肝細胞増殖因子に対するモノクローナル抗体
【課題】インビトロおよびインビボでHGFの生物学的活性を遮断する単一のモノクローナル抗体に対する必要性が存在する。本発明は、この必要性および他の必要性を満たす。
【解決手段】本発明は、肝細胞増殖因子に対する中和モノクローナル抗体、およびそのモノクローナル抗体を含む薬学的組成物、および例えば神経膠腫を阻害するためにそのような薬学的組成物を患者に投与する工程を包含する処置方法に関する。そのモノクローナル抗体は、ヒト肝細胞増殖因子(HGF)に結合し、かつHGFを中和する。このモノクローナル抗体は、少なくとも1つのHGFの生物学的活性、好ましくは複数または全てのHGFの生物学的活性を阻害する。
【解決手段】本発明は、肝細胞増殖因子に対する中和モノクローナル抗体、およびそのモノクローナル抗体を含む薬学的組成物、および例えば神経膠腫を阻害するためにそのような薬学的組成物を患者に投与する工程を包含する処置方法に関する。そのモノクローナル抗体は、ヒト肝細胞増殖因子(HGF)に結合し、かつHGFを中和する。このモノクローナル抗体は、少なくとも1つのHGFの生物学的活性、好ましくは複数または全てのHGFの生物学的活性を阻害する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2004年4月15日に出願された米国特許出願第10/825,060号の一部継続出願である。米国特許出願第10/825,060号は、2003年4月18日に出願された米国仮特許出願第60/464,061号の利益を主張する。これらのいずれも、全ての目的のためにその全体が参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般的に、新規の生物製剤を開発するための、モノクローナル抗体(mAb)と組み換えDNA技術との組み合わせに関し、より具体的には、例えば、肝細胞増殖因子に結合し、かつこれを中和するモノクローナル抗体の産生に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ヒト肝細胞増殖因子(HGF)は、間葉細胞によって産生される多機能性ヘテロ二量体ポリペプチドである。HGFは、新脈管形成、形態形成および細胞遊走誘発(motogenesis)、ならびに種々の細胞型の増殖および分散を刺激することが示されている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。HGFの多面的な活性は、そのレセプターである、プロトオンコジーンcMetによってコードされる膜貫通チロシンキナーゼを介して媒介される。種々の正常な細胞機能を制御することに加えて、HGFおよびそのレセプターであるcMetは、腫瘍のイニシエーション、浸潤、および転移に関与することが示されている(非特許文献6;非特許文献7)。HGF/cMetは、種々のヒト固形腫瘍(肺、結腸、直腸、胃、腎臓、卵巣、皮膚、多発性骨髄腫および甲状腺組織に由来する腫瘍を含む)において、共発現され、しばしば過剰発現される(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。HGFは、これらの腫瘍に対して、オートクリン増殖因子(非特許文献12;非特許文献13)およびパラクリン増殖因子(非特許文献10)および抗アポトーシス制御因子(非特許文献14)として機能する。
【0004】
HGFは、プラスミノゲンおよび血液凝固の他の酵素に対して配列類似性および構造類似性を有する102kDaのタンパク質である。(非特許文献15;非特許文献10;これらの各々は、本明細書中に参考として援用される)(図1)。ヒトHGFは、728アミノ酸前駆体(プレプロHGF)として合成され、このプレプロHGFが不活性な単鎖形態(プロHGF)へ細胞内切断を受ける(非特許文献15;非特許文献16)。細胞外分泌の際に、プロHGFが切断され、α−サブユニットおよびβ−サブユニットからなる、生物学的に活性なジスルフィド結合したヘテロ二量体分子がもたらされる(非特許文献15;非特許文献17)。上記α−サブユニットは、N末端ヘアピンドメインおよび4つのクリングルドメインからなる、440残基(グリコシル化されて69kDa)を含有する。上記β−サブユニットは、234残基(34kDa)を含有し、セリンプロテアーゼ様ドメイン(タンパク質分解活性は欠く)を有する。HGFの切断は、レセプターの活性化のために必要とされるが、レセプターの結合のためには必要とされない(非特許文献18;非特許文献19)。HGFは、4つの推定上のN−グリコシル化部位を含み、1つは上記α−サブユニットに、3つは上記β−サブユニットに存在する。HGFは、2つの独特の細胞特異的結合部位:cMetレセプターに対する高親和性(Kd=2x10−10M)結合部位および硫酸ヘパリンプロテオグリカン(HSPG)に対する低親和性(Kd=10−9M)結合部位、を有し、これらは細胞表面および細胞外基質に存在する(非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22)。NK2(上記α−サブユニットのN末端および最初の2つのクリングルドメインを含むタンパク質)は、cMetへの結合および運動性に関するシグナルカスケードの活性化のためには十分であるが、全長のタンパク質がマイトジェンの応答のためには必要とされる(非特許文献10)。HSPGは、HGFのN末端と相互作用することによってHGFに結合する(非特許文献22;非特許文献23)。HSPG−HGF相互作用の想定される役割としては、HGFバイオアベイラビリティー、生物学的活性およびオリゴマー形成の強化が挙げられる(非特許文献21;非特許文献24)。
【0005】
cMetは、クラスIVタンパク質チロシンキナーゼレセプターファミリーのメンバーである。全長cMet遺伝子は、cMetプロトオンコジーンとしてクローニングおよび同定された(非特許文献25;非特許文献26)。このcMetレセプターは、最初に、単鎖の、部分的にグリコシル化された前駆体であるp170(MET)(図1)として合成される(非特許文献21;非特許文献26;非特許文献27;非特許文献28)。さらなるグリコシル化の際に、このタンパク質が、50kDaのα−サブユニット(残基1〜307)および145kDaのβ−サブユニットからなる、ヘテロ二量体の190kDa成熟タンパク質(1385アミノ酸)に、タンパク質分解により切断される。このβ−サブユニットの細胞質内のチロシンキナーゼドメインは、シグナル伝達に関与する。
【0006】
いくつかの異なるアプローチが、上記HGF/cMet相互作用のアンタゴニスト性の分子:例えば、NK1(N末端ドメイン+クリングルドメイン1;非特許文献19)、NK2(N末端ドメイン+クリングルドメイン1およびクリングルドメイン2;非特許文献29)、NK4(N末端ドメイン+4つのクリングルドメイン;非特許文献30)、抗cMet mAb(Dodge,Master’s Thesis,San Francisco State University,1998)、ならびに抗HGF mAb(非特許文献31;これは本明細書中に参考として援用される)のような短縮型HGFタンパク質を得るために研究されている。
【0007】
NK1およびNK2は、HGFのそのレセプターとの結合と効率的に競合し得るが、所望されるような純粋なアンタゴニスト活性よりもむしろ部分的なアゴニスト活性を有することがインビトロで示されている(非特許文献32;非特許文献33)。より最近は、非特許文献30が、NK4が、ヌードマウスモデルにおいて、継続的なNK4の注入により、マウス肺腫瘍LLCの一次増殖(図2)および転移を部分的に阻害し得ることを実証した。原発腫瘍の部分的な増殖の阻害を得るためにNK4が継続的に投与されなければならなかったという事実は、そのNK4分子の潜在的に短い半減期および/または効力の欠如を示している。NK4と比較して、抗体を使用するアプローチは、その抗体の好ましい薬物動態および非常に大きい効力を有する抗体を得る可能性から、有利である。
【0008】
別のアプローチとして、Dodge(Master’s Thesis,San Francisco State University,1998)は、アンタゴニスト性の抗cMetモノクローナル抗体(mAb)を生成した。1つのmAbである5D5は、ELISAにおいて強力なアンタゴニスト活性を示したが、おそらく膜レセプターの二量体化に起因して、cMet発現BAF−3細胞の増殖応答を誘導した。非特許文献34もまた、抗cMet mAbのそのようなアゴニスト活性を報告した。非特許文献35は、ファージディスプレイ法を使用して、マウス肝細胞増殖因子およびヒト肝細胞増殖因子に対するヒトFabフラグメントの開発を行った。これらのFabフラグメントは、単独で使用された場合は、HGFの活性に影響を有さなかった。抗ヒトHGF Fabフラグメントの1つがそのFabフラグメント自体に結合された抗体と組み合わされた場合、それは、生物学的アッセイにおいてHGFの活性を実際に強化する。
【0009】
非特許文献31は、3つの抗HGF mAb(これらの抗体は、インビトロでHGFの
分散活性を阻害するその抗体の能力に基づいて選択された)のカクテルの投与が、異種移植片ヌードマウスモデルにおいてヒト腫瘍の増殖を阻害することができる(図3)ことを実証した。非特許文献45の著者らは、HGFの3つの異なる結合部位を認識する3つのmAbが、インビボにおいてHGFの生物活性を阻害するのに必要とされ:2つのmAbはHGFのcMetへの結合を阻害し、1つのmAbはHGFのヘパリンへの結合を阻害する、と推定した。しかしながら、例えば、各抗体のいつくかの臨床的活性は独立して実証される必要があるため、3つの新規のmAbを組み合わせた薬物を開発するのは、商業的理由および規制的理由から現実的ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bussolinoら,J.Cell.Biol.1992年、119:629
【非特許文献2】ZarnegarおよびMichalopoulos,J.Cell.Biol.1995年、129:1177
【非特許文献3】Matsumotoら,Ciba.Found.Symp.1997年、212:198
【非特許文献4】BirchmeierおよびGherardi,Trends Cell.Biol.1998年、8:404
【非特許文献5】Xinら、Am.J.Pathol.2001年、158:1111
【非特許文献6】Jeffersら,J.Mol.Med.1996年、74:505
【非特許文献7】ComoglioおよびTrusolino,J.Clin.Invest.2002年、109:857
【非特許文献8】Pratら、Int.J.Cancer、1991年、49:323
【非特許文献9】Chanら、Oncogene、1988年、2:593
【非特許文献10】Weidnerら、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.1993年、8:229
【非特許文献11】Derksenら、Blood、2002年、99:1405
【非特許文献12】Rongら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1994年、91:4731
【非特許文献13】Koochekpourら,Cancer Res.1997年、57:5391
【非特許文献14】Gaoら,J.Biol.Chem.2001年、276:47257
【非特許文献15】Nakamuraら,Nature、1989年、342:440
【非特許文献16】Rosenら,J.Cell.Biol.1994年、127:1783
【非特許文献17】Naldiniら,EMBO J.1992年、11:4825
【非特許文献18】Hartmannら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1992年、89:11574
【非特許文献19】Lokkerら,J.Biol.Chem.1993年、268:17145
【非特許文献20】Naldiniら,Oncogene、1991年、6:501
【非特許文献21】Bardelliら,J.Biotechnol.1994年、37:109
【非特許文献22】Sakataら,J.Biol.Chem.1997年、272:9457
【非特許文献23】Aoyamaら,Biochem.1997年、36:10286
【非特許文献24】Zioncheckら,J.Biol.Chem.1995年、270:16871
【非特許文献25】Cooperら,Nature、1984年、311:29
【非特許文献26】Parkら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1987年、84:6379
【非特許文献27】Giordanoら,Nature 1989年、339:155
【非特許文献28】Giordanoら,Oncogene 1989年、4:1383
【非特許文献29】Chanら,Science 1991年、254:1382
【非特許文献30】Kubaら,Cancer Res.2000年、60:6737
【非特許文献31】Caoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2001年、98:7443
【非特許文献32】Cioceら,J.Biol.Chem.1996年、271:13110
【非特許文献33】Schwallら,J.Cell Biol.1996年、133:709
【非特許文献34】Pratら,J.Cell Sci.1998年、111:237
【非特許文献35】Zaccoloら,Eur.J.hnmunol 1997年、27:618
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、インビトロおよびインビボでHGFの生物学的活性を遮断する単一のモノクローナル抗体に対する必要性が存在する。本発明は、この必要性および他の必要性を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の簡単な要旨)
1つの実施形態において、本発明は、ヒト肝細胞増殖因子(HGF)に対する中和mAbを提供する。このmAbは、少なくとも1つのHGFの生物学的活性、好ましくは複数または全てのHGFの生物学的活性を阻害する。このHGFの生物学的活性としては、そのレセプターであるcMetへの結合、Mardin−Darbyイヌ腎臓細胞のような細胞の分散の誘導、4MBr−5サル上皮細胞および/または肝細胞および/またはHUVECの増殖の誘導、ならびに新脈管形成の誘導が挙げられる。この抗HGF mAbは、単一の因子として使用された場合に、このような活性を阻害し得る。好ましい抗HGF
mAbは、マウスにおいてヒト腫瘍移植片の増殖を阻害し、最も好ましくは完全に阻害する。好ましくは、本発明のmAbは、キメラ、ヒト化、ヒト様、またはヒトのものである。例示的な抗体は、L2G7ならびにそのキメラ形態およびヒト化形態である。そのような抗体を産生する細胞株もまた、提供される。別の実施形態において、中和抗HGF抗体(例えば、キメラL2G7またはヒト化L2G7)を含む薬学的組成物が、提供される。第3の実施形態において、上記薬学的組成物は、癌または他の疾患を処置するために患者に投与される。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
ヒト肝細胞増殖因子(HGF)に結合し、かつ該HGFを中和する、モノクローナル抗体(mAb)。
(項目2)
キメラである、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目3)
ヒト化されている、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目4)
ヒトのものである、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目5)
HGFのcMetへの結合を少なくとも50%阻害する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目6)
Madin−Darbyイヌ腎臓細胞のHGF誘導性分散を阻害する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目7)
HUVEC細胞のHGF誘導性増殖を阻害する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目8)
HGF誘導性新脈管形成を阻害する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目9)
HGFの全ての生物学的活性を中和する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目10)
マウスにおいてヒト腫瘍異種移植片の増殖を阻害する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目11)
マウスにおいてヒト腫瘍異種移植片の増殖を完全に阻害する、項目10に記載のモノクローナル抗体。
(項目12)
FabフラグメントもしくはF(ab’)2フラグメントまたは単鎖抗体である、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目13)
少なくとも108M−1の結合親和性でHGFに特異的に結合する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目14)
キメラL2G7モノクローナル抗体またはヒト化L2G7モノクローナル抗体。
(項目15)
ヒトHGFへの結合について項目14に記載の抗体と競合する、抗体。
(項目16)
項目1に記載のモノクローナル抗体を産生する、細胞株。
(項目17)
項目14に記載のモノクローナル抗体を含む、薬学的組成物。
(項目18)
患者において癌を処置する方法であって、該方法は、該患者に、中和抗HGFモノクローナル抗体を含む薬学的組成物を投与する工程を包含する、方法。
(項目19)
上記癌はグリア芽細胞腫である、項目18に記載の方法。
(項目20)
上記モノクローナル抗体が、キメラL2G7モノクローナル抗体またはヒト化L2G7モノクローナル抗体である、項目18に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】HGFおよびcMetの概略モデル。
【図2】NK4がヌードマウスにおいてマウス肺癌LLCの一次成長を部分的に阻害することを示すグラフ(Kubaら,Cancer Res.60:6737,2000から)。NK4は、ヌードマウスにおける腫瘍移植皮下注射後4日目から14日間継続的に注入された。
【図3】3つの抗HGF mAbのカクテルが、ヌードマウスにおいてヒト脳腫瘍U−118細胞の増殖を阻害するのに必要とされることを示すグラフ(Caoら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:7443,2001から)。U−118腫瘍細胞は、ヌードマウスに皮下注射で注射された。1日目から、抗HGF mAb A−1、A−5およびA−7またはmAb 7−2および7−3が、1回の注射当たり200μgで、10週間に2回投与された。
【図4】競合結合ELISAを使用するmAb L1H4、L2C7、L2G7の相対的結合エピトープの測定。プレートは、組み換えHGF(rHGF)でコーティングされ、スキムミルクでブロッキングされ、非標識mAbの100×過剰量の存在下で最適以下の濃度のビオチン化mAbと一緒にインキュベートされた。ビオチン化mAb結合は、HRP−Strepavidinの添加によって検出された。
【図5】直接的HGF結合ELISAにおいて測定された場合の、rHGFへの抗HGF mAbの結合。プレートは、rHGFを含むHI−F11上清でコーティングされ、2%スキムミルクでブロッキングされ、mAbと一緒にインキュベートされた後にHRP−GαMIgGを添加した(上記実施例に記載される通り)。
【図6】抗HGF mAbの、溶液中でrHGF−Flagを捕捉する能力。抗HGF mAbは、ヤギ抗マウスIgGでコーティングされたELISAプレート上で捕捉された。次いでプレートは、2%スキムミルクでブロッキングされ、rHGF−Flagと一緒に、その後HRP−M2抗Flag mAbと一緒にインキュベートされた(上記実施例に記載される通り)。
