説明

耐腐食性有機陰イオンの改質金属塩を有する耐腐食性コーティング

腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を含む腐食応答剤、およびそれを作り、使用する方法が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連する特許および特許出願への相互参照
本発明は、海軍航空システム司令部(Naval Air Systems Command)(NAVAIR)により落札された契約落札N00421−05−C−0042の下で、政府の支援によりなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
本出願は、2007年3月5日に出願された米国特許仮出願第60/904,925号の非仮出願(non−provisional)である。
本発明の主題は、同時係属中の同一出願人による2003年6月4日に出願された米国特許出願第10/454,347号と、2007年3月5日に出願された米国特許仮出願第60/904,965号の非仮出願として本出願と同日に出願された、代理人整理番号19506/09103を有する米国非仮出願とに関する。
【0003】
本発明は、腐食を受けやすい金属の表面を保護するための耐腐食剤、およびこれらの耐腐食剤を作り、使用する方法に関し、より詳細には、減少された量のクロメートを用いることの出来る、またはクロメートを含まない腐食応答剤に関する。
【背景技術】
【0004】
アルミニウムおよびアルミニウム合金を腐食から保護することは、幅広い興味の対象であるが、航空機用途において、それは決定的に重要となる。2024や7075などのアルミニウム合金は、航空機事業に用いられる典型的なタイプであり、これらの合金は特徴として銅を含有する。銅の存在は合金に都合のよい強度および他の物理的特性を提供するけれども、それにも関わらず、銅は腐食過程における重要な要素である酸素還元反応(ORR)を触媒する。
【0005】
航空機のアルミニウムを腐食から保護するための一般的な方法は、むき出しのアルミニウムへの化成コーティングの塗布と、それに続くプライマーおよびトップコートの塗布を伴う。トップコートは最終的な色および表面の質感(texture)を提供し、アンダーコートのための封止材として役立つ。しかしながら、化成コーティングおよびプライマーが金属のための耐腐食性の大部分を提供する。
【0006】
六価クロムを含有するクロム化成コーティングは、アルミニウムのための化成コーティングとしての使用において、現在標準的である。一般的な六価クロム化成コーティングは米軍用規格Mil−C−5541を満たす。
【0007】
現在の標準的なプライマーは、米軍用規格Mil−PRF−23377を満たすクロメート入り(chromated)エポキシプライマーである。このタイプのプライマーの例には、Deft 02−Y−40AおよびHentzen 16708TEP/16709CEHが含まれる。
【0008】
航空機における使用のための一般的なトップコートは、米軍用規格MiI−PRF−85285を満たす。例には、Deft 03−GY−321およびDeft 99−GY−が含まれる。
【発明の概要】
【0009】
従って、簡潔に言えば、本発明は腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を含む新規な腐食応答剤を目的としており、ここでその乾燥塩の2.5重量%水性混合物は6より高く8より低いpHを有する。
【0010】
本発明は腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を含む腐食応答剤を作る新規な方法もまた目的としており、その方法は:腐食抑制有機陰イオンのZn(II)、Al(III)、Mg(II)、Ca(II)、Nd(III)、Sr(II)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IIIまたはIV)、またはFe(IIまたはIII)塩を提供すること;およびその金属塩を十分な量の塩基性材料と接触させて、その金属塩の水性混合物を6より高く8より低いpHにすること;を含む。
【0011】
本発明は腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を含む腐食応答剤を用いて腐食を受けやすい金属の腐食を低減させるか、または防ぐ新規な方法もまた目的としており、その方法は:腐食を受けやすい金属の表面に、腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を塗布することを含む。ここで、その乾燥塩の2.5重量%水性混合物は6より高く8より低いpHを有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、BAM−PPVで前処理された2024−T3アルミニウム合金上に塗布された改質Zn(DMcT)抑制剤を含有するプライマーを有する金属片に関して、塩スプレーにさらした後の罫書き線の黒ずみを比較して示す;
【図2】図2(a)、図2(b)および図2(c)は、塩スプレーにさらして1500時間後の罫書き線の光学顕微鏡写真であり、点食は見られず、罫書き線(図1参照)において見られる色は、金属上に形成したコーティングと関係がある可能性がある;
【図3】図3は、多数のディスクリート層のスプレー処理のための2つのスプレーガンの機構を示しており、各ガンは平行に向けられておりセパレーターが取り付けられている;
【図4】図4は、プライマーおよび抑制剤の混合スプレーを塗布するための2つのスプレーガンの機構を示しており、ここでセパレーターは取り除かれており、各ガンは対象の金属の表面で、またはその手前で重なるスプレーパターンを与えるように内側に向けられている;
【図5】図5は本発明の中和された金属塩を含む耐腐食コーティングのいくつかの異なる実施態様を図示しており、ここで図5(B)は、中和された金属塩を含有する一つ以上の層がちりばめられたバインダーポリマーの一つ以上の層を有するコーティングを図示しており、図5(A)はバインダーポリマーと中和された金属塩との接触領域を有する複合コーティングを図示しており、図5(C)は、中和された金属塩をバインダーポリマーとともに層の内部に組み合わせることが可能なコーティングを図示している。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に従うと、腐食を受けやすい金属を、腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を金属の表面に塗布することにより、腐食から保護することが出来ることが分かった。本発明の金属塩は、塩基性材料により中和させたものであり、その乾燥塩の2.5重量%水性混合物は6より高く8より低いpHを有する。従って、この中和された金属塩は、腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩と十分な量の塩基性材料との組み合わせであり、乾燥した組み合わせの2.5重量%水性混合物は室温で6より高く8より低いpHを有する。
