説明

耐硫酸性付与剤、耐硫酸性モルタル組成物並びに耐硫酸性コンクリート組成物及びその製造方法

【課題】材料分離が十分に抑制されるとともに、耐硫酸性に十分優れるモルタル及びコンクリートが形成可能な耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物、並びにそれらを製造することが可能な耐硫酸性付与剤を提供すること。
【解決手段】ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とカチオン性材料とを含む耐硫酸性付与剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐硫酸性付与剤、耐硫酸性モルタル組成物、並びに耐硫酸性コンクリート組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道、温泉地等の硫酸又は硫酸塩にさらされる箇所においては、従来から、硫酸によるセメント硬化体の腐食が問題となっている。さらに、近年、酸性雨による腐食は、下水道、温泉地等の限定された箇所での問題に留まらず、セメントを使用した構築物全体の問題となっている。
【0003】
通常のセメント硬化物(モルタルやコンクリート)は、硫酸に長期間接触し続けると、難溶性の石膏を形成すると共に、シリカゲルやアルミナゲルを生成して侵食される。硫酸によるこのような作用は、酸の濃度に依存する。そこで、以下のような対策が挙げられる。
【0004】
例えば、pHが2以上(硫酸濃度0.1%以下)の環境における硫酸による腐食に対する対策としては、炭酸ガスや低濃度の酸による腐食、及び硫酸塩等の腐食性を示す塩類等による腐食の対策と同様に、コンクリートを緻密化させることによって腐食物質が内部に浸透するのを抑制する対策が挙げられる。このような対策の具体例としては、高性能AE減水剤等を使用することが挙げられる。高性能AE減水剤を使用すると、作業性を確保しながらセメントに対する水の質量比率を低下させることが可能となり、その結果、コンクリートが緻密化されてコンクリートの耐腐食性を向上させることができる。
【0005】
ところが、硫酸濃度が高い環境下においては、上述のようにコンクリートを緻密化することのみによって、十分な耐腐食性を維持することは困難であった。例えば、pHが2より低い環境では、通常のセメント素材のみによって硫酸に対する腐食を十分に低減することが困難であった。
【0006】
このような状況の下、pHが2より低い環境で、硫酸によるセメント硬化体の劣化を防止する方法として、セメント組成物にナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を多量に添加する方法が提案されている(特許文献1、2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−331458号公報
【特許文献2】特開2004−331459号公報
【特許文献3】特開2005−336012号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を多量に添加したコンクリート組成物は、コンクリート組成物を構成する材料の分布が不均一になり、材料分離が生じてしまう場合がある。これを防ぐ手段として、各種微粉末又は増粘剤を添加する方法も検討されているものの、更なる改善が望まれている。このため、pHが低い環境においても耐硫酸性に十分優れるとともに、材料分離が容易に発生しないモルタル組成物及びコンクリート組成物が求められている。
【0009】
そこで、本発明は、材料分離が十分に抑制されるとともに、耐硫酸性に十分優れるモルタル及びコンクリートが形成可能な耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を提供すること、並びに当該耐硫酸性コンクリート組成物の製造方法を提供することを目的とする。本発明はまた、そのような耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を製造することが可能な耐硫酸性付与剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とカチオン性材料とを含む耐硫酸性付与剤を提供する。この耐硫酸性付与剤は、モルタル組成物及びコンクリート組成物に含ませることによって、材料分離が十分に抑制されるとともに耐硫酸性に十分優れるモルタル及びコンクリートを作製することができる。
【0011】
本発明の耐硫酸性付与剤において、カチオン性材料が、第4級アンモニウム化合物を含有することが好ましい。これにより、耐硫酸性付与剤をモルタル組成物やコンクリート組成物に含有させた場合に、モルタル組成物やコンクリート組成物の材料分離を一層抑制し、セメント硬化体の耐硫酸性を一層向上させることができる。
【0012】