【図7】捕捉ELISAにおける、抗HGF mAbによるcMet−FcへのrHGF−Flag結合の阻害。ヤギ抗ヒトIgGでコーティングされたプレート上で捕捉されたcMet−Fcは、mAbと一緒に/mAbなしで、プレインキュベートされたHGF−Flagと一緒にインキュベートされる。その結合rHGF−Flagを、HRP−M2抗Flag mAbの添加によって検出した(上記実施例に記載される通り)。
【図8】抗HGF mAb L2G7による、HGF誘導性MDCK分散の中和。(A)何の処理もしないコントロール。(B)rHGF+IgG。(C)rHGF+mAb L2G7。MDCK細胞は、10μg/mlのmAbの存在下で、1:20希釈のH1−F11培養上清(約3μg/mlのHGF)と一緒にインキュベートされた。写真は、100倍の倍率で撮影された。
【図9】L2G7 mAbによる、Mv 1 LU細胞のHGF誘導性増殖の阻害。HGFに対するmAbの過剰モル濃度倍数が、横軸上に示され、取り込まれたcpm×10−2が縦軸上に示される。データ点は、3連で得られた。
【図10】L2G7 mAbおよびコントロールのマウス抗体(mIgG)による、HUVECのHGF誘導性増殖の阻害。データ点は、3連で得られた。
【図11】L2G7抗体およびL1H4抗体による、HCT116結腸腫瘍細胞のHGF誘導性増殖の効果。データ点は、3連で得られた。
【図12】NIH III Beige/ヌードマウス(n=6)の群における、U−118腫瘍の増殖についての、L2G7 mAbまたはPBS(コントロール)での処置の効果。矢印は、注射を開始した時期を示す。(A)腫瘍移植からの日数に対する腫瘍サイズ。(B)実験終了時における腫瘍質量。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、中和抗HGFモノクローナル抗体、それらを含む薬学的組成物、および疾患の処置のためにそれらを使用する方法を提供する。
【0015】
(1.抗体)
抗体は、非常に大きく、複雑な内部構造を有する複合分子(約150,000の分子量または1320アミノ酸)である。天然の抗体分子は、同一な2対のポリペプチド鎖を含み、各対は、1つの軽鎖および1つの重鎖を有する。各軽鎖および重鎖は、順に、2つの領域:標的抗原への結合に関与する可変(「V」)領域、および免疫系の他の成分と相互作用する定常(「C」)領域、からなる。軽鎖可変領域および重鎖可変領域は、一緒に3次元空間に折り畳まれ、抗原(例えば、細胞の表面上のレセプター)に結合する可変領域を形成する。各軽鎖可変領域および重鎖可変領域内には、相補性決定領域(「CDR」)と呼ばれる3つの短いセグメント(平均10アミノ酸長)が存在する。抗体可変ドメインにおける6つのCDR(軽鎖由来の3つおよび重鎖由来の3つ)は、一緒に3次元空間に折り畳まれ、標的抗原上に固定する実際の抗体結合部位を形成する。そのCDRの位置および長さは、正確に規定されている。Kabat,E.ら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Department of Health and Human Services,1983,1987を参照のこと。そのCDRに含まれない可変領域部分は、フレームワークと呼ばれ、そのCDRのための環境を形成する。
【0016】
モノクローナル抗体(mAb)は、抗体の単一分子種であり、それゆえ、動物(例えば、げっ歯類、ウサギまたはヤギ)に抗原を注入し、その動物から血清を抽出することによって産生されたポリクローナル抗体を包含しない。ヒト化抗体は、遺伝的に操作された(モノクローナル)抗体であり、この抗体において、マウス抗体(「ドナー抗体」、これはまたラット、ハムスターまたは他の類似種のものであり得る)由来のCDRが、ヒト抗体(「アクセプター抗体」)上に移植されている。ヒト化抗体はまた、マウス抗体由来の完全未満のCDRで作製され得る(例えば、Pascalisら,J.Immunol.169:3076,2002を参照のこと)。従って、ヒト化抗体は、ドナー抗体由来のCDR、ならびにヒト抗体由来の可変領域フレームワークおよび定常領域を有する抗体である。従って、代表的なヒト化抗体は、(i)マウス抗体(例えばL2G7)由来の3つのCDR、ヒト抗体由来の可変領域フレームワーク、およびヒト定常領域を含む軽鎖、ならびに(ii)マウス抗体(例えば、L2G7)由来の3つのCDR、ヒト抗体由来の可変領域フレームワーク、およびヒト定常領域を含む重鎖、を含む。さらに、高結合能を維持するために、2つのさらなる構造エレメントのうちの少なくとも1つが利用され得る。米国特許第5,530,101号および同第5,585,089号を参照のこと。これらの各々は、本明細書中に参考として援用され、ヒト抗体の構築のための詳細な指示を提供する。
【0017】
第1の構造エレメントにおいて、上記ヒト化抗体の重鎖可変領域のフレームワークは、多くの公知のヒト抗体の中から適切にアクセプター抗体を選択することにより、ドナー抗体の重鎖可変領域のフレームワークと最大の配列同一性(65%と95%との間)を有するように選択される。配列同一性は、比較される抗体配列がKabatナンバリングの慣習に従ってアライメントされて決定される。第2の構造エレメントにおいて、ヒト化抗体の構築の際に、ヒトアクセプター抗体のフレームワークにおける選択されたアミノ酸(CDRの外側)が、指定されるルールに従って、対応するドナー抗体由来のアミノ酸と置換される。具体的には、フレームワークにおいて置換されるアミノ酸は、上記CDRと相互作用するその能力に基づいて、選択される。例えば、その置換されるアミノ酸は、3次元空間で測定された場合に、ドナー抗体配列におけるCDRに隣接したものであっても、ヒト化抗体におけるCDRの4〜6オングストローム以内のものであってもよい。
【0018】
キメラ抗体は、マウス(または、他のげっ歯類)抗体の可変領域がヒト抗体の定常領域と組み合わされた抗体であり;遺伝子操作を用いるその構築は、周知である。そのような抗体は、約3分の2がヒトでありながら、マウス抗体の結合特異性を保持する。マウス抗体、キメラ抗体およびヒト化抗体に存在する非ヒト配列の割合は、キメラ抗体の免疫原性は、マウス抗体とヒト化抗体との間の中間であることを示唆する。マウス抗体に対して低下した免疫原性を有し得る、他の型の遺伝子操作された抗体としては、ファージディスプレイ法(Dowerら,WO91/17271;McCaffertyら,WO92/001047;Winter,WO92/20791;およびWinter,FEBS Lett.23:92,1998,これらの各々は、本明細書中に参考として援用される)を使用するか、またはトランスジェニック動物(Lonbergら,W093/12227;Kucherlapati W091/10741、これらの各々は、本明細書中に参考として援用される)を使用して作製されたヒト抗体が挙げられる。
【0019】
本明細書中で使用される場合、用語「ヒト様」抗体とは、鎖の一方または両方のアミノ酸配列のかなりの部分(例えば、約50%以上)がヒト免疫グロブリン遺伝子起源であるMabをいう。従って、ヒト様抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体を包含するが、これらに限定されない。本明細書中で使用される場合、「低下した免疫原性」抗体は、ヒト患者に投与された場合に、マウス抗体よりも有意に小さい免疫原性を有すると予測されるものである。そのような抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体、ならびにB細胞エピトープまたはT細胞エピトープに寄与し得るマウス抗体における特定のアミノ酸(例えば、露出残基)を置換することによって作製された抗体(Padlan,Mol.Immunol.28:489,1991)を包含する。本明細書中で使用される場合、「遺伝子操作」抗体は、その遺伝子が、組み換えDNA技術の助けで、非天然環境において構築されているかまたは非天然環境に置かれており(例えば、マウスにおけるヒト遺伝子またはバクテリオファージ上のヒト遺伝子)、それゆえ、例えば従来のハイブロドーマ技術で作製されたマウスmAbを含まない抗体である。
【0020】
mAbのエピトープは、そのmAbが結合するその抗原の領域である。各々が抗原に対する他方の抗体の結合を競合的に阻害(遮断)する場合、2つの抗体は、同一のエピトープまたはオーバーラップするエピトープに結合する。すなわち、一方の抗体の1×、10×、5×、20×または100×過剰量は、競合する抗体を欠くコントロールと比較される競合結合アッセイにおいて測定される場合、他方の抗体の結合を、少なくとも50%、好ましくは75%、90%または99%までも阻害する(例えば、Junghansら,Cancer Res.50:1495,1990、これは、本明細書中に参考として援用される)。あるいは、一方の抗体の結合を減少または排除する、抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が、他方の抗体の結合を減少または排除する場合、2つの抗体は同一のエピトープを有する。一方の抗体の結合を減少または排除する、いくつかのアミノ酸変異が、他方の抗体の結合を減少または排除する場合、2つの抗体はオーバーラップするエピトープを有する。
【0021】
(2.中和抗HGF抗体)
HGFに結合するモノクローナル抗体(mAb)(すなわち、抗HGF抗体)は、1つ以上のHGFの生物学的活性を部分的または完全に阻害する場合(すなわち、そのmAbが単一の因子として使用された場合)、HGFを中和する、または中和性であると言われる。中和抗体が阻害し得るHGFの生物学的特性の中でもとりわけ、HGFのcMetレセプターに結合する能力、特定の細胞株(例えば、Madin−Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞)の分散を引き起こすHGFの能力、特定の細胞(肝細胞、4MBr−5サル上皮細胞、および種々のヒト腫瘍細胞を含む)の増殖を刺激する(すなわち、マイトジェンである)HGFの能力;または、例えば鶏胚絨毛尿膜(CAM)に適用された場合、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)増殖もしくは管形成の刺激または血管の誘導による刺激により測定された場合の、新脈管形成を刺激するHGFの能力、である。本発明の抗体は、好ましくは、ヒトHGFに、すなわち、登録番号D90334のGenBank配列によりコードされるタンパク質(参考として援用される)に、結合する。
【0022】
0.01μg/ml、0.1μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、5μg/ml、10μg/ml、20μg/mlまたは50μg/mlの濃度の本発明の中和mAbは、HGFの生物学的機能(例えば、増殖または分散の刺激)を、下記実施例に記載される方法または当該分野において公知の方法によってアッセイされた場合に、少なくとも約50%、好ましくは75%、より好ましくは90%または95%または99%までも、そして最も好ましくは約100%(本質的には完全に)阻害する。活性のレベルがHGFを欠くネガティブコントロールに対して誤差の範囲内にある場合に、阻害は完全であるとみなされる。代表的に、使用されるHGFの量が、生物学的活性を完全に刺激するのにちょうど十分であるかまたは0.05μg/ml、0.1μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml、3μg/mlまたは10μg/mlである場合に、阻害の範囲が測定される。好ましくは、少なくとも50%、75%、90%または95%、または本質的に完全な阻害が、HGFに対する抗体のモル比が、0.5×、1×、2×、3×、5×または10×の場合に達成される。好ましくは、上記mAbは、単一の因子として使用された場合には、中和性であり、すなわち上記生物学的活性を阻害するが、おそらく阻害を提供するためには2つのmAbが一緒である必要がある。最も好ましくは、そのmAbは、上に列挙された生物学的活性の1つだけではなく複数を中和する。そして、本明細書中の目的に対しては、単一の因子として使用され、HGFの全ての生物学的活性を中和して、「完全中和性(fully neutralizing)」と呼ばれ、そしてそのようなmAbが最も好ましい。本発明のmAbは、好ましくはHGFに特異的である。すなわち、本発明のmAbは、HGFに関連するタンパク質(例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血管内皮増殖因子(VEGF))に結合しないかまたは非常に低い程度(例えば、Kaが少なくとも10倍未満)でしか結合しない。好ましい抗体は、HGFに対するアゴニスト活性を欠く。すなわち、その抗体は、HGFを保持する細胞を直接的には刺激せずに、HGFのcMetとの相互作用を遮断する。本発明のmAbは、代表的には、HGFについて少なくとも107M−1、好ましくは108M−1以上、そして最も好ましくは109M−1以上または1010M−1以上でさえある結合親和性(Ka)を有する。
【0023】
本発明のmAbは、その天然の4量体形態(2本の軽鎖および2本の重鎖)の抗HGF抗体を含み、任意の公知のアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgE)、ならびにそのサブタイプ(すなわち、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4、およびマウスIgG1、マウスIgG2a、マウスIgG2bおよbマウスIgG3)であり得る。本発明のmAbはまた、抗体のフラグメント(例えば、Fv、FabおよびF(ab’)2);二機能性ハイブリッド抗体(例えば、Lanzavecchiaら,Eur.J.Immunol.17:105,1987);単鎖抗体(Hustonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879,1988;Birdら,Science 242:423,1988);ならびに改変された定常領域を有する抗体(例えば、米国特許第5,624,821号)を包含することを意味する。そのmAbは、動物(例えば、マウス、ラット、ハムスターまたはニワトリ)起源であってもよいし、遺伝子操作されていてもよい。げっ歯類mAbは、当該分野において周知な標準的な方法により作製される。その方法は、腹腔内、静脈内、または足蹠内に適切なアジュバント中のHGFで多重免疫化し、その後脾臓細胞またはリンパ節細胞を抽出して適切な不死化細胞株と融合させ、次いでHGFに結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択することを包含する(例えば、下記実施例を参照のこと)。上記の当該分野で公知の方法により作製されたキメラmAbおよびヒト化mAbは、本発明の好ましい実施形態である。例えばファージディスプレイ法またはトランスジェニックマウス法によって作製されたヒト抗体もまた、好ましい(例えば、Dowerら,McCaffertyら,Winter,Lonbergら,Kucherlapati;上述)。より一般的には、本明細書中に規定されるような、ヒト様抗体、低下した免疫原性の抗体、および遺伝子操作された抗体は、全て好ましい。
【0024】
本明細書中に記載された、上記中和抗HGF mAbであるLIH4mAb、L2C7mAbおよびL2G7 mAbは、本発明の例であり、L2G7が好ましい例である。これらのmAbのいずれか(例えば、L2G7)と同一またはオーバーラップするエピトープを有する中和mAbは、他の例を提供する。L2G7のキメラ形態またはヒト化形態またはLGFとのキメラ形態またはヒト化形態は、特に好ましい実施形態である。本明細書中に記載された少なくとも1つ(好ましくは全て)のインビトロアッセイまたはインビボアッセイにおいて、HGFへの結合についてL2G7と競合し、HGFを中和するmAb(キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体を含む)もまた、好ましい。アミノ酸配列において(少なくともCDRにおいて)、L2G7に90%、95%、99%または100%同一(Kabatの慣習に従う抗体配列のアライメントにより決定された)なmAbが、本発明に包含される。好ましくは、このような抗体は、少数の機能的に重要でないアミノ酸置換(例えば、保存的置換)、欠失、または挿入により、L2G7とは異なる。好ましくは、そのような抗体は、L2G7の機能的特性を維持する。すなわち、そのような抗体は、本明細書中に記載される少なくとも1つ(そして好ましくは全て)のインビトロアッセイまたはインビボアッセイにおいて、HGFを中和する。アミノ酸置換を保存的または非保存的として分類する目的のために、アミノ酸は、以下のようにグループ化され得る:グループI(疎水性側鎖):ノルロイシン、メチオニン(met)、アラニン(ala)、バリン(val)、ロイシン(leu)、イソロイシン(ile);グループII(中性親水性側鎖):システイン(cys)、セリン(ser)、トレオニン(thr);グループIII(酸性側鎖):アスパラギン酸(asp)、グルタミン酸(glu);グループIV(塩基性側鎖):アスパラギン(asn)、グルタミン(gln)、ヒスチジン(his)、リジン(lys)、アルギニン(arg);グループV(鎖配向に影響する残基):グリシン(gly)、プロリン(pro);およびグループVI(芳香族側鎖):トリプトファン(trp)、チロシン(tyr)、フェニルアラニン(phe)。保存的置換は、同一のクラス内のアミノ酸間の置換を包含する。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーと、別のメンバーとを交換することからなる。
【0025】
本発明のネイティブなmAbは、そのハイブリドーマから産生され得る。遺伝子操作されたmAb(例えば、キメラmAbまたはヒト化mAb)は、種々の当該分野で公知の方法により発現され得る。例えば、その軽鎖および軽鎖V領域をコードする遺伝子は、オーバーラップするオリゴヌクレオチドから合成され得、必要な制御領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリA部位など)を提供する(例えば、Invitrogenから市販される)発現ベクター内に、利用可能なC領域と一緒に挿入され得る。CMVプロモーター−エンハンサーの使用が好ましい。次いで、その発現ベクターは、種々の周知の方法(例えば、リポフェクションまたはエレクトロポレーション)を使用して、種々の哺乳動物細胞株(例えば、CHOまたは非産生(non producing)メラノーマ(Sp2/0およびNS0を含む))へトランスフェクションされ、そしてその抗体を発現する細胞が、適切な抗生物質セレクションにより選択される。例えば、米国特許第5,530,101号を参照のこと。より大量の抗体が、その細胞を市販のバイオリアクター内で増殖させることにより、産生され得る。
【0026】
一旦発現されると、本発明のmAbまたは他の抗体は、当該分野で標準的な手順(例えば、精密濾過、限外濾過、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーもしくはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、および/または有機染料などに基づく他の形態のアフィニティークロマトグラフィー)に従って、精製され得る。薬学的な用途のためには、少なくとも約90%または約95%の均一性の実質的に純粋な抗体が好ましく、そして98%または99%またはそれより大きい均一性が最も好ましい。
【0027】
(3.治療用途)
