説明

耐電圧性を向上させた電気二重層キャパシタ用の分極性電極材およびこれを用いた電気二重層キャパシタ

【課題】本発明の目的は、エネルギー密度が高く、かつ、静電容量や抵抗の経時劣化が少ない、すなわち長期信頼性に優れた高耐電圧タイプの電気二重層キャパシタ用の分極性電極材、およびこれを用いた電気二重層キャパシタを提供することにある。
【解決手段】本発明により、電気二重層キャパシタにおいて用いられ、多孔質炭素粒子、導電補助剤、酸化タングステン粉末、およびバインダーを含んでなることを特徴とする、分極性電極材が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー密度および長期信頼性の向上を目的とした、耐電圧性を向上させた電気二重層キャパシタ用の分極性電極材、およびこれを用いた電気二重層キャパシタに関係する。具体的には、エネルギー密度が高く、かつ、静電容量の経時低下や抵抗の経時上昇といった経時劣化が少ない、すなわち長期信頼性に優れた高耐電圧タイプの電気二重層キャパシタ用の分極性電極材、およびこれを用いた電気二重層キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気二重層キャパシタは、正負一対の分極性電極と電解質溶液との界面で電解質イオンが吸着/脱着することにより形成される電気二重層の静電容量を利用した蓄電素子である。
【0003】
電気二重層キャパシタの用途としては、メモリーバックアップ用等の小容量タイプから、電気自動車の補助電源、太陽電池用補助電源、風力発電用補助電源および瞬停補償装置等の中容量タイプおよび大容量タイプまで幅広く検討されている。
【0004】
電気二重層キャパシタの特性として、静電容量(C)、使用電圧(V)、エネルギー密度(E)、内部抵抗、および使用寿命等がある。いずれの特性の向上も重要であるが、最近では特に、電気二重層キャパシタの短所であるエネルギー密度の向上と、長所である使用寿命のさらなる延長(長期信頼性の向上)が、上述した小容量タイプから大容量タイプの用途においても求められるようになってきた。
【0005】
電気二重層キャパシタのエネルギー密度(E)は使用電圧の二乗に比例する(エネルギー密度 E=0.5×C×V×V(ここでC:静電容量、V:使用電圧))ので、使用(耐)電圧を高めることがエネルギー密度の向上には有効である。
【0006】
電気二重層キャパシタには、その電解質溶液が水系のものと非水系のものとがある。水系電解質溶液を使用した場合には、低抵抗タイプの電気二重層キャパシタが得られるという利点があるが、使用電圧は水の電気分解が起こる電圧以下に抑える必要があり、0.8V程度で使用される。これに対して非水系電解質溶液の場合は、より高い電圧での使用が可能で、通常の場合で、使用電圧は2.5V程度、より高圧の場合には2.7V程度で使用される。最近ではより高いエネルギー密度が求められるようになってきている。例えば、電気二重層キャパシタの仕様のひとつである5.5V(電気二重層キャパシタ2個を直列に接続することにより得られる)を達成するために、3.0Vでの使用電圧が可能なキャパシタが強く求められるようになってきている。しかしながら、使用電圧の上昇は電気二重層キャパシタの経時劣化(静電容量の経時低下、抵抗の経時上昇)を加速させてしまうという恐れがあり、電気二重層キャパシタの特長である長期信頼性を損なうという問題点があった。
【0007】
電気二重層キャパシタの経時劣化の原因は定かではないが、以下の機構が考えられる。電気二重層キャパシタ内部には、電解質溶液中の残存水分、組み立て時に混入する水分がある。また、電極層に使用した活性炭、導電補助剤、バインダーおよびセパレータ等の表面および内部に物理吸着水や化学結合型吸着水が存在する。これらの水分は、充放電を繰り返し行う間に、水として脱離し、電圧印加により電気分解し、ガスを発生するとともに、電解質(溶液)の分解を引き起こし、分解物を生成する。これらの分解生成物は活性炭の表面を被覆したり、活性炭の細孔を閉塞したりすることによって、活性炭の表面積を低下させ、静電容量の低下を引き起こす。また、これらの分解生成物はセパレータの開口部を閉塞することにより抵抗の上昇も引き起こす。
電解質溶液の分解を避けるのは困難である、なぜなら、電気二重層キャパシタに使用される活性炭が、吸着容量を上昇させるために大きな表面積を有していることから触媒作用を有しているためである。この触媒作用は活性炭表面の官能基によって引き起こされるといわれている。(非特許文献1参照)
【0008】
