボキシル基、カルボキシレート、アミドまたはエステル(COOR)の何れであってもよい。ここでエステルにおけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチルなどのC1-6アルキル基、例えば、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3-8シクロアルキル基、例えば、フェニル、α-ナフチルなどのC6-12アリール基、例えば、ベンジル、フェネチルなどのフェニル-C1-2アルキル基もしくはα-ナフチルメチルなどのα-ナフチル-C1-2アルキル基などのC7-14アラルキル基、ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。さらに、C末端以外のカルボキシル基がアミド化またはエステル化されていてもよい。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが挙げられる。
一方、N末端のアミノ酸残基のアミノ基は、保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイルなどのC1-6アシル基など)で保護されていてもよく、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したり、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば、-OH、-SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1-6アルカノイル基などのC1-6アシル基など)で保護されていてもよい。あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども含まれる。
【0024】
また、本発明のNAAARは塩の形態であってもよい。そのような塩としては、例えば、生理学的に許容される酸(例:無機酸、有機酸)や塩基(例:アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。この様な塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
【0025】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、C.オーランティアカスのゲノム中に存在するORFにコードされており、既知タンパク質とのアミノ酸配列の相同性から、L−アラニン−D,L−グルタミン酸エピメラーゼ及びエノラーゼスーパーファミリーに属する酵素と推定されているが、該ポリペプチドの実際の機能はおろか、該細菌が該ポリペプチドを実際に産生することもこれまで報告されていない。
【0026】
配列番号2に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列は、好ましくは、配列番号2に示されるアミノ酸配列と70%以上の同一性、より好ましくは80%以上の同一性、さらに好ましくは90%以上の同一性、特に好ましくは95%以上の同一性、最も好ましくは98%以上の同一性を有するものである。
好ましい態様においては、配列番号2に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列は、配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1もしくは2以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列、例えば、(1)配列番号2に示されるアミノ酸配列中の1もしくは2以上(好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜数(2〜5)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(2)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1または2以上(好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜数(2〜5)個)のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列、(3)配列番号2に示されるアミノ酸配列に1または2以上(好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜数(2〜5)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(4)配列番号2に示されるアミノ酸配列中の1または2以上(好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜数(2〜5)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(5)上記(1)〜(4)の変異が組み合わせれたアミノ酸配列(この場合、変異したアミノ酸の総和が、好ましくは1〜30個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜数(2〜5)個)である。
【0027】
配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと実質的に同一のポリペプチドは、上記の配列番号2に示されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含み、かつ70℃、1時間の加温処理後も検出可能な程度のNAAAR活性を有する限り、特に制限されないが、好ましくは70℃、1時間の加温処理後の残存NAAAR活性が30%以上、より好ましくは50%以上のポリペプチドである。ここで、残存NAAAR活性の定義および該活性の決定方法は、上記と同様である。
【0028】
本発明のNAAARは、(1)該酵素を産生する組織または細胞を原料として抽出精製する方法、(2)化学的に合成する方法、(3)遺伝子組換え技術によりNAAARを発現するように操作された細胞から精製する方法、または(4)NAAARをコードする核酸から無細胞転写/翻訳系を用いて生化学的に合成する方法等を適宜用いることによって取得することができる。
【0029】
天然のNAAAR産生細胞からのNAAARの単離精製は、例えば以下のようにして行うことができる。NAAAR産生細胞を適当な緩衝液中でホモジナイズし、超音波処理や界面活性剤処理等により細胞抽出液を得、そこから蛋白質の分離精製に常套的に利用される分離技術を適宜組み合わせることにより精製することができる。このような分離技術としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法等の溶解度の差を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、非変性ポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)等の分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー等の荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動等の等電点の差を利用する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0030】
