説明

肥料・植物活力剤

プロリン濃度が20%(W/W)以上となるように調製したプロリン水溶液を肥料用又は植物活力剤用の組成物とし、これを保存又は流通させることにより、雑菌の汚染を防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−プロリン(以下、単に「プロリン」と記載することがある。)水溶液からなる肥料用又は植物活力剤用の組成物に関する。また、本発明は、プロリン水溶液を、雑菌に汚染されることなく保存又は流通させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アミノ酸の一種であるプロリンは、肥料または植物活力剤としての効果が知られており、その効果に関しては、多くの先行文献がある(例えば特許文献1)。またその効果を謳った商品も発売されている。
【0003】
従来、プロリンは、医薬品、食品の原料として数多くの商品形態がある。しかし、何れも結晶状態又は粉末状態であり、水分を殆ど含まない固形の商品形態で保存、流通、販売されている。それらの中で、肥料用途または植物活力剤として、現在日本国内で販売されている、プロリンを高含有率で含む商品としては、花果神(商品名)[製造・販売昭光通商株式会社]が知られているが、これも同様に、固形の粉末状態で保存、流通、販売されている。
【0004】
上記のような固形状態で保存、流通、販売されているプロリン製品の問題点としては、プロリンの持つ高い吸湿性に由来する、固結、潮解等の品質劣化がある。この問題を回避するために、従来の固形の商品では、プロリンの吸湿を防ぐ目的で、製品中により吸湿力の強いシリカゲルを同封したり、透湿性のほとんど無い高価なアルミ蒸着フィルム等を包装材料として使用する必要があった。
【0005】
上記のような煩雑な手間やコストをかけてまでも、プロリンを固形状態で流通させている主な理由は、液体状態ではプロリンが容易に微生物によって分解され、腐敗してしまうことに起因する。すなわち、プロリンをはじめとする多くのアミノ酸は、防腐剤、殺菌剤等の微生物汚染を防ぐ効果を持つ添加剤を何も添加しない水溶液状態では、その高い栄養価のために、無菌環境下でない通常の保存環境状態では、数日程度から徐々に微生物汚染による分解が生じてしまう。この問題が無ければ、肥料、植物活力剤用途には、保存性、操作性、更には流通性に優れた液体状態でのプロリンの流通が好ましい。
【0006】
従って、肥料用もしくは植物活力剤としてのプロリン商品、特に液体状態のものについて、その保存形態、流通形態および流通方法が記載されている公知文献は僅かである。そして、これらに言及されている場合には、何れも防腐剤、殺菌剤等の微生物汚染を防ぐ目的で、プロリンを含む液体に添加剤を加えている。
【0007】
例えば、特許文献2には、プロリンとウラシルを併用した花芽形成促進剤に用いるプロリン源として、プロリン、及びプロリンを含有するタンパク質の加水分解物またはアミノ酸混合物などが記載されている。しかし、この花芽形成促進剤を調製する際に用いる原料プロリンの形態として、液体は言及されていない。
【0008】
また、特許文3には、プロリンを含む各種アミノ酸を含有する溶液として、大豆、穀類、微生物菌体などのタンパク質を種々の方法で分解して得られる溶液、及び、各種アミノ酸の発酵液などが記載されているが、これらプロリンを含むアミノ酸含有液の保存形態、流通形態および流通方法については記載されていない。
さらに、プロリンを植物に施用する例として、特許文献4〜6には、プロリン、アラニン、バリン、グルタミン酸などを含むアミノ酸発酵液を除菌又は殺菌処理したものが記載されている。しかしこのようなアミノ酸含有液の保存形態、流通形態さらに流通方法について、具体的な記載はない。
【0009】
特許文献7には、植物に施用するアミノ酸発酵液は、アミノ酸発酵液の貯蔵、輸送、取り扱いを容易にするために配合される無機、または有機物質と混合した形でもよいとの記載がある。すなわち、アミノ酸発酵液の持っている欠点を補うためには、保存性、流通性を改善するための何らかの無機物、有機物を添加することが好ましいと記載されている。貯蔵性を改善するための添加物質の具体例として、液体では、各種アルコール類、エーテル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、パラフィン系炭化水素類、アルデヒド類等が挙げられている。
