耐震補強構造
【課題】既存建物の保有耐力を効率よく向上させることが可能で、しかも、耐震改修後の垂直動線を比較的自由に計画することが可能な耐震補強構造を提供することを課題とする。
【解決手段】既存建物Tに補強構造体Rを後付けしてなる耐震補強構造であって、補強構造体Rが、既存建物Tの補強すべき構面に沿って延在する補強スラブ4を具備しており、補強スラブ4は、既存建物Tに形成された凹部T1に挿入される差込部42を有し、差込部42の両側縁部が、それぞれ凹部T1の壁面に接合されていることを特徴とする。
【解決手段】既存建物Tに補強構造体Rを後付けしてなる耐震補強構造であって、補強構造体Rが、既存建物Tの補強すべき構面に沿って延在する補強スラブ4を具備しており、補強スラブ4は、既存建物Tに形成された凹部T1に挿入される差込部42を有し、差込部42の両側縁部が、それぞれ凹部T1の壁面に接合されていることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物に対する耐震補強を行いつつバリアフリー化を図ることが可能な耐震補強構造が特許文献1に開示されている。これは、高度経済成長期に建築された階段室型共同住宅(団地型集合住宅)に対する耐震補強を目的とするものであり、柱と梁とからなる外フレームを階段室型共同住宅の外側に構築し、階段室型共同住宅と外フレームとの間に廊下を新設することで、階段室型共同住宅と外フレームとの一体化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−124527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の耐震補強構造は、その外フレーム(架構)が正面視矩形枠状を呈していることから、せん断剛性が低く、既存建物の保有耐力を効率よく向上させることができない。
【0005】
このような観点から、本発明は、既存建物の保有耐力を効率よく向上させることが可能な耐震補強構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決する本発明は、既存建物に補強構造体を後付けしてなる耐震補強構造であって、前記補強構造体が、前記既存建物の補強すべき構面に沿って延在する補強スラブを具備しており、前記補強スラブは、前記既存建物に形成された凹部に挿入される差込部を有し、前記差込部の両側縁部が、それぞれ前記凹部の壁面に接合されていることを特徴とする。なお、本発明は、階段室のない既存建物にも適用することができるが、階段室が設けられている場合には、階段室を前記凹部として利用するとよい。
【0007】
本発明によれば、補強スラブの面内せん断抵抗によって、既存建物に作用するせん断力を確実に負担することが可能となり、ひいては、既存建物の保有耐力を効率よく向上させることが可能となる。すなわち、既存建物の凹部に補強スラブの差込部を挿入すると、補強スラブの面内せん断力が凹部と差込部の圧縮力として伝達されることになり、また、偏心モーメントが凹部と差込部のせん断力として伝達されることになるので、接合部に引張力が生じない仕組みとなる。
【0008】
前記補強構造体が、前記既存建物の補強すべき構面に沿って斜めに延在する補強階段を具備している場合には、前記補強階段がブレースとして機能し、前記既存建物に作用した地震時せん断力が前記補強スラブを介して前記補強階段に伝達され、前記補強階段によって、地震時せん断力が上階側から下階側へと伝達される。補強階段を設けると、補強階段がブレースとなって地震時せん断力を下層階へ伝達するので、既存建物の保有耐力を効率よく向上させることが可能となる。また、既存建物の補強すべき構面に沿って補強階段を設置しているので、耐震改修後の垂直動線を、既存建物の階段室の位置や数等にとらわれることなく比較的自由に計画することが可能となる。なお、前記補強スラブは、前記階段室から前記補強階段に至る廊下として利用するとよい。
【0009】
ところで、耐震補強のみを目的とする補強部材(例えば、枠付きブレースなど)を用いて既存建物を改修すると、補強部材の存在が際立ってしまい、耐震改修を行ったことが一目で明らかになってしまうことから、既存建物の古さや強度不足であったことなどが露呈してしまうが、補強階段をブレースとして利用すれば、補強階段の存在に目を奪われるので、耐震補強を行ったことが認識され難く、改修後のファサードに違和感がなくなる。
【0010】
補強階段の平面形式に制限はないが、ブレースとして機能させることを考慮すると、折返し部のない「直階段」であることが望ましい。また、補強階段の構造形式に制限はなく、複数の踏板を連続させてなる「スラブ階段」としてもよいが、好適には、階段勾配で傾斜して前記既存建物の躯体に接合される支持桁と、前記支持桁に支持される踏板とを備える「側桁階段」や「ささら桁階段」であることが望ましい。なお、補強階段が支持桁を具備している場合には、支持桁によって、地震時せん断力が上階側から下階側へと伝達されることになる。
【0011】
前記既存建物と前記補強階段との間に補強スラブを介設してもよい。このようにすると、前記既存建物と前記補強階段との間の力のやり取りが補強スラブを介して行われることになる。また、補強スラブの高さを既存のスラブと合せて設置すると、より力の伝達が円滑になって合理的である。更にこの補強スラブを前記既存建物の補強すべき構面に沿う廊下として用いることで、新たな水平動線が付加されて、利用者の利便性が向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るによれば、既存建物の保有耐力を効率よく向上させることが可能となり、しかも、耐震改修後の垂直動線を比較的自由に計画することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る耐震補強構造を示す分解斜視図である。
【図2】(a)は本発明の実施形態に係る耐震補強構造を示す正面図、(b)は(a)のX−X線断面図である。
【図3】補強構造体を示す拡大斜視図である。
【図4】(a)は図2の(a)のY−Y線断面図、(b)は(a)の部分拡大図である。
【図5】(a)は図4のA−A線断面図、(b)は図4のB−B線断面図、(c)は図4のC−C線断面図、(d)は図4のD−D線断面図である。
【図6】耐震改修前の既存建物を示す断面図であって、(a)は(b)のW1−W1線断面図、(b)は(a)のZ1−Z1線断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る耐震補強構造の構築方法を説明するための断面図であって、(a)は(b)のW2−W2線断面図、(b)は(a)のZ2−Z2線断面図である。
【図8】図7に続く工程を説明するための断面図であって、(a)は(b)のW3−W3線断面図、(b)は(a)のZ3−Z3線断面図である。
【図9】図8に続く工程を説明するための断面図であって、(a)は(b)のW4−W4線断面図、(b)は(a)のZ4−Z4線断面図である。
【図10】図9に続く工程を説明するための断面図であって、(a)は(b)のW5−W5線断面図、(b)は(a)のZ5−Z5線断面図である。
【図11】図10に続く工程を説明するための断面図であって、(a)は(b)のW6−W6線断面図、(b)は(a)のZ6−Z6線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る耐震補強構造は、図1に示すように、既存建物Tと、この既存建物Tに後付けされた補強構造体Rと、この補強構造体Rの後側に設けられたエレベータEとを備えて構成されている。なお、以下の説明における「前」「後」は図1の状態を基準とし、既存建物Tのベランダ側を「前側」とし、階段室T1側を「後側」とする。
