説明

聴力損失を治療または予防するためのR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン

哺乳動物の対象において聴力損失を治療または阻害する方法であって、前記対象において聴力損失を治療または阻害するのに有効な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩を前記対象に投与することを含んでなる方法。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本明細書の全体にわたって、種々の出版物、公開された特許出願、および特許が参照される。これら文書の開示は、本発明の属する分野の現状がより完全に記載されるように、その全体が本願明細書の一部として援用される。
【0002】
聴力損失は、数百万人の人々に影響を与えている深刻な障害である。聴覚障害は、広範な種類の原因に起因し、感染症、力学的な外傷、大きな音、加齢、および化学的に引き起こされた聴器毒性が含まれ、末梢聴覚系の神経および/または有毛細胞に障害を与える。
【0003】
末梢聴覚系は、聴覚受容体、コルティ(Corti)器官における有毛細胞、および蝸牛におけるらせん神経節神経である1次聴覚神経からなる。内部有毛細胞(IHC)とII型求心性樹状突起(type II afferent dendrites)の間のシナプスの活性は、外側のオリーブ蝸牛(lateral olivocochlear:LOC)遠心性線維により調節される(Eybalin M, (1993) Neurotransmitters and neuromodulators of the mammalian cochlea. Physiol Rev 73: 309-373; Eybalin M, Pujol R, (1989) Cochlear neuroactive substances. Arch Otorhinolaryngol 246: 228-234; Puel J-L, (1995) Chemical synaptic transmission in the cochlea. Prog Neurobiol 47: 449-476)。
【0004】
聴器毒性は、内耳または内耳から脳に平衡および聴覚情報を送る内耳神経にダメージを与える薬物または化学物質により引き起こされる。聴器毒性は、聴力、平衡、またはその両方の一時的または永久の損失を生じ得る。聴器毒性を引き起こし得る物質には、抗生物質、化学療法剤、環境的な化学物質、ループ利尿剤、アスピリンおよびキニン製品が含まれる。
【0005】
ラサジリン(R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン)は、強力な第2世代のモノアミン酸化酵素(MAO)B阻害剤である(Finberg JP, Youdim MB, (2002) Pharmacological properties of the anti-Parkinson drug rasagiline; modification of endogenous brain amines, reserpine reversal, serotonergic and dopaminergic behaviours. Neuropharmacology 43(7):1110-8)。1mg錠剤中のラサジリンメシレートは、特発性パーキンソン病の治療のための単剤療法剤または補助剤としてのアジレクト(登録商標)として、Teva Pharmaceuticals Industries, Ltd. (Petach Tikva, Israel)およびH. Lundbeck A/S (Copenhagen, Denmark)から入手可能である。例えば、アジレクト(登録商標)、Physician’s Desk Reference (2006), 60th Edition, Thomson Healthcareを参照されたい。近年の研究では、そのMAO−B阻害活性に加えて、ラサジリンが強力な神経保護活性を有することをインビトロおよびインビボでの実験により示している。ラサジリンによる神経保護は、非開放性頭部外傷(Huang W, Chen Y, Shohami E, Weinstock M. (1999) Neuroprotective effect of rasagiline, a selective monoamine oxidase-B inhibitor, against closed head injury in the mouse. Eur J Pharmacol. 366(2-3):127-35)、全脳虚血および局所脳虚血(Speiser Z, Mayk A, Eliash S, Cohen S. (1999) Studies with rasagiline, a MAO-B inhibitor, in experimental focal ischemia in the rat. 106 (7-8) 593-606)、およびMPTP(1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン)誘発性の神経毒性(Sage et al. 2001, 2003)の動物モデル、ならびに筋萎縮性側索硬化症のトランスジェニックモデル(Waibel S. et al. (2004) Rasagiline alone and in combination with riluzole prolongs survival in an ALS mouse model. 251 (9) 1080-1084)およびパーキンソン病の6−OHDA(6−ヒドロキシドパミン)モデル(Blandini, F. et al. (2004) Neuroprotective effect of rasagiline in a rodent model of Parkinson's disease. Exp Neurol. 2004 Jun;187(2):455-9)において達成された。細胞培養実験は、ミトコンドリアのアポトーシス前の膨張、カスパーゼ3の活性化、核PARP(ポリADPリボースポリメラーゼ)−1の活性化、GADPH(グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ)の転位、およびヌクレオソームDNA断片化を妨げることにより、ラサジリンがミトコンドリアにより惹起されるアポトーシス細胞死を強力に抑制することを示している(Youdim MBH, et al., (2001) Rasagiline (N-propargyl-1R(+)-aminoindan), a selective and potent inhibitor of mitochondrial monoamine oxidase B. Br. J. Pharmacol., 132:500-6; Akao Y. et al. (2002) Mitochondrial permeability transition mediates apoptosis induced by N-methyl(R)salsolinol, an endogenous neurotoxin, and is inhibited by Bcl-2 and rasagiline, N-propargyl-1(R)-aminoindan. 