これらのことから、高耐電圧電気二重層キャパシタの開発には、水分の低減、分解生成物による活性炭の表面積低減の抑制、電解質溶液の分解の抑制が有効と考えられている。なお、これらの開発手法は、それぞれが独立しているものではなく、互いに関連していると考えられる。また、上述したように電気二重層キャパシタの経時劣化メカニズムが定かでないこともあり、水分の低減、分解生成物による活性炭の表面積低減の抑制、電解質溶液の分解の抑制だけが、高耐電圧電気二重層キャパシタの開発に有効な手法というわけではない。
【0009】
電気二重層キャパシタ内の水分を低減するための方法として、例えば、セパレータの材質を改良し、高温かつ長時間の乾燥条件でも劣化しないセパレータを開発することによって、電気二重層キャパシタの高耐電圧で長寿命化が達成されることが報告されている(例えば、特許文献1、2参照)。セパレータを改良することにより、乾燥温度条件を高めることが可能である。しかしながら、電気二重層キャパシタ内の他の構成部位、例えばバインダーや接着層に用いられた有機物成分が劣化し、活性炭やセパレータを被覆あるいは細孔を閉塞させてしまい、静電容量の低下を引き起こしてしまうという問題や、接着面の剥離にともない抵抗が上昇するという問題があった。また、活性炭細孔内部の水分や活性炭表面の官能基を完全に除去するには真空中あるいは不活性ガス気流下で数百℃の加熱処理が必要であり、満足な結果が得られない。
【0010】
これとは別に、炭素繊維織布に賦活処理を行ったあと、不活性ガス雰囲気下、700〜1000℃で熱処理を行うことにより、活性炭素繊維織布に吸着された水分や表面官能基を除去することにより、高耐電圧で、長期信頼性に優れた電気二重層キャパシタが得られることが報告されている(例えば、特許文献3参照)。活性炭素繊維織布を不活性ガス雰囲気下において、700〜1000℃で熱処理を行うことにより、活性炭素繊維織布に吸着された水分や表面官能基を除去することは可能である。しかしながら、除去後の活性炭素繊維織布は完全に除湿された状況で保管され、電気二重層キャパシタの組み立てを行わなければ、水分の再吸着や表面官能基の再導入が行われるという問題があり、実用的ではない。
【0011】
これとは別に、電解質溶液の分解が正極内部で発生する水分に起因する酸によって引き起こされると考え、活性炭分極性電極中に種々の制酸剤を添加した例(例えば、特許文献4参照)が報告されている。また、発生した水分が電気分解することによって生じた水素イオンにより電解質溶液の分解が起きると考え、水素イオンと反応もしくは吸収することにより水素イオンを低減させる、例えばアルミニウム粉末を電極内部に添加する例(例えば、特許文献5参照)が報告されている。しかしながら制酸剤は場合によっては、電気二重層キャパシタの充放電時に分解したり電解液と反応したりするという問題がある。アルミニウム粉末の添加の場合、アルミニウムが電解質イオンと反応し、例えばフッ化アルミニウムなどが合成されることがある。フッ化アルミニウムは絶縁体であり、抵抗を上昇させてしまう可能性があり、あまり好ましいことではない。
【0012】
分極性電極の主成分である、炭素材料の表面官能基を有機ケイ素化合物と反応させて化学結合でキャップすることにより、表面官能基によるガス発生や、電解質溶液との反応を抑制することが報告されている(例えば、特許文献6参照)。有機ケイ素化合物を用いることにより、活性炭の表面官能基をキャップする方法は、製造条件によっては、表面官能基のキャップだけではなく、炭素材料の細孔も閉塞し、これにより静電容量を低下させるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2007−67155号明細書
【特許文献2】特開2008−112827号明細書
【特許文献3】特開2003−209029号明細書
【特許文献4】特開2007−73810号明細書
【特許文献5】特開平10−106900号明細書
【特許文献6】特開2008−252062号明細書
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】「次世代キャパシタ開発最前線」直井勝彦、西野敦監修、技術教育出版社、2009、P91およびP141
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
したがって、本発明の目的は、エネルギー密度が高く、かつ、静電容量や抵抗の経時劣化が少ない、すなわち長期信頼性に優れた高耐電圧タイプの電気二重層キャパシタ用の分極性電極材、およびこれを用いた電気二重層キャパシタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によると、
(1)電気二重層キャパシタにおいて用いられ、多孔質炭素粒子、導電補助剤、酸化タングステン粉末、およびバインダーを含んでなることを特徴とする、分極性電極材が提供される。
【0017】