化学合成によるNAAARの製造は、例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基にして、配列の全部または一部をペプチド合成機を用いて合成することにより行うことができる。ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明のNAAARを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を含む場合は保護基を脱離することにより、目的とするタンパク質を製造することができる。ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)および(2)に記載された方法に従って行われる。
(1) M. Bodanszkyand M.A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966)
(2) Schroeder and Luebke, The Peptide, Academic Press, NewYork(1965)
【0031】
このようにして得られた本発明のNAAARは、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られるNAAARが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にタンパク質が塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
【0032】
本発明のNAAARは、好ましくは、該蛋白質をコードする核酸をクローニング(もしくは化学的に合成)し、該核酸を担持する発現ベクターを含む形質転換体の培養物から単離精製することにより製造することができる。
【0033】
酵素遺伝子のクローニングは、通常、以下の方法により行われる。まず、所望の酵素を産生する細胞または組織より、該酵素を完全または部分精製し、そのN末端アミノ酸配列をエドマン法や質量分析などを用いて決定する。また、ペプチドを配列特異的に切断するプロテアーゼや化学物質で該酵素を部分分解して得られるオリゴペプチドのアミノ酸配列を同様にエドマン法や質量分析により決定する。決定された部分アミノ酸配列に対応する塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成し、これをプローブとして用いて、該酵素を産生する細胞または組織より調製されたcDNAまたはゲノミックDNAライブラリーから、コロニー(もしくはプラーク)ハイブリダイゼーション法によって該酵素をコードするDNAをクローニングする。
あるいは、完全または部分精製された酵素の全部または一部を抗原として該酵素に対する抗体を常法にしたがって作製し、該酵素を産生する細胞または組織より調製されたcDNAまたはゲノミックDNAライブラリーから、抗体スクリーニング法によって該酵素をコードするDNAをクローニングすることもできる。
目的の酵素と酵素学的性質の類似する酵素の遺伝子が公知である場合、例えば、NCBI BLASTのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にアクセスし、該公知遺伝子の塩基配列と相同性を有する配列を検索し、ヒットした塩基配列を基にして、上記のようにプローブを作製し、コロニー(もしくはプラーク)ハイブリダイゼーション法によって該酵素をコードするDNAをクローニングすることができる。例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるC.オーランティアカス由来NAAARの場合、TS−1−60由来NAAARとアミノ酸レベルで51%の同一性があるので、TS−1−60由来NAAAR遺伝子の塩基配列とのホモロジー検索により、C.オーランティアカスゲノム上のNAAARをコードするORFを見出すことができる。
また、ヒットした塩基配列を基にして、適当なオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成し、NAAARを産生する細胞より調製したゲノムDNA画分または全RNAもしくはmRNA画分を鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)またはReverse Transcriptase-PCR(以下、「RT−PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。
上記のようにして得られたDNAの塩基配列は、マキサム・ギルバート法やジデオキシターミネーション法等の公知のシークエンス技術を用いて決定することができる。
【0034】
本発明のNAAARをコードする核酸は、好ましくは、上記した配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはそれと実質的に同一のポリペプチドをコードする核酸である。該核酸は、DNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよいが、好ましくはDNAが挙げられる。また、該核酸は二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。
【0035】
より好ましくは、本発明のNAAARをコードする核酸としては、例えば、配列番号1に示される塩基配列を含む核酸(該核酸がRNAの場合はtをuに読み替えるものとする)、あるいは配列番号1に示される塩基配列に相補的な塩基配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含み、且つ前記した配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同質の性質、即ち、70℃、1時間の加温処理後もNAAAR活性を有するという性質を有するポリペプチドをコードする核酸などが挙げられる。
配列番号1に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸としては、例えば、配列番号1に示される塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列を含む核酸などが用いられる。
【0036】
本明細書における塩基配列の同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning, 第2版 (J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989) に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行うことができる。
【0037】
ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム塩濃度が約19〜約40mM、好ましくは約19〜約20mMで、温度が約50〜約70℃、好ましくは約60〜約65℃の条件等が挙げられる。特に、ナトリウム塩濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が好ましい。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
【0038】