82 (4) 913-923)、(Youdim MBH and Weistock M. (2001) Molecular Basis of Neuroprotective Activities of Rasagiline and the Anti-Alzheimer Drug TV3326 [N-Propargyl-(3R) Aminoindan-5-YL)-Ethyl Methyl Carbamate]. Cell. Mol. Neurobio. 21(6) 555-573; Youdim MBH et al. (2003) Neuroprotective Strategies in Parkinson's Disease: An Update on Progress. CNS Drugs. 17(10):729-762; Bar-am et al. (2004) Regulation of protein kinase C by the anti-Parkinson drug, MAO-B inhibitor, rasagiline and its derivatives, in vivo. Journal of Neurochemistry 89 (5), 1119-1125; and Weinreb O. et al. (2004) Neurological mechanisms of green tea polyphenols in Alzheimer’s and Parkinson’s diseases. The Journal of Nutritional Biochemistry, Volume 15, Issue 9, Pages 506-516)。さらに、ラサジリンは、アポトーシス後のBadおよびBaxの下方制御と平行して、抗アポトーシスBcl−2およびBcl−xLの発現の増大を引き起こす(Youdim MBH et al. (2003) The essentiality of Bcl-2, PKC and proteasome-ubiquitin complex activations in the neuroprotective-antiapoptotic action of the anti-Parkinson drug, rasagiline. Biochem Pharmacol. 66(8):1635-41; Yogev-Falach et al. (2003) Amyloid Processing and Signal Transduction Properties of Antiparkinson-Antialzheimer Neuroprotective Drugs Rasagiline and TV3326. Annals of the New York Academy of Sciences 993:378-386)。パーキンソン病における遅延された開始(delayed-start)の設計の研究からの近年の証拠は、臨床的な設定においてもラサジリンの強力な疾患修飾効果を確認できたことである(Parkinson Study, G, A controlled, randomized, delayed-start study of rasagiline in early Parkinson’s disease, Arch. Neurol. (2004) 61 (4) : 561-6)。
【0006】
ラサジリンが末梢聴覚系において正の効果を有するかどうかについては、これまでに検討されていない。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、対象である哺乳動物において聴力損失を治療または阻害する方法であって、一定量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは前記対象において聴力損失を治療もしくは阻害するのに有効な薬学的に許容可能なその塩を前記対象に投与することを含んでなる方法を提供する。
【0008】
本発明は、対象である哺乳動物において聴力損失の症状を軽減する方法であって、一定量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは前記患者において聴力損失の症状を軽減するのに有効な薬学的に許容可能なその塩を前記対象に投与することを含んでなる方法も提供する。
【0009】
本発明は、対象における聴力損失の治療、予防、または症状の軽減において使用するための医薬組成物であって、治療的に有効な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩および薬学的に許容可能なキャリアを含んでなる医薬組成物も提供する。
【0010】
本発明は、聴力損失の治療、予防または症状の軽減のための医薬の製造における、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩の使用も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実験計画の模式図を示す。
【図2】図2は、モルモット標本からのドパミン放出におけるラサジリンの効果が濃度依存性であることを示す。ラサジリンは、第8の画分から灌流液に加えられ、実験の終わりまで維持された。ラサジリンが存在しない場合および異なる濃度のラサジリンが存在する場合における電気的に誘発されるドパミン放出の比の値(FRS/FRS)を、比較のために示した。示されているデータは、平均値±SEMである。
【図3】図3A、B、CおよびDは、薬物適用期間の変化がラサジリンの作用に影響しなかったことを示す。(A)インビトロでの蝸牛からのドパミン放出の時間変化。ラサジリンは、第2の電気刺激の3〜21分前に灌流に加えられた(括弧で示す)。点線は、我々の以前の研究におけるラサジリンのタイミングを示す(第8の画分、15分)。(B)ラサジリン灌流の最も短いおよび最も長い期間をそれぞれ示す。(C)電気的に誘発されたドパミンの比の値。(D)安静時のDA放出の比の値。CおよびDに示されたデータは、平均値±SEMである。
【図4】図4は、インビボでの聴覚脳幹反応(ABR)測定により記録された、ネオマイシンの中耳内適用によりマウスの耳が聞こえなくなる例を示す。対照測定においては、通常の聴覚閾値でクリック刺激(click stimuli)が脳幹反応を誘発する。右耳をネオマイシンにより中耳内処理し(前処理)、左耳を生理食塩水で処理した3週間後においては、聴器毒性の薬物で処理された耳では脳幹反応が誘発されず、他方の耳では通常の閾値の維持が見られた(溶媒対照)。
【発明の詳細な説明】
【0012】
本発明は、対象である哺乳動物において聴力損失を治療または阻害する方法であって、一定量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは前記対象において聴力損失を治療もしくは阻害するのに有効な薬学的に許容可能なその塩を前記対象に投与することを含んでなる方法を提供する。