【0015】
既存建物Tは、供用を開始している多層階建ての階段室型共同住宅であり、後側の外壁面に開口する複数の階段室(凹部)T1,T1,…を備えている。階段室T1に設置されていた既存の折返し階段(図示略)は撤去されている。
【0016】
既存建物Tの躯体は、その構成に制限はないが、鉄筋コンクリート製の壁式ラーメン構造であり、桁行方向(長手方向)に沿って形成された柱梁構造(ラーメン構造)と、梁間方向(短手方向)に沿って形成された構造壁(耐震壁)とを備えて構成されている。なお、以下の実施形態では、桁行方向の耐震強度が不足していることで既存不適格となっている既存建物Tを想定し、桁行方向の耐震強度を補強する場合を例示する。つまり、既存建物Tの補強すべき構面(以下、「補強構面」という。)が既存建物Tの桁行方向に沿って形成された外壁面に沿っている場合を例示する。
【0017】
補強構造体Rは、既存建物Tに作用した地震力の一部を負担するものであり、既存建物Tの桁行方向に間隔をあけて並設された複数の基礎1,1,…と、基礎1,1,…から立ち上がる複数の鉛直構造要素2,2,…と、既存建物Tの補強構面に沿って延在する複数の補強階段3,3,…と、上下方向に間隔をあけて並設された複数段の補強スラブ4,4,…と、この補強スラブ4,4,…の桁行方向の両端部に設けられた妻柱5,5と、を具備している。なお、補強階段3や補強スラブ4には、図示せぬ防護柵が設置される。
【0018】
基礎1は、耐震改修のために新設されたものであり、図2の(b)に示すように、既存建物Tの基礎T2の後方に構築されている。基礎1の構造形式に特に制限はないが、本実施形態では、杭11と、その杭頭部に形成されたフーチング12とを備えて構成されている。杭11は、現場打ち杭であってもよいし、既製杭であってもよい。
【0019】
鉛直構造要素2は、補強階段3と補強スラブ4とを支持するものであり、既存建物Tの補強構面に沿って立設されていて、本実施形態では、既存建物Tの天端と略同じ高さ位置にまで達している。図2の(a)に示すように、鉛直構造要素2,2,…のうち、桁行方向の両端部に位置する鉛直構造要素2は、一本の補強柱21からなり、その他の鉛直構造要素2は、下端部において互いに連結された一対の補強柱21,21からなる。補強柱21は、基礎1に接合されており、鉛直構造要素2の下端部には、根巻き22が施されている。補強柱21の構造形式等に特に制限はなく、鋼管、鉄骨、鉄筋コンクリート、鉄骨鉄筋コンクリート、充填型鋼管コンクリートなどの中から適宜なものを選択すればよい。なお、基礎1と補強柱21とは、剛接合としてもよいし、半剛接合としてもよい。
【0020】
補強階段3は、上下階の移動手段(垂直動線)としての役割に加えて、既存建物Tの保有耐力(せん断耐力)を向上させるブレースとしての役割を担うものであり、桁行方向に隣り合う鉛直構造要素2,2の一方に上端部が接続され、他方に下端部が接続されていて、既存建物T(図2の(b)参照)に作用した地震時せん断力を上階側から下階側へと伝達する。本実施形態の補強階段3は、隣接階を直線状に繋ぐ直階段であり、補強柱21と補強スラブ4とで形成された正面視矩形状の枠体の対角線に沿って配置されていて、下階の踊場43とその斜め上方に位置する上階の踊場43とに通じている(図3参照)。
【0021】
補強階段3の位置、個数、向き(傾斜方向)などに制限はないが、本実施形態では、複数の補強階段3,3,…が、最上階(最上層)を除く各階(各層)において左右対称となるように配置されている。なお、いずれの補強階段3も、既存建物Tの外側に向かう方向が「上り」となるように配置されている。また、本実施形態では、一階の中央部に配置された補強階段3が、上階(本実施形態では、二階および三階)に配置された補強階段3と踊場43を介して直線状に連なっており、多層階に跨る直階段を形成している。複数の補強階段3,3,…により形成された直階段は、中央の鉛直構造要素2の左右に一組ずつ形成されており、V字状に対向している。また、補強構造体Rの両端部には、最上階を除く各階に補強階段3が配置されている。
【0022】
図3を参照して、補強階段3の構成をより詳細に説明する。この図に示すように、補強階段3は、階段勾配で傾斜する第一支持桁31および第二支持桁32と、この両支持桁31,32に支持される踏板33,33,…とを備えて構成されている。支持桁31,32は、いずれもH形鋼からなり、踏板33,33,…を挟んで対向している。
【0023】
第一支持桁31は、桁行方向に隣り合う補強柱21,21を含む構面(補強構面に平行な構面)内に配置されており、桁行方向に隣り合う補強柱21,21の一方に第一支持桁31の上端部が接続され、他方に第一支持桁31の下端部が接続されている。より詳細に、第一支持桁31は、補強柱21,21と補強スラブ4の梁材41b,41bとで形成された正面視矩形状の架構の対角線に沿って配置されている。補強柱21と第一支持桁31の接合方法に制限はなく、例えば、溶接やボルト接合等の方法を用いることができる。第二支持桁32は、第一支持桁31と平行に設けられており、その上下端が踊場43に接続されている。
【0024】
図1に示すように、補強スラブ4,4,…は、最上段の補強スラブ4を除き、既存建物Tと補強階段3との間に介設されている。図4を参照して、補強スラブ4の構成をより詳細に説明する。なお、図4に示す補強スラブ4は、五階の補強スラブ4である。
【0025】
補強スラブ4は、図4の(a)に示すように、既存建物Tの補強構面に沿って横方向に延在する廊下部41と、既存建物Tの既存の階段室(凹部)T1に挿入される差込部42と、廊下部41から後方に向かって張り出す踊場43とを備えて構成されている。補強スラブ4は、既存建物Tのスラブと同じレベル(高さ)に設置される(図2の(b)参照)。
【0026】
廊下部41は、差込部42と補強階段3とを繋ぐ水平動線を形成するものであり、既存建物Tと鉛直構造要素2との間に配置されており、かつ、既存建物Tおよび鉛直構造要素2に接合されている。なお、以下の説明においては、廊下部41のうち、差込部42または踊場43と交差する部位(鉛直構造要素2の前側に位置する部位)を交差部41Aと称し、桁行方向に隣り合う交差部41A,41Aを繋ぐ部位を渡り部41Bと称する。
【0027】
廊下部41は、既存建物Tの補強構面に沿って延在していて、第一接合部S1,S1および第二接合部S2,S2において既存建物Tの躯体に接合されている。第一接合部S1は、廊下部41の桁行方向の端部に設けられており、第二接合部S2は、差込部42,42の間に位置する鉛直構造要素2の前側(既存建物T側)に設けられている。なお、廊下部41は、図5の(a)に示すように、既存建物Tの躯体に打ち込まれたアンカー44と、既存建物Tと廊下部41との間に充填された充填材45とを利用して、既存建物Tに接合されている。
【0028】
廊下部41の構成に制限はないが、本実施形態では、図4の(b)に示すように、既存建物Tの補強構面に沿って配置される第一の梁材41aと、鉛直構造要素2,2に架設される第二の梁材41bと、梁材41a,41bに架設される床板41c(図5の(a)および(b)参照)と、この床板41c上に敷設される表層材41dとを備えて構成されている。図5の(a)および(b)に示すように、梁材41a,41bは、H形鋼からなり、床板41cは、リブ付き鋼板からなる。また、表層材41dは、モルタルなどのセメント系材料からなる。なお、図示は省略するが、廊下部41を鉄筋コンクリートスラブなどとしても差し支えない。
