耐震壁
【課題】例えば上下に隣接して柱・梁のフレーム内に配置されるコンクリートブロック等の壁構成材の相対移動を利用して地震時のせん断力を負担する耐震壁において、層間変形時に壁構成材に滑りとそれに伴う乗り上げを発生させる。
【解決手段】柱3と梁4からなるフレーム5内に複数の壁構成材2(6)を高さ方向に配列させ、壁構成材2(6)をフレーム5から高さ方向に拘束した状態で耐震壁1を構築する。
壁構成材2(6)に、上下で対になる複数の上面21(61)と下面22(62)の組を有し、フレーム5が層間変形を起こしたときに、いずれかの上面21(61)がフレーム5を構成する上側の梁41からその梁41の移動の向きに力を受け、いずれかの下面22(62)がフレーム5を構成する下側の梁42に、上側の梁41から受ける力と釣り合う力を及ぼす形状を与え、上面21(61)と下面22(62)の少なくともいずれか一方を凸の面をなすようにする。
【解決手段】柱3と梁4からなるフレーム5内に複数の壁構成材2(6)を高さ方向に配列させ、壁構成材2(6)をフレーム5から高さ方向に拘束した状態で耐震壁1を構築する。
壁構成材2(6)に、上下で対になる複数の上面21(61)と下面22(62)の組を有し、フレーム5が層間変形を起こしたときに、いずれかの上面21(61)がフレーム5を構成する上側の梁41からその梁41の移動の向きに力を受け、いずれかの下面22(62)がフレーム5を構成する下側の梁42に、上側の梁41から受ける力と釣り合う力を及ぼす形状を与え、上面21(61)と下面22(62)の少なくともいずれか一方を凸の面をなすようにする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は柱・梁のフレーム内に配置され、上下に隣接するコンクリートブロック等の壁構成材の相対移動を利用して地震時のせん断力を負担する耐震壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばコンクリートブロックを組積して構築される耐震壁は柱・梁のフレーム内の空間に、複数のコンクリートブロックを横方向と高さ方向に積み上げ、コンクリートブロックの全体を周囲のフレームから拘束することにより、水平力に対するせん断抵抗力を確保する。
【0003】
コンクリートブロックの形態には中実断面と中空断面があり、中空断面の場合には、内部にコンクリートを充填することにより耐震壁が完成するため、コンクリートブロックの積み上げと鉄筋の配筋を交互に行う必要があり、作業性が低下する問題がある。特に既存構造物を耐震補強する場合には、既存の梁が配筋の妨げになるため、コンクリートブロックを半割形状にする等の工夫を要する(特許文献1参照)。
【0004】
中実断面のコンクリートブロックを使用した場合には、内部に鉄筋を配筋することができないため、コンクリートブロックの外側に鉄筋に代わって上下に隣接するコンクリートブロック同士を拘束する拘束材を配置することが必要になる(特許文献2参照)。この特許文献2では特に耐震壁のせん断抵抗力を上げる目的で、コンクリートブロックの側面形状を鼓形にし、コンクリートブロックに楔効果を発揮させている。
【0005】
特許文献2ではいずれかのコンクリートブロックがその上下に隣接するコンクリートブロックに対し、長さ方向(耐震壁の幅方向)に相対移動しようとするときに、上下に隣接するコンクリートブロックに拡幅しようとする力を作用させる。このとき、前記コンクリートブロックは上下のコンクリートブロックから移動を拘束する反力を受けることで、耐震壁に作用するせん断力に対する抵抗力を確保する(公報第4頁上右欄第10行〜同頁下左欄第1行)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−257189号公報(請求項1、段落0009〜0012、0017〜0036、図2、図4)
【特許文献2】特開昭54−52828号公報(請求項1、第2頁下右欄第8行〜第3頁上右欄第10行、第1図、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
但し、多数のコンクリートブロックを組積して構成された耐震壁は周囲の柱・梁のフレームから拘束されていることで、耐震壁が水平力を負担したときに、周囲のフレームからせん断変形を強制的に受ける。この結果、図15に示すように相対的に上側に位置するコンクリートブロックが水平方向に移動しようとすることに伴い、その下に位置するコンクリートブロックが上側のコンクリートブロックに引き摺られて同じ向きに移動しようとする。
【0008】
図15のとき、移動する側寄りの端部には上に隣接し、移動しようとするコンクリートブロックの下面から移動側を向く力を受け、反対側寄りの端部には下に隣接するコンクリートブロックの上面から移動側とは逆向きの反力を受ける。各反力は高さ方向の中間に位置するコンクリートブロックの上面と下面のそれぞれに平行な成分と垂直な成分に分けられる。
【0009】
図15の中段に位置する、符号イで示すコンクリートブロックに着目すれば、イのコンクリートブロックは矢印で示す移動側の上面において上側のコンクリートブロックから移動側を向く力を受け、移動側の下端において下側のコンクリートブロックから逆向きの反力を受ける。イのコンクリートブロックはまた、移動の反対側の上端において上側のコンクリートブロックから移動側を向く力を受け、移動側の下面において下側のコンクリートブロックから逆向きの反力を受ける。
【0010】
イのコンクリートブロックは移動側においては上側のコンクリートブロックから上面(面)で力を受けるが、下側のコンクリートブロックからは線(側面で見たときには点)で反力を受けるため、下側のコンクリートブロックから反力を受ける部分の応力度は無限大になる。
【0011】
このため、反力を受ける部分が損傷を受け、実際には図15に示す状況に至ることができず、イのコンクリートブロックが下側のコンクリートブロックに乗り上げることはできないものと考えられる。同じことは移動の反対側にも言え、イのコンクリートブロックの移動の反対側では下側のコンクリートブロックからは下面(面)で反力を受けることができるが、上側のコンクリートブロックから線で力を受ける。
【0012】
イのコンクリートブロックが移動側の下端と移動の反対側の上端で損傷を受け易いことで、結果的にイのコンクリートブロックは右回り(時計回りに)に回転しようとし、上側のコンクリートブロックからのせん断力を下側のコンクリートブロックに伝達することができない。
【0013】
またイのコンクリートブロックの移動側の上面が受ける力と移動の反対側の下面が受ける反力をそれぞれの面に平行な成分と垂直な成分に分けると、垂直な成分は中心部分を通らずに互いに逆向きであるため、コンクリートブロックに対してせん断力を作用させる。平行な成分は互いに逆向きであり、一点鎖線で示す長さ方向の中心に関して両側に作用するから、イのコンクリートブロックには中心の両側に引張力が作用することになる。コンクリートブロックは長さ方向の中心部分の断面積が小さい鼓形であるから、長さ方向に作用する引張力によって中心部分が弱点になり易い。
【0014】
本発明は上記背景より、特許文献2のコンクリートブロックでは実現されないブロック(壁構成材)の乗り上げを可能にする形態の耐震壁を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の耐震壁は、柱と梁からなるフレーム内に複数の壁構成材を高さ方向に配列させ、前記壁構成材を前記フレームから高さ方向に拘束した状態で構築され、
前記壁構成材が上下で対になる複数の上面と下面の組を有し、前記フレームが層間変形を起こしたときに、いずれかの前記上面が前記フレームを構成する上側の梁からその梁の移動の向きに力を受け、いずれかの前記下面が前記フレームを構成する下側の梁に、前記上側の梁から受ける力と釣り合う力を及ぼす形状をし、前記上面と前記下面の少なくともいずれか一方が凸の面をなしていることを構成要件とする。
【0016】
壁構成材のいずれかの上面は壁構成材の配置位置に応じ、上側の梁からその相対移動の向きに直接、もしくは間接的に力を受け、いずれかの下面は上側の梁と同一の向きに、下側の梁に直接、もしくは間接的に力を及ぼす。例えば上側の梁に接した状態で配置される壁構成材は上側の梁から直接力を受け、それより下に位置する壁構成材は上側の梁から間接的に力を受ける。また下側の梁に接した状態で配置される壁構成材は下側の梁に直接力を及ぼし、それより上に位置する壁構成材は下側の梁に間接的に力を及ぼす。壁構成材の上面は面で上側の梁からの力を受け、下面は面で下側の梁に力を及ぼす。
【0017】
フレームの層間変形時には、上側の梁がいずれかの側に移動し、この梁に接している最上部の壁構成材がその上面において梁からの力を受けることで、梁に引き摺られて梁と同一の向きに移動する。この壁構成材の下に隣接する壁構成材は同じくその上面において間接的に梁からの力を受けることで、上の壁構成材の下面に引き摺られて同一の向きに移動する。最終的には最下部の壁構成材の下面から下側の梁に上側の梁からの力が伝達され、この下面は下側の梁からの反力を受ける。
【0018】
壁構成材の上面が上側の梁から(直接、もしくは間接的に)力を受けることは、壁構成材の下面が下側の梁から(直接、もしくは間接的に)力を受けることでもあり、壁構成材の上面と下面は対(作用・反作用)の関係にあるから、「上面が上側の梁から力を受け、下面が下側の梁に力を及ぼす」は便宜的な説明に過ぎず、「下面が下側の梁から力を受け、上面が上側の梁に力を及ぼす」とも言える。
【0019】
よって「壁構成材のいずれかの上面に上側の梁から(直接、もしくは間接的に)力を受ける」とは、フレームの層間変形に伴い、上側の梁がいずれかの側へ相対移動したときに、その移動の向きに壁構成材の上面が梁から直接、または上側の梁に接している他の壁構成材を通じて間接的に力を受けることを言う。
【0020】
また「壁構成材が下側の梁に(直接、もしくは間接的に)力を及ぼす」とは、上側の梁から力を受けた壁構成材がその下面を通じて下側の梁に直接、または下側の梁に接している壁構成材から間接的に力を及ぼし(与え)、反力を受けることを言う。
【0021】
「壁構成材の下面から下側の梁に、上側の梁から受ける力と釣り合う力を及ぼす」とは、壁構成材が上側の梁から受けた力を下側の梁に伝達し、下側の梁から反力を受けた状態で釣り合いを保つことを言い、耐震壁(壁板)を構成する個々の壁構成材自体が耐震壁の一部として平衡を保つことを言う。
【0022】
「上面と下面の少なくともいずれか一方が凸の面をなしている」とは、上面であれば上側に凸の面をなし、下面であれば下側に凸の面をなすことを言い、上面のみが上側に凸の面をなす場合(図8)と、下面のみが下側に凸の面をなす場合(図8の上下を反転させた形)の他、上面と下面が共にそれぞれの側に凸の面をなす場合(図2、図10)がある。
【0023】
壁構成材の材料は問われず、耐震壁(壁板)の一部を構成したときにせん断力を負担できる剛体として機能できればよい。壁構成材にはコンクリートブロック、レンガ、石材等、ブロック状の形状をする部材が使用される他、耐震壁(壁板)を複数に分割した形状のコンクリート部材が使用され、耐震壁の内、少なくとも一部の壁構成材が上下で対になる複数の上面と下面の組を有していればよい。
【0024】
「上下で対になる」とは、上側の梁から直接、もしくは間接的に伝達される力を受ける壁構成材のいずれかの上面と、この上面で受けた力を下側の梁に直接、もしくは間接的に及ぼす(与える)下面とが一組になることを言う。すなわち、対になる一組は上面(被圧面)で受けた上側の梁からの力を下面(加圧面)から下側の梁に伝達する上面と下面の組み合わせを言う。壁構成材の下面(加圧面)から下側の梁に及ぼす力は下側の梁から受ける反力でもあり、この壁構成材の下面(加圧面)が受ける反力は上面(被圧面)が受ける力と釣り合う。上側の梁から直接、もしくは間接的に力を受ける壁構成材の上面は図2、図8、図10に示すように基本的に上側に凸の面をなすが、上記のように壁構成材の上面と下面は対の関係にあるから、図2、図8の上下を反転させた形をする場合もある。
【0025】
フレームの層間変形時には壁構成材の上面は正負の向きに交互に力を受け、下面は正負の向きに交互に力を及ぼすから、上側の梁から交互に力を受ける上面(被圧面)と、下側の梁に交互に力を及ぼす下面(加圧面)はそれぞれ正向きの力を伝達する面と負向きの力を伝達する面の2面で一組になる。
【0026】
正向きの力を伝達する面と負向きの力を伝達する面の2面を有する上面(二つの被圧面)は上側の梁の正負の移動時に梁から交互に力を受け、同じく2面を有する下面(二つの加圧面)は交互に力を及ぼすから、基本的に水平面に対して逆向きに傾斜した傾斜面になる。よって「上側の梁から力を受ける上面が上側に凸の面をなす」とは、2面で一組になる上面(二つの被圧面)が上側に凸の面をなすことを言う。ついでながら、2面で一組になる下面(二つの加圧面)が下側に凸の面をなせば、「下面が下側に凸の面をなす」ことになる。