【0013】
本発明は、対象である哺乳動物において聴力損失の症状を軽減する方法であって、一定量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは前記患者において聴力損失の症状を軽減するのに有効な薬学的に許容可能なその塩を前記対象に投与することを含んでなる方法も提供する。
【0014】
前記方法の1つの実施形態において、聴力損失の症状は、聴力が鈍くなること、耳鳴り(ringing)、ぜん鳴、ヒス音(hissing)、耳鳴り(buzzing in the ear)、耳の痛み、片耳の聴力の損失、耳のつまり、中耳炎およびめまいからなる群より選択される。
【0015】
もう1つの実施形態において、聴力損失は、聴器毒性の原因物質に曝されることにより引き起こされる。前記聴器毒性の原因物質は、抗生物質、化学療法、音(sound)、環境的な化学物質、ループ利尿剤、アスピリンおよびキニンからなる群より選択されてよい。
もう1つの実施形態において、前記対象である哺乳動物はヒトである。
【0016】
前記方法において、投与されるR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩の量は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン遊離塩基の重量に基づいて、0.1mg〜50.0mgであってよい。投与は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンの薬学的に許容可能な塩であってもよい。前記薬学的に許容可能な塩は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンのエシレート、メシレート、硫酸塩、タンニン酸塩または酒石酸塩であってよい。
【0017】
前記方法において、投与は、耳内に、経口的に、腹腔内に、局所的に、非経口的にまたは鼻内に行われてよい。1つの実施形態において前記投与は、内耳に対する局所的な耳への適用であってよい。
【0018】
もう1つの実施形態において、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩は、結晶性である。
【0019】
もう1つの実施形態において、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩は、医薬組成物の形態である。前記医薬組成物は、錠剤の形態であってよい。
【0020】
前記方法のもう1つの実施形態において、前記医薬組成物は、経皮的な投与に適した形態である。
前記方法のもう1つの実施形態において、前記医薬組成物は、舌下投与に適した形態である。
【0021】
本発明は、対象における聴力損失の治療、予防、または症状の軽減において使用するための医薬組成物であって、治療的に有効な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩および薬学的に許容可能なキャリアを含んでなる医薬組成物も提供する。
【0022】
本発明は、聴力損失の治療、予防または症状の軽減のための医薬の製造における、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩の使用も提供する。
【0023】
<略語>
ABR:聴覚脳幹反応
AMPA:α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸
DA:ドパミン
GADPH:グリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ
HEPES:4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸
IHC:内耳有毛細胞
HSD:高度な有意差
LOC:外側のオリーブ蝸牛
6−OHDA:6−ヒドロキシドパミン
MPTP:1−メチル−4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン
NMDA:N−メチル−D−アスパラギン酸
PARP:ポリADPリボースポリメラーゼ
R(+)PAIメシレートは、アジレクト(登録商標)として、Teva Pharmaceutical Industries Ltd.およびLundbeck A/Sから商業的に入手可能である。R(+)PAIは、PAIのR−およびS−エナンチオマーのラセミ混合物の光学的な分解により得られる。そのような分解は、当業者に周知の通常の分解方法のいずれかにより行うことができる。例えば、前記分解は、キラルカラムを用いた分取カラムクロマトグラフィーにより行われてよい。適切な分解方法のもう1つの例は、酒石酸、マレイン酸、マンデル酸またはN−アセチルロイシン等のアミノ酸のN−アセチル誘導体のようなキラル酸を用いてジアステレオマーの塩を形成し、その後再結晶により、望ましいRエナンチオマーのジアステレオマーの塩を単離する方法である。R(+)PAIおよびその塩の調製の完全な記述は、米国特許第5,532,415号、第5,387,612号、第5,453,446号、第5,457,133号、第5,599,991号、第5,744,500号、第5,891,923号、第5,668,181号、第5,576,353号、第5,519,061号、第5,786,390号、第6,316,504号、第6,630,514号に記載されている。R(+)PAIの塩には、メシレート、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、エシレート、p−トルエンスルホン酸塩、安息香酸塩、酢酸塩、リン酸塩、タンニン酸塩および硫酸塩が含まれる。例えば、ラサジリンタンニン酸塩は、タンニン酸とラサジリン塩基の溶液を混合することを含んでなる方法により調製されてよい。
【0024】
ここで使用する場合、「有効量」という用語は、本発明の態様において使用した場合、適切な利益/リスク比と釣り合って、過度の有害な副作用(例えば、毒性、刺激作用、もしくはアレルギー反応)を生じることなく望ましい治療的な反応を引き起こすのに十分な成分の量を意味する。例えば、聴力損失の症状を阻害、減弱、または回復させるのに有効な量である。特定の有効量は、治療される特定の状態、患者の身体的な状態、治療される哺乳動物の種類、治療の期間、(あるとすれば)併用する治療の性質、ならびに使用される特定の製剤および化合物またはその誘導体の構造のような因子により変化し得る。
【0025】
治療において投与される化合物の用量は、特定の化学療法剤の薬力学的な特性ならびにその投与の方法および経路;レシピエントの年齢、性別、代謝速度、吸収効率、健康状態および体重;症状の性質および程度;併用される治療の種類;治療の頻度;および望ましい治療効果のような因子に依存して変化し得る。
【0026】
