説明

肝細胞増殖因子/細胞分散因子(HGF/SF)のNK1断片およびそれらの変異体、ならびにそれらの使用

【課題】種々の上皮性腫瘍の転移に関係しているNK1にアゴニスト活性を与えるポリペプチドを含む組成物の提供。
【解決手段】MET受容体のアゴニストとして作用するポリペプチド増殖因子HGF/SFのNK1断片の変異体であり、該アゴニストは全長HGF/SFの132、134、170および181位に相当する位置に少なくとも1つの置換を含んでなり、それらの置換によって、細胞分散因子活性を示しかつDNA合成を誘導する変異体。in vivoでは変異体により急性肝不全モデルにおける肝臓障害からの保護がもたらされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はMET受容体のアゴニストとして作用する、ポリペプチド増殖因子HGF/SFのNK1断片の変異体、ならびに治療方法におけるNK1およびその変異体の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ポリペプチド増殖因子である肝細胞増殖因子/細胞分散因子(HGF/SF)(Gherardiら, 1989; Miyazawaら, 1989; Nakamuraら, 1989; Stokerら, 1987)およびその受容体であるMET、c-METプロト癌遺伝子の産物(Bottaroら, 1991)は、胎盤および肝臓などの上皮性器官の発生(Schmidtら, 1995; Ueharaら, 1995)、ならびに筋原性前駆細胞(Bladtら, 1995)および運動ニューロン(Catonら, 2000; Ebensら, 1996)の遊走において、必須の役割を果たす。
【0003】
HGF/SFおよびMETは、MET染色体再配列(Yuら, 2000)、METキナーゼにおける体細胞および/または生殖細胞系列突然変異(Schmidtら, 1997)、あるいは、より多くの場合としては、再配列されておらず突然変異もしていないMET遺伝子の腫瘍細胞における過剰発現(Jeffersら, 1996に概説)の結果としての、種々の上皮性腫瘍の転移にも関係している。
【0004】
HGF/SFは、血液プロテイナーゼ前駆体プラスミノーゲンと類似した独自のドメイン構造を有し、6つのドメイン: プラスミノーゲン活性化ペプチドと相同であるN末端(N)ドメイン、4コピーのクリングル(K)ドメインおよび触媒として不活性なセリンプロテイナーゼドメイン(Donateら, 1994)から、構成されている。HGF/SF一次転写物の選択的スプライシングによる2つの産物は、NK1、すなわちNおよび第1のKドメインであるK1を含有する断片(Cioceら, 1996)、ならびにドメインNK2、すなわちN、K1および第2クリングルであるK2を含有する断片(Chanら, 1991; Hartmannら, 1992; Miyazawaら, 1991)をコードする。当初、NK1(LokkerおよびGodowski, 1993)およびNK2(Chanら, 1991)はともにMETアンタゴニストとされたが、その後、トランスジェニックマウスにおける試験でNK1がin vivoで正真正銘の受容体アゴニストとして作用することが示された(Jakubczakら, 1998)。
【0005】
HGF/SFとNK1とではそれらによる受容体結合および活性化の機構に重大な違いが存在する。HGF/SFはヘパラン硫酸を欠損している細胞において十分に活性があるが、NK1はヘパラン硫酸を提示している細胞、または可溶性ヘパリンの存在下でのみ、活性がある(Schwallら, 1996)。このようにNK1は、受容体結合および/または活性化にヘパラン硫酸を必要とする点で、FGF(Rapraegerら, 1991; Yayonら, 1991)と類似しているが、HGF/SFはその点で異なっている。
【0006】
初期のドメイン除去試験では、Nドメインがヘパリン結合に重要であることが示され(Mizunoら, 1994)、さらに部位特異的変異導入により結合に必須であるこのドメイン中の残基が同定された(Hartmannら, 1998)。すなわち、R73およびR76の反対荷電変異によりHGF/SFのヘパリンに対する親和性が50倍を超えて低下した(Hartmannら, 1998)。K58、K60およびK62などの他のいくつかの正荷電残基の役割が、これらの残基がR73およびR76に近接してクラスター化されるNドメインの溶液構造から示唆され(Zhouら, 1998)、さらに、最近のNMR試験によって、K60、K62、R73、R76、R78および他のいくつかの残基の、Nドメインとのヘパリン結合への関与について実験的な裏付けが得られた(Zhouら, 1999)。
【0007】
このような進歩にもかかわらず、ヘパリンおよびへパラン硫酸がNK1にアゴニスト活性を与える機構はいまだ十分明らかでない。NK1はヘパリンの不在下では二量体として結晶化し(Chirgadzeら, 1999; Ultschら, 1998)、さらにこの二量体の特徴からこれが生物活性型NK1に相当するであろうことが示唆された(Chirgadzeら, 1999)。しかしながら、この解釈を裏付ける実験上の証拠は今のところない。
【発明の概要】
【0008】
配列表
配列番号1はヒトHGF/SFタンパク質のアミノ酸28〜210を示す。HGF/SFの残基32〜206が野生型NK1断片である。本発明者らは試験の便宜上、酵母での発現を最適化するために短いNおよびC末端延長を利用した。
【0009】
配列番号2は全長HGF/SF配列であり、この配列の残基1〜31はリーダー配列、32〜206はNK1断片である。
【0010】
図面の説明
図1は、MK細胞を使用したDNA合成アッセイを示す。細胞をケラチン生成細胞用無血清培地でコンフルエントになるまで培養し、そしてそれを基本培地に移して24時間置いてから、3H-チミジンと図面に示された濃度(mol/L)(x軸)のHGF/SFまたはNK1タンパク質とともにインキュベーションした。DNA合成はTCA不溶画分の放射活性として測定した。Y軸は3H-チミジンの取り込みをcpm×103/ウェルで示している。HP11変異体は不活性であり、HP12は野生型NK1と比べ、かなり低い活性を示している。これに対し、1K1変異体は野生型NK1および全長HGF/SFよりも活性が高い。