さらに本発明によると、
(2)前記電気二重層キャパシタが非水系電解質溶液を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の電極材が提供される。
【0018】
さらに本発明によると、
(3)前記多孔質炭素粒子が、1000m/g以上3000m/g以下のBET比表面積を有する活性炭であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の電極材が提供される。
【0019】
さらに本発明によると、
(4)前記酸化タングステン粉末が、前記多孔質炭素粒子、導電補助剤、およびバインダーを合わせた合計質量を100質量部として、2質量部以上40質量部以下の比率で添加されることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電極材が提供される。
【0020】
さらに本発明によると、
(5)前記酸化タングステン粉末の平均粒子径が0.1μm以上50μm以下であることを特徴とする、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の電極材が提供される。
【0021】
さらに本発明によると、
(6)圧延処理によりシート状にされたものであることを特徴とする、(1)〜(5)のいずれか1項に記載の電極材が提供される。
【0022】
さらに本発明によると、
(7)前記バインダーがポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の電極材が提供される。
【0023】
さらに本発明によると、
(8)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の電極材を、セパレータを介して少なくとも負極側に配置してなることを特徴とする、電気二重層キャパシタが提供される。
【0024】
さらに本発明によると、
(9)(1)〜(7)のいずれか1項に記載の電極材の正負一対を、セパレータを介して配置してなることを特徴とする、電気二重層キャパシタが提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、エネルギー密度および長期信頼性の向上を目的とした、耐電圧性の高い電気二重層キャパシタ用の分極性電極材、およびこれを用いた電気二重層キャパシタが得られる。具体的には、エネルギー密度が高く、かつ、静電容量や抵抗の経時劣化が少ない、すなわち長期信頼性に優れた高耐電圧タイプの電気二重層キャパシタ用電極、および電気二重層キャパシタが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例および比較例において作製した電極の打ち抜き方法を示す略状面図である。
【図2】本発明の電極部材とセパレータを組み合わせた構成を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討を行った。その結果、酸化タングステンを電極材に添加することによって、エネルギー密度が高く、かつ、静電容量や抵抗の経時劣化が少ない、すなわち長期信頼性に優れた高耐電圧タイプの電気二重層キャパシタ用電極、および電気二重層キャパシタを提供できることを見出した。
【0028】
本発明による分極性電極材は、電気二重層キャパシタにおいて用いられ、多孔質炭素粒子、導電補助剤、酸化タングステン粉末、およびバインダーを含んでなることを特徴とする。
【0029】
本発明の分極性電極材に含まれる多孔質炭素は、電気二重層を形成し得る炭素質物質である限り特に限定されず、活性炭などを用いることが可能である。活性炭のBET比表面積が、500m/g以上、好ましくは1000m/g以上であり、3000m/g以下、好ましくは2500m/g以下である活性炭を用いることが可能である。活性炭の原料としては特に制限はない。具体的に例示すると、植物系の木材、椰子殻、パルプ廃液、化石燃料系の石炭、石油重質油、それらを熱分解した石炭、石油系ピッチ、コークス、合成樹脂であるフェノール樹脂、フラン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニルビニリデン樹脂等の種々の材料を用いることができる。
【0030】
活性炭の賦活法はガス賦活、薬品賦活等の種々の方法を適用できる。ガス賦活で用いるガスは水蒸気、二酸化炭素、酸素、塩素、二酸化硫黄、硫黄蒸気等が使用できる。薬品賦活で用いる薬品は塩化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、リン酸、塩化カルシウム、硫化カリウム等が使用できる。
【0031】
