説明

肝機能障害治療において肝前駆細胞を用いる方法

肝機能障害治療において肝前駆細胞を用いる方法を提供する。より詳しくは、肝機能障害治療において、免疫抑制量の免疫抑制剤の非存在下で肝幹細胞を含む肝前駆細胞を用いる方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連発明の相互参照)
本出願は、2005年12月22日に出願した米国仮出願第60/752,597号の便益を主張し、そのすべての内容は参照により本開示に含まれるものである。
【0002】
(技術分野)
本発明は、概略的には、肝機能障害治療における肝前駆細胞の使用に関する。より詳しくは、本発明は、肝機能障害治療において免疫抑制剤を併用せずに肝幹細胞を含む肝前駆細胞を用いる方法に関する。
【背景技術】
【0003】
全肝移植及び部分肝移植の効果は、ホストの免疫応答に実質的に依存する(例えば、対宿主性移植片病、GVHD)。実際、遺伝子的に異なる患者間では、ホストの身体がドナーの組織を数時間のうちに拒絶する可能性がある。この可能性に対処するため、移植を予定しているホストにドナーを遺伝子的に「適合」させるために、多大な時間と労力が掛けられている。
【0004】
しかし、遺伝子的に同一な双子がいない場合は、最「適合」レシピエントの免疫系であっても、ドナーの組織に対する拒絶反応が開始される。したがって、移植期間が無い場合、ほぼ全ての臓器移植で短期間に多量の免疫抑制剤を使用することになる。肝臓移植では、例えば、カルシニューリン阻害剤、タクロリムス及びシクロスポリンが、同種異系移植片拒絶の予防に広く使用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、残念なことに免疫抑制剤は万能薬ではない。第1に、免疫抑制剤は、必ずしも作用するとは限らず、定期的に服用しなければならない。第2に、これらの薬物を常用することにより、患者の状態を更に悪化させかねないような細菌及びウイルス感染に対して、患者が脆弱性を有するようになってしまう。実際、カルシニューリン阻害剤は、腎毒性を招く可能性があり、時として移植後に遷延化した腎不全となることがある。その他の長期的な副作用には、耐糖能障害及び高脂血症が含まれる。しかし、免疫特権細胞を使用することで、免疫抑制剤が用いられる場合にもその必要性を低下させ、免疫抑制剤に伴う副作用を軽減させることができる。
【0006】
したがって、免疫応答を悪化させずに同種異系細胞で肝機能障害を治療する方法が必要とされている。また、免疫抑制剤を殆ど又は全く使用しない肝細胞の移植方法も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様では、哺乳類の肝臓コンパートメントを再増殖させる方法を提供する。この方法では、(a)分離肝前駆細胞を用いること、及び(b)前記分離肝前駆細胞を、哺乳類の肝臓コンパートメントに投与することを含んで構成され、前記投与は、低レベルの免疫抑制剤を伴って行われる。投与は、移植又は注射により行われてもよい。また、低レベルの免疫抑制剤とは、約0mg〜約10mgの範囲である。より好ましくは、低レベルの免疫抑制剤とは、約0mg〜約5mgである。
【0008】
尚、当業者であれば、本開示の基礎となる思想は、本発明の複数の目的を実現するための他の構造、方法及びシステムの設計の基礎として容易に利用され得ることが理解できる。したがって、このような均等な構造は、本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、特許請求の範囲に含まれるものと解されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、免疫抑制剤を必要とする場合であっても現行の標準用量までは必要としない、哺乳類への肝前駆細胞の移植方法を提供する。すなわち、本発明の好ましい実施形態では、肝前駆細胞を、免疫抑制剤の同時投与を殆ど又は全く伴わずに同種異系ホストに導入し、その拒絶を予防する。
【0010】
