説明

耐震補強用斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカー及びそれを用いた地盤と接する構造物の耐震補強工法

【課題】地盤と接する構造物において、鋼板補強のできない地盤側の構造物表面に対して、斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカー及びそれを用いた構造物の耐震補強工法を提供する。
【解決手段】地盤に接して配置されるRC柱3とこのRC柱3の両側に配置される土留め壁2との境界部に前記地盤1まで達する穿孔4を形成し、中空ロッド7及び斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカー5を前記穿孔4に植設し、前記中空ロッド7の先端側に配置された拡開可能な枝鉄筋6を、前記中空ロッド7の後端部に引張荷重をかけて座屈させて拡開させ、前記RC柱3の地盤側表面に前記枝鉄筋6の一部を定着させ、前記土留め壁2の構造物側表面側から前記中空ロッド7の内部穴を介して前記先端拡大部にセメント11を充填して鉄筋・セメント拡大部12を形成し、前記RC柱3の三面補強鋼板15及びナット17を設置して前記RC柱3と土留め壁2を前記地盤1に強固に固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤と接する既設構造物の耐震補強に係り、特に、耐震補強用斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカー及びそれを用いた地盤と接する構造物の耐震補強工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
兵庫県南部地震及び中越地震により鉄道構造物が多大な被害を受けた。これらの震災による被害を鑑み、既設構造物の補強工事が逐次実施されてきた。しかしながら、地下鉄駅部や高架下の土留め壁など、様々な周辺環境の制約により、補強を必要としながら工事が未着手である箇所も多々見受けられる。その主な原因は、有効な補強工法がまだ開発されていないことである。
【0003】
図8は従来の地下鉄駅部の断面模式図である。
現在行われている一面せん断補強工法では、図8に示すように、地下鉄駅部102における地盤101と接するRC側壁103に対して、RC側壁103内側の表面に鋼板105を貼り付け、RC側壁103を貫通しない後施工アンカー104で定着させることにより、RC側壁103のせん断耐力を部分的に上げることができる。なお、106は地表面である。
【0004】
また、直線状の部材をヘの字状に拡開する拡開アンカーを有する構築用基礎材が提案されている(下記特許文献1,2参照)。この拡開アンカーを有する構築用基礎材は、棒状の第1座屈材を同一半径上に複数配置し、その両端部を固定する一対の第1プレートと、この一対の第1プレートの一方に固定され、メネジが形成されたメネジ部材と、からなる第1座屈材と、棒状の第2座屈材を前記半径上に複数配置し、その両端部を固定する一対の第2プレートとからなり、この第2プレートに、外周側に開口し、第1座屈材が設置される溝を設け、第1座屈材より軸方向長さが短い第2座屈材と、第1、第2座屈材を貫通し、その外周部にメネジ部材と螺合するオネジを設けたロッドとを備えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−026041号公報
【特許文献2】特開2007−239340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した一面せん断補強工法では、後施工アンカー104がRC側壁103を貫通しないため、地下鉄駅部102におけるRC側壁103の地盤101側の表面107に対する補強ができないので、RC側壁103の主鉄筋の座屈防止効果が得られない。また、後施工アンカー104による鋼板105の定着効果には限界があり、必ずしも合理的な補強工法とは言えないのが現状である。
【0007】
また、上記した拡開アンカーを有する構築用基礎材は、第1の座屈材がその中央部から「く」の字状に外側に座屈するように構成されており、建築物とは関係なく地中などにおいて実施する拡開アンカーとしては有効であるが、地中内のRC側壁の補強には向かないものである。
本発明は、上記状況に鑑みて、地盤と接する構造物において、鋼板補強のできない地盤側の構造物表面に対して、地盤に達する斜め貫入式先端部拡開アンカーにより抑え力を与え、構造物の側壁及び土留め壁の補強を行うことができる、耐震補強用斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカー及びそれを用いた地盤と接する構造物の耐震補強工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために、