本発明の耐硫酸性付与剤は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩100質量部に対し、カチオン性材料として水酸化テトラプロピルアンモニウムを35〜300質量部含むことが好ましい。また、本発明の耐硫酸性付与剤は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩100質量部に対し、カチオン性材料として塩化トリメチルベンジルアンモニウムを50〜400質量部含むことが好ましい。
【0013】
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩に対するカチオン性材料の含有割合を上記範囲にすることで、本発明の耐硫酸性付与剤をモルタル組成物やコンクリート組成物の製造に使用した際に、材料分離の発生が一層抑制され、且つ耐硫酸性もさらに向上させることができる。
【0014】
また、本発明は、上記耐硫酸性付与剤とセメントと細骨材と水とを含み、セメント100質量部に対し、耐硫酸性付与剤に含有されるナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩が1〜20質量部である耐硫酸性モルタル組成物を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記耐硫酸性モルタル組成物に、更に粗骨材を含む耐硫酸性コンクリート組成物を提供する。耐硫酸性コンクリート組成物は、セメントに対する水の質量比率(以下、「水/セメント比」という。)が30〜70質量%であることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明は、上記耐硫酸性付与剤、水、セメント、石灰石微粉末、細骨材及び粗骨材を含む耐硫酸性コンクリート組成物であって、耐硫酸性付与剤の固形分の単位量が10〜100kg/m、水の単位量が120〜200kg/m、セメントの単位量が200〜400kg/m、石灰石微粉末の単位量が20〜400kg/m、細骨材の単位量が500〜1000kg/m及び粗骨材の単位量が800〜1400kg/mである耐硫酸性コンクリート組成物を提供する。
【0017】
本発明ではまた、上述の耐硫酸性付与剤、水、セメント、石灰石微粉末、細骨材及び粗骨材を混合する混合工程を有しており、混合工程において、耐硫酸性付与剤の固形分の単位量が10〜100kg/m、水の単位量が120〜200kg/m、セメントの単位量が200〜400kg/m、石灰石微粉末の単位量が20〜400kg/m、細骨材の単位量が500〜1000kg/m、及び粗骨材の単位量が800〜1400kg/mである耐硫酸性コンクリート組成物の製造方法を提供する。原材料の単位量を上述の範囲とすることによって、適度な強度及び流動性を有し、材料分離が十分に抑制されるとともに、耐硫酸性に十分優れるコンクリートを形成することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、材料分離が十分に抑制されるとともに、耐硫酸性に十分優れるモルタル及びコンクリートが形成可能な耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を提供すること、並びに当該耐硫酸性コンクリート組成物の製造方法を提供することができる。また、そのような耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を製造することが可能な耐硫酸性付与剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩水溶液の顕微鏡写真である。
【図2】ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩水溶液に水酸化テトラプロピルアンモニウムを加えて調製した耐酸性付与剤の顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の好適な実施形態について以下に説明する。
【0021】
<耐硫酸性付与剤>
本実施形態の耐硫酸性付与剤は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とカチオン性材料とを含む。この耐硫酸性付与剤は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とカチオン性材料を混合して製造することができる。製造方法の詳細について、以下に説明する。
【0022】
まず、原料として、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩、水及びカチオン性材料を準備する。ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩は、コンクリート用減水剤、顔料、染料又は農薬水和剤等の分散剤として一般的に使用されている市販のものを使用することができる。