【0027】
結局、上面(被圧面)と下面(加圧面)に関係なく、正負の向きに交互に力を受けるか、交互に力を及ぼす2面から構成される屈曲面が上側に凸になれば、上側に凸の面をなし、上側に凹になれば、上側に凹の面をなすことになる。
【0028】
図2に示す壁構成材2の上面21の内、中心寄りの二つの面は見かけ上、中心を通る鉛直面に関して凹の面をなし、下面22の内、中心寄りの二つの面は中心を通る鉛直面に関して凸の面をなしている。しかしながら、上側に隣接する壁構成材から(上側の梁から直接、もしくは間接的に)交互に力を受ける二つの上面21(被圧面)の組、すなわち21aと21bの組から構成される屈曲面と、21cと21dの組から構成される屈曲面は共に上側に凸の面をなし、下側に隣接する壁構成材に(下側の梁に直接、もしくは間接的に)交互に力を及ぼす二つの下面22(加圧面)の組、すなわち22aと22bの組から構成される屈曲面と、22cと22dの組から構成される屈曲面は共に下側に凹の面をなしている。
【0029】
図8に示す壁構成材2には上面21(被圧面)が2面(21aと21b)あり、下面22(加圧面)も2面(22aと22b)あるが、上面21の2面(21aと21b)から構成される屈曲面は上側に凸の面をなし、下面22の2面(22aと22b)から構成される屈曲面は下側に凹の面をなしている。前記のように図2、図8に示す壁構成材2は上下を反転させた状態で使用されることもある。
【0030】
図10に示す壁構成材2にも上面21(被圧面)が2面(21aと21b)あり、下面22(加圧面)も2面(22aと22b)あるが、上面21の2面(21aと21b)から構成される屈曲面は上側に凸の面をなし、下面22の2面(22aと22b)から構成される屈曲面も下側に凸の面をなしている。因みに図15の例では、面対称で、交互に力を受ける上面の2面が上側に凹の面をなし、下面も下側に凹の面をなしている。
【0031】
「対になる複数の上面と下面の組」とは、上記のように上側の梁から力を受ける上面(被圧面)と、下側の梁に力を及ぼす(与える)下面(加圧面)の組が複数存在することを言う。例えば図2、図8のように水平面に関して対称な位置で対になる上面(被圧面)と下面(加圧面)の組が存在すること(請求項3)、または図10のように鉛直面の中心に関して点対称位置にある上面(被圧面)と下面(加圧面)の組が存在すること(請求項4)を言う。結局、壁構成材は上から力を受ける上面(被圧面)と下に力を伝達する下面(加圧面)の組を少なくとも二組有し、上面(被圧面)と下面(加圧面)を共に2面以上、有することになる。
【0032】
図15の例では上側の梁から力を受ける面対称の2面(二つの被圧面)で一組になる上面が上側に凹の面をなし、下側の梁に力を及ぼす面対称の2面(二つの加圧面)で一組になる下面も下側に凹の面をなしている。この結果、ブロックはその中心に関して点対称位置の、中心からの距離が大きい位置で上からの力と下からの反力を受けるため、ブロックの長さ方向の端部に反力を負担させ易く、損傷を与え易い。また上からの力と下からの反力がブロックに回転を与える偶力を形成する上、中心の両側に引張力が作用する。
【0033】
これに対し、水平面に関して対称な位置で対になる上面(被圧面)と下面(加圧面)の組が存在する場合(図2、図8)には、図9に示すように片側の上面で受けた力を長さ方向の同じ位置の下面から伝達することができる。従って図15の例のように壁構成材の端部に反力を負担させるようなことがない上、壁構成材を回転させようとする偶力が発生することもない。
【0034】
鉛直面の中心に関して点対称位置にある上面(被圧面)と下面(加圧面)の組が存在し、上面が上側に凸、下面が下側に凸の形状をする場合(図10)には、図11に示すように壁構成材の中心の片側の上面で受けた力を中心に関して点対称位置の下面から伝達することができる。従ってこの場合には、上からの力の作用線と、下面で受ける反力の作用線を同一線上、もしくはそれに近い線上に位置させることができるため、壁構成材の端部に反力を負担させることがなく、壁構成材を回転させようとする偶力も発生しない。
【0035】
対になる上面(被圧面)と下面(加圧面)の組が鉛直面の片側毎にある場合(請求項3)と、鉛直面の中心に関して点対称位置にある場合(請求項4)のいずれも、フレームの層間変形時に壁構成材が上面(被圧面)から受けた上側の梁からの力を、その上面と対になる下面(加圧面)を通じて下側の梁に伝達する。従って壁構成材は図15に示す形状のコンクリートブロックが移動しようとするときのように、線で力を受けることがないため、過大な応力度の作用による損傷の発生がなく、壁構成材が回転しようとする現象も発生しない。
【0036】
水平面に関して対称な位置で、または中心に関して点対称位置で対になる上面(被圧面)と下面(加圧面)は、上面で受けた上側の梁からの力を下面から損失なく下側の梁に伝達する上では基本的に互いに平行になるが(請求項5)、対になる上面と下面の面積が等しくないような場合には必ずしも平行である必要はない。
【0037】
壁構成材の上下で対になる上面(被圧面)と下面(加圧面)の組はフレームの層間変形による上側の梁の相対移動(水平移動)によって水平力を負担しながら、下側の壁構成材に伝達する働きをするから、上面と下面は共に水平力に抵抗できるよう、基本的には水平面に対して傾斜した面になる。具体的には壁構成材の上面は層間変形による上側の梁の移動に伴い、上側へ向かう傾斜が付き、下面は上面と平行、もしくは平行に近い状態の傾斜が付く。
【0038】
但し、上側の梁が層間変形時に水平面内より下方へ沈み込むように移動するような場合、あるいは上方へ浮き上がるように移動するような場合には、壁構成材の上面と下面が水平面になることもある。いずれにしても、下側の梁は層間変形時にも水平な状態を維持していると仮定できるから、層間変形時の上側の梁の移動方向が壁構成材の上面と交わるように上面が梁の移動方向に対して相対的に傾斜していればよい(請求項2)。
【0039】
下側の梁42が層間変形時にも水平な状態を維持し、上側の梁41が層間変形時に沈み込むか、浮き上がるとすれば、図14に示すように上側の梁寄りに配置される壁構成材6の上面61が水平面で、下面62が水平に対して傾斜した傾斜面であっても上側の梁41から伝達される力を下側の梁42に伝達する機能を発揮することが可能である。上側に配置される壁構成材6の下面62が図示するように水平面に対して傾斜した複数の傾斜面を有していれば、下側に配置され、上側の梁から力を受ける壁構成材6の上面61は上側に凸の面をなしていることになる。
【0040】
例えば図11、図12に示すように対向する面が互いに平行な図10に示すような6角柱状(ブロック状)の壁構成材2を組積することにより耐震壁が構成される場合、ブロック状の壁構成材2の上面21(被圧面)は上側の梁の相対移動時に上に位置する壁構成材から水平方向の力を受け、下面22(加圧面)は下に位置する壁構成材2から反力を受ける。このようにブロック状の壁構成材2の上面21に作用する力と下面22に作用する反力は共に面で受けることができるため、応力度が過大になることがなく、壁構成材2の一部が損傷を受ける事態と、損傷に起因する回転の現象は発生しない。
【0041】
図11の状況下では、ブロック状の壁構成材2の上面21と下面22には互いに向き合う方向の圧縮力が作用する。それぞれの面に作用する力を面に平行な成分と垂直な成分に分けたとき、平行な成分は壁構成材2に引張力を与え、垂直な成分はせん断力を与えるが、6角柱状(ブロック状)の壁構成材2には断面積の低下した部分がないため、引張力によって弱点になる箇所は存在しない。
【0042】
以上のように壁構成材がフレームの層間変形時に上側の梁からその相対移動の向きに力を受け、その力をその向きと同一向きに下側の梁に対して及ぼすことは、対になる壁構成材の上面と下面が互いに平行であるか、平行に近い状態にあることで可能になるから、壁構成材は結局、互いに平行、もしくは平行に近い上面と下面の組を複数有していればよいことになる(請求項5)。
【0043】
前記のようにフレームの層間変形は正負の向きに交互に繰り返されるから、互いに平行、もしくは平行に近い上面と下面の複数の組が異なる方向を向いていれば、上側の梁の正負の相対移動時に上側の梁からの力を下側の梁に伝達することが可能になる。
【0044】
但し、図15の例のように壁構成材の上面と下面が力の伝達をする側に対して凹の面をなしている場合には、上側の梁からの力と下側の梁からの反力のいずれかを線(点)で受けることになるから、上面と下面の少なくとも一方は図8、図11に示すように凸の面をなしていることが適切である。
【0045】
前記のようにブロックの上面と下面のいずれもが凹面をなしている図15の場合には、上側の梁からの力を上面で受け、下側の梁からの反力を下面で受けることができるものの、上側の梁からの力を受ける上面と下側の梁からの反力を受ける下面が中心を挟んだ両側に位置するため、断面積の小さい中心の両側に引張力が作用する。
【0046】
これに対し、壁構成材の上面と下面のいずれか一方が力の授受をする側に凸の面をなしている図8の場合には、図9に示すように上側の梁からの力を受ける上面と下側の梁からの反力を受ける下面が中心を挟んだ片側に位置するため、中心に引張力が作用することがない。只、中心に関してブロック(壁構成材)の移動側の下面は端部において下側に隣接するブロック(壁構成材)に線(点)で接触するため、この下面の端部が下に隣接する壁構成材、もしくは下側の梁に接触することで、反力の一部を負担し、損傷する可能性がある。
【0047】
そこで、壁構成材の上面と下面が共に、力の授受をする側に凸の面をなしている図10の場合には(請求項4)、図11に示すように上側の梁からの力を受ける上面と下側の梁からの反力を受ける下面が中心を挟んだ点対称位置にあるため、上面と下面に平行な成分は偶力を形成するだけで、引張力になることはない。上面と下面に垂直な成分も偶力を形成するが、平行な成分による偶力と向きが逆であるため、平行な成分による偶力を相殺するように働く。またブロック(壁構成材)自体の形状から、上面も下面も線で接触する部分がないため、損傷することもない。
【0048】
図2に示す形状の壁構成材(ブロック)は上面21(被圧面)と下面22(加圧面)のそれぞれが、長さ方向(耐震壁の幅方向)に隣接し、水平面に対して傾斜した複数の傾斜面を持ち、長さ方向に隣接する傾斜面が互いに異なる方向を向き、且つ上面のいずれかの傾斜面と下面のいずれかの傾斜面が互いに平行であることの形態的特徴を有する(請求項6)。この特徴は図2に示す壁構成材を中心を通る鉛直面で2分割した図8に示す形状の壁構成材(ブロック)、及び図10に示す形状の壁構成材(ブロック)にも当てはまる。
【0049】
図10に示す壁構成材2はその中心を挟んで対向し、対になる上面21の傾斜面21aと下面22の傾斜面22bが平行な場合であり、図8に示す壁構成材2はその中心の片側毎に、上面21の傾斜面21aと下面22の傾斜面22aが平行な場合である。図2に示す壁構成材2は更に詳しく言えば、長さ方向の中心を通る垂直面に関して同一の形状が連続する形状をし、この垂直面の片側の上面21と下面22につき、互いに異なる方向を向き、長さ方向に隣接する二つの傾斜面21a、21bと傾斜面22a、22bを有している(請求項7)。
【0050】
ブロック状の壁構成材は図1、図7に示すように単独でフレーム内に水平方向(横方向)と鉛直方向(高さ方向)に組積させられることにより耐震壁を構成する場合と、図12に示すように壁板状の壁構成材と組み合わせられる場合がある。前者の場合、壁構成材は破れ目地で積み上げられる。
【0051】
後者の場合、ブロック状の壁構成材は図12に示すように耐震壁の中段位置で、耐震壁の全幅に亘って横方向に配列させられる場合と、全幅の内の一部の区間に配列させられる場合がある。壁板状の壁構成材は単独で使用される場合には、図14に示すように複数枚組み合わせられることにより耐震壁を構成する。
【0052】
耐震壁を構成する壁構成材とフレームとの間、並びに耐震壁が複数個(複数枚)の壁構成材から構成される場合の、水平方向と鉛直方向に隣接する壁構成材同士、上側の梁とそれに接触する壁構成材同士、及び下側の梁とそれに接触する壁構成材同士は直接接触する場合と、間に充填材や応力伝達部材等が介在させられる場合がある。
【0053】
充填材が介在させられることは、直接接触することによる壁構成材や梁の摩耗や損傷を回避し、また隣接する壁構成材間等で力の伝達を確実にする目的で行われる。充填材としてはモルタル、接着剤等の充填材が充填され、応力伝達部材としては鋼材、強化プラスチック(繊維強化プラスチックを含む)等が介在させられる。
