説明

耐食性表面処理金属材料およびそのための表面処理剤

【課題】加工追従性があり、耐食性に優れ且つ6価クロムを全く使用しない防食性被覆層を有する表面処理金属板に関する新たな技術を提供する。
【解決手段】希土類元素(ランタン、セリウムなど)の酸素酸化合物、酸素酸化合物またはその混合物を主成分とする耐食性被覆層を有する表面処理金属材料、およびそのための表面処理剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は加工追従性があり、耐食性に優れ、且つ6価クロムを全く含まない被覆層を有する表面処理金属材料およびそのための表面処理剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、家電製品、建材等の用途に用いられる冷延鋼板、亜鉛めっき鋼板および亜鉛系合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板などに防錆性を付与するため等に、それらの表面にクロメート皮膜を被覆することが一般に行なわれている。また、鋼板以外でも、たとえば石油の輸送パイプ等の鋼管あるいはワイヤー等の線材にもクロメート皮膜は広く用いられている。また、アルミニウムおよびその合金表面は多くの腐食環境から材料を保護する自然酸化物で覆われているが、より優れた耐食性と塗膜密着性が求められる航空機等の構造部材では陽極酸化あるいはクロメート処理が施される。
【0003】
これら金属材料に広く用いられるクロメート処理としては、電解型クロメートや塗布型クロメートがある。電解クロメートは、例えばクロム酸を主成分とし、他に硫酸、燐酸、硼酸およびハロゲンなどの各種陰イオンを添加した浴を用いて、金属板を陰極電解処理することにより行なわれてきた。また、塗布型クロメートは、クロメート処理金属板からのクロムの溶出の問題があり、あらかじめ6価クロムの一部を3価に還元した溶液や6価クロムと3価クロム比を特定化した溶液に無機コロイドや無機アニオンを添加して処理剤とし、金属板をその中に浸漬したり、処理液剤金属板にスプレーしたりすることにより行なわれてきた。
【0004】
クロメート皮膜のうち、電解によって形成された被覆層は6価クロムの溶出性は少ないものの防食性は十分とは言えず、特に加工時などの皮膜損傷が大きい場合、その耐食性は低下する。一方、塗布型クロメート皮膜により被覆された金属板の耐食性は高く、特に加工部耐食性に優れているが、クロメート皮膜からの6価クロムの溶出が大きく問題となる。有機重合体を被覆すれば6価クロムの溶出はかなり抑制されるものの十分ではない。また、特開平5−230666号公報に開示されているような一般に樹脂クロメートと呼ばれる方法では6価クロムの溶出抑制に改善は見られるものの、微量の溶出は避けられない。
【0005】
従来のクロメート皮膜と同等の機能を有するクロムイオンを全く含まない皮膜を形成する被覆処理としては、特表平2−502655号公報に開示されているセリウムイオンを含むpH1から3程度の酸性水溶液にAl板を浸漬して水素ガスを発生させながらセリウム含水酸化物の防食性被覆層を得る方法、特開平2−25579 号公報に開示されているセリウムイオン、ジルコニウムイオン、燐酸イオン、弗素イオンによるアルミニウム上への複塩皮膜、特開平5−331658号公報に開示されている亜鉛イオン、燐酸イオン、ランタン化合物の処理浴で形成される燐酸亜鉛皮膜が知られているが、いずれも加工追従性が十分でなく、耐食性も十分ではない。
【0006】
本発明の目的は、加工追従性があり、耐食性に優れ且つ6価クロムを全く使用しない防食性被覆層を有する表面処理金属板に関する新たな技術を提供することにある。
【0007】
【特許文献1】特開平5−230666号公報
【特許文献2】特表平2−502655号公報
【特許文献3】特開平2−25579 号公報
【特許文献4】特開平5−331658号公報
【特許文献5】国際特許出願公開WO88/06639
【非特許文献1】Jour. Electrochemical Soc. 1991年、 138巻、 390頁
【非特許文献2】Corrosion Sci. 1993年、34巻、1774頁
【発明の開示】
【0008】
現行クロメート処理に代わる汎用化成処理皮膜を6価クロムを全く含まない系で設計すべく、本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、希土類元素を酸素酸化合物とすることでペースト状とし加工追従性を付与し、そのバリヤー効果により腐食を抑制するとともに、希土類元素イオンによりカソーディック反応を抑制し、さらに酸素酸を過剰にすることで酸素酸塩皮膜型の不働態化および酸化物皮膜型の不働態化によりアノーディック反応を抑制し、各成分が独自に機能を発揮する新規でかつ画期的な無機系化成処理皮膜を得ることが可能となったものである。
【0009】
この発明の要旨とするところは下記にある。
【0010】
(1)金属材料の表面に希土類元素の酸素酸化合物もしくは酸素酸水素化合物またはこれらの混合物を主成分とする耐食性被覆層を有することを特徴とする表面処理金属材料。
【0011】
(2)前記希土類元素がイットリウム、ランタンおよび/またはセリウムである上記(1)記載の表面処理金属材料。
【0012】
(3)前記酸素酸化合物および前記酸素酸水素化合物のアニオン種が多価の酸素酸アニオンである上記(1)又は(2)記載の表面処理金属材料。
【0013】
(4)前記アニオン種が燐酸イオン、タングステン酸イオン、モリブデン酸イオンおよび/またはバナジン酸イオンである上記(3)記載の表面処理金属材料。
【0014】
(5)前記耐食性被覆層がイットリウム、ランタンおよび/またはセリウムの燐酸化合物もしくは燐酸水素化合物またはこれらの混合物を主成分とする上記(1)記載の表面処理金属材料。
【0015】
(6)前記燐酸化合物および前記燐酸水素化合物が、オルト燐酸(水素)化合物、メタ燐酸化合物、ポリ燐酸(水素)化合物またはこれらの混合物である上記(5)記載の表面処理金属材料。
【0016】
(7)前記耐食性被覆層が希土類元素の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物および有機酸化合物から選ばれる1種または2種以上の化合物を添加成分としてさらに含む上記(1)〜(6)に記載の表面処理金属材料。
【0017】
(8)前記添加成分の前記希土類元素がセリウムである上記(7)に記載の表面処理金属材料。
【0018】
(9)前記添加成分の前記希土類元素が四価のセリウムである上記(8)に記載の表面処理金属材料。
【0019】
(10)前記耐食性被覆層が有機系腐食抑制剤を添加成分としてさらに含む上記(1)〜(9)に記載の表面処理金属材料。
【0020】
(11)前記有機系腐食抑制剤が、N−フェニル−ジメチルピロールのホルミル化誘導体、HS−CH2COOCnH2n+1(nは1〜25の整数)で表わされるチオグリコール酸エステルおよびその誘導体、CnH2n(SH)COOH(nは1〜25の整数)で表わされるα−メルカプトカルボン酸およびその誘導体、キノリンおよびその誘導体、トリアジンジチオールおよびその誘導体、没食子酸エステルおよびその誘導体、ニコチン酸およびその誘導体、カテコールおよびその誘導体および/または導電性高分子からなる群から選ばれる1種または2種以上である上記(10)記載の表面処理金属材料。
【0021】
(12)前記耐食性被覆層が SiO2, Cr2O3, Cr(OH)3, Al2O3、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、燐酸亜鉛、燐酸水素亜鉛、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、燐酸アルミニウム、燐酸水素アルミニウム、酸化チタン、燐酸ジルコニウム、燐酸水素ジルコニウム、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、燐酸、燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウムからなる群から選ばれる1種または2種以上をさらに含む上記(1)〜(11)に記載の表面処理金属材料。
