説明

耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体

【課題】溶接継手に脆性き裂が発生した場合であっても、脆性き裂が溶接継手や母材を伝播するのが抑制でき、溶接構造体の破断を防止することが可能な、耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体を提供する。
【解決手段】鋼板1同士を突合せ溶接することで鋼板溶接継手2が形成されてなり、該鋼板溶接継手2の少なくとも一部に、鋼板1を貫通するように設けられ、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼材からなるアレスタ材5と、該アレスタ材5が鋼板1に対して突合せ溶接されることで形成されるアレスタ溶接継手6とからなる耐き裂制御部4が備えられており、アレスタ材5は、鋼板溶接継手2の溶接線L上から延在する外縁部50(51、52)が、鋼板溶接継手2の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交するように形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接継手に脆性き裂が発生した場合に、脆性き裂の伝搬を制御、抑制する耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体に関する。具体的には、大型コンテナ船やバルクキャリア等の船舶用溶接構造体の他、建築構造物や土木鋼構造物等、厚板を用いて溶接を適用した溶接構造物の溶接継手において発生する可能性がある、脆性き裂の伝播を制御、抑制して安全性を向上させるための耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大型コンテナ船やバルクキャリア等の船舶用溶接構造体、建築構造物や土木鋼構造物等に代表される溶接構造物においては、脆性き裂等の破壊に対する高い安全性が求められるようになっている。特に、コンテナ船等は大型化が顕著であり、例えば、6000TEU以上の大型コンテナ船が製造されるようになり、船殻外板の鋼板が厚肉化並びに高強度化し、板厚70mm以上で降伏強度390N/mm級以上の鋼板が用いられるようになっている。ここで、TEU(Twenty feet Equivalent Unit)とは、長さ20フィートのコンテナに換算した個数を表し、コンテナ船の積載能力の指標を示している。このようなコンテナ船は、積載能力や荷役効率の向上のため、仕切り壁を無くして上部開口部を大きく確保した構造とされており、特に、船殻外板や内板の強度を確保する必要があるため、上記高強度鋼板が好適に用いられる。
【0003】
上述のような溶接構造物を建造する際、建造コストの低減や建造効率向上を目的として、大入熱溶接(例えば、エレクトロガスアーク溶接等)が広く適用されている。特に、鋼板の板厚が増すほど溶接工数が著しく増加するため、極限まで大入熱で溶接を行なうことが要求される。しかしながら、鋼板の溶接に大入熱溶接を適用した場合、溶接熱影響部(HAZ:Heat Affected Zone)の靭性が低下し、HAZの幅も増大するため、脆性破壊に対する破壊靭性値が低下する傾向にある。
【0004】
このため、溶接継手において脆性き裂が発生するのを抑制するとともに、脆性き裂の伝播停止(アレスト)を達成することを目的として、耐脆性破壊特性に優れたTMCP鋼板(Thermo Mechanical Control Process:熱加工制御)が提案されている。上記TMCP鋼板を用いることにより、脆性破壊発生に対する抵抗値である破壊靭性値が向上するため、通常の使用環境では脆性破壊する可能性は極めて低くなる。しかしながら、地震や構造物同士の衝突の事故や災害等の際に、万が一、脆性破壊が生じると、脆性き裂がHAZを伝播して大きな破壊が生じる虞がある。
【0005】
例えば、コンテナ船等に代表される溶接構造体では、板厚50mm程度のTMCP鋼板等が使用され、万が一、溶接継手で脆性き裂が発生しても、溶接残留応力によって脆性き裂が溶接部から母材側に逸れるので、母材のアレスト性能を確保すれば、脆性き裂を母材で停止できると考えられていた。また、6000TEUを超える大型コンテナ船等、さらに大型の溶接構造体においては、より大きな板厚の鋼板が必要となり、さらに、構造を簡素化するうえで鋼板の厚肉化が有効であることから、設計応力が高い高張力鋼の厚鋼板を用いることが求められていた。しかしながら、このような厚鋼板を用いた場合、HAZの破壊靭性の程度によっては、脆性き裂が母材に逸れること無くHAZに沿って伝播する虞がある。
【0006】
上記問題を解決するため、突合せ溶接継手の一部に補修溶接を施し、HAZに沿って伝播する脆性き裂を母材側に逸らせる構成とされた溶接構造体が提案されている(例えば、特許文献1)。しかしながら、特許文献1の溶接構造体では、母材の破壊靭性が非常に優れている場合には有効であるが、母材の破壊靭性が不充分な場合には、母材側に逸れた脆性き裂が長く伝播し、構造物としての強度が著しく低下する虞がある。また、補修溶接部のボリュームが大きめとなり、工程時間が長くなるとともに、製造コストも増大するという問題がある。
【0007】
また、溶接継手に発生する脆性き裂の伝播を停止させたい領域に、板状のアレスタ材が溶接線と交差するように貫通して溶接され、アレスタ材として、表面や裏面の板厚比2%以上の厚みの表層域における集合組織が適正化されたものを用いる溶接構造体が提案されている(例えば、特許文献2)。しかしながら、特許文献2に記載の溶接構造体を大型建造物に適用した場合、例えば、溶接継手を伝播した脆性き裂が、アレスタ材を鋼板に溶接する溶接継手を伝播してアレスタ材に突入し、そのままアレスタ材の内部を伝播した後、再び溶接継手を伝播する虞がある。一方、溶接継手を伝播した脆性き裂が、アレスタ材及び該アレスタ材を鋼板に溶接する溶接継手の位置で母材側に逸れた場合には、上記同様、母材の破壊靭性が不充分だと脆性き裂が長く伝播し、溶接構造物としての強度が著しく低下するという問題も懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−131708号公報
【特許文献2】特開2007−098441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、例え、溶接継手に脆性き裂が発生した場合であっても、脆性き裂が溶接継手や母材を伝播するのが抑制でき、溶接構造体の破断を防止することが可能な、耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、溶接構造体の溶接継手に脆性き裂が発生した場合に、脆性き裂が溶接継手や母材を伝播するのを防止するため、鋼板間の溶接継手上に設けるアレスタ材や、アレスタ材と鋼板とを溶接する溶接継手について鋭意研究した。この結果、アレスタ材の形状並びに鋼材特性を適正化することにより、溶接継手及び母材における脆性き裂の伝播を抑制し、溶接構造体に大規模な破壊が発生するのを未然防止できることを見出し、本発明を完成した。
即ち、本発明の要旨は、特許請求の範囲に記載した以下の内容に関する。
【0011】