現在、同種異系レシピエントへの部分肝移植又は全肝移植は、全てではないとしてもその多くが、移植組織の免疫拒絶(すなわちGVHD)を予防するために免疫抑制剤の使用を必要としている。使用される免疫抑制剤の用量及び期間は、種々のファクター、例えば、組織の相対的な遺伝子的「適合」に応じて移植片間で大きく異なるものの、本発見及び本発明は、薬物使用を全体的に大幅に減少させうるものである。代表的な免疫抑制剤には、限定を意図するものではないが、プレドニゾン(例えば、ORASONE(登録商標))、アザチオプリン(例えば、IMURAN(登録商標))、シクロスポリン(例えば、SANDIMMUNE(登録商標)、NEORAL(登録商標))及びミコフェノール酸(例えば、CELLCEPT(登録商標))が含まれる。
【0011】
現在、代表的な免疫抑制剤の用量は、約5mg〜約20mgの範囲である(下表1参照)。本発明は、免疫抑制量未満(sub-immune suppressing amount)の免疫抑制剤を用いるか、又は、好ましくは免疫抑制剤を一切用いない、肝細胞の同種異系移植を提供する。換言すれば、個々のレシピエントにおいて、免疫抑制剤の免疫抑制量未満とは、そのレシピエントそれぞれの免疫応答を抑制する量未満の量として定義される。免疫抑制を達成する免疫抑制剤の最適用量を測定するものとしては幾つかのアッセイが実施可能であり、またこれらは当業者に公知である。これらの試験には、例えば、定量的ラジオレセプタアッセイ、シンチレーション近接アッセイ、MTTアッセイ並びに市販の臨床キット及び分析器(例えば、Abbott Laboratories社の微粒子酵素免疫測定法(MEIA法)を用いたIMx(登録商標)シロリムスアッセイ、及びRoche Diagnostics社のCEDIA CsA PLUS)が含まれる。また、後述するようなインビトロアッセイによっても、インビボでの有効量曲線と適当な相関が得られる。本明細書において用いられるように、最適用量反応の約30%未満、好ましくは約60%未満、より好ましくは約90%未満の用量反応を、免疫抑制未満(sub-immune)と定義する。代表的には、本発明の免疫抑制用量未満の用量は、好ましくは約0mg〜約10mg、より好ましくは約0mg〜約5mg、更に好ましくは、約0mg〜約3mgである。
【0012】
【表1】

【0013】
本発明は、病変又は機能不全の肝臓組織を他の健康なドナーの組織細胞で再増殖させ得る点で有用である。病変又は機能不全の肝臓を正常に機能している肝臓組織で再増殖することにより、機能不良組織から失われた活性を、少なくとも部分的に、置換することができる。このようにして肝臓の病気を治療することが可能となる。
【0014】
以下、本発明を、限定を意図しない実施例により説明する。
【0015】
(ヒト細胞の分離)
本発明における、インビトロ増殖に適した肝前駆細胞は、特定の方法により分離又は同定されるものに限定されるものではない。例として、肝前駆細胞の分離同定方法は、例えば、米国特許第6,069,005号、米国特許出願第09/487,318号、第10/135,700号及び第10/387,547号に記載されている。尚、これらの開示内容は、その全体が参照により本開示に含まれるものである。
【0016】
肝幹細胞及び肝芽細胞(hepatoblast)は、特徴的な抗原性特性を有しているため、上述のプロトコルで分離可能である。例えば、肝幹細胞及び肝芽細胞は、例えば、肝幹細胞及び肝芽細胞は、多数の抗原(例えば、サイトケラチン8、18、19、アルブミン、CD133/1、上皮細胞接着分子(EpCAM))を共通で発現し、造血マーカー(例えば、グリコホリンA、CD34、CD38、CD45)及び間葉細胞マーカー(例えば、CD146)には陰性である。一方で、肝幹細胞及び肝芽細胞の区別は、サイズ(幹細胞は7〜9μm、肝芽細胞は10〜12μm)、又は抗原性特性(N−CAMは肝幹細胞に存在する一方、アルファ‐フェトプロテイン(AFP)及びICAM1は肝芽細胞で発現する。)により可能である。
【0017】
