説明

肥満、糖尿病などに有効なリゾホスファチジルコリン

【課題】 安定性と安全性に優れ、価格面においても有利なインスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤それらを含有する肥満、糖尿病などの予防及び治療剤を提供すること。
【解決手段】 本発明は、リゾホスファチジルコリンを含有するインスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤、それらを含有する肥満、糖尿病などの予防及び治療剤である。更には、医薬、食品用組成物として使用に供される。
この特定の化学構造のリゾホスファチジルコリンは、発芽玄米から糠(デンプン部を含む)を採取し、それから、デンプンを膨化させるため、熱水で処理し、しばらく静置した後、そこに濃度50〜99.5質量%、好ましくは70〜99.5質量%のエタノールを加え、上清を濃縮乾固して得た抽出物に多く含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リゾホスファチジルコリンに関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者数は増加の一途をたどっており、深刻な問題となっている。糖尿病には、インスリンの分泌が不足する1型(インスリン依存型)糖尿病とインスリンの効果が低下する2型(インスリン非依存型)糖尿病がある。近年は、運動不足、脂肪の多い食生活などのライフスタイルの変化によって、この2型(インスリン非依存型)糖尿病患者が大幅に増加しており、全患者数の8割以上を占めている。
【0003】
膵臓のβ細胞から分泌されるインスリンは、肝臓、筋肉や脂肪細胞の表面に存在するインスリン受容体のαサブユニットに結合する。そのシグナルがインスリン受容体のβサブユニットのチロシンキナーゼの働きを促進させ、細胞内に伝達され種々のインスリン作用が発揮される。インスリン非依存型では、このチロシンキナーゼの活性が低下していることが明らかとなっており、これがインスリン抵抗性の成因の一部とも考えられている。(非特許文献1〜3)
現在、インスリン依存型糖尿病の患者はインスリンを使用して処置されているが、インスリン非依存型糖尿病患者においては、β細胞からのインスリン分泌を促進させるスルホニル尿素系薬剤、肝臓での糖の放出抑制並びに脂肪、筋肉等の末梢組織における糖の取り込みを促進させるビグアナイド剤、インスリンに対するレセプターの感受性を増強させたり、肝臓における糖新生を抑制するインスリン抵抗性改善薬、消化管からの糖質の吸収を遅らせることにより食後の高血糖を改善するα−グルコシダーゼ阻害剤などが使用されている。
【0004】
しかし、これら薬剤には投薬量に伴い、激しい空腹感、冷や汗、動悸、手足の震え、頭痛などの低血糖症状を引き起こすことが知られている。従って、より有効性が高く、安全性・価格面において優れた薬剤の提供は、患者のQOL(Quality of Life)をさらに改善するうえで必要となっている。
人間の身体は、交感神経と副交感神経によってコントロールされているが、生体にストレスが加わると視床下部の交感神経中枢が刺激され、膵臓よりグルカゴンの分泌促進、肝臓のグリコーゲン分解促進により、グルコースが血中に放出されるので血糖値が上昇する。さらに、交感神経刺激は、膵臓からのインスリンの分泌を抑制することによって、血糖値低下が抑制される。また、副腎皮質よりグルココルチコイドが分泌されることによって、肝臓のグリコーゲン分解を促進し、筋肉におけるグルコース利用を抑制する。以上のようなことから、血中にグルコースが余る状態となり、血糖値の上昇につながる。グルココルチコイドが必要以上に血液中に存在すると、常に血糖値が高い状態になり、その結果、膵臓の細胞障害がおこり、糖尿病をはじめとして、肥満、高血圧、骨粗鬆症、高脂血症などに繋がる可能性が考えられる。
交感神経についてさらに述べると、交感神経刺激に反応する組織細胞の表面には、アドレナリン受容体があり、これにはαとβの2種類が存在する。α受容体を介する反応は一般的に興奮反応であり、平滑筋や血管の収縮を起こす。