【0014】
本発明の中和された金属塩は、他の対腐食剤とともに耐腐食コーティングに用いることができるけれども、単独で用いた場合、言い換えれば、耐腐食性の為に2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(Zn(DMcT))の亜鉛塩と組み合わせて用いられている(米国特許第6139610号、および米国特許出願公開第2004/02555819号を参照のこと)シアナミドの金属塩(例えばシアナミド亜鉛やリン酸亜鉛といった)などの他の耐腐食性材料を含まない場合に、有効な利点を有する。従って、腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩から本質的になる活性剤を有する耐腐食コーティングが有効であることが示されている。
【0015】
本発明の腐食応答剤は、好ましくは腐食抑制有機陰イオンの中和されたZn(II)、Al(III)、Mg(II)、Ca(II)、Nd(III)、Sr(II)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IIIまたはIV)、またはFe(IIまたはIII)塩である。いくつかの実施形態においては、金属塩は腐食抑制有機陰イオンの亜鉛塩またはネオジム塩である。
【0016】
本発明の腐食抑制有機陰イオンは、メルカプト置換有機物質およびチオ置換有機物質からなる群から選択される化合物の陰イオンであっても良い。有用な腐食抑制有機陰イオンの例には、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1H−テトラゾル−5−−チオール、1,2,4−トリアゾール−3−チオール、1−ピロリジンカルボジチオン酸、2,2’−ヂチオビス(ベンゾチアゾール)、2,4−ジメルカプト−6−アミノ−5−トリアジン、2,4−ジチオヒダントイン、2,5−ジメチルベンゾチアゾール、2−アミノ−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−メチルベンズイミダゾール、2−メルカプト−5−ニトロベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズオキサゾール、2−メルカプトエタンスルホン酸、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプトチアゾリン、2−チオウラシル、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5,5−ジチオ−ビス(1,3,4−チアジアゾール−2(3H)−−チオン、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール、6−アミノ−2−メルカプトベンゾチアゾール、6−エトキシ−2−メルカプトベンゾチアゾール、6−メルカプトプリン−アルキ(−alky−)またはN−シクロアルキル−ジチオカルバメート、アルキル−およびシクロ−アルキルメルカプタン、ベンゾチアゾール、ジメルカプトピリジン、ジメチルジチオカルバミン酸、ジチオシアヌル酸、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンズオキサゾール、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトイミダゾール、メルカプトピリジン、メルカプトピリミジン、メルカプトキノリン、メルカプトチアゾール、メルカプトチアゾリン、メルカプトトリアゾール、O,O−ジアルキル−およびO,O−ジシクロアルキル−ジチオホスフェート類、O−アルキル−またはO−シクロアルキル−ジチオカルボネート類、o−エチルキサントゲン酸、キノキサリン−2,3−チオール、チオ酢酸、チオクレゾール、チオサリチル酸、トリチオシアヌル酸、6−エトキシ−2−メルカプトベンゾチアゾール、1,3,4チアジアゾール、6−エトキシ−2−メルカプトベンゾチアゾール、ジメチルジチオカルバミン酸、o−エチルキサントゲン酸、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジエチルジチオカルバミン酸、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール、2−メルカプトベンズオキサゾール、2,1,3−ベンゾチアゾール、1−ピロリジンカルボジチオ酸、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1H−テトラゾル−5−チオール、2−メルカプト−5−ニトロベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾアゾール、2−メルカプト−5−メチルベンズイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾール類、メルカプトチアゾリン類、メルカプトベンズイミダゾール類、メルカプトイミダゾール類、5,5−ジチオ−ビス(1,3,4−チアジアゾール−2(3H)−チオン、メルカプトベンズオキサゾール類、メルカプトチアゾール、メルカプトトリアゾール、O−アルキル−またはO−シクロアルキル−ジチオカルボネート類、O,O−ジアルキル−およびO,O−ジシクロアルキル−ジチオホスフェート類、ジチオシアヌル酸、トリチオシアヌル酸、2,4−ジチオヒダントイン、2,4−ジメルカプト−6−アミノ−5−トリアジン、およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物の陰イオンが含まれる。
【0017】
いくつかの実施形態において、腐食応答剤は、好ましくは2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールの中和されたZn(II)、Al(III)、Mg(II)、Ca(II)、Nd(III)、Sr(II)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IIIまたはIV)、またはFe(IIまたはIII)塩を含み、特に、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(DMcT)の中和されたZn塩が好ましい。
【0018】
Zn(DMcT)などの腐食抑制有機陰イオンの金属塩に関して本明細書で用いられる用語“中和された”は、金属塩を十分な量の一つ以上の塩基性材料と組み合わせて、その乾燥塩の2.5重量%水性混合物のpHを6より高く8より低くすることを意味する。“乾燥塩”のpHに言及する場合には、中和して、メタノールおよび水で洗浄した乾燥塩を脱イオン水中に2.5重量%で再懸濁させた試料の室温でのpHを意味する。