【0010】
特許文献7には、各種アミノ酸を含むアミノ酸発酵液を除菌したものについて、そのままでは雑菌の増殖により成分変化が起こるため、直ちに使用する場合を除き、品質の安定化のためにpHを3以下に調整して保存するとよいとの記載がある。通常、中性近辺のpHで得られる発酵液のpHを3以下に調整するためには、塩酸、硫酸等の強い鉱酸類を多量に添加する必要がある。
【0011】
また、特許文献9には、アミノ酸発酵液に、必要に応じて、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤等の添加物を添加してもよいと記載されている。特許文献10には、プロリン含有製品の形状、及び液状として使用するときは、界面活性剤を添加して調製することが記載されている。さらに、特許文献11には、腐敗防止の見地から殺菌剤、界面活性剤又は防腐剤などを配合することができると記載されている。
【特許文献1】特開2001−131009号公報
【特許文献2】特公昭46−42566号公報
【特許文献3】特公昭56−32961号公報
【特許文献4】特許第2852677号公報
【特許文献5】特許第2874788号公報
【特許文献6】特許第2874789号公報
【特許文献7】特開平6−80530号公報
【特許文献8】特許第3377873号公報
【特許文献9】特開2001−192310号公報
【特許文献10】特開2002−199812号公報
【特許文献11】特開2003−48803号公報
【発明の開示】
【0012】
従来知られているプロリン含有液の有する問題は、微生物汚染による液の保存性悪化を防ぐために、微生物の繁殖を抑えるための各種添加剤を使用している点にある。
【0013】
通常、プロリンを含有する肥料又は植物活力剤等の施用は、植物体が生育している耕作地の土壌への混合、注入または植物体地上部への散布等で行われる。従って、プロリン含有溶液に添加された各種添加剤は、肥料または植物活力剤としてのプロリンを植物に施用する際に、当該植物が生育している周囲の環境にも同時に施用されてしまうことになる。その結果、例えば防腐剤、殺菌剤等を農作物に施用すると、農地の土壌中に含まれる土壌細菌を始めとする各種生物の生育に悪影響を与えることになる。近年、土壌中への各種農薬や環境ホルモンの残留が問題となっており、農業生産に伴う環境汚染をいかに防止するかが、大きな社会問題となりつつある。
さらに、上記のような防腐剤、殺菌剤をハウス等の栽培施設内で施用する場合も、周囲の環境への影響は勿論のこと、作業者の健康に及ぼす悪影響も問題となる。
また、プロリン含有液に酸を添加することによりpHを下げ、雑菌の繁殖を抑える方法も、プロリン含有液を植物に施用する際に、周囲に酸性液を散布するために殺菌剤と同様な環境破壊の問題を含んでいる。
さらに、酸性液、なかでも塩酸、硫酸等の鉱酸類を用いてpHを下げたプロリン含有液は、施用した植物の生育する土壌に、塩酸塩、硫酸塩等の無機イオンが蓄積されることで、塩類集積と呼ばれる土壌汚染を引き起こす。長年にわたる度重なる施用により、耕作地の土壌の塩濃度が高まることで植物の生育が阻害される、いわゆる塩害を引起す可能性も心配されている。
これらの殺菌剤、防腐剤、酸性液の問題は、たとえプロリンを含有する液を肥料または植物活力剤として使用する際に、多量の水で希釈して用いたとしても、度重なる施用により、徐々に環境汚染を引起すことになり、本質的な問題の解決にはなり得ない。
本発明は、上記のような環境汚染を引起す可能性のある添加物を一切使用することなく、保存性、操作性、流通性を向上させた肥料用又は植物活力剤用のプロリン溶液を提供することを課題とする。
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、プロリン含有溶液中のプロリン濃度を適正な範囲内に調節することで、液の操作性を損なうことなく、著しい腐敗防止効果を示すことを見出し、このような知見に基づいて本発明を完成した。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)20%(W/W)以上の濃度のL−プロリン水溶液からなる、肥料用又は植物活力剤用の組成物。
(2)L−プロリン濃度が80%(W/W)以下である前記組成物。
