説明

耐硫酸性セメント組成物、耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物

【課題】施工性に優れ、耐硫酸性を向上させた硬化体が得られる耐硫酸性セメント組成物及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物を提供する。
【解決手段】セメント100質量部に対して、リグニンスルホン酸化合物を固形分基準で3〜15質量部含むことを特徴とする耐硫酸性セメント組成物であり、耐硫酸性セメント組成物は、さらに石灰石微粉末を30〜400質量部含むことが好ましい。耐硫酸性セメント組成物に、セメント100質量部に対して、さらに消泡剤0.01〜0.1質量部と、細骨材を50〜800質量部とを含む、耐硫酸性モルタル組成物、この耐硫酸モルタル組成物に、さらに粗骨材を含む耐硫酸性コンクリート組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下水道、温泉地、化学工場等の硫酸又は硫酸塩による腐食が問題になる箇所での使用に適し、かつ酸性雨に対する耐久性を向上させた耐硫酸性セメント組成物、耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道、温泉地、化学工場等の硫酸又は硫酸塩に晒される箇所においては従来から、硫酸又は硫酸塩によるセメント硬化体の腐食が問題になっている。さらに近年、酸性雨によるセメントを使用した構造体全体の腐食も問題となっている。
【0003】
セメント硬化体(セメントペースト、モルタル又はコンクリートの硬化体)は、硫酸に接触すると難溶性でかつ膨張性の石膏を形成すると共に、ケイ酸、アルミナ等が溶解して、シリカやアルミナのゲルを生成する。この膨張性の石膏やシリカやアルミナのゲルが溶出して、セメント硬化体を崩れやすくさせる、セメントに対する硫酸のこの作用は、当然のことながら酸の濃度に依存する。pHが2を超える場合(硫酸濃度0.1%以下)、すなわち、酸の濃度が低い場合には、炭酸ガスや低濃度の酸による腐食、又は硫酸塩等の腐食性を示す塩類による場合と同様に、セメント硬化体を緻密化させること、例えば高性能AE減水剤等の使用により作業性を確保しながら水セメント比を低下させることにより、腐食物質の内部への浸透を抑制することができ、これにより耐食性を向上させることができる。しかし、硫酸の濃度が高くなると、セメント硬化体の緻密化のみでは対応が難しい。水セメント比を低くしてセメント硬化体を緻密化すると、酸によって生成される石膏の結晶成長による膨張圧を緩和する細孔が少なくなる。このため、例えばpHが2以下と非常に低くなると、石膏が表面からはがれ易くなり、侵食が進行してセメント硬化体の耐食性が悪化する場合があり、セメント組成物に酸に対する抵抗性を期待することは困難である。
【0004】
pHが2以下(硫酸濃度0.1%以上)のときは、酸によるセメント硬化体の劣化を防止するために、セメント組成物にポリマーを複合させたポリマーセメントや、セメント組成物の表面を耐食性材料(例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂)で被覆し、化学的腐食性物質(例えば、硫酸)とセメント組成物の接触を防止する防食被覆(ライニング)材が用いられている。しかし、ポリマーセメントや防食被覆材は高価であるだけでなく、製造時又は施工時に特殊な工程が必要となるため汎用的な対策ではない。また、耐硫酸性の要望があっても、コストが多大となるのであれば耐硫酸性の向上よりもコストが重視される場合もある。
【0005】
耐硫酸性を向上させた硬化体が得られるセメント組成物として、置換基としてスルホン酸のアルカリ金属塩を有する水溶性有機化合物、具体的にはナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩を含む水溶性有機化合物を、セメント100質量部に対して0.5〜4質量部含むセメント組成物が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−236860号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に示されるように、既往の研究により、ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩等の水溶性有機化合物を含有する減水剤の添加量を、流動性の確保を目的とする添加量よりも多くすることにより、セメント組成物を硬化させた後の耐硫酸性が改善されることは公知である。しかしながら、特許文献1のセメント組成物では材料分離を生じるおそれがある。