【0023】
カチオン性材料としては、第4級アンモニウム化合物又はアミン化合物を使用することができる。第4級アンモニウム化合物としては、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化トリメチルベンジルアンモニウム、水酸化トリエチルベンジルアンモニウム、水酸化トリプロピルベンジルアンモニウム、水酸化トリブチルベンジルアンモニウム、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化トリメチルベンジルアンモニウム、塩化トリエチルベンジルアンモニウム、塩化トリプロピルベンジルアンモニウム、塩化トリブチルベンジルアンモニウムを例示することができる。これらの第4級アンモニウム化合物は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と混合しても高い粘性を示さない点で好ましい。
【0024】
なお、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩又はカチオン性材料が水溶液である場合、これらに含有される水の量に応じて耐硫酸性付与剤に添加する水の量を調製することができる。
【0025】
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とカチオン性材料との混合は、均一な混練物となるまで十分に行う。混合は、ホバートミキサ、ハンドミキサ、ケミカルミキサ等を用いて行うことができ、この際の温度は特に限定されないが、室温(25℃)付近で行うことが好ましい。混合が不十分な場合には、モルタ組成物又はコンクリート組成物とした時の流動性が変化してしまうことがある。耐硫酸性付与剤には、モルタル又はコンクリート組成物用の混和材料を予め混合しておいてもよい。そのような混和材料としては、AE剤、高性能減水剤、硬化促進剤、減水剤、高性能AE減水剤、AE減水剤、流動化剤、増粘剤が挙げられる。また、耐硫酸性付与剤は、予め調製しておいてもよいし、モルタル又はコンクリート組成物の作製時にナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と混練水とカチオン性材料とを混合して調製してもよい。
【0026】
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩とカチオン性材料との混合割合は、カチオン性材料が水酸化テトラプロピルアンモニウムの場合、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩100質量部に対して、好ましくは35〜300質量部、より好ましくは60〜250質量部、さらに好ましくは70〜200質量部、特に好ましくは75〜150質量部である。また、カチオン性材料が塩化トリメチルベンジルアンモニウムの場合は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩100質量部に対して、好ましくは50〜400質量部、より好ましくは70〜350質量部、さらに好ましくは90〜300質量部、特に好ましくは100〜200質量部である。これらの範囲であれば、モルタルやコンクリートに使用した時に、材料分離を起こさず、耐硫酸性を得ることが可能である。なお、上記質量部は、水分を除いた質量(固形分)を基準としたものである。
【0027】
本実施形態の耐硫酸性付与剤では、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩を単純にモルタル組成物やコンクリート組成物に添加するのでなく、予めカチオン性材料と混合して使用することによりモルタル又はコンクリート組成物を作製した際の材料分離を抑制することができる。本発明者らは、特定の理論に拘束されるものではないが、以下の機構によるものと推察している。
【0028】
図1は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩水溶液の顕微鏡写真である。また、図2は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩水溶液にカチオン性材料である水酸化テトラプロピルアンモニウムを加えて調製した耐酸性付与剤の顕微鏡写真である。上記顕微鏡観察によれば、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩水溶液にカチオン性材料である水酸化テトラプロピルアンモニウムを加えた図2では、微細な粒子が生じていることが確認できる。これは、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩のスルホン基とカチオン系材料のカチオン性官能基とが会合した結果と考えられる。この会合により、材料分離の原因となるナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩のセメントへの吸着が阻害されるため材料分離が生じ難くなるものと推察される。さらに耐硫酸性付与剤の耐硫酸性機能に関しては、硫酸にコンクリートが接した際に上記会合が解け、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩が再び細孔溶液中に遊離し、その存在下でコンクリート中のセメント水和物が硫酸と反応し、遊離したナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物の作用により緻密な石膏層がコンクリート表面を覆うことにより硫酸の浸透を抑制するものと推察している。