(3)L−プロリン濃度が40〜70%(W/W)である前記組成物。
(4)L−プロリン生産能を有する微生物を培地に培養し、同培地中にL−プロリンを生成、蓄積させることにより得られるL−プロリン発酵液を除菌、及び濃縮することにより得られる前記組成物。
(5)前記L−プロリン発酵液を除菌後、脱塩し、これを濃縮することにより得られる前記組成物。
(6)L−プロリン水溶液を雑菌に汚染されることなく保存又は流通させる方法であって、L−プロリン水溶液のL−プロリン濃度を20%(W/W)以上に調整し、これを保存又は流通させることを特徴とする方法。
(7)前記L−プロリン水溶液は、L−プロリン生産能を有する微生物を培地に培養し、同培地中にL−プロリンを生成、蓄積させることにより得られるL−プロリン発酵液を除菌、及び濃縮することにより得られるものである前記方法。
(8)前記L−プロリン水溶液は、前記L−プロリン発酵液を除菌後、脱塩し、これを濃縮することにより得られるものである前記方法。
(9)前記L−プロリン水溶液は、肥料用又は植物活力剤用の組成物である前記方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。尚、本明細書において、「プロリン」とは、「L−プロリン」を意味する。
【0017】
本発明の肥料用又は植物活力剤用の組成物は、植物に散布することにより、植物の生育を向上させるためのものであり、本発明においては、対象とする植物、及び本発明の組成物の植物への施用方法は特に制限されない。典型的には、対象とする植物としては、バラ、パンジーなどの花卉類、キウリ、トマト、イチゴ、メロン、ホウレン草などの野菜類、ナシ、ミカン、ブドウなどの果樹類、イネ、豆などの穀物類等が挙げられる。また、施用方法としては、例えば、植物体が生育している耕作地の土壌への混合、注入、または植物体の地上部への散布等が挙げられる。
【0018】
本発明の肥料用又は植物活力剤用の組成物は、20%(W/W)以上の濃度のL−プロリン水溶液からなる(以下、本発明の組成物を、「本発明のプロリン溶液」ということがある)。
【0019】
通常、アミノ酸の水溶液は、アミノ酸濃度(又は水分含量)を調節するために、例えば、水溶液中の水分を蒸発させていくと、水溶液中の水分が減少する一方で、アミノ酸濃度が上がることにより、水溶液の浸透圧が上昇する。溶液の浸透圧が上昇するに伴い、多くの微生物はその溶液中で生存できる浸透圧濃度を超えた環境下になると、生存できなくなる。しかし、どの程度まで水分を減少させ、浸透圧が上昇すれば、雑菌等の微生物の繁殖が抑えられるかは、溶液の種類、溶質の種類、温度やpHなど溶液の物理的条件等に影響され、一定ではない。
【0020】
また一方で、水分を蒸発させていくと、水溶液中のアミノ酸濃度が徐々に上がり、当該アミノ酸の水に対する飽和溶解度を超えると、溶解していたアミノ酸が結晶となり溶液中に析出してしまう。結晶が析出したアミノ酸水溶液は、底部に結晶が沈殿するために均一性が保てない上に、固形分が混在するために操作性が悪く、保存状態、流通状態としては好ましくない。さらに、結晶が析出した時点で、それ以上水分を減少させても、溶液中のアミノ酸濃度は上昇せず、従ってその時点での浸透圧条件が微生物の繁殖が可能な範囲内であれば、それ以上の水分調節による腐敗防止効果発現は望めなくなる。
【0021】
従って、これまでに、このようなアミノ酸水溶液中の水分を調製する方法で微生物によるアミノ酸の分解を防止する保存状態、流通状態および流通方法は、ほとんど実用化されていない。特にプロリンに関してはそのような流通形態のものは知られていなかった。
【0022】
本発明者らは、プロリン水溶液中のプロリン濃度と、同溶液中の微生物の生育状況及び同溶液の操作性との関係を種々検討した結果、プロリン含有液のプロリン濃度を特定の範囲内に調節することで、操作性を損なうこと無く、微生物の繁殖を防止できることが可能なことを見出した。さらに、プロリン濃度を高めることで、商品荷姿をコンパクトにすることが可能となり、保存、運搬等の面でも流通性が向上する。
【0023】