【0022】
(13)希土類元素の酸素酸化合物もしくは酸素酸水素化合物またはこれらの混合物を主成分とすることを特徴とする金属材料の表面に耐食性被覆層を形成するための表面処理剤。
【0023】
(14)前記希土類元素がイットリウム、ランタンおよび/またはセリウムである上記(13)記載の表面処理剤。
【0024】
(15)前記酸素酸化合物および前記酸素酸水素化合物のアニオン種が多価の酸素酸アニオンである上記(13)又は(14)記載の表面処理剤。
【0025】
(16)前記アニオン種が燐酸イオン、タングステン酸イオン、モリブデン酸イオンおよび/またはバナジン酸イオンである上記(15)記載の表面処理剤。
【0026】
(17)前記耐食性被覆層がイットリウム、ランタンおよび/またはセリウムの燐酸化合物もしくは燐酸水素化合物またはこれらの混合物を主成分とする上記(13)記載の表面処理剤。
【0027】
(18)前記燐酸化合物および前記燐酸水素化合物が、オルト燐酸(水素)化合物、メタ燐酸化合物、ポリ燐酸(水素)化合物またはこれらの混合物である上記(17)記載の表面処理剤。
【0028】
(19)前記耐食性被覆層が希土類元素の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物および有機酸化合物から選ばれる1種または2種以上の化合物を添加成分としてさらに含む上記(13)〜(18)に記載の表面処理剤。
【0029】
(20)前記添加成分の前記希土類元素がセリウムである上記(19)に記載の表面処理剤。
【0030】
(21)前記添加成分の前記希土類元素が四価のセリウムである上記(20)に記載の表面処理剤。
【0031】
(22)前記耐食性被覆層が有機系腐食抑制剤を添加成分としてさらに含む上記(13)〜(21)に記載の表面処理剤。
【0032】
(23)前記有機系腐食抑制剤が、N−フェニル−ジメチルピロールのホルミル化誘導体、HS−CH2COOCnH2n+1(nは1〜25の整数)で表わされるチオグリコール酸エステルおよびその誘導体、 CnH2n(SH)COOH(nは1〜25の整数)で表わされるα−メルカプトカルボン酸およびその誘導体、キノリンおよびその誘導体、トリアジンジチオールおよびその誘導体、没食子酸エステルおよびその誘導体、ニコチン酸およびその誘導体、カテコールおよびその誘導体、および/または導電性高分子からなる群から選ばれる1種または2種以上である上記(22)記載の表面処理剤。
【0033】
(24)前記耐食性被覆層が SiO2, Cr2O3, Cr(OH)3, Al2O3、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、燐酸亜鉛、燐酸水素亜鉛、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、燐酸アルミニウム、燐酸水素アルミニウム、酸化チタン、燐酸ジルコニウム、燐酸水素ジルコニウム、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、燐酸、燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウムからなる群から選ばれる1種または2種以上をさらに含む上記(13)〜(23)に記載の表面処理剤。
【0034】
(25)希土類元素換算で0.05〜4 mol/kgの希土類化合物と、希土類1モルに対して H3PO4換算で 0.5〜100 モルの燐酸化合物および/または燐酸水素化合物を含む表面処理剤。
【0035】
(26)前記希土類元素化合物がランタンまたはセリウムの燐酸化合物、燐酸水素化合物、酸化物、水酸化物またはこれらの混合物である上記(25)記載の表面処理剤。
【0036】
(27)燐酸がオルト燐酸、メタ燐酸、ポリ燐酸、またはこれらの混合物である上記(25)または(26)記載の表面処理剤。
【0037】
(28)希釈剤として水または水と水溶性有機溶剤の混合物を含有する上記(25)〜(27)記載の表面処理剤。
【0038】
(29)前記希土類元素化合物がランタン化合物であり、ランタンに対するセリウム換算のモル比で 1.0〜0.001 のセリウム化合物および/またはランタンに対するモル比で2〜0.001 の有機系腐食抑制剤をさらに含有する上記(25)〜(28)記載の表面処理剤。
【0039】
(30)前記希土類元素化合物がセリウム化合物であり、セリウムに対するランタン換算のモル比で 1.0〜0.001 のランタン化合物および/またはランタンに対するモル比で2〜0.001 の有機系腐食抑制剤を含有する上記(25)〜(28)記載の表面処理剤。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0041】
本発明の皮膜は、希土類元素を酸素酸化合物(酸素酸水素化合物を含む。以下同じ)とすることでペースト状とし十分な加工追従性を持たせ、そのバリヤー効果により腐食を抑制するとともに、希土類元素イオンによるカソーディック反応を抑制、さらに燐酸を過剰にして酸素酸塩皮膜型の不動態化および酸化物皮膜型の不動態化によるアノーディック反応の抑制を図ったものである。さらにカソーディック反応抑制を強化するため、他の希土類元素化合物、特にセリウム化合物を添加してもよい。
【0042】
希土類元素の酸素酸化合物とは、燐酸イオン、タングステン酸イオン、モリブデン酸イオン、バナジン酸イオン等の酸素酸アニオンと希土類元素との化合物を指称し、酸素酸水素化合物とはカチオンの一部に水素を含む化合物を指称する。また、希土類元素には、Sc, Y, La, Ce, Pr, Nd, Pm, Sm, Eu, Gd, Tb, Dg, Ho, Er, Tm, Yb, Luの17の元素が含まれる。
【0043】
例えば、ランタンの燐酸化合物として LaPO4などがあり、これに対応するランタンの燐酸水素化合物としてLa(H2PO4)3,La2(HPO4)3がある。
【0044】
本発明の耐食性被覆層の主成分をなす希土類元素の酸素酸化合物および/または酸素酸水素化合物は理論的に限定するわけではないが、ペースト状で、おそらくは非結晶性(非晶質)の無機重合体を形成しているために、一定以上の厚さに成膜しても加工追従性を有すると考えられる。この加工追従性を有する無機被覆層は耐食性バリヤとして作用することができる。無機重合体を形成しているといっても、その中に結晶質または非晶質の粒子が分散して存在しても同様の作用効果が得られる。
【0045】
図1に亜鉛めっき2した鋼板1上にランタン/燐酸混合物をその混合比 (La/P)を変えて被覆したときに得られる好ましい被覆層の例を模式的に示す。La/Pが小さいときは、実質的に燐酸亜鉛被覆と同様に結晶質、硬質の被覆3となり、加工追従性が低いが(Fig.1/A)、La/P比が大きくなると無機重合体状で加工追従性のあるLa(H2PO4)3, La2(HPO4)3を主体とするマトリックス4被覆が得られる (Fig.1/B)。しかし、La/P比が大きすぎても、結晶質の LaPO4粒子5′が多く析出し、マトリックス部分4′が減少して成膜性、加工追従性が低下するようになる(Fig.1/C)。
【0046】
但し、図1はある方法(製法)の場合の例を模式的に示したものであり、希土類元素化合物と酸素酸(水素)化合物の種類や製法等により、これらの具体的な混合比率と被覆の性質との関係は一概ではない。
【0047】