【0011】
図2は、致死量のN-アセチル-p-アミノフェノールの投与とそれに続くNK1および本発明のペプチドでの処置後の、Balb/cマウスの生存率を示す。
【0012】
図3は、致死量のα-アマニチンの投与後のBalb/cマウスの生存率を示す。
【0013】
本発明の開示
発明者らはNK1のヘパリン結合部位を規定するNK1-ヘパリン複合体の2つのX線結晶構造を決定した。これらの構造についての発明者らの解析によりヘパリンとNドメイン中の残基との接触が起こることが確かめられる。驚くべきことに、発明者らの解析により、K1ドメインにある4つの正荷電残基とのヘパリンの複数の重要な接触も確認される。さらに驚くべきことに、発明者らはK1ドメインにあるこれらの正荷電残基へのヘパリン結合によって活性が阻害されること、さらにそれらの残基への変異導入によって野生型活性よりも高い活性を有するNK1変異体がもたらされることをさらに示した。かかる変異体は細胞増殖の促進のための、特に血管形成のためのアゴニストの生成、ならびに心血管疾患、肝臓疾患、筋骨格疾患および神経疾患の治療に有用である。
【0014】
すなわち、本発明はHGF/SFの132、134、170および181位に相当する位置のうちの少なくとも1つの置換または欠失以外は配列番号1の配列を有する、配列番号1の変異体であるポリペプチドを提供する。参照しやすいように、特に断りのない限り、配列番号1の位置は全長HGF/SF(配列番号2)と関連づけて定める。変異体は溶液中でヘパリン依存的二量化を示しかつMET受容体に対するアゴニストとして作用する能力を保持するものである。
【0015】
また、本発明は132〜181の領域を保持し、さらに溶液中でヘパリン依存的二量化を示しかつMET受容体に対するアゴニストとして作用する能力を保持する、本発明のポリペプチド変異体の断片であるポリペプチドも提供する。
【0016】
さらに、本発明は製薬上許容される希釈剤または担体とともに本発明のポリペプチドを含んでなる組成物を提供する。
【0017】
さらに、本発明はMET受容体を発現する細胞の増殖を刺激する方法であって、本発明のポリペプチドをその細胞と接触させることを含んでなる方法を提供する。細胞はin vitroのものでもin vivoのものでもよい。
【0018】
さらに、本発明は細胞増殖の刺激が必要な疾病状態にある患者の治療方法であって、患者に有効量の本発明のポリペプチドを投与することを含んでなる方法を提供する。
【0019】
また、本発明はヒトまたは動物の身体の治療方法に使用するための本発明のポリペプチドも提供する。
【0020】
さらに、本発明は本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、ならびにポリヌクレオチドがプロモーターに機能しうる形で連結された発現ベクターをはじめとする、上記ポリヌクレオチドを保有するベクターを提供する。
【0021】
さらに、本発明は本発明のベクターを保有する宿主細胞、および、該ベクターが保有するポリヌクレオチドの発現に好適な条件下で該宿主細胞を培養し、さらに細胞または培養物からそのポリペプチドを回収することを含んでなる本発明のポリペプチドの製造方法を、提供する。
【0022】
治療用のMETアンタゴニストおよびアゴニストの開発には多大な努力が費やされている。METアンタゴニストはMETを過剰発現する種々の上皮腫瘍における適用性が見出されるものと期待され、受容体アゴニストは肝臓再生、皮膚創傷の治療および治療的血管形成に有益であると考えられる。本発明によって得られた構造的および変異導入データにより、強力なMETアゴニストの生成が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、MK細胞を使用したDNA合成アッセイを示す。
【図2】図2は、致死量のN-アセチル-p-アミノフェノールの投与とそれに続くNK1および本発明のペプチドでの処置後の、Balb/cマウスの生存率を示す。
【図3】図3は、致死量のα-アマニチンの投与後のBalb/cマウスの生存率を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
ポリペプチド
本発明のポリペプチドは132、134、170および181位のうちの1つが他の任意のアミノ酸で置換されているものである。しかしながら、上記の置換は結果として電荷の変化を引き起こすものであることが好ましい。よって、好ましい置換としては、アスパラギン酸およびグルタミン酸の反対荷電置換が挙げられる。
【0025】
2つ以上の位置が同時に置換されていてもよい。2つの置換がなされている場合、好ましい態様ではその2つが132と134または170と181のいずれかである。また、3つの置換がなされていてもよいし、4つの位置全てが置換されていてもよい。複数の位置が置換されている場合、それらの置換は同じであってもよいし異なっていてもよい。
【0026】
本発明のポリペプチドは単離形態で調製したものでありうる。単離された本発明のポリペプチドは、細胞内でそれとともに見出される他のポリペプチドなどの、天然で一緒に存在する物質が含まれないかまたは実質的に含まれない、単離された形態である上記のものである。ポリペプチドは当然、希釈剤またはアジュバントを加えて製剤化してもよく、実際的にはさらに単離してもよい。ポリペプチドは天然にまたは異種真核細胞系によってグリコシル化されたものでもよく、(例えば、原核細胞内での発現によって生成された場合)それらはグリコシル化されないものでもよい。
【0027】
本発明のポリペプチドは実質的に精製された形態であってもよい。この場合、それは、一般に調製物中の90%を超える、例えば、95%、98%または99%のポリペプチドが本発明のポリペプチドであるように調製物にそのポリペプチドを含んでなる。
【0028】
本発明のポリペプチドは、例えば、その精製を助けるヒスチジン残基の付加によりまたは細胞からのその分泌を促進するシグナル配列の付加により改変されていてもよい。