本発明のNAAARをコードするDNAは、上記のようにC.オーランティアカスのゲノムDNAもしくはRNA(cDNA)より取得することもできるが、化学的にDNA鎖を合成するか、もしくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法を利用して接続することにより、NAAARの全長をコードするDNAを構築することも可能である。化学合成もしくはPCR法との組み合わせで全長DNAを構築することの利点は、該遺伝子を導入する宿主に合わせて使用コドンを遺伝子全長にわたり設計できる点にある。同一のアミノ酸をコードする複数のコドンは均一に使用されるわけではなく、生物種によってその使用頻度が異なる。一般にある生物種において高発現する遺伝子に含まれるコドンは、その生物種において使用頻度の高いコドンを多く含んでおり、逆に発現量の低い遺伝子は使用頻度の低いコドンの存在がボトルネックとなって高発現を妨げている例が少なくない。異種遺伝子の発現に際し、その遺伝子配列を宿主生物において使用頻度の高いコドンに置換することで該異種タンパク質発現量が増大した例はこれまでに多数報告されており、このような使用コドンの改変は異種遺伝子発現量の増大に効果があると期待される。
【0039】
上記の理由から、本発明のNAAARをコードするDNAは、それが導入される宿主細胞により適したコドン(即ち、該宿主において使用頻度の高いコドン)に改変することが望ましい。各宿主のコドン使用頻度は、該宿主生物のゲノム配列上に存在する全遺伝子における各コドンの使用される割合で定義され、たとえば1000コドンあたりの使用回数で表される。またコドン使用頻度は、その全ゲノム配列の解明されていない生物にあっては代表的な複数遺伝子の配列から近似的に算出することも可能である。組換えようとする宿主生物におけるコドン使用頻度のデータは、例えば(財)かずさDNA研究所のホームページ(http://www.kazusa.or.jp)に公開されている遺伝暗号使用頻度データベースを用いることができ、または各生物におけるコドン使用頻度を記した文献を参照してもよく、あるいは使用する宿主生物のコドン使用頻度データを自ら決定してもよい。入手したデータと導入しようとする遺伝子配列を参照し、遺伝子配列に用いられているコドンの中で宿主生物において使用頻度の低いものを、同一のアミノ酸をコードし使用頻度の高いコドンに置換すればよい。
【0040】
本発明のNAAARをコードするDNAを導入する宿主細胞は、後述するように組換え発現系が確立しているものであれば、特に制限されないが、好ましくは大腸菌、枯草菌などのバクテリア、放線菌、麹菌、酵母といった微生物宿主並びに昆虫細胞、動物細胞、高等植物等が挙げられ、より好ましくは大腸菌(例えば、K12株、B株など)が挙げられる。大腸菌において使用頻度の高いコドンとしては、例えば、K12株の場合であれば、GlyにはGGTまたはGGC、GluにはGAA、AspにはGAT、ValにはGTG、AlaにはGCG、ArgにはCGTまたはCGC、SerにはAGC、LysにはAAA、IleにはATTまたはATC、ThrにはACC、LeuにはCTG、GlnにはCAG、ProにはCCGなどが挙げられる。
このように宿主において使用頻度の高いコドンに置換されたNAAARをコードするDNAとして、例えば、C.オーランティアカス由来のNAAARをコードするDNAを、該NAAARと同一のアミノ酸配列をコードし、且つ大腸菌K12株において使用頻度の高いコドンに置換したDNA(配列番号3に示される塩基配列)が挙げられる。
【0041】
本発明はまた、本発明のNAAARをコードするDNAを含む組換えベクターを提供する。本発明の組換えベクターは原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で複製保持または自律増殖できるものであれば特に限定されず、プラスミドベクターやウイルスベクター等が包含される。当該組換えベクターは、簡便には当該技術分野において入手可能な公知のクローニングベクターまたは発現ベクターに、上記のNAAARをコードするDNAを適当な制限酵素およびリガーゼ、あるいは必要に応じてさらにリンカーもしくはアダプターDNAを用いて連結することにより調製することができる。また、Taqポリメラーゼのように増幅末端に一塩基を付加するようなDNAポリメラーゼを用いて増幅作製した遺伝子断片であれば、TAクローニングによるベクターへの接続も可能である。
【0042】
ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミドとして、例えばpBR322、pBR325、pUC18、pUC19など、酵母由来プラスミドとして、例えばpSH19、pSH15など、枯草菌由来プラスミドとして、例えばpUB110、pTP5、pC194などが挙げられる。また、ウイルスとして、λファージなどのバクテリオファージや、SV40、ウシパピローマウイルス(BPV)等のパポバウイルス、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)等のレトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ワクシニヤウイルス、バキュロウイルスなどの動物および昆虫のウイルスが例示される。
【0043】
特に、本発明は、目的の宿主細胞内で機能的なプロモーターの制御下にNAAARをコードするDNAが配置されたNAAAR発現ベクターを提供する。使用されるベクターとしては、原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で機能して、その下流に配置された遺伝子の転写を制御し得るプロモーター領域(例えば宿主が大腸菌の場合、trpプロモーター、lacプロモーター、lecAプロモーター等、宿主が枯草菌の場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等、宿主が酵母の場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等、宿主が哺乳動物細胞の場合、SV40由来初期プロモーター、MoMuLV由来ロングターミナルリピート、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター)と、該遺伝子の転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有し、該プロモーター領域と該ターミネーター領域とが、少なくとも1つの制限酵素認識部位、好ましくは該ベクターをその箇所のみで切断するユニークな制限部位を含む配列を介して連結されたものであれば特に制限はないが、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有していることが好ましい。さらに、挿入されるNAAARをコードするDNAが開始コドンおよび終止コドンを含まない場合には、開始コドン(ATGまたはGTG)および終止コドン(TAG、TGA、TAA)を、それぞれプロモーター領域の下流およびターミネーター領域の上流に含むベクターが好ましく使用される。
宿主細胞として細菌を用いる場合、一般に発現ベクターは上記のプロモーター領域およびターミネーター領域に加えて、宿主細胞内で自律複製し得る複製可能単位を含む必要がある。また、プロモーター領域は、プロモーターの近傍にオペレーターおよびShine-Dalgarno(SD)配列を包含する。
宿主として酵母,動物細胞または昆虫細胞を用いる場合、発現ベクターは、エンハンサー配列、NAAAR mRNAの5’側および3’側の非翻訳領域、ポリアデニレーション部位等をさらに含むことが好ましい。
【0044】
作成した組換えベクターを導入する宿主生物としては、組換え発現系が確立している大腸菌、枯草菌などのバクテリア、放線菌、麹菌、酵母といった微生物宿主並びに昆虫細胞、動物細胞、高等植物等を挙げることができるが、中でもタンパク質発現能力に優れている大腸菌を用いるのが好ましい。組換えプラスミドを導入する方法としてはエレクトロポレーションによる導入のほか、塩化カルシウム等薬品処理によりコンピテント化した宿主であればヒートショックによる導入も可能である。宿主ベクターへの目的組換えプラスミドの移入の有無についての選択は、目的とするDNAを保持するベクターの各種薬剤耐性遺伝子に代表されるマーカーとNAAAR活性とを同時に発現する微生物を検索すればよく、例えば薬剤耐性マーカーに基づく選択培地で生育し、かつNAAARを発現する微生物を選択すればよい。