希土類元素の酸素酸化合物もしくは酸素酸水素化合物もしくはそれらの混合物の皮膜中の希土類元素イオンと酸素酸イオン(酸素酸水素化合物の場合、もしくはそれを含む混合物の場合については酸素酸イオンに換算した)のモル比(酸素酸イオン/希土類元素イオン)は、一般に0.5 〜100 、好ましくは2〜50、さらに好ましくは5〜10がよい。0.5 未満では加工追従性が十分ではなく、100 を超えると成膜性が低下する。また、希土類元素の供給源は特に限定はしないが、酸化物、酢酸塩、炭酸塩、塩化物、ふっ化物のような希土類元素化合物等が挙げられ、酸化物が好ましい。
【0048】
また、ミッシュメタルやその前駆体のように、不純物として他の希土類元素化合物が混在していても加工追従性、耐食性には特に悪影響を及ぼさない。ここでいう前駆体とは、ランタン、セリウム等の原料であるモナザイト(燐酸塩)等から、それらを製錬、精製する過程で得られる化合物まで、の物質の総称である。皮膜中に含まれる希土類元素量としては1mg/m2 以上であれば良い。1mg/m2 未満では、耐食性が十分ではない。また、10g/m2 を超えても耐食性はそれほど向上せず、経済性を考慮すると10g/m2 で十分である。一方、膜厚は0.01μm以上が好ましく、さらに好ましくは 0.1μm以上である。0.01μm未満では耐食性が十分ではない。しかし、膜厚が5μmを超えても耐食性はそれほど向上せず、経済性を考慮すると5μmで十分である。
【0049】
特に好適な酸素酸化合物は、燐酸化合物および/または燐酸水素化合物であり、燐酸種としてはオルト燐酸、メタ燐酸、ポリ燐酸がある。ポリ燐酸の燐酸水素化合物が好適である。
【0050】
希土類元素としては1種または2種以上の混合物であることができるが、ランタン、セリウム、イットリウム、特にランタンが好適である。また、セリウムはカソーディック反応の抑制にも有効である。例えば、最も好適な化合物であるランタンの燐酸化合物、燐酸水素化合物は、塩化ランタンや硝酸ランタン等の水溶性の無機塩または酸化ランタンや水酸化ランタンの酸化物類などのランタン化合物とオルト燐酸、ポリ燐酸あるいは燐酸水素ナトリウム等の燐酸塩類との化学反応で容易に得ることができる。ここで、塩化物や硝酸塩のごとく水溶性であってかつ揮発性の酸とのランタン化合物を原料とすることが、燐酸イオン以外の陰イオンの加熱除去が容易なことから好ましいが、モリブデン酸塩やタングステン酸塩のごとく水に不溶であってかつ不揮発性であるが防食性陰イオンからなるランタン化合物を燐酸と反応させてもよい。
【0051】
最も好ましくは、酸化物あるいは水酸化物と燐酸との反応でランタンの燐酸化合物あるいは燐酸水素化合物を得ることである。また、酸化ランタンや水酸化ランタンの粒子を比較的に穏和な条件で燐酸と反応せしめて得た表面層のみを燐酸化合物化した混合物でもよい。ここで、ランタン化合物と燐酸の共存状態において、安定な燐酸化合物である燐酸ランタンLaPO4 は単独で存在し得るが、ランタンの酸化物および水酸化物は単独では存在し得ず、酸化物および水酸化物の粒子表面が燐酸化合物あるいは燐酸水素化合物である混合体であることを必然とする。また、鉱物として産する天然の燐酸化合物であってもよい。
【0052】
本発明の耐食性被覆層は、さらに、添加成分として、希土類元素、特にセリウムの酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸化合物、硫酸化合物、硝酸化合物、有機酸化合物などを添加してもよい。これらの化合物、特に四価のセリウムイオン、セリウム化合物は、カソーディック反応の抑制作用を強化する効果があると言われている。このような添加成分の量は、酸素酸化合物および/または酸素酸水素化合物の希土類元素のモル数に対する、添加成分の希土類元素のモル数の比で50倍以下、好ましくは10倍以下、さらに好ましくは5倍以下である。この添加成分が多すぎると、成膜性が低下し、膜の十分な加工追従性が得られない。セリウム化合物は、酸素酸化合物、酸素酸水素化合物の場合にも、他の希土類元素の酸素酸化合物、酸素酸水素化合物のマトリックスに添加してカソーディック反応の抑制作用を強化する作用があり、やはり他の希土類元素に対し50倍以下のモル比で添加してよい。
【0053】
有機系腐食抑制剤は金属表面への吸着性を有し、金属イオンの溶出時に錯体形成し捕捉するためイオン化の更なる進行を抑制する作用を有する。その有機系腐食抑制剤としては、分子構造中に金属錯体結合形成に必要な官能基(=O,−NH2,=NH, =N−, =S,−OH等) 、および金属表面との共有結合形成可能な官能基(−OH, =NH, −SH, −CHO,−COOH等) を有する化合物が使用できる。なお、皮膜中に含有させる有機系腐食抑制剤は難水溶性の化合物が好ましい。この理由として、この腐食抑制作用は皮膜を透過する水により有機系腐食抑制剤が微量溶解することで発現するため、もし易溶性であると水の皮膜透過時に容易に溶出してしまい機能を発揮しないため、あるいは持続性が十分でないため好ましくない。
【0054】
上記の官能基を兼ね備えた難水溶性の有機系腐食抑制剤の具体例としては、N−フェニル−ジメチルピロールのホルミル化誘導体、HS−CH2COOCnH2n+1(nは1〜25の整数)で表されるチオグリコール酸エステル及びその誘導体、 CnH2n(SH)COOH(nは1〜25の整数)で表されるα−メルカプトカルボン酸及びその誘導体、キノリン及びその誘導体、トリアジンジチオール及びその誘導体、没食子酸エステル及びその誘導体、ニコチン酸及びその誘導体、カテコール及びその誘導体等である。
【0055】
これらとは防食機構が異なる有機系腐食抑制剤として電子伝導性高分子も用いることができる。これは分子全体にπ電子共役結合が広がった繰り返し単位の単一な分子であり、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール等が知られている。これに、例えば硫酸バリウムなどをドーパントとして加えることにより電子伝導性を付与することができる。この導電性高分子の防食作用については詳細は不明であるが電子伝導性により界面での腐食電流整流化作用、酸素還元抑制作用を発現しカソード防食剤として機能するものと推定される。
【0056】
なお、これら有機系腐食抑制剤を1種または2種以上混合して使用するが、その添加量は希土類元素イオンと有機系腐食抑制剤とのモル比(有機系腐食抑制剤/希土類元素イオン)で 0.001〜2、好ましくは0.01〜1、さらに好ましくは0.02〜0.5 である。モル比が 0.001未満では添加効果が十分ではなく、2を越えると密着性が十分ではない。
【0057】
また、皮膜中でのこれら有機系腐食抑制剤の形態は特に限定されないが、例えば処理液にそのまま添加し混合する、またはあらかじめ燐酸に溶解させて処理液に添加する、あるいはエタノール、イソプロピルアルコール等のアルコールに完全溶解後、脱イオン水を滴下し微細コロイド化させて処理液に添加するなどの方法により皮膜中に含有させることができる。
【0058】
セリウム化合物などの希土類元素化合物以外に、耐食性被覆層のバリヤー性を強化し、また添加成分の溶出を抑制するなどの効果を得るために、またカソード防食能やアノード防食能を強化するために、 SiO2, Cr2O3, Cr(OH)3, Al2O3、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、燐酸亜鉛、燐酸水素亜鉛、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、燐酸アルミニウム、燐酸水素アルミニウム、酸化チタン、燐酸ジルコニウム、燐酸水素ジルコニウム、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、燐酸、燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウムなどをさらに添加してもよい。
【0059】
