説明

耐越水堤防用マット及び堤防補強工法

【課題】透水透湿性を持たせると共に、被覆土と植物の根の活着を良くする効果を有せしめた耐越水堤防用マット及び、そのマットを埋設して成る堤防補強工法の提供。
【解決手段】排水機能を有する2層の長繊維不織布3a、3bの間に、合成樹脂製の防水透湿シートを介在させ、ニードルパンチ加工することによって一体化されてなる基材6の片面に、シート状三次元網目構造体2を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防に連続的に敷設する耐越水堤防用マット及びその工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、河川の護岸工法としては、図3に示すように、堤防5の堤内側の裏のり面において、堤体土の上に芝草11を貼った植生護岸とするのが一般的である。
【0003】
以上の構造の場合、図4に示すように、大規模な出水で水が堤防5を越水14すると、裏のり肩15から土の欠けこみが始まり、裏のり面10の崩壊が進行することは知られている。即ち、越水14が始まると、まず堤防5の裏のり肩15の堤体土16aが侵食される。そして、さらに越水が続くと、堤体土16b、堤体土16cの崩壊が進行し、ついには提防5全体の崩壊に至る。
【0004】
対策としては、堤防5の高さを、いかなる大規模な出水に対しても越水14以上に設定すれば良いことになるが、現実には用地の問題、技術上の問題、景観上の問題等、様々な問題が発生して不可能なことが多い。従って、実際は、100年に1回程度の頻度の低い大洪水の越水はやむなしとして、越水14による上記のような堤防の崩壊を防止するという方向で、堤防強化の工法が試みられている。
【0005】
そして、堤防強化工法としては、例えば、特許文献1に示すように、防水性シートで堤防全体について表面の数10cm内部に埋設する工法が知られている。
【0006】
この工法は、堤防の景観を保ちつつ、越流水による堤防裏法面の客土の流出が発生しても、提体の芯土の侵食は防水性シートで保護されるという考え方であるが、万が一提体内に水が浸透した場合、提体から水が排出されることがないため、内部の水圧、気圧が上昇し、危険な状態となる可能性がある。
【0007】
この問題を改良した堤防強化工法として、特許文献2に示す工法が知られている。
【0008】
図5に示すように、この工法は、半透水性土木シート17にて堤防5全体を掩覆し、越水13により客土を喪失しても提体の芯土から逆に水分を吸出すことにより芯土の侵食を防ぎ、堤防全体の決壊を防御するものである。
【0009】
しかしながら、このシートを用いて堤防全体を被覆し、更にその上を土砂で被覆する場合、平常時には被覆土9とシートの摩擦抵抗は大であるが、越水時には摩擦抵抗が低下して水流により被覆土が流失する。
【0010】
【特許文献1】実公昭50−45885号公報
【特許文献2】特許第3318619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記した被覆土の流失に対して、これを抑えた耐越水堤防用マット及び堤防補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、被覆土と植物の根の活着を良くするシート状三次元網目構造体を用いた耐越水堤防用マットを開発提供した。そして、この耐越水堤防用マットを堤防の提内側に連続的に敷設し、堤体内の空気と浸透水を堤体外部に排出し、堤防侵食を防止すると共に、シート状三次元網目構造体により植物が元来持っている耐侵食力を補強し、越水による被覆土流失が防げることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、排水機能を有する2層の長繊維不織布の間に、合成樹脂製の防水透湿シートを介在させ、ニードルパンチ加工することによって一体化されてなる基材の片面に、シート状三次元網目構造体を有することを特徴とする耐越水堤防用マットを提供する。
【0014】