【0019】
本発明の乾燥塩のpHは、6より高く8より低いか、6.2より高く約7.6より低いか、約6.5より高く約7.5より低いか、または約6.8と約7.2の間であっても良い。本発明の乾燥塩のpHは、約7であっても良い。
【0020】
本発明はまた、腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を作るための方法を包含する。一般的には、本方法は腐食抑制有機陰イオンのZn(II)、Al(III)、Mg(II)、Ca(II)、Nd(III)、Sr(II)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IIIまたはIV)、またはFe(IIまたはIII)の塩を提供すること、およびその金属塩を十分な量の塩基性材料と接触させて、その金属塩の水性混合物を6より高く8より低いpHにすることを含む。腐食抑制有機陰イオンの金属塩を提供する工程は、金属の硝酸塩をメタノール/水混合物中において酸の形態の腐食抑制有機陰イオンと接触させること、および腐食抑制有機陰イオンの金属塩を沈殿物として回収することを含むことが出来る。一度金属塩が形成されると、それを塩基性材料と接触させて、本発明のある実施形態である腐食応答剤を提供することが出来る。
【0021】
塩基性材料は、アルカリのpHを有する任意の材料であっても良く、KOH、NaPO、NaOHなどの、任意のアルカリ金属の水酸化物または塩であっても良い。場合により、塩基性材料は、腐食抑制有機陰イオンの1A族金属塩であっても良い。実際、腐食抑制有機陰イオンの亜鉛塩が用いられた場合に、同一の腐食抑制有機陰イオンのナトリウム塩またはカリウム塩のどちらか、またはその両方が、亜鉛塩を望ましいpHにするための中和のための塩基性材料として有用であることが見出されている。
【0022】
一例として、中和されたZn(DMcT)塩を生産するための有用な方法には、
メタノール/水混合物中においてZn(NOをDMcTと接触させる工程;ならびにZn(DMcT)を沈殿物として回収する工程;
その沈殿物をメタノールおよび水で洗浄する工程;および
Zn(DMcT)を、その乾燥塩の2.5重量%水性混合物が約6.5〜約7.2の間のpHを有する点までZn(DMcT)を中和するのに十分な量で、Na(DMcT)、K(DMcT)、およびこれらの混合物からなる群から選択される塩基性材料と接触させる工程;が含まれる。中和された塩は、更なるプロセスを経ること無く、水性ベースのコーティングに用いる準備が整っている。非水性ベースのコーティングに用いるために、中和された塩を乾燥し、粉砕することが出来る。
【0023】
本発明の腐食応答剤は、腐食保護性を有する任意の他の多くの良く知られた薬品と同一の方法で腐食を抑制し、低減し、または防ぐために用いることができる。一実施形態において、本発明の中和された金属は、腐食を受けやすい金属の表面に塗布可能な耐腐食コーティングの構成物として含まれても良い。
【0024】
本発明の中和された金属塩はクロムを含まないために、この金属塩が構成物であるコーティングを、完全に、または実質的にクロム(VI)を含まず、それにも関わらず非常に優れた腐食保護品質を提供するものとして作ることが出来る。
【0025】
一実施形態においては、本発明の中和された金属塩を含有するコーティングを、クロム化成被覆を有する金属表面に塗布する。腐食保護コーティングの当業者によって理解されているように、一般的なクロム腐食保護の系には、金属表面上に直接塗布されるクロム化成被覆(CCC)、およびCCCの上に塗布されるクロムを含有するプライマーが含まれる。両方のコーティングが有毒な形態のクロムであるCr(VI)を含有するけれども、CCCはコーティングの系の全クロムのわずかな部分のみ(しばしばたった約5%)を含有し、一方でプライマーはクロムの大部分(しばしば95%ほど)を含有することが普通である。従って、Cr(VI)を含有するプライマーを本発明の中和された金属塩を含有するクロムを含まないプライマーで置き換えることにより、新規なコーティングをCCCの上に塗布した場合でさえ、コーティングの系のクロム含有量が非常に大きく減少する。
【0026】
しかし、本発明の中和された金属塩を含有するコーティングは、クロムを含まない化成被覆、例えばCurrents,60−62,Spring2005においてAnderson,N.およびP.Zarrasにより記述されたポリ[ビス(2,5−(N,N,N’,N’−テトラアルキル)アミン)−1,4−フェニレンビニレン](BAMPPV)の化成コーティングの上に塗布することができることも分かっている。この実施態様は非常に優れた腐食保護性を提供するクロムを含まないコーティングの系を提供する。
【0027】
DMcTなどの有機腐食抑制陰イオンの中和された金属塩を含むコーティングをCCCの上に塗布した場合、有機腐食抑制陰イオンの塩はCCCとの接触から隔てられることが好ましいことを見出した。この隔離を、例えば、バインダーポリマーの介在によって提供することが出来る。他の態様では、耐腐食コーティングは、腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩と混ぜ合わせたバインダーポリマーを含むことが出来る。
【0028】
本発明の腐食応答剤は、腐食を防ぎ、または低減するために、酸化腐食を受けやすいあらゆる金属の表面に都合よく塗布することができる。特に、本腐食応答剤は鉄、鋼鉄およびアルミニウムの保護、とりわけ銅を含有するアルミニウム合金にとって有用である。この新規な中和された金属塩を2024および7075などのアルミニウム合金に塗布したコーティングのいくつかの実施態様は、塩スプレー環境における腐食に対して、一般的なクロムコーティングにより提供される保護と同等か、またはそれよりも優れた保護を提供した。
【0029】
本発明の中和された金属塩を含有する耐腐食コーティングは、望ましい腐食保護性、柔軟性、接着性および耐久性を提供する任意の厚さで塗布することができる。いくつかの実施態様において、コーティングの厚さは約0.001mmから約0.2mmまで、または約0.01mmから約0.1mmまで、または約0.015mmから約0.025mmまでである。
【0030】
本発明の中和された金属塩を、図5(c)に図示するように、金属支持体(301)のコーティング(101)内に、バインダーポリマー(501)とともに層の中に組み合わせることができる。または、図5(b)に図示するように、中和された金属塩を含有する層(401)がちりばめられたバインダーポリマーの一つ以上の層(201)を有するコーティングに含めることが出来る。または、図5(a)に示すように、バインダーポリマー(201)と中和された金属塩(401)との接触領域を有する複合コーティングに含めることが出来る。
【0031】
