説明

耐雷防爆用ファスナ

【課題】十分なアーク発生抑制効果を発揮しつつ、ファスナ部材と締結部材とによる締結力を確実に発揮し、作業安定性にも優れる耐雷防爆用ファスナを提供することを目的とする。
【解決手段】絶縁カバー50Aは、締結部材26の先端面26aを覆う先端被覆部50aに対し、段部40、41に嵌り込む外周側筒状部50c、内周側筒状部50bの、ファスナ本体25の軸線方向における寸法が大きくなるようにした。これにより、締結部材26の外周側、内周側においては、外周側筒状部50c、内周側筒状部50bにより、部材22との距離を十分に確保する。一方、先端被覆部50aは外周側筒状部50c、内周側筒状部50bよりも薄く、したがって、ファスナ本体25と締結部材26とを締結したときに、先端被覆部50aが厚さ方向に変形する量を小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の機体、特に翼や胴体に設置される燃料タンク等の可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位に用いられる耐雷防爆用ファスナに関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体を構成する翼は一般に中空構造となっており、翼表面を形成する翼面パネルは、翼内部にある構造部材にファスナ部材(留め具)によって固定されている。
このとき、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、翼面パネルおよび翼内部の構造部材の双方に形成された貫通孔に翼の外部側から挿入し、その先端部を翼の内部側から締結金具で固定することで、翼面パネルと構造部材とを締結する。
また、この他にも翼内部や胴体部で、翼面パネル以外の構造部材や装備品の固定用の部材もファスナ部材によって締結・固定されている。
このとき、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、互いに固定される部材の双方に形成された貫通孔の双方を通過するように挿入し、その先端部を締結部材(カラー)で固定することで双方の部材を締結する。
なお、固定される翼面パネルまたは部材は2つに限らない。
【0003】
ところで、航空機においては、防爆のための被雷対策を万全に期す必要がある。航空機に被雷が発生して主翼等の翼面パネルや構造部材に大電流が流れると、上記のファスナ本体および締結部材による締結部にその一部、場合によっては全部が流れる。その電流値が各締結部における通過許容電流の限界値を超えると、電気的アーク(あるいはサーマルスパーク)と呼ばれる放電が発生する(以下、本明細書中ではこれをアークと称する。)。これは、締結部を通過する電流により締結部を構成する主として導電部材からなる部材の締結界面の局部に急激な温度上昇が生じて溶融し近傍の大気中に放電が発生する現象で、多くの場合、溶融部分からホット・パーティクルと言われる溶融物の飛散が発生する。一般に翼の内部空間は燃料タンクを兼ねているため、この被雷時において、アークの発生を抑えるか、あるいは、アークを封止することによって発生したアークの放電とそこから飛散するホット・パーティクルが可燃性の燃料蒸気に接触しないようにして発火を防止し、防爆対策を施す必要がある。ここで、可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位とは、翼内部および胴体部の、燃料タンク内部、一般に燃料タンクの翼端側に設置されるサージタンク(ベントスクープやバーストディスクなどが設置されるタンク)内部、燃料系統装備品内部等である。
【0004】
ここで、アークの発生の抑止対策、発生したアークの封止対策は、ファスナ本体および締結部材による締結部において、ファスナ本体および締結部材のあらゆる部位と、これらの部位に接触する翼面パネルおよび構造部材との結合界面において検討する必要がある。
このうち、締結部材と、構造部材との結合界面においては、従来、絶縁性の材料からなるワッシャおよびスペーサを挟み込むことにより、締結部材の座面と構造部材の表面との間の結合界面を絶縁し、これによって、この部分の電流を遮断し、この部分でのアークの発生抑制の効果を強化していた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−227166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示す技術においては、締結部材と構造部材との間に絶縁性材料からなるワッシャおよびスペーサを挟み込んでいるため、ファスナ部材と締結部材とによる締結力を十分に発揮できなかったり、締結部材をファスナ部材に装着するときの手ごたえに乏しいという問題があった。
