説明

肥料並びにその製造方法及び製造装置

【課題】セレン含量率の高い肥料を容易に入手することができ、セメント製造工程においてセレン除去のための薬剤の添加を削減又は不要とする。
【解決手段】塩素バイパスダストDを酸又は酸化剤を添加した上で水洗する水洗装置2と、水洗装置2によって水洗した後のろ液L1からカルシウム分を含む不要物を除去する水洗ろ液処理装置3と、水洗ろ液処理装置3で処理されたろ液L7を乾燥させる乾燥装置4とを備え、セレン及び塩化カリウムを含む肥料Mを製造する肥料製造装置41等。水洗ろ液処理装置3でセレン以外の重金属類を沈降分離し、ろ液L7中に可能な限りセレンを多く留める。水溶性セレンの含有率が42mg以上240mg/kg以下の肥料を製造することができる。乾燥装置4による乾燥物D1、D2を造粒装置5で造粒して粒状の肥料とすることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肥料並びにその製造方法及び製造装置に関し、特に、セメント製造工程でセレンを含有する肥料を製造する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
セレンは、過剰に摂取すると人体に有害であるが、人体にとって必須元素でもあり、摂取量が少ないと欠乏症を起こす。セレンは、肉や野菜等の日常の食材に含まれているため、通常では欠乏症になることはないが、野菜等のセレン含量率は、その野菜等が生育する土壌のセレン含量率に左右されるため、セレン含量率の低い土壌を有する中国や北海道等の一部では、欠乏症に関する報告例がある。
【0003】
一方、セメント製造工程では、廃棄物の処理量が増加するに従い、塩素バイパスダストの発生量も増加しているため、従来水洗処理されている塩素バイパスダストを脱塩処理し、セメント原料として有効利用している。その際、水洗処理によって生じた排水中のセレン濃度を安全とされる基準に下げるため、例えば、特許文献1に記載のセメントキルン燃焼ガス抽気ダストの処理方法等では、抽気ダストの水洗後、重金属類を回収するために添加した硫酸と、塩素バイパスダストに含まれるカルシウム分とが反応して生じた石膏及びセレンを含む固形分をセメント粉砕工程に添加し、セレンの循環濃縮を抑制することで、排水処理に要するセレン除去薬剤の量を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−75139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のように、土壌のセレン含量率が高いと、生育した植物のセレン含量率も高くなり欠乏症の防止に繋がるため、セレン含量率の低い土壌用としてセレン含量率の高い肥料が求められている。しかし、肥料取締法では、現在、肥料へのセレンの添加を禁止するなど、セレン含量率の高い肥料を入手するのは必ずしも容易ではない。
【0006】
一方、特許文献1に記載のように、セメント製造工程では、塩素バイパスダストに含まれるセレンの濃度を低減し、排水処理に要するセレン除去薬剤の量を低減しているが、依然として、排水に含まれるセレンを除去するための薬剤費が掛かっている。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、セレン含量率の高い肥料を容易に入手することができるとともに、セメント製造工程においてセレン除去のための薬剤の添加を削減又は不要とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、塩素バイパスダストを水洗処理する際に、塩素バイパスダストに含まれるセレンを可能な限りろ液側に留めておくことで、セレン含量率の高い肥料を得ることができることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、肥料であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、抽気したガス中のダストを回収して水洗し、水洗後のろ液を乾燥させた乾燥物であって、セレン及び塩化カリウムを含むことを特徴とする。