【0029】
配列番号1は野生型ヒト形態のNK1(短いNおよびC末端延長を含む)を示す。しかしながら、当業者ならば結果的に活性の増強をもたらす本発明の特定の置換のほか、野生型分子のそれ以外の位置をポリペプチドの全体的な機能または構造に重大な影響を及ぼすことなく若干変化させることができることがわかるであろう。例えば、タンパク質のほとんどの部分に対して、そのタンパク質の構造または機能に明確な影響を及ぼさずに保存的置換を行うことが可能である。当業者ならば、少数の、例えば、1〜20、例えば、2、3、4または5〜10の別のアミノ酸置換がNK1に対して主として為され、その与えられた置換によって本発明のポリペプチドの活性がほとんど変更されなければ、そのような変異体はなおNK1ポリペプチドと見なされることがわかるであろう。
【0030】
また、領域132〜181を保持する本発明のポリペプチド変異体の断片が本発明のさらなる部分を構成する。かかる断片は70〜190アミノ酸の大きさ、例えば、100〜180の大きさであってよい。かかる断片の例はアミノ酸32〜206のNK1断片として本明細書に示される。別の断片は128〜206に見られるクリングル1ドメインの少なくとも70個の連続アミノ酸を含有しているものである。好ましくは、その断片はこのドメインの全体を含有している。
【0031】
本発明のポリペプチドが溶液中でヘパリン依存的二量化を示す能力を保持するか否かを確認する方法を同時収載する実施例で記載している。そこに示したように、ポリペプチドを300mM NaClバッファー中、等モル濃度のヘパリンとともにインキュベートし、ゲル濾過またはウエスタンブロット法によって解析した。
【0032】
同様に、同時収載する実施例に従ってMET受容体のアゴニストとして作用する能力を調べることもできる。このためには、ポリペプチドを10-10M以上(例えば、10-10〜10-8M)の濃度のマウスケラチン生成細胞(例えば、MK細胞)とともにインキュベートし、細胞内でのDNA合成の増加が起こるか否かを調べることができる。
【0033】
本発明のポリペプチドは、例えば、コードしている核酸からの発現による生成後に(例えば、抗体を用いて)単離および/または精製されうる(これについては以下を参照)。また、本発明のポリペプチドは化学合成によっても、例えば、段階的方法で、完全体としてまたは部分的に製造しうる。単離および/または精製されたポリペプチドは、少なくとも1種のさらなる成分を含有しうる組成物、例えば、製薬上許容される賦形剤、ビヒクルまたは担体を含有する医薬組成物、の製造に使用しうる。本発明のポリペプチドを含有する組成物は以下に記載する予防的および/または治療的処置に使用しうる。
【0034】
本発明のポリペプチドを識別標識で標識してもよい。識別標識はポリペプチドの検出を可能にする任意の好適な標識でありうる。好適な標識としては、放射性同位元素、例えば、125I、酵素、抗体、ポリヌクレオチドおよびビオチンなどのリンカーが挙げられる。標識した本発明のポリペプチドはサンプル中の本発明のポリペプチド量を調べる目的で免疫学的アッセイなどの診断法に使用しうる。
【0035】
本発明のポリペプチドおよびその組成物は治療方法に使用しうる。かかる治療はMET受容体を発現するヒト体内での細胞増殖の促進のために行われるものである。かかる治療法は血管形成の促進に有用であり、それゆえ、慢性皮膚創傷、慢性肝臓および腎臓疾患、変性筋骨格および神経疾患、ならびに心血管疾患の治療に有用であると考えられる。
【0036】
本発明のポリペプチドの特定用途はN-アセチル-p-アミノフェノール(市販のものとしてはパラセタモールまたはアセトアミノフェンとして知られている)中毒が原因で起こる肝臓障害の治療または予防にある。発明者らは本発明のポリペプチドをマウスモデルに投与すると、致死量のパラセタモール投与後のマウスの生存率が非常に高まることを発見した。また、NK1ペプチドそのものによっても、ある程度の保護がもたらされる。よって、本発明のこの態様では、上記治療に向けたNK1ペプチドの使用を提供する。
【0037】
従って、本発明はN-アセチル-p-アミノフェノールを摂取した被験体における肝臓障害の治療または予防方法であって、被験体に有効量の本発明のポリペプチドまたはNK1ポリペプチドを投与することを含んでなる方法を提供する。
【0038】
また、本発明はヒトまたは動物被験体の治療方法、特にN-アセチル-p-アミノフェノールを摂取した被験体における肝臓障害の治療または予防に使用するための本発明のポリペプチドまたはNK1ポリペプチドも提供する。
【0039】
発明者らはNK1ペプチドならびに1K1ポリペプチドが、RNAポリメラーゼIIの強力な特異的阻害剤であるα-アマニチンが原因で起こる急性肝不全の治療に有効であることも立証した。従って、NK1ペプチドならびに本明細書において記載する本発明のペプチドは一般に肝臓疾患、特に、肝不全を伴う疾病状態の治療方法に使用しうる。かかる状態にはN-アセチル-アミノフェノールによって引き起こされる毒性が含まれるだけでなく、その他の薬物性の、さらにはその他の原因による肝不全、または疾患もまた含まれる。
【0040】
従って、これらのペプチドはキノコ毒(例えば、タマゴテングタケ(Amanita phalloides))、砒素、四塩化炭素(またはその他の塩素化炭化水素)、銅、エタノール、鉄、メトトレキサートおよびリンから選択される毒素をはじめとする毒素類によって引き起こされる急性肝不全または疾患を治療または予防するのに使用しうる。
【0041】
さらに、本発明はウイルス感染症(肝炎ウイルス、例えば、HAV、HBVまたはHCV感染によるものなど)、もしくはその他の急性ウイルス性肝炎、自己免疫性慢性肝炎、妊娠性急性脂肪肝、バッド・キアリ症候群および肝静脈閉塞性疾患、高体温症、低酸素症、悪性浸潤、ライ症候群、敗血症、ウィルソン病および移植片拒絶反応から選択される疾病状態をはじめとする前記以外のことを原因として起こる肝不全または疾患を治療または予防するのにも使用しうる。
【0042】