[1] 鋼板同士を突合せ溶接することで鋼板溶接継手が形成されてなる耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体であって、該鋼板溶接継手の少なくとも一部に、前記鋼板を貫通するように設けられ、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼材からなるアレスタ材と、該アレスタ材が前記鋼板に対して突合せ溶接されることで形成されるアレスタ溶接継手とからなる耐き裂制御部が備えられており、前記アレスタ材は、前記鋼板溶接継手の溶接線上から延在する外縁部が、前記鋼板溶接継手の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交するように形成されていること、を特徴とする耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
【0012】
[2] 前記アレスタ材は、前記鋼板溶接継手の長手方向に沿った高さH、前記鋼板溶接継手の長手方向と交差する方向における横幅W、及び板厚tの各々の寸法が、下記(1)〜(3)式で表される関係を満足すること、を特徴とする上記[1]に記載の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
2T ≦ H ・・・・・ (1)
3.2d+50 ≦ W ・・・・・ (2)
0.90T ≦ t ・・・・・ (3)
{但し、上記(1)〜(3)式中において、Tは前記鋼板の板厚を表し、dは前記鋼板溶接継手における溶接金属部の幅を表す}
[3] 前記アレスタ溶接継手をなす溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS3(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS1(℃)との関係が、次式{vTrS3(℃)≦vTrS1(℃)+20(℃)}で表される関係を満たすこと、を特徴とする上記[1]又は[2]に記載の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
[4] 前記鋼板の板厚が25mm以上150mm以下であること、を特徴とする上記[1]〜[3]の何れか1項に記載の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
【0013】
[5] 前記鋼板は、前記鋼板溶接継手の長手方向で配列される少なくとも2以上の小鋼板からなるとともに、前記小鋼板同士を突合せ溶接することで小鋼板溶接継手が形成されており、前記小鋼板溶接継手は、前記鋼板溶接継手の長手方向で、前記アレスタ材の前記溶接線上における前記上縁部の頂部と反対側の下縁部側に形成される前記アレスタ溶接継手に接して設けられること、を特徴とする上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
[6] 前記鋼板は、前記鋼板溶接継手の長手方向で配列される少なくとも2以上の小鋼板からなるとともに、前記小鋼板同士を突合せ溶接することで小鋼板溶接継手が形成されており、前記小鋼板溶接継手は、前記鋼板溶接継手の長手方向で、前記アレスタ材の前記溶接線上における前記上縁部の頂部と反対側の下縁部側に形成される前記アレスタ溶接継手を含むとともに、前記小鋼板溶接継手をなす溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS4(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS1(℃)との関係が、次式{vTrS4(℃)≦vTrS1(℃)+20(℃)}で表される関係を満たすこと、を特徴とする上記[1]〜[4]の何れか1項に記載の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
【0014】
なお、本発明で規定する脆性き裂伝播停止特性Kcaは、当該溶接構造体が使用される温度、あるいは設計温度における数値である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体によれば、鋼板同士を突合せ溶接することで鋼板溶接継手が形成され、該鋼板溶接継手上に、鋼板を貫通するように設けられ、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼材からなるアレスタ材と、該アレスタ材が鋼板に対して突合せ溶接されることで形成されるアレスタ溶接継手とからなる耐き裂制御部が備えられており、アレスタ材は、鋼板溶接継手の溶接線上から延在する外縁部が、鋼板溶接継手の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交するように形成されてなる構成なので、例え、溶接継手に脆性き裂が発生した場合であっても、脆性き裂が溶接継手や母材を伝播するのが抑制できる。従って、大規模な破壊が発生するのを未然防止することが可能な溶接構造体を、高い生産効率及び低コストで得ることができる。このような本発明に係る溶接構造体が、大型船舶をはじめ、建築構造物や土木鋼構造物等の各種溶接構造物に使用されることで、溶接構造物の大型化、破壊に対する高い安全性、建造における溶接の高能率化、鋼材の経済性等々が同時に満たされことから、その産業上の効果は計り知れない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体の一例を説明する模式図であり、鋼板同士が溶接されて形成された鋼板溶接継手の一部に、アレスタ材及びアレスタ溶接継手からなる耐き裂制御部が設けられた状態を示す平面図である。
【図2】本発明に係る耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体の一例を説明する模式図であり、図1に示す溶接構造体のき裂伝播特性を説明する要部拡大図である。
【図3】本発明に係る耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体の一例を説明する模式図であり、本発明に係る溶接構造体を船舶用溶接構造体に適用した場合について説明する概略図である。
【図4】本発明に係る耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体の他の例を説明する模式図である。
【図5】本発明に係る耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体の他の例を説明する模式図である。
【図6】本発明に係る耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体の実施例について説明する模式概略図である。
【図7】本発明に係る耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体の実施例について説明する模式概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体の実施の形態について図面を適宜参照しながら詳細に説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために詳細に説明するものであるから、特に指定の無い限り、本発明を限定するものではない。