本実施例では、同所性肝移植に適さない提供肝臓を、米国の指定臓器調達機関から入手した。肝臓を研究目的で使用することに対して近親者からインフォームドコンセントを得た。細胞を分離するために、成体及び小児の肝臓において門脈及び肝動脈からEGTAを含むバッファーを15分間、その後リベラーゼ(Roache社)125mg/Lを30分間34℃で灌流させた。得られた細胞を、孔径が1000、500、250及び150ミクロンのフィルタに順次通過させ、500xgで密度勾配を利用して遠心分離した。
【0018】
(磁気細胞選択)
磁気細胞選択は、特異的な表面抗原を発現する細胞を、異種細胞からなる集団から分離する場合に便利な方法である。一実施形態では、市販されているシステム(「MACS」マイクロビーズ、Miltenyi Biotec社)を用いて、肝前駆細胞のマーカーであるEpCAM陽性細胞を選択するタスクを実行した。標的抗原のモノクローナル抗体は、酸化鉄及び多糖類コーティングからなる超常磁性マイクロビーズに結合される。このマイクロビーズは、直径が約50ナノメートル、体積は典型的な哺乳類細胞の100万分の1である。このマイクロビーズは十分に小さいためコロイド懸濁液として存在し、このため細胞表面分子に急速にまた効率的に抗体性結合を形成することができる。製造者であれば、このマイクロビーズは、フローサイトメトリに干渉せず、生分解性であり、細胞機能に殆ど影響を及ぼさないことが理解できる。
【0019】
選択に使用される抗体は、上述のような直接的方法又は次の間接的方法で用いてもよい。間接的方法では、ビーズをリガンド(例えば、フルオレセイン又はビオチン)のモノクローナル抗体に共有結合させ、リガンドで修飾された表面結合モノクローナル抗体を細胞の捕捉に使用する。直接的又は間接的免疫選択法のいずれであっても、標識ビーズと共にインキュベートした細胞を強磁場存在下でカラムに通過させ、抗原陽性細胞が保持され、陰性細胞が洗い流されるようにする。磁場を取り除いた後、陽性として標識された細胞を回収する。
【0020】
(抗原マーカーのFAC分析)
細胞表面マーカー(例えば、EpCAM)では、1×10個を500xg5分間でペレット化し、2%FBS及び0.01%NaNを含有するPBS100μLに再懸濁させた。その後、1μgの標的抗体を添加し、氷上暗所で30分間インキュベートした。その後細胞をPBSで2回洗浄し、最終的に得られた細胞ペレットを1%パラホルムアルデヒド0.5mLに再懸濁した。細胞を適切に制御するために、1μgのマウスIgG1 FITC及びマウスIgG1 PEを添加した。
【0021】
(免疫原性に関する混合リンパ球反応)
インビトロの相対免疫原性を評価するために、混合リンパ球反応(mixed lymphocyte reaction、MLR)アッセイを用いた。このアッセイは、同種異系刺激細胞集団でのT細胞(反応細胞)の増殖を測定する。概略的には、ヒト末梢血単核球(PBMC)を、フィコール‐ハイパーク法による遠心分離で全血から精製した。この細胞、及びPBMC集団から分離したT細胞を、MLRにおいて反応細胞として用いた。B細胞及び単球を抗体コート磁性ビーズでタグ付けし、これらを磁石で除去することによって、ネガティブセレクション法でT細胞を濃縮した。刺激細胞には、新鮮な分離肝細胞及び分離肝前駆細胞を用いた。
【0022】
アッセイの間に刺激細胞が増殖しないように、刺激細胞集団のそれぞれにマイトマイシンC処理(マイトマイシンC10μg/mLで3時間)又は放射線照射を行った。ドナー以外の固体から得た反応細胞であるT細胞(ロイコパック(leukopack)を、Poietics社より購入)を、様々な数の各刺激細胞集団(0.2〜2.0×10cells/well)と共に、96穴平底プレート中の5%ヒトAB血清添加組織培養培地において培養した(2×10cells/well)。またこれとは別に、コントロール培養を反応細胞又は刺激細胞の単独培養で行った。各処理について4通りの培養物で行った。培養物を、加湿5%CO含有雰囲気下、37℃でインキュベートした。その後、培養物を、1μCi/wellのH‐チミジンで16時間パルスし、ガラス繊維ろ紙で回収して、シンチレーションカウンターで計数した。
【0023】
取り込まれた放射能の量(cpm)は、T細胞の増殖に比例した。刺激細胞集団に対するT細胞反応から、単独で培養した反応細胞及び刺激細胞集団のバックグラウンドを適宜減算してデルタcpmを算出した。