活性炭の粉砕はボールミル、ジェットミル、ハンマーミル等種々の方法で行うことができる。粉砕により目標の粒度に整えることができなければ、分級により粒度を調整しても良い。
【0032】
また前記多孔質炭素は、炭素材料に賦活処理を施して製造される黒鉛類似の微結晶炭素であってもよい。この微結晶炭素は、電圧印加時に結晶層間にイオン等が入り込むことによって電気二重層を形成するものであり、例えば、特開平11−317333号公報に開示の技術に従って入手することができる。
【0033】
本発明の分極性電極材に含まれる導電補助剤としては、非局在化したπ電子の存在によって高い導電性を有する黒鉛;黒鉛質の炭素微結晶が数層集まって乱層構造を形成した球状集合体であるカーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、その他のファーネスブラック、チャンネルブラック、サーマルランプブラックなど);メタン、プロパン、アセチレンなどの炭化水素を気相熱分解し、基板となる黒鉛上に薄膜の状態で析出させてなる熱分解黒鉛などが挙げられる。中でも、金属不純物の含有量が低く且つ高い導電性確保が可能な点で、人造黒鉛、特に、高純度人造黒鉛が、また、比較的小粒径であり且つ導電性も比較的良好な点で、ケッチェンブラック、アセチレンブラックが好ましい。ここで「高純度」とは、灰分が0.5質量%以下であることを意味する。
【0034】
導電補助剤の配合量は、分極性電極材の主要構成要素である多孔質炭素粒子、導電補助剤、およびバインダーを合わせた合計質量を100質量部として、10質量部以下が好ましい。前記合計質量は、それらの主要構成要素を配合する際に用いた成形助剤を除去した後の乾燥質量である。導電補助剤は多孔質炭素粒子間の接触抵抗を下げるために使用され、従来の分極性電極層では通常10質量部以上の配合がされていた。しかしながら導電補助剤の量が増えると分極性電極層の加工性が悪化し、ひび割れ、クラック、圧延性の悪化等の問題が発生する。また粒子の大きさが活性炭と比較すると小さいため、均一に分散されていないと分極性電極層の粒子間空隙を埋めてしまい、電解質溶液の拡散を妨げるという問題もある。
【0035】
本発明の分極性電極材に含まれる酸化タングステンにより、エネルギー密度が高く、かつ、静電容量や抵抗の経時劣化が少ない、すなわち長期信頼性に優れた、電気二重層キャパシタが得られる。酸化タングステンを含むことにより高い効果が認められる原因は定かではないが、水分および分解生成物を吸着除去することにより、多孔質炭素粒子やセパレータの細孔の閉塞を防ぐためだと考えられる。
【0036】
酸化タングステン粉末の添加量としては、分極性電極材の主要構成要素である多孔質炭素粒子、導電補助剤、およびバインダーを合わせた合計質量を100質量部(合計質量は、これらの主要構成要素を配合する際に用いた成形助剤を除去した後の乾燥質量)として、2質量部以上40質量部以下の比率であることが好ましく、4質量部以上30質量部以下の比率であることがさらに好ましい。添加量が2質量部未満の場合は、水分や分解生成物の吸着除去効果が不十分であり、効果が十分でない。一方、酸化タングステンの添加量が多くなるにともなって電極材体積あたりの多孔質炭素粒子の比率が低下するため、キャパシタセルの初期静電容量が低下する。添加量が4質量部以上30質量部以下であると、水分や分解生成物を吸着除去する効果が顕著であると同時に初期静電容量を確保できるため、より好ましい。
【0037】
酸化タングステン粉末の粒子径に関しては、電気二重層キャパシタ用電極層を形成する場合に電極層の厚みに影響を与えない範囲のものであればどのような粒子径でも使用可能である。実際には、酸化タングステン粉末の粒子径は、0.1μm〜50μm程度のものが、電極層の厚みに影響を及ばさず、かつ粉砕・分級工程にあまり費用がかからなくて好ましい。
【0038】
酸化タングステン粉末は一般的に数十μmの粒子径で市販されている。この粒子径よりもさらに小さいものに関しては、粉砕・分級といった工程が必要であり、粒子径を小さくするに従い、粉砕時間が長くなり、また収率も低下することからコストが高くなる。このため、0.1μm程度が工業的に使用できる最小粒子径と考えられる。電気二重キャパシタ用電極層は通常0.01〜5mm程度の厚みからなる。このため、添加する酸化タングステン粉末の粒子径は電極層の厚み以下に抑える必要があるが、市販品の酸化タングステンの粒子径から考えて、最大粒子径は30μm程度までが実用的な最大粒子径と考えられる。
【0039】