本発明の為に有用なバインダーポリマーは、任意のポリマー、コポリマー、または異なるポリマー類の混合物であっても良い。このポリマーは熱可塑性物質または熱硬化性物質であっても良い。本発明におけるバインダーポリマーとして有用なポリマー類には、フェノール樹脂類、アルキド樹脂類、アミノプラスト樹脂類、ビニルアルキド類、エポキシアルキド類、シリコンアルキド類、ウラルキド類、エポキシ樹脂類、コールタールエポキシ類、ウレタン樹脂類、ポリウレタン類、不飽和ポリエステル樹脂類、シリコン類、酢酸ビニル類、ビニルアクリル類、アクリル樹脂類、フェノール類、エポキシフェノール類、ビニル樹脂類、ポリイミド類、不飽和オレフィン樹脂類、フッ化オレフィン樹脂類、架橋結合可能なスチレン樹脂類、架橋結合可能なポリアミド樹脂類、ゴム前駆体、エラストマー前駆体、イオノマー類、それらの混合物および誘導体、およびそれらの架橋剤との混合物が含まれる。
【0032】
本発明の好ましい実施態様において、バインダーポリマーは、エポキシ樹脂類、ポリウレタン類、不飽和ポリエステル類、シリコン類、フェノール類およびエポキシフェノール樹脂類などの架橋結合可能なポリマー(熱硬化性物質)である。典型的な架橋結合可能な樹脂類には、脂肪族アミン硬化エポキシ類、ポリアミドエポキシ、ポリアミンのエポキシとの付加物、ケリミン(kerimine)エポキシコーティング、芳香族アミン硬化エポキシ類、シリコン改質エポキシ樹脂類、エポキシフェノール性コーティング、エポキシウレタンコーティング、コールタールエポキシ類、油で改質されたポリウレタン類、湿気硬化ポリウレタン類、ブロックウレタン類、2成分ポリウレタン類、脂肪族イソシアネート硬化ポリウレタン類、ポリビニルアセタール類およびそれらと同様のもの、イオノマー類、フッ化オレフィン樹脂類、かかる樹脂類の混合物、かかる樹脂類の塩基性もしくは酸性の水性分散液、またはその樹脂類の水性乳濁液、ならびにそれらと同様のものが含まれる。
【0033】
これらのポリマー類を製造する方法は既知であるか、またはポリマーの材料が商業的に入手可能である。コポリマーの形態で提供するといった、様々な修飾がポリマー類になされてよいことは理解されるべきである。バインダーポリマーは水性ベースでも、または溶媒ベースであっても良く、放射硬化、熱による硬化、溶媒の除去による硬化、または触媒もしくは促進剤の作用による硬化がなされたものであっても良い。放射硬化型のバインダーポリマーを形成するための樹脂類は、場合により、反応性モノマーおよび/またはオリゴマー、ならびに光開始剤を含有することができる。
【0034】
バインダーポリマーは固有導電性ポリマー(ICP)であっても良く、またはそれを含むことができる。本明細書で用いられる“固有導電性ポリマー”は、そのポリマーの少なくとも1つの原子価状態において電流を伝導することのできるあらゆるポリマーを意味する。通常、固有導電性ポリマー類は多共役Π電子系を有する有機ポリマー類である。本発明と関連する使用に適した固有導電性ポリマー類の例にはポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、例えばポリ(3−ヘキシルチオフェン)、ポリ(3−メチルチオフェン)およびポリ−(3−オクチルチオフェン)などのポリ(3−アルキル−チオフェン類)、ポリイソチアナフテン、ポリ−(3−チエニルメチルアセテート)、ポリジアセチレン、ポリアセチレン、ポリキノリン、ポリヘテロアリーレンビニレン、ここでヘテロアリーレン基はチオフェン、フランまたはピロールであっても良い、ポリ−(3−チエニルエチルアセテート)、および同様のもの、ならびにそれらの誘導体、コポリマーおよび混合物が含まれる。いくつかの固有導電性ポリマー類は自然に電気伝導特性を示すが、一方で他のものはドープ(dope)またはチャージ(charge)して適切な原子価状態としなければならない。ICP類は通常は様々な原子価状態で存在し、電気化学反応により様々な状態に可逆的に変換される。例えば、ポリアニリンは、還元状態(ロイコエメラルジン(leucoemeraldine))、部分酸化状態(エメラルジン(emeraldine))、および完全酸化状態(ペルニグラニリン(pernigraniline))などの数多くの原子価状態で存在することができる。ポリアニリンはそのエメラルジン形態(+2電子)において最も伝導性である。ポリアニリンのこの部分酸化状態は、ポリアニリンを適切なドーパント(dopant)でドープしてポリマーの電気伝導性を高めることによって形成することができる。適切なドーパントの例には、テトラシアノエチレン(TCNE)、硝酸亜鉛、p−トルエンスルホン酸(PTSA)、例えば2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールなどのメルカプト置換有機化合物、またはいずれかの適切な鉱酸もしくは有機酸が含まれる。好ましい実施態様において、ICPはポリアニリンである。
【0035】
バインダーポリマーに加えて、本発明の中和された金属塩を含有するコーティングは他の材料を含有することができる。任意の可塑剤、着色剤、硬化触媒、残留モノマー、界面活性剤、またはコーティングに有用な特性を付加する、もしくは少なくともコーティングの機能性を低減しない任意の他の材料を、ポリマー配合の当業者に既知の量でコーティングに含ませることができる。
【0036】
本発明の中和された金属塩をバインダーポリマーと混ぜ合わされることによりコーティング中に形成する場合には、腐食保護性を提供する任意の量または濃度で用いることができる。金属塩を、コーティング中にそのコーティングの約1〜約50重量%で、好ましくは約5〜約40重量%、または約10〜約35重量%、また約15〜約30重量%で含めることができる。
【0037】
別の態様において、中和された金属塩を、中和された金属塩を含有する層がちりばめられたバインダーポリマーの層を有する多層コーティングにおいて用いることが出来る。中和された金属塩を含有する層において、金属塩は少なくとも臨界顔料体積濃度(CPVC)と等しい、またはさらにより高い量で存在することができる。
【0038】
いくつかの実施態様において、中和された金属塩は、硬化してバインダーポリマーまたは異なるポリマーを形成する樹脂中に混ぜられた微粒子の形態で提供される。本明細書で用いられる用語“臨界顔料体積濃度”または“CPVC”は、顔料粒子を湿らすのにちょうど十分なポリマーが存在する点を指す。CPVCより下では、腐食応答剤の粒子の全てを湿らすのに十分なポリマーが存在し、CPVCより上では存在しない。CPVCにおいては、コーティング特性に急な変化が存在し得る。
【0039】
本発明において、本発明の中和された金属塩を含有するコーティングはあらゆるやり方で形成することができる。一つの有用な方法においては、硬化してコーティングを形成する液体配合物を、保護されるべき材料に対して塗布することによって、コーティングを形成する。液体配合物は溶媒を含まなくとも、溶媒を含有していても良い。配合物は水性ベース、有機ベース、またはその2つの混合物であっても良い。一般に、配合物は、溶媒と共に、または溶媒無しで、コーティングの構成物を液体溶液、乳濁液、微乳濁液、分散液、または混合物中に含有する。液体配合物を表面に、またはあらかじめ表面に対して塗布されたコーティングに対して塗布した後、それは硬化してコーティングである固体を形成し得る。液体配合物を、層として、またはスプレーとして小滴の形態で塗布することが普通である。
