説明

肝細胞癌処置用医薬組成物および医薬キット

本発明は、Notch3インヒビターおよび化学療法剤を含む肝細胞癌(HCC)処置用医薬組成物、上記医薬組成物の調製方法および上記医薬組成物をその必要性を有する患者に投与することを含む医療処置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、Notch3インヒビターおよび化学療法剤を含む肝細胞癌処置用医薬組成物、当該組成物の製造方法、および当該組成物をその必要性を有する患者に投与することを含む医療処置を提供する。
【背景技術】
【0002】
(発明の背景)
肝細胞癌(HCC)はヒト癌全体の中で世界的発生頻度が5番目に位置し、年間、100万人の死をもたらしている。外科的切除、アルコールまたは高周波切除、化学的塞栓形成および肝移植を包含するかなりの有望な処置手段にもかかわらず、長期間予後は進行性疾病を有する患者にとって貧弱なまま残されている。
【0003】
現時点で、塞栓形成は切除不能HCCの一次処置に最も広く使用されており、肝臓提供者を待つ患者に対し移植を妨げる可能性があるHCC進行を防止するために最も使用されている処置である。塞栓形成剤は通常、選択的動脈内細胞毒性薬剤とともに投与されており、これらの中で、ドキソルビシン(doxorubicin)は最も汎用されている。この治療法は腫瘍の進行および血管浸潤を格別に遅延させるが、この方法では患者における部分的応答が達成されるのみである。
【0004】
新規処置様式の最近の開発にもかかわらず、HCCの化学療法剤に対する耐性を克服するための治療性分子を発見するという緊急の必要性が依然として存在する。Notchレセプターは増殖、分化およびアポトーシスに関連する。Notch信号発信経路がヒトの癌において異常に逸脱するという証拠が増加していることから、Notchレセプターは悪性腫瘍細胞の選択的殺滅のための強力な標的である。
【0005】
4種の公知Notchレセプター(Notch1〜4)は、発育の全段階において細胞表面からの核調節性増殖、分化およびアポトーシスへの信号発信を媒介する単経路貫膜レセプターである。Notchレセプターは主として、デルタおよびセレート/判定ファミリー(Delta and Serrate/jagged families)(これらは隣接細胞の表面上に発現される)貫膜リガンドにより活性化される。Notchのリガンド媒介活性化は、転写因子CBF1/RBP−Jkに結合するNotch細胞内ドメイン(NICD)のトランス−活性標的遺伝子(HES1を包含する)への核転移およびタンパク質分解性切断を誘発する。
【0006】
逸脱したNotchレセプター発現は種々の相違するヒト癌で報告されている。増加したNotch1タンパク質発現はヒトにおける乳癌、膵臓癌およびホジキンリンパ腫で見出されている。Notch3およびNotch4タンパク質の過剰発現は悪性黒色腫、膵臓癌および乳癌で検出されている。
【0007】
Notch1信号発信経路はラット肝臓再生期間中に活性化され、Notch1の過剰発現がインビトロおよびインビボにおいてHCC細胞の増殖を阻止することが見出されている。
【0008】
Notch1の構造的活性化は細胞増殖の阻止を誘発させることによって小細胞性肺癌細胞、前立腺癌細胞およびマウス皮膚において腫瘍サプレッサーとして機能することができると考えられる。
【0009】
Notch3はヒトHepG2肝臓癌細胞系で高度に発現されることが最近になって見出されているが、現時点まで、HCCにおけるNotch3の機能に関する研究はなされていない。
【0010】
腫瘍分野において、遺伝子治療は病気に対し有益な効果を生じさせるための小型干渉性(small interfering)RNA(siRNA)は、標的mRNAの翻訳の劣化または異常化を促進することによって特定の遺伝子を沈静化の方向に導く全細胞の自然の性質を利用する新たな技術である。過去数年以上にわたり、種々の伝達体(vehicles)が短ヘアピン鎖RNA(shRNA)の発現および放出に開発されており、この短ヘアピン鎖RNAは哺乳動物細胞の天然RNAプロセッシング機構によりsiRNAに効果的に変換される。したがって、それらの標的mRNAに対し高い特異性が確立されていることから、特定のshRNAが癌を包含する種々のヒトの疾病に対する強力な新規治療法の開発のために研究されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
Notchレセプターが、それらの各種細胞状況における発現レベルに応じて、悪性腫瘍細胞のアポトーシス抵抗性に対し重要な役割を演じることは知られているが、それらの作用メカニズムはほとんど未知のまま残されており、そのため上記レセプターに関連する腫瘍に対する医療処置の可能性は制限されている。
【0012】
HCCについては、医薬分野において前記に列挙した疾病に対する医療的限界により、HCC悪性腫瘍細胞の拡散および生存に対する効果的な処置を提供する医薬が強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(発明の要旨)
本発明においては、HCCおよび隣接HCCフリー組織のヒト組織試料におけるNotchレセプターの発現を探索し、さらにHepG2細胞におけるshRNAによるNotch3発現を除去する生理学的効果を評価した。
【0014】
Notch3はHCCにおいて選択的に発現されるが、周囲のHCCフリー組織では発現されないことが見出された。
【0015】
Notch1の過剰発現がp21の上向き調節によって細胞増殖を阻害することを示したHCC細胞系に対する従来の研究と一致して、本発明の発明者は、標的shRNAノックダウンによるNotch1発現の減少がp21タンパク質発現を格別に減少させることを免疫ブロッティング分析法により見出した(図6)。
【0016】
しかしながら、HCCにおけるNotch1レセプターについて得られた従来の別の結果に基づく予想に反して、驚くべきことに、標的shRNAによる、または抗−Notch3抗体によるNotch3活性の阻害は、HePg2増殖速度を改変しないことが見出された。この観点から、細胞増殖パラメータはフローサイトメトリイと組合わせたプロピジウムヨウダイド染色によって感染後1週間を評価した。得られた結果は、HepG2細胞におけるNotch3ノックダウンが細胞増殖または生存可能性に対する明白な効果を伴うことなく、ホスホリル化p53の蓄積およびp21の阻害を生じさせたことを示した。すなわち、Notch1とは異なり、Notch3は、少なくともこのインビトロ環境において、ヒトHCCの増殖に関与しないと考えられた。
【0017】
Notch3shRNAを安定して発現するHepG2細胞の死亡率が、トリパンブルー染料排除により見出されたところ、6時間および24時間の各ドキソルビシン(または癌治療に用いられる別種の分子)処置に対する応答は、それぞれ(ルシフェラーゼshRNA陰性対照と比較して)2倍および3倍であったことは注目すべきことである(図3)。
【0018】
他方、図10に示されているように、Notch1排除は、それらの医薬誘発アポトーシスに対する提示可能な効果を有していなかった。
【0019】
したがって、Notch3発現はp53依存性アポトーシスの活性化を防止することによって多種薬剤耐性の特異的陽性エフェクターとして少なくとも部分的に機能し、またしたがって化学療法またはその他の環境ストレスに対する抵抗性によってHCCを生じさせるのである。
【0020】