そこで、本発明は施工が簡便であり、耐硫酸性を向上させた硬化体が得られ、材料分離を抑制することのできる、耐硫酸性セメント組成物、耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、耐硫酸性を付与する化合物の化学構造を種々研究し、セメント組成物、モルタル組成物又はコンクリート組成物の硬化後の耐硫酸性を大幅に向上させることができるとともに、流動性に影響を与えることなく、材料分離を抑制することのできる最適な化学構造を有する化合物を見出し、本発明に至った。
【0009】
本発明は、セメント100質量部に対して、リグニンスルホン酸化合物を固形分量で3〜15質量部含む、耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物は、施工時に特別な工程を必要とすることなく、施工が簡便であり、流動性に影響を与えることなく、材料分離を抑制することができ、これらの組成物を用いて得られる硬化体の耐硫酸性を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物について詳述する。
本発明の耐硫酸性セメント組成物は、セメント100質量部に対して、リグニンスルホン酸化合物を固形分基準で3〜15質量部含む。
【0012】
本発明で使用するセメントとしては、JISで規定されるポルトランドセメントや混合セメントを挙げることができる。具体的には、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及びそれらの低アルカリ型ポルトランドセメント、さらに高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等を挙げることが出来る。
【0013】
本発明で使用するリグニンスルホン酸化合物は、通常、木材からパルプを製造する際の副生物を原料として製造される化合物が挙げられる。本発明で使用するリグニンスルホン酸化合物は、リグニンスルホン酸又はその塩であり、リグニンスルホン酸塩を構成する塩としては、ナトリウム塩等のアルカリ金属塩やカルシウム塩等のアルカリ土類金属塩が挙げられる。リグニンスルホン酸塩として、具体的には、リグニンスルホン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸カルシウム、リグニンスルホン酸マグネシウム等が挙げられる。リグニンスルホン酸化合物は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0014】
本発明で使用するリグニンスルホン酸化合物は、オキシカルボン酸塩、ポリカルボン酸化合物、ポリカルボン酸エーテル化合物、ナフタレンスルホン酸化合物、セルロースエーテル化合物、スルホン酸塩、グリシトール誘導体及びポリオールからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物との複合体であってもよい。
【0015】
本発明では、リグニンスルホン酸系のコンクリート混和剤をリグニンスルホン酸化合物として使用することが好ましい。リグニンスルホン酸系のコンクリート混和剤は、通常その使用量が、セメント100質量部に対して最大でも固形分基準で0.5質量部未満である。これはリグニンスルホン酸系のコンクリート混和剤を、セメント100質量部に対して0.5質量部以上と大量に添加すると、凝結が異常に遅延したり、空気量が過大になり、コンクリートの性状に悪影響を及ぼす場合があるためである。このような悪影響の問題を考慮して、これまでリグニンスルホン酸系のコンクリート混和剤を、セメント100質量部に対して、0.5質量部以上と大量に添加した場合の特性は知られていなかった。リグニンスルホン酸化合物は、セメント組成物の所要水量を減じた場合に連行空気を導入する目的で添加するAE減水剤としても使用されている。しかし、AE減水剤として使用する場合、リグニンスルホン酸化合物の量は、セメント100質量部に対して、一般的に0.5質量部未満であり、0.5質量部以上と大量に添加した場合の特性は知られていなかった。本発明は、セメント100質量部に対して、リグニンスルホン酸系のコンクリート混和剤等のリグニンスルホン酸化合物を3〜15質量部と大量に添加した場合であっても、従来問題とされていた凝結の遅延や空気量が過大となる問題を抑制し、優れた耐硫酸性を有する硬化体が得られることを見出した。