ポリペプチドは任意の好適な形態で、例えば、水、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、エタノールなどといった医薬組成物として投与しうる。組成物は注射用、例えば、目的の治療部位への直接注射または静脈注射用に製剤化しうる。
【0043】
ポリペプチドの好適な量は最終的には治療しようとする疾病状態の性質および患者の状態を考慮した医師の判断に従うものと考えられる。一般に、投与量の範囲はkg体重当たり1μg〜1mgであろう。ポリペプチドは好適な経路により、例えば、静脈注射もしくは腹腔内注射より、または治療部位へ直接、投与されうる。
【0044】
「治療」とは、治療中の疾患の重篤度を軽減すること、疾患の症状を和らげること、または疾病状態にあるかまたは疾病状態になる危険性がある個体の疾患の進行を予防もしくは遅らせることを目的とした、ポリペプチドの投与をいうものと理解されるであろう。
【0045】
ポリヌクレオチド
本発明のポリヌクレオチドは上記のような本発明のポリペプチドをコードするものである。これにはDNAおよびRNAポリヌクレオチドが含まれる。本発明のポリヌクレオチドは一本鎖または二本鎖であってよい。
【0046】
一般的に、本発明のポリヌクレオチドは、単離および/または精製形態の、または、場合により含まれる発現用の1以上の調節配列を除き、ヒトゲノム内でその遺伝子にフランキングする核酸が含まれないかもしくは実質的に含まれないなどのそれが天然で一緒に存在する物質が含まれないかまたは実質的に含まれない単離物として、提供される。
【0047】
本発明のポリペプチドの全体または一部をコードする配列および/またはその調節エレメントは、当業者ならば本明細書に記載する情報および参考文献ならびに当技術分野で公知の技術を利用して容易に製造できる(例えば、Sambrook, FritschおよびManiatis, 「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning, A Laboratory Manual)」 Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989、ならびにAusubelら, 「分子生物学における簡潔なプロトコール(Short Protocols in Molecular Biology)」 John WileyおよびSons, 1992参照)。同時収載する実施例に記載するように、これらの技術にはNK1をコードする核酸への部位特異的変異導入の使用が含まれる。
【0048】
ベクター
本発明のポリヌクレオチドは組換え複製ベクターに組み込むことができる。そのベクターを使用して、適合する宿主細胞内で当該核酸を複製可能である。よって、さらなる実施形態では、本発明は本発明のポリヌクレオチドを複製ベクターに導入し、そのベクターを適合する宿主細胞に導入し、さらにそのベクターの複製を誘起する条件下で該宿主細胞を増殖させることにより本発明のポリヌクレオチドを作製する方法を提供する。ベクターはその宿主細胞から回収できる。好適な宿主細胞は発現ベクターとの関連において以下で記載されている。
【0049】
発現ベクター
好ましくは、ベクター内の本発明のポリヌクレオチドは、宿主細胞によってコード配列の発現をもたらしうる制御配列に機能しうる形で連結されており、すなわち、このベクターは発現ベクターである。
【0050】
「機能しうる形で連結された」とは、記載した複数の構成要素がそれらについて意図されている様式で機能できるような関係にある並置状態をいう。コード配列に「機能しうる形で連結される」制御配列は制御配列に適合する条件下でコード配列の発現がなし遂げられるように連結される。
【0051】
必要に応じてプロモーター配列、ターミネーター断片、ポリアデニル化配列、エンハンサー配列、マーカー遺伝子、およびその他の配列をはじめとする好適な調節配列を含む好適なベクターを選択または構築することができる。ベクターは必要に応じてプラスミド、ウイルス性のもの(例えば、ファージ ファージミドまたはバキュロウイルス)、コスミド、YAC、BAC、またはPACであってよい。ベクターとしては、遺伝子治療ベクター、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レトロウイルス(HIVまたはMLVなど)に基づくベクターまたはアルファウイルスベクターが挙げられる。
【0052】
ベクターには、複製起点、所望により、上記ポリヌクレオチドの発現用プロモーター、さらに所望により、プロモーターのレギュレーターが提供されうる。ベクターは1つ以上の選択マーカー遺伝子、例えば、細菌プラスミドの場合にはアンピシリン耐性遺伝子、または哺乳類ベクターにはネオマイシン耐性遺伝子を、含んでいてもよい。ベクターはin vitroで使用することができ、例えば、RNAの産生に使用できるし、宿主細胞をトランスフェクトまたは形質転換するのにも使用できる。また、ベクターはin vivoでの使用、例えば、遺伝子治療法での使用にも適している。種々の異なる宿主細胞でのポリペプチドのクローニング系および発現系については周知である。好適な宿主細胞としては、細菌、哺乳類および酵母などの真核細胞、ならびにバキュロウイルス系が挙げられる。当技術分野で入手可能な異種ポリペプチド発現用の哺乳類細胞系としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞、HeLa細胞、ベビーハムスター腎臓細胞、COS細胞およびその他の多くのものが挙げられる。
【0053】
プロモーターおよびその他の発現調節シグナルは発現ベクターが設計される対象である宿主細胞に適合するよう選択される。例えば、酵母プロモーターとしては、S.セレビシエ(S. cerevisiae) GAL4およびADHプロモーター、S.ポンベ(S. pombe) nmt1およびadhプロモーターが挙げられる。哺乳類プロモーターとしては、カドミウムなどの重金属に応答して組み込まれうるメタロチオネインプロモーターが挙げられる。SV40ラージT抗原プロモーターまたはアデノウイルスプロモーターなどのウイルスプロモーターを使用してもよい。これら全てのプロモーターは当技術分野で容易に入手できる。