【0054】
図3の場合、上面と下面において異なる方向を向く複数の傾斜面が横方向に交互に配列することと、上下に対向する上面と下面が互いに平行で、この互いに平行な上面と下面の組が4組あることで、高さ方向の中間部に位置するブロック(中ブロック)の上面は上側で横方向に隣接する2個のブロック(上ブロック)の下面から上側の梁から伝達された力を受け、下面は下側で隣接する2個のブロック(中ブロック)の上面から下側の梁から伝達された反力を受ける。
【0055】
このように相対的に上側に位置するブロックの下面から中間部のブロックにフレームの層間変形時の上側の梁からの力(せん断力)が伝達され、その中間部のブロックの下面から下側に位置するブロックに伝達されていくことで、最終的にはフレームを構成する上側の梁からの力(せん断力)が下側の梁に伝達されるため、複数のブロックを通じて柱・梁のフレーム内において、水平力(水平せん断力)の伝達が行われることになる。
【0056】
中ブロックの上面と下面から受ける反力はそれぞれの面に平行な成分と垂直な成分とに分けられ、平行な成分は互いに向きが異なるため、ブロックに引張力を作用させ、垂直な成分は互いに向き合うため、ブロックに圧縮力を作用させる。上側のブロックからの反力は上面の中心に作用し、下側のブロックからの反力は下面の中心に作用するが、対向する上面と下面が平行であることで、それぞれの作用位置が接近しているため、上記引張力は限られた範囲に作用する。
【0057】
ここで、図2に示すブロック状の壁構成材が図1に示すように高さ方向に配列した場合に、図3に示すように高さ方向の中間部にある壁構成材(中ブロック)の上側にある壁構成材(上ブロック)が中ブロックに対して右側へ相対移動したときの、中ブロックの下面に作用する力の釣り合いを、図4を用いて説明する。上ブロックの相対移動に伴い、中ブロックも同じ向きに相対移動する。
【0058】
図2に示す形状の壁構成材(ブロック)の場合、対向する上面と下面の組がブロックの中心の片側にあることから、引張力がブロックの中心の両側に作用することはないため、ブロックを分離させようとする力になることはない。圧縮力は接近した線上に作用するから、ブロックへの影響は小さい。
【0059】
上ブロックは図4−(a)に示すように相対的に中ブロックに対して水平方向(耐震壁の幅方向)に滑ることにより相対移動し、その相対移動に伴い、中ブロックの上面の形状に応じて中ブロックに乗り上げ、上方へ移動する挙動を示す。上ブロックが水平移動に伴い、中ブロックに乗り上げて上方へ移動することで、耐震壁全体では高さ方向に伸長(膨張)しようとする。この現象を以下では「膨張」と表現する。
【0060】
膨張は個々のブロック単位で生じ、各ブロックの膨張は累積して耐震壁全体の上下方向膨張に発展するが、耐震壁全体での膨張は周囲のフレーム、特に上下の梁によって拘束され、耐震壁は水平方向と鉛直方向に高い拘束力を受けるため、フレームの層間変形によって高いせん断耐力とせん断剛性を発揮することになる。
【0061】
なお、複数の壁構成材からなる耐震壁(壁板)の少なくとも厚さ方向の片面に、繊維シート等の引張補強材が接着やモルタル等の付着により一体化させることで、フレームによる耐震壁の拘束効果を補うことができるため、耐震壁のせん断耐力とせん断剛性が一層向上する。
【0062】
図4−(a)に示す状態のとき、上ブロックは二つの下面において中ブロックの二つの上面に接触し、上ブロックの下面は中ブロックの上面から反力を受けている。上ブロックの挙動と力の関係は図2に示すブロックの上下を反転させても同じである。
【0063】
図4−(c)は上ブロックの下面と中ブロックの上面との間に生じている力の釣り合い状態を示している。ここでは簡単のため、複数のブロックからなる耐震壁が変形を生じていない状態ではブロックにいずれの方向にも軸力が作用していないものとする。
【0064】
図4−(a)において中ブロックの上面から上ブロックの下面に作用する力の内、上ブロックの下面に垂直な成分は主に耐震壁の膨張を抑える力として作用する。この力の大きさをQOとし、下面に平行な成分をPOとすると、摩擦係数をμとして
PO=μ・QO(μ=PO/QO)が成り立つ。
一方、(b)においてtanγ=PO/QOであるから、
γ=tan−1(PO/QO)=tan−1・μとなる。
【0065】
図4−(c)において上ブロックから中ブロックに働く力の内、水平成分をAO、垂直成分をBOとし、力QOと鉛直方向とのなす角度をθとすると、
AO=BO・tan(θ+γ)。
ここで、ブロックの膨張により耐震壁全体が上下のフレームから受ける上下方向拘束力をV、ブロック1段当たりの接触面の数をmとすると、BO=V/mであるから、
AO=V/m・tan(θ+γ)となる。
また耐震壁全体のせん断力をQとすると、Q=m・AOであるから、以下の式(1)が得られる。
Q=V・tan(θ+tan−1・μ)……(1)
【0066】
図4−(d)において上ブロックが中ブロックに対し、水平方向にδだけ滑り、全く変形を生じないとすると、上ブロックは上方へeだけ移動し、膨張する。但し、実際には前記上下方向拘束力によりブロックは上下方向に収縮し、膨張量はeより小さくなるため、ブロック自体の収縮量をe1、結果としての膨張量をe2とすれば、
e=e1+e2である。
【0067】
ここで、フレームを構成する上下の梁が剛で、上下方向拘束力は耐震壁の幅方向両側の柱主筋から耐震壁に作用すると仮定すると、ブロックに生じる圧縮力とその膨張を拘束する柱主筋の引張力は等しく、この柱主筋の引張力が上下方向拘束力に他ならない。
【0068】
この上下方向拘束力をV、ブロックの段数をn、耐震壁の内法高さをh、ブロックのヤング係数をcE、柱主筋のヤング係数をsEとし、上下方向拘束力Vを受ける耐震壁の有効断面積をwAe、柱主筋の断面積をrAとすると、
ブロックの歪みε1はε1=V/cE・wAe、
柱主筋の歪みε2はε2=V/sE・rAであるから、Vは以下のようになる。
V=cE・wAe・ε1=sE・rA・ε2……(2)。
【0069】
なお、耐震壁の有効断面積wAeは図4−(b)に示すように上ブロックが中ブロックに対して相対移動したときに、上ブロックの下面と中ブロックの上面とが接触(重複)している面の水平投影面積の合計(合算)を指す。
【0070】
ε1、ε2はまた、1ブロックの高さをLとすれば、
ε1=e1/L、ε2=e2/Lと表され、L=h/nであるから、
ε1=e1/(h/n)=(e1・n)/h、
ε2=(e2・n)/hとなる。
このε1、ε2を上記式(2)に入れると、
V=cE・wAe・(e1・n)/h=sE・rA・(e2・n)/h……(3)
となるから、以下の式(4)を得る。
cE・wAe・e1=sE・rA・e2……(4)
【0071】
また図4−(c)よりe2=δ・tanθ−e1であるから、これを式(4)の右辺に入れると、
cE・wAe・e1=sE・rA・(δ・tanθ−e1)となり、整理すれば、以下の式(5)が得られる。
e1={(sE・rA)/(cE・wAe)・δ・tanθ}/{(sE・rA)/(cE・wAe)+1}……(5)
【0072】
ここで、耐震壁の内法高さに対する層間変形角をRとすると、式(5)は下式(6)になる。
e1={(sE・rA)/(cE・wAe)・tanθ}/{(sE・rA)/(cE・wAe)+1}・(h・R)/n……(6)
【0073】
上記式(3)と式(6)から、以下の式(7)が得られる。
V=cE・wAe・{(sE・rA)/(cE・wAe)・tanθ}/{(sE・rA)/(cE・wAe)+1}・R……(7)
式(7)を式(1)に代入して整理すると、Qは以下のように表される。
Q=(sE・wAe)・{(rA/wAe)・tanθ}/{(sE・rA)/(cE・wAe)+1}・tan(θ+tan−1・μ)・R……(8)
【0074】
式(8)により耐震壁に作用するせん断力Qが層間変形角Rを用いて表されることが明らかにされた。すなわち、各ブロックに滑りδが生じ、耐震壁全体として層間変形角Rが生じる場合にも、せん断力Qが0にならないことが明らかになったため、ブロックに滑りが生じる場合にも、耐震壁としてのせん断力が期待できることが証明された。
【0075】
また上ブロックの中ブロックに対する滑りδに起因してブロックに収縮e1と膨張e2が生ずることを前提として、せん断力Qと層間変形角Rとの関係が成立したことで、上ブロックの滑りによる膨張が耐震壁全体のせん断力Qに寄与していることも明らかになった。各ブロックの膨張が累積した耐震壁全体の上下方向膨張はフレームを構成する上下の梁によって拘束されようとするため、高いせん断剛性を保有することが証明された。
【発明の効果】
【0076】
壁構成材が上面においてフレームを構成する上側の梁から直接、もしくは間接的にフレームの移動の向きに力を受け、この上側の梁から受ける力と釣り合う力を下面を通じてフレームを構成する下側の梁に直接、もしくは間接的に及ぼす形状をしていることで、上側の梁からの力(せん断力)を下側の梁に確実に伝達することができる。また相対的に上側に位置する壁構成材の滑りによって下側に位置する壁構成材への乗り上げが生じ、耐震壁全体の上下方向膨張は上下の梁によって拘束されるため、耐震壁のせん断耐力とせん断剛性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ブロック状の壁構成材の組積により構築された耐震壁の構成例を示した立面図である。
【図2】図1の耐震壁を構成する壁構成材を示した斜視図である。
【図3】図2に示す壁構成材を複数段、積み重ねた状態で、フレームの層間変形に伴い、上側の壁構成材が水平方向に相対移動したときの力の伝達の様子を示した立面図である。
【図4】(a)は図3の中段に位置する壁構成材の相対移動量δとそれに伴う乗り上げ(膨張)量eの関係を示した立面図、(b)は上側の壁構成材と下側の壁構成材との接触面の水平投影面積を示した平面図、(c)は(a)のときの上側の壁構成材と下側の壁構成材との間の力の釣り合い状態を示した説明図、(d)は(a)のときの相対移動量δと乗り上げ量eの変形の適合状態を示した説明図である。
【図5】図1に示す耐震壁の構築開始時の様子を示した立面図である。
【図6】図6の次の手順を示した立面図である。
【図7】図1に示す耐震壁を構成する全壁構成材の組積が完了した様子を示した立面図である。
【図8】図2に示す壁構成材を2分割した形状の壁構成材を示した斜視図である。
【図9】図8に示す壁構成材を複数段積み重ねた状態で、上側の壁構成材が水平方向に相対移動したときの様子を示した立面図である。
【図10】凸6角柱状の壁構成材を示した斜視図である。
【図11】図10に示す壁構成材を複数段積み重ねた状態で、上側の壁構成材が水平方向に相対移動したときの様子を示した立面図である。
【図12】図10に示す壁構成材を耐震壁(壁板)の中段に1列に配列させ、その上下に壁板状の壁構成材を配置した耐震壁の構成例を示した立面図である。
【図13】図12に示す耐震壁(壁板)の中心部に開口部を形成した場合の耐震壁の構成例を示した立面図である。
【図14】2枚の壁板状の壁構成材を上下に配置し、両壁構成材間に応力伝達部材を介在させた耐震壁の構成例を示した立面図である。
【図15】従来の耐震壁を構成するブロックを複数段、積み重ねた状態で、フレームの層間変形に伴い、上側の壁構成材が水平方向に相対移動したときの力の伝達の様子を示した立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0079】
図1は柱3と梁4(41、42)からなるフレーム5内に複数の壁構成材2を高さ方向に配列させ、壁構成材2をフレーム5から高さ方向に拘束した状態で構築される耐震壁1の構成例を示す。図1は図2に示す立体形状の壁構成材2を水平方向と鉛直方向に破れ目地で組積して構築される耐震壁1を示す。
【0080】
壁構成材2は耐震壁1の内、フレーム5を除いた壁板10を構成する。壁構成材2の形状は図1〜図7に示すようなブロック状の場合と、図12〜図14に示すような壁板状の場合がある。
【0081】
壁構成材2は上下で対になる複数の上面21と下面22の組を有し、フレーム5が層間変形を起こしたときに、フレーム5を構成する上側の梁41から直接、もしくは間接的にいずれかの上面21にフレームの5移動の向きに力を受け、下面22から、フレーム5を構成する下側の梁42に直接、もしくは間接的に、上側の梁41から受ける力と釣り合う力を及ぼす形状をしている。上面21と下面22の少なくともいずれか一方はそれぞれの側に凸の面をなしている。
【0082】