本発明のプロリン溶液中のプロリン濃度は、80%(W/W)以下であることが好ましく、20〜70%(W/W)であることがより好ましく、40〜70%(W/W)であることがさらに好ましい。特に好ましいプロリン濃度は、50%(W/W)程度である。プロリン濃度を前記範囲に調整することにより、雑菌の増殖を防止することができる。また、プロリン濃度がこの範囲内であれば、保存中にプロリンの析出を防ぐことができ、さらにはプロリン溶液の粘度が高くなり過ぎず、ポンプ等を用いた送液又は噴霧に適した物性を維持することができる。
【0024】
本発明のプロリン溶液は、例えば、プロリンを上記濃度範囲となるように水に溶解させることにより、製造することができる。本発明のプロリン溶液は、本発明の効果を損なわない限り、プロリン以外に他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、他の肥料成分、植物活力剤、植物調節剤、ビタミン、ミネラル、展着剤、その他の一般的に施用される農業・園芸資材等が挙げられる。しかし、本発明のプロリン溶液は、肥料用又は植物活力剤用として耕作地に散布する場合、夾雑物の影響による植物の生育阻害(塩害)及び環境汚染を防止する観点から、プロリン以外の成分は少ない方が好ましい。
【0025】
尚、本発明において「溶液」又は「水溶液」とは、溶媒が水又は水性溶液であることをいう。水性溶液は、水に水溶性有機溶媒、例えばエタノール等のアルコールを加えたものであってもよい。水溶性有機溶媒の濃度は、プロリンの所定の溶解度が安定的に維持できる限り特に制限されないが、例えば、エタノールを含む場合、濃度は、20%(W/W)以下であることが好ましく、10%(W/W)以下であることが好ましい。
【0026】
一方、経済的観点からは、本発明の効果を損なわない限り、より安価な原料を用いてもよい。そのような原料としては、例えば、プロリン生産能を有する微生物を用いたプロリン発酵液が挙げられる。
【0027】
本発明のプロリン溶液の原料としてプロリン発酵液を用いる場合、プロリン濃度の調製の方法は、特に制限されない。例えば、プロリン発酵液中の微生物菌体を除去した後に、真空蒸発濃縮装置や、逆浸透膜などの通常知られている水分除去装置を用いて、プロリン濃度を調整することができる。また、除菌したプロリン発酵液にプロリン結晶のような固体状のプロリン又は高濃度のプロリン含有液体を加えることにより、プロリン濃度を高めることで、発酵除菌液中のプロリン濃度を高めることもできる。本発明においては、プロリン発酵除菌液は、プロリン以外の塩類を除去することが好ましい。このような塩類としては、培地に由来する無機塩類が挙げられる。脱塩の方法としては、例えば、イオン交換樹脂処理、電気透析、又は逆浸透膜処理などが挙げられる。プロリン溶液中のプロリンに対する夾雑塩類の割合(重量比)は、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.3以下である。
【0028】
プロリン発酵液は、L−プロリン生産能を有する微生物を培地に培養し、同培地中にL−プロリンを生成、蓄積させることにより得ることができる。前記微生物としては、プロリン生産能を有する限り特に制限されないが、例えば、エシェリヒア属細菌、コリネ型細菌、セラチア属細菌等が挙げられる。具体的には、以下の菌株が例示される。但し、本発明は、これらの菌株に限定されない。
【0029】
※エシェリヒア・コリ AJ11543 (FERM P-5483)(特開昭56−144093号公報)
エシェリヒア・コリ AJ11544 (FERM P-5484)(特開昭56−144093号公報)
ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム AJ11225(FERM P-4370)(特開昭60−87788号公報)
ブレビバクテリウム・フラバム AJ11512(FERM P-5332)(特公昭62-36679号公報)
ブレビバクテリウム・フラバム AJ11513(FERM P-5333)(特公昭62-36679号公報)
ブレビバクテリウム・フラバム AJ11514(FERM P-5334)(特公昭62-36679号公報)
コリネバクテリウム・グルタミクム AJ11522(FERM P-5342)(特公昭62-36679号公報)
コリネバクテリウム・グルタミクム AJ11523(FERM P-5343)(特公昭62-36679号公報)
【0030】
また、プロリン発酵に用いる微生物は、野生株であってもよく、プロリン生産能が向上するように育種された変異株又は遺伝子組換え株であってもよい。
