説明

耐震スリット材を型枠間へ取り付ける方法

【課題】合成樹脂発泡体製の断熱板11と複数本の桟木12を備えた型枠兼用断熱パネル10を型枠として用いる場合であっても、型枠内で耐震スリット材3が不用意に移動するのを防止する。
【解決手段】型枠兼用断熱パネル10の桟木12、12間に、切り欠き21を備えた剛性のある補助部材20を配置し、耐震スリット材3を支持するセパレータ4の端部4bを補助部材20の切り欠き21を通過させた状態として、耐震スリット材3の型枠間へ取り付けを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐震スリット材を型枠間へ取り付ける方法に関し、特に、ラーメン構造のコンクリート構造物において、構造躯体の耐震性を高めるために、壁部の柱あるいは梁に近接した部分に埋設される耐震スリット材を、施工時に型枠間に取り付けるための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラーメン構造のコンクリート構造物では、二次壁・雑壁(腰壁、垂れ壁、袖壁など)に耐震壁の機能を持たせると地震時に建物にねじれが生じ、柱や梁が剪断破壊を起こす恐れがある。そのために、壁部の柱あるいは梁に近接した部分に耐震スリット材を埋設して壁部を柱や梁と縁切りし、構造躯体造の耐震性を高めることが行われる。特許文献1および特許文献2などには、そのための耐震スリット材がその施工態様とともに記載されている。
【0003】
従来、施工に当たっては、図5に示すように、例えば柱部分の型枠1に連続するようにして壁用の型枠2(内型枠2a,外型枠2b)が建て込まれ、壁用型枠2の柱用型枠1に近接した部分に、適宜の耐震スリット材3が配置される。そして、壁用型枠2に取り付けたセパレータ4と耐震スリット材3とを適宜の支持部材5で連結することによって当該型枠用セパレータ4を反力材として利用し、耐震スリット材3の型枠(内型枠2a,外型枠2b)間への位置決めと固定を行っている。
【0004】
耐震スリット材3には、ケイ酸カルシウム板、発泡プラスチック板、グラスファイバー板、セラミックファイバー板などの伸縮性のある板状のものが用いられ、壁用型枠2には、通常、合板が用いられる。施工時に、柱用型枠1内へコンクリートを打設することにより、図に矢印Aで示すような側圧が耐震スリット材3に作用する。その力は支持部材5を介してセパレータ4に達するが、セパレータ4の両端は合板である壁用型枠2に支持されており、反力材として機能するので、耐震スリット材3が不要に移動することはない。
【0005】
コンクリート構造物の壁部を施工するときに使用する型枠として、合板型枠ではなく、図6に示すような型枠兼用断熱パネル10が知られている(例えば、特許文献3など)。この型枠兼用断熱パネル10は、合成樹脂発泡体である断熱板11と、その一方の面に取り付けた複数本の桟木12とで構成され、断熱板11側がコンクリート打設面となるようにして通常内型枠として用いられる。このような型枠兼用断熱パネル10を用いることにより、壁用コンクリートの打設後に内型枠を解体する作業を省略することができ、さらに、形成されたコンクリート壁に後作業として断熱材を貼り付ける作業も省略することができるので、現場での施工工数を大きく削減できる利点がある。
【0006】
【特許文献1】特開平11−22059号公報
【特許文献2】特開2000−320181号公報
【特許文献3】特開2002−201748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図6に示す構造の型枠兼用断熱パネル10を、図5に示すようにして、コンクリート構造物における壁用型枠2の内型枠2aとして用いれば、上記したように、内型枠を解体する作業や形成されたコンクリート壁に後作業として断熱材を貼り付ける作業を省略することができる利点がある。しかし、型枠兼用断熱パネル10では、型枠としての機能を果たす板材が合成樹脂発泡体11であり、合成樹脂発泡体は合板と比較して壊れやすいことから、そこにセパレータ4の先端を通過させて、図5と同様にして耐震スリット材3を位置決め固定すると、耐震スリット材3に側圧が作用したときに、その力がセパレータ4を介して合成樹脂発泡体11に作用し、合成樹脂発泡体11を損傷することが起こり得る。すなわち、本来反力材として機能すべきセパレータ4が反力材としての機能を失い、耐震スリット材3が所定の位置から不用意に移動するとともに、合成樹脂発泡体11の損傷により、打設したコンクリートのノロ(セメントペースト)漏れ、また、断熱欠損などの不都合が生じる恐れがある。