図2に示す壁構成材2は上面21と下面22のそれぞれが、長さ方向に隣接し、水平面に対して傾斜した複数の傾斜面21a〜21d、22a〜22dを有する形態を有する。長さ方向に隣接する傾斜面21a(22a)と傾斜面21b(22b)、傾斜面21b(22b)と傾斜面21c(22c)、傾斜面21c(22c)と傾斜面21d(22d)は互いに異なる方向を向き、且つ上面21のいずれかの傾斜面21a〜21dと下面22のいずれかの傾斜面22a〜22dが互いに平行である。
【0083】
図2に示す壁構成材2は特に破線で示す、長さ方向の中心を通る垂直面(対称面)に関して連続する形状をし、この垂直面の片側につき、上面21(被圧面)と下面22(加圧面)のそれぞれが、互いに異なる方向を向き、長さ方向に隣接する二つの傾斜面21aと傾斜面21b(傾斜面21cと傾斜面21d)、及び傾斜面22a、22b(傾斜面22cと傾斜面22d)を有している。上面21の全傾斜面21a〜21dは被圧面であり、下面22の全傾斜面22a〜22dは加圧面である。
【0084】
図3、図4に示すように図2に示す複数の壁構成材2が水平方向に隣接して配列し、鉛直方向に多段に配置された耐震壁1では、相対的に上段側(上側)に位置する壁構成材2の下面22(加圧面)と下段側(下側)に位置する壁構成材2の上面21(被圧面)が互いに接触した状態にある。上下に隣接する壁構成材2、2は直接接触する場合と、両者間にモルタルや接着剤等の充填材が充填され、間接的に接触する場合がある。
【0085】
相対的に上側に位置する壁構成材2がフレーム5の層間変形によりいずれかの側、図面では右側に移動するとき、その上側の壁構成材2の下面22から下側の壁構成材2の上面21が力を受ける。図3の場合には特に、上側の壁構成材2の下面22を構成する傾斜面22aと傾斜面22cから、下側の壁構成材2の上面21を構成する傾斜面21aと傾斜面21cに力が伝達される。
【0086】
図2に示すブロック状の壁構成材2は破れ目地で積み上げられる関係で、上側に位置する壁構成材2の相対移動により下側に位置する2個の壁構成材2、2に力を及ぼす。上側の壁構成材2が右側へ移動したとき、上側の壁構成材2の傾斜面22aからはその下で隣接する2個の壁構成材2、2の内、左側に位置する壁構成材2の傾斜面21cに力を伝達し、上側の壁構成材2の傾斜面22cからは右側の壁構成材2の傾斜面21aに力を伝達する。上側の壁構成材2が左側へ移動したとき、上側の壁構成材2の傾斜面22dからは右側に位置する壁構成材2の傾斜面21bに力を伝達し、上側の壁構成材2の傾斜面22bからは左側の壁構成材2の傾斜面21dに力を伝達する。
【0087】
このことから、図2に示す形状の壁構成材2の上面21における傾斜面21aと傾斜面21bの組、及び傾斜面21cと傾斜面21dの組がそれぞれ上側の梁41から正負の向きに交互に力を受ける組み合わせになり、下面22における傾斜面22aと傾斜面22bの組、及び傾斜面22cと傾斜面22dの組がそれぞれ下側の梁42に正負の向きに交互に力を及ぼす組み合わせになる。
【0088】
また上面21の傾斜面21aと傾斜面21cで受けた力を下面22の傾斜面22aと傾斜面22cから伝達し、上面21の傾斜面21bと傾斜面21dで受けた力を下面22の傾斜面22bと傾斜面22dから伝達するから、傾斜面21aと傾斜面22a、傾斜面21bと傾斜面22b、傾斜面21cと傾斜面22c、傾斜面21dと傾斜面22dの各組が上側の梁41からの力を下側の梁42に伝達するための対になる。この対になる各組の傾斜面21aと傾斜面22a等は互いに平行である。
【0089】
図8、図9に示す壁構成材2は図2に示す壁構成材2をその中心を通る鉛直面(対称面)で2分割した形状であるから、上面21と下面22のそれぞれが長さ方向に隣接し、水平面に対して傾斜し、互いに異なる方向を向いた複数の傾斜面21a、21bと傾斜面22a、22bを有する。
【0090】
この場合、上面21において隣接する傾斜面21aと傾斜面21bの組が上側の梁41から正負の向きに交互に力を受ける組み合わせになり、下面22において隣接する傾斜面22aと傾斜面22bの組が下側の梁42に正負の向きに交互に力を及ぼす組み合わせになる。また上面21の傾斜面21aと下面22の傾斜面22a、及び上面21の傾斜面21bと下面22の傾斜面22bは互いに平行で、各組が上側の梁41からの力を受け、下側の梁42に伝達するための対になる。
【0091】
図8に示す壁構成材2は図9に示すように壁構成材2が下側の壁構成材2に対して相対移動したときに、前記のように上側の壁構成材2からの力を傾斜面21aで受け、下側の壁構成材2からの反力を傾斜面22aで受けることができる。
【0092】
反面、その壁構成材2は下面22の移動側の端部(下端部)においても下側に隣接する壁構成材2に接触し、この端部は線で接触しているため、この下面22の端部が摩耗、あるいは損傷する可能性を秘めている。この摩耗等の可能性は下側の壁構成材2からの反力を受ける傾斜面22aが下側に凹の面をなしていることに起因するため、図1、図2に示す壁構成材2にも存在する。
【0093】
これに対し、図10、図11に示すように壁構成材2の側面形状を凸6角形状にすることで、下側の壁構成材2からの反力を受ける傾斜面22aが下側に凸の面をなすため、下側の壁構成材2に線で接触する端部がなくなり、下面22が摩耗、あるいは損傷する可能性がなくなる。図10、図11に示す壁構成材2は対向する面が互いに平行な6角柱状の形状をする。
【0094】
図10に示す壁構成材2も上面21と下面22のそれぞれが、長さ方向に隣接し、水平面に対して傾斜した複数の傾斜面21a、21bと傾斜面22a、22bを有し、長さ方向に隣接する傾斜面21a(22a)と傾斜面21b(22b)は互いに異なる方向を向く。図10の場合、図8の場合と異なり、上面21の傾斜面21aと下面22の傾斜面22a、及び上面21の傾斜面21bと下面22の傾斜面22bは互いに平行ではないが、傾斜面21aと傾斜面22b、及び傾斜面21bと傾斜面22aが互いに平行であり、それぞれの組が上側の梁41からの力を受け、下側の梁42に伝達するための対になる。
【0095】
図12は図10に示す壁構成材2を耐震壁1の高さ方向の中段に1列に配置し、その上下に壁板状の壁構成材6を配置した場合の耐震壁1の構成例を示す。この例は柱3と梁4からなるフレーム5内にブロック状の壁構成材2と壁板状の壁構成材6を高さ方向に配列させた場合であり、少なくとも壁構成材2が上側の梁41からの力を受ける上面21と、下側の梁42に力を伝達する下面22を有している。
【0096】
図12では上側の梁41に接する壁構成材6の下面62と下側の梁42に接する壁構成材6の上面61の形状が、中段に配置される壁構成材2の上面21と下面22の傾斜に応じて波形になる。このため、上側の壁構成材6はフレーム5の層間変形に伴う水平移動時に下面62の傾斜面を通じて壁構成材2の上面21に力を伝達し、下側の壁構成材6は上面61の傾斜面から壁構成材2に反力を作用させる。
【0097】
フレーム5の層間変形時に上側の梁41が沈み込むか、浮き上がるように下側の梁42に対して相対移動する場合には、上側の壁構成材6の上面61が平坦面であっても、壁構成材6の上面61が上側の梁41の移動方向に対して相対的に傾斜するため、上側の梁41からその移動の向きに力を受けることができる。
【0098】
上側の梁41が水平方向に相対移動する場合には、梁41からの力が壁構成材6に伝達され易いよう、図12に鎖線で示すように上側の壁構成材6の上面61を波形に形成することもある。この波形は中段に配列する壁構成材2の群の上面と下面がなす波形の形状に倣い、向きの異なる傾斜面が交互に配列するように形成される。その場合、上側の梁41と壁構成材6の上面との間にはモルタル、コンクリート、接着剤等の充填材7が充填される。下側の壁構成材6の下面62も波形に形成した場合には、下側の壁構成材6の下面62から下側の梁42への力の伝達が確実になる。
【0099】
図13は図12に示す耐震壁1の中央寄りの一部の領域を切り欠いて開口部8を形成した場合の例を示す。この場合、開口部8の形成によって壁構成材6と壁構成材2の開口部8側の端部の拘束がなくなり、相対的に上側に位置する壁構成材6から壁構成材2への力の伝達効果が低下する可能性があるため、開口部8の縁の位置には枠材9が配置される。
【0100】
図14はフレーム5内に2枚の壁構成材6、6を配置し、上側の壁構成材6の下面62と下側の壁構成材6の上面61を波形の形状に形成した場合の例を示す。この場合も波形も、鎖線で示すようにブロック状の壁構成材2の群の上面と下面がなす波形の形状に倣って形成される。上下の壁構成材6、6は上側の壁構成材6の下面62と下側の壁構成材6の上面61が直接接触した状態で配置されればよいが、上下の壁構成材6、6の間には、両者間での力の伝達効果を上げるために、鋼材、強化プラスチック等の応力伝達部材11を介在させている。上下の壁構成材6、6の間には前記の充填材7が充填される場合もある。
【0101】
ここで、図2に示す壁構成材2を組積して図1に示す耐震壁1を構築する場合の作業手順を図5〜図7により説明する。図5は柱3と梁4(41、42)からなるフレーム5内の下側の梁42の上に壁構成材2を水平方向に配列させるための架台12を設置した様子を示している。下側の梁42の天端とスラブの天端は同一のため、図5では下側の梁42をスラブで表している。
【0102】
架台12の上面は複数個の壁構成材2を長さ方向に隣接させながら配置し、壁構成材2の群を形成したときの下面の形状に倣った波形の形状に形成されている。架台12は下側の梁42にアンカー等によって定着される。梁42上には架台12に代わってモルタル等の充填材7を敷設することもある。全壁構成材2の組積が完了したときには、最上段の壁構成材2と上側の梁41の下面との間に充填材7が充填されるため、上側の梁41の下面には予め充填材7と梁41との一体性を確保するための突起13が突設されている。
【0103】
図6は図5に示す架台12の上に壁構成材2を破れ目地で積み重ねている様子を示す。図7は最上段の壁構成材2の積み重ねまで終了した様子を示す。図7の状態からは、前記のように最上段の壁構成材2と上側の梁41との間に充填材7が充填される。フレーム5は壁構成材2の水平方向の移動を拘束する必要があるため、図1に示すように柱3側の壁構成材2と柱3との間にも充填材7が充填され、耐震壁1が完成する。
【0104】
図1では柱3の全長に亘って壁構成材2との間に充填材7を充填しているが、充填材7は特に柱3の上下端部(頭部と脚部)に重点的に充填されれば、耐震壁1が地震時の水平せん断力を負担し、崩壊前の終局時に至るまで柱3による壁構成材2の拘束効果を発揮させ、耐震壁1のせん断耐力を向上させることができる。
【0105】
複数の壁構成材2からなる壁板(耐震壁1)の少なくとも厚さ方向の片面の一部、もしくは全面には、耐震壁1がせん断力を負担するときの斜張力に抵抗させるための繊維シート等の引張補強材が接着剤やモルタル等により一体化させられることもある。
【符号の説明】
【0106】
1……耐震壁、10……壁板、
2……壁構成材(ブロック状)、21……上面、22……下面、
21a〜21d……傾斜面、
22a〜22d……傾斜面、
3……柱、41……上側の梁、42……下側の梁、5……フレーム、
6……壁構成材(壁板状)、61……上面、62……下面、
7……充填材、8……開口部、9……枠材、
11……応力伝達部材、12……架台、13……突起。
【技術分野】
【0001】
本発明は柱・梁のフレーム内に配置され、上下に隣接するコンクリートブロック等の壁構成材の相対移動を利用して地震時のせん断力を負担する耐震壁に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばコンクリートブロックを組積して構築される耐震壁は柱・梁のフレーム内の空間に、複数のコンクリートブロックを横方向と高さ方向に積み上げ、コンクリートブロックの全体を周囲のフレームから拘束することにより、水平力に対するせん断抵抗力を確保する。
【0003】
コンクリートブロックの形態には中実断面と中空断面があり、中空断面の場合には、内部にコンクリートを充填することにより耐震壁が完成するため、コンクリートブロックの積み上げと鉄筋の配筋を交互に行う必要があり、作業性が低下する問題がある。特に既存構造物を耐震補強する場合には、既存の梁が配筋の妨げになるため、コンクリートブロックを半割形状にする等の工夫を要する(特許文献1参照)。
【0004】
中実断面のコンクリートブロックを使用した場合には、内部に鉄筋を配筋することができないため、コンクリートブロックの外側に鉄筋に代わって上下に隣接するコンクリートブロック同士を拘束する拘束材を配置することが必要になる(特許文献2参照)。この特許文献2では特に耐震壁のせん断抵抗力を上げる目的で、コンクリートブロックの側面形状を鼓形にし、コンクリートブロックに楔効果を発揮させている。