したがって、本発明の目的は、Notch3インヒビター、抗−腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体を含む肝細胞癌の処置用医薬組成物、このような組成物の製造方法およびその必要性を有する患者に対するこのような組成物の投与を含む医療処置にある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1:隣接HCCフリー肝臓組織に比較したHCCにおける増大したNotch3免疫反応性。HCCおよび周辺無腫瘍肝臓のホルマリン固定パラフィン埋め込み切片を抗−Notch3ポリクローナル抗体により免疫染色した。免疫反応性はHPRウサギEnVisionシステムおよび色原体としてジアミノベンジジン(褐色沈殿)を用いて観察した。切片はメイヤー(Mayer)のヘマトキシリンで対比染色した。写真はNotch3に対するポリクローナル抗体により免疫染色されたHCC(A、C)および周辺無HCC肝臓(B、D)を示す例である。
【0022】
【図2】図2:タンパク質および遺伝子発現。(A)HepG2感染細胞におけるNotch3、p53、p−p53、p21、Gadd45α、p27のウェスタンブロッティング。光学濃度分析は、Notch3枯渇細胞におけるp21レベルの5倍の減少およびp27(2.3倍)、Gadd45(2倍)、p53(5倍)およびp−p53(3.2倍)の増加したタンパク質発現を示した。βアクチンをmRNAおよびタンパク質レベルの両方の参考対照として使用した。(B)両Notch3shRNAが等しく、浸透Notch3ノックダウンを生じさせたことを示すウェスタンブロッティング。(C)shRNA発現性HepG2細胞におけるHESI、p53およびWAFのRT−PCR表示分析。2回の独立した試験を行った。CS:GL2陰性対照shRNA、N3S;Notch3shRNA。
【0023】
【図3】図3:処置後細胞生存可能性。感染細胞を指定時点毎に100μg/mlのドキソルビシンで処理した。トリパン生存可能性は各ドキソルビシン処置後に、少なくとも200細胞/試料を計量しながら2回再現した。2回の独立した実験のカラム平均;バー、SE.CS:GL2陰性対照shRNA、N3S;Notch3shRNA。
【0024】
【図4】図4:アポトーシス分析。培養した感染HepG2細胞を6時間、12時間、18時間および24時間、ドキソルビシン100μg/mlで処理し、次いでタンパク質を抽出した。タンパク質をポリアクリルアミド電気泳動により溶解し、次いでモノクローナル抗−ヒト切断(anti−Human Cleaved)PARPを用いてウェスタンブロッティング分析した。βアクチンはタンパク質レベル参考対照として用いた。CS:GL2陰性対照shRNA、N3S;Notch3shRNA。
【0025】
【図5】図5:DNA損傷およびドキソルビシン取込みの分析。(A):DNA損傷はコメット(comet)分析法により検出した。感染HepG2細胞をドキソルビシン100μg/mlとともに完全培地中で、1時間、3時間、6時間、12時間、18時間かけて培養し、次いでDNA鎖切断をコメット分析法により測定した。基礎DNA損傷(ドキソルビシンを用いない場合)は、陰性対照HepG2細胞がNotch3枯渇細胞と同一の損傷を有することを示した(P=0.6686)。(B):ドキソルビシン取込み。感染細胞を相違する時点でドキソルビシン100μg/mlで処置し、および薬物取込みはFACS分析法により測定した。Notch3枯渇細胞は、陰性対照よりも格別に高いレベルまでドキソルビシンを取込んだ。カラムは2回の独立した実験の平均値である。バー、SE.CS:陰性対照shRNA、N3S;Notch3shRNA。
【0026】
【図6】図6:Notch3枯渇細胞における減少されたp21発現。ウェスタンブロッティング分析は、陰性対照(CS)に比較して、Notch3枯渇細胞におけるp21のレベルの減少およびp53およびp−p53のレベルの無変化を示す。
【0027】
【図7】図7:p53短鎖干渉性RNA。感染細胞をp53siRNA 40nMにより、およびスクランブルされたsiRNA(scRNA)40nMによりトランスフェクションし、次いでトランスフェクションの48時間後および72時間後にウェスタンブロッティング法により評価した。N3S:Notch3shRNA;CS:GL2陰性対照shRNA;scRNA:スクランブルされたRNA。1.7:N3S/scRNA;2.8:CS/scRNA;3.5:N3S/p53siRNA;4.6:CS/p53siRNA。
【0028】
【図8】図8:p53siRNAはNotch3枯渇細胞においてドキソルビシンに対する感受性を減少する。トランスフェクション後の48時間および72時間の時点で、細胞をドキソルビシン100μg/mlで24時間かけて処理した。トリパン生存可能性は各ドキソルビシン処置後に、少なくとも200細胞/試料を計量しながら2回再現した。2回の独立した実験のカラム平均;バー、SE.CS:GL2陰性対照shRNA、N3S;Notch3shRNA;scRNA:スクランブルされたRNA。
【0029】
【図9】図9:HESI小型干渉性RNA。HepG2細胞をHES1siRNA 40nMにより、およびスクランブルされたRNA 40nMによりトランスフェクションし、次いでトランスフェクションの72時間後、HES1ノックダウンおよびp21タンパク質レベルをRT−PCRおよびウェスタンブロッティング法により評価した。スクランブルされたRNA、2.3:相違するHES1siRNA。
【0030】
【図10】図10:Notch1枯渇細胞におけるドキソルビシン処置後の細胞生存性。250x10感染細胞をドキソルビシン100μg/mlで24時間かけて処理した。各ドキソルビシン処置後、トリパン生存性を、少なくとも200細胞/試料を計量しながら2回再現した。2回の独立した実験のカラム平均:バー、SE.CS:対照shRNA、N1S;Notch1shRNA。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(発明の詳細な説明)
本発明によって、Notch3阻害は標的siRNAまたはshRNA、あるいはNotch3mRNAとハイブリッドを形成する標的合成オリゴヌクレオチドにより(すなわち、RNA干渉、RNAiにより)転写後レベルで誘発させることができ、もってNotch3レセプターの合成を抑制することができる。
【0032】
短ヘアピン鎖RNA(shRNA)はインビボでRNA干渉を経て遺伝子発現を沈黙させる安定なヘアピン形態の分子である。
【0033】
shRNAヘアピン構造を細胞プロセッシング機構により切断し、成熟siRNAを生成させる。この成熟siRNAのアンチセンス鎖はRNAInduced Silencing Complex(silencing complex)(RISC)により特異的に取込まれる。このコンプレックスはRISCに含有されるsiRNA配列に適合するmRNAに結合し、次いで解裂する。すなわち、標的RNAを分解方向に導く。したがって、予め存在するレセプターは最終的に転換されるが、新たに合成されたNotch3レセプターにより元通りにまで補給されないことから、上記阻害は或る時点で、標的細胞からのNotch3レセプターの枯渇をもたらす。
【0034】
別様には、このレセプターは抗−Notch3抗体を用いて、あるいは例えば当該レセプターのリガンドのアンタゴニストなどのNotch3レセプターの機能を干渉する分子により阻害することができる。
【0035】