【0016】
本発明で使用するリグニンスルホン酸化合物の量としては、セメント100質量部に対して、固形分基準で3〜15質量部、好ましくは3.5〜14質量部、より好ましくは4〜13質量部、さらに好ましくは4.5〜12質量部である。なお、リグニンスルホン酸化合物の量は、固形分量を基準とする。リグニンスルホン酸化合物の量が、セメント100質量部に対して、3質量部未満であると、耐硫酸性向上の効果が小さく、15質量部を超えると、コスト的に不利になるだけでなく、セメント組成物のフレッシュ性状や硬化性状が低下する場合があるため好ましくない。
【0017】
本発明による、セメント硬化体の耐硫酸性改善の機構は、完全に解明されているとはいえないが、本発明で使用するリグニンスルホン酸化合物が、セメント硬化体が硫酸に晒される際に生成する石膏の生成に影響を及ぼすためと解される。すなわち、本発明で使用するリグニンスルホン酸化合物は、そのスルホ基によって硫酸とセメントとの反応により生成する石膏に吸着し、その結晶成長を効率よくコントロールすると推測される。その結果、石膏の膨張性が抑制され、セメント粒子表面に緻密な石膏層が生成され、これが硫酸の侵食を防ぐことによって、硫酸のセメント硬化体のさらなる反応を抑制して、耐硫酸性を改善すると解される。リグニンスルホン酸化合物を、セメント100質量部に対して、0.5質量部と比較的大量に添加した場合であっても、セメント組成物の流動性が大きく変化することがない。これは、リグニンスルホン酸化合物のセメント粒子に対する分散作用が小さく、粘性が高いために材料分離が抑制されると考えられる。
【0018】
一方、リグニンスルホン酸化合物を、セメント100質量部に対して、0.5質量部以上と大量添加した場合には、凝結が遅延することも推測されるが、凝結の遅延が問題になる場合には、硬化体の養生条件を変更することで、凝結の遅延を抑制することができる。具体的には、養生時間を24時間以上と十分長くすることや、低温の雰囲気で養生する場合には、50℃以上の高温養生を行うことで、凝結の遅延が抑制される。その他に硬化促進剤を添加してもよい。硬化促進剤としては、塩化カルシウム、塩化ナトリウム等の塩化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の硫酸塩、硝酸カルシウム、硝酸ナトリウム等の硝酸塩、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアミン類、ギ酸カルシウム等の有機酸が使用できる。
【0019】
また、リグニンスルホン酸化合物を、セメント100質量部に対して、0.5質量部以上と大量添加した場合には、空気量が過大となることも推測されるが、空気量が問題となる場合には、消泡剤を添加することによって、空気量を抑制することができる。消泡剤としては、ポリエーテル系、シリコーン系、ポリアルキレングリコール系、非イオン界面活性剤系等の消泡剤を使用することができる。特に、ポリアルキレングリコール系の消泡剤を使用することが好ましい。
【0020】
本発明の耐硫酸セメント組成物は、セメント100質量部に対して、さらに石灰石微粉末を30〜400質量部含むことが好ましい。本発明で使用する石灰石微粉末は、セメント100質量部に対して、より好ましくは50〜350質量部であり、さらに好ましくは70〜300質量部であり、特に好ましくは80〜250質量部である。石灰石微粉末の量が、上記範囲内であると、セメント組成物からなるセメント硬化体が硫酸に晒された際に、より緻密な石膏層を生成することが可能となり、硬化体の耐硫酸性をさらに向上する効果も期待できる。
【0021】
石灰石微粉末は、ブレーン比表面積が、好ましくは2000〜20000cm/gのものを使用することができる。石灰石微粉末のブレーン比表面積は、より好ましくは2500〜15000cm/g、さらに好ましくは3000〜10000cm/g、特に好ましくは4000〜7000cm/gのものを使用することができる。石灰石微粉末のブレーン比表面積が上記範囲内であると、材料分離を抑制することができ、良好なワーカビリティを維持することができる。ここで、石灰石微粉末のブレーン比表面積は、JIS R 5201「セメント物理試験方法」に準じて測定した値とする。