【0005】
特許文献2ではいずれかのコンクリートブロックがその上下に隣接するコンクリートブロックに対し、長さ方向(耐震壁の幅方向)に相対移動しようとするときに、上下に隣接するコンクリートブロックに拡幅しようとする力を作用させる。このとき、前記コンクリートブロックは上下のコンクリートブロックから移動を拘束する反力を受けることで、耐震壁に作用するせん断力に対する抵抗力を確保する(公報第4頁上右欄第10行〜同頁下左欄第1行)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−257189号公報(請求項1、段落0009〜0012、0017〜0036、図2、図4)
【特許文献2】特開昭54−52828号公報(請求項1、第2頁下右欄第8行〜第3頁上右欄第10行、第1図、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
但し、多数のコンクリートブロックを組積して構成された耐震壁は周囲の柱・梁のフレームから拘束されていることで、耐震壁が水平力を負担したときに、周囲のフレームからせん断変形を強制的に受ける。この結果、図15に示すように相対的に上側に位置するコンクリートブロックが水平方向に移動しようとすることに伴い、その下に位置するコンクリートブロックが上側のコンクリートブロックに引き摺られて同じ向きに移動しようとする。
【0008】
図15のとき、移動する側寄りの端部には上に隣接し、移動しようとするコンクリートブロックの下面から移動側を向く力を受け、反対側寄りの端部には下に隣接するコンクリートブロックの上面から移動側とは逆向きの反力を受ける。各反力は高さ方向の中間に位置するコンクリートブロックの上面と下面のそれぞれに平行な成分と垂直な成分に分けられる。
【0009】
図15の中段に位置する、符号イで示すコンクリートブロックに着目すれば、イのコンクリートブロックは矢印で示す移動側の上面において上側のコンクリートブロックから移動側を向く力を受け、移動側の下端において下側のコンクリートブロックから逆向きの反力を受ける。イのコンクリートブロックはまた、移動の反対側の上端において上側のコンクリートブロックから移動側を向く力を受け、移動側の下面において下側のコンクリートブロックから逆向きの反力を受ける。
【0010】
イのコンクリートブロックは移動側においては上側のコンクリートブロックから上面(面)で力を受けるが、下側のコンクリートブロックからは線(側面で見たときには点)で反力を受けるため、下側のコンクリートブロックから反力を受ける部分の応力度は無限大になる。
【0011】
このため、反力を受ける部分が損傷を受け、実際には図15に示す状況に至ることができず、イのコンクリートブロックが下側のコンクリートブロックに乗り上げることはできないものと考えられる。同じことは移動の反対側にも言え、イのコンクリートブロックの移動の反対側では下側のコンクリートブロックからは下面(面)で反力を受けることができるが、上側のコンクリートブロックから線で力を受ける。
【0012】
イのコンクリートブロックが移動側の下端と移動の反対側の上端で損傷を受け易いことで、結果的にイのコンクリートブロックは右回り(時計回りに)に回転しようとし、上側のコンクリートブロックからのせん断力を下側のコンクリートブロックに伝達することができない。
【0013】
またイのコンクリートブロックの移動側の上面が受ける力と移動の反対側の下面が受ける反力をそれぞれの面に平行な成分と垂直な成分に分けると、垂直な成分は中心部分を通らずに互いに逆向きであるため、コンクリートブロックに対してせん断力を作用させる。平行な成分は互いに逆向きであり、一点鎖線で示す長さ方向の中心に関して両側に作用するから、イのコンクリートブロックには中心の両側に引張力が作用することになる。コンクリートブロックは長さ方向の中心部分の断面積が小さい鼓形であるから、長さ方向に作用する引張力によって中心部分が弱点になり易い。
【0014】
本発明は上記背景より、特許文献2のコンクリートブロックでは実現されないブロック(壁構成材)の乗り上げを可能にする形態の耐震壁を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1に記載の耐震壁は、柱と梁からなるフレーム内に複数の壁構成材を高さ方向に配列させ、前記壁構成材を前記フレームから高さ方向に拘束した状態で構築され、
前記壁構成材が上下で対になる複数の上面と下面の組を有し、前記フレームが層間変形を起こしたときに、いずれかの前記上面が前記フレームを構成する上側の梁からその梁の移動の向きに力を受け、いずれかの前記下面が前記フレームを構成する下側の梁に、前記上側の梁から受ける力と釣り合う力を及ぼす形状をし、前記上面と前記下面の少なくともいずれか一方が凸の面をなしていることを構成要件とする。
【0016】
壁構成材のいずれかの上面は壁構成材の配置位置に応じ、上側の梁からその相対移動の向きに直接、もしくは間接的に力を受け、いずれかの下面は上側の梁と同一の向きに、下側の梁に直接、もしくは間接的に力を及ぼす。例えば上側の梁に接した状態で配置される壁構成材は上側の梁から直接力を受け、それより下に位置する壁構成材は上側の梁から間接的に力を受ける。また下側の梁に接した状態で配置される壁構成材は下側の梁に直接力を及ぼし、それより上に位置する壁構成材は下側の梁に間接的に力を及ぼす。壁構成材の上面は面で上側の梁からの力を受け、下面は面で下側の梁に力を及ぼす。
【0017】
フレームの層間変形時には、上側の梁がいずれかの側に移動し、この梁に接している最上部の壁構成材がその上面において梁からの力を受けることで、梁に引き摺られて梁と同一の向きに移動する。この壁構成材の下に隣接する壁構成材は同じくその上面において間接的に梁からの力を受けることで、上の壁構成材の下面に引き摺られて同一の向きに移動する。最終的には最下部の壁構成材の下面から下側の梁に上側の梁からの力が伝達され、この下面は下側の梁からの反力を受ける。
【0018】
壁構成材の上面が上側の梁から(直接、もしくは間接的に)力を受けることは、壁構成材の下面が下側の梁から(直接、もしくは間接的に)力を受けることでもあり、壁構成材の上面と下面は対(作用・反作用)の関係にあるから、「上面が上側の梁から力を受け、下面が下側の梁に力を及ぼす」は便宜的な説明に過ぎず、「下面が下側の梁から力を受け、上面が上側の梁に力を及ぼす」とも言える。
【0019】
よって「壁構成材のいずれかの上面に上側の梁から(直接、もしくは間接的に)力を受ける」とは、フレームの層間変形に伴い、上側の梁がいずれかの側へ相対移動したときに、その移動の向きに壁構成材の上面が梁から直接、または上側の梁に接している他の壁構成材を通じて間接的に力を受けることを言う。
【0020】
また「壁構成材が下側の梁に(直接、もしくは間接的に)力を及ぼす」とは、上側の梁から力を受けた壁構成材がその下面を通じて下側の梁に直接、または下側の梁に接している壁構成材から間接的に力を及ぼし(与え)、反力を受けることを言う。
【0021】
「壁構成材の下面から下側の梁に、上側の梁から受ける力と釣り合う力を及ぼす」とは、壁構成材が上側の梁から受けた力を下側の梁に伝達し、下側の梁から反力を受けた状態で釣り合いを保つことを言い、耐震壁(壁板)を構成する個々の壁構成材自体が耐震壁の一部として平衡を保つことを言う。
【0022】
「上面と下面の少なくともいずれか一方が凸の面をなしている」とは、上面であれば上側に凸の面をなし、下面であれば下側に凸の面をなすことを言い、上面のみが上側に凸の面をなす場合(図8)と、下面のみが下側に凸の面をなす場合(図8の上下を反転させた形)の他、上面と下面が共にそれぞれの側に凸の面をなす場合(図2、図10)がある。
【0023】
壁構成材の材料は問われず、耐震壁(壁板)の一部を構成したときにせん断力を負担できる剛体として機能できればよい。壁構成材にはコンクリートブロック、レンガ、石材等、ブロック状の形状をする部材が使用される他、耐震壁(壁板)を複数に分割した形状のコンクリート部材が使用され、耐震壁の内、少なくとも一部の壁構成材が上下で対になる複数の上面と下面の組を有していればよい。
【0024】
「上下で対になる」とは、上側の梁から直接、もしくは間接的に伝達される力を受ける壁構成材のいずれかの上面と、この上面で受けた力を下側の梁に直接、もしくは間接的に及ぼす(与える)下面とが一組になることを言う。すなわち、対になる一組は上面(被圧面)で受けた上側の梁からの力を下面(加圧面)から下側の梁に伝達する上面と下面の組み合わせを言う。壁構成材の下面(加圧面)から下側の梁に及ぼす力は下側の梁から受ける反力でもあり、この壁構成材の下面(加圧面)が受ける反力は上面(被圧面)が受ける力と釣り合う。上側の梁から直接、もしくは間接的に力を受ける壁構成材の上面は図2、図8、図10に示すように基本的に上側に凸の面をなすが、上記のように壁構成材の上面と下面は対の関係にあるから、図2、図8の上下を反転させた形をする場合もある。
【0025】
フレームの層間変形時には壁構成材の上面は正負の向きに交互に力を受け、下面は正負の向きに交互に力を及ぼすから、上側の梁から交互に力を受ける上面(被圧面)と、下側の梁に交互に力を及ぼす下面(加圧面)はそれぞれ正向きの力を伝達する面と負向きの力を伝達する面の2面で一組になる。
【0026】
正向きの力を伝達する面と負向きの力を伝達する面の2面を有する上面(二つの被圧面)は上側の梁の正負の移動時に梁から交互に力を受け、同じく2面を有する下面(二つの加圧面)は交互に力を及ぼすから、基本的に水平面に対して逆向きに傾斜した傾斜面になる。よって「上側の梁から力を受ける上面が上側に凸の面をなす」とは、2面で一組になる上面(二つの被圧面)が上側に凸の面をなすことを言う。ついでながら、2面で一組になる下面(二つの加圧面)が下側に凸の面をなせば、「下面が下側に凸の面をなす」ことになる。
【0027】
結局、上面(被圧面)と下面(加圧面)に関係なく、正負の向きに交互に力を受けるか、交互に力を及ぼす2面から構成される屈曲面が上側に凸になれば、上側に凸の面をなし、上側に凹になれば、上側に凹の面をなすことになる。
【0028】
図2に示す壁構成材2の上面21の内、中心寄りの二つの面は見かけ上、中心を通る鉛直面に関して凹の面をなし、下面22の内、中心寄りの二つの面は中心を通る鉛直面に関して凸の面をなしている。しかしながら、上側に隣接する壁構成材から(上側の梁から直接、もしくは間接的に)交互に力を受ける二つの上面21(被圧面)の組、すなわち21aと21bの組から構成される屈曲面と、21cと21dの組から構成される屈曲面は共に上側に凸の面をなし、下側に隣接する壁構成材に(下側の梁に直接、もしくは間接的に)交互に力を及ぼす二つの下面22(加圧面)の組、すなわち22aと22bの組から構成される屈曲面と、22cと22dの組から構成される屈曲面は共に下側に凹の面をなしている。
【0029】
図8に示す壁構成材2には上面21(被圧面)が2面(21aと21b)あり、下面22(加圧面)も2面(22aと22b)あるが、上面21の2面(21aと21b)から構成される屈曲面は上側に凸の面をなし、下面22の2面(22aと22b)から構成される屈曲面は下側に凹の面をなしている。前記のように図2、図8に示す壁構成材2は上下を反転させた状態で使用されることもある。
【0030】
図10に示す壁構成材2にも上面21(被圧面)が2面(21aと21b)あり、下面22(加圧面)も2面(22aと22b)あるが、上面21の2面(21aと21b)から構成される屈曲面は上側に凸の面をなし、下面22の2面(22aと22b)から構成される屈曲面も下側に凸の面をなしている。因みに図15の例では、面対称で、交互に力を受ける上面の2面が上側に凹の面をなし、下面も下側に凹の面をなしている。
【0031】
「対になる複数の上面と下面の組」とは、上記のように上側の梁から力を受ける上面(被圧面)と、下側の梁に力を及ぼす(与える)下面(加圧面)の組が複数存在することを言う。例えば図2、図8のように水平面に関して対称な位置で対になる上面(被圧面)と下面(加圧面)の組が存在すること(請求項3)、または図10のように鉛直面の中心に関して点対称位置にある上面(被圧面)と下面(加圧面)の組が存在すること(請求項4)を言う。結局、壁構成材は上から力を受ける上面(被圧面)と下に力を伝達する下面(加圧面)の組を少なくとも二組有し、上面(被圧面)と下面(加圧面)を共に2面以上、有することになる。
【0032】