【0045】
本発明のNAAARをコードするDNAに適用され得る他のベクター、プロモーター、宿主細胞については、例えば、上記特許文献2および3に記載のものが好ましく例示される。
【0046】
本発明のNAAARは、上記のようにして調製されるNAAAR発現ベクターを含む形質転換体を培地中で培養し、得られる培養物からNAAARを回収することによって製造することができる。
【0047】
使用される培地は、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源,無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース,デキストラン,可溶性デンプン,ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類,硝酸塩類,アミノ酸,コーンスチープ・リカー,ペプトン,カゼイン,肉エキス,大豆粕,バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素〔例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム,リン酸二水素ナトリウム,塩化マグネシウム),ビタミン類,抗生物質(例えばテトラサイクリン,ネオマイシン,アンピシリン,カナマイシン等)など〕を含んでいてもよい。
【0048】
培養は当分野において知られている方法により行われる。下記に宿主細胞に応じて用いられる具体的な培地および培養条件を例示するが、本発明における培養条件はこれらに何ら限定されるものではない。
宿主が細菌,放線菌,酵母,糸状菌等である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜9である培地である。宿主が大腸菌の場合、好ましい培地としてLB培地,M9培地[Miller. J., Exp. Mol. Genet, p.431, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1972)]等が例示される。培養は、必要により通気・攪拌をしながら、通常14〜43℃で約3〜72時間行うことができる。宿主が枯草菌の場合、必要により通気・攪拌をしながら、通常30〜40℃で約16〜96時間行うことができる。宿主が酵母の場合、培地として、例えばBurkholder最少培地 [Bostian. K.L. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4505 (1980)]が挙げられ、pHは5〜8であることが望ましい。培養は通常約20〜35℃で約14〜144時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
宿主が動物細胞の場合、培地として、例えば約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)[Science, 122, 501 (1952)]、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)[Virology, 8, 396 (1959)]、RPMI1640培地[J. Am. Med. Assoc., 199, 519 (1967)]、199培地[Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 73, 1 (1950)] 等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は通常約30〜40℃で約15〜72時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
宿主が昆虫細胞の場合、培地として、例えばウシ胎仔血清を含むGrace’s培地[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 8404 (1985)]等が挙げられ、そのpHは約5〜8であるのが好ましい。培養は通常約20〜40℃で15〜100時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
【0049】
NAAARの精製は、NAAAR活性の存在する画分に応じて、通常使用される種々の分離技術を適宜組み合わせることにより行うことができる。
培養物の培地中に存在するNAAARは、培養物を遠心または濾過して培養上清(濾液)を得、該培養上清から、例えば、塩析、溶媒沈澱、透析、限外濾過、ゲル濾過、非変性PAGE、SDS−PAGE、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などの公知の分離方法を適当に選択して行うことにより得ることができる。
【0050】
一方、細胞質に存在するNAAARは、培養物を遠心または濾過して細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、例えば超音波処理、リゾチーム処理、凍結融解、浸透圧ショック、および/またはトライトン−X100等の界面活性剤処理などにより、細胞およびオルガネラ膜を破砕(溶解)した後、遠心分離や濾過などによりデブリスを除去して可溶性画分を得、該可溶性画分を、上記と同様の方法で処理することにより単離精製することができる。
【0051】
組換えNAAARを迅速且つ簡便に取得する手段として、NAAARのコード配列のある部分(好ましくはNまたはC末端)に、金属イオンキレートに吸着し得るアミノ酸配列(例えば、ヒスチジン、アルギニン、リシン等の塩基性アミノ酸からなる配列、好ましくはヒスチジンからなる配列)をコードするDNA配列を、遺伝子操作により付加して宿主細胞で発現させ、該細胞の培養物のNAAAR活性画分から、該金属イオンキレートを固定化した担体とのアフィニティーによりNAAARを分離回収する方法が好ましく例示される。金属イオンキレートに吸着し得るアミノ酸配列をコードするDNA配列は、例えば、NAAARをコードするDNAをクローニングする過程で、NAAARのC末端アミノ酸配列をコードする塩基配列に該DNA配列を連結したハイブリッドプライマーを用いてPCR増幅を行ったり、あるいは該DNA配列を終止コドンの前に含む発現ベクターにNAAARをコードするDNAをインフレームで挿入することにより、NAAARコード配列に導入することができる。また、精製に使用される金属イオンキレート吸着体は、遷移金属、例えばコバルト、銅、ニッケル、鉄の二価イオン、あるいは鉄、アルミニウムの三価イオン等、好ましくはコバルトまたはニッケルの二価イオン含有溶液を、リガンド、例えばイミノジ酢酸(IDA)基、ニトリロトリ酢酸(NTA)基、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED)基等を付着したマトリックスと接触させて該リガンドに結合させることにより調製される。キレート吸着体のマトリックス部は通常の不溶性担体であれば特に限定されない。
あるいは、タグとしてグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、HA、FLAGペプチドなどを用いてアフィニティー精製することもできる。
【0052】