好ましい実施形態において、本発明は、本明細書中に記載される抗体を含む薬学的処方物を提供する。すなわち、その抗体は、疾患の処置のための医薬の製造において使用され得る。その抗体の薬学的処方物(すなわち、医薬)は、生理学的に受容可能なキャリア中に、必要に応じて賦形剤または安定剤と一緒に、凍結乾燥形態または水溶液形態において、上記mAbを含有する。受容可能なキャリア、賦形剤または安定剤は、用いられる用量または濃度でレシピエントに非毒性であり、代表的に5.0〜8.0(最も頻繁には、6.0〜7.0)のpHの緩衝液(例えば、リン酸塩、クエン酸塩、または酢酸塩);等張にするための塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウムなど);抗酸化剤、保存剤、低分子量ポリペプチド、タンパク質、親水性ポリマー(例えば、ポリソルベート80)、アミノ酸、炭水化物、キレート剤、糖、および当業者に公知の他の標準的な成分(Remington’s Pharmaceutical Science 第16版、Osol,A.編、1980)を含む。上記mAbは、代表的に、1mg/ml〜100mg/ml(例えば、10mg/ml)の濃度で存在する。
【0028】
本発明の抗体は、代表的には、所望されない混入物質から実質的に純粋である。これは、その抗体が、代表的には、少なくとも約50% w/w(重量/重量)純粋であり、そして干渉タンパク質および混入物質を実質的に含まないことを意味する。好ましくは、その抗体は、少なくとも90% w/w純粋、95% w/w純粋、または99% w/w純粋である。非経口投与のための薬学的組成物は、通常無菌であり、実質的に等張であり、FDAまたは類似の団体のGood Manufacturing Practicesに従って調製される。
【0029】
別の好ましい実施形態において、本発明は、疾患を有する患者を、薬学的処方物中の抗HGF mAbを使用して処置する方法を提供する。薬学的処方物中に調製されたmAbは、任意の適した経路(特に、静脈注射もしくはボーラス注射、筋肉内または皮下注射による非経口経路)によって、患者に投与され得る。静脈内注射は、わずか15分間、より頻繁には30分間、または1時間、2時間または3時間さえ、与えられ得る。上記mAbはまた、疾患の部位(例えば、腫瘍)の部位に直接的に注射されてもよいし、リポソームのような運搬因子内に被膜化されてもよい。与えられる用量は、処置される状態を軽減するのに十分(「治療的有効量」)であり、体重1kg当たり0.1mg〜5mg(例えば、1mg/kg、2kg/kg、3mg/kgまたは4mg/kg)であることが多いが、10mg/kgもの量であっても、15mg/kgもしくは20mg/kgでさえあってもよい。一定の単位用量(例えば50mg、100mg、200mg、500mgまたは1000mg)がまた与えられてもよいし、用量は患者の表面積(例えば、100mg/m2)に基づいて投与され得る。通常、1用量と8用量との間(例えば、1用量、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量または8用量)が癌を処置するために投与されるが、10用量、20用量またはそれより多い用量が投与され得る。上記mAbは、そのmAbの半減期(例えば、1週間、2週間、4週間、8週間、3〜6ヶ月間またはそれより長い)に依存して、毎日、週2回、毎週、隔週、毎月、または何らかの他の間隔で投与され得る。長期投与のような、反復過程の処置もまた可能である。疾患の(生化学的、組織学的、および/または臨床的)症状(その合併症およびその疾患の発症における中間の病理表現型を含む)を軽減するかまたは少なくとも部分的に停止させる、投与の用量および間隔のレジメンは、治療的に有効なレジメンといわれる。
【0030】
本発明の薬学的組成物はまた、癌の危険性がある患者の予防においても使用され得る。そのような患者としては、発癌性因子(例えば、放射線または毒素)への曝露を受けた患者、および以前に癌の処置を受け、再発の危険がある患者が挙げられる。予防的用量は、上記危険性を排除するかまたは低下させ、重篤度を低下させ、またはその疾患(その疾患の生化学的、組織学的および/または臨床的症状、その合併症ならびにその疾患の発症の間に存在する中間の病理表現型を含む)の発症を遅延させるのに十分な量である。これらの対象の1つ以上に影響するのに有効な量および間隔における薬学的組成物の投与は、予防的に有効なレジメンといわれる。
【0031】
本発明の抗HGF mAbでの治療に特に感受性である疾患としては、子供または成人の、新脈管形成を必要とすることが既知であるかもしくはそう疑われる固形腫瘍、またはHGFレベルの上昇に関連することが既知であるかもしくはそう疑われる固形腫瘍(例えば、卵巣癌、乳癌、肺癌(小細胞癌もしくは非小細胞癌)、結腸癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、肝臓癌、)頭頸部癌、メラノーマ、肉腫および脳腫瘍(例えば、グリア芽細胞腫)が挙げられる。処置はまた、白血病またはリンパ腫を有する患者にも投与され得る。好ましい実施形態において、上記抗HGF mAbは、他の抗癌治療と一緒に(すなわち、前、間または後に)と投与され得る。例えば、その抗HGF mAbは、腫瘍学の分野の当業者に既知の任意の1つ以上の化学療法薬(例えば、タキソール(パクリタキセル)もしくはその誘導体、カルボプラチンもしくはシスプラチンのような白金化合物、ドキソルビシンのようなアントラサイクリン(anthrocycline)、シクロホスファミドのようなアルキル化剤、5−フルオロウラシルのような代謝拮抗剤、またはエトポシド)と一緒に投与され得る。上記抗HGF mAbは、2つ、3つ、またはそれより多いこれらの因子と組み合わせて、標準的な化学療法レジメン(例えば、乳癌および卵巣癌に対するタキソールおよびカルボプラチン)で投与され得る。抗HGF mAbが一緒に投与され得る他の因子としては、モノクローナル抗体のような生物製剤(HER2抗原に対するHerceptin(登録商標)、VEGFに対するAvastin(登録商標)、またはEGFレセプターに対する抗体)、および小分子抗血管形成剤またはEGFレセプターアンタゴニスト薬が挙げられる。さらに、その抗HGF mAbは、放射線治療または手術と一緒に使用され得る。
【0032】
抗HGF mAb抗体を含む処置(例えば、標準的な化学療法)は、これらの腫瘍(例えば、卵巣腫瘍、乳腫瘍、肺腫瘍、膵臓腫瘍、脳腫瘍および結腸腫瘍、特に再発性または難治性の場合)を有する患者の、無増悪期間中央値(median progression−free survival)または全体の生存時間を、抗HGF mAbなしの同一の処置(例えば、化学療法)と比較して、少なくとも30%または40%、好ましくは、50%、60%〜70%または100%でさえ、またはそれより長く、増加させ得る。さらに、またはあるいは、上記抗HGF mAbを含む処置(例えば、標準的な化学療法)は、これらの腫瘍(例えば、卵巣腫瘍、乳腫瘍、肺腫瘍、膵臓腫瘍、脳腫瘍および結腸腫瘍、特に再発性または難治性の場合)を有する患者の、完全反応割合、部分反応割合、または客観的反応割合(完全+部分)を、抗HGF mAbなしの同一の処置(例えば、化学療法)と比較して、少なくとも30%または40%、好ましくは、50%、60%〜70%または100%でさえ、増加させ得る。必要に応じて、処置は、腫瘍の浸潤または転移を阻害し得る。
【0033】
代表的に、臨床試験(例えば、フェーズII試験、フェーズII/III試験またはフェーズIII試験)において、化学療法のみ(または、+プラシーボ)を受けている患者のコントロール群に対して、化学療法+上記抗HGF mAbで処置された患者の上述の無増悪期間中央値または反応割合における増加は、統計的に有意(例えば、p=0.05レベルまたは0.01レベルまたは0.001レベルでさえある)である。完全反応割合または部分反応割合は、癌に対する臨床試験において(例えば、National Cancer Instituteおよび/またはFood and Drug Administrationによって列挙または受理されているような)一般的に使用される客観的基準によって決定されることが、当業者によって理解される。
【0034】
(4.他の方法)
本発明の抗HGF mAbはまた、診断方法、予後方法および研究室方法における用途を見出し得る。それらは、腫瘍を有する患者の腫瘍中の、または血行中の、HGFのレベルを測定するために;そしてそれゆえその腫瘍の処置を追跡し、導くために、使用され得る。例えば、高レベルのHGFに関する腫瘍は、抗HGF mAbでの処置に特に感受性である。特定の実施形態において、そのmAbは、例えば腫瘍生検標本において、もしくは血清において、または細胞培養物におけるHGF分泌細胞の培地上清において、HGFのレベルを測定するためのELISAまたは放射免疫測定において使用され得る。異なるエピトープに結合する(すなわち、結合について競合しない)2つの抗HGF mAbの使用は、HGFを検出するための感受性「サンドイッチ」ELISAの開発において特に有用である。種々のアッセイのために、そのmAbは、蛍光分子、スピン標識分子、酵素またはラジオアイソタイプで標識化され得、HGFについてのアッセイを実施するための全ての必要な試薬を備えるキットの形態で提供され得る。他の用途においては、その抗HGF mAbは、例えばアフィニティークロマトグラフィーによって、HGFを精製するために使用され得る。
【実施例】
【0035】
(1.抗HGF mAbの生成)
ヒトHGFに結合し、ヒトHGFの活性を遮断するmAbを生成するために、組み換えヒトHGF(rHGF)を、最初に哺乳動物発現系において産生した。その組み換えヒトHGF(rHGF)またはrHGF−Flagペプチド(HGFのC末端に結合された8アミノ酸残基のFlag)をコードするcDNAを、pIND誘導性発現ベクターにおいて構築した(Noら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.93:3346,1996)。次いでこれらのcDNAを、Fugeneトランスフェクション試薬(Roche)を使用して、EcR−293ヒト腎臓線維芽細胞(Invitrogen)内にトランスフェクションした。HGFおよびHGF−Flagをそれぞれ分泌する、安定な細胞株であるHI−F11および24.1を、600μg/mlのG418および400μg/mlのZeocin(Invitrogen)の存在下で選択した。HI−F11および24.1を、グルタミンおよび抗生物質を含有する血清なしのDMEMにおいて、4MのPonasterone A(Invitrogen)で4〜5日間処理することにより、HGFおよびHGF−Flagを分泌するように誘導した。15,000rpmで30分間、4℃での遠心分離によって凝集体を除去後、培養上清中に分泌されたHGFを、MW50,000のカットオフフィルターを備える膜限外濾過カートリッジを使用して、約100倍に濃縮した[amicon Centriprep YM−50 filter、続いてmicrocon YM−50 filter (Millipore)]。そのような濃縮H1F11培養上清は、約100μg/mlのHGFおよび約120μg/mlのウシ血清アルブミンを含有する。
【0036】
Balb/cマウスを、MPL−TDM(RibiImmunochem.Research)中に再懸濁された1〜2μgの精製rHGF(Pepro Tech)または1〜2μgのrHGF+1〜2μgのBSA(濃縮HI−F11培養上清)で、1週間間隔で10回以上、各後肢の足蹠において免疫化した。最後の1回の3日後、膝窩リンパ節細胞を、35%ポリエチレングリコールを使用して、マウスミエローマ細胞であるP3X63AgU.1(ATCC CRL1597)と融合させた。ハイブリドーマを、記載された通り(ChuntharapaiおよびKim,J.Immunol.163:766,1997、これは、本明細書中に参考として援用される)、HAT培地において選択した。その融合から10日後に、ハイブリドーマ培養上清を、直接的HGF結合ELISAおよびHGF−Flag捕捉ELISAにおいて、スクリーニングした。後者のアッセイは、その直接的HGF結合ELISAを使用して選択された抗HGF mAbの特異性をさらに確認するために、そして溶液相においてHGFに結合し得るmAbを選択するために、使用した。選択されたmAbの遮断活性を、次いで、記載された通り(Jeffersら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14417,1998)に、上記HGF−Flag/cMet−Fc結合ELISAおよび上記MDCK分散アッセイにおいて決定した。選択されたハイブリドーマを、限界希釈技術を使用して、2回クローニングした。mAbのアイソタイプを、アイソタイピングキット(Zymed)を使用して決定した。選択されたmAbの腹水を採取し(raise)、ImmunoPure(A/G) IgG Purification Kit(Pierce)を使用して精製した。ビオチン化したmAbもまた、Pierceにより提供された指示書に従って、EZ−sulfo−NHS−LC−Biotinを使用して調製した。本明細書中に言及されたアッセイの各々は、以下により詳細に記載される。直接的HGF結合ELISAのために、マイクロタイタープレート(Maxisorb;Nunc)を、4℃で一晩、PBS中に1:2のHGF/PBS比で希釈された、rHGFを含有する50μl/ウェルのH1−F1培養上清でコーティングする。そのプレートを洗浄した後、非特異的結合部位を、2%スキムミルク含有PBSで、1時間室温(RT)でブロッキングする。そのプレートを洗浄した後、50μl/ウェルの精製されたmAbまたはハイブリドーマ培養上清を、各ウェルに1時間添加する。次いで、洗浄後にこのプレートを、50μl/ウェルの1μg/ml HRP−ヤギ抗マウスIgG(HRP−GαMIgG,Cappel)と一緒に、1時間インキュベートする。結合したHRP−GαMIgGを、テトラメチルベンジジン基質(Sigma)の添加により検出する。その反応を、1NのH2SO4の添加によって停止させ、次いでそのプレートをELISAプレートリーダーを使用して450nmで読み取る。洗浄を、洗浄緩衝液(0.05%のTween20を含有するPBS)において3回実施する。
【0037】
HGF−Flag捕捉ELISAのために、マイクロタイタープレートを、4℃にてPBS中で一晩、マウスIgG(GαMIgG−Fc)のFc部分に特異的な2μg/mlのヤギ抗体の50μl/mlでコーティングし、2%スキムミルクで1時間室温でブロッキングする。洗浄後に、そのプレートを、50μl/ウェルの精製mAbまたはハイブリドーマ培養上清と一緒に1時間インキュベートする。次いで、洗浄後に、プレートを、50μl/ウェルのrHGF−Flag含有24.1細胞培養上清と一緒にインキュベートする。次いで、洗浄後に、プレートを、15μg/mlのマウスIgGの存在下で、50μl/ウェルのHRP−M2抗Flag mAb(Invitrogen)と一緒にインキュベートする。結合HRP抗Flag M2を、上に記載されたように、上記基質の添加によって検出する。洗浄を、洗浄緩衝液において3回実施する。
【0038】
L1H4、L2C7およびL2G7と命名され、上に記載されたように濃縮HI−F11培養上清中のrHGFで上記Balb/cマウスを免疫化することによって生成されたハイブリドーマから得られ、上記直接的rHGF結合ELISAおよび上記HGF−Flag捕捉ELISAの両方において結合を示した、少なくとも3つのmAbを、さらなる研究のために選択した。次いで、これらのハイブリドーマを2回クローニングし、腹水をマウスにおいて標準的な方法により採取し、そしてmAbをプロテインG/Aカラムを使用して精製した。それらのアイソタイプを、アイソタイピングキット(Zymed Lab)を使用して決定した。上記L2G7ハイブリドーマは、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に則って、2003年4月29日にAmerican Type Culture Collection,P.O.Box 1549 Manassas,VA 20108に、ATCC番号PTA−5162として寄託されている。これらの寄託物は、サンプルの譲渡のための最も最近の要求が管理機関により受理されてから少なくとも5年間、その寄託の日付から少なくとも30年間、または関連する特許の法的強制力のある期間の間のいずれか最長の期間、公認された管理機関にて維持され、そして変異、非生存または破壊の事象の際に交換される。これらの細胞株の一般への利用可能性についての全ての制約は、その出願から、特許査定の際に無条件で取り除かれる。
【0039】
一旦、インビトロでHGFを中和し、そして/またはインビボで腫瘍の増殖を(例えば、完全に)阻害する、本明細書中に記載される所望の特性を有する、単一の、原型の(archtypal)抗ヒトHGF mAb(例えば、L2G7)が単離されると、当業分野に公知の方法を用いることにより、類似の特性を有する他のmAbを生成するのは容易である。例えば、マウスを、上に記載された通りにHGFで免疫化し、ハイブリドーマを生産し、そして得られたmAbを、HGFへの結合について原型のmAbと競合する能力についてスクリーニングし得る。あるいは、Jespersら,Biotechnology 12:899,1994(これは、本明細書中に参考として援用される)を、上記原型のmAb(例えば、L2G7)と同一のエピトープを有し、そしてそれゆえ類似の特性を有するmAbの選抜を導くために、使用し得る。ファージディスプレイを使用して、その原型の抗体の第1の重鎖を、(好ましくはヒトの)軽鎖のレパートリーと対にしてHGF結合mAbを選択し、次いでその新しい軽鎖を、(好ましくはヒトの)重鎖のレパートリーと対にし、その原型のmAbと同一のエピトープを有する(好ましくはヒト)HGF結合mAbを選択する。
【0040】
(2.インビトロでの抗HGFmAbの特徴付け)
上記抗体の結合エピトープを、競合結合ELISAによって部分的に特徴付けし、ここで100×過剰の非標識mAbを、上記HGF結合ELISAにおける同一または別のビオチン化mAbの結合と競合させるために使用した。図4は、抗HGF mAbであるL1H4およびL2G7の結合が、それら自体によってのみ阻害されたことを示し、このことは、これらが独特のエピトープを認識することを示唆する。L2C7の結合は、L2C7によって阻害されたが、L1H4によっては阻害されなかった。このことは、そのL2C7エピトープが、L2G7のエピトープとはオーバーラップしているが、L1H4のエピトープとはオーバーラップしていないことを示唆する。しかしながら、L2C7は、L2G7の結合を阻害することはできなかった。このことは、そのL2C7エピトープおよびL2G7エピトープはオーバーラップするが異なり、そして/またはL2C7の親和性は、L2G7の親和性よりもずっと小さいことを示唆する。L1H4、L2C7およびL2G7のエピトープは、それぞれA、BおよびCと指定する。
【0041】
上記3つの抗HGF mAbの相対的結合能を、直接的HGF結合ELISAにおいて、精製された抗体を使用して測定した。ここで、rHGFは、プレートに最初に結合される。このアッセイにおいて、L2C7およびL2G7は、L1H4よりもよく結合した(図5)。溶液中のrHGF−Flagに結合するそのmAbの能力もまた、上記HGF−Flag捕捉ELISAを使用して、決定した。3つのmAb全てが、溶液相においてrHGF−Flagを捕捉することができたが、mAb L2G7は、他のものよりもより効率的であった(図6)。これらの結果は、その3つのmAbの間でmAb L2G7がHGFに対する最高の結合親和性を有することを示唆する。
【0042】
HGFの生物学的活性のうちの1つは、そのレセプターであるcMetに結合する能力であるので、HGFのcMETへの結合を阻害するその抗HGF mAbの能力をアッセイした。このアッセイのために、cMet−Fcを、最初に、pDisplay発現ベクター(Invitrogen)において、Markら,J.Biol.Chem.267:26166,1992によって記載される通り、ヒトIgG1(残基216〜446)のFc部分に連結されたcMetの残基1〜929ECDをコードするcDNAで、ヒト線維芽293細胞をトランスフェクションすることによって産生した。マイクロタイタープレートを、4℃で一晩、PBS中のヒトIgG(GαHIgG−Fc)のFc部分に特異的な2μg/mlの、ヤギ抗体50μl/ウェルで、コーティングし、2%BSAで1時間室温でブロッキングする。そのプレートを洗浄後、cMet−Fc cDNAでトランスフェクションされた293の培養上清の50μlを、各ウェルに1時間室温で添加する。そのプレートを洗浄後、種々の濃度のmAbと一緒にプレインキュベートされた、rHGF−Flagを含有する50μl/ウェルの24.1細胞培養上清を、1時間各ウェルに添加する。次いで洗浄後に、プレートを、HRP−M2 抗−Flag mAb(Invitrogen)の50μl/ウェルと一緒にインキュベートする。結合したHRP−抗Flag M2を、上に記載された通り、上記基質の添加により検出する。洗浄は、洗浄緩衝液において3回実施する。