酸化タングステン粉末の粉砕に関しては活性炭の粉砕と同様にボールミル、ジェットミル、ハンマーミル等種々の方法で行うことができる。粉砕により目標の粒度に整えることができなければ、分級により粒度を調整しても良い。また、酸化タングステンと多孔質炭素粒子との混合方法としては、均一に分散させるための混合方法に制限はなく、例えば、酸化タングステンおよび多孔質炭素粒子を固体の状態どうしで混合する固(体)−固(体)混合でも、あるいはすくなくともどちらか一方を予め水、有機溶剤等の液体に分散させたスラリー状の分散液を使用することも可能である。さらには、これらの混合時に分散性を向上させるために、超音波混合や水流を用いて混合することも可能である。
【0040】
本発明の分極性電極材に含まれるバインダーは、多孔質炭素粒子、導電補助剤および酸化タングステン粉末を結着する。バインダーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等を用いることができる。
【0041】
バインダーの配合量は、分極性電極材の主要構成要素である多孔質炭素粒子、導電補助剤、およびバインダーを合わせた合計質量を100質量部として、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは3〜20質量部である。前記合計質量は、それらの主要構成要素を配合する際に用いた成形助剤を除去した後の乾燥質量である。このバインダーの配合量が1質量部より少ないと多孔質炭素粒子を分極性電極材に保持することが困難になる。反対に配合量が30質量部を超えると電気二重層キャパシタのエネルギー密度が低くなり、また内部抵抗が高くなる。
【0042】
本発明による分極性電極材は、シート製法、塗工法(コーティング法)等により層状に製造して、分極性電極層とすることができる。シート製法は、予め電極材のシート(電極層)を成形した後に、アルミ箔に接着する方法であり、塗工法(コーティング法)は、集電体であるアルミ箔上に電極材をコーティングして電極層を形成する製法である。同じ活性炭を使用した場合には、シート製法がコーティング法より高静電容量のものを得られる。このため、本発明においては、活性炭電極の製法としてはシート製法が好ましい。
【0043】
シート製法の場合、例えば、上述の方法で得られた多孔質炭素粒子を平均粒径D50が5〜200μm程度になるように粒度を整えた後、これに導電補助剤と、酸化タングステン粉末と、バインダーとを添加して混錬し、圧延処理してシート状に成形することができる。混錬に際して、水、エタノール、アセトニトリル等の液体助剤を単独または混合して適宜使用してもよい。
【0044】
電気二重層キャパシタは、一対の分極性電極層を、セパレータを介して対向させて正極および負極とする構造を有する。各分極性電極層はそれぞれ集電体と接合され、各分極性電極層には水系電解質溶液または非水系電解質溶液が含浸される。電気二重層キャパシタは、分極性電極層と電解質溶液との界面で電解質イオンが吸着/脱着することにより形成される電気二重層の静電容量を利用した蓄電素子である。
【0045】
セパレータとしては、微多孔性の紙、ガラスや、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等のプラスチック製多孔質フィルム等の絶縁材料を用いることができる。セパレータの厚さは、一般に10〜100μm程度である。
【0046】
電解質溶液として適当な非水系電解質溶液を選択することにより、水の電気分解が起こる電圧以上の電圧で運転することができる。非水系電解質溶液は、従来から電気二重層キャパシタに用いられている公知のものを、電解質の溶媒への溶解性や電極との反応性等により適当に、採用することができる。非水系電解質溶液の溶媒としては、炭酸プロピレン、炭酸ブチレンなどの炭酸エステル;β−ブチロラクトン、γ−ブチロラクトンなどのラクトン;スルホラン;ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒;ニトロメタン;1,2−ジメトキシエタン;アセトニトリル;などが挙げられる。溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせた混合溶媒として使用してもよい。
【0047】
電解質溶液の電解質としては、4フッ化ホウ酸、6フッ化リン酸、6フッ化ヒ酸、6フッ化アンチモン酸、トリフルオロアルキルスルホン酸などのフッ素含有酸;過塩素酸、4塩化アルミン酸などの塩素含有酸;などの酸、これらの酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(マグネシウム塩、カルシウム塩など)、アンモニウム塩、テトラアルキルアンモニウム塩(テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩など)、テトラアルキルホスホニウム塩(テトラメチルホスホニウム塩、テトラエチルホスホニウム塩など)が例示できる。電解質溶液中の電解質の濃度は、0.5モル/L以上であることが好ましく、さらに1.0モル/L以上であることがより好ましい。電解質の濃度上限は、個別具体的な電解質と溶媒の組み合わせで決まる溶解度となる。