上記精製工程において、必要に応じて膜濃縮、減圧濃縮、活性化剤および安定化剤添加等の処理を行うこともできる。特に本NAAARは耐熱性に優れているため、他の宿主細胞由来夾雑タンパク質を熱変性せしめ、かつNAAAR活性を保持しうる範囲での加温処理が、大幅なNAAAR純度向上に有効である。これら工程に用いる溶媒としては特に限定されないが、pH6〜9程度の範囲において緩衝能を有するK−リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、GOODの緩衝液等に代表される各種緩衝液が好ましい。
【0053】
かくして得られるNAAARが遊離体である場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって該遊離体を塩に変換することができ、該タンパク質が塩として得られた場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により該塩を遊離体または他の塩に変換することができる。
【0054】
精製酵素は液状で産業利用に供することも可能であるが、粉末化し、あるいはさらに造粒することもできる。液状酵素の粉末化は定法により凍結乾燥することでなされる。
【0055】
さらに、本発明のNAAARは、それをコードするDNAに対応するRNAを鋳型として、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセートなどからなる無細胞タンパク質翻訳系を用いてインビトロ翻訳することによっても合成することができる。本発明のNAAARをコードするRNAは、本発明のNAAARをコードするcDNAの取得方法において上記した、本発明のNAAARをコードするmRNAを常法を用いて該RNAを発現する宿主細胞から精製するか、あるいは、NAAARをコードするDNAを鋳型とし、RNAポリメラーゼを含む無細胞転写系を用いてcRNAを調製することによって取得することができる。無細胞タンパク質転写/翻訳系は市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には、大腸菌抽出液はPratt J.M. et al., “Transcription and Tranlation”, Hames B.D. and Higgins S.J. eds., IRL Press, Oxford 179-209 (1984) に記載の方法等に準じて調製することもできる。市販の細胞ライセートとしては、大腸菌由来のものはE.coli S30 extract system (Promega社製) やRTS 500 Rapid Tranlation System (Roche社製) 等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System (Promega社製) 等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製) 等が挙げられる。このうちコムギ胚芽ライセートを用いたものが好適である。コムギ胚芽ライセートの作製法としては、例えばJohnston F.B. et al., Nature, 179: 160-161 (1957) あるいはErickson A.H. et al., Meth. Enzymol., 96: 38-50 (1996) 等に記載の方法を用いることができる。
【0056】
タンパク質合成のためのシステムまたは装置としては、バッチ法 [Pratt, J.M. et al. (1984) 前述] や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成システム [Spirin A.S. et al., Science, 242: 1162-1164 (1988)]、透析法 (Kigawa et al., 第21回日本分子生物学会, WID6)、あるいは重層法 (PROTEIOSTMWheat germ cell-free protein synthesis core kit取扱説明書: TOYOBO社製) 等が挙げられる。さらには、合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法 (特開2000-333673) 等を用いることができる。
【0057】
本発明はまた、本発明のNAAARを、N−アシル−D−アミノ酸またはN−アシル−L−アミノ酸に接触させることを含む、ラセミ化されたN−アシルアミノ酸の製造方法を提供する。
【0058】
N−アシルアミノ酸のラセミ化反応に使用することができる本発明のNAAARは、上記のいずれかの方法により提供される精製酵素だけでなく、その処理物、上記本発明のNAAAR産生細胞(天然のNAAAR産生細胞および上記のようにして製造される形質転換体の両方を包含する)の培養物およびその処理物であってもよい。
【0059】
例えば、本発明のNAAARの処理物としては、例えば、NAAARを公知の方法により不溶性の担体に固定化したものが含まれる。一方、本発明のNAAAR産生細胞の培養物としては、該酵素が細胞外に分泌している場合には培養上清が、細胞内発現している場合には、培養菌体を適当な方法により破砕・ろ過もしくは遠心分離等により得られる上清等が挙げられる。さらに該培養物の処理物には、具体的には界面活性剤やトルエンなどの有機溶媒処理によって細胞膜の透過性を変化させた上記細胞や、あるいはガラスビーズや酵素処理によって菌体を破砕した細胞抽出液やそれを部分精製したものなどが含まれる。
【0060】
本発明の方法によってラセミ化され得る基質N-アシルアミノ酸としては、例えば下記
一般式(I)に示す化合物を挙げることができる。
【0061】
一般式
【0062】
【化1】

【0063】
(式中のXは置換基を有してもよいカルボン酸由来のアシルを示し、Rは置換基を有して
もよい炭素数1から20のアルキルを示す)
【0064】
N-アシル-アミノ酸のアシル基(X)に関し、アルカノイル、ベンゾイル、アリールアルカノイル等のカルボン酸が挙げられ、これらのアシル基は置換基(ハロゲン、C1-3アルキル、C1-3アルコキシ等)を有していてよい。上記アルカノイルの例としてアセチル、ホルミル、クロロアセチル、プロピオニルなどが挙げられ、ベンゾイルの例としてベンゾイル、p-クロロベンゾイルなどが、アリールアルカノイルの例としてフェニルアセチル、フェニルプロピオニルなどが挙げられる。
【0065】
また、Rで表されるアルキルとして直鎖状又は分岐状アルキル、ヒドロキシアルキル、C1-3アルキルチオ、チオール、フェニル、ヒドロキシフェニルもしくはインドリルで置換されたC1-3アルキルおよびアミノ、カルボキシ、グアニジルもしくはイミダゾリルなどで置換されたC1-4アルキルなどが挙げられる。
【0066】
好ましくは、基質N−アシルアミノ酸として、N−アシルメチオニン、N−アシルバリン、N−アシルロイシン、N−アシルフェニルアラニン、N-アシルトリプトファンが適用可能である。これらのN−アシルアミノ酸はL体であってもD体であっても、あるいはそれらの混合物であってもよい。
【0067】
ラセミ化反応は、本発明のNAAARが反応できる条件であればよく、例えば、反応温度4〜70℃、好ましくは20〜60℃、より好ましくは30〜50℃、pH3〜11、好ましくはpH5〜10、基質濃度0.01〜50%で行うことができる。基質は反応開始時に一括して添加することも可能であるが、反応液中の基質濃度が高くなりすぎないように連続的、もしくは非連続的に添加することが望ましい。また、NAAARが活性を発現するに必要な二価の金属イオン、例えば、Co2+、Mn2+、Mg2+、Fe2+を、0.1mM〜10mM、好適には1〜5mMで添加する。
【0068】
本発明はさらに、本発明のNAAARを、D−またはL−アミノアシラーゼの共存下で、N−アシル−D−アミノ酸、N−アシル−L−アミノ酸またはその混合物に接触させることを含むD−またはL−アミノ酸の製造方法を提供する。本発明のNAAARの形態は、上記ラセミ化法の場合と同様である。