この発明の対象となる金属材料は特に限定されないが、例えば溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛−鉄合金めっき鋼板、溶融亜鉛−アルミニウム−マグネシウム合金めっき鋼板、溶融アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板、溶融鉛−スズ合金めっき鋼板などの溶融めっき鋼板や、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、電気亜鉛−鉄合金めっき鋼板、電気亜鉛−クロム合金めっきなどの電気めっき鋼板などの表面処理鋼板、冷延鋼板や亜鉛、アルミニウムなどの金属板などに適用できる。また、金属板のみならず、金属線材、金属パイプなど他の形態の素材にも適用できる。
【0060】
本発明の表面処理金属材料の皮膜の代表的な製造方法としては、希土類元素化合物と酸素酸を十分に混合、熱処理(100〜200 ℃, 0.5〜24時間) し、得られたペースト状生成物に必要に応じて有機系腐食抑制剤を添加し、十分に混合する。さらに必要に応じてセリウム化合物などの添加成分および適当量の水を添加する。添加成分および水の添加は、それぞれ耐食性、成膜性を高めることができる。この処理液を金属材料に塗布し、乾燥および熱処理 (例えば、金属材料の温度 100〜200 ℃、30秒間〜1時間)を行なうことにより目的の表面処理金属材料を得る。
【0061】
本発明は、1つの側面において、ランタン、セリウムなどの希土類元素換算で0.05〜4 mol/kgの希土類化合物と、希土類元素1モルに対して H3PO4換算で 0.5〜100 モルの燐酸化合物および/または燐酸水素化合物を含む表面処理剤が提供される。
【0062】
6価クロムを含まない防錆性被覆層とその製造方法として国際特許出願公開WO88/06639 では処理剤中に溶解した3価のセリウムイオンを金属材料の表面に水酸化物としてカソード反応によって析出せしめ、ついで過酸化水素によって四価に酸化して防錆性に優れたCeO2層を得ることを提唱している。かかる方法で得た被覆層は金属材料との密着性が乏しく、その耐食性能の持続性に欠ける。
【0063】
また、かかるCeO2皮膜には加工追従性は全く期待できず、その用途は著しく限定される。特開平5−331658号公報には金属表面の電着塗装に適し、塗膜密着性と耐食性に優れた燐酸亜鉛皮膜を形成する表面処理方法として、亜鉛イオン、燐酸イオン、ランタン化合物および皮膜化成促進剤を主成分とする表面処理液と燐酸亜鉛処理方法が提唱されているが、かかる提唱の主旨は塗装を前提にした燐酸亜鉛処理であり、従って提唱された液中に含まれるランタン金属としての濃度は 0.001〜3g/リットル、すなわちモル濃度表示とすると7×10-6〜0.22 mol/リットルであって極めて小さく、燐酸亜鉛処理皮膜中にランタン化合物が含まれたとしても、従来のクロメート皮膜のような皮膜単独の高い防食機能は得られない。
【0064】
また、特開平2−25579 号公報に提唱されるアルミニウムまたはその合金の表面処理剤および処理浴は、セリウムイオン、ジルコニウムイオン、燐酸イオン、および弗素イオンを含み、アルミニウムが弗素イオンによりエッチングされて液中に存在するセリウム、ジルコニウム、燐酸、弗素イオンとともに耐食性に優れた皮膜を形成せしめるものであるが、材料がアルミニウムおよびその合金に限定されるエッチングを伴う溶液組成であり、かつセリウムイオンは10〜1000ppm 、燐酸イオンは10〜500ppmの低濃度領域で効果が得られるものである。
【0065】
腐食性水溶液中に3価のセリウムイオンを添加すると軟鋼のアノード溶解が抑制されることは、 Jour. Electrochemical Soc. 1991年、 138巻、 390頁に記載されており、また、工業的な実用性は無いが Corrosion Sci. 1993年、34巻、1774頁に四価のセリウムイオンを真空下でイオン注入したステンレス鋼では溶液中に溶存した酸素の還元が著しく抑制されることが示されている。かかる従来技術に例示されるように、セリウムは金属材料の耐食性の向上に有効であることがよく知られているが、金属材料に対する汎用性があり、かつ工業的な量産性のある表面処理剤の提示が求められている。
【0066】
このような課題を解決するために、本発明者らは、6価クロムを含まない耐食性被覆層を形成せしめる表面処理剤を鋭意検討した結果、ランタン、セリウムなどの希土類元素と燐酸を主成分とする上記の表面処理剤を見い出したものである。
【0067】
以下、説明の便宜上、希土類元素として特にランタンを参照して述べるがこの表面処理剤は、ランタン化合物と燐酸および希釈剤から主として構成され、ランタン化合物が燐酸化合物、燐酸水素化合物、酸化物、水酸化物またはこれらの混合物として存在し、添加物として他の希土類元素化合物、特にセリウム化合物および有機系腐食抑制剤を含むことを特徴とする金属材料の表面処理剤である。本表面処理剤に含まれるランタン化合物の濃度は表面処理剤1kg当たりが含有するランタンのモル数である。ここで、表面処理剤1リットル当たりのランタンモル数を濃度として採用しないのは、本処理剤中に含まれるランタン化合物と燐酸量が多く、処理剤の比重の幅が大きいために容量濃度での指定が困難であることによる。この処理剤における燐酸はオルト燐酸、メタ燐酸、ポリ燐酸および燐酸化合物を形成する燐酸イオンと燐酸水素イオン等を総じたものであり、その濃度は H3PO4に換算したランタンに対するモル比で表すものとする。
【0068】
この処理剤の主成分の一部であるランタンの燐酸化合物、燐酸水素化合物は塩化ランタンや硝酸ランタン等の無機塩または酸化ランタンや水酸化ランタンの酸化物類などランタン化合物とオルト燐酸、ポリ燐酸、メタ燐酸あるいは燐酸水素ナトリウム等の燐酸塩類との化学反応で容易に得ることができる。ここで、塩化物や硝酸塩のごとく揮発性の酸とのランタン化合物を原料とすることが、陰イオンの加熱除去が容易なことから好ましいが、モリブデン酸塩やタングステン酸塩のごとく不揮発性であるが防食性陰イオンからなるランタン化合物を燐酸と反応させてもよい。最も好ましくは、酸化物あるいは水酸化物と燐酸類との反応でランタンの燐酸化合物あるいは燐酸水素化合物を得ることである。また、酸化ランタンや水酸化ランタンの粒子を比較的に穏和な条件で燐酸類と反応せしめて得た表面層のみを燐酸化合物化した混合物でもよい。また、鉱物として産する天然の燐酸化合物であってもよい。
【0069】
この表面処理剤はランタン化合物と燐酸を主成分とし、より詳しくはランタンの燐酸化合物、燐酸水素化合物、酸化物、水素化物またはその混合物と燐酸を主成分とし、さらに希釈剤としての水あるいは水と水溶性有機溶剤の混合物とをもって構成されている。ここで、有機溶剤にはメタノール、エタノール等が主として表面処理剤の粘度を低減することおよび乾燥促進の効果を高めることを目的に選ばれる。表面処理剤の原料として用いられるランタン化合物には、希土類鉱石からの製造、精製過程から他の希土類元素、たとえばイットリウム、ネオジウム、セリウムの化合物が多く含まれることがあるが、それらの存在は妨げない。用いられる燐酸はオルト燐酸、メタ燐酸、ポリ燐酸、またはその混合物である。ここで、平均分子式 H6P4O13のポリ燐酸は H3PO4の4量体であり、すなわちポリ燐酸1モルは H3PO4に換算すると4モルである。
【0070】
この表面処理剤に含まれるランタン化合物の濃度は、ランタン換算で0.05〜4 mol/kgであることを特徴とする。ランタン化合物の濃度の下限0.05 mol/kgは、クロメート皮膜と同等の耐食性に優れたランタン化合物−燐酸系の皮膜でもって金属材料を被覆するのに必要な下限濃度であり、好ましくは0.1mol/kg以上である。一方、上限の濃度4 mol/kgは、ランタン化合物、燐酸、および若干量の希釈剤からなる比較的固いペースト状処理剤を与えるもので、金属材料表面に被覆層を均一に形成することのできる上限であり、好ましくはランタン化合物濃度は2 mol/kg以下である。
【0071】