【0040】
下記の実施例は、本発明の好ましい実施態様を記述している。本明細書における特許請求の範囲内の他の実施態様は、本明細書で開示された本発明の明細書または実施を考察することにより当業者には明らかであろう。本明細書は、実施例とともに、単に例示的なものであると考えられることを意図しており、実施例に続く特許請求の範囲により本発明の範囲および精神を示す。実施例において、全てのパーセンテージは、別途記載しない限り重量を基準として与えられる。
【実施例】
【0041】
実施例1
これは(2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール)亜鉛の中和された金属塩を生産する方法の実施形態を説明するものである。
【0042】
硝酸亜鉛をメタノールに溶解し、この溶液をDMcTのメタノール溶液に添加することによって、Zn(DMcT)を形成する。式Zn(DMcT)を有するその製法の沈殿が形成される。メタノールを除去し、生成物をジャーミル中で水性のスラリーとしてすり潰し、5以上のヘグマングラインド(Hegman grind)が得られるまで、粒子の大きさを低下させた。Zn(DMcT)の中和された金属塩を形成するため、金属塩を1種類以上の中和化合物と接触させる。有用な中和化合物には、有機および無機塩基が含まれる。NaOH、PO3−、KOH、LiOH、アンモニウム、MgOHなどの無機塩基を、中和化合物として用いることができる。また、中和化合物はチオールのアルカリ金属塩またはチオールのアルカリ土類金属塩であっても良い。例として、DMcTの二ナトリウム塩および二カリウム塩を用いて、Zn(DMcT)のスラリーのpHを6より高く8より低い範囲に増加させることができる。
【0043】
この抑制剤を水溶型コーティング中で用いた場合には、それ以上の作業は不要である。溶剤型コーティングの場合には、生成物を乾燥させ、キシレンなどの有機溶媒中で、5以上のヘグマングラインドが得られるまで再びジャーミルを用いて再度すり潰し/分散させなければならない。
【0044】
表1は、Zn(DMcT)を生産するためのいくつかの合成手順の条件を示している。実施番号1−3は、硝酸亜鉛の6水和物結晶から出発する生産を示し、実施番号4−6は、硝酸亜鉛の50%水溶液から出発している。K(DMcT)またはNa(DMcT)のいずれかによるZn(DMcT)の中和の条件および結果を、実施番号7−9に示す。
【0045】
乾燥した生産物のpH測定を、乳鉢および乳棒を用いて乾燥金属塩を1/2グラムにすり潰すことにより実施した。0.25gmの試料を回収し、6dramのバイアル中で、フィルターによりろ過した9.75グラムのDI(脱イオン)水と混ぜた。5分後に、室温でpHを測定した。これにより、乾燥生産物の2.5重量%水性混合物のpHが与えられた。
【0046】
【表1】

【0047】
元素分析
本発明の方法の実施形態に従って生産された、中和されたZn(DMcT)試料の元素分析を表2に示す。
【0048】
表2:中和する前のZn(DMcT)の元素解析
【0049】
【表2】

【0050】
表2のデータの最も重要な用途の1つは、Zn(DMcT)の式の決定である。炭素の亜鉛に対するモル比を比較すると:
C=1.1、Zn=0.28
(炭素のモル)/(亜鉛のモル)=3.93
となり、式:Zn(CHNが暗示される。
【0051】
製造に用いる条件の下では、Zn2+はDMcTの最も酸性のプロトンとのみ置き換わるようである。
実施例2
これは、流し塗り(flow coating)、およびスプレーによって塗布した耐腐食コーティングにおける中和されたZn(DMcT)の使用を説明するものである。
【0052】
Zn(DMcT)を含有する耐腐食コーティングを、下記のようにドロー棒によるコーティングおよびスプレーにより金属片に塗布した。コーティングは多層であり、表3に示す配合を有する溶剤型エポキシプライマーを初めにコートし、ついでキシレン中のZn(DMcT)をコートすることによって形成した。コーティングに、エポキシプライマーのトップコートを追加した。
【0053】
配合
表3:非クロメートの溶剤型エポキシプライマー(P5)
【0054】
【表3】

【0055】
バインダーポリマーおよびZn(DMcT)コーティング配合物は、3”×3”パネルを500rpmでスピンコートすることにより塗布した。塗料および亜鉛塩の両方の層を被覆する間に、溶媒を80℃で約15分間蒸発分離した。ほとんどの配合物を、腐食試験のためにCCC2024−T3に塗布した。腐食試験の前に、被覆したパネルを機械的な罫書き器で罫書き、電気めっきテープを張った。腐食試験はASTM B117に従って実施した。厚さの測定はPositector 6000−N2(DeFelsko)を用いて行った。
【0056】
これらのコーティングのいくつかは“ウェットオンウェット(wet−on−wet)”で塗布され、これは今日航空機の被覆に用いられている方法と類似のやり方でそれぞれの層の塗布の間に層が乾く時間を与えなかったことを意味する。
【0057】
配合物の試験
塩スプレー試験
スプレーで塗布したプライマーおよびドローダウン棒で塗布したプライマーを、MIL−PRF−2377J、第4.5.8.1項およびASTM B117に従って試験した。Q−Fog SSP600(Q−Panel)キャビネットを塩スプレーにさらすために用いた。プライマーをクロメート化成被覆された2024−T3支持体に塗布して、罫書して試験を行う前に周囲条件において最低2週間硬化させた。プライマーと化成コーティングとの間のよりよい付着を促すため、プライマーの塗布は化成コーティングの塗布から3〜4日間以内に実施した。
【0058】
1つの発見は、層状コーティングスキームはスピンコート塗布と同様にスプレー塗布によって塗布できることであった。層を“ウェットオンウェット”で塗布することも可能で、すなわち各層は層の間に乾燥すること無く互いの上に塗布された。これにより層状コーティングアプローチは抑制剤/樹脂の不相溶性の問題に対するさらにより実用的な解決策となる可能性がある。
【0059】
プライマーの塗布の前に、CCCを水漏れおよび希酸耐性に関して試験した(4%硝酸液滴をクロメート化成コーティング上に10分間置くことはCCCに損傷を与えないはずである)。
【0060】
これらの試験からの結果は次のことを示した:
中和されたZn(DMcT)を層状コーティングにおいて用いたところ、いくつかの良好な結果を生み出した。3枚のパネルのうち3枚ともが、880時間塩スプレーにさらした時点で合格した。
【0061】
むき出しのアルミニウム(クロメート化成コーティング無し)に塗布された非クロメートプライマーは、それらがクロメート化成被覆されたアルミニウム上に塗布された場合程は性能がよくなかった。