すなわち、ワッシャおよびスペーサを絶縁性材料で形成する場合、一般には樹脂系材料が採用される。樹脂系材料でワッシャおよびスペーサを形成すると、ファスナ部材と締結部材とを締結したときに、ワッシャおよびスペーサがその厚さ方向に変形してしまう。締結力を高めようとすると、ワッシャおよびスペーサがつぶれてしまい、締結力を十分に発揮できなくなることがある。
また、締結時にワッシャおよびスペーサが変形することによって、締結部材をファスナ部材に装着するときの手ごたえが損なわれる。すると、締結部材をどこまでねじ込めば良いのか、作業者が把握しにくく、作業の安定性が損なわれる。
【0007】
さらに、これらのワッシャおよびスペーサを装着することを作業者が忘れてしまうと、これらのワッシャおよびスペーサでの電流遮断によるアーク発生抑制の強化の効果が得られない問題がある。
また、構造部材の穴壁面に絶縁性の塗料が塗布され、さらにファスナ部材に絶縁性の表面処理が施されているときは、ファスナ部材や締結部材と構造部材とが電気的に接続されないことになる。このとき、締結部材の外周縁部に電界が集中し、締結部材の外周縁部と構造部材の間で絶縁破壊が発生し、スパークが生じるおそれがある。
【0008】
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、十分なアーク発生抑制効果を発揮しつつ、ファスナ部材と締結部材とによる締結力を確実に発揮し、作業安定性にも優れる耐雷防爆用ファスナを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的のもとになされた本発明の耐雷防爆用ファスナは、航空機の機体を構成する少なくとも二つの部材を締結するため、すべての部材に形成された孔に貫通させて設けられるファスナ本体と、部材どうしを締結するためにファスナ本体の部材から突出した部位に装着される締結部材と、締結部材において、少なくとも部材に対向する先端面を覆う絶縁カバーと、を備え、締結部材の先端面の外周部および内周部にそれぞれ段部が形成され、絶縁カバーは、締結部材の先端面を覆う先端被覆部と、先端被覆部の外周部から先端面に直交して立ち上がり、先端面の外周部の段部に嵌り込む外周側筒状部と、先端被覆部の内周部から先端面に直交して立ち上がり、先端面の内周部の段部に嵌り込む内周側筒状部と、を有することを特徴とする。
これにより絶縁カバーは、先端被覆部の厚さに対し、外周側筒状部および内周側筒状部の厚さ(先端被覆部からの立ち上がり寸法)の方が大きくなる。締結部材の外周側、内周側においては、外周側筒状部、内周側筒状部により、部材との距離を十分に確保することができ、締結部材と部材の間で生じる絶縁破壊や沿面放電によるスパークを防ぐことが出来る。
また、先端被覆部は、外周側筒状部、内周側筒状部よりも薄く、したがって、ファスナ本体と締結部材とを締結したときに、先端被覆部が厚さ方向に変形する量を小さくすることができ、ファスナ本体と締結部材の締結強度を確保するとともに、ファスナ本体と締結部材を締め込んでいったときの手ごたえを損なうのを防ぐことができ、作業安定性が優れたものとなる。
【0010】
また、締結部材の外周部の段部に内周側に向けて凹となる溝が形成され、絶縁カバーの外周側筒状部に、溝に嵌め込まれる突条が形成されていてもよい。
溝と突条とが嵌め合うことで、絶縁カバーが不用意に締結部材から外れるのを防止できる。
【0011】
絶縁カバーは、内周側筒状部、外周側筒状部の先端部がそれぞれ段部の底面に突き当たった状態で、底面の外周側、内周側が露出する構成とすることもできる。
ここで、絶縁カバーの内周側筒状部とファスナ本体との隙間、および外周側筒状部の外周側と前記部材との間の少なくとも一方にシーラントを充填することもできる。
【0012】
また、締結部材の外周縁部が、段部に嵌め込まれた外周側筒状部よりも外周側に突出している構成とすることもできる。
さらに、締結部材の外周縁部を丸め加工することもできる。
【0013】
また、絶縁カバーは、カバーの外周面を覆う外周被覆部と、カバーの天面を覆う天面被覆部とをさらに備えることもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、十分なアーク発生抑制強化の効果を発揮しつつ、ファスナ部材と締結部材とによる締結力を確実に発揮し、作業安定性を優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第一の実施形態における耐雷防爆用ファスナの構成を示す図であり、(a)は耐雷防爆用ファスナにより部材を締結した状態の断面図、(b)は締結部材に設けた絶縁カバーを示す半断面図である。