一方、β受容体には3つのサブタイプが存在し、β1受容体刺激によって引起こされる心臓の反応は、心拍数、収縮力、自動性などの増加といった興奮反応であり、β2受容体刺激は、気管平滑筋、腸管平滑筋、子宮筋などの平滑筋の弛緩や血管の拡張、肝臓でのグリコーゲン分解と膵臓でのグルカゴンの分泌促進を引き起こす。また、脂肪細胞に局在しているβ3受容体の刺激は、脂肪分解を促進することが明らかとなっている。
これまで、β3受容体をターゲットとした薬剤の開発は、鋭意研究されている。しかし、個人差や薬剤の種類によっても差があるが、動悸、顔のほてり、頻脈、胸痛、不整脈、血圧上昇、頭痛、めまい、不眠、興奮、耳鳴り、手指の震え、しびれ、手足・指がつる、口が乾く、吐き気、嘔吐、腹痛、食欲不振、胃部不快感、便秘、過敏症(発疹、かゆみなど)、倦怠感、むくみなどの副作用の問題や有効性が依然として課題である。

従って、長期間服用しても安全で尚且つ確実な治療を行うのに充分満足できるような食品あるいは医薬の開発が強く求められているが、現在までのところ、そのような問題点を解決した医薬や食品は発明者の知る限りでは皆無である。

【非特許文献1】Diabetes,41(4),476-83,1992
【非特許文献2】Diabetologia41,257,1998
【非特許文献3】Nippon Rinsho,58(2), 370-375,2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、リゾホスファチジルコリン、およびこのリゾホスファチジルコリンを含有するインスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤を提供することを目的とするものである。インスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤及びアドレナリンβ3受容体作動剤は、糖代謝及び脂質代謝改善作用を有し、肥満、糖尿病の予防又は治療に用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記のような課題を解決すべく鋭意研究を重ね、種々の植物抽出物について探索を続けた結果、発芽玄米のエタノール抽出物から分離したリゾホスファチジルコリンに、上記課題に対して、有効な作用があることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
即ち、本発明は、以下の内容を要旨とするものである。
(1)次の化学式(I)ないし(III)で表されるリゾホスファチジルコリンを含有することを特徴とする、インスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤。
化学式(I)



化学式(II)



化学式(III)