【0029】
図4の(a)に示すように、差込部42は、既存建物Tの出入口T3と廊下部41とを繋ぐ水平動線を形成するとともに、既存建物Tと補強構造体Rとの間の力のやり取りを確実ならしめるためのものであり、鉛直構造要素2の前側において廊下部41(交差部41A)に接続されている。差込部42は、廊下部41から階段室T1の奥に向かって張り出していて、その突端に設けられた第三接合部S3において階段室T1に残置された床スラブT5(既存建物Tの躯体)に接合され、両側縁部に設けられた第四接合部S4,S4において階段室T1の壁面(既存建物Tの躯体)に接合されている。なお、水平力は、主として第四接合部S4における圧縮力とせん断力(階段室T1の壁面と差込部43の間の圧縮力とせん断力)を介して伝達されるため、第三接合部S3を省略してもよい。
【0030】
差込部42の構成に制限はないが、本実施形態では、図4の(b)に示すように、廊下部41から張り出す一対の第一の梁材42a,42aと、第一の梁材42a,42aを連結するように設けられた一対の第二の梁材42b,42bと、梁材42a,42bに架設される床板42c(図5の(c)および(d)参照)と、この床板42c上に敷設される表層材42dとを備えて構成されている。図5の(c)に示すように、廊下部41の上面と差込部42の上面とは、面一になっている。また、図5の(c)および(d)に示すように、差込部42は、アンカー44と充填材45とを利用して既存建物Tの躯体に接合されている。また、差込部42を鉄筋コンクリートスラブとしても勿論差し支えない。
【0031】
図4の(a)に示すように、踊場43は、補強階段3と廊下部41またはエレベータEとを繋ぐ水平動線を形成するものであり、鉛直構造要素2の位置において廊下部41(交差部41A)から後方に向かって張り出している。なお、補強構造体Rの桁行方向の中央部に位置する踊場43は、エレベータEの接続床版63(図1参照)に接続され、その他の踊場43は、補強階段3に接続される。踊場43の構成に制限はないが、本実施形態では、図4の(b)に示すように、廊下部41から張り出す一対の第一の梁材43a,43aと、第一の梁材43a,43aを連結するように設けられた第二の梁材43bと、梁材43a,43bに架設される床板43c(図5の(c)参照)と、この床板43c上に敷設される表層材43dとを備えて構成されている。なお、図5の(c)に示すように、廊下部41の上面と踊場43の上面とは、面一になっている。
【0032】
図1に示す妻柱5は、既存建物Tの桁行方向の端部と補強構造体Rとの間の力のやり取りを確実ならしめるために設けられたものであり、補強スラブ4,4,…の前側(既存建物T側)において補強スラブ4,4,…を上下に連結し、かつ、既存建物Tの妻壁面に接合される(図4の(a)参照)。なお、図示は省略するが、妻柱5は、既存建物Tの妻壁面に打ち込まれたアンカーを利用して既存建物Tに接合される。また、妻柱5の下端部は、方立51を介して鉛直構造要素2に接続されている。
【0033】
エレベータEは、既存建物Tのバリアフリー化を実現するとともに、既存建物Tの外部に新たな垂直動線を付加するものであり、補強構造体Rを挟んで既存建物Tと対峙するような位置に設けられていて、その出入口が廊下部41に面している。エレベータEの設置位置は、補強構造体Rに接続可能な範囲で自由に計画することができるが、本実施形態のエレベータEは、既存建物Tの桁行方向の中央部に設置されており、中央の階段室T1に対峙している。エレベータEの構成にも制限はないが、本実施形態では、エレベータシャフトを形成する柱梁架構61と、この柱梁架構61を支持するエレベータ基礎62と、補強構造体Rの中央部に位置する踊場43,43,…に接続される接続床版63,63,…と、エレベータシャフトの中を昇降する籠体64と、この籠体64を昇降させる図示せぬ昇降装置と、を備えて構成されている。
【0034】
このように構成された耐震補強構造においては、既存建物Tに作用した地震力が、補強構造体Rによって負担されることになる。また、既存建物Tに桁行方向に作用した地震時水平力や地震時せん断力は、補強スラブ4を介して鉛直構造要素2と補強階段3とに伝達され、さらに、補強階段3によって上階側から下階側へと伝達されるとともに、鉛直構造要素2によって基礎1に伝達されることになる。ちなみに、桁行方向の地震時水平力が既存建物Tに作用した場合の補強構造体Rとの力のやり取りは、廊下部41の接合部S1,S2(図4の(a)参照)におけるせん断力と、差込部42の接合部S4(図4の(a)参照)における圧縮力とを介して行われることになる。なお、補強階段3等を介して1階の基礎スラブ4まで伝達された地震力は、接合部S1,S2におけるせん断力と、接合部S4における圧縮力とを介して既存建物Tに伝達されることになる。
【0035】
また、既存建物Tの端部に位置する鉛直構造要素2(補強柱21)に発生した引抜力は、方立51を介して妻柱5に伝達され、さらに、既存建物Tに伝達される。
【0036】
次に、本実施形態に係る耐震補強構造の施工方法を、図6〜図11を参照して詳細に説明する。なお、図6は、耐震改修前の既存建物Tを示す図である。
【0037】
本実施形態に係る耐震補強構造の施工方法は、凹部形成工程(図7)と、補強構造体構築工程(図8〜図10)と、エレベータ設置工程(図11)とを含んでいる。
【0038】
凹部形成工程は、図7の(a)および(b)に示すように、既存建物Tに、補強構造体Rの差込部42を挿入するための凹部を形成する工程である。本実施形態では、既存建物Tの階段室T1に設置された既存の折返し階段T6(図6参照)を撤去することで、既存建物Tに凹部を形成する(図7参照)。本実施形態では、既存の階段室T1を凹部としているので、既存建物Tに対する改築工事を小規模にすることが可能となる。
【0039】
補強構造体構築工程は、既存建物Tの既存基礎T2の後方に基礎1を新設する基礎構築工程(図8参照)と、基礎1上に補強構造体Rの地上部分を構築する地上部構築工程(図9,図10参照)とを備えている。
【0040】
基礎構築工程では、図8の(b)に示すように、既存建物Tから所定距離だけ離れた位置に杭11を構築し、その後、杭11の杭頭部にフーチング12を構築する。また、エレベータEの設置位置に合せて、エレベータ基礎62を構築する。
【0041】
地上部構築工程では、図10の(a)および(b)に示すように、基礎1上に鉛直構造要素2を立設するとともに、補強階段3および補強スラブ4を既存建物Tと鉛直構造要素2とに接合する。本実施形態では、まず、図9の(a)および(b)に示すように、工場等において予め構築した差込部42を階段室T1に設置する。具体的には、階段室T1の壁面に予め打ち込んでおいたアンカー44(図5の(c)および(d)参照)に合せて差込部42を階段室T1に挿入し、その後、差込部42の先端部と階段室T1の床スラブT5との間および差込部42の両側縁部と階段室T1の壁面との間に充填材45(図5の(c)および(d)参照)を充填して、差込部42を既存建物Tに接合すればよい。なお、階段室T1の壁面等に設けた受け材に差込部42を仮支持させておき、表層材42dを打設する際や他の接合部S1,S2に充填材を充填する際に充填材45を充填してもよい。