【0010】
この肥料は、セレンを含むため、セレン含量率の低い土壌用として有効に用いることができるとともに、セメント製造装置に通常付設されている塩素バイパス設備を利用して製造されるため、製造コストを低く抑えることができる。これに加え、セメント製造工程において、従来水洗後のろ液からセレンを除去するために添加していた薬剤の使用量を削減したり、不要とすることができ、その分セメント製造コストの低減にも繋がる。
【0011】
この肥料の水溶性セレンの含有率を0.05mg/kg以上6mg/kg未満とすることができる。この肥料によれば、生育した植物に直接含まれることとなる水溶性セレンを0.05mg/kg以上含むため、セレン含量率の低い土壌用として有効に利用することができるとともに、セレン除去用に添加していた薬剤の使用量を削減することができ、その分セメント製造コストを低減することができる。
【0012】
上記肥料の水溶性セレンの含有率を6mg/kg以上42mg/kg未満とすることができる。この肥料によれば、上記肥料よりさらにセレン含量率の低い土壌用として有効に利用することができるとともに、従来セメント製造工程で使用していたセレン除去用の薬剤を添加せずに済むため、さらにセメント製造コストを低減することができる。
【0013】
上記肥料の水溶性セレンの含有率を42mg/kg以上240mg/kg以下とすることができる。この肥料を製造するには、例えば、塩素バイパスダストを水に溶解させる際に酸又は酸化剤を添加してより多くのセレンをろ液側に留めておくことで、上記肥料よりさらに水溶性セレン含有率の高い肥料を得ることができる。
【0014】
また、本発明は、肥料製造方法であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、該抽気したガス中のダストを回収して水洗し、該水洗後のろ液を乾燥させてセレン及び塩化カリウムを含む肥料を得ることを特徴とする。本発明によれば、上記発明と同様に、セレンを含む肥料を低コストで製造することができるとともに、塩素バイパス設備が運転されていれば、連続して製造することができるため、安定供給が可能である。
【0015】
さらに、本発明は、肥料製造方法であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、該抽気したガス中のダストを回収し、該ダストと水とを混合するとともに、該ダストに含まれるセレンを該水に溶解させるための薬剤を添加し、該薬剤添加後のスラリーを固液分離し、該固液分離によって分離された液相を乾燥させてセレン及び塩化カリウムを含む肥料を得ることを特徴とする。本発明によれば、ダストに含まれるセレンを溶解させるための薬剤を添加してから固液分離することで、より多くのセレンを回収することができ、セレン含量率のより高い肥料を得ることができる。
【0016】
また、本発明は、肥料製造装置であって、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気したガス中のダストを水洗する水洗装置と、該水洗装置によって水洗した後のろ液からカルシウム分を含む不要物を除去する水洗ろ液処理装置と、該水洗ろ液処理装置で処理された処理物を乾燥させる乾燥装置とを備えることを特徴とする。この装置を用いることで、ろ液側にセレンを留めておくことが可能となり、セレン含量率の高い肥料を得ることができる。
【0017】
上記肥料製造装置に、前記乾燥装置によって乾燥された乾燥物を造粒する造粒装置を設けることができ、これにより、セレン含有率の高い粒状肥料を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、セレン含量率の高い肥料を容易に入手することができるとともに、ユーザの要求に応じてセレン含有率の異なる肥料を提供することもでき、同時に、セメント製造工程においてセレン除去のための薬剤の添加を削減又は不要とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明にかかる肥料製造装置の第1の実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明にかかる肥料製造装置の第2の実施形態を示すフローチャートである。