化合物の投与単位は、単一の化合物、あるいは聴力損失に対する化合物または軸索突起障害の治療のために使用される他の化合物との混合物を含んでよい。前記化合物は、錠剤、カプセル剤、ピル、散剤、顆粒剤、エリキシル、チンキ剤、懸濁液、シロップおよびエマルジョンとしての経口投与形態で投与されてよい。前記化合物は、静脈内(大量瞬時投与もしくは注入)、腹腔内、皮下、または筋肉内投与の形態で投与されるか、あるいは、例えば注射もしくは他の方法により癌へ直接的に導入されてもよく、使用される全ての投与形態は、医薬の分野において通常の知識を有する者に周知である。
【0027】
前記化合物は、意図された投与形態により適切に選択され、通常の薬学的プラクティスと一致している適切な希釈剤、増量剤、賦形剤、またはキャリア(ここでは集合的に、薬学的に許容可能なキャリアを意味する)との混合物として投与されてよい。前記単位は、経口投与、直腸投与、局所投与、静脈内投与もしくは直接の注入または非経口的な投与に適した形態であってよい。前記化合物は、単独で投与されてもよいが、一般的に、薬学的に許容可能なキャリアと混合される。このキャリアは、固体または液体であってよく、キャリアのタイプは、一般的に、使用される投与のタイプに基づいて選択される。活性を有する薬剤は、凝集した粉末もしくは液体として、錠剤またはカプセル剤、リポソームの形態で同時投与されてよい。適切な固体キャリアの例には、ラクトース、ショ糖、ゼラチンおよびアガーが含まれる。カプセル剤または錠剤は、容易に製剤化することができ、嚥下または咀嚼が容易なように作ることができ;他の固体形態には、顆粒剤、および塊状粉末(bulk powder)が含まれる。錠剤は、適切な結合剤、滑沢剤、希釈剤、崩壊剤、着色剤、フレーバー剤、流動剤(flow-inducing agent)、および融解剤を含んでよい。適切な液体投与形態の例には、水中における溶液もしくは懸濁液、エステルを含む薬学的に許容可能な脂肪およびオイル、アルコールもしくは他の有機溶媒、エマルジョン、シロップもしくはエリキシル、懸濁液、非発泡性の顆粒から再構成される溶液および/または懸濁液、発泡性の顆粒から再構成される発泡性の製剤が含まれる。そのような液体投与形態は、例えば、適切な溶媒、保存剤、乳化剤、懸濁化剤、希釈剤、甘味料、増粘剤、および融解剤を含んでよい。経口的な投与形態は、任意に、フレーバー剤および着色剤を含む。非経口的および静脈内投与の形態は、ミネラルおよびそれらを選択される注入または送達システムのタイプに適合させるための他の物質を含んでもよい。
【0028】
本発明の経口的な投与形態を構築するために使用され得る薬学的に許容可能なキャリアおよび賦形剤の特定の例は、U. S. Pat. No. 3,903,297 to Robert, issued Sept. 2, 1975に記載されている。本発明において有用な投与形態を作るための技術および組成は、以下に示す参考文献に記載されている:Modern Pharmaceutics, Chapters 9 and 10 (Banker & Rhodes, Editors, 1979); Pharmaceutical Dosage Forms: Tablets (Lieberman et al., 1981); Ansel, Introduction to Pharmaceutical Dosage Forms 2nd Edition (1976); Remington's Pharmaceutical Sciences, 17th ed. (Mack Publishing Company, Easton, Pa., 1985); Advances in Pharmaceutical Sciences (David Ganderton, Trevor Jones, Eds., 1992); Advances in Pharmaceutical Sciences Vol 7. (David Ganderton, Trevor Jones, James McGinity, Eds., 1995); Aqueous Polymeric Coatings for Pharmaceutical Dosage Forms (Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Series 36 (James McGinity, Ed., 1989); Pharmaceutical Particulate Carriers: Therapeutic Applications: Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Vol 61 (Alain Rolland, Ed., 1993); Drug Delivery to the Gastrointestinal Tract (Ellis Horwood Books in the Bio
logical Sciences. Series in Pharmaceutical Technology; J. G. Hardy, S. S. Davis, Clive G. Wilson, Eds.); Modern Pharmaceutics Drugs and the Pharmaceutical Sciences, Vol 40 (Gilbert S. Banker, Christopher T. Rhodes, Eds.)。
【0029】
錠剤は、適切な結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、フレーバー剤、流動剤、および融解剤を含んでよい。例えば、錠剤またはカプセル剤の形態の投与単位での経口投与について、活性を有する薬剤成分は、ラクトース、ゼラチン、アガー、デンプン、ショ糖、グルコース、メチルセルロース、リン酸二カルシウム、硫酸カルシウム、マンニトール、ソルビトール、微結晶性セルロース等の、経口的であり、無毒であり、薬学的に許容可能である不活性なキャリアと混合されてよい。適切な結合剤には、デンプン、ゼラチン、グルコースもしくはβ−ラクトースのような天然の糖、コーンスターチ、アラビアゴム、トラガカントゴム、もしくはアルギン酸ナトリウムのような天然および合成のゴム、ポビドン、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレングリコール、ワックス等を含む。これらの投与形態において使用される滑沢剤には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム、ステアリン酸、ステアリルフマル酸ナトリウム、タルク等が含まれる。崩壊剤には、限定するものではないが、デンプン、メチルセルロース、アガー、ベントナイト、キサンタンガム、クロスカルメロースナトリウム、グリコール酸ナトリウムデンプン等が含まれる。
【0030】
医薬組成物の開発において、結晶性は、活性を有する薬学的成分において望ましい特性である。結晶物質は、ほとんどのタイプの医薬投与形態に容易に加工および製剤化することができる。
【0031】