本発明によるshRNAまたはsiRNAはNotch3の公知のmRNA配列から出発して構築することができ、あるいはPCT出願WO2004047731号公報に記載のものの中から選択することができ、あるいは配列番号1および2の一つであることができる。
【0036】
30ヌクレオチドよりも長い配列が全タンパク質合成の停止をもたらすことができる抗ウイルス様インタフェロン応答を誘発することができることが文献に報告されているように、これらのRNAは一般に、21〜23ヌクレオチド長さを有する。
【0037】
siRNAまたはshRNAをデザインする計画および方法は、オンライン(例えばhttp://www.genelink.com/sima/shRNAi.asp、http://www.ambion.com/techlib/misc/psilencerconverter.html)を利用することができる。したがって、当業者にとって本発明の実施に適するRNAのデザイン作製に問題はない。
【0038】
上記shRNAは、遺伝子治療法に適するあらゆるベクターに挿入することができる。shRNA発現ベクターはウイルス(レトロウイルス、アデノウイルスおよびレンチウイルスを包含する)およびプラスミドシステムの両方を用い操作されている。これらのベクターはshRNA発現の誘導に狭い群のpol.IIIプロモーターからのプロモーターを使用する。ベクターは全部がヒトpol.III用のプロモーターを包含していなければならない。ヒトU6プロモーターはRNAiで汎用される最も研究されている種類のIIIpolプロモーターである。
【0039】
shRNAはExportin−5により核から輸送され、短鎖RNAループを認識する。一度だけ原形質において、pre−miRNAおよびshRNAは両方共に、Dicerと称される第二RNaseIII酵素による分裂によってsiRNAデュプレックスに加工される。重要なことは、DicerがshRNAの塩基を結合し、ステムまで21ntまたは22ntを分裂させ、第二2nt3’オーバーハングを残し、siRNAデュプレックス構造を形成することである。RNAデュプレックスはRNAi−Induced Silencing Complex(RISC)により取込まれる。RISCは二本鎖RNAおよび付随アンチセンスを有する活性化コンプレックスを解きほぐす。
【0040】
レトロウイルス類の遺伝物質はRNA分子の形態であり、他方、それらの宿主の遺伝物質はDNAの形態である。レトロウイルスが宿主細胞に感染すると、数種の酵素と共にそのRNAを細胞中に導入する。このレトロウイルスからのRNA分子は、宿主細胞の遺伝物質の一部であると考えることができるようになる前に、そのRNA分子からDNAコピーを生成しなければならない。RNA分子からのDNAコピーの生成プロセスは逆転写と称される。これは逆転写酵素と称されるウイルスが持つ酵素の1種により行われる。このDNAコピーが生成され、宿主細胞の核で無存在になった後、インテグラーゼと称されるウイルスが有するもう1種の酵素を用いることによって宿主細胞のゲノムに組込まれなければならない。レトロウイルスを用いる遺伝子治療の問題の一つは、インテグラーゼ酵素が宿主ゲノムの任意の位置の全部にウイルス遺伝物質を挿入することができることにある。遺伝物質が宿主細胞の原型遺伝子の一つの中央における挿入を引き起す場合、この遺伝子は崩壊される(挿入突然変異)。遺伝子が一つの調節性細胞分裂を引き起す場合、無制御の細胞分裂(すなわち、癌)が生じることがある。この分野の技術の状態は、アエンフィンガーヌクレアーゼを利用するレトロウイルスベクター、または或る種の配列、例えば統合部位を特異的染色体部位に向けるためのベータ−グロビン遺伝子座制御領域などを包含するレトロウイルスベクターの使用を開示している。しかしながら、本発明による医薬組成物に適するベクターの構築に関する開示を技術を標準的な技術において見出すことは、当業者にとって周知である。
【0041】
ベクター、キット構築ベクターおよび上記RNA発現用ベクターの構築にかかわる一式、例えばINGENEX GeneSuppressorRetro Construction Kit(遺伝子サプレッサーレトロ構築キット)は当技術分野で公知であり、またはオンラインを利用することができ、あるいは下記文献に記載されている:Arts,G.J.等(2003)「遺伝子機能の発見および確認用のアデノウイルスベクター発現性siRNA」(Adenoviral vectors expressing siRNA for discovery and validation of gene function)、Genome Res.13:2325−2332(これは一次細胞を包含する種々の種類の細胞におけるアデノウイルス基材shRNA発現を証明している);Matta,H.等(2003)「小型干渉性RNAの放出に対するレンチウイルスベクターの使用」(Use of lentiviral vectors for delivery of small interfering RNA)、Cancer Biol.Ther.2:206−210(この著者は、shRNAカセットの発現にインビトロゲンズpLenti6バックボーン(Invitrogen’s pLenti6 backbone)を使用している);Tiscornia,G.等(2003)「小型干渉性RNAを発現するレンチウイルスベクターを使用することによるマウスにおける遺伝子ノックダウンの一般的方法」(A general method for gene knockdown in mice by using lentiviral vectors expressing small interfering RNA)、Proc.Natl.Acad.Sci.米国 100:1844−1848(この文献は細胞およびマウスへのshRNA放出にかかわるレンチウイルスベクターの利用を示している)。
【0042】
有利には、本発明のベクターは腫瘍においてのみ細胞でshRNAまたはsiRNA発現を推進する腫瘍特異性プロモーターを含むことができ、あるいはその代わりに、当技術分野で公知の肝臓特異性プロモーター、例えばアルブミン、アルファ1−アンチトリプシン、ヒトインスリン様成長因子IIなどを含むことができる。肝臓特異性プロモーターの完全なリストはLiver Specific Promorters Database(http://rulai.cshl.edu/LSPD)にまた、見出すことができ、これにより当業者は肝臓においてのみのレトロウイルスベクターの発現、したがってNotch3インヒビターの発現を推進することができる。この態様は、Notch3がHCC細胞においてのみ発現され、健全な細胞では発現されないか、または肝硬変の細胞でも発現されないことがここで証明されていることから非常に有利である。したがって、本発明によるNotch3の阻害は腫瘍性結節の周囲の無HCC肝細胞における望ましくない分子変質を生じさせない。このことは、肝細胞癌患者において肝硬変の発症が高いことから、特に適切なことである。本発明による医薬組成物は大勢の患者の長期間生存を達成するために、慢性肝臓疾病の進行を逆行させる目的の戦略と組合わせることができる標的抗癌治療を可能にする。
【0043】
このようなベクターを含む本発明による医薬組成物の利点は、腫瘍においてのみ化学療法剤の細胞殺滅効果を増加し、したがって周囲の健全な細胞あるいは病変しているが悪性腫瘍細胞ではない細胞においても、医薬の負の効果を際立って減少させるという事実にある。
【0044】