【0042】
既存建物Tの階数に対応する数の差込部42を階断室T1に設置したら、鉛直構造要素2と廊下部41の交差部41Aと踊場43とを含むユニットUを立設し、交差部41Aを差込部42または既存建物Tの躯体に接合する。ユニットUは、鉛直構造要素2に交差部41Aと踊場43とを接合したものであり、工場等において構築される。なお、図5の(a)に示すアンカー44は、ユニットUを設置する前に既存建物Tの躯体に打ち込んでおく。また、既存建物Tの桁行方向の端部に位置するユニットUには、妻柱5(図1参照)を取り付けておき、ユニットUを基礎1上に立設した後に、既存建物Tの妻壁面に妻柱5を接合する。
【0043】
続いて、図10の(a)に示すように、隣り合うユニットU,U間に、補強階段3と、廊下部41の渡り部41Bとを架設する。補強階段3の上端部および下端部は、それぞれ、鉛直構造要素2と踊場43とに接合する。
【0044】
その後、図5の(a)に示すように、廊下部41の床板41c、差込部42の床板42cおよび踊場43の床板43cの上面に、それぞれ、表層材41d,42d,43dを敷設する。
【0045】
エレベータ設置工程は、図11の(a)および(b)に示すように、補強構造体RにエレベータEを付設する工程である。具体的には、エレベータ基礎62上に柱梁架構61を立設する工程、柱梁架構61と補強構造体Rの踊場43との間に接続床版63を架設する工程、柱梁架構61の内部に籠体64(図1参照)を設置する工程などを備えている。なお、既存建物Tの外部にエレベータEを設置すると、既存建物Tに機械室等を設ける工事が不要になるので、既存建物Tに対する改築工事を小規模にすることが可能となる。
【0046】
なお、本実施形態で例示した施工手順は、施工現場の状況、既存建物Tの形状や構造、補強構造体Rの規模や構造などに応じて適宜変更することが可能である。
【0047】
以上説明した耐震補強構造によれば、既存建物Tに作用した地震力の一部を補強構造体Rが負担するようになり、さらに、補強階段3がブレースとして機能することになるので、既存建物Tの保有耐力(せん断耐力)を効率よく向上させることが可能となる。
【0048】
しかも、既存建物Tに作用した地震力の一部が補強階段3および補強スラブ4を介して鉛直構造要素2に伝達され、さらに、鉛直構造要素2を介して基礎1に伝達されることになるので、既存建物Tにかかる負担を低減することが可能となる。
【0049】
本実施形態においては、既存建物Tに階段室T1に補強スラブ4の一部(差込部42)を差し込んでいるので、既存建物Tと補強構造体Rとの間の力のやり取りが確実なものとなり、さらには、補強階段3が廊下部41の幅の分だけ既存建物Tから離れているために生じる廊下部41の面内せん断力および当該面内せん断力に起因して発生する偏心モーメントを、既存建物Tに伝達することが可能となるので、既存建物Tの保有耐力を効率よく向上させることが可能となる。
【0050】
一方、補強階段3の存在が際立つことになるが、補強階段3がブレースの機能を兼ね備えていることについては認識され難くなるので、改修後のファサードに違和感がなくなり、耐震補強を行ったことを公言したくないという消費者のニーズに応えることが可能となる。また、複数の補強階段3,3,…をバランスよく配置しているので、景観に溶け込み易い外観となる。
【0051】
また、既存建物Tの外部において補強構面に沿うように補強階段3を設置しているので、耐震改修後の垂直動線を、既存建物Tの既存の階段室T1の位置や数等にとらわれることなく比較的自由に計画することが可能となる。加えて、本実施形態においては、補強スラブ4の廊下部41によって新たな水平動線が付加されることになるので、建物利用者の利便性も向上する。
【0052】
さらに、廊下部41の上面、差込部42の上面および踊場43の上面を面一にしてフラットな水平動線を形成しているので、既存建物Tのバリアフリー化を実現することが可能となる。
【0053】
本実施形態のように、既存建物Tの外部にエレベータEを設置すれば、既存の階段室T1の位置とは無関係に新たな垂直動線を付加することが可能となり、ひいては、建物利用者の利便性が向上する。
【0054】
前記した耐震補強構造の構成は、適宜変更しても差し支えない。
例えば、本実施形態では、既存建物Tの外部に補強構造体RやエレベータEを設置したが、例えば、建物の内部に吹き抜け空間が設けられている場合や床を壊して吹き抜けを設けた場合には、既存建物の内部に補強構造体RやエレベータEを設置してもよい。
【0055】
また、新設した基礎1上に鉛直構造要素2を立設した場合を例示したが、既存の基礎T2を利用できる場合には、既存の基礎T2上に鉛直構造要素2を立設してもよい。なお、地震力を基礎1に伝達する必要がない場合には、鉛直構造要素2を省略してもよい。
【0056】
また、補強階段3の形態を鋼製の「側桁階段(ささら桁階段)」としたが、複数の踏板を連続させてなる鉄筋コンクリート製の「スラブ階段」としてもよい。
【0057】
本実施形態では、既存建物Tの階段室T1に補強スラブ4の差込部42を差し込む場合を例示したが、階段室T1を利用できない場合などにおいては、差込部42を省略してもよい。なお、階段室T1が存在していない場合や利用できない場合には、耐震改修の際に、差込部42を挿入可能な凹部を既存建物Tに新設すればよい。
【0058】
なお、既存建物Tが、階段室型共同住宅である場合を例示したが、本発明の適用範囲を限定する趣旨ではなく、これ以外の形態の既存建物にも適用することができる。また、鉄筋コンクリート製の壁式ラーメン構造に限らず、例えば、壁式鉄筋コンクリート構造、コンクリート系ラーメン構造(RC造)、鉄骨系ラーメン構造(S造)、鉄骨系複合構造(SRC造、CFT造)の既存建物にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
T 既存建物
T1 階段室(凹部)
R 補強構造体
1 基礎
2 鉛直構造要素
3 補強階段
4 補強スラブ
41 廊下部
42 差込部
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建物の耐震補強構造に関する。
【背景技術】
【0002】
既存建物に対する耐震補強を行いつつバリアフリー化を図ることが可能な耐震補強構造が特許文献1に開示されている。これは、高度経済成長期に建築された階段室型共同住宅(団地型集合住宅)に対する耐震補強を目的とするものであり、柱と梁とからなる外フレームを階段室型共同住宅の外側に構築し、階段室型共同住宅と外フレームとの間に廊下を新設することで、階段室型共同住宅と外フレームとの一体化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−124527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の耐震補強構造は、その外フレーム(架構)が正面視矩形枠状を呈していることから、せん断剛性が低く、既存建物の保有耐力を効率よく向上させることができない。
【0005】
このような観点から、本発明は、既存建物の保有耐力を効率よく向上させることが可能な耐震補強構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような課題を解決する本発明は、既存建物に補強構造体を後付けしてなる耐震補強構造であって、前記補強構造体が、前記既存建物の補強すべき構面に沿って延在する補強スラブを具備しており、前記補強スラブは、前記既存建物に形成された凹部に挿入される差込部を有し、前記差込部の両側縁部が、それぞれ前記凹部の壁面に接合されていることを特徴とする。なお、本発明は、階段室のない既存建物にも適用することができるが、階段室が設けられている場合には、階段室を前記凹部として利用するとよい。