【0008】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、壁部に耐震スリット材を埋設したコンクリート構造物を施工する際に、壁用の型枠として型枠兼用断熱パネルを用いる場合であっても、反力材として機能するセパレータによって、型枠として機能する合成樹脂発泡体に損傷を生じさせることなく、耐震スリット材を壁用型枠間にしっかりと位置決め固定できるようにした、耐震スリット材の型枠間への取り付け方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による耐震スリット材の型枠間への取り付け方法は、壁部に耐震スリット材を埋設したコンクリート構造物を施工するに当たり、壁用型枠に取り付けられるセパレータを反力材に利用して耐震スリット材を型枠間に位置決めするようにした耐震スリット材の型枠間への取り付け方法であって、少なくとも内型枠として合成樹脂発泡体である断熱板とその一方の面に取り付けた複数本の桟木とで構成される型枠兼用断熱パネルを用い、該型枠兼用断熱パネルの桟木間の幅とほぼ同じ幅である剛性のある補助治具を当該型枠兼用断熱パネルの桟木間に配置し、反力材として機能すべきセパレータにおける型枠兼用断熱パネル側から外側に飛び出ている端部を前記補助治具を貫通させた状態として耐震スリット材の型枠兼用断熱パネルに対する位置決めを行うことを特徴とする。
【0010】
本発明の方法によれば、壁用型枠の間隔を規制するために設けられるセパレータであって耐震スリット材と連結しているセパレータの端部は、内型枠である型枠兼用断熱パネルの桟木間に配置した剛性のある補助部材によりバックアップされており、耐震スリット材に側圧が作用しても、セパレータの当該端部が横方向に移動することはない。セパレータの外型枠である合板型枠側を通過している側の端部は、剛性のある合板によりバックアップされており、やはり移動しない。
【0011】
そのために、壁用型枠の少なくとも内型枠として、型枠兼用断熱パネルを用いても、反力材としてのセパレータが不用意に移動することはなく、また、型枠兼用断熱パネルの合成樹脂発泡体に破損が生じることもない。本発明において、補助治具は所要の剛性を備えることを条件に、無垢の木材、合板、MDFのような木質材、樹脂材、金属材などで作ることができる。
【0012】
前記補助治具は、セパレータの端部が通過できる1個または複数個の孔を有するものであってもよい。しかし、実際の施工では、壁用型枠の間隔を規制するために設けられるセパレータの取り付け位置は一定せず、また、柱からの距離など耐震スリット材の配置位置も壁部ごとに異なる場合が多い。そのために、セパレータの端部通過孔を有する補助治具の場合には、穴の位置を変えた多数の補助治具を用意するか、孔のない補助治具を施工現場に持ち込み、現場で各補助治具の適所に孔をあける作業が必要となる。
【0013】
上記の不都合に対処するために、本発明による方法において、好ましくは、前記補助治具として、側辺または偶部から桟木の走る方向に交叉する方向に傾斜しかつ幅方向中央部に至る切り欠きを備えた形態のものを用いる。その形態の補助治具を桟木間に置き、切り欠き内にセパレータの突出端部を挿入した状態で耐震スリット材の型枠兼用断熱パネルに対する位置決めを行う。
【0014】
上記形態の補助治具は、上下を反転するか、左右を反転するか、のいずれかまたは双方を行い、必要な場合には、桟木間を桟木に沿って移動させることにより、桟木間のいずれの位置にセパレータの端部が突出していても、その切り欠き内にセパレータの突出端を収容することができる。すなわち、この形態では、1種類の補助治具でもってすべての施工現場に対応できる利点がある。さらに好ましくは、補助治具として、矩形状でありかつ桟木間に配置したときに桟木から突出しない厚みのものを用いる。桟木から突出しない厚みのものを用いることで、壁用枠体が外側へ開くのを阻止するために型枠の外側に適宜なばた材を配置する際に、ばた材と補助治具とが衝突せず、ばた材を安定して設置することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法を採用することにより、壁部に耐震スリット材を埋設したコンクリート構造物を施工する際に、壁用型枠として型枠兼用断熱パネルを用いても、型枠として機能する合成樹脂発泡体に損傷を与えることなく、耐震スリット材を壁用型枠間にしっかりと位置決め固定することができる。それにより、コンクリート構造物の施工において、型枠を解体する作業や形成されたコンクリート壁に後作業として断熱材を貼り付ける作業等を省略することが可能となり、施工の簡略化も図られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施の形態に基づき説明する。図1、図2は本発明による耐震スリット材を型枠間へ取り付ける方法を説明する斜視図であり、図1は補助治具を取り付ける前の状態を、図2は補助治具を取り付けた状態を示している。図3はコンクリート打設後の状態を上から見て示す断面図である。図4は補助治具の他の形成を示している。