〔1〕耐震補強用斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカーであって、地盤に接して配置される柱とこの柱の両側に配置される土留め壁との境界部から、前記地盤に達するようにして前記柱の地盤側表面方向で斜めに貫入される中空ロッドと、前記柱の地盤側表面に枝鉄筋の少なくとも一部が定着される先端拡大部とを具備することを特徴とする。
【0009】
〔2〕地盤と接する構造物の耐震補強工法において、地盤に接して配置される柱とこの柱の両側に配置される土留め壁との境界部に前記地盤まで達する穿孔を形成し、中空ロッド及び先端拡大部を具備する斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカーを前記穿孔に植設し、前記中空ロッドの先端側に配置された拡開可能な枝鉄筋を、前記中空ロッドの後端部に引張荷重をかけて座屈させて拡開することにより、前記先端拡大部を形成して、前記柱の地盤側表面に前記枝鉄筋の少なくとも一部を定着させ、前記土留め壁の構造物側表面から前記中空ロッドの内部穴を介して前記先端拡大部にセメントを充填して鉄筋・セメント拡大部を形成し、前記柱の三面補強鋼板及びナットを設置して前記柱と前記土留め壁を前記地盤に強固に固定することを特徴とする。
【0010】
〔3〕上記〔2〕記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記枝鉄筋の中央部を座屈させて拡開することを特徴とする。
〔4〕地盤と接する構造物の耐震補強工法において、地盤に接して配置される柱とこの柱の両側に配置される土留め壁との境界部に前記地盤まで達する穿孔を形成し、中空ロッド及び先端拡大部を具備する斜め貫入式先端部拡開アンカーを前記穿孔に植設し、前記中空ロッドの先端側に配置された拡開可能な枝鉄筋を、前記中空ロッドの後端部に引張荷重をかけて拡開することにより、前記先端拡大部を形成して、前記柱の地盤側表面に前記枝鉄筋の少なくとも一部を定着させ、前記土留め壁の構造物側表面から前記中空ロッドの内部穴を介して前記先端拡大部にセメントを充填して鉄筋・セメント拡大部を形成し、前記柱の三面補強鋼板及びナットを設置して前記柱と前記土留め壁を前記地盤に強固に固定することを特徴とする。
【0011】
〔5〕上記〔4〕記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記枝鉄筋それぞれ設けられる2つのピン接合部により台形状に拡開することを特徴とする。
〔6〕上記〔2〕又は〔5〕記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記中空ロッドの先端の基部が前記枝鉄筋を束ねるネジ部であることを特徴とする。
〔7〕上記〔2〕又は〔5〕記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記中空ロッドの外径が25.4mmであることを特徴とする。
【0012】
〔8〕上記〔2〕又は〔5〕記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記枝鉄筋の直径が13〜15mmであることを特徴とする。
〔9〕上記〔2〕又は〔5〕記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記先端拡大部の枝鉄筋の拡開後の直径が500〜800mmであることを特徴とする。
〔10〕上記〔2〕又は〔5〕記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記柱と前記土留め壁との境界部に断面が三角形状の座金を配置し、この座金を介して前記ナットを前記中空ロッドに螺着することによって前記柱及び前記土留め壁を前記地盤に定着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、柱及びその両側に配置される土留め壁に対する構造物側補強鋼板の定着と地盤側の壁鉄筋の座屈防止とを両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例を示す斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカーを用いる土留め壁を有するRC柱の耐震補強配置を示す断面図である。
【図2】図1に示す耐震補強配置の地盤側から見た側面図である。
【図3】本発明の第1実施例を示す斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカー挿入前のセッティング状態を示す図である。
【図4】本発明の第1実施例を示す斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカーを用いた構造物の耐震補強工法の工程図である。