【図2】図1に示した絶縁カバーを形成するための金型の一例を示す図である。
【図3】第二の実施形態における耐雷防爆用ファスナの構成を示す図であり、(a)は耐雷防爆用ファスナにより部材を締結した状態の断面図、(b)は締結部材に設けた絶縁カバーを示す半断面図である。
【図4】図3に示した絶縁カバーを形成するための金型の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
[第一の実施形態]
図1は、以下に示す第一の実施形態における耐雷防爆用ファスナを適用した航空機の機体を構成する翼の一部の断面図である。
図1(a)に示すように、翼(航空機組立品)20は、その外殻が、例えばアルミ合金等の金属材料や、炭素繊維と樹脂との複合材料であるCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)やガラス繊維と樹脂との複合材料であるGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics)からなる翼パネル(部材)21によって形成されている。翼20の内部に設けられる、補強のための構造部材(リブなど)や燃料タンク、各種の機器が、アルミ合金等の金属材料や複合材料により形成されたステー等の部材22を介して翼パネル21に固定されている。そして、ステー等の部材22は、耐雷防爆用ファスナ24によって翼パネル21に取り付けられている。
なお、図には示さないが、翼パネル21は、複合材料の場合、直撃の雷が着雷する可能性のある部位には表面側に金属のフォイルあるいはメッシュなどが張られていることが多い。また、翼パネル21の外面には防食などのため、金属でも複合材料でも、プライマーと塗料が塗布されていることが多く、翼パネル21のその他の面や内部の構造部材には、電気的導通を必要とする部分以外にはプライマーが塗布されていることが多い。
【0017】
耐雷防爆用ファスナ24は、ピン状のファスナ本体25と、翼20の内部側でファスナ本体25に装着される締結部材26とから構成される。
ファスナ本体25および締結部材26は、強度の面から一般に金属材料(たとえば、チタン、ステンレススチール、アルミニウムなど)により形成される。
【0018】
ピン状をなしたファスナ本体25は、先端部にネジ溝25aが形成され、後端部は先端部側より拡径した頭部25bとされている。このファスナ本体25は、翼パネル21および部材22を貫通して形成された孔21a、22aに翼20の外側から挿入され、後端部の頭部25bを孔21aの周囲面に突き当てた状態で、先端部を翼20の内方に突出させる。ファスナ本体25の材質の表面処理は、使用される部位や施工方法により、無垢のもの、アルミナなどの絶縁被膜処理のもの、イオン蒸着による導電処理などを用いることが出来る。
【0019】
締結部材26は、筒状で、その内周面にはファスナ本体25のネジ溝25aに噛み合うネジ溝26nが形成されている。この締結部材26は、翼20の内方に突出したファスナ本体25のネジ溝25aにねじ込まれる。これによって、翼パネル21と部材22とは、ファスナ本体25の頭部25bと締結部材26とによって挟み込まれ、部材22が翼パネル21に固定されている。ここで、締結部材26は、ファスナ本体25にねじ込んだ後の緩みを防止できるセルフロック式とするのが好ましい。また、締結部材26は、規定のトルクに達したときに六角形状などをしたナット状のヘッドが切れる構造となっている、トルクオフ式としても良い。あるいは、機器を取り付けるための結合であって、メンテナンスなどのために着脱が必要な場合には、ダブルヘックス式などの取り外し可能な締結部材としても良い。
なお、この状態で、ファスナ本体25の軸部の先端部25cは、締結部材26よりも翼20の内周側に突出し、さらに、ネジ溝25aを締結部材26から翼20の内周側に露出させている。
【0020】
さて、翼20の内部空間側において、ファスナ本体25には、キャップ30が装着されている。
キャップ30は、断面円形で、一端部30a側のみが開口し、他端部30b側に向けてその内径および外径が漸次縮小する形状とされている。このキャップは、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、ポリイミド、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂)、ナイロン樹脂等の絶縁性を有した樹脂により形成するのが好ましい。
キャップ30の他端部30b側の内周面には、断面円形の有底状のネジ穴31が形成されている。キャップ30は、一端部30aを部材22に押し当てた状態で、ネジ穴31にファスナ本体25の先端部25cがねじ込まれることで、キャップ30がファスナ本体25に対し、容易かつ確実に位置決め固定できるようになっている。