【0062】
実施例3
これはZn(DMcT)を含有するスピンコートされたコーティング、および実施例2で記述したような交互層の系のスプレーガンを用いた塗布を説明するものである。
【0063】
用いたバインダーポリマーは、上記の表3に示した組成を有する、MIL−PRF−23377Jの範囲に入る溶剤型、高固体配合物であった。パートAおよびBを混合し、混合の後30分〜4時間の間に塗布した。
【0064】
中和されたZn(DMcT)が層状コーティングにおいて用いられ、それは良好な結果をもたらした。改質したZn(DMcT)を含有する層状コーティングの例を図1および図2に示す。3枚のパネルのうちの3枚が、2500時間塩スプレーにさらした時点で合格していた。これは層が塗布された際のパネル表面に渡る抑制剤の粗悪な分布にもかかわらずであった。この抑制剤の追加の研究は、キシレン中の抑制剤のスラリーのスプレー塗布を用いた。
【0065】
実施例4
この実施例は、層状スキームまたは2個の別のスプレーを同時に適用して複合コーティングを得る複合スキームのどちらかを用いてスプレーすることによる本発明の実施態様のコーティングの塗布を説明するものである。
【0066】
この試験の目的は:スプレー塗布を用いて、実施例2で記述した、元々はスピンコーティングにより塗布されたコーティングに類似した層状コーティングを再現すること、2個のスプレーガンの機構を用いて、同一の装置で層を塗布し、2個のスプレーガンを修正して樹脂および抑制剤のスプレー流を混合することが樹脂および抑制剤を別の層で塗布することと同じくらいうまく働くか否かを試験し−コーティングはこの系を用いて単一の層で塗布することができるだろう、中和されたZn(DMcT)をスプレー塗布したコーティングに含め、ならびにパネルを加速させた硬化スケジュールを用いずに試験の前に室温で2週間硬化させることにより、層状アプローチをより実用的にすることである。
【0067】
配合物/塗布
プライマーは実施例2および3で記述したものと同一の配合であった。コーティングは、長さ約18インチの棒にすえつけられた2個の重力供給式スプレーガンから塗布された。この配置により、両方のガンは同時に操作することができた。一方のガンは高固体エポキシプライマーを含有し、他方のガンはキシレン中ですり潰し分散させたCRA(腐食応答剤)のスラリーを含有していた。多層の場合のそれらのコーティングに関して、ガンのスプレー流の間に仕切りが設置された(図3参照)。混合スプレーとして塗布されたプライマーコーティングに関しては、仕切りは取り除かれ、スプレーガンは互いに内向きに角度をつけられた(図4)。様々なコーティングスキームは4種類の非クロム抑制剤−DMcT、ポリDMcT、PANiDMcT(ポリアニリンの2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール塩)および中和されたZn(DMcT)を含有していた。一般に行われているやり方でスプレー塗布したクロメート対照のセットも含まれていた。
【0068】
塩スプレー試験
この実施例におけるコーティングは、実施例2および3で記述したスピンコートされた試験品の有望な結果を綿密に調べるために設計された。実施例2で記述したコーティングには、コーティングをスプレー塗布で層にする第1の試みが含まれていた。残念ながら、その実施例のスプレー塗布したコーティングは塩スプレー試験において性能が劣っていた。本実験からの塩スプレーの結果は、最初の1000時間の試験を通じて非常に優れていた。
【0069】
重要な知見:
PANiDMcTを用いた“混合スプレー”は最高の働きをし、次がポリDMcTの多層であった;
混合スプレーコーティングスキームは多層プライマーよりも塗布が容易であった;
多層の系における中和されたZn(DMcT)は有望な結果を示した。3枚のうちの1枚のパネルが1000時間の時点で合格していたが、2枚の不合格となったパネルのうち、1枚は不合格と関係のありそうな欠点のある罫書きを有していた;
PANiDMcTは混合スプレーアプローチにおいてのみうまく働いた。それは層状アプローチにおいて優れた抑制を示さなかった;
層状アプローチにおいて、抑制剤の単一の層にプライマーの単一の層が続くコーティングスキームは、交互に多層重ねたものよりはうまく働かなかった。
【0070】
クロメート対照プライマーがこのセットにおける最高性能のプライマーより大きな抑制をもたらすことは決して無かった;
多くのパネルは、500時間〜1000時間の指標の間に技術的に不合格となったが、これらの多くは罫書き中のかろうじて検出できる塩がついた領域のために不合格となった。これらの領域は罫書きの長さの数パーセント未満を含んでいたが、罫書きの残りの部分は完全に光っていた;そして
実施例3とは異なり、ふくれ(blistering)はこのセットではほとんど問題でなかった。これは、より優れたクロメート化成コーティングのためか、または上昇させた温度においてパネルの硬化を加速させずにパネルを室温で2週間硬化させたためである可能性がある。
【0071】
柔軟性試験:
このセットに関して、柔軟性試験は問題をはらんでいた。非クロムCRAを含有するコーティングは不合格となり、一方でクロメート対照および陰性(CRAではない)対照の1つが合格した。一見すると、その不合格はコーティングが非クロムCRAを含有していたか否かと関係があるようである。しかし、合格したか不合格であったかにはコーティングの厚さが大きな役割を果たした可能性がある。陰性対照を、2つの異なる形式、単一の層およびより厚い多層コーティングにおいて試験した。米軍用規格により推奨されるコーティングの厚さの範囲は0.6〜0.9ミルである。合格した単一の層のコーティングは、0.5ミルのコーティング厚みを有していた。不合格となった多層コーティングは、1.4ミルのコーティング厚みを有していた。合格したクロメート対照は、0.4ミルのコーティング厚みを有していた。非クロムCRAを含有する2種類のコーティングは合格に非常に近く、きわどい不合格と記録された。これら二種類のコーティングの厚さは米軍用規格により推奨される範囲内に入っており、従って合格した2種類の対照コーティングよりも厚かった。この理由から、CRAは、影響がもしあるとしても柔軟性にほとんど有害な影響を及ぼさず、柔軟性の不合格は配合物の調整により対処できると考えられている。
【0072】
付着
試験した全ての試験品は乾式テープ付着試験に合格した。
湿式テープ付着試験からの結果は正確ではなかったかもしれないが、それらは層状コーティングアプローチでも優れた付着がなお達成できることを証明したかもしれない。1種類を除く全てのコーティングの系が不合格であった。不合格のものにはクロメートおよび陰性対照が含まれていた。この理由から、コーティングの塗布または試験の間に、おそらくは塗装の前の表面の準備の間に何かが不適切に機能したことが疑われる。その問題にも関わらず、結果は多層の系に関して優れた付着の結果が達成できることを示唆している。