【0022】
本発明の耐硫酸性モルタル組成物は、上記耐硫酸性セメント組成物に、さらに消泡剤と細骨材を含む。本発明で使用する細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、高炉スラグ細骨材、石灰石細骨材等を使用することができる。耐硫酸性モルタル組成物中に含まれる消泡剤の量は、セメント100質量部に対して、好ましくは0.01〜0.1質量部、より好ましくは0.02〜0.08重量部、さらに好ましくは0.03〜0.06重量部である。耐硫酸性モルタル組成物中に含まれる細骨材は、セメント100質量部に対して、好ましくは50〜800質量部、より好ましくは100〜650質量部、さらに好ましくは150〜500質量部、特に好ましくは150〜400重量部、もっとも好ましくは180〜300重量部であるである。
【0023】
本発明の耐硫酸性コンクリート組成物は、耐硫酸モルタル組成物に、さらに粗骨材を含む。本発明で使用する粗骨材としては、砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材、石灰石粗骨材等を使用することができる。粗骨材は、セメント100質量部に対して、好ましくは200〜320質量部、より好ましくは230〜290質量部、さらに好ましくは250〜270質量部である。粗骨材の配合量が上記範囲内であれば、良好なフレッシュ性状を得ることができる。
【0024】
本発明の耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物は、混練に先立ち各成分を予め混合して置くことも可能であるが、セメントに水を加えて混練する際に、リグニンスルホン酸化合物、細骨材及びその他混和剤を加えて調製することが好ましい。このように本発明の耐硫酸性セメント組成物又は耐硫酸性モルタル組成物は、簡便な方法によって調製することが可能であり、通常のセメント硬化体を形成する施設等において、容易かつ安価に調製することができる。
【0025】
また、本発明の耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物は、基本成分であるベースセメント、リグニンスルホン酸化合物、石灰石微粉末及び水に加えて、フレッシュ性状を調整するためナフタレン系、ポリオール系、ポリカルボン酸系等の化合物であるAE剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、中性能減水剤、高機能減水剤、多機能減水剤等の化学混和剤や、増粘剤、空気量調整剤、硬化促進剤、硬化遅延剤、鉄筋防錆剤等の公知の添加剤を添加しても何等問題を生じず、ペースト、モルタル、コンクリートの材料として、従来公知の施工法で使用することができる。また、養生は常温養生だけでなく、蒸気養生や加熱養生でも製造することが出来る。
【0026】
さらに本発明の耐硫酸セメント組成物、耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物からなる群より選ばれるいずれか1つの組成物を硬化させてなる硬化体は、硫酸を含む水溶液と接触すると表面に緻密な石膏層が形成される。これらの表面に緻密な石膏層を有する硬化体は、石膏層により硫酸侵食が防止され、耐硫酸性が向上する。
【0027】
本発明の耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物は、優れた耐硫酸性が求められる温泉施設、下水道施設、化学工場等のコンクリート構造物、管、U字溝、コンクリートパイル等のセメントを用いたコンクリート製品に好適に使用することができる。さらにこれらのコンクリート製品の表面に塗布して防食被覆層を形成する防食被覆材料、その他、劣化部に対する補修材料等として好適に使用することができる。
【実施例】
【0028】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0029】
[使用材料]
以下に示す材料を使用した。
(1)セメント(C):
普通ポルトランドセメント[宇部興産社製]、ブレーン比表面積3270cm/g
(JIS R 5201−1997 「セメントの物理試験」に準じて測定した。試料ベットのポロシティーは0.50とした。)
(2)石灰石微粉末(LSP):
道路用石灰石粉末[宇部マテリアルズ社製]、ブレーン比表面積 4500cm/g(JIS R 5201−1997 「セメントの物理試験」に準じて測定した。試料ベットのポロシティーは0.47とした。)