【0069】
基質となるN−アシル−D−アミノ酸、N−アシル−L−アミノ酸またはその混合物溶液を適当な濃度に調製し、NAAAR、L−(もしくはD−)アミノアシラーゼ、NAAARが活性を発現するに必要な二価の金属イオンを添加し、適当な温度条件・pH条件で静置もしくは攪拌する。基質濃度および温度またはpH条件としては、NAAARおよびアミノアシラーゼが活性を発揮する条件の範囲内であれば特に限定しないが、より好適には基質濃度0.01%から50%、pHは5〜10、温度は30℃以上で行う。また、添加する二価の金属イオンは、該NAAARを活性化する働きのあるものであれば特に限定されないが、このような金属イオンの例としてはCo2+、Mn2+、Mg2+、Fe2+が挙げられる。この中でコバルトイオンを利用するのが最も好適である。これら金属イオンを添加する濃度としては、NAAARとしての機能を発揮するに必要な濃度であれな特に限定しないが、好適には0.1mM〜10mM、さらに好適には1mM〜5mMである。
【0070】
この状態で、添加したアミノアシラーゼがL−アミノアシラーゼの場合であれば、まずN−アシル−D−アミノ酸、N−アシル−L−アミノ酸のうちL体のみがL−アミノアシラーゼにより脱アシル化され、目的のL−アミノ酸が生成する。NAAARはN−アシルアミノ酸のL体をD体に変換する反応とD体をL体に変換する反応の両方を触媒してその比率をほぼ等しくする(ラセミ化)方向に働くが、基質のL体が消費されるとラセミ状態が解消されてゆくため、NAAARの反応としてはよりD体→L体の反応が促進される。このように生成したN−アシル−L−アミノ酸はL−アミノアシラーゼにより順次L−アミノ酸へと分解される。このような原理で、理論的にはすべてのN−アシルアミノ酸をL−アミノ酸に変換することができる。同様に添加するアミノアシラーゼがD−アミノアシラーゼであれば理論的にはすべてのN−アシルアミノ酸をD−アミノ酸に変換することができる。
【0071】
本発明による光学活性アミノ酸の製造方法として、水中もしくは水に溶解しにくい有機溶媒もしくは水性媒体との2層混合系により行うことができる。
また、反応方法として水溶液中での反応、固定化酵素、固定化酵素膜リアクターなどで実施可能である。本発明により化学的なラセミ化法が不用となり、廃溶媒等の大幅な削減となる事から、環境への負荷低減等工業的なアミノ酸製造において有効である。
【0072】
基質とするN−アシルアミノ酸としては、当該NAAARが作用しうるものであればよいが、より好適にはN−アシルメチオニン、N−アシルバリン、N−アシルロイシン、N−アシルフェニルアラニン、N-アシルトリプトファンが適用可能である。
【0073】
本発明において、N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性の測定は以下の条件で行う。
<試薬>
0.1M HEPES緩衝液(pH7.5)
50mM N−アセチル−L−メチオニン(pH7.5)
6.1mg/ml 4−アミノアンチピリン(第一化学薬品製)溶液
32.2mg/ml TOOS(同仁化学研究所製)溶液
300U/ml ペルオキシダーゼ(東洋紡製PEO−301)溶液
20U/ml D−アミノ酸オキシダーゼ(バイオザイム製DOX2)溶液
1300U/ml D−アミノアシラーゼ(自家調製)溶液
50mM 塩化コバルト溶液
上記HEPES緩衝液7.5ml、D−アミノ酸オキシダーゼ溶液2ml、4−アミノアンチピリン溶液0.1ml、TOOS溶液0.1ml、ペルオキシダーゼ溶液0.1ml、D−アミノアシラーゼ溶液0.2ml、N−アセチル−L−メチオニン溶液9.2ml、塩化コバルト溶液0.8mlを混合して反応試薬とする。
【0074】
<測定条件>
反応試薬2.9mlを37℃で5分間予備加温する。NAAAR溶液0.1mlを添加しゆるやかに混和後、水を対照に37℃に制御された分光光度計で、555nmの吸光度変化を記録し、その直線領域から1分間あたりの吸光度変化を測定する。盲検はNAAAR溶液の代わりにNAAARを溶解する溶媒を試薬混液に加えて同様に1分間あたりの吸光度変化を測定する。あらかじめD−メチオニン標準液を用いて作成した検量線を元に1分間あたりに生成したD−メチオニン量を算出する。上記条件下で1分間に1マイクロモルのD−メチオニンを生成するに必要なNAAAR酵素量を1単位として酵素活性を算出する。
【実施例】
【0075】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0076】
<実施例1>
N−アシルアミノ酸ラセマーゼ遺伝子配列の設計と組換えプラスミドの構築
クロロフレキサス・オーランティアカス由来NAAAR様タンパク質の配列は、NCBI−BLASTホームページでアミコラトプシス・エスピーTS−1−60株由来NAAARタンパク質アミノ酸配列をキーに相同タンパク質の検索を実施した結果得られたHypothetical proteinの配列であり、TS−1−60株由来NAAARとの相同性は51%である。そのアミノ酸配列を配列番号2に、またそれをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号1に示す。まず配列番号1の塩基配列から使用されている全コドンをリストアップした。次にかずさDNA研究所ホームページからエシェリヒア・コリK12株のコドン使用頻度のデータを取得し、前出の塩基配列上の全コドンについて大腸菌における使用頻度を調べた。そして大腸菌での使用頻度の低いコドンを、より使用頻度の高いコドンに変換した。全体的なコドン使用頻度に偏りがないよう調整を実施して最終的に設計した遺伝子塩基配列は配列番号3に示すとおりである。この配列の上流と下流にそれぞれNdeI、BamHIサイトを付加した配列を有する直鎖DNAを、細胞工学別冊「植物のPCR実験プロトコール」(p84−89,秀潤社刊)に記載の方法で人工的に合成した。このように作製したDNA分子を制限酵素NdeIとBamHIで十分消化し、消化産物は東洋紡製MagExtractor-PCR & Gel Clean Up-を用いて精製することで制限酵素を除いた。得られたDNA断片は、同様に制限酵素で切断し精製したpBluescriptII KSN+と混合し、混合液と等量のライゲーション試薬(東洋紡製ライゲーション・ハイ)を加えて16℃、30分インキュベートすることにより、ライゲーションを実施した。このようにライゲーションした産物は、エシェリヒア・コリDH5α株のコンピテントセル(東洋紡製コンピテント・ハイDH5α)にヒートショックにより形質転換し、アンピシリン50μg/mlを含むLB寒天培地に生育させた。生育したコロニーを爪楊枝で5mlのLB液体培地(アンピシリン50μg/mlを含む)に植菌・37℃振とう培養し、生育した菌体よりMagExtractor-Plasmid-(東洋紡製)を用いてプラスミドを回収した。回収したプラスミドのlacプロモーター下流の塩基配列を解読し、挿入された断片が配列番号3と同一の配列を有していることを確認して発現プラスミドpCFNARとした。
【0077】
<実施例2>
形質転換微生物の作製とNAAARの生産
