説明

耐酸性および吸着性を有する組成材料

【課題】耐酸性および吸着性を有する組成材料を提案するものである。
【解決手段】PとCaを混合し、その後、Fを投下した30〜100℃の中性水溶液から粒度100nm以下の結晶として析出させたフッ化アパタイトで構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内装用及び外装用塗料、生体材料等として使用できる耐酸性および吸着性を有する組成材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からアパタイトは、生体材料として注目されている。その理由としては、人体中の骨や歯の組成物を分析するとハイドロキシアパタイトであることが知られている。
このアパタイトの特徴としては、その構造からタンパク質等を吸着することからタンパク質及びアミノ酸の分離カラムとして使用されている。一方、窒素酸化物やアルデヒド類も吸着することから、環境浄化材料としても注目されている。その吸着特性から抗菌,抗かび等にも応用されている。
【0003】
従来のアパタイト及びフッ化アパタイトの合成法は、1)溶液法(消石灰とリン酸を反応、硝酸カルシウムとリン酸アンモニウムを反応)、2)乾式法(例えばリン酸カルシウムと炭酸カルシウムを混合し、約1,000℃で焼成)、3)水熱合成法(オートクレーブを使用し、結晶を成長させる方法)、4)アルコキシド法(アルキル基を含む材料と硝酸カルシウムを混合焼成する方法)、5)フラックス法(融液中で再結晶化させる方法)等が実施されている。
例えば、特許文献1に開示されているようなフッ化アパタイトの合成法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9ー40409号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、例えばハイドロキシアパタイトの欠点としては、酸性領域では溶解することである。そのため、例えば歯の再石灰化としてハイドロキシアパタイトを使用しても、虫歯の機構を考えると、その接点は非常に酸性になるため、ハイドロキシアパタイトは溶解し、虫歯の予防としては不満足であった。一方、建築用材料としても、例えば酸性雨の影響がある場合、ハイドロキシアパタイトは溶出することが考えられる。従って、これを使用した塗料としては問題があることになる。
さらに、従来の特許文献1に開示されているような方法では、高温での生成が主であるため、結晶が成長してしまうことが考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、塗料、生体材料として使用できる耐酸性および吸着性を有する組成材料を提供せんとするものであり、その請求項1は、PとCaを混合し、その後Fを投下した30〜100℃の中性水溶液から、粒度100nm以下の結晶として析出させたフッ化アパタイトで構成されることである。
また、請求項2は、前記PがHPO3 であり、前記CaがCaCl,CaCO3 であり、前記FがNaF,KFであることである。
また、請求項3は、前記請求項1のフッ化アパタイトで二酸化チタンを被覆したことである。
【発明の効果】
【0007】
本発明の組成材料は、PとCaを混合し、その後Fを投下した30〜100℃の中性水溶液から、粒度100nm以下の結晶として析出させたフッ化アパタイトで構成されることにより、耐酸性および吸着性に優れ、塗料、生体材料として使用できるものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】0.01%塩酸水溶液中にハイドロキシアパタイトの粉末を浸し、5時間後のX線回折を示す。
【図2】0.01%塩酸水溶液中にフッ化アパタイトの粉末を浸し、5時間後のX線回折を示す。
【図3】吸着性を確認する目的で、ガスバック法による有害化学物質であるホルムアルデヒドの吸着を確認した図である。
【図4】本発明のフッ化アパタイト被覆二酸化チタンの粒度分布を示す。
【図5】本発明で用いた製造手法の二酸化チタンを含有しないフッ化アパタイトのみの粒度分布を示す。
【図6】市販で発売されているフッ化アパタイト(和光製薬製)の粒度分布を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の組成材料は、疑似体液からフッ化アパタイトを結晶として析出させる。
疑似体液は、アパタイトの組成X10(YO4)Z2;X=Ca,Sr等2価イオン、Y=P、Z=OH,F等1価イオンであり、それらを含む水溶液であれば問題はない。しかし、その溶解度の関係及び調整するpHの関係から、例えばNaCl,NaHCo3 ,KCl,CaCl,HPO3 ,NaF,KFや、例えば金属酸化物を含む水溶液でも良い。そのpH領域は、中性領域(5.0〜8.0)であることが好ましく、pH=7.0〜7.5付近が最適である。
疑似体液の温度は、30〜100℃が好ましく、析出させる時間は、数秒から20日ぐらいである。また、結晶の形状は、針状、板状、六角状等どのような形状でも良い。
【0010】
具体的には、疑似体液の組成が、Na+ 120〜1000mM,K+ 1〜300mM,Ca2+0.5〜100mM,Cl- 100〜2000mM,HCO3 - 0.5〜300mM,HPO42- 1〜200mM,SO42- 0.1〜200mM,F- 0.1mM〜300mMの範囲でFe,Cr,Zn,Al,Ni等の金属イオン1種類以上が0.1〜20mMである。さらにフッ素イオンの濃度を変化させることにより、その置換量を変えることができる。この疑似体液からの合成では不純物を含有せず、非常に細かい粒子を作成することができる。
【実施例】
【0011】