ここに開示されているいずれかの範囲により、該範囲に含まれる全ての100分の1、10分の1および整数の単位量が、本発明の一部として特に開示されていることを意味する。それ故、例えば、0.01〜50.0mgは、0.02、0.03・・・0.09;0.1、0.2・・・0.9;および1、2・・・49mgの単位量が本発明の実施形態として含まれることを意味する。
【0032】
ここで使用される場合、聴力損失に「苦しんでいる」対象とは、聴力損失であると診断された対象または聴力損失を生じ得る状態の対象を意味する。
【0033】
本明細書において、聴力損失であると診断された対象は、末梢聴覚系のニューロンおよび/または有毛細胞にダメージを与える感染症、力学的な外傷、大きな音、加齢、および化学的に引き起こされた聴器毒性を含む広範な種類の原因に起因する聴力障害であると診断された患者を意味する。症状には、聴力が鈍くなること、耳鳴り(ringing)、ぜん鳴、ヒス音(hissing)、耳鳴り(buzzing in the ear)、耳の痛み、片耳の聴力の損失、耳のつまり、中耳炎およびめまいが含まれる。診断は、空気伝導による聴力、骨伝導による聴力、リンネ試験、オージオメトリー、語音聴力検査、語音識別、ティンパノメトリー(tympanometry)、または音響反射試験により行われてよい。ラサジリンは、聴力損失の強力な治療的予防または阻害のために使用されてよい。
【0034】
本発明は、以下に示す実験の詳細により、より理解されるであろう。しかしながら、当業者は、開示されている特定の方法および結果が、以下に添付する特許請求の範囲において発明をより完全に記載するための単なる説明であることを容易に理解するであろう。
【0035】
考察
ドパミン(DA)は、IHC求心性シナプスの適切な修飾因子であることが同定された(Safieddine S, Prior AM, Eybalin M, (1997) Choline acetyltransferase, glutamate decarboxylase thyrosine hydroxilase, calcitonin gene-related peptide and opioid peptides coexist in lateral efferent neurons of rat and guinea-pig. Eur J Neurosci 9: 356-367)。蝸牛が、感音性聴力損失を引き起こし得る種々の病毒に対して脆弱であることは周知である(Pujol R, Puel J-L, (1999) Excitotoxicity, synaptic repair, and functional recovery in the mammalian cochlea: a review of recent findings. Ann NY Acad Sci 884: 249-54)。供給動脈(supplier arteries)の機能障害に加えて、他の病理学的な病毒(内リンパ水症または騒音性外傷等)が、コルティ器官において虚血を引き起こし得る(Vass Z, Brechtelsbauer PB, Nuttall AL, Miller JM, (1995) Effect of endolympahtic hydrops on capsaicin evoked increase in cochlear blood flow. Acta Otolaryngol 115: 754-758)。興奮毒性も、老人性難聴(Seidman MD, Quirk WS, Shirwany NA, (1999) Mechanisms of alterations in the microcirculation of the cochlea. Ann NY Acad Sci 884: 226-232)、アミノグリコシド誘発性聴器毒性(Duan M, Agerman K, Ernfors P, Canlon B, (2000) Complementary roles of neurotrophin 3 and a N-methyl-D-aspartate antagonist in the protection of noise and aminoglycoside-induced ototoxicity. Proc Natl Acad Sci USA 97: 7597-7602)および耳鳴り(Sahley TL, Nodar RH, (2001) A biochemical model of peripheral tinnitus. Hear Res 152: 43-54)の罹患メカニズムにおいてある一定の役割を果たしている。
【0036】
有害な刺激も、蝸牛神経核を活性化し、蝸牛中に保護性の伝達物質を放出し得る:ドパミン含有LOC遠心性線維は、脳幹と蝸牛との間のショートループフィードバックメカニズムを確立することが示されている(Pujol R, (1994) Lateral and medial efferents: a double neurochemical mechanism to protect and regulate inner and outer hair cell function in the cochlea. Br J Audiol 28: 185-191)。LOC物質であるドパミンの蝸牛保護の役割の一連の理論において、(i)DおよびD受容体アゴニストは、NMDA(N−メチル−D−アスパラギン酸)およびAMPA(α−アミノ−3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソキサゾールプロピオン酸)誘発性の1次求心性神経の点火を阻害し(Puel J-L, Bobbin RP, Fallon M, (1988) An ipsilateral cochlear efferent loop protects the cochlea during intense sound exposure. Hear Res 37: 65-70)、(ii)LOC線維の刺激は、強い音刺激により強力に誘発される蝸牛化合物作用の振幅を減少させ(Oestreicher E, Arnold W, Ehrenberger K, Felix D, (1997) Dopamine regulates the glutamatergic inner hair cell activity in guinea pigs. Hear Res 107: 46-52)、最後に、(iii)D/Dドパミン受容体アゴニストであるピリベディル(piribedil)の蝸牛内への適用により、虚血により誘発される特徴的な電気生理学的および構造的な変化が減少した(d’ Aldin C, Eybalin M, Puel J-L, Characon G, Ladrech S, Renard N, Pujol R, (1995a) Synaptic connections and putative functions of the dopaminergic innrevation of the guinea pig cochlea. Eur Arch Otorhinolar 252: 270-274. d’ Aldin C, Puel J-L, Leducq R, Crambes O, Eybalin M, Pujol R, (1995b) Effect of a dopaminerg agonist in the guinea pig cochlea. Hear Res 90: 202-211; Gil-Loyzaga P, (1995) Neurotransmitters of the olivocochlear lateral efferent system: with an emphasis on dopamine. Acta Otolaryngol 115: 222-226; Pujol R, Puel J-L, d’Aldin CG, Eybalin M, (1993) Pathophysiology of the glutamergic synapses in the cochlea. Acta Otolaryngol. 