【図5】本発明の第2実施例を示す斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカーを用いる土留め壁を有するRC柱の耐震補強配置を示す断面図である。
【図6】本発明の第2実施例を示す斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカーを示す図である。
【図7】本発明の第2実施例を示す斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカーを用いた構造物の耐震補強工法の工程図である。
【図8】従来の地下鉄駅部の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の耐震補強用斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカーは、地盤に接して配置される柱とこの柱の両側に配置される土留め壁との境界から、前記地盤に達するようにして前記柱の地盤側表面方向で斜めに貫入される中空ロッドと、前記柱の地盤側表面に枝鉄筋の少なくとも一部が定着される先端拡大部とを具備する。
本発明の地盤と接する構造物の耐震補強工法は、地盤に接して配置される柱とこの柱の両側に配置される土留め壁との境界部に前記地盤まで達する穿孔を形成し、中空ロッド及び先端拡大部を具備する斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカーを前記穿孔に植設し、前記中空ロッドの先端側に配置された拡開可能な枝鉄筋を、前記中空ロッドの後端部に引張荷重をかけて座屈させて拡開することにより、前記先端拡大部を形成して、前記柱の地盤側表面に前記枝鉄筋の少なくとも一部を定着させ、前記土留め壁の構造物側表面側から前記中空ロッドの内部穴を介して前記先端拡大部にセメントを充填して鉄筋・セメント拡大部を形成し、前記柱の三面補強鋼板及びナットを設置して前記柱と前記土留め壁を前記地盤に強固に固定する。
【0016】
また、本発明の地盤と接する構造物の耐震補強工法は、地盤に接して配置される柱とこの柱の両側に配置される土留め壁との境界部に前記地盤まで達する穿孔を形成し、中空ロッド及び先端拡大部を具備する斜め貫入式先端部拡開アンカーを前記穿孔に植設し、前記中空ロッドの先端側に配置された拡開可能な枝鉄筋を、前記中空ロッドの後端部に引張荷重をかけて拡開することにより、前記先端拡大部を形成して、前記柱の地盤側表面に前記枝鉄筋の少なくとも一部を定着させ、前記土留め壁の構造物側表面から前記中空ロッドの内部穴を介して前記先端拡大部にセメントを充填して鉄筋・セメント拡大部を形成し、前記柱の三面補強鋼板及びナットを設置して前記柱と前記土留め壁を前記地盤に強固に固定する。
【実施例】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は本発明の第1実施例を示す斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカーを用いる土留め壁を有するRC柱の耐震補強配置を示す断面図、図2はその耐震補強配置の地盤側から見た側面図、図3はその斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカー挿入前のセッティング状態を示す図、図4は本発明の第1実施例を示す斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカーを用いた構造物の耐震補強工法の工程図である。
【0018】
これらの図において、1は地盤、2は土留め壁、2−1は土留め壁2の縦方向鉄筋、2Aは土留め壁2の構造物側表面、2Bは土留め壁2の地盤側表面、3は既設構造物であるRC柱、4は穿孔、5は斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカーであり、この先端部拡開アンカー5は、中空ロッド7と先端拡大部8とから構成されている。6は枝鉄筋、9は中空ロッド7の先端ネジ部、10は枝鉄筋6の中央部の座屈部位、11はセメント、12は先端拡大部8にセメント11を充填して形成される鉄筋・セメント拡大部、13は中空ロッド7の後端部に配置されるカプラー、14はそのカプラー13に接続されるテンションバー、15は土留め壁2の構造物側表面2AとRC柱3の表面とに配置される三面補強用鋼板、16は中空ロッド7の後端部(RC柱3の角部)に配置される断面が三角形状の座金、17は中空ロッド7の後端部のネジ部7Aに螺合し、中空ロッド7を土留め壁2に定着するナット(ここでは、六角ナット)である。
【0019】
次に、RC柱及びその両側に設置される土留め壁の耐震補強工法について説明する。
(1)図3に示すように、斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカー5の枝鉄筋6を設けた中空ロッド7の後端部にはネジ7Aが設けられ、このネジ7Aにカプラー13が装着され、このカプラー13にはテンションバー14が装着され、その後端部にはテンションバー14に引張荷重を印加するようにネジ14Aが形成されている。