【0031】
プロリン発酵に用いる培地は、炭素源、窒素源、無機イオン、さらに必要に応じてアミノ酸、ビタミン等の有機微量栄養素を含有する通常のプロリン発酵に用いられるものでよい。
【0032】
炭素源としては、グルコース、フラクトース、シュークロース、マルトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、酢酸等の有機酸類、エタノール、グリセリン等のアルコール類などが挙げられる。
【0033】
窒素源としては、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸等の窒素含有原料が挙げられる。
培養条件も、従来のプロリン生産菌の培養方法と特に変わらない。
【0034】
本発明のプロリン溶液は、プロリン濃度が上記範囲に調整することによって、雑菌に汚染されることなく保存又は流通させることができる。前記雑菌としては、バチルス属、コウジカビ属、サッカロミケス属等に属する微生物が挙げられる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
【0036】
〔参考例1〕プロリン発酵液の製造
(1)プロリン発酵
プロリン発酵液は、例えば、特開平5−284985号公報の実施例2に記載の方法によって、取得することができる。具体的には、以下のようにして製造することができる。
【0037】
表1に示す組成の液体培地を調製し、pHを7.2に調製した後、20mlを500ml容振盪フラスコに分注し、加熱殺菌する。これに、予め天然培地上で生育させたコリネバクテリウム・グルタミクム AJ11522の菌体を一白金耳量接種し、30℃にて72時間振盪培養を行う。典型的には、培養終了後、培養液中にL−プロリンが3.4g/dl生成する。
前記AJ11522株は、L−イソロイシン要求性を有し、かつクエン酸合成酵素活性の高いL−プロリン生産菌である(特開平5−284985号公報)。
【0038】
【表1】

【0039】
次に、上記培養液から菌体を遠心分離機により除菌する。更に、この除菌液中の水分をロータリーエバポレーターにより真空加熱蒸発させ、濃縮液1.2mlを得る。この濃縮液中のプロリン濃度は約50g/dlである。
【0040】
(2)脱塩濃縮プロリン液の製造
プロリン発酵液の脱塩方法は、一般的な方法で行うことができる。以下に、イオン交換樹脂を用いる方法を例示する。
【0041】
上記(1)に記載の方法、又は他の適切な方法でプロリン発酵を行い、取得したプロリン発酵液320ml(例えばプロリン20gを含む)に、同発酵液のpHが3になるまで硫酸を添加する。その後、限外ろ過機を用いて菌体を除去する。このプロリン溶液450mlを、カラムに充填した市販の強酸性カチオン交換樹脂100ml(H型)に通液し、溶液中のプロリンを樹脂に吸着させ、発酵液中に存在する夾雑アニオンとプロリンを分離する。その後、溶離液として1規定のNaOH 200mlをカラムに通液し、更にプロリンがカラムより完全に溶出するまで水を通液する(通常600ml程度)ことで、樹脂に吸着していたプロリンを溶離させる。(1)に記載の方法、又は他の適切なプロリン発酵で得られるプロリン発酵液を上記のようにして処理することにより得られる溶出液700ml中には、プロリンが約2.3g/dlの濃度で16g程度含まれている。更に、この脱塩液を真空加熱濃縮することで水分を除去すると、例えばプロリン溶液32mlを得ることができる。この中のプロリン濃度は50g/dlである。
【0042】
〔実施例1〕プロリン水溶液中のプロリン濃度と微生物の繁殖状況
各種の濃度に調整したプロリン水溶液中の、微生物繁殖状況を以下の方法で調査した。
すなわち、表2及び表3に示すプロリン濃度になるように、市販の医薬品原料品質のプロリン結晶(味の素株式会社製)を水道水に溶解し、50mlのプロリン水溶液を得た。更に、微生物を添加する目的で、滅菌していない土を各々のプロリン溶液に0.5gずつ加えて、25℃及び40℃にて4週間ボトルで保存した。保存後の各々のプロリン溶液における微生物の繁殖状況を、表2及び表3に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