【0021】
キャップ30をファスナ本体25に装着した状態では、キャップ30の内部に、絶縁性を有したシーラント剤35が充填される。このシーラント剤35が、キャップ30の内周面とファスナ本体25および締結部材26との間に介在することで、ファスナ本体25と部材22の間や、ファスナ本体25と締結部材26の間や、締結部材26と部材22の間で発生するアークの封止効果を高めている。
【0022】
図1(b)に示すように、締結部材26には、部材22に対向する先端面26aの外周縁部および内周縁部に、周方向に連続し、先端面26aに対して凹となるよう形成された段部40、41が形成されている。段部40、41の底面40a、41aは、それぞれ先端面26aと平行に形成されている。
また、段部40において、底面40aの内周側で底面40aに直交して立ち上がる側面40bには、周方向に連続し、径方向に凹となるよう形成された溝42が形成されている。
【0023】
締結部材26の外周面26bと、段部40の底面40aとによりなされる締結部材26の外周縁部26cには、所定の曲率半径で丸め加工がなされている。これにより、締結部材26の外周縁部26cと部材22の間で電界集中による放電のスパークが生じないようにし、締結部材26の耐雷性能を強化している。
【0024】
このような締結部材26の先端部には、樹脂系材料等の絶縁性材料からなる絶縁カバー50Aが設けられている。絶縁カバー50Aを形成する絶縁性材料としては、熱可塑性ポリイミド樹脂、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂、PEEKはビクトレックス社(英国)の登録商標)、PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、ナイロン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、あるいは、硬質ゴム等の樹脂等を用いるのが好ましい。これらは、航空機燃料タンク内で使用する樹脂として、機械的強度、耐油性、耐寒・耐熱性、等の点で信頼性が確認されている。
【0025】
絶縁カバー50Aは、締結部材26の先端面26aを覆い、部材22に突き当たる先端被覆部50aと、先端被覆部50aの内周側で先端被覆部50aに直交する方向に立ち上がって段部41に嵌り込む内周側筒状部50bと、先端被覆部50aの外周側で先端被覆部50aに直交する方向に立ち上がって段部40に嵌り込む外周側筒状部50cと、外周側筒状部50cの先端部から内周側に突出して溝42に嵌り込む環状の突条50dとを有している。
【0026】
そして、内周側筒状部50b、外周側筒状部50cは、その厚さt1、t2が段部40、41の幅よりも小さく、内周側筒状部50b、外周側筒状部50cの先端部がそれぞれ底面40a、41aに突き当たった状態で、底面40aの外周側、底面41aの内周側が露出するようになっている。
【0027】
このような絶縁カバー50Aを備えた締結部材26は、以下のようにして製作される。
すなわち、図2に示すように、金型100、101内に締結部材26をセットする。このとき、一方の金型100に形成された凹部103に締結部材26を収容し、凹部103の底部から立設された軸104を締結部材26に挿入する。また、凹部103の底部には、締結部材26を金型101側に押圧するバネ等からなる押圧部材105が設けられている。
そして、金型100、101を閉じると、押圧部材105により締結部材26が金型101に押し付けられ、他方の金型101の先端面101a、101bが、締結部材26の段部40、41の底面40aの外周側、底面41aの内周側に突き当たるようにする。
【0028】
そして、締結部材26と、金型101の金型面101cとの間に形成されたキャビティ102に樹脂を充填することにより、締結部材26の先端部に絶縁カバー50Aを一体に形成する。
【0029】
上述したような構成によれば、締結部材26の先端部が絶縁カバー50Aで覆われているので、締結部材26と部材22との結合界面において絶縁を図り、この部分におけるアークの発生を抑制することができる。また、絶縁カバー50Aが締結部材26に一体化されているため、当然、絶縁カバー50Aを装着し忘れるということもなく、アーク発生抑制強化の効果を確実に得ることができる。また、ワッシャやスペーサを装着する手間も省け、作業効率が高まる。加えて、絶縁性材料からなる下地処理や塗膜を形成することを省略することもでき、この点においても作業効率向上、低コスト化を図ることができる。