同一の事実は本発明によるNotch3インヒビターが抗−Notch3抗体により、または本明細書に記載の他の全部の態様により提供された場合にも当てはまる。
【0045】
一般に、本発明による医薬組成物は、Notch3を発現する悪性腫瘍細胞だけでその効果を増進することにより現在使用されている薬用量を減少することができることから格別に有利である。合成オリゴヌクレオチドは、臨床診断用に、および新規治療剤の開発用に分子生物学の研究に有用である。事実として、遺伝子治療へのこの適用は新世代の医薬の合成を可能にするアンチセンスと称される新しい分野を開発するものである。この方法はオリゴヌクレオチドとmRNAとのカプリングによるその宿主による生産が防止されるべきであるタンパク質の生成に基づいており、遺伝子発現を阻害する別の経路を経る方法である。医学において、ヒト医薬治験に特に抗ウイルス剤および抗白血病薬剤としてアンチセンス技術を適用することから出発されている。
【0046】
このように、RNA干渉に対する代替手段として、Notch3はまた、合成ヌクレオチドを用いることによって阻害することができる。このような合成オリゴヌクレオチドはリポプレックス(lipoplexes)に担持せしめ、門脈静脈注射によって肝臓中に供給される。
【0047】
本発明の態様において、本発明による合成オリゴヌクレオチドの細胞内への送達は、これらがトランスフェクションプロセス期間中の望ましくない分解から当該オリゴヌクレオチドを保護する能力を有することから、リポプレックスまたはポリプレックス(poliplexes)を構築することによって達成することができる。
【0048】
これらのオリゴヌクレオチドは、ミセルまたはリポソームのような組織化された構造体として脂質により覆うことができる。この組織化された構造体が核酸とコンプレックスを形成している場合、これはリポプレックスと称される。脂質、アニオン性(負に帯電している)、中性またはカチオン性(正に帯電している)の3種類が存在する。最初に、アニオン性および中性脂質が合成ベクター用のリポプレックスの構築に使用された。カチオン性脂質は、それらが正に帯電していることから、負に帯電している核酸と自然にコンプレックスを形成する。これらはまた、アニオン性または中性脂質に比較し製造に要する消費時間を短縮する。
【0049】
さらにまた、それらが正に帯電していることから、これらは細胞膜と相互反応し、それらのエンドサイトーシスおよび続く核酸の細胞質中への放出を促進する。カチオン性脂質は細胞による核酸の分解を防止する。
【0050】
当業者は本発明によるリポプレックスの実現にかかわる実施計画を当技術に見出すことができる。
【0051】
リポプレックスの最も慣用の用途は癌細胞中への遺伝子の移送にあった。供給された遺伝子は細胞内で腫瘍サプレッサー制御遺伝子を活性化し、およびオンコゲンの活性を減少させる。最近の研究は、リポプレックスが呼吸器官上皮細胞のトランスフェクションに有用であり、この場合、これらは嚢胞性線維症などの遺伝性呼吸器官疾病の処置に使用することができる。
【0052】
もう一つの態様において、Notch3阻害は、インヒビターとして、抗Notch3抗体またはNotch3レセプターアンタゴニストなどを使用することによって、あるいはNotch3レセプターの機能を遮断することができる別種のあらゆる分子を使用することによって達成することができる。
【0053】
本発明において、抗腫瘍化学療法剤は細胞のアポトーシスを生じさせるか、または細胞増殖に対し作用するあらゆる適当な公知化学療法剤の中から選択することができ、中でもこれらに制限されないものとして、化学療法剤はドキソルビシン、5フルオロウラシル(5Fluorouracil)、パクリタキセル(Paclitaxel)、イリノテカン(Irinotecan)、パツピロン(patupilone)、エベロリムス(Everolimus)、マルチキナーゼ阻害剤[ソラフェニブ(sorafenib)およびスニチニブ(Sunitinib)]、EGFR阻害剤[セツキシマブ(Cetuximab)、エルロチニブ(Erlotinib)、ゲフィチニブ(Gefitinib)、ブリバニル(Brivanil)、ラパチニブ(Lapatinib)]を含む群から選択することができる。本発明による医薬組成物は静脈内または組織内注射に適する形態に調製することができ、その調製はNotch3インヒビターと1種または2種以上の前記定義のとおりの抗腫瘍剤および医薬上で許容される担体とを混合する工程を含んでいる。
【0054】
別法として、これら2種の活性化合物を2個の分離したバイアルから同時的に共同投与する(co−administer)ことができ、あるいはインヒビターがNotch3mRNAの転写後阻害により作用する場合、インヒビターを投与して6〜48時間後に化学療法剤を投与することができる。
【0055】
したがって、本発明の目的はまた、Notch3インヒビター、抗腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体を肝細胞癌の処置用に共同投与するための医薬キットにあり、このキットは2個のバイアルを含み、バイアルの一方はNotch3インヒビターおよび医薬上で許容される担体を含有し、もう一方のバイアルは抗腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体を含有する。
【0056】
本発明に従い、Notch3インヒビターを含むバイアルは、Notch3をコードするmRNAに対し相補性のsiRNA、Notch3をコードするmRNAに対し相補性のshRNA、Notch3をコードするmRNAに対し相補性の合成オリゴヌクレオチドあるいは抗−Notch3またはNotch3アンタゴニストを含む群の中から選択されるNotch3インヒビターを含んでいる。このsiRNAまたはshRNAは本発明に従いウイルスベクターに挿入し、他方、合成オリゴヌクレオチドはリポプレックス中で適当な脂質と組合わせる。
【0057】
化学療法剤を含むバイアルは、ドキソルビシン、5フルオロウラシル、パクリタキセル、イリノテカン、パツピロン、エベロリムス、マルチキナーゼ阻害剤[例えば、ソラフェニブおよびスニチニブなど]、EGFR阻害剤[例えばセツキシマブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ブリバニル、ラパチニブなど]を含む群から選択される化学療法剤を含んでいる。一般に、組成物がRNA Notch3インヒビターを含む場合、このRNAは前記の適当なウイルスベクター中に挿入されている。
【0058】
したがって、本発明による医薬組成物は前記ベクターおよび1種または2種以上の前記抗腫瘍剤を含んでいる。
【0059】
阻害が本発明によるオリゴヌクレオチドにより行われる場合、このオリゴヌクレオチドはリポプレックスにコンプレックス形成される。このリポプレックスは静脈注射に適する医薬上で許容される溶液中に1種または2種以上の抗腫瘍化学療法剤(ドキソルビシン、5フルオロウラシル、パクリタキセル、イリノテカン、パツピロン、エベロリムス、ソラフェニブ、スニチニブ、セツキシマブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ブリバニル、ラパチニブ)と共に懸濁する。
【0060】
抗Notch3抗体の場合、この抗体は静脈注射に適する医薬上で許容される溶液中に1種または2種以上の上記抗腫瘍剤とともに懸濁する。
【0061】