【0024】
(免疫抑制に関する混合リンパ球反応(MLR))
MLRアッセイを、同種異系刺激細胞集団を用いて、基本的には上述のように行った。この反応では、コントロールとして非抑制脾臓線維芽細胞(5×10、10×10及び20×10個)を測定(titrate)した。「実験」において、新鮮な分離前駆細胞との並列反応(parallel reaction)を測定(titrate)した。その後、T細胞に取り込まれたH‐チミジンを測定した。コントロールと同等又はそれ以上のH‐チミジンが取り込まれたことを示す実験値レベルからは、肝前駆細胞は免疫反応を抑制できないことが示された。
【0025】
(結果)
ここでは、肝細胞の未分画混合物(Umix)及びUmix細胞を3日培養して得られた接着細胞集団(拡大肝実質細胞、Expanded Hepatocytes、Exp Hep)を研究した。図1に示されるように、未分画PBMCは、照射Umix及び拡大肝実質細胞に対して、自己(Auto)バックグラウンド反応よりも有意に(P<0.05)強い反応を、6000/well、30000/well及び150000/well(拡大肝実質細胞のみ)の用量レベルにおいて示した。更に、拡大肝実質細胞に対する反応は、Umix細胞に対する反応よりも全ての用量において有意に高くなった(p<0.05)。最高用量である150000肝細胞/wellにおける反応は弱く、これはおそらく集密によるものと考えられる(30000cells/well用量においてUmix細胞及び拡大肝実質細胞は大きく、ウェルを完全に覆っていたため)。最低用量の刺激細胞(肝細胞の両集団)は、同種異系PBMCよりも刺激性を有した。より高用量では、PBMCはより刺激性を有した。
【0026】
図2に示すように、精製T細胞は、Umix及び拡大肝実質細胞に対して同様の反応パターンを示した。拡大肝実質細胞は、全ての用量においてT細胞をバックグラウンドレベルよりも有意に刺激し、拡大肝実質細胞集団に対するT細胞の反応は、Umix細胞に対する反応よりも有意に高くなった。精製T細胞(抗原提示細胞(APC)欠損)は、拡大肝実質細胞に対して強く反応し、この細胞がAPCとして機能し得ることを示唆した。T細胞は、PBMC細胞(APC含有)を反応細胞としたときよりもUmix集団に対しての反応は弱く、この反応から、外部APC源が必要とされることが示唆された。
【0027】
同様の実験を、まず、EpCAMの抗体で免疫選択され磁気細胞分離法(MACS)で分離された成体の肝幹細胞/肝前駆細胞を用いて行った。FAC分析によれば、分離細胞集団の純度は約82%であった。図3は、これらの細胞のMLR実験結果を示している。末梢血単核細胞(PMBC、図3(A)、3×10個)及び精製T細胞(図3(B)、2×10個)からなる反応細胞を、自己PMBC(xAuto)、同種異系PMBC(xAllo)、又は成体肝前駆細胞(xHep)からなる刺激細胞と混合した。これらの刺激細胞を異なる量で試験した(図中の各棒は、左=12.5×10個、中=25×10個、右=50×10個を示す。)。
【0028】
同種異系PMBCは、取り込んだH‐チミジンの増加によって検出された様に、増殖性T細胞集団の免疫応答を誘導した。一方、成体肝前駆細胞に対するT細胞の増殖の程度と、自己PBMCコントロールに対する反応とでは、有意な違いは見られなかった。これらのデータは、成体肝幹細胞/肝前駆細胞は免疫原性ではないという結論を支持するものである。
【0029】
別の試料(preparation)による成体肝幹細胞/肝前駆細胞を用いて、これらの細胞の免疫原性を評価する実験を行った。更に、これら細胞の免疫抑制能を評価するための実験も行った。図4〜7は、EpCAM+細胞がPMBC及びT細胞の2つの異なるドナーのいずれかによるT細胞の増殖反応を刺激しないことを示している。
【0030】
図8には、免疫抑制実験の結果を示す。このデータからは、成体の肝幹細胞/肝前駆細胞は、MLR反応を抑制しないことが示されている。この実験により、EpCAM細胞は免疫抑制能を持たないとの結論が得られた。
【0031】