本発明は、堤防の堤内側において、上記本発明の耐越水堤防用マットの前記長繊維不織布側と裏のりを対向させて、前記耐越水堤防用マットを連続的に敷設したのち、前記耐越水堤防用マットを土砂で被覆し、植生工を施すことを特徴とする堤防補強工法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透湿性により空気の移動が自由であり、適度な透水性と排水機能により浸透水が堤体外部に排出される。このことにより、堤体の内圧、水圧は上昇せず、堤防崩壊の危険が減少すると共に、越水による表層土砂の流失を抑え、掃流力を低減する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明を図1及び図2に基づいて詳細に説明する。尚、図1は、本発明の耐越水堤防用マットの一構成例を示す断面図であり、図2は、本発明の堤防補強工法が施された堤防の断面図である。
【0017】
図1に示すように、本発明の耐越水堤防用マット1は、排水機能を有する2層の長繊維不織布3a、3bの間に、合成樹脂製の防水透湿シートを介在させて、全体をニードルパンチ加工して一体化させてなる基材6を有する。
【0018】
ニードルパンチ加工により、10-8cm/sec程度の透水係数を有する防水透湿シートが、堤体土の透水係数である10-5cm/sec程度の透水係数を持った透水透湿シート4となり、本来の空気は通るが水は通さない機能が、空気も水もある程度通すシートとなる。
【0019】
防水透湿シートは、水の下層への浸透を抑え、下層部からの気体を自然排出するものであり、透水係数としては10-7×10-9cm/secが好ましく、より好適なのは8×10-8〜8×10-9である。また、透気度としては30〜400sec/100ccが好ましく、より好適なのは40〜100sec/100ccである。
【0020】
透水透湿シート4(ニードルパンチ後の防水透湿シート)の透水係数としては10-6〜10-4cm/secであることが好ましく、より好適なのは5×10-6〜5×10-5である。また、透気度としては1〜50sec/100ccが好ましく、より好適なのは5〜30sec/100ccである。
【0021】
これにより、遮水シートを用いた従来工法では成しえなかった堤体内の空気と浸透水を堤外へ排出することが可能となる。
【0022】
排水・通水性能を有する長繊維不織布3a、3bは、目付量として65〜800g/m2のものが好ましく、より好適なのは200〜300g/m2である。又、長繊維不織布3a、3bの強度としては、8kN/m以上のものが好ましく用いられる。
【0023】
ここで、長繊維不織布3a、3bとしては、ポリオレフィン、ポリエステル等の合成樹脂を、スパンボンド、メルトブロー、フラッシュ紡糸、ケミカルボンド、サーマルボンド、ニードルパンチ等の方法、好ましくはニードルパンチにより、製造したものが用いられる。
【0024】
このような長繊維不織布3a、3bは、長繊維を連続的な積層構造として生産されるため、高強度で耐久性にも優れており、越水が発生した場合に堤防表面にかかる水流方向の力によるシートの破断を防ぐために有効である。
【0025】
更に、長繊維不織布3a、3bは、サンドマットと同程度の排水性能を持つので、透水透湿シート4を通して速やかに堤体土内の浸透水と空気を堤体外部へ排出する。
【0026】
そして、長繊維不織布3a、3bと防水透湿シートが一体化したことによって形成された基材6のいずれか片面にシート状三次元網目構造体2を取付け、基材6とシート状三次元網目構造体2を一体化して本発明の耐越水堤防用マットが形成される。
【0027】
このシート状三次元網目構造体2とは、表面及び内部に連続する空隙を有するシート状の三次元構造体を意味し、越流が発生した場合の耐水流性、耐久性の面から、合成繊維の三次元構造体、高強度発泡体等が好ましく、より好適なのは合成繊維モノフィラメントの立体網状物である。
【0028】
シート状三次元網目構造体2の空隙率は、90%以上98%以下のものが好ましく、より好適なのは94%以上97%以下のものである。
【0029】
シート状三次元網目構造体2の厚みは10mm〜40mmの範囲のものが好ましく、より好適なのは10〜20mmの範囲のものである。
【0030】
シート状三次元網目構造体2の基材6への、取付け方法としては、熱溶着や接着剤、ロープ結束等があるが、より好適なのは熱溶着である。
【0031】
シート状三次元網目構造体2により、被覆土の活着を良くすると共に、植物の根との活着が良くなり、植物が元来持っている耐侵食力を補強し、被覆土の流出を防止する本発明において重要な作用効果を奏する性質が付与される。