【図3】本発明にかかる肥料製造装置の第3の実施形態を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明にかかる肥料製造装置の第1の実施形態を示し、この肥料製造装置1は、セメントキルンに付設され、塩素バイパスダストを水洗するための水洗装置2と、水洗後のろ液L1から重金属類、カルシウム分等の不要物を除去するための水洗ろ液処理装置3と、水洗ろ液処理装置3によって処理した後のろ液L7を乾燥させる乾燥装置4と、乾燥装置4による乾燥物D1、D2を造粒する造粒装置5とで構成される。
【0022】
水洗装置2は、タンク11に貯留した塩素バイパスダストD中の塩素分を温水Hに溶解させる溶解槽12と、溶解槽12から排出されたスラリーS1をケーキC1とろ液L1とに固液分離するろ過機13と、ろ液L1を撹拌しながら貯留する貯槽14とで構成される。尚、塩素バイパスダストDは、セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より抽気した燃焼ガス中から回収したダストであって、特に、抽気ガスに含まれる粗粉を分離した微粉をいうが、粗粉を分離しないものも含むこととする。
【0023】
水洗ろ液処理装置3は、貯槽14から排出されたろ液L1中の重金属類を除去する薬液反応槽16(16A〜16C)と、薬液反応槽16から排出されたスラリーL2をケーキC2とろ液L3とに固液分離するフィルタープレス17と、フィルタープレス17から排出されたろ液L3に炭酸カリウム(K2CO3)を添加してカルシウム分を除去するための撹拌槽18と、撹拌槽18から排出されたろ液L4をケーキC3とろ液L5とに固液分離するフィルタープレス19と、ろ液L5に塩酸(HCl)を添加してpH調整する調整槽20と、調整槽20から排出されたろ液L6に残留する重金属類を吸着除去する砂ろ過器21とで構成される。
【0024】
薬液反応槽16Aは、ろ液L1に水硫化ソーダ(NaSH)を添加して硫化鉛(PbS)、硫化タリウム(Tl2S)を生成するために備えられる。薬液反応槽16Bは、薬液反応槽16Aから供給されたろ液L1に塩酸を添加してpHを調整した後、塩化第一鉄(FeCl2)を添加してセレンを還元するために備えられる。塩酸を加えるのは、塩化第一鉄の還元効果を高めるためである。薬液反応槽16Cは、薬液反応槽16Bから供給されたろ液L1に石灰乳を添加してpHを調整するために備えられる。pHを調整するのは、塩化第一鉄の添加により生成した水酸化第一鉄を凝縮、析出させるためである。
【0025】
乾燥装置4は、セメントキルンに付設されたクリンカクーラー(不図示)から排出された排ガスG1によって砂ろ過器21から供給されたろ液L7を乾燥させるスプレードライヤー24と、スプレードライヤー24から排出される排ガスG2中の乾燥物D2を集塵するバグフィルタ25と、バグフィルタ25の排ガスG3によって工水を暖めて溶解槽12の温水Hとして利用するるための温水器26とで構成される。
【0026】
スプレードライヤー24は、以下図示を省略するが、微粒化装置、熱風導入装置、乾燥チャンバー、乾燥粉分離捕集装置、排気処理装置及び製品冷却装置を備える。微粒化装置は、ノズルにてろ液L7を噴霧し、熱風導入装置は、クリンカクーラーから排出された排ガスG1を乾燥チャンバーに導入する装置である。スプレードライヤー24で乾燥物D1、D2の粒径を制御するには、温風(排ガスG1)の供給液量、供給液濃度、熱風温度、熱風量、チャンバー温度、排風温度、ノズル圧、及び液滴平均粒径等を適宜調整する。
【0027】
造粒装置5は、スプレードライヤー24から排出された乾燥物D1及びバグフィルタ25からの乾燥物D2を造粒して肥料Mを得るために備えられる。
【0028】
次に、上記構成を有する肥料製造装置1を用いて肥料Mを製造する方法について、図1を参照しながら説明する。