Notch3アンタゴニストあるいはNotch3機能を遮断する他のあらゆる分子をNotch3インヒビターとして使用する場合も同じ手段が適用される。
【0062】
本発明による抗腫瘍化学療法剤成分の薬用量は、Notch3阻害の観点から上記薬剤の効果を2〜3倍強化させることによって2〜3倍減少される。
【0063】
本発明による医薬組成物はHCCと組合されて存在していてもよい別種の肝臓疾病の処置用の追加の化合物、例えば肝硬変およびその他の処置用の化合物を有利に含むことができる。
【0064】
したがって、本発明による組成物の調製方法は、a.機能性Notch3インヒビターの選択工程(このインヒビターの特徴は、Notch3レセプターの機能またはNotch3レセプターの合成のどちらかを阻害することにある)、b.a.で選択されたインヒビターを1種または2種以上の抗腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体と混合する工程を含んでいる。
【0065】
インヒビターがRNAである場合、このRNAを従来開示されている適当なベクターに挿入し、肝臓細胞で当該RNAを発現させることができる。
【0066】
本発明はまた、前記キットの調製方法を含み、この方法は下記工程を含んでいる:
a.Notch3インヒビターおよび医薬上で許容される担体を含む第一バイアルを調製する工程;
b.1種または2種以上の抗腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体を含む第二バイアルを調製する工程。
【0067】
これらのインヒビターおよび化学療法剤は本明細書に記載されているものの1種である。
【0068】
本発明の目的はまた、投薬を必要とする患者に治療有効量の前記のとおりの医薬組成物を投与する、または本発明による医薬キットのバイアルの内容物を共同投与することにあり、ここで第二バイアルは付随的にまたは第一バイアルから6〜48時間以内に投与することができる。
【0069】
本発明の有利な態様において、この医療処置は、本発明による医薬組成物または本発明によるキットの第一および第二バイアルを門脈静脈中に注入し、これにより肝臓に直接供給することによって行う。
【0070】
本発明によるHCC処置はまた、前記説明のとおりの肝硬変用の処置と組合わせると有利である。
【0071】
(例)
1.患者および方法
HCCの手術を受ける20人の患者(男性12名および女性8名)が研究に参加した。各患者からはNIHの指針およびヘルシンキ宣言の最新修正に従いインフォームドコンセプトを得た。全患者確認者を分析前に全組織試料から分離した。組織試料は組織病理学検査および免疫組織化学用に10%ホルマリンおよびパラフィン埋め込みにより固定した。肝硬変症(CE)が20人中13人に存在した;残りのケースは正常肝臓を示すか(2ケース)、または慢性活動性肝炎(CAH、5ケース)を示した。慢性肝臓疾病の病因は9ケースでHCVに、5ケースでHBVに、4ケースでHBVおよびHCVの合併感染に帰因していた。正常な肝臓から他の病因によって生じたHCCの2ケースでは、ウイルスマーカーは認識されなかった。HCCの組織病理学的評価は、エドモンソンおよびスタイナーの基準(Edmonson and Steiner’s criteria)(31)に従いスコアを取った。1ケースでG1.5、5ケースでG2.12、12ケースでG3および残りの2ケースでG4であると評価した。
【0072】
2.免疫組織化学
HCCおよび隣接する無腫瘍肝臓のホルマリン固定パラフィン埋め込み切片(厚み4μm)を免疫染色し、Notchレセプターを検出した。Notch3および4を認識する一次抗体はSanta Cruz Biotechnology(Santa Cruz、CA)から得た。一方、Notch1の一次抗体はAbcamから得た(Ab8925)。一次ポリクローナル抗体の希釈度は次のとおりであった:Notch1(1:600)、Notch3(1:300)およびNotch4(1:400)。免疫反応性はHRP(ホースラディッシュペルオキシダーゼ)ウサギエンビジョン(EnVision)システム(DAKO、デンマーク)および色素源としてDAB(ジアミノベンジジン)(Sigma、ST Louis、米国)を用い明示させた。積載スライドは光学顕微鏡により検査し、および免疫反応性は3等級法により評価した。3等級法において、0は染色の無存在を示し、1は最低の染色を示し、および2は均一で強力な染色を示す。免疫反応性2等級を有する試料のみを陽性と考えた。
【0073】
3.細胞培養
HCC HepG2細胞系はAmerican Type Culture Collection(HB−8065、ATTC、Rockvill、MD、米国)から得た。細胞は5%COインキュベーター内で37℃においてウシ胎児血清(FBS)10%、ペニシリン100U/mlおよびストレプトマイシン100mg/ml(全部がATCCからの試薬)を補給したイーグル最低必須培地(Eagle’s Minimum Essential Media)(MEM)中に保持した。
【0074】
4.shRNAのレトロウイルス形質導入
shOligosにより特定されたshRNA(短ヘアピン鎖RNA)を製造業者指示(OligoEngine、Seattle、WA)(32)に従いpSuper−.puro発現ベクター中に挿入した。我々は、標的外shRNA作用の可能性を排除するために、Notch3レセプターおよびNotch1レセプターのそれぞれについて2種のshOligosを調製した。Notch3およびNotch1の2種一対の標的配列は次のとおりであった:Notch3(#1);5’−ctcccctcaccacctaataaa−3’;Notch3(#2);5’−gggggacctgccgccgtggctata−3’;Notch1(#1);5’−ggccgtcatccgacttca−3’;Notch1(#2);5’−gcctcttcgacggctttga−3’。陰性対照として、我々はGL2ルシフェラーゼ特異性shRNAを発現するpSuer.puroプロウイルスを含む一団のHepG2細胞を調製した。
【0075】
レトロウイルスはpSuer.puro発現ベクターをPhoenixAパッケージ細胞(Dr.Gary Nolanにより好意で提供された)にリン酸カルシウム沈殿法(34)を用いるトランスフェクションにより生成させた。
【0076】
トランスフェクション後の48時間および72時間の時点でウイルス性上清を採取し、集め、濾過し(孔サイズ0.45μm)、次いで−80℃で保存した。
【0077】
感染の前日にHepG2細胞50〜70000を6−ウエルプレートの各ウエルに接種した。充分のレトロウイルス形質導入を達成するために、未希釈ウイルスをポリブレン(Polybrene)(Sigma)8μg/mlの存在下におけるスピノキュレーション(spinoculation)(32℃において45分間、2200RPMで遠心分離)により、次いで追加の5時間の32℃におけるインキュベーションにより細胞に適用した。次いで、ウイルス上清を新鮮な完全培地で入れ替え、次いで細胞を37℃において48時間かけて回収した。安定な感染した一団の細胞をプロマイシン1.8μg/ml補給増殖培地用に選択した。プロマイシン耐性は、培地の2回の変換を伴う4日間の選択後にルーチン的に得られた。
【0078】
5.小型干渉性RNAのトランスフェクション