113: 330-334)。さらに、実験的な虚血および既知の神経保護性の代謝調節型グルタミン酸受容体の活性化が、インビトロにおいて、急性的に単離された蝸牛からのドパミン放出を引き起こし得ることが示されている(Halmos G, Doleviczenyi Z, , Vizi ES, Lendvai B. Zelles T. (2005) Oxygen-glucose deprivation evokes dopamine release in isolated cochleae. Neuroscience 132: 801-809, Doleviczenyi Z, Halmos G, Repassy G, Vizi ES, Zelles T, Lendvai B., (2005) Cochlear dopamine release is modulated by group II metabotropic glutamate receptors via GABAergic neurotransmission. Neurosci. Lett. 385: 93-98)。合わせると、これらのデー
タは、虚血の間のドパミンの強力な神経保護効果を十分に確立した。
【0037】
本発明は、虚血においてこの保護因子を誘発するための、ラサジリンによるドパミン放出の調節について記載する。適用される濃度およびタイミングにおいて、ラサジリンは、蝸牛標本におけるFRS/FRSによって明らかにされるように、電場刺激誘発性のドパミン放出の増強を引き起こし得る。前記増大は、より高い濃度である100および300μMのラサジリンにおいて著しかった。
【実施例】
【0038】
例1
動物および組織標本
オスのモルモット(体重150〜350g)の鼓室胞を開いた。蝸牛の骨性の被嚢を、立体顕微鏡の誘導の下で除去し、蝸牛管をはがし、蝸牛を蝸牛軸の基底で割った。標本は、骨髄神経節、求心性聴覚線維、遠心性線維束の軸索および軸索末端ならびに内部および外部の有毛細胞を含有していた。全ての実験は、外リンパ様の溶液において実施し、該溶液は、150 mM NaCl、3.5 mM KCl、1 mM CaCl2、1 mM MgCl2、2.75 mM HEPESおよび2.25 mM Tris-OHを含み、温度37℃、pH 7.4であった。浸透圧重量モル濃度は、D−グルコースにより調節され、100%Oにより連続的に飽和された。
【0039】
微小容積の灌流
蝸牛を、0.2μM [3H]ドパミン (Amersham, UK, spec. act.: 31.0 Ci/mmol, 1ml中に6μCi)と共に、35分間インキュベートした。各蝸牛は、その後微小容積のプレキシチャンバーに入れ、外リンパ様溶液と共に3 ml/分で灌流した。1時間のプレ灌流の後、流出物を3分の画分として集めた。放出された活性は、液体シンチレーションスペクトロメトリ(Packard Tri-Carb 1900TR)を用いて各サンプルの500mlの一定分量を分析することにより決定し。57分間サンプルを採取した後(19画分)、各蝸牛をミクロチャンバーから500μlの10%トリクロロ酢酸中に1日間移し、100μlは組織放射能について分析した。これまでのHPLC測定は、刺激誘発性の放射能の91〜95%が[3H]ドパミンおよびその代謝物に起因していることを示した (Gaborjan A, Lendvai B, Vizi ES, (1999a) Neurochemical evidence of dopamine release by lateral olivocochlear efferents and its presynaptic modulation in guinea-pig cochlea. Neuroscience 90: 131-138)。電場刺激は、1つの画分期間 (3分, 360パルス)に対して60 V、2 Hzで適用し、3番目および13番目の画分について0.5msの間適用した。パルスは、組織チャンバーの上および下にある白金電極を介して、Grass S88 刺激装置 (West Warwick, USA)により送達された。
【0040】
濃度依存性
ラサジリンは、第2の電場刺激の15分前(8番目の画分)において、1、10、100および300μMの濃度で灌流液に添加し、実験の終わりまで維持した。低い濃度において、ラサジリンは蝸牛のドパミン放出を変化させなかったが、より高い用量では蝸牛DA放出を上昇させた(図2)。
【0041】
誘発される蝸牛ドパミン放出におけるラサジリン適用のタイミングの効果
ラサジリン還流のタイミングによる効果の試験は、細胞内酵素もしくは受容体のリン酸化との相互作用またはタンパク質合成との干渉のような、蝸牛でのラサジリンの作用におけるゆっくりとした細胞内過程の起こり得る介入に対処するために行った。仮定は、第2の電気刺激の前の時間が長いほど、誘発されるドパミン放出の振幅における影響が大きくなるというものである。これらの実験において、ラサジリン(100μM)は、第2の電場刺激の21、18、12、9、6、および3分前に灌流に添加した。
【0042】
ラサジリン灌流のタイミングを変えても、誘導されるドパミン放出の増強の程度は異ならなかった(図3A〜C)。さらに、最も長い間ラサジリンを与えた場合(刺激の21分前)、ドパミンの安静時放出において有意な差を生じなかった(図3B、D)。
【0043】
種々のタイミングでラサジリン灌流を行う全ての群は、誘発されるドパミン放出の著しい増強を引き起こした(表1)。対照的に、ホック(hoc)試験の後のp値は、異なるタイミングの群間でさらなる相違を示さなかった。表に示した数字は、テューキーHSDポストホック比較(Tukey HSD post hoc comparison;非計画的対比較(unplanned pair wise comparison)の統計的な有意性を試験するために使用される統計的な方法, Winer, Michels & Brown, 1991)の確率(p)値であり、ラサジリンで3、6、9、12、18、21分の灌流を処理した群と対照である。有意なp値は、下線で示されている。
【表1】

【0044】
データ解析