【0029】
タンク11に貯留した塩素バイパスダストDを溶解槽12に供給するとともに、溶解槽12に温水Hを供給し、塩素バイパスダストDを温水Hに溶解させる。これによって、塩素バイパスダストDに含まれる水溶性塩素分が温水Hに溶解する。
【0030】
次に、溶解槽12から排出したスラリーS1を、ろ過機13でろ液L1とケーキC1とに固液分離する。塩素分が除去されたケーキC1は、セメント原料として利用される。
【0031】
一方、塩素分を含むろ液L1は、薬液反応槽16Aに供給され、薬液反応槽16A中のろ液L1に硫化剤として水硫化ソーダ(NaSH)を添加し、ろ液L1中の鉛及びタリウムを硫化して硫化鉛及び硫化タリウムを生成させる。
【0032】
次に、薬液反応槽16Aからろ液L1を薬液反応槽16Bに供給し、塩酸を加えてpHを4以下に調整した後、塩化第一鉄を添加し、セレンを還元する。
【0033】
次に、薬液反応槽16Bからろ液L1を薬液反応槽16Cに供給し、ろ液L1に石灰乳を添加してpHを8.0〜9.0に調整した後、塩化第一鉄の添加により生成した水酸化第一鉄を沈殿させる。
【0034】
薬液反応槽16Cから排出されたろ液L2を、フィルタープレス17でケーキC2とろ液L3とに固液分離する。硫化鉛、硫化タリウム及びセレン等の重金属類を含有するケーキC2は、セメント原料等として再利用される。一方、フィルタープレス17から排出されたろ液L3は、撹拌槽18に貯留される。
【0035】
撹拌槽18に貯留したろ液L3に炭酸カリウムを添加してカルシウム分を除去し、さらにろ液L4をフィルタープレス19によってケーキC3とろ液L5とに固液分離する。除去したカルシウム分を含むケーキC3はセメント原料等として再利用される。一方、フィルタープレス19から排出されたろ液L5は、調整槽20に貯留される。
【0036】
調整槽20において、ろ液L5に塩酸を添加してpH調整し、砂ろ過器21において、調整槽20から排出されたろ液L6に残留する浮遊性固形物(SS)を吸着除去する。
【0037】
次に、スプレードライヤー24に、クリンカクーラーから排出された230℃程度の排ガスG1を導入し、スプレードライヤー24の熱風温度と排風温度にてチャンバー温度を調整する。そして、各温度が安定した後、砂ろ過器21からのろ液L7(このろ液L7にはセレンが残留している)をスプレードライヤー24に供給し、所定のノズル圧にてろ液L7を噴霧し、排ガスG1にて乾燥させる。
【0038】
ろ液L7の乾燥に用いた排ガスG1は、スプレードライヤー24の排気処理装置を介してバグフィルタ25に導入され、固気分離後、温水器26で工水を昇温し、得られた温水Hを溶解槽12における温水Hとして利用する。一方、バグフィルタ25で捕集された乾燥物D2は、スプレードライヤー24にて気流中で乾燥した乾燥物D1とともに造粒装置5に供給される。最後に、造粒装置5において、乾燥物D1及び乾燥物D2を造粒して肥料Mを得ることができる。
【0039】
上述のようにして得られた肥料Mのセレン含有率を測定したところ、0.08〜10mg/kgであり、水溶性セレンの含有率は、0.05〜6mg/kgであった。一方、市販のリン酸質肥料、又は硫酸及びリン酸を使用した複合肥料等についてセレン含有率を測定した結果、セレン全量の含有率は、平均で0.37mg/kgであり、水溶性セレンの含有率は、平均で0.0023mg/kgであることから、本発明により市販の肥料に比較して大幅にセレン含有率の高い肥料が得られることが判る。特に、生育した植物に直接取り込まれる水溶性セレン含量率が高いため、セレン含量率の低い土壌用として好適に用いることができる。
【0040】
尚、本実施の形態では、ろ液L1からセレンをある程度除去しているが、水洗ろ液処理装置3による処理後のろ液L7に残留したセレンを利用するものであって、土壌中のセレン含有量に応じてユーザより過過剰にならないものの要求があった場合に適用する。
【0041】