以上をまとめると、Umix及び拡大肝実質細胞は共に免疫原性であり、これらは自己PMBCに対するバックグラウンド反応よりも有意に強くT細胞増殖を刺激する。更に、拡大肝実質細胞は、Umix細胞よりも有意に免疫原性であり、精製T細胞を直接的に刺激しており、ここから、拡大肝実質細胞(又はその亜集団)が抗原提示細胞として機能し得ることが示唆される。一方、Umix細胞は、反応細胞であるPMBCと比較して精製T細胞への刺激が弱く、ここから、Umix細胞はAPCとして機能せず、反応を刺激するためにPBMC集団からAPCの助けを必要とすることが示唆される。
【0032】
これらのデータは、両細胞集団(Umix及び拡大肝実質細胞)は、無処理免疫系を有する同種異系レシピエントに移植されたときに、T細胞の反応を誘導する傾向にあることを示唆している。拡大肝実質細胞集団は、インビボではUmix細胞よりも強い免疫応答を誘導すると予測される。
【0033】
成体肝幹細胞/肝前駆細胞は、自己PMBC対するバックグラウンド反応よりも有意に強いT細胞増殖への刺激は認められなかったことから、免疫原性では無いと考えられる。同様に、成体肝幹細胞/肝前駆細胞は、自己PMBCに対するバックグラウンド反応よりも有意に強くT細胞の増殖を抑制しなかったことから、免疫抑制性ではない。最後に、結果からは、成体肝幹細胞/肝前駆細胞(EpCAM陽性細胞)は、MHC分子を全く又は殆ど発現せず(おそらくクラスIIはなし)、共起刺激分子(CD80、CD86)の発現は殆ど見られないことが示唆されている。したがって、成体肝幹細胞/肝前駆細胞(EpCAM陽性細胞)は、同種異系細胞移植の候補としてふさわしいと考えられる。
【0034】
実際、EpCAM、Alb及びCK19の発現により定義される成体由来ヒト肝幹細胞/肝前駆細胞は、免疫特権肝細胞治療薬として有用である。成体由来ヒト肝幹細胞/肝前駆細胞を用いるインビボ異種移植生存アッセイでは、従来サイト(即ち非免疫特権サイト)に移植してもよく、例えば、確立された技術を用いて腎臓皮膜下に移植してもよい。望ましくは、同数の成体由来成熟肝実質細胞をコントロールの動物に移植する。
【0035】
レシピエントマウスの側腹部に皮膚切開を行い、筋肉壁(muscle wall)を切開し、そして腎臓を露出させた。腎臓と腎皮質との間の被膜下にポケットを形成し、このポケットに移植に用いる細胞を配置した。この腎臓を腹腔内に再配置し、クリップで皮膚を閉じた。インビボでの移植片生存評価は、手術用顕微鏡を用いて移植後の所定の時間において目視検査により行った。移植片の外見(例えば、壊死)及び血管の内殖を経時変化(例えば、1時間、1、7、14、21、28日)で評価した。
【0036】
加えて、腎臓被膜下に配置した移植片の凍結切片の同様の経時変化について、CD45の組織化学的研究を行っても良い。CD45抗原は、チロシンホスファターゼであり、白血球共通抗原(LCA)としても知られている。CD45は、赤血球系細胞、血小板及びこれらの前駆細胞を除く全ての造血起源ヒト細胞に存在する。CD45分子は、T細胞及びB細胞の活性化に必要とされ、細胞の活性化状態に応じて少なくとも5つのアイソフォームで発現する。一般的に、移植サイトにCD45+細胞の蓄積がないことは、ホストによる免疫応答がないことを示し、移植された細胞が非免疫原性であるという概念を支持するものである。成体ヒト肝幹細胞/肝前駆細胞の移植では、このような結果が予測される。反対に、成体由来成熟肝実質細胞を移植したコントロール(対照)マウスでは、移植細胞の壊死、血管内殖不良、及びCD45+細胞の蓄積として、強い免疫応答が示された。
【0037】
このように、実質的に非免疫原性である肝幹細胞を肝機能障害治療に使用することにより、代表的な免疫抑制剤の必要性を大幅に又は完全に低減することができる。したがって、肝幹細胞は、病変又は機能不全肝臓組織を哺乳類患者において再増殖させ、これにより失われた肝機能を一部で回復させることができる。
【0038】
実験室において、この能力は、例えば、メスBalb/cマウス(8〜12週齢)を用い、催奇形物質(例えば、CCl)を体重1kgあたり1mL、肝障害を誘導するために1週間に2回、計8回にわたり注射して測定する。このマウスで、アラニントランスアミナーゼの血液化学検査を、処理期間を肝障害が示されるまでに設定して行った。未処理コントロールマウスと比較する酵素レベル評価は、試験に供する前の動物で行う。レシピエントマウスへの成体ヒト肝幹細胞の移植は、脾臓内注射により行う。