以上のように、水溶液中のプロリン濃度が10%以上になると、微生物の繁殖が抑制されることがわかる。更に、プロリン濃度が高くなるにつれて微生物の繁殖が一層抑制され、プロリン濃度が50%程度になると、微生物の繁殖がほぼ完全に防止できることがわかる。
なお、各プロリン水溶液の4週間後のpHは、ほとんど一定であり、pHの変化により微生物の繁殖が抑制されたわけではないことを示している。
また、いずれの溶液も、操作性が良好であり、結晶は析出しなかった。
【0046】
〔実施例2〕プロリン溶液の夾雑塩濃度と植物に対する塩害
モデル液を用いて、プロリン溶液中の夾雑塩による塩害への影響を調べた。モデル液として、プロリン発酵液から除菌したもの(以下、単に「プロリン発酵液」という)、及び同発酵液から夾雑塩を除去したもの(以下、「脱塩液」という)を用いた。プロリン発酵液の組成を表4に、脱塩液の組成を表5に示す。
【0047】
市販の培養土を用いてポット(直径7.5cm、深さ6.5cm)栽培した小松菜に、各モデル液を各2.5ml、1回葉面散布して、塩害の程度を確認した。散布後、18時間後の結果を表6に示す。
【0048】
【表4】

【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【0051】
上記のように、いずれのプロリン濃度範囲でも、夾雑塩の濃度を低くすることにより、植物に対する塩害が抑制され、より高濃度のプロリンを散布することができる。また、それによって、植物の生育状態が良くなることが確認された。
【産業上の利用の可能性】
【0052】
本発明の肥料用又は植物活力剤用の組成物は、液体であることから操作性に優れ、かつ、雑菌汚染が防止でき、しかも、植物に施用したときに塩害を引き起こす可能性が少ない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
20%(W/W)以上の濃度のL−プロリン水溶液からなる、肥料用又は植物活力剤用の組成物。
【請求項2】
L−プロリン濃度が80%(W/W)以下である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
L−プロリン濃度が40〜70%(W/W)である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
L−プロリン生産能を有する微生物を培地に培養し、同培地中にL−プロリンを生成、蓄積させることにより得られるL−プロリン発酵液を除菌、及び濃縮することにより得られる請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記L−プロリン発酵液を除菌後、脱塩し、これを濃縮することにより得られる請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
L−プロリン水溶液を雑菌に汚染されることなく保存又は流通させる方法であって、L−プロリン水溶液のL−プロリン濃度を20%(W/W)以上に調整し、これを保存又は流通させることを特徴とする方法。
【請求項7】
前記L−プロリン水溶液は、L−プロリン生産能を有する微生物を培地に培養し、同培地中にL−プロリンを生成、蓄積させることにより得られるL−プロリン発酵液を除菌、及び濃縮することにより得られるものである請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記L−プロリン水溶液は、前記L−プロリン発酵液を除菌後、脱塩し、これを濃縮することにより得られるものである請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記L−プロリン水溶液は、肥料用又は植物活力剤用の組成物である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の方法。

【国際公開番号】WO2005/082145
【国際公開日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510444(P2006−510444)
【国際出願番号】PCT/JP2005/003015
【国際出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【Fターム(参考)】