トランスフェクションの24時間前、Notch3shRNAおよびGL2感染細胞の両方を抗生物質を含まないMEM中で6ウエルプレートに接種した。40%集合まで増殖したHepG2細胞を確認済p53siRNAおよびスクランブル後RNA(scRNA)(Invitrogen)40nMによりトランスフェクションした。トランスフェクションの直前に、培養培地を分離し、次いで製造業者の指示に従いリポフェクタミン(Lipofectamine)2000およびOpti−MEM培地(Invitrogen)を用いて、トランスフェクションを行った。トランスフェクション後の5時間の時点で、培地を新鮮な培地含有血清と入れ替えた。トランスフェクション効率は、蛍光標識したsiRNA(Invitrogen)を用いるトランスフェクションにより測定して90%以上であった。トランスフェクション後の48時間および72時間の時点で細胞を採取し、ウェスタンブロッティングによりp53タンパク質の発現を調査するか、または24時間のドキソルビシン処置に付した。次いで、細胞の生存可能性をトリパンブルー染色により評価した。
【0079】
無症状性ヒトHESIにかかわる2種のsiRNA配列をデュプレックスで合成し、それぞれsiRNA40nMで72時間かけてHepG2細胞をtransientトランスフェクションした後、HESI阻害を評価した。
【0080】
6.ドキソルビシン処理
HepG2の一団の安定な感染細胞を6ウェルディッシュに接種し、次いで24時間かけて付着させ、洗浄し、次いでドキソルビシン(Sigma)100μg/ml含有新鮮完全培地で1時間、3時間、6時間、12時間、18時間および24時間かけて培養した。ドキソルビシン混入は10000回計量するFACSにより検出した。
【0081】
7.細胞死および細胞毒性の評価
ドキソルビシン処理に引続いて、付着したHepG2細胞および流動しているHepG2細胞を培養培地に採取し、遠心分離によりペレット化し、次いで細胞死の程度をトリパンブルー染色により評価した。細胞壊死は未処理細胞およびドキソルビシン処理細胞の培養培地を用いて行われた標準的臨床LDH(ラクテートデヒドロゲナーゼ)放出検定法により評価した。
【0082】
8.RNA分析
総合細胞RNAはトリアゾル(Triazol)(Invitrgen、Paisley、スコットランド)を製造業者の指示に従い使用して調製した。総合RNA4マイクログラムをDNAseI(Invitrogen)で処理し、汚染性ゲノムRNAを除去した。cDNA中への逆転写は、IXRT緩衝液、dNTPs 0.4mM、ジチオスレイトール(DTT)5mM、oligoT 0.5μM、ランダムプライマー3μM、SuperscriptII 240U(全部の試薬はInvitrogenから)を含む反応混合物30μl中で行った。このRT反応は42℃で1時間、次いで95℃で5分間かけて行い、酵素を不活性化した。P53、WAF1、Notch1、HESIおよびβ−アクチン遺伝子の相対的発現を準定量終点式PCR増幅法(semi−quantitative end−point PCR amplification)によって測定した。PCR生成物をエチジウムブロマイドにより染色された2%アガロースゲル上で分解し、次いで蛍光光度分析法(Quanitity one、Biorad、CA、米国)により分析した。PCRプライマーは下記のとおりであった:WAF1(FA 5’−aagaccatgtggacctgtca−3’およびREV 5’−ggcttcctcttggagaagat−3’);p53(FW 5’−gacccaggtccagatgaagc−3’およびREV 5’−accgtagctgccctggtaggt−3’);HESI(FW 5’−gctggtgctgtctggatg−3’およびREV 5’−cattcctgctctcgccttc−3’)。
【0083】
9.タンパク質分析
培養した細胞を、Tris−HCl(pH7)10mM、MgCl2.5mM、TritonX100 1%、DTT 1mM、フェニルメチルスルホニルフルオライド(PMSF)0.1mM、NaVO1mM、NaF 1mMおよびプロテアーゼインヒビター(Sigma Chemical Company、St.Louis、MO)を含有する溶解性緩衝液に溶解した。溶解生成物を4℃において15000xgで15分間にわたり遠心処理し、次いで上清をBio−Radタンパク質分析法(Bio−Rad)によりタンパク質濃度について分析した。タンパク質を、IX SDS(硫酸ドデシルナトリウム)付加緩衝液(Tris−HCl(pH7.5)65mM、2−メルカプトエタノール 65mM、SDS 1%、グリセロール 10%およびブロモフェノールブルー 0.003%)中で95℃において10分間にわたり沸騰させ、次いでポリアクリルアミドゲルにより分割し、次いでニトロセルロース膜(Hybond C Extra、Amersham Pharmacia、Little Chalfont、英国)上にブロッティングした。膜をレッドポンソー(Red Ponceau)溶液(Sigma)により染色し、5%無脂肪乾燥ミルク中においてPBSで50分間かけてブロックし、次いで適当な一次抗体とともにインキュベートした。一次抗体および希釈度は次のとおりであった:抗−Notch3ポリクローナル抗体(sc−5593、Santa Cruz Biotechnology)1:300、抗−Gadd45αポリクローナル抗体(AB3863、Chemicon International、Temecula、CA)1:1000、抗−p21モノクローナル抗体(Clone SX118、Dako)1:100、抗−p53モノクローナル抗体(Clone DO−7、Dako)1:500、抗Kip1/p27モノクローナル抗体(Clone 57、BD Biosciences、San Jose、CA)1:2300、分裂PARPモノクローナル抗体(9546、Cell Signaling Technology、Beverly、MA)1:200、抗−p−p53ポリクローナル抗体(sc−18079−R、Santa Cruz Biotechnology)1:300、抗−Notch1ポリクローナル抗体 1:200および抗−β−アクチンモノクローナル抗体(Clone AC−40、Sigma)1:1000。
【0084】
Tween20(PBST)0.1%含有PBSで反復洗浄した後、エンビジョン(EnVision)デキストランポリマー可視化システム(Dako)を用い、膜を抗マウスまたは抗ウサギHRP−結合二次抗体とインキュベートした。膜を洗浄し、次いで化学蛍光反応(ECL試薬、Amersham)によってオートラジオグラフィを得た。オートラジオグラフィのデジタル画像はFluor−S MultiImager スキャナー(BioRad)により得た。これらの信号を、Quantity−one 濃度測定ソフトウエア(Bio−Rad、Hercules、CA)を用い、対照オートラジオグラフィとの光学的計測後、吸光単位で定量した。
【0085】
10.コメット(Comet)分析
DNA鎖分裂をアルカリ性コメット分析法により定量した。要するところ、ドキソルビシンに露呈した後の相違する時点で、10細胞を0.7%低融点アガロースに埋め込み、次いでアガロース被覆顕微鏡スライド上に移した。引続いて、スライドを新鮮な溶解性緩衝液(NaCl 2.5M、NaEDTA 100mM、Tris−HCl 10mM、TrironX−100 1%、pH10.0)中で4℃において1時間かけてインキュベートした。スライドを次いで、冷アルカリ巻き戻し/電気泳動溶液(cold alkaline unwinding/electrophoresis solution)(NaOH 300mM、NaEDTA 1mM、pH13.0)を満した水平ゲル電気泳動チャンバーに25分間にわたり置いた。電気泳動後(25V、300mA、25分間)、スライドを0.4M Tris(pH7.5)で洗浄し、無水エタノール中で2分間にわたり乾燥させ、次いでエチジウムブロマイドで染色した。コメットは蛍光顕微鏡(Nikon、米国)を用いて分析し、次いでCASPソフトウエアを用いる‘tail moment’(登録商標)の測定によって定量した。一回の測定について50個の細胞を使用し、平均値を計算した。