また、この表面処理剤の主要成分はランタン化合物と燐酸であり、ランタン換算で1モルのランタン化合物に対して H3PO4換算で 0.5〜100 モルの燐酸が含まれることを特徴とする。燐酸の対ランタン下限モル比 0.5は、金属材料表面をランタン化合物で被覆するに必要な燐酸の下限である。さらに燐酸比率を下げることは、例えば燐酸イオンがランタン酸化物あるいは水酸化物の粒子表面との反応に消費されてしまう等により、金属材料表面との密着性に関与する燐酸イオンが不足して耐食性が低下し、特に皮膜の加工追従性が著しく不十分となって加工部の耐食性が低下することになる。耐食性に優れた皮膜を得るには燐酸の対ランタンモル比は 0.5以上、特に加工部耐食性に優れた皮膜を得るには2以上、より好ましくは5以上である。かかる過剰の燐酸は、ランタンの燐酸水素化合物を形成するに有効であるとともに、金属材料表面の金属元素、たとえば亜鉛と反応して燐酸亜鉛化合物を形成し、被覆層の密着性を高めるとともにランタン化合物と燐酸を主成分とする被覆層の耐食性も向上する効果を有する。
【0072】
本発明の金属材料の表面処理剤には、生成する被覆層の防錆効果を高める目的で、他の希土類化合物、例えばセリウム化合物と有機系腐食抑制剤も含むことができる。添加されるセリウム化合物は、燐酸化合物、燐酸水素化合物、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸化合物、硫酸化合物、硝酸化合物、有機酸化合物等から選ばれる1種または2種以上の化合物、また選ばれるセリウムの価数が3価、4価あるいはその混合物である。添加されるセリウム化合物の量は、ランタンに対するセリウム換算のモル比で1から 0.001である。ランタンに対するセリウムの高いモル比では、たとえば1〜0.1 では、ランタン化合物と燐酸とともに被覆層の主要成分を構成することにもなり、燐酸化合物、燐酸水素化合物、酸化物、水酸化物またはこれらの混合物等の溶解度の小さいセリウム化合物が選ばれることが好ましい。モル比が 0.1〜0.001 では溶解度の小さい化合物のほかに、上記のハロゲン化物等の溶解性のセリウム化合物も好ましく選ぶことができる。
【0073】
有機系腐食抑制剤としては前に述べたような化合物を用いることができる。
【0074】
添加される有機系腐食抑制剤の量は、ランタンに対するモル比で2〜0.001 であり、添加するモル比は腐食抑制剤の効果の強さのみならず、表面処理剤の組成と被覆層を形成する方法に関係して選ばれる。たとえば、金属材料から腐食溶解する金属イオンが強く結合する有機系腐食抑制剤、たとえばキノリン誘導体との組み合わせの場合は、ランタンに対するモル比は0.01〜0.001 の希薄濃度で効果を得ることができる。
【0075】
金属材料表面に吸着してアノード反応を抑制するタイプの腐食抑制剤である、たとえばN−フェニル−ジメチルピロールのホルミル誘導体の場合、特に被覆層の形成過程における金属溶解と水素発生を抑制する目的で添加する場合はモル比が0.01以上の高比率が有利である。また、ランタンに対するモル比が 0.1以上では有機系腐食抑制剤も被覆層の主要成分を構成することに添加の目的も有する場合であり、たとえば、電導性高分子であるポリアニリンを添加することによって、腐食抑制剤機能とともに被覆層の電導性を付与する場合である。モル比が 0.001未満では有機系腐食抑制剤の添加効果は十分ではなく、2を越えると被覆層の密着性が不十分となり加工追従性が損なわれる。
【0076】
また、ランタンに対する有機系腐食抑制剤のモル比は、目的とする皮膜層の厚さによっても選択され、たとえば、強い腐食環境に対応する厚い被覆層を形成する場合では、ランタンに対するモル比が0.01オーダと小さくとも被覆層に含まれる有機系腐食抑制剤の絶対量は多いので、十分な効果が得られることもある。一方、弱い腐食環境に対応する薄い被覆層を形成する目的でランタン濃度が小さい希釈された処理剤を用いる場合は、ランタンに対するモル比が 0.1〜2の高モル比率の有機系腐食抑制剤が含まれることが好ましい。
【0077】
以上、希土類元素としてランタンを選択して説明したが、ランタンをセリウムなどの他の希土類元素と置き換えても本発明の処理剤は同様に有効である。ランタンをセリウムで置換えた場合、併用する他の希土類元素化合物としてはランタン化合物が好ましい。
【0078】
この表面処理剤は、希土類元素化合物と燐酸を主成分とし、水あるいは水と水溶性有機溶媒の混合体を希釈媒体であることを特徴とする金属材料の表面処理剤である。希釈媒体としては、表面処理剤を製造する工程で用いられる原料中に含まれる水、原料を溶解するために用いられる水あるいは有機溶剤、および本来の処理剤の希釈を目的とした水および有機溶剤が含まれる。希土類元素化合物、燐酸、他の希土類元素化合物、有機系腐食抑制剤と含まれる希釈剤の相対量によって、この表面処理剤は固いペースト状から、柔らかい糊状、コロイド状、あるいは分散固体物の少ない溶液状を呈し、その希釈の範囲は皮膜に求まる耐腐食性の程度と金属材料表面を皮膜で被覆する方法とで決めるとよい。
【0079】
たとえば、燐酸の対希土類元素モル比が小さく、かつ希土類元素濃度が高い表面処理剤は、塗布法によって1〜10μmの厚い高い耐食性の皮膜の形成に有効である。水あるいは水溶性有機溶剤の添加で希釈の程度を高めると、スプレー法により、 0.1〜1μmの皮膜で表面を被覆することができる。さらに希釈の程度を高めて浸漬法による 0.1μm以下の皮膜で被覆することもできる。
【0080】
この処理剤は強い酸性を示すが、目的あるいは表面処理の対象とする金属材料の種類で随意に水素イオン濃度 (pH) を調整してもよい。
【0081】
また、希土類元素化合物と燐酸を主成分として他の希土類元素化合物と有機系腐食抑制剤が添加された被覆層の防錆作用を補完する目的でさらにSiO2や Al2O3等の前記添加成分を処理剤に分散してもよい。
【0082】
これらの金属材料に本発明を適用する方法は特に限定しないが、浸漬法、スプレー法、塗布法等の従来公知の方法が用いられ、また、乾燥の方法は室温から 300℃程度の高温までの温度範囲で被覆層に求められる性能、処理剤組成、および被覆層の形成方法などによって適宜決められる。
【実施例】
【0083】
〔例1〜例6〕
(処理液の調製法)
例1
(i)酸化ランタン32.6gと燐酸 (85%) 69.2g, 115.3g, 173.0gをそれぞれ十分に混合した後、 100〜200 ℃で 0.5〜24時間加熱し、得られたペースト状生成物を処理液とした (表1中試料No.1〜3)。
【0084】
No.2の処理液に、水酸化ランタン、酸化セリウム、水酸化セリウム、塩化セリウム、酢酸セリウムをそれぞれセリウムとランタンのモル比を1:10で添加、混合し処理液とした(表1中No.4〜8)。
【0085】
(ii)上記(i)において、燐酸に代えて、それぞれタングステン酸アンモニウム水溶液(4%)を5(NH4)2O ・12WO3 ・5H2O として261.0 g、モリブデン酸アンモニウム水溶液(28%)(NH4) 6 ・Mo7O24・4H2O として176.6 g、バナジン酸アンモニウム水溶液(5%)NH4 ・VO3 として117.0 gを添加混合して得たペースト状生成物(表1中試料No.9,15,21)に、上記(i)と同様に水酸化ランタン、酸化セリウム、水酸化セリウム、塩化セリウム、酢酸セリウムを混合した(表1,2中、試料No.10〜14,16〜20,22〜26)。
【0086】
例2
例1において、酸化ランタンに代えて、燐酸セリウム23.5gを用いて、他は同様にして処理液を調整した(表2の試料No.27〜52)。
【0087】
例3
例1において、酸化ランタンに代えて、塩化イットリウム6水和物30.3gを用いて、他は同様にして処理液を調整した(表3の試料No.53〜78)。
【0088】
例4
例1において、酸化ランタンに代えて、塩化ネオジム6水和物39.6gを用いて、他は同様にして処理液を調整した(表4の試料No.79〜104 )。
【0089】
なお、例1〜4の試薬はすべて市販品を使用した。
【0090】
【表1】