【0029】
<耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物>
耐硫酸性モルタル組成物は上記耐硫酸性付与剤にセメント、細骨材及び水を配合して製造することができる。この際、耐硫酸性付与剤に含有されるナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩が、セメント100質量部に対して1〜20質量部、好ましくは2〜15質量部、より好ましくは4〜10質量部となるように材料の配合割合を調製する。
【0030】
また、水/セメント比を、好ましくは30〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%、さらに好ましくは45〜58質量%とする。水/セメント比を上述の範囲とすることによって、十分な強度と流動性とを兼ね備えたモルタル組成物とすることができる。
【0031】
セメントとしては、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント、アルミナセメント等を使用することができる。
【0032】
本実施形態のモルタル組成物は、更に石灰石微粉末を混合して調製してもよい。石灰石微粉末の使用により,耐硫酸性は更に向上する。石灰石微粉末の使用による耐硫酸性の発現機序は明らかではないが、コンクリート表面のバリアとなる石膏が生成しやすいこと、及び石膏生成時の膨張が少ないこと等が関係していると考えられる。
【0033】
耐硫酸性コンクリート組成物は、耐硫酸性付与剤にセメント、細骨材、粗骨材及び水を配合して製造することができる。これらの材料の配合割合は特に制限されないが、例えば以下の配合割合とすることができる。
【0034】
耐硫酸性コンクリート組成物を製造する場合の材料の配合割合は、水/セメント比を好ましくは30〜70質量%、より好ましくは40〜60質量%、さらに好ましくは45〜58質量%とする。耐硫酸性コンクリート組成物1mを製造する際の水の単位量は、好ましくは120〜200kg/m、より好ましくは140〜180kg/m、さらに好ましくは150〜170kg/mである。
【0035】
耐硫酸性コンクリート組成物1mを製造する際のセメントの単位量は、好ましくは200〜400kg/m、より好ましくは220〜380kg/m、さらに好ましくは250〜350kg/mである。石灰石微粉末の単位量は、好ましくは20〜400kg/m、より好ましくは30〜300kg/m、さらに好ましくは60〜100kg/mである。
【0036】
細骨材の単位量は、好ましくは500〜1000kg/m、より好ましくは600〜900kg/m、さらに好ましくは650〜800kg/mである。粗骨材の単位量は、好ましくは800〜1400kg/m、より好ましくは900〜1200kg/m、さらに好ましくは1000〜1100kg/mである。耐硫酸性付与剤の単位量は、好ましくは10〜100kg/m、より好ましくは15〜70kg/m、さらに好ましくは19〜40kg/mである。なお、耐硫酸性付与剤の単位量は、水分を除いた質量(固形分)を基準としたものである。
【0037】
各原材料の単位量を上述の範囲とすることによって、十分な強度と流動性とを兼ね備えたコンクリート組成物が得られる。
【0038】
本実施形態に係る耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物の製造に使用される骨材は、モルタルやコンクリート等の骨材として通常用いられるものであれば特に制限されない。細骨材としては、川砂、陸砂、海砂、砕砂、高炉スラグ細骨材等を、粗骨材としては、砂利、砕石、高炉スラグ粗骨材等を使用することができる。
【0039】
コンクリート組成物の耐硫酸性をさらに向上させる観点から、細骨材、粗骨材として、石灰石骨材を用いることが好ましい。これは、石灰石微粉末の添加による効果と同じ要因と推察される。なお、骨材として石灰石を用いると、粉体量を増すことなく,石灰石量の単位量を増やすことができるので好ましい。
【0040】