【0032】
次に、本発明の堤防補強工法を図2に基づいて説明する。
【0033】
まず、堤防5の提内側の裏のり面10を整地した後、本発明の耐越水堤防用マット1を連続的に敷設する。この時、耐越水堤防用マット1の長繊維不織布側を裏のり面10と対向して敷設する。
【0034】
次いで、表出している耐越水堤防用マット1のシート状三次元網目構造体側に、被覆土9をかけ、耐越水堤防用マット1を被覆し、その後、芝草11を植え、植物を植生させる。植物が繁茂することにより、堤防が緑化して、自然の景観と調和させることができる。また土砂内部に植物が根を張って、耐越水堤防用マット1に絡み合うことにより土砂の流出を防止できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0036】
<実施例>
図1の耐越水堤防用マット1を形成した。
【0037】
長繊維不織布3a、3bとしては目付量が200g/m2、強度8kN/mのスパンボンド長繊維不織布(旭化成ジオテック製 ポシブルAK200)を用いた。
【0038】
防水透湿シートとしては、厚さの0.9mm、透水係数9×10-8cm/sec、透気度80sec/100ccのポリプロピレン不織布とポリエチレン不織布の積層体(旭化成ジオテック製 ADKシート)を用いた。
【0039】
シート状三次元網目構造体2としては、厚さ10mm、空隙率96%のポリエチレンポリプロピレン複合モノフィラメント立体網状物を用いた。
【0040】
まず、長繊維不織布3a、3bの間に防水透湿シートを介在させ、ニードルパンチ加工し、長繊維不織布3a、3bと防水透湿シートを一体化させ基材6を形成した。尚、ニードルパンチ後の透水係数は5×10-5cm/sec、透気度は10sec/100ccであった。
【0041】
そして、熱溶着により、基材6の片面に長繊維不織布3a、3bに取り付け一体化し、本発明の耐越水堤防用マット1を形成した。
【0042】
耐越水堤防用マット1を用いて、傾きが約18°(1:3.0)で高さが5m、幅4mの斜面の全体を覆い、耐越水堤防用マットの上に被覆土を約20cmの厚さで盛り、張芝を施工し、約1ヶ月間芝を生育させた。
【0043】
この状態で水中ポンプにて斜面天端から3時間連続放水し続け、越水が発生した状況を再現した。
【0044】
その結果、芝、被覆土とも流出は殆ど起こらなかった。
【0045】
<比較例>
シート状三次元網目構造体2を省いたマットを用いて実施例と同様の実験を繰り返した。
【0046】
その結果、放水を開始して約30分後に被覆土が流出する箇所が出現した。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の耐越水堤防用マットの一構成例を表す断面図である。
【図2】本発明の耐越水堤防用マットを堤防に埋設した本発明の堤防補強工法の縦断面図である。
【図3】従来の堤防の縦断面図である。
【図4】従来の堤防の崩壊メカニズム図である。
【図5】半透水性土木シートを埋設した堤防の縦断図面である。
【符号の説明】
【0048】
1 耐越水堤防用マット
2 シート状三次元網目構造体
3a 長繊維不織布
3b 長繊維不織布
4 透水透湿シート
5 堤防
6 基材
9 被覆土
10 裏のり面
11 芝草
14 越水
15 裏のり肩
16a 堤体土
16b 堤体土
16c 堤体土
17 半透水性土木シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排水機能を有する2層の長繊維不織布の間に、合成樹脂製の防水透湿シートを介在させ、ニードルパンチ加工することによって一体化されてなる基材の片面に、シート状三次元網目構造体を有することを特徴とする耐越水堤防用マット。
【請求項2】
堤防の堤内側において、請求項1に記載の耐越水堤防用マットの前記長繊維不織布側と裏のりを対向させて、前記耐越水堤防用マットを連続的に敷設したのち、前記耐越水堤防用マットを土砂で被覆し、植生工を施すことを特徴とする堤防補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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