【0091】
【表2】

【0092】
【表3】

【0093】
【表4】

【0094】
例5
表13に示すように、酸化ランタン32.6gと燐酸(85%)115.3gを十分に混合した後、 150℃で12時間加熱し、得られたペースト状生成物に有機系腐食抑制剤をそれぞれ1g添加し、処理液とした(表13のNo.151 〜165)。
【0095】
また、No.161 の処理液にセリウムとランタンのモル比が1:10となるように添加助剤をそれぞれ添加、混合し処理液とした(表14のNo.166 〜173)。
【0096】
なお、例5、例6において、α−メルカプトラウリル酸、N−フェニル−3−ホルミル−2,5−ジメチルピロールについては合成し、それ以外のものについては市販の試薬を使用した。
【0097】
例6
表15に示すように、燐酸セリウム23.5gと燐酸(85%)115.3gをそれぞれ十分に混合した後、 150℃で12時間加熱した。得られたペースト状生成物に有機系インヒビターをそれぞれ1g添加し、処理液とした(表15のNo.174 〜188)。
【0098】
また、No.184 の処理液に、それに含まれるセリウムとセリウム化合物とのモル比が1:10となるように添加助剤をそれぞれ添加、混合し処理液とした(表16のNo.189 〜195)。
【0099】
(皮膜形成法)
処理液を金属板上にバーコーターを用いて乾燥後の皮膜厚が1μmとなるように塗布し、板温 100〜200 ℃で30秒間〜1時間熱処理した。用いた金属板はGI (溶融亜鉛めっき鋼板、めっき付着量:90g/m2), EG(電気亜鉛めっき鋼板、めっき付着量:20g/m2), AL(溶融アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板、めっき付着量: 120g/m2, AL/Si=90/10)である。
【0100】
なお、クロメート処理鋼板との比較を行なうべく、クロメート処理液として、澱粉による部分還元クロム酸をCrO3換算で30g/l、SiO2を40g/l、燐酸を20g/l含有する処理浴を建浴し、鋼板上に塗布、乾燥、硬化させ皮膜形成を行なった(皮膜中Cr量は、金属Crに換算して 100mg/m2 である)。
【0101】
(皮膜の性能評価法)
(a)加工追従性試験
サンプルをエリクセン7mm加工後、 SEM観察を行ない、加工追従性評価を行なった。
評点 ◎:亀裂なし
○:微小亀裂
△:微小剥離
×:大亀裂、大面積剥離
【0102】
(b)平板耐食性試験
サンプルに5%,35℃の塩水を噴霧した後の錆発生面積で耐食性評価を行なった。なお、噴霧期間はGI, EGが10日間、ALが15日間で何れも白錆発生率で測定した。また、冷延鋼板では塩水噴霧時間は2時間で赤錆発生率、アルミニウム板では 100℃沸騰水に30分間浸漬して黒色錆発生率を測定した。
評点 ◎:錆発生率 0%
○:錆発生率 5%未満
△:錆発生率 5%以上、20%未満
×:錆発生率 20%以上
【0103】
(c)加工耐食性試験
サンプルをエリクセン7mm加工後、5%,35℃の塩水を噴霧した後の錆発生面積で加工部耐食性評価を行なった。なお、噴霧期間はGI, EGが10日間、ALが15日間で何れも白錆発生率で測定した。
評点 ◎:錆発生率 0%
○:錆発生率 5%未満
△:錆発生率 5%以上、20%未満
×:錆発生率 20%以上
【0104】
結果
例1〜例6の評価の結果を表5〜16に示す。
【0105】
これらの表より明らかなように、本発明の表面処理金属板は、加工追従性に優れ、クロメート処理と同等の平板および加工部耐食性を示した。従って、6価クロムを全く含まない化成処理膜として環境適合性に優れている上に耐食性皮膜としてその効果を発揮するものである。
【0106】
【表5】