1つの採取期間におけるドパミン放出を最もよく述べるために、トリチウム−アウトフローの分画放出(FR)を、サンプルを採取した時間において組織に存在する全放射能のパーセンテージとして測定した。電場刺激(SおよびS)により誘発される分画放出は、曲線下面積により計算する、すなわち電気的刺激の間における全体の分画放出から基底の放出を減算することにより算出した(Halmos G, Gaborjan A, Lendvai B, Repassy G, Z Szabo L, Vizi ES, (2000) Veratridine-evoked release of dopamine from guinea pig isolated cochlea. Hear Res 144: 89-96, Halmos G, Lendvai B, Gaborjan A, Baranyi M, Z Szabo L, Csokonai Vitez L, (2002) Simultaneous measurement of glutamate and dopamine release from isolated guinea pig cochlea. Neurochem Int 40: 243-248)。電場刺激に誘発される[3H]ドパミン放出における薬物の影響は、薬物の存在下および非存在下のそれぞれにおけるFRS1に対するFRS2の計算比により表した。トリチウムの安静時アウトフローにおける薬物の影響は、薬物の存在下および薬物が蝸牛に到達する前における2つの最も高い連続する安静時FR値の和の比(FRR2/FRR1)として決定した。データは、平均値±S.E.Mとして表した。ANOVAは、統計的な分析のために使用した。テューキーポストホック(Tukey post-hoc)試験は、対比較の有意性を決定するために適用した。
【0045】
例2
マウスにおけるインビボ聴覚脳幹反応(ABR)測定
概要
マウスの右耳を2日連続で中耳内ネオマイシン(200 mg/ml)により処理した。左耳は溶媒対照(NaCl 注入)とした。著しい聴力損失を発生させるために、脳幹に誘発された電位の測定を、ネオマイシンでの前処理の3週間後に行った(一般的な麻酔の下)。種々の頻度を含む耳に対するクリック刺激は、脳幹における聴覚反応を誘発するために使用され、動物の頭に置かれた複数の電極により測定した。
【0046】
考察
対照実験は、各耳の聴力閾値を示した(図4)。既知の聴器毒性を有するネオマイシンでの前処理は、処理された側において明らかな聴力損失を生じた(図4)。溶媒処理された側では聴力の欠損が示されなかったため、聴力障害は処置自体によるものではなかった(図4)。
【0047】
次に、インビボでのネオマイシン誘発性の聴力損失におけるラサジリンの強力な保護の役割を評価した。ラサジリンの予測される保護効果の試験は、2組の実験において実施さした。第1の実験において、ラサジリンは、中耳に局所的に適用され、0.5mgのラサジリンをネオマイシンと一緒に一度中耳内に注入することにより行った(0.5 mg/日)(n=4)。ラサジリンは、この一連の実験においてネオマイシンの聴器毒性効果を完全に阻害し;中耳内処理された動物の聴力閾値は、ネオマイシンで処理される前の閾値と比較して変化しなかった。第2の実験において、ラサジリンの全身適用の影響を調べた。ラサジリン(100μL)は、中耳内ネオマイシン処理の日および次の3日間に腹腔内に投与された(50 mg/kg ラサジリン1日)(n=4)。局所投与と比較して、ラサジリンの全身的な使用は、アミノグリコシド剤の聴器毒性効果を妨げなかった。全てのネオマイシン処理した耳は、聞こえなくなった。
【0048】
ラサジリンの中耳内適用は、アミノグリコシドの聴器毒性に対する神経保護効果を有し、聴力損失を予防するためのラサジリンの潜在的な治療的使用を示す。
【0049】
例3
モルモットにおけるインビボ聴覚脳幹反応(ABR)測定
動物
全ての実験で、体重250〜300gのモルモットを使用した。全ての処置(ABR測定および中耳内処理)は、ケタミンおよびキシラジンのカクテルのi.p.注入を用いて、一般的な麻酔の下で行う。
【0050】
ABR測定
各耳に拡声器を置き、4つの表面電極によりABR反応を検出した。これらの電極は、乳様突起中に2つ、頂点に1つが陽極として置かれ、4つ目の電極は、基底電極として前額部に置かれた。脳幹反応を誘発するために、較正された聴覚シグナルを得た。視覚的な検出閾値は、5dBステップの漸減音圧により決定した。誘発された反応は、その後ろ過され、シグナルプロセッサーを用いて500走査で平均化した。全てのABR試験は、両側的に行われ、ベースラインのピーク相当音圧レベル(Peak Equivalent Sound Pressure Levels :PESPLs)がデシベル(dB)に関して得られる。全ての動物は、以前の聴力損失を除外するために、いずれかの種類の処理の前に、ベースライン聴力試験(ABR)を受ける。対照ABR閾値測定は、前処理値と比較される。聴覚閾値のシフトは、統計的な分析に供され、統計的な有意性が決定される。
【0051】
試験群
全ての処理群は、ネオマイシンの中耳内適用を含み、立体顕微鏡の誘導の下に行った。鼓膜切開術のために微細な針が使用され、薬物は同じ針を通して送達される。外部の聴覚管において液体が見られるまで中耳全体が充填される。動物は、中耳からの薬物の漏出を避けるために、中耳内に注入した後5分間、反対側に横たえられる。典型的な注入は、より大きな容量で溢流することを避けるために、中耳内に約100mlの溶液を注入することにより行われる。濃度は、この容量を用いて計算される。例えば、100mlの溶液中に15mgのラサジリンを供することにより、300gのモルモットに対して50 mg/kgのラサジリン用量が達成される。ベースライン閾値測定の後、動物を以下に示すように異なる処理群に分ける:
対照群:右耳:ネオマイシン1 mg/kg、左耳:溶媒、n=6 動物;
ラサジリンIP試験群:N=6-8動物、中耳内ネオマイシン処理の3日前: ラサジリン 1 mg/kg 日; 両耳において中耳内ネオマイシン(1 mg/kg)。
【0052】
中耳内へのネオマイシンの適用後:ラサジリン1 mg/kg 日を腹腔内または経口的に3週間(ABR測定の全期間)。ラサジリン中耳内効果試験群。N=6動物、右耳:ネオマイシン 1 mg/kgおよびラサジリン, 50 mg/kg, 左耳: ネオマイシンのみ 1 mg/kg。中耳内適用は、局所的なラサジリン投与の効果を評価することのみを目的とする(予備実験と同じ計画)。
【0053】
聴力の閾値を見積もるために、異なる頻度で音刺激が適用される。対照動物においては、特定の頻度で、音が耳における反応を誘発する。耳がきこえない動物においては、前記反応は、通常いずれの頻度においても検出されない。
【0054】
考察:
対照実験は、各耳の聴力閾値を示す。既知の聴器毒性ネオマイシンでの前処理は、処理した側において明らかな聴力損失を生じる。溶媒処理された側では聴力欠損が見られないため、聴力障害は処置自体によるものではない。
【0055】