実施例1で得られたプラスミドpCFNARをエシェリヒア・コリDH5α株に形質転換し、生育したコロニーを500ml容坂口フラスコに入った100mlの種培地(0.5%ポリペプトン、0.25%酵母エキス、0.5%NaCl、0.5%グルコース、50μg/mlアンピシリン、pH7.4)に植菌し、振とう数180rpmで30℃、16時間培養し、種培養液とした。得られた種培養液のうち60mlを2L容坂口フラスコに入った500mLの生産培地(2.4%大豆ペプチド、2.4%酵母エキス、1.25%リン酸1水素2カリウム、0.23%リン酸2水素1カリウム、0.5%グルコース、0.5%マルトース、50μg/mlアンピシリン、pH7.2)に植菌し、振とう数180rpmで37℃、48時間培養した。培養終了後、培養液のNAAAR活性を測定したところ1.1U/mlであった。培養液を500ml容遠心管に入れ、高速冷却遠心機(日立製作所製CR21E)を用いて4℃、8000rpmで20分遠心した。遠心後はデカンテーションにより上清を除き、菌体を得た。このように得られた菌体を20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)に懸濁し、フレンチプレス破砕機を用いて破砕した。菌体破砕液に3%ポリエチレンイミン溶液を対液0.7%添加、マグネットスターラーで室温にて30分攪拌後、集菌時と同様に遠心し、上清を得た。さらにこの液をマグネットスターラーで攪拌しながら、硫酸アンモニウムを0.45飽和となるよう添加・溶解し、室温に20分程度静置した。これを遠心してデカンテーションにより上清を除いて目的タンパク質を含む沈殿を得、この沈殿を20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)に再溶解した。この塩析・再溶解液を、20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で緩衝化したG−25セファロース(アマシャム・バイオサイエンス製)を用い、ゲルろ過により脱塩を実施した。さらにこの液を20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)で緩衝化したDEAE−セファロースに吸着させ、NaCl濃度0〜0.4Mのグラジエント溶出を実施し、最後にG−25セファロースによるゲルろ過で脱塩して精製タンパク質を得た。精製NAAARの比活性(単位タンパク質量あたりのNAAAR活性)を測定したところ、0.6U/mgであった。
【0078】
<実施例3>
分子量
精製NAAARのSDS−PAGEをPhastSystem全自動電気泳動装置(アマシャム・バイオサイエンス製)を用いて実施したところ、クマシーブルー染色で単一のバンドとなっており分子量は約39,000と推定された。アミノ酸配列から計算上推定される分子量は40,597と見積もられ、これとほぼ一致する結果であった。
【0079】
<実施例4>
熱安定性
本NAAARを20mM Tris−HCl緩衝液(pH7.5)でタンパク質量にして6mg/ml(活性にして3.6U/ml)の濃度で溶解した溶液をサンプルとした。サンプルは37℃、42℃、50℃、60℃、70℃でそれぞれ1時間加温処理し、処理後残存しているNAAAR活性を測定することで温度安定性を求めた。結果を図1に示す。本酵素は60℃でもほとんど失活がなく、70℃処理においても処理前に比して50%程度の活性を維持していた。公知のNAAARは温度安定性としては≦50℃程度であり、アミコラトプシス属由来NAAARにおいてマグネシウムイオン添加により熱安定性が向上することが確認されているものの、その条件においても70℃30分処理で完全に失活する。公知のNAAARに比して本発明のNAAARは優れた熱安定性を有するものであることが示された。
【0080】
<実施例5>
pH安定性
pH4〜10の範囲でNAAAR溶液を調製し、各pH条件で25℃、24時間インキュベート後の残存活性を調べた。結果を図2に示す。この結果から、安定pH領域は5以上である。
【0081】
<実施例6>
金属イオン依存性
二価のコバルト、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、バリウム、亜鉛それぞれ終濃度2mM存在下でのNAAAR活性を測定した。結果を表1に示す。公知のNAAARと同様、コバルトイオン存在下において最も高いNAAAR活性を示した。また、鉄、マンガン、マグネシウムの存在下においてもNAAAR活性を示した。一方、銅、バリウム、亜鉛の存在下ではNAAAR活性が検出されなかった。
【0082】
【表1】

【0083】
<実施例7>
基質特異性
基質として、N−アセチル−L−メチオニン並びにN−アセチル−D−メチオニン、N−アセチル−L−バリン並びにN−アセチル−D−バリン、N−アセチル−L−ロイシン並びにN−アセチル−D−ロイシン、N−アセチル−L−フェニルアラニン並びにN−アセチル−D−フェニルアラニン、N−アセチル−L−トリプトファン並びにN−アセチル−D−トリプトファンと、同様のN−ホルミル−L−メチオニン並びにN−ホルミル−D−メチオニン、N−ホルミル−L−バリン、N−ホルミル−L−ロイシン、N−ホルミル−L−フェニルアラニン並びにN−ホルミル−D−フェニルアラニン、N−ホルミル−L−トリプトファン並びにN−ホルミル−D−トリプトファンについて、基質1%溶液(pH7.5)10ml中に、1UのNAAARと1mmolの塩化コバルトを添加し終夜反応させた。HPLC法により光学純度を測定することにより確認した。光学分割カラムはSUMICHIRAL OA-5000(Sumika Chemical Analysis Service, Ltd.)を用い、2mM硫酸銅10%イソプロピルアルコール水溶液を溶離液として、温度50℃、流速1ml、検出254nmで測定した。結果を表2に示す。公知のNAAARと同様、N−アセチル−メチオニン並びにN−ホルミル−メチオニンに対する活性が最も高いが、N−アセチル−バリン並びにN−ホルミル−バリン、N−アセチル−ロイシン並びにN−ホルミル−ロイシン、N−アセチル−フェニルアラニン並びにN−ホルミル−フェニルアラニン、N−アセチル−トリプトファン並びにN−ホルミル−トリプトファンのL体並びにD体のアシルアミノ酸に対しても活性を示した。また、フリー体のL並びにD−アミノ酸には活性を示さなかった。
【0084】
【表2】

【0085】
<実施例8>
NAAARによるN−アシル−アミノ酸のラセミ化反応
1%のN−アセチル−L−メチオニン並びにN−アセチル−D−メチオニン(pH7.5)にNAAAR1U、1mM酢酸コバルトを含む反応液を、45℃で終夜反応させた。反応液を光学活性カラムによるHPLC法により確認した。光学分割カラムはSUMICHIRAL OA-5000(Sumika Chemical Analysis Service, Ltd.)を用い、2mM硫酸銅10%イソプロピルアルコール水溶液を溶離液として、温度50℃、流速1ml、検出254nmで測定した。光学純度を測定した結果、N-アセチル-L-メチオニン並びにN−アセチル−D−メチオニンそれぞれの反応液で、N−アセチルD,L−メチオニンが確認されその光学純度はほぼ0%eeでラセミ体であった。
【0086】
<実施例9>
NAAARとL−アミノアシラーゼによるL−アミノ酸の製造法
20%N−アセチル−D,L−バリン(pH9.0)に、NAAAR100U、L−アミノアシラーゼ(天野エンザイム社製)1000Uを含む反応液100mlを、45℃で終夜反応させた。反応が進行すると生成したL−バリンの過飽和分が析出した。析出したL−バリンをろ過分離し水洗後乾燥したところ、収率75%でL−バリンを得ることができた。得られたL−バリンの光学純度を光学活性カラムによるHPLC法により確認した。光学分割カラムはSUMICHIRAL OA-5000(Sumika Chemical Analysis Service, Ltd.)を用い、2mM硫酸銅5%イソプロピルアルコール水溶液を溶離液として、温度50℃、流速1ml、検出254nmで測定した。その結果、生成したL−バリンは光学純度がほぼ100%eeであった。
本発明で得られたNAAARは、工業的L−アミノ酸製造において収量並びに品質ともに有意であった。