【0043】
このHGF−Flag/cMet−Fc結合阻害アッセイにおいて、3つのmAb全てはいくらかの程度の阻害を示した一方で、Igコントロール抗体は示さなかった(図7)。1μg/ml以上のmAb L2G7および50μg/mlのmAb L1H4は、rHGF−FlagのcMet−Fcへの結合を根絶し;50μg/mlのmAb L2C7でさえ、85%だけの阻害を与えた。それゆえ、mAb L2G7は、他の抗体よりも、rHGF−FlagのcMet−Fcとの(そしてそれゆえ、おそらくHGFの、そのレセプターであるcMetとの)相互作用の阻害において、ずっと強力であった。このことは、HGFに対するより推定上のより大きな親和性と一致する。
【0044】
cMet−Fc/HGF−Flag結合ELISAにおいて使用されるレセプタータンパク質は可溶性レセプタータンパク質であるので、その立体構造は、天然の膜結合レセプターの立体構造とはことなったものであるかもしれない。さらに、HGFは、cMetに加えてHSPGに結合し、HSPG−HGF相互作用が種々のHGF活性を強化することが知られている。従って、可溶性cMetとのHGFの相互作用を遮断するmAbは、細胞上でのHGFの生物学的活性を中和する能力を必ずしも有さないかもしれない。従って、選択された生物学的系において、mAbの遮断する活性をさらに確認することが重要である。HGFは、強力な分散因子であることが知られている。従って、上記抗HGF mAbの中和活性をまた、記載された(Jeffersら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14417,1998)通り、Madin−Darbyイヌ腎臓(ATCCから得たMDCK細胞)分散アッセイを使用して決定した。5%FCSを補充したDMEMにおいて増殖したMDCK細胞を、5%FCSを含むDMEM中のmAbと一緒かまたはmAbなしで、予め決定された濃度のrHGFの存在下で、103細胞/100μl/ウェルでプレーティングする。次いで、37℃で5%CO2中で2日間のインキュベート後に、細胞をPBS中で洗浄し、2%ホルムアルデヒド中で10分間室温で固定する。PBSでの洗浄後に、細胞を、室温で10分間、50%エタノール(v/v)中0.5%クリスタルバイオレットで染色する。分散活性を、顕微鏡検査により決定する。
【0045】
上に記載された、HGFを分泌するHI−F11クローンの培養上清を、その分散アッセイにおけるHGFの供給源として使用した。1:80希釈もの少なさのHI−F11培養上清が、MDCK細胞の分散および増殖を誘導した。しかしながら、その分散アッセイは、1:20希釈のHI−F11培養上清(約3μg/ml)を使用して実施した。1:5のHGF/mAbモル比のmAb L2G7でさえ、それ自体で、MDCKのHGF誘導性分散を阻害し(図8)、最終的にmAb L2G7が確かに中和mAbであることを実証した。20μg/ml以上のmAb L1H4もまた、HGFによって誘導されるMDCKの分散を中和し得た一方で、20μg/mlものmAb L2C7は、部分的な中和活性のみしか与えなかった(データは示さず)。
【0046】
上記アッセイにおいて決定された、上記3つの抗HGF抗体の種々の特徴を、表1にまとめる。
【0047】
【表1】
HGFは、線維芽増殖因子(FGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)を含むヘパリン結合増殖因子ファミリーのメンバーである。同様に、HGFは、プラスミノーゲンと約40%の配列全体の類似性を有し(Nakamuraら,Nature.342:440,1989)、マクロファージ刺激タンパク質(MSF)と類似のドメイン構造を共有する(Wangら,Scand.J.Immunol.56:545,2002)。従って、上記抗HGF抗体の結合特異性が、決定されなければならない。これらのHGF関連タンパク質(R&D systemsから入手可能)への抗HGF mAbの結合を、上に記載されたHGFに対するELISAに類似する、直接的結合ELISAを使用してアッセイする。mAb L2G7、mAb L2C7およびmAb L1H4は、これらのタンパク質と有意には結合せず、このことは、HGFに対するそれらの特異性を実証している。
【0048】
(3.腫瘍が促進するHGFの生物学的活性を阻害する、抗HGF mAbの能力)
HGFは、HGFが特定のヒト腫瘍の増殖および侵襲性において役割を演じていることを、有望にさせる多数の生物学的活性を有する。HGFのそのような活性のうちの1つは、肝細胞および他の上皮細胞に対する強力なマイトジェンである(Rubinら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.88:415,1991)。従って、その抗HGF mAbの中和活性をさらに証明するために、4MBr−5サル上皮細胞(ATCC)またはラット肝細胞のHGF誘導性増殖についての、そのmAbの効果を決定する。GarrisonおよびHaynes,J.Biol.Chem.269:4264,1985に記載される方法に従って、肝細胞を単離する。細胞を、5%FCSを含有するDMEM中に5×104細胞/mlで再懸濁し、種々の濃度のmAbと一緒に予め決定された濃度のHGFで刺激する。5%CO2中における37℃での2.5日間のインキュベート後、細胞増殖のレベルを、3H−チミジンを4時間添加することによって決定した。細胞を、自動細胞回収器を使用して回収し、取り込まれた3H−チミジンのレベルを、シンチレーションカウンターで決定する。十分な濃度において、mAb L2G7は、その細胞のHGF誘導性増殖をほとんどまたは完全に阻害し得、mAb L2C7およびL14Hは、少なくとも部分的には増殖を阻害し得る。これらの抗体は、他の上皮細胞株のHGF誘導性増殖もまた阻害し得る。
【0049】
例えば、ミンク肺Mv 1 Lu細胞のHGF誘導性増殖についての上記L2G7の阻害活性が、決定された(Borsetら,J.Immunol.Methods 189:59,1996)。10%FCS含有DMEMにおいて増殖した細胞を、EDTA/トリプシン(trysin)での処理によって回収する。洗浄後、その細胞を、予め決定された濃度(50ng/ml)のHGFを含み、種々の濃度のmAbを含むかまたは含まず、血清を含まないDMEM中に、5×104細胞/mlで再懸濁する。5%CO2中における37℃での1日間のインキュベート後、細胞増殖のレベルを、さらに24時間1μCiの3H−チミジンの添加によって決定する。細胞を、自動細胞回収器を使用してガラス繊維フィルター上に回収し、取り込まれた3H−チミジンのレベルを、シンチレーションカウンターにおいて決定する。図9は、100倍高いモル濃度のL2G7 mAbの添加が、Mv 1 Lu細胞の増殖応答を完全に阻害することを示す。3倍高いmAb対HGFモル比のL2G7でさえ完全な阻害を示した一方で、コントロールのIgGは、100倍モル濃度過剰でさえ阻害を示さない。
【0050】
HGFはまた、強力な新脈管形成因子であることも報告されており(Bussolinoら,J.Cell Biol.119:629,1992;Cherringtonら,Adv.Cancer Res.79:1,2000)、そして新脈管形成(新しい血管の形成)は、腫瘍の増殖には必須であると考えられている。従って、上記抗HGF mAbの、HGFの脈管形成特性を阻害する能力は、3つのアッセイ:(i)ヒト血管内皮細胞(HUVEC)の増殖、(ii)HUVECの管形成、および(iii)鶏胚絨毛尿膜(CAM)上での新しい血管の発生、において示される。HGFは、新脈管形成においてVEGFと相乗作用することが示されている(Xinら,Am.J.Pathol.158:1111,2001)ので、これらのアッセイは、VEGFの存在下および非存在下の両方において実施され得る。
【0051】
上記HUVEC増殖アッセイを、改変を加えて記載された通り(Connら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1323,1990)に、実施する。Cloneticsから得たHUVEC細胞を、10%FCS+Cloneticsより提供される内皮細胞増殖補助剤を含有するEndothelial Growth Medium(EBM−2)において増殖させる。好ましくは、4継代〜7継代の細胞を、この研究において使用する。その細胞を、抗生物質、10mM HEPESおよび10% FCS(アッセイ培地)を含有する、培地−199中に、105細胞/mlとなるように再懸濁する。HUVEC細胞(50μl/ウェル)を、37℃で1時間、種々の濃度の抗HGF mAbと一緒に、適した濃度のHGFを含有するマイクロタイターウェルに添加する。5%CO2中において37℃で72時間細胞をインキュベートした後、細胞増殖のレベルを、4時間での3H−チミジンの取り込みによって決定する。十分な濃度において、mAb L2G7は、上記HUVECのHGF誘導性増殖をほとんどまたは完全に阻害し、そしてmAb L2C7およびL1H4は、増殖を少なくとも部分的に阻害し得る。
【0052】
あるいは、細胞増殖のレベルは、周知の比色定量MTTアッセイによって決定され得る。上記HUVEC(104細胞/100μl/ウェル)を、24時間血清を含まない培地中で増殖させ、次いで、種々の濃度のmAb L2G7を含む、(最適以下の量であると予め決定された)50ng/mlのHGFの100μlと一緒に72時間インキュベートする。MTT溶液(5mg/ml)を、各ウェル(20μl/培地200μl)に4時間添加する。次いで、1ウェル当たり100μlの培地を回収し、100μl/ウェルの酸性化されたイソプロピルアルコール(イソプロピル中0.04N HCl)と混合する。そのプレートを、560nmにてELISAリーダーにおいて読み取る。最大応答%を、以下のように算出する:[HGF+mAbで処理された細胞のOD−未処理細胞のOD]/[HGF処理された細胞のOD−未処理細胞のOD]×100。図10は、2倍モル濃度過剰のL2G7 mAbでさえ、HGFに応答してのHUVECの増殖をほとんど遮断することを示す。
【0053】
上記内皮管アッセイを、基本的には記載された(Matsumuraら,J.Immunol.158:3408,2001;Xinら,Am.J.Pathol.158:1111,2001)通りに実施する。4継代〜7継代のHUVEC(Clonetics)を、10%FBSおよび内皮細胞増殖補助剤を補充したClonetics EGM培地中で増殖させる。プレートを、製造者の指示書に従って、Matrigel(BD Biosciences)で37℃で30分間コーティングし、その細胞を、HGFおよび種々の濃度の抗HGF mAbを含む1×基本培地中に、3×106細胞/mlで播種する。管形成を、低倍率(10×)で顕微鏡下で評価する。十分な濃度において、mAb L2G7は、HGF誘導性の内皮管形成をほとんどまたは完全に阻害し、そしてmAb L2C7およびL1H4は、少なくとも部分的にHGF誘導性の内皮管形成を阻害し得る。
【0054】
上記鶏胚絨毛尿膜(CAM)を、基本的に記載された(Kimら,Nature 362:841,1992)通りに実施する。3日齢の鶏胚を、その殻から取り出し、37℃において5%CO2中でペトリ皿で増殖させる。7日後、種々の濃度の抗HGF mAbを含むHGF含有乾燥メチルセルロースディスク(disc)を、そのCAM上に積み重ねる。このメチルセルロースディスクは、PBS中1.5%メチルセルロース5μlと、mAbとプレインキュベートした5μlのHGFとを混合することによって調製する。3日後、メチルセルロースディスクの周りの血管の発生を試験する。十分な濃度において、mAb L2G7は、そのような血管形成をほとんどまたは完全に阻害し、そしてmAb L2C7およびL1H4は、少なくとも部分的に血管形成を阻害し得る。
【0055】
HGFはまた、腫瘍の増殖を促進することが報告されている(ComoglioおよびTrusolino,J.Clin.Invest.109:857,2002)。抗HGF抗体のこの活性を阻害する能力は、2つの工程において示される。第1に、多数の腫瘍細胞株を、HGFを分泌し、そしてHGFに応答して増殖させるその能力について試験する。なぜなら、HGFは、いくつかのこれらの細胞に対するオートクリン増殖因子であり得るからである。これらの細胞株としては、HGFおよびcMetを発現することが知られているヒト腫瘍細胞株のパネルが挙げられる(Koochekpourら,Cancer Res.57:5391,1997;Wangら,J.Cell Biol.153:1023,2001)。試験される具体的な細胞株としては、U−118神経膠腫、HCT116結腸癌腫、A549肺癌腫およびA431類表皮癌腫細胞(全てATCCから入手可能)が挙げられる。一旦そのような腫瘍細胞株が同定されたら、これらの細胞のHGFに対する増殖応答についての抗HGF mAbの効果を、上に記載された方法と類似の方法を使用して、決定する。十分な濃度において、mAb L2G7は、これらの多くまたは全ての細胞株のHGF誘導性増殖をほとんどまたは完全に阻害し、mAb L2C7およびL1H4は、少なくとも部分的に増殖を阻害し得る。
【0056】
例えば、ヒトHCT116腫瘍細胞を、200μlのDMEM+5%FCS中に、5×103細胞/ウェルにて96ウェルマイクロタイタープレートに播種する。37℃での5%CO2中24時間のインキュベート後、細胞をPBSで洗浄し、血清を含まないDMEM中で48時間インキュベートする。次いで、細胞を、DMEM中の100ng/mlのHGF+/−20μg/mlのmAbと一緒に、さらに20時間インキュベートする。コントロールとして、DMEMのみまたはDMEM+10%FCSにおいて増殖した細胞を含める。そのインキュベートの最後に、細胞増殖のレベルを、4時間の3H−チミジンの取り込みにより決定する。3連で実施したそのような実験の結果を、図11に示す。HGFは、上記HCT116細胞の中程度の増殖を誘導し、これはL2G7抗体の添加により完全に排除された(しかし、より強力でないL1H4抗体では排除されなかった)。
【0057】
上に記載された全てのアッセイにおいて、各抗HGF抗体は、HGFの他のアンタゴニストなしで単独で使用された場合(すなわち、単一の因子として)、活性を中和または阻害するが、その抗体を他の抗HGF抗体または他の活性因子と組み合わせて投与することによって、相加的または相乗的な効果が達成され得る。
【0058】
(4.インビボで腫瘍の増殖を阻害する、抗HGF mAbの能力)
抗HGF抗体の、ヒト腫瘍増殖を阻害する能力を、免疫不全マウスまたは他のげっ歯類(例えば、ラット)における異種移植片モデルにおいて実証する。使用され得るマウスの免疫欠損株の、例示的であるが限定しない例は、CD−1ヌード、Nu/Nu、Balb/cヌード、NIH−III(NIH−bg−nu−xid BR);scidマウス(例えば、Fox Chase SCID(C.B−17 SCID)、Fox Chase outbred SCIDおよびSCID Beigeのようなヌードマウス);RAG酵素不全マウス;ならびにヌードラットである。実験は、以前に記載された(Kimら,Nature 362:841,1992,これは、本明細書中に参考として援用される)通りに実施する。完全DMEM培地中で増殖したヒト腫瘍細胞を、HBSS中に回収する。雌性免疫不全(例えば、胸腺欠損)ヌードマウス(4〜6週齢)に、背部領域に、0.2mlのHBSS中の代表的には5×106細胞を、皮下注射する。腫瘍サイズが50mm3〜100mm3に達したときに、そのマウスを、無作為にグループ分けし、適切な量の抗HGF mAbおよびコントロールmAb(代表的には、0.1mgと1.0mgとの間、例えば、0.5mg)を、1週間当たり1回、2回または3回、例えば0.1mlの容量で、例えば1週間、2週間、3週間もしくは4週間、またはその実験の間、腹腔内に投与する。腫瘍サイズを、代表的には1週間に2回、2次元[長さ(a)および幅(b)]で測定することにより、決定する。腫瘍容量を、V=ab2/2に従って算出し、平均腫瘍容量±SEMとして表現する。各処置グループにおけるマウスの数は、少なくとも3匹、より頻繁には5匹と10匹との間(例えば、7匹)である。統計的な分析を、例えばスチューデントt検定を使用して実施し得る。この実験のバリエーションにおいて、上記抗体の投与は、腫瘍細胞の注射と同時にか、または腫瘍細胞の注射の直ぐ後に開始する。その抗体の効果はまた、マウスの生存の延長または生存するマウスのパーセントの増加によっても、測定され得る。
【0059】
HGFを分泌するかまたはHGFに応答することが知られている種々の腫瘍細胞株(例えば、U118ヒトグリア芽細胞腫細胞、および/またはHCT116ヒト結腸腫瘍細胞)を、別個の実験において使用する。本発明の好ましい抗体(例えば、ヒト様抗体、低下した免疫原性の抗体、上記L2G7抗体ならびにそのキメラおよびヒト化形態、ならびにL2G7と同一のエピトープを有する抗体)は、単一の因子として使用された場合に、ある期間の後に、少なくとも25%、おそらく40%もしくは50%、そして75%もしくは90%もしくはそれより多くほども、または完全にさえ、腫瘍増殖を阻害するか、あるいは、腫瘍の退行若しくは消失を引き起こす。注射した抗体に対して中和抗体応答を起こさない1種以上の免疫不全マウス株において試験した場合に、この阻害は、NIH III Beige/Nudeのような少なくとも1つのマウス株のU118のような少なくとも1つの腫瘍細胞株に対して起こるが、好ましくは、特定の型(例えば、神経膠腫)または任意の型の2つ、3つ、複数、多くまたは本質的に全てのHGF発現腫瘍細胞株に対して起こる。1つ以上の異種移植片モデルにおけるいくつかの好ましい抗体での処置は、50%、75%、90%または本質的に全てのマウス(このマウスは、処置なしでは、その腫瘍の増殖のために死ぬかまたは屠殺される必要がある)の、無期限の生存を導く。
【0060】
例えば、そのような実験を、FCSを含むDMEM培地で増殖し、HBSS中に回収されたU−118グリア芽細胞腫細胞を用いて実施した。雌性のNIH III Beige/Nudeマウス(4〜6週齢)に、背部領域に、0.2mlのHBSS中106細胞を皮下注射した。腫瘍サイズが約50mm3に達したときに、そのマウスを、各6匹のマウスの2グループに無作為にグループ分けし、200μgのL2G7 mAb(処置グループ)または200μgのPBS(コントロールグループ)を、0.1mlの容量で1週間に2回腹腔内に与えた。腫瘍サイズを、上に記載されたように、1週間に2回決定する。実験の終了時に、その腫瘍を切除および秤量する。図12は、L2G7での処置が、腫瘍の増殖を完全に阻害したことを示す。
【0061】
類似の腫瘍阻害実験を、Ashkenizeら,J.Clin.Invest.104:155,1999に記載されたように、5−FU(5−フルオロウラシル)またはCPT−11(Camptosar)のような1種以上の化学療法剤(これらに対して、その腫瘍の型は応答性であると予想される)と組み合わせて抗HGF抗体を投与して実施する。その抗体と化学療法薬との組み合わせは、どちらかの因子単独よりも、腫瘍増殖のより大きい阻害をもたらし得る。その効果は、相加的または相乗的であり得、増殖を強力(例えば、80%または90%またはそれより大きい)に阻害し得、または腫瘍の退行または消失さえ引き起こし得る。上記抗HGF抗体はまた、別の増殖因子または血管形成因子(例えば、抗VEGF)に対する抗体と組み合わせて投与され得、そして相加的または相乗的な増殖阻害および/または腫瘍の退行もしくは消失が予想される。
【0062】
本発明は、現在の好ましい実施形態を参照して説明されてきたが、種々の改変が、本発明から逸脱せずになされ得ることが、理解されるべきである。文脈からそうでないことが明白でない限り、本発明の任意の工程、要素、実施形態、特徴または局面は、任意の他のものと一緒に使用され得る。