【0018】
図1〜図4は、本発明に係る耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体(以下、単に溶接構造体と略称することがある)を説明する模式図である。図1は本発明の第1の実施形態である溶接構造体Aを示す平面図であり、図2は図1に示す溶接構造体Aのき裂伝播特性を説明する要部拡大図である。また、図3は本発明に係る溶接構造体を船舶用溶接構造体に適用した場合について説明する概略図であり、図4は本発明に係る溶接構造体の第2の実施形態について説明する平面図、図5は第3の実施形態について説明する平面図である。なお、以下の説明において参照する図面は、本発明に係る溶接構造体を説明する図面であって、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の溶接構造体等の寸法関係とは異なる場合がある。
【0019】
[第1の実施形態]
以下、本発明の第1の実施形態である溶接構造体Aについて詳述する。
本実施形態の溶接構造体Aは、図1(図2も参照)に示すように、鋼板1同士を突合せ溶接することで鋼板溶接継手2が形成されてなり、該鋼板溶接継手2の少なくとも一部に、鋼板1を貫通するように設けられ、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼材からなるアレスタ材5と、該アレスタ材5が鋼板1に対して突合せ溶接されることで形成されるアレスタ溶接継手6とからなる耐き裂制御部4が備えられており、アレスタ材5は、鋼板溶接継手2の溶接線L上から延在する外縁部50(51、52)が、鋼板溶接継手2の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交するように形成されてなり、概略構成される。また、図1に示す例の溶接構造体Aは、アレスタ材5が、外縁部51、52の鋼板溶接継手2の長手方向に対する角度が90°とされることで、外縁部51、52が鋼板溶接継手2に対して共に直交し、平面視略四角形の長方形に形成されている。
【0020】
『鋼板』
鋼板1としては、船舶用溶接構造体、建築構造物及び土木鋼構造物等の分野において従来公知の鋼板特性を備えるものを、何ら制限無く用いることができ、その化学成分組成や金属組織等については限定されない。
また、鋼板1としては、以下に説明する化学成分組成とされたものを用いることが、鋼板1を用いて形成される鋼板溶接継手2の耐脆性き裂発生性能が得られる点からより好ましい。なお、以下の説明における各元素の「%」は、特に説明が無い限り、「質量%」を表すものとある。
【0021】
「C:炭素」(0.01〜0.18%)
Cは、鋼板の強度向上のために重要かつ最も基本的な元素であり、この効果を得るためには0.01%以上を添加することが好ましい。しかしながら、0.18%を超えてCを添加すると、鋼材の溶接性や靱性の低下を招くので、その上限を0.18%とした。
【0022】
「Si:ケイ素」(0.01〜0.5 %)
Siは、鋼板の脱酸作用を促進する元素であり、通常0.01%以上を添加するが、強力な脱酸元素であるAlが充分に添加されている場合には不要である。また、0.5%を超えてSiを添加すると、溶接による鋼材の熱影響部の靱性を低下させるので0.5%を上限とする。
【0023】
「Mn:マンガン」(0.6〜2.5%)
Mnは、経済的に強度を確保するために0.6 %以上を添加することが好ましい。しかしながら、2.5%を超えてMnを添加すると、溶接による鋼材の熱影響部の靱性を著しく阻害するため、その範囲を0.6〜2.5 %とした。
【0024】
「P:リン」(0.01%以下)
Pは、不純物元素であるので、良好な脆性き裂伝播停止特性や大入熱溶接熱影響部の靭性を安定的に確保するためには、その含有量を0.01%以下に制限することが好ましい。
【0025】
「S:硫黄」(0.001〜0.02%)
Sは、0.02%を超えて過剰に添加されると粗大な硫化物の生成の原因となり靱性を阻害するため、その含有される上限を0.02%とした。しかしながら、大入熱溶接熱影響部でのピン止め効果を得るため、Sを0.001 %以上で添加することが好ましい。
【0026】
なお、鋼板には、上記元素に加え、さらに、以下に説明するような元素を選択的に添加することにより、鋼板特性をより向上させることが可能となる。また、以下に説明する選択的添加元素においては、その含有量の上限及び下限について特に限定するものではないが、下記範囲で添加することにより、より効果を発揮しやすい。
【0027】
「B:ボロン(ホウ素)」(0.0001〜0.005%)
Bは、Moとの複合効果によって焼入性を高め、強度を効果的に高める元素であり、このような効果を得るためには0.0001%以上の添加が好ましい。しかしながら、Bの過剰の添加は靱性の低下を招くため、その上限を0.005%とした。
【0028】
「Mo:モリブデン」(0.01〜1.0%)
Moは、上述したように、Bとの複合効果によって焼入性を高め、強度を効果的に高める元素であり、このような効果を得るためには0.01%以上の添加が好ましい。しかしながら、1.0%を超えた多量のMoの添加は、必要以上の鋼板の強化とともに、靱性の著しい劣化をもたらすため、その範囲を0.01〜1.0%とした。
【0029】
「Al:アルミニウム」(0.005〜0.1%)
Alは、脱酸を担い、O(酸素)を低減して鋼の清浄度を高めるために必要な元素である。また、Al以外のSi、Ti、Ca、Mg等の元素も脱酸作用があるが、例え、これらの元素が添加される場合でも、安定的にOを低減するためには、0.005%以上でAlが添加されていることが好ましい。但し、Alの含有量が0.1%を超えると、アルミナ系粗大酸化物がクラスター化する傾向を強め、製鋼設備のノズル詰まりが生じたり、破壊起点としての有害性が顕在化したりする虞があるため、これを上限とすることが好ましい。
【0030】
「Ti:チタン」(0.003〜0.05%)
Tiは、微量の添加で結晶粒の微細化に有効であり、0.003%以上添加する。しかしながら、Tiを0.05%超で添加すると、溶接による鋼板の熱影響部靭性を劣化させるため、上限を0.05%とした。
【0031】
「Ca:カルシウム」(0.0001〜0.003%)
Caは、鋼中で酸化物を形成しオーステナイト粒の成長を抑制する作用があることから添加するが、0.003%を超えて添加すると、粗大な酸化物が生成し易くなり、母材、及び、溶接による鋼板の熱影響部靱性の低下をもたらす。しかしながら、0.0001%未満のCaの添加では、ピニング粒子として必要な酸化物の生成が充分に期待できなくなるため、その添加範囲を0.0001〜0.003%に限定した。
【0032】
「Mg:マグネシウム」(0.0001〜0.005%)
Mgは、鋼中で複合酸化物を形成し、旧オーステナイト粒の成長を抑制することから添加するが、0.0001%未満の添加ではピニング粒子として必要な酸化物の生成が十分に期待できなくなるため、下限を0.0001%とした。また、0.005%を超えてMgを添加すると、粗大な酸化物が生成し易くなり、母材、及び、溶接による鋼板の熱影響部靱性の低下をもたらす。よって、その添加範囲を0.0001〜0.004%に限定した。