【0054】
ベクターには、挿入された核酸の発現を駆動するプロモーターまたはエンハンサーなどのその他の配列、ポリペプチドが融合物として生成されるようにする核酸配列、および/または宿主細胞内で生成されたポリペプチドが細胞から分泌されるようにする分泌シグナルをコードする核酸が含まれうる。
【0055】
遺伝子治療に使用するための本発明のポリペプチドを製造するためのベクターとしては、本発明のミニ遺伝子配列を保有するベクターが挙げられる。
【0056】
ベクターは上記のような好適な宿主細胞に導入され、本発明のポリペプチドの発現用に提供される。よって、さらなる態様では、本発明は本発明のポリペプチドの製造方法であって、ベクターによる該ポリペプチドをコードするコード配列の発現をもたらす条件下で上記の発現ベクターを保有する宿主細胞を培養し、さらに発現されたポリペプチドを回収することを含んでなる方法を提供する。また、ポリペプチドは網状赤血球溶解物などのin vitro系でも発現されうる。
【0057】
本発明のさらなる実施形態では本発明のポリヌクレオチドの複製および発現用のベクターを保有する宿主細胞を提供する。細胞は上記ベクターに適合するよう選択される。例えば、細菌、酵母、昆虫または哺乳類の細胞であってよい。
【0058】
ベクターの宿主細胞への導入後、例えば、遺伝子の発現条件下で宿主細胞(実際に形質転換された細胞を含みうるが、おそらくこの細胞は形質転換された細胞の子孫であると思われる)を培養することによって、核酸の発現が引き起こされるかまたは可能になり、その結果、コードされたポリペプチドが生成される。好適なシグナルリーダーペプチドと結合したポリペプチドが発現されると、それは細胞から培地へと分泌されうる。発現による生成後、ポリペプチドは宿主細胞および/または培地から単離および/または精製され、場合によっては、その後、所望により、例えば1種以上のさらなる成分を含みうる組成物(1種以上の製薬上許容される賦形剤、ビヒクルまたは担体を含む医薬組成物(例えば、以下を参照)など)の製造に使用してもよい。
【0059】
本発明のさらなる態様では本明細書に開示する核酸を含む宿主細胞を提供する。本発明のポリヌクレオチドおよびベクターを宿主細胞のゲノム(例えば、染色体)に組み込んでもよい。組込みは標準技術によりゲノムとの組換えを促進する配列の導入により促進されうる。核酸は細胞内の染色体外ベクター上にあってもよい。
【0060】
同時収載する実施例において、発明者らは、先行技術からもわかるように、野生型NK1が部分的アゴニストとして作用することを示している。それはMDCKコロニーの完全分散およびMK細胞におけるDNA合成の刺激を引き起こした(図1)。興味深いことに、野生型NK1によるDNA合成の最大刺激は他の研究で必要であった濃度よりずっと低い10-10Mという低濃度で起こった(例えば、Schwallら, 1996を参照)。発明者らの研究で認められたNK1のより高い効力は、使用されるタンパク質の起源(酵母 対 細菌)、そしてそれによるその活性を反映していると考えられる。
【0061】
野生型NK1は全長HGF/SFよりも活性が低いままであったが、驚くべきことに2つのKドメイン変異体は、野生型NK1よりもずっと高く、かつ全長HGF/SFと同等以上である生物活性を示した。発明者らの生化学的データではKドメイン変異によってヘパリンに対するNK1の正味の親和性が高まることが示されている。このように、K132、R134およびR181からなる断続したアミノ酸がNK1とのヘパリン結合の負のエフェクターとして作用し、これらの残基の反対荷電変異によってNドメイン内の主要部位を介すると考えられるヘパリン結合が増強される。
【0062】
そのような機構に関係なく、発明者らはKドメイン内の2つのアミノ酸置換(K132:R134またはK170:R181)がNK1を完全な受容体アゴニストへと変換させるのに十分なものであることを示した。NK1は酵母内で生成させることができ(HGF/SFはできない)、全長HGF/SFに比べて有利なin vivo動態および組織分布を示すと考えられる。
【実施例】
【0063】
実施例1
この実施例では本発明の2つのNK1変異体の生物活性の生産および解析を説明している。発明者らはこれらの変異体がヘパリンの存在下でNK1と同様の様式で二量化し、さらにKドメインにある正荷電残基群への変異導入により、強力な受容体アゴニストとなることを示している。
【0064】
材料および方法
クローニング、変異導入、発現および精製
野生型NK1のクローニング、発現および精製を、陽イオン交換クロマトグラフィーによるNK1の最終精製をSource15Sカラム(Amersham Pharmacia Biotech)で行ったことを除き、記載(Chirgadzeら, 1999)のとおりに行った。NK1変異体の発現では、pPIC9K中の野生型NK1発現構築物由来のEcoRI-NotI断片をpBluescript KS-ベクター(Stratagene)にクローニングし、変異導入用オリゴヌクレオチドの相補対を用いてDNA増幅反応を行った。Nドメイン変異体は、R73E:R76E変異(変異体HP11)または(K58E:K60E:K62E)変異(変異体HP12)を有する全長ヒトHGF/SF cDNA由来の該当する断片のDNA増幅により生成した。最後に、NドメインおよびKドメイン変異体を発現ベクターpPIC9K中にクローニングした。P.パストリス(P. pastoris)の形質転換および選択は先に記載されたように(Chirgadzeら, 1999)行った。
【0065】
ヘパリン断片の精製
ウシ肺由来のヘパリンナトリウム(Upjohn)を、10mMリン酸バッファー、1.25mM CaCl2、pH7.0中、へパリナーゼI(Leo Pharmaceuticals)により37℃で14分間かけて消化した。水を蒸発させ、残渣を20g/l重炭酸アンモニウムに溶かし、それをBiogel P-10(Biorad)カラムに負荷した。同じ長さのヘパリン断片(最大で十六糖)を含有する画分を1つに合わせ、水および重炭酸アンモニウムをRotavapor(Buechi)で蒸発させた。次いで、ヘパリン断片を0.1M酢酸アンモニウムに溶かし、1アリコートをHPLCシステム(Gilson)のG3000 SW XL(30cm×7.8mm)およびG2000 SW XL(30cm×7.8mm)GPCカラムに流し、純度および濃度を評価した。次に、酢酸アンモニウムを取り除くために、その断片を凍結乾燥させ、水に再び溶かした(3サイクル)。