【0007】
本発明によれば、補強スラブの面内せん断抵抗によって、既存建物に作用するせん断力を確実に負担することが可能となり、ひいては、既存建物の保有耐力を効率よく向上させることが可能となる。すなわち、既存建物の凹部に補強スラブの差込部を挿入すると、補強スラブの面内せん断力が凹部と差込部の圧縮力として伝達されることになり、また、偏心モーメントが凹部と差込部のせん断力として伝達されることになるので、接合部に引張力が生じない仕組みとなる。
【0008】
前記補強構造体が、前記既存建物の補強すべき構面に沿って斜めに延在する補強階段を具備している場合には、前記補強階段がブレースとして機能し、前記既存建物に作用した地震時せん断力が前記補強スラブを介して前記補強階段に伝達され、前記補強階段によって、地震時せん断力が上階側から下階側へと伝達される。補強階段を設けると、補強階段がブレースとなって地震時せん断力を下層階へ伝達するので、既存建物の保有耐力を効率よく向上させることが可能となる。また、既存建物の補強すべき構面に沿って補強階段を設置しているので、耐震改修後の垂直動線を、既存建物の階段室の位置や数等にとらわれることなく比較的自由に計画することが可能となる。なお、前記補強スラブは、前記階段室から前記補強階段に至る廊下として利用するとよい。
【0009】
ところで、耐震補強のみを目的とする補強部材(例えば、枠付きブレースなど)を用いて既存建物を改修すると、補強部材の存在が際立ってしまい、耐震改修を行ったことが一目で明らかになってしまうことから、既存建物の古さや強度不足であったことなどが露呈してしまうが、補強階段をブレースとして利用すれば、補強階段の存在に目を奪われるので、耐震補強を行ったことが認識され難く、改修後のファサードに違和感がなくなる。
【0010】
補強階段の平面形式に制限はないが、ブレースとして機能させることを考慮すると、折返し部のない「直階段」であることが望ましい。また、補強階段の構造形式に制限はなく、複数の踏板を連続させてなる「スラブ階段」としてもよいが、好適には、階段勾配で傾斜して前記既存建物の躯体に接合される支持桁と、前記支持桁に支持される踏板とを備える「側桁階段」や「ささら桁階段」であることが望ましい。なお、補強階段が支持桁を具備している場合には、支持桁によって、地震時せん断力が上階側から下階側へと伝達されることになる。
【0011】
前記既存建物と前記補強階段との間に補強スラブを介設してもよい。このようにすると、前記既存建物と前記補強階段との間の力のやり取りが補強スラブを介して行われることになる。また、補強スラブの高さを既存のスラブと合せて設置すると、より力の伝達が円滑になって合理的である。更にこの補強スラブを前記既存建物の補強すべき構面に沿う廊下として用いることで、新たな水平動線が付加されて、利用者の利便性が向上させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るによれば、既存建物の保有耐力を効率よく向上させることが可能となり、しかも、耐震改修後の垂直動線を比較的自由に計画することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る耐震補強構造を示す分解斜視図である。
【図2】(a)は本発明の実施形態に係る耐震補強構造を示す正面図、(b)は(a)のX−X線断面図である。
【図3】補強構造体を示す拡大斜視図である。
【図4】(a)は図2の(a)のY−Y線断面図、(b)は(a)の部分拡大図である。
【図5】(a)は図4のA−A線断面図、(b)は図4のB−B線断面図、(c)は図4のC−C線断面図、(d)は図4のD−D線断面図である。
【図6】耐震改修前の既存建物を示す断面図であって、(a)は(b)のW1−W1線断面図、(b)は(a)のZ1−Z1線断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係る耐震補強構造の構築方法を説明するための断面図であって、(a)は(b)のW2−W2線断面図、(b)は(a)のZ2−Z2線断面図である。
【図8】図7に続く工程を説明するための断面図であって、(a)は(b)のW3−W3線断面図、(b)は(a)のZ3−Z3線断面図である。
【図9】図8に続く工程を説明するための断面図であって、(a)は(b)のW4−W4線断面図、(b)は(a)のZ4−Z4線断面図である。
【図10】図9に続く工程を説明するための断面図であって、(a)は(b)のW5−W5線断面図、(b)は(a)のZ5−Z5線断面図である。
【図11】図10に続く工程を説明するための断面図であって、(a)は(b)のW6−W6線断面図、(b)は(a)のZ6−Z6線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る耐震補強構造は、図1に示すように、既存建物Tと、この既存建物Tに後付けされた補強構造体Rと、この補強構造体Rの後側に設けられたエレベータEとを備えて構成されている。なお、以下の説明における「前」「後」は図1の状態を基準とし、既存建物Tのベランダ側を「前側」とし、階段室T1側を「後側」とする。
【0015】
既存建物Tは、供用を開始している多層階建ての階段室型共同住宅であり、後側の外壁面に開口する複数の階段室(凹部)T1,T1,…を備えている。階段室T1に設置されていた既存の折返し階段(図示略)は撤去されている。
【0016】
既存建物Tの躯体は、その構成に制限はないが、鉄筋コンクリート製の壁式ラーメン構造であり、桁行方向(長手方向)に沿って形成された柱梁構造(ラーメン構造)と、梁間方向(短手方向)に沿って形成された構造壁(耐震壁)とを備えて構成されている。なお、以下の実施形態では、桁行方向の耐震強度が不足していることで既存不適格となっている既存建物Tを想定し、桁行方向の耐震強度を補強する場合を例示する。つまり、既存建物Tの補強すべき構面(以下、「補強構面」という。)が既存建物Tの桁行方向に沿って形成された外壁面に沿っている場合を例示する。
【0017】
補強構造体Rは、既存建物Tに作用した地震力の一部を負担するものであり、既存建物Tの桁行方向に間隔をあけて並設された複数の基礎1,1,…と、基礎1,1,…から立ち上がる複数の鉛直構造要素2,2,…と、既存建物Tの補強構面に沿って延在する複数の補強階段3,3,…と、上下方向に間隔をあけて並設された複数段の補強スラブ4,4,…と、この補強スラブ4,4,…の桁行方向の両端部に設けられた妻柱5,5と、を具備している。なお、補強階段3や補強スラブ4には、図示せぬ防護柵が設置される。
【0018】
基礎1は、耐震改修のために新設されたものであり、図2の(b)に示すように、既存建物Tの基礎T2の後方に構築されている。基礎1の構造形式に特に制限はないが、本実施形態では、杭11と、その杭頭部に形成されたフーチング12とを備えて構成されている。杭11は、現場打ち杭であってもよいし、既製杭であってもよい。
【0019】