【0039】
種々の投与量の細胞を、好ましくは、最大用量を10cells/マウスとして、各条件下で10体の動物のコホートに移植する。肝機能の改善を判定基準(アラニントランスアミナーゼ、アルブミン、総タンパク質量、コレステロール及びトリグリセリド)から明らかとするために、動物の経時変化をモニタリングする。尚、研究の間に障害の兆候を示した動物は安楽死させ、死亡をエンドポイントとしなかった。
【0040】
したがって、各移植条件下の5つのグループの動物を、移植4及び16週間後に安楽死させる。その後、臓器を回収する。回収する臓器は、肝臓、腎臓、脳、心臓、肺、及び脾臓である。また、ルーチンの血液化学検査及びCBC用に血清標本を得た。同様に、臓器で免疫組織化学検査、H&E染色、及びRNA分析を行った。標本は、抗体で染色し、移植細胞のマーカーを検出する(抗β-ガラクトシダーゼ抗体)。
【0041】
或いは、Y染色体を検出するFISH分析を行って、移植オス細胞の同定を行う。連続切片で肝臓タンパク質(肝臓中)の発現をモニターし、DAPI染色を行って細胞の倍数性を測定した(細胞融合の可能性を評価するため)。脾臓、腎臓、脳、肺、心臓の連続切片は、肝臓外での移植細胞を実証するためのものである。
【0042】
他のアプローチとして、成体ヒト肝幹細胞をApoE欠損マウスに移植してもよい。簡単に説明すると、Apoetm1Unc変異のホモ結合であるマウスは、年齢又は性別に影響されないで総血漿コレステロールレベルの顕著な増加を示す。3月齢において、近位大動脈内の脂肪線条が見られる。病変部は年齢と共に増加し、そして前動脈硬化性病変の更に進行した段階において典型的で脂質が少なく細長い細胞を伴った病変に進行する。この変異を有する混合C57BL/6x129の遺伝的背景のマウスにおいて、トリグリセリドレベルの中程度の増加が報告されている。老年期のApoE欠損マウス(>17月齢)では、脳において主として結晶性コレステロール裂、脂質球、及び泡沫細胞からなる黄色腫性病変が進行することが示されている。より小さな黄色腫が、脈絡叢及び腹側脳弓において認められた。最近の研究では、ApoE欠損マウスでは、ストレス応答の変化、空間学習及び記憶への障害、長期増強現象の変化、及びシナプスの損傷が見られることが示されている。
【0043】
このマウスを、脾臓内注射により成体ヒト肝幹細胞を4〜6週齢ホモ接合B6.129P2−Apoetm1Uncマウスに移植するためのホストとして用いてもよい。このレシピエントグループは、次の各グループにおいて動物を5体含むこととしてもよい。グループ1は、コントロールとして生理食塩水を注射し、細胞は注射せず、グループ2は、1×10個のヒト肝細胞、グループ3は、2×10個のヒト肝細胞、グループ4は、5×10個のヒト肝細胞、そして、グループ5は、1×10個のヒト成熟肝実質細胞とする。移植実験では、歴史的対照から約15%の死亡率が予測される。
【0044】
移植後の経時変化によるエンドポイント分析では、ApoEが含まれる(ウエスタンブロット分析により、2、4、8、12週の時点で分析)。欠損マウスにおいて成体ヒト肝幹細胞移植後にApoEが検出されたことから、これらの細胞は、レシピエントの免疫抑制を伴わない肝機能の再構築に使用可能であるとの概念が支持される。
【0045】
本発明は、その具体的な実施形態と関連させて記載したが、これを更に変更可能であることは理解され得るものであり、また、この出願は、本発明の如何なる変形、使用又は改変をも含むことを意図していると理解されるものである。一般的に、本発明の原理は、本発明の属する技術分野において知られる又は慣行されるような本開示からの逸脱、及びこれまでに開示され又は特許請求の範囲において示される本質的特徴に適用し得る逸脱をも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】同定肝細胞集団に対する未分画PBMCの反応を示す図である。