【0048】
本発明の電気二重層キャパシタにおいて、本発明の分極性電極材はセパレータを介して少なくとも負極側に配置される。負極側にのみ本発明の分極性電極材を配置した場合でも、本発明の効果(高いエネルギー密度および優れた長期信頼性)を有する電気二重層キャパシタを得ることができる。酸化タングステンは高価なため、一方の電極にのみ使用した方が、酸化タングステン使用量が少なく、コストメリットが大きい。
【0049】
本発明の電気二重層キャパシタにおいて、本発明の分極性電極材を、正負一対で、セパレータを介して配置してもよい。この場合、本発明の効果(高いエネルギー密度および優れた長期信頼性)を有する電気二重層キャパシタを得ることができる。
【実施例】
【0050】
実施例1
[分極性電極材]
多孔質炭素粒子としてBET法による比表面積が約1700m/g の水蒸気賦活の椰子殻活性炭(クラレケミカル社製「YP−50F」)80質量部と、導電補助剤としてアセチレンブラック粉末(電気化学工業株式会社製「デンカブラック 粉状品」)10質量部と、バインダーとしてポリテトラフルオロエチレン粉末(三井デュポンフロロケミカル株式会社製「テフロン6J」)10質量部と、三酸化タングステン(関東化学社製 酸化タングステン(鹿1級) 平均粒子径 30 μm)10質量部からなる混合物にエタノール30質量部を加えて混錬後、テープ状にペースト押出した。その後、得られたテープ状物にロール圧延を3回実施してシート化し、更に150℃で1時間乾燥させてエタノールを除去することにより幅100mm、厚さ150μmの分極性電極材のシートを得た。
【0051】
[集電体]
幅150mm、厚さ50μmの高純度エッチドアルミニウム箔(KDK株式会社製「C512」)を集電体とした。
【0052】
[分極性電極の製造]
集電体の両面に、導電性接着剤液(日立粉末冶金株式会社製「GA−37」)を塗布して電極材シートを重ね、これを圧縮ロールに通して圧着し、接触界面同士を貼り合わせた積層シートを得た。この積層シートを、温度150℃に設定したオーブンに入れて10分間保持し、導電性接着剤液層から分散媒を蒸発除去することにより分極性電極を得た。この積層シートを、図1に示したように、分極性電極材シートが積層された部分の寸法が3cm角で、リード部(集電体上に分極性電極が積層されていない部分)が1×5cmの形状になるように打ち抜いて方形状の分極性電極とした。
【0053】
[電気二重層キャパシタの製造]
二枚の分極性電極を正極、負極とし、その間にセパレータとして厚さ80μm、3.5cm角の親水化処理した多孔質PTFEシート(ジャパンゴアテックス株式会社製「BSP0708070−2」)を1枚挿入して、5×10cmの二枚のアルミラミネート材(昭和電工パッケージング株式会社製「PET12/A120/PET12/CPP30ドライラミネート品」)で電極およびセパレータ部を覆い、リード部を含む3辺を熱融着によりシールしてアルミパックセルを作成した。(図2に、アルミラミネート材を熱融着する前の電気二重層キャパシタを示す。)熱融着の際、リード部の一部をアルミパックセルの外部に導き出し、リード部とアルミパックセルとの接合部がリード部とアルミラミネート材の熱融着によりシールされるようにした。このアルミパックセルを150℃で24時間真空乾燥した後、アルゴン雰囲気で−60℃以下の露点を保ったグローブボックス内に持ち込み、開口部(シールされていない辺)を上に向けて1.5モル/Lのトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートの炭酸プロピレン溶液4mLを電解質溶液としてアルミパックに注入し、−0.05MPaの減圧下に10分間静置して、電極内部のガスを電解質溶液で置換した。最後にアルミパックの開口部を融着密封することにより、単積層型の電気二重層キャパシタを作製した。この電気二重層キャパシタを40℃において24時間保存し、電極内部まで電解質溶液をエージングした。その後キャパシタを5×5cm、厚さ5mmのSUS板で挟み、面方向から1MPaで加圧し、このキャパシタを実施例1とした。
【0054】
実施例2
三酸化タングステンの使用量を2質量部としたこと以外は実施例1と同様とした。
【0055】
実施例3
三酸化タングステンの使用量を40質量部としたこと以外は実施例1と同様とした。
【0056】
実施例4
三酸化タングステンを粉砕・分級し、平均粒子径を10μmとしたこと以外は実施例1と同様とした。
【0057】
実施例5