鉛直構造要素2は、補強階段3と補強スラブ4とを支持するものであり、既存建物Tの補強構面に沿って立設されていて、本実施形態では、既存建物Tの天端と略同じ高さ位置にまで達している。図2の(a)に示すように、鉛直構造要素2,2,…のうち、桁行方向の両端部に位置する鉛直構造要素2は、一本の補強柱21からなり、その他の鉛直構造要素2は、下端部において互いに連結された一対の補強柱21,21からなる。補強柱21は、基礎1に接合されており、鉛直構造要素2の下端部には、根巻き22が施されている。補強柱21の構造形式等に特に制限はなく、鋼管、鉄骨、鉄筋コンクリート、鉄骨鉄筋コンクリート、充填型鋼管コンクリートなどの中から適宜なものを選択すればよい。なお、基礎1と補強柱21とは、剛接合としてもよいし、半剛接合としてもよい。
【0020】
補強階段3は、上下階の移動手段(垂直動線)としての役割に加えて、既存建物Tの保有耐力(せん断耐力)を向上させるブレースとしての役割を担うものであり、桁行方向に隣り合う鉛直構造要素2,2の一方に上端部が接続され、他方に下端部が接続されていて、既存建物T(図2の(b)参照)に作用した地震時せん断力を上階側から下階側へと伝達する。本実施形態の補強階段3は、隣接階を直線状に繋ぐ直階段であり、補強柱21と補強スラブ4とで形成された正面視矩形状の枠体の対角線に沿って配置されていて、下階の踊場43とその斜め上方に位置する上階の踊場43とに通じている(図3参照)。
【0021】
補強階段3の位置、個数、向き(傾斜方向)などに制限はないが、本実施形態では、複数の補強階段3,3,…が、最上階(最上層)を除く各階(各層)において左右対称となるように配置されている。なお、いずれの補強階段3も、既存建物Tの外側に向かう方向が「上り」となるように配置されている。また、本実施形態では、一階の中央部に配置された補強階段3が、上階(本実施形態では、二階および三階)に配置された補強階段3と踊場43を介して直線状に連なっており、多層階に跨る直階段を形成している。複数の補強階段3,3,…により形成された直階段は、中央の鉛直構造要素2の左右に一組ずつ形成されており、V字状に対向している。また、補強構造体Rの両端部には、最上階を除く各階に補強階段3が配置されている。
【0022】
図3を参照して、補強階段3の構成をより詳細に説明する。この図に示すように、補強階段3は、階段勾配で傾斜する第一支持桁31および第二支持桁32と、この両支持桁31,32に支持される踏板33,33,…とを備えて構成されている。支持桁31,32は、いずれもH形鋼からなり、踏板33,33,…を挟んで対向している。
【0023】
第一支持桁31は、桁行方向に隣り合う補強柱21,21を含む構面(補強構面に平行な構面)内に配置されており、桁行方向に隣り合う補強柱21,21の一方に第一支持桁31の上端部が接続され、他方に第一支持桁31の下端部が接続されている。より詳細に、第一支持桁31は、補強柱21,21と補強スラブ4の梁材41b,41bとで形成された正面視矩形状の架構の対角線に沿って配置されている。補強柱21と第一支持桁31の接合方法に制限はなく、例えば、溶接やボルト接合等の方法を用いることができる。第二支持桁32は、第一支持桁31と平行に設けられており、その上下端が踊場43に接続されている。
【0024】
図1に示すように、補強スラブ4,4,…は、最上段の補強スラブ4を除き、既存建物Tと補強階段3との間に介設されている。図4を参照して、補強スラブ4の構成をより詳細に説明する。なお、図4に示す補強スラブ4は、五階の補強スラブ4である。
【0025】
補強スラブ4は、図4の(a)に示すように、既存建物Tの補強構面に沿って横方向に延在する廊下部41と、既存建物Tの既存の階段室(凹部)T1に挿入される差込部42と、廊下部41から後方に向かって張り出す踊場43とを備えて構成されている。補強スラブ4は、既存建物Tのスラブと同じレベル(高さ)に設置される(図2の(b)参照)。
【0026】
廊下部41は、差込部42と補強階段3とを繋ぐ水平動線を形成するものであり、既存建物Tと鉛直構造要素2との間に配置されており、かつ、既存建物Tおよび鉛直構造要素2に接合されている。なお、以下の説明においては、廊下部41のうち、差込部42または踊場43と交差する部位(鉛直構造要素2の前側に位置する部位)を交差部41Aと称し、桁行方向に隣り合う交差部41A,41Aを繋ぐ部位を渡り部41Bと称する。
【0027】
廊下部41は、既存建物Tの補強構面に沿って延在していて、第一接合部S1,S1および第二接合部S2,S2において既存建物Tの躯体に接合されている。第一接合部S1は、廊下部41の桁行方向の端部に設けられており、第二接合部S2は、差込部42,42の間に位置する鉛直構造要素2の前側(既存建物T側)に設けられている。なお、廊下部41は、図5の(a)に示すように、既存建物Tの躯体に打ち込まれたアンカー44と、既存建物Tと廊下部41との間に充填された充填材45とを利用して、既存建物Tに接合されている。
【0028】
廊下部41の構成に制限はないが、本実施形態では、図4の(b)に示すように、既存建物Tの補強構面に沿って配置される第一の梁材41aと、鉛直構造要素2,2に架設される第二の梁材41bと、梁材41a,41bに架設される床板41c(図5の(a)および(b)参照)と、この床板41c上に敷設される表層材41dとを備えて構成されている。図5の(a)および(b)に示すように、梁材41a,41bは、H形鋼からなり、床板41cは、リブ付き鋼板からなる。また、表層材41dは、モルタルなどのセメント系材料からなる。なお、図示は省略するが、廊下部41を鉄筋コンクリートスラブなどとしても差し支えない。
【0029】
図4の(a)に示すように、差込部42は、既存建物Tの出入口T3と廊下部41とを繋ぐ水平動線を形成するとともに、既存建物Tと補強構造体Rとの間の力のやり取りを確実ならしめるためのものであり、鉛直構造要素2の前側において廊下部41(交差部41A)に接続されている。差込部42は、廊下部41から階段室T1の奥に向かって張り出していて、その突端に設けられた第三接合部S3において階段室T1に残置された床スラブT5(既存建物Tの躯体)に接合され、両側縁部に設けられた第四接合部S4,S4において階段室T1の壁面(既存建物Tの躯体)に接合されている。なお、水平力は、主として第四接合部S4における圧縮力とせん断力(階段室T1の壁面と差込部43の間の圧縮力とせん断力)を介して伝達されるため、第三接合部S3を省略してもよい。
【0030】
差込部42の構成に制限はないが、本実施形態では、図4の(b)に示すように、廊下部41から張り出す一対の第一の梁材42a,42aと、第一の梁材42a,42aを連結するように設けられた一対の第二の梁材42b,42bと、梁材42a,42bに架設される床板42c(図5の(c)および(d)参照)と、この床板42c上に敷設される表層材42dとを備えて構成されている。図5の(c)に示すように、廊下部41の上面と差込部42の上面とは、面一になっている。また、図5の(c)および(d)に示すように、差込部42は、アンカー44と充填材45とを利用して既存建物Tの躯体に接合されている。また、差込部42を鉄筋コンクリートスラブとしても勿論差し支えない。
【0031】