また、通常のモルタル組成物及びコンクリート組成物と同様に、本実施形態の耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物には、必要に応じて減水剤、石灰石微粉末、膨張材,凝結調整剤、さらには骨材分離を低減するための水溶性増粘剤及び/又は無機増粘剤を別途添加してもよい。
【0041】
減水剤としては、リグニンスルフォン酸系、ナフタレンスルホン酸系及びポリカルボン酸系等を使用することができる。その中でも耐硫酸性を示すナフタレンスルホン酸系のホルマリン縮合物塩を使用することが好ましい。
【0042】
水溶性増粘剤としては、アクリル系水溶性高分子、バイオポリマー、グリコール系水溶性高分子、セルロース系水溶性高分子等が挙げられる。これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0043】
アクリル系水溶性高分子としては、アクリルアミドとアクリル酸の共重合体、ポリアクリル酸等を使用することができる。バイオポリマーとしては、β−1,3グルカン、水溶性ポリサッカライド等を使用することができる。グリコール系水溶性高分子としては、ポリアルキレングリコール、ジステアリン酸グリコール、繊維素グリコール酸等を使用することができる。セルロース系水溶性高分子としては、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等を使用することができる。
【0044】
無機増粘剤としては、例えば、アタパルジャイト、セピオライト、ベントナイト、タルク、シリカフュームが挙げられる。これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
本実施形態の耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物は、施工性及び自己充てん性に優れるとともに、高い耐硫酸性が求められる下水道管、下水道処理場や管渠等の下水道関連施設、又は温泉施設の給排水設備や温泉地域における農業用及び排水用の水路構造物等温泉地関連施設、化学工場等で使用される構造物や二次製品、補修材用としての使用に特に有効である。
【0046】
下水道処理関連のコンクリート施設においては、例えば、ポンプ場、沈殿池、分配槽、反応タンク、汚泥貯留槽、連絡水路、汚泥消化槽等に、本実施形態の耐硫酸性モルタル組成物や耐硫酸性コンクリート組成物を使用することができる。また、温泉地のコンクリート施設において、温泉施設の浴槽、浴室内装材、内部設備類の他、温泉水や温泉蒸気の影響を受ける温泉地の建築物の基礎や壁、地中ばり、コンクリートを利用したトンネル、電柱、舗装コンクリート等に、本実施形態の耐硫酸性モルタル組成物や耐硫酸性コンクリート組成物を使用することができる。
【0047】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明の内容をより具体的に説明する。なお、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0049】
[使用材料]
耐硫酸性付与剤、耐硫酸性モルタル組成物及び耐硫酸性コンクリート組成物を製造するために、以下に示す材料を準備した。
(1)セメント(C)
普通ポルトランドセメント(宇部興産株式会社製、ブレーン比表面積 3270cm/g)
(2)石灰石微粉末
石灰石微粉末(LSP)(ブレーン比表面積 4500cm/g)
(3)骨材
(i)細骨材(S)
海砂(S1)(表乾密度 2.59g/cm、粗粒率2.66)
砕砂(S2)(表乾密度 2.68g/cm、粗粒率2.79)
(ii)粗骨材(G)
硬質砂岩砕石(表乾密度 2.70g/cm、粗粒率6.61)
(4)混和剤
(i)AE減水剤(AD)(BASFポゾリス製、商品名:ポゾリスNo.70)
(ii)空気量調整剤(マイクロエア303A)
(iii)空気量調整剤(マイクロエア785S)
(iv)空気量調整剤(マイクロエア404)
(5)耐硫酸性付与剤の原料
(i)ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩(NS)(固形分濃度40質量%の水溶液)
(ii)水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAH)(固形分濃度40質量%の水溶液、工業薬品)
(iii)塩化トリメチルベンジルアンモニウム(TMBA)(試薬)
(6)練混ぜ水(W)
上水道水
【0050】
[耐硫酸性付与剤の調製]
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩水溶液と水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液、又は、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩水溶液と塩化トリメチルベンジルアンモニウムとを、表1又は表2に示す割合で混合して耐硫酸性付与剤を調製した。
【0051】