また、本実施の形態によれば、セメント製造工程を利用して上記肥料を製造するため、肥料の製造コストを低く抑えることができ、特に、クリンカクーラーからの排ガスG1を利用して乾燥し、乾燥に利用した排ガスG2を用いて水洗処理用の温水Hを加熱するため、運転コストをより一層低減することができる。尚、クリンカクーラーからの排ガスG1に代えて、セメントキルンに付設されたプレヒータの最上段サイクロンからの排気を冷却し、温度調整をした後用いてもよい。
【0042】
さらに、本実施の形態によれば、スプレードライヤー24を用いて気流中にてろ液L7を乾燥させるため、被乾燥物が液滴内で結晶化し、噴霧後の液滴がチャンバー内壁と接触することがなく、付着トラブルが避けられる。また、液滴内のすべてが結晶化するため、噴霧した成分がそのまま肥料となり、肥料の成分変動が少ない。
【0043】
次に、本発明にかかる肥料製造装置の第2の実施形態について、図2を参照しながら説明する。
【0044】
この肥料製造装置31は、図1に示した肥料製造装置1のフィルタープレス17に代えて沈降分離器32を備え、沈降分離器32の下流側にフィルタープレス33を備えることを特徴とし、その他の構成要素については、肥料製造装置1と同様である。図2において、図1に記載の構成要素と同じものについては、図1と同じ参照番号を付してその説明を省略する。
【0045】
沈降分離器32は、重金属類等を沈降させて回収するために備えられる。図示した沈降分離器32は、容器の底部に集泥レーキを有する円筒型であるが、この他に、所定の角度に傾斜した複数の分離プレートを有する傾斜板沈降分離装置等を用いることもできる。
【0046】
フィルタープレス33は、沈降分離器32から排出された沈降分を固液分離してケーキC4をセメント原料等に利用するために備えられる。
【0047】
次に、上記構成を有する肥料製造装置31を用いて肥料Mを製造する方法について説明する。本実施の形態では、溶解槽12における塩素バイパスダストDの溶解から、ろ過機13で固液分離したろ液L1を薬液反応槽16Aに供給するまでの工程、及び砂ろ過器21から排出されたろ液L7をスプレードライヤー24に供給した後、造粒装置5で造粒するまでの工程は、第1の実施形態と同様であるが、水洗ろ液処理装置3での処理方法が異なる。
【0048】
すなわち、本実施の形態においては、薬液反応槽16Aに塩酸を添加してpH調整を行うとともに、NaSH又はキレート剤を添加して鉛、タリウム等の重金属類を沈降させる。この際、セレンはろ液L1に溶けた状態のままである。
【0049】
次に、薬液反応槽16Aからろ液L1を薬液反応槽16Bに供給し、塩化第二鉄(FeCl3)を添加して沈降した重金属類を凝集させる。
【0050】
さらに、薬液反応槽16Bからろ液L1を薬液反応槽16Cに供給し、ろ液L1に高分子凝集剤を添加して次工程での重金属類の沈降分離を可能とする。
【0051】
薬液反応槽16Cから排出されたろ液L2を沈降分離器32に供給し、セレンを除く重金属類等を沈降させて回収する。重金属類等を含む沈降分は、フィルタープレス33で固液分離してケーキC4をセメント原料等に利用する。一方、沈降分離器32のセレンを含む上澄液L3は、撹拌槽18に貯留され、以後の撹拌槽18以降の処理方法は、第1の実施形態の場合と同様であり、最終的に、造粒装置5において、乾燥物D1及び乾燥物D2を造粒して肥料Mを得ることができる。
【0052】
上述のようにして得られた肥料Mのセレン含有率を測定したところ、6〜70mg/kgであり、水溶性セレンの含有率は、3.6〜42mg/kgであった。これは、水洗ろ液処理装置3における重金属類の除去にあたり、セレンを除去するための薬剤を用いなかったためであり、これにより、上記第1の実施形態に比較してさらにセレン含有率の高い肥料を得ることができる。
【0053】
また、本実施の形態によれば、第1実施の形態に比較して、セレンを除去するための薬剤を用いない分薬剤コストを低減することができ、運転コストの低減にも繋がる。
【0054】
次に、本発明にかかる肥料製造装置の第3の実施形態について、図3を参照しながら説明する。
【0055】