図15の例では上側の梁から力を受ける面対称の2面(二つの被圧面)で一組になる上面が上側に凹の面をなし、下側の梁に力を及ぼす面対称の2面(二つの加圧面)で一組になる下面も下側に凹の面をなしている。この結果、ブロックはその中心に関して点対称位置の、中心からの距離が大きい位置で上からの力と下からの反力を受けるため、ブロックの長さ方向の端部に反力を負担させ易く、損傷を与え易い。また上からの力と下からの反力がブロックに回転を与える偶力を形成する上、中心の両側に引張力が作用する。
【0033】
これに対し、水平面に関して対称な位置で対になる上面(被圧面)と下面(加圧面)の組が存在する場合(図2、図8)には、図9に示すように片側の上面で受けた力を長さ方向の同じ位置の下面から伝達することができる。従って図15の例のように壁構成材の端部に反力を負担させるようなことがない上、壁構成材を回転させようとする偶力が発生することもない。
【0034】
鉛直面の中心に関して点対称位置にある上面(被圧面)と下面(加圧面)の組が存在し、上面が上側に凸、下面が下側に凸の形状をする場合(図10)には、図11に示すように壁構成材の中心の片側の上面で受けた力を中心に関して点対称位置の下面から伝達することができる。従ってこの場合には、上からの力の作用線と、下面で受ける反力の作用線を同一線上、もしくはそれに近い線上に位置させることができるため、壁構成材の端部に反力を負担させることがなく、壁構成材を回転させようとする偶力も発生しない。
【0035】
対になる上面(被圧面)と下面(加圧面)の組が鉛直面の片側毎にある場合(請求項3)と、鉛直面の中心に関して点対称位置にある場合(請求項4)のいずれも、フレームの層間変形時に壁構成材が上面(被圧面)から受けた上側の梁からの力を、その上面と対になる下面(加圧面)を通じて下側の梁に伝達する。従って壁構成材は図15に示す形状のコンクリートブロックが移動しようとするときのように、線で力を受けることがないため、過大な応力度の作用による損傷の発生がなく、壁構成材が回転しようとする現象も発生しない。
【0036】
水平面に関して対称な位置で、または中心に関して点対称位置で対になる上面(被圧面)と下面(加圧面)は、上面で受けた上側の梁からの力を下面から損失なく下側の梁に伝達する上では基本的に互いに平行になるが(請求項5)、対になる上面と下面の面積が等しくないような場合には必ずしも平行である必要はない。
【0037】
壁構成材の上下で対になる上面(被圧面)と下面(加圧面)の組はフレームの層間変形による上側の梁の相対移動(水平移動)によって水平力を負担しながら、下側の壁構成材に伝達する働きをするから、上面と下面は共に水平力に抵抗できるよう、基本的には水平面に対して傾斜した面になる。具体的には壁構成材の上面は層間変形による上側の梁の移動に伴い、上側へ向かう傾斜が付き、下面は上面と平行、もしくは平行に近い状態の傾斜が付く。
【0038】
但し、上側の梁が層間変形時に水平面内より下方へ沈み込むように移動するような場合、あるいは上方へ浮き上がるように移動するような場合には、壁構成材の上面と下面が水平面になることもある。いずれにしても、下側の梁は層間変形時にも水平な状態を維持していると仮定できるから、層間変形時の上側の梁の移動方向が壁構成材の上面と交わるように上面が梁の移動方向に対して相対的に傾斜していればよい(請求項2)。
【0039】
下側の梁42が層間変形時にも水平な状態を維持し、上側の梁41が層間変形時に沈み込むか、浮き上がるとすれば、図14に示すように上側の梁寄りに配置される壁構成材6の上面61が水平面で、下面62が水平に対して傾斜した傾斜面であっても上側の梁41から伝達される力を下側の梁42に伝達する機能を発揮することが可能である。上側に配置される壁構成材6の下面62が図示するように水平面に対して傾斜した複数の傾斜面を有していれば、下側に配置され、上側の梁から力を受ける壁構成材6の上面61は上側に凸の面をなしていることになる。
【0040】
例えば図11、図12に示すように対向する面が互いに平行な図10に示すような6角柱状(ブロック状)の壁構成材2を組積することにより耐震壁が構成される場合、ブロック状の壁構成材2の上面21(被圧面)は上側の梁の相対移動時に上に位置する壁構成材から水平方向の力を受け、下面22(加圧面)は下に位置する壁構成材2から反力を受ける。このようにブロック状の壁構成材2の上面21に作用する力と下面22に作用する反力は共に面で受けることができるため、応力度が過大になることがなく、壁構成材2の一部が損傷を受ける事態と、損傷に起因する回転の現象は発生しない。
【0041】
図11の状況下では、ブロック状の壁構成材2の上面21と下面22には互いに向き合う方向の圧縮力が作用する。それぞれの面に作用する力を面に平行な成分と垂直な成分に分けたとき、平行な成分は壁構成材2に引張力を与え、垂直な成分はせん断力を与えるが、6角柱状(ブロック状)の壁構成材2には断面積の低下した部分がないため、引張力によって弱点になる箇所は存在しない。
【0042】
以上のように壁構成材がフレームの層間変形時に上側の梁からその相対移動の向きに力を受け、その力をその向きと同一向きに下側の梁に対して及ぼすことは、対になる壁構成材の上面と下面が互いに平行であるか、平行に近い状態にあることで可能になるから、壁構成材は結局、互いに平行、もしくは平行に近い上面と下面の組を複数有していればよいことになる(請求項5)。
【0043】
前記のようにフレームの層間変形は正負の向きに交互に繰り返されるから、互いに平行、もしくは平行に近い上面と下面の複数の組が異なる方向を向いていれば、上側の梁の正負の相対移動時に上側の梁からの力を下側の梁に伝達することが可能になる。
【0044】
但し、図15の例のように壁構成材の上面と下面が力の伝達をする側に対して凹の面をなしている場合には、上側の梁からの力と下側の梁からの反力のいずれかを線(点)で受けることになるから、上面と下面の少なくとも一方は図8、図11に示すように凸の面をなしていることが適切である。
【0045】
前記のようにブロックの上面と下面のいずれもが凹面をなしている図15の場合には、上側の梁からの力を上面で受け、下側の梁からの反力を下面で受けることができるものの、上側の梁からの力を受ける上面と下側の梁からの反力を受ける下面が中心を挟んだ両側に位置するため、断面積の小さい中心の両側に引張力が作用する。
【0046】
これに対し、壁構成材の上面と下面のいずれか一方が力の授受をする側に凸の面をなしている図8の場合には、図9に示すように上側の梁からの力を受ける上面と下側の梁からの反力を受ける下面が中心を挟んだ片側に位置するため、中心に引張力が作用することがない。只、中心に関してブロック(壁構成材)の移動側の下面は端部において下側に隣接するブロック(壁構成材)に線(点)で接触するため、この下面の端部が下に隣接する壁構成材、もしくは下側の梁に接触することで、反力の一部を負担し、損傷する可能性がある。
【0047】
そこで、壁構成材の上面と下面が共に、力の授受をする側に凸の面をなしている図10の場合には(請求項4)、図11に示すように上側の梁からの力を受ける上面と下側の梁からの反力を受ける下面が中心を挟んだ点対称位置にあるため、上面と下面に平行な成分は偶力を形成するだけで、引張力になることはない。上面と下面に垂直な成分も偶力を形成するが、平行な成分による偶力と向きが逆であるため、平行な成分による偶力を相殺するように働く。またブロック(壁構成材)自体の形状から、上面も下面も線で接触する部分がないため、損傷することもない。
【0048】
図2に示す形状の壁構成材(ブロック)は上面21(被圧面)と下面22(加圧面)のそれぞれが、長さ方向(耐震壁の幅方向)に隣接し、水平面に対して傾斜した複数の傾斜面を持ち、長さ方向に隣接する傾斜面が互いに異なる方向を向き、且つ上面のいずれかの傾斜面と下面のいずれかの傾斜面が互いに平行であることの形態的特徴を有する(請求項6)。この特徴は図2に示す壁構成材を中心を通る鉛直面で2分割した図8に示す形状の壁構成材(ブロック)、及び図10に示す形状の壁構成材(ブロック)にも当てはまる。
【0049】
図10に示す壁構成材2はその中心を挟んで対向し、対になる上面21の傾斜面21aと下面22の傾斜面22bが平行な場合であり、図8に示す壁構成材2はその中心の片側毎に、上面21の傾斜面21aと下面22の傾斜面22aが平行な場合である。図2に示す壁構成材2は更に詳しく言えば、長さ方向の中心を通る垂直面に関して同一の形状が連続する形状をし、この垂直面の片側の上面21と下面22につき、互いに異なる方向を向き、長さ方向に隣接する二つの傾斜面21a、21bと傾斜面22a、22bを有している(請求項7)。
【0050】
ブロック状の壁構成材は図1、図7に示すように単独でフレーム内に水平方向(横方向)と鉛直方向(高さ方向)に組積させられることにより耐震壁を構成する場合と、図12に示すように壁板状の壁構成材と組み合わせられる場合がある。前者の場合、壁構成材は破れ目地で積み上げられる。
【0051】
後者の場合、ブロック状の壁構成材は図12に示すように耐震壁の中段位置で、耐震壁の全幅に亘って横方向に配列させられる場合と、全幅の内の一部の区間に配列させられる場合がある。壁板状の壁構成材は単独で使用される場合には、図14に示すように複数枚組み合わせられることにより耐震壁を構成する。
【0052】
耐震壁を構成する壁構成材とフレームとの間、並びに耐震壁が複数個(複数枚)の壁構成材から構成される場合の、水平方向と鉛直方向に隣接する壁構成材同士、上側の梁とそれに接触する壁構成材同士、及び下側の梁とそれに接触する壁構成材同士は直接接触する場合と、間に充填材や応力伝達部材等が介在させられる場合がある。
【0053】
充填材が介在させられることは、直接接触することによる壁構成材や梁の摩耗や損傷を回避し、また隣接する壁構成材間等で力の伝達を確実にする目的で行われる。充填材としてはモルタル、接着剤等の充填材が充填され、応力伝達部材としては鋼材、強化プラスチック(繊維強化プラスチックを含む)等が介在させられる。
【0054】
図3の場合、上面と下面において異なる方向を向く複数の傾斜面が横方向に交互に配列することと、上下に対向する上面と下面が互いに平行で、この互いに平行な上面と下面の組が4組あることで、高さ方向の中間部に位置するブロック(中ブロック)の上面は上側で横方向に隣接する2個のブロック(上ブロック)の下面から上側の梁から伝達された力を受け、下面は下側で隣接する2個のブロック(中ブロック)の上面から下側の梁から伝達された反力を受ける。
【0055】
このように相対的に上側に位置するブロックの下面から中間部のブロックにフレームの層間変形時の上側の梁からの力(せん断力)が伝達され、その中間部のブロックの下面から下側に位置するブロックに伝達されていくことで、最終的にはフレームを構成する上側の梁からの力(せん断力)が下側の梁に伝達されるため、複数のブロックを通じて柱・梁のフレーム内において、水平力(水平せん断力)の伝達が行われることになる。
【0056】
中ブロックの上面と下面から受ける反力はそれぞれの面に平行な成分と垂直な成分とに分けられ、平行な成分は互いに向きが異なるため、ブロックに引張力を作用させ、垂直な成分は互いに向き合うため、ブロックに圧縮力を作用させる。上側のブロックからの反力は上面の中心に作用し、下側のブロックからの反力は下面の中心に作用するが、対向する上面と下面が平行であることで、それぞれの作用位置が接近しているため、上記引張力は限られた範囲に作用する。
【0057】
ここで、図2に示すブロック状の壁構成材が図1に示すように高さ方向に配列した場合に、図3に示すように高さ方向の中間部にある壁構成材(中ブロック)の上側にある壁構成材(上ブロック)が中ブロックに対して右側へ相対移動したときの、中ブロックの下面に作用する力の釣り合いを、図4を用いて説明する。上ブロックの相対移動に伴い、中ブロックも同じ向きに相対移動する。
【0058】
図2に示す形状の壁構成材(ブロック)の場合、対向する上面と下面の組がブロックの中心の片側にあることから、引張力がブロックの中心の両側に作用することはないため、ブロックを分離させようとする力になることはない。圧縮力は接近した線上に作用するから、ブロックへの影響は小さい。
【0059】
上ブロックは図4−(a)に示すように相対的に中ブロックに対して水平方向(耐震壁の幅方向)に滑ることにより相対移動し、その相対移動に伴い、中ブロックの上面の形状に応じて中ブロックに乗り上げ、上方へ移動する挙動を示す。上ブロックが水平移動に伴い、中ブロックに乗り上げて上方へ移動することで、耐震壁全体では高さ方向に伸長(膨張)しようとする。この現象を以下では「膨張」と表現する。
【0060】
膨張は個々のブロック単位で生じ、各ブロックの膨張は累積して耐震壁全体の上下方向膨張に発展するが、耐震壁全体での膨張は周囲のフレーム、特に上下の梁によって拘束され、耐震壁は水平方向と鉛直方向に高い拘束力を受けるため、フレームの層間変形によって高いせん断耐力とせん断剛性を発揮することになる。