【0063】
引用された全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許および特許出願の各々が具体的かつ個別に、全ての目的のためにその全体が参考として援用されると示されたのと同程度に、全ての目的のためにその全体が参考として本明細書中に援用される。
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2004年4月15日に出願された米国特許出願第10/825,060号の一部継続出願である。米国特許出願第10/825,060号は、2003年4月18日に出願された米国仮特許出願第60/464,061号の利益を主張する。これらのいずれも、全ての目的のためにその全体が参考として援用される。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、一般的に、新規の生物製剤を開発するための、モノクローナル抗体(mAb)と組み換えDNA技術との組み合わせに関し、より具体的には、例えば、肝細胞増殖因子に結合し、かつこれを中和するモノクローナル抗体の産生に関する。
【背景技術】
【0003】
(発明の背景)
ヒト肝細胞増殖因子(HGF)は、間葉細胞によって産生される多機能性ヘテロ二量体ポリペプチドである。HGFは、新脈管形成、形態形成および細胞遊走誘発(motogenesis)、ならびに種々の細胞型の増殖および分散を刺激することが示されている(非特許文献1;非特許文献2;非特許文献3;非特許文献4;非特許文献5)。HGFの多面的な活性は、そのレセプターである、プロトオンコジーンcMetによってコードされる膜貫通チロシンキナーゼを介して媒介される。種々の正常な細胞機能を制御することに加えて、HGFおよびそのレセプターであるcMetは、腫瘍のイニシエーション、浸潤、および転移に関与することが示されている(非特許文献6;非特許文献7)。HGF/cMetは、種々のヒト固形腫瘍(肺、結腸、直腸、胃、腎臓、卵巣、皮膚、多発性骨髄腫および甲状腺組織に由来する腫瘍を含む)において、共発現され、しばしば過剰発現される(非特許文献8;非特許文献9;非特許文献10;非特許文献11)。HGFは、これらの腫瘍に対して、オートクリン増殖因子(非特許文献12;非特許文献13)およびパラクリン増殖因子(非特許文献10)および抗アポトーシス制御因子(非特許文献14)として機能する。
【0004】
HGFは、プラスミノゲンおよび血液凝固の他の酵素に対して配列類似性および構造類似性を有する102kDaのタンパク質である。(非特許文献15;非特許文献10;これらの各々は、本明細書中に参考として援用される)(図1)。ヒトHGFは、728アミノ酸前駆体(プレプロHGF)として合成され、このプレプロHGFが不活性な単鎖形態(プロHGF)へ細胞内切断を受ける(非特許文献15;非特許文献16)。細胞外分泌の際に、プロHGFが切断され、α−サブユニットおよびβ−サブユニットからなる、生物学的に活性なジスルフィド結合したヘテロ二量体分子がもたらされる(非特許文献15;非特許文献17)。上記α−サブユニットは、N末端ヘアピンドメインおよび4つのクリングルドメインからなる、440残基(グリコシル化されて69kDa)を含有する。上記β−サブユニットは、234残基(34kDa)を含有し、セリンプロテアーゼ様ドメイン(タンパク質分解活性は欠く)を有する。HGFの切断は、レセプターの活性化のために必要とされるが、レセプターの結合のためには必要とされない(非特許文献18;非特許文献19)。HGFは、4つの推定上のN−グリコシル化部位を含み、1つは上記α−サブユニットに、3つは上記β−サブユニットに存在する。HGFは、2つの独特の細胞特異的結合部位:cMetレセプターに対する高親和性(Kd=2x10−10M)結合部位および硫酸ヘパリンプロテオグリカン(HSPG)に対する低親和性(Kd=10−9M)結合部位、を有し、これらは細胞表面および細胞外基質に存在する(非特許文献20;非特許文献21;非特許文献22)。NK2(上記α−サブユニットのN末端および最初の2つのクリングルドメインを含むタンパク質)は、cMetへの結合および運動性に関するシグナルカスケードの活性化のためには十分であるが、全長のタンパク質がマイトジェンの応答のためには必要とされる(非特許文献10)。HSPGは、HGFのN末端と相互作用することによってHGFに結合する(非特許文献22;非特許文献23)。HSPG−HGF相互作用の想定される役割としては、HGFバイオアベイラビリティー、生物学的活性およびオリゴマー形成の強化が挙げられる(非特許文献21;非特許文献24)。
【0005】
cMetは、クラスIVタンパク質チロシンキナーゼレセプターファミリーのメンバーである。全長cMet遺伝子は、cMetプロトオンコジーンとしてクローニングおよび同定された(非特許文献25;非特許文献26)。このcMetレセプターは、最初に、単鎖の、部分的にグリコシル化された前駆体であるp170(MET)(図1)として合成される(非特許文献21;非特許文献26;非特許文献27;非特許文献28)。さらなるグリコシル化の際に、このタンパク質が、50kDaのα−サブユニット(残基1〜307)および145kDaのβ−サブユニットからなる、ヘテロ二量体の190kDa成熟タンパク質(1385アミノ酸)に、タンパク質分解により切断される。このβ−サブユニットの細胞質内のチロシンキナーゼドメインは、シグナル伝達に関与する。
【0006】
いくつかの異なるアプローチが、上記HGF/cMet相互作用のアンタゴニスト性の分子:例えば、NK1(N末端ドメイン+クリングルドメイン1;非特許文献19)、NK2(N末端ドメイン+クリングルドメイン1およびクリングルドメイン2;非特許文献29)、NK4(N末端ドメイン+4つのクリングルドメイン;非特許文献30)、抗cMet mAb(Dodge,Master’s Thesis,San Francisco State University,1998)、ならびに抗HGF mAb(非特許文献31;これは本明細書中に参考として援用される)のような短縮型HGFタンパク質を得るために研究されている。
【0007】
NK1およびNK2は、HGFのそのレセプターとの結合と効率的に競合し得るが、所望されるような純粋なアンタゴニスト活性よりもむしろ部分的なアゴニスト活性を有することがインビトロで示されている(非特許文献32;非特許文献33)。より最近は、非特許文献30が、NK4が、ヌードマウスモデルにおいて、継続的なNK4の注入により、マウス肺腫瘍LLCの一次増殖(図2)および転移を部分的に阻害し得ることを実証した。原発腫瘍の部分的な増殖の阻害を得るためにNK4が継続的に投与されなければならなかったという事実は、そのNK4分子の潜在的に短い半減期および/または効力の欠如を示している。NK4と比較して、抗体を使用するアプローチは、その抗体の好ましい薬物動態および非常に大きい効力を有する抗体を得る可能性から、有利である。
【0008】
別のアプローチとして、Dodge(Master’s Thesis,San Francisco State University,1998)は、アンタゴニスト性の抗cMetモノクローナル抗体(mAb)を生成した。1つのmAbである5D5は、ELISAにおいて強力なアンタゴニスト活性を示したが、おそらく膜レセプターの二量体化に起因して、cMet発現BAF−3細胞の増殖応答を誘導した。非特許文献34もまた、抗cMet mAbのそのようなアゴニスト活性を報告した。非特許文献35は、ファージディスプレイ法を使用して、マウス肝細胞増殖因子およびヒト肝細胞増殖因子に対するヒトFabフラグメントの開発を行った。これらのFabフラグメントは、単独で使用された場合は、HGFの活性に影響を有さなかった。抗ヒトHGF Fabフラグメントの1つがそのFabフラグメント自体に結合された抗体と組み合わされた場合、それは、生物学的アッセイにおいてHGFの活性を実際に強化する。
【0009】
非特許文献31は、3つの抗HGF mAb(これらの抗体は、インビトロでHGFの
分散活性を阻害するその抗体の能力に基づいて選択された)のカクテルの投与が、異種移植片ヌードマウスモデルにおいてヒト腫瘍の増殖を阻害することができる(図3)ことを実証した。非特許文献45の著者らは、HGFの3つの異なる結合部位を認識する3つのmAbが、インビボにおいてHGFの生物活性を阻害するのに必要とされ:2つのmAbはHGFのcMetへの結合を阻害し、1つのmAbはHGFのヘパリンへの結合を阻害する、と推定した。しかしながら、例えば、各抗体のいつくかの臨床的活性は独立して実証される必要があるため、3つの新規のmAbを組み合わせた薬物を開発するのは、商業的理由および規制的理由から現実的ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Bussolinoら,J.Cell.Biol.1992年、119:629
【非特許文献2】ZarnegarおよびMichalopoulos,J.Cell.Biol.1995年、129:1177
【非特許文献3】Matsumotoら,Ciba.Found.Symp.1997年、212:198
【非特許文献4】BirchmeierおよびGherardi,Trends Cell.Biol.1998年、8:404
【非特許文献5】Xinら、Am.J.Pathol.2001年、158:1111
【非特許文献6】Jeffersら,J.Mol.Med.1996年、74:505
【非特許文献7】ComoglioおよびTrusolino,J.Clin.Invest.2002年、109:857
【非特許文献8】Pratら、Int.J.Cancer、1991年、49:323
【非特許文献9】Chanら、Oncogene、1988年、2:593
【非特許文献10】Weidnerら、Am.J.Respir.Cell.Mol.Biol.1993年、8:229
【非特許文献11】Derksenら、Blood、2002年、99:1405
【非特許文献12】Rongら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1994年、91:4731
【非特許文献13】Koochekpourら,Cancer Res.1997年、57:5391
【非特許文献14】Gaoら,J.Biol.Chem.2001年、276:47257
【非特許文献15】Nakamuraら,Nature、1989年、342:440
【非特許文献16】Rosenら,J.Cell.Biol.1994年、127:1783
【非特許文献17】Naldiniら,EMBO J.1992年、11:4825
【非特許文献18】Hartmannら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1992年、89:11574
【非特許文献19】Lokkerら,J.Biol.Chem.1993年、268:17145
【非特許文献20】Naldiniら,Oncogene、1991年、6:501
【非特許文献21】Bardelliら,J.Biotechnol.1994年、37:109
【非特許文献22】Sakataら,J.Biol.Chem.1997年、272:9457
【非特許文献23】Aoyamaら,Biochem.1997年、36:10286
【非特許文献24】Zioncheckら,J.Biol.Chem.1995年、270:16871
【非特許文献25】Cooperら,Nature、1984年、311:29
【非特許文献26】Parkら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 1987年、84:6379
【非特許文献27】Giordanoら,Nature 1989年、339:155
【非特許文献28】Giordanoら,Oncogene 1989年、4:1383
【非特許文献29】Chanら,Science 1991年、254:1382
【非特許文献30】Kubaら,Cancer Res.2000年、60:6737
【非特許文献31】Caoら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、2001年、98:7443
【非特許文献32】Cioceら,J.Biol.Chem.1996年、271:13110
【非特許文献33】Schwallら,J.Cell Biol.1996年、133:709
【非特許文献34】Pratら,J.Cell Sci.1998年、111:237
【非特許文献35】Zaccoloら,Eur.J.hnmunol 1997年、27:618
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、インビトロおよびインビボでHGFの生物学的活性を遮断する単一のモノクローナル抗体に対する必要性が存在する。本発明は、この必要性および他の必要性を満たす。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(発明の簡単な要旨)
1つの実施形態において、本発明は、ヒト肝細胞増殖因子(HGF)に対する中和mAbを提供する。このmAbは、少なくとも1つのHGFの生物学的活性、好ましくは複数または全てのHGFの生物学的活性を阻害する。このHGFの生物学的活性としては、そのレセプターであるcMetへの結合、Mardin−Darbyイヌ腎臓細胞のような細胞の分散の誘導、4MBr−5サル上皮細胞および/または肝細胞および/またはHUVECの増殖の誘導、ならびに新脈管形成の誘導が挙げられる。この抗HGF mAbは、単一の因子として使用された場合に、このような活性を阻害し得る。好ましい抗HGF
mAbは、マウスにおいてヒト腫瘍移植片の増殖を阻害し、最も好ましくは完全に阻害する。好ましくは、本発明のmAbは、キメラ、ヒト化、ヒト様、またはヒトのものである。例示的な抗体は、L2G7ならびにそのキメラ形態およびヒト化形態である。そのような抗体を産生する細胞株もまた、提供される。別の実施形態において、中和抗HGF抗体(例えば、キメラL2G7またはヒト化L2G7)を含む薬学的組成物が、提供される。第3の実施形態において、上記薬学的組成物は、癌または他の疾患を処置するために患者に投与される。
本発明はまた、以下の項目を提供する。
(項目1)
ヒト肝細胞増殖因子(HGF)に結合し、かつ該HGFを中和する、モノクローナル抗体(mAb)。
(項目2)
キメラである、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目3)
ヒト化されている、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目4)
ヒトのものである、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目5)
HGFのcMetへの結合を少なくとも50%阻害する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目6)
Madin−Darbyイヌ腎臓細胞のHGF誘導性分散を阻害する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目7)
HUVEC細胞のHGF誘導性増殖を阻害する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目8)
HGF誘導性新脈管形成を阻害する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目9)
HGFの全ての生物学的活性を中和する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目10)
マウスにおいてヒト腫瘍異種移植片の増殖を阻害する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目11)
マウスにおいてヒト腫瘍異種移植片の増殖を完全に阻害する、項目10に記載のモノクローナル抗体。
(項目12)
FabフラグメントもしくはF(ab’)2フラグメントまたは単鎖抗体である、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目13)
少なくとも108M−1の結合親和性でHGFに特異的に結合する、項目1に記載のモノクローナル抗体。
(項目14)
キメラL2G7モノクローナル抗体またはヒト化L2G7モノクローナル抗体。
(項目15)
ヒトHGFへの結合について項目14に記載の抗体と競合する、抗体。
(項目16)
項目1に記載のモノクローナル抗体を産生する、細胞株。
(項目17)
項目14に記載のモノクローナル抗体を含む、薬学的組成物。
(項目18)
患者において癌を処置する方法であって、該方法は、該患者に、中和抗HGFモノクローナル抗体を含む薬学的組成物を投与する工程を包含する、方法。
(項目19)
上記癌はグリア芽細胞腫である、項目18に記載の方法。
(項目20)
上記モノクローナル抗体が、キメラL2G7モノクローナル抗体またはヒト化L2G7モノクローナル抗体である、項目18に記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】HGFおよびcMetの概略モデル。
【図2】NK4がヌードマウスにおいてマウス肺癌LLCの一次成長を部分的に阻害することを示すグラフ(Kubaら,Cancer Res.60:6737,2000から)。NK4は、ヌードマウスにおける腫瘍移植皮下注射後4日目から14日間継続的に注入された。
【図3】3つの抗HGF mAbのカクテルが、ヌードマウスにおいてヒト脳腫瘍U−118細胞の増殖を阻害するのに必要とされることを示すグラフ(Caoら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 98:7443,2001から)。U−118腫瘍細胞は、ヌードマウスに皮下注射で注射された。1日目から、抗HGF mAb A−1、A−5およびA−7またはmAb 7−2および7−3が、1回の注射当たり200μgで、10週間に2回投与された。
【図4】競合結合ELISAを使用するmAb L1H4、L2C7、L2G7の相対的結合エピトープの測定。プレートは、組み換えHGF(rHGF)でコーティングされ、スキムミルクでブロッキングされ、非標識mAbの100×過剰量の存在下で最適以下の濃度のビオチン化mAbと一緒にインキュベートされた。ビオチン化mAb結合は、HRP−Strepavidinの添加によって検出された。
【図5】直接的HGF結合ELISAにおいて測定された場合の、rHGFへの抗HGF mAbの結合。プレートは、rHGFを含むHI−F11上清でコーティングされ、2%スキムミルクでブロッキングされ、mAbと一緒にインキュベートされた後にHRP−GαMIgGを添加した(上記実施例に記載される通り)。
【図6】抗HGF mAbの、溶液中でrHGF−Flagを捕捉する能力。抗HGF mAbは、ヤギ抗マウスIgGでコーティングされたELISAプレート上で捕捉された。次いでプレートは、2%スキムミルクでブロッキングされ、rHGF−Flagと一緒に、その後HRP−M2抗Flag mAbと一緒にインキュベートされた(上記実施例に記載される通り)。
【図7】捕捉ELISAにおける、抗HGF mAbによるcMet−FcへのrHGF−Flag結合の阻害。ヤギ抗ヒトIgGでコーティングされたプレート上で捕捉されたcMet−Fcは、mAbと一緒に/mAbなしで、プレインキュベートされたHGF−Flagと一緒にインキュベートされる。その結合rHGF−Flagを、HRP−M2抗Flag mAbの添加によって検出した(上記実施例に記載される通り)。
【図8】抗HGF mAb L2G7による、HGF誘導性MDCK分散の中和。(A)何の処理もしないコントロール。(B)rHGF+IgG。(C)rHGF+mAb L2G7。MDCK細胞は、10μg/mlのmAbの存在下で、1:20希釈のH1−F11培養上清(約3μg/mlのHGF)と一緒にインキュベートされた。写真は、100倍の倍率で撮影された。