【0017】
図に示すラーメン構造のコンクリート構造物では、柱部aの外型枠1、1および壁部bの外型枠2には合板型枠が用いられ、それぞれの内型枠1a,2aとして、図6に基づき説明した形態の型枠兼用断熱パネル10を用いている。なお、柱部の内型枠は合板型枠であってもよい。壁用外型枠2と壁用内型枠2aの間であって、柱用型枠1,1aに近接した部分には、図5に基づき説明したようにして、適宜の耐震スリット材3が配置され、該耐震スリット材3と壁用外型枠2と壁用内型枠2aに取り付けたいずれかのセパレータ4とは、支持部材5で連結されている。セパレータ4の一端4aは合板である壁用外型枠2を貫通して外方に延出しており、他端4bは壁用内型枠2aである型枠兼用断熱パネル10の合成樹脂発泡体製の断熱板11を貫通して外方に延出している。図示しないが、壁用外型枠2と壁用内型枠2aの外側には適宜のばた材が配置されており、セパレータ4の端部4a、4bとばた材とは適宜の留め付け部材により連結され、型枠が外側へ開くのを阻止している。
【0018】
図1によく示すように、セパレータ4の端部4bは、型枠兼用断熱パネル10の合成樹脂発泡体製の断熱板11を貫通して外方に延出しており、合成樹脂発泡体は合板と比較して弱いことから、耐震スリット材3に前記したように側圧Aがかかったときにセパレータ4に生じる矢印A1方向の力を支持することができなくなり、セパレータ4の端部4bが矢印A1方向に移動して、合成樹脂発泡体製の断熱板11に破壊が生じる恐れがある。
【0019】
それを回避するために、剛性のある補助部材20を用いる。この例において、補助部材20は合板製であり、ほぼ正方形である。一辺の長さLは、セパレータ4の端部4bが貫通している場所の両側に位置する2本の桟木12、12間の幅とほぼ同じ長さであり、厚さWは、当該桟木12が合成樹脂発泡体製の断熱板11から飛び出ている高さと同じか、それよりやや薄い。そして、補助部材20は一つの偶部から中心部に至る切り欠き21を有している。
【0020】
図1の状態とした後に、図2に示すように、補助部材20を、その切り欠き21内をセパレータ4の端部4bを通過させた姿勢として、型枠兼断熱パネル10の桟木12、12の間にはめ込むようにして取り付ける。セパレータ4の端部4bが桟木12、12間のほぼ中央から延出している場合には、切り欠き21の開放先端に端部4bを挿入し、斜め上方に向けて補助部材20を移動させ、切り欠き21の下端に端部4bが当接した状態で、補助部材20を型枠兼用断熱パネル10側に押し付けることにより、型枠兼用断熱パネル10は2本の桟木12、12の間にはめ込まれる。
【0021】
この状態で、前記したようにセパレータ4の端部4bに矢印A1方向の力が作用しても、その力は剛性を備えた補助部材20を介して桟木12によって反力取りされるので、セパレータ4の端部4bはその位置にとどまり、矢印A1方向に移動することはなく、耐震スリット材3は不用意に移動することのない状態で、しっかりと位置決めされる。結果として、型枠兼用断熱パネル10を構成する合成樹脂発泡体製の断熱板11に破損が生じるのも確実に阻止される。
【0022】
施工現場において、前記セパレータの端部4bの位置は一定せず、前記のように桟木12、12間のほぼ中央から延出している場合はむしろ少なく、左右方向および上下方向の不特定の位置から飛び出しているのが普通である。端部4bの飛び出し位置が図示の位置よりも左側にある場合には、上記のようにして補助部材20を操作しても、端部4bは切り欠き21の下端まで入り込むことはなく、その偏位量に応じた切り欠き21の途中に端部4bが位置した状態で、補助部材20は2本の桟木12、12間にはめ込まれる。その場合でも、矢印A1方向の力に対しての反力取りは、補助部材20を介して桟木12によって確実に行われる。
【0023】