【0061】
なお、複数の壁構成材からなる耐震壁(壁板)の少なくとも厚さ方向の片面に、繊維シート等の引張補強材が接着やモルタル等の付着により一体化させることで、フレームによる耐震壁の拘束効果を補うことができるため、耐震壁のせん断耐力とせん断剛性が一層向上する。
【0062】
図4−(a)に示す状態のとき、上ブロックは二つの下面において中ブロックの二つの上面に接触し、上ブロックの下面は中ブロックの上面から反力を受けている。上ブロックの挙動と力の関係は図2に示すブロックの上下を反転させても同じである。
【0063】
図4−(c)は上ブロックの下面と中ブロックの上面との間に生じている力の釣り合い状態を示している。ここでは簡単のため、複数のブロックからなる耐震壁が変形を生じていない状態ではブロックにいずれの方向にも軸力が作用していないものとする。
【0064】
図4−(a)において中ブロックの上面から上ブロックの下面に作用する力の内、上ブロックの下面に垂直な成分は主に耐震壁の膨張を抑える力として作用する。この力の大きさをQOとし、下面に平行な成分をPOとすると、摩擦係数をμとして
PO=μ・QO(μ=PO/QO)が成り立つ。
一方、(b)においてtanγ=PO/QOであるから、
γ=tan−1(PO/QO)=tan−1・μとなる。
【0065】
図4−(c)において上ブロックから中ブロックに働く力の内、水平成分をAO、垂直成分をBOとし、力QOと鉛直方向とのなす角度をθとすると、
AO=BO・tan(θ+γ)。
ここで、ブロックの膨張により耐震壁全体が上下のフレームから受ける上下方向拘束力をV、ブロック1段当たりの接触面の数をmとすると、BO=V/mであるから、
AO=V/m・tan(θ+γ)となる。
また耐震壁全体のせん断力をQとすると、Q=m・AOであるから、以下の式(1)が得られる。
Q=V・tan(θ+tan−1・μ)……(1)
【0066】
図4−(d)において上ブロックが中ブロックに対し、水平方向にδだけ滑り、全く変形を生じないとすると、上ブロックは上方へeだけ移動し、膨張する。但し、実際には前記上下方向拘束力によりブロックは上下方向に収縮し、膨張量はeより小さくなるため、ブロック自体の収縮量をe1、結果としての膨張量をe2とすれば、
e=e1+e2である。
【0067】
ここで、フレームを構成する上下の梁が剛で、上下方向拘束力は耐震壁の幅方向両側の柱主筋から耐震壁に作用すると仮定すると、ブロックに生じる圧縮力とその膨張を拘束する柱主筋の引張力は等しく、この柱主筋の引張力が上下方向拘束力に他ならない。
【0068】
この上下方向拘束力をV、ブロックの段数をn、耐震壁の内法高さをh、ブロックのヤング係数をcE、柱主筋のヤング係数をsEとし、上下方向拘束力Vを受ける耐震壁の有効断面積をwAe、柱主筋の断面積をrAとすると、
ブロックの歪みε1はε1=V/cE・wAe、
柱主筋の歪みε2はε2=V/sE・rAであるから、Vは以下のようになる。
V=cE・wAe・ε1=sE・rA・ε2……(2)。
【0069】
なお、耐震壁の有効断面積wAeは図4−(b)に示すように上ブロックが中ブロックに対して相対移動したときに、上ブロックの下面と中ブロックの上面とが接触(重複)している面の水平投影面積の合計(合算)を指す。
【0070】
ε1、ε2はまた、1ブロックの高さをLとすれば、
ε1=e1/L、ε2=e2/Lと表され、L=h/nであるから、
ε1=e1/(h/n)=(e1・n)/h、
ε2=(e2・n)/hとなる。
このε1、ε2を上記式(2)に入れると、
V=cE・wAe・(e1・n)/h=sE・rA・(e2・n)/h……(3)
となるから、以下の式(4)を得る。
cE・wAe・e1=sE・rA・e2……(4)
【0071】
また図4−(c)よりe2=δ・tanθ−e1であるから、これを式(4)の右辺に入れると、
cE・wAe・e1=sE・rA・(δ・tanθ−e1)となり、整理すれば、以下の式(5)が得られる。
e1={(sE・rA)/(cE・wAe)・δ・tanθ}/{(sE・rA)/(cE・wAe)+1}……(5)
【0072】
ここで、耐震壁の内法高さに対する層間変形角をRとすると、式(5)は下式(6)になる。
e1={(sE・rA)/(cE・wAe)・tanθ}/{(sE・rA)/(cE・wAe)+1}・(h・R)/n……(6)
【0073】
上記式(3)と式(6)から、以下の式(7)が得られる。
V=cE・wAe・{(sE・rA)/(cE・wAe)・tanθ}/{(sE・rA)/(cE・wAe)+1}・R……(7)
式(7)を式(1)に代入して整理すると、Qは以下のように表される。
Q=(sE・wAe)・{(rA/wAe)・tanθ}/{(sE・rA)/(cE・wAe)+1}・tan(θ+tan−1・μ)・R……(8)
【0074】
式(8)により耐震壁に作用するせん断力Qが層間変形角Rを用いて表されることが明らかにされた。すなわち、各ブロックに滑りδが生じ、耐震壁全体として層間変形角Rが生じる場合にも、せん断力Qが0にならないことが明らかになったため、ブロックに滑りが生じる場合にも、耐震壁としてのせん断力が期待できることが証明された。
【0075】
また上ブロックの中ブロックに対する滑りδに起因してブロックに収縮e1と膨張e2が生ずることを前提として、せん断力Qと層間変形角Rとの関係が成立したことで、上ブロックの滑りによる膨張が耐震壁全体のせん断力Qに寄与していることも明らかになった。各ブロックの膨張が累積した耐震壁全体の上下方向膨張はフレームを構成する上下の梁によって拘束されようとするため、高いせん断剛性を保有することが証明された。
【発明の効果】
【0076】
壁構成材が上面においてフレームを構成する上側の梁から直接、もしくは間接的にフレームの移動の向きに力を受け、この上側の梁から受ける力と釣り合う力を下面を通じてフレームを構成する下側の梁に直接、もしくは間接的に及ぼす形状をしていることで、上側の梁からの力(せん断力)を下側の梁に確実に伝達することができる。また相対的に上側に位置する壁構成材の滑りによって下側に位置する壁構成材への乗り上げが生じ、耐震壁全体の上下方向膨張は上下の梁によって拘束されるため、耐震壁のせん断耐力とせん断剛性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】ブロック状の壁構成材の組積により構築された耐震壁の構成例を示した立面図である。
【図2】図1の耐震壁を構成する壁構成材を示した斜視図である。
【図3】図2に示す壁構成材を複数段、積み重ねた状態で、フレームの層間変形に伴い、上側の壁構成材が水平方向に相対移動したときの力の伝達の様子を示した立面図である。
【図4】(a)は図3の中段に位置する壁構成材の相対移動量δとそれに伴う乗り上げ(膨張)量eの関係を示した立面図、(b)は上側の壁構成材と下側の壁構成材との接触面の水平投影面積を示した平面図、(c)は(a)のときの上側の壁構成材と下側の壁構成材との間の力の釣り合い状態を示した説明図、(d)は(a)のときの相対移動量δと乗り上げ量eの変形の適合状態を示した説明図である。
【図5】図1に示す耐震壁の構築開始時の様子を示した立面図である。
【図6】図6の次の手順を示した立面図である。
【図7】図1に示す耐震壁を構成する全壁構成材の組積が完了した様子を示した立面図である。
【図8】図2に示す壁構成材を2分割した形状の壁構成材を示した斜視図である。
【図9】図8に示す壁構成材を複数段積み重ねた状態で、上側の壁構成材が水平方向に相対移動したときの様子を示した立面図である。
【図10】凸6角柱状の壁構成材を示した斜視図である。
【図11】図10に示す壁構成材を複数段積み重ねた状態で、上側の壁構成材が水平方向に相対移動したときの様子を示した立面図である。
【図12】図10に示す壁構成材を耐震壁(壁板)の中段に1列に配列させ、その上下に壁板状の壁構成材を配置した耐震壁の構成例を示した立面図である。
【図13】図12に示す耐震壁(壁板)の中心部に開口部を形成した場合の耐震壁の構成例を示した立面図である。
【図14】2枚の壁板状の壁構成材を上下に配置し、両壁構成材間に応力伝達部材を介在させた耐震壁の構成例を示した立面図である。
【図15】従来の耐震壁を構成するブロックを複数段、積み重ねた状態で、フレームの層間変形に伴い、上側の壁構成材が水平方向に相対移動したときの力の伝達の様子を示した立面図である。
【発明を実施するための形態】
【0078】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0079】
図1は柱3と梁4(41、42)からなるフレーム5内に複数の壁構成材2を高さ方向に配列させ、壁構成材2をフレーム5から高さ方向に拘束した状態で構築される耐震壁1の構成例を示す。図1は図2に示す立体形状の壁構成材2を水平方向と鉛直方向に破れ目地で組積して構築される耐震壁1を示す。
【0080】
壁構成材2は耐震壁1の内、フレーム5を除いた壁板10を構成する。壁構成材2の形状は図1〜図7に示すようなブロック状の場合と、図12〜図14に示すような壁板状の場合がある。
【0081】
壁構成材2は上下で対になる複数の上面21と下面22の組を有し、フレーム5が層間変形を起こしたときに、フレーム5を構成する上側の梁41から直接、もしくは間接的にいずれかの上面21にフレームの5移動の向きに力を受け、下面22から、フレーム5を構成する下側の梁42に直接、もしくは間接的に、上側の梁41から受ける力と釣り合う力を及ぼす形状をしている。上面21と下面22の少なくともいずれか一方はそれぞれの側に凸の面をなしている。
【0082】
図2に示す壁構成材2は上面21と下面22のそれぞれが、長さ方向に隣接し、水平面に対して傾斜した複数の傾斜面21a〜21d、22a〜22dを有する形態を有する。長さ方向に隣接する傾斜面21a(22a)と傾斜面21b(22b)、傾斜面21b(22b)と傾斜面21c(22c)、傾斜面21c(22c)と傾斜面21d(22d)は互いに異なる方向を向き、且つ上面21のいずれかの傾斜面21a〜21dと下面22のいずれかの傾斜面22a〜22dが互いに平行である。
【0083】
図2に示す壁構成材2は特に破線で示す、長さ方向の中心を通る垂直面(対称面)に関して連続する形状をし、この垂直面の片側につき、上面21(被圧面)と下面22(加圧面)のそれぞれが、互いに異なる方向を向き、長さ方向に隣接する二つの傾斜面21aと傾斜面21b(傾斜面21cと傾斜面21d)、及び傾斜面22a、22b(傾斜面22cと傾斜面22d)を有している。上面21の全傾斜面21a〜21dは被圧面であり、下面22の全傾斜面22a〜22dは加圧面である。
【0084】
図3、図4に示すように図2に示す複数の壁構成材2が水平方向に隣接して配列し、鉛直方向に多段に配置された耐震壁1では、相対的に上段側(上側)に位置する壁構成材2の下面22(加圧面)と下段側(下側)に位置する壁構成材2の上面21(被圧面)が互いに接触した状態にある。上下に隣接する壁構成材2、2は直接接触する場合と、両者間にモルタルや接着剤等の充填材が充填され、間接的に接触する場合がある。
【0085】
相対的に上側に位置する壁構成材2がフレーム5の層間変形によりいずれかの側、図面では右側に移動するとき、その上側の壁構成材2の下面22から下側の壁構成材2の上面21が力を受ける。図3の場合には特に、上側の壁構成材2の下面22を構成する傾斜面22aと傾斜面22cから、下側の壁構成材2の上面21を構成する傾斜面21aと傾斜面21cに力が伝達される。
【0086】
図2に示すブロック状の壁構成材2は破れ目地で積み上げられる関係で、上側に位置する壁構成材2の相対移動により下側に位置する2個の壁構成材2、2に力を及ぼす。上側の壁構成材2が右側へ移動したとき、上側の壁構成材2の傾斜面22aからはその下で隣接する2個の壁構成材2、2の内、左側に位置する壁構成材2の傾斜面21cに力を伝達し、上側の壁構成材2の傾斜面22cからは右側の壁構成材2の傾斜面21aに力を伝達する。上側の壁構成材2が左側へ移動したとき、上側の壁構成材2の傾斜面22dからは右側に位置する壁構成材2の傾斜面21bに力を伝達し、上側の壁構成材2の傾斜面22bからは左側の壁構成材2の傾斜面21dに力を伝達する。
【0087】
このことから、図2に示す形状の壁構成材2の上面21における傾斜面21aと傾斜面21bの組、及び傾斜面21cと傾斜面21dの組がそれぞれ上側の梁41から正負の向きに交互に力を受ける組み合わせになり、下面22における傾斜面22aと傾斜面22bの組、及び傾斜面22cと傾斜面22dの組がそれぞれ下側の梁42に正負の向きに交互に力を及ぼす組み合わせになる。
【0088】