【0086】
11.統計学的分析
データは、StatView5.0(SAS Institute Inc.Cary NC)の統計関数を用いて分析した。結果は2回の独立した実験から得られたデータの平均値+標準誤差(S.E.)として表した。この結果の統計学的有意性は、スチューデンツt−テストを用いて評価した。P値が0.05より小さい場合に統計学的に有意であるとみなした。
【0087】
12.Notch3タンパク質発現の評価
Notch3およびNotch4の発現をHCCおよび周囲組織の20対の試料で評価した。正常肝臓試料および慢性肝炎試料はこれら3種のNotchレセプターをいずれも発現しなかった。Notch1免疫反応性およびNotch3免疫反応性についてCE肝臓試料とHCC肝臓試料との間に有意の差異は存在しなかった。しかしながら、Notch3陽性発現については、20のHCCのうち15で腫瘍性肝細胞が見出され、これに対しNotch3検出が単離された肝細胞に時々、見出されたことから、CE試料は全部のケースで陰性であると考えられた(図1)。分析されたケースの大部分は高い腫瘍等級を有していたが、腫瘍等級、ウイルス感染およびNotch3発現の間の関連性は見出されなかった。
【0088】
この評価は、上向き調節されたNotch3発現が肝細胞腫瘍と特異的関連性を有することを示すインビボによる最初の証拠を提供するものであり、また少なくともNotch1およびNotch4との比較において、Notch3はHCCの生残り信号発信および/または進行に選択的に関与している可能性があることを明らかにしている。
【0089】
13.HepG2細胞におけるNotch3の枯渇:特異的調節因子に対する作用
Notch3発現は安定なレトロウイルス形質導入によりHepG2中のNotch3特異性shRNAにより排除し、また細胞増殖およびドキソルビシン感受性に対する付随効果について研究を行った。Notch3タンパク質レベルは、HepG2細胞において、無関係なGL2ルシフェラーゼ特異性shRNA対照ウイルスに比較し、2種の異なるNotch3特異性shRNAレトロウイルスによって格段に減少した(図2Aのウェスタンブロッティング参照)。Notch3shRNAは両方共に、浸透性Notch3ノックダウンをもたらした(図2A−B)。
【0090】
Notch3ノックダウンは、細胞増殖、DNA修復およびアポトーシスに関連する特定の細胞タンパク質のレベルに異なる影響を及ぼした。図2Aに示されているように、p27およびGADD45α、p53および活性p−P53の内生レベルはNotch3枯渇後に2〜5倍上昇し、他方、p21タンパク質レベルは4倍減少した。図2Cに示されているRNA分析は、p53およびp21遺伝子転写にかかわる比較可能な結果を示している。さらに、Notch細胞内ドメイン(NICD)の直接の標的であるHES1の発現も、Notch3ノックダウンによって減少した。
【0091】
14.ドキソルビシン処理HepG2細胞におけるNotch3ノックダウン効果
Notch3がHepG2肝臓癌細胞のドキソルビシン誘発細胞死に対する抵抗性を付与するかについて研究を行った。どちらのNotch3shRNAにより感染しても、HepG2増殖率は変化しなかつた。これは、プロピジウムヨウダイド染色およびフローサイトメトリイによって感染後1週間の時点で評価した(データは示されていない)。しかしながら、Notch3shRNAを安定して発現するHepG2の死亡率は、6時間および24時間の各ドキソルビシン処理に応答して2倍および3倍になった(ルシフェラーゼshRNA陰性対照に比較して)。これはトリパンブルー染料排除によって示された(図3)。ドキソルビシン処理はまた、PARPの分裂を生じさせた。PARPはDNA修復に関与する115kDa核タンパク質であり、アポトーシス応答で分裂される最も初期のタンパク質の1種である。ドキソルビシン処理の6時間後、PARPのアポトーシス特異性89kDa分裂フラグメントの蓄積にかかわる明白な増加がNotch3枯渇細胞で見出された(図4)。
【0092】
種々のDNA損傷性薬剤に対して応答するDNA損傷の測定には、コメット分析法を広く使用した。この分析法において、分裂したDNAは核から移動し、丸い先端および末端を有する細胞として視ることができるコメットを形成する。コメット分析法によって測定された基礎的DNA分裂は、GL2対照細胞がNotch3枯渇細胞と同一のDNA損傷内生度を有することを示した(P=0.6686)。経過時間分析を行い、GL2対照およびNotch3欠落細胞の両方でドキソルビシンにより誘発されるDNA鎖分裂を試験した。この分析はNotch3枯渇細胞における格別に高いDNA損傷レベルを伴い得られる「TM」値で経過時間依存性を示した(図5A)。ドキソルビシンにより処理して24時間後、Notch3枯渇細胞の損傷は非常に激しく、DNAの崩壊度を定量することができないほどであった。FACSによって、Notch3枯渇細胞はGL2陰性対照細胞に比較して、より高いレベルのドキソルビシンを取込むかまたは保有し、ドキソルビシンによる処理後の僅か3時間で、ドキソルビシン取込みが有意に相違することが明らかになった。
【0093】
15.ドキソルビシン処理したHepG2細胞におけるNotch3枯渇
化学療法および放射線治療の処置期間中、高いp21レベルによってヒト癌細胞がアポトーシスから保護されることが種々の研究から証明されていることから、本発明者らはNotch3枯渇細胞で下向き調節されるp21が、HepG2細胞のドキソルビシンに対する感受性に関与しているかについて研究を行った。HCC細胞系にかかわる従来の研究は、Notch1の過剰発現がp21上向き調節を経る細胞増殖を阻止することを示している。この発見に一致して、標的shRNAノックダウンによるNotch1発現の減少がp21タンパク質発現を大きく減少させることが免疫ブロッティング分析により見出された(図6)。しかしながら、p21発現に対するNotch1KDの阻害効果は、p53およびp−P53のレベルがNotch1枯渇により影響されなかったことから、p53およびp−P53の発現とは独立している(図6)。重要なことは、Notch3の排除とは異なり、Notch1の減少は、ドキソルビシン媒介細胞死に対してHepG2細胞を感作させなかったことである(図10)。したがって、HepG2細胞における我々の発見は、ドキソルビシン依存アポトーシスに対するそれらの感受性にかかわるp21の役割を支持するものではない。
【0094】
16.ドキソルビシン処理されたNotch3枯渇細胞におけるp53の排除
ドキソルビシン処理に対するNotch3枯渇細胞の増大されたアポトーシス応答にかかわるP53上向き調節の重要性を判断するために、Notch3ノックダウン細胞におけるP53発現の排除を行った。p53特異性siRNAのカクテルの有効カチオン性脂質媒介トランスフェクションを無関連のsiRNA(scRNA)の無作為混合物と比較することによって、Notch3KDおよびGL2対照HepG2細胞における内生P53発現を排除した。ウェスタンブロッティングにより、scRNA陰性対照に比較して、P53タンパク質レベルがP53特異性siRNAでトランスフェクションした後の48時間で減少し、および72時間で検出不能になることがそれぞれ示された(図7)。