【図2】同定肝細胞集団に対する精製T細胞の反応を示す図である。
【図3】同定細胞集団で行った混合リンパ球反応アッセイの結果を示す図であり、(A)はPBMC反応、(B)は精製T細胞反応を示す。
【図4】EpCAM陽性肝細胞に対する精製T細胞の反応を示す図である。
【図5】EpCAM陽性肝細胞に対する他の精製T細胞反応を示す図である。
【図6】EpCAM陽性肝細胞に対する更に他の精製T細胞反応を示す図である。
【図7】EpCAM陽性肝細胞に対する更に他の精製T細胞反応を示す図である。
【図8】EpCAM陽性細胞による混合リンパ球反応の抑制を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類の肝臓コンパートメントを再増殖させる方法であって、
(a)分離非免疫原性肝前駆細胞を用いること、及び
(b)前記分離肝前駆細胞を、免疫抑制量の免疫抑制剤の非存在下で前記哺乳類の肝臓コンパートメントに導入すること
を含んで構成される方法。
【請求項2】
前記分離肝前駆細胞は、移植又は注射により導入される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
免疫抑制量未満の免疫抑制剤が、前記哺乳類に投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記免疫抑制量未満は、前記哺乳類の体重1kgあたりの免疫抑制剤が約10mg未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記免疫抑制量未満は、前記哺乳類の体重の1kgあたりの免疫抑制剤が約5mg未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記免疫抑制量未満は、前記哺乳類の体重の1kgあたりの免疫抑制剤が約3mg未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
前記免疫抑制量未満は、前記哺乳類の体重の1kgあたりの免疫抑制剤が約0.1mg未満である、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
前記免疫抑制剤は、プレドニゾン、アザチオプリン、シクロスポリン、及びミコフェノール酸からなる群より選択される、請求項3に記載の方法。
【請求項9】
前記哺乳類は、ヒト以外の哺乳類である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記哺乳類は、ヒトである、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記ヒトは、同種異系レシピエントである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記同種異系レシピエントは、免疫低下しておらず、免疫特権も持たない、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記分離非免疫原性肝前駆細胞は、更に非免疫抑制性であると特徴付けられる、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記分離非免疫原性肝前駆細胞は、EpCAM発現陽性である、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−521459(P2009−521459A)
【公表日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−547505(P2008−547505)
【出願日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際出願番号】PCT/US2006/048650
【国際公開番号】WO2007/075812
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(505024017)ヴェスタ セラピューティクス,インコーポレーテッド (3)
【Fターム(参考)】