【発明の効果】
【0008】
本発明により、リゾホスファチジルコリンを含有する安定性と安全性に優れ、価格面においても有利な、インスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤それらを含有する肥満、糖尿病の予防又は治療剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、リゾホスファチジルコリン、これを含有するインスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤について説明する。
【0010】
まず、本発明のリゾホスファチジルコリンは、前記化学式(I)〜(III)で表わされる化合物である。化学式(I)については、不飽和結合を2つ含む炭素数18のアシル基を有するリゾホスファチジルコリンである。IUPAC名は2-hydroxy-3-((9Z,12Z)-octadeca-9,12-dienoyloxy)propyl2-(trimethylammonio)ethyl phosphateである。 化学式(II)については、炭素数16のアシル基を有するリゾホスファチジルコリンである。IUPAC名は2-hydroxy-3-(palmitoyloxy)propyl 2-(trimethylammonio)ethyl phosphateである。化学式(III)については、不飽和結合を1つ含む炭素数18のアシル基を有するリゾホスファチジルコリンである。IUPAC名は(Z)- 2-hydroxy-3-(oleoyloxy)propyl 2-(trimethylammonio)ethylphosphateである。化合物であり、不飽和結合を1つ含む炭素数18のアシル基を有するリゾホスファチジルコリンである。IUPAC名は(Z)-2-hydroxy-3-(oleoyloxy)propyl 2-(trimethylammonio)ethylphosphateである。
【0011】
本発明の前記化学式(I)〜(III)で表わされるリゾホスファチジルコリンは、例えば、発芽玄米のエタノール抽出物から分離して入手することができる。
発芽玄米は、例えば次のような方法により入手できる。玄米をそのまま、あるいは玄米の一部を精米機あるいは無洗米機等で搗精して剥離・裂傷させ、得られた玄米を発芽槽(発芽用タンク)に浸漬する、あるいは発芽に必要な水分を添加する。搗精は、浸漬の後に行うこともできる。発芽の程度は、一般的には胚の部分から0.5mm〜2.0mm程度の膨らみ、あるいは突起部、幼芽が確認できる程度とされるが、発芽によるγ―アミノ酪酸などの栄養成分を分析し、栄養成分が最大となるように発芽時間を設定することもできる。発芽後は、加熱処理等を施して、発芽を停止させるが、その方法としては、蒸煮させても良いし、熱風あるいはマイクロウェーブ、冷却等の適当な方法により、温度処理あるいは乾燥させても良い。
【0012】
発芽玄米は血中コレステロール低下作用、血圧上昇抑制作用(特開2003−9810号公報)、血糖上昇抑制作用(伊藤幸彦他、発芽玄米摂取によるglycemic index(GI)、glycemic load(GL)及びインスリン反応、第2回日本glycemic index研究会プログラム(2003年)を有することが知られている。
また、リゾホスファチジルコリンには、これまでに抗腫瘍作用(特公平6−17307号公報)、抗老化作用(特開2003−137767号公報)、血圧降下作用(Hypertension.2003,41(6):1380-5)などが知られている。
本発明の前記化学式(I)〜(III)で表わされるリゾホスファチジルコリンの製造方法としては、まず、上述のような発芽玄米から糠(デンプン部を含む)を採取し、それから、デンプンを膨化させるため、熱水で処理し、しばらく静置した後、そこに濃度50〜99.5質量%、好ましくは70〜99.5質量%のエタノールを加え、上清を濃縮乾固して、発芽米抽出エキスを得る。次に、発芽玄米抽出エキスから逆相HPLCなどでリゾホスファチジルコリンを分離精製することによって入手することができる。
【0013】
本発明の、インスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤は、このようにして得られたリゾホスファチジルコリンをそのままその有効成分として使用してもよいし、或いは上記のようにして得た発芽玄米のエタノール抽出物をそのままの状態で含有する組成物として使用してもよい。このような組成物としては、本発明の効果を損なわず、悪影響を及ぼさない任意の種々の成分をその助剤、媒体または担体として使用し、これに本発明のリゾホスファチジルコリンを含有させることによって組成物を構成することができる。
【0014】
本発明のリゾホスファチジルコリンは、インスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤として使用する場合には、その適用量は、摂取者の年齢、体重、症状、適用経路、適用スケジュール、製剤形態などにより、適宜決定することができるが、例えば、経口投与の場合、リゾホスファチジルコリンの重量基準として、通常成人換算で0.0001〜0.5g/kg程度、より好ましくは0.001〜0.2g/kg程度で、1日数回に分けて投与してもよい。
【0015】
また、適当な基剤、担体、媒体や賦形剤とともに本発明のリゾホスファチジルコリンを配合することによって、インスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤とすることができる。
【0016】
本発明のリゾホスファチジルコリン、インスリン受容体作動剤、グルココルチコイド受容体拮抗剤、アドレナリンβ3受容体作動剤は、医薬又は食品用の経口組成物として使用することができる。
【0017】
医薬用としての本発明のリゾホスファチジルコリンの適用方法は、経口投与又は非経口投与のいずれも採用することができる。投与に際しては、有効成分を経口投与、直腸内投与、注射などの投与方法に適した固体又は液体の医薬用無毒性担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態として投与することができる。このような製剤としては、例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤、凍結乾燥製剤などが挙げられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の医薬用無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、ゼラチン、アルブミン、水、生理食塩水などが挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤などの慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0018】
食品用組成物としては、本発明のリゾホスファチジルコリンをそのまま、又は種々の栄養成分を加えて、又は飲食品中に含有せしめて、高血圧、肥満、糖尿病、アレルギー、腎臓障害、気管支障害の治療及び予防に有用な保健用食品又は食品素材として使用することができる。例えば、澱粉、乳糖、麦芽糖、植物油脂粉末、カカオ脂末、ステアリン酸などの適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、経口用に適した形態、例えば顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して食用に供してもよく、また種々の食品、例えば、ハム、ソーセージなどの食肉加工食品、かまぼこ、ちくわなどの水産加工食品、パン、菓子、バター、粉乳、発酵乳製品に添加して使用してもよい。本発明のリゾホスファチジルコリンの配合量は、当該食品または食品用素材の種類や状態等により適宜設定することができる。
【実施例1】
【0019】
次に、本発明を実施例によって更に詳しく説明する。以下の製造例、実施例、処方例は本発明の好ましい例を示すものであり、これに限定されるものではない。また、各例中の「%」は質量基準である。
1)リゾホスファチジルコリンの粗抽出
発芽玄米14kgから糠(デンプン部を含む)を4.1kg調整した。それから、デンプンを膨化させるため、熱水40Lを加えて30分ほど煮沸処理し、液温が40℃以下に下がるまで静置した後、そこに99.5%エタノール40Lを加えて攪拌した。それを4℃で一晩置き、上清を濃縮乾固して、発芽米抽出エキス100gを得た。
2)リゾホスファチジルコリンの精製・分取
得られた発芽米抽出エキス5gを用いて、以下の方法と条件によって分離精製した。