【図9】L2G7 mAbによる、Mv 1 LU細胞のHGF誘導性増殖の阻害。HGFに対するmAbの過剰モル濃度倍数が、横軸上に示され、取り込まれたcpm×10−2が縦軸上に示される。データ点は、3連で得られた。
【図10】L2G7 mAbおよびコントロールのマウス抗体(mIgG)による、HUVECのHGF誘導性増殖の阻害。データ点は、3連で得られた。
【図11】L2G7抗体およびL1H4抗体による、HCT116結腸腫瘍細胞のHGF誘導性増殖の効果。データ点は、3連で得られた。
【図12】NIH III Beige/ヌードマウス(n=6)の群における、U−118腫瘍の増殖についての、L2G7 mAbまたはPBS(コントロール)での処置の効果。矢印は、注射を開始した時期を示す。(A)腫瘍移植からの日数に対する腫瘍サイズ。(B)実験終了時における腫瘍質量。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(発明の詳細な説明)
本発明は、中和抗HGFモノクローナル抗体、それらを含む薬学的組成物、および疾患の処置のためにそれらを使用する方法を提供する。
【0015】
(1.抗体)
抗体は、非常に大きく、複雑な内部構造を有する複合分子(約150,000の分子量または1320アミノ酸)である。天然の抗体分子は、同一な2対のポリペプチド鎖を含み、各対は、1つの軽鎖および1つの重鎖を有する。各軽鎖および重鎖は、順に、2つの領域:標的抗原への結合に関与する可変(「V」)領域、および免疫系の他の成分と相互作用する定常(「C」)領域、からなる。軽鎖可変領域および重鎖可変領域は、一緒に3次元空間に折り畳まれ、抗原(例えば、細胞の表面上のレセプター)に結合する可変領域を形成する。各軽鎖可変領域および重鎖可変領域内には、相補性決定領域(「CDR」)と呼ばれる3つの短いセグメント(平均10アミノ酸長)が存在する。抗体可変ドメインにおける6つのCDR(軽鎖由来の3つおよび重鎖由来の3つ)は、一緒に3次元空間に折り畳まれ、標的抗原上に固定する実際の抗体結合部位を形成する。そのCDRの位置および長さは、正確に規定されている。Kabat,E.ら,Sequences of Proteins of Immunological Interest,U.S.Department of Health and Human Services,1983,1987を参照のこと。そのCDRに含まれない可変領域部分は、フレームワークと呼ばれ、そのCDRのための環境を形成する。
【0016】
モノクローナル抗体(mAb)は、抗体の単一分子種であり、それゆえ、動物(例えば、げっ歯類、ウサギまたはヤギ)に抗原を注入し、その動物から血清を抽出することによって産生されたポリクローナル抗体を包含しない。ヒト化抗体は、遺伝的に操作された(モノクローナル)抗体であり、この抗体において、マウス抗体(「ドナー抗体」、これはまたラット、ハムスターまたは他の類似種のものであり得る)由来のCDRが、ヒト抗体(「アクセプター抗体」)上に移植されている。ヒト化抗体はまた、マウス抗体由来の完全未満のCDRで作製され得る(例えば、Pascalisら,J.Immunol.169:3076,2002を参照のこと)。従って、ヒト化抗体は、ドナー抗体由来のCDR、ならびにヒト抗体由来の可変領域フレームワークおよび定常領域を有する抗体である。従って、代表的なヒト化抗体は、(i)マウス抗体(例えばL2G7)由来の3つのCDR、ヒト抗体由来の可変領域フレームワーク、およびヒト定常領域を含む軽鎖、ならびに(ii)マウス抗体(例えば、L2G7)由来の3つのCDR、ヒト抗体由来の可変領域フレームワーク、およびヒト定常領域を含む重鎖、を含む。さらに、高結合能を維持するために、2つのさらなる構造エレメントのうちの少なくとも1つが利用され得る。米国特許第5,530,101号および同第5,585,089号を参照のこと。これらの各々は、本明細書中に参考として援用され、ヒト抗体の構築のための詳細な指示を提供する。
【0017】
第1の構造エレメントにおいて、上記ヒト化抗体の重鎖可変領域のフレームワークは、多くの公知のヒト抗体の中から適切にアクセプター抗体を選択することにより、ドナー抗体の重鎖可変領域のフレームワークと最大の配列同一性(65%と95%との間)を有するように選択される。配列同一性は、比較される抗体配列がKabatナンバリングの慣習に従ってアライメントされて決定される。第2の構造エレメントにおいて、ヒト化抗体の構築の際に、ヒトアクセプター抗体のフレームワークにおける選択されたアミノ酸(CDRの外側)が、指定されるルールに従って、対応するドナー抗体由来のアミノ酸と置換される。具体的には、フレームワークにおいて置換されるアミノ酸は、上記CDRと相互作用するその能力に基づいて、選択される。例えば、その置換されるアミノ酸は、3次元空間で測定された場合に、ドナー抗体配列におけるCDRに隣接したものであっても、ヒト化抗体におけるCDRの4〜6オングストローム以内のものであってもよい。
【0018】
キメラ抗体は、マウス(または、他のげっ歯類)抗体の可変領域がヒト抗体の定常領域と組み合わされた抗体であり;遺伝子操作を用いるその構築は、周知である。そのような抗体は、約3分の2がヒトでありながら、マウス抗体の結合特異性を保持する。マウス抗体、キメラ抗体およびヒト化抗体に存在する非ヒト配列の割合は、キメラ抗体の免疫原性は、マウス抗体とヒト化抗体との間の中間であることを示唆する。マウス抗体に対して低下した免疫原性を有し得る、他の型の遺伝子操作された抗体としては、ファージディスプレイ法(Dowerら,WO91/17271;McCaffertyら,WO92/001047;Winter,WO92/20791;およびWinter,FEBS Lett.23:92,1998,これらの各々は、本明細書中に参考として援用される)を使用するか、またはトランスジェニック動物(Lonbergら,W093/12227;Kucherlapati W091/10741、これらの各々は、本明細書中に参考として援用される)を使用して作製されたヒト抗体が挙げられる。
【0019】
本明細書中で使用される場合、用語「ヒト様」抗体とは、鎖の一方または両方のアミノ酸配列のかなりの部分(例えば、約50%以上)がヒト免疫グロブリン遺伝子起源であるMabをいう。従って、ヒト様抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体を包含するが、これらに限定されない。本明細書中で使用される場合、「低下した免疫原性」抗体は、ヒト患者に投与された場合に、マウス抗体よりも有意に小さい免疫原性を有すると予測されるものである。そのような抗体は、キメラ抗体、ヒト化抗体およびヒト抗体、ならびにB細胞エピトープまたはT細胞エピトープに寄与し得るマウス抗体における特定のアミノ酸(例えば、露出残基)を置換することによって作製された抗体(Padlan,Mol.Immunol.28:489,1991)を包含する。本明細書中で使用される場合、「遺伝子操作」抗体は、その遺伝子が、組み換えDNA技術の助けで、非天然環境において構築されているかまたは非天然環境に置かれており(例えば、マウスにおけるヒト遺伝子またはバクテリオファージ上のヒト遺伝子)、それゆえ、例えば従来のハイブロドーマ技術で作製されたマウスmAbを含まない抗体である。
【0020】
mAbのエピトープは、そのmAbが結合するその抗原の領域である。各々が抗原に対する他方の抗体の結合を競合的に阻害(遮断)する場合、2つの抗体は、同一のエピトープまたはオーバーラップするエピトープに結合する。すなわち、一方の抗体の1×、10×、5×、20×または100×過剰量は、競合する抗体を欠くコントロールと比較される競合結合アッセイにおいて測定される場合、他方の抗体の結合を、少なくとも50%、好ましくは75%、90%または99%までも阻害する(例えば、Junghansら,Cancer Res.50:1495,1990、これは、本明細書中に参考として援用される)。あるいは、一方の抗体の結合を減少または排除する、抗原における本質的に全てのアミノ酸変異が、他方の抗体の結合を減少または排除する場合、2つの抗体は同一のエピトープを有する。一方の抗体の結合を減少または排除する、いくつかのアミノ酸変異が、他方の抗体の結合を減少または排除する場合、2つの抗体はオーバーラップするエピトープを有する。
【0021】
(2.中和抗HGF抗体)
HGFに結合するモノクローナル抗体(mAb)(すなわち、抗HGF抗体)は、1つ以上のHGFの生物学的活性を部分的または完全に阻害する場合(すなわち、そのmAbが単一の因子として使用された場合)、HGFを中和する、または中和性であると言われる。中和抗体が阻害し得るHGFの生物学的特性の中でもとりわけ、HGFのcMetレセプターに結合する能力、特定の細胞株(例えば、Madin−Darbyイヌ腎臓(MDCK)細胞)の分散を引き起こすHGFの能力、特定の細胞(肝細胞、4MBr−5サル上皮細胞、および種々のヒト腫瘍細胞を含む)の増殖を刺激する(すなわち、マイトジェンである)HGFの能力;または、例えば鶏胚絨毛尿膜(CAM)に適用された場合、ヒト血管内皮細胞(HUVEC)増殖もしくは管形成の刺激または血管の誘導による刺激により測定された場合の、新脈管形成を刺激するHGFの能力、である。本発明の抗体は、好ましくは、ヒトHGFに、すなわち、登録番号D90334のGenBank配列によりコードされるタンパク質(参考として援用される)に、結合する。
【0022】
0.01μg/ml、0.1μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml、2μg/ml、5μg/ml、10μg/ml、20μg/mlまたは50μg/mlの濃度の本発明の中和mAbは、HGFの生物学的機能(例えば、増殖または分散の刺激)を、下記実施例に記載される方法または当該分野において公知の方法によってアッセイされた場合に、少なくとも約50%、好ましくは75%、より好ましくは90%または95%または99%までも、そして最も好ましくは約100%(本質的には完全に)阻害する。活性のレベルがHGFを欠くネガティブコントロールに対して誤差の範囲内にある場合に、阻害は完全であるとみなされる。代表的に、使用されるHGFの量が、生物学的活性を完全に刺激するのにちょうど十分であるかまたは0.05μg/ml、0.1μg/ml、0.5μg/ml、1μg/ml、3μg/mlまたは10μg/mlである場合に、阻害の範囲が測定される。好ましくは、少なくとも50%、75%、90%または95%、または本質的に完全な阻害が、HGFに対する抗体のモル比が、0.5×、1×、2×、3×、5×または10×の場合に達成される。好ましくは、上記mAbは、単一の因子として使用された場合には、中和性であり、すなわち上記生物学的活性を阻害するが、おそらく阻害を提供するためには2つのmAbが一緒である必要がある。最も好ましくは、そのmAbは、上に列挙された生物学的活性の1つだけではなく複数を中和する。そして、本明細書中の目的に対しては、単一の因子として使用され、HGFの全ての生物学的活性を中和して、「完全中和性(fully neutralizing)」と呼ばれ、そしてそのようなmAbが最も好ましい。本発明のmAbは、好ましくはHGFに特異的である。すなわち、本発明のmAbは、HGFに関連するタンパク質(例えば、線維芽細胞増殖因子(FGF)および血管内皮増殖因子(VEGF))に結合しないかまたは非常に低い程度(例えば、Kaが少なくとも10倍未満)でしか結合しない。好ましい抗体は、HGFに対するアゴニスト活性を欠く。すなわち、その抗体は、HGFを保持する細胞を直接的には刺激せずに、HGFのcMetとの相互作用を遮断する。本発明のmAbは、代表的には、HGFについて少なくとも107M−1、好ましくは108M−1以上、そして最も好ましくは109M−1以上または1010M−1以上でさえある結合親和性(Ka)を有する。
【0023】
本発明のmAbは、その天然の4量体形態(2本の軽鎖および2本の重鎖)の抗HGF抗体を含み、任意の公知のアイソタイプ(IgG、IgA、IgM、IgDおよびIgE)、ならびにそのサブタイプ(すなわち、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4、およびマウスIgG1、マウスIgG2a、マウスIgG2bおよbマウスIgG3)であり得る。本発明のmAbはまた、抗体のフラグメント(例えば、Fv、FabおよびF(ab’)2);二機能性ハイブリッド抗体(例えば、Lanzavecchiaら,Eur.J.Immunol.17:105,1987);単鎖抗体(Hustonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879,1988;Birdら,Science 242:423,1988);ならびに改変された定常領域を有する抗体(例えば、米国特許第5,624,821号)を包含することを意味する。そのmAbは、動物(例えば、マウス、ラット、ハムスターまたはニワトリ)起源であってもよいし、遺伝子操作されていてもよい。げっ歯類mAbは、当該分野において周知な標準的な方法により作製される。その方法は、腹腔内、静脈内、または足蹠内に適切なアジュバント中のHGFで多重免疫化し、その後脾臓細胞またはリンパ節細胞を抽出して適切な不死化細胞株と融合させ、次いでHGFに結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択することを包含する(例えば、下記実施例を参照のこと)。上記の当該分野で公知の方法により作製されたキメラmAbおよびヒト化mAbは、本発明の好ましい実施形態である。例えばファージディスプレイ法またはトランスジェニックマウス法によって作製されたヒト抗体もまた、好ましい(例えば、Dowerら,McCaffertyら,Winter,Lonbergら,Kucherlapati;上述)。より一般的には、本明細書中に規定されるような、ヒト様抗体、低下した免疫原性の抗体、および遺伝子操作された抗体は、全て好ましい。
【0024】
本明細書中に記載された、上記中和抗HGF mAbであるLIH4mAb、L2C7mAbおよびL2G7 mAbは、本発明の例であり、L2G7が好ましい例である。これらのmAbのいずれか(例えば、L2G7)と同一またはオーバーラップするエピトープを有する中和mAbは、他の例を提供する。L2G7のキメラ形態またはヒト化形態またはLGFとのキメラ形態またはヒト化形態は、特に好ましい実施形態である。本明細書中に記載された少なくとも1つ(好ましくは全て)のインビトロアッセイまたはインビボアッセイにおいて、HGFへの結合についてL2G7と競合し、HGFを中和するmAb(キメラ抗体、ヒト化抗体、およびヒト抗体を含む)もまた、好ましい。アミノ酸配列において(少なくともCDRにおいて)、L2G7に90%、95%、99%または100%同一(Kabatの慣習に従う抗体配列のアライメントにより決定された)なmAbが、本発明に包含される。好ましくは、このような抗体は、少数の機能的に重要でないアミノ酸置換(例えば、保存的置換)、欠失、または挿入により、L2G7とは異なる。好ましくは、そのような抗体は、L2G7の機能的特性を維持する。すなわち、そのような抗体は、本明細書中に記載される少なくとも1つ(そして好ましくは全て)のインビトロアッセイまたはインビボアッセイにおいて、HGFを中和する。アミノ酸置換を保存的または非保存的として分類する目的のために、アミノ酸は、以下のようにグループ化され得る:グループI(疎水性側鎖):ノルロイシン、メチオニン(met)、アラニン(ala)、バリン(val)、ロイシン(leu)、イソロイシン(ile);グループII(中性親水性側鎖):システイン(cys)、セリン(ser)、トレオニン(thr);グループIII(酸性側鎖):アスパラギン酸(asp)、グルタミン酸(glu);グループIV(塩基性側鎖):アスパラギン(asn)、グルタミン(gln)、ヒスチジン(his)、リジン(lys)、アルギニン(arg);グループV(鎖配向に影響する残基):グリシン(gly)、プロリン(pro);およびグループVI(芳香族側鎖):トリプトファン(trp)、チロシン(tyr)、フェニルアラニン(phe)。保存的置換は、同一のクラス内のアミノ酸間の置換を包含する。非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーと、別のメンバーとを交換することからなる。
【0025】
本発明のネイティブなmAbは、そのハイブリドーマから産生され得る。遺伝子操作されたmAb(例えば、キメラmAbまたはヒト化mAb)は、種々の当該分野で公知の方法により発現され得る。例えば、その軽鎖および軽鎖V領域をコードする遺伝子は、オーバーラップするオリゴヌクレオチドから合成され得、必要な制御領域(例えば、プロモーター、エンハンサー、ポリA部位など)を提供する(例えば、Invitrogenから市販される)発現ベクター内に、利用可能なC領域と一緒に挿入され得る。CMVプロモーター−エンハンサーの使用が好ましい。次いで、その発現ベクターは、種々の周知の方法(例えば、リポフェクションまたはエレクトロポレーション)を使用して、種々の哺乳動物細胞株(例えば、CHOまたは非産生(non producing)メラノーマ(Sp2/0およびNS0を含む))へトランスフェクションされ、そしてその抗体を発現する細胞が、適切な抗生物質セレクションにより選択される。例えば、米国特許第5,530,101号を参照のこと。より大量の抗体が、その細胞を市販のバイオリアクター内で増殖させることにより、産生され得る。
【0026】
一旦発現されると、本発明のmAbまたは他の抗体は、当該分野で標準的な手順(例えば、精密濾過、限外濾過、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーもしくはプロテインGアフィニティークロマトグラフィー、サイズ排除クロマトグラフィー、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、および/または有機染料などに基づく他の形態のアフィニティークロマトグラフィー)に従って、精製され得る。薬学的な用途のためには、少なくとも約90%または約95%の均一性の実質的に純粋な抗体が好ましく、そして98%または99%またはそれより大きい均一性が最も好ましい。
【0027】
(3.治療用途)
好ましい実施形態において、本発明は、本明細書中に記載される抗体を含む薬学的処方物を提供する。すなわち、その抗体は、疾患の処置のための医薬の製造において使用され得る。その抗体の薬学的処方物(すなわち、医薬)は、生理学的に受容可能なキャリア中に、必要に応じて賦形剤または安定剤と一緒に、凍結乾燥形態または水溶液形態において、上記mAbを含有する。受容可能なキャリア、賦形剤または安定剤は、用いられる用量または濃度でレシピエントに非毒性であり、代表的に5.0〜8.0(最も頻繁には、6.0〜7.0)のpHの緩衝液(例えば、リン酸塩、クエン酸塩、または酢酸塩);等張にするための塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウムなど);抗酸化剤、保存剤、低分子量ポリペプチド、タンパク質、親水性ポリマー(例えば、ポリソルベート80)、アミノ酸、炭水化物、キレート剤、糖、および当業者に公知の他の標準的な成分(Remington’s Pharmaceutical Science 第16版、Osol,A.編、1980)を含む。上記mAbは、代表的に、1mg/ml〜100mg/ml(例えば、10mg/ml)の濃度で存在する。
【0028】
本発明の抗体は、代表的には、所望されない混入物質から実質的に純粋である。これは、その抗体が、代表的には、少なくとも約50% w/w(重量/重量)純粋であり、そして干渉タンパク質および混入物質を実質的に含まないことを意味する。好ましくは、その抗体は、少なくとも90% w/w純粋、95% w/w純粋、または99% w/w純粋である。非経口投与のための薬学的組成物は、通常無菌であり、実質的に等張であり、FDAまたは類似の団体のGood Manufacturing Practicesに従って調製される。
【0029】