三酸化タングステンを粉砕・分級し、平均粒子径を0.2μmとしたこと以外は実施例1と同様とした。
【0058】
実施例6
負極の電極材シートを実施例1と全く同様のものとし、正極の電極材シートを実施例1の配合組成から酸化タングステンを除いた以外は実施例1と同様とした。
【0059】
実施例7
電解質溶液の種類を1.0モル/Lのテトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレートのアセトニトリル溶液4mLとしたこと以外は実施例1と同様とした。
【0060】
実施例8
[コーティング液の調製]
多孔質炭素粒子としてBET法による比表面積が約1700m/g の水蒸気賦活の椰子殻活性炭(クラレケミカル社製「YP−50F」)80質量部と、導電補助剤としてアセチレンブラック粉末(電気化学工業株式会社製「デンカブラック 粉状品」)10質量部と、三酸化タングステン(関東化学社製 酸化タングステン(鹿1級) 平均粒子径 30 μm)10質量部からなる混合物100gに導電性接着剤液(日立粉末冶金株式会社製「GA−37」)100gおよび蒸留水100gを加えたものを撹拌器を用いて混合し、コーティング液とした。
【0061】
[集電体]
実施例1と同じ集電体を使用した。すなわち、幅150mm、厚さ50μmの高純度エッチドアルミニウム箔(KDK株式会社製「C512」)を集電体とした。
【0062】
[分極性電極の製造(コーティング液の塗布)]
前記コーティング液をロールコーターを用いて、前記集電体に厚み50μmで塗工した。この後、この塗工された集電体を、温度150℃に設定したオーブンに入れて10分間保持し、コーティング液層から分散媒を蒸発除去することにより分極性電極を得た。この塗工された集電体を、図1に示したように、コーティング液が塗工された部分の寸法が3cm角で、リード部(集電体上にコーティング液が塗工されていない部分)が1×5cmの形状になるように打ち抜いて方形状の分極性電極とした。
【0063】
[電気二重層キャパシタの製造]
上記で得られた分極性電極から、実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、エージングし、実施例8とした。得られたキャパシタの600時間後の静電容量維持率は85%であり、600時間後の抵抗上昇率は140%と耐電圧性に優れたものであった。初期の静電容量は12.4F/ccとシート製法で得られる静電容量の約70%程度の値であった。
【0064】
比較例1
実施例1の電極材シートから三酸化タングステンを除いた以外は実施例1と同様とした。
【0065】
比較例2
三酸化タングステンの代わりに粒子径を25μmに粉砕・分級した関東化学社製 五酸化二バナジウム(鹿特級)を使用した以外は実施例1と同様とした。
【0066】
比較例3
三酸化タングステンの代わりに粒子径が3.5μmの二酸化ケイ素を使用した以外は実施例1と同様とした。
【0067】
比較例4
三酸化タングステンの代わりに粒子径が0.013μmの三酸化二アルミニウムを使用した以外は実施例1と同様とした。
【0068】
比較例5
三酸化タングステンの代わりに粒子径を25μmに粉砕・分級した関東化学社製 酸化マグネシウム(特級)を使用した以外は実施例1と同様とした。
【0069】
比較例6
三酸化タングステンの代わりに粒子径を25μmに粉砕・分級した関東化学社製 三酸化二ホウ素(鹿特級)を使用した以外は実施例1と同様とした。
【0070】
比較例7
三酸化タングステンの代わりに粒子径を25μmに粉砕・分級した和光純薬社製 三酸化二リチウムを使用した以外は実施例1と同様とした。
【0071】
比較例8
三酸化タングステンの代わりに粒子径を25μmに粉砕・分級した関東化学社製 三酸化モリブデン(鹿特級)を使用した以外は実施例1と同様とした。
【0072】
比較例9
三酸化タングステンの代わりに粒子径を25μmに粉砕・分級した関東化学社製 酸化カルシウム(鹿1級)を使用した以外は実施例1と同様とした。
【0073】
比較例10
三酸化タングステンの代わりに粒子径を25μmに粉砕・分級した関東化学社製 ホウ酸亜鉛(鹿1級)を使用した以外は実施例1と同様とした。
【0074】
比較例11
三酸化タングステンの代わりに粒子径を25μmに粉砕・分級した二酸化ジルコニウムを使用した以外は実施例1と同様とした。
【0075】
比較例12
三酸化タングステンの代わりに一次粒子径が0.007μmのアナターゼ型酸化チタンを使用した以外は実施例1と同様とした。得られた600時間後の静電容量維持率は86%であった。抵抗の上昇率は、実施例1から6までの場合には約140%以下であったのに対し、約200%であり、経時劣化(抵抗の上昇)が大きかった。
【0076】