・機器構成:
中圧液体クロマトグラフィーシステム:Kronlab GmbH
逆相カラム:Polygoprep 60−50 RP−18(Macherey&Nagel)
・溶離液:
精製水100%、続いて、精製水100%→メタノール100%のグラジエント、続いて、イソプロパノール100%
・分取物
溶離液が精製水22%+メタノール78%付近で溶出した分画P(0.17g)を得た。

3)分画Pの高速液体クロマトグラフィーによる分離
分画P0.17gを用いて、以下の方法と条件によって分離精製した。

・機器構成:
全自動分画・精製・分取システム:SEPBOXLight
分取カラム: Merck Select B 250×25mm、10μm
検出器:ELSD(Sedex75)
UV(Merck、254nm)
・溶離液:
流 速:30mL/min
溶離液:A・・・0.5mMギ酸アンモニウム、0.1%ギ酸水溶液
B・・・0.5mMギ酸アンモニウム、0.1%ギ酸のアセトニトリル:
メタノール=1:1溶液
グラジエント:
時間(分) A(%) B(%)
0.0 30 70
57.7 10 90
57.8 0 100
65.8 0 100
・分取物
分画Pからサンプル(a)6.35mg、(b)4.03mg、(c)0.79mgを分取した。

4)サンプル(a)、(b)、(c)の高速液体クロマトグラフィーによる純度確認、並びに保持時間の確認
・機器構成:
HPLCシステム:Merck Hitachi
分析カラム: Merck Select B 250×4mm、5μm
検出器:ELSD(Sedex75)
・溶離液:
流 速:1mL/min
溶離液:A・・・0.5mMギ酸アンモニウム、0.1%ギ酸水溶液
B・・・0.5mMギ酸アンモニウム、0.1%ギ酸のアセトニトリル:
メタノール=1:1溶液
グラジエント:
時間(分) A(%) B(%)
0.0 85 15
30.0 0 100
40.0 0 100

本分析条件により、サンプル(a)、(b)、(c)の純度と保持時間を確認した。保持時間は各28.9分、29.8分、31.0分である。
【0020】
5)サンプル(a)、(b)、(c)の構造決定
上記の3)で分取したサンプル(a) 、(b)、(c)について、LC/MS分析装置及びNMR分析装置を用いて化合物の構造決定を行なった。
【0021】
LC/MS分析の溶離液は4)と同じものを用い、グラジエント条件は適宜調整した。MSシステムはPE-Sciex API150(+/(-)-ESI、Fast-Switching-Mode)を使用した。
【0022】
尚、H−NMR、HSQC、HMBC、HH−COSYは共鳴周波数400MHzあるいは500MHzで測定した。13C−NMRのスペクトルはHMBC、HSQCの手法を用いて帰属した。溶媒は重メタノールを用い、化学シフト基準に使用した(H−NMR3.30ppm、13C−NMR49.0ppm)。
サンプル(a)のLC/MSとNMRのデータを以下に示す。
LC/MS
(+)−ESI:1039[2M+H]、520[M+H]、184[C15NOP]
(-)−ESI:564[M+HCOO]、504[M−CH]、279[C1831]
H−NMR
スペクトルの帰属と化学シフトを表1に示す。
【0023】
【表1】

サンプル(b)のLC/MSとNMRのデータを以下に示す。
LC/MS
(+)−ESI:992[2M+H]、496[M+H]、184[C15NOP]
(-)−ESI:540[M+HCOO]、480[M−CH]、255[C1631]
H−NMR
スペクトルの帰属と化学シフトを表2に示す。
【0024】
【表2】

サンプル(c)のLC/MSとNMRのデータを以下に示す。
LC/MS
(+)−ESI:1043[2M+H]、522[M+H]
(-)−ESI:566[M+HCOO]、506[M−CH]、281[C1831]
H−NMR
スペクトルの帰属と化学シフトを表3に示す。
【0025】
【表3】