別の好ましい実施形態において、本発明は、疾患を有する患者を、薬学的処方物中の抗HGF mAbを使用して処置する方法を提供する。薬学的処方物中に調製されたmAbは、任意の適した経路(特に、静脈注射もしくはボーラス注射、筋肉内または皮下注射による非経口経路)によって、患者に投与され得る。静脈内注射は、わずか15分間、より頻繁には30分間、または1時間、2時間または3時間さえ、与えられ得る。上記mAbはまた、疾患の部位(例えば、腫瘍)の部位に直接的に注射されてもよいし、リポソームのような運搬因子内に被膜化されてもよい。与えられる用量は、処置される状態を軽減するのに十分(「治療的有効量」)であり、体重1kg当たり0.1mg〜5mg(例えば、1mg/kg、2kg/kg、3mg/kgまたは4mg/kg)であることが多いが、10mg/kgもの量であっても、15mg/kgもしくは20mg/kgでさえあってもよい。一定の単位用量(例えば50mg、100mg、200mg、500mgまたは1000mg)がまた与えられてもよいし、用量は患者の表面積(例えば、100mg/m2)に基づいて投与され得る。通常、1用量と8用量との間(例えば、1用量、2用量、3用量、4用量、5用量、6用量、7用量または8用量)が癌を処置するために投与されるが、10用量、20用量またはそれより多い用量が投与され得る。上記mAbは、そのmAbの半減期(例えば、1週間、2週間、4週間、8週間、3〜6ヶ月間またはそれより長い)に依存して、毎日、週2回、毎週、隔週、毎月、または何らかの他の間隔で投与され得る。長期投与のような、反復過程の処置もまた可能である。疾患の(生化学的、組織学的、および/または臨床的)症状(その合併症およびその疾患の発症における中間の病理表現型を含む)を軽減するかまたは少なくとも部分的に停止させる、投与の用量および間隔のレジメンは、治療的に有効なレジメンといわれる。
【0030】
本発明の薬学的組成物はまた、癌の危険性がある患者の予防においても使用され得る。そのような患者としては、発癌性因子(例えば、放射線または毒素)への曝露を受けた患者、および以前に癌の処置を受け、再発の危険がある患者が挙げられる。予防的用量は、上記危険性を排除するかまたは低下させ、重篤度を低下させ、またはその疾患(その疾患の生化学的、組織学的および/または臨床的症状、その合併症ならびにその疾患の発症の間に存在する中間の病理表現型を含む)の発症を遅延させるのに十分な量である。これらの対象の1つ以上に影響するのに有効な量および間隔における薬学的組成物の投与は、予防的に有効なレジメンといわれる。
【0031】
本発明の抗HGF mAbでの治療に特に感受性である疾患としては、子供または成人の、新脈管形成を必要とすることが既知であるかもしくはそう疑われる固形腫瘍、またはHGFレベルの上昇に関連することが既知であるかもしくはそう疑われる固形腫瘍(例えば、卵巣癌、乳癌、肺癌(小細胞癌もしくは非小細胞癌)、結腸癌、前立腺癌、膵臓癌、腎臓癌、胃癌、肝臓癌、)頭頸部癌、メラノーマ、肉腫および脳腫瘍(例えば、グリア芽細胞腫)が挙げられる。処置はまた、白血病またはリンパ腫を有する患者にも投与され得る。好ましい実施形態において、上記抗HGF mAbは、他の抗癌治療と一緒に(すなわち、前、間または後に)と投与され得る。例えば、その抗HGF mAbは、腫瘍学の分野の当業者に既知の任意の1つ以上の化学療法薬(例えば、タキソール(パクリタキセル)もしくはその誘導体、カルボプラチンもしくはシスプラチンのような白金化合物、ドキソルビシンのようなアントラサイクリン(anthrocycline)、シクロホスファミドのようなアルキル化剤、5−フルオロウラシルのような代謝拮抗剤、またはエトポシド)と一緒に投与され得る。上記抗HGF mAbは、2つ、3つ、またはそれより多いこれらの因子と組み合わせて、標準的な化学療法レジメン(例えば、乳癌および卵巣癌に対するタキソールおよびカルボプラチン)で投与され得る。抗HGF mAbが一緒に投与され得る他の因子としては、モノクローナル抗体のような生物製剤(HER2抗原に対するHerceptin(登録商標)、VEGFに対するAvastin(登録商標)、またはEGFレセプターに対する抗体)、および小分子抗血管形成剤またはEGFレセプターアンタゴニスト薬が挙げられる。さらに、その抗HGF mAbは、放射線治療または手術と一緒に使用され得る。
【0032】
抗HGF mAb抗体を含む処置(例えば、標準的な化学療法)は、これらの腫瘍(例えば、卵巣腫瘍、乳腫瘍、肺腫瘍、膵臓腫瘍、脳腫瘍および結腸腫瘍、特に再発性または難治性の場合)を有する患者の、無増悪期間中央値(median progression−free survival)または全体の生存時間を、抗HGF mAbなしの同一の処置(例えば、化学療法)と比較して、少なくとも30%または40%、好ましくは、50%、60%〜70%または100%でさえ、またはそれより長く、増加させ得る。さらに、またはあるいは、上記抗HGF mAbを含む処置(例えば、標準的な化学療法)は、これらの腫瘍(例えば、卵巣腫瘍、乳腫瘍、肺腫瘍、膵臓腫瘍、脳腫瘍および結腸腫瘍、特に再発性または難治性の場合)を有する患者の、完全反応割合、部分反応割合、または客観的反応割合(完全+部分)を、抗HGF mAbなしの同一の処置(例えば、化学療法)と比較して、少なくとも30%または40%、好ましくは、50%、60%〜70%または100%でさえ、増加させ得る。必要に応じて、処置は、腫瘍の浸潤または転移を阻害し得る。
【0033】
代表的に、臨床試験(例えば、フェーズII試験、フェーズII/III試験またはフェーズIII試験)において、化学療法のみ(または、+プラシーボ)を受けている患者のコントロール群に対して、化学療法+上記抗HGF mAbで処置された患者の上述の無増悪期間中央値または反応割合における増加は、統計的に有意(例えば、p=0.05レベルまたは0.01レベルまたは0.001レベルでさえある)である。完全反応割合または部分反応割合は、癌に対する臨床試験において(例えば、National Cancer Instituteおよび/またはFood and Drug Administrationによって列挙または受理されているような)一般的に使用される客観的基準によって決定されることが、当業者によって理解される。
【0034】
(4.他の方法)
本発明の抗HGF mAbはまた、診断方法、予後方法および研究室方法における用途を見出し得る。それらは、腫瘍を有する患者の腫瘍中の、または血行中の、HGFのレベルを測定するために;そしてそれゆえその腫瘍の処置を追跡し、導くために、使用され得る。例えば、高レベルのHGFに関する腫瘍は、抗HGF mAbでの処置に特に感受性である。特定の実施形態において、そのmAbは、例えば腫瘍生検標本において、もしくは血清において、または細胞培養物におけるHGF分泌細胞の培地上清において、HGFのレベルを測定するためのELISAまたは放射免疫測定において使用され得る。異なるエピトープに結合する(すなわち、結合について競合しない)2つの抗HGF mAbの使用は、HGFを検出するための感受性「サンドイッチ」ELISAの開発において特に有用である。種々のアッセイのために、そのmAbは、蛍光分子、スピン標識分子、酵素またはラジオアイソタイプで標識化され得、HGFについてのアッセイを実施するための全ての必要な試薬を備えるキットの形態で提供され得る。他の用途においては、その抗HGF mAbは、例えばアフィニティークロマトグラフィーによって、HGFを精製するために使用され得る。
【実施例】
【0035】
(1.抗HGF mAbの生成)
ヒトHGFに結合し、ヒトHGFの活性を遮断するmAbを生成するために、組み換えヒトHGF(rHGF)を、最初に哺乳動物発現系において産生した。その組み換えヒトHGF(rHGF)またはrHGF−Flagペプチド(HGFのC末端に結合された8アミノ酸残基のFlag)をコードするcDNAを、pIND誘導性発現ベクターにおいて構築した(Noら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.93:3346,1996)。次いでこれらのcDNAを、Fugeneトランスフェクション試薬(Roche)を使用して、EcR−293ヒト腎臓線維芽細胞(Invitrogen)内にトランスフェクションした。HGFおよびHGF−Flagをそれぞれ分泌する、安定な細胞株であるHI−F11および24.1を、600μg/mlのG418および400μg/mlのZeocin(Invitrogen)の存在下で選択した。HI−F11および24.1を、グルタミンおよび抗生物質を含有する血清なしのDMEMにおいて、4MのPonasterone A(Invitrogen)で4〜5日間処理することにより、HGFおよびHGF−Flagを分泌するように誘導した。15,000rpmで30分間、4℃での遠心分離によって凝集体を除去後、培養上清中に分泌されたHGFを、MW50,000のカットオフフィルターを備える膜限外濾過カートリッジを使用して、約100倍に濃縮した[amicon Centriprep YM−50 filter、続いてmicrocon YM−50 filter (Millipore)]。そのような濃縮H1F11培養上清は、約100μg/mlのHGFおよび約120μg/mlのウシ血清アルブミンを含有する。
【0036】
Balb/cマウスを、MPL−TDM(RibiImmunochem.Research)中に再懸濁された1〜2μgの精製rHGF(Pepro Tech)または1〜2μgのrHGF+1〜2μgのBSA(濃縮HI−F11培養上清)で、1週間間隔で10回以上、各後肢の足蹠において免疫化した。最後の1回の3日後、膝窩リンパ節細胞を、35%ポリエチレングリコールを使用して、マウスミエローマ細胞であるP3X63AgU.1(ATCC CRL1597)と融合させた。ハイブリドーマを、記載された通り(ChuntharapaiおよびKim,J.Immunol.163:766,1997、これは、本明細書中に参考として援用される)、HAT培地において選択した。その融合から10日後に、ハイブリドーマ培養上清を、直接的HGF結合ELISAおよびHGF−Flag捕捉ELISAにおいて、スクリーニングした。後者のアッセイは、その直接的HGF結合ELISAを使用して選択された抗HGF mAbの特異性をさらに確認するために、そして溶液相においてHGFに結合し得るmAbを選択するために、使用した。選択されたmAbの遮断活性を、次いで、記載された通り(Jeffersら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14417,1998)に、上記HGF−Flag/cMet−Fc結合ELISAおよび上記MDCK分散アッセイにおいて決定した。選択されたハイブリドーマを、限界希釈技術を使用して、2回クローニングした。mAbのアイソタイプを、アイソタイピングキット(Zymed)を使用して決定した。選択されたmAbの腹水を採取し(raise)、ImmunoPure(A/G) IgG Purification Kit(Pierce)を使用して精製した。ビオチン化したmAbもまた、Pierceにより提供された指示書に従って、EZ−sulfo−NHS−LC−Biotinを使用して調製した。本明細書中に言及されたアッセイの各々は、以下により詳細に記載される。直接的HGF結合ELISAのために、マイクロタイタープレート(Maxisorb;Nunc)を、4℃で一晩、PBS中に1:2のHGF/PBS比で希釈された、rHGFを含有する50μl/ウェルのH1−F1培養上清でコーティングする。そのプレートを洗浄した後、非特異的結合部位を、2%スキムミルク含有PBSで、1時間室温(RT)でブロッキングする。そのプレートを洗浄した後、50μl/ウェルの精製されたmAbまたはハイブリドーマ培養上清を、各ウェルに1時間添加する。次いで、洗浄後にこのプレートを、50μl/ウェルの1μg/ml HRP−ヤギ抗マウスIgG(HRP−GαMIgG,Cappel)と一緒に、1時間インキュベートする。結合したHRP−GαMIgGを、テトラメチルベンジジン基質(Sigma)の添加により検出する。その反応を、1NのH2SO4の添加によって停止させ、次いでそのプレートをELISAプレートリーダーを使用して450nmで読み取る。洗浄を、洗浄緩衝液(0.05%のTween20を含有するPBS)において3回実施する。
【0037】
HGF−Flag捕捉ELISAのために、マイクロタイタープレートを、4℃にてPBS中で一晩、マウスIgG(GαMIgG−Fc)のFc部分に特異的な2μg/mlのヤギ抗体の50μl/mlでコーティングし、2%スキムミルクで1時間室温でブロッキングする。洗浄後に、そのプレートを、50μl/ウェルの精製mAbまたはハイブリドーマ培養上清と一緒に1時間インキュベートする。次いで、洗浄後に、プレートを、50μl/ウェルのrHGF−Flag含有24.1細胞培養上清と一緒にインキュベートする。次いで、洗浄後に、プレートを、15μg/mlのマウスIgGの存在下で、50μl/ウェルのHRP−M2抗Flag mAb(Invitrogen)と一緒にインキュベートする。結合HRP抗Flag M2を、上に記載されたように、上記基質の添加によって検出する。洗浄を、洗浄緩衝液において3回実施する。
【0038】
L1H4、L2C7およびL2G7と命名され、上に記載されたように濃縮HI−F11培養上清中のrHGFで上記Balb/cマウスを免疫化することによって生成されたハイブリドーマから得られ、上記直接的rHGF結合ELISAおよび上記HGF−Flag捕捉ELISAの両方において結合を示した、少なくとも3つのmAbを、さらなる研究のために選択した。次いで、これらのハイブリドーマを2回クローニングし、腹水をマウスにおいて標準的な方法により採取し、そしてmAbをプロテインG/Aカラムを使用して精製した。それらのアイソタイプを、アイソタイピングキット(Zymed Lab)を使用して決定した。上記L2G7ハイブリドーマは、特許手続上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に則って、2003年4月29日にAmerican Type Culture Collection,P.O.Box 1549 Manassas,VA 20108に、ATCC番号PTA−5162として寄託されている。これらの寄託物は、サンプルの譲渡のための最も最近の要求が管理機関により受理されてから少なくとも5年間、その寄託の日付から少なくとも30年間、または関連する特許の法的強制力のある期間の間のいずれか最長の期間、公認された管理機関にて維持され、そして変異、非生存または破壊の事象の際に交換される。これらの細胞株の一般への利用可能性についての全ての制約は、その出願から、特許査定の際に無条件で取り除かれる。
【0039】
一旦、インビトロでHGFを中和し、そして/またはインビボで腫瘍の増殖を(例えば、完全に)阻害する、本明細書中に記載される所望の特性を有する、単一の、原型の(archtypal)抗ヒトHGF mAb(例えば、L2G7)が単離されると、当業分野に公知の方法を用いることにより、類似の特性を有する他のmAbを生成するのは容易である。例えば、マウスを、上に記載された通りにHGFで免疫化し、ハイブリドーマを生産し、そして得られたmAbを、HGFへの結合について原型のmAbと競合する能力についてスクリーニングし得る。あるいは、Jespersら,Biotechnology 12:899,1994(これは、本明細書中に参考として援用される)を、上記原型のmAb(例えば、L2G7)と同一のエピトープを有し、そしてそれゆえ類似の特性を有するmAbの選抜を導くために、使用し得る。ファージディスプレイを使用して、その原型の抗体の第1の重鎖を、(好ましくはヒトの)軽鎖のレパートリーと対にしてHGF結合mAbを選択し、次いでその新しい軽鎖を、(好ましくはヒトの)重鎖のレパートリーと対にし、その原型のmAbと同一のエピトープを有する(好ましくはヒト)HGF結合mAbを選択する。
【0040】
(2.インビトロでの抗HGFmAbの特徴付け)
上記抗体の結合エピトープを、競合結合ELISAによって部分的に特徴付けし、ここで100×過剰の非標識mAbを、上記HGF結合ELISAにおける同一または別のビオチン化mAbの結合と競合させるために使用した。図4は、抗HGF mAbであるL1H4およびL2G7の結合が、それら自体によってのみ阻害されたことを示し、このことは、これらが独特のエピトープを認識することを示唆する。L2C7の結合は、L2C7によって阻害されたが、L1H4によっては阻害されなかった。このことは、そのL2C7エピトープが、L2G7のエピトープとはオーバーラップしているが、L1H4のエピトープとはオーバーラップしていないことを示唆する。しかしながら、L2C7は、L2G7の結合を阻害することはできなかった。このことは、そのL2C7エピトープおよびL2G7エピトープはオーバーラップするが異なり、そして/またはL2C7の親和性は、L2G7の親和性よりもずっと小さいことを示唆する。L1H4、L2C7およびL2G7のエピトープは、それぞれA、BおよびCと指定する。
【0041】
上記3つの抗HGF mAbの相対的結合能を、直接的HGF結合ELISAにおいて、精製された抗体を使用して測定した。ここで、rHGFは、プレートに最初に結合される。このアッセイにおいて、L2C7およびL2G7は、L1H4よりもよく結合した(図5)。溶液中のrHGF−Flagに結合するそのmAbの能力もまた、上記HGF−Flag捕捉ELISAを使用して、決定した。3つのmAb全てが、溶液相においてrHGF−Flagを捕捉することができたが、mAb L2G7は、他のものよりもより効率的であった(図6)。これらの結果は、その3つのmAbの間でmAb L2G7がHGFに対する最高の結合親和性を有することを示唆する。
【0042】
HGFの生物学的活性のうちの1つは、そのレセプターであるcMetに結合する能力であるので、HGFのcMETへの結合を阻害するその抗HGF mAbの能力をアッセイした。このアッセイのために、cMet−Fcを、最初に、pDisplay発現ベクター(Invitrogen)において、Markら,J.Biol.Chem.267:26166,1992によって記載される通り、ヒトIgG1(残基216〜446)のFc部分に連結されたcMetの残基1〜929ECDをコードするcDNAで、ヒト線維芽293細胞をトランスフェクションすることによって産生した。マイクロタイタープレートを、4℃で一晩、PBS中のヒトIgG(GαHIgG−Fc)のFc部分に特異的な2μg/mlの、ヤギ抗体50μl/ウェルで、コーティングし、2%BSAで1時間室温でブロッキングする。そのプレートを洗浄後、cMet−Fc cDNAでトランスフェクションされた293の培養上清の50μlを、各ウェルに1時間室温で添加する。そのプレートを洗浄後、種々の濃度のmAbと一緒にプレインキュベートされた、rHGF−Flagを含有する50μl/ウェルの24.1細胞培養上清を、1時間各ウェルに添加する。次いで洗浄後に、プレートを、HRP−M2 抗−Flag mAb(Invitrogen)の50μl/ウェルと一緒にインキュベートする。結合したHRP−抗Flag M2を、上に記載された通り、上記基質の添加により検出する。洗浄は、洗浄緩衝液において3回実施する。
【0043】
このHGF−Flag/cMet−Fc結合阻害アッセイにおいて、3つのmAb全てはいくらかの程度の阻害を示した一方で、Igコントロール抗体は示さなかった(図7)。1μg/ml以上のmAb L2G7および50μg/mlのmAb L1H4は、rHGF−FlagのcMet−Fcへの結合を根絶し;50μg/mlのmAb L2C7でさえ、85%だけの阻害を与えた。それゆえ、mAb L2G7は、他の抗体よりも、rHGF−FlagのcMet−Fcとの(そしてそれゆえ、おそらくHGFの、そのレセプターであるcMetとの)相互作用の阻害において、ずっと強力であった。このことは、HGFに対するより推定上のより大きな親和性と一致する。
【0044】