【0073】
この実施例のコーティングの継続した試験は、次の知見をもたらした:
最初の1000時間を通して、PANiDMcTを用いて複合コーティングを形成する“混合スプレー”が全体で最高の働きをし、ポリDMcTの多層がそれに続いた。1500および2000時間の指標の後、混合スプレーPANiDMcTパネルの性能が急速に衰えた。この時間の間に、わずかな色の変化が見られた。もしこの色の変化が脱ドーピングによるものなら、脱ドーピングは抑制剤が激減したことを意味するため、色の変化は腐食保護の低下と相関がある可能性がある。最高の働きをした中和されたZn(DMcT)のセットの性能は、最初の1000時間を越えたころはそれ程よくなかったが、それらは2000時間の指標を越えてポリDMcTまたはPANiDMcTのいずれかよりもよく耐えた。
【0074】
混合スプレー法のみにおいて、中和されたZn(DMcT)およびPANiDMcTは最高の結果をもたらした。PANiDMcTは、著しく質が落ちる前の最初の1500〜2000時間の間、クロメート対照に匹敵していた。混合スプレーZn(DMcT)はより長くもちこたえ、試験が終わった3000時間の時点でクロメート対照に匹敵していた。
【0075】
PANiDMcTは混合スプレーアプローチでのみうまく働いき、層状アプローチでは優れた抑制を示さなかった。
層状アプローチにおいて、抑制剤の単一の層にプライマーの単一の層が続くコーティングスキームは、一般に交互に多層重ねたものよりはうまく働かなかった。
【0076】
クロメート対照プライマーがこのセットからの最高性能のプライマーより大きな抑制をもたらすことは決して無かった。
多くのパネルは、500時間〜1000時間の指標の間に技術的に不合格となったが、これらの多くは罫書き中のかろうじて検出できる塩がついた領域のために不合格となった。これらの領域は罫書きの長さの数パーセント未満を含んでいたが、罫書きの残りの部分は完全に光っていた。
【0077】
この明細書に引用した全ての参考文献を、全ての論文、出版物、特許、特許出願、発表、テキスト、報告書、原稿、パンフレット、書籍、インターネットの情報配信、雑誌の記事、定期刊行物、および同様のものを制限なく含めて、そのまま参照により本明細書中に援用する。本明細書中の参考文献に関する議論は、単にそれらの著者によりなされた主張を要約することを意図するものであり、いずれかの参考文献が先行分野を構成するという自認をするものでは決してない。出願人らは引用した参考文献の正確さおよび適切さに挑戦する権利を保有する。
【0078】
上記を見れば、本発明のいくつかの利点が達成されたこと、および他の有利な結果が得られたことが分かるであろう。
本発明の範囲から逸脱すること無く、当業者により上記の方法および組成において様々な変更がなされることが可能であるが、上記の記述に含有され、添付の図面で示される全ての事柄は、例示としてのものであり制限する意味におけるものでは無いと解釈されるべきであると意図している。加えて、様々な実施態様の観点は全て、または部分的に交換可能であることは理解されるべきである。
【符号の説明】
【0079】
101 コーティング
201 バインダーポリマー
301 金属
401 中和された金属塩
501 バインダーポリマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を含む腐食応答剤であって、この乾燥塩の2.5重量%水性混合物が6より高く8より低いpHを有する、腐食応答剤。
【請求項2】
中和された金属塩が、腐食抑制有機陰イオンのZn(II)、Al(III)、Mg(II)、Ca(II)、Nd(III)、Sr(II)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IIIまたはIV)、またはFe(IIまたはIII)塩を含む、請求項1に記載の腐食応答剤。
【請求項3】
中和された金属塩が、腐食抑制有機陰イオンの亜鉛塩またはネオジム塩を含む、請求項1に記載の腐食応答剤。
【請求項4】
腐食抑制有機陰イオンが、メルカプト置換有機物質およびチオ置換有機物質からなる群から選択される化合物の陰イオンを含む、請求項1に記載の腐食応答剤。
【請求項5】
腐食抑制有機陰イオンが、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1H−テトラゾル−5−−チオール、1,2,4−トリアゾール−3−チオール、1−ピロリジンカルボジチオン酸、2,2’−ジチオビス(ベンゾチアゾール)、2,4−ジメルカプト−6−アミノ−5−トリアジン、2,4−ジチオヒダントイン、2,5−ジメチルベンゾチアゾール、2−アミノ−1,3,4−チアジアゾール、2−メルカプト−5−メチルベンズイミダゾール、2−メルカプト−5−ニトロベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズイミダゾール、2−メルカプトベンズオキサゾール、2−メルカプトエタンスルホン酸、2−メルカプトイミダゾール、2−メルカプトチアゾリン、2−チオウラシル、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、5,5−ジチオ−ビス(1,3,4−チアジアゾール−2(3H)−−チオン、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール、6−アミノ−2−メルカプトベンゾチアゾール、6−エトキシ−2−メルカプトベンゾチアゾール、6−メルカプトプリン,−アルキ(−alky−)またはN−シクロアルキル−ジチオカルバメート、アルキル−およびシクロ−アルキルメルカプタン、ベンゾチアゾール、ジメルカプトピリジン、ジメチルジチオカルバミン酸、ジチオシアヌル酸、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンズオキサゾール、メルカプトエタンスルホン酸、メルカプトイミダゾール、メルカプトピリジン、メルカプトピリミジン、メルカプトキノリン、メルカプトチアゾール、メルカプトチアゾリン、メルカプトトリアゾール、O,O−ジアルキル−およびO,O−ジシクロアルキル−ジチオホスフェート類、O−アルキル−またはO−シクロアルキル−ジチオカルボネート類、o−エチルキサントゲン酸、キノキサリン−2,3−チオール、チオ酢酸、チオクレゾール、チオサリチル酸、トリチオシアヌル酸、6−エトキシ−2−メルカプトベンゾチアゾール、1,3,4チアジアゾール、6−エトキシ−2−メルカプトベンゾチアゾール、ジメチルジチオカルバミン酸、o−エチルキサントゲン酸、2−メルカプトベンゾチアゾール、ジエチルジチオカルバミン酸、5−アミノ−1,3,4−チアジアゾール−2−チオール、2−メルカプトベンズオキサゾール、2,1,3−ベンゾチアゾール、1−ピロリジンカルボジチオ酸、1−(4−ヒドロキシフェニル)−1H−テトラゾル−5−チオール、2−メルカプト−5−ニトロベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、2−メルカプトベンゾアゾール、2−メルカプト−5−メチルベンズイミダゾール、メルカプトベンゾチアゾール類、メルカプトチアゾリン類、メルカプトベンズイミダゾール類、メルカプトイミダゾール類、5,5−ジチオ−ビス(1,3,4−チアジアゾール−2(3H)−チオン、メルカプトベンズオキサゾール類、メルカプトチアゾール、メルカプトトリアゾール、O−アルキル−またはO−シクロアルキル−ジチオカルボネート類、O,O−ジアルキル−およびO,O−ジシクロアルキル−ジチオホスフェート類、ジチオシアヌル酸、トリチオシアヌル酸、2,4−ジチオヒダントイン、2,4−ジメルカプト−6−アミノ−5−トリアジン、およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物の陰イオンを含む、請求項1に記載の腐食応答剤。