【0033】
「V:バナジウム」(0.001〜0.18%)
Vは、母材を強化しつつ、大入熱溶接熱影響部の靭性を高める有効な元素である。また、Vは、炭化物、窒化物を形成して強度の向上効果がある元素であるが、0.001%未満の添加ではその効果がなく、0.18%を超える添加では、逆に靱性の低下を招くため、その範囲を0.001〜0.18%とした。
【0034】
「Ni:ニッケル」(0.01〜5.5%)
Niは、靭性の劣化を抑えて強度を確保するために有効であり、このような効果を得るためには0.01%以上で添加することが好ましい。しかしながら、Niはコストが非常に高いという問題があるので、5.5%未満に抑制することが好ましく、また、上記範囲内において、極力低い含有量とすることがより好ましい。
【0035】
「Nb:ニオブ」(0.005〜0.05%)
Nbは、仕上圧延における未再結晶域圧延を促すために有効であり、このような作用を得るためには0.005%以上添加することが好ましい。また、0.05%を超えてNbを添加すると靱性の低下を招くため、その範囲を0.005〜0.05%とする。
【0036】
「Cu:銅」(0.01〜3.0%)
Cuは、強度を確保するために有効であり、0.01%以上の添加量で効果を発揮する。一方、Cuは、大入熱溶接熱影響部の靭性を劣化させる作用も持ち合わせ、1.0%を超えると鋼材製造時の加熱時に割れが生じる可能性があることから、その含有量は、3.0%を上限とすることが好ましい。
【0037】
「Cr:クロム」(0.01〜1.0%)
Crは、強度を確保するために有効であり、0.01%以上の添加量で効果を発揮する。一方、Crは、大入熱溶接熱影響部の靭性を劣化させる作用も持ち合わせることから、その含有量は、1.0%を上限とすることが好ましい。
【0038】
「REM:希土類元素」(0.0005〜0.05%)
REMは、硫化物を生成することによって伸長MnSの生成を抑制し、鋼材の板厚方向の特性、特に。耐ラメラティア性を改善する効果がある。このような効果は、0.0005%未満のREMの添加では得られないので、これを下限値にする。また、0.05%を超えてREMを添加すると、粗大な酸化物個数が増加し、超微細なMg含有酸化物の個数が低下するため、その上限を0.05%とした。
【0039】
図1に示すように、本実施形態の溶接構造体Aでは、上記構成とされた鋼板1同士が突合せ溶接されることにより、鋼板溶接継手2が形成される。また、この鋼板溶接継手2によって接合される鋼板1の各々には、詳細を後述するアレスタ材5を貫通させて設けるための貫通孔3が、鋼板溶接継手2の溶接線Lを中心として、鋼板1の各々において対称となるように設けられている。
【0040】
鋼板1の板厚は、25mm以上150mm以下の範囲とすることが好ましい。鋼板1の板厚がこの範囲であれば、溶接構造体としての鋼板強度を確保することができるとともに、詳細を後述するように、優れた耐脆性き裂伝播性を得ることが可能となる。
【0041】
『アレスタ材』
アレスタ材5は、図1及び図2に示すように、鋼板溶接継手2によって接合される鋼板1の各々に貫通して形成された貫通孔3の内部に、鋼板溶接継手2の溶接線Lを中心として鋼板1の各々において対称となるように、鋼板1を貫通するように設けられる。また、アレスタ材5は、鋼板1に形成された貫通孔3内に露出する溶接端に対して突合せ溶接されることで形成されるアレスタ溶接継手6とともに、耐き裂制御部4を構成する。
アレスタ材5は、上述したような耐き裂制御部4を構成することにより、仮に、鋼板溶接継手2にき裂が生じた場合でも該き裂の伝播方向を制御し、鋼板溶接継手2を貫くようにき裂が伝播して互いに溶接された鋼板1同士が分断するのを防止するものである。
【0042】
本実施形態で用いられるアレスタ材5は、脆性き裂伝播停止特性Kca=6000N/mm1.5以上の鋼材から構成される。また、図1に示す例のアレスタ材5は、頂部5aから延在する外縁部51、52が、鋼板溶接継手2の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交するように形成されている。また、図示例のアレスタ材5は、外縁部51、52の鋼板溶接継手2の長手方向に対する角度が90°とされることで、外縁部51、52が鋼板溶接継手2に対して共に直交し、直線状に連なって形成されている。そして、外縁部51、52の後端51a、52aに横縁部53、54が各々連なるように形成されるとともに、これら横縁部53、54の他端側には下縁部55が形成され、平面視略四角形の長方形に構成されている。
【0043】
アレスタ材5は、上述のように、鋼板溶接継手2の溶接線L上に配された頂部5aから延在する外縁部51、52が、鋼板溶接継手2の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交することが好ましい。外縁部51、52の鋼板溶接継手2の長手方向に対する角度を上記範囲とし、外縁部51、52が鋼板溶接継手2に対して傾斜又は直交するように形成することにより、仮に、鋼板溶接継手2を伝播する脆性き裂が生じた場合でも、このき裂を確実にアレスタ材5に導入して脆性き裂を効果的に停止させ、溶接構造体Aに大規模な破壊が生じるのを防止することができる。
【0044】
鋼板溶接継手の長手方向に対するアレスタ材の外縁部の角度が60°未満だと、鋼板溶接継手を伝播した脆性き裂が鋼板の母材側に逸れてしまい、アレスタ材に脆性き裂を導入するように制御するのが困難になる可能性がある。このため、鋼板溶接継手を伝播した脆性き裂がアレスタ溶接継手に沿って進行し、き裂の伝播が停止し難くなる虞がある。
また、鋼板溶接継手の長手方向に対するアレスタ材の外縁部の角度が120°を超えても、上記同様、脆性き裂がアレスタ材に突入することなくアレスタ溶接継手に沿って進行し、き裂の伝播が停止し難くなる虞がある。
【0045】
アレスタ材5の材質としては、上述のような脆性き裂伝播停止特性Kca=6000N/mm1.5以上の特性を有する鋼板であれば、その化学成分組成や製造方法、組織等は特に限定されず、適宜採用することが可能である。このような鋼板を用いることにより、仮に鋼板溶接継手2にき裂が生じた場合であっても、このき裂の伝播方向を効果的に逸らして制御することが可能となる。
【0046】
本実施形態の溶接構造体Aに用いられるアレスタ材5は、鋼板溶接継手2の長手方向に沿った高さH、鋼板溶接継手2の長手方向と交差する方向における横幅W、及び板厚tの各々の寸法が、下記(1)〜(3)式で表される関係を満足することがより好ましい。
2T ≦ H ・・・・・ (1)
3d+50 ≦ W ・・・・・ (2)
0.90T ≦ t ・・・・・ (3)
但し、上記(1)〜(3)式中において、Tは前記鋼板の板厚を表し、dは前記鋼板溶接継手における溶接金属部の幅を表す。
【0047】