【0066】
野生型および変異体NK1-ヘパリン複合体の特性解析
これはゲル濾過クロマトグラフィーおよび架橋試験により行った。ゲル濾過については、野生型または変異体NK1(0.5mg/ml)を、300mM NaClに調整したリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中、等モル濃度の14量体ヘパリンの存在下または不在下で2時間インキュベートした。次いで、サンプルをHR30 Superdex 200カラム(Ammersham Pharmacia Biotech)に負荷し、0.5ml/分で溶出した。
【0067】
架橋については、10μlの野生型または変異体NK1(0.1mg/ml)をPBS中、等モル濃度の14量体ヘパリンの不在下または存在下でインキュベートした。室温で2時間のインキュベーション後、1μlの架橋剤(BS3, Pierce)を100倍モル過剰に加え、この反応を30分間続けた後、1μlの1M Tris-Cl、pH7.4でクエンチした。反応生成物を15% SDS-ポリアクリルアミドゲルに負荷し、ニトロセルロース膜(Schleicher & Schuell)にブロッティングした。2%脱脂粉乳で膜をブロッキングし、ヒツジ抗HGF/SFポリクローナル抗体(1W53, 1:1000)の存在下で1時間インキュベートし、PBS+0.2%Tween 20で洗浄し、次にHRP結合抗ヒツジ免疫グロブリン抗体(Dako)とともに1時間インキュベートした。PBS+0.2%Tween 20でさらに3回洗浄した後、HRP活性を化学発光基質(Pierce)を用いて検出した。
【0068】
MDCKコロニー分散アッセイ
分散アッセイを記載(Gherardiら, 1989; Stokerら, 1987)のとおりに行った。要するに、MDCK細胞を1〜2.5×103細胞/60mmディッシュに播種し、5%ウシ胎児血清含有DMEM中で2〜3日間培養した後、HGF/SFまたは野生型もしくは変異体NK1を添加した。一晩インキュベーションした後、プレートを調べ、各プレートから数個のコロニーを位相差光学素子を備えたLeica DM IRB倒立顕微鏡およびHamamatsu カラー冷却3CCDカメラを使用して写真撮影した。
【0069】
MK細胞でのDNA合成
マウスケラチン生成細胞系MKを24ウェル組織培養プレート(Costar)において5ng/ml EGF-53および50g/mlウシ下垂体抽出物(BPE)を添加したケラチン生成細胞用SFM培地(Gibco)でコンフルエントになるまで培養した。コンフルエント状態で、完全培地を基本培地(EGFとBPEとを含まない)で置き換えて24時間置いた後、1mg/ml BSAと図1の凡例に示された濃度のHGF/SFまたはNK1タンパク質とを含有する基本培地中、1Ci/ウェルの3H-チミジンを添加した。16時間後、細胞を氷上に移し、PBSで洗浄し、氷冷した5%トリクロロ酢酸(TCA)中30分間インキュベートした。TCA不溶画分の放射活性を、水で2回洗浄し、0.2M NaOHに37℃で30分間かけて溶解した後に、シンチレーションにより測定した。
【0070】
結果
HGF/SFのNK1断片(アミノ酸28〜210)を、記載(Chirgadzeら, 1999)されたようにしてメタノール資化性酵母P.パストリス(P. pastoris)内で発現させ、ヘパリンテトラへキサマー(14量体)断片との複合体として結晶化させた。ヘパリン断片はウシ肺から抽出された多分散ヘパリンからの消化および精製によって作製した。
【0071】
タンパク質をヘパリンとの複合体として結晶化させることについては2001年4月27日のGB0110430.6(本願における優先権主張の基礎であり、その内容を参照により本明細書に組み入れる)およびLietha, D.ら; EMBO J. 2001 Oct 15;20(20):5543-55(その内容もまた参照により本明細書に組み入れる)に記載されている。複合体の結晶化および解析によって発明者らは変更することができるNK1のアミノ酸残基を同定できた。かかる残基が同定されたことから、本明細書における開示に基づき当業者ならば本発明の変異体を作製することができる。
【0072】
要するに、2つの結晶型が見つかった。結晶型Aの非対称単位には、これまでに記載されているNK1の結晶構造(Chirgadzeら, 1999; Ultschら, 1998)と同様の、頭部-尾部二量体へと構成される2つのNK1プロモーター、AおよびBが含まれている。1bht構造(Ultschら, 1998)と同様に、hepes分子は推定リジン-結合ポケット中の各々のKドメインと結合する。ヘパリン分子(H)はプロモーターAのNドメインと結合するが、プロモーターBのNドメインは部分的に無秩序状態となっており、周囲境界がはっきり定まっていないことが、明瞭にわかった。そのため、ヘパリン分子が結合されるか否かはわからなかった。また、プロモーターAと結合したヘパリン分子は隣接する結晶非対称単位のプロモーターA'のクリングルドメインとも接触する。最終的に精緻化された構造には、複合体に存在する14のうち5つのヘパリン糖単位: 2つのグリコサミン(GlcN)および3つのイズロン酸(IdoA)が含まれていた。
【0073】