さらに、絶縁カバー50Aは、締結部材26の先端面26aを覆う先端被覆部50aに対し、段部40、41に嵌り込む外周側筒状部50c、内周側筒状部50bの、ファスナ本体25の軸線方向における寸法(厚さ)が大きくなっている。これにより、締結部材26の外周側、内周側においては、外周側筒状部50c、内周側筒状部50bにより、部材22との距離を十分に確保することができるので、締結部材26と部材22間の絶縁破壊、および絶縁層を挟んで生じる沿面放電を抑制することができる。締結部材26の段部40、41と部材22の間で起こりうる絶縁破壊、沿面放電によるスパークに起因する燃料タンクの爆発防止を防ぐことができる。
【0030】
一方、先端被覆部50aは外周側筒状部50c、内周側筒状部50bよりも薄く、したがって、ファスナ本体25と締結部材26とを締結したときに、先端被覆部50aが厚さ方向に変形する量を小さくすることができ、ファスナ本体25と締結部材26の締結強度を確保するとともに、ファスナ本体25と締結部材26を締め込んでいったときの手ごたえを損なうのを防ぐことができ、作業安定性が優れたものとなる。
【0031】
また、締結部材26の段部41に溝42が形成され、この溝42に絶縁カバー50Aの突条50dが嵌り込む構成となっているので、絶縁カバー50Aが締結部材26から不用意に脱落するのが防止できる。これにより、作業中における締結部材26の取り扱いが容易となる。
【0032】
そして、内周側筒状部50b、外周側筒状部50cの先端部がそれぞれ底面40a、41aに突き当たった状態で、底面40aの外周側、底面41aの内周側が露出するようになっている。これにより、図2に示したように絶縁カバー50Aを締結部材26に一体成形するときに、他方の金型101の先端面101a、101bが、締結部材26の段部40、41の底面40aの外周側、底面41aの内周側に突き当たる。その結果、絶縁カバー50Aの形成時に、絶縁カバー50Aを形成する絶縁性材料が締結部材26のネジ溝26nや外周面26bに流れ込まないようにすることができる。
また、絶縁カバー50Aが締結部材26から外周側に突出しない構成となるので、絶縁カバー50Aが不用意な物と衝突や、作業者が身体に引っ掛けることにより外れるのを防止できる。
【0033】
また、内周側筒状部50b、外周側筒状部50cの先端部がそれぞれ底面40a、41aに突き当たった状態で、底面40aの外周側、底面41aの内周側が露出することで、内周側筒状部50bの内周面とファスナ本体25との隙間、および外周側筒状部50cの外周側に、それぞれシーラントを充填することもできる。これによりファスナ本体25と貫通孔21a、貫通孔22aとの結合界面で発生したアークの封止が可能になるため、耐雷性能がさらに高まる。
【0034】
さらに、締結部材26の外周縁部26cは、所定の曲率半径で丸め加工がなされているので、外周縁部26cに電界が集中するのを防ぎ、外周縁部26cと部材22との間でアークが生じるのを防ぐことができる。
【0035】
[第二の実施形態]
次に、本発明の第二の実施形態について説明する。
以下においては、上記第一の実施形態で示した構成に対し、絶縁カバー50Aの構成が異なるのみで、他の構成については上記第一の実施形態と共通する。そこで、以下では、上記第一の実施形態と共通する構成については同符号を付す等してその説明を省略する。
【0036】
図3に示すように、本実施形態における絶縁カバー50Bは、締結部材26の先端面26aを覆い、部材22に突き当たる先端被覆部50aと、先端被覆部50aの内周側で先端被覆部50aに直交する方向に立ち上がって段部41に嵌り込む内周側筒状部50bと、先端被覆部50aの外周側で先端被覆部50aに直交する方向に立ち上がって段部40に嵌り込むとともに締結部材26の外周面26bを覆う外周被覆部50fと、締結部材26の天面26dを覆う天面被覆部50gと、を有する。
ここで、締結部材26に形成された溝42に嵌り込む環状の突条50dをさらに備えることもできるが、本実施形態においては、溝42を廃した構成とすることもできる。その場合、図3(b)中に二点鎖線に示すように、締結部材26の外周縁部26cを、締結部材26の先端面26aに連続するよう、大きな曲率半径で丸め加工することもできる。これにより、外周縁部26cに電界が集中するのを防ぎ、外周縁部26cと部材22との間で絶縁破壊や沿面放電によるスパークが生じるのを防ぐことができる。
【0037】
このような絶縁カバー50Bは、図4に示すように、図2に示したのとほぼ同様の金型110、111により締結部材26に一体成形することができる。このとき、締結部材26は、金型110に形成された凹部103の軸104が挿入され、押圧部材105により上方に向けて押圧された状態で支持される。