調製した耐硫酸性付与剤をプレパラート上に滴下し上面にカバーガラスを設置して光学顕微鏡(Nikon製、商品名:COOLPIX MDC Lens 0.82−0.29x及びCOOLPIX 950)にて観察した。その結果、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩水溶液に水酸化テトラプロピルアンモニウム又は塩化トリメチルベンジルアンモニウムを加えた場合には、微細な粒子が生じていることを確認した。
【0052】
[モルタル組成物の製造]
JIS R 5201(1997)セメントの物理試験における練混ぜ方法に従い、モルタル組成物の作製を以下の通りに行った。
【0053】
(実施例1)
まず、練り鉢に、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩水溶液(NS)及び水酸化テトラプロピルアンモニウム水溶液(TPAH)を表1に示す割合で配合し均一になるまで混合して調製した耐硫酸性付与剤を入れた。そこへ、AE減水剤(ポゾリスNo.70)及び空気量調整剤(マイクロエア404)を加え、普通ポルトランドセメント(C)及び石灰石微粉末(LSP)を入れ混合した。この混合物を直ちに練混ぜ機でパドルを低速(自転速度:毎分140±5回転、公転速度:62±5回転)で回転させながら撹拌した。パドルを始動させてから30秒後、上記混合物に細骨材を30秒間で入れた。次いで、パドルを高速(自転速度:毎分285±10回転、公転速度:125±10回転)にし、引き続き30秒間練混ぜを続けた。90秒間練混ぜを休止し、休止の最初の15秒間にかき落としを行った。休止が終わったら再び高速で始動させ60秒間練混ぜて、実施例1のモルタル組成物を得た。練混ぜは、同規格で規定された練混ぜ機を使用した。空気量調整剤は、モルタル組成物中の空気量がほぼ一定となるように添加した。
【0054】
(実施例2〜7及び比較例1,2)
使用材料の割合を表1に示す配合割合に変更した以外、実施例1と同様にして、実施例2〜7及び比較例1,2のモルタル組成物をそれぞれ作製した。
【0055】
【表1】


1)上水道水、並びに、NS、TPAH、TMBA、ポゾリスNo.70及びマイクロエア404に含まれる水の合計量を示す。
2)固形分としてのNS添加量を示す。
3)固形分としてのTPAH又はTMBA添加量を示す。( )内の数値は、NS100質量部に対する、TPAH又はTMBAの質量部を示す。
【0056】
[コンクリート組成物の製造]
コンクリート組成物の製造は、以下の通りに行った。
【0057】
(実施例8)
普通ポルトランドセメント(C)、石灰石微粉末(LSP)、海砂(S1)、砕砂(S2)及び粗骨材(G)を、表2に示す単位量で配合し、二軸強制練りミキサを用いて30秒間撹拌した。次に、表2に示す単位量のNS水溶液及びTMBAを混合して調製した耐硫酸性付与剤と、AE減水剤(AD)を含む練混ぜ水(W)とをミキサ内に投入して150秒間撹拌し、実施例8のコンクリート組成物を製造した。空気量調整剤は、コンクリートの空気量がほぼ一定となるように添加した。
【0058】
(実施例9〜11及び比較例3,4)
使用材料の割合を表2に示す配合割合に変更した以外、実施例8と同様にして、実施例9〜11及び比較例3,4のコンクリート組成物をそれぞれ作製した。なお、比較例3の練混ぜ水投入後の撹拌時間は90秒間とした。
【0059】
【表2】


1)上水道水、並びに、NS、TMBA、ポゾリスNo.70、マイクロエア303A、マイクロエア785S及びマイクロエア404に含まれる水の合計量を示す。
2)固形分としてのNS添加量を示す。
3)固形分としてのTPAH又はTMBA添加量を示す。( )内の数値は、NS100質量部に対する、TMBAの質量部を示す。
【0060】
[モルタルの試験方法及び評価結果]
(1)フレッシュ性状
(試験方法)
実施例1〜7並びに比較例1及び2で得られたモルタル組成物を用いて、モルタルフローを測定した。モルタルフロー(フロー値)は、JIS R 5201:1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。また、同モルタルフロー試験においてフローコーンを上方に取り去った時の広がった後のモルタルの直径、すなわち0打フローも測定した。
【0061】
(試験結果)
表3にモルタルフロー試験の結果を示す。比較例2は0打フローが大きく、材料分離を生じた。これに対し、実施例1は、材料分離が生じなかった。また、実施例2〜7は、0打フローがNSを添加していないモルタルである比較例1とほぼ等しくなった。さらに、実施例3〜6は、フロー値も比較例1とほぼ等しくなり、材料分離が生じ難いことが確認された。
【0062】
【表3】

【0063】
(2)耐硫酸性
(試験方法)