これに対し、結晶型Bの非対称単位には4つのNK1二量体(AとB、CとD、EとF、GとH)と6つの結合ヘパリン分子との構成物が含まれている。非対称単位中の二量体は中心を貫通する擬似的二回対称軸に対し円状に配置されていた。このNK1二量体の配置は結晶型Aで観察されたすでに記載されたもの(Chirgadzeら, 1999; Ultschら, 1998)と同一であった。しかし、結晶型Aの構造とは異なり、38〜208間の全ての残基は整列しており、全てのプロモーターにおける電子密度が明確に示される。全てのNドメインはヘパリン分子と相互作用する。プロモーターAおよびEのNドメインは、プロモーターDおよびGのNドメインと同様に、ヘパリン分子を共有する。電子密度マップに組み込みうる最長ヘパリン断片の長さは9糖単位であり、これがプロモーターCのNドメインおよびプロモーターFのKドメインと結合する。その他のヘパリン分子は5糖単位しか含まない最小断片(ヘパリン分子 N)であり、規定されているとはいいがたい。各Kドメインには結晶型Aの構造と同様の結合ポケット中に結合したhepes分子が存在している。非対称単位内の二量体は、Cα原子の、0.50Å(プロモーターAおよびBで構成される二量体とプロモーターGおよびHで構成されるものとを比較して)と1.32Å(プロモーターAおよびBで構成される二量体とプロモーターCおよびDで構成されるものとを比較して)との間であるr.m.s.d.値と一致していることがわかる。また、結晶型BのNK1二量体は、プロモーターAおよびBで構成される二量体について1.19Åに達するCα原子の最も悪いr.m.s.d.を有する結晶型Aの二量体と非常に類似している。
【0074】
両結晶構造でヘパリン-Kドメイン相互作用が認められ、これには正荷電残基群(K132、R134、K170、R181)が関係していた。これらの残基は負荷電ヘパリン鎖に対して並ぶ断続的な正の静電電位を形成する。このヘパリン-Kドメイン相互作用の機能的意義を変異導入により調べた。
【0075】
新規なNK1変異体
2つの反対荷電Nドメイン変異体(HP11およびHP12)と2つのKドメイン変異体(1K1および1K2)を作製し(表1)、ヘパリン結合および生物活性について特性解析した。
【表1】

【0076】
最初にヘパリンが媒介する溶液中での野生型NK1のオリゴマー化を解析するため、架橋(Schwallら, 1996)およびゲル濾過(Chirgadzeら, 1999)試験を使用した。野生型および変異体NK1を等モル濃度の14量体ヘパリンの不在下または存在下でインキュベートした。架橋されたタンパク質をウエスタンブロット法によって解析し、抗HGF/SFポリクローナル抗体(1W53)で検出した。さらに、等モル濃度の14量体ヘパリンの不在下または存在下で野生型および変異体NK1のゲル濾過も行った。300mM NaClに調整したPBSで平衡状態にしたHR30 Superdex-200カラムでクロマトグラフィーを行った。野生型NK1および異なる変異体ではカラムとの残存相互作用によって溶出体積にわずかな変動が見られた。
【0077】
ヘパリンは溶液中でHP11変異体の架橋およびオリゴマー化のいずれも誘導することができなかった。HP12、第2のNドメイン変異体はヘパリンによって架橋されたが、HP11変異体のように、ヘパリンの存在下で溶液中でのオリゴマー化はなされなかった。しかしながら、2つのKドメイン変異体(1K1および1K2)はこれらの試験において野生型NK1と同様に作用した。結論として、溶液中でのNK1のヘパリン依存的二量化にはNドメイン中にヘパリンと結晶学的に接触するアミノ酸が必要であることから、これらのアミノ酸が細胞表面でNK1のへパラン硫酸依存的二量化を引き起こしていることが示唆される。
【0078】
NK1変異体の生物活性
へパラン硫酸欠損細胞を用いた試験では、NK1の生物活性のためのヘパラン硫酸または可溶性ヘパリンの必須条件が明らかになった(Schwallら, 1996)。正常細胞は膜結合ヘパラン硫酸を提示するため、これらの細胞がMET受容体を発現すれば細胞はNK1と反応する。しかしながら、これらはHP11およびHP12などのヘパラン硫酸欠損NK1変異体とは反応できないと思われる。
【0079】
MDCK細胞を用いたコロニー分散(スキャター)アッセイは、原則としてGherardiら, 1989およびStokerら, 1987により記載されるように、全長HGF/SFまたはNK1タンパク質の存在下で行った。要するに、MDCK細胞を60mmディッシュに低密度で播種し、標準培地で3日間培養した後、培地を新鮮培地または10-10M HGF/SFもしくは10-8Mの種々のNK1タンパク質を含有する培地で置き換えた。一晩インキュベーションした後、各ディッシュから数個のコロニーを、位相差光学素子を使用して写真撮影した。
【0080】
対照培養物のコロニーでは、強い細胞間接着と上皮に典型的な「敷石状の」外観が示された。HGF/SF(10-10M)、野生型NK1またはKドメイン変異体1K1(10-8M)はMDCKコロニーの完全解離を誘導した。これに対し、HP11およびHP12変異体(10-8M)は両方とも不活性であった。可溶性ヘパリン(10-6M)の添加による対照培養物またはHGF/SFもしくはNK1タンパク質を含有する培養物への影響はなかった。
【0081】
さらに、NK1変異体の生物活性については、異なる標的、すなわちHGF/SFに対して強い細胞分裂誘起反応を示すMKマウスケラチン生成細胞系(Moorbyら, 1995)でも調べた。野生型NK1は10-10M以上の濃度でDNA合成に対してかなりの刺激をもたらしたが、Nドメイン変異体HP11およびHP12はもたらさなかった(図1)。Kドメイン変異体である1K1が、野生型NK1よりもずっと高く、全長HGF/SFと同等かそれ以上の活性すら示したことは注目される。1K2である第2のKドメイン変異体は1K1変異体と同様に作用し、1K1変異体と同様の結果が得られた。つまり、溶液中でNK1の二量化を誘導できないHP11およびHP12変異では、おそらくこれらの変異体がMDCKまたはMK細胞の表面で細胞関連ヘパラン硫酸と結合できないために、生物活性の喪失も引き起こされたものである。これに対し、Kドメイン変異はNK1に生物活性の増強をもたらし、NK1を完全な受容体アゴニストへと変換させたのである。
【0082】