【0107】
【表6】

【0108】
【表7】

【0109】
【表8】

【0110】
【表9】

【0111】
【表10】

【0112】
【表11】

【0113】
【表12】

【0114】
【表13】

【0115】
【表14】

【0116】
【表15】

【0117】
【表16】

【0118】
例7
本発明の表面処理剤の基本的な作用を簡易化した例をもって具体的に示す。ランタン化合物として酸化ランタンとオルト燐酸との反応で得た燐酸ランタン、対ランタンモル比が H3PO4換算で5モルのオルト燐酸、および水を希釈剤としてランタン濃度が 0.64mol/kgである表面処理剤を高純度亜鉛に塗布して厚さ約5μmの被覆層を得た。図2に被覆された亜鉛と被覆層の持たない亜鉛のホウ酸とホウ酸ナトリウムによって pH8.4に調整された0.1mol/リットルNaCl溶液中のアノード電流−電流曲線を示す。被覆層を持つ亜鉛のアノード電流は被覆層を持たない亜鉛に比較して著しく小さくなり、被覆層に亜鉛のアノード溶出抑制と腐食促進物質である塩化物イオンの亜鉛表面への拡散を抑制する効果が検証される。
【0119】
例8
例7において、ランタン化合物としての酸化ランタンに代えて3価の酸化セリウムを用いた以外、完全に同じに処理して得たアノード電流−電流曲線を図3に示す。例7と同様の結果が得られている。
【0120】
〔例9〜例10〕
(表面処理剤の調整)
例9
ランタンの燐酸化合物、燐酸水素化合物、酸化物、水酸化物またはこれらの混合物と燐酸を主成分と表面処理剤。
【0121】
酸化ランタン(a)、水酸化ランタン(b)、塩化ランタン(c)等の原料ランタン化合物とオルト燐酸(d)あるいはポリ燐酸(e)と反応せしめて表面処理剤のランタン化合物を得る。さらにオルト燐酸、ポリ燐酸、メタ燐酸(f)の燐酸類あるいはその混合物、および/または燐酸アンモニウム(g)等の燐酸塩を加えて所定の H3PO4換算対ランタンモル比に調整される。得られたランタン化合物と燐酸の構成物に水あるいは水とメタノール(h)の混合物を希釈剤として加え、所定のランタン濃度の表面処理剤を得る。表11に示した試料No. 201〜217 の表面処理剤の欄は燐酸の対ランタンモル比の順とし、(a)〜(h)でその調整法を示す。なお、試料No.201 とNo.210 でのみ希釈剤として水とメタノールの混合物を用い、両者の重量比率を2:1とした。
【0122】
セリウム化合物および/または有機系腐食抑制剤を加えるときは、ランタン化合物の調整後の燐酸類の追加時、あるいは希釈剤と同時に添加する。表12に示される試料No. 218〜224 のうち、試料No. 218〜221 は試料No.7に同じランタン化合物と燐酸の処理剤構成、すなわちランタン化合物濃度0.3mol/kg、オルト燐酸が対ランタンモル比5の処理剤に特定し、セリウム化合物および/あるいは有機系腐食抑制剤を添加したものである。また、試料No. 222〜224 は試料No.210 に同じランタン化合物と燐酸の処理剤構成、すなわちランタン化合物濃度0.5mol/kg、ポリ燐酸が H3PO4換算の対ランタンモル比10の処理剤に特定し、セリウム化合物として硝酸セリウムおよび/あるいは有機インヒビターを添加したものである。
【0123】
例10
セリウムの燐酸化合物、燐酸水素化合物、酸化物、水酸化物またはこれらの混合物と燐酸を主成分と表面処理剤。
【0124】
3価の酸化セリウムCe2O3(i)、4価の酸化セリウムCeO2(j)、3価の水酸化セリウム(k)、3価の塩化セリウム(l)と硝酸セリウム(m)等の原料セリウム化合物、オルト燐酸(n)あるいはポリ燐酸(o)と反応せしめて表面処理剤のセリウム化合物を得る。さらにオルト燐酸、ポリ燐酸、メタ燐酸(p)の燐酸類あるいはその混合物、および/または燐酸アンモニウム(g)等の燐酸塩を加えて所定の H3PO4換算対セリウムモル比に調整される。得られたセリウム化合物と燐酸の構成物に水あるいは水とメタノール(r)の混合物を希釈剤として加え、所定のセリウム濃度の表面処理剤を得る。表13に示した試料No. 225〜241 の表面処理剤の欄は燐酸の対セリウムモル比の順とし、(i)〜(r)でその調整法を示す。なお、試料No.225 とNo.234 でのみ希釈剤として水とメタノールの混合液を用い、両者の重量比率を2:1とした。
【0125】
ランタン化合物および/または有機系腐食抑制剤を加えるときは、セリウム化合物の調整後の燐酸類の追加時、あるいは希釈剤と同時に添加する。表14に示される試料No. 242〜248 のうち、試料No. 242〜245 は試料No.231 に同じセリウム化合物と燐酸の処理剤構成、すなわちセリウム化合物濃度0.3mol/kg、オルト燐酸が対セリウムモル比5の処理剤に特定し、ランタン化合物および/あるいは有機インヒビターを添加したものである。また、試料No. 246〜248 は試料No.234 に同じセリウム化合物と燐酸の処理剤構成、すなわちセリウム化合物濃度0.5mol/kg、ポリ燐酸が H3PO4換算の対セリウムモル比10の処理剤に特定し、ランタン化合物として塩化ランタンおよび/あるいは有機系腐食抑制剤を添加したものである。
【0126】
表2では用いる有機インヒビターを以下の記号で示す。
【0127】
PFDP:N−フェニル・3−ホルミル・2,5−ジメチルピロール
TGO :チオグリコール酸オクチル
MLA :α−メルカプトラウリン酸
MBA :o−メルカプト安息香酸
MNA :o−メルカプトニコチン酸
HOQ :8−ヒドロオキシキノリン
【0128】
(皮膜形成法)
皮膜形成の方法は希釈の程度が低く、従って粘度の大きい処理剤ではバーコーターにより乾燥後の被覆層厚さが1μmとなるように塗布した。一方、希釈の程度が高く、その結果、粘度の小さい処理剤では、スプレーにより乾燥後の被覆層厚さが 0.2μmとなるように散布した。塗布あるいは散布した後、金属材料は 100〜200 ℃で30秒間〜1時間の熱処理をした。浸漬法による被覆層形成は、金属材料を85℃の処理浴に30秒間保持し、大気中で乾燥するものである。用いた金属材料はGI(溶融亜鉛めっき鋼板、めっき付着量:90g/m2 )、EG(電気亜鉛めっき鋼板、めっき付着量:20g/m2 )、AL(溶融アルミニウム−シリコン合金めっき鋼板、めっき付着量: 120g/m2 ,Al/Si=90/10)のめっき鋼板と冷延鋼板およびアルミニウム板である。
【0129】
比較例201 では、ランタン化合物を含む燐酸亜鉛表面処理と比較すべく、金属材料をGIとEGとして、ランタン換算で 0.01mol/kgの硝酸ランタン、 H3PO4換算で対ランタンモル比15のオルト燐酸からなる処理液に40℃で2分間の浸漬処理、水洗後に 100℃で10分間乾燥させて皮膜形成を行った。
【0130】
比較例203 として、カソード析出したセリウム化合物と比較すべく、金属材料をEGとして、0.1mol/リットルの3価の塩化セリウム溶液中で 100mA/cm2 の電流密度でカソード電流を通じ、表面に3価の水酸化セリウムを析出せしめ、次いでオルト燐酸と反応させてセリウムの燐酸化合物と水酸化物の混合皮膜を得た。
【0131】
また、比較例202 では、クロメート処理との比較を行なうべく、クロメート処理液として、澱粉による部分還元クロム酸をCrO3換算で30g/リットル、SiO2を40g/リットル、燐酸を20g/リットル含有する処理浴を建浴し、鋼板上に塗布、乾燥、硬化させ皮膜形成を行なった(皮膜中Cr量は、金属Crに換算して 120mg/m2 である。)
【0132】
比較例203 として、カソード析出したセリウム化合物と比較すべく、金属材料をEGとして、0.1mol/リットルの3価の塩化セリウム溶液中で 100mA/cm2 の電流密度でカソード電流を通じ、表面に3価の水酸化セリウムを析出せしめ、次いでオルト燐酸と反応させてセリウムの燐酸化合物と水酸化物の混合皮膜を得た。
【0133】
なお、表11〜12の金属材料と皮膜形成法の欄では、金属材料として用いためっき鋼板はGI, EG, ALでもってその種類を示し、また、(P),(S),(D)でもってそれぞれ塗布、スプレー、浸漬の皮膜を形成する被覆方法を示す。
【0134】
(被覆層の性能評価法)
例1〜6と同様の性能評価法に依った。
【0135】
表面処理剤の構成とこれらの評価結果との関係を表17〜20に示す。表17,19より明らかなように、本発明のランタン化合物またはセリウム化合物と燐酸を主成分とする金属材料の表面処理剤は、加工追従性と耐食性に優れ、従来の燐酸亜鉛処理には無い皮膜単独での防錆性を有する被覆層を提供し、さらにクロメート処理と同等の平板および加工部耐食性を有する被覆層を提供する。従って、6価クロムを全く含まない化成処理膜として環境適合性に優れている上に耐食性皮膜としてその効果を発揮する皮膜形成の手段を提供するものである。また、表18,20より明らかなように、ランタン化合物またはセリウム化合物と有機系腐食抑制剤は、セリウム化合物またはランタン化合物と燐酸を主成分とする表面処理剤から形成される被覆層の耐食性、特に加工部耐食性を補完する作用があり、6価クロムを含まない耐食性皮膜としての効果を強める手段を提供するものである。
【0136】
【表17】

