説明

耳なしパンの製造方法

【課題】金属製の焼型内で焼成され、焼成後の外観が良好で、耳がないか極めて少ない耳なし食パンを提供する。
【解決手段】上記課題を解決するため、金属製の焼型に入れられ蓋をされて焼成されるパンの製造方法であって、パン生地4を調整し、前記焼型1の内部の底1a及び側面1bに熱緩衝材2を配置し、前記パン生地を前記焼型内に投入し、最終発酵を経て、前記焼型の開口部に熱緩衝材3を被せ、前記蓋5を嵌め、焼成し、前記焼型から前記熱緩衝材ごとパンを抜き取り、前記熱緩衝材をパンから剥すことを特徴とする耳なしパンの製造方法の構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の焼型内で焼成されるパンの製造方法に関し、より詳しくは食パンなどを焼成したときにパンの外側に形成される茶色く焦げて硬い部分(耳)がないか極めて少ない耳なしパンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食パンは、一般に、金属製の焼型に入れられ蓋をされて食パン生地を、200℃〜220℃、30分〜40分程度焼成して作られる。焼成された食パンには、その外側には、耳或いはクラストと呼ばれる焼型に接触し茶色く焦げて硬い部分が形成される。耳は、食パンにロースト香を付与する。
【0003】
耳は硬く食するに倦厭されていることがあるとともに、サンドイッチ等では耳は切除されることが多い。耳を切り取る作業が手間であるとともに、切除された耳の多くは廃棄され無駄である。
【0004】
そこで、耳なしパンを製造する方法として、特許文献1のパンの製造方法が提案されている。特許文献1のパンの製造方法は、所定単位量用の密封可能な紙製焼き型にパン生地を入れて密封し、上記紙製焼き型と一体に200℃、約40分オーブンで焼き上げることを特徴とする。
【0005】
なお、特許文献1の紙製焼き型は、箱状に形成するのに充分な腰を有することが必要で、その硬さは200〜300g/cmとされる。また、パンに焦げ目(クラスト)が少しできても紙を剥がすときに、紙製焼き型と一体としてクラストも除去されるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭60−176532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記所定の腰を有する紙製の焼き型でも、最終醗酵時のパン生地の膨張に伴い紙製焼き型は変形し、さらに焼成時の膨張で極めていびつな形状に変形する。焼成時の紙製焼き型の変形は、蓋と箱部をテープで止めても防ぐことはできない。従って、特許文献1のパンは、外観が悪く、商品価値は全くないものであった。
【0008】
そこで、本発明は、金属製の焼型内で焼成され、焼成後の外観が良好で、耳がないか極めて少ない耳なし食パンを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、(1)金属製の焼型に入れられ蓋をされて焼成されるパンの製造方法であって、パン生地を調整し、前記焼型の内部の底及び側面に熱緩衝材を配置し、前記パン生地を前記焼型内に投入し、最終発酵を経て、前記焼型の開口部に熱緩衝材を被せ、前記蓋を嵌め、焼成し、前記焼型から前記熱緩衝材ごとパンを抜き取り、前記熱緩衝材をパンから剥すことを特徴とする耳なしパンの製造方法の構成とした。
【0010】
(2)前記熱緩衝材が、紙又は布であることを特徴とする(1)に記載の耳なしパンの製造方法、(3)前記紙のパン生地側の表面に多数の突起が形成されていることを特徴とする(2)に記載の耳なしパンの製造方法とした。
【0011】
(4)前記焼型の底及び側面に配置される熱緩衝材が、開口部を有し前記焼型の形状に予め形成されていることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1に記載の耳なしパンの製造方法、(5)側面に配置した前記熱緩衝材の上端が、前記焼型の外に突出するとともに、開口部に被せた熱緩衝材が前記焼型の開口部より大きいことを特徴とする(1)〜(4)の何れか1に記載の耳なしパンの製造方法の構成とした。
【0012】
加えて、(6)前記焼成のときの温度が、120℃〜180℃であることを特徴とする(1)〜(5)の何れか1に記載の耳なしパンの製造方法の構成とした。
【0013】
本発明の製造工程(食パン)を、図1〜3により詳細に示した。図1に示すように、金属製の焼型1の内部の底1a及び側面1bに熱緩衝材2を配置して、従来と同様の組成かつ調整されたパン生地4を焼型内の熱緩衝材2上に投入する。そして、従来同様の最終発酵を行う。その後、焼型1の開口部1cに熱緩衝材3を被せ、金属製の蓋5をスライドして焼型1の突起1eと蓋5の係止部5aを嵌める。図1はその時の断面模式図である。パン生地4は焼型1に空間1dを残し膨張する。
【0014】
次に、従来同様あるいはそれ以下の焼成温度でオーブンを用いて焼成する。蓋5は、係止部5aで焼型1の突起1eに係止しているためパン生地の膨張によっても外れない。なお、蓋5と焼型1の係止手段は図1〜3に限定されるものではない。図2が焼成後の断面模式図である。パン6は、空間1dを残すことなく、開口部1cに被せられた熱緩衝材3まで膨張し、焼成される。
【0015】