【0020】
(2)まず、図4(a)に示すように、地盤1に接するRC柱3とその両側に配置される土留め壁2との境界部にドリル(図示なし)で穿孔4を形成する。ここで、穿孔4は縦方向鉄筋2−1の位置を外すように形成する。この穿孔4は、例えば、直径が65〜100mm、長さは土留め壁2の厚さに応じても変わるが、250mm〜500mmである。なお、土留め壁2の地盤側表面2B近傍の地盤1が硬いような場合には、構造物側表面2Aから穿孔4を介して水噴射や機械による地盤1の攪乱と緩め(図示なし)を行って、その硬い地盤を弱めることにより、斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカー5の先端拡大部8が開き易いようにしてもよい。
【0021】
(3)次に、図4(b)に示すように、土留め壁2の構造物側表面2Aから斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカー5を挿入して設置する。この先端部拡開アンカー5の中空ロッド7の外径は例えば、25.4mmである。
(4)センター・ホール型ジャッキ(図示なし)によって、中空ロッド7の後端部のテンションバー14に引張荷重を掛けて、枝鉄筋6の中央部を一定角度で座屈させて大きく拡開することにより、図4(c)に示すように、先端拡大部8を形成する。この時、中空ロッド7の先端ネジ部9で束ねられている枝鉄筋6は、その中央部を中心にして山形に拡開し、この枝鉄筋6の少なくとも一部の座屈部位10が土留め壁2の地盤側表面2Bに固定される。ここで、枝鉄筋6の直径は、例えば、13〜15mmである。拡開した先端拡大部11の直径Dは、既設土留め壁2の鉄筋の座屈を抑えるために大きく設定する必要があり、例えば、500〜800mmである。
【0022】
(5)次に、図4(d)に示すように、テンションバー14及びカプラー13を取り外す。
(6)その後、高圧の圧縮空気にてエアブローを行い、先端拡大部8の残存土砂を除去する。エアーブローが完了した後に、図4(e)に示すように、中空ロッド7の内部穴7Bを介してセメント11を注入する。すると、中空ロッド7の先頭穴7Cから先端拡大部8へセメント11が流出して、鉄筋・セメント拡大部12を造成することができる。これにより、地盤1と先端拡大部8とはセメント11により一体化され、鉄筋・セメント拡大部12は土留め壁2の地盤側表面2Bに強固に固定される。
【0023】
(7)最後に、図4(f)に示すように、RC柱3及び土留め壁2の構造物側表面2Aに三面補強用鋼板15を設置し、断面が三角形状の座金16を介して中空ロッド7の後端部のネジ7Aにナット17を螺着して大きな締め付け力を与える。これによって、構造物の耐震補強工法を完了とする。
このように、本発明の構造物の耐震補強工法では、先端拡大部8を拡大させる前の先端部拡開アンカー5を地盤1に挿入した後、テンションバー14を介して中空ロッド7の後端部側に引張荷重を掛けて枝鉄筋6の中央部を一定角度で座屈させて大きく開く。次いで、その部位にセメント11を注入し、最後に、三面補強用鋼板15、断面が三角形状の座金16などを設置し、ナット17を中空ロッド7のネジ7Aに螺着してRC柱3及び土留め壁2を地盤1に定着する。
【0024】
この仕組みによって、中空ロッド7に作用する引張定着力は、鉄筋・セメント拡大部13を介して、三面補強用鋼板15を定着させるとともに、土留め壁2の地盤側表面2Bを地盤1に対して抑え付ける効果をもたらす。また、鉄筋セメント・拡大部12は、地盤1との接触面が増えることにより、地盤抵抗が増加し、壁面の抑えに有利に働くことになる。したがって、この先端部拡開アンカー5は、側壁の構造物側補強鋼板の定着と地盤側の鉄筋の座屈防止を両立する効果がある。
【0025】
図5は本発明の第2実施例を示す斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカーを用いる土留め壁を有するRC柱の耐震補強配置を示す断面図、図6はその斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカーを示す図であり、図6(a)は拡開前のアンカーを示す図、図6(b)は拡開後のアンカーを示す図である。