【0137】
【表18】

【0138】
【表19】

【0139】
【表20】

【図面の簡単な説明】
【0140】
【図1】図1は、ランタン/燐酸の混合比と耐食性被覆の構造の関係を示す模式図である。
【図2】図2は、 pH8.4に調整された0.1mol/リットルNaCl溶液中における亜鉛金属のアノード電流・電位曲線を示す図である。
【図3】図3は、 pH8.4に調整された0.1mol/リットルNaCl溶液中における亜鉛金属のアノード電流・電位曲線を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料の表面に希土類元素の酸素酸化合物もしくは酸素酸水素化合物またはこれらの混合物を主成分とする耐食性被覆層を有することを特徴とする表面処理金属材料。
【請求項2】
前記希土類元素がイットリウム、ランタンおよび/またはセリウムである請求項1記載の表面処理金属材料。
【請求項3】
前記酸素酸化合物および前記酸素酸水素化合物のアニオン種が多価の酸素酸アニオンである請求項1又は2記載の表面処理金属材料。
【請求項4】
前記アニオン種が燐酸イオン、タングステン酸イオン、モリブデン酸イオンおよび/またはバナジン酸イオンである請求項3記載の表面処理金属材料。
【請求項5】
前記耐食性被覆層がイットリウム、ランタンおよび/またはセリウムの燐酸化合物もしくは燐酸水素化合物またはこれらの混合物を主成分とする請求項1記載の表面処理金属材料。
【請求項6】
前記燐酸化合物および前記燐酸水素化合物が、オルト燐酸(水素)化合物、メタ燐酸化合物、ポリ燐酸(水素)化合物またはこれらの混合物である請求項5記載の表面処理金属材料。
【請求項7】
前記耐食性被覆層が希土類元素の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物および有機酸化合物から選ばれる1種または2種以上の化合物を添加成分としてさらに含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の表面処理金属材料。
【請求項8】
前記添加成分の前記希土類元素がセリウムである請求項7に記載の表面処理金属材料。
【請求項9】
前記添加成分の前記希土類元素が四価のセリウムである請求項8に記載の表面処理金属材料。
【請求項10】
前記耐食性被覆層が有機系腐食抑制剤を添加成分としてさらに含む請求項1〜9のいずれか1項に記載の表面処理金属材料。
【請求項11】
前記有機系腐食抑制剤が、N−フェニル−ジメチルピロールのホルミル化誘導体、HS−CH2COOCnH2n+1(nは1〜25の整数)で表わされるチオグリコール酸エステルおよびその誘導体、CnH2n(SH)COOH(nは1〜25の整数)で表わされるα−メルカプトカルボン酸およびその誘導体、キノリンおよびその誘導体、トリアジンジチオールおよびその誘導体、没食子酸エステルおよびその誘導体、ニコチン酸およびその誘導体、カラコールおよびその誘導体、および/または導電性高分子からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項10記載の表面処理金属材料。
【請求項12】
前記耐食性被覆層が SiO2, Cr2O3, Cr(OH)3, Al2O3、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、燐酸亜鉛、燐酸水素亜鉛、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、燐酸アルミニウム、燐酸水素アルミニウム、酸化チタン、燐酸ジルコニウム、燐酸水素ジルコニウム、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、燐酸、燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウムからなる群から選ばれる1種または2種以上をさらに含む請求項1〜11のいずれか1項に記載の表面処理金属材料。
【請求項13】
希土類元素の酸素酸化合物もしくは酸素酸水素化合物またはこれらの混合物を主成分とすることを特徴とする金属材料の表面に耐食性被覆層を形成するための表面処理剤。
【請求項14】
前記希土類元素がイットリウム、ランタンおよび/またはセリウムである請求項13記載の表面処理剤。
【請求項15】
前記酸素酸化合物および前記酸素酸水素化合物のアニオン種が多価の酸素酸アニオンである請求項13又は14記載の表面処理剤。
【請求項16】
前記アニオン種が燐酸イオン、タングステン酸イオン、モリブデン酸イオンおよび/またはバナジン酸イオンである請求項15記載の表面処理剤。
【請求項17】
前記耐食性被覆層がイットリウム、ランタンおよび/またはセリウムの燐酸化合物もしくは燐酸水素化合物またはこれらの混合物を主成分とする請求項13記載の表面処理剤。
【請求項18】
前記燐酸化合物および前記燐酸水素化合物が、オルト燐酸(水素)化合物、メタ燐酸化合物、ポリ燐酸(水素)化合物またはこれらの混合物である請求項17記載の表面処理剤。
【請求項19】
前記耐食性被覆層が希土類元素の酸化物、水酸化物、ハロゲン化物および有機酸化合物から選ばれる1種または2種以上の化合物を添加成分としてさらに含む請求項13〜18のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項20】
前記添加成分の前記希土類元素がセリウムである請求項19に記載の表面処理剤。
【請求項21】
前記添加成分の前記希土類元素が四価のセリウムである請求項20に記載の表面処理剤。
【請求項22】
前記耐食性被覆層が有機系腐食抑制剤を添加成分としてさらに含む請求項13〜21のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項23】
前記有機系腐食抑制剤が、N−フェニル−ジメチルピロールのホルミル化誘導体、HS−CH2COOCnH2n+1(nは1〜25の整数)で表わされるチオグリコール酸エステルおよびその誘導体、CnH2n(SH)COOH(nは1〜25の整数)で表わされるα−メルカプトカルボン酸およびその誘導体、キノリンおよびその誘導体、トリアジンジチオールおよびその誘導体、没食子酸エステルおよびその誘導体、ニコチン酸およびその誘導体、カテコールおよびその誘導体、および/または導電性高分子からなる群から選ばれる1種または2種以上である請求項22記載の表面処理剤。
【請求項24】
前記耐食性被覆層が SiO2, Cr2O3, Cr(OH)3, Al2O3、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、燐酸亜鉛、燐酸水素亜鉛、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、燐酸カルシウム、燐酸水素カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ジルコニウム、燐酸アルミニウム、燐酸水素アルミニウム、酸化チタン、燐酸ジルコニウム、燐酸水素ジルコニウム、硫酸、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、燐酸、燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウムからなる群から選ばれる1種または2種以上をさらに含む請求項13〜23のいずれか1項に記載の表面処理剤。
【請求項25】
希土類元素換算で0.05〜4 mol/kgの希土類化合物と、希土類元素1モルに対して H3PO4換算で 0.5〜100 モルの燐酸化合物および/または燐酸水素化合物を含むことを特徴とする表面処理剤。
【請求項26】
前記希土類元素化合物がランタンまたはセリウムの燐酸化合物、燐酸水素化合物、酸化物、水酸化物またはこれらの混合物である請求項25記載の表面処理剤。
【請求項27】
燐酸がオルト燐酸、メタ燐酸、ポリ燐酸、またはこれらの混合物である請求項25または26記載の表面処理剤。
【請求項28】
希釈剤として水または水と水溶性有機溶剤の混合物を含有する請求項25, 26または27記載の表面処理剤。
【請求項29】
前記希土類元素化合物がランタン化合物であり、ランタンに対するセリウム換算のモル比で 1.0〜0.001 のセリウム化合物および/またはランタンに対するモル比で2〜0.001 の有機系腐食抑制剤をさらに含有する請求項25, 26, 27または28記載の表面処理剤。
【請求項30】
前記希土類元素化合物がセリウム化合物であり、セリウムに対するランタン換算のモル比で 1.0〜0.001 のランタン化合物および/またはランタンに対するモル比で2〜0.001 の有機系腐食抑制剤を含有する請求項25, 26, 27または28記載の表面処理剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−327142(P2007−327142A)
【公開日】平成19年12月20日(2007.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191241(P2007−191241)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【分割の表示】特願平9−527500の分割
【原出願日】平成9年2月4日(1997.2.4)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】