【0087】
<実施例10>
NAAARとD−アミノアシラーゼによるD−アミノ酸の製造法
20%N−アセチル−D,L−メチオニン(pH9.0)に、NAAAR100U、D−アミノアシラーゼ(天野エンザイム社製)1000Uを含む反応液100mlを、45℃で終夜反応させた。反応が進行すると生成したD−メチオニンの過飽和分が析出した。析出したD−メチオニンをろ過分離し水洗後乾燥したところ、収率75%でD−メチオニンを得ることができた。得られたD−メチオニンの光学純度を光学活性カラムによるHPLC法により確認した。光学分割カラムはSUMICHIRAL OA-5000(Sumika Chemical Analysis Service, Ltd.)を用い、2mM硫酸銅5%イソプロピルアルコール水溶液を溶離液として、温度50℃、流速1ml、検出254nmで測定した。その結果、生成したD−メチオニンは光学純度がほぼ100%eeであった。
本発明で得られたNAAARは、工業的D−アミノ酸製造において収量並びに品質ともに有意であった。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により製造した光学活性α−アミノ酸は、食品添加剤や栄養補給剤成分に利用可能であり、また各種医薬品等の製剤の有効成分を製造する中間体としての供給が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】C.オーランティアカス由来NAAARと同一のアミノ酸配列からなる大腸菌組換えタンパク質のNAAAR活性における熱安定性を示す図である。縦軸は残存NAAAR活性(加温処理前の活性を100としたときの、1時間加温処理後における相対活性;%)、横軸は処理温度(℃)を示す。
【図2】C.オーランティアカス由来NAAARと同一のアミノ酸配列からなる大腸菌組換えタンパク質のNAAAR活性におけるpH安定性を示す図である。縦軸は残存NAAAR活性(加温処理前の活性を100としたときの25℃、24時間加温処理後における相対活性;%)、横軸は反応液pHを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有し、且つ以下の物理化学的性質を有する単離されたタンパク質。
(a) 熱安定性:70℃、1時間の加温処理後もN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有する
(b) 金属イオン依存性:Co2+、Mn2+、Mg2+、Fe2+存在下でN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を示す
【請求項2】
70℃、1時間の加温処理後の残存N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性が少なくとも30%以上である、請求項1記載のタンパク質。
【請求項3】
さらに以下の(c)〜(e)の性質を有する請求項1または2記載のタンパク質。
(c) SDS−PAGEによるみかけの分子量:約39kDa
(d) pH安定性:pH5以上で、25℃、24時間の加温処理後の残存N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性が約80%以上
(e) 基質特異性:N−アセチル化もしくはN−ホルミル化したメチオニン、バリン、ロイシン、フェニルアラニンおよびトリプトファンのL体およびD体に対してN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を示す
【請求項4】
以下の(a)または(b)のポリペプチドから実質的になる、N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有する単離されたタンパク質。
(a) 配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
(b) 配列番号2に示されるアミノ酸配列と60%以上の同一性、および80%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含み、かつ70℃、1時間の加温処理後もN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有するポリペプチド
【請求項5】
70℃、1時間の加温処理後の残存N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性が30%以上である、請求項4記載のタンパク質。
【請求項6】
配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1もしくは2以上のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列を含む、請求項4または5記載のタンパク質。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸(但し、配列番号1に示される塩基配列を含む核酸を除く)。
【請求項8】
異種宿主細胞に導入するための請求項7記載の核酸であって、該宿主において使用頻度の低いコドンが使用頻度のより高いコドンに置換された塩基配列からなる核酸。
【請求項9】
宿主が大腸菌である請求項8記載の核酸。
【請求項10】
配列番号3に示される塩基配列を含む、請求項7〜9のいずれかに記載の核酸。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸が、該核酸を導入する宿主細胞に適合したプロモーターに機能的に連結されてなる発現ベクター。
【請求項12】
核酸が請求項7〜10のいずれかに記載のものである、請求項11記載の発現ベクター。
【請求項13】
請求項11または12記載の発現ベクターで宿主細胞を形質転換して得られる形質転換体。
【請求項14】
宿主細胞が大腸菌である請求項13記載の形質転換体。
【請求項15】
請求項13または14記載の形質転換体を培養し、得られる培養物からN-アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を有するタンパク質を採取することを含む、請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質の製造方法。
【請求項16】
請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質を、N−アシル−D−アミノ酸またはN−アシル−L−アミノ酸に接触させることを含む、ラセミ化されたN−アシルアミノ酸の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜6のいずれかに記載のタンパク質を、D−またはL−アミノアシラーゼの共存下で、N−アシル−D−アミノ酸、N−アシル−L−アミノ酸またはその混合物に接触させることを含むD−またはL−アミノ酸の製造方法。
【請求項18】
アミノ酸がメチオニン、ロイシン、バリン、フェニルアラニンまたはトリプトファンからなる群より選択される請求項16または17記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−82534(P2007−82534A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−179529(P2006−179529)
【出願日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【出願人】(390037327)第一化学薬品株式会社 (111)
【Fターム(参考)】