比較例13
実施例7の電極材シートから三酸化タングステンを除いた以外は実施例7と同様とした。
【0077】
測定・評価項目
上記の実施例および比較例の電気二重層キャパシタについて、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
(1)静電容量(初期および600時間後*1
(2)内部抵抗(初期および600時間後*1
(3)静電容量維持率(%)
=(初期の静電容量−600時間後*1の静電容量)×100/(初期の静電容量)
(4)抵抗上昇率(%)
=(初期の内部抵抗−600時間後*1の内部抵抗)×100/(初期の内部抵抗)
*1:600時間以前に静電容量の維持率が80%以下になったものについては、そこで評価を中止し、静電容量の維持率が80%になるまでの時間を記録した。
【0078】
<静電容量密度>
静電容量は次のように測定した。上記電気二重層キャパシタを充電した。充電電流、電圧は、10mA/cm、3.0Vとした。充電時間は、初期特性測定時は60分とした。長期特性測定時の充電時間は、静電容量維持率が80%になるまでの時間を測定するために、段階的に600時間まで充電時間を適宜伸ばしていった(1,2,4,8,16,24,36時間後、以下12時間おきに600時間まで測定し、測定結果をプロットして、静電容量維持率が80%になるまでの時間を求めた)。放電は、10mA/cmの条件で0Vになるまで行った。この充電開始から放電終了までの操作を1サイクルとした。これを10回サイクル連続して行った際の、10サイクル目の放電開始から0Vになるまでの放電曲線を積分して、該10サイクル目の充電時における電気二重層キャパシタの静電容量を求め、これを電極体積で除して静電容量密度を算出した。なお、放電温度は70℃であった。
【0079】
<直流内部抵抗>
内部抵抗は、上記静電容量密度測定時に、式「V=IR」を用いて算出することにより求めた。
【0080】
【表1】

【符号の説明】
【0081】
9 集電端子
10 分極性電極
11 集電体
12 分極性電極層
13 導電性接着剤
15 セパレータ
16 アルミラミネート材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気二重層キャパシタにおいて用いられ、多孔質炭素粒子、導電補助剤、酸化タングステン粉末、およびバインダーを含んでなることを特徴とする、分極性電極材。
【請求項2】
前記電気二重層キャパシタが非水系電解質溶液を含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の電極材。
【請求項3】
前記多孔質炭素粒子が、1000m/g以上3000m/g以下のBET比表面積を有する活性炭であることを特徴とする、請求項1または2に記載の電極材。
【請求項4】
前記酸化タングステン粉末が、前記多孔質炭素粒子、導電補助剤、およびバインダーを合わせた合計質量を100質量部として、2質量部以上40質量部以下の比率で添加されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電極材。
【請求項5】
前記酸化タングステン粉末の平均粒子径が0.1μm以上50μm以下であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電極材。
【請求項6】
圧延処理によりシート状にされたものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極材。
【請求項7】
前記バインダーがポリテトラフルオロエチレンであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の電極材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電極材を、セパレータを介して少なくとも負極側に配置してなることを特徴とする、電気二重層キャパシタ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電極材の正負一対を、セパレータを介して配置してなることを特徴とする、電気二重層キャパシタ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−233845(P2011−233845A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105703(P2010−105703)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000107387)日本ゴア株式会社 (121)
【Fターム(参考)】