【0095】
トランスフェクションされた細胞をドキソルビシン100μg/mlで24時間にわたり処理した。P53の下向き調節がNotch3枯渇細胞の増大したアポトーシス反応の大部分を除去したことは興味深いことである。図8に示されているように、ドキソルビシン処理後の細胞生存率は、scRNAでトランスフェクションされたNotch3枯渇細胞における75%に比較し、p53siRNAでトランスフェクションされたNotch3枯渇細胞では40%であった。しかしながら、p53枯渇はGL2感染細胞のドキソルビシンに対する感受性に影響しなかった。このことは、内生Notch3が、内生p53によるドキソルビシンの死滅増進効果を増幅させる能力を妨げることを示している。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Notch3インヒビター、1種または2種以上の抗腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体を含む肝細胞癌処置用の医薬組成物。
【請求項2】
Notch3インヒビターが、Notch3をコードするmRNAに対し相補性のsiRNA、Notch3をコードするmRNAに対し相補性のshRNA、Notch3をコードするmRNAに対し相補性の合成オリゴヌクレオチド、抗Notch3抗体およびNotch3アンタゴニストを含む群の中から選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
siRNAまたはshRNAが、腫瘍特異性プロモーターまたは肝臓特異性標的プロモーターを含むウイルスベクターに挿入されている、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
合成オリゴヌクレオチドがリポプレックス中に挿入されている、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
抗腫瘍化学療法剤が、細胞のアポトーシスを生じさせる薬剤または細胞増殖に作用する薬剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項6】
抗腫瘍化学療法剤が、ドキソルビシン、5フルオロウラシル、パクリタキセル、イリノテカン、パツピロン、エベロリムス、マルチキナーゼインヒビター、EGFRインヒビターを含む群から選択される、請求項1〜5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
マルチキナーゼインヒビターが、ソラフェニブおよびスニチニブを含む群から選択され、および上記EGFRインヒビターがセツキシマブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ブリバニルおよびラパチニブを含む群から選択される、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
Notch3インヒビター、抗腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体を共同投与するための肝細胞癌処置用医薬キットであって、Notch3インヒビターおよび医薬上で許容される担体を含む第一バイアル、1種または2種以上の抗腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体を含む第二バイアルを含むか、またはそれぞれが抗腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体を含む追加のバイアルを含む肝細胞癌処置用医薬キット。
【請求項9】
Notch3インヒビターがNotch3をコードするmRNAに対し相補性のsiRNA、Notch3をコードするmRNAに対し相補性のshRNA、Notch3をコードするmRNAに対し相補性の合成オリゴヌクレオチド、抗Notch3抗体およびNotch3アンタゴニストを含む群の中から選択される、請求項8に記載の医薬キット。
【請求項10】
siRNAまたはshRNAが腫瘍特異性プロモーターまたは肝臓特異性標的プロモーターを含むウイルスベクターに挿入されている、請求項9に記載の医薬キット。
【請求項11】
合成オリゴヌクレオチドがリポプレックス中に挿入されている、請求項9に記載の医薬キット。
【請求項12】
抗腫瘍化学療法剤がドキソルビシン、5フルオロウラシル、パクリタキセル、イリノテカン、パツピロン、エベロリムス、マルチキナーゼインヒビター、EGFRインヒビターを含む群から選択される、請求項8〜11のいずれかに記載の医薬キット。
【請求項13】
マルチキナーゼインヒビターがソラフェニブおよびスニチニブを含む群から選択され、および上記EGFRインヒビターがセツキシマブ、エルロチニブ、ゲフィチニブ、ブリバニルおよびラパチニブを含む群から選択される、請求項12に記載の医薬キット。
【請求項14】
請求項1〜7のいずれかに記載の医薬組成物の調製方法であって、
a.機能性Notch3インヒビターを選択する工程、ここで当該インヒビターはNotch3レセプターの合成を阻害するか、またはNotch3レセプターの機能を阻害することを特徴とするものである;
b.a.で選択されたインヒビターを1種または2種以上の抗腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体と混合する工程、
を含む調製方法。
【請求項15】
請求項8〜13のいずれかに記載の医薬キットの調製方法であって、
a.機能性Notch3インヒビターを選択し、次いでこのインヒビターを医薬上で許容される担体とともに第一バイアルに定量配分する工程、ここで当該インヒビターはNotch3レセプターの合成を阻害するか、またはNotch3レセプターの機能を阻害することを特徴とするものである;
b.1種または2種以上の抗腫瘍化学療法剤および医薬上で許容される担体を第二バイアルに定量配分する工程、
を含む調製方法。
【請求項16】
請求項1〜7のいずれかに記載の医薬組成物を、その必要性を有する患者に治療有効量で投与することを含むHCCの医療処置。
【請求項17】
第一バイアルの内容物および第二バイアルの内容物、または第一バイアルの内容物および請求項8〜13のいずれかに記載の医薬キットの追加のバイアルの内容物を、その必要性を有する患者に治療有効量で投与することを含むHCCの医療処置。

【図10】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公表番号】特表2010−534233(P2010−534233A)
【公表日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517496(P2010−517496)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【国際出願番号】PCT/IB2007/052957
【国際公開番号】WO2009/013569
【国際公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【出願人】(510023160)
【Fターム(参考)】