図4の(a)に示すように、踊場43は、補強階段3と廊下部41またはエレベータEとを繋ぐ水平動線を形成するものであり、鉛直構造要素2の位置において廊下部41(交差部41A)から後方に向かって張り出している。なお、補強構造体Rの桁行方向の中央部に位置する踊場43は、エレベータEの接続床版63(図1参照)に接続され、その他の踊場43は、補強階段3に接続される。踊場43の構成に制限はないが、本実施形態では、図4の(b)に示すように、廊下部41から張り出す一対の第一の梁材43a,43aと、第一の梁材43a,43aを連結するように設けられた第二の梁材43bと、梁材43a,43bに架設される床板43c(図5の(c)参照)と、この床板43c上に敷設される表層材43dとを備えて構成されている。なお、図5の(c)に示すように、廊下部41の上面と踊場43の上面とは、面一になっている。
【0032】
図1に示す妻柱5は、既存建物Tの桁行方向の端部と補強構造体Rとの間の力のやり取りを確実ならしめるために設けられたものであり、補強スラブ4,4,…の前側(既存建物T側)において補強スラブ4,4,…を上下に連結し、かつ、既存建物Tの妻壁面に接合される(図4の(a)参照)。なお、図示は省略するが、妻柱5は、既存建物Tの妻壁面に打ち込まれたアンカーを利用して既存建物Tに接合される。また、妻柱5の下端部は、方立51を介して鉛直構造要素2に接続されている。
【0033】
エレベータEは、既存建物Tのバリアフリー化を実現するとともに、既存建物Tの外部に新たな垂直動線を付加するものであり、補強構造体Rを挟んで既存建物Tと対峙するような位置に設けられていて、その出入口が廊下部41に面している。エレベータEの設置位置は、補強構造体Rに接続可能な範囲で自由に計画することができるが、本実施形態のエレベータEは、既存建物Tの桁行方向の中央部に設置されており、中央の階段室T1に対峙している。エレベータEの構成にも制限はないが、本実施形態では、エレベータシャフトを形成する柱梁架構61と、この柱梁架構61を支持するエレベータ基礎62と、補強構造体Rの中央部に位置する踊場43,43,…に接続される接続床版63,63,…と、エレベータシャフトの中を昇降する籠体64と、この籠体64を昇降させる図示せぬ昇降装置と、を備えて構成されている。
【0034】
このように構成された耐震補強構造においては、既存建物Tに作用した地震力が、補強構造体Rによって負担されることになる。また、既存建物Tに桁行方向に作用した地震時水平力や地震時せん断力は、補強スラブ4を介して鉛直構造要素2と補強階段3とに伝達され、さらに、補強階段3によって上階側から下階側へと伝達されるとともに、鉛直構造要素2によって基礎1に伝達されることになる。ちなみに、桁行方向の地震時水平力が既存建物Tに作用した場合の補強構造体Rとの力のやり取りは、廊下部41の接合部S1,S2(図4の(a)参照)におけるせん断力と、差込部42の接合部S4(図4の(a)参照)における圧縮力とを介して行われることになる。なお、補強階段3等を介して1階の基礎スラブ4まで伝達された地震力は、接合部S1,S2におけるせん断力と、接合部S4における圧縮力とを介して既存建物Tに伝達されることになる。
【0035】
また、既存建物Tの端部に位置する鉛直構造要素2(補強柱21)に発生した引抜力は、方立51を介して妻柱5に伝達され、さらに、既存建物Tに伝達される。
【0036】
次に、本実施形態に係る耐震補強構造の施工方法を、図6〜図11を参照して詳細に説明する。なお、図6は、耐震改修前の既存建物Tを示す図である。
【0037】
本実施形態に係る耐震補強構造の施工方法は、凹部形成工程(図7)と、補強構造体構築工程(図8〜図10)と、エレベータ設置工程(図11)とを含んでいる。
【0038】
凹部形成工程は、図7の(a)および(b)に示すように、既存建物Tに、補強構造体Rの差込部42を挿入するための凹部を形成する工程である。本実施形態では、既存建物Tの階段室T1に設置された既存の折返し階段T6(図6参照)を撤去することで、既存建物Tに凹部を形成する(図7参照)。本実施形態では、既存の階段室T1を凹部としているので、既存建物Tに対する改築工事を小規模にすることが可能となる。
【0039】
補強構造体構築工程は、既存建物Tの既存基礎T2の後方に基礎1を新設する基礎構築工程(図8参照)と、基礎1上に補強構造体Rの地上部分を構築する地上部構築工程(図9,図10参照)とを備えている。
【0040】
基礎構築工程では、図8の(b)に示すように、既存建物Tから所定距離だけ離れた位置に杭11を構築し、その後、杭11の杭頭部にフーチング12を構築する。また、エレベータEの設置位置に合せて、エレベータ基礎62を構築する。
【0041】
地上部構築工程では、図10の(a)および(b)に示すように、基礎1上に鉛直構造要素2を立設するとともに、補強階段3および補強スラブ4を既存建物Tと鉛直構造要素2とに接合する。本実施形態では、まず、図9の(a)および(b)に示すように、工場等において予め構築した差込部42を階段室T1に設置する。具体的には、階段室T1の壁面に予め打ち込んでおいたアンカー44(図5の(c)および(d)参照)に合せて差込部42を階段室T1に挿入し、その後、差込部42の先端部と階段室T1の床スラブT5との間および差込部42の両側縁部と階段室T1の壁面との間に充填材45(図5の(c)および(d)参照)を充填して、差込部42を既存建物Tに接合すればよい。なお、階段室T1の壁面等に設けた受け材に差込部42を仮支持させておき、表層材42dを打設する際や他の接合部S1,S2に充填材を充填する際に充填材45を充填してもよい。
【0042】
既存建物Tの階数に対応する数の差込部42を階断室T1に設置したら、鉛直構造要素2と廊下部41の交差部41Aと踊場43とを含むユニットUを立設し、交差部41Aを差込部42または既存建物Tの躯体に接合する。ユニットUは、鉛直構造要素2に交差部41Aと踊場43とを接合したものであり、工場等において構築される。なお、図5の(a)に示すアンカー44は、ユニットUを設置する前に既存建物Tの躯体に打ち込んでおく。また、既存建物Tの桁行方向の端部に位置するユニットUには、妻柱5(図1参照)を取り付けておき、ユニットUを基礎1上に立設した後に、既存建物Tの妻壁面に妻柱5を接合する。
【0043】
続いて、図10の(a)に示すように、隣り合うユニットU,U間に、補強階段3と、廊下部41の渡り部41Bとを架設する。補強階段3の上端部および下端部は、それぞれ、鉛直構造要素2と踊場43とに接合する。
【0044】
その後、図5の(a)に示すように、廊下部41の床板41c、差込部42の床板42cおよび踊場43の床板43cの上面に、それぞれ、表層材41d,42d,43dを敷設する。
【0045】
エレベータ設置工程は、図11の(a)および(b)に示すように、補強構造体RにエレベータEを付設する工程である。具体的には、エレベータ基礎62上に柱梁架構61を立設する工程、柱梁架構61と補強構造体Rの踊場43との間に接続床版63を架設する工程、柱梁架構61の内部に籠体64(図1参照)を設置する工程などを備えている。なお、既存建物Tの外部にエレベータEを設置すると、既存建物Tに機械室等を設ける工事が不要になるので、既存建物Tに対する改築工事を小規模にすることが可能となる。
【0046】
なお、本実施形態で例示した施工手順は、施工現場の状況、既存建物Tの形状や構造、補強構造体Rの規模や構造などに応じて適宜変更することが可能である。
【0047】
以上説明した耐震補強構造によれば、既存建物Tに作用した地震力の一部を補強構造体Rが負担するようになり、さらに、補強階段3がブレースとして機能することになるので、既存建物Tの保有耐力(せん断耐力)を効率よく向上させることが可能となる。
【0048】