焼成後、焼型1から熱緩衝材2、3ごとパン6を抜き取る。その後、熱緩衝材2、3をパンから剥す(図3矢印方向)。このとき、僅かに形成されたクラスト6aも熱緩衝材2、3と一体として剥離され、耳なしパン6となる。
【0016】
ここで、焼型1は、従来から食パン等の焼型で焼成される金属製の容器で、蓋5を嵌めて使用する。そして、その形状は、断面四角形(汎用品は底部が狭い略台形)、丸型、その他種々の形状が採用できる。さらに、焼型の底、側面、蓋に穴(メッシュ)が穿設されていてもよい。穴が穿設されることによりパンの水分の蒸発が均一に進みケービングを抑制する効果が増す。
【0017】
熱緩衝材2、3は、金属製の焼型から焼型に接触するパン生地外被への急速な熱伝導を緩和するもので、焼成中に溶けること、焦げることがなく、有害物をパン生地に溶質しない素材であれば特に限定しない。例えば、紙、布が例示できる。熱緩衝材の形状は、シート状、焼型の形状に予め成型したものなどが採用できる。
【0018】
紙は、パルプを主成分として、シート状に薄くすいて成型されたもので、焼型の底、側面を分割して覆っても、焼型1の形状に予め成型されていてもよいが、予め成型されている方が作業性がよい。紙の場合には、その表面に、エンボス加工などにより、複数の突起を形成すると、パン生地の吸着、クラストの剥離効果が増し、好ましい。紙として具体的には、スポンジケーキ、カステラなどに使用する紙(更紙)でよい。
【0019】
布は、植物繊維等を編んだものである。その表面には複雑な起伏がある上、繊維質が飛び出ているので、パン生地への吸着が紙より優れている。また、複雑な形状の焼型を使用する場合には、型にそって変形することができる収縮性のある布が好ましい。
【0020】
パン生地は一般的なパンの生地と同様の組成でよく、パン生地の調整方法も、中種法、直種法など従来と同様に調整する。白さを強調するのであれば、褐変しやすい原料、例えば、糖類(砂糖、水あめなど)、たんぱく質(牛乳、卵など)が少ないほうがよい。そして、低温で焼成することが望ましい。
【0021】
焼成温度は、一般的なパンの焼成温度(200℃〜220℃)より低く、120℃〜180℃が好ましく、さらに好ましくは130℃〜150℃である。180℃を越えると、焼き色が付き、外被部が硬くなりクラストが形成され、熱緩衝材とともにクラスト部分を剥離しきれない。一方、120℃を低下すると、焼成時間が長くなり、生産性が低下するとともに内部の焼成が不十分になることがある。焼成時間は、上記焼成温度の場合には、従来の耳を無くさない場合と同様の焼成時間(30分〜40分)でよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、熱緩衝材を内部に配置した焼型内で焼成されるので形良く焼き上がり、耳がないか極めて少ない或いはクラムより極めて柔らかい外皮となるパンを製造することができる。従って、サンドイッチなどに加工する場合には、耳を除く手間が不要で、さらに耳部分を廃棄することないので経済的である。
【0023】
また、熱緩衝材が紙又は布であれば、容易に入手可能かつ低廉で、焼成されたパン生地の外皮に吸着するとともに、形成された薄いクラストを紙又は布を剥離するときにそれらと一体として剥離することができる。紙の場合には、パン生地側の表面にエンボス加工等に多数の突起を形成すると、一層パン生地への吸着、クラスト剥離効果が高まる。
【0024】
また、熱緩衝材を採用することで、パン焼成後のケービングが抑制される。ケービングとは、高温で焼き上がってきたパンが室温レベルにまで冷却される間に、パンの内部に充満している水蒸気がクラストを通して外部に放散して、パンのクラストが湿ってしまい、これが軟化してパンの外壁部が変形し易くなる現象である。
【0025】
本発明では、ケービングの発生部位であるクラストが無いか極めて少ないためケービングが起こりにくい。また、焼成中のパン生地の温度上昇は全体的に時間に比例的であるので、パン生地水分の蒸発が均一になり、焼成後に、パン生地内部からの水分移行が起こりづらいこともケービング抑制に寄与しているものと思われる。
【0026】
そして、底及び側面に配置される熱緩衝材が、開口部を有し前記焼型の形状に予め形成されていると、熱緩衝材の焼型への投入が容易になるとともに、パン生地の焼型内への投入も容易になる。また、側面に配置した熱緩衝材の上端が焼型の外に突出するとともに、焼型の開口部に被せた熱緩衝材が焼型の開口部より大きいと、蓋により熱緩衝材の位置が固定され、パン生地の醗酵、焼成に伴う膨張によっても熱緩衝材がずれることがなく、かつ焼成時のパン生地中の水分の蒸発を阻害しないため、焼成後のパンの外観形状が一層良好になる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】焼型内でパン生地の最終醗酵を終えて、蓋を嵌めたときの焼型の断面模式図である。
【図2】焼型内で焼成された直後のパン及び焼型の縦断模式図である。
【図3】焼型から取り出し、熱緩衝材を剥離している様子を示すパンと熱緩衝材の断模式図である。
【図4】テスト配合を示す図である。
【図5】焼成後の耳なしパンの写真である。
【図6】試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0029】
[パン生地配合]