次に、インビボでのネオマイシン誘発性の聴力損失におけるラサジリンの強力な保護の役割を評価する。ラサジリンの予測される保護効果の試験は、2組の実験において実施される。第1の実験において、ラサジリンは、中耳に局所的に適用され、0.5mgのラサジリンをネオマイシンと一緒に一度中耳内に注入することにより行う。ラサジリンは、この一連の実験においてネオマイシンの聴器毒性効果を完全に阻害し;中耳内処理された動物の聴力閾値は、ネオマイシンで処理される前の閾値と比較して変化しない。第2の実験において、ラサジリンの全身適用の影響を調べる。ラサジリンは、中耳内ネオマイシン処理の日および次の3日間に腹腔内に投与される。局所投与と比較して、ラサジリンの全身的な使用は、アミノグリコシド剤の聴器毒性効果を妨げない。全てのネオマイシン処理した耳は、聞こえなくなる。
【0056】
ラサジリンの中耳内適用は、アミノグリコシドの聴器毒性に対する神経保護効果を有し、聴力損失を予防するためのラサジリンの潜在的な治療的使用を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の対象において聴力損失を治療または阻害する方法であって、前記対象において聴力損失を治療または阻害するのに有効な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩を前記対象に投与することを含んでなる方法。
【請求項2】
哺乳動物の対象において聴力損失の症状を軽減する方法であって、前記対象において聴力損失の症状を軽減するのに有効な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩を前記対象に投与することを含んでなる方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法であって、前記聴力損失の症状は、聴力が鈍くなること、耳鳴り、ぜん鳴、ヒス音、耳鳴り、耳の痛み、片耳の聴力の損失、耳のつまり、中耳炎およびめまいからなる群より選択される方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法であって、前記聴力損失は聴器毒性の原因物質への曝露により誘発される方法。
【請求項5】
請求項4に記載の方法であって、前記聴器毒性の原因物質は、抗生物質、化学療法、音、環境的な化学物質、ループ利尿剤、アスピリンおよびキニンからなる群より選択される方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法であって、前記哺乳動物の対象はヒトである方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法であって、前記投与されるR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩の量は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン遊離塩基の重量に基づいて0.1mg〜50.0mgである方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法であって、前記投与されるR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩の量は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダン遊離塩基の重量に基づいて0.1mg〜10.0mgである方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法であって、前記投与は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンの薬学的に許容可能な塩による方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、前記薬学的に許容可能な塩は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンのエシレート、メシレート、硫酸塩、タンニン酸塩または酒石酸塩である方法。
【請求項11】
請求項9に記載の方法であって、前記薬学的に許容可能な塩は、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンのメシレート塩である方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法であって、前記投与は、耳内に、経口的に、腹腔内に、局所的に、非経口的にまたは鼻内に行われる方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記投与は、中耳に対して局所的に適用される方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法であって、前記R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩は結晶性である方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法であって、前記R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩は医薬組成物の形態である方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記医薬組成物は錠剤形態である方法。
【請求項17】
請求項15に記載の方法であって、前記医薬組成物は経皮投与に適した形態である方法。
【請求項18】
請求項15に記載の方法であって、前記医薬組成物は舌下投与に適した形態である方法。
【請求項19】
患者における聴力損失の治療、予防または症状の軽減において使用するための医薬組成物であって、治療的に有効な量のR(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩および薬学的に許容可能なキャリアを含んでなる医薬組成物。
【請求項20】
聴力損失の治療、予防または症状の軽減のための薬剤の製造における、R(+)−N−プロパルギル−1−アミノインダンまたは薬学的に許容可能なその塩の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−539235(P2010−539235A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525820(P2010−525820)
【出願日】平成20年9月17日(2008.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2008/010836
【国際公開番号】WO2009/038732
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(501079705)テバ ファーマシューティカル インダストリーズ リミティド (283)
【Fターム(参考)】