アレスタ材5の各寸法値を上記関係とすることにより、仮に、鋼板溶接継手2にき裂が生じた場合であっても、き裂の伝播をアレスタ材5に導入し、このアレスタ材5でき裂を停止させることが可能となる。アレスタ材の各寸法値の関係が、上記(1)〜(3)式で表される関係を満たさない場合、鋼板溶接継手に生じたき裂の状態によっては、このき裂がアレスタ材から逸れてしまい、鋼板の母材特性によっては、脆性き裂を停止できない可能性がある。
【0048】
またさらに、本実施形態の溶接構造体Aにおいては、アレスタ溶接継手6をなす溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS3(℃)と、鋼板1の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS1(℃)との関係が、次式{vTrS3(℃)≦vTrS1(℃)+20(℃)}で表される関係を満たすことがより好ましい。アレスタ溶接継手6をなす溶接金属部の靱性と鋼板1の母材靱性との関係が上記関係式を満たすことにより、仮に、鋼板溶接継手2にき裂が生じた場合であっても、き裂の伝播方向をアレスタ材5内部へ効果的に導入することが可能となる。この場合、アレスタ溶接継手6をなす溶接金属の靱性を低くすることで、耐き裂制御部4により、鋼板溶接継手2で発生した脆性き裂の伝播方向を確実にアレスタ材5へ導入する作用が効果的に得られる。
アレスタ溶接継手をなす溶接金属部の靱性と鋼板の母材靱性との関係が上記関係式を満たさない場合、鋼板溶接継手に生じたき裂の状態によっては、このき裂が母材側に逸れ、アレスタ材によるき裂停止効果が得られなくなる可能性があり、鋼板の母材特性によっては、脆性き裂を停止できない可能性がある。
【0049】
なお、本発明に係る溶接構造体では、アレスタ材5の形状は、図1等に示す例には限定されず、アレスタ材5の頂部5aから延在する外縁部51、52が、鋼板溶接継手2の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲内の角度であれば、所定の効果を発揮することが可能であり、適宜採用することが可能である。
【0050】
また、本実施形態では、アレスタ材5を1枚のみ用いて鋼板1に溶接した構成を説明しているが、これには限定されず、例えば、2枚以上のアレスタ材を積層して使用することもでき、適宜採用することが可能である。
【0051】
『脆性き裂の伝播方向の制御』
上記構成とされた本実施形態の溶接構造体Aにおいて、仮に、鋼板溶接継手2に脆性き裂が発生した場合の、き裂伝播方向の制御作用について、以下に説明する。
【0052】
従来、鋼板溶接継手において発生した脆性き裂は、主として、鋼板溶接継手の長手方向を伝播する。このため、鋼板溶接継手に生じた脆性き裂が起点となり、溶接構造体全体に大きな破壊が生じる虞があるという問題があった。
本発明者等は、上述のような脆性き裂の伝播方向を効果的に制御し、溶接構造体においてき裂が伝播するのを抑制するためには、アレスタ材の形状並びに鋼材特性を適正化することが重要であることを知見した。そして、まず、鋼板1同士を突合せ溶接することで形成された鋼板溶接継手2の少なくとも一部に、アレスタ材5と、該アレスタ材5が鋼板1に対して突合せ溶接されることで形成されるアレスタ溶接継手6とからなる耐き裂制御部4を設けることで、き裂の伝播を抑制できることを見出した。これに加え、さらに、アレスタ材5を、鋼板溶接継手2の溶接線L上から延在する外縁部51、52が、鋼板溶接継手2の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交するように構成することで、鋼板溶接継手2を伝播するき裂を確実にアレスタ材に導入させ、き裂の伝播を効果的に停止可能なことを見出した。
【0053】
図2に示すように、鋼板溶接継手2の長手方向の一方側(図2における縦長方向の上側)で発生した脆性き裂は、鋼板溶接継手2における長手方向の他方側(図2における縦長方向の下側)に向かって伝播を開始する(図2中の二点鎖線矢印を参照)。この際、本実施形態の溶接構造体Aでは、鋼板溶接継手2を長手方向で伝播した脆性き裂が、耐き裂制御部4をなすアレスタ溶接継手6に突入し、さらに、アレスタ材5に突入する。ここで、アレスタ材5は、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上とされているので、突入したき裂を効果的に停止させることが可能となる。
【0054】
上記作用により、本実施形態の溶接構造体Aは、例え、鋼板溶接継手2において脆性き裂が発生した場合であっても、脆性き裂が溶接継手や母材を広範囲で伝播するのを抑制できるので、大規模な破壊が発生するのを未然防止することが可能となる。このような本実施形態の溶接構造体Aを、例えば、大型船舶や建築構造物、土木鋼構造物等の各種溶接構造物に適用することで、溶接構造物の大型化、破壊に対する高い安全性、建造における溶接の高能率化、鋼材の経済性等々を同時に満たすことが可能となる。
【0055】
『製造方法』
以下に、上述したような本実施形態の耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体Aを製造する方法の一例について説明する。
本実施形態の溶接構造体Aを製造する方法としては、鋼板1同士を突合せ溶接することで鋼板溶接継手2を形成するにあたり、鋼板溶接継手2の少なくとも一部に、鋼板1を貫通するように、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼材からなるアレスタ材5を設け、次いで、アレスタ材5を鋼板1に対して突合せ溶接してアレスタ溶接継手6を形成することにより、アレスタ材5とアレスタ溶接継手6とからなる耐き裂制御部4を形成する工程を備え、この耐き裂制御部4を形成する工程を、アレスタ材5を、鋼板溶接継手2の溶接線L上から延在する外縁部51、52が鋼板溶接継手2の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交するように形成して鋼板1に貫通するように設ける方法とすることができる。
【0056】
本実施形態の溶接構造体Aの製造方法では、まず、鋼材からなる鋳塊を製造した後、この鋳塊に各種圧延や熱処理等を施すことにより、所定の厚さ、例えば、25mm以上150mm以下の範囲の鋼板1を製造する。
【0057】
次に、図1及び図2の模式図に示すように、上述した耐き裂制御部を形成する工程において、鋼板1同士を溶接し、鋼板溶接継手2を形成して鋼板1同士を接合する。
具体的には、鋼板1の溶接端11、12に開口するように、貫通孔3(3a、3b)を形成する。次いで、貫通孔3a、3bの各々が、溶接線Lを中心として鋼板1の各々において対称の貫通孔3を形成するように、各々の鋼板1の溶接端11、12を突合せ溶接することにより、この位置に鋼板溶接継手2を形成する。これにより、鋼板1同士が、鋼板溶接継手2によって接合された状態となる。
【0058】
次いで、アレスタ材5を、鋼板1を貫通するように、貫通孔3の内部に挿入する。次いで、アレスタ材5の外縁部51、52、横縁部53、54、並びに下縁部55を、鋼板1において貫通孔3によって露出した溶接端に対して着き合わせ溶接することでアレスタ溶接継手6を形成することにより、アレスタ材5と鋼板1とを接合する。このような手順により、鋼板溶接継手2の溶接線Lを中心として鋼板1の各々において対称となるように、アレスタ材5とアレスタ溶接継手6とからなる耐き裂制御部4を形成する。