cMet−Fc/HGF−Flag結合ELISAにおいて使用されるレセプタータンパク質は可溶性レセプタータンパク質であるので、その立体構造は、天然の膜結合レセプターの立体構造とはことなったものであるかもしれない。さらに、HGFは、cMetに加えてHSPGに結合し、HSPG−HGF相互作用が種々のHGF活性を強化することが知られている。従って、可溶性cMetとのHGFの相互作用を遮断するmAbは、細胞上でのHGFの生物学的活性を中和する能力を必ずしも有さないかもしれない。従って、選択された生物学的系において、mAbの遮断する活性をさらに確認することが重要である。HGFは、強力な分散因子であることが知られている。従って、上記抗HGF mAbの中和活性をまた、記載された(Jeffersら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:14417,1998)通り、Madin−Darbyイヌ腎臓(ATCCから得たMDCK細胞)分散アッセイを使用して決定した。5%FCSを補充したDMEMにおいて増殖したMDCK細胞を、5%FCSを含むDMEM中のmAbと一緒かまたはmAbなしで、予め決定された濃度のrHGFの存在下で、103細胞/100μl/ウェルでプレーティングする。次いで、37℃で5%CO2中で2日間のインキュベート後に、細胞をPBS中で洗浄し、2%ホルムアルデヒド中で10分間室温で固定する。PBSでの洗浄後に、細胞を、室温で10分間、50%エタノール(v/v)中0.5%クリスタルバイオレットで染色する。分散活性を、顕微鏡検査により決定する。
【0045】
上に記載された、HGFを分泌するHI−F11クローンの培養上清を、その分散アッセイにおけるHGFの供給源として使用した。1:80希釈もの少なさのHI−F11培養上清が、MDCK細胞の分散および増殖を誘導した。しかしながら、その分散アッセイは、1:20希釈のHI−F11培養上清(約3μg/ml)を使用して実施した。1:5のHGF/mAbモル比のmAb L2G7でさえ、それ自体で、MDCKのHGF誘導性分散を阻害し(図8)、最終的にmAb L2G7が確かに中和mAbであることを実証した。20μg/ml以上のmAb L1H4もまた、HGFによって誘導されるMDCKの分散を中和し得た一方で、20μg/mlものmAb L2C7は、部分的な中和活性のみしか与えなかった(データは示さず)。
【0046】
上記アッセイにおいて決定された、上記3つの抗HGF抗体の種々の特徴を、表1にまとめる。
【0047】
【表1】
HGFは、線維芽増殖因子(FGF)および血管内皮増殖因子(VEGF)を含むヘパリン結合増殖因子ファミリーのメンバーである。同様に、HGFは、プラスミノーゲンと約40%の配列全体の類似性を有し(Nakamuraら,Nature.342:440,1989)、マクロファージ刺激タンパク質(MSF)と類似のドメイン構造を共有する(Wangら,Scand.J.Immunol.56:545,2002)。従って、上記抗HGF抗体の結合特異性が、決定されなければならない。これらのHGF関連タンパク質(R&D systemsから入手可能)への抗HGF mAbの結合を、上に記載されたHGFに対するELISAに類似する、直接的結合ELISAを使用してアッセイする。mAb L2G7、mAb L2C7およびmAb L1H4は、これらのタンパク質と有意には結合せず、このことは、HGFに対するそれらの特異性を実証している。
【0048】
(3.腫瘍が促進するHGFの生物学的活性を阻害する、抗HGF mAbの能力)
HGFは、HGFが特定のヒト腫瘍の増殖および侵襲性において役割を演じていることを、有望にさせる多数の生物学的活性を有する。HGFのそのような活性のうちの1つは、肝細胞および他の上皮細胞に対する強力なマイトジェンである(Rubinら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.88:415,1991)。従って、その抗HGF mAbの中和活性をさらに証明するために、4MBr−5サル上皮細胞(ATCC)またはラット肝細胞のHGF誘導性増殖についての、そのmAbの効果を決定する。GarrisonおよびHaynes,J.Biol.Chem.269:4264,1985に記載される方法に従って、肝細胞を単離する。細胞を、5%FCSを含有するDMEM中に5×104細胞/mlで再懸濁し、種々の濃度のmAbと一緒に予め決定された濃度のHGFで刺激する。5%CO2中における37℃での2.5日間のインキュベート後、細胞増殖のレベルを、3H−チミジンを4時間添加することによって決定した。細胞を、自動細胞回収器を使用して回収し、取り込まれた3H−チミジンのレベルを、シンチレーションカウンターで決定する。十分な濃度において、mAb L2G7は、その細胞のHGF誘導性増殖をほとんどまたは完全に阻害し得、mAb L2C7およびL14Hは、少なくとも部分的には増殖を阻害し得る。これらの抗体は、他の上皮細胞株のHGF誘導性増殖もまた阻害し得る。
【0049】
例えば、ミンク肺Mv 1 Lu細胞のHGF誘導性増殖についての上記L2G7の阻害活性が、決定された(Borsetら,J.Immunol.Methods 189:59,1996)。10%FCS含有DMEMにおいて増殖した細胞を、EDTA/トリプシン(trysin)での処理によって回収する。洗浄後、その細胞を、予め決定された濃度(50ng/ml)のHGFを含み、種々の濃度のmAbを含むかまたは含まず、血清を含まないDMEM中に、5×104細胞/mlで再懸濁する。5%CO2中における37℃での1日間のインキュベート後、細胞増殖のレベルを、さらに24時間1μCiの3H−チミジンの添加によって決定する。細胞を、自動細胞回収器を使用してガラス繊維フィルター上に回収し、取り込まれた3H−チミジンのレベルを、シンチレーションカウンターにおいて決定する。図9は、100倍高いモル濃度のL2G7 mAbの添加が、Mv 1 Lu細胞の増殖応答を完全に阻害することを示す。3倍高いmAb対HGFモル比のL2G7でさえ完全な阻害を示した一方で、コントロールのIgGは、100倍モル濃度過剰でさえ阻害を示さない。
【0050】
HGFはまた、強力な新脈管形成因子であることも報告されており(Bussolinoら,J.Cell Biol.119:629,1992;Cherringtonら,Adv.Cancer Res.79:1,2000)、そして新脈管形成(新しい血管の形成)は、腫瘍の増殖には必須であると考えられている。従って、上記抗HGF mAbの、HGFの脈管形成特性を阻害する能力は、3つのアッセイ:(i)ヒト血管内皮細胞(HUVEC)の増殖、(ii)HUVECの管形成、および(iii)鶏胚絨毛尿膜(CAM)上での新しい血管の発生、において示される。HGFは、新脈管形成においてVEGFと相乗作用することが示されている(Xinら,Am.J.Pathol.158:1111,2001)ので、これらのアッセイは、VEGFの存在下および非存在下の両方において実施され得る。
【0051】
上記HUVEC増殖アッセイを、改変を加えて記載された通り(Connら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 87:1323,1990)に、実施する。Cloneticsから得たHUVEC細胞を、10%FCS+Cloneticsより提供される内皮細胞増殖補助剤を含有するEndothelial Growth Medium(EBM−2)において増殖させる。好ましくは、4継代〜7継代の細胞を、この研究において使用する。その細胞を、抗生物質、10mM HEPESおよび10% FCS(アッセイ培地)を含有する、培地−199中に、105細胞/mlとなるように再懸濁する。HUVEC細胞(50μl/ウェル)を、37℃で1時間、種々の濃度の抗HGF mAbと一緒に、適した濃度のHGFを含有するマイクロタイターウェルに添加する。5%CO2中において37℃で72時間細胞をインキュベートした後、細胞増殖のレベルを、4時間での3H−チミジンの取り込みによって決定する。十分な濃度において、mAb L2G7は、上記HUVECのHGF誘導性増殖をほとんどまたは完全に阻害し、そしてmAb L2C7およびL1H4は、増殖を少なくとも部分的に阻害し得る。
【0052】
あるいは、細胞増殖のレベルは、周知の比色定量MTTアッセイによって決定され得る。上記HUVEC(104細胞/100μl/ウェル)を、24時間血清を含まない培地中で増殖させ、次いで、種々の濃度のmAb L2G7を含む、(最適以下の量であると予め決定された)50ng/mlのHGFの100μlと一緒に72時間インキュベートする。MTT溶液(5mg/ml)を、各ウェル(20μl/培地200μl)に4時間添加する。次いで、1ウェル当たり100μlの培地を回収し、100μl/ウェルの酸性化されたイソプロピルアルコール(イソプロピル中0.04N HCl)と混合する。そのプレートを、560nmにてELISAリーダーにおいて読み取る。最大応答%を、以下のように算出する:[HGF+mAbで処理された細胞のOD−未処理細胞のOD]/[HGF処理された細胞のOD−未処理細胞のOD]×100。図10は、2倍モル濃度過剰のL2G7 mAbでさえ、HGFに応答してのHUVECの増殖をほとんど遮断することを示す。
【0053】
上記内皮管アッセイを、基本的には記載された(Matsumuraら,J.Immunol.158:3408,2001;Xinら,Am.J.Pathol.158:1111,2001)通りに実施する。4継代〜7継代のHUVEC(Clonetics)を、10%FBSおよび内皮細胞増殖補助剤を補充したClonetics EGM培地中で増殖させる。プレートを、製造者の指示書に従って、Matrigel(BD Biosciences)で37℃で30分間コーティングし、その細胞を、HGFおよび種々の濃度の抗HGF mAbを含む1×基本培地中に、3×106細胞/mlで播種する。管形成を、低倍率(10×)で顕微鏡下で評価する。十分な濃度において、mAb L2G7は、HGF誘導性の内皮管形成をほとんどまたは完全に阻害し、そしてmAb L2C7およびL1H4は、少なくとも部分的にHGF誘導性の内皮管形成を阻害し得る。
【0054】
上記鶏胚絨毛尿膜(CAM)を、基本的に記載された(Kimら,Nature 362:841,1992)通りに実施する。3日齢の鶏胚を、その殻から取り出し、37℃において5%CO2中でペトリ皿で増殖させる。7日後、種々の濃度の抗HGF mAbを含むHGF含有乾燥メチルセルロースディスク(disc)を、そのCAM上に積み重ねる。このメチルセルロースディスクは、PBS中1.5%メチルセルロース5μlと、mAbとプレインキュベートした5μlのHGFとを混合することによって調製する。3日後、メチルセルロースディスクの周りの血管の発生を試験する。十分な濃度において、mAb L2G7は、そのような血管形成をほとんどまたは完全に阻害し、そしてmAb L2C7およびL1H4は、少なくとも部分的に血管形成を阻害し得る。
【0055】
HGFはまた、腫瘍の増殖を促進することが報告されている(ComoglioおよびTrusolino,J.Clin.Invest.109:857,2002)。抗HGF抗体のこの活性を阻害する能力は、2つの工程において示される。第1に、多数の腫瘍細胞株を、HGFを分泌し、そしてHGFに応答して増殖させるその能力について試験する。なぜなら、HGFは、いくつかのこれらの細胞に対するオートクリン増殖因子であり得るからである。これらの細胞株としては、HGFおよびcMetを発現することが知られているヒト腫瘍細胞株のパネルが挙げられる(Koochekpourら,Cancer Res.57:5391,1997;Wangら,J.Cell Biol.153:1023,2001)。試験される具体的な細胞株としては、U−118神経膠腫、HCT116結腸癌腫、A549肺癌腫およびA431類表皮癌腫細胞(全てATCCから入手可能)が挙げられる。一旦そのような腫瘍細胞株が同定されたら、これらの細胞のHGFに対する増殖応答についての抗HGF mAbの効果を、上に記載された方法と類似の方法を使用して、決定する。十分な濃度において、mAb L2G7は、これらの多くまたは全ての細胞株のHGF誘導性増殖をほとんどまたは完全に阻害し、mAb L2C7およびL1H4は、少なくとも部分的に増殖を阻害し得る。
【0056】
例えば、ヒトHCT116腫瘍細胞を、200μlのDMEM+5%FCS中に、5×103細胞/ウェルにて96ウェルマイクロタイタープレートに播種する。37℃での5%CO2中24時間のインキュベート後、細胞をPBSで洗浄し、血清を含まないDMEM中で48時間インキュベートする。次いで、細胞を、DMEM中の100ng/mlのHGF+/−20μg/mlのmAbと一緒に、さらに20時間インキュベートする。コントロールとして、DMEMのみまたはDMEM+10%FCSにおいて増殖した細胞を含める。そのインキュベートの最後に、細胞増殖のレベルを、4時間の3H−チミジンの取り込みにより決定する。3連で実施したそのような実験の結果を、図11に示す。HGFは、上記HCT116細胞の中程度の増殖を誘導し、これはL2G7抗体の添加により完全に排除された(しかし、より強力でないL1H4抗体では排除されなかった)。
【0057】
上に記載された全てのアッセイにおいて、各抗HGF抗体は、HGFの他のアンタゴニストなしで単独で使用された場合(すなわち、単一の因子として)、活性を中和または阻害するが、その抗体を他の抗HGF抗体または他の活性因子と組み合わせて投与することによって、相加的または相乗的な効果が達成され得る。
【0058】
(4.インビボで腫瘍の増殖を阻害する、抗HGF mAbの能力)
抗HGF抗体の、ヒト腫瘍増殖を阻害する能力を、免疫不全マウスまたは他のげっ歯類(例えば、ラット)における異種移植片モデルにおいて実証する。使用され得るマウスの免疫欠損株の、例示的であるが限定しない例は、CD−1ヌード、Nu/Nu、Balb/cヌード、NIH−III(NIH−bg−nu−xid BR);scidマウス(例えば、Fox Chase SCID(C.B−17 SCID)、Fox Chase outbred SCIDおよびSCID Beigeのようなヌードマウス);RAG酵素不全マウス;ならびにヌードラットである。実験は、以前に記載された(Kimら,Nature 362:841,1992,これは、本明細書中に参考として援用される)通りに実施する。完全DMEM培地中で増殖したヒト腫瘍細胞を、HBSS中に回収する。雌性免疫不全(例えば、胸腺欠損)ヌードマウス(4〜6週齢)に、背部領域に、0.2mlのHBSS中の代表的には5×106細胞を、皮下注射する。腫瘍サイズが50mm3〜100mm3に達したときに、そのマウスを、無作為にグループ分けし、適切な量の抗HGF mAbおよびコントロールmAb(代表的には、0.1mgと1.0mgとの間、例えば、0.5mg)を、1週間当たり1回、2回または3回、例えば0.1mlの容量で、例えば1週間、2週間、3週間もしくは4週間、またはその実験の間、腹腔内に投与する。腫瘍サイズを、代表的には1週間に2回、2次元[長さ(a)および幅(b)]で測定することにより、決定する。腫瘍容量を、V=ab2/2に従って算出し、平均腫瘍容量±SEMとして表現する。各処置グループにおけるマウスの数は、少なくとも3匹、より頻繁には5匹と10匹との間(例えば、7匹)である。統計的な分析を、例えばスチューデントt検定を使用して実施し得る。この実験のバリエーションにおいて、上記抗体の投与は、腫瘍細胞の注射と同時にか、または腫瘍細胞の注射の直ぐ後に開始する。その抗体の効果はまた、マウスの生存の延長または生存するマウスのパーセントの増加によっても、測定され得る。
【0059】
HGFを分泌するかまたはHGFに応答することが知られている種々の腫瘍細胞株(例えば、U118ヒトグリア芽細胞腫細胞、および/またはHCT116ヒト結腸腫瘍細胞)を、別個の実験において使用する。本発明の好ましい抗体(例えば、ヒト様抗体、低下した免疫原性の抗体、上記L2G7抗体ならびにそのキメラおよびヒト化形態、ならびにL2G7と同一のエピトープを有する抗体)は、単一の因子として使用された場合に、ある期間の後に、少なくとも25%、おそらく40%もしくは50%、そして75%もしくは90%もしくはそれより多くほども、または完全にさえ、腫瘍増殖を阻害するか、あるいは、腫瘍の退行若しくは消失を引き起こす。注射した抗体に対して中和抗体応答を起こさない1種以上の免疫不全マウス株において試験した場合に、この阻害は、NIH III Beige/Nudeのような少なくとも1つのマウス株のU118のような少なくとも1つの腫瘍細胞株に対して起こるが、好ましくは、特定の型(例えば、神経膠腫)または任意の型の2つ、3つ、複数、多くまたは本質的に全てのHGF発現腫瘍細胞株に対して起こる。1つ以上の異種移植片モデルにおけるいくつかの好ましい抗体での処置は、50%、75%、90%または本質的に全てのマウス(このマウスは、処置なしでは、その腫瘍の増殖のために死ぬかまたは屠殺される必要がある)の、無期限の生存を導く。
【0060】
例えば、そのような実験を、FCSを含むDMEM培地で増殖し、HBSS中に回収されたU−118グリア芽細胞腫細胞を用いて実施した。雌性のNIH III Beige/Nudeマウス(4〜6週齢)に、背部領域に、0.2mlのHBSS中106細胞を皮下注射した。腫瘍サイズが約50mm3に達したときに、そのマウスを、各6匹のマウスの2グループに無作為にグループ分けし、200μgのL2G7 mAb(処置グループ)または200μgのPBS(コントロールグループ)を、0.1mlの容量で1週間に2回腹腔内に与えた。腫瘍サイズを、上に記載されたように、1週間に2回決定する。実験の終了時に、その腫瘍を切除および秤量する。図12は、L2G7での処置が、腫瘍の増殖を完全に阻害したことを示す。
【0061】
類似の腫瘍阻害実験を、Ashkenizeら,J.Clin.Invest.104:155,1999に記載されたように、5−FU(5−フルオロウラシル)またはCPT−11(Camptosar)のような1種以上の化学療法剤(これらに対して、その腫瘍の型は応答性であると予想される)と組み合わせて抗HGF抗体を投与して実施する。その抗体と化学療法薬との組み合わせは、どちらかの因子単独よりも、腫瘍増殖のより大きい阻害をもたらし得る。その効果は、相加的または相乗的であり得、増殖を強力(例えば、80%または90%またはそれより大きい)に阻害し得、または腫瘍の退行または消失さえ引き起こし得る。上記抗HGF抗体はまた、別の増殖因子または血管形成因子(例えば、抗VEGF)に対する抗体と組み合わせて投与され得、そして相加的または相乗的な増殖阻害および/または腫瘍の退行もしくは消失が予想される。
【0062】
本発明は、現在の好ましい実施形態を参照して説明されてきたが、種々の改変が、本発明から逸脱せずになされ得ることが、理解されるべきである。文脈からそうでないことが明白でない限り、本発明の任意の工程、要素、実施形態、特徴または局面は、任意の他のものと一緒に使用され得る。
【0063】
引用された全ての刊行物、特許および特許出願は、個々の刊行物、特許および特許出願の各々が具体的かつ個別に、全ての目的のためにその全体が参考として援用されると示されたのと同程度に、全ての目的のためにその全体が参考として本明細書中に援用される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【請求項1】
明細書中に記載の発明。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−12067(P2011−12067A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174810(P2010−174810)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【分割の表示】特願2007−508323(P2007−508323)の分割
【原出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(506344837)ギャラクシー バイオテック, エルエルシー (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【分割の表示】特願2007−508323(P2007−508323)の分割
【原出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(506344837)ギャラクシー バイオテック, エルエルシー (6)
【Fターム(参考)】
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