図5において、21は地盤、22は土留め壁、22−1は土留め壁22の縦方向鉄筋、22Aは土留め壁22の構造物側表面、22Bは土留め壁22の地盤側表面、23は既設構造物であるRC柱、24は穿孔、25はピン接合部29を有する斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカーであり、この先端部拡開アンカー25は、中空ロッド27と先端拡大部28から構成されている。26は枝鉄筋、30は中空ロッド27の先端ネジ部、31はセメント、32は先端拡大部28にセメント31を充填して形成される鉄筋・セメント拡大部、33は中空ロッド27の後端部に配置されるカプラー、34はそのカプラー33に接続されるテンションバー、35は土留め壁22の構造物側表面22AとRC柱23の表面とに配置される三面補強用鋼板、36は中空ロッド27の後端部(RC柱23の角部)に配置される断面三角形状の座金、37は中空ロッド27の後端部のネジ部27Aに螺合し、中空ロッド27を土留め壁22に定着するナット(ここでは、六角ナット)である。
【0026】
この第2実施例の斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカーは、図6に示すように、ピン接合タイプの先端部拡開アンカーとなっている。拡開前は、図6(a)に示すように、各枝鉄筋26がそれぞれ2個のピン接合部29によって折り畳まれており、中空ロッド27の後端部に引張荷重をかけると、各枝鉄筋は拡開されて、先端拡大部28が形成される。この側面が台形状の先端拡大部28の1つの斜面部がRC柱3の地盤1側表面に接合される。
【0027】
この第2実施例によれば、先端拡大部の体積はより大きくなり、地盤との接触面積が増え、RC柱表面に対する拘束や主鉄筋座屈の防止効果を向上させることができる。
特に、ピン結合の場合は、鉄筋の座屈が必要でなくなるとともに、先端拡大部を開き易いといった利点がある。
図7は本発明の第2実施例を示す斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカーを用いた構造物の耐震補強工法の工程図である。
【0028】
以下、本実施例におけるRC柱とその両側に設置される土留め壁の耐震補強工法について、図7を用いて説明する。
(1)図6に示すように、斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカー25の枝鉄筋26を設けた中空ロッド27の後端部にはネジ27Aが設けられ、このネジ27Aにカプラー33が装着され、このカプラー33にはテンションバー34が装着され、その後端部側にはテンションバー34に引張荷重を印加するようにネジ34Aが形成されている。
【0029】
(2)まず、図7(a)に示すように、地盤21に接するRC柱23とその両側に配置される土留め壁22との境界部にドリル(図示なし)で穿孔24を形成する。
(3)次に、図7(b)に示すように、土留め壁22の構造物側表面22Aから斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカー25を挿入して設置する。
(4)中空ロッド27の後端部側のテンションバー34に引張荷重を掛けて、各枝鉄筋26を2つのピン接合部29で拡開することにより、図7(c)に示すように、側面が台形状の先端拡大部28を形成する。
【0030】
(5)次に、図7(d)に示すように、テンションバー34及びカプラー33を取り外す。
(6)先端拡大部28のエアーブローを行った後、図7(e)に示すように、中空ロッド27の内部穴27Bを介してセメント31の注入を行う。すると、中空ロッド27の先頭穴27Cから先端拡大部28にセメント31が流出して、鉄筋・セメント拡大部32を造成することができる。
【0031】
(7)最後に、図7(f)に示すように、RC柱23及び土留め壁22の構造物側表面22Aに三面補強用鋼板35を設置し、断面が三角形状の座金36を介して中空ロッド27の後端部のネジ27Aにナット37で螺着する。これによって、構造物の耐震補強工法を完了とする。
なお、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づき種々の変形が可能であり、これらを本発明の範囲から排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明の耐震補強用斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカー及びそれを用いた地盤と接する構造物の耐震補強工法は、RC柱及びその両側に配置される土留め壁に対する構造物側補強鋼板の定着と地盤側の壁鉄筋の座屈防止とを両立させるツールとして利用可能である。
【符号の説明】
【0033】
1,21 地盤
2,22 土留め壁
2−1,22−1 土留め壁の縦方向鉄筋
2A,22A 土留め壁の構造物側表面
2B,22B 土留め壁の地盤側表面
3,23 RC柱
4,24 穿孔
5 斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカー
6,26 枝鉄筋
7,27 中空ロッド
7A,27A 中空ロッドのネジ部
7B,27B 中空ロッドの内部穴
7C,27C 中空ロッドの先頭穴
8,28 先端拡大部
9,30 先端ネジ部
10 枝鉄筋の座屈部位
11,31 セメント
12,32 鉄筋・セメント拡大部