【0059】
本実施形態では、耐き裂制御部を形成する工程において、アレスタ材5を、鋼板溶接継手2の溶接線L上から延在する外縁部51、52が鋼板溶接継手2の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交するように形成して鋼板1に貫通するように設ける。本実施形態で説明する例では、図1等に示すように、アレスタ材5を平面視略四角形の長方形とし、上縁部51、52が鋼板溶接継手2の溶接線Lに対して概ね90°の角度で直交するように形成する。
【0060】
本実施形態の製造方法においては、上述のように、鋼板1同士、並びに、鋼板1とアレスタ材5とを突合せ溶接する際の溶接方法及び溶接材料については、特に限定されない。
また、脆性き裂伝播を可能な限り抑制し、さらに、鋼板溶接継手2及びアレスタ溶接継手6において新たな疲労き裂や脆性き裂の起点が生じるのを防止するため、各溶接継手を、溶接欠陥の無いように、溶接金属で完全に充填することが好ましい。
【0061】
上記手順により、図1に示すような、本実施形態の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体Aを製造することができる。
【0062】
『溶接構造体を適用した船舶構造体の一例』
上述した本実施形態の溶接構造体Aを適用した船舶構造体の一例を図3の概略図に示す。
図3に示すように、船舶構造体70は、骨材(補強材)71、デッキプレート(水平部材)72、船殻内板(垂直部材)73、船殻外板74を備えて概略構成される。また、図示例の船舶構造体70は、船殻内板73をなす複数の鋼板1同士を突合せ溶接することで形成される鋼板溶接継手(図3中では図示略)の長手方向の一部に耐き裂制御部4が設けられることで、本実施形態の溶接構造体Aを具備する構造とされている。
上記構成の船舶構造体70によれば、本実施形態の溶接構造体Aの構成を適用することにより、例え、鋼板溶接継手を伝播する脆性き裂が発生した場合であっても、耐き裂制御部4により、き裂の伝播方向を効果的に制御できる。これにより、鋼板溶接継手に生じた脆性き裂を安定的に停止させることができ、船殻内板73、ひいては船舶構造体70に大規模な破壊が生じるのを防止することが可能となる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体Aによれば、鋼板1同士を突合せ溶接することで鋼板溶接継手2が形成され、該鋼板溶接継手2上に、鋼板1を貫通するように設けられ、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼材からなるアレスタ材5と、該アレスタ材5が鋼板1に対して突合せ溶接されることで形成されるアレスタ溶接継手6とからなる耐き裂制御部4が備えられており、アレスタ材5は、鋼板溶接継手2の溶接線L上から延在する外縁部50(51、52)が、鋼板溶接継手2の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交するように形成されてなる構成なので、例え、溶接継手に脆性き裂が発生した場合であっても、脆性き裂が溶接継手や母材を伝播するのが抑制できる。従って、大規模な破壊が発生するのを未然防止することが可能な溶接構造体を、高い生産効率及び低コストで得ることができる。このような本発明に係る溶接構造体が、大型船舶をはじめ、建築構造物や土木鋼構造物等の各種溶接構造物に使用されることで、溶接構造物の大型化、破壊に対する高い安全性、建造における溶接の高能率化、鋼材の経済性等々が同時に満たされことから、その産業上の効果は計り知れない。
【0064】
[第2の実施形態]
以下、本発明の第2の実施形態である溶接構造体Bについて、主に図4を参照しながら詳述する。なお、以下の説明において、上述の第1の実施形態の溶接構造体Aと共通する構成については、同じ符号を付与するとともに、その詳細な説明を省略する。
【0065】
本実施形態の溶接構造体Bは、図4に示すように、鋼板10が、鋼板溶接継手20の長手方向で配列される少なくとも2以上の小鋼板(図4中の符号21〜24を参照)からなるとともに、この小鋼板同士を突合せ溶接することで小鋼板溶接継手25、26が形成されており、この小鋼板溶接継手25、26が、鋼板溶接継手20の長手方向で、アレスタ材5の溶接線L上における上縁部51、52の頂部5aと反対側の下縁部55側に形成されるアレスタ溶接継手6に接して設けられる点で、上述の第1の実施形態の溶接構造体Aとは異なる。また、図4に示す例においては、図示の都合上、小鋼板として4枚の小鋼板21〜24を示し、小鋼板21と小鋼板22とが小鋼板溶接継手25で接合され、小鋼板23と小鋼板24とが小鋼板溶接継手26で接合されている。
【0066】
溶接構造体Bによれば、上述の溶接構造体Aと同様、鋼板溶接継手20に脆性き裂が発生した場合でも、この脆性き裂を、アレスタ溶接継手6を介してアレスタ材5に確実に突入させることができる(図4中の二点鎖線矢印を参照)。そして、アレスタ材5に突入した脆性き裂は、アレスタ材5内で確実に停止するので、鋼板溶接継手20が破断せず、また、溶接構造体Bに大規模な破壊が生じるのを防止することが可能となる。
【0067】
[第3の実施形態]
以下、本発明の第3の実施形態である溶接構造体Cについて、主に図5を参照しながら詳述する。なお、以下の説明において、上述の第1及び第2の実施形態の溶接構造体A、Bと共通する構成については、同じ符号を付与するとともに、その詳細な説明を省略する。
【0068】
本実施形態の溶接構造体Cは、図5に示すように、鋼板10Aが、鋼板溶接継手20Aの長手方向で配列される少なくとも2以上の小鋼板(図5中の符号31〜34を参照)からなるとともに、この小鋼板同士を突合せ溶接することで小鋼板溶接継手35、36が形成されている。また、溶接構造体Dは、図示例のように、小鋼板溶接継手35、36が、鋼板溶接継手2の長手方向で、アレスタ材5の溶接線L上における上縁部51、52の頂部5aと反対側の下縁部55側に形成されるアレスタ溶接継手6を含む構成である。
また、図示例の溶接構造体Cは、小鋼板溶接継手35、36が連なって直線状に形成されている。
【0069】
溶接構造体Cによれば、上述の溶接構造体A、Bと同様、鋼板溶接継手20Aに脆性き裂が発生した場合でも、アレスタ材5の上縁部51、52に沿って形成されるアレスタ溶接継手60を介して、脆性き裂を確実にアレスタ材5に突入させることができる(図5中の二点鎖線矢印を参照)。
そして、アレスタ材5に突入した脆性き裂は、脆性き裂伝播停止特性Kcaの高い鋼材からなるアレスタ材5において直ちに停止するので、溶接構造体Cに大規模な破壊が生じるのを防止することが可能となる。
【0070】
また、溶接構造体Cにおいては、小鋼板溶接継手35、36をなす溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS4(℃)と、鋼板10Aの母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS1(℃)との関係が、次式{vTrS4(℃)≦vTrS1(℃)+20(℃)}で表される関係を満たす構成とされている。これにより、例えば、図5中における下側の方向から脆性き裂が溶接継手20Aを伝播してきた場合でも、この脆性き裂が溶接継手35又は溶接継手36を伝播してアレスタ材5に突入し易くなるので、このアレスタ材5によって脆性き裂を停止させることが可能となる。