また、セパレータ4の端部4bが図示の位置よりも右側にある場合には、補助部材20を左右方向に反転させた後、その開放端に端部4bを入れて斜め上方に向けて補助部材20を動かすことにより、左側に偏位している場合と同じようにして補助部材20を2本の桟木12、12間にはめ込むことができる。端部4bの断熱板11からの飛び出し位置の上下方向の高さによっては、補助部材20を上下方向に反転させることにより、やはり同じようにして補助部材20の取り付けを行うことができる。これらの場合でも、矢印A1方向の力に対しての反力取りは、桟木12によって確実に行われることは、説明を要しない。
【0024】
上記のように、図示する形態の補助部材20を用いることにより、施工現場で、型枠兼用断熱パネル10を構成する合成樹脂発泡体製の断熱板11のどのような位置から、耐震スリット材3を支持するセパレータ4の端部4bが飛び出しても、同じ補助部材20でもって、すべてに対応することができる。もちろん、セパレータ4の端部4bの飛び出し位置が2本の桟木12、12間の特定の位置に限定できるような施工現場の場合には、特に図示しないが、そのような位置に1個または任意数の孔を形成した補助部材を用いることもできる。
【0025】
補助部材は正方形である必要はなく、図4aに示すように、上下方向の長さTが左右方向の幅Lよりも短い補助部材20a、逆に、図4bに示すように、上下方向の長さTが左右方向の幅Lよりも長い補助部材20b、さらには、図4cに示すように一部が欠損しているが全体としては矩形状である補助部材20c、など、要は、側辺または偶部から桟木の走る方向と交叉する方向に傾斜しかつ幅方向中央部に至る切り欠き21を備えていることを条件に、任意の形状の補助部材を、施工現場の状況に応じて適宜選択して用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による耐震スリット材を型枠間へ取り付ける方法を説明する斜視図であり、補助治具を取り付ける前の状態を示している。
【図2】本発明による耐震スリット材を型枠間へ取り付ける方法を説明する斜視図であり、補助治具を取り付けた後の状態を示している。
【図3】コンクリート打設後の状態を上から見て示す断面図。
【図4】補助治具の他の形成を示す図。
【図5】耐震スリット材を型枠間へ取り付ける方法る通常の態様を説明する図。
【図6】型枠兼用断熱パネルを説明する図。
【符号の説明】
【0027】
a…ラーメン構造のコンクリート構造物での柱部、b…ラーメン構造のコンクリート構造物での壁部、1…柱部の外型枠、1a…柱部の内型枠、2…壁部の外型枠、2a…壁部の内型枠、10…型枠兼用断熱パネル、11…合成樹脂発泡体製の断熱板(合成樹脂発泡体)、12…桟木、3…耐震スリット材、4…セパレータ、5…支持部材、4a,4b…セパレータの端部、20…剛性のある補助部材、21…切り欠き

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁部に耐震スリット材を埋設したコンクリート構造物を施工するに当たり、壁用型枠に取り付けられるセパレータを反力材に利用して耐震スリット材を型枠間に位置決めするようにした耐震スリット材の型枠間への取り付け方法であって、
少なくとも内型枠として合成樹脂発泡体である断熱板とその一方の面に取り付けた複数本の桟木とで構成される型枠兼用断熱パネルを用い、
該型枠兼用断熱パネルの桟木間の幅とほぼ同じ幅である剛性のある補助治具を当該型枠兼用断熱パネルの桟木間に配置し、
反力材として機能すべきセパレータにおける型枠兼用断熱パネル側から外側に飛び出ている端部を前記補助治具を貫通させた状態として耐震スリット材の型枠兼用断熱パネルに対する位置決めを行うことを特徴とする耐震スリット材を型枠間へ取り付ける方法。
【請求項2】
前記補助治具は側辺または偶部から桟木の走る方向に交叉する方向に傾斜しかつ幅方向中央部に至る切り欠きを備えており、該切り欠き内にセパレータの突出端部を挿入した状態で耐震スリット材の型枠兼用断熱パネルに対する位置決めを行うことを特徴とする請求項1に記載の耐震スリット材を型枠間へ取り付ける方法。
【請求項3】
前記補助治具は矩形状でありかつ桟木間に配置したときに桟木から突出しない厚みであることを特徴とする請求項2に記載の耐震スリット材を型枠間へ取り付ける方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−207297(P2006−207297A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−22071(P2005−22071)
【出願日】平成17年1月28日(2005.1.28)
【出願人】(000002440)積水化成品工業株式会社 (1,335)
【Fターム(参考)】