図4に、試験に用いたパン生地のテスト配合(重量部)を示した。一般的な、食パンの生地組成である。
【0030】
[パン生地の調整]
図4に示すテスト配合を直種法に準ずる方法により調整した。即ち、油脂以外の原料をミキサー混合し、その後、油脂を添加して、必要程度に混捏した。その後、パン生地を温度28℃、湿度70%の環境に60分間放置して、1次発酵させた。続いて、フロアタイムを25分とった後、金属製の焼型(縦37cm、横12cm、高さ13cm)の底及び側面に紙を配置し、調整したパン生地の内1440重量部を投入し、温度38℃、湿度70%の環境に45分間放置して、2次醗酵させた。
【0031】
[焼成条件]
2次発酵後、焼型の開口部に紙を載せ、金属製の蓋を焼型に嵌めて焼成した。焼成温度は、オーブン温度設定110℃〜190℃までの10℃刻みとした。焼成時間は35分及び40分とした。焼成後、熱緩衝材を剥離して、1時間室温で放冷した上でビニール袋に密封し、24時間後に外観を観察した。その時の写真を図5に示した。
【0032】
図5(A)は焼成温度130℃、図5(B)は焼成温度150℃で焼成したものである。それぞれ、左の列が35分間の焼成、右の列が40分間の焼成で、上から焼成後の断面(図3の熱緩衝材を除いたパン6に相当)、側面(焼型の側面側に位置する部分)、平面(焼型の開口部側に位置する部分)である。
【0033】
何れのパンも、熱緩衝材(紙)を剥離したときに、うっすら形成されたクラストも紙と伴に剥がれ、クラストがない耳なしパンであった。そして、ケービングの発生もなく外観形状が良好で、極めて白いパンであった。
【0034】
[試験結果]
図6に、試験結果を示した。焼成後剥離した後のパンの焼き色の度合い(クラストの有無)を評価した。
【0035】
焼き色は、目視にて、通常の焼成条件(200℃、40分)と比べ、パンの外被が同程度に着色したものを又はクラストが残存したものを●、着色が薄く見えるもの或いはクラストがやや残存したものを△、クラストがないかつ白色といっても遜色ないものを○とした。
【0036】
焼き色については、110℃〜170℃まで、白色といっても遜色ない焼き上がりとなった。180℃では、前記通常の焼成条件に比べると着色は少ないものの110℃〜170℃に比べると着色が確認された。190℃においては、前記通常焼成条件と同程度の着色が認められ、改善はみられなかった。焼き色の程度に応じて、クラストの形成、剥離による残量は増した。
【0037】
次に、従来の耳付き食パンと、図6の焼成温度150℃、焼成時間35分の耳なしパンを2cmにスライスして、重量を比較した。従来の食パンが、68.7gであるところ、耳なしパンは、熱緩衝材である紙を剥離したときの重さは67.8g(従来の食パンの約98%)であった。このことから、耳なしパンでは、クラスト自体が殆ど形成されていないことが判る。
【0038】
そして、サンドイッチ用として、従来の食パンから耳を除去した場合の重量は36.6gであった。即ち、従来の食パンでの廃棄率(〈(焼成後の食パン−耳除去後の食パン)/焼成後の食パン)〉×100)は、(32.1g/68.7g)×100=46.7(%)となる。一方、本願発明では、ほとんどクラストが形成されず、また熱緩衝材とともに除去される生地部分(クラフト6a含む)は2%程度であるので、サンドイッチ用途においては、極めて経済的である。
【符号の説明】
【0039】
1 焼型
1a 底
1b 側面
1c 開口部
1d 空間
1e 突起
2 熱緩衝材
3 熱緩衝材
4 パン生地
5 蓋
5a 係止部
6 パン
6a クラスト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の焼型に入れられ蓋をされて焼成されるパンの製造方法であって、
パン生地を調整し、前記焼型の内部の底及び側面に熱緩衝材を配置し、前記パン生地を前記焼型内に投入し、最終発酵を経て、前記焼型の開口部に熱緩衝材を被せ、前記蓋を嵌め、焼成し、前記焼型から前記熱緩衝材ごとパンを抜き取り、前記熱緩衝材をパンから剥すことを特徴とする耳なしパンの製造方法。
【請求項2】
前記熱緩衝材が、紙又は布であることを特徴とする請求項1に記載の耳なしパンの製造方法。
【請求項3】
前記紙のパン生地側の表面に多数の突起が形成されていることを特徴とする請求項2に記載の耳なしパンの製造方法。
【請求項4】
前記焼型の底及び側面に配置される熱緩衝材が、開口部を有し前記焼型の形状に予め形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の耳なしパンの製造方法。
【請求項5】
側面に配置した前記熱緩衝材の上端が、前記焼型の外に突出するとともに、開口部に被せた熱緩衝材が前記焼型の開口部より大きいことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の耳なしパンの製造方法。
【請求項6】
前記焼成のときの温度が、120℃〜180℃であることを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1項に記載の耳なしパンの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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