【請求項6】
2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールのZn(II)、Al(III)、Mg(II)、Ca(II)、Nd(III)、Sr(II)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IIIまたはIV)、またはFe(IIまたはIII)塩を含む、請求項1に記載の腐食応答剤。
【請求項7】
2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール(DMcT)の中和されたZn塩を含む、請求項1に記載の腐食応答剤。
【請求項8】
Zn(DMcT)とDMcTの1A族金属塩とを含む、請求項1に記載の腐食応答剤。
【請求項9】
Zn(DMcT)と、Na(DMcT)およびK(DMcT)のどちらか、またはその両方とを含む、請求項1に記載の腐食応答剤。
【請求項10】
塩の2.5重量%水性混合物が約6.5〜約7.2の間のpHを有する、請求項1に記載の腐食応答剤。
【請求項11】
腐食を受けやすい金属の表面上の耐腐食コーティングに含有される、請求項1に記載の腐食応答剤。
【請求項12】
耐腐食コーティングが、金属の表面に直接付着したクロメート化成コーティング、該クロメート化成コーティングを覆うバインダーポリマーの層、および該バインダーポリマーの層を覆う腐食応答剤を含む層を含む、請求項11に記載の腐食応答剤。
【請求項13】
耐腐食コーティングが、腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩がちりばめられたバインダーポリマーを含む、請求項11に記載の腐食応答剤。
【請求項14】
腐食抑制有機陰イオンのZn(II)、Al(III)、Mg(II)、Ca(II)、Nd(III)、Sr(II)、Ti(IV)、Zr(IV)、Ce(IIIまたはIV)、またはFe(IIまたはIII)塩を提供すること;および
該金属塩を十分な量の塩基性材料と接触させて、該金属塩の水性混合物を6より高く8より低いpHにすること;
を含む、腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を含む腐食応答剤を作る方法。
【請求項15】
腐食抑制有機陰イオンの金属塩を提供する工程が:
金属の硝酸塩をメタノール/水混合物中において酸の形態の腐食抑制有機陰イオンと接触させること;および
該腐食抑制有機陰イオンの金属塩を沈殿物として回収すること;
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
腐食抑制有機陰イオンの金属塩を、腐食抑制有機陰イオンの1A族金属塩と接触させることを更に含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
メタノール/水混合物中においてZn(NOをDMcTと接触させる工程;およびZn(DMcT)を沈殿物として回収する工程;ならびに
該Zn(DMcT)を、その乾燥塩の2.5重量%水性混合物が約6.5〜約7.2の間のpHを有する点まで該Zn(DMcT)を中和するのに十分な量で、Na(DMcT)、K(DMcT)、およびこれらの混合物からなる群から選択される塩基性材料と接触させる工程;
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
腐食を受けやすい金属の表面に腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を塗布すること、ここでこの乾燥塩の2.5重量%水性混合物は6より高く8より低いpHを有する、を含む、腐食を受けやすい金属の腐食を低減するか、または防ぐために腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を含む腐食応答剤を用いる方法。
【請求項19】
腐食を受けやすい金属が銅を含有するアルミニウム合金である、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
腐食を受けやすい金属の表面に化成コーティングを塗布すること、ここで該化成コーティングは、クロメート化成コーティングおよびポリ[ビス(2,5−(N,N,N’,N’−テトラアルキル)アミン)−1,4−フェニレンビニレン](BAMPPV)を含むコーティングから選択される;ならびに
該化成コーティング上に、腐食抑制有機陰イオンの中和された金属塩を含むコーティングを塗布すること;
を含む、請求項18に記載の方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図3】
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【図4】
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【図5(A)】
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【図5(B)】
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【図5(C)】
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【公表番号】特表2010−521582(P2010−521582A)
【公表日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−552728(P2009−552728)
【出願日】平成20年3月5日(2008.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/002966
【国際公開番号】WO2008/140648
【国際公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(509249911)
【Fターム(参考)】