【実施例2】
【0026】
次に、上記のようにして得たリゾホスファチジルコリンについて、以下に記載する方法によってインスリン受容体結合試験を行った。
(試験方法)インスリン受容体結合試験
インスリン受容体結合試験は、Ulrich Webeerらの方法(Hoppe-Seyler’sZ.Physiol.Chem.Bd.,362,S.347-351,1981)を参考に行った。ラットの肝臓を摘出し、膜粗画分を調製した後、界面活性剤であるTriton-X100 を用いてインスリン受容体膜画分を精製した。さらに、コンカナバリンAで処理を行い膜標品とした。それから各試験管に、実施例1で得られたリゾホスファチジルコリン(最終濃度:10及び30μg/ml)とインスリン受容体の作動剤である[125I] インスリン(最終濃度0.03 nM)及び受容体膜標品(300〜500μgの蛋白質を含む)を加えて反応液(総量300 μl)とし、反応の開始は膜標品の添加により行った。なお、反応液には、0.1%アルブミン、0.05%トリトンを含むリン酸緩衝液を用いた。4℃、20時間のインキュベーションの後、受容体に結合した標識リガンドをセルハーベスター(ブランデル社製)を用いてワットマンGF/Bグラスファイバーフィルター上に吸引濾過して反応を停止し、直ちに、氷冷50 mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.7)5 mlで3回洗浄した。次いで、フィルター上の放射能活性をγ−カウンターにより測定し、全結合量を求めた。また、同時に測定した10 μMインスリン存在下における結合量を非特異的結合量とし、これを全結合量から差し引くことにより特異的結合量を求めた。
結果を表4に示す。ここで示す親和性(%)は、次式により算出した。
【0027】
親和性(%)=100−〔(C1−B1)/(C2 −B1)〕×100
(式中、C1は、既知量の供試化合物と[125I]インスリンが共存している状態での[125I] インスリンの膜画分に対する結合量を表わし、C2は、供試化合物を除いた時の[125I]インスリンの膜画分に対する結合量を表わし、B1は、過剰のインスリン(10μM)存在下での[125I]インスリンの膜画分に対する結合量を表わす。)なお、本反応系におけるポジティブコントロールとして、インスリンのIC50値は、36 nMであった。結果から、本発明のリゾホスファチジルコリンが、インスリン受容体に作用を有するので、β細胞からのインスリン分泌促進やインスリン抵抗性の改善作用等によって、それに関る疾患、例えば糖尿病やそれに伴う合併症の予防又は治療に有効であることがわかる。

(結果)
【0028】
【表4】

【実施例3】
【0029】
次に、上記のようにして得たリゾホスファチジルコリンについて、以下に記載する方法によってグルココルチコイド受容体結合試験を行った。
グルココルチコイド受容体結合試験は、Meshinchi,Sらの方法(J.Biol.Chem.,265,4863,1990)を参考に行った。マウス繊維芽細胞(L-929)から、サイトゾル画分を調製し、実施例1で得られたリゾホスファチジルコリン(最終濃度:10及び30μg/ml)と10nM [3H]dexamethasoneを用いて試験した(反応液は、0.1 mM EDTAを含むHepes-Tris緩衝液(pH7.4))。また、非特異的結合は10μM のtriamcinoloneを用いた。4℃で4時間インキュベートした後、受容体に結合した標識リガンドをセルハーベスター(ブランデル社製)を用いてワットマンGF/Bグラスファイバーフィルター上に吸引濾過して反応を停止し、直ちに、氷冷50 mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.7)5 mlで3回洗浄した。次いで、フィルター上の放射能活性をシンチレーションカウンターにより測定し、全結合量を求めた。また、同時に測定した10 μM triamcinolone存在下における結合量を非特異的結合量とし、これを全結合量から差し引くことにより特異的結合量を求めた。
結果を表5に示す。ここで示す親和性(%)は、次式により算出した。
【0030】
親和性(%)=100−〔(C1−B1)/(C2 −B1)〕×100
(式中、C1は、既知量の供試化合物と[3H]dexamethasoneが共存している状態での[3H]dexamethasoneの膜画分に対する結合量を表わし、C2は、供試化合物を除いた時の[3H]dexamethasoneの膜画分に対する結合量を表わし、B1は、過剰のtriamcinolone(10μM)存在下での[3H]dexamethasoneの膜画分に対する結合量を表わす。)なお、本反応系におけるポジティブコントロールとして、dexamethasoneのIC50値は、2.9 nMであった。