(3)リグニンスルホン酸化合物(LS):
ポゾリスNo.72(リグニンスルホン酸ナトリウム、固形分濃度35質量%の水溶液)[BASFポゾリス社製]
(4)ナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩(ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルムアルデヒド縮合物)(NS)(固形分濃度40質量%の水溶液、重量平均分子量5110(ゲルろ過クロマトグラフィー(GFC法、ポリスチレンスルホン酸換算)で測定した。)
(5)AE減水剤(AE)
ポゾリスNo.70(リグニンスルホン酸化合物とポリオールの複合体、固形分濃度56質量%の水溶液)、[BASFポゾリス社製]
(6)消泡剤(AD):マイクロエア404[BASFポゾリス社製]
(7)細骨材(S):
海砂(吸水率1.34%、表乾密度2.59g/cm、FM2.66)と砕砂(吸水率1.36%、表乾密度2.68g/cm、FM2.79)の1:1の混合物
(8)練混ぜ水(W)
上下水道
【0030】
[モルタル組成物の調製]
表1に示す配合割合で、JIS R5201‐1997「セメントの物理試験」における練混ぜ方法に準じてモルタル組成物を調製した。具体的には、以下のようにモルタル組成物を調製した。
練り鉢に水(W)160gと、所定量のリグニンスルホン酸化合物(LS)(固形分基準で11.6g(実施例3)、23.1g(実施例1、2))又はナフタレンスルホン酸のアルカリ金属塩(NS)(11.0g(比較例2))と、AE減水剤(AE)(固形分基準で0.815g(比較例1))と、消泡剤(AD)(0.029g(比較例1、2、実施例1)あるいは0.116g(実施例2、3))とを投入し、次いで、セメント(C)291gと、石灰石微粉末(LSP)291gとを投入し、ホバートミキサーで所定時間混練し、その後、細骨材(S)582gを投入してさらに混練してモルタル組成物を得た。
【0031】
【表1】

【0032】
[フレッシュ性状試験]
得られたモルタル組成物を用いて、JIS R5201‐1997の「セメントの物理試験方法 11.フロー試験」に記載される方法において、打撃を与えずに測定した値(以下「0打フロー」という。)と、モルタル組成物の分離の有無を目視で確認した。結果を表2に示す。モルタル組成物の材料分離が有る場合を×とし、モルタル組成物の材料分離が無い場合を○とした。
【0033】
[空気量]
空気量は単位容積質量と配合割合から算出したモルタル組成物の質量との差から求めた。具体的には、空気量を以下の式(1)で求めた。単位容積質量はJIS A 1171:2000「ポリマーセメントモルタルの試験方法」に記載の方法に準じて、内径7.5cm、深さ約11.5cmの容積を正確に測定した容器に、モルタルを充填して重量を測定し、単位容積質量とした。
空気量(%)=(1/(単位容積質量(g))−1/(配合割合から算出したモルタル組成物の質量(g)))/(1/(配合割合から算出したモルタル組成物の質量(g)))×100 ・・・(1)
【0034】
[硫酸浸せき試験]
<硬化体の調製>
直径5cm×高さ10cmの円筒型枠に調製したモルタル組成物を流し込み、65℃で一昼夜養生した後脱型し、その後20℃、相対湿度(R.H.)90%以上の条件で6日間湿空養生してモルタル硬化体を得て、試験用の供試体とした。
<耐硫酸性の評価>
JIS原案の「コンクリート溶液浸漬による耐薬品性試験方法」に基づいて、耐硫酸性の試験を行なった。具体的には、養生終了後の供試体を5質量%硫酸水溶液(pH約0.3、20±2℃)に浸漬し、浸せき期間1週間、8週間経過後に硫酸水溶液から供試体を取り出した。取り出した供試体をブラシを用いて水洗し、水分をタオルで拭き取った後に質量を測定した。質量減少率は以下の式(2)で求めた。結果を表2に示す。また、耐硫酸性の向上効果を明確にするため、比較例1の質量減少率を1とした場合の各実施例、比較例の質量減少率の比をカッコ書きで表2中に併記した。
質量減少率(%)=(硫酸水溶液に浸漬する前の供試体の質量−硫酸水溶液に所定期間浸漬した後の供試体の質量)/(硫酸水溶液に浸漬する前の供試体の質量)×100
・・・(2)
【0035】
【表2】

【0036】