【実施例】
【0071】
以下、本発明に係る耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体の実施例を挙げ、本発明をより具体的に説明するが、本発明は、もとより下記実施例に限定されるものではなく、前、後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0072】
[溶接構造体の製造]
まず、製鋼工程において溶鋼の脱酸・脱硫と化学成分を制御し、連続鋳造によって下記表1に示す化学成分の鋳塊を作製した。そして、日本海事協会(NK)規格船体用圧延鋼材KA32、KA36、KA40の規格に準じた製造条件で、前記鋳塊を再加熱して厚板圧延することで鋼板を製造した。さらに、この鋼板に対して各種熱処理を施すとともに、この際の条件を制御することにより、母材の脆性き裂伝播停止特性Kca(N/mm1.5)を、下記表1に示す形態で適宜調整した。なお、製造した鋼板から、試験片のサイズが500mm×500mm×板厚のESSO試験(脆性き裂伝播停止試験)片を適宜採取し、−10℃におけるKca特性を評価・確認した。
【0073】
次に、図7(a)に示すように、鋼板1の溶接端11、12に開口するように、貫通孔3a、3bを形成した。そして、貫通孔3a、3bの各々が溶接線Lを中心として対称の貫通孔3を形成するように、各々の鋼板1の溶接端11、12を突合せ溶接し、鋼板溶接継手2を形成することにより、鋼板1同士を接合した。
【0074】
次に、下記表2に示す鋼特性及び形状とされた鋼板からなるアレスタ材5を、鋼板1を貫通するように貫通孔3の内部に挿入した。そして、アレスタ材5の外縁部51、52、横縁部53、54並びに下縁部55を、鋼板1において貫通孔3によって露出した溶接端に対して着き合わせ溶接してアレスタ材溶接継手6を形成することで、アレスタ材5と鋼板1とを接合した。以上の手順により、鋼板溶接継手2の溶接線Lを中心として鋼板1の各々において対称となるように、アレスタ材5とアレスタ材溶接継手6とからなる耐き裂制御部4を形成した。
【0075】
また、図8(b)、(c)に示すように、下縁部の位置が、鋼板1の下端から中心位置で1500mmとなる場所にアレスタ材5を配した。また、図7(b)に示すように、アレスタ材5の上縁部51、52、横縁部53、54及び下縁部55、並びに、鋼板1の貫通孔3内に露出する溶接端には、板厚方向中心を頂点として130°(水平ラインに対して25°)となるように面取り処理を施した。また、アレスタ材5の各縁部と、鋼板1の貫通孔3内に露出する溶接端との間は、前記頂点において約3mmのクリアランスを持たせた状態として溶接処理を行なった。
【0076】
なお、上記手順における鋼板1同士の突合せ溶接、及び、鋼板1とアレスタ材5との突合せ溶接は、炭酸ガスアーク溶接(CO溶接)によって行なうとともに、この際の溶接材料として、高Ni成分とされた溶接ワイヤを用いた。また、各溶接継手の形成箇所においては、新たなき裂の起点が生じるのを防止するため、各溶接継手を溶接金属で完全に充填するように溶接処理を行なった。その後、各溶接継手を冷却することにより、図1に示すような溶接構造体(本発明例、実験例)を製造した。
また、上記同様、各鋼板及びアレスタ材を接合することにより、図4〜図6に示すような溶接構造体(本発明例、実験例)を製造した。
【0077】
[評価試験]
上記手順によって製造した溶接構造体について、以下のような評価試験を行った。
まず、図8(a)に示すような試験装置90を準備するとともに、上記手順で作製した溶接構造体のサンプルの各々を適宜調整し、試験装置90に取り付けた。ここで、図8(b)、(c)中に示す鋼板溶接継手2に設けたき裂発生部である窓枠81は、楔をあてがって所定の応力を印加することで強制的に脆性き裂を発生させるためのものであり、切欠き状の先端部は0.2mm幅のスリット加工を施したものである。
次いで、鋼板溶接継手2の溶接線Lと垂直方向に262N/mmの引張応力を付与することにより、鋼板溶接継手2に脆性き裂を発生させた。そして、この脆性き裂を、鋼板溶接継手2の溶接線L上で伝播させることにより、溶接構造体の耐脆性き裂伝播性を評価した。この際の雰囲気温度は−10℃とした。
そして、鋼板溶接継手2を伝播した脆性き裂が、耐き裂制御部4をなすアレスタ溶接継手6に到達した後、その脆性き裂が伝播する方向及び停止位置を確認し、以下に示す4段階(◎〜×)で評価し、下記表2に示した。
(1)「◎」…脆性き裂がアレスタ溶接継手に到達した後、アレスタ材に突入し、直ちに停止した。
(2)「△」…脆性き裂がアレスタ溶接継手に到達した後、このアレスタ溶接継手に沿って伝播し、次いで再び鋼板溶接継手に戻り、鋼板溶接継手を伝播した。
(3)「×」…脆性き裂がアレスタ溶接継手に到達した後、このアレスタ溶接継手に進入し、さらにアレスタ材を貫通した後、そのまま鋼板溶接継手を伝播した。
【0078】
本実施例で用いた鋼板の化学成分組成、鋼板製造条件及び母材の脆性き裂伝播停止特性Kca(N/mm1.5)の一覧を表1に示すとともに、アレスタ材5の鋼板特性及び形状、アレスタ溶接継手6を形成する際の溶接条件、鋼板1を突合せ溶接して鋼板溶接継手2を形成する際の溶接条件、及び、脆性き裂の伝播の評価結果の一覧を表2に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
【表2】

【0081】
[評価結果]
表2に示す本発明例1〜8は上述した本発明の第1の実施形態の溶接構造体Aに関する例であり、本発明例9〜11は本発明の第2の実施形態の溶接構造体B、本発明例12、13は第3の実施形態の溶接構造体Cに関する例である。また、表2に示す実験例1〜4は、図2に示す溶接構造体Aと同様の構造を有する例であり、実験例5〜7は、図4に示す溶接構造体Bと同様の構造を有する例である。
【0082】
なお、上記各例において、本発明例1、2、4、6、8、11〜13、並びに実験例1〜5は、何れも、図2に示すように、平面視略四角形のアレスタ材を、外縁部の鋼板溶接継手の長手方向に対する角度が90°となるように溶接構造体を製造した例である。また、本発明例6並びに実験例7は、何れも、平面視略四角形のアレスタ材を、外縁部の鋼板溶接継手の長手方向に対する角度が表2に示す角度となるように、鋼板上における形成位置及び角度を適宜調整した例である。また、本発明例3、7、10、並びに実験例6は、何れも、平面視略四角形のアレスタ材を、外縁部の鋼板溶接継手の長手方向に対する角度が表2に示す所定の角度となるように、直線状とされた上縁部が横縁部に対して傾斜するように形成したものである。
【0083】
表1及び表2に示すように、本発明に係る溶接構造体(本発明例1〜13)は、脆性き裂の伝播の評価結果が、全て「◎」の評価となった。これにより、本発明の溶接構造体が、溶接継手に脆性き裂が発生した場合であっても、き裂が溶接継手や母材を伝播するのを抑制でき、溶接構造体の破断を防止することが可能であり、耐脆性き裂伝播性に優れていることが確認できた。