13,33 カプラー
14,34 テンションバー
14A テンションバーのネジ部
15,35 三面補強用鋼板
16,36 座金
17,37 ナット
25 斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカー
29 ピン接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)地盤に接して配置される柱と該柱の両側に配置される土留め壁との境界部から、前記地盤に達するようにして前記柱の地盤側表面方向で斜めに貫入される中空ロッドと、
(b)前記柱の地盤側表面に枝鉄筋の少なくとも一部が定着される先端拡大部とを具備することを特徴とする耐震補強用斜め貫入式枝鉄筋先端部拡開アンカー。
【請求項2】
(a)地盤に接して配置される柱と該柱の両側に配置される土留め壁との境界部に前記地盤まで達する穿孔を形成し、
(b)中空ロッド及び先端拡大部を具備する斜め貫入式枝鉄筋座屈先端部拡開アンカーを前記穿孔に植設し、
(c)前記中空ロッドの先端側に配置された拡開可能な枝鉄筋を、前記中空ロッドの後端部に引張荷重をかけて座屈させて拡開することにより、前記先端拡大部を形成して、前記柱の地盤側表面に前記枝鉄筋の少なくとも一部を定着させ、
(d)前記土留め壁の構造物側表面側から前記中空ロッドの内部穴を介して前記先端拡大部にセメントを充填して鉄筋・セメント拡大部を形成し、
(e)前記柱の三面補強鋼板及びナットを設置して前記柱と前記土留め壁を前記地盤に強固に固定することを特徴とする地盤と接する構造物の耐震補強工法。
【請求項3】
請求項2記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記枝鉄筋の中央部を座屈させて拡開することを特徴とする地盤と接する構造物の耐震補強工法。
【請求項4】
地盤に接して配置される柱とこの柱の両側に配置される土留め壁との境界部に前記地盤まで達する穿孔を形成し、中空ロッド及び先端拡大部を具備する斜め貫入式先端部拡開アンカーを前記穿孔に植設し、前記中空ロッドの先端側に配置された拡開可能な枝鉄筋を、前記中空ロッドの後端部に引張荷重をかけて拡開することにより、前記先端拡大部を形成して、前記柱の地盤側表面に前記枝鉄筋の少なくとも一部を定着させ、前記土留め壁の構造物側表面から前記中空ロッドの内部穴を介して前記先端拡大部にセメントを充填して鉄筋・セメント拡大部を形成し、前記柱の三面補強鋼板及びナットを設置して前記柱と前記土留め壁を前記地盤に強固に固定することを特徴とする地盤と接する構造物の耐震補強工法。
【請求項5】
請求項4記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記枝鉄筋それぞれ設けられる2つのピン接合部により台形状に拡開することを特徴とする地盤と接する構造物の耐震補強工法。
【請求項6】
請求項2又は5記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記中空ロッドの先端の基部が前記枝鉄筋を束ねるネジ部であることを特徴とする地盤と接する構造物の耐震補強工法。
【請求項7】
請求項2又は5記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記中空ロッドの外径が25.4mmであることを特徴とする地盤と接する構造物の耐震補強工法。
【請求項8】
請求項2又は5記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記枝鉄筋の直径が13〜15mmであることを特徴とする地盤と接する構造物の耐震補強工法。
【請求項9】
請求項2又は5記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記先端拡大部の枝鉄筋の拡開後の直径が500〜800mmであることを特徴とする地盤と接する構造物の耐震補強工法。
【請求項10】
請求項2又は5記載の地盤と接する構造物の耐震補強工法において、前記柱と前記土留め壁との境界部に断面が三角形状の座金を配置し、この座金を介して前記ナットを前記中空ロッドに螺着することによって前記柱及び前記土留め壁を前記地盤に定着することを特徴とする地盤と接する構造物の耐震補強工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−231538(P2011−231538A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103267(P2010−103267)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(503119111)株式会社ジェイアール総研エンジニアリング (12)
【出願人】(391047190)岡三リビック株式会社 (20)
【Fターム(参考)】