(結果)
【0031】
【表5】

【実施例4】
【0032】
次に、上記のようにして得たリゾホスファチジルコリンについて、以下に記載する方法によってアドレナリン受容体結合試験を行った。

アドレナリンβ3受容体結合試験

(試験方法)
アドレナリンβ3受容体への結合試験は、CURRAN P.K.らの方法(Cell.Signal.,8(5),355−364(1996))を、一部改変して行った。ヒト神経芽細胞(SK-N-MC)から膜画分を調製し、実施例1で得られたリゾホスファチジルコリン(最終濃度:10及び30μg/ml)と0.6 nM [125I]iodocyanopindololを用いて試験した(反応液は、4 mM MgCl2、0.04%BSA、0.1 μM propranololを含む50 mM Hepes-NaOH(pH7.4))。また、非特異的結合は50μM のalprenololを用いた。37℃で90分間反応後、 ガラスフィルター(Model
701、Skatron Inc.製)を用いて、[125I]iodocyanopindololと結合した膜標品を分離するために瀘過を行ない、2回、上述のトリス緩衝液5mlにて洗浄した。このガラスフィルターをバイアルに入れ、アクアゾール(液体シンチレーション用カクテル)と混合し、液体シンチレーションカウンターにて結合した[125I]iodocyanopindolol量を測定し、親和性(%)を次式より算出した結果を表6に示した。
親和性(%)=100−〔(C−B)/(C0 −B)〕×100
(式中、C1 は、既知量の供試化合物と[125I]iodocyanopindololが共存している状態での[125I]iodocyanopindololの膜に対する結合量を表わし、C0 は、供試化合物を除いた時の[[125I]iodocyanopindololの膜に対する結合量を表わし、Bは、過剰のalprenolol(50μM)存在下での[125I]iodocyanopindololの膜に対する結合量を表わす。]なお、本測定系におけるポジティブコントロールとしてのアドレナリンβ3受容体遮断薬であるcyanopindololのIC50値は、30nMであった。結果からもわかるように、本発明のリゾホスファチジルコリンが、アドレナリンβ3受容体に作用を有することがわかる。

(結果)
【0033】
【表6】

【実施例5】
【0034】
次に、以下に、本発明のリゾホスファチジルコリンの具体的な使用形態である医薬、食品としての処方例を示す。

処方例1:肥満、糖尿病の予防、治療用の組成物(錠剤)
上記の実施例1で得られた化学式(I)で表わされるリゾホスファチジルコリンを用いて、常法により下記の配合組成の肥満、糖尿病の予防、治療用の錠剤を製造した。
【0035】
(組 成) (質量%)
リゾホスファチジルコリン(I) 2.0
乳 糖 77.0
コーンスターチ 20.0
グアーガム 1.0

処方例2:ジュース
上記の実施例1で得られた化学式(II)で表わされるリゾホスファチジルコリンを用いて、常法により下記の配合組成のジュースを製造した。
【0036】
(組 成) (質量%)
冷凍濃縮温州みかん果汁 5.0
果糖ブドウ糖液糖 11.0
クエン酸 0.2
L−アスコルビン酸 0.02
香 料 0.2
色 素 0.1
リゾホスファチジルコリン(II) 0.2
水 83.28

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の化学式(I)〜(III)で表わされるリゾファチジルコリンのいずれかを含有することを特徴とするインスリン受容体作動剤。化学式(I)
【化1】

化学式(II)
【化2】

化学式(III)
【化3】

【請求項2】
前記化学式(I)〜(III)で表わされる化合物のいずれかを含有することを特徴とするグルココルチコイド受容体拮抗剤。
【請求項3】
前記化学式(I)〜(III)で表わされる化合物のいずれかを含有することを特徴とするアドレナリンβ3受容体作動剤。

【公開番号】特開2006−316016(P2006−316016A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−141992(P2005−141992)
【出願日】平成17年5月13日(2005.5.13)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】