【0084】
ここで、本発明例4、8は、何れも、アレスタ材の板厚が鋼板の母材及び溶接継手の厚さよりも大きな例であるが、鋼板溶接継手に生じた脆性き裂が、アレスタ材溶接継手に到達した後にアレスタ材に突入し、アレスタ材で直ちに停止し、所定の耐脆性き裂伝播性を発揮することができた。
また、本発明例5、7は、何れも、アレスタ材の板厚が鋼板の母材及び溶接継手の厚さよりも小さな例であるが、上記同様、鋼板溶接継手に生じた脆性き裂が、アレスタ材で直ちに停止し、所定の耐脆性き裂伝播性を発揮することができた。
【0085】
これに対し、実験例1〜7の溶接構造体は、アレスタ材の鋼板特性又は形状の何れかが本発明の規定を満たしていないため、耐脆性き裂伝播性の評価が何れも「×」となった例である。
【0086】
実験例1の溶接構造体は、アレスタ材の高さHが不充分であるため、脆性き裂がアレスタ溶接継手及びアレスタ材に突入した後、脆性き裂を停止できず、再び脆性き裂が鋼板溶接継手を伝播した例であり、耐脆性き裂伝播性の評価が「×」となった。
また、実験例2は、アレスタ材の板厚tが不充分であるため、上記同様、脆性き裂を停止できず、再び脆性き裂が鋼板溶接継手を伝播した例であり、耐脆性き裂伝播性の評価が「×」となった。
【0087】
また、実験例3は、アレスタ材の板厚Tと高さHが不充分であるとともに、アレスタ材のKca特性が不充分であり、上記同様、アレスタ材で脆性き裂を停止することができなかった例であり、耐脆性き裂伝播性の評価が「×」となった。
また、実験例4は、アレスタ材のKca特性が不充分であったため、上記同様、アレスタ材で脆性き裂を停止することができなかった例であり、耐脆性き裂伝播性の評価が「×」となった。
【0088】
また、実験例5は、アレスタ材の横幅Wが不適であるため、アレスタ溶接継手に沿って脆性き裂が迂回し、そのまま鋼板溶接継手を伝播し、耐脆性き裂伝播性の評価が「×」となった。
また、実験例6、7は、何れも、アレスタ材の外縁部の鋼板溶接継手の長手方向に対する角度が本発明の規定範囲外であり、アレスタ材に脆性き裂を導入することができず、アレスタ溶接継手を迂回した後、そのまま鋼板溶接継手を伝播した例であり、耐脆性き裂伝播性の評価が「×」となった。
【0089】
以上の結果により、本発明の溶接構造体が、溶接継手に脆性き裂が発生した場合であっても、き裂が溶接継手や母材を伝播するのを抑制でき、溶接構造体の破断を防止することが可能であり、耐脆性き裂伝播性に優れていることが明らかである。
【符号の説明】
【0090】
A、B、C…溶接構造体、1、10、10A…鋼板、2、20、20A…鋼板溶接継手、3、3a、3b…貫通孔、4…耐き裂制御部、5…アレスタ材、51、52…上縁部、55…下縁部、6、60…アレスタ溶接継手、25、26、35、36…小鋼板溶接継手、21、22、23、24、31、32、33、34…小鋼板、70…船舶構造体、L…溶接線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板同士を突合せ溶接することで鋼板溶接継手が形成されてなる耐脆性き裂伝播性に優れた溶接構造体であって、
該鋼板溶接継手の少なくとも一部に、前記鋼板を貫通するように設けられ、脆性き裂伝播停止特性Kcaが6000N/mm1.5以上の鋼材からなるアレスタ材と、該アレスタ材が前記鋼板に対して突合せ溶接されることで形成されるアレスタ溶接継手とからなる耐き裂制御部が備えられており、
前記アレスタ材は、前記鋼板溶接継手の溶接線上から延在する外縁部が、前記鋼板溶接継手の長手方向に対して60°以上120°以下の範囲の角度で傾斜又は直交するように形成されていること、を特徴とする耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
【請求項2】
前記アレスタ材は、前記鋼板溶接継手の長手方向に沿った高さH、前記鋼板溶接継手の長手方向と交差する方向における横幅W、及び板厚tの各々の寸法が、下記(1)〜(3)式で表される関係を満足すること、を特徴とする請求項1に記載の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
2T ≦ H ・・・・・ (1)
3.2d+50 ≦ W ・・・・・ (2)
0.90T ≦ t ・・・・・ (3)
{但し、上記(1)〜(3)式中において、Tは前記鋼板の板厚を表し、dは前記鋼板溶接継手における溶接金属部の幅を表す}
【請求項3】
前記アレスタ溶接継手をなす溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS3(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS1(℃)との関係が、次式{vTrS3(℃)≦vTrS1(℃)+20(℃)}で表される関係を満たすこと、を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
【請求項4】
前記鋼板の板厚が25mm以上150mm以下であること、を特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
【請求項5】
前記鋼板は、前記鋼板溶接継手の長手方向で配列される少なくとも2以上の小鋼板からなるとともに、前記小鋼板同士を突合せ溶接することで小鋼板溶接継手が形成されており、
前記小鋼板溶接継手は、前記鋼板溶接継手の長手方向で、前記アレスタ材の前記溶接線上における前記上縁部の頂部と反対側の下縁部側に形成される前記アレスタ溶接継手に接して設けられること、を特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。
【請求項6】
前記鋼板は、前記鋼板溶接継手の長手方向で配列される少なくとも2以上の小鋼板からなるとともに、前記小鋼板同士を突合せ溶接することで小鋼板溶接継手が形成されており、
前記小鋼板溶接継手は、前記鋼板溶接継手の長手方向で、前記アレスタ材の前記溶接線上における前記上縁部の頂部と反対側の下縁部側に形成される前記アレスタ溶接継手を含むとともに、前記小鋼板溶接継手をなす溶接金属部の靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS4(℃)と、前記鋼板の母材靱性を表す脆性−延性破面遷移温度vTrS1(℃)との関係が、次式{vTrS4(℃)≦vTrS1(℃)+20(℃)}で表される関係を満たすこと、を特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の耐脆性き裂伝播性を有する溶接構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−162570(P2010−162570A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6038(P2009−6038)
【出願日】平成21年1月14日(2009.1.14)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】