表2に示す結果から、実施例1〜3のリグニンスルホン酸化合物を添加したモルタル組成物の0打フローは、一般的なコンクリート混和剤であるAE減水剤を添加した比較例1の0打フローとほぼ同等の値であり、リグニンスルホン酸化合物を比較的大量に添加しても流動性に影響を与えることなく、材料分離を抑制することができることが確認できた。一方、ナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物を添加した比較例2のモルタル組成物は、0打フローが大きく、材料が分離した。また、消泡剤の量が少ないと空気量が多くなるが、消泡剤の添加量を増加することにより、実施例2、3のように空気量が過大となることを抑制することができることが確認できた。
【0037】
また、表2に示す結果から、実施例1〜3の供試体は、硫酸浸漬後の質量減少率が硫酸浸漬後1週では2.8〜5.7%、硫酸浸漬後8週では9.5〜40.0%と、比較例1の質量減少率よりも少なかった。リグニンスルホン酸化合物とポリオールの複合体を含むAE減水剤を添加した比較例1のモルタル組成物は、AE減水剤の量が、セメント100質量部に対して、0.28質量部と少ないため、硫酸浸漬後1週では、質量減少率が7.1%となり、硫酸浸漬後8週では、質量減少率が55.2%と非常に大きくなり、耐硫酸性に劣っていた。このAE減水剤を添加した比較例1の硫酸浸漬後1週の供試体の質量減少率を1とした場合、実施例1、2の供試体の質量減少率は、0.80以下に抑えられていた。また、比較例1の硫酸浸漬後8週の供試体の質量減少率を1とした場合も、実施例1〜3の供試体の質量減少率は、0.72以下に抑えられていた。この結果から、実施例1〜3のモルタル組成物の硬化体は、硫酸の侵食が抑制され、リグニンスルホン酸化合物とポリオールの複合体を含むAE減水剤を、セメント100質量部に対して、0.28質量部の添加量である比較例1と比べて、更に耐硫酸性が改善されていることが確認できた。
【0038】
さらに実施例1〜3の供試体は、表面が何れも白色に変色しており、硫酸水溶液と接触することにより、緻密な石膏層の形成がされていることが確認できた。この石膏層により、コンクリートの硫酸侵食が防止されていると推察される。なお、比較例1の供試体は、表面が変色していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の耐硫酸性セメント組成物、及びそれを使用する耐硫酸性モルタル組成物、耐硫酸性コンクリート組成物は、温泉地、下水道施設、化学工場等の硫酸又は硫酸塩に晒される可能性の高い箇所において使用するコンクリート構造物やコンクリート製品への適用は勿論、近年問題になっている酸性雨にも高い耐久性を示すことから、一般のコンクリート製品を形成するための組成物として利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント100質量部に対して、リグニンスルホン酸化合物を固形分基準で3〜15質量部含むことを特徴とする耐硫酸性セメント組成物。
【請求項2】
セメント100質量部に対して、石灰石微粉末を30〜400質量部含む、請求項1項記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項3】
石灰石微粉末のブレーン比表面積が2000〜20000cm/gである、請求項2項記載の耐硫酸性セメント組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の耐硫酸性セメント組成物に、セメント100質量部に対して、さらに消泡剤0.01〜0.1重量部と、細骨材を50〜800質量部とを含む、耐硫酸性モルタル組成物。
【請求項5】
請求項4記載の耐硫酸性モルタル組成物に、さらに粗骨材を含む、耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載の耐硫酸性セメント組成物、請求項4記載の耐硫酸性モルタル組成物及び請求項5記載の耐硫酸性コンクリート組成物からなる群より選ばれるいずれか1つの組成物を硬化させてなり、硫酸を含む水溶液と接触させることにより形成された石膏層を表面に有する、耐硫酸性コンクリート組成物の硬化体。

【公開番号】特開2011−201744(P2011−201744A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−72594(P2010−72594)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】