しかも、既存建物Tに作用した地震力の一部が補強階段3および補強スラブ4を介して鉛直構造要素2に伝達され、さらに、鉛直構造要素2を介して基礎1に伝達されることになるので、既存建物Tにかかる負担を低減することが可能となる。
【0049】
本実施形態においては、既存建物Tに階段室T1に補強スラブ4の一部(差込部42)を差し込んでいるので、既存建物Tと補強構造体Rとの間の力のやり取りが確実なものとなり、さらには、補強階段3が廊下部41の幅の分だけ既存建物Tから離れているために生じる廊下部41の面内せん断力および当該面内せん断力に起因して発生する偏心モーメントを、既存建物Tに伝達することが可能となるので、既存建物Tの保有耐力を効率よく向上させることが可能となる。
【0050】
一方、補強階段3の存在が際立つことになるが、補強階段3がブレースの機能を兼ね備えていることについては認識され難くなるので、改修後のファサードに違和感がなくなり、耐震補強を行ったことを公言したくないという消費者のニーズに応えることが可能となる。また、複数の補強階段3,3,…をバランスよく配置しているので、景観に溶け込み易い外観となる。
【0051】
また、既存建物Tの外部において補強構面に沿うように補強階段3を設置しているので、耐震改修後の垂直動線を、既存建物Tの既存の階段室T1の位置や数等にとらわれることなく比較的自由に計画することが可能となる。加えて、本実施形態においては、補強スラブ4の廊下部41によって新たな水平動線が付加されることになるので、建物利用者の利便性も向上する。
【0052】
さらに、廊下部41の上面、差込部42の上面および踊場43の上面を面一にしてフラットな水平動線を形成しているので、既存建物Tのバリアフリー化を実現することが可能となる。
【0053】
本実施形態のように、既存建物Tの外部にエレベータEを設置すれば、既存の階段室T1の位置とは無関係に新たな垂直動線を付加することが可能となり、ひいては、建物利用者の利便性が向上する。
【0054】
前記した耐震補強構造の構成は、適宜変更しても差し支えない。
例えば、本実施形態では、既存建物Tの外部に補強構造体RやエレベータEを設置したが、例えば、建物の内部に吹き抜け空間が設けられている場合や床を壊して吹き抜けを設けた場合には、既存建物の内部に補強構造体RやエレベータEを設置してもよい。
【0055】
また、新設した基礎1上に鉛直構造要素2を立設した場合を例示したが、既存の基礎T2を利用できる場合には、既存の基礎T2上に鉛直構造要素2を立設してもよい。なお、地震力を基礎1に伝達する必要がない場合には、鉛直構造要素2を省略してもよい。
【0056】
また、補強階段3の形態を鋼製の「側桁階段(ささら桁階段)」としたが、複数の踏板を連続させてなる鉄筋コンクリート製の「スラブ階段」としてもよい。
【0057】
本実施形態では、既存建物Tの階段室T1に補強スラブ4の差込部42を差し込む場合を例示したが、階段室T1を利用できない場合などにおいては、差込部42を省略してもよい。なお、階段室T1が存在していない場合や利用できない場合には、耐震改修の際に、差込部42を挿入可能な凹部を既存建物Tに新設すればよい。
【0058】
なお、既存建物Tが、階段室型共同住宅である場合を例示したが、本発明の適用範囲を限定する趣旨ではなく、これ以外の形態の既存建物にも適用することができる。また、鉄筋コンクリート製の壁式ラーメン構造に限らず、例えば、壁式鉄筋コンクリート構造、コンクリート系ラーメン構造(RC造)、鉄骨系ラーメン構造(S造)、鉄骨系複合構造(SRC造、CFT造)の既存建物にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
T 既存建物
T1 階段室(凹部)
R 補強構造体
1 基礎
2 鉛直構造要素
3 補強階段
4 補強スラブ
41 廊下部
42 差込部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存建物に補強構造体を後付けしてなる耐震補強構造であって、
前記補強構造体が、前記既存建物の補強すべき構面に沿って延在する補強スラブを具備しており、
前記補強スラブは、前記既存建物に形成された凹部に挿入される差込部を有し、
前記差込部の両側縁部が、それぞれ前記凹部の壁面に接合されていることを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
前記補強構造体が、前記既存建物の補強すべき構面に沿って斜めに延在する補強階段を具備しており、
前記補強階段は、ブレースとして機能し、
前記既存建物に作用した地震時せん断力が前記補強スラブを介して前記補強階段に伝達され、
前記補強階段によって、地震時せん断力が上階側から下階側へと伝達されることを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記凹部が、前記既存建物の階段室であり、
前記補強スラブは、前記階段室から前記補強階段に至る廊下として利用される廊下部を有することを特徴とする請求項2に記載の耐震補強構造。
【請求項4】
前記補強スラブは、前記既存建物のスラブと同じ高さに設置されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の耐震補強構造。
【請求項1】
既存建物に補強構造体を後付けしてなる耐震補強構造であって、
前記補強構造体が、前記既存建物の補強すべき構面に沿って延在する補強スラブを具備しており、
前記補強スラブは、前記既存建物に形成された凹部に挿入される差込部を有し、
前記差込部の両側縁部が、それぞれ前記凹部の壁面に接合されていることを特徴とする耐震補強構造。
【請求項2】
前記補強構造体が、前記既存建物の補強すべき構面に沿って斜めに延在する補強階段を具備しており、
前記補強階段は、ブレースとして機能し、
前記既存建物に作用した地震時せん断力が前記補強スラブを介して前記補強階段に伝達され、
前記補強階段によって、地震時せん断力が上階側から下階側へと伝達されることを特徴とする請求項1に記載の耐震補強構造。
【請求項3】
前記凹部が、前記既存建物の階段室であり、
前記補強スラブは、前記階段室から前記補強階段に至る廊下として利用される廊下部を有することを特徴とする請求項2に記載の耐震補強構造。
【請求項4】
前記補強スラブは、前記既存建物のスラブと同じ高さに設置されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の耐震補強構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−97565(P2012−97565A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−37188(P2012−37188)
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【分割の表示】特願2007−175797(P2007−175797)の分割
【原出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【分割の表示】特願2007−175797(P2007−175797)の分割
【原出願日】平成19年7月4日(2007.7.4)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】
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