フレッシュ性状が良好だった実施例4、実施例7及び比較例1のモルタル組成物を、直径5cm×高さ10cmの寸法の円柱型枠に打設し、材齢1日後、型枠から脱型し20℃の水中で材齢28日まで養生した。これらの供試体を、それぞれ10質量%の硫酸水溶液に浸せきし、浸せきして1週間経過後に、供試体を水中から取り出し、供試体の表面を水洗いした後、表面の水分を拭き取って供試体の質量を測定した。予め測定しておいた養生後(浸せき前)の供試体の質量(I)と、浸せき後における供試体の質量(II)とから質量変化率[質量(II)/質量(I)]を算出した。
【0064】
(評価結果)
表4に、上述のとおりにして算出した質量変化率を示す。比較例1に対し、実施例4及び実施例7は質量変化率が小さく、耐硫酸性が向上したことが確認された。
【0065】
【表4】

【0066】
[コンクリートの試験方法及び評価結果]
(3)フレッシュ性状
(試験方法)
実施例8〜11並びに比較例3及び4で得られたコンクリート組成物を用いて、スランプ及びスランプフローを測定した。スランプは、JIS A 1101:2005「コンクリートのスランプ試験方法」、スランプフローは、JIS A 1150:2007「コンクリートのスランプフロー試験方法」に準じて測定した。
【0067】
(評価結果)
表5に、コンクリートのスランプ試験及びスランプフロー試験の結果を示す。比較例4はスランプが大きく材料分離を生じた。これに対し実施例8は、スランプは大きいがスランプフローが小さく材料分離は生じていなかった。また、実施例9〜11はスランプが一般的な土木用途で用いられる範疇にある。さらに、実施例10及び11は、NSを添加していない一般的なコンクリートである比較例3とほぼ等しいスランプを示し、材料分離が生じ難いことが確認された。
【0068】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩と水とカチオン性材料とを含む、耐硫酸性付与剤。
【請求項2】
前記カチオン性材料が、第4級アンモニウム化合物を含有する、請求項1記載の耐硫酸性付与剤。
【請求項3】
前記ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩100質量部に対し、前記カチオン性材料として水酸化テトラプロピルアンモニウムを35〜300質量部含む、請求項1又は2記載の耐硫酸性付与剤。
【請求項4】
前記ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩100質量部に対し、前記カチオン性材料として塩化トリメチルベンジルアンモニウムを50〜400質量部含む、請求項1又は2記載の耐硫酸性付与剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐硫酸性付与剤とセメントと細骨材と水とを含み、
前記セメント100質量部に対し、前記耐硫酸性付与剤に含有される前記ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物塩が1〜20質量部である、耐硫酸性モルタル組成物。
【請求項6】
請求項5記載の耐硫酸性モルタル組成物と粗骨材とを含む、耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項7】
前記セメントに対する前記水の質量比率が30〜70質量%である、請求項6記載の耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐硫酸性付与剤、水、セメント、石灰石微粉末、細骨材及び粗骨材を含む耐硫酸性コンクリート組成物であって、
前記耐硫酸性付与剤の固形分の単位量が10〜100kg/m、前記水の単位量が120〜200kg/m、前記セメントの単位量が200〜400kg/m、前記石灰石微粉末の単位量が20〜400kg/m、前記細骨材の単位量が500〜1000kg/m及び前記粗骨材の単位量が800〜1400kg/mである耐硫酸性コンクリート組成物。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の耐硫酸性付与剤、水、セメント、石灰石微粉末、細骨材及び粗骨材を混合する混合工程を有しており、
前記混合工程において、前記耐硫酸性付与剤の固形分の単位量が10〜100kg/m、前記水の単位量が120〜200kg/m、前記セメントの単位量が200〜400kg/m、前記石灰石微粉末の単位量が20〜400kg/m、前記細骨材の単位量が500〜1000kg/m及び前記粗骨材の単位量が800〜1400kg/mである耐硫酸性コンクリート組成物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−228985(P2010−228985A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79362(P2009−79362)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】