疑似体液の作成及びその調整は、フッ化アパタイトの構成元素Ca,P,Fを含む水溶液を用意する。
Caに関しては、CaCl,CaCo3 等で、Pに関しては、HPO3 等であり、Fに関してはNaF,KFである。
それと全体の水溶液のpHを中性にする目的で、炭酸塩及び塩化物を使用することが好ましい。
投下の順は、最初Pのスラスターを作成するためにPとCa水溶液を混合する。その後、Fを投下する。濃度は、すべての水溶液とも0.01M〜0.1Mの範囲である。
温度30〜50℃程度で、2時間くらいでフッ化アパタイトの結晶が析出される。
【0012】
なお、フッ化アパタイト被覆二酸化チタンを合成する場合は、予め二酸化チタンの粉末を1〜3 %くらい水に入れておき、そこにPとCa水溶液を混合し、その後、Fを投下すると、二酸化チタンがフッ化アパタイトで被覆されて析出してくる。
【0013】
このように合成したフッ化アパタイトは、ASTMカードの6方晶系の指数と一致し、良質のフッ化アパタイトであることを確認した。
さらに、合成したフッ化アパタイトの耐酸性の確認試験を行った。
0.01%塩酸水溶液中にハイドロキシアパタイトとフッ化アパタイトの粉末を浸し、5時間後のX線回折を図1および図2に示す。
耐酸性の評価は、ハイドロキシアパタイトとフッ化アパタイトともそれらの結晶面(100)のピーク高さで評価した。その結果、5時間後、浸析後のピークは、フッ化アパタイトのそれに比較してハイドロキシアパタイトのそれはかなり低くなっていることが判る。
つまり、結晶面(100)のピークが減少したことから、ハイドロキシアパタイトの結晶は、溶解したことに対し、それに比較してフッ化アパタイトの結晶は、耐酸性に優れていることが判る。
【0014】
近年、酸性雨により建材等が劣化することが言われている。建材の表面にこのアパタイトを含有した塗料を吹き付けた場合、ハイドロキシアパタイトではこの結晶が劣化してしまい劣化部分を起点として塗膜が劣化する。一方、フッ化アパタイトの塗料はこのような現象が起こらないと考えることができる。
他方、歯のエナメル質中の大部分は、ハイドロキシアパタイトで出来ていると言われており、虫歯の発生は、ハイドロキシアパタイトが非常に酸性になることにより溶けるためと理解されている。従って、歯の治療や再石灰化に関しても、フッ化アパタイトは優れていると理解できる。
しかし、その粒子の大きさが非常に重要であり、微細な結晶ほどその効果は大きいと考えることができる。つまり、究極的には、体温と同等の温度で合成する必要があり、本発明のフッ化アパタイトは非常に適していると考えられる。
【0015】
次に、吸着性を確認する目的で、ガスバック法による有害化学物質であるホルムアルデヒドの吸着を確認した(図3)。
その結果、ハイドロキシアパタイトとフッ化アパタイトはほぼ同様の減少を示し、吸着性に関しては影響を及ぼさないことを確認した。
【0016】
次に、本発明のフッ化アパタイト被覆二酸化チタンの粒度分布を図4に示す。
本発明で用いた製造手法のフッ化アパタイト被覆二酸化チタンとハイドロキシアパタイト被覆二酸化チタンの粒度分布は、殆ど同様であり、平均粒径が約100nm位であった。
【0017】
他方、本発明で用いた製造手法の二酸化チタンを含有しないフッ化アパタイトのみの粒度分布(図5)と、市販で発売されているフッ化アパタイト(和光製薬製)の粒度分布(図6)も同様の方法で測定した。
その結果、市販のフッ化アパタイトの粒径に対し、本発明のそれは非常に微細であることが判る。従って、本発明のように室温近くでの合成は、非常に微細な結晶を得ることができた。さらに室温近くの合成であるため市販のフッ化アパタイトに比較して非常に安価であることも特徴である。
【0018】
なお、本発明で用いた製造手法のフッ化アパタイト被覆二酸化チタンを原料として水性塗料及び溶剤系塗料の試作を行ない、その物性について評価した。
水性塗料及び溶剤系塗料の配合を以下に示す。
水性塗料 重量部
フッ化アパタイト被覆二酸化チタン 5.0〜15.0%
アクリル樹脂(ウレタン樹脂) 6.0〜13.0%
分散剤 0.5〜3.0%
消泡剤 0.1〜0.3%
増粘剤 3.0〜6.0%

溶剤系塗料 重量部
フッ化アパタイト被覆二酸化チタン 1.0〜5.0%
アクリルシリコン樹脂 35.0〜45.0%
溶剤 40.0〜50.0%
分散剤 0.1〜2.0%
消泡剤 0.1〜0.3%
増粘剤 3.0〜6.0%
イソシアネート系硬化剤 10.0〜18.0%

その結果、 最適条件におけるエンピツ硬度は、水性塗料でH、溶剤系塗料で4Hであった。
テープカット(10/10)は、両方とも10点であり、最高レベルであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
PとCaを混合し、その後Fを投下した30〜100℃の中性水溶液から粒度100nm以下の結晶として析出させたフッ化アパタイトで構成される耐酸性および吸着性を有する組成材料。
【請求項2】
前記PがHPO3 であり、前記CaがCaCl,CaCO3 であり、前記FがNaF,KFである請求項1に記載の耐酸性および吸着性を有する組成材料。
【請求項3】
前記請求項1のフッ化アパタイトで二酸化チタンを被覆したことを特徴とする耐酸性および吸着性を有する組成材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−241617(P2010−241617A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−89621(P2009−89621)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000225430)
【Fターム(参考)】