また上面21の傾斜面21aと傾斜面21cで受けた力を下面22の傾斜面22aと傾斜面22cから伝達し、上面21の傾斜面21bと傾斜面21dで受けた力を下面22の傾斜面22bと傾斜面22dから伝達するから、傾斜面21aと傾斜面22a、傾斜面21bと傾斜面22b、傾斜面21cと傾斜面22c、傾斜面21dと傾斜面22dの各組が上側の梁41からの力を下側の梁42に伝達するための対になる。この対になる各組の傾斜面21aと傾斜面22a等は互いに平行である。
【0089】
図8、図9に示す壁構成材2は図2に示す壁構成材2をその中心を通る鉛直面(対称面)で2分割した形状であるから、上面21と下面22のそれぞれが長さ方向に隣接し、水平面に対して傾斜し、互いに異なる方向を向いた複数の傾斜面21a、21bと傾斜面22a、22bを有する。
【0090】
この場合、上面21において隣接する傾斜面21aと傾斜面21bの組が上側の梁41から正負の向きに交互に力を受ける組み合わせになり、下面22において隣接する傾斜面22aと傾斜面22bの組が下側の梁42に正負の向きに交互に力を及ぼす組み合わせになる。また上面21の傾斜面21aと下面22の傾斜面22a、及び上面21の傾斜面21bと下面22の傾斜面22bは互いに平行で、各組が上側の梁41からの力を受け、下側の梁42に伝達するための対になる。
【0091】
図8に示す壁構成材2は図9に示すように壁構成材2が下側の壁構成材2に対して相対移動したときに、前記のように上側の壁構成材2からの力を傾斜面21aで受け、下側の壁構成材2からの反力を傾斜面22aで受けることができる。
【0092】
反面、その壁構成材2は下面22の移動側の端部(下端部)においても下側に隣接する壁構成材2に接触し、この端部は線で接触しているため、この下面22の端部が摩耗、あるいは損傷する可能性を秘めている。この摩耗等の可能性は下側の壁構成材2からの反力を受ける傾斜面22aが下側に凹の面をなしていることに起因するため、図1、図2に示す壁構成材2にも存在する。
【0093】
これに対し、図10、図11に示すように壁構成材2の側面形状を凸6角形状にすることで、下側の壁構成材2からの反力を受ける傾斜面22aが下側に凸の面をなすため、下側の壁構成材2に線で接触する端部がなくなり、下面22が摩耗、あるいは損傷する可能性がなくなる。図10、図11に示す壁構成材2は対向する面が互いに平行な6角柱状の形状をする。
【0094】
図10に示す壁構成材2も上面21と下面22のそれぞれが、長さ方向に隣接し、水平面に対して傾斜した複数の傾斜面21a、21bと傾斜面22a、22bを有し、長さ方向に隣接する傾斜面21a(22a)と傾斜面21b(22b)は互いに異なる方向を向く。図10の場合、図8の場合と異なり、上面21の傾斜面21aと下面22の傾斜面22a、及び上面21の傾斜面21bと下面22の傾斜面22bは互いに平行ではないが、傾斜面21aと傾斜面22b、及び傾斜面21bと傾斜面22aが互いに平行であり、それぞれの組が上側の梁41からの力を受け、下側の梁42に伝達するための対になる。
【0095】
図12は図10に示す壁構成材2を耐震壁1の高さ方向の中段に1列に配置し、その上下に壁板状の壁構成材6を配置した場合の耐震壁1の構成例を示す。この例は柱3と梁4からなるフレーム5内にブロック状の壁構成材2と壁板状の壁構成材6を高さ方向に配列させた場合であり、少なくとも壁構成材2が上側の梁41からの力を受ける上面21と、下側の梁42に力を伝達する下面22を有している。
【0096】
図12では上側の梁41に接する壁構成材6の下面62と下側の梁42に接する壁構成材6の上面61の形状が、中段に配置される壁構成材2の上面21と下面22の傾斜に応じて波形になる。このため、上側の壁構成材6はフレーム5の層間変形に伴う水平移動時に下面62の傾斜面を通じて壁構成材2の上面21に力を伝達し、下側の壁構成材6は上面61の傾斜面から壁構成材2に反力を作用させる。
【0097】
フレーム5の層間変形時に上側の梁41が沈み込むか、浮き上がるように下側の梁42に対して相対移動する場合には、上側の壁構成材6の上面61が平坦面であっても、壁構成材6の上面61が上側の梁41の移動方向に対して相対的に傾斜するため、上側の梁41からその移動の向きに力を受けることができる。
【0098】
上側の梁41が水平方向に相対移動する場合には、梁41からの力が壁構成材6に伝達され易いよう、図12に鎖線で示すように上側の壁構成材6の上面61を波形に形成することもある。この波形は中段に配列する壁構成材2の群の上面と下面がなす波形の形状に倣い、向きの異なる傾斜面が交互に配列するように形成される。その場合、上側の梁41と壁構成材6の上面との間にはモルタル、コンクリート、接着剤等の充填材7が充填される。下側の壁構成材6の下面62も波形に形成した場合には、下側の壁構成材6の下面62から下側の梁42への力の伝達が確実になる。
【0099】
図13は図12に示す耐震壁1の中央寄りの一部の領域を切り欠いて開口部8を形成した場合の例を示す。この場合、開口部8の形成によって壁構成材6と壁構成材2の開口部8側の端部の拘束がなくなり、相対的に上側に位置する壁構成材6から壁構成材2への力の伝達効果が低下する可能性があるため、開口部8の縁の位置には枠材9が配置される。
【0100】
図14はフレーム5内に2枚の壁構成材6、6を配置し、上側の壁構成材6の下面62と下側の壁構成材6の上面61を波形の形状に形成した場合の例を示す。この場合も波形も、鎖線で示すようにブロック状の壁構成材2の群の上面と下面がなす波形の形状に倣って形成される。上下の壁構成材6、6は上側の壁構成材6の下面62と下側の壁構成材6の上面61が直接接触した状態で配置されればよいが、上下の壁構成材6、6の間には、両者間での力の伝達効果を上げるために、鋼材、強化プラスチック等の応力伝達部材11を介在させている。上下の壁構成材6、6の間には前記の充填材7が充填される場合もある。
【0101】
ここで、図2に示す壁構成材2を組積して図1に示す耐震壁1を構築する場合の作業手順を図5〜図7により説明する。図5は柱3と梁4(41、42)からなるフレーム5内の下側の梁42の上に壁構成材2を水平方向に配列させるための架台12を設置した様子を示している。下側の梁42の天端とスラブの天端は同一のため、図5では下側の梁42をスラブで表している。
【0102】
架台12の上面は複数個の壁構成材2を長さ方向に隣接させながら配置し、壁構成材2の群を形成したときの下面の形状に倣った波形の形状に形成されている。架台12は下側の梁42にアンカー等によって定着される。梁42上には架台12に代わってモルタル等の充填材7を敷設することもある。全壁構成材2の組積が完了したときには、最上段の壁構成材2と上側の梁41の下面との間に充填材7が充填されるため、上側の梁41の下面には予め充填材7と梁41との一体性を確保するための突起13が突設されている。
【0103】
図6は図5に示す架台12の上に壁構成材2を破れ目地で積み重ねている様子を示す。図7は最上段の壁構成材2の積み重ねまで終了した様子を示す。図7の状態からは、前記のように最上段の壁構成材2と上側の梁41との間に充填材7が充填される。フレーム5は壁構成材2の水平方向の移動を拘束する必要があるため、図1に示すように柱3側の壁構成材2と柱3との間にも充填材7が充填され、耐震壁1が完成する。
【0104】
図1では柱3の全長に亘って壁構成材2との間に充填材7を充填しているが、充填材7は特に柱3の上下端部(頭部と脚部)に重点的に充填されれば、耐震壁1が地震時の水平せん断力を負担し、崩壊前の終局時に至るまで柱3による壁構成材2の拘束効果を発揮させ、耐震壁1のせん断耐力を向上させることができる。
【0105】
複数の壁構成材2からなる壁板(耐震壁1)の少なくとも厚さ方向の片面の一部、もしくは全面には、耐震壁1がせん断力を負担するときの斜張力に抵抗させるための繊維シート等の引張補強材が接着剤やモルタル等により一体化させられることもある。
【符号の説明】
【0106】
1……耐震壁、10……壁板、
2……壁構成材(ブロック状)、21……上面、22……下面、
21a〜21d……傾斜面、
22a〜22d……傾斜面、
3……柱、41……上側の梁、42……下側の梁、5……フレーム、
6……壁構成材(壁板状)、61……上面、62……下面、
7……充填材、8……開口部、9……枠材、
11……応力伝達部材、12……架台、13……突起。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と梁からなるフレーム内に複数の壁構成材を高さ方向に配列させ、前記壁構成材を前記フレームから高さ方向に拘束した状態で構築され、
前記壁構成材は上下で対になる複数の上面と下面の組を有し、前記フレームが層間変形を起こしたときに、いずれかの前記上面が前記フレームを構成する上側の梁からその梁の移動の向きに力を受け、いずれかの前記下面が前記フレームを構成する下側の梁に、前記上側の梁から受ける力と釣り合う力を及ぼす形状をし、
前記上面と前記下面の少なくともいずれか一方は凸の面をなしていることを特徴とする耐震壁。
【請求項2】
前記壁構成材の上面は前記層間変形時の前記上側の梁の移動方向に対して相対的に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の耐震壁。
【請求項3】
前記上下で対になる上面と下面の組が前記壁構成材の中心を通る水平面に関して対称位置にあることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の耐震壁。
【請求項4】
前記上下で対になる上面と下面の組が前記壁構成材の中心に関して点対称位置にあることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の耐震壁。
【請求項5】
前記上下で対になる上面と下面は互いに平行であることを特徴とする請求項3、もしくは請求項4に記載の耐震壁。
【請求項6】
前記各壁構成材は上面と下面のそれぞれに、長さ方向に隣接し、水平面に対して傾斜した複数の傾斜面を持ち、前記長さ方向に隣接する傾斜面は互いに異なる方向を向き、且つ上面と、それと対になる下面の傾斜面は互いに平行であることを特徴とする請求項5に記載の耐震壁。
【請求項7】
前記壁構成材が長さ方向に複数個連続した形状であることを特徴とする請求項3に記載の耐震壁。
【請求項1】
柱と梁からなるフレーム内に複数の壁構成材を高さ方向に配列させ、前記壁構成材を前記フレームから高さ方向に拘束した状態で構築され、
前記壁構成材は上下で対になる複数の上面と下面の組を有し、前記フレームが層間変形を起こしたときに、いずれかの前記上面が前記フレームを構成する上側の梁からその梁の移動の向きに力を受け、いずれかの前記下面が前記フレームを構成する下側の梁に、前記上側の梁から受ける力と釣り合う力を及ぼす形状をし、
前記上面と前記下面の少なくともいずれか一方は凸の面をなしていることを特徴とする耐震壁。
【請求項2】
前記壁構成材の上面は前記層間変形時の前記上側の梁の移動方向に対して相対的に傾斜していることを特徴とする請求項1に記載の耐震壁。
【請求項3】
前記上下で対になる上面と下面の組が前記壁構成材の中心を通る水平面に関して対称位置にあることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の耐震壁。
【請求項4】
前記上下で対になる上面と下面の組が前記壁構成材の中心に関して点対称位置にあることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の耐震壁。
【請求項5】
前記上下で対になる上面と下面は互いに平行であることを特徴とする請求項3、もしくは請求項4に記載の耐震壁。
【請求項6】
前記各壁構成材は上面と下面のそれぞれに、長さ方向に隣接し、水平面に対して傾斜した複数の傾斜面を持ち、前記長さ方向に隣接する傾斜面は互いに異なる方向を向き、且つ上面と、それと対になる下面の傾斜面は互いに平行であることを特徴とする請求項5に記載の耐震壁。
【請求項7】
前記壁構成材が長さ方向に複数個連続した形状であることを特徴とする請求項3に記載の耐震壁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−196364(P2010−196364A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42483(P2009−42483)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】
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