HP11およびHP12変異体の活性喪失が受容体結合または活性化における欠陥によるものであるか否かを確認するため、競合試験を行った。この試験ではMDCK細胞をHGF/SF単独(10-10M)の存在下で、またはHGF/SFおよび過剰濃度(10-8または10-7M)の野生型NK1もしくは2つのNドメイン変異体の存在下で培養した。予想したとおり、野生型NK1は部分的アンタゴニストとして作用したが、HP11およびHP12はアンタゴニスト活性を全く(HP11)またはほとんど(HP12)示さなかった。このことからこれらの変異体の活性喪失の原因が、受容体の活性化誘導がなされなかったことではなく受容体結合が減少したことにあることが示唆された。
【0083】
実施例2: 1K1のin vivo活性
各群12匹のBalb/c雄マウス(10週齢、約35g)からなる3群とかかる動物20匹からなる対照群に、0.3ml PBS中0.6g/kgのN-アセチル-p-アミノフェノールを腹腔内投与した。投与後、マウスには2時間および6時間の時点で0.5mg/kgの1K1、NK1またはHGF/SFを静脈内投与して処置し、対照群には処置を行わなかった。
【0084】
この結果を図2に示している。要するに、N-アセチル-p-アミノフェノールは、薬物を与えたが増殖因子を与えなかった動物のちょうど50%が処置の4時間後に死に、3日間では該動物の85%が死ぬ結果をもたらした。HGF/SFによってある程度の保護がもたらされたが、いささか驚くべきことに、NK1はHGF/SFより活性が高く、処置の3日後において40%の生存を達成した。NK1変異体 1K1は試験したタンパク質の中で最も有効であり、80%の生存をもたらした。
【0085】
実施例3: α-アマニチンによって引き起こされる肝不全におけるNK1および1K1の活性
実施例2と同じ系統、大きさおよび性別の各群12匹の試験マウスからなる3群と20匹のマウスからなる対照群に0.9mg/kgのα-アマニチンを腹腔内投与した。その後、試験群にはα-アマニチン投与の12時間後から直ちに、0.5mg/kgのNK1、1K1またはHGF/SFの静脈内注射を12時間おきに5回行った。この結果を図3に示している。この結果から、1K1およびNK1の両方ともが初期(3〜5日)の肝毒性の低減に有効であることが示された。
【0086】
参照文献
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【0087】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
132位、134位、170位および181位のうちの少なくとも1つの置換以外は配列番号1の配列を有する、配列番号1の変異体であるポリペプチド。
【請求項2】
前記置換が132および134の両方の置換である、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記置換がK132E:R134Eである、請求項2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
前記置換が170および181の両方の置換である、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項5】
前記置換がK170E:R181Eである、請求項4に記載のポリペプチド。
【請求項6】
132〜181の領域を保持し、さらに溶液中でヘパリン依存的二量化を示しかつMET受容体に対するアゴニストとして作用する能力を保持する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリペプチドの断片。
【請求項7】
製薬上許容される希釈剤または担体とともに請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドを含んでなる、組成物。
【請求項8】
MET受容体を発現する細胞の増殖を刺激する方法であって、請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドを該細胞と接触させることを含んでなる、前記方法。
【請求項9】
NK1ポリペプチドまたは請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドから選択されるポリペプチドを含む、細胞増殖の刺激が必要な疾病状態にある患者の治療法に使用するための医薬組成物。
【請求項10】
NK1ポリペプチドまたは請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドから選択されるポリペプチドを含む、N-アセチル-p-アミノフェノールを摂取した患者における肝臓障害の治療または予防に使用するための医薬組成物。
【請求項11】
NK1ポリペプチドまたは請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドから選択されるポリペプチドを含む、肝不全または肝臓疾患の治療または予防に使用するための医薬組成物。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のポリペプチドをコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項13】
プロモーターに機能しうる形で連結された請求項12に記載のポリヌクレオチドを含んでなる、発現ベクター。
【請求項14】
請求項13に記載のベクターを保有する、宿主細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−45370(P2011−45370A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−208693(P2010−208693)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【分割の表示】特願2002−585635(P2002−585635)の分割
【原出願日】平成14年4月29日(2002.4.29)
【出願人】(597166578)メディカル リサーチ カウンシル (60)
【出願人】(500341551)ケンブリッジ エンタープライズ リミティッド (8)
【Fターム(参考)】