そして、金型110、111を閉じると、押圧部材105により締結部材26が金型111に押し付けられる。この状態で、金型110の金型面110c、金型111の金型面111cとの間に形成されたキャビティ112に樹脂を充填することにより、締結部材26に絶縁カバー50Bを一体に形成することができる。
【0038】
上述したような構成よれば、上記第一の実施形態で示したのと同様の作用効果が得られるほか、外周被覆部50fおよび天面被覆部50gにより締結部材26の外周面26bおよび天面26dを覆うことで、絶縁カバー50Bの締結部材26からの脱落を防止できる。
また、これにより溝42を廃する構成とすることもできるので、締結部材26の加工が容易となる。
【0039】
なお、上記実施の形態では、翼20に用いられる耐雷防爆用ファスナを中心に記載したが、本発明は、航空機の胴体など他の部位に用いられる防爆用の耐雷防爆用ファスナについても同様の効果がある。
また、締結部材26の各部の形状、絶縁カバー50A、50Bの各部の形状は、本発明の主旨の範囲内で適宜変更することが可能である。また、締結部材26、絶縁カバー50A、50B以外の部材の構成については、何ら限定する意図はなく、適宜他の構成を採用することが出来る。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0040】
20 翼
21 翼パネル
21a 孔
22 部材
24 耐雷防爆用ファスナ
25 ファスナ本体
25a ネジ溝
25b 頭部
25c 先端部
26 締結部材
26a 先端面
26b 外周面
26c 外周縁部
26d 天面
30 キャップ
30a 一端部
30b 他端部
31 ネジ穴
35 シーラント剤
40、41 段部
40a、41a 底面
40b 側面
42 溝
50A、50B 絶縁カバー
50a 先端被覆部
50b 内周側筒状部
50c 外周側筒状部
50d 突条
50f 外周被覆部
50g 天面被覆部
100、101、110、111 金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機体を構成する少なくとも二つの部材を締結するため、すべての前記部材に形成された孔に貫通させて設けられるファスナ本体と、
前記部材どうしを締結するために前記ファスナ本体の前記部材から突出した部位に装着される締結部材と、
前記締結部材において、少なくとも前記部材に対向する先端面を覆う絶縁カバーと、を備え、
前記締結部材の前記先端面の外周部および内周部にそれぞれ段部が形成され、
前記絶縁カバーは、前記締結部材の前記先端面を覆う先端被覆部と、前記先端被覆部の外周部から前記先端面に直交して立ち上がり、前記先端面の外周部の段部に嵌り込む外周側筒状部と、前記先端被覆部の内周部から前記先端面に直交して立ち上がり、前記先端面の内周部の段部に嵌り込む内周側筒状部と、を有することを特徴とする耐雷防爆用ファスナ。
【請求項2】
前記締結部材の外周部の前記段部に内周側に向けて凹となる溝が形成され、
前記絶縁カバーの前記外周側筒状部に、前記溝に嵌め込まれる突条が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の耐雷防爆用ファスナ。
【請求項3】
前記絶縁カバーは、前記内周側筒状部、前記外周側筒状部の先端部がそれぞれ前記段部の底面に突き当たった状態で、前記底面の外周側、内周側が露出するようになっていることを特徴とする請求項2に記載の耐雷防爆用ファスナ。
【請求項4】
前記締結部材の外周縁部が、前記段部に嵌め込まれた前記外周側筒状部よりも外周側に突出していることを特徴とする請求項3に記載の耐雷防爆用ファスナ。
【請求項5】
前記絶縁カバーの前記内周側筒状部と前記ファスナ本体との隙間、および前記外周側筒状部の外周側と前記部材との間の少なくとも一方にシーラントを充填することを特徴とする請求項3または4に記載の耐雷防爆用ファスナ。
【請求項6】
前記締結部材の外周縁部が丸め加工されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の耐雷防爆用ファスナ。
【請求項7】
前記絶縁カバーは、前記カバーの外周面を覆う外周被覆部と、前記カバーの天面を覆う天面被覆部とをさらに備えることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の耐雷防爆用ファスナ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−206662(P2012−206662A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75143(P2011−75143)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)
【Fターム(参考)】