この肥料製造装置41は、上記第2の実施形態と装置構成は同じであり、異なるのは、水洗装置2の溶解槽12に塩酸、硝酸、過酸化水素水、次亜塩素酸ソーダ、オゾン等の酸又は酸化剤を添加し、塩素バイパスダストDに含まれるセレンをより多く温水Hに溶出させる点である。これにより、ろ液L1に溶解するセレンが増加し、その分セレン含有率の高い肥料が得られる。
【0056】
このようにして得られた肥料Mのセレン含有率を測定したところ、70〜400mg/kgであり、水溶性セレンの含有率は、42〜240mg/kgであった。このように、本実施の形態では、塩素バイパスダストDに含まれるセレンをより多く温水Hに溶出させたため、第2の実施形態と比較してさらにセレン含有率を高めることができ、市販の肥料に比較して飛躍的にセレン含有率の高い肥料が得られることが判る。
【0057】
以上、各実施の形態で説明したように、本発明では、セメント製造装置に付設されている塩素バイパス設備を利用し、水洗後のろ液からセレンを除去しないで、又はセレンの除去率を抑えることで、ユーザの要求に応じてセレン含有率の異なる肥料を提供するこが可能となり、これと同時に、セメント製造工程においてセレンを除去するために添加していた薬剤の使用量を削減したり、不要とすることができるため、セメント製造コストを低減することできる。
【符号の説明】
【0058】
1 肥料製造装置
2 水洗装置
3 水洗ろ液処理装置
4 乾燥装置
5 造粒装置
11 タンク
12 溶解槽
13 ろ過機
14 貯槽
16(16A〜16C) 薬液反応槽
17 フィルタープレス
18 撹拌槽
19 フィルタープレス
20 調整槽
21 砂ろ過器
24 スプレードライヤー
25 バグフィルタ
26 温水器
31 肥料製造装置
32 沈降分離器
33 フィルタープレス
41 肥料製造装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、抽気したガス中のダストを回収して水洗し、水洗後のろ液を乾燥させた乾燥物であって、セレン及び塩化カリウムを含むことを特徴とする肥料。
【請求項2】
水溶性セレンの含有率が0.05mg/kg以上6mg/kg未満であることを特徴とする請求項1に記載の肥料。
【請求項3】
水溶性セレンの含有率が6mg/kg以上42mg/kg未満であることを特徴とする請求項1に記載の肥料。
【請求項4】
水溶性セレンの含有率が42mg/kg以上240mg/kg以下であることを特徴とする請求項1に記載の肥料。
【請求項5】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、
該抽気したガス中のダストを回収して水洗し、
該水洗後のろ液を乾燥させてセレン及び塩化カリウムを含む肥料を得ることを特徴とする肥料製造方法。
【請求項6】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気し、
該抽気したガス中のダストを回収し、
該ダストと水とを混合するとともに、該ダストに含まれるセレンを該水に溶解させるための薬剤を添加し、
該薬剤添加後のスラリーを固液分離し、
該固液分離によって分離された液相を乾燥させてセレン及び塩化カリウムを含む肥料を得ることを特徴とする肥料製造方法。
【請求項7】
セメントキルンの窯尻から最下段サイクロンに至るまでのキルン排ガス流路より燃焼ガスの一部を抽気したガス中のダストを水洗する水洗装置と、
該水洗装置によって水洗した後のろ液からカルシウム分を含む不要物を除去する水洗ろ液処理装置と、
該水洗ろ液処理装置で処理された処理物を乾燥させる乾燥装置とを備えることを特徴とする肥料製造装置。
【請求項8】
前記乾燥装置によって乾燥された乾燥物を造粒する造粒装置を備えることを特徴とする請求項8に記載の肥料製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